【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成26年12月11日に、電子情報通信学会技術研究報告,第114巻,第372号,RCS2014−259,第231頁〜第236頁(一般社団法人電子情報通信学会)にて公開 (2)平成26年12月19日に、電子情報通信学会 無線通信システム研究会,伊勢市観光文化会館 4階 大会議室(三重県伊勢市岩渕1−13−15)にて発表(3)平成27年2月24日に、EiC 電子情報通信学会 2015年総合大会講演論文集(DVD),B−5−28(一般社団法人電子情報通信学会)にて公開 (4)平成27年3月11日に、EiC 電子情報通信学会 2015年総合大会,立命館大学 びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市野路東1丁目1−1)にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省「移動通信システムにおける三次元稠密セル構成及び階層セル構成技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Yung-Ting Lee et al.,Time Synchronization Methods for Femtocell,IEEE 802.16 Broadband Wireless Access Working Group,2008年11月 5日,IEEE C802.16m-08/1323r1,URL,http://www.ieee802.org/16/tgm/contrib/C80216m-08_1323r1.ppt
【文献】
Guang Han et al.,Time synchronization for Femtocells,IEEE 802.16 Broadband Wireless Access Working Group,2008年11月12日,IEEE C802.16m-08/1368r1,URL,http://www.ieee802.org/16/tgm/contrib/C80216m-08_1368r1.doc
【文献】
塩原 翔太 Shota Shiobara,LTE−Advanced対応eICICを実現するためのGPSを利用した基地局間同期制御方式のフィールド実証評価 Field evaluation of base station synchronization method using GPS to realize eICIC for LTE-Advanced,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.114 No.490 IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2015年 2月25日,第114巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
自局のセルよりも広い他の基地局のセル内に前記他の基地局と同一の周波数帯域が用いられる自局のセルが配置され、前記他の基地局との間で、自局のセル及び前記他の基地局のセルの少なくとも一方の下りリンク無線通信フレーム中の複数のサブフレームの一部について少なくともデータ信号の送信を停止する干渉制御が適用される基地局であって、
自局と前記他の基地局との間の距離における電波の伝搬時間分だけ前記他の基地局から遅れるように自局と前記他の基地局との間の時間同期を行う時間同期手段と、
自局のセルにおける下りリンク無線通信フレームについて前記時間同期に基づき設定された送信タイミングを早めるように補正する補正手段と、を備えることを特徴とする基地局。
第1の基地局のセルよりも広い第2の基地局のセル内に前記第2の基地局と同一の周波数帯域が用いられる前記第1の基地局のセルが配置され、前記第1の基地局と前記第2の基地局との間で、前記第1の基地局のセル及び前記第2の基地局のセルの少なくとも一方の下りリンク無線通信フレーム中の複数のサブフレームの一部について少なくともデータ信号の送信を停止するセル間の干渉制御方法であって、
前記第1の基地局と前記第2の基地局との間の距離における電波の伝搬時間分だけ前記第2の基地局から遅れるように前記第1の基地局と前記第2の基地局との間の時間同期を行うことと、
前記第1の基地局のセルにおける下りリンク無線通信フレームについて前記時間同期に基づき設定された送信タイミングを早めるように補正すること、とを含むことを特徴とする干渉制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ここでは、LTE/LTE−Advancedへの適用を前提に本発明の実施形態を説明するが、類似のセル構成、物理チャネル構成を用いるシステムであれば、本発明の概念はどのようなシステムにも適用可能である。
【0012】
まず、本発明を適用可能な移動通信システムの全体構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るスモールセル基地局が配置されたオーバレイセル構成の移動通信システムの概略構成の一例を示す説明図である。
【0013】
急増する移動通信のトラフィックへの対策として、マクロセル10A上にスモールセル20Aを重畳するオーバレイセル構成の適用が有効である。オーバレイセル構成では、
図1に示すようにマクロセル10Aのエリア内に多数のスモールセル20Aが重畳している。このオーバレイセル構成により、マクロセル10Aとスモールセル20Aとの間で同一周波数帯域を利用して周波数利用効率を拡大できるとともに、ユーザ端末装置(移動局)30,31における通信品質(例えばスループット)を増大させることができる。また、特に大都市部においては、中高層ビルの屋内オフィスでの通信トラフィックが急増しているため、高さ方向にも効率良く通信トラフィックを運ぶ手段が求められている。そのため、上記オーバレイセル構成として、マクロセル10A内にビル等の建物内の高さ方向を含めて3次元的にスモールセル基地局20を展開して設置する3次元空間セル構成が採用される。
