特許第5952115号(P5952115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952115
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/10 20060101AFI20160630BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20160630BHJP
   C10M 137/08 20060101ALN20160630BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20160630BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20160630BHJP
   C10M 133/56 20060101ALN20160630BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20160630BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20160630BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20160630BHJP
【FI】
   C10M141/10
   !C10M137/02
   !C10M137/08
   !C10M133/06
   !C10M133/16
   !C10M133/56
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:04
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-159537(P2012-159537)
(22)【出願日】2012年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-19788(P2014-19788A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108317
【氏名又は名称】東燃ゼネラル石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】金子 博之
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−194376(JP,A)
【文献】 特開2000−328084(JP,A)
【文献】 特開2002−105478(JP,A)
【文献】 特開平09−202890(JP,A)
【文献】 特開平08−113792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基油、
(B)酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルのアミン塩であり、前記塩を形成するアミンが分岐構造または環状構造を有する炭化水素基を有する、及び
(C)下記式(I)で表されるイミド化合物
【化1】
(式中、R、Rは、互いに独立に、炭素原子数5〜40の飽和または不飽和の一価炭化水素基であり、Rは互いに独立に、炭素原子数1〜5の二価炭化水素基であり、Rは互いに独立に、水素原子もしくは炭素原子数1〜20の一価炭化水素基であり、nは1〜10の整数である)
を含有する自動変速機用潤滑油組成物。
【請求項2】
(B)成分の酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルが、炭素原子数1〜20のアルキル基を有する、請求項1記載の自動変速機用潤滑油組成物。
【請求項3】
(B)成分の酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルが、炭素原子数6〜10のアルキル基を有する、請求項2記載の自動変速機用潤滑油組成物。
【請求項4】
(B)成分の塩を形成するアミンが、分岐構造または環状構造を有し炭素原子数4〜24である炭化水素基を有する、請求項1〜3のいずれか1項記載の自動変速機用潤滑油組成物。
【請求項5】
(B)成分の塩を形成するアミンが、分岐構造または環状構造を有し炭素原子数6〜20である炭化水素基を有する、請求項1〜3のいずれか1項記載の自動変速機用潤滑油組成物。
【請求項6】
(B)成分の塩を形成するアミンが、分岐構造または環状構造を有し炭素原子数10〜14である炭化水素基を有する、請求項3記載の自動変速機用潤滑油組成物。
【請求項7】
(B)成分の配合量が、潤滑油組成物の全重量に対する(B)成分中のリンの重量が50〜1000ppmとなる量である、請求項1〜6のいずれか1項記載の自動変速機用潤滑油組成物。
【請求項8】
