特許第5952183号(P5952183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5952183クロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952183
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】クロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20160630BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20160630BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20160630BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20160630BHJP
   C10M 133/56 20060101ALN20160630BHJP
   C10M 133/54 20060101ALN20160630BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20160630BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20160630BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20160630BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20160630BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20160630BHJP
   C10N 40/26 20060101ALN20160630BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M101/02
   !C10M137/10 A
   !C10M159/22
   !C10M133/56
   !C10M133/54
   C10N10:04
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N30:04
   C10N30:08
   C10N40:26
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-286117(P2012-286117)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-125629(P2014-125629A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】竹島 茂樹
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−523733(JP,A)
【文献】 特開2006−328403(JP,A)
【文献】 特開2011−032406(JP,A)
【文献】 特開2006−241436(JP,A)
【文献】 特開2007−246659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃での動粘度が8.2〜12.6mm2/sで且つ飽和炭化水素分が90質量%以上である基油(A)に、
金属系清浄剤(B)と、
ジチオリン酸亜鉛(C)と
を配合してなり、
前記金属系清浄剤(B)を組成物100g当たり石鹸分含有濃度として2.5mmol以上含有し、
リン分が200〜1000質量ppmであり、
塩基価が7.5mgKOH/g以上である
ことを特徴とするクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物。
【請求項2】
前記基油(A)が、グループII基油及び/又はグループIII基油を含む、請求項1に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物。
【請求項3】
前記塩基価が8.0mgKOH/g以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物。
【請求項4】
前記金属系清浄剤(B)として、Caサリシレートを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物。
【請求項5】
更に、無灰系分散剤(D)を組成物全量基準で窒素分として0.04〜0.2質量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッド型ディーゼル機関には、シリンダーとピストン間を潤滑するシリンダー油と、その他の部位の潤滑と冷却を司るシステム油が使用されている(下記特許文献1〜6参照)。そして、舶用のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム油は、ピストンアンダークラウンに供給されピストンを冷却しているが、ピストンアンダークラウンは高温となっており、スラッジ等が堆積すると熱交換の効率が低下し、熱によるピストンの損傷(ピストン割れ)が発生する。舶用のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム油は、他のエンジン油と異なり燃焼室内の燃焼ガスと直接接触することはなく、一種の作動油と言えるが、シリンダー油のドリップ油が混入してシステム油が汚染されると、耐熱性が低下して、コーキングし易くなり、ピストン冷却面にスラッジが堆積する恐れがある。そのため、クロスヘッド型ディーゼル機関のシステム油にとっては、高温清浄性と、耐コーキング性が重要な性能である。
【0003】