【0014】
図1において、本実施形態の移動通信システムは、LTE(Long Term Evolution)/LTE−Advancedの標準仕様に準拠した通信システムであり、第2の基地局(他の基地局)としてのマクロセル基地局10と、そのマクロセル基地局10の無線通信エリアであるセル(以下、適宜「マクロセル」という。)10A内に位置する第1の基地局としてのスモールセル基地局20とを備える。スモールセル基地局20の無線通信エリアであるセル(以下、適宜「スモールセル」という。)20Aは、マクロセル基地局10のマクロセル10Aの内側に含まれている。マクロセル10Aは主に屋外にあるため、屋外マクロセルとも呼ばれる。
【0015】
図1において、第1の移動局であるユーザ端末装置(UE:User Equipment)30は、マクロセル基地局10のセル10Aに在圏してマクロセル基地局10に接続されたユーザ端末装置(MUE)であり、マクロセル基地局10を介して電話やデータ通信などのための無線通信が可能な状態にある。このユーザ端末装置30は、マクロセル10Aとスモールセル20Aとの境界部に近い位置に在圏しているため、スモールセル20Aからの干渉を受けやすい状況にある。
【0016】
また、第2の移動局であるユーザ端末装置(UE)31は、スモールセル基地局20のセル20Aの外縁部に在圏してスモールセル基地局20に接続されたユーザ端末装置(SUE)であり、スモールセル基地局20を介して電話やデータ通信などのための無線通信が可能な状態にある。このユーザ端末装置31は、スモールセル20Aとマクロセル10Aとの境界部に近い位置に在圏しているため、マクロセル10Aからの干渉を受けやすい状況にある。
【0017】
ユーザ端末装置30、31は、マクロセル10Aやスモールセル20Aに在圏するときに、その在圏するセルに対応するマクロセル基地局やスモールセル基地局と間で所定の通信方式及び無線通信リソースを用いて無線通信することができる。ユーザ端末装置30、31は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、コアネットワークに対する外部通信インターフェース部、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより基地局10,20等との間の無線通信等を行うことができる。
【0018】
マクロセル基地局10は、移動体通信網において屋外に設置されている通常の半径数百m乃至数km程度の広域エリアであるマクロセルをカバーする大出力の基地局であり、「マクロセル基地局」、「Macro e−Node B」、「Macro−eNB」等と呼ばれる場合もある。マクロセル基地局10は、他の基地局と例えば有線の通信回線で接続され、所定の通信インターフェースで通信可能になっている。また、マクロセル基地局10は、回線終端装置及び専用回線などの通信回線を介して移動体通信網のコアネットワークに接続され、コアネットワーク上のサーバ装置などの各種ノードとの間で所定の通信インターフェースにより通信可能になっている。
【0019】
スモールセル基地局20は、広域のマクロセル基地局とは異なり、無線通信可能距離が数m乃至数百m程度であり、一般家庭、店舗、オフィス等の建物の内部にも設置することができる小出力の基地局である。スモールセル基地局20は、移動体通信網における広域のマクロセル基地局がカバーするエリアよりも小さなエリアをカバーするように設けられるため「スモールセル基地局」と呼ばれたり、「Small e−Node B」や「Small eNB」と呼ばれたりする場合もある。スモールセル基地局20についても、回線終端装置及びADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)回線や光回線等のブロードバンド公衆通信回線などの通信回線を介して移動体通信網のコアネットワークに接続され、コアネットワーク上のサーバ装置などの各種ノードとの間で所定の通信インターフェースにより通信可能になっている。
【0020】
また、マクロセル基地局10及びスモールセル基地局20それぞれの基地局は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、コアネットワークに対する外部通信インターフェース部、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより、後述の干渉を抑制するための各種処理を実行したり、所定の通信方式及び無線通信リソースを用いてユーザ端末装置30、31との間の無線通信を行ったりすることができる。
【0021】
各基地局10、20は、移動局であるユーザ端末装置に対してOFDM(直交周波数分割多重)方式の下りリンクの無線通信可能な基地局である。基地局10、20は、例えば、アンテナ、無線信号経路切り換え部、送受共用器(DUP:Duplexer)、下り無線受信部とOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)復調部、上り無線受信部、SC−FDMA(Single-Carrier Frequency-Division Multiple Access)復調部など備える。更に、各基地局10、20は、OFDM変調部、下り無線送信部、制御部等を備える。
【0022】
SC−FDMA復調部は、上り無線受信部で受信した受信信号に対してSC−FDMA方式の復調処理を実行し、復調されたデータを制御部に渡す。OFDM変調部は、制御部から受けた自局のセルに在圏しているユーザ端末装置に向けて送信する下り信号のデータを、所定の電力で送信されるように、OFDM方式で変調する。また、基地局が例えばサーバ装置から送信停止対象のサブフレームの情報を受信した場合、OFDM変調部は、無線通信フレーム中の特定のサブフレームについてのみ下り送信を停止するように制御される。下り無線送信部は、OFDM変調部で変調した送信信号を、送受共用器、無線信号経路切り換え部及びアンテナを介して送信する。
