特許第5952063号(P5952063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952063
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】シートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/48 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
   B60R22/48 104
   B60R22/48 105
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-87649(P2012-87649)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-216187(P2013-216187A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 達也
(72)【発明者】
【氏名】緑川 幸則
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−105835(JP,A)
【文献】 特開平02−246837(JP,A)
【文献】 特開2004−290324(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0224875(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00−48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートの側方に設けられ、乗員拘束用のウエビングを挿通するタングと係合するバックルであり、該ウエビング装着時に乗員の呼吸に呼応して微動する該ウエビングによって、乗員との距離が変化するバックルと、
前記バックル内に設置され、該バックルの乗員側の側面に形成された検出窓を介して乗員から放射される赤外線を受信する赤外線センサと、
基準となる呼吸状態を示す基準データを記憶する記憶部と、
乗員との距離の変化に応じて変化する前記赤外線センサからの出力強度を所定時間にわたって取得し、該出力強度を前記基準データと比較することにより乗員の呼吸状態の異常を検出する制御部と、
前記異常が検出された場合に所定の警報出力を行う警告部とを備え
前記バックルは、
前記車両用シートに下部が固定され車両上側に延びるブラケットと、
前記ブラケットの上端部に接続されていて前記赤外線センサを内蔵するヘッド部とを含み、
前記ヘッド部は、
前記ブラケットを基準にして前記ヘッド部を車幅方向に可動にする可動機構と、
前記ヘッド部を乗員から遠ざかる方向へ付勢する付勢機構とを含むことを特徴とするシートベルト装置。
【請求項2】
当該シートベルト装置は、前記車両用シートを挟んで前記バックルの反対側で車両に固定され前記ウエビングを巻き取るリトラクタをさらに備え、
前記制御部は、前記リトラクタにより前記ウエビングのたるみが取られた後に、前記センサ出力データを取得することを特徴とする請求項1に記載のシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員拘束用のウエビングを挿通するタングと係合するバックルを備えたシートベルト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用のシートベルト装置としては、車両用シートの側部に設けられたバックルにセンサを設け、このセンサを用いて、車両用シートに乗員が存在しているか否かを判定するものが知られている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1には、受光面および発光面をそれぞれ車両用シート側に向けた赤外線発光素子および赤外線受光素子をバックルに設けたシートベルト装置が記載されている。このシートベルト装置では、赤外線受光素子からの出力信号の大きさに基づいて、車両用シートに静止物体または乗員が存在すること、あるいは何も存在しないことを判定する。
【0004】
特許文献2には、焦電型赤外線検出器をバックルに設けたシートベルト装置が記載されている。焦電型赤外線検出器は、バックルの乗員側の側面に設けられた開口を検出窓としている。このシートベルト装置では、乗員が発生する赤外線を検出し、さらに乗員の微動による温度変化を検出することで、乗員の有無を判定する。
【0005】
なお、特許文献3には、車室内に設けた赤外線温度検出装置としてのサーモグラフィーカメラを用いて、車両用シートに着座する乗員の体温情報を取得し、この体温情報に基づいて空調装置の制御を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−129418号公報
【特許文献2】特開2000−219102号公報
