(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二の循環路のボールの直径と前記第一の循環路のボールの直径との差を、前記第三の循環路のボールの直径と前記第二の循環路のボールの直径との差よりも大きくすることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
前記ナットの断面積が前記ねじ軸の断面積よりも大きい場合、前記第一の循環路のボールの直径と前記第二の循環路のボールの直径との差を、前記第二の循環路のボールの直径と前記第三の循環路のボールの直径との差よりも小さくし、
前記ナットの断面積が前記ねじ軸の断面積よりも小さい場合、前記第二の循環路のボールの直径と前記第一の循環路のボールの直径との差を、前記第三の循環路のボールの直径と前記第二の循環路のボールの直径との差よりも大きくすることを特徴とする請求項5に記載のボールねじ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第一の実施形態>
以下、添付図面を参照して、本発明の第一の実施形態のボールねじを詳細に説明する。
図1は本実施形態のボールねじの外観斜視図を示す。
図1に示すように、ボールねじは、ねじ軸1と、ねじ軸1を囲み、ねじ軸1と軸線が共通するナット2と、を備える。
【0013】
ねじ軸1の外周面には、一定のリードを持つ螺旋のボール転走溝1aが形成される。ボール転走溝1aの断面形状は、二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝である。ゴシックアーチ溝の円弧の半径は、ボール3(
図2参照)の半径よりも大きい。ボール3は、ねじ軸1のボール転走溝1aに二点で接触する。ボール転走溝1aの条数は、一条、二条、三条等適宜設定することができるが、この実施形態では、一条のボール転走溝を示す。
【0014】
図2は、ナットを軸線に沿って断面にしたボールねじの斜視図を示す。ナット2は、円筒の本体部2−1と、本体部2−1の軸方向の一端部に設けられる取付け部としてのフランジ2−2と、を備える。フランジ2−2には、ナット2を相手部品に取り付けるための取付け穴(図示せず)が空けられる。ナット2の内周面には、ねじ軸1のボール転走溝1aに対向する螺旋の負荷ボール転走溝2aが形成される。負荷ボール転走溝2aのリード及び条数は、ボール転走溝1aのリード及び条数と等しい。負荷ボール転走溝2aの断面形状も、二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝である。ボール3は、ナット2の負荷ボール転走溝2aに二点で接触する。
【0015】
図1に示すように、ナット2には、ボール3を循環させるためのリターンパイプ4a,4b,4cが装着される。リターンパイプ4a,4b,4cはU字形である。リターンパイプ4a,4b,4cの両端の脚部は、ナット2を貫通し、ナット2の負荷ボール転走溝2aまで至る。リターンパイプ4a,4b,4cには、ナット2の負荷ボール転走溝2aの一端と他端を接続する戻し路が形成される。ナット2の負荷ボール転走溝2aの一端まで転がったボール3は、リターンパイプ4a,4b,4cの戻し路内に入り、リターンパイプ4a,4b,4cの戻し路を通過した後、ナット2の負荷ボール転走溝2aの他端に戻る。ナット2の負荷ボール転走溝2a及びリターンパイプ4a,4b,4cの戻し路によって循環路5a,5b,5cが構成される。
【0016】
この実施形態では、ナット2には、軸方向に三つのリターンパイプ4a,4b,4cが配置される。三つのリターンパイプ4a,4b,4cによって、軸方向に三つの循環路5a,5b,5cが構成される。以下では、三つの循環路5a,5b,5cをナット2のフランジ2−2に近い側からナット2のフランジ2−2から遠い側に向かって第一の循環路5a、第二の循環路5b、第三の循環路5cとする。第一ないし第三の循環路5a,5b,5cは、ナット2の軸方向に互いに離れている。