ところで、従来の潤滑油に使用される基油は、主として、原油からガソリンや軽油分を蒸留分離した後の常圧蒸留残渣油を、さらに減圧蒸留し、必要とする粘度留分を取り出し、それを精製して製造されている。これらの基油はAPIの基油分類でグループIに分類されるものである。
【0004】
近年では、基油に含まれる硫黄分並びに芳香族分が、基油の酸化安定性に悪影響を与えるため、上記残渣油を水素化分解し、硫黄分や芳香族分が極めて少ない基油が製造されるようになってきている。また、フィッシャー・トロプシュ法で製造されるワックスや基油を製造する際に副生する石油系ワックス等を水素化分解して、極めて粘度指数の高い基油が製造されている。これらの水素化分解して製造された基油は、APIの基油分類でグループIIあるいはIIIに分類されるものである。
【0005】
前者の基油(グループI)の精製過程では、フルフラール、フェノール、メチルピロリドン等の溶剤を使用して、芳香族分を中心とする、不安定な化合物を選択的に抽出除去するプロセスが多く採用されている。これに対し、後者の基油の製造方法では、基油中の芳香族分は極めて少なく、前述した溶剤精製工程を経る必要はほとんどない。このため、相対的に溶剤精製プロセスを経た基油(即ち、グループI基油)の製造量が減少しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−231115号公報
【特許文献2】特開2010−523733号公報
【特許文献3】特開2002−275491号公報
【特許文献4】特表2009−185293号公報
【特許文献5】特表2010−519376号公報
【特許文献6】特開2011−74387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、本発明者が、クロスヘッド型ディーゼル機関用システム油の基油として、グループIの基油の代わりに、グループIIやグループIIIの基油のような飽和炭化水素分が高い基油を用いたところ、システム油にシリンダー油のドリップ油が混入すると、システム油の耐コーキング性(耐熱性)が低下することが分かった。
【0008】
そこで、本発明は、グループIIやグループIIIの基油のような飽和炭化水素分が高い基油を使用してもデポジットの生成が少なく、高温清浄性及び耐コーキング性(耐熱性)に優れたクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、飽和炭化水素分が高い基油を使用しつつ、金属系清浄剤とジチオリン酸亜鉛を添加し、更に、金属系清浄剤の含有量を石鹸分含有濃度として特定値以上とすることにより、上記課題を改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物は、
・100℃での動粘度が8.2〜12.6mm2/sで且つ飽和炭化水素分が90質量%以上である基油(A)に、
・金属系清浄剤(B)と、
・ジチオリン酸亜鉛(C)と
を配合してなり、
・前記金属系清浄剤(B)を組成物100g当たり石鹸分含有濃度として2.5mmol以上含有し、
・リン分が200〜1000質量ppmであり、
・塩基価が7.5mgKOH/g以上である
ことを特徴とする。
【0011】
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物の好適例においては、前記基油(A)が、グループII基油及び/又はグループIII基油を含む。
【0012】
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物の他の好適例においては、前記塩基価が8.0mgKOH/g以上である。
【0013】
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物は、前記金属系清浄剤(B)として、Caサリシレートを含有することが好ましい。
【0014】
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物は、更に、無灰系分散剤(D)を組成物全量基準で窒素分として0.04〜0.2質量%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、グループIIやグループIIIの基油のような飽和炭化水素分が高い基油を使用してもデポジットの生成が少なく、高温清浄性及び耐コーキング性(耐熱性)に優れたクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物(以下、単に潤滑油組成物ともいう)における基油(A)は、100℃での動粘度が8.2〜12.6mm2/sであり、飽和炭化水素分が90質量%以上である。
【0017】
上記基油(A)の100℃での動粘度は、8.2〜12.6mm2/sの範囲であり、好ましくは8.5〜12.6mm2/s、より好ましくは10.0〜12.3mm2/s、より一層好ましくは11.0〜12.0mm2/sの範囲である。基油(A)の100℃での動粘度が8.2mm2/s未満では、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣る恐れがある。また、基油(A)の100℃での動粘度の12.6mm2/sを超えると、低温時の流動性に問題が発生することが懸念される。なお、本発明において、100℃での動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を指す。
【0018】
また、上記基油(A)は、飽和炭化水素分が90質量%以上であり、API(米国石油学会)による基油分類に基づく分類でグループII及びグループIIIに分類されるものを含有することが好ましい。なお、本発明において、飽和炭化水素分は、ASTM D−2007で測定された値を意味する。
【0019】
