【実施例】
【0045】
(実施例1)
以下では実施例1の詳細について説明する。実施例1はニッケル−スズ−クロム合金多孔体であり、本発明の実施の一形態である。
【0046】
(3次元網目状樹脂の導電化処理)
最初に3次元網目状樹脂(樹脂材料からなる多孔体基材の実施の一形態)として、1.5mm厚の発泡ポリウレタンシート(孔径0.45mm)を用意した。続いて体積平均粒径0.5μmのグラファイト90g、体積平均粒径5μmのクロム粒子12gを0.5Lの10%wt%アクリル酸エステル系樹脂水溶液に分散し、この比率で粘着塗料を作製した。
次に前記発泡ポリウレタンシートを前記塗料に連続的に漬け、ロールで絞った後乾燥させることによって導電化処理を施し、3次元網目状樹脂の表面に導電性被覆層を形成した。なお、導電性塗料の粘度は増粘剤によって調整し、所望の合金組成となるように、乾燥後の導電性塗料の塗布重量が69g/m
2となるよう調整した。
この工程を経ることにより、3次元網目状樹脂の表面にカーボン粉末及びクロム粒子を含む導電性塗料の塗膜が形成される。
【0047】
(金属めっき工程)
導電化処理を施した3次元網目状樹脂に、電気めっきによりニッケルを300g/m
2、次いでスズを42g/m
2付着させ、電気めっき層(ニッケルの層およびスズの層の実施の一形態)を形成した。めっき液としては、ニッケルはスルファミン酸ニッケルめっき液、スズは硫酸浴を用いた。
この工程を経ることにより、カーボン粉末及びクロム粒子を含む導電性塗料の塗膜の上にニッケルめっき層及びスズめっき層が形成される。
【0048】
(熱処理工程)
上記工程で得られた金属多孔体について、まず大気中800℃で15分熱処理を行い、3次元網目状樹脂及びバインダを焼失させた(除去工程の実施の一形態)。その後水素雰囲気1000℃で50分の熱処理を行い、大気熱処理で酸化した金属を還元すると共に、熱拡散による合金化を行った(拡散工程の実施の一形態)。
この工程を経ることにより、3次元網目状樹脂は熱分解により除去される。そして、導電性被覆層に含まれるクロム粒子とニッケルめっき層、スズめっき層は、導電性被覆層に含まれるカーボン粉末によって還元され、さらに導電性被覆層に含まれるクロム成分とニッケルめっき層及びスズめっき層は熱拡散により合金化する。最終的に厚さ1.5mm、目付量350g/m
2、ニッケル86%、スズ12%、クロム2%の合金多孔体を得た。
【0049】
(実施例2)
以下では実施例2の詳細について説明する。実施例2はニッケル−クロム−スズ合金多孔体であり、本発明の実施の一形態である。実施例2は基本的には上記実施例1と同様の手順で作製され、最終的な厚さは1.5mm、目付量は350g/m
2、組成はニッケル76%、スズ12%、クロム12%である。
【0050】
(比較例1)
以下では比較例1たるニッケル−スズ合金多孔体の詳細について説明する。
【0051】
(3次元網目状樹脂の導電化処理)
最初に3次元網目状樹脂として1.5mm厚の発泡ポリウレタンシート(孔径0.45mm)を用意した。続いて体積平均粒径0.5μmのグラファイト90gを0.5Lの10%wt%アクリル酸エステル系樹脂水溶液に分散し、この比率で粘着塗料を作製した。
次に前記発泡ポリウレタンシートを前記塗料に連続的に漬け、ロールで絞った後乾燥させることによって導電化処理を施し、3次元網目状樹脂の表面に導電性被覆層を形成した。なお、導電性塗料の粘度は増粘剤によって調整し、所望の合金組成となるように、乾燥後の導電性塗料の塗布重量が55g/m
2となるよう調整した。
この工程を経ることにより、3次元網目状樹脂の表面にカーボン粉末を含む導電性塗料の塗膜が形成される。
【0052】
(金属めっき工程)
導電化処理を施した3次元網目状樹脂に電気めっきによりニッケルを300g/m
2、スズを53g/m
2付着させ、電気めっき層を形成した。めっき液としては、ニッケルはスルファミン酸ニッケルめっき液、スズは硫酸浴を用いた。
この工程を経ることにより、カーボン粉末を含む導電性塗料の塗膜の上にニッケルめっき層及びスズめっき層が形成される。
【0053】
(熱処理工程)
上記工程で得られた金属多孔体について、まず大気中800℃で15分熱処理を行い、3次元網目状樹脂及びバインダを焼失させた。その後水素雰囲気1000℃で50分の熱処理を行い、大気熱処理で酸化した金属を還元すると共に熱拡散による合金化を行った。
この工程を経ることにより、3次元網目状樹脂は熱分解により除去される。そして、ニッケルめっき層およびスズめっき層は導電性被覆層に含まれるカーボン粉末によって還元され、熱拡散により合金化する。最終的に厚さ1.5mm、目付量350g/m
2、ニッケル85%、スズ15%の合金多孔体を得た。
【0054】
(比較例2)
