特許第5951796号(P5951796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951796
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】シリコーン可溶化剤
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/32 20060101AFI20160630BHJP
   C11D 7/16 20060101ALI20160630BHJP
   C11D 7/10 20060101ALI20160630BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20160630BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20160630BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C11D7/32
   C11D7/16
   C11D7/10
   C11D7/50
   C11D7/26
   B08B3/08 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-546428(P2014-546428)
(86)(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公表番号】特表2015-505886(P2015-505886A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】EP2012074661
(87)【国際公開番号】WO2013087510
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2014年8月6日
(31)【優先権主張番号】102011088885.3
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケルンベルガー,アンドレアス
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−224782(JP,A)
【文献】 特開2007−019506(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0048715(KR,A)
【文献】 特開2007−016232(JP,A)
【文献】 特開2007−188082(JP,A)
【文献】 特開2007−100086(JP,A)
【文献】 特開2008−103730(JP,A)
【文献】 特開2008−129571(JP,A)
【文献】 特開2004−000969(JP,A)
【文献】 特開2005−325348(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0293208(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01914296(EP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01965418(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 7/32
B08B 3/08
C11D 7/10
C11D 7/16
C11D 7/26
C11D 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面または基板から架橋シリコーン残留物または未架橋シリコーン残留物を解重合し除去するためのシリコーン可溶化剤の使用であって、前記シリコーン可溶化剤がシリコーン可溶化剤100wt.%に対して、
A)0.1〜10wt.%の少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウムフルオリド、
B)0.001〜1wt.%の少なくとも1種の、水素イオンと結合可能な無機塩、および
C)残部の、テトラアルキルアンモニウムフルオリドA)のみならず少なくとも0.001wt.%の無機塩B)も溶解するのに適した、少なくとも1個のヘテロ原子を含み得る、直鎖、分岐または環状エーテル、ケトンおよびエステルからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒
を含有し、前記表面または基板に対して不活性である、使用。
【請求項2】
成分A)が、以下のテトラアルキルアンモニウム化合物:テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラペンチルアンモニウムフルオリド、テトラヘキシルアンモニウムフルオリド、テトラヘプチルアンモニウムフルオリド、テトラオクチルアンモニウムフルオリド、テトラノニルアンモニウムフルオリド、テトラデシルアンモニウムフルオリド、テトライソプロピルアンモニウムフルオリド、テトライソブチルアンモニウムフルオリド、テトラ(tert−ブチル)アンモニウムフルオリド、テトラ(tert−ペンチル)アンモニウムフルオリドの群から選択される、請求項1に記載のシリコーン可溶化剤の使用。
【請求項3】