【0017】
図2に示すナット2の負荷ボール転走溝2aの巻き数は2.5巻きである。リターンパイプ4a,4b,4cの戻し路は、2.5巻きの負荷ボール転走溝2aの一端と他端を接続する。もちろん、ナット2の負荷ボール転走溝2aの巻き数は、2.5巻きに限られることはなく、許容荷重に合わせて1巻き、1.5巻き、2巻き、2.5巻き、3巻き、3.5巻き等の任意の巻き数に設定することができる。
【0018】
ナット2に対してねじ軸1を回転させると、ナット2が軸方向に直線運動する。
図3に示すように、ナット2が直線運動するとき、ナット2のフランジ2−2には軸方向荷重Faが作用する。ナット2のフランジ2−2に軸方向荷重Faが作用すると、ボール3には圧縮荷重が働く。そして、ナット2及びねじ軸1には、ボール3からの反力が働く。
【0019】
以下に
図3及び
図4を参照しつつ、ナット2に軸方向Faの荷重が作用したときのナット2及びねじ軸1の変形を説明する。
図3及び
図4には、リターンパイプ4a,4b,4cを取り外した状態が示されているが、実際には、リターンパイプ4a,4b,4cが存在し、ボール3は循環路5a,5b,5c毎に区画されている。
【0020】
上記のように、ナット2のフランジ2−2に軸方向荷重Faが作用するとき、ボール3には圧縮荷重が働き、ナット2及びねじ軸1にはボール3からの反力が働く。ボール3からの反力は、接触角線L1の方向に働く。ここで、接触角線L1は、ボール3と負荷ボール転走溝2aの接点と、ボール3とボール転走溝1aとの接点と、を結んだ線である。
【0021】
ナット2及びねじ軸1が剛体であり、ボール3のみが弾性変形すると仮定すると、ボール3の圧縮変形によって、ナット2は軸方向(図中右方向)に変位する。ナット2の負荷ボール転走溝2aも、フランジ2−2から遠いとか近いとかに係わらず、一様に軸方向(図中右方向)に変位する。
【0022】
しかし、ナット2及びねじ軸1は、剛体ではなく、弾性変形可能な物体である。ナット2及びねじ軸1は、ボール3からの反力P
N1〜P
N5,P
S1〜P
S5によって以下のように弾性変形する。
【0023】
まず、ねじ軸1の弾性変形を説明する。ねじ軸1のボール転走溝1aには、ボール3からの反力P
S1〜P
S5が働く。具体的には、ボール転走溝1a5にはP
S5の反力が働き、ボール転走溝1a4にはP
S4の反力が働き、ボール転走溝1a3にはP
S3の反力が働き、ボール転走溝1a2にはP
S2の反力が働き、ボール転走溝1a1にはP
S1の反力が働く。ねじ軸1が右端(
図4の▲の位置)で固定されるとすると、ねじ軸1のボール転走溝1a1〜1a5の軸方向(右方向)への弾性変形量は、ナット2のフランジ2−2から遠ざかるほど大きくなる。すなわち、フランジ2−2に最も遠い左側のボール転走溝1a1が最も軸方向(右方向)へ変位する。
図5の一点鎖線は、ねじ軸1のボール転走溝1aの軸方向変位を示す。
図5のグラフの下側の線に示すように、ナット2のフランジ2−2の端面8(
図3、
図4参照)から遠ざかるほど、ねじ軸1のボール転走溝1aの軸方向(右方向)変位も大きくなる。なお、
図5のグラフの線が三つに途切れているのは、三つの循環路5a,5b,5cが存在するからである。
【0024】
図3、
図4の▲の位置がねじ軸1の固定側の端部9である。例えば、ねじ軸1の軸方向の一端部が固定端であり、他端部が自由端の場合、固定端がねじ軸1の固定側の端部9である。また、ねじ軸1の軸方向の両端部が軸受に回転可能に支持される場合、より大きな軸方向荷重を受けるように構成される軸受に支持される一端部が固定側の端部9である。
【0025】
次に、ナット2の弾性変形を説明する。ナット2のフランジ2−2側の一端部6は、ナット2のフランジ2−2とは反対側の他端部7よりも、ねじ軸1の固定側の端部9に近い。ナット2には、フランジ2−2に軸方向荷重Faが作用し、負荷ボール転走溝2aにボール3からの反力P
N1〜P
N5が働く。軸方向荷重Faの向きと反力P
N1〜P
