特許第5951661号(P5951661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5951661プレス機械、搬送装置付きプレス機械およびその作動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951661
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】プレス機械、搬送装置付きプレス機械およびその作動方法
(51)【国際特許分類】
   B30B 13/00 20060101AFI20160630BHJP
   B30B 1/26 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   B30B13/00 E
   B30B13/00 M
   B30B1/26 F
   B30B1/26 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-38989(P2014-38989)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-160247(P2015-160247A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2014年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100861
【氏名又は名称】アイダエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100044
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 重夫
(74)【代理人】
【識別番号】100183564
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 伸也
(72)【発明者】
【氏名】小清水 孝志
【審査官】 福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−097899(JP,A)
【文献】 特開平06−055295(JP,A)
【文献】 実開昭60−074900(JP,U)
【文献】 特開平07−088700(JP,A)
【文献】 特開昭51−066571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 13/00
B30B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送装置によって搬送されるワークを順次加工するプレス機械であって、
1つ以上の先発スライドと、
その先発スライドより遅れて下死点に到達する1つ以上の次発スライドとを備えており、
それらスライドが、それらスライドの上下動の周期を同じくする駆動機構にそれぞれ連結されており、
前記次発スライドが、上昇中の前記先発スライドを追い越して上昇するようにされており
前記それぞれのスライドが周期の同じ回転軸の偏心部に連結されており、
後に下死点に到達するスライドのストロークを先に下死点に到達するスライドのストロークより大きくしている、プレス機械。
【請求項2】
搬送装置によって搬送されるワークを順次加工するプレス機械であって、
1つ以上の先発スライドと、
その先発スライドより遅れて下死点に到達する1つ以上の次発スライドとを備えており、
それらスライドが、それらスライドの上下動の周期を同じくする駆動機構にそれぞれ連結されており、
前記次発スライドが、上昇中の前記先発スライドを追い越して上昇するようにされており、
上下動の周期が前記先発スライドと同じであり、かつ、前記次発スライドの後に下死点に到達する1つ以上の次々発スライドをさらに備えており、
前記次々発スライドが、上昇中の前記次発スライドを追い越して上昇するようにされている、プレス機械。
【請求項3】
前記それぞれのスライドが周期の同じ回転軸の偏心部に連結されており、
後に下死点に到達するスライドのストロークを先に下死点に到達するスライドのストロークより大きくしている、請求項2記載のプレス機械。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれかに記載のプレス機械と、