成分B)が、以下の無機塩:亜リン酸塩およびリン酸塩MPOおよびMPO;亜硫酸塩および硫酸塩MSOおよびMSO;亜硝酸塩および硝酸塩MNOおよびMNOの群から選択され、Mがアルカリ金属およびアルカリ土類金属ならびに一価カチオンの群から選択され、oは1から3であり、pは0から2であり、qは1から2であり、rは0から1である、請求項1に記載のシリコーン可溶化剤の使用。
【請求項4】
成分C)が、以下の溶媒:アルキルカルボン酸エステル、ジアルキルエーテル、アルキルアリールエーテル、ケトンの群から選択される、請求項1に記載のシリコーン可溶化剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコーン残留物の解重合および除去用の組成物に関する。以下シリコーン可溶化剤と記されるこの組成物は、アルキルアンモニウムフルオリド、無機塩基性塩および溶媒を含有する。本発明の組成物は、架橋または未架橋の、充填または無充填のシリコーン残留物を、損傷しやすい表面および基板から除去するのに特に有用である。シリコーン可溶化剤は、各種用途において液体、ペースト状、またはゲル様とすることができ、使用分野に依存する。
【背景技術】
【0002】
架橋シリコーンまたは未架橋シリコーンを除去するまたは解重合する様々な方法および組成物は、先行技術において知られている。
・ 有機溶媒またはハロゲン化有機溶媒により膨潤させて除去すること。
・ 例えばジイソプロピルアミン等のアミンにより膨潤させて除去すること。
・ 例えばUS2,710,843に記載されているように水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等の強塩基のアルカリ性溶液でポリジメチルシロキサンを解重合すること。
・ 例えばDE69122740T2に記載されているように短鎖オリゴジオルガノシロキサンまたは環状オリゴジオルガノシロキサンにより解重合すること。
・ 例えば特開平8−250400号公報に記載されているようにアルキルベンゼンスルホン酸、硫酸、フッ化水素酸等の強酸の水溶液により解重合すること。
・ 例えばEP0884368A1に記載されているようにホスホニトリルハライド化合物およびケイ素鎖員7個までの短鎖オリゴジメチルシロキサンを含有する組成物により解重合すること。反対に、環状ホスホニトリルハライド化合物または直鎖ホスホニトリルハライド化合物を、長鎖のポリジメチルシロキサンを調製する連鎖成長付加触媒または縮合重合触媒として使用することは、長年かかって確立された先行技術であり、DE19607264A1に記載されているように、ポリジメチルシロキサンを平衡に保つためにこの触媒を使用している。
・ US5,008,229では、有機溶媒中のホスホニトリルクロライド溶液および水酸基末端ジオルガノシロキサンの縮合および/または平衡を加速するためのこのような組成物の使用を対象とする。改善された結果は得られるが、酢酸エチル等の有機溶媒が、ホスホニトリルクロライドの溶解を促進するために使用される。DE3725377は、触媒として、燐−窒素塩化物とオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状ジオルガノシロキサンとの反応生成物を使用することにより、有機溶媒の使用を不要とするものである。しかしながら、燐−窒素塩化物とオクタメチルシクロテトラシロキサンとの反応生成物の粘度が、数千mPa・s(センチポアズ)を超過することがしばしばでありポリジメチルシロキサン残留物の除去のための触媒としてこの物質の有用性は低いことが、これまでの経験から明らかである。
・ US7,232,770B1には、半導体の分野においてシリコーン残留物の除去のために様々な溶媒中のアミンと組み合わせたフッ化アンモニウムについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第2,710,843号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第69122740号明細書
【特許文献3】特開平8−250400号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第0884368号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第19607264号明細書
【特許文献6】米国特許第5,008,229号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第3725377号明細書
【特許文献8】米国特許第7,232,770号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコーンを溶解するための現在までに公知とされるすべての組成物の欠点は、例えば、この組成物が、種々の基板からシリコーンを除去するために使用される場合、金属の表面を腐食する有機酸またはアルカリ等の腐食性物質を含有するということである。
【0005】
したがって、本発明が取上げる問題は、種々の基板からまたは基板間の、架橋ポリシロキサン残留物および未架橋ポリシロキサン残留物を除去するのに有用であり、同時に、基板に関して不活性で、シリコーン不純物を除去する処理時間の間に、薄層であってもそれらを破損しないまたは腐食しない組成物を提供するということであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この問題は、驚くべきことに
