【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による撮像レンズは、固体撮像素子用の撮像レンズであって、物体側から像側に向かって順に、開口絞りと、物体側に凸面を向けた正の屈折力を有するメニスカス形状の第1レンズと、物体側に凹面を向けた正の屈折力を有する第2レンズと、光軸近傍で物体側に凸面を向けた負の屈折力を有する第3レンズとで構成され、前記第3レンズの両面は非球面で形成され、物体側の面および像側の面に少なくとも1つの変極点を有することを特徴とする。
さらに、当該構成において、次の条件式(1)から(4)を満足する。
(1)TTL<3.0
(2)0.80<f1/f<0.93
(3)0.35<bf/TTL<0.42
(4)0.70<TTL/(2IH)<0.85
ただし、TTLは第3レンズと撮像素子間に配置されたフィルタ類を取り外した際の最も物体側の面から撮像面までの光軸上の距離(空気換算距離)、fは撮像レンズ全系の焦点距離、f1は第1レンズの焦点距離、bfは第3レンズと撮像素子間に配置されたフィルタ類を取り外した際の第3レンズの像側の面から撮像面までの光軸上の距離(バックフォーカス(空気換算距離))、IHは最大像高とする。
【0013】
上記構成の撮像レンズは、3枚で構成されるレンズのうち、2枚を正レンズにすることで、光学全長の短縮化を容易にし、1枚を負レンズにすることで、色収差の良好な補正とバックフォーカスの確保を容易にしている。また、第1レンズを物体側に凸面を向けたメニスカス形状、第2レンズを物体側に凹面を向けた正の屈折力を有するメニスカス形状、すなわち面の形状が対称となる形状にすることにより、軸上および軸外における球面収差、コマ収差や像面湾曲などの諸収差の補正を可能にしている。また、開口絞りを第1レンズの物体側の面の面頂位置、または第1レンズの物体側の面の面頂位置と第1レンズの物体側の面の終端位置との間に配置することによって、光学全長の短縮化を図りつつ、テレセントリック性を確保している。さらに、第3レンズの両面を非球面で形成し、物体側の面および像側の面に少なくとも1つの変極点を有する形状にすることにより、撮像素子へ入射する光線の角度を好適に抑制しつつ、主に高像高における歪曲収差、像面湾曲およびコマ収差の良好な補正を可能にしている。
【0014】
なお、本発明における変極点とは、接平面と光軸とが垂直に交わる非球面上の点を意味する。
【0015】
条件式(1)は撮像レンズの最も物体側の面から撮像面までの光軸上の距離(空気換算距離)、すなわち光学全長の最大値を規定するものである。条件式(1)の上限値を超えない光学全長であれば、小型化および薄型化が進む装置へ好適に適用することが出来る。
【0016】
条件式(2)は第1レンズの焦点距離と撮像レンズ全系の焦点距離との比を適切な範囲に規定するものであり、適切なバックフォーカスの確保と光学全長の短縮化および球面収差とコマ収差の良好な補正を可能とするための条件である。条件式(2)の上限値を上回ると、第1レンズのパワーが相対的に弱くなり、球面収差およびコマ収差を補正しやすくなるが、バックフォーカスが長くなり過ぎ、光学全長の短縮化が困難となる。一方、条件式(2)の下限値を下回ると、第1レンズのパワーが相対的に強くなるため、必要以上に光学全長が短縮し、バックフォーカスの確保が困難となると共に球面収差およびコマ収差の良好な補正が困難となる。
【0017】
条件式(2)は、下記条件式(2a)の範囲であれば、より確実な効果が期待できる。
(2a) 0.82<f1/f<0.90
【0018】
条件式(3)はバックフォーカスと光学全長との比を適切な範囲に規定するものであり、条件式(1)を満足する極めて短い光学全長の中に、3枚のレンズを適切な形状に形成可能とし、かつバックフォーカスを十分確保するための条件である。条件式(3)の上限値を上回ると、バックフォーカスが長くなり過ぎて3枚のレンズを配置するためのスペースが不足する。その状態でレンズを構成しようとすると、射出成形上必要なレンズの厚みが確保できない、レンズ面形状の自由度が低下する等の問題が生じる。一方、条件式(3)の下限値を下回ると、光学全長に占めるバックフォーカスの値が小さくなるため、3枚のレンズを配置するためのスペースは十分確保できる。