【0023】
基地局10、20の制御部は、例えばコンピュータ装置で構成され、所定のプログラムが読み込まれて実行されることにより、各部を制御したり各種処理を実行したりする。また、制御部は、コアネットワークに対する外部通信インターフェース部と協働して、送信停止対象のサブフレームの情報であるABSパターン情報をサーバ装置から受信する手段としても機能する。また、制御部は、サーバ装置から受信した送信停止対象のサブフレームの情報(ABSパターン情報)に基づいて、特定の送信停止対象のサブフレームにおける下り送信を停止するように制御する手段としても機能する。
【0024】
スモールセル基地局20の制御部は、そのスモールセル基地局20の下りリンク無線通信フレーム中の複数のサブフレームのうち、マクロセル基地局10から送信される同期信号の送信タイミングに対応するサブフレームについて、スモールセル基地局20から送信される信号のうち少なくともPDSCH(物理データ共有チャネル)のデータ信号の送信を停止する手段としても機能する。
【0025】
また、スモールセル基地局20の制御部は、後述するように、セル間干渉制御技術(eICIC)を適用した場合の干渉抑制機能を高めるために、内部クロックを有し、マクロセル基地局10と自局との間の基地局間距離における電波の伝搬時間分だけマクロセル基地局10から遅れるように自局とマクロセル基地局10との間の時間同期を行う時間同期手段としても機能する。この時間同期は、後述のGNSSを用いた方法、時刻サーバと同期する方法、又はネットワークリスニング方法を用いて行うことができる。ここで、GNSSを用いた方法又は時刻サーバと同期する方法を用いて絶対時間同期を行う場合は、その絶対時間同期の結果に対して、スモールセル基地局20とマクロセル基地局10との間の距離における電波の伝搬時間分だけ遅らせる基地局間距離補正用のオフセット値を適用する。
【0026】
更に、スモールセル基地局20の制御部は、後述するように、セル間干渉制御技術(eICIC)を適用した場合の干渉抑制機能を高めるために、スモールセル20Aにおける下りリンク無線通信フレームについて前記時間同期に基づいて設定された送信タイミングを、スモールセル20Aの半径に応じて補正する補正手段としても機能する。なお、本実施形態では、前記送信タイミングをスモールセル20Aの半径に応じて早めるように補正する例を示している。また、スモールセル20Aの半径は、スモールセル基地局20の下りリンク信号の送信電力から推定してもよいし、また、マクロセル基地局10からの下りリンク信号のスモールセル20Aでの受信電力とスモールセル基地局20の下りリンク信号の送信電力とに基づいて推定してもよい。
【0027】
また、スモールセル基地局20の制御部は、前記補正後の送信タイミングにスモールセル20Aにおける下りリンク無線通信フレームを送信するように制御する制御手段としても機能する。
【0028】
次に、上記オーバレイセル構成の移動通信システムにおけるセル間干渉制御について説明する。
前述のように急増する移動通信のトラフィックへの対策としてマクロセル10A上にスモールセル20Aを重畳するオーバレイセル構成の適用が有効である。しかし、オーバレイセル構成でマクロセル10Aとスモールセル20Aが同一周波数帯域を使用する場合、マクロセル10Aとスモールセル20Aとの間の干渉が生じる。例えば、マクロセル10Aとスモールセル20Aとの境界部に近い位置に在圏しているユーザ端末装置30は、スモールセル20Aからの干渉を受けやすい。また、
図2に示すように、スモールセル20Aのマクロセル10Aとの境界部に近い位置に在圏しているユーザ端末装置31は、マクロセル10Aからの干渉を受けやすい状況にある。そこで、上記オーバレイセル構成の適用効果を最大化するためには干渉を制御することが必要となる。干渉制御方法としては、LTE−Advanced標準のeICIC(enhanced Inter-Cell Interference Coordination)技術が有効である。
【0029】
図3は、LTE下りリンクの無線通信フレームの時間軸方向のフォーマットの一例を示す説明図である。
図4は、LTE下りリンクの無線通信フレームの時間軸及び周波数軸方向のフォーマットの一例を示す説明図である。
図3に示すように、LTE下りリンクの信号の1単位である所定長(図示の例では10[ms])の無線通信フレーム100は、所定個数(図示の例では10個)の所定長(図示の例では1.0[ms])のサブフレーム110で構成される。LTE下りリンクのスケジューリングの最小時間単位であるTTI(Transmission Time Interval)は1サブフレームであるので、サブフレームごとに、スケジューリングされたユーザ端末装置へ無線リソースの最小単位であるリソースブロック(RB)が割り当てられる。各サブフレーム110は、後述のように制御チャネル領域110Aとデータチャネル領域110Bとを有する。
【0030】
また、
図4に示すように、各サブフレーム110では、周波数軸方向に最大で100個のリソースブロック(RB)が割り当てられる。先頭から第1番目(♯0)及び第6番目(♯5)のサブフレームの周波数軸方向における中央部の6RBには、後述のように、プライマリー同期信号(PSS)121及びセカンダリー同期信号(SSS)122が配置されている。
【0031】
図5は、無線通信フレームを構成するサブフレームの一部のフォーマットの一例を示す説明図である。
