特許第5952197号(P5952197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952197
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】標的遺伝子の発現を抑制する組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160630BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20160630BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20160630BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160630BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N15/00 G
   A61K31/713
   A61K9/10
   A61P29/00
   A61P35/00
   A61K47/18
   A61K48/00
【請求項の数】19
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2012-553542(P2012-553542)
(86)(22)【出願日】2011年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2011052092
(87)【国際公開番号】WO2012098692
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2013年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2011-9032(P2011-9032)
(32)【優先日】2011年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和発酵キリン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠原 史一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】杉下 寛子
(72)【発明者】
【氏名】直井 智幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】榎園 淳一
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−513151(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/021389(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/013815(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/080118(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/007795(WO,A1)
【文献】 The Journal of Clinical Investigation,2009年,vol.119 no.3,pp.661-673
【文献】 生体の科学,2010年,vol.61 no.4,pp.343-348
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクル(ただし、リポソームを除く)を含有する、組成物であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の30〜60%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、該リピッドパーティクルが、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜を有するリピッドパーティクルである、組成物。
【請求項2】
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の50〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
二本鎖核酸分子が、RNA干渉(RNAi)を利用した該標的遺伝子の発現抑制作用を有する二本鎖核酸分子である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
標的遺伝子が、血管内皮増殖因子、血管内皮増殖因子受容体、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子、Ets転写因子、核因子および低酸素誘導因子のいずれかの遺伝子である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
mRNAがヒトまたはマウスのmRNAである、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルが、リード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜の構成成分がアルコール、グリコールまたはポリアルキレングリコールである極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、1〜80v/v%で該極性有機溶媒を含む液に分散可能である、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
極性有機溶媒がアルコールである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
極性有機溶媒がエタノールである、請求項6記載の組成物。
【請求項9】
リード粒子が、カチオン性物質を含むリード粒子であり、複合粒子を被覆する脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、請求項6〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルが、カチオン性物質を含むリード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、
該複合粒子を被覆する脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミンである、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
リード粒子と、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子とを構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクル(ただし、リポソームを除く)を含有する癌または炎症疾患の治療剤であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、血管内皮増殖因子、血管内皮増殖因子受容体、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子、Ets転写因子、核因子および低酸素誘導因子のいずれかの遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の30〜60%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜の構成成分がアルコール、グリコールまたはポリアルキレングリコールである極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、1〜80v/v%で該極性有機溶媒を含む液に分散可能であり、
該脂質二重膜が、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、癌または炎症疾患の治療剤。
【請求項13】
極性有機溶媒がアルコールである、請求項12記載の癌または炎症疾患の治療剤。
【請求項14】
極性有機溶媒がエタノールである、請求項12記載の癌または炎症疾患の治療剤。
【請求項15】
リード粒子が、カチオン性物質を含むリード粒子であり、脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、請求項12〜14のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。
【請求項16】
カチオン性物質を含むリード粒子と、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子とを構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクル(ただし、リポソームを除く)を含有する癌または炎症疾患の治療剤であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、血管内皮増殖因子、血管内皮増殖因子受容体、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子、Ets転写因子、核因子および低酸素誘導因子のいずれかの遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の30〜60%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、癌または炎症疾患の治療剤。
【請求項17】
水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミンである、請求項12〜16のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。
【請求項18】
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の50〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、請求項12〜17のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。
【請求項19】
mRNAがヒトまたはマウスのmRNAである、請求項12〜18のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子の発現を抑制するための組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
標的遺伝子の発現を抑制する方法として、例えばRNA干渉(RNA interference、以下、RNAiとよぶ)を利用した方法等が知られており、具体的には、線虫において標的とする遺伝子と同一の配列を有する二本鎖RNAを導入することにより、該標的遺伝子の発現が特異的に抑制される現象が報告されている[“ネイチャー(Nature)”,1998年,第391巻,第6669号,p.806-811参照]。また、ショウジョウバエにおいて長い二本鎖RNAの代わりに、21〜23塩基の長さの二本鎖RNAを導入することによっても、標的遺伝子の発現が抑制されることが見出され、これはshort interfering RNA(siRNA)と名づけられている(国際公開第01/75164号パンフレット参照)。
【0003】
哺乳類細胞では、長い二本鎖RNAを導入した場合、ウイルス防御機構によりアポトーシスが起こり、特定の遺伝子の発現を抑制することができなかったが、20〜29塩基のsiRNAであれば、このような反応が起こらず、特定の遺伝子の発現を抑制できることが見出された。中でも21〜25塩基のものの発現抑制効果が高い[“ネイチャー(Nature)”,2001年,第411巻,第6836号,p.494-498、“ネイチャー・レビューズ・ジェネティクス(Nature Reviews Genetics)”,2002年,第3巻,第10号,p.737-747、“モレキュラー・セル(Molecular Cell)”,(米国),2002年,第10巻,第3号,p.549-561、“ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)”,(米国),2002年,第20巻,第5号,p.497-500]。
【0004】
RNAiについては、in vivo試験においても多く検証されており、50塩基対以下のsiRNAを用いた胎児の動物での効果(特許文献1参照)および成体マウスでの効果(特許文献2参照)が報告されている。また、siRNAをマウス胎児に静脈内投与した場合に、腎臓、脾臓、肺、膵臓および肝臓の各臓器で特定の遺伝子の発現抑制効果が確認されている(非特許文献1参照)。さらに、脳細胞においてもsiRNAを直接投与することで特定の遺伝子が発現抑制されることが報告されている(非特許文献2参照)。
【0005】
一方、核酸の細胞内への送達手段として、カチオニックリピッドパーティクルやカチオニックポリマーを用いる方法が知られている。しかし、該方法では、核酸を含有するカチオニックリピッドパーティクルやカチオニックポリマーを静脈内に投与後、血液中から速やかに核酸が除去されてしまい、標的組織が肝臓や肺以外の場合、例えば腫瘍部位等の場合には核酸を標的組織に送達することができず、十分な作用の発現を可能とするに至っていない。そこで、核酸が血液中で速やかに除去されるという問題点を解決した核酸封入リピッドパーティクル(核酸を封入したリピッドパーティクル)が報告されている(特許文献3〜6および非特許文献3参照)。特許文献3では、核酸等を封入したリピッドパーティクルの製造方法として、例えば、カチオン性脂質をクロロホルムに予め溶解し、次いでオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)の水溶液とメタノールを加えて混合後、遠心分離することでクロロホルム層にカチオン性脂質/ODNの複合体を移行させ、さらにクロロホルム層を取り出し、これにポリエチレングリコール化リン脂質と中性の脂質と水を加えて油中水型(W/O)エマルジョンを形成し、逆相蒸発法で処理してODN内包リピッドパーティクルを製造する方法が報告され、特許文献4および非特許文献3では、ODNを、pH3.8のクエン酸水溶液に溶解し、脂質(エタノール中)を加え、エタノール濃度を20v/v%まで下げてODN内包リピッドパーティクルを調製し、サイジングろ過し、透析によって、過剰のエタノールを除去した後、試料をさらにpH7.5にて透析してリピッドパーティクル表面に付着したODNを除去してODN内包リピッドパーティクルを製造する方法が報告され、それぞれ核酸等の有効成分を封入したリピッドパーティクルが製造されている。
【0006】
これらに対して特許文献5および6では、液体中で微粒子を脂質二重膜で被覆する方法で核酸等の有効成分を封入したリピッドパーティクルを製造することが報告されている。該方法においては、微粒子が分散し、かつ脂質が溶解した極性有機溶媒含有水溶液中の極性有機溶媒の濃度を減少させることによって、液体中において、微粒子が脂質二重膜で被覆される。この方法では、例えば静脈注射用微粒子等に好適な大きさの脂質二重膜で被覆された微粒子(被覆微粒子)が、すぐれた効率で製造されている。また、特許文献5および6では被覆される微粒子の例として例えばODNまたはsiRNAとカチオン性脂質からなる静電的相互作用により形成される複合体が例示されている。該微粒子を被覆した被覆微粒子の粒子径は小さく、注射剤として使用可能であること、該被覆微粒子は、静脈内に投与した場合、高い血液中滞留性を示し、腫瘍組織に多く集積したことが報告されている。
【0007】
また、ポリエチレングリコール(PEG)等の水溶性高分子で、リピッドパーティクルの表面を修飾することが、一般に行われ、該表面を修飾されたリピッドパーティクルは、オプソニンなどの血清タンパクと相互作用しにくく、さらにマクロファージによる認識を回避できることから、血中滞留時間が長いリピッドパーティクルであることが知られている。核酸封入リピッドパーティクルにおいても、PEG修飾リピッドパーティクルとすることで、より高い血液中滞留性を示し、腫瘍組織に多く集積したことが報告されている。しかしながら、PEG修飾リピッドパーティクルを3-7日の投与間隔で二回繰り返し投与すると、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルの血中滞留性が著しく低下することが知られており、初回投与PEGリピッドパーティクルによって誘導された抗PEG-IgM 抗体が2回目投与リピッドパーティクルのPEG に結合し、次いで補体系を活性化することで肝マクロファージによる取り込みが亢進され、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルの血中滞留性が著しく低下すると考えられている(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国公開第2002-132788号
【特許文献2】国際公開第03/10180号パンフレット
【特許文献3】特表2002-508765号公報
【特許文献4】特表2002-501511号公報
【特許文献5】国際公開第02/28367号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2006/080118号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genetics),2002年,第32巻,第1号,p.107-108