上記基油(A)の製造方法については、特に制限はないが、一般的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を、脱硫、水素化分解し、設定された粘度グレードに分留、あるいはその残油を溶剤脱ろう、あるいは接触脱ろうし、必要であればさらに、溶剤抽出、水素化し基油としたものである。
【0020】
上記基油(A)には、また、近年は、常圧蒸留残油をさらに減圧蒸留し、必要な粘度グレードに分留した後、溶剤精製、水素化精製等のプロセスを経て、溶剤脱ろうして製造する基油製造過程において、脱ろう過程において副性する、石油系ワックスを、水素化異性化した石油系ワックス異性化潤滑油基油や、フィッシャー・トロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造されるGTL系ワックス異性化潤滑油基油等も含まれる。この場合のワックス異性化潤滑油基油の製造方法は、基本的な製造過程は水素化分解基油の製造方法と同じである。
【0021】
上記基油(A)の全芳香族分は、特に制限はないが、一実施態様では3質量%以下であり、他の実施態様では1質量%以下であり、更に他の実施態様では0.5質量%以下である。ここで、基油(A)の全芳香族分が少ないほど、即ち、芳香族性が低いほど、スラッジの溶解性の問題が発生し易いことになる。なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分含有量を意味する。
【0022】
また、上記基油(A)の硫黄分は、特に制限はないが、一実施態様では0.03質量%以下であり、他の実施態様では0.01質量%以下であり、また、更に他の実施態様では、該基油(A)は、実質的に硫黄を含有しない。ここで、硫黄分が少ないほど精製度が高いことを意味し、スラッジの溶解性の問題が発生し易いことになる。
【0023】
本発明の潤滑油組成物の基油(A)は、粘度指数が80以上であることが好ましく、85以上であることが更に好ましく、90以上であることが特に好ましい。基油の粘度指数が80未満であると、低温での粘度が高くなり始動性が悪化する恐れがある。なお、本発明において、粘度指数は、JIS K2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0024】
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物は、必須成分として、金属系清浄剤(B)を含有する。
【0025】
上記金属系清浄剤(B)としては、潤滑油用に通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、スルホネート系清浄剤、フェネート系清浄剤、サリシレート系清浄剤が挙げられ、これらの中でも、サリシレート系清浄剤が好ましく、Ca塩のサリシレート系清浄剤(即ち、Caサリシレート)が特に好ましい。潤滑油組成物がCaサリシレートを含む場合、水分離性に優れるため、潤滑油組成物の加水分解安定性が大幅に向上する。また、使用に際しては、これら金属系清浄剤を単独あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
上記スルホネート系清浄剤としては、例えば、重量平均分子量400〜1500、好ましくは700〜1300のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ土類金属塩又はその(過)塩基性塩を用いることができる。アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。アルキル芳香族スルフォン酸としては、例えば、いわゆる石油スルフォン酸や合成スルフォン酸が挙げられる。ここでいう石油スルフォン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また、合成スルフォン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルフォン化したものが用いられる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルフォン化する際のスルフォン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0027】
上記フェネート系清浄剤としては、下記式(1)に示される構造を有する、アルキルフェノールサルファイドのアルカリ土類金属塩又はその(過)塩基性塩を用いることができる。アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。
【化1】
【0028】
式(1)中、R1は炭素数6〜21の直鎖または分枝、飽和または不飽和のアルキル基又はアルケニル基を示し、mは重合度であって1〜10の整数、Sは硫黄元素、xは1〜3の整数を示す。
【0029】
式(1)におけるアルキル基及びアルケニル基の炭素数は、好ましくは9〜18、より好ましくは9〜15である。炭素数が6未満では基油に対する溶解性に劣るおそれがあり、一方、炭素数が21を超える場合は製造が困難で、また耐熱性に劣るおそれがある。
【0030】
フェネート系金属清浄剤の中では、式(1)に示される重合度mが1〜4のアルキルフェノールサルファイド金属塩を含有するものが、耐熱性が優れるため好ましい。
【0031】
上記サリシレート系清浄剤としては、下記式(2)で表される金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩が好ましい。
【化2】
【0032】
上記式(2)中、R2はそれぞれ独立してアルキル基又はアルケニル基であり、Mはアルカリ土類金属を示し、好ましくはカルシウム又はマグネシウムであり、カルシウムが特に好ましく、nは1又は2である。
【0033】
また、上記サリシレート系清浄剤としては、好ましくはアルキル基又はアルケニル基を分子中に1つ有するアルカリ土類金属のサリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩が好ましい。