そのプレス機械において、ワークを順次送る前記搬送装置とからなる搬送装置付きプレス機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のスライドを駆動させるプレス機械、搬送装置付きプレス機械およびその作動方法に関する。さらに詳しくは、位相の異なる複数のスライドを駆動させるプレス機械、搬送装置付きプレス機械およびその作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスファプレスのように複数のプレス工程を1つのスライドで行う場合、通常、第1工程の荷重が高くなる。このためスライドに偏心荷重が生じ、スライドが傾き、成形に影響を及ぼす。
従来から、この偏心荷重に対応するために、上流側のコンロッドとスライドとの連結点(以下、ポイントという)と下流側のポイントとを荷重の高い側にずらすことが行われている。
例えば特許文献1のトランスファプレスは、スライド上の4つのポイントの位置を荷重が均一になるようにプレスの中心に対して非対称に配置している。
また特許文献2のトランスファプレスでは、前半の工程において加圧力が大きくなる傾向があることから、ポイントを上流側にずらして配置している。
【0003】
その他、従来から第1工程とそれ以降の工程を別のスライドで行うことにより、偏心荷重を少なくし、スライドの傾きを抑えることが行われている。
なお、目的は異なるが、特許文献3のトランスファプレスでは、前工程に上下複動プレスを、それ以降の工程に単動プレスを設けている。
また特許文献4のトランスファプレスでは、前工程でリンク駆動式のプレスを、それ以降の工程にクランク駆動式のプレスを設けている。
【0004】
さらに、従来から複数のスライドを用いる場合に、それらのスライドの位相を異ならせ、一度にフレームに加わる荷重の総量を低くすることが行われている。これによりメカプレスの場合はクラッチトルクを低減でき、サーボプレスの場合は必要トルクを低減できる。例えばプレス能力30000kNにおいて、第1工程15000kN、第2工程以降の合計を15000kNとすると、前記クラッチトルク等を半分にすることができる。
例えば特許文献5のトランスファプレスでは、各スライドのクランク軸が位相調節装置を介して接続されている。その位相調節装置は、位相をずらした上で、各クランク軸の端面を突き合わせて継手で固定している。
また特許文献6のトランスファプレスでは、位相の基準となる基準スライドは、それを駆動させる駆動歯車により駆動する。その駆動歯車には、他のスライドを駆動させ、かつ位相を異ならせるための従動歯車が噛合っている。この従動歯車と駆動歯車との噛合い位置を変えることにより、各スライドの位相を異ならせている。
さらに特許文献7のトランスファプレスでは、3以上のスライドを用い、左右端のスライドの位相を同一とし、その左右のスライドを基準として左右のスライドに挟設された真ん中のスライドに位相差を与えている。またこの文献には、各スライドのストロークを同一にせず、変更することが可能の記載がある。
【0005】
図8はリンクプレス(非特許文献1)の概略を示す正面図である。このリンクプレス100には、回転軸101と、その回転軸の偏心部を遊嵌させると共に、その遊嵌孔102aの内面に摺動自在に嵌挿したコンロッド102とを備えている。そのコンロッド102の上端付近には、前記回転軸101と直交するように略水平方向に延びた揺動リンク103の一端が枢支されている。その揺動リンクの他端は、フレームに枢支され、揺動支点103aとされている。前記揺動リンク103は、前記揺動支点103aを中心として往復
回動する。これにより、下死点から上死点までの戻りのストローク速度を上げることができる、というものである。なお、このリンクプレス100は、スライド104を1つ備えている。また、符号105はボルスタである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−314996号公報
【特許文献2】実開昭56−165598号公報
【特許文献3】実開昭49−148588号公報
【特許文献4】特開昭47−44272号公報
【特許文献5】特開平8−206883号公報
【特許文献6】特開平8−112696号公報
【特許文献7】特開平10−137984号公報