【特許文献3】特開2009−248688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1−3に記載の技術は、赤外線を検出することで乗員の有無を判定するか、あるいは体温情報を取得するものに過ぎない。
【0008】
本発明者らは、赤外線センサを設置したバックルを用いることで、ウエビングが装着されているか否か、さらには、乗員の健康状態が正常か否かを判定する構成を見出した。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、ウエビング装着の有無および乗員の健康状態を検出できるシートベルト装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシートベルト装置の代表的な構成は、車両用シートの側方に設けられ、乗員拘束用のウエビングを挿通するタングと係合するバックルであり、ウエビング装着時に乗員の呼吸に呼応して微動するウエビングによって、乗員との距離が変化するバックルと、バックル内に設置され、バックルの乗員側の側面に形成された検出窓を介して乗員から放射される赤外線を受信する赤外線センサと、基準となる呼吸状態を示す基準データを記憶する記憶部と、乗員との距離の変化に応じて変化する赤外線センサからの出力強度を所定時間にわたって取得し、出力強度を基準データと比較することにより乗員の呼吸状態の異常を検出する制御部と、異常が検出された場合に所定の警報出力を行う警告部とを備えることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、赤外線センサが設置されたバックルは、乗員の呼吸に呼応して乗員との距離が変化する。このため、乗員との距離の変化に応じて変化する赤外線センサの出力強度は、乗員の呼吸に連動している。よって、制御部は、所定時間にわたって取得した出力強度と、基準データとを比較することで、乗員の呼吸状態を検出できる。制御部は、呼吸状態が正常であれば、ウエビングが装着されていて、かつ乗員の健康状態が正常であることを判定できる。また、例えばバックルとタングとの係合を電気的に検出するバックル着脱センサによってウエビングが装着されていると判定されている場合、制御部は、呼吸状態が異常であれば、乗員の健康状態が異常であるか、あるいはバックルに正規のタングではないダミータングが係合していることを判定できる。そして、呼吸状態が異常であるとき、警告部は、車両のスピーカ、カーナビのナビゲーション画面を用いた警報出力を行い、乗員に対して警告を行うことができる。
【0012】
上記のバックルは、車両用シートに下部が固定され車両上側に延びるブラケットと、ブラケットの上端部に接続されていて赤外線センサを内蔵するヘッド部とを含み、ヘッド部は、ブラケットを基準にしてヘッド部を車幅方向に可動にする可動機構と、ヘッド部を乗員から遠ざかる方向へ付勢する付勢機構とを含むとよい。これにより、赤外線センサを内蔵するヘッド部は、可動機構および付勢機構によって乗員の呼吸に呼応して、ブラケットを基準にして車幅方向に首振り動作が可能となる。このため、乗員の呼吸に呼応して乗員との距離が確実に変化するので、センサ出力データの波形は、乗員の呼吸に確実に連動したものとなる。
【0013】
上記のシートベルト装置は、車両用シートを挟んでバックルの反対側で車両に固定されウエビングを巻き取るリトラクタをさらに備え、制御部は、リトラクタによりウエビングのたるみが取られた後に、センサ出力データを取得するとよい。これにより、乗員とバックルとの距離は、ウエビングのたるみの影響を受けず、乗員の呼吸に呼応したものとなる。よって、センサ出力データは、乗員の呼吸に連動したより信頼性の高いものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ウエビング装着の有無および乗員の健康状態を検出できるシートベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態におけるシートベルト装置を概略的に示す図である。
図2図1のシートベルト装置を車両側方から見た状態を例示する図である。
図3図1のシートベルト装置の一部を拡大して示す図である。
図4図3のバックルを概略的に示す図である。
図5図4のバックルの内部構造の一部を模式的に示す図である。
図6図1のシートベルト装置の機能ブロック図である。
図7図6のシートベルト装置の動作を示すフローチャートである。
図8図6の赤外線センサによるセンサ出力の波形を例示する図である。
図9】乗員の呼吸の異常を判定する原理を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態におけるシートベルト装置を概略的に示す図である。シートベルト装置100は、図示のように、車両用シート110に着座した乗員120を拘束する装置であり、例えば、乗員拘束用のウエビング130と、バックル140と、タング150と、アンカプレート160と、ショルダアンカ170と、リトラクタ180とを備えている。