図5において、各サブフレーム110は、例えば周波数軸方向に8サブキャリア(15[kHz])、時間軸方向に14OFDMシンボルの計112個のRE(Resource Element)で構成される。なお、Extended Cyclic Prefixが用いられる場合は、1サブフレーム内に12OFDMシンボルが送信される。ここで、「シンボル」とは、無線通信で伝送される情報の一単位である。また、一つのシンボルは伝送対象の情報の1回の変調で生成され、1シンボルの情報量(ビット数)は変調方式によって決まる。1サブフレーム毎に各ユーザ端末装置がどの周波数/時間リソースマッピングされているのか、各ユーザ端末装置へのデータ信号がどのような変調フォーマット(変調方式、符号化率)を使用するか等のスケジューリングを行い、その結果がユーザ端末装置へ通知される。
【0032】
図5に示すように、各サブフレーム110は、下りリンクL1/L2制御チャネル信号のREがマッピングされる先頭部分の制御チャネル領域110Aと、データチャネル信号や上位制御チャネル信号のREがマッピングされるデータチャネル領域110Bとを有する。なお、制御チャネル領域110Aはサブフレームの先頭の1〜3のOFDMシンボル(
図5の例では2OFDMシンボル)を割り当てることができる。
【0033】
サブフレーム110の制御チャネル領域110Aには、L1/L2制御チャネルであるPDCCH(Physical Downlink Control Channel)が設定される。PDCCHは、上下リンクのスケジューリングの決定や上りリンクの電力制御コマンドなどの制御情報(DCI:Downlink Control Information)の伝送に用いられる。DCIには、PDSCHリソース指示、伝送フォーマット、HARQ情報、および空間多重に関する制御情報を含む下りリンクスケジューリング割当てが含まれる。また、DCIには、PUSCHリソース指示、伝送フォーマット、HARQ関連情報、上りリンクのスケジューリング情報である上りリンクグラントも含まれる。
【0034】
また、サブフレーム110のデータチャネル領域110Bには、物理共有チャネル(PDSCH:Physical Downlink Shared Channel)が設定される。PDSCHは、下りリンクデータを送信する物理チャネルであり、MIMO伝送方式としてMIMOダイバーシティに加え、LTEでは最大4レイヤのMIMO多重、LTE−Advancedでは最大8レイヤのMIMO多重に対応する。また、MIB以外の報知情報であるSIBや着信時の呼び出しであるページング情報、その他上位レイヤの制御メッセージ、例えばRRC(Radio Resource Control protocol)レイヤの制御情報もPDSCHで送信される。ユーザ端末装置は、PDCCHから取得した無線リソース割当位置、変調方式、データサイズ(TB:Transport Block size)等の情報に基づいてPDSCHを復号する。
【0035】
また、LTEにおいてサブフレーム110内の時間領域で14OFDMシンボルのうち、第1、5、8、12OFDMシンボル内にセル固有の参照信号(CRS)が分散して規則的に配置される。このセル参照信号CRSは、ユーザ端末装置におけるチャネル品質情報(CSI:Channel State Information)の測定用の基準信号及びデータ復調用の基準信号という2つの役割を担っている。セル参照信号CRSはセルIDによって、異なるスクランブリングとマッピングされるサブキャリア位置の周波数シフトが適用される。なお、
図4の例では、2本のアンテナを用いたMIMOの場合に用いられる、第1のアンテナ#0に対するセル参照信号CRSと、第2のアンテナ#1に対するセル参照信号CRSとを示している。
【0036】
図6は、セル間干渉制御技術(eICIC)で採用されているABSによるサブフレームにおける送信停止の様子の一例を示す説明図である。eICICでは、例えば
図6に示すように、マクロセル10Aの一部のサブフレーム(図示の例では♯1,#3,#6,#8のサブフレーム)でABSを設定することで、データチャネル領域の信号送信を停止し、スモールセル20Aに接続しているユーザ端末装置31におけるデータチャネルの干渉を低減することができる。また、例えば
図6に示すように、スモールセル20Aの一部のサブフレーム(図示の例では♯0,#2,#4,#5,#7,#9のサブフレーム)で同様にABSを設定することにより、マクロセル10Aに接続しているユーザ端末装置30におけるデータチャネルの干渉を低減することができる。
【0037】
しかしながら、従来のセル間干渉制御技術(eICIC)を適用した場合には以下に説明するような課題がある。
【0038】
eICICでは、一部のサブフレームの送信停止により時間軸上で干渉回避を行うことから、マクロセル10Aとスモールセル20Aとの間で時間同期(位相同期)を確立する。時間同期を実現する方法としては、GNSS(Global Navigation Satellite System)を用いた方法、IEEE(The Institute of Electrical and Electronic Engineers)1588v2規格を用いた方法、ネットワークリスニング方法などがある。GNSSを用いた方法は、各基地局10、20がGPS(Global Positioning System)衛星等の人工衛星から受信した信号に基づいて同期処理を行う方法である。IEEE1588v2規格を用いた方法は、同規格で定義されたPTP(Precision Time Protocol)、NTP又はSNTPなどの所定の時間同期プロトコルを用いて、各基地局10、20がバックホールネットワーク経由で高精度な時刻サーバと同期する方法である。また、ネットワークリスニング方法は、マクロセル基地局10からの下りリンク信号を受信することでスモールセル基地局20が時間同期を確立する方法である。ネットワークリスニング方法は、屋内や高いビルに囲まれたホットスポットなどにおいてGNSSの受信が困難な場合や、バックホールネットワークの時間ゆらぎ等によりIEEE1588v2規格を用いた方法では高い時間同期精度が得られない場合に特に有効な同期方法である。