【0034】
上記アルカリ土類金属サリシレートの製造方法としては、特に制限はなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができ、例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいはサリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基を反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により上記アルカリ土類金属サリシレートが得られる。
【0035】
上記サリシレート系清浄剤としては、上記のようにして得られた中性塩だけでなく、さらにこれら中性塩と過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基(アルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で中性塩をアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
【0036】
本発明の潤滑油組成物は、上記金属系清浄剤(B)を組成物100g当たり石鹸分含有濃度として2.5mmol以上含有し、好ましくは2.55mmol以上、より好ましくは2.6mmol以上、また、好ましくは15.0mmol以下、より好ましくは8.0mmol以下、さらに好ましくは6.0mmol以下含有する。潤滑油組成物における金属系清浄剤(B)の含有量が、石鹸分含有濃度として2.5mmol/100g未満では、潤滑油組成物の高温清浄性及び耐コーキング性(耐熱性)を十分に向上させることができない。
【0037】
なお、本発明において、金属系清浄剤(B)の石鹸分含有濃度は、以下の式に従って計算される。
金属系清浄剤の石鹸分含有濃度(mmol/100g)
=10×Σ{(金属系清浄剤配合量[質量%]×金属系清浄剤中の金属含有量[質量%])/(金属比×金属原子量)}
【0038】
また、上記式中の金属比は、以下の式に従って計算される。
金属比=全金属分/石鹸分子に起因する金属分の質量比
【0039】
ここで、石鹸分子としては、スルホン酸及びその誘導体、フェノール及びその誘導体、サリチル酸及びその誘導体等が挙げられる。
【0040】
本発明の潤滑油組成物において、上記金属系清浄剤(B)の含有割合は、組成物全量基準で、好ましくは1.5〜31質量%、より好ましくは2.0〜25質量%、特に好ましくは3.0〜8.0質量%である。金属系清浄剤(B)の含有割合が1.5質量%未満の場合は、必要とする清浄性および酸中和性が得られないおそれがあり、一方、30質量%を超える場合は、遠心清浄機において乳化するおそれがある。
【0041】
本発明の潤滑油組成物において、上記金属系清浄剤(B)成分に基づく金属分の含有割合は、組成物全量基準で、好ましくは0.14〜0.72質量%、より好ましくは0.17〜0.54質量%、特に好ましくは0.21〜0.36質量%である。金属系清浄剤(B)に基づく金属分の含有割合が0.14質量%未満の場合は、必要とする清浄性および酸中和性が得られないおそれがあり、一方、0.72質量%を超える場合は、過剰な金属分が粗粒化し遠心分離機においてスラッジ化するおそれがある。
【0042】
上記金属系清浄剤(B)の塩基価は、50〜500mgKOH/gの範囲が好ましく、100〜450mgKOH/gの範囲がより好ましく、120〜400mgKOH/gの範囲が更に好ましい。塩基価が50mgKOH/g未満の場合は、腐食摩耗が増大するおそれがあり、一方、500mgKOH/gを超える場合は、溶解性に問題を生ずるおそれがある。
【0043】
上記金属系清浄剤(B)の金属比は特に制限はないが、下限が好ましくは1以上、より好ましくは1.3以上、特に好ましくは2.0以上、上限が好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、特に好ましくは3.0以下のものを使用することが望ましい。
【0044】
また、本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物は、必須成分としてジチオリン酸亜鉛(C)(ZnDTP)を含有する。
【0045】
上記ジチオリン酸亜鉛(C)としては、下記式(3)で表される化合物が好ましい。
【化3】
【0046】
上記式(3)中、R3は、それぞれ個別に、炭素数1〜24の炭化水素基を示すが、これら炭素数1〜24の炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基であることが好ましい。また、炭化水素基は、好ましく炭素数3以上であり、また好ましくは炭素数12以下であり、さらに好ましくは8以下である。また、アルキル基としては第1級でも、第2級でも、第3級であってもよいが、第1級もしくは第2級もしくはその混合物が好ましく、第1級であることが最も好ましい。
【0047】
上記ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)としては、例えば、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジヘプチルジチオリン酸亜鉛、又はジオクチルジチオリン酸亜鉛等の炭素数3〜18、好ましくは炭素数3〜10の直鎖状若しくは分枝状(第1級、第2級又は第3級、好ましくは第1級又は第2級)アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛;ジフェニルジチオリン酸亜鉛、又はジトリルジチオリン酸亜鉛等の炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜10のアリール基若しくはアルキルアリール基を有するジ((アルキル)アリール)ジチオリン酸亜鉛、又はこれら2種以上の混合物が挙げられる。