【0018】
バックル140は、車両用シート110の側方に設けられていて、ウエビング130を挿通するタング150と係合する部材である。バックル140は、ブラケット142とヘッド部144とを有する。ブラケット142は、車両上側に延びる部材であり、下端部142aが車両用シート110に固定された棒状の支持部材112に支持され、上端部142bがヘッド部144に接続されている。ヘッド部144は、上記タング150と係合し、また、図中点線で示すように内部に赤外線センサ200を有する。
【0019】
アンカプレート160は、バックル140が設けられた車両用シート110の側部とは反対側で車両に固定されていて、ウエビング130の一端部130aが取付けられている。ショルダアンカ170は、アンカプレート160の上方で例えば車両上側にて図示しないピラーなどに固定され、ウエビング130が巻き掛けられている。リトラクタ180は、車両用シート110を挟んでバックル140の反対側でアンカプレート160付近あるいはピラー付近などに設けられ、ウエビング130の他端部130bを適宜巻き取る。
【0020】
ウエビング130は、図示のように、バックル140にタング150が係合した状態でラップベルト132とショルダーベルト134とに区分される。ラップベルト132は、アンカプレート160からタング150まで差し渡され、乗員120の腰部122を拘束する。ショルダーベルト134は、タング150からショルダアンカ170まで差し渡されていて、乗員120の胸部124を拘束する。
【0021】
このように、シートベルト装置100では、バックル140にタング150が係合することでウエビング130が装着され、さらにリトラクタ180がウエビング130を巻き取ることで、ウエビング130のたるみが取り除かれて、乗員120を拘束する。
【0022】
ところで、ウエビング130は、乗員120を拘束しているとき、他端部130bがリトラクタ180により巻き取られ(図中、矢印A)、一方、タング150に係合したバックル140がウエビング130の張力に抗して、車両中央側に向けて付勢される(図中、矢印B)。なお、バックル140が付勢される機構については後述する。つまり、シートベルト装置100では、矢印A、Bに示す力がつり合うことで、例えば乗員120に対するバックル140の距離(あるいは位置)が安定する。
【0023】
本実施形態では、乗員120に対するバックル140の位置が、乗員120の呼吸に応じて変化することに着目した。以下、図2図3を参照してその原理について説明する。図2は、図1のシートベルト装置100を車両側方から見た状態を例示する図である。図3は、図1のシートベルト装置100の一部を拡大して示す図である。
【0024】
まず、図2に例示するように、乗員120が息を吸うと(矢印C)、乗員120の胸部124は車両前側に膨らみ(矢印D)、それに伴って、ショルダーベルト134は、図3の矢印Eに示す向きに移動する。その結果、バックル140のヘッド部144は、矢印Fに示すように乗員120の腰部122に近付くように可動し、距離Lは小さくなる。ここで、距離Lは、例えば乗員120の腰部122と、ヘッド部144に設置された赤外線センサ200との距離である。
【0025】
一方、図2に示すように、乗員120が息を吐くと(矢印G)、乗員120の胸部124は車両後側に縮み(矢印H)、それに伴って、ショルダーベルト134は、図3の矢印Iに示す向きに移動する。その結果、バックル140のヘッド部144は、矢印Jに示すように乗員120の腰部122から遠ざかるように可動し、距離Lは大きくなる。このようにして、図3に示す距離Lは、乗員120の呼吸に応じて変化する。
【0026】
図4は、図3のバックル140を概略的に示す図である。なお、図4は、乗員120側から見たバックル140、およびウエビング130が挿通されたタング150を示している。バックル140のヘッド部144は、図示のように、乗員120側の側面146に形成された開口である検出窓148を有する。
【0027】
ヘッド部144内に設置された赤外線センサ200は、例えば乗員120の腰部122付近から放射され、検出窓148を経た赤外線を受信する。なお、検出窓148は、開口に限られず、赤外線を透過可能な適宜の材質で形成してもよい。また、ヘッド部144内には、バックル140とタング150との係合を電気的に検出するバックル着脱センサ201が設置されている。
【0028】
図5は、図4のバックル140の内部構造の一部を模式的に示す図である。図5(a)は、図4のバックル140に対応する位置での内部構造の一部を模式的に示している。図5(b)は、図5(a)の側面図である。図5(c)は、バックル140が車両中央側に付勢された状態を例示している。
【0029】