【0039】
eICICでは、上記複数種類の同期方法からスモールセル基地局20の設置状況に応じて適切な同期方法を選択することで高精度に時間同期を確立することができるが、いずれの同期方法においても、時間同期がセル10A,20Aの中心に位置する基地局10,20で確立される。そのため、下記の
図7、8に示すように、マクロセル・スモールセルの基地局間距離やスモールセルの半径に応じて、マクロセルから受信するマクロセル信号とスモールセルから受信するスモールセル信号に受信タイミング差が生じ、その受信タイミング差により前後のサブフレームからの同一周波数帯域の干渉を受け、通信品質(例えばスループット)が低下するおそれがある。
【0040】
図7(a)及び(b)は、GNSS又はIEEE1588v2規格を用いた方法で時間同期を行うときに発生するマクロセル信号とスモールセル信号との間の受信タイミング差の一例を示す説明図である。
図7(a)において、ユーザ端末装置31nは、スモールセル20Aのマクロセル基地局10からの下りリンク無線信号が最も早く到来する側のセル境界であるマクロセル基地局10側のセル境界(以下「マクロセル基地局寄りのセル境界」という。)に位置するユーザ端末装置である。ユーザ端末装置31fは、スモールセル20Aのマクロセル基地局10からの下りリンク無線信号が最も遅く到来する側のセル境界である、マクロセル基地局10側とは反対側のセル境界(以下「反対側のセル境界」という。)に位置するユーザ端末装置である。
【0041】
図7(a)に示すように、GNSS又はIEEE1588v2規格を用いた方法で絶対時間同期処理を行った場合、マクロセル基地局10からの送信タイミングTt1とスモールセル基地局20からの送信タイミングTt2とが同期する。このため、ユーザ端末装置31におけるマクロセル信号とスモールセル信号との受信タイミング差が発生する。
【0042】
マクロセル基地局寄りのセル境界に位置するユーザ端末装置31fでは、マクロセル10Aとスモールセル20Aとの基地局間距離d
MS[m]やスモールセル20Aの半径r
S[m]に応じた伝搬遅延の影響により、次の式(1)に示す受信タイミング差τ
N[s]が発生する。
【0044】
なお、式(1)中の「c」は電波の伝搬速度(=3.0×10
8[m/s])である。また、受信タイミング差τ
Nは、スモールセル信号がマクロセル信号よりも早く受信される場合は負になり、スモールセル信号がマクロセル信号よりも遅く受信される場合は正になる。下記反対側のセル境界での受信タイミング差τ
Fについても同様である。
【0045】
マクロセル基地局寄りのセル境界では、上記式(1)に示すように基地局間距離d
MSが大きくなるにつれてマクロセル信号が遅れて受信され、スモールセル信号のサブフレームの先頭部分がマクロセル信号から干渉を受ける。スモールセル20Aの半径r
Sに比例してスモールセル信号は遅れて受信されるようになる。一般的にはd
MS>r
Sとなるため、総合的にはスモールセル信号が早く受信される。
【0046】
一方、反対側のセル境界では、スモールセル基地局20から反対側のセル境界までの電波の伝搬時間(遅延時間)はr
S/cでスモールセル及びマクロセルで同一となる。従って、反対側のセル境界に位置するユーザ端末装置31fでは、マクロセル10Aとスモールセル20Aの基地局間距離d
MS[m]のみに応じた伝搬遅延の影響により、マクロセル信号の受信タイミングTrf1とスモールセル信号の受信タイミングTrf2との間に、次の式(2)に示す受信タイミング差τ
F[s]が発生する。
【0048】
上記受信タイミング差τ
Fが発生してスモールセル信号が早く受信されると、ABSを設定したeICICを適用したとしても、
図7(b)に示すようにスモールセル信号のサブフレームの先頭部分がマクロセル信号から同一周波数帯域の干渉を受ける。このため、スモールセル20AにおけるPDCCH及びCRSが影響を受け、通信品質(例えばスループット)が低下する。
【0049】
図8(a)及び(b)は、ネットワークリスニング方法で時間同期を行うときのマクロセル信号とスモールセル信号との受信タイミング差の一例を示す説明図である。
図8(a)に示すように、ネットワークリスニング方法で時間同期処理を行う場合、スモールセル基地局20では、マクロセル基地局10からの下りリンク信号を受信したタイミングに、その送信タイミングTt2を同期させることが一般的である。この場合、マクロセル基地局寄りのセル境界に位置するユーザ端末装置31nでは、スモールセル20Aの半径r
S[m]のみに応じた伝搬遅延の影響により、マクロセル信号の受信タイミングTrn1とスモールセル信号の受信タイミングTrn2との間に、次の式(1’)に示す受信タイミング差τ
N[s]が発生する。
【数3】
【0050】
上記受信タイミング差τ
Nが発生してマクロセル信号が早く受信されると、ABSを設定したeICICを適用したとしても、
図8(b)に示すようにスモールセル信号のサブフレームの後部がマクロセル信号から同一周波数帯域の干渉を受ける。このため、スモールセル20AにおけるPDSCHが大きな影響を受け、通信品質(例えばスループット)が低下する。
【0051】
一方、反対側のセル境界に位置するユーザ端末装置31fでは、GNSS又はIEEE1588v2規格を用いた方法で絶対時間同期処理を行った場合とは異なり、マクロセル10Aとスモールセル20Aとの間の基地局間距離d
MSに応じた伝搬遅延の影響は回避できる。従って、次の式(2’)に示すように、マクロセル信号の受信タイミングTrf1とスモールセル信号の受信タイミングTrf2との間に受信タイミング差τ
F[s]は発生しない。
【0053】
本実施形態では、上記マクロセル信号とスモールセル信号との受信タイミング差τ
F、τ
Nに伴う通信品質(例えばスループット)の低下を改善するため、時間同期方法の種類に応じて、マクロセル・スモールセルの基地局間距離d