その状態であれば、射出成形上必要なレンズの厚みやレンズ面形状の自由度を確保することができるが、十分なバックフォーカスを確保することができず、第3レンズと撮像素子間に配置するフィルタ類(赤外線カットフィルターや撮像素子の上面側に構成されるカバーガラスなど)を配置するために必要なスペースの確保が困難となる。なお、本発明の撮像レンズは条件式(3)を満足することによって、COB(Chip On Board)タイプの撮像モジュールのみならず、十分なバックフォーカスを必要とするCSP(Chip Size Package)タイプの撮像モジュールにも全く問題なく適用することができる。
【0019】
条件式(3)は、下記条件式(3a)の範囲であれば、より確実な効果が期待できる。
(3a)0.37<bf/TTL<0.40
【0020】
条件式(4)は撮像レンズの小型化および薄型化を実現するための条件であり、条件式(1)、(2)、(3)と同時に満足することによって非常に小型の撮像素子に適応可能な、極めて小型の撮像レンズの実現が可能になる。条件式(4)の上限値を上回ると、最大像高に対して光学全長が長くなるため、撮像レンズの薄型化や小型化に不利となり、装置の薄型化へ寄与することが困難になる。一方、条件式(4)の下限値を下回ると、最大像高に対して光学全長が短くなりすぎ、製造可能な撮像レンズを構成することが非常に困難になる。
【0021】
条件式(4)は、下記条件式(4a)の範囲であれば、より確実な効果が期待できる。
(4a)0.7<TTL/(2IH)<0.8
【0022】
また、本発明の撮像レンズは以下の条件式(5)を満足することが望ましい。
(5)0.02<L3Rsag/bf<0.05
ただし、bfは第3レンズと撮像素子間に配置されたフィルタ類を取り外した際の第3レンズの像側の面から撮像面までの光軸上の距離(バックフォーカス(空気換算距離))、L3Rsagは第3レンズの像側の面の変極点位置における最大サグ量とする。
【0023】
条件式(5)は第3レンズの像側の面の変極点位置における最大サグ量とバックフォーカスとの比を適切な範囲に規定するものであり、撮像レンズの小型化および薄型化と諸収差の良好な補正を可能にするための条件である。条件式(5)の上限値を上回ると、諸収差の良好な補正には有利となるが、第3レンズの像側の面の最も像面に近い点(すなわち変極点)が像側に張り出す量が大きくなる。従って、フィルタ類を配置するために必要なバックフォーカスのうち、配置可能な実質的な空間となるレンズバック(第3レンズの像側の面の最も像面に近い点から、像面までの間隔)を十分に確保することが困難となる。一方、条件式(5)の下限値を下回ると、レンズバックの確保は容易となるが、非球面形状による収差補正の効果が減少し、主に像面湾曲およびコマ収差の良好な補正が困難となる。さらには、撮像素子へ入射する光線の角度を抑制することが困難になってしまうため好ましくない。条件式(5)で規定された範囲を満足することによって、COB(Chip On Board)タイプの撮像モジュールのみならず、十分なレンズバックを必要とするCSP(Chip Size Package)タイプの撮像モジュールにも全く問題なく適用することができる。
【0024】
条件式(5)は、下記条件式(5a)の範囲であれば、より確実な効果が期待できる。
(5a)0.03<L3Rsag/bf<0.05
【0025】
また、本発明の撮像レンズは第3レンズの物体側の面に2つの変極点を有することが望ましい。
【0026】
第3レンズの物体側の面を2つの変極点を有する形状にすることによって、撮像素子へ入射する光線の角度のコントロールが容易となり、さらには高像高における歪曲収差、像面湾曲およびコマ収差を良好に補正することも容易となる。
【0027】
また、本発明の撮像レンズは以下の条件式(6)および条件式(7)を満足することが望ましい。
(6)0.16<Di<0.30
(7)0.04<(Di−Tei)/SDi<0.30
ただし、Diはi番目のレンズの中心厚(i=1〜3)、Teiはi番目のレンズのエッジ厚(i=1〜3)、SDiはi番目のレンズの有効半径(i=1〜3)である。なお、