(C)成分の配合量が、潤滑油組成物の全重量に対し0.5〜10重量%となる量である、請求項1〜7のいずれか1項記載の自動変速機用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関し、詳細には、優れたシャダー防止性能及び高い伝達トルク容量を有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の自動変速機は、トルクコンバータ、湿式クラッチ、歯車装置およびこれらを制御する油圧制御機構から構成されている。このような自動変速機ではエンジンからの動力を流体継手としてのトルクコンバータを介して伝達しているが、トルクコンバータの入力と出力の回転差で発生する伝達ロスが燃料消費率低下の最大原因とされている。従って、この伝達ロスを低減させるために、燃料消費率向上手段として伝達効率の高いロックアップクラッチ内蔵のトルクコンバータが採用されている。またさらに、その作動領域を拡大するためにスリップ制御方式が導入されている。スリップ制御はエンジン回転数とトルクコンバータ出力回転数をモニタリングしながらロックアップクラッチを滑らせ、その相対すべり速度を油圧機構で制御する方式である。これにより従来直結が困難であった低速領域においてもロックアップクラッチを作動させることが可能になる。
【0003】
しかしながら、前記スリップ制御方式の自動変速機を円滑に機能させるにはスリップ制御機構を備えていない自動変速機に用いられる潤滑油とは質的に異なる性能の潤滑油が要求されることが認識されている。すなわち、従前は伝達トルク容量を大きくすることが重要な課題であったが、スリップ制御方式においてはシャダー防止性能を具備することが不可欠とされ、併せて小型軽量化に必要な湿式摩擦材に対する伝達トルク容量が要求される。
【0004】
上記事情に鑑み、これまで種々の潤滑油組成物が提案されてきた。特許文献1には、特定のイミド化合物、油溶性リン化合物、金属清浄剤及び/又はポリオールエステル摩擦調整剤を含有し、震え防止耐久性を延長させた動力電体装置流体が記載されている。特許文献2には、特定のイミド化合物、油溶性リン化合物、無灰系分散剤、及び腐蝕防止剤を含有し、抗震動持続性を改善した変速機油組成物が記載されている。特許文献3には、基油に、特定の酸化防止剤、リン酸エステル又はそのアミン塩、及びカルボン酸とアミンの反応物を配合して成る、シャダー防止性能に優れた自動変速機用潤滑油組成物が記載されている。特許文献4には、特定のイミド化合物により、シャダー防止性と伝達トルク容量を改善した自動変速機用潤滑油組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平11−515034号公報
【特許文献2】特表2001−506302号公報
【特許文献3】特開平09−328697号公報
【特許文献4】特開平09−202890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし伝達トルク容量とシャダー防止性能はトレードオフの関係にあり、従来の潤滑油組成物では、シャダー防止性能が改善されたとしてもロックアップクラッチ係合時の伝達トルク容量が不十分であるという問題がある。そこで、潤滑油組成物の、摩擦係数(μ) のすべり速度 (V) に対する依存性(μ−V特性)をさらに改良することが要求されている。μ−V特性を改良するためには摩擦調整剤の配合量を増量することが試みられるが、そうすると摩擦調整剤の増量により低速すべり領域の摩擦係数が低下し、ロックアップクラッチ係合時の伝達トルク容量が不十分となり、動力伝達エネルギーの損失が生ずるという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、従来の自動変速機用潤滑油が有するシャダー防止性能を維持しつつ、伝達トルク容量をさらに向上した潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、基油に、特定構造を有する酸性リン酸エステルアミン塩もしくは酸性亜リン酸エステルアミン塩と、特定のイミド化合物とを含有させることにより、従来の自動変速機用潤滑油と同等またはそれ以上のシャダー防止性能を有し、かつ、伝達トルク容量を向上した潤滑油組成物を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明は
(A)基油、
(B)酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルのアミン塩であり、前記塩を形成するアミンが分岐構造または環状構造を有する炭化水素基を有する、及び
(C)下記式(I)で表されるイミド化合物
【化1】
(式中、R、Rは、互いに独立に、炭素原子数5〜40の飽和または不飽和の一価炭化水素基であり、Rは互いに独立に、炭素原子数1〜5の二価炭化水素基であり、Rは互いに独立に、水素原子もしくは炭素原子数1〜20の一価炭化水素基であり、nは1〜10の整数である)
を含有する自動変速機用潤滑油組成物である。
以下で、自動変速機用潤滑油組成物を、単に、潤滑油組成物ということがある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、優れた伝達トルク容量およびシャダー防止性能を有するため、特にロックアップクラッチ・スリップ制御用の自動変速機用潤滑油として極めて有用である。また、スリップ制御機構を備えていない自動変速機用の潤滑油としても使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。
【0012】
(A)基油
本発明において基油は一般に潤滑油の基油として用いられているものを採用することができ、特に制限されるものでない。例えば、鉱油系基油、合成系基油、またはこれらの混合系基油等を使用することができる。また植物系基油を使用することもできる。
【0013】