N5の向きは、互いに反対方向である。具体的には、ナット2の負荷ボール転走溝2a5にはボール3からP
N5の反力が働き、負荷ボール転走溝2a4にはP
N4の反力が働き、負荷ボール転走溝2a3にはP
N3の反力が働き、負荷ボール転走溝2a2にはP
N2の反力が働き、負荷ボール転走溝2a1にはP
N1の反力が働く。負荷ボール転走溝2a1〜2a5は、フランジ2−2に作用する軸方向荷重Faによって軸方向(右方向)へ変位するものの、ボール3からの反力によってフランジ2−2から遠ざかれば遠ざかるほど左方向へ変位する。この結果、フランジ2−2に近い最も右側の負荷ボール転走溝2a5が最も軸方向(右方向)へ変位し、フランジ2−2から遠ざかれば遠ざかるほど軸方向(右方向)への変位量が少なくなる。
図5の二点鎖線は、ナット2のボール転走溝2aの軸方向変位を示す。
図5のグラフの上側の線に示すように、ナット2のフランジ2−2の端面8(
図3、
図4参照)に近い負荷ボール転走溝2aの軸方向(右方向)への変位は大きい。ナット2のフランジ2−2の端面8から遠ざかるほど負荷ボール転走溝2aの軸方向(右方向)への変位が小さくなる。
【0026】
ナット2の負荷ボール転走溝2a1〜2a5の軸方向(右方向)の変位からねじ軸1のボール転走溝1a1〜1a5の軸方向(右方向)の変位を引くと、軸方向の隙間の変化量が求められる。
図5の実線は、ナットの負荷ボール転走溝2a1〜2a5の軸方向の変位からねじ軸1のボール転走溝1a1〜1a5の変位を引いたものである。
図6は、
図5のグラフからこの変位差のみを抽出したものである。この
図6のグラフの縦軸には、隙間の変化量が「軸方向溝変位差(ナット−ねじ軸)」と表されている。この
図6のグラフに示すように、ナット2のフランジ2−2に近ければ近いほど、軸方向溝変位差は二次曲線的に大きくなる。ここで、軸方向溝変位差が大きくなることは、隙間が小さくなることを意味する。したがって、負荷ボール転走溝2aとボール転走溝1aとの間の軸方向の隙間は、ナット2のフランジ2−2に近いほど小さくなる。
図6のグラフの線が三つに途切れているのは、三つの循環路5a,5b,5cが存在するからである。
【0027】
図7は、ボール3の負荷分布を示す。
図7のグラフの横軸はフランジ端面からの距離であり、
図7のグラフの縦軸はボール荷重である。上記の
図6に示すように、フランジ2−2に近ければ近いほど、負荷ボール転走溝2aとボール転走溝1aとの間の軸方向の隙間が小さくなる。このため、
図7に示すように、フランジ2−2に近ければ近いほど、ボール3の荷重は二次曲線的に大きくなる。
図7のグラフの線が波打っているのは、ねじ軸1の周方向の位置によってボール3の荷重が異なっているからである。
図7のグラフは、各循環路が3.5巻きの負荷ボール転走溝2aから構成される例を示す。各循環路が
図2に示すように2.5巻きの負荷ボール転走溝2aから構成される場合も同様の傾向を示す。
【0028】
図7に示すようなボール3の負荷分布の偏りは、ボール3の寿命を低下させる原因になる。ボール3の負荷分布の偏りを低減するために、ナット2のフランジ2−2に近い循環路5a(
図2参照)のボール径をナット2のフランジ2−2から遠い循環路5b,5cのボール径よりも小さくする。この実施形態では、
図2に示すように、第一ないし第三の循環路5a〜5cが配置されるので、第一の循環路5aのボール3aの直径を第二の循環路5bのボール3bの直径よりも小さくし、第二の循環路5bのボール3bの直径を第三の循環路5cのボール3cの直径よりも小さくする。言い換えれば、第一の循環路5aのボール3aの直径を小にし、第二の循環路5bのボール3bの直径を中にし、第三の循環路5cのボール3cの直径を大にする。もちろん、各循環路5a〜5cの複数のボール3a〜3cの直径は等しくする。言い換えれば、それぞれの循環路5a〜5cにおいて、ボール3a〜3cの大きさは同一に統一されている。実際には、同一のロットの鋼球(ball lot:等しいと考えられる条件の下で製造し、同一品として取り扱う一定数量の鋼球)を使用する。