【特許文献8】特開平11−226788号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】AIDA プレスハンドブック(第4版)、2007年3月28日、p171、172、174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2のように、スライドに加わる偏心荷重を抑えるためポイント位置を、荷重を均等に受けるべくずらして配置しても、高い負荷の加わる第1工程により生じるスライドの傾きを回避するには充分でない。またフレームに加わる荷重が大きい。
また特許文献3、4のようにスライドを別個にすると、偏心荷重を小さくできるが、フレームに加わる荷重は小さくならない。
さらに特許文献5、6、7のように各スライドの位相を変化させると、フレームに加わる荷重やクラッチトルクを小さくできるが、位相差によって各スライド位置に差が出るので、全てのスライドが揃って搬送装置と干渉しない高さに上昇している範囲が小さくなる。即ちスライド(上型)と搬送装置の干渉回避可能な時間が単一スライドの場合よりも短くなる。トランスファプレスにおいては、搬送装置の搬送に要する時間を確保できるようにプレス機械のSPM(ストローク/分)が決められることが多い。従ってスライド(上型)と搬送装置の干渉回避可能な時間が短くなる場合は、プレスのSPM(ストローク/分)を小さくして全てのスライドが揃って搬送装置と干渉しない高さに上昇している時間を長くすることにより、搬送可能な時間を確保した上で、搬送装置を上型の下に入り込ませなければならない。
【0009】
そこで本発明はスライドに加わる偏心荷重を小さくし、その上でフレームに加わる荷重及びクラッチトルクを小さくし、かつ、搬送装置をスライドの下方にアクセスさせるのが容易なプレス機械、搬送装置付きプレス機械およびその作動方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明のプレス機械は、搬送装置によって搬送されるワークを順次加工するプレス機械であって、1つ以上の先発スライドと、その先発スライドより遅れて下死点に到達する1つ以上の次発スライドとを備えており、それらスライドが、それらスライドの上下動の周期を同じくする駆動機構にそれぞれ連結されており、前記次発スライドが、上昇中の前記先発スライドを追い越して上昇するようにされており前記それぞれのスライドが周期の同じ回転軸の偏心部に連結されており、後に下死点に到達するスライドのストロークを先に下死点に到達するスライドのストロークより大きくしていることを特徴としている。
ここで駆動機構とは、先発スライドおよび次発スライドが共通の回転軸に連結されている機構、さらには別々の回転軸に連結されている機構を含む。
ここで回転軸の偏心部とは、クランク軸のピン部のみならず、エキセン軸のエキセン部やメインギヤと一体となったエキセンシーブを含む。
【0011】
(2)本発明のプレス機械の第2の態様は搬送装置によって搬送されるワークを順次加工するプレス機械であって、1つ以上の先発スライドと、その先発スライドより遅れて下死点に到達する1つ以上の次発スライドとを備えており、それらスライドが、それらスライドの上下動の周期を同じくする駆動機構にそれぞれ連結されており、前記次発スライドが、上昇中の前記先発スライドを追い越して上昇するようにされており、上下動の周期が前記先発スライドと同じであり、かつ、前記次発スライドの後に下死点に到達する1つ以上の次々発スライドをさらに備えており、前記次々発スライドが、上昇中の前記次発スライドを追い越して上昇することを特徴としている
【0012】
(3)このようなプレス機械において、前記それぞれのスライドが周期の同じ回転軸の偏心部に連結されており、後に下死点に到達するスライドのストロークを先に下死点に到達するスライドのストロークより大きくしているものが好ましい。
【0013】
(4)また本発明の搬送装置付きプレス機械は、上述のプレス機械と、そのプレス機械において、ワークを順次送る搬送装置とからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
(1)本発明のプレス機械は、先発スライドおよび次発スライドを備えているので、1つのスライドでプレスするのに比べて、スライドに生じる偏心荷重を防止でき、かつ、スライドの傾きを抑えることができる。
また、前記両スライドの上下動の周期は同じにされ、かつ、前記次発スライドが先発スライドより遅れて下死点に到達するように、両スライドには位相差が設けられているから、プレス機械のフレームなどが、先発スライドと次発スライドから同時に荷重を受けない。このため、フレームの強度、剛性を低減することができる。またスライドを駆動する回転軸のトルク、延いてはクラッチトルクを低減することができる。