【0048】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法は、特に限定されず、例えば、前記R3に対応するアルキル基を持つアルコールを五硫化二リンと反応させてジチオリン酸を合成し、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。
【0049】
本発明の潤滑油組成物において、上記ジチオリン酸亜鉛(C)の含有割合は、組成物全量基準で、好ましくは0.25〜1.4質量%、より好ましくは0.4〜1.0質量%、特に好ましくは0.5〜0.7質量%である。また、上記ジチオリン酸亜鉛(C)は、組成物のリン分が200〜1000質量ppmとなるように添加することが好ましく、より好ましくは300質量ppm以上、より一層好ましくは350質量ppm以上、特に好ましくは400質量ppm以上、また、より好ましくは800質量ppm以下、より一層好ましくは700質量ppm以下、特に好ましくは600質量ppm以下となるように添加する。ジチオリン酸亜鉛(C)由来のリン分が200質量ppm以上であれば、必要なギヤ性能を確保でき、また、1000質量ppm以下であれば、加水分解による塩基価の低下を避けることができる。
【0050】
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物は、上記構成成分に加え、更に、無灰系分散剤(D)を含有することが好ましい。
【0051】
上記無灰分散剤(D)としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400、好ましくは60〜350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、マンニッヒ系分散剤、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0052】
前記含窒素化合物又はその誘導体のアルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合、潤滑油基油に対する溶解性が低下するおそれがあり、一方、400を超える場合は、本発明の潤滑油組成物の低温流動性が悪化するおそれがある。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよく、好ましくは、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基が挙げられる。
【0053】
上記無灰分散剤(D)としては、例えば、以下の(D−1)成分〜(D−3)成分から選択される1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
(D−1)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体、
(D−2)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体、
(D−3)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
【0054】
上記(D−1)成分としては、下記式(4)又は式(5)で示される化合物が例示できる。
【化4】
【0055】
式(4)中、R4は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、hは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0056】
一方、式(5)中、R5は、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、特に好ましくはポリブテニル基である。また、iは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
【0057】
上記(D−1)成分には、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(4)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(5)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれるが、本発明の組成物には、それらのいずれも、あるいはこれらの混合物が含まれていてもよい。
【0058】
上記(D−1)成分であるコハク酸イミドの製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。ここで、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが例示できる。
【0059】
上記(D−2)成分としては、下記式(6)で表される化合物が例示できる。
【化5】
【0060】
式(6)中、R6は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、jは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0061】
上記(D−2)成分であるベンジルアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させる方法が挙げられる。
【0062】
上記(D−3)成分としては、下記式(7)で表される化合物が例示できる。
7−NH−(CH2CH2NH)k−H ・・・(7)
【0063】
式(7)中、R7は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、kは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0064】