鉱油系基油としては、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留出油として得られる潤滑油留分を、溶剤精製、水素化分解、水素化処理、水素化精製、接触脱蝋、又は白土処理等の各種精製工程を任意に選択して用いることにより処理して得られる、溶剤精製ラフィネートまたは水素化処理油等の鉱油、減圧蒸溜残渣油を溶剤脱瀝処理に供したのち得られた脱瀝油を前記精製工程により処理して得られる鉱油、及びワックス分の異性化により得られる鉱油等、またはこれらの混合油を用いることができる。溶剤精製には、フェノール、フルフラール、及びN−メチル−2−ピロリドン等の芳香族抽出溶剤が用いられる。溶剤脱蝋の溶剤としては、液化プロパン、MEK/トルエン等が用いられる。接触脱蝋には、例えば形状選択性ゼオライト等が脱蝋触媒として用いられる。上記方法により得られる鉱油系基材としては、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、及びブライトストック等を挙げることができる。上記基材を適宜調合して要求される性状を有する鉱油系基油とすればよい。
【0014】
合成油系基油としては、炭化水素系合成基油、エーテル、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、リン酸エステル、シリコーン油、フッ素系フルードおよび植物油系基油を使用することができる。
【0015】
炭化水素系合成基油としては、ポリオレフィン等の脂肪族系合成炭化水素基油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族系合成炭化水素基油を使用することができる。これら炭化水素系合成基油は優れた粘度特性、熱安定性、潤滑性、低温流動性、絶縁性を示す。脂肪族系合成炭化水素基油としては、α−オレフィンオリゴマー(例えば、ポリ(1−プロピレン)、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)等およびこれらの混合物)、エチレン・α−オレフィン・コオリゴマー(例えば、エチレン・1−プロピレン・コオリゴマー、エチレン・1−ヘキセン・コオリゴマー、エチレン・1−オクテン・コオリゴマー、エチレン・1−デセン・コオリゴマー等およびこれらの混合物)、ポリブテン等を使用することができる。これらオレフィンオリゴマーは製造方法により性能が異なる場合があるがメタロセン触媒を使用したものは特に優れた粘度特性を示す。また天然ガスを原料としたオリゴマーについても特に優れた粘度特性を示す。芳香族系合成炭化水素基油としてはドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン、ジノニルベンゼン等のアルキルベンゼン、ポリフェニル(例えば、ビフェニル、アルキル化ポリフェニル等)、アルキルナフタレン等を使用することができる。
【0016】
エーテル類としてはポリアルキルエーテルやポリフェニルエーテル、アルキル化ポリフェニルエーテルなどが使用でき、同様にポリアルキルチオエーテルやアルキル化ジフェニルスルフィドなどのポリフェニルチオエーテル、アルキル化ポリフェニルチオエーテルを使用することができる。これらエーテル類は特に優れた熱安定性を示す。
【0017】
エステル類としてはモノエステル、ジエステル、ポリオールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエステル等のエステルまたはその部分エステルを使用することができる。これらエステル類は優れた粘度特性、熱安定性、潤滑性、低温流動性、絶縁性、添加剤溶解性を示す。特に蒸発性に優れており低粘度のものでも比較的高い引火点を有する。モノエステルとしては炭素数1〜24の直鎖または分枝の脂肪酸と、炭素数1〜24の直鎖または分枝のアルコールのエステル、ジエステルとしては炭素数1〜18の二塩基酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スペリン酸、セバチン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー等)と炭素数4〜18の直鎖、または分岐の各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステル、ポリオールエステルとしては、炭素原子数4〜18のモノカルボン酸とポリオール(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等)とのエステルやそれらと二塩基酸を組み合わせたコンプレックスエステルが好適に使用できる。その他、ヒドロキシピバリン酸等のヒドロキシ酸と脂肪酸及びアルコールとのエステルを使用することができる。
【0018】
ポリオキシアルキレングリコールとしては、エチレンジオール、プロピレンジオール、ブテンジオールのグリコールエーテルを使用することができ、それらは単独でも複数をランダムまたはブロックポリマーとして使用しても良い。末端はアルキル基で封鎖されていても良く、末端基としては炭素数1〜4の炭化水素基が好適に使用できる。特に両末端が炭化水素基で封鎖されているものは鉱油との相溶性に優れている。一部に3価以上のアルコールを含むことで立体構造をとるものも、好適に使用される。これらポリオキシアルキレングリコール類は特に粘度特性に優れている。
【0019】