【0016】
その上で、前記次発スライドのストロークが先発スライドのストロークより大きくされることにより、次発スライドが上昇中の先発スライドを追い越して上昇するように設けられている。
このように次発スライドは、その位相が遅れているにもかかわらず、途中から先発スライドの高さ位置に追いつくから、位相差を設けたにもかかわらず、搬送装置が先発スライドおよび次発スライドの下方へアクセスできる時間を長くすることができる。
さらに、前記それぞれのスライドが周期の同じ回転軸の偏心部に連結されており、後に下死点に到達するスライドのストロークを先に下死点に到達するスライドのストロークより大きくしているので、簡易な機構で、後に下死点に到達するスライドが上昇中の先に下死点に到達したスライドを追い越して上昇することができる。
【0017】
(2)本発明のプレス機械の第2の態様は、上下動の周期が前記先発スライドと同じであ
り、かつ、前記次発スライドの後に下死点に到達する1つ以上の次々発スライドをさらに備えており、前記次々発スライドが、上昇中の前記次発スライドを追い越して上昇する場合は、3種の異なる位相のスライドを駆動させているにもかかわらず、途中から次発スライドの高さ位置に追いつくから、搬送装置が3つのスライドの下方へアクセスできる時間を長くすることができる。
【0018】
(3)前記それぞれのスライドが周期の同じ回転軸の偏心部に連結されており、後に下死点に到達するスライドのストロークを先に下死点に到達するスライドのストロークより大きくしている場合は、簡易な機構で、後に下死点に到達するスライドが上昇中の先に下死点に到達したスライドを追い越して上昇することができる。
【0019】
(4)本発明の搬送装置付きプレス機械は、上述のプレス機械を備えているので、フレームに加えられる最大荷重を低減できる。このためフレームの強度、剛性を低減することができる。さらにスライドを駆動する回転軸のトルク、延いてはクラッチトルクを低減することができる。また搬送装置がそれぞれのスライドの下方へアクセスできる時間(搬送時間)を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は本発明の搬送装置付きプレス機械の一実施形態を示す正面図である。
図2図2図1の搬送装置のフィードバーの動作を示す概略斜視図である。
図3図3は搬送装置の動作タイミングを、スライドを駆動する偏心部をもつ回転軸の位相で円周上に表した模式図である。
図4図4図1の搬送装置付きプレス機械に設けられるスライドおよび搬送装置を駆動させるタイミングを示すチャートである。
図5図5は本発明のプレス機械の他の実施形態を示す正面図である。
図6図6はさらに他の実施形態を示す概略図である。
図7図7は本発明のプレス機械の作動方法の一実施形態を示すブロック図である。
図8図8はリンクプレスの概略を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照して搬送装置付きプレス機械(トランスファプレス2)を説明する。図1に示すプレスライン1のトランスファプレス2は、プレス機械10と、そのプレス機械10で加工するワークWを搬送する搬送装置4とからなる。そのプレス機械10には複数の金型(後述する符号3)が取り付けられており、搬送装置4は金型3から複数の加工工程を持つ次の金型3にワークWを搬送する。
【0023】
前記トランスファプレス2の左側(上流側)には、図示しないディスタックフィーダ等が配置されている。前記金型3・・は複数の加工工程を施すものである。前記ディスタックフィーダにより供給されるシート材は、搬送装置により図の左から右へと流される(搬送方向5参照)。そして、第1ステージから順に各工程ステージでワークWが加工され、最後にトランスファプレス2の右端の金型3からプレス加工したワークWが、搬送装置4により順に取り出されていく。
【0024】
前記プレス機械10は、ベッド11と、そのベッドから立ち上がる6本のコラム12(図では正面の3本を記載)と、それらのコラムの上端に設けられるクラウン13とから構成される枠状のフレーム14を備えている。前記ベッド11の上部にはボルスタ15が設けられている。
【0025】