MS及びスモールセル20Aの半径r
Sを考慮してスモールセル基地局20の送信タイミングを補正する制御を行っている。
【0054】
〔送信タイミングの制御例1〕
図9は、本実施形態に係るスモールセル基地局20における送信タイミングの制御例を示す説明図である。
図9の制御例1では、次の手順(1)及び(2)に示すようにスモールセル基地局20において予め設定された送信タイミングを補正している。
【0055】
まず、手順(1)では、スモールセル基地局20とマクロセル基地局10との間の基地局間距離d
MSにおける電波の伝搬時間分だけマクロセル基地局10から遅れるようにスモールセル基地局20とマクロセル基地局10との間の時間同期を行う。この時間同期された状態では、反対側のセル境界においてスモールセル20Aからユーザ端末装置31fへの下りリンク無線通信フレームの受信タイミングTrf2’が、マクロセル10Aからユーザ端末装置31fへの下りリンク無線通信フレームの受信タイミングTrf1に一致する。これにより、マクロセル・スモールセルの基地局間距離d
MSの影響が回避される。
【0056】
上記所定の時間同期は、例えば前述のネットワークリスニング方法を用いることで実現される。また、前述のGNSS又はIEEE1588v2規格を用いた方法を用いる絶対時間同期を行う場合は、その絶対時間同期の結果に対して、マクロセル・スモールセルの基地局間距離d
MSにおける電波の伝搬時間分だけ遅らせる基地局間距離補正用のオフセットを与えることで、基地局間距離d
MSの影響を回避することができる。基地局間距離d
MSの情報は、例えば基地局の設置住所情報などに基づいて、スモールセル基地局20の制御部に対して事前に与えておくことができる。
【0057】
上記所定の時間同期を行った状態において、スモールセル20Aのマクロセル基地局寄りのセル境界及び反対側のセル境界に位置するユーザ端末装置31における受信タイミング差τ’
N[s]及びτ’
F[s]はそれぞれ、次の式(3)及び(4)で表される。
【0059】
上記手順(1)が終わった状態において、スモールセル20Aのマクロセル基地局寄りのセル境界では、上記式(3)に示すように、基地局間距離d
MSに対応する時間成分が相殺され、スモールセル20Aの半径r
Sのみ受信タイミング差τ’
Nに影響を与える。具体的には、スモールセル20Aの半径r
Sに比例してスモールセル信号が遅れて受信される。そのため、前述の
図8(b)に示したように、スモールセル信号のサブフレームの後部がマクロセル信号から干渉を受ける。一方、スモールセル20Aの反対側のセル境界では、上記式(4)に示すように、マクロセル信号とスモールセル信号との間の受信タイミング差は生じない。
【0060】
スモールセル信号のサブフレームの後部が干渉を受ける場合、データチャネル領域のPDSCHが直接干渉を受けることから、サブフレームの先頭部分が干渉を受ける場合と比較して通信品質(例えばスループット)の低下の影響がより顕著に現れる。
【0061】
次に、手順(2)において、スモールセル20Aの半径r
Sに応じて、スモールセル20Aにおける下りリンク無線通信フレームについて予め設定された送信タイミングTt2’を早めるように補正する。例えば、送信タイミングTt2’を時間軸上の前方に所定のシフト量τ(r
S)だけシフトさせる補正を行う。この補正後の送信タイミングを、スモールセル20Aにおける最終的な送信タイミングTt2として設定する。この送信タイミングTt2にスモールセル20Aにおける下りリンク無線通信フレームを送信するように制御される。
【0062】
ここで、本制御例における手順(1)及び(2)でスモールセル20Aにおける最終的な送信タイミングTt2を設定した場合、スモールセル20Aのマクロセル基地局寄りのセル境界及び反対側のセル境界に位置するユーザ端末装置31における受信タイミング差τ’’
N[s]及びτ’’
F[s]はそれぞれ、前方シフト量τ(r
S)を用いて次の式(5)及び(6)で表される。
【0064】
上記式(5)及び(6)に示すように、スモールセル20Aのマクロセル基地局寄りのセル境界では、サブフレームの後部への干渉の影響が前方シフト量τ(r
S)に応じて緩和される。例えば、本制御例では、前方シフト量τ(r
S)として、スモールセル20Aの直径2r
Sに対応する遅延時間(2r
S/c)を設定している。このため、スモールセル20Aの最も通信品質(例えばスループット)が低下し得るマクロセル基地局寄りのセル境界において、マクロセル信号及びスモールセル信号の受信タイミングを一致させることができる。
【0065】
〔送信タイミングの制御例2〕
図10は、本実施形態に係るスモールセル基地局20における送信タイミングの他の制御例を示す説明図である。なお、
図10の制御例2において、前述の
図9の制御例1と共通する部分については説明を省略する。
【0066】
図10の制御例2では、スモールセルの半径r
Sに応じて、スモールセル20Aのマクロセル基地局側のセル境界に位置するユーザ端末装置31nにおける通信品質(例えばスループット)と反対側のセル境界に位置するユーザ端末装置31fにおける通信品質(例えばスループット)のうち最も悪い通信品質(最小のスループット)が最も高くなるように、スモールセル20Aにおける下りリンク無線通信フレームの送信タイミングを補正している。具体的には、例えば、前述の前方シフト量τ(r
S)を、スモールセル20Aのマクロセル基地局寄りのセル境界及び反対側のセル境界それぞれのスループットのうち最小のスループットが最も高くなるように設定している。これにより、マクロセル基地局側のセル境界及び反対側のセル境界それぞれに位置するユーザ端末装置31のユーザ間の公正性を図るとともに、スモールセル20Aの最もスループットが低下し得るマクロセル基地局寄りのセル境界に位置するユーザ端末装置31におけるマクロセル信号及びスモールセル信号の受信タイミング差を抑制することができる。