基油は、上述した各種基油基材を単独で使用してもよいし、また二種以上を混合して所望の粘度その他の性状を有するように調合して製造してもよい。本発明の潤滑油組成物の基油としては、100℃における動粘度が2〜20mm2 /s、好ましくは3〜15mm2 /sの範囲となるように調整するのがよい。特に、100℃の粘度が10mm/s〜2000mm/s、好ましくは30〜200mm/sであるα−オレフィンオリゴマーやエチレン−αオレフィンオリゴマーを、100℃の粘度が2〜3.5mm/sである基油と組み合わせて100℃の粘度を3.0mm/s〜5.0mm/sに調整すると、トランスミッションフルードとして好ましい粘度特性を得ることができる。基油の動粘度が高すぎると低温粘度性状が低下するため好ましくなく、また、動粘度が低過ぎると自動変速機のギヤ軸受、クラッチ等の摺動部において摩耗が増加するおそれがある。粘度指数の下限は特に限定されないが、好ましくは95以上、より好ましくは100以上、さらに好ましくは105以上である。粘度指数が95未満であると、良好な低温粘度性状と摩耗防止性を両立できなくなるという不都合がある。上限も特に限定されないが、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、さらに好ましくは150以下、特に好ましくは130以下である。
【0020】
(B)酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルのアミン塩
本発明において(B)成分は、酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルのアミン塩であり、摩耗防止剤として機能する。本発明は、該塩を形成するアミンが分岐構造または環状構造を有する炭化水素基を有することを特徴とする。
【0021】
酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルは、炭素原子数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素原子数6〜10のアルキル基を有するものが好ましく、下記一般式(2)または(3)で表すことができる。
【化2】
【化3】
【0022】
上記式(2)及び(3)中、Rは、炭素原子数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素原子数6〜10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、直鎖状又は分枝を有するペンチル基、直鎖状又は分枝を有するヘキシル基、直鎖状又は分枝を有するヘプチル基、直鎖状又は分枝を有するオクチル基、直鎖状又は分枝を有するラウリル基等が挙げられる。nは1または2であり、mは1である。
【0023】
酸性リン酸エステルとしては、例えば2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、メチルアシッドフォスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェートなどを挙げることができる。酸性亜リン酸エステルとしては、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスファイト、メチルアシッドフォスファイト、エチルアシッドホスファイト、ブチルアシッドホスファイト、ラウリルアシッドホスファイト、オレイルアシッドホスファイト、ステアリルアシッドホスファイト、フェニルアシッドホスファイトなどを挙げることができる。中でも、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスファイトが好適である。
【0024】
酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルと塩を形成するアミン化合物は、例えば、一般式R’NH3−p(pは1または2)で表されるモノ置換アミン化合物またはジ置換アミン化合物、またはポリアミンが挙げられる。式中、R’は、分岐構造または環状構造を有する、炭素原子数4〜24、好ましくは炭素原子数6〜20、特には炭素原子数10〜14である一価炭化水素基である。分岐構造を有する炭化水素基としては、イソブチル、tert‐ブチル、sec−ブチル、イソペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2,2,3,3−テトラメチルブチル基等のアルキル基が挙げられる。また、該アミン化合物は、異なる炭素原子数を有するアルキル基を有するアミン化合物の混合物であってよく、例えば炭素原子数10〜14であり分岐構造を有するアルキル基を有するアミン化合物の混合物が挙げられる。該アミン化合物の混合物としては、例えば、主鎖の炭素数が6〜10個であり、約4個のメチル基を側鎖として有するアルキル基を有するアミン化合物の混合物が挙げられる。また、該アミン化合物は直鎖状のアルキル基を有するアミン化合物を混合していてもよい。環状構造を有する炭化水素基としては、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、クレジル基等のアリール基が挙げられる。R’が複数ある場合、R’は互いに同一でも異なっていてもよい。中でも、分岐構造を有し炭素原子数10〜14であるアルキル基を有するアミン化合物の混合物が好ましい。
【0025】
酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルのアミン塩は、上記酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルに、アミン化合物を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。(B)成分の配合量は、潤滑油組成物の全重量に対する(B)成分中のリンの重量が50〜1000ppm、好ましくは100〜500ppm、より好ましくは200〜400ppmとなる量であるのがよい。該アミン塩の配合量が上記上限値超では潤滑油基油への溶解性が低下する傾向があるため好ましくなく、上記下限値未満ではトルク容量が不十分となるため好ましくない。
【0026】
(C)イミド化合物
本発明において(C)成分は下記式(I)で表されるイミド化合物であり、摩擦調整剤として機能する。
【化4】
上記式(I)において、nは1〜10、好ましくは1〜5の整数である。
【0027】
上記式(I)において、R1 およびR2 は互いに独立に、炭素原子数5〜40、好ましくは炭素原子数8〜25の、飽和または不飽和の一価炭化水素基である。炭化水素基としては、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オレイル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基等が挙げられる。特に好ましくは、炭素原子数10〜20であり、直鎖状の、不飽和結合を有していてよい一価炭化水素基である。炭化水素基の炭素原子数が上記下限値未満もしくは上記上限値超では、シャダー防止性能を十分付与することができない。
【0028】
上記一般式(I)において、R3 は互いに独立に、炭素原子数1〜5の2価の炭化水素基であり、好ましくは、炭素原子数2〜3のアルキレン基である。R4 は互いに独立に、水素原子、または炭素原子数1〜20、好ましくは炭素原子数1〜10の一価炭化水素基である。該炭化水素基としては、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基が挙げられる。アリール基は炭素原子数1〜12のアルキル基を有していてもよい。特に、R4 は水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基であるのが好ましい。また、R4 はその構造中にアミノ基(−NHまたは−NH)またはアミド結合(−C(O)N−)および両者を数個、すなわち、各々1個〜5個有しているものであってもよい。
【0029】
特に、下記式(II)で表されるイミド化合物が好ましい。
【化5】
上記式(II)において、R1 およびR2 は互いに独立に、炭素原子数10〜20である、直鎖状の、不飽和結合を有していてよい一価炭化水素基であり、nは1〜5の整数である。
【0030】
上記一般式(I)で表されるイミド系化合物は、無水マレイン酸及び末端が不飽和でないオレフィンから調製される異性化されたアルケニルコハク酸無水物と、ポリアミンとの反応により合成することができる。異性化されたアルケニルコハク酸無水物は、例えば、米国特許第3,382,172号に記載の方法により製造できる。異性化されたアルケニルコハク酸無水物をポリアミンと反応させ、第1級アミンをコハク酸イミドに転化する。該方法は、従来公知の方法に従えばよく、例えば、米国特許第3,254,025号、第3,502,677号、第4,857,214号、第4,686,054号等に記載される方法を使用して製造できる。ポリアミンとしては例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等のモノジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミンを挙げることができる。
【0031】
イミド化合物の配合量は、潤滑油組成物の全重量に対し0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは2〜3重量%となる量であるのがよい。イミド化合物の配合量が上記上限値超ではシャダー特性が悪化するため好ましくなく、上記下限値未満ではトルク容量が不足するため好ましくない。
【0032】
その他の添加剤
本発明の潤滑油組成物は、さらに、必要に応じて各種添加剤、すなわち、粘度指数向上剤、金属系清浄剤、無灰系分散剤、酸化防止剤、極圧剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、消泡剤、及び腐蝕防止剤等からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤を含有することができる。特に、粘度指数向上剤、金属系清浄剤、無灰系分散剤、酸化防止剤および金属不活性化剤等を配合するのがよい。かかる組成により動力伝達媒体としての機能のほか、潤滑油および作動油として要求される機能等、多機能化に対応することができる。
【0033】
粘度指数向上剤としては、一般にポリメタアクリレート、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン共重合体)、ポリアルキルスチレン、スチレン−ブタジエン水添共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体等が挙げられる。粘度指数向上剤は潤滑油組成物の全量に対して、通常3〜35重量%、好ましくは4〜30重量%となる量で配合されるのがよい。
【0034】
金属系清浄剤としては、Ca、Mg、Ba、Na等のスルホネート、フェネート、サリシレート、及びホスホネートがあげられる。金属系清浄剤は潤滑油組成物の全量に対して0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%となる量で配合されるのがよい。