前記クラウン13の上面には、プレス駆動用のモータ16が配置されている。そのモータ16の駆動軸にプーリ16aが取り付けられている。またクラウン13の側面に図示しない軸受を設け、その軸受によって偏心部17a,17bを持つ回転軸17の両端が回転
自在に支持されている。その回転軸17の一端(図では左側の端部)にはフライホイール18が設けられており、そのフライホイール18と前記プーリ16aとの間にベルト18bが掛けられている。そのベルト18bはモータ16からフライホイール18へ回転力を伝達する。またフライホイール18はその内部にクラッチ・ブレーキ18aを備えており、これが回転軸17の回転駆動を入り切りする。
なお、図1では、回転軸17としてピン部17aを備えたクランク軸を示しているが、エキセン部を備えたエキセン軸やエキセンシーブを一体に設けたメインギヤでもよい。
【0026】
前記回転軸17の中央付近には、直列に左から順に偏心部17a、17bが設けられている。それら偏心部17a、17bには、それぞれコンロッド22a、22bが連結されている。そして右側(下流側)の偏心部17bの偏心量は、左側(上流側)の偏心部17aの偏心量より大きくされている。また、それらコンロッド22a、22bの下端の小端部にはボールジョイント23、23を介してサスペンション20、20がそれぞれ連結されている。左および右のサスペンション20、20の下端に、それぞれ先発スライド21aおよび次発スライド21bが取り付けられている。それらサスペンション20、20は、その長さを伸縮することにより、各スライド21a、21bの下死点の位置を調整するものである。それら上流側の金型3と対応するスライド21aと、下流側の金型3に対応するスライド21bをまとめて両スライドと呼ぶ。その両スライド21a、21bの下面にはそれぞれ上型3a、3aが取り付けられている。また、前記ボルスタ15の上面にはそれぞれ下型3b、3bが取り付けられている。
【0027】
両スライド21a、21bのワークWを加工する周期、すなわちプレス加工を行う周期は同じである。また前述したように、右側の偏心部17bの偏心量が左側の偏心部17aの偏心量より大きいので、右側のスライド21bのストロークは、左側のスライド21aのストロークより大きい。前記ストロークは、偏心量の2倍である。
【0028】
両スライド21a、21bの上下動には位相差が設けられている(図4参照)。具体的には、その位相差の分だけ、回転軸17の回転方向において、左側の偏心部17aが右側の偏心部17bより先行するようにズレて設けられている。以下、先行するスライド21aを先発スライドといい、後発するスライド21bを次発スライドという。前記位相差により先発スライド21aと、次発スライド21bとでは、下死点に到達する時間に差が生じる。すなわち次発スライド21bは、前記先発スライド21aより遅れて下死点に到達する。本実施形態では、両スライド21a、21bの間の位相差は10°である。
【0029】
本実施形態では前記先発スライド21aのストロークは700mmであり、次発スライド21bのストロークは1100mmである。それらのストローク差は、400mmである。このストローク差があるから、すなわち位相の遅れている次発スライド21bの振幅(すなわちストローク)が先発スライド21aより大きいから、下死点到達後の次発スライド21bの上昇速度が先発スライド21aより大きくなる。
【0030】
図2に示すように、前記両スライド21の下方の空間には搬送装置4が進入する。前記搬送装置4は、搬送方向5に沿って平行に延びる2本のフィードバー4a、4aを備えている。そのフィードバー4a、4aの動作は、ワークWを左右のフィードバーに取り付けられた図示しないクランプ爪で挟持(クランプ)し、持ち上げ(リフト)、前進(アドバンス)させ、下降(ダウン)させ、挟持解除(アンクランプ)する、すなわち符号a、b、c、d、eの矢印の順で作動して、次のプレス位置へ搬送し、再び元の位置に後退(リターン)する(矢印f)、という一連の動作を繰り返すものである。
このようなフィードバーの繰返しの動作により、搬送装置4は、トランスファプレス2の左方から左端の金型3の上にワークWを供給し、左端の金型3から順に右方の金型3にワークWを送り、右端の金型3からトランスファプレス2の右方にワークWを取り出す。
なお、図示していないが、左端の金型3へのワークWの供給、左端の金型3から順の右方の金型3へのワークWの送り、右端の金型3からのワークWの取り出しは、それぞれ別個の装置を同期させることにより行ってもよい。