上記(D−3)成分であるポリアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させる方法が挙げられる。
【0065】
無灰分散剤(D)として例示した含窒素化合物の誘導体としては、例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30の、脂肪酸等のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる含酸素有機化合物による変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物にリン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるリン酸変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物、特にビスタイプのアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物は、潤滑油組成物の耐熱性を更に向上させることができる。
【0066】
本発明の潤滑油組成物において、上記無灰分散剤(D)の含有割合は、組成物全量基準で窒素分として、好ましくは0.04質量%以上、より好ましくは0.07質量%以上、また、好ましくは0.2質量%以下である。無灰分散剤(D)の含有割合が、組成物全量基準で窒素分として0.2質量%を超えると遠心清浄機におけるきょう雑物の分離性の低下および乳化のおそれがある。また、無灰分散剤(D)の含有割合が、組成物全量基準で窒素分として、0.04質量%以上であれば、潤滑油組成物の耐コーキング性(耐熱性)を十分に向上させることができる。
【0067】
本発明の潤滑油組成物は、その性能を更に向上させるため又は他に要求される性能を付加するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤をさらに含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、消泡剤、流動点降下剤、金属不活性化剤、極圧剤等が挙げられる。
【0068】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等の無灰酸化防止剤等あるいは金属系酸化防止剤が挙げられる。これらの中では高温清浄性能の維持性の点で、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤が好ましい。本発明の潤滑油組成物に酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、アミン系酸化防止剤においては0.3質量%以上が特に好ましく、フェノール系酸化防止剤においては0.15質量%以上が特に好ましい。また、酸化防止剤の含有量の上限は特に限定されるものではないが、組成物全量基準で、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0069】
上記消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。本発明の潤滑油組成物に消泡剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.0005〜1質量%の範囲から選ばれ、また、該消泡剤がケイ素を含む場合、組成物のSi分が5〜50質量ppmとなるように添加することが好ましい。
【0070】
上記流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。本発明の潤滑油組成物に流動点降下剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%の範囲から選ばれる。
【0071】
上記金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルが挙げられる。本発明の潤滑油組成物に金属不活性化剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.005〜1質量%の範囲から選ばれる。
【0072】
上記極圧剤としては、例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。本発明の潤滑油組成物において、極圧剤を使用する場合、その含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0073】
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物は、リン分が200〜1000質量ppmであり、好ましくは300質量ppm以上、より好ましくは350質量ppm以上、より一層好ましくは400質量ppm以上であり、また、好ましくは800質量ppm以下、より好ましくは700質量ppm以下、より一層好ましくは600質量ppm以下である。潤滑油組成物のリン分が200質量ppm未満では、PTO(Power Take−off)におけるギヤ性能が不足し、一方、1000質量ppmを超えると、ZnDTPの加水分解生成物と清浄剤が反応し清浄剤を消耗させることにより塩基価維持性が低下するおそれがある。
【0074】
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物は、クロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物として必要な塩基価を有する必要があり、具体的には、塩基価が7.5mgKOH/g(過塩素酸法)以上であり、好ましくは8.0mgKOH/g以上であり、また、好ましくは20mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g以下である。潤滑油組成物の塩基価が7.5mgKOH/g未満では、耐熱性及び清浄性が不足する。また、潤滑油組成物の塩基価が20mgKOH/gを超えると、混入した夾雑物を清浄機にて除去し難くなる。なお、本発明において、塩基価は、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0075】