【0067】
〔送信タイミングの制御例3〕
図11は、本実施形態に係るスモールセル基地局20における送信タイミングの更に他の制御例を示す説明図である。なお、
図11の制御例3において、前述の
図9の制御例1及び
図10の制御例2と共通する部分については説明を省略する。
【0068】
マクロセル基地局側のセル境界及び反対側のセル境界におけるマクロセル信号及びスモールセル信号の受信タイミング差は、内部クロックの出力変動等、前述のネットワークリスニング方法、または前述のGNSS若しくはIEEE1588v2規格を用いた方法に起因した基地局間の同期誤差(±Δt)の影響を受ける。
【0069】
また、前述のように絶対値が同一の受信タイミング差であっても、その受信タイミング差の正負により通信品質(例えばスループット)が異なる。
例えば、マクロセル信号よりもスモールセル信号が早く受信されると、スモールセルのサブフレームの先頭部分がマクロセルからの干渉を受けるが、PDSCH(データ信号)がマクロセルから直接受ける干渉が無いため、通信品質(例えばスループット)の低下は小さい。
一方、マクロセル信号よりもスモールセル信号が遅く受信されると、スモールセルのサブフレームの後部がマクロセルからの干渉を受ける。そのため、PDSCH(データ信号)がマクロセルから直接干渉を受け、通信品質(例えばスループット)特性が大きく劣化する。
従って、スモールセル信号の受信タイミングが早いほうが通信品質(例えばスループット)が高くなる。
【0070】
そこで、本制御例3では、
図11に示すように、基地局間の同期誤差(±Δt)の影響と、スモールセル信号の受信タイミングと通信品質との関係とを考慮して、スモールセル20Aにおける下りリンク無線通信フレームの送信タイミングを更に補正している。
【0071】
図11中のスモールセル20Aの送信タイミングTt2’は、前述の制御例1又は2で補正して設定された送信タイミングである。ここで、基地局間の時間同期の同期誤差(±Δt)があると、スモールセル20Aの送信タイミングTt2’はTt2’−ΔtとTt2’+Δtとの範囲で変動する。この範囲内で最も遅い送信タイミングTt2’+Δtになると、スモールセル20Aのマクロセル基地局寄りのセル境界において、スモールセル信号の受信タイミングがマクロセル信号よりも遅くなって通信品質が劣化してしまう。
【0072】
そこで、
図11の制御例3では、基地局間の時間同期の同期誤差(±Δt)に応じて同期誤差補正用のオフセット値τ(Δt)を設定し、その同期誤差補正用のオフセット値τ(Δt)だけスモールセル20Aにおける下りリンク無線通信フレームの送信タイミングを早めるように、前記制御例1、2で補正した送信タイミングTt2’を更に補正している。
【0073】
例えば、前記制御例1において、スモールセル基地局20とマクロセル基地局10それぞれの時間同期の同期誤差を想定し、マクロセル基地局10が最大で早まる時間とスモールセル基地局20が最大で遅れる時間の和を同期誤差補正用のオフセット値τと定義し、その同期誤差補正用のオフセット値τだけ、スモールセル20Aにおける送信タイミングを更に補正してもよい。
【0074】
また例えば、前記制御例2において、前述のマクロセル基地局側のセル境界及びその反対側のセル境界それぞれの通信品質(例えばスループット)を計算する際に、スモールセル基地局20とマクロセル基地局10それぞれに時間同期誤差が発生しているものと仮定して、前述の最も悪い通信品質(例えば最小のスループット)を計算してもよい。
【0075】
本制御例3によれば、スモールセル20Aのマクロセル基地局寄りのセル境界において、基地局間の同期誤差(±Δt)によって通信品質(例えばスループット)が低下するのを回避することができる。
【0076】
次に、3GPPのLTEに準拠した実験装置を用いた実験により、本実施形態に係るスモールセル基地局20における送信タイミングの補正の効果を評価した結果について説明する。
【0077】
表1は、評価に用いた実験装置の主要諸元である。
【表1】
【0078】
システム帯域幅は20[MHz]とし、4.76[μs]のサイクリックプレフィックス(CP:Cyclic Prefix)を用いた。1サブフレームは14OFDMシンボルから構成される。CFI(Control Format Indicator)を2に固定とし、先頭の2OFDMシンボル常にPDCCHに割り当てられるものとした。下りリンクのアンテナ構成を2×2MIMOとし、基礎評価として伝搬チャネルにはAWGN(Additive White Gaussian Noise)の直交チャネルを用いた。ランクは2に固定し、常に2ストリーム送信を行うものとした。OLLA(Outer-Loop Link Adaptation)に基づく適応変調を適用し、BLER(Block Error Rate)が10%になるように変調方式及び誤り訂正符号化率の組み合わせであるMCS(Modulation and Code Scheme)が制御される。前述の
図6に示す無線フレーム構成を適用し、10サブフレーム中、4サブフレームがスモールセル20Aのユーザ端末装置31に割り当てられるものとした。また、当該4サブフレームにおいては、マクロセル10AでのABSの適用及びユーザ端末装置での理想的なCRS干渉キャンセラの適用を仮定し、干渉が一切ないものとして評価を行った。また、本実験においては、当該サブフレームは先頭OFDMシンボルのCRSも含めて一切の信号を送信しない設定とした。
【0079】
図12は、eICIC適用時にマクロセル10A及びスモールセル20Aからの受信タイミング差がある場合のスループット特性の評価結果の一例を示すグラフである。マクロセル10Aからの受信電力を−70[dBm]とし、スモールセル20Aからの受信電力とマクロセル10Aからの受信電力の比をSIR(Signal-to-Interference Ratio)と定義し、−10[dB]から10[dB]まで5[dB]単位で評価を行った。このときのスモールセル20Aからの受信電力は−80[dBm]から−60[dBm]である。なお、基地局が全サブフレームで送信を行った場合に、1送信アンテナからの信号がユーザ端末装置の1受信アンテナで受信される電力を、受信電力と定義した。
