(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952051
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】硬質塗層を有する被覆部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20160630BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20160630BHJP
C23C 14/48 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
C23C14/14 D
C23C14/06 N
C23C14/48 D
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-73365(P2012-73365)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2012-211390(P2012-211390A)
(43)【公開日】2012年11月1日
【審査請求日】2015年3月9日
(31)【優先権主張番号】201110077935.6
(32)【優先日】2011年3月30日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505177003
【氏名又は名称】深▲セン▼富泰宏精密工業有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】508155310
【氏名又は名称】富士康(香港)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】姜 伝華
(72)【発明者】
【氏名】陳 甲林
(72)【発明者】
【氏名】黄 義均
(72)【発明者】
【氏名】潘 海波
(72)【発明者】
【氏名】李 旭
【審査官】
國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−005627(JP,A)
【文献】
特開2004−042192(JP,A)
【文献】
特開平11−152583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質基材に形成された硬質塗層を有する被覆部材であって、
前記被覆部材は、前記硬質基材に形成された結合層と、前記結合層に形成された中間層と、前記中間層に形成された硬質層と、を備えており、
前記結合層は、チタン金属層であり、前記中間層は、チタン・クロム合金層であり、前記硬質層は、チタン・クロム窒素層であり、前記被覆部材の表面のマイクロビッカース硬さは600HV0.025〜700HV0.025であることを特徴とする硬質塗層を有する被覆部材。
【請求項2】
前記中間層のチタン原子の含有量は30原子%〜40原子%であり、クロム原子の含有量は60原子%〜70原子%であることを特徴とする請求項1に記載の硬質塗層を有する被覆部材。
【請求項3】
前記硬質層のチタン原子の含有量が25.6原子%〜37.0原子%であり、クロム原子の含有量が51.7原子%〜67.6原子%であり、窒素の含有量が5.4原子%〜13.8原子%であることを特徴とする請求項1に記載の硬質塗層を有する被覆部材。
【請求項4】
前記結合層及び前記中間層の厚さは、それぞれ0.1μm〜0.4μmであり、前記硬質層の厚さは、1.3μm〜1.7μmであることを特徴とする請求項1に記載の硬質塗層を有する被覆部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の硬質塗層を有する被覆部材の製造方法であって、
硬質基材を提供するステップと、
イオンビームによって補助されたスパッタリング装置を利用して、前記硬質基材にチタン金属層を被覆するステップと、
イオンビームによって補助されたスパッタリング装置を利用して、前記チタン金属層にチタン・クロム合金層を被覆するステップと、
イオンビームによって補助されたスパッタリング装置を利用して、前記チタン・クロム合金層にチタン・クロム窒素層を被覆するステップと、
を備えていることを特徴とする硬質塗層を有する被覆部材の製造方法。
【請求項6】
前記チタン金属層は、チタンターゲットを使用し、スパッタリングの気体はアルゴン気体であり、アルゴン気体の分圧は0.3Pa〜0.5Paであり、イオン源から発射されたイオンビームは硬質基材の表面に衝突するものであり、前記イオン源の電源のパワーは1kw〜1.5kwであり、チタンターゲットの電源のパワーは3.8kw〜4.2kwであり、被覆時間は5分〜10分である、という条件で形成されることを特徴とする請求項5に記載の硬質塗層を有する被覆部材の製造方法。
【請求項7】
前記チタン・クロム合金層は、チタンターゲット及びクロムターゲットを使用し、スパッタリングの気体はアルゴン気体であり、アルゴン気体の分圧は0.3Pa〜0.5Paであり、イオン源から発射されたイオンビームは硬質基材の表面に衝突するものであり、前記イオン源の電源のパワーは1kw〜1.5kwであり、チタンターゲットの電源のパワーは3.8kw〜4.2kwであり、被覆時間は5分〜10分である、という条件で形成されることを特徴とする請求項5に記載の硬質塗層を有する被覆部材の製造方法。
【請求項8】
前記チタン・クロム窒素層は、チタンターゲット及びクロムターゲットを使用し、スパッタリングの気体はアルゴン気体であり、アルゴン気体の分圧は0.3〜0.5Paであり、窒素を反応気体として、前記アルゴン気体と前記窒素との分圧比は1.5〜2.0であり、イオン源から発射されたイオンビームは硬質基材の表面に衝突するものであり、前記イオン源の電源のパワーは1kw〜1.5kwであり、チタンターゲットの電源のパワーは3.8kw〜4.2kwであり、被覆時間は30分〜50分である、という条件で形成されることを特徴とする請求項5に記載の硬質塗層を有する被覆部材の製造方法。