【非特許文献2】ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology),2002年,第20巻,第10号,p.1006-1010
【非特許文献3】バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica Acta),2001年,第1510巻,p.152-166
【非特許文献4】ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(Journal of Controlled Release),2009年,第137巻,p.234-240
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、標的遺伝子の発現を抑制するための組成物等を提供することにある。また、ポリエチレングリコール(PEG)等の水溶性高分子で表面を修飾したリピッドパーティクルを含有する組成物において、二回目投与時に血中滞留性が著しく低下することを抑制し、より高い血液中滞留性を示すことが可能な、標的遺伝子の発現を抑制するための組成物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の(1)〜(56)に関する。
(1) センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルを含有する、組成物であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、該リピッドパーティクルが、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜を有するリピッドパーティクルである、組成物。
(2) (v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の50〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、前記(1)記載の組成物。
(3) 二本鎖核酸分子が、RNA干渉(RNAi)を利用した該標的遺伝子の発現抑制作用を有する二本鎖核酸分子である、前記(1)または(2)記載の組成物。
(4) 標的遺伝子が、腫瘍または炎症に関連する遺伝子である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5) 標的遺伝子が、血管新生に関連する遺伝子である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
(6) 標的遺伝子が、血管内皮増殖因子、血管内皮増殖因子受容体、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子、Ets転写因子、核因子および低酸素誘導因子のいずれかの遺伝子である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
(7) mRNAがヒトまたはマウスのmRNAである、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の組成物。
(8) 二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルが、リード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、特定の濃度で該極性有機溶媒を含む液に分散可能である、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の組成物。
(9) 極性有機溶媒がアルコールである、前記(8)記載の組成物。
(10) 極性有機溶媒がエタノールである、前記(8)記載の組成物。
(11) リード粒子が、カチオン性物質を含むリード粒子であり、複合粒子を被覆する脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、前記(8)〜(10)のいずれかに記載の組成物。
(12) 二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルが、カチオン性物質を含むリード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、
該複合粒子を被覆する脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の組成物。
(13) 水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミンである、前記(1)〜(12)のいずれかに記載の組成物。
【0012】
(14) リード粒子と、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子とを構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルを含有する癌または炎症疾患の治療剤であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、特定の濃度で該極性有機溶媒を含む液に分散可能であり、
該脂質二重膜が、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、癌または炎症疾患の治療剤。
(15) 極性有機溶媒がアルコールである、前記(14)記載の癌または炎症疾患の治療剤。
(16) 極性有機溶媒がエタノールである、前記(14)記載の癌または炎症疾患の治療剤。
(17) リード粒子が、カチオン性物質を含むリード粒子であり、脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、前記(14)〜(16)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。
(18) カチオン性物質を含むリード粒子と、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子とを構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルを含有する癌または炎症疾患の治療剤であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、癌または炎症疾患の治療剤。
(19) 水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミンである、前記(14)〜(18)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。
(20) (v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の50〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、前記(14)〜(19)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。
(21) 腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子が、血管新生に関与する遺伝子である、前記(14)〜(20)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。
(22) 腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子が、血管内皮増殖因子、血管内皮増殖因子受容体、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子、Ets転写因子、核因子および低酸素誘導因子のいずれかの遺伝子である、前記(14)〜(20)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。
(23) mRNAがヒトまたはマウスのmRNAである、前記(14)〜(22)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療剤。
【0013】
(24) リード粒子と、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルを含有する組成物を哺乳動物に投与する癌または炎症疾患の治療方法であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、特定の濃度で該極性有機溶媒を含む液に分散可能であり、
該脂質二重膜が、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、該組成物を哺乳動物に投与する癌または炎症疾患の治療方法。
(25) 極性有機溶媒がアルコールである、前記(24)記載の癌または炎症疾患の治療方法。
(26) 極性有機溶媒がエタノールである、前記(24)記載の癌または炎症疾患の治療方法。
(27) リード粒子が、カチオン性物質を含むリード粒子であり、脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、前記(24)〜(26)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療方法。
(28) カチオン性物質を含むリード粒子と、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルを含有する組成物を哺乳動物に投与する癌または炎症疾患の治療方法であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、該組成物を哺乳動物に投与する癌または炎症疾患の治療方法。
(29) 水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミンである、前記(24)〜(28)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療方法。
(30) (v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の50〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、前記(24)〜(29)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療方法。
(31) 腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子が、血管新生に関与する遺伝子である、前記(24)〜(30)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療方法。
(32) 腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子が、血管内皮増殖因子、血管内皮増殖因子受容体、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子、Ets転写因子、核因子および低酸素誘導因子のいずれかの遺伝子である、前記(24)〜(30)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療方法。
(33) mRNAがヒトまたはマウスのmRNAである、前記(24)〜(32)のいずれかに記載の癌または炎症疾患の治療方法。
【0014】
(34) リード粒子と、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルを含有する組成物の癌または炎症疾患の治療剤の製造のための使用であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、特定の濃度で該極性有機溶媒を含む液に分散可能であり、
該脂質二重膜が、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、該組成物の癌または炎症疾患の治療剤の製造のための使用。
(35) 極性有機溶媒がアルコールである、前記(34)記載の使用。
(36) 極性有機溶媒がエタノールである、前記(34)記載の使用。
(37) リード粒子が、カチオン性物質を含むリード粒子であり、脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、前記(34)〜(36)のいずれかに記載の使用。
(38) カチオン性物質を含むリード粒子と、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルを含有する組成物の癌または炎症疾患の治療剤の製造のための使用であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、
該脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、該組成物の癌または炎症疾患の治療剤の製造のための使用。
(39) 水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミンである、前記(34)〜(38)のいずれかに記載の使用。
(40) (v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の50〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、前記(34)〜(39)のいずれかに記載の使用。
(41) 腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子が、血管新生に関与する遺伝子である、前記(34)〜(40)のいずれかに記載の使用。
(42) 腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子が、血管内皮増殖因子、血管内皮増殖因子受容体、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子、Ets転写因子、核因子および低酸素誘導因子のいずれかの遺伝子である、前記(34)〜(40)のいずれかに記載の使用。
(43) mRNAがヒトまたはマウスのmRNAである、前記(34)〜(42)のいずれかに記載の使用。
【0015】
(44) センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルを含有する、組成物を哺乳動物に投与する標的遺伝子の発現抑制方法であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、該リピッドパーティクルが、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜を有するリピッドパーティクルである、該組成物を哺乳動物に投与する該標的遺伝子の発現抑制方法。
(45) (v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の50〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、前記(44)記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(46) 二本鎖核酸分子が、RNA干渉(RNAi)を利用した該標的遺伝子の発現抑制作用を有する二本鎖核酸分子である、前記(44)または(45)記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(47) 標的遺伝子が、腫瘍または炎症に関連する遺伝子である、前記(44)〜(46)のいずれかに記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(48) 標的遺伝子が、血管新生に関連する遺伝子である、前記(44)〜(47)のいずれかに記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(49) 標的遺伝子が、血管内皮増殖因子、血管内皮増殖因子受容体、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子、Ets転写因子、核因子および低酸素誘導因子のいずれかの遺伝子である、前記(44)〜(47)のいずれかに記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(50) mRNAがヒトまたはマウスのmRNAである、前記(44)〜(49)のいずれかに記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(51) 二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルが、リード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、