【0035】
無灰系分散剤としては、コハク酸イミド、コハク酸アミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、コハク酸エステル−アミドおよびそれらのホウ素含有物等が挙げられる。無灰系分散剤は潤滑油組成物の全量に対して0.05〜7重量%、好ましくは0.1〜5重量%となる量で配合されるのがよい。
【0036】
酸化防止剤としては、一般にアルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、4,4’−テトラメチル−ジアミノジフェニルメタン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(6−ジ−tert−ブチル−o−クレゾール)等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、さらにジチオリン酸亜鉛等が挙げられ、特に、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。酸化防止剤は潤滑油組成物の全量に対して0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%となる量で配合されるのがよい。
【0037】
極圧剤としては、一般に無灰系サルファイド化合物、硫化油脂、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。極圧剤は潤滑油組成物の全量に対して0.05〜3重量%、好ましくは0.1〜2重量%となる量で配合されるのがよい。
【0038】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられる。金属不活性化剤は潤滑油組成物の全量に対して0.01〜3重量%、好ましくは0.01〜2重量%となる量で配合されるのがよい。
【0039】
流動点降下剤としては、一般にエチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。特に、ポリメタクリレートが好ましく用いられる。流動点降下剤は潤滑油組成物の全量に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.5〜8重量%となる量で配合されるのがよい。
【0040】
消泡剤としては、例えば、ジメチルシリコーン希釈物等のジメチルポリシロキサン等が挙げられる。消泡剤は潤滑油組成物の全量に対して0.0001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.7重量%となる量で配合されるのがよい。さらに、腐蝕防止剤等その他の添加剤も所望に応じて使用することができる。またその他の摩耗防止剤として、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸金属塩(Pb、Sb、Moなど)、ジチオカルバミン酸金属塩(Zn、Pb、Sb、Moなど)、ナフテン酸金属塩(Pbなど)、脂肪酸金属塩(Pbなど)、ホウ素化合物等を所望に応じて配合してもよい。
【0041】
本発明の潤滑油組成物の調整方法は、従来公知の方法に従えばよく、特に制限されるものでない。本発明の潤滑油組成物は、優れた伝達トルク容量およびシャダー防止性能を有するため、特にロックアップクラッチ・スリップ制御用の自動変速機用潤滑油として極めて有用である。尚、伝達トルク容量はJASO M348−2002の自動変速機油摩擦特性試験方法に準拠して測定される。また、シャダー防止性能はJASO M349−2010の自動変速機油シャダー防止性能試験方法に準拠して評価することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものでない。下記実施例及び比較例において、伝達トルク容量およびシャダー防止性は下記方法を用いて評価した。
【0043】
伝達トルク容量
各組成物の伝達トルク容量は、JASO M348−2002の自動変速機油摩擦特性試験方法に準拠して測定した。詳細には、SAE No.2試験機を用い、下記の試験条件で、一連の試験を1サイクルとして5000サイクル繰り返す間に、200〜5000サイクルの間における各サイクル数での摩擦係数(μt)を計測し、試験終了後に得られた摩擦係数(μt)のうち、値の小さいもの3点の平均値を算出した。摩擦係数(μt)が高いものほどトルク容量が大きいと判断される。
[試験片]
・フリクションプレート:FZ127−24−Y2(NW461E)
・スチールプレート:FZ132−8−Y2(高精度セパレーター)
[動摩擦試験条件]
・慣性円板の慣性モーメント:0.343kg・m
・試験回転数:3600rpm
・油温:100℃
・フリクションプレート面圧:785kPa
・試験回数(サイクル数):5000c/c
[静摩擦係数]
・試験回転数:0.7rpm
・油温:100℃
・フリクションプレート面圧:785kPa
【0044】
シャダー防止性
JASO M349−2010の自動変速機油シャダー防止性能試験方法に準拠して、dμ/dVで定義される、μ(摩擦係数)−V(すべり速度)勾配を測定した。dμ/dVの値は大きいほどシャダー防止性に優れると判断される。詳細な試験条件等は以下に記載の通りである。尚、一部の文献等に「dμ/dVはゼロより大きくなければならない」と記載されているが、実際には自動変速機の慣性力による振動吸収によってdμ/dVがマイナスでも問題とならない領域があることが理論的に証明されている。そのため、本発明ではdμ/dVの値が大きいほど好ましいという基準で評価した。