【0029】
ここで、第一ないし第三の循環路5a〜5cそれぞれには、複数のボール3a〜3cが収容される。第一の循環路5aのボール3aの直径とは、第一の循環路5aに収容される複数のボール3aの直径の平均値である。同様に、第二の循環路5bのボール3bの直径は、第二の循環路5bに収容される複数のボール3bの直径の平均値であり、第三の循環路5cのボール3cの直径は、第三の循環路5cに収容される複数のボール3cの直径の平均値である。また、各ボール3a,3b,又は3cの直径の測定方法には、「JIS B1501 転がり軸受−鋼球」で定められている平均直径(mean ball diameter)D
Wmを用いることができる。平均直径とは、1個の鋼玉の実測直径の最大値と最小値の算術平均値である。
【0030】
第一ないし第三の循環路5a〜5cのボール径の差の算出方法は、以下のとおりである。まず、
図6から第一の循環路5aと第二の循環路5bとの平均溝変位差δ
21を求め、第二の循環路5bと第三の循環路5cとの平均溝変位差δ
32を求める。この例では、δ
21=15.4μmであり、δ
32=5.8μmと求められる。差の算出にあたり、各循環路5a〜5cの軸方向の中央の変位差を平均溝変位δ
1〜δ
3とする。
【0031】
次に、δ
21及びδ
32は軸方向の変位差であるから、δ
21及びδ
32を接触角方向の変位差ΔDに変換する。リード角γ(
図4参照)、接触角α(
図4参照)を利用すると、ΔDは以下の数式1から求めることができる。
【0032】
(数1)
ΔD=δ×Cosγ×Sinα
【0033】
δ
21=15.4μm、γ=4.4°、α=55°とすると、ΔD
21=δ
21×Cosγ×Sinα=12.5μmとなり、ΔD
32=δ
32×Cosγ×Sinα=4.7μmとなる。ΔD
21を第一の循環路5aと第二の循環路5bとのボール径の差とし、ΔD
32を第二の循環路5bと第三の循環路5cとのボール径の差とすれば、隙間の変化に合わせてボール径を変化させていることになる。
【0034】
最終的には、第二の循環路5bのボール径を変えずに、第一の循環路5aのボール径を第二の循環路5bのボール径よりも12.5μm小さくする。そして、第三の循環路5cのボール径を第二の循環路5bのボール径よりも4.7μm大きくする。このように、第二の循環路5bのボール径と第一の循環路5aのボール径との差を、第三の循環路5cのボール径と第二の循環路5bのボール径との差よりも大きくすることで、
図7に示すような、フランジ2−2に近づくほど二次曲線的に大きくなるボール3の負荷分布の偏りを低減することができる。
【0035】
図8は、ボール径の変更前と変更後とでボールの負荷分布を比較したものである。図中●が変更前で、図中○が変更後である。ボール径を変更することで、負荷分布の偏りが改善され、ボール荷重が平準化することがわかる。ボール径の変化の前後でボールねじの寿命を計算したところ、寿命が約1.5倍に延びた。本実施形態によれば、ナット2の負荷ボール転走溝2aに特殊な加工をすることなく、ボール3の負荷分布の偏りを低減できるので、ボールねじの製造も容易になる。
【0036】
なお、ナット2のフランジ2−2に
図3の軸方向荷重Faとは反対方向を向く荷重(
図3の左方向を向く荷重)が働いても、上記のようにボール径を変更することで、負荷分布の偏りを改善できる。なぜならば、ねじ軸1の弾性変形、ナット2の弾性変形の欄で説明したように、ねじ軸1は、ねじ軸1の固定側の端部9に近ければ近いほど剛性が高く、変形しにくい。ナット2は、フランジ2−2に近ければ近いほど剛性が高く、変形しにくい。このため、フランジ2−2に近ければ近いほど、ナット2及びねじ軸1が変形しにくく、ボール3に大きな荷重が働く。他方、フランジ2−2から遠ければ遠いほど、ナット2及びねじ軸1が変形しやすく、ボール3に働く荷重が小さくなる。
【0037】
また、上記第一の実施形態では、ナットに軸方向に三つの循環路を配置し、第一の循環路のボールの直径を小にし、第二の循環路のボールの直径を中にし、第三の循環路のボールの直径を大にしているが、