該複合粒子を被覆する脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に可溶であり、該複合粒子を被覆する脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、特定の濃度で該極性有機溶媒を含む液に分散可能である、前記(44)〜(50)のいずれかに記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(52) 極性有機溶媒がアルコールである、前記(51)記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(53) 極性有機溶媒がエタノールである、前記(51)記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(54) リード粒子が、カチオン性物質を含むリード粒子であり、複合粒子を被覆する脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、前記(51)〜(53)のいずれかに記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(55) 二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルが、カチオン性物質を含むリード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、
該複合粒子を被覆する脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜である、前記(44)〜(50)のいずれかに記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
(56) 水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミンである、前記(44)〜(55)のいずれかに記載の該標的遺伝子の発現抑制方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組成物を、ほ乳類等に投与することにより、標的遺伝子の発現を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1〜4および比較例1〜9で用いた二本鎖核酸分子のsiRNA活性を示すものである。縦軸はBCL-2mRNA発現抑制率(比率)を表す。
図2】実施例1〜2および比較例1〜9で得られた製剤をマウスに投与し、次に、7日間の間隔をあけ、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルとして比較例1で得られた製剤を投与した時の投与3時間後の血液中の二本鎖核酸分子の濃度を示すものである。縦軸は血液中の二本鎖核酸分子の濃度(μmol/L)を表す。
図3】実施例5および比較例10〜13で用いた二本鎖核酸分子のsiRNA活性を示すものである。縦軸はBCL2mRNA発現量比(比率)を表す。
図4】実施例5および比較例10〜13で得られた製剤をマウスに投与し、次に、7日間の間隔をあけ、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルとしてそれぞれ同じ実施例5および比較例10〜13で得られた製剤を投与した時の投与3時間後の血液中の二本鎖核酸分子の濃度を示すものである。縦軸は血液中の二本鎖核酸分子の濃度(μmol/L)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で用いられる標的遺伝子としては、ほ乳類においてmRNAを産生して発現する遺伝子であれば特に限定されないが、例えば、腫瘍または炎症に関連する遺伝子が好ましく、血管新生に関与する遺伝子等がより好ましく、例えば血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、以下VEGFと略す)、血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor、以下VEGFRと略す)、線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子受容体、血小板由来増殖因子、血小板由来増殖因子受容体、肝細胞増殖因子、肝細胞増殖因子受容体、クルッペル様因子(Kruppel-like factor、以下KLFと略す)、Ets転写因子、核因子、低酸素誘導因子等のタンパク質をコードする遺伝子等があげられ、具体的にはVEGF遺伝子、VEGFR遺伝子、線維芽細胞増殖因子遺伝子、線維芽細胞増殖因子受容体遺伝子、血小板由来増殖因子遺伝子、血小板由来増殖因子受容体遺伝子、肝細胞増殖因子遺伝子、肝細胞増殖因子受容体遺伝子、KLF遺伝子、Ets転写因子遺伝子、核因子遺伝子、低酸素誘導因子遺伝子等が挙げられ、好ましくはVEGF遺伝子、VEGFR遺伝子、KLF遺伝子等が挙げられ、より好ましくはKLF遺伝子が挙げられ、さらにより好ましくはKLF5遺伝子が挙げられる。
KLFファミリーは、C末端側のジンク・フィンガー(zinc finger)モチーフを特徴とする、転写因子のファミリーであり、KLF1、KLF2、KLF3、KLF4、KLF5、KLF6、KLF7、KLF8、KLF9、KLF10、KLF11、KLF12、KLF13、KLF14、KLF15、KLF16等が知られている。哺乳類において、KLFファミリーは、様々な組織や細胞、例えば赤血球、血管内皮細胞、平滑筋、皮膚、リンパ球等の分化に重要であること、また癌、心血管疾患、肝硬変、腎疾患、免疫疾患等の各種疾患の病態形成に重要な役割を果たしていることが報告されている[ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry),2001年,第276巻,第37号,p.34355-34358、ジェノム・バイオロジー(Genome Biology),2003年,第4巻,第2号,p.206]。
【0019】
KLFファミリーのうちのKLF5は、BTEB2(basic transcriptional element binding protein 2)あるいはIKLF(intestinal-enriched Kruppel-like factor)ともよばれる。血管平滑筋におけるKLF5の発現は、発生段階で制御を受けており、胎児の血管平滑筋では、高い発現を示すのに対し、正常な成人の血管平滑筋では発現が見られなくなる。また、バルーンカテーテルによる削剥後に新生した血管内膜の平滑筋では、KLF5の高い発現がみられ、動脈硬化や再狭窄の病変部の平滑筋でもKLF5の発現がみられる[サーキュレーション(Circulation),2000年,第102巻,第20号,p.2528-2534]。
【0020】
VEGFは、1983年に、Ferraraらにより発見された血管内皮細胞に特異的な増殖因子である。同年に、Senger、Dvorakらにより血管透過性作用を有する因子が発見されVPF(vascular permeability factor)と名付けられた。タンパク質のアミノ酸配列解析の結果、2つは同一のものであることがわかった。VEGFは血管の内側にある内皮細胞の受容体に結合して増殖を促す。VEGFは胎児期に血管をつくるだけではなく、病的な血管をつくるときにも作用している。例えば癌がある程度大きくなって酸素不足になると、VEGFとその受容体が増加して血管新生が起こる。また血管透過性亢進作用により癌性腹水の原因になるとも考えられている。糖尿病が進行すると網膜に新生血管ができるが、これにもVEGFが働いている。つまり、新しい血管をつくるタンパクである。低酸素状態によりその発現が誘導されることにより血管新生への重要な役割を担っているといえる。また血管新生のみならず、腫瘍または炎症性病変等にみられる浮腫のメカニズムを説明するうえで本因子の関与が強く示唆されている。
【0021】
一方、VEGFRは血管内皮細胞や癌細胞自身が持っており、VEGFがVEGFRと結合することにより受容体自身がリン酸化(活性化)され、その結果細胞内に増殖や遊走等様々な命令が伝達される。この受容体のリン酸化を阻害することで細胞内の伝達を阻害し、血管新生を阻害することが知られている。
【0022】
また、標的遺伝子として、例えば、B-CELL CLL/LYMPHOMA(以下bclと略す)遺伝子があげられ、好ましくはbcl2遺伝子があげられる。
BCL2は、いくつかの細胞種でアポトーシスによる細胞死の阻害を示す、ミトコンドリア内膜蛋白質である。bcl2遺伝子の大量発現によるアポトーシスの抑制は、癌や、血液学的悪性疾患などの原因となると考えられている。実際に、BCL2はリンパ肉腫、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸癌および直腸癌などの様々な固形癌に大量に産生されている(T.J.McDonnellら、“Cancer Research”、1992年12月15日、52巻、24号、p.6940-6944)。また、胸腺のアポトーシスにはbcl2遺伝子の発現が関係していることが示されている(Kanavaros et al., Histol. Histopathol. 16(4):1005-12 (Oct. 2001))。
BCL2が大量に産生される細胞においては、そのアポトーシス抑制作用から細胞死が誘導されないため、様々な抗癌剤に対する薬物耐性が引き起こされる。一方前立腺癌細胞においてBCL2産生を抑制すると、細胞増殖の抑制が見られ、アポトーシスを誘導しやすくなることが知られている(Shi et al., Cancer Biother. Radiopharm., 16(5):421-9 (Oct. 2001))。したがって、固形癌および血液学的悪性疾患など、その治癒においてアポトーシスの促進が必要な疾患においては、bcl2遺伝子の発現を抑制する方法は効果的な治療法または予防法となり得る。
【0023】
また、本発明で用いられる標的遺伝子としては、例えば、肝臓、肺、腎臓または脾臓において発現する遺伝子が好ましく、例えば前記の腫瘍または炎症に関連する遺伝子、B型肝炎ウイルスゲノム、C型肝炎ウイルスゲノム、アポリポタンパク質(APO)、ヒドロキシメチルグルタリル(HMG)CoA還元酵素、ケキシン 9 型セリンプロテアーゼ(PCSK9)、第12因子、グルカゴン受容体、グルココルチコイド受容体、ロイコトリエン、トロンボキサンA2受容体、ヒスタミンH1受容体、炭酸脱水酵素、アンギオテンシン変換酵素、レニン、p53、チロシンホスファターゼ(PTP)、ナトリウム依存性グルコース輸送担体、腫瘍壊死因子、インターロイキン等のタンパク質をコードする遺伝子等があげられる。
【0024】
本発明で用いられる二本鎖核酸分子としては、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子であり、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基、好ましくは19〜25塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基、好ましくは19〜25塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、好ましくは、配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、かつ9〜11番目の塩基に結合する糖の0%がデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%、好ましくは40%以上がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%、好ましくは、30〜60%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、ただし9〜11番目の塩基に結合する糖の0%がデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースが好ましく、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%、好ましくは40%以上がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、二本鎖核酸分子があげられる。
【0025】
なお、本発明において、m〜n番目(mおよびnは任意の数字を示す)の塩基に結合する糖の0%がデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースとは、m〜n番目の塩基に結合する糖には、デオキシリボースおよび2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースを含まない、すなわちm〜n番目の塩基に結合する糖がすべてリボースであることを意味する。
【0026】
また、本発明で用いられる二本鎖核酸分子としては、好ましくはRNA干渉(RNAi)を利用した該標的遺伝子の発現抑制作用を有する二本鎖核酸分子があげられる。
また、アンチセンス鎖の配列aの3’末端側に隣接して付加しているヌクレオチドの塩基の配列を、標的遺伝子のmRNA内で配列aと隣接する塩基の配列と相補的な塩基の配列としてもよく、RNA干渉(RNAi)を利用した標的遺伝子の発現抑制作用の面から、この構造がより好ましい。すなわち、アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って少なくとも1〜17番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列であり、好ましくは、該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜19番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する19塩基の配列と相補的な塩基の配列であるか、1〜21番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する21塩基の配列と相補的な塩基の配列であるか、1〜25番目の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNAの連続する25塩基の配列と相補的な塩基の配列である。
【0027】
また、センス鎖の配列b以外の塩基が、アンチセンス鎖の塩基と向かい合って存在する場合には、該センス鎖の配列b以外の塩基と、該アンチセンス鎖の塩基とが、向かい合った相補的塩基対となっていることがより好ましい。
さらに、本発明で用いられる二本鎖核酸分子は、該二本鎖核酸分子中の糖の10〜70%、好ましくは15〜60%、より好ましくは20〜50%が、2’位において修飾基で置換されたリボースである。本発明におけるリボースの2’位において修飾基で置換されたとは、2’位の水酸基が修飾基に置換されているものを意味し、リボースの2’位の水酸基と立体配置が同じであっても異なっていてもよいが、好ましくはリボースの2’位の水酸基と立体配置が同じである。
【0028】
本発明で用いられる二本鎖核酸分子は、核酸の構造中のリン酸部、エステル部等に含まれる酸素原子等が、例えば硫黄原子等の他の原子に置換された誘導体を包含する。
【0029】
本発明における修飾基としては、例えば、2’-シアノ、2’-アルキル、2’-置換アルキル、2’-アルケニル、2’-置換アルケニル、2’-ハロゲン、2’-O-シアノ、2’-O-アルキル、2’-O-置換アルキル、2’-O-アルケニル、2’-O-置換アルケニル、2’-S-アルキル、2’-S-置換アルキル、2’-S-アルケニル、2’-S-置換アルケニル、2’-アミノ、2’-NH-アルキル、2’-NH-置換アルキル、2’-NH-アルケニル、2’-NH-置換アルケニル、2’-SO-アルキル、2’-SO-置換アルキル、2’-カルボキシ、2’-CO-アルキル、2’-CO-置換アルキル、2’-Se-アルキル、2’-Se-置換アルキル、2’-SiH2-アルキル、-2’SiH2-置換アルキル、2’-ONO2、2’-NO2、2’-N3、2’-アミノ酸残基(アミノ酸のカルボン酸から水酸基が除去されたもの)、2’-O-アミノ酸残基(前記アミノ酸残基と同義)があげられ、さらにペプチド核酸(PNA)[Acc. Chem. Res., 32, 624 (1999)]、オキシペプチド核酸(OPNA)[J. Am. Chem. Soc., 123, 4653 (2001)]、ペプチドリボ核酸(PRNA)[J. Am. Chem. Soc., 122, 6900 (2000)]等もあげられる。また、2’位の修飾基が4’位の炭素原子に架橋した構造を有する架橋構造型人工核酸(Bridged Nucleic Acid)(BNA)、より具体的には、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋したロックト人工核酸(Locked Nucleic Acid)(LNA)、およびエチレン架橋構造型人工核酸(Ethylene bridged nucleic acid)(ENA)[Nucleic Acid Research, 32, e175(2004)]等も本発明における2’位において修飾基で置換されたリボースに含まれる。
本発明における修飾基として、2’-シアノ、2’-ハロゲン、2’-O-シアノ、2’-アルキル、2’-置換アルキル、2’-O-アルキル、2’-O-置換アルキル、2’-O-アルケニル、2’-O-置換アルケニル、2’-Se-アルキル、2’-Se-置換アルキルが好ましく、2’-シアノ、2’-フルオロ、2’-クロロ、2’-ブロモ、2’-トリフルオロメチル、2’-O-メチル、2’-O-エチル、2’-O-イソプロピル、2’-O-トリフルオロメチル、2'-O-[2-(メトキシ)エチル]、2'-O-(3-アミノプロピル)、2'-O-(2-[N,N-ジメチル]アミノオキシ)エチル、2'-O-[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]、2'-O-[2-[2-(N,N-ジメチルアミノ)エトキシ]エチル]、2'-O-[2-(メチルアミノ)-2-オキソエチル]、2’-Se-メチル等がより好ましく、2’-O-メチル、2’-O-エチル、2’-フルオロ等がさらに好ましく、2’-O-メチル、2’-O-エチルがもっとも好ましい。