図11に示すように、本発明におけるレンズの有効半径とは、各レンズの物体側の面と像側の面を通過する上光線のうち、最も光軸から離れた位置を通過する点と光軸とを垂直に結ぶ距離を意味するものとする。また、エッヂ厚とは、各レンズを通過する上光線のうち、最も光軸から離れた位置を通過する物体側の点と像側の点を結ぶ光軸に平行な距離を意味するものとする。
【0028】
条件式(6)は撮像レンズの小型化を達成するための各レンズの中心厚を好ましい範囲に規定するものである。
また、条件式(7)は、各レンズの中心厚とエッジ厚との差とレンズの有効半径との比の範囲を規定するものである。本発明は極めて小型な撮像レンズを実現するものであり、必然的に各レンズも極めて薄型、小型のものになる。一般に熱可塑性のプラスチック材料を用いたレンズの射出成形において、薄く小さなレンズを実現するためには、成形時の流動性を考慮する必要性から、レンズの厚み方向の寸法に関しては、中心からエッジに至るまでの厚みの差を少なくすることが望ましい。また、レンズの径方向の寸法に関しては、径を大きくし過ぎて樹脂の充填不足が生じない程度の大きさにする必要がある。条件式(7)は上述した射出成型における課題を回避するものであり、規定した範囲内にすることによって、流動性の悪化によるレンズ面精度への悪影響や、偏肉形状に伴うヒケの発生等を防止することができる。従って、薄く小さな超小型レンズであっても、成形の不良率を低減させ、量産性を高めることを可能にする。
【0029】
本発明の実施形態においては、中心厚が0.18程度でエッジ厚が0.15程度しかない薄く小さなレンズが含まれているが、条件式(7)の値を規定された数値範囲内に有効半径を設定することによって、このような超小型レンズの成形を実現可能にしている。
【0030】
なお、上述したような超小型のレンズを実現する場合、条件式(7)と合わせて、流動性の高いプラスチック材料を採用することが望ましい。シクロオレフィン系のプラスチック材料であれば、例えば、三井化学のAPL5014CL等やポリカーボネート系のプラスチック材料であれば、例えば、三菱ガス化学のEP5000等を用いるとさらに安定した成形が可能になる。なお、これらの材料は、熱可塑性樹脂の流動性を示す指標であるメルトフローレイト(ISO 1133:1997法/JIS K7210:1999法、280℃、荷重2,160g)の値が38g/10min以上であり、高い流動性を示すものであるため、本発明のような超小型レンズの成形に適している。
【0031】
また、本発明の撮像レンズは以下の条件式(8)を満足することが望ましい。
(8)0.41<(IH/f)/TTL<0.51
ただし、TTLは第3レンズと撮像素子間に配置されたフィルタ類を取り外した際の最も物体側の面から撮像面までの光軸上の距離(空気換算距離)、IHは最大像高、fは撮像レンズ全系の焦点距離である。
【0032】
条件式(8)は撮像レンズの画角を良好な範囲に維持しつつ、小型化および薄型化を実現するための条件である。条件式(8)の上限値を上回ると、光学全長は短くなるが、画角が広がりすぎてしまうため周辺における光量が低下する傾向になる。さらに撮像素子への主光線入射角度のコントロールが困難になるため、周辺の明るさに悪影響を及ぼすばかりでなく、周辺のMTF特性が低下するため撮像レンズの性能を著しく低下させる要因にもなる。一方、条件式(8)の下限値を下回ると、画角が狭くなりすぎ、広角化への対応が不十分となってしまうため好ましくない。
【0033】
条件式(8)は、下記条件式(8a)の範囲であれば、より確実な効果が期待できる。
(8a)0.43<(IH/f)/TTL<0.49
【0034】
また、本発明の撮像レンズは、以下の条件式(9)を満足することが望ましい。
(9)−0.21<f1/f23<−0.15
ただし、f1は第1レンズの焦点距離、f23は第2レンズと第3レンズの合成焦点距離である。
【0035】