図7に示すように、第二の循環路のボールの荷重と第三の循環路のボールの荷重とは差が小さいので、第二の循環路のボールの直径を第三の循環路のボールの直径と等しくすることもできる。
【0038】
<第二の実施形態>
図9は、本発明の第二の実施形態のボールねじの斜視図を示す。上記第一の実施形態では、ナットに軸方向に三つの循環路を配置した例を説明したが、
図9に示すように、ナット2に軸方向に二つの循環路5a,5bを配置することもできる。この場合、ナット2のフランジ2−2に近い循環路5aのボール3aの直径をナットのフランジ2−2から遠い循環路5bのボール3bの直径よりも小さくすればよい。
【0039】
<第三の実施形態>
図10は、本発明の第三の実施形態のボールねじの平面図を示す。第三の実施形態では、ナット2に軸方向に四つの循環路5a〜5dを配置する。
図10の▲の位置がねじ軸1の固定側の端部9である。四つの循環路5a〜5dは、ナット2のフランジ2−2に近い側から遠い側に向かって第一の循環路5a、第二の循環路5b、第三の循環路5c、第四の循環路5dである。そして、第一の循環路5aのボール径がF1、第二の循環路5bのボール径がF2、第三の循環路5cのボール径がF3、第四の循環路5dのボール径がF4である。
【0040】
第三の実施形態のボールねじでは、F1<F2<F3<F4の関係がある。このようにボール径F1〜F4を選定すれば、第一の実施形態のボールねじと同様に、負荷分布の偏りを改善できる。また、(F2−F1)>(F3−F2)>(F4−F3)の関係がある。このようにボール径F1〜F4を選定すれば、フランジ2−2に近づくほど二次曲線的に大きくなるボール3の負荷分布の偏りを低減することができる。なお、基準となるボール径をF4にし、F3、F2、F1と順番にボール径を小さくするのが望ましい。
【0041】
<第四の実施形態>
図11に示すように、ナット2のフランジ2−2側の一端部6が、ナット2のフランジ2−2とは反対側の他端部7よりも、ねじ軸1の固定側の端部9から遠い場合もある。
図12は、
図11に示すボールねじにおいて、フランジ2−2に荷重Faが作用するとき、ねじ軸1のボール転走溝1a及びナット2の負荷ボール転走溝2aの変形を示すグラフである。
図12に示すように、ねじ軸1のボール転走溝1a及びナット2の負荷ボール転走溝2a共に、ナット2のフランジ2−2の端面8(
図11参照)から遠ざかれば遠ざかるほど、軸方向(右方向)変位が小さくなる。
図12の実線に示すように、ナット2の負荷ボール転走溝2aとねじ軸1のボール転走溝1aとの変位差は、一旦小さくなった後、増加する。しかし、
図12に示す変位差は、
図5の実線に示す変位差ほど大きくはならない。すなわち、
図11に示す荷重Faが作用するときには、
図3に示す荷重Faが作用するときに比べて、ボール3の負荷分布の偏りはそれほど大きくないものの、やはり偏りが発生する。本発明の第四の実施形態のボールねじは、この負荷分布の偏りを改善することを目的とする。
【0042】
図13は、本発明の第四の実施形態のボールねじの平面図を示す。
図13の▲の位置がねじ軸1の固定側の端部9である。この実施形態では、ナット2のフランジ2−2側の一端部6が、ナット2のフランジ2−2とは反対側の他端部7よりも、ねじ軸1の固定側の端部9から遠い。ナット2には、軸方向に三つの循環路5a〜5cが配置される。三つの循環路5a〜5cは、ナット2のフランジ2−2に近い側から遠い側に向かって、第一の循環路5a、第二の循環路5b、第三の循環路5cである。第一の循環路5aのボール径がF1、第二の循環路5bのボール径がF2、第三の循環路5cのボール径がF3である。
【0043】
図12に示した変位差(ナット−軸)の右肩上がり傾向は、