また、本発明における修飾基は、その大きさから好ましい範囲を定義することもでき、フルオロの大きさから、-O-ブチルの大きさに相当するものが好ましく、-O-メチルの大きさから-O-エチルの大きさに相当する大きさのものがより好ましい。
【0030】
修飾基におけるアルキルとしては、例えば直鎖または分岐状の炭素数1〜6の、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル等があげられ、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル等があげられる。修飾基におけるアルケニルとしては、例えば直鎖または分岐状の炭素数1〜6の、例えばビニル、アリル、イソプロペニル等があげられる。
ハロゲンとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられる。
アミノ酸としては、例えば脂肪族アミノ酸(具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等)、ヒドロキシアミノ酸(具体的には、セリン、トレオニン等)、酸性アミノ酸(具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸等)、酸性アミノ酸アミド(具体的には、アスパラギン、グルタミン等)、塩基性アミノ酸(具体的には、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、オルニチン等)、含硫アミノ酸(具体的には、システイン、シスチン、メチオニン等)、イミノ酸(具体的には、プロリン、4-ヒドロキシプロリン等)等があげられる。
置換アルキルおよび置換アルケニルの置換基としては、例えば、ハロゲン(前記ハロゲンと同義)、ヒドロキシ、スルファニル、アミノ、オキソ、-O-アルキル(該-O-アルキルのアルキル部分は前記アルキルと同義)、-S-アルキル(該-S-アルキルのアルキル部分は前記アルキルと同義)、-NH-アルキル(該-NH-アルキルのアルキル部分は前記アルキルと同義)、ジアルキルアミノオキシ(該ジアルキルアミノオキシの2つのアルキルは同一または異なって前記アルキルと同義)、ジアルキルアミノ(該ジアルキルアミノの2つのアルキルは同一または異なって前記アルキルと同義)、ジアルキルアミノアルキレンオキシ(該ジアルキルアミノアルキレンオキシの2つのアルキルは同一または異なって前記アルキルと同義であり、該アルキレンは前記アルキルから水素原子が除かれたものを意味する)等があげられ、置換数は好ましくは1〜3である。
なお、本発明において、二本鎖核酸分子中の糖の2’位において修飾基で置換されたリボースは、最終的に構造が同じであれば、製造方法や原料や中間体にかかわらず本発明で用いられる二本鎖核酸分子に包含され、原料や中間体がDNAまたはデオキシリボースであっても、最終的に構造が同じであれば本発明で用いられる二本鎖核酸分子に包含される。すなわち、本発明におけるリボースの2’位において修飾基で置換されたリボースは、2’位において水素が修飾基に置換されたデオキシリボースを包含する。
【0031】
本発明で用いられる二本鎖核酸分子において、2’位において修飾基で置換されたリボースは、隣接するのが最小限になるように分布することがより好ましい。ただし、アンチセンス鎖の3’末端、センス鎖の5’末端および3’末端の2〜7塩基に結合する糖が、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースで隣接することは好ましい。
また、向かい合った相補的塩基対の片方だけが修飾基で置換されたリボースであることがより好ましい。ただし、アンチセンス鎖またはセンス鎖の5’末端または3’末端で、向かい合った相補的塩基対の両方がデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであることは好ましい。
【0032】
本発明で用いられる二本鎖核酸分子は、(A)アンチセンス鎖の5’末端とセンス鎖の3’末端およびアンチセンス鎖の3’末端とセンス鎖の5’末端とも、向かい合って相補的塩基対を形成した、ブラントエンドになっていても、(b)アンチセンス鎖およびセンス鎖の3’末端側に1〜6個、好ましくは2〜4個のヌクレオチドが同一または異なって、向かい合う塩基対なく付加しているオーバーハングになっていてもよく、(C)ブラントエンドとオーバーハングが組み合わせていてもよい。付加しているヌクレオチドの塩基は、グアニン、アデニン、シトシン、チミンおよびウラシルのいずれか1種または複数種でもよく、また、それぞれの塩基に結合する糖が、リボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースのいずれでもよいが、付加しているヌクレオチドとしては、ウリジル酸(U)およびデオキシチミジル酸(dT)のいずれか1種または2種がより好ましい。また、センス鎖の3’末端側に隣接して付加しているヌクレオチドの塩基の配列を、mRNA内で配列aと隣接する塩基の配列と同じ塩基の配列としてもよく、この構造がより好ましい。
また、アンチセンス鎖の3’末端側に隣接して付加しているヌクレオチドの塩基の配列を、標的遺伝子のmRNA内に相当する塩基の配列と相補的な塩基の配列としてもよく、この構造がより好ましい。なお、本発明において、アンチセンス鎖の塩基の配列が、標的遺伝子のmRNA内に相当する塩基の配列とすべて相補的な塩基の配列であることが最も好ましい。
【0033】
また、アンチセンス鎖およびセンス鎖の5’末端の塩基に結合する糖は、それぞれ5’位の水酸基が、リン酸基もしくは前記の修飾基、または生体内の核酸分解酵素等で、リン酸基もしくは前記の修飾基になる基によって修飾されていてもよい。
また、アンチセンス鎖およびセンス鎖の3’末端の塩基に結合する糖は、それぞれ3’位の水酸基が、リン酸基もしくは前記の修飾基、または生体内の核酸分解酵素等で、リン酸基もしくは前記の修飾基になる基によって修飾されていてもよい。
【0034】
また、本発明の二本鎖核酸分子は、生体内の核酸分解酵素等で分解された後に生成するものであってもよく、分解される前の二本鎖核酸分子は、本発明の二本鎖核酸分子のプロドラッグである。
二本鎖核酸分子のプロドラッグとしては、例えば、アンチセンス鎖の配列aの5’末端側に4〜8個、好ましくは5〜6個のヌクレオチドが同一または異なって付加しており、センス鎖の配列bの3’末端側には、アンチセンス鎖の塩基の配列と相補的な塩基の配列が同数付加しており、アンチセンス鎖の配列aの3’末端側に2個の標的遺伝子のmRNA内に相当する塩基の配列と同じ配列が付加しており、センス鎖の配列bの5’末端側には、アンチセンス鎖の塩基の配列と相補的な塩基の配列が2個付加し、さらにアンチセンス鎖の3’末端側に1〜6個、好ましくは2〜4個のヌクレオチドが同一または異なって、向かい合う塩基対なく付加しているオーバーハングになっていて、好ましくはセンス鎖の5’末端の塩基に結合する糖は、5’位の水酸基がリン酸化されている二本鎖核酸分子があげられ、このプロドラッグは、ダイサーによって、アンチセンス鎖の配列aの5’末端側に付加したヌクレオチドのすべてと、センス鎖の配列bの3’末端側に付加した1および2番目以外のヌクレオチドが取り去られて、本発明の二本鎖核酸分子となる。
【0035】
プロドラッグとして、アンチセンス鎖とセンス鎖が、スペーサーオリゴヌクレオチドでつながれ、3’末端側に1〜6個、好ましくは2〜4個のヌクレオチドが付加している、ヘアピン構造を有する一本鎖核酸分子もあげられる。スペーサーオリゴヌクレオチドとしては6〜12塩基の一本鎖核酸分子が好ましく、その5’末端側の配列は2個のUであるのが好ましい。スペーサーオリゴヌクレオチドの例として、UUCAAGAGAの配列からなる一本鎖核酸分子があげられる。スペーサーオリゴヌクレオチドによってつながれる2つの一本鎖核酸分子の順番はどちらが5’側になってもよい。
【0036】
なお、本発明で用いられる二本鎖核酸分子は、既知のRNAまたはDNA合成法およびRNAまたはDNA修飾法を用いて製造すればよい。例えば北海道システムサイエンス株式会社等に化学合成を依頼して得ることができる。
【0037】
本発明の組成物におけるリピッドパーティクル(以下リピッドパーティクルA)としては、標的遺伝子のmRNAの連続する17〜30塩基の配列および該配列と相補的な塩基の配列を含む二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルが好ましい。該リピッドパーティクルAは標的遺伝子の発現部位を含む組織または臓器に到達するリピッドパーティクルであれば特に限定されないが、例えば、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜を有するリピッドパーティクル、具体的には、ポリエチレングリコール(PEG)等の水溶性高分子で表面を修飾したリピッドパーティクルがあげられる。
また、本発明の組成物におけるリピッドパーティクルとしては、例えばリポソーム、脂質ミセル等があげられる。脂質ミセルとしては、リピッドスフィアーまたはエマルジョン粒子を包含し、外水相との界面が脂質一重膜または脂質二重膜であることが好ましい。
【0038】
該リピッドパーティクルAとして、例えば、カチオン性脂質をクロロホルムに予め溶解し、次いで前記二本鎖核酸分子の水溶液とメタノールを加えて混合してカチオン性脂質/二本鎖核酸分子の複合体を形成させ、さらにクロロホルム層を取り出し、これにポリエチレングリコール化リン脂質と中性の脂質と水を加えて油中水型(W/O)エマルジョンを形成し、逆相蒸発法で処理して製造されたリピッドパーティクル(特表2002-508765号公報参照)、前記二本鎖核酸分子を、酸性の電解質水溶液に溶解し、脂質(エタノール中)を加え、エタノール濃度を20v/v%まで下げて前記二本鎖核酸分子内包リピッドパーティクルを調製し、サイジングろ過し、透析によって、過剰のエタノールを除去した後、試料をさらにpHを上げて透析してリピッドパーティクル表面に付着した前記二本鎖核酸分子を除去して製造されたリピッドパーティクル(特表2002-501511号公報およびバイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica Acta),2001年,第1510巻,p.152-166参照)、リード粒子と前記二本鎖核酸分子を含む複合粒子および該複合粒子を封入した脂質二重膜から構成されたリピッドパーティクル(国際公開第02/28367号パンフレットおよび国際公開第2006/080118号パンフレット参照)等があげられ、リード粒子と前記二本鎖核酸分子を含む複合粒子および該複合粒子を封入した脂質二重膜から構成されたリピッドパーティクルが好ましく、該脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、特定濃度で該極性有機溶媒を含む液に分散可能であることがより好ましい。また、リピッドパーティクルAとしては、好ましくはカチオン性物質を含むリード粒子と前記二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子、および該複合粒子を被覆する脂質二重膜から構成され、該脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とするリピッドパーティクルもあげられ、該脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、特定濃度で該極性有機溶媒を含む液に分散可能であることがより好ましい。
なお、本発明において、分散とは、溶解せずに分散することを意味する。
【0039】
これら例示したリピッドパーティクルは、腫瘍または炎症の生じた組織もしくは臓器、具体的には固形腫瘍および固形癌、血管または血管近傍の炎症部位等に送達されることが報告されており、腫瘍または炎症に関連する遺伝子を標的遺伝子とした場合に、より好ましく用いることができるリピッドパーティクルとしてあげられる。
また、これら例示したリピッドパーティクルは、血液中での滞留性が高められたリピッドパーティクルとしても報告されており、いずれの組織や臓器にも体循環を介して送達される可能性が高まっているので、標的にできる遺伝子は制限されない。
【0040】
本発明におけるリード粒子としては、例えば、脂質集合体、リポソーム(以下リポソームB)、高分子ミセル等である微粒子があげられ、好ましくはリポソームBである微粒子があげられる。本発明におけるリード粒子は、脂質集合体、リポソームB、高分子ミセル等を2つ以上組み合わせた複合体、例えば脂質集合体およびリポソームBの構成成分である脂質を含む複合体としての高分子ミセル、高分子ミセルの構成成分である高分子を含む複合体としての脂質集合体またはリポソームB等であってもよい。
【0041】
リード粒子としての脂質集合体またはリポソームBは、親水性と疎水性の両方の性質を兼ね備えた両親媒性を持つ、水中において脂質二重層構造をとる極性脂質等によって構成されるものが好ましい。該脂質としては、単純脂質、複合脂質または誘導脂質のいかなるものであってもよく、例えばリン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴイド、ステロールまたはカチオン性脂質等があげられるがこれらに限定されない。好ましくはリン脂質またはカチオン性脂質があげられる。
【0042】
上記リード粒子を構成する脂質におけるリン脂質としては、例えばホスファチジルコリン(具体的には大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン(EPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルエタノールアミン(具体的にはジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DORE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、16-0-モノメチルPE、16-0-ジメチルPE、18-1-トランスPE、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、1-ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)等)、グリセロリン脂質(具体的にはホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、リゾホスファチジルコリン等)、スフィンゴリン脂質(具体的にはスフィンゴミエリン、セラミドホスホエタノールアミン、セラミドホスホグリセロール、セラミドホスホグリセロリン酸等)、グリセロホスホノ脂質、スフィンゴホスホノ脂質、天然レシチン(具体的には卵黄レシチン、大豆レシチン等)または水素添加リン脂質(具体的には水素添加大豆ホスファチジルコリン等)等の天然または合成のリン脂質があげられる。
【0043】
上記リード粒子を構成する脂質におけるグリセロ糖脂質としては、例えばスルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリドまたはグリコシルジグリセリド等があげられる。
【0044】
上記リード粒子を構成する脂質におけるスフィンゴ糖脂質としては、例えばガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシドまたはガングリオシド等があげられる。
【0045】
上記リード粒子を構成する脂質におけるスフィンゴイドとしては、例えばスフィンガン、イコサスフィンガン、スフィンゴシンまたはそれらの誘導体等があげられる。誘導体としては、例えばスフィンガン、イコサスフィンガンまたはスフィンゴシン等の-NH2を-NHCO(CH2)xCH3(式中、xは0〜18の整数を表し、中でも6、12または18が好ましい)に変換したもの等があげられる。
【0046】
上記リード粒子を構成する脂質におけるステロールとしては、例えばコレステロール、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、エルゴカステロール、フコステロールまたは3β-[N-(N',N'-ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)等があげられる。
【0047】