【請求項9】
前記チタン金属層、前記チタン・クロム合金層及び前記チタン・クロム窒素層を形成する過程で、真空度が6.0×10−3Pa〜9.0×10−3Paに保持され、且つ温度が150℃〜250℃に保持されることを特徴とする請求項5に記載の硬質塗層を有する被覆部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質塗層を有する被覆部材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、電子部材の質に対する要求は高く、従って、電子部材の表面も高い硬度及び優れた耐摩耗性を有することが要求されている。そこで、往来は物理気相蒸着法の一種であるスパッタリングによって、該電子部材等の表面に硬質耐摩耗塗層を被覆するという方法が一般的である。しかし、該スパッタリングによって得られた塗層の密度は高くないため、硬度及び耐摩耗性の向上には限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、前記課題を解決し、高い硬度及び優れた耐摩耗性を有する被覆部材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る硬質塗層を有する被覆部材は、硬質基材を備えている。前記被覆部材は、前記硬質基材に形成された結合層と、前記結合層に形成された中間層と、前記中間層に形成された硬質層と、を備えている。
【0005】
本発明に係る硬質塗層を有する被覆部材の製造方法は、硬質基材を提供するステップと、イオンビームによって補助されたスパッタリング装置を利用して、前記硬質基材にチタン金属層を被覆するステップと、イオンビームによって補助されたスパッタリング装置を利用して、前記チタン金属層にチタン・クロム合金層を被覆するステップと、イオンビームによって補助されたスパッタリング装置を利用して、前記チタン・クロム合金層にチタン・クロム窒素層を被覆するステップと、を備えている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の硬質塗層を有する被覆部材及びその製造方法は、イオンビームによって補助されたスパッタリング装置によって前記結合層、中間層及び硬質層を硬質基材に被覆する過程において、イオンビームが前記硬質基材の表面に衝突することによって、膜層の密度が高くなり、耐摩耗性を高めることができる。そのため、イオンビームによって補助されたスパッタリング装置を使用しない方法に比べて、本発明で得られた膜層の厚さは薄く、且つ成膜時間も短い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る被覆部材の断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る被覆部材の製造方法において使用されるイオンビームによって補助されたスパッタリング装置の俯瞰図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
図1を参照すると、本発明の硬質塗層を有する被覆部材10は、硬質基材11と、前記硬質基材11上に形成された結合層13と、前記結合層13上に形成された中間層15と、前記中間層15上に形成された硬質層17と、を備える。
【0010】
前記硬質基材11の材料は、高速度鋼、硬質合金、ステンレス鋼、チタン合金、マグネシウム合金或いはアルミニウム合金のような金属或いはセラミック、ガラス等であることができる。
【0011】
前記結合層13は、チタン金属層である。前記結合層13の厚さは、0.1μm〜0.4μmであり、他の塗層と前記硬質基材11との間の結合力を高めることができる。
【0012】
前記中間層15は、チタン・クロム合金層である。前記中間層15のチタン原子の含有量は30
原子%〜40
原子%であり、クロム原子の含有量は60
原子%〜70
原子%である。また、前記中間層15の厚さは0.1〜0.4μmである。
【0013】
前記硬質層17は、窒化チタンクロム(TiCrN)層である。前記硬質層17のチタン原子の含有量は25.6
原子%〜37.0
原子%であり、クロム原子の含有量は51.7
原子%〜67.6
原子%であり、窒素の含有量は5.4
原子%〜13.8
原子%である。また、前記硬質層17の厚さは、1.3〜1.7μmである。
【0014】
前記結合層13、前記中間層15及び前記硬質層17は、イオンビームによって補助されたスパッタリング装置30によって形成される。
【0015】
前記被覆部材10は、切削用の刀具、精密計器、金型、電子部品の筐体或いは建築物用装飾部材等であることができる。
【0016】
前記被覆部材10において、前記硬質層17は、チタン金属からなる結合層13及びチタン・クロム合金からなる中間層15を介して、前記硬質基材11と結合される。
【0017】
前記被覆部材10の製造方法は、以下のステップを含む。
【0018】
ステップ1:前記硬質基材11を、アルコール或いはアセトンの溶液を入れた超音波洗浄器の中に浸漬し、震動させて洗浄する。これにより、前記硬質基材11の表面の不純物等が除去される。その後、清浄された前記硬質基材11を乾燥させる。
【0019】