以下では比較例2たるニッケル−クロム合金多孔体の詳細について説明する。
【0055】
(3次元網目状樹脂の導電化処理)
最初に3次元網目状樹脂として1.5mm厚の発泡ポリウレタンシート(孔径0.45mm)を用意した。続いて体積平均粒径0.5μmのグラファイト90gを0.5Lの10%wt%アクリル酸エステル系樹脂水溶液に分散し、この比率で粘着塗料を作製した。
次に前記発泡ポリウレタンシートを前記塗料に連続的に漬け、ロールで絞った後乾燥させることによって導電化処理を施し、3次元網目状樹脂の表面に導電性被覆層を形成した。なお、導電性塗料の粘度は増粘剤によって調整し、所望の合金組成となるように、乾燥後の導電性塗料の塗布重量が55g/m
2となるよう調整した。
この工程を経ることにより、3次元網目状樹脂の表面にカーボン粉末を含む導電性塗料の塗膜が形成される。
【0056】
(金属めっき工程)
導電化処理を施した3次元網目状樹脂に、電気めっきによりニッケルを300g/m
2付着させ、電気めっき層を形成した。めっき液としては、ニッケルはスルファミン酸ニッケルめっき液を用いた。
この工程を経ることにより、カーボン粉末を含む導電性塗料の塗膜の上にニッケルめっき層が形成される。
【0057】
(熱処理工程)
上記工程で得られた金属多孔体について、まず大気中800℃で15分熱処理を行い、3次元網目状樹脂及びバインダを焼失させた。その後水素雰囲気1000℃で50分の熱処理を行い、大気熱処理で酸化した金属を還元した。
この工程を経ることにより、3次元網目状樹脂は熱分解により除去される。そして、ニッケルめっき層は導電性被覆層に含まれるカーボン粉末によって還元される。
【0058】
(クロム拡散工程)
上記工程で得られたニッケル多孔体にクロマイズ処理(粉末パック法)にてクロムを拡散させた。ニッケル多孔体にクロム粉末、塩化アンモニウム及びアルミナ粉末を混合して得られた浸透材(クロム:90wt%、NH
4Cl:1wt%、Al
2O
3:9wt%)を充填し、水素ガス雰囲気中で800℃に加熱してニッケル−クロム合金多孔体を得た。
上記クロマイズ処理において、クロマイズ処理の加熱時間を調整することにより、最終的に厚さ1.5mm、目付量460g/m
2、ニッケル65%、クロム35%の合金多孔体を得た。
【0059】
(耐食性試験)
得られた金属多孔体の耐食性評価の手法として、ASTM G5−94に基づいた試験を行った。アノード分極曲線測定に用いる酸性水溶液は、1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液を調整し、硫酸によってpHを調節したものを用いた。また、試験温度は60℃とし、試験中は水素バブリングを行って水素飽和状態とした。ボルタンメトリーの電位範囲は標準水素電極基準とし、燃料電池中で実際に印可されると考えられる0Vから1.0Vまでとし、掃引速度は5mV/sとした。
【0060】
(試験結果1)
図1に代表的な電位0.0V、0.4Vおよび0.8Vにおける電流値をプロットしたものを示す。電流はサンプルの見かけ面積で規格化した。
図1の横軸は標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode)に対する電位であり、縦軸は測定対象の電流値をサンプルの見かけ面積で規格化した値である。
図1に示すとおり、実施例1および実施例2は0V、0.4Vおよび1.0Vにおいて比較例1に比べて電流値が小さく、耐食性が高いことが分かる。また、比較例2と比較した場合、実施例1および実施例2は0Vおよび0.4Vにおける電流値は大きいが、1.0Vにおける電流値が比較例2の1/5程度になっており、高電圧側の耐食性が優れていることが分かる。
【0061】
(試験結果2)
実施例1、実施例2および比較例2の耐久性を比較するため、試験結果1に示す耐食性試験を5回繰り返したときの電流値の変化を測定した。測定結果を
図2から
図4に示す。
図2から
図4の横軸は標準水素電極に対する電位であり、縦軸は測定対象の電流値をサンプルの見かけ面積で規格化した値である。
図2および
図3に示すとおり、実施例1および実施例2では、耐食性試験を繰り返したときの0Vの電流値は余り変化しないが、0.4Vおよび1.0Vの電流値が低下し、耐食性が向上することが分かった。
一方、
図4に示すとおり、比較例2について同様の試験を実施した場合、0V、0.4Vおよび1.0Vのすべてにおいて電流値が増加し、耐食性が低下していることが分かった。当該試験により、実施例1および実施例2は比較例2に比べて耐久性に優れることが分かった。
【0062】
試験結果1および試験結果2より、特に運転時に1.0V付近で電圧が一定となる燃料電池用途において、実施例1および実施例2は比較例1および比較例2に比べて耐食性に優れ、有用であることが分かった。