バックル140は、可動機構140Aと付勢機構140Bとを備える。可動機構140Aは、図5(a)および図5(b)に示すように、ブラケット142の上端部142bに形成された溝部142cと、この溝部142cに対して回転可能な回転軸202と、保持部204a、204bとを備える。保持部204a、204bは、図5(a)に示すように、ヘッド部144の内部に固定され、回転軸202の両端を回転可能に保持している。なお、溝部142cおよび回転軸202は、車両前後方向に沿って延びている。このため、ヘッド部144は、可動機構140Aによって、ブラケット142を基準にして回転軸202の軸周りに可動し、結果的に図3の矢印F、Jに示すように、車幅方向に可動できる。
【0030】
付勢機構140Bは、図5(b)に示すように、回転軸202の周りに巻かれた板ばね206と、ヘッド部144の内部に固定された固定部208とを備える。板ばね206は、一端206aが回転軸202に固定され、他端206bが固定部208に固定されている。なお、板ばね206は、図5(c)に示す所定位置にヘッド部144を付勢している。このため、ヘッド部144は、付勢機構140Bの板ばね206の弾性力によって、図5(c)の矢印Kに示すように、乗員120から遠ざかる方向に付勢される。
【0031】
したがって、バックル140では、可動機構140Aおよび付勢機構140Bによって、図3の矢印F、Jに示すように、ブラケット142を基準にしてヘッド部144を、乗員120に対して近付けるあるいは遠ざかるように車幅方向に首振り動作を行うことが可能となる。
【0032】
つまり、シートベルト装置100では、乗員120の呼吸に伴う胸部124の微動が、乗員120の胸部124を拘束するショルダーベルト134を介してバックル140に伝わり、バックル140のヘッド部144が微動する。その結果、上記距離Lは、乗員120の呼吸に応じて変化することになる。さらに、ヘッド部144の内部に設置され、赤外線を受信する赤外線センサ200のセンサ出力(出力強度)は、乗員120の呼吸に応じて変化する距離Lを反映したものとなる。言い換えると、赤外線センサ200の出力強度は、乗員との距離Lの変化に応じて変化する。
【0033】
以下、図6図8を参照して、シートベルト装置100の動作などについて説明する。図6は、図1のシートベルト装置100の機能ブロック図である。図7は、図6のシートベルト装置100の動作を示すフローチャートである。図8は、図6の赤外線センサ200によるセンサ出力の波形を例示する図である。なお、横軸は時間、縦軸はセンサ出力電圧としている。
【0034】
シートベルト装置100は、図6に示すように、乗員120の呼吸に応じてセンサ出力が変化する上記赤外線センサ200と、バックル着脱センサ201と、制御部としてのECU(Electronic Control Unit)210と、警告部212とを備える。
【0035】
ECU210は、データ入力IF214と、判定部216と、記憶部218とを有する。データ入力IF214には、赤外線センサ200からのセンサ出力およびバックル着脱センサ201からの信号が入力される。判定部216は、データ入力IF214を介して赤外線センサ200からのセンサ出力を取得し、このセンサ出力に基づいて乗員120の呼吸状態(例えば、所定時間での呼吸数)を検出する。また、判定部216は、データ入力IF214を介してバックル着脱センサ201からの信号を取得し、バックル140にタング150が係合しているか否かを判定する。なお、判定部216は、警告部212に各種警報出力を実行させる機能も有する。
【0036】
記憶部218は、図8(a)および図8(b)に示すように、基準データとして例示される波形218a、218bを記憶している。なお、ここでの波形とは、センサ出力電圧の変動を示している。図8(a)に示す波形218aは、乗員120がいない場合、あるいは呼吸がない場合でのセンサ出力データを示していて、変動が殆ど見られない。図8(b)に示す波形218bは、乗員120の呼吸がある場合でのセンサ出力データを示していて、呼吸に連動して微動している。なお、これらの基準データは、所定時間(例えば、30秒あるいは1分間)の波形を示している。
【0037】
警告部212は、車両に設置されたスピーカやカーナビなどであって、判定部216から出力される例えば呼吸数を示す情報に基づいて、音声やナビゲーション画面の表示にて警報出力を行う。
【0038】
つぎに、ECU210の処理について説明する。まず、判定部216は、図7に示すように、バックル着脱センサ201からの信号を取得し、バックル140にタング150が係合しているか否かを判定し(ステップS101)、バックル140にタング150が係合していると(Yes)、ステップS103に進む。一方、バックル140にタング150が係合していないと(No)、ステップS101の処理を繰り返す。
【0039】