A)少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウムフルオリド、
B)少なくとも1種の、水素イオンと結合可能な無機塩基、および
C)テトラアルキルアンモニウムフルオリドA)のみならず少なくとも0.001wt.%の無機塩基B)も溶解するのに適した少なくとも1種の溶媒
を含有するシリコーン可溶化剤によって解決された。
【0007】
驚くべきことに、無機塩が有機テトラアルキルアンモニウムフルオリドおよび溶媒からなるシリコーンを溶解する組成物の腐食作用を抑制するのに特に有用であることが分かった。
【0008】
本発明のシリコーン可溶化剤は、基板上または基板間のポリシロキサン残留物またはポリシロキサン層を除去するのに特に有用である。
【0009】
本発明のシリコーン可溶化剤は、シリコーンポリマーおよび/またはポリジメチルシロキサン基にこれらが選択的に作用するという長所を有する。他のプラスチックはこの反応機構によって攻撃されない。本発明のシリコーン可溶化剤に対して不活性なプラスチックの例は、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリニトリル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、ポリイミドまたはポリアクリレートである。
【0010】
本発明のシリコーン可溶化剤は、例えばRTV−1、RTV−2、LSRおよびHTV等の付加架橋したシリコーンゴム、縮合架橋したシリコーンゴムおよび過酸化物により架橋したシリコーンゴムを単に溶解する。本発明のシリコーン可溶化剤は、使用分野によってはさらなる成分、充填剤、例えば、親水性シリカまたは疎水性シリカ、沈降シリカ、シリコーン樹脂、酸化アルミニウム、酸化チタン、カーボンブラック、黒鉛、金属、金属炭酸塩、ケイソウ土、金属ダスト、繊維、例えば、ガラス繊維またはポリマー繊維、および様々な添加剤、例えば、殺真菌剤、香り、腐食抑制剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、分散剤、接着促進剤、顔料、可塑剤、有機ポリマーまたは熱安定剤を含有するシリコーンゴムに関しても有効である。本発明のシリコーン可溶化剤は、さらにポリジオルガノシロキサン単位またはシリコーン樹脂を含有するコポリマーを分解する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好ましい一実施形態において、成分A)は一般式(1)
(C2n+1(1)
[式中、nは1から30であり、好ましくは、nは1から18であり、より好ましくは、nは1から10である。]
に従う。
【0012】
化合物A)は、当該技術において長く知られており市販で入手可能である。好ましい化合物A)の例は、次のとおりである:テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラペンチルアンモニウムフルオリド、テトラヘキシルアンモニウムフルオリド、テトラヘプチルアンモニウムフルオリド、テトラオクチルアンモニウムフルオリド、テトラノニルアンモニウムフルオリド、テトラデシルアンモニウムフルオリド、テトライソプロピルアンモニウムフルオリド、テトライソブチルアンモニウムフルオリド、テトラ(tert−ブチル)アンモニウムフルオリド、テトラ(tert−ペンチル)アンモニウムフルオリド。
【0013】
好ましい一実施形態において、成分B)は、無機塩の以下の群、ここにMはアルカリ金属およびアルカリ土類金属およびさらに、例えばアンモニウムイオン等の1価カチオンから選択され:亜リン酸塩およびリン酸塩MPOおよびMPO[式中、oは、1から3であり、(1価金属カチオンに例示的に基づいた実験式)およびpは、0から2である。];亜硫酸塩および硫酸塩MSOおよびMSO[式中、qは、1から2であり、rは、0から1である。];亜硝酸塩および硝酸塩MNOおよびMNO(1価金属カチオンに例示的に基づいた実験式)から選択される。ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムおよびアンモニウムはMとして好ましい。特に好ましい化合物B)は、NaPO、NaHPO、NaHPO、MgHPO、Mg(PO、(NH)HPO、(NHHPO、(NHPOである。
【0014】
成分C)は、成分A)および少なくとも0.001wt.%の化合物B)を溶解することができる溶媒である。成分C)の例は、ヘテロ原子、例えば、窒素、リンまたはハロゲン原子をさらに含有することもできる直鎖エーテル、分岐エーテルおよび環状エーテルである。溶媒として有用なエーテルの例としては、それだけに限らないが、ジアルキルエーテル:ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオクチルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、4−クロロブチルエーテル、ジクロロメチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシプロパン、tert−アミルメチルエーテル、tert−ブチルエチルエーテル、ジ−sec−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル;環状エーテル:オキサシクロペンタン(テトラヒドロフラン)、オキサシクロヘプタン(テトラヒドロピラン)、1,4−ジオキサン;芳香族基を含むエーテル:メチルフェニルエーテル、2−ニトロフェニルフェニルエーテル、4−ジメトキシベンゼン、1,3,5−トリメトキシベンゼン、ブチルフェニルエーテル、1,4−ジエトキシベンゼンが挙げられる。