上記リード粒子を構成する脂質におけるカチオン性脂質としては、親水性と疎水性の両方の性質を兼ね備えた両親媒性を持つ、水中において脂質二重層構造をとる極性脂質のうち、親水性部に第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム、窒素原子を含む複素環等を有する構造を持つものであり、例えば、N-[1-(2,3-ジオレオイルプロピル)]-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム(DOTAP)、N-[1-(2,3-ジオレオイルプロピル)]-N,N-ジメチルアミン(DODAP)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシプロピル)]-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム(DOTMA)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、N-[1-(2,3-ジテトラデシルオキシプロピル)]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DMRIE)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシプロピル)]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DORIE)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムまたはDC-Chol等があげられ、好ましくはN-[1-(2,3-ジオレオイルプロピル)]-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム、N-[1-(2,3-ジオレオイルプロピル)]-N,N-ジメチルアミン、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシプロピル)]-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム、N-[1-(2,3-ジテトラデシルオキシプロピル)]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチル臭化アンモニウムおよびDC-Cholから選ばれる一つ以上があげられる。
【0048】
また、リポソームBは、必要に応じて、例えばコレステロール等のステロール等の膜安定化剤、例えばトコフェロール等の抗酸化剤等を含有していてもよい。これら安定化剤は単独でまたは2種以上組み合わせて使用し得る。
【0049】
脂質集合体としては、例えば球状ミセル、球状逆ミセル、ソーセージ状ミセル、ソーセージ状逆ミセル、板状ミセル、板状逆ミセル、ヘキサゴナルI、ヘキサゴナルIIおよび脂質2分子以上からなる会合体等があげられる。
【0050】
高分子ミセルとしては、例えばタンパク質、アルブミン、デキストラン、ポリフェクト(polyfect)、キトサン、デキストラン硫酸、例えばポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン、ポリアスパラギン酸、スチレンマレイン酸共重合体、イソプロピルアクリルアミド-アクリルピロリドン共重合体、ポリエチレングリコール修飾デンドリマー、ポリ乳酸、ポリ乳酸ポリグリコール酸またはポリエチレングリコール化ポリ乳酸等の高分子またはそれらの塩の1以上からなるミセルがあげられる。
【0051】
ここで、高分子における塩は、例えば金属塩、アンモニウム塩、酸付加塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等を包含する。金属塩としては、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩または亜鉛塩等があげられる。アンモニウム塩としては、例えばアンモニウムまたはテトラメチルアンモニウム等の塩があげられる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩またはリン酸塩等の無機酸塩、および酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩またはクエン酸塩等の有機酸塩があげられる。有機アミン付加塩としては、例えばモルホリンまたはピペリジン等の付加塩があげられる。アミノ酸付加塩としては、例えばグリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸またはリジン等の付加塩があげられる。
【0052】
また、本発明におけるリード粒子は、例えば糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1つ以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体または界面活性剤等を含有することができる。糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1つ以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体または界面活性剤は、リード粒子として含有されてもよく、リード粒子に加えて用いてもよい。
【0053】
糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1つ以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体または界面活性剤としては、好ましくは、糖脂質、または水溶性高分子の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体があげられ、より好ましくは、水溶性高分子の脂質誘導体または脂肪酸誘導体があげられる。糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1つ以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体または界面活性剤は、分子の一部がリード粒子の他の構成成分と例えば疎水性親和力、静電的相互作用等で結合する性質をもち、他の部分がリード粒子の製造時の溶媒と例えば親水性親和力、静電的相互作用等で結合する性質をもつ、2面性をもつ物質であるのが好ましい。
【0054】
糖、ペプチドおよび核酸から選ばれる1つ以上の脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えばショ糖、ソルビトール、乳糖等の糖、例えばカゼイン由来ペプチド、卵白由来ペプチド、大豆由来ペプチド、グルタチオン等のペプチド、または例えばDNA、RNA、プラスミド、siRNA、ODN等の核酸と、前記リード粒子の定義の中であげた脂質または例えばステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等の脂肪酸とが結合してなるもの等があげられる。
【0055】
また、糖の脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えば前記リード粒子の定義の中であげたグリセロ糖脂質またはスフィンゴ糖脂質等も含まれる。
【0056】
水溶性高分子の脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えばポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、オリゴ糖、デキストリン、水溶性セルロース、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリグリセリン、キトサン、ポリビニルピロリドン、ポリアスパラギン酸アミド、ポリ-L-リジン、マンナン、プルラン、オリゴグリセロール等またはそれらの誘導体等の水溶性高分子(いずれの水溶性高分子も、直鎖状の水溶性高分子であることが好ましい)と、前記リード粒子の定義の中であげた脂質、または例えばステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはラウリン酸等の脂肪酸とが結合してなるもの等があげられ、より好ましくは、ポリエチレングリコール誘導体、ポリグリセリン誘導体等の脂質誘導体または脂肪酸誘導体があげられ、さらに好ましくは、ポリエチレングリコール誘導体の脂質誘導体または脂肪酸誘導体があげられる。
【0057】
ポリエチレングリコール誘導体の脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えばポリエチレングリコール化脂質(具体的にはポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミン(より具体的には1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](PEG-DSPE)等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、クレモフォアイーエル(CREMOPHOR EL)等)、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル類(具体的にはモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等)またはポリエチレングリコール脂肪酸エステル類等があげられ、より好ましくは、ポリエチレングリコール化脂質があげられる。
【0058】
ポリグリセリン誘導体の脂質誘導体または脂肪酸誘導体としては、例えばポリグリセリン化脂質(具体的にはポリグリセリン-ホスファチジルエタノールアミン等)またはポリグリセリン脂肪酸エステル類等があげられ、より好ましくは、ポリグリセリン化脂質があげられる。
【0059】
界面活性剤としては、例えばモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(具体的にはポリソルベート80等)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(具体的にはプルロニックF68等)、ソルビタン脂肪酸エステル(具体的にはソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート等)、ポリオキシエチレン誘導体(具体的にはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンラウリルアルコール等)、グリセリン脂肪酸エステルまたはポリエチレングリコールアルキルエーテル等があげられ、好ましくは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステルまたはポリエチレングリコールアルキルエーテル等があげられる。
【0060】
上記したリード粒子は、正電荷をもつものが好ましい。ここで述べる、正電荷とは、前記二本鎖核酸分子内の電荷、分子内分極等に対して静電的引力を生じる電荷、表面分極等を包含する。リード粒子が正電荷をもつには、リード粒子は、カチオン性物質を含有するのが好ましい。
【0061】
リード粒子に含有されるカチオン性物質は、カチオン性を呈する物質であるが、カチオン性の基とアニオン性の基の両方をもつ両性の物質であっても、pHや、他の物質との結合等により相対的な陰性度が変化するので、その時々に応じてカチオン性物質に分類され得るものも含まれる。これらカチオン性物質は、リード粒子として含有されてもよく、リード粒子に加えて用いてもよい。
【0062】
カチオン性物質としては、例えば前記のリード粒子の定義で例示したもののうちのカチオン性物質[具体的には、脂質におけるカチオン性物質、カチオン性高分子等]、等電点以下の値のpHでカチオン性を呈する蛋白質またはペプチド等があげられ、好ましくは脂質におけるカチオン性物質があげられ、より好ましくはN-[1-(2,3-ジオレオイルプロピル)]-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム、N-[1-(2,3-ジオレオイルプロピル)]-N,N-ジメチルアミン、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシプロピル)]-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム、N-[1-(2,3-ジテトラデシルオキシプロピル)]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチル臭化アンモニウムおよび3β-[N-(N',N'ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロールから選ばれる一つ以上があげられる。
脂質におけるカチオン性物質としては、例えばカチオン脂質(DOTAP、DODAP、DOTMA、DOSPA、DMRIE、DORIE等)またはDC-Chol等があげられる。
カチオン性高分子としては、例えばポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン、ポリフェクト(polyfect)またはキトサン等があげられる。
【0063】
等電点以下の値のpHでカチオン性を呈する蛋白質またはペプチドとしては、その物質の等電点以下の値のpHでカチオン性を呈する蛋白質またはペプチドであれば、特に限定されない。該蛋白質またはペプチドとしては、例えば、アルブミン、オロソムコイド、グロブリン、フィブリノーゲン、ペプシンまたはリボヌクレアーゼT1等があげられる。
【0064】
本発明におけるリード粒子は、公知の製造方法またはそれに準じて製造することができ、いかなる製造方法で製造されたものであってよい。例えば、リード粒子の1つであるリポソームBの製造には、公知のリポソームの調製方法が適用できる。公知のリポソームの調製方法としては、例えばバンガム(Bangham)らのリポソーム調製法[“ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.)”,1965年,第13巻,p.238-252参照]、エタノール注入法[“ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(J.Cell Biol.)”,1975年,第66巻,p.621-634参照]、フレンチプレス法[“エフイービーエス・レターズ(FEBS Lett.)”,1979年,第99巻,p.210-214参照]、凍結融解法[“アーカイブス・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス(Arch.Biochem.Biophys.)”,1981年,第212巻,p.186-194参照]、逆相蒸発法[“プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)”,1978年,第75巻, p.4194-4198参照]またはpH勾配法(例えば特許第2572554号公報、特許第2659136号公報等参照)等があげられる。リポソームBの製造の際にリポソームBを分散させる溶液としては、例えば水、酸、アルカリ、種々の緩衝液、生理的食塩液またはアミノ酸輸液等を用いることができる。また、リポソームBの製造の際には、例えばクエン酸、アスコルビン酸、システインまたはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等の抗酸化剤、例えばグリセリン、ブドウ糖または塩化ナトリウム等の等張化剤等の添加も可能である。また、脂質等を例えばエタノール等の有機溶媒に溶解し、溶媒を留去した後、生理食塩水等を添加、振とう撹拌し、リポソームを形成させることによってもリポソームBを製造することができる。
【0065】
また、例えばカチオン性物質、高分子、ポリオキシエチレン誘導体等によるリポソームB等のリード粒子の表面改質も任意に行うことができる[ラジック(D.D.Lasic)、マーティン(F.Martin)編,“ステルス・リポソームズ(Stealth Liposomes)”(米国),シーアールシー・プレス・インク(CRC Press Inc),1995年,p.93-102参照]。表面改質に使用し得る高分子としては、例えばデキストラン、プルラン、マンナン、アミロペクチンまたはヒドロキシエチルデンプン等があげられる。ポリオキシエチレン誘導体としては、例えばポリソルベート80、プルロニックF68、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンラウリルアルコールまたはPEG-DSPE等があげられる。リポソームB等のリード粒子の表面改質は、リード粒子に糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1つ以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体または界面活性剤を含有させる方法の1つである。
【0066】
リポソームBの平均粒子径は、所望により自由に選択できるが、下記の粒子径とするのが好ましい。リポソームBの平均粒子径を調節する方法としては、例えばエクストルージョン法、大きな多重膜リポソーム(MLV)を機械的に粉砕(具体的にはマントンゴウリン、マイクロフルイダイザー等を使用)する方法[ミュラー(R.H.Muller)、ベニタ(S.Benita)、ボーム(B.Bohm)編著,“エマルジョン・アンド・ナノサスペンジョンズ・フォー・ザ・フォーミュレーション・オブ・ポアリー・ソラブル・ドラッグズ(Emulsion and Nanosuspensions for the Formulation of Poorly Soluble Drugs)”,ドイツ,サイエンティフィック・パブリッシャーズ・スチュットガルト(Scientific Publishers Stuttgart),1998年,p.267-294参照]等があげられる。
【0067】
また、リード粒子である、例えば脂質集合体、リポソームB、高分子ミセル等から選ばれる2つ以上を組み合わせた複合体の製造方法は、例えば水中で脂質、高分子等を混合するだけでもよく、所望によりさらに整粒工程や無菌化工程等を加えることもできる。また、前記複合体の製造は例えばアセトンまたはエーテル等種々の溶媒中で行うことも可能である。
【0068】
本発明におけるリード粒子の大きさは、平均粒子径が数nm〜数十μmであるのが好ましく、約10nm〜1000nmであるのがより好ましく、約50nm〜300nmであるのがさらに好ましい。
【0069】