図12の変位特性でねじ軸変位の幅がナット変位の幅よりも大きいことに原因がある。これはナット2とねじ軸1の軸方向の剛性差によるものであり、同じ材質であれば、ナット2の断面積がねじ軸1の断面積よりも大きいことに原因がある。以下では、ナット2の断面積がねじ軸1の断面積よりも大きい場合(ナット断面積>ねじ軸断面積)と、ナット2の断面積がねじ軸1の断面積よりも小さい場合(ナット断面積<ねじ軸断面積)とに分けて説明する。
【0044】
なお、ナット2の断面積は、軸方向に直交する平面内のナット2の断面積である。ナット2の外径及び内径から算出した面積から負荷ボール転走溝2a1〜2a5(
図4参照)の分を控除することで、ナット2の断面積を算出することができる。ここで、フランジ2−2の断面積、リターンパイプ4a〜4cの控除分は、考慮しない。また、ねじ軸1の断面積は、軸方向に直交する平面内のねじ軸1の断面積である。ねじ軸1の外径から算出した面積からボール転走溝1a1〜1a5(
図4参照)の分を控除することで、ねじ軸1の断面積を算出することができる。
【0045】
図14(a)は、ナット断面積>ねじ軸断面積の場合のボール荷重を示すグラフである。ナット断面積>ねじ軸断面積の場合、ねじ軸1の軸方向剛性がナット2の軸方向の剛性よりも低く、
図12と同様に、ねじ軸変位の幅がナット変位の幅よりも大きい。このため、
図12に示す傾向と同様に、変位差(ナット−軸)が右肩上がり傾向にあり、
図14(a)に示すように、ボール荷重も右肩上がり傾向にある。このため、ナット断面積>ねじ軸断面積の場合、F1>F2>F3とし、負荷分布の偏りを改善する。ただし、
図14(a)に示すように、第一の循環路5aのボール荷重と第二の循環路5bのボール荷重は略等しい。このため、F1=F2>F3とすることもできる。
【0046】
図14(b)は、ナット断面積<ねじ軸断面積の場合のボール荷重を示す。この場合、ねじ軸1の軸方向剛性がナット2の軸方向の剛性よりも高く、ねじ軸変位の幅がナット変位の幅よりも小さい。このため、
図12に示す傾向とは反対に、変位差(ナット−軸)が右肩下がり傾向にあり、
図14(b)に示すように、ボール荷重も右肩下がり傾向にある。このため、ナット断面積<ねじ軸断面積の場合、F1<F2<F3とし、負荷分布の偏りを改善する。ただし、
図14(b)に示すように、第二の循環路5bのボール荷重と第三の循環路5cのボール荷重は略等しい。このため、F1<F2=F3とすることもできる。
【0047】
図15(a)(b)は、ボール径の変更前と変更後とでボールの負荷分布を比較したものである。
図15(a)がナット断面積>ねじ軸断面積の場合であり、
図15(b)がナット断面積<ねじ軸断面積の場合である。図中●が変更前で、図中□が変更後である。ボール径を変更することで、負荷分布の偏りが改善され、ボール荷重が平準化することがわかる。
【0048】
本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲でさまざまな実施形態に具現化可能である。
【0049】
上記実施形態では、ナットに負荷ボール転走溝の一端と他端を接続する戻し路をリターンパイプから構成した例を説明したが、戻し路をナットの軸線と平行な貫通孔及び貫通孔の両端に装着されるエンドピースから構成することもできる。
【0050】
上記実施形態では、ねじ軸のボール転走溝及びナットの負荷ボール転走溝の断面形状を二つの円弧からなるゴシックアーチ溝にしているが、単一の円弧からなるサーキュラアーク溝にすることもできる。
【0051】
上記第一の実施形態における第一ないし第三の循環路のボール径の差の算出方法は一例であり、他の算出方法も採用し得る。
【0052】
上記実施形態において、ナットに対するねじ軸の回転は相対的なものであり、ねじ軸が回転してもよいし、ナットが回転してもよい。
【0053】
上記実施形態では、単一のナットの例を説明したが、二以上の小ナットを連結して、一つのナットとすることもできる。この場合、二以上の小ナットを1つのナットとみなして、少なくとも二つの循環路のボール径を選定すればよい。
【0054】
上記実施形態では、循環路を二〜四個設ける例を説明したが、循環路を五個以上設けることもできる。