ステップS103では、判定部216は、ECU210内の不図示のタイマーを用いて計時スタートを行う。続いて、判定部216は、赤外線センサ200からのセンサ出力データを所定時間(例えば、30秒あるいは1分間)にわたって取得し(ステップS105)、記憶部218から基準となる呼吸状態を示す基準データである図8に示す上記波形218a、218bを取得する(ステップS107)。
【0040】
つぎに、判定部216は、ステップS105で取得したセンサ出力データと、ステップS107で取得した基準データとを比較し(ステップS109)、呼吸に異常があるか否かを判定する(ステップS111)。続いて、ステップS111で呼吸に異常があれば(Yes)、判定部216は、警告部212に各種警報出力を実行させる(ステップS113)。一方、ステップS111で呼吸が正常であれば(No)、再び上記ステップS101の処理を実行する。
【0041】
ここで、ステップS111で呼吸に異常があると判定される状況としては、乗員120の健康状態が異常である場合や、バックル140にいわゆるダミータングが係合している場合などが挙げられる。なお、ダミータングは、ウエビング130を挿通せずにバックル140に係合し、あたかも、ウエビング130で乗員120が拘束されているように見せかける不正目的で使用される。つまり、ダミータングとは、バックル140の係合を電気的に検出する上記バックル着脱センサ201による判定を誤認させる部材と言える。また、乗員120の健康状態が異常である場合とは、判定部216が乗員120の呼吸状態をモニターし、呼吸状態が定常状態から著しい変化があった場合(例えば、所定時間以上、呼吸が検出されないなど)が想定される。
【0042】
このような場合、警告部212は、車両のスピーカによる音声、あるいはカーナビのナビゲーション画面による表示を用いて、乗員120に対して警告を行うだけでなく、車両を緊急停止させるなどの処理を実行させる信号をECU210に出力してもよい。
【0043】
また、警告部212の警告は、例えば「あなたは健康状態に問題があります。なるべく早く車を停止して休んでください。」とのメッセージであってもよい。そして、車両がドライバーである乗員120によって停止したら、駆動系の安全装置(不図示)が、それ以後車両を動けないようにするとよい。このような警告部212に加えて安全装置があれば、病人とされる乗員120にも、ダミータングを用いた乗員120にも、対処可能となる。ダミータングを用いた乗員120は意に介さない可能性もあるが、安全装置が作動すれば、ダミータングの使用を諦めて、正規のタング150をバックル140に係合させて、ウエビング130で拘束せざるを得ないからである。
【0044】
このように本実施形態では、赤外線センサ200が設置されたバックル140は、乗員120の呼吸に呼応して距離Lを変化させる首振り動作が可能となる。このため、赤外線センサ200のセンサ出力は、乗員120の呼吸に連動して確実に波形が変化する。
【0045】
よって、ECU210は、赤外線センサ200のセンサ出力に基づいて、乗員120の呼吸状態を検出でき、呼吸状態が正常であれば、ウエビング130が装着されていて、かつ乗員120の健康状態が正常であることを判定できる。
【0046】
また、バックル140の係合を電気的に検出するバックル着脱センサ201によって、バックル140の係合が判定されている場合、ECU210は、呼吸状態が異常であれば、乗員120の健康状態が異常であるか、あるいはバックル140に正規のタング150ではないダミータングが係合していることを判定できる。
【0047】
また、上記実施形態では、記憶部218に基準データである波形218a、218bを示すセンサ出力データを記憶したが、これに限定されない。一例として、乗員120の呼吸状態を日々記憶させ、この記憶したデータを用いて健康管理に役立てるようにしてよく、また、乗員120の呼吸パターンを記憶させて、この呼吸パターンを用いて本人確認に適用してもよい。なお、警告部212は、乗員120の呼吸状態をカーナビのナビゲーション画面上に表示するようにしてもよい。
【0048】
さらに、図7に示したステップS105では、リトラクタ180によりウエビング130のたるみが取られた後に、赤外線センサ200のセンサ出力を取得してもよい。このようにすれば、ECU210は、ウエビング130のたるみが取られた状態でのセンサ出力を取得できる。この場合には、距離Lは、ウエビング130のたるみの影響を受けず、乗員120の呼吸に呼応したものとなる。そのため、赤外線センサ200のセンサ出力は、乗員120の呼吸に連動したより信頼性の高いものとなる。
【0049】
なお、上記実施形態では、バックル140に可動機構140Aおよび付勢機構140Bを設け、首振り動作を可能としたが、これに限定されない。一例として、ヘッド部144に接続された上記ブラケット142自体が、リトラクタ180で巻き取られたウエビング130に抗して所定位置を維持し、また、乗員120の呼吸に呼応したウエビング130の動きに対応して乗員120側に近付くあるいは遠ざかるように撓む形状あるいは弾性を有してもよい。このような場合、シートベルト装置100では、上記可動機構140Aおよび付勢機構140Bを設けることなく、より簡素な構成で呼吸に呼応したバックル140の首振り動作が可能となる。