本発明におけるリード粒子と二本鎖核酸分子を含む複合粒子を被覆する脂質二重膜の構成成分において、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体以外の構成成分としては、例えば前記リード粒子の定義の中であげた脂質等があげられ、好ましくは、脂質のうちの中性脂質があげられる。ここで、前記中性脂質とは、脂質のうちの、前記リード粒子が正電荷をもつ場合におけるカチオン性物質の中であげた脂質におけるカチオン性物質および後記の付着競合剤の中であげたアニオン性脂質を除いたもののことであり、中性脂質としてより好ましくは、リン脂質、グリセロ糖脂質またはスフィンゴ糖脂質等があげられる。より好ましくはリン脂質があげられ、さらに好ましくはEPCがあげられる。これら脂質は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
また、複合粒子を被覆する脂質二重膜の構成成分は、極性有機溶媒に可溶であることが好ましく、特定の濃度で該極性有機溶媒を含む液中には、分散可能であることが好ましい。特定の濃度で該極性溶媒を含む液中の該極性溶媒の濃度は、該脂質二重膜の構成成分が分散可能で、該複合粒子も分散可能な濃度が好ましい。該極性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコールまたはポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール等があげられ、中でも、アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
本発明における極性有機溶媒を含む液中の、極性有機溶媒以外の溶媒としては、例えば、水、液体二酸化炭素、液体炭化水素、ハロゲン化炭素またはハロゲン化炭化水素等が挙げられ、好ましくは水が挙げられる。また、イオンまたは緩衝成分等を含んでいてもよい。溶媒は1種または2種以上を用いることができるが、2種以上用いる場合は、相溶する組み合わせが好ましい。
【0071】
本発明の組成物におけるリピッドパーティクルの脂質二重膜、および、複合粒子を被覆する脂質二重膜は、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体もしくは脂肪族炭化水素誘導体または前記界面活性剤を構成成分として含有し、好ましくは水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分として含有することが好ましい。水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体としては、例えば前記の糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1つ以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体、または糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1つ以上の物質の脂肪族炭化水素誘導体があげられる。水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体としては、前記水溶性高分子の脂質誘導体または脂肪酸誘導体がより好ましく、前記ポリエチレングリコール化リン脂質がさらに好ましく、ポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミンが最も好ましい。なお、本発明における水溶性物質の脂肪族炭化水素誘導体としては、水溶性物質と、例えば長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシプロピレンアルキルまたはグリセリン脂肪酸エステルのアルコール性残基等とが結合してなるものがあげられる。
【0072】
糖、ペプチドまたは核酸の脂肪族炭化水素誘導体としては、例えばショ糖、ソルビトールまたは乳糖等の糖、例えばカゼイン由来ペプチド、卵白由来ペプチド、大豆由来ペプチドまたはグルタチオン等のペプチド、あるいは例えばDNA、RNA、プラスミド、siRNAまたはODN等の核酸の脂肪族炭化水素誘導体があげられる。
【0073】
水溶性高分子の脂肪族炭化水素誘導体としては、例えばポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、オリゴ糖、デキストリン、水溶性セルロース、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリグリセリン、キトサン、ポリビニルピロリドン、ポリアスパラギン酸アミド、ポリ-L-リジン、マンナン、プルラン、オリゴグリセロール等またはそれらの誘導体の脂肪族炭化水素誘導体があげられ、より好ましくは、ポリエチレングリコール誘導体またはポリグリセリン誘導体等の脂肪族炭化水素誘導体があげられ、さらに好ましくは、ポリエチレングリコール誘導体の脂肪族炭化水素誘導体があげられる。
【0074】
リード粒子がリポソームBである微粒子である場合、リポソームBと前記二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むものがリピッドパーティクルAとなり、その構成から狭義のリポソームと分類され、リード粒子がリポソームBである微粒子以外である場合でも、脂質二重膜で被覆されているので、広義のリポソームと分類される。本発明において、リード粒子がリポソームBである微粒子であることがより好ましい。
【0075】
本発明におけるリード粒子と前記二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子は、該リード粒子を製造後または該リード粒子の製造と同時に、該二本鎖核酸分子をリード粒子に付着または封入して複合粒子を製造でき、さらに該複合粒子の製造後または複合粒子の製造と同時に、脂質二重膜で該複合粒子を被覆することにより、リピッドパーティクルAを製造することができる。リピッドパーティクルAは、例えば、特表2002-508765号公報、特表2002-501511号公報、“バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica Acta)”,2001年,第1510巻,p.152-166、国際公開第02/28367号パンフレット等の公知の製造方法またはそれに準じて製造するか、例えばリード粒子に前記二本鎖核酸分子を付着または封入して複合粒子を製造後、該複合粒子および被覆層成分を、該被覆層成分が可溶な極性有機溶媒を含む、該複合粒子が溶解せず、該被覆層成分が分散状態で存在することが可能な濃度の液中に分散させる工程および該複合粒子を該被覆層成分で被覆する工程を含む製造方法で製造することができる。本発明におけるリード粒子と前記二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子は、リード粒子を水中で製造し、該リード粒子を製造後または該リード粒子の製造と同時に前記二本鎖核酸分子を水に分散または溶解して混合し、該二本鎖核酸分子をリード粒子に付着または封入させることで複合粒子を製造するか、またはリード粒子を任意な溶媒中で製造した後、該リード粒子を水中に分散させ、前記二本鎖核酸分子を水中に分散または溶解して混合し、リード粒子に該二本鎖核酸分子を付着させることで製造することが好ましく、リード粒子を水中で製造し、該リード粒子を製造後、前記二本鎖核酸分子を水に分散または溶解して混合し、リード粒子に該二本鎖核酸分子を付着させることで製造することがより好ましい。
【0076】
本発明の組成物におけるリピッドパーティクルAの好ましい製造方法としては、以下のリード粒子と前記二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子を製造する工程(工程1)および該複合粒子を脂質二重膜で被覆する工程(工程2または工程3)を含む製造方法があげられる。
【0077】
工程1) リード粒子と前記二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子を製造する工程
リード粒子を、例えば水等の溶媒中に分散させ、リード粒子が分散した液中に、前記二本鎖核酸分子を分散または溶解して含有させて混合し、リード粒子に該二本鎖核酸分子を付着させることが好ましい。工程1において、リード粒子の凝集を抑制するために、リード粒子は凝集抑制物質を含有するリード粒子であることが好ましい。凝集抑制物質としては、前記糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1つ以上の物質の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体または界面活性剤が好ましくあげられる。また、リード粒子が、正電荷をもつものである場合、リード粒子が分散した液中で、該二本鎖核酸分子と付着競合剤を共存させ、付着競合剤を該二本鎖核酸分子とともにリード粒子に付着させてもよく、さらにリード粒子が凝集抑制物質を含有するリード粒子である場合にも、リード粒子の凝集をより抑制させるために付着競合剤を用いてもよい。リード粒子と前記二本鎖核酸分子の組み合わせとしては、複合粒子が極性有機溶媒を含有する液に分散可能となる組み合わせを選択することが好ましく、極性有機溶媒に対しての複合粒子の溶解度が、工程2または3で用いる脂質二重膜の構成成分のそれよりも低いことがより好ましく、また、該極性有機溶媒を含む液中に、該脂質二重膜の構成成分が分散可能で、該複合粒子も分散可能な濃度で該極性有機溶媒を含む液が存在する組み合わせを選択することがより好ましい。
【0078】
付着競合剤としては、例えばアニオン性物質等があげられる。該アニオン性物質は、分子内の電荷、分子内分極等による静電的引力により、リード粒子に静電的に付着する物質を包含する。付着競合剤としてのアニオン性物質は、アニオン性を呈する物質であるが、アニオン性の基とカチオン性の基の両方をもつ両性の物質であっても、pHや、他の物質との結合等により相対的な陰性度が変化するので、その時々に応じてアニオン性物質に分類され得る。
【0079】
アニオン性物質としてはアニオン性脂質、アニオン性界面活性剤、アニオン性高分子等または等電点以上の値のpHでアニオン性を呈する蛋白質、ペプチドもしくは核酸等があげられ、好ましくはデキストラン硫酸、デキストラン硫酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸またはデキストランフルオレセインアニオニック等があげられる。これらアニオン性物質は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
アニオン性脂質としては、例えばホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトールまたはホスファチジン酸等があげられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えばアシルサルコシン、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数7〜22の脂肪酸ナトリウム等があげられる。具体的にはドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムまたはタウロデオキシコール酸ナトリウム等があげられる。
【0081】
アニオン性高分子としては、例えばポリアスパラギン酸、スチレンマレイン酸共重合体、イソプロピルアクリルアミド-アクリルピロリドン共重合体、ポリエチレングリコール修飾デンドリマー、ポリ乳酸、ポリ乳酸ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール化ポリ乳酸、デキストラン硫酸、デキストラン硫酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸またはデキストランフルオレセインアニオニック等があげられる。
等電点以上の値のpHでアニオン性を呈する蛋白質またはペプチドとしては、その物質の等電点以上の値のpHでアニオン性を呈する蛋白質またはペプチドであれば、特に限定されない。例えば、アルブミン、オロソムコイド、グロブリン、フィブリノーゲン、ヒストン、プロタミン、リボヌクレアーゼまたはリゾチーム等があげられる。
【0082】
アニオン性物質としての核酸としては、例えばDNA、RNA、プラスミド、siRNAまたはODN等があげられ、生理活性を示さないものであれば、どのような長さ、配列のものであってもよい。
【0083】
付着競合剤は、リード粒子に静電的に付着することが好ましく、リード粒子に付着してもリード粒子を凝集させるような架橋を形成しない大きさの物質であるか、分子内に付着する部分と、付着に反発してリード粒子の凝集を抑制する部分をもつ物質であることが好ましい。
【0084】
工程1は、より具体的には、例えば凝集抑制物質を含有するリード粒子が分散した液を製造する操作および該リード粒子が分散した液中に、前記二本鎖核酸分子を分散または溶解して含有させる操作(例えば該リード粒子が分散した液中に、該二本鎖核酸分子を加えて分散または溶解させる操作、該リード粒子が分散した液中に、該二本鎖核酸分子が分散または溶解した液を加える操作等)を含む製造方法において実施することができる。ここで、リード粒子が分散した液中に、前記二本鎖核酸分子を分散または溶解して含有させる工程により得られる複合粒子としては、具体的には、カチオン性物質を含有するリポソームBである微粒子に該二本鎖核酸分子が付着して形成される複合粒子、カチオン性物質を含有する脂質集合体である微粒子に前記二本鎖核酸分子が付着して形成される複合粒子、ポリ-L-リジン等のカチオン性高分子を含有する高分子である微粒子に前記二本鎖核酸分子が付着して形成される複合粒子があげられる。また、リード粒子が分散した液中に、前記二本鎖核酸分子を分散または溶解して含有させる操作が、該二本鎖核酸分子が分散または溶解した液に、さらに付着競合剤を含有させて、これを該リード粒子が分散した液中に加える操作であることが好ましく、この場合、該リード粒子に、該二本鎖核酸分子と該付着競合剤が共に付着して複合粒子が製造され、該複合粒子の製造中におけるリード粒子の凝集も、製造後における複合粒子の凝集もより抑制されて製造できる。
【0085】
リード粒子のリード粒子が分散する液に対する割合は、リード粒子に前記二本鎖核酸分子が付着できれば特に限定されるものではないが、約1μg/mL〜1g/mLであるのが好ましく、約0.1〜500mg/mLであるのがより好ましい。
【0086】
工程2) 複合粒子を脂質二重膜で被覆する工程(その1)
工程1で得られた複合粒子が分散し、かつ脂質二重膜の構成成分が溶解した極性有機溶媒を含む液(液A)を調製する操作、次いで、液A中の極性有機溶媒の濃度を減少させることによって、複合粒子を脂質二重膜で被覆する操作を含む製造方法によってリピッドパーティクルAが製造できる。この場合、リピッドパーティクルAは分散液(液B)の形態で得られる。液Aにおける溶媒は、該脂質二重膜の構成成分が可溶で、該複合粒子が分散可能な極性有機溶媒の濃度の該極性有機溶媒を含む溶媒であり、液A中の極性有機溶媒の濃度を減少させた液Bでは、該脂質二重膜の構成成分が分散可能で、該複合粒子も分散可能であることが好ましい。液A中の溶媒が、極性有機溶媒と極性有機溶媒以外の溶媒との混合液である場合、例えば該極性有機溶媒と混合可能な極性有機溶媒以外の溶媒を含む溶媒(液C)を加えること、および/または、蒸発留去、半透膜分離、分留等によって、選択的に極性有機溶媒を取り除くことで、極性有機溶媒の濃度を減少させることができる。ここで、液Cは、極性有機溶媒以外の溶媒を含む液が好ましいが、極性有機溶媒も液Aにおける極性有機溶媒の濃度より低ければ含んでいてよい。
【0087】
工程2における極性有機溶媒以外の溶媒としては、例えば、水、液体二酸化炭素、液体炭化水素、ハロゲン化炭素またはハロゲン化炭化水素等があげられ、好ましくは水があげられる。また、液Aおよび液Cは、イオンまたは緩衝成分等を含んでいてもよい。これら溶媒は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
極性有機溶媒と極性有機溶媒以外の溶媒の組み合わせは、相互に混合可能である組み合わせであるのが好ましく、液Aおよび液B中の溶媒ならびに液Cに対する、複合粒子および脂質二重膜の構成成分の溶解度等を考慮して選択できる。複合粒子については、液Aおよび液B中の溶媒ならびに液Cのいずれに対しての溶解度も低いことが好ましく、また極性有機溶媒および極性有機溶媒以外の溶媒のいずれに対しての溶解度も低いことが好ましく、脂質二重膜の構成成分は、液B中の溶媒および液Cに対しての溶解度が低いことが好ましく、液A中の溶媒に対しての溶解度が高いことが好ましく、また極性有機溶媒に対しての溶解度が高いことが好ましく、極性有機溶媒以外の溶媒に対する溶解度が低いことが好ましい。ここで、「複合粒子の溶解度が低い」とは、複合粒子に含有されるリード粒子、二本鎖核酸分子および付着競合剤等の各成分の、溶媒中における溶出性が小さいことであり、各成分の個々の溶解度が高くても各成分間の結合等によって各成分の溶出性が小さくなっていればよい。例えば、リード粒子に含まれる成分のいずれかの液A中の溶媒に対する溶解度が高い場合でも、リード粒子が正電荷をもつ場合、二本鎖核酸分子内の電荷、分子内分極等と静電的に結合することで複合粒子中の成分の溶出が抑制され、複合粒子の液A中の溶媒に対する溶解度を低くすることが可能である。すなわち、リード粒子が正電荷をもつことは、リピッドパーティクルAの製造において、複合粒子の成分の溶出を抑制し、製造性と歩留まりを向上させる効果も備えている。
【0089】