【0031】
前記フィードバー4aの動作は、偏心部を持つ回転軸17に設けられたエンコーダ19aおよびボルスタ15などに設けられたスライド位置検出装置19bから得られる両スライド21a、21b(あるいは片方のスライド)の位置情報に基づいて制御される。その両スライド21の位置情報は、エンコーダ19aによる回転軸17の位相、回転方向などの検出値と、スライド位置検出装置19bによる両スライド21a、21b(あるいは片方のスライド)の高さ位置、上昇・下降の検出値によりもたらされる。それらの得られた検出値は、図示しない制御部で少なくとも次発スライド21bの高さ位置、上昇中あるいは下降中であるかといった情報に換算される。その換算された次発スライド21bの位置情報が、前記搬送装置4に取り込まれる。
【0032】
次に図2および図3を用いて、前記フィードバー4aの一連の動作を偏心部を持つ回転軸17の位相と関連付けて説明する。前記搬送装置4は、偏心部を持つ回転軸17の位相が290°(−70°)から70°で前進し(符号c)、20°〜80°で下降し(符号d)、80°〜150°で挟持解除し(符号e)、110°〜250°で後退し(符号f)、210°〜280°で挟持し(符号a)、280°〜340°で上昇する(符号b)。
【0033】
さらに図4のタイムチャートを用いて、両スライド21a、21bを前記偏心部を持つ回転軸の位相と関連付けて、それらの作動する様子を説明する。ここで図4の縦軸は、両スライド21a、21bおよび搬送装置4のそれぞれのストローク(移動量)を示している。すなわち、両スライド21a、21bの場合はスライドの昇降ストロークであり、搬送装置4の場合は、一対のフィードバー4a、4aの前進、後退、挟持、挟持解除、上昇、下降した、それぞれの移動量である。また横軸は、偏心部を持つ回転軸17の位相である。
【0034】
図4に示すように、先発スライド21aを基準とし、先発スライド21aが上死点にあるときの前記偏心部を持つ回転軸17の角度位置(位相)を0°としている。先発スライド21aが上死点にある状態を状態S1とする(図4の符号S1参照)。
【0035】
その後、位相が180°の時に、先発スライド21aが下死点に到達する(状態S2)。
次いで先発スライド21aと位相差にして10°の間隔を空けて、次発スライド21bが下死点に到達する。そのとき先発スライド21aは上昇中である(状態S3)。
このように先発スライド21aと次発スライド21bは、この順に下死点に到達するから、プレス機械10のフレーム14(図1参照)などが、先発スライド21aおよび次発スライド21bから同時に荷重を受けない。このためフレーム14の強度、剛性を低減することができる。さらに両スライド21a、21bを駆動する偏心部を持つ回転軸17のトルクを低減することができる。
また、先発スライド21aと次発スライド21bとに分けてプレス加工を行うので、1つのスライドに両方の上型を取り付けてプレスするのに比べ、スライドに生じる偏心荷重を防止できる。さらにはスライドの傾きを抑えることができる。
【0036】
前記次発スライド21bのストロークは、先発スライド21aより長い。このため次発スライド21bが下死点に到達した後、さらに偏心部を持つ回転軸17の位相が32°進んでから、次発スライド21bは上昇して上昇中の先発スライド21aを追い抜き(状態S4)、追い抜いた後、さらに上昇する。
そして先発スライド21aは、次発スライド21bに追い抜かれた後も、さらに上昇する。
【0037】
次いで、次発スライド21bが上昇して先発スライド21aを追い抜いた際に、あるいは、その後に搬送装置4のフィードバーに取り付けられた図示しないクランプ爪が先発スライド21aおよび次発スライド21bの下方に進入する(状態S5)。挟持工程(図の符号a)はその前から始まっていてもよい。
このように次発スライド21bは、その位相が遅れているにもかかわらず、途中から先発スライド21aの高さ位置に追いつくので、搬送装置4のクランプ爪が両スライド21a、21bの下方へ進入するためのタイミングを早めることができ、搬送装置4のクランプ爪が上下の金型間にアクセスできる時間を長くすることができる。
【0038】
上述した実施形態の説明に基づき、プレス機械10およびトランスファプレス2は、以下の(1)、(2)および(3)の作用効果を奏する。
(1)先発スライド21aおよび次発スライド21bを備えているので、1つのスライドでプレスするのに比べて、スライドに生じる偏心荷重を防止でき、かつ、スライドの傾きを抑えることができる。