図2を参照すると、イオンビームによって補助されたスパッタリング装置30は、真空室31と、前記真空室31を真空状態にする真空ポンプ32と、前記真空室31に連通された気体源通路33と、イオン源室34と、前記真空室31と前記イオン源室34を連通するイオン源通路35と、を備える。前記真空室31には、加熱器36及び回転枠37が設置され、且つ少なくとも1つのチタンターゲット38及び少なくとも1つのクロムターゲット39も設置されている。前記回転枠37は、複数の前記硬質基材11を前記回転枠37の円周上に沿って連動して回転させる。また、前記硬質基材11は、回転枠37の周りを回転するとともに自転する。薄膜を形成する時、スパッタリング気体と反応気体は、前記気体源通路33を通って前記真空室31に入り、前記イオン源室34から発射されたイオンビームは、前記イオン源通路35を通って前記真空室31に導入される。
【0020】
ステップ2:イオンビームによって補助されたスパッタリング装置30を利用して、前記硬質基材11上に前記結合層13を被覆する。先ず、洗浄された前記硬質基材11を、前記回転枠37に設置し、前記回転枠37の回転速度を1rpm〜5rpmに設定する。さらに、前記真空室31の真空度を6.0×10
−3Pa〜9.0×10
−3Paに保持させるとともに、前記加熱器36を昇温させて、前記真空室31の温度を150℃〜250℃に保持させる。その後、一定の流量でアルゴン気体を導入して、前記真空室31の圧力を0.3Pa〜0.5Paまで上げる。次いで前記イオン源室34にイオン源気体を導入し、イオン源の電源を起動させた後、該電源のパワーを1kw〜1.5kwにして、イオン源を前記硬質基材11の表面に衝突させる。その後前記チタンターゲット38の電源を起動させ、該電源のパワーを3.8kw〜4.2kwにして、前記硬質基材11に対して5分〜10分のスパッタリングをすることによって、前記硬質基材11上に、チタン金属からなる結合層13が形成される。ここで用いられたイオンビームは窒素イオンビームである。本実施形態において、前記回転枠37の回転速度は3rmpであり、前記真空室31の真空度は8.0×10
−3Paであり、アルゴン気体を導入した後の前記真空室31の圧力は0.4Paであり、前記チタンターゲット38は、中間周波電源によって駆動され、そのパワーは4kwであり、被覆時間は10分である。
【0021】
ステップ3:イオンビームによって補助されたスパッタリング装置30を利用して、前記結合層13上に前記中間層15を被覆する。先ず前記中間層15を成膜する過程において、前記回転枠37の回転速度は変わらないよう維持しておく。アルゴン気体の流量が変わらないよう維持するために、前記真空室31にアルゴン気体を持続的に導入する。また、イオン源を起動させて、前記イオン源のパワーが変わらないよう維持するとともに、前記チタンターゲット38の電源及び前記クロムターゲット39の電源を起動させる。前記チタンターゲット38の電源のパワー及び前記クロムターゲット39の電源のパワーは3.8kw〜4.2kwである。該ステップに要する時間は、5分〜10分である。ここで用いられたイオンビームは窒素イオンビームである。本実施形態において、前記チタンターゲット38は、中間周波電源によって駆動され、そのパワーは4kwであり、前記クロムターゲット39は、直流電源によって駆動され、そのパワーは4kwであり、被覆時間は10分である。
【0022】
ステップ4:イオンビームによって補助されたスパッタリング装置30を利用して、前記中間層15上に前記硬質層17を被覆する。前記硬質層17を成膜する過程において、前記回転枠37の回転速度及びアルゴン気体の流量が変わらないよう維持するとともに、前記真空室31に窒素を導入する。前記アルゴン気体と前記窒素との比は、1.5〜2.0であり、即ち、前記真空室31で生じる前記アルゴン気体と前記窒素の分圧比は1.5〜2.0である。次いでイオン源を起動させて、前記イオン源のパワーが変わらないように維持するとともに、前記チタンターゲット38の電源及び前記クロムターゲット39の電源を起動させる。前記チタンターゲット38の電源のパワー及び前記クロムターゲット39の電源のパワーは、3.8kw〜4.2kwである。該ステップに要する時間は、30分〜50分である。該ステップにおいて用いられたイオンビームは窒素イオンとアルゴンイオンとの混合イオンビームである。本実施形態において、前記チタンターゲット38は、中間周波電源によって駆動され、そのパワーは4kwであり、前記クロムターゲット39は、直流電源によって駆動され、そのパワーは4kwであり、被覆時間は40分である。
【0023】
薄膜を形成した後は、ターゲットの電源、イオン源通路、気体源通路を閉め、前記真空室31の温度が室温近い温度まで下がった後、前記被覆部材10を取り出す。
【0024】
以上の方法によって製造された被覆部材10の、表面のマイクロビッカース硬さは600HV
0.025〜700HV
0.025であり、膜層の結合力は70Nである。また、前記被覆部材10の表面の膜層は、組織が均一であり且つ密度が高い。
【0025】
前記被覆部材10の製造方法は、前記結合層13、中間層15及び硬質層17を被覆する過程において、イオンビームが前記硬質基材11の表面に衝突することによって、膜層の密度が高くなり、耐摩耗性を高める。そのため、イオンビームによって補助されたスパッタリング装置を使用しない方法に比べて、本発明で得られた膜層の厚さは薄く、且つ成膜時間も短い。
【0026】
以上、本発明の実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能であることは勿論であって、本発明の保護範囲は、以下の特許請求の範囲から決まる。
【符号の説明】
【0027】
10 被覆部材
11 硬質基材
13 結合層
15 中間層
17 硬質層
30 イオンビームによって補助されたスパッタリング装置
31 真空室
32 真空ポンプ
33 気体源通路
34 イオン源室
35 イオン源通路
36 加熱器
37 回転枠
38 チタンターゲット
39 クロムターゲット