【0050】
さらに、上記実施形態では、判定部216がステップS105で取得したセンサ出力データと、ステップS107で取得した基準データとを比較することで、ステップS111にて呼吸に異常があるか否かを判定するとしたが、呼吸の異常を判定する処理について、図9を参照してより具体的に説明する。
【0051】
図9は、乗員の呼吸の異常を判定する原理を概略的に示す図である。横軸は時間(秒)とした。なお、縦軸はセンサ出力電圧としているが、規格化しているため、数値を示していない。図9(a)および図9(b)に例示する波形220は、例えば乗員120が呼吸をしている場合を想定して、バックル140の首振り動作を模擬的に実施して得られたデータである。ここでの波形220は、30秒間にわたり赤外線センサ200のセンサ出力電圧を取得して得られたセンサ出力データである。
【0052】
波形220は、乗員120の1回毎の呼吸の時間、呼吸の大きさ、また、所定時間での呼吸の回数を示している。すなわち、1回毎の呼吸の時間は、図9(a)に例示される時間t1、t2、t3、t4となる。1回毎の呼吸の大きさは、図9(a)に例示される時間t1、t2、t3、t4での波形220の振幅で示される。すなわち、波形220では、センサ出力電圧の振幅が大きいほど、乗員の呼吸が大きいことを示している。所定時間での呼吸の回数は、例えば所定時間をサンプリング間隔Tとすると、図9(a)に例示されるように時間t1、t2、t3、t4毎に1回の呼吸が行われているので、ここでは合計4回となる。以下、判定部216が呼吸の異常を判定する処理について説明する。
【0053】
まず、判定部216は、乗員120の1回毎の呼吸の時間、呼吸の大きさをモニターする。つぎに、判定部216は、サンプリング間隔Tでの呼吸の回数および呼吸の大きさの平均を算出する。なお、判定部216は、例えば、予め正常時での乗員120のサンプリング間隔Tでの呼吸の回数および呼吸の大きさの平均を算出し、これを基準データとして記憶部218に格納する。
【0054】
続いて、判定部216は、正常時の呼吸の回数および呼吸の大きさの平均を示す基準データと、現在モニターし算出された呼吸の回数および呼吸の大きさの平均とを比較し、所定の閾値以上の変化があった場合に、フラグを立てる。さらに、判定部216は、このフラグの回数が所定の閾値を超えると、乗員120の呼吸が異常であると判定する。
【0055】
呼吸の異常を判定する他の処理としては、図9(b)に例示するようにセンサ出力電圧に2つの閾値La、Lbを設定してもよい。これらの閾値La、Lbは、呼吸の大きさを判定するために用いられる。すなわち、上記したように呼吸の大きさは、波形220の振幅で規定される。そこで、一例として閾値La、Lbを乗員120の平常時での呼吸に伴う、センサ出力電圧の高い側、低い側の平均値とし、これを基準データとする。
【0056】
このようにすれば、判定部216は、図9(b)に例示する波形220と、基準データとしての閾値La、Lbとに基づいた判定を行うことができる。つまり、判定部216は、1回の呼吸でセンサ出力電圧が高い側で閾値Laを超え、さらに低い側で閾値Lb未満であれば、乗員120の呼吸が平常時よりも大きいことを判定できる。そして、判定部216は、乗員120の呼吸が平常時よりも連続して大きいことを検出すると、乗員120が過呼吸あるいは咳き込んでいる可能性があるとして、呼吸の異常を判定してもよい。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0058】
また、上記実施形態においては本発明にかかるシートベルト装置100を自動車に適用した例を説明したが、自動車以外にも航空機や船舶などに適用することも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、乗員拘束用のウエビングを挿通するタングと係合するバックルを備えたシートベルト装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
100…シートベルト装置、110…車両用シート、120…乗員、122…腰部、124…胸部、130…ウエビング、132…ラップベルト、134…ショルダーベルト、140…バックル、140A…可動機構、140B…付勢機構、142…ブラケット、144…ヘッド部、146…側面、148…検出窓、150…タング、160…アンカプレート、170…ショルダアンカ、180…リトラクタ、200…赤外線センサ、201…バックル着脱センサ、210…ECU、212…警告部、214…データ入力IF、216…判定部、218…記憶部、218a、218b、220…波形
図1
図2
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図6
図7
図8
図9