(2)また、前記両スライド21a、21bの上下動の周期は同じにされ、かつ、前記次発スライド21bが先発スライド21aより遅れて下死点に到達するように、両スライド21a、21bには位相差が設けられているから、プレス機械のフレーム14などが、先発スライド21aと次発スライド21bから同時に荷重を受けない。このため、フレーム14の強度、剛性を低減することができる。またスライドを駆動する回転軸17のトルクを低減することができる。
(3)その上で、前記次発スライド21bのストロークが先発スライド21aのストロークより大きくされることにより、次発スライド21bが上昇中の先発スライド21aを追い越して上昇するように設けられている。このため、次発スライド21bは、その位相が遅れているにもかかわらず、途中から先発スライド21aの高さ位置に追いつくから、位相差を設けたにもかかわらず、搬送装置4のクランプ爪が先発スライド21aおよび次発スライド21bの下方へアクセスできる時間を長くすることができる。搬送装置4が先発スライド21aおよび次発スライド21bの下方に進入するのは、先発スライド21aと次発スライド21bとが共に搬送装置4と干渉を起さない高さまで上昇していれば、次発スライド21bが先発スライド21aを追い越す際、追い越す前、追い越した後のいずれでも良い。
【0039】
図1に示す実施形態では、ストロークが小さく、先に下死点に到達する先発スライド21aによりワークWが加工され、次いでその先発スライド21aにより加工されたワークWがストロークの大きな次発スライド21bでさらに加工される。それとは逆に、前記搬送方向5および金型の配列を反対向き(図1の右から左へ)にして次発スライド21bで先に加工し、ついで先発スライド21aでさらに加工するようにしてもよい。この場合も、搬送装置4のクランプ爪が上下の金型間にアクセスできる時間を延ばすことができ、その上で、最大荷重を抑制し、スライドに生じる偏心荷重を防止できる。
【0040】
また、前記先発スライド21aおよび次発スライド21bは、それぞれ1つ以上であればよい。図ではそれぞれ1つであるが、先発あるいは後発スライドが複数の場合は、複数の先発スライド21aあるいは複数の次発スライド21bが、それぞれ一緒に駆動する(図6参照)。
【0041】
また、前記回転軸17を駆動するモータ16としてサーボモータを用いることができる。サーボモータを用いる場合、前記ベルト18b、フライホイール18及びクラッチブレーキ18aを介さずに、サーボモータの出力軸を回転軸17にカップリング等を介して直
接に連結してもよい。
【0042】
図5に本発明のプレス機械の他の実施形態を示す。図5に示しているプレス機械24は、周期が前記先発スライド21aと同じで、かつ、次発スライド21bの後に下死点に到達する1つ以上の次々発スライド21cをさらに備えている。
その次々発スライド21cは、回転軸17の偏心部17cに連結されている。その次々発スライド21cの偏心部17cの偏心量は、次発スライド21bの偏心部17bの偏心量より大きい。
すなわち、前記次々発スライド21cのストロークが、次発スライド21bのストロークより大きくされていることにより、前記次々発スライド21cが、上昇中の前記次発スライドを追い越して上昇することができる。
このように各スライド21a、21b、21cをそれぞれ異なる位相で駆動させているにもかかわらず、搬送装置を上下金型間に搬入するタイミングで先発スライド21aが次発スライド21bおよび次々発スライド21cによって追い越されるようにすることにより、先発スライド21aと搬送装置4との干渉を防止すれば、次発及び次々発スライド21b、21cが搬送装置4との干渉を起すことはなくなる。
さらに、先発、次発、次々発スライドより下死点に到達する時間を遅らせ、かつ、それらのスライドと同じ周期にし、それらのスライドのストロークより大きなストローク、すなわち大きな偏心量を設定することにより、4つ目、5つ目・・の位相を異にするスライドを設けることができる。
【0043】
図6にはさらに他の実施形態を示す。図6に示すプレス機械25は、1つの先発スライド21aを中央に配置し、その両側に2つの次発スライド21bを配置し、さらにその両外側に次々発スライド21cを配置している。このプレス機械25によると、中央から外側に向けて順にスライドが下死点に到達する。
【0044】