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物は、クロスヘッド型ディーゼル機関用システム潤滑油組成物として必要な動粘度を有する必要があり、100℃での動粘度が好ましくは8.2mm2/s以上、より好ましくは9.3mm2/s以上、また、好ましくは12.6mm2/s未満、より好ましくは12.0mm2/s未満である。潤滑油組成物の100℃での動粘度が8.2mm2/s未満では、油膜形成能が不足して、軸受が焼きつく恐れがあり、一方、100℃での動粘度が12.6mm2/s以上では、ピストン冷却面の冷却が不足して、ピストンの焼損が発生するおそれ及び高粘度により始動性を悪化させるおそれがある。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
(参考例、実施例1〜11、比較例1〜6)
表1〜2に示す配合処方の潤滑油組成物を調製し、JPI−5S−55−99に準拠してホットチューブ試験及びASTM D2619を修正した加水分解試験を実施した。結果を表1〜2に示す。なお、表1〜2中、基油の量は、基油全量基準での含有量であり、一方、添加剤の量は、組成物全量基準での含有量である。
【0078】
<ホットチューブ試験>
各試験油90質量%とシリンダー油のドリップ油10質量%との混合油を用いて、JPI−5S−55−99に準拠して、270℃、280℃及び290℃でホットチューブ試験を実施しし、試験後のテストチューブ変色部の色相の濃さの評点[0点(黒色)から10点(透明=最良)の間]で評価した。評点が高いほど、高温清浄性に優れることを示す。また、表2中、「閉塞」は、ガラス管が閉塞し、耐コーキング性が悪いことを示す。
【0079】
なお、使用したシリンダー油のドリップ油は、VLCC(中東〜日本)に搭載されたクロスヘッド型ディーゼル機関より採取したものであり、その性状は、100℃での動粘度が28.1mm2/s、酸価が7.5mgKOH/g、塩基価(過塩素酸法)が24.1mgKOH/g、ペンタン不溶分(A法)が6.0質量%である。
【0080】
<加水分解試験>
試料(供試油100g/蒸留水10g)をコーク瓶に充填し、93℃の恒温槽内で5rpmで回転させることにより撹拌し、24時間後の試料に対して40000Gで1時間遠心分離を行い、水エマルションを分離し、上澄み油の塩基価を測定した。塩基価が高い程、加水分解安定性に優れることを示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
鉱油系基油1:グループII基油、500N、40℃での動粘度=93.9mm2/s、100℃での動粘度=10.7mm2/s、硫黄分=0.00質量%、飽和炭化水素分=98.9質量%、全芳香族分=0.9質量%
鉱油系基油2:グループII基油、500N、40℃での動粘度=108mm2/s、100℃での動粘度=12.0mm2/s、硫黄分=0.00質量%、飽和炭化水素分=94.5質量%、全芳香族分=5.1質量%
鉱油系基油3:グループII基油、2050、40℃での動粘度=387mm2/s、100℃での動粘度=29.4mm2/s、硫黄分=0.00質量%、飽和炭化水素分=99.1質量%、全芳香族分=0.7質量%
鉱油系基油4:グループI基油、150N、40℃での動粘度=30.6mm2/s、100℃での動粘度=5.25mm2/s、硫黄分=0.48質量%、飽和炭化水素分=71.5質量%、全芳香族分=28.0質量%
鉱油系基油5:グループI基油、500N、40℃での動粘度=95.3mm2/s、100℃での動粘度=10.8mm2/s、硫黄分=0.62質量%、飽和炭化水素分=56.5質量%、全芳香族分=42.9質量%
鉱油系基油6:グループI基油、2600(ブライトストック)、40℃での動粘度=481mm2/s、100℃での動粘度=31.7mm2/s、硫黄分=0.52質量%、飽和炭化水素分=46.3質量%、全芳香族分=53.3質量%
【0084】
Caサリシレート:塩基価=170mgKOH/g、Ca含有量=6.0質量%、金属比=2.3
Caフェネート:塩基価=255mgKOH/g、Ca含有量=9.3質量%、金属比=3.9
Caスルホネート1:塩基価=320mgKOH/g、Ca含有量=12.5質量%、金属比=10.7
Caスルホネート2:塩基価=20mgKOH/g、Ca含有量=2.5質量%、金属比=1.34
ZnDTP:1級、上記式(3)で表され、R3が2−エチルヘキシル基である化合物、P含有量=7.4質量%
無灰分散剤:ポリイソブテニルコハク酸イミド、38mgKOH/g、窒素含有量=1.75質量%
【0085】
実施例1〜11と比較例1〜6の結果から、金属系清浄剤(B)を組成物100g当たり石鹸分含有濃度として2.5mmol以上含有し、組成物の塩基価を7.5mgKOH/g以上とすることで、潤滑油組成物の高温清浄性及び耐コーキング性(耐熱性)が向上することが分かる。
【0086】
また、実施例1〜4、6及び9〜11と実施例5、7及び8の結果から、金属系清浄剤(B)として、Caサリシレートを含有することで、潤滑油組成物の加水分解安定性が大幅に向上することが分かる。
【0087】
以上の結果から、100℃での動粘度が8.2〜12.6mm2/sで且つ飽和炭化水素分が90質量%以上である基油(A)に、金属系清浄剤(B)とジチオリン酸亜鉛(C)とを配合し、金属系清浄剤(B)を組成物100g当たり石鹸分含有濃度として2.5mmol以上含有させ、リン分を200〜1000質量ppm、塩基価を7.5mgKOH/g以上とすることにより、優れた高温清浄性及び耐コーキング性(耐熱性)を有するシステム油を提供できることが分かる。