【0080】
図12の評価結果において、横軸はマクロセル10Aとスモールセル20Aの受信タイミング差を表す。マクロセル信号に対するスモールセル信号の相対的な受信タイミング差と定義し、マクロセル信号に対してスモールセル信号が早く受信される場合は負、遅く受信される場合は正となる。縦軸はスモールセル20Aに接続するユーザ端末装置31のスループットの測定値を表す。
【0081】
まず、
図12において、受信タイミング差が負の場合、すなわち、スモールセル信号が早く受信される場合に着目する。この場合、前述の
図7(b)に示すように、スモールセル20Aに接続するユーザ端末装置31は割当サブフレームの先頭OFDMシンボルにマクロセル10Aからの干渉を受けることから、PDCCH及びCRSが影響を受ける。但し、PDCCHは受信品質が低下するものの、受信誤りが発生しないように無線リソース割当制御に基づく誤り訂正の符号化率制御が行われるため、スループットに与える影響は小さい。一方、CRSが干渉を受ける場合、受信タイミング差により被干渉が大きくなるにつれてチャネル推定精度が低下し、スループットの低下を招く。スループットの低下はSIRが負の場合に顕著であり、サイクリックプレフィックスを超えるあたりからスループットが徐々に低下し、SIRが−10[dB]の場合、受信タイミング差なしの場合と比較して、−4[μs]で約5%、−6[μs]で約20%スループットが低下する。従って、CRE(Cell Range Expansion)の適用により、SIRが負の領域でユーザ端末装置31が通信を行う場合、受信タイミング差の影響を十分に考慮に入れる必要がある。
【0082】
次に、
図12において、受信タイミング差が正の場合、すなわち、スモールセル信号が遅く受信される場合に着目する。この場合、前述の
図8(b)に示すように、スモールセル20Aに接続するユーザ端末装置31は割当サブフレームの後部にマクロセル10Aからの干渉を受ける。サブフレームの後部にはサイクリックプレフィックスがないこと、また、PDSCHが直接干渉を受けることから、スモールセル信号が早く受信される場合と比較して、受信タイミング差の絶対値が同じ場合、より顕著にスループットが低下する。SIRが−10[dB]の場合、受信タイミング差なしの場合と比較して、+4[μs]で約43%、+6[μs]で約55%スループットが低下する。スモールセル信号が早く受信される場合と異なり、SIRが高い場合にもスループットの低下が生じ、SIRが0[dB]以下では+2[μs]超で、+5[dB]では+3[μs]超で、+10[dB]では+8[μs]超でスループットが低下する。従って、CREの適用の有無に依らず、受信タイミング差の制御が必要であるといえる。
【0083】
以上、本実施形態によれば、互いに同一の周波数帯域が用いられるオーバレイセル構成のスモールセル20A及びマクロセル10Aの少なくとも一方のサブフレームの一部について少なくともデータ信号の送信を停止する干渉制御を適用する場合に、マクロセル基地局10及びスモールセル基地局20からユーザ端末装置31への受信タイミング差による時間軸上のセル間干渉に起因したスモールセル20Aにおける通信品質(例えばスループット)の低下を抑制することができる。
【0084】
なお、本実施形態では、スモールセル20A及びマクロセル10Aのオーバレイ構成の場合について説明したが、この構成に限定されることなく、本発明は、互いにサイズが異なる複数のセルのオーバレイ構成について適用することができる。
【0085】
また、本実施形態では、LTE/LTE−Advancedへの適用を前提に説明したが、LTE/LTE−Advancedと類似のOFDM(直交周波数分割多重)方式の下りリンクの無線通信、無線通信フレーム、OFDMシンボルなどを用いるシステムであれば、本発明の概念はどのようなシステムにも適用可能であり、さらに本実施形態に示した送信機および受信機の構成に限定されない。
【0086】
また、本明細書で説明された処理工程並びに移動通信システム、マクロセル基地局10、スモールセル基地局20及びユーザ端末装置(移動局)30の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0087】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種無線通信装置、Node B、端末、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0088】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASHメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0089】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【課題】互いに同一の周波数帯域が用いられるオーバレイセル構成の自局のセル及びその自局のセルが配置された他の基地局のセルの少なくとも一方のサブフレームの一部について少なくともデータ信号の送信を停止する干渉制御を適用する場合に、自局及び他の基地局から移動局への受信タイミング差による時間軸上のセル間干渉に起因した自局のセルにおける通信品質の低下を抑制する。
【解決手段】自局と他の基地局との間の距離における電波の伝搬時間分だけ他の基地局から遅れるように自局と他の基地局との間の時間同期を行う。また、自局のセルにおける下りリンク無線通信フレームについて前記時間同期に基づき設定された送信タイミングを早めるように補正する。