【0015】
成分C)として非常に有用な物質のさらなるクラスはケトンのクラスであり、ケトンは、窒素、リンまたはハロゲン原子等のヘテロ原子をさらに含有してもよい直鎖化合物、分岐化合物、および環式化合物を含有する。直鎖脂肪族分子および分岐脂肪族分子が特に好ましい。
【0016】
成分C)として有用なケトンの例としては、それだけに限らないが、2−プロパノン、2−ブタノン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、2−デカノン、3−ヘキサノン、3−ヘプタノン、3−オクタノン、3−ノナノン、3−デカノン、2−メチル−3−ブタノン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2−メチル−3−ペンタノン、2−メチル−3−ヘキサノン、2−メチル−3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、4−オクタノン、4−ノナノン、4−デカノン、2,2−ジメチル−3−ペンタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、5−メチル−3−ヘプタノン、4,4−ジメチル−2−ペンタノン、2,2,4,4−テトラメチル−3−ペンタノン、3−メチル−2−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノン、3,3−ジメトキシ−2−ブタノン、4,4−ジメトキシ−2−ブタノン、3−メチル−2−シクロハノン、3−メチル−2−シクロヘキセノン、1,3−シクロヘプタンジオン、2−メチル−1,3−シクロヘキサンジオン、3−エトキシ−2−シクロペンテン−1−オン、5−メチル−1,3−シクロヘキサンジオン、トリアセチルメタン、2,2−ジメチルシクロペンタノン、2−メチルシクロヘキサノン、3−メチルシクロヘキサノン、4−メチルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン、ジエチルアミノアセトンが挙げられる。
【0017】
成分C)として非常に有用な物質のさらなるクラスはエステルのクラスであり、エステルは窒素、リンまたはハロゲン原子等のさらなるヘテロ原子をさらに含有してもよい直鎖化合物、分岐化合物、および環式化合物を含有する。双極性非プロトン溶媒であるとみなされるエステルが、特に好ましい。成分C)として有用なエステルの例としては、それだけに限らないが、アルキルカルボン酸エステルである酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸オクチル、酢酸ノニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ペンチル、プロピオン酸ヘキシル、プロピオン酸ヘプチル、プロピオン酸オクチルが挙げられる。
【0018】
C)は、好ましくは以下の溶媒の群:アルキルカルボン酸エステル、ジアルキルエーテル、アルキルアリールエーテル、ケトンから選択される。C)は、より好ましくは、群:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、2−ブタノン、2−オクタノン、イソプロピルメチルケトン、tert−ブチルメチルケトンから選択される。
【0019】
さらなる任意構成成分として、本発明のシリコーン可溶化剤は粘度を調節して、例えばペースト状の組成物を生産するために増粘剤D)を含有してもよい。増粘剤D)の例は、沈降シリカ、親水性コロイドシリカまたは疎水性コロイドシリカ、酸化アルミニウム、二酸化チタン、カルボン酸のカルシウム塩、カーボンブラックまたはカルボキシメチルセルロースである。水分含有量が5000ppm未満である限り、先行技術において知られているいかなる増粘剤D)も使用することができる。水分含有量は、好ましくは2500ppm未満が望ましく、より好ましくは1000ppm未満が望ましい。有機脂肪族アルコール基は、水と同様に、成分A)を加水分解させ、シリコーン可溶化剤がその平衡特性を失うことになるので、有機脂肪族アルコール基も組成物の中に存在することを回避させねばならない。D)が発熱性シリカの群から選択されることは好ましい。
【0020】
本発明のシリコーン可溶化剤は、透明溶液が生ずるまで、A)にB)およびC)を混合し、場合によっては、理想的にはD)を混合することによって調製される。
【0021】
シリコーン可溶化剤100wt.%当たり、好ましくは0.1〜10wt.%のA)を使用し、さらに好ましくは0.1〜5wt.%のA)を使用する。シリコーン可溶化剤100wt.%当たり、好ましくは0.001から1wt.%のB)を使用し、さらに好ましくは0.01〜0.5wt.%のB)を使用する。C)はシリコーン可溶化剤100wt.%に対してこの残りを占める。
【0022】