前述した図1に示すプレス機械10、図5に示すプレス機械24、図6に示すプレス機械25において、それらの次発スライド21b、さらには次々発スライド21cの駆動に下死点からの上昇の速度を上げる早戻り機構を用いてもよい。その早戻り機構を用いることで、次発スライド21b、さらには次々発スライド21cが上昇中の先発スライド21aを追い抜くようにする。
すなわち、この実施形態では、ストローク差を用いておらず、早戻り機構により下死点からの上昇の速度を上げることで、上昇中の先発スライド21aを追い抜くものである。
【0045】
さらに、ストローク差と早戻り機構を併用してもよい。例えば、1つのスライドに対し、ストローク差と早戻り機構を併用いてもよい。そして、次発スライド21bにストローク差を用い、次次発スライド21cに早戻り機構を用いる、あるいは、逆に次発スライド21aに早戻り機構、次次発スライド21bにストローク差を用いてもよい。
前記早戻り機構としては、例えば、図8に示すようなリンクプレスの揺動リンク103を用いた機構が挙げられる。
【0046】
さらに、駆動させるスライド毎に、それぞれに偏心部を持つ別個の回転軸およびその回転軸を駆動させるサーボモータを設けてもよい。サーボモータの回転速度を制御することにより、次発スライド21bの上昇時の速度を加速させて、先発スライド21aを追い抜くようにする。
【0047】
次に、図4および図7を用いて搬送装置付きプレス機械(トランスファプレス)の作動方法を説明する。その作動方法26は、先発スライドが下死点に到達し(ステップR1)、その先発スライドが下死点に到達した後に次発スライド21bが下死点に到達し(ステップR2)、前記先発スライド21aおよび次発スライド21bが共に搬送装置と干渉を起こさない位置まで上昇する(ステップR3)、干渉を起こさない位置まで上昇すると、搬送装置のフィードバー4aが前記先発スライド21aおよび次発スライド21bの下方に進入する(ステップR4)、というステップからなる。
そして、前記ステップR2の後でステップR3の前、ステップR3とステップR4の間、およびステップR4の後のいずれかにおいて、次発スライド21bは先発スライド21aを追い越す。
なお、各ステップR1、R2、R3、R4の際に、先発スライド21a、次発スライド21bおよび搬送装置4がどのように作動しているかについては、前述の状態S2、S3、S4、S5でそれぞれ説明しているので、詳細な説明は省略する。
前記搬送装置付きプレス機械の作動方法は、先発スライドと、その先発スライドと同じ周期で、かつ先発スライドに遅れて下死点に到達する次発スライドと、それらのスライドの下方にワークを順次送る搬送装置とを備えた搬送装置付きプレス機械の作動方法であって、先発スライドが下死点に到達し、その後に次発スライドが下死点に到達し、上昇中の先発スライドを追い越して上昇する次発スライドの上昇中に、搬送装置が先発スライドおよび次発スライドの下方に進入することを特徴としている。
前記搬送装置が先発スライドおよび次発スライドの下方に進入するのは、先発スライドと次発スライドとが共に搬送装置と干渉を起さない高さまで上昇していれば、次発スライドが先発スライドを追い越す際、追い越す前、追い越した後のいずれでも良い。
前記搬送装置は先発スライドおよび次発スライドとの干渉を起さずに、それらの下方へ進入するための時間を稼ぐことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 プレスライン
2 トランスファプレス
3 金型
3a 上型
3b 下型
4 搬送装置
4a フィードバー
5 搬送方向
10 プレス機械
11 ベッド
12 コラム
13 クラウン
14 フレーム
15 ボルスタ
16 モータ
17 回転軸
17a 偏心部
17b 偏心部
18 フライホイール
18a クラッチ・ブレーキ
18b ベルト
19a エンコーダ
19b スライド位置検出装置
20 サスペンション
21 スライド
21a 先発スライド
21b 次発スライド
21c 次々発スライド
22a コンロッド
22b コンロッド
23 ボールジョイント
24 プレス機械
25 プレス機械
26 スライド作動方法
W ワーク
a 挟持(クランプ)
b 持ち上げ(リフト)
c 前進(アドバンス)
d 下降(ダウン)
e 後退(リターン)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8