[試験片]
・フリクションプレート:A795.D0AK(D−0600−02)
・スチールプレート:FZ132−8−Y2(高精度セパレーター)
[ならし運転]
・油温:80℃
・面圧:1.00MPa
・滑り速度:0.60m/s
・時間:30min
[測定条件]
・油温:120℃
・面圧:1.00MPa
・滑り速度:0〜1.5m/sまでを連続的に加減速
[dμ/dVの計算方法]
滑り速度0.1m/s以上に相当する値を用いて、最小二乗法にて5次近似した式を微分することで、滑り速度0.3m/sでのdμ/dVを算出した。
【0045】
実施例及び比較例にて使用した各成分を以下に示す。
【0046】
(A)基油
・高度精製基油A:100℃での動粘度2.7mm/s、粘度指数107
・高度精製基油B:100℃での動粘度4.6mm/s、粘度指数116
【0047】
(B)リン酸エステルのアミン塩
・Phospair−80(2−エチルヘキシルアシッドホスファイトのアミン塩:塩を形成するアミンが炭素原子数10〜14であり分岐構造を有する(主鎖の炭素数が6〜10個であり、約4個のメチル基を側鎖として有する)アルキル基を有する、混合物、SC有機化学株式会社製)
・PX3846(2−エチルヘキシルアシッドホスフェートのアミン塩:塩を形成するアミンが炭素原子数10〜14であり分岐構造を有する(主鎖の炭素数が6〜10個であり、約4個のメチル基を側鎖として有する)アルキル基を有する、混合物、Dorf Ketal社製):
・Lubdyne−3000(メチルアシッドホスフェートのアミン塩:塩を形成するアミンが炭素原子数10〜14であり分岐構造を有する(主鎖の炭素数が6〜10個であり、約4個のメチル基を側鎖として有する)アルキル基を有する、混合物、SC有機化学株式会社製)
・Lubdyne−8500L(ブチルアシッドホスフェートのアミン塩:塩を形成するアミンがフェニル基を有する、SC有機化学株式会社製)
【0048】
比較例で使用したリン酸化合物
・Phospair−16(2−エチルヘキシルアシッドホスフェートのアミン塩:塩を形成するアミンが炭素原子数18である直鎖状(分岐構造及び環状構造を有さない)アルキル基を有する、SC有機化学株式会社製)
・TCP(トリクレジルホスフェート、大八化学社製)
・PhoslexA−8(2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、SC有機化学株式会社製)
・ChelexH−8(2−エチルヘキシルアシッドホスファイト、SC有機化学株式会社製)
【0049】
(C)イミド化合物
下記式で示されるイミド化合物A
【化6】
式中R及びRは炭素原子数12であり不飽和結合を有する一価炭化水素基であり、Rは炭素原子数2の二価炭化水素基であり、Rは水素原子であり、nは2である。
比較例5では上記式において、R及びRが、炭素原子数が平均値として140であるポリイソブチレンであり、Rが炭素原子数2の二価炭化水素基であり、Rが水素原子であり、nは2であるイミド化合物Bを使用した。また、比較例6ではオレイルアミンを使用した。
【0050】
(D)その他の添加剤
・粘度指数向上剤:ポリメタアクリレート(Mw=約3万、三洋化成工業社製)
・消泡剤:ジメチルシリコーン希釈物
・その他添加剤(金属系清浄剤、無灰系分散剤、酸化防止剤、金属不活性化剤からなる添加剤パッケージ)
【0051】
上記(A)〜(D)の各成分を表1に示す組成で配合して潤滑油組成物を調製した。各潤滑油組成物について伝達トルク容量及びシャダー防止性を上記の方法によりそれぞれ測定した。結果を表1に示す。尚、表1において(B)成分及びリン酸化合物の配合量は、潤滑油組成物の全重量に対する(B)成分中又はリン酸化合物中に含まれるリンの重量が300ppmとなる量である。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示す通り、本発明の(C)成分を含有しない潤滑油組成物である比較例5は、伝達トルク容量は高いがシャダー防止性は悪く、比較例6は、シャダー防止性は良好であるが伝達トルク容量は低い。本発明の(B)成分を含有しない比較例1〜4の潤滑油組成物は、シャダー防止性は良好であるが、伝達トルク容量は低い。これに対し、本発明の潤滑油組成物は、従来の潤滑油組成物と同等またはそれ以上のシャダー防止性能を有し、さらに、伝達トルク容量を向上することができる。
【0054】
[市販品との比較]
実施例1の潤滑油組成物と市販の自動変速機用潤滑油(市販油A〜市販油D)の伝達トルク容量とシャダー防止性を比較した結果を表2に示す。市販油A〜市販油Dの伝達トルク容量とシャダー防止性の測定方法は上記と同じである。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示す通り、比較例7、比較例9及び比較例10の市販油は、シャダー防止性は高いが伝達トルク容量が低い。また比較例8の市販油は、伝達トルク容量は比較的高いがシャダー防止性に劣る。これに対し、本願発明の潤滑油組成物は、優れたシャダー防止性を有し、かつ、高い伝達トルク容量を有する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の潤滑油組成物は優れたシャダー防止性と高い伝達トルク容量を有する。従って、特にロックアップクラッチ・スリップ制御用の自動変速機用潤滑油として極めて有用である。