液Aにおける極性有機溶媒の濃度は、脂質二重膜の構成成分が可溶で、複合粒子が分散可能であれば特に限定されるものではなく、用いる溶媒や複合粒子、脂質二重膜の構成成分の種類等により異なるが、好ましくは約30v/v%以上、より好ましくは約60〜90v/v%である。また、液Bにおける極性有機溶媒の濃度は、液Aよりも低い濃度で該極性有機溶媒を含み、脂質二重膜の構成成分が分散可能で、複合粒子も分散可能であれば特に限定されるものではないが、好ましくは約50v/v%以下である。
【0090】
液Aを調製する工程としては、極性有機溶媒、複合粒子および脂質二重膜の構成成分、必要により極性有機溶媒以外の溶媒を混合して液Aを調製する工程があげられる。極性有機溶媒、複合粒子および脂質二重膜の構成成分、必要により極性有機溶媒以外の溶媒は、複合粒子が溶解しなければ、それらを加える順序に特に制限はないが、好ましくは、例えば該複合粒子が分散した極性有機溶媒を含む液(液D)を調製し、液D中の極性有機溶媒と同一または異なった極性有機溶媒を含む溶媒に該脂質二重膜の構成成分を溶解させた液(液E)を調製し、液Dと液Eを混合して調製する工程があげられる。液Dと液Eを混合して液Aを調製する際には、徐々に混合することが好ましい。
【0091】
工程3) 複合粒子を脂質二重膜で被覆する工程(その2)
工程1で得られた複合粒子および脂質二重膜の構成成分を、該脂質二重膜の構成成分が可溶な極性有機溶媒を含み、該脂質二重膜の構成成分が分散状態で存在することが可能な濃度で該極性有機溶媒を含む液(液F)中に分散させる操作を含む製造方法でリピッドパーティクルAが製造でき、この場合、リピッドパーティクルAは分散液の状態で得られる。なお、液Fは、該脂質二重膜の構成成分が可溶な極性有機溶媒を含むが、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子がともに分散可能な特定の濃度で該極性有機溶媒を含む液である。
【0092】
液Fの調製方法はいかなる形態をも取ることができる。例えば複合粒子の分散液と、脂質二重膜の構成成分の溶解液または分散液を調製した後、両液を混合して液Fを調製してもよく、複合粒子または脂質二重膜の構成成分のどちらか一方の分散液を調製し、その分散液に、固体状態の複合粒子または脂質二重膜の構成成分の残る一方を加えて分散させて液Fを調製してもよい。複合粒子の分散液と、脂質二重膜の構成成分の溶解液または分散液を混合する場合には、複合粒子の分散媒は、あらかじめ極性有機溶媒を含んでいてもよく、脂質二重膜の構成成分の溶媒または分散媒は極性有機溶媒を含む液または極性有機溶媒のみで構成される液であってもよい。一方、複合粒子または脂質二重膜の構成成分のどちらか一方の分散液を調製し、該分散液に、固体状態の複合粒子または脂質二重膜の構成成分の残る一方を加える場合には、該分散液は、極性有機溶媒を含む液であることが好ましい。なお、液Fを調製した後に複合粒子が溶解せず、脂質二重膜の構成成分が分散している場合には、複合粒子が溶解せず、脂質二重膜の構成成分が分散する極性有機溶媒濃度の範囲であれば極性有機溶媒を加えてもよく、極性有機溶媒を除去してもよく、または濃度を減少させてもよい。一方、液Fを調製した後に複合粒子は溶解していないが、脂質二重膜の構成成分が溶解している場合には、複合粒子が溶解せず、脂質二重膜の構成成分が分散する極性有機溶媒濃度の範囲で極性有機溶媒を除去するかまたは濃度を減少させればよい。また、複合粒子と脂質二重膜の構成成分をあらかじめ極性有機溶媒以外の溶媒中で混合し、そこに複合粒子が溶解せず、脂質二重膜の構成成分が分散する極性有機溶媒濃度の範囲で極性有機溶媒を加えてもよい。その場合には、複合粒子および脂質二重膜の構成成分のそれぞれを極性有機溶媒以外の溶媒中に分散させ、両分散液を混合した後で、極性有機溶媒を加えてもよく、複合粒子または脂質二重膜の構成成分のどちらか一方を極性有機溶媒以外の溶媒中に分散させ、その分散液に、固体状態の複合粒子または脂質二重膜の構成成分の残る一方を加えて分散させた後で、極性有機溶媒を加えてもよい。
また、複合粒子および脂質二重膜の構成成分が分散し、極性有機溶媒を含有する液を、複合粒子が脂質二重膜で被覆されるに充分な時間、静置または混合する操作を含むことが好ましい。複合粒子と脂質二重膜の構成成分を、極性有機溶媒を含有する液中に分散させた後、静置または混合する時間は、複合粒子および脂質二重膜の構成成分を、極性有機溶媒を含有する液中に分散させた後に瞬時に終了させるのでなければ制限はないが、脂質二重膜の構成成分や、極性有機溶媒を含有する液の種類に応じて任意に設定することができ、得られたリピッドパーティクルAの収率が定常量となる時間を設定することが好ましく、例えば約3秒〜30分である。なお、複合粒子および脂質二重膜の構成成分を、極性有機溶媒を含有する液中に分散させると、複合粒子への脂質二重膜の被覆が開始され、速やかに複合粒子への脂質二重膜の被覆が完了することもあり、例えば、脂質二重膜の構成成分の溶解液を調製した後、複合粒子の分散液と、脂質二重膜の構成成分の溶解液とを混合して液Fを調製する場合において、脂質二重膜の構成成分の液Fへの溶解性が低いと、脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒を含有する液中に分散するのとほぼ同時に、複合粒子への脂質二重膜の被覆が完了することもある。
【0093】
液Fにおける極性有機溶媒以外の溶媒としては、例えば工程2における極性有機溶媒以外の溶媒で例示した物があげられ、好ましくは水があげられる。
【0094】
液Fにおける極性有機溶媒の濃度は、複合粒子と、脂質二重膜の構成成分がともに分散されている条件さえ満たしていれば特に限定されるものではなく、用いる溶媒や複合粒子、脂質二重膜の構成成分の種類等により異なるが、好ましくは約1〜80v/v%、より好ましくは約10〜60v/v%、さらに好ましくは約20〜50v/v%、最も好ましくは約30〜40v/v%である。
【0095】
本発明において、「脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に対して可溶」とは、脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に溶解する性質をもつ場合、可溶化剤等を用いることにより脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に溶解する性質をもつ場合、脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒中で凝集体またはミセル等を形成して乳濁もしくはエマルジョン化し得る性質をもつ場合等を包含する。また、「脂質二重膜の構成成分が分散する」とは、脂質二重膜の構成成分の全部が凝集体またはミセル等を形成して乳濁もしくはエマルジョン化している状態、脂質二重膜の構成成分の一部が凝集体またはミセル等を形成して乳濁もしくはエマルジョン化し、残る部分が溶解している状態、脂質二重膜の構成成分の一部が凝集体またはミセル等を形成して乳濁もしくはエマルジョン化し、残る部分が沈殿している状態等を包含する。なお、「脂質二重膜の構成成分が溶解する」とは、脂質二重膜の構成成分の全部が凝集体またはミセル等を形成して乳濁もしくはエマルジョン化している状態を包含しない。
【0096】
本発明において、「複合粒子が分散する」とは、複合粒子が懸濁または乳濁もしくはエマルジョン化している状態のことであり、複合粒子の一部が懸濁または乳濁もしくはエマルジョン化し、残る部分が溶解している状態、複合粒子の一部が乳濁もしくはエマルジョン化し、残る部分が沈殿している状態等を包含する。「複合粒子が溶解しない」とは、前記の「複合粒子が分散する」と同義である。
【0097】
本発明におけるリピッドパーティクルAの製造方法において用いられる、極性有機溶媒含有水溶液中の複合粒子の濃度は、複合粒子を脂質二重膜で被覆できれば特に限定されるものではないが、約1μg/mL〜1g/mLであるのが好ましく、約0.1〜500mg/mLであるのがより好ましい。また、用いられる脂質二重膜の構成成分の濃度は、複合粒子を被覆できれば特に限定されるものではないが、約1μg/mL〜1g/mLであるのが好ましく、約0.1〜400mg/mLであるのがより好ましい。
【0098】
また、本発明におけるリピッドパーティクルAの大きさは、平均粒子径が約30nm〜300nmであるのがよりに好ましく、約50nm〜200nmであるのがより好ましく、具体的には、例えば注射可能な大きさであるのが好ましい。
【0099】
さらに、上記で得られるリピッドパーティクルAに抗体等の蛋白質、糖類、糖脂質、アミノ酸、核酸、種々の低分子化合物または高分子化合物等の物質による修飾を行うこともでき、これらで得られる被覆複合粒子もリピッドパーティクルAに包含される。例えば、ターゲッティングに応用するため、上記で得られるリピッドパーティクルAに対して、さらに抗体等の蛋白質、ペプチドまたは脂肪酸類等による脂質二重膜の表面修飾を行うこともできる[ラジック(D. D. Lasic)、マーティン(F. Martin)編,“ステルス・リポソームズ(Stealth Liposomes)”(米国),シーアールシー・プレス・インク(CRC Press Inc),1995年,p.93-102参照]。また、リピッドパーティクルAに例えば水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体による表面改質も任意に行うことができ、これら表面改質に用いられる水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体は、前記脂質二重膜の構成成分としての水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体と同義である。リピッドパーティクルの表面改質によって、該リピッドパーティクルの脂質二重膜に、水溶性物質を構成成分として含有させることができる。
【0100】
本発明の組成物を、人を含む哺乳動物に投与することで、前記二本鎖核酸分子を標的遺伝子の発現部位へ送達させれば、in vivoでほ乳類の細胞に、遺伝子の発現を抑制するRNA等を導入することができ、遺伝子等の発現の抑制ができる。本発明の組成物を、人を含む哺乳動物に静脈投与することで、例えば癌または炎症の生じた臓器または部位へ送達され、送達臓器または部位の細胞内に本発明の組成物中の核酸を導入することができる。癌または炎症の生じた臓器または部位としては、特に限定されないが、例えば胃、大腸、肝臓、肺、脾臓、膵臓、腎臓、膀胱、皮膚、血管、眼球等があげられる。また、本発明の組成物を、人を含む哺乳動物に静脈投与することで、例えば血管、肝臓、肺、脾臓および/または腎臓へ送達され、送達臓器または部位の細胞内に本発明の組成物中の核酸を導入することができる。肝臓、肺、脾臓および/または腎臓の細胞は、正常細胞、癌もしくは炎症に関連した細胞またはその他の疾患に関連した細胞のいずれでもよい。
即ち、本発明は、上記説明した本発明の組成物を哺乳動物に投与する標的遺伝子の発現抑制方法も提供する。投与対象は、人であることが好ましい。
【0101】
また、本発明の組成物における標的遺伝子が、例えば腫瘍または炎症に関連する遺伝子であれば、本発明の組成物を、癌または炎症疾患の治療剤または予防剤、好ましくは固形癌または血管もしくは血管近傍の炎症の治療剤または予防剤として使用することができる。具体的には、本発明の組成物における標的遺伝子が、血管新生に関連する遺伝子等であれば、血管平滑筋の増殖や血管新生等を抑制できるので、本発明の組成物を、例えば血管平滑筋の増殖や血管新生を伴う癌または炎症疾患の治療剤または予防剤として使用することができる。
即ち、本発明は、上記説明した本発明の組成物を哺乳動物に投与する癌または炎症疾患の治療方法も提供する。投与対象は、人であることが好ましく、癌または炎症疾患に罹患している人がより好ましい。
また、本発明の組成物は、癌または炎症疾患の治療剤または予防剤に関するin vivoのスクリーニング系においてピーオーシー[POC(Proof of concept)]取得のツールとして使用することもできる。
【0102】
本発明の組成物は、例えば血液成分等の生体成分(例えば血液、消化管等)中での前記二本鎖核酸分子の安定化、副作用の低減または標的遺伝子の発現部位を含む組織または臓器への薬剤集積性の増大等を目的とする製剤としても使用できる。
【0103】
本発明の組成物を、医薬品の癌または炎症疾患等の治療剤または予防剤として使用する場合、投与経路としては、治療に際し最も効果的な投与経路を使用するのが望ましく、口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内または静脈内等の非経口投与または経口投与をあげることができ、好ましくは静脈内投与または筋肉内投与をあげることができ、より好ましくは静脈内投与があげられる。
投与量は、投与対象の病状や年齢、投与経路などによって異なるが、例えばRNAに換算した1日投与量が約0.1μg〜1000mgとなるように投与すればよい。
【0104】
静脈内投与または筋肉内投与に適当な製剤としては、例えば注射剤があげられ、上述の方法により調製したリピッドパーティクルAの分散液をそのまま例えば注射剤等の形態として用いることも可能であるが、該分散液から例えば濾過、遠心分離等によって溶媒を除去して使用することも、該分散液を凍結乾燥して使用する、または例えばマンニトール、ラクトース、トレハロース、マルトースまたはグリシン等の賦形剤を加えた分散液を凍結乾燥して使用することもできる。
注射剤の場合、前記のリピッドパーティクルAの分散液または前記の溶媒を除去または凍結乾燥したリピッドパーティクルAに、例えば水、酸、アルカリ、種々の緩衝液、生理的食塩液またはアミノ酸輸液等を混合して注射剤を調製することが好ましい。また、例えばクエン酸、アスコルビン酸、システインもしくはEDTA等の抗酸化剤またはグリセリン、ブドウ糖もしくは塩化ナトリウム等の等張化剤等を添加して注射剤を調製することも可能である。また、例えばグリセリン等の凍結保存剤を加えて凍結保存することもできる。
【0105】
本発明の癌または炎症疾患の治療剤としては、本発明の組成物のうち、二本鎖核酸分子が、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子であり、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、該二本鎖核酸分子であって、リピッドパーティクルAが、(1)リード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、該脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、特定の濃度で該極性有機溶媒を含む液に分散可能であり、該脂質二重膜が、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜であるリピッドパーティクル、または(2)カチオン性物質を含むリード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、該脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜であるリピッドパーティクルである場合の、該リピッドパーティクルを含有する組成物があげられる。本発明の癌または炎症疾患の治療剤において、癌としては、好ましくは固形癌があげられ、炎症疾患としては、好ましくは血管もしくは血管近傍の炎症があげられる。
【0106】
また、本発明は、本発明の組成物のうち、二本鎖核酸分子が、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子であり、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、腫瘍または炎症に関連する標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースである、該二本鎖核酸分子であって、リピッドパーティクルAが、(1)リード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、該脂質二重膜の構成成分が特定の極性有機溶媒に可溶であり、該脂質二重膜の構成成分および該複合粒子が、特定の濃度で該極性有機溶媒を含む液に分散可能であり、該脂質二重膜が、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜であるリピッドパーティクル、または(2)カチオン性物質を含むリード粒子と該二本鎖核酸分子を構成成分とする複合粒子および該複合粒子を被覆する脂質二重膜を含むリピッドパーティクルであり、該脂質二重膜が、中性脂質および水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜であるリピッドパーティクルである場合の、該リピッドパーティクルを含有する組成物の、癌または炎症疾患の治療剤、好ましくは固形癌または血管もしくは血管近傍の炎症の治療剤の製造のための使用も提供する。
【0107】
次に、実施例および試験例により、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例および試験例に限定されるものではない。
表1に示したセンス(sense)鎖およびアンチセンス(antsense)鎖からなる(表中のdが付された塩基に結合する糖は、デオキシリボースであり、mが付された塩基に結合する糖は、2’-O-メチルで置換されているリボースである)、BCL2遺伝子のmRNAの連続する19塩基の配列5’-GUG AAG UCA ACA UGC CUG C-3’を含む二本鎖核酸分子を、実施例1〜4および比較例1〜9において用いた。それらの二本鎖核酸分子は、それぞれのセンス鎖およびアンチセンス鎖を北海道システム・サイエンス社から入手し、アニーリングさせることにより調製した。