条件式(9)は第1レンズの焦点距離と第2レンズと第3レンズの合成焦点距離との比を適切な範囲に規定するものであり、光学全長の短縮化を図ると共に球面収差および歪曲収差を良好に補正するための条件である。条件式(9)の上限値を上回ると、第2レンズと第3レンズの負の合成パワーに対する第1レンズの正のパワーが強くなりすぎるため、光学全長の短縮化には有利となるが、軸上および軸外の色収差が補正不足(基準波長の色収差に対して短波長の色収差がマイナス方向に増大)になる。さらに、歪曲収差も高像高側の収差量がマイナス方向に増大することとなり、樽型の傾向が強くなってしまい好ましくない。一方、条件式(9)の下限値を下回ると、第2レンズと第3レンズの負の合成パワーに対する第1レンズの正のパワーが弱くなりすぎるため、軸上および軸外の色収差が補正過剰(基準波長の色収差に対して短波長の色収差がプラス方向に増大)となるため好ましくない。
【0036】
また、本発明の撮像レンズにおいては、以下の条件式(10)及び条件式(11)を満足することが望ましい。
(10)−5.0<f3/f<−2.0
(11)1.6<r5/r6<2.2
ただし、fは撮像レンズ全系の焦点距離、f3は第3レンズの焦点距離、r5は第3レンズの物体側の面の曲率半径、r6は第3レンズの像側の面の曲率半径である。
【0037】
条件式(10)および条件式(11)は第3レンズのパワーを適切に規定するものであり、適切なバックフォーカスを確保しながら撮像レンズの小型化を図りつつ、色収差を良好な範囲内に抑制するための条件である。条件式(10)および条件式(11)の上限値を上回ると、第3レンズの負のパワーが強くなりすぎ、バックフォーカスが長くなると共に光学全長が長くなり、撮像レンズの小型化に不利となる。一方、条件式(10)および(11)の下限値を下回ると、第3レンズの負のパワーが弱くなりすぎ、光学全長の短縮化には有利だが、軸上および軸外の色収差が大きくなり、良好な結像性能を得ることが困難となる。また、適切なバックフォーカスの確保も困難となる。
【0038】
また、本発明の撮像レンズにおいては、以下の条件式(12)を満足することが望ましい。
(12)0.15<T1/f<0.20
ただし、fは撮像レンズ全系の焦点距離、T1は第1レンズと第2レンズの間の光軸上の空気間隔である。
【0039】
条件式(12)は撮像レンズの小型化を図りつつ、適切なバックフォーカスを確保しながら、良好な収差補正を可能とするための条件である。条件式(12)の上限値を上回ると、各レンズのパワーバランスが崩れ、適切なバックフォーカスを確保することが困難となる。また、第1レンズと第2レンズの空気間隔が広くなりすぎることにより、光学全長が長くなってしまうため好ましくない。一方、条件式(12)の下限値を下回ると、第1レンズと第2レンズの空気間隔が狭くなりすぎ、低像高の光線と高像高の光線が重なり合う領域が発生しやすく、その結果、歪曲収差やコマ収差の良好な補正が困難となる。また、第1レンズと第2レンズの空気間隔が狭くなりすぎると、第1レンズと第2レンズの間の周辺部における空気間隔も狭くなり、製造公差のバラつきによっては双方のレンズが干渉してしまう可能性もある。規定する範囲内とすることによって、各レンズに適切なパワーを配分することが容易となり、十分なバックフォーカスの確保および良好な収差補正が可能となる。
【0040】
条件式(12)は、下記条件式(12a)の範囲であれば、より確実な効果が期待できる。
(12a)0.165<T1/f<0.183
【0041】
また、本発明の撮像レンズにおいては、以下の条件式(13)を満足することが望ましい。
(13)−3.0<(r1+r2)/(r1−r2)<−2.0
ただし、r1は第1レンズの物体側の面の曲率半径、r2は第1レンズの像側の面の曲率半径である。
【0042】
条件式(13)は第1レンズの物体側の面と像側の面の対称性に関する形状係数であり、第1レンズの形状を適切に設定する条件である。条件式(13)の上限値を上回ると第1レンズの物体側の面と像側の面の形状が対称に近づき、色収差が悪化する傾向となる。また、第1レンズの像側主点位置が像側へ移動するため、光学全長の短縮化に不利になる。一方、条件式(13)の下限値を下回ると、第1レンズの像側主点位置が物体側に移動するため光学全長の短縮化には有効だが、第1レンズの物体側の面の曲率半径あるいは第1レンズの像側の面の曲率半径が小さくなりすぎ、製造誤差感度が高くなるため好ましくない。
【0043】
条件式(13)は、下記条件式(13a)の範囲であれば、より確実な効果が期待できる。
(13a)−2.7<(r1+r2)/(r1−r2)<−2.4