混合は通例、室温または高温(140℃まで)で0.5から10時間の間にわたって、成分を激しく撹拌することにより達成される。増粘剤D)が使用される場合、これは定められた範囲に本発明のシリコーン可溶化剤の粘度を適合させるためになされる。これについては、増粘剤D)は、シリコーン可溶化剤100wt.%当たり0.1〜30wt.%の量で使用される。D)を、0.5から10wt.%添加することが好ましく、1から5wt.%添加することがさらに好ましい。
【0023】
本発明は、表面または基板から、架橋シリコーン残留物または未架橋シリコーン残留物を解重合し除去するために、本発明のシリコーン可溶化剤を使用することをさらに提供する。
【0024】
本発明によるシリコーン可溶化剤の粘度−液体、ペースト状またはゲル様−に応じて、これは、様々な方法で、例えば、洗浄されるべき物品/表面/基板上に、本発明のシリコーン可溶化剤を噴霧するまたは塗布することにより達成され、またはほかに本発明のシリコーン可溶化剤の中に洗浄されるべき物品を浸漬することにより達成される。除去されるシリコーン残留物の層厚さおよび組成物に応じて、処理時間は10秒から数時間の間とすることができる。好ましい一実施形態において、処理時間は、30秒と10分の間とする。処理時間中の昇温は溶解プロセスを加速する。20℃から100℃までの温度域が好ましいと明示できるが、20℃から150℃の間の温度を、溶媒C)に応じて、使用することができる。例えばポンピング、振盪または超音波処理による、本発明によるシリコーン可溶化剤の循環はすべて、同様に加速効果を有する。好ましい一実施形態において、超音波処理下の室温における処理時間は、10秒から5分の間とする。さらに好ましい実施形態において、超音波処理下の50℃〜120℃における処理時間は、10秒から3分の間とする。
【0025】
処理期間の後、開裂生成物は、添加剤を含有しない溶媒で、洗い流されるが、この溶媒は、溶解反応において使用される溶媒C)と同一であってもよいが、それは必須ではない。
【実施例】
【0026】
以下の実施例は、本発明を制限することなく説明するものである。部は特記しない限り重量部である。以下の実施例は、周囲大気の圧力、すなわち、約1000hPaで実施され、特記しない限り、室温、すなわち、約20℃で実施される。架橋シリコーンエラストマーを溶解する適用例では、超音波処理は、超音波浴(Bandelin RM 40)にガラスフラスコを導入し、超音波探触子等を導入することにより達成される。
【0027】
[実施例1] シリコーンを溶解する組成物1
テトラブチルアンモニウムフルオリド2.5gとリン酸三ナトリウム0.05gを、室温で30分間撹拌することにより、2−オクタノン97.45gに溶解する。
【0028】
[実施例2] シリコーンを溶解する組成物2
テトラブチルアンモニウムフルオリド2.5gとリン酸水素二ナトリウム0.05gを、室温で30分間撹拌することにより、2−オクタノン97.45gに溶解する。
【0029】
[実施例3] シリコーンを溶解する組成物3
テトラブチルアンモニウムフルオリド2.5gと水酸化カルシウム0.05gを、室温で30分間撹拌することにより、酢酸n−プロピル97.45gに溶解する。
【0030】
[実施例4] シリコーンを溶解する組成物4
テトラブチルアンモニウムフルオリド2.5gとリン酸三ナトリウム0.05gを、室温で30分間撹拌することにより、酢酸n−プロピル97.45gに溶解する。
【0031】
[実施例5] シリコーンを溶解する組成物5
テトラブチルアンモニウムフルオリド2.5gとリン酸水素二ナトリウム0.05gを、室温で30分間撹拌することにより、酢酸n−プロピル97.45gに溶解する。
【0032】
[実施例6] シリコーンを溶解する組成物6
テトラブチルアンモニウムフルオリド2.5gと水酸化カルシウム0.05gを、室温で30分間撹拌することにより、2−オクタノン97.45gに溶解する。
【0033】
[実施例7] シリコーンを溶解する組成物7(本発明に従わない。)
テトラブチルアンモニウムフルオリド2.5gを、室温で30分間撹拌することにより、2−オクタノン97.5gに溶解する。
【0034】
[実施例8] シリコーンを溶解する組成物8(本発明に従わない。)
テトラブチルアンモニウムフルオリド2.5gを、室温で30分間撹拌することにより、酢酸n−プロピル97.5gに溶解する。
【0035】
[実施例9] ポリジメチルシロキサン組成物の溶解
それぞれの架橋シリコーン組成物(ミュンヘンのWacker Chemie AG製のELASTOSIL(登録商標)LR 3003/40)の100μmの薄層の1平方センチメートルを、室温において実施例1から8の各溶液5mlで被覆する。フィルムが完全に溶解するまでの時間は、どの組成物についても10〜20秒であった。
【0036】
[実施例10] アルミニウムの腐食
腐食を評価するために、1平方センチメートルの市販のアルミニウムフォイルを、各溶液中に置き、任意の一連の所定時間にそこから取り外した。腐食は、走査型電子顕微鏡写真から評価され、表1では「マイナス」=「−」(SEMにおいて目に見える腐食はない。)および「プラス」=「+」(SEMは、目に見える腐食、すなわち、点食、アルミニウムの局部溶解を示す。)として区別された。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明白なように、驚くべきことに本発明によるシリコーン可溶化剤がアルミニウムの腐食を明確に低減することと相まってシリコーン残留物を除去するのに特に有用であるということが見出だされた。室温で数分間の処理時間で通常十分である。