【実施例1】
【0108】
DOTAP(アバンチポーラルリピッズ社製)/PEG-DSPE(日本油脂社製)/蒸留水(大塚製薬社製)を40 mg/16 mg/1mLとなるように混合し、ボルテックスミキサーで振とう撹拌した。この懸濁液を70℃で0.4 μmのポリカーボネートメンブランフィルター(コスター社製)に10回、0.2 μmのポリカーボネートメンブランフィルター(ワットマン社製)に3回、0.1 μmのポリカーボネートメンブランフィルター(コーニング社製)に10回、さらに0.05 μmのポリカーボネートメンブランフィルター(ワットマン社製)に20回通した。Dynamic light scattering (DLS)で得られたリード粒子の平均粒子径を測定したところ、70.71 nmであった。
一方、EPC(日本油脂社製)/PEG-DSPE(日本油脂社製)/エタノール(和光純薬社製)/水を15 mg/3.125 mg/0.625mL/0.375mLとなるように混合し、脂質二重膜の構成成分の溶液を調製した。
得られたリード粒子の分散液0.0125 mLに、表1に記載されたBCL2siRNA-Exp.1/水を24 mg/1mLとなるように混合して得られた水溶液0.00417 mLを混合して複合粒子を調製した。得られた複合粒子の分散液を、脂質二重膜の構成成分の溶液0.06667 mLに添加し、続いて0.02083 mLの蒸留水を添加した。さらにEPC/PEG-DSPEを62.5mg/62.5mg/mLになるように40vol%エタノールに溶解した溶液を0.00667 mL添加後、蒸留水を0.7758 mLを徐々に加えて、エタノールの濃度が5%以下になるように調整し、リピッドパーティクルを調製した。得られたリピッドパーティクル懸濁液を食塩水で等張化した。さらに生理食塩水(大塚製薬社製)で最終液量を1 mLとすることで、BCL2siRNA-Exp.1濃度を0.1 mg/mLに調整し、製剤を得た。
DLSで製剤中のリピッドパーティクルの平均粒子径を測定したところ、82.59 nmであった。
【実施例2】
【0109】
BCL2siRNA-Exp.1をBCL2siRNA-Exp.2にした以外、実施例1と同様にして製剤を得た。
DLSで製剤中のリピッドパーティクルの平均粒子径を測定したところ、83.94 nmであった。
【0110】
比較例1〜9
BCL2siRNA-Exp.1をそれぞれBCL2siRNA-Com.1〜9にした以外、実施例1と同様にして製剤を得た。
DLSで各製剤中のリピッドパーティクルの平均粒子径を測定した。表1に各製剤中のリピッドパーティクルの平均粒子径を示した。
【実施例3】
【0111】
BCL2siRNA-Exp.1をBCL2siRNA-Exp.3にした以外、実施例1と同様にして製剤を得た。
DLSで製剤中のリピッドパーティクルの平均粒子径を測定したところ、82.42 nmであった。
【実施例4】
【0112】
BCL2siRNA-Exp.1をBCL2siRNA-Exp.4にした以外、実施例1と同様にして製剤を得た。
DLSで製剤中のリピッドパーティクルの平均粒子径を測定したところ、83.47 nmであった。
【0113】
【表1】
【0114】
試験例1
BCL2siRNA-Exp.1〜4およびBCL2siRNA-Com.1〜9のRNAi活性を、以下に示したようにBcl2mRNAの発現抑制効果を測定して評価した。
6cm径の培養ディッシュにヒト前立腺癌細胞PC-3を2×105細胞数/ディッシュで播種し、10%ウシ胎仔血清を含むF-12 Kaighn’s培地(GIBCO、21127)中、37℃、5%CO2条件下で一晩培養した。翌日、培養ディッシュから培地を吸引し、0.8mLの低血清基本培地であるOPTI-MEM(GIBCO、31985)に交換した。そこに、OPTI-MEM中で混合したsiRNA-オリゴフェクトアミン複合体溶液を0.2mL添加することにより、siRNAをPC-3に導入した。siRNAの最終濃度は3nM、30nMの2点とした。
siRNAを導入したヒト前立腺癌細胞PC-3を37℃の5%CO2インキュベーター内で48時間培養し、PBSで2回洗浄し、セルスクレーパーを用いて1.5mLチューブに移した。1000×gで2分間遠心分離し、上清を取り除いた後、細胞をRLT buffer (キアゲン社製 RNA回収キット「RNeasy」に添付)に溶解して回収し、キットに添付された説明書に従って全RNAを回収した。
全RNA1μgを鋳型として、Superscript VILO(インビトロジェン社)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを作成した。このcDNAをPCR反応の鋳型に用い、ABI7900HT Fast(ABI社)を用いたTaqman probe法によりbcl-2遺伝子および構成的発現遺伝子であるGADPH(D-glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)遺伝子に特異的なPCR増幅をそれぞれ行い、mRNA量の定量を行った。それぞれの遺伝子のPCR増幅には250ngの全RNA由来cDNAを鋳型に用いた。検体のmRNA量は、siRNA未導入群(未処理)における、bcl-2のmRNA量またはGADPHのmRNA量を1としたときの相対的な割合として表した。各検体の発現量比を1から差し引いたものを発現抑制率と表現し、図1に示した。
【0115】
試験例2
以下に示したように、一回目投与PEG修飾リピッドパーティクルとして実施例1〜2および比較例1〜9で得られた製剤を、マウスに投与し、次に、7日間の間隔をあけ、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルとして比較例1で得られた製剤を投与し、投与3時間後の血液中のBCL2siRNA-Com.1の濃度を測定することにより、実施例1〜2および比較例1〜9で得られた製剤の、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルの血中滞留性に対する影響を評価した。
実施例1〜2および比較例1〜9で得られた製剤を、雄性Balb/cマウス(6週齢、日本クレア)に、薬液(siRNA濃度 50μg/mL) 100 μLを尾静脈より投与した(投与量は5 μg/mouse)。7日間の間隔をあけ、比較例1で得られた製剤の薬液(siRNA濃度 50μg/mL) 100 μLを尾静脈より投与した(投与量は5 μg/mouse)。2回目の投与の後、投与3時間後に、尾動脈より10 μLの血液を採取し、denaturing solution (4 mol/L グアニジンチオシアネート、25 mmol/L クエン酸ナトリウム、0.1 v/v% 2-メルカプトエタノール、0.5 w/v% sodium N-lauroyl sarcosine;以下、D溶液という) 90 μLを添加して混合し、10 v/v% 血液とした。
【0116】
得られた10 v/v% 血液 50 μLに、ジエチルピロカルボナート水溶液(ジエチルピロカルボナートを超純水に対し0.1 v/v%の容量で添加し混合した)5 μL、I.S.溶液(I.S.として濃度が0.3 μmol/Lの前記ジエチルピロカルボナート水溶液)10 μL、D溶液 50 μL、2 mmol/L 酢酸ナトリウム(pH 4.0) 10 μLおよび飽和フェノール水溶液/クロロホルム溶液150 μLを添加して混合し遠心分離した。上清 65 μLにGenTLE溶液(GenTLE precipitation carrier (タカラバイオ)を前記ジエチルピロカルボナート水溶液で15倍希釈した)15 μLを添加して混合した後、エタノールを添加して混合し、遠心分離した後、上清を捨て、さらに沈殿に75 v/v% エタノールを添加し遠心分離し、上清を捨て、沈殿を風乾した後、再溶解液(ジエチルピロカルボナート/triethylamine/hexafluoroisopropanol/waterを0.1/0.4/30/1000の容量比で混合した)50 μLに溶解し、HPLC法にて定量した。結果を第2図に示す。
<装置>
HPLC装置;ACQUITY UPLC system (Waters)
質量分析装置;API4000 Q TRAP (Applied Biosystems/MDS Sciex)
<HPLC条件>
内標準物質(I.S.)
5'-GUG AAG UCA ACA UGC CUG dTdT-3'(dが付された塩基に結合する糖は、デオキシリボースである)(配列番号27)
5'-CAG GCA UGU UGA CUU CAC dTdT-3'(dが付された塩基に結合する糖は、デオキシリボースである)(配列番号28)
カラム;Xbridge C18 (3.5 μm、2.1 mm I.D. x 50 mm、Waters)
移動層;triethylamine/hexafluoroisopropanol/water (0.4/30/1000):メタノール = 93:7 〜75:25
【0117】
第1図より、実施例1〜4で用いた二本鎖核酸分子(Exp.1からExp.4)は、比較例1で用いた二本鎖核酸分子と同程度のsiRNAの活性を示し、比較例2〜9で用いた二本鎖核酸分子に比べて、siRNAの活性が高いことを示している。第2図より、比較例1で得られた製剤を投与し、次に、7日間の間隔をあけ、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルとして比較例1で得られた製剤を投与したマウスでは、二本鎖核酸分子が血液中に見られず、PEG修飾リピッドパーティクルの二回目投与において血中滞留性が著しく低下したのに対して、実施例1〜2で得られた製剤を投与し、次に、7日間の間隔をあけ、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルとして比較例1で得られた製剤を投与したマウスでは、二本鎖核酸分子の血液中濃度が高く、PEG修飾リピッドパーティクルの二回目投与における血中滞留性の低下を抑制していることを示している。
すなわち、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルを含有する、組成物であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、該リピッドパーティクルが、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜を有するリピッドパーティクルである本発明の組成物は、siRNAの活性が高いことに加え、PEG修飾リピッドパーティクルの二回目投与における血中滞留性の低下が抑制されたことより、副作用を低減できること、また標的遺伝子の発現部位を含む組織または臓器への薬剤集積性を増大できることが明らかとなった。
【0118】
表2に示したセンス(sense)鎖およびアンチセンス(antsense)鎖からなる(表中のmが付された塩基に結合する糖は、2’-O-メチルで置換されているリボースである)、BCL2遺伝子のmRNAの連続する25塩基の配列5’-CCA CAA GUG AAG UCA ACA UGC CUG C-3’を含む二本鎖核酸分子を、実施例5および比較例10〜13において用いた。それらの二本鎖核酸分子は、それぞれのセンス鎖およびアンチセンス鎖を北海道システム・サイエンス社から入手し、アニーリングさせることにより調製した。
【実施例5】
【0119】
DOTAP(アバンチポーラルリピッズ社製)/PEG-DSPE(日本油脂社製)/蒸留水(大塚製薬社製)を40 mg/16 mg/1mLとなるように混合し、ボルテックスミキサーで振とう撹拌した。この懸濁液を70℃で0.4 μmのポリカーボネートメンブランフィルター(コスター社製)に10回、0.2 μmのポリカーボネートメンブランフィルター(ワットマン社製)に3回、0.1 μmのポリカーボネートメンブランフィルター(コーニング社製)に10回、さらに0.05 μmのポリカーボネートメンブランフィルター(ワットマン社製)に20回通した。Dynamic light scattering (DLS)で得られたリード粒子の平均粒子径を測定したところ、71.44 nmであった。
一方、EPC(日本油脂社製)/PEG-DSPE(日本油脂社製)/エタノール(和光純薬社製)/水を15 mg/3.125 mg/0.625mL/0.375mLとなるように混合し、脂質二重膜の構成成分の溶液を調製した。
得られたリード粒子の分散液0.025mLに、BCL2siRNA-Exp.5の24 mg/mL水溶液0.00833 mLを混合して複合粒子を調製した。得られた複合粒子の分散液を、脂質二重膜の構成成分の溶液0.13334 mLに添加し、続いて0.04166 mLの蒸留水を添加した。さらにEPC/PEG-DSPEを62.5mg/62.5mg/mLになるように40vol%エタノールに溶解した溶液を0.01334 mL添加後、蒸留水を1.5517 mLを徐々に加え、エタノールの濃度が5%以下になるように調整し、リピッドパーティクルを調製した。得られたリピッドパーティクル懸濁液を食塩水で等張化した。さらに生理食塩水(大塚製薬社製)で最終液量を2 mLとすることで、BCL2siRNA-Exp.5濃度を0.1 mg/mLに調整し、製剤を得た。
DLSで製剤中のリピッドパーティクルの平均粒子径を測定したところ、77.26 nmであった。
【0120】
比較例10〜13
BCL2siRNA-Exp.5をそれぞれBCL2siRNA-Com.10〜13にした以外、実施例5と同様にして製剤を得た。
DLSで各製剤中のリピッドパーティクルの平均粒子径を測定した。表2に各製剤のリピッドパーティクルの平均粒子径を示した。
【0121】
【表2】
【0122】
試験例3
BCL2siRNA-Exp.5およびBCL2siRNA-Com.10〜13のRNAi活性を、以下に示したようにBcl2mRNAの発現抑制効果を測定して評価した。
6cm径の培養ディッシュにPC-3を2×105細胞数/ディッシュで播種し、10%ウシ胎仔血清を含むF-12 Kaighn’s培地(GIBCO、21127)中、37℃、5%CO2条件下で一晩培養した。翌日、培養ディッシュから培地を吸引し、0.8mLの低血清基本培地であるOPTI-MEM(GIBCO、31985)に交換した。そこに、OPTI-MEM中で混合したsiRNA-オリゴフェクトアミン複合体溶液を0.2mL添加することにより、siRNAをPC-3に導入した。siRNAの最終濃度は10nMとした。
siRNAを導入した細胞を37℃の5%CO2インキュベーター内で48時間培養し、PBSで2回洗浄し、セルスクレーパーを用いて1.5mLチューブに移した。1000×gで2分間遠心分離し、上清を取り除いた後、細胞をRLT buffer (キアゲン社製 RNA回収キット「RNeasy」に添付)に溶解して回収し、キットに添付された説明書に従って全RNAを回収した。
全RNA1μgを鋳型として、Superscript VILO(インビトロジェン社)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを作成した。このcDNAをPCR反応の鋳型に用い、ABI7900HT Fast(ABI社)を用いたTaqman probe法によりbcl-2遺伝子および構成的発現遺伝子であるGADPH(D-glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)遺伝子に特異的なPCR増幅をそれぞれ行い、mRNA量の定量を行った。それぞれの遺伝子のPCR増幅には250ngの全RNA由来cDNAを鋳型に用いた。検体のmRNA量は、siRNA未導入群(未処理)における、bcl-2のmRNA量またはGADPHのmRNA量を1としたときの相対的な割合として表し、図3に示した。
【0123】
試験例4
一回目投与PEG修飾リピッドパーティクルとして実施例5および比較例10〜13で得られた製剤を用い、一方、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルとしてもそれぞれ同じ実施例5および比較例10〜13とし、試験例2と同様にして、実施例5および比較例10〜13で得られた製剤の、二回目投与PEG修飾リピッドパーティクルの血中滞留性に対する影響を評価した。
2回目の投与の後、投与3時間後の血液中のBCL2siRNA-Exp.5(実施例5)およびBCL2siRNA-Com.10〜13(比較例10〜13)のそれぞれの濃度を測定した結果を第4図に示す。
ただし、内標準物質(I.S.)は、5'-GmUG mAAmG UmCA mACmA UmGC mCUmG CdT-3'(5’-側から2、4、6、8、10、12、14、16、18番目のmが付された塩基に結合する糖は、2’-O-メチルで置換されているリボースであり、dが付された塩基に結合する糖は、デオキシリボースである)(配列番号39)および5'-GCA GGC AUG UUG ACU UCA CdT-3'(dが付された塩基に結合する糖は、デオキシリボースである)(配列番号40)を用いた。
【0124】
第3図より、実施例5で用いた二本鎖核酸分子は、比較例10〜13で用いた二本鎖核酸分子と同等のsiRNAの活性を示している。第4図より、比較例10〜13で得られた製剤を7日間の間隔をあけ、二回投与したマウスでは、二本鎖核酸分子が血液中に見られず、PEG修飾リピッドパーティクルの二回目投与において血中滞留性が著しく低下したのに対して、実施例5で得られた製剤を7日間の間隔をあけ、二回投与したマウスでは、二本鎖核酸分子の血液中濃度が高く、PEG修飾リピッドパーティクルの二回目投与における血中滞留性の低下を抑制していることを示している。
すなわち、センス鎖およびアンチセンス鎖から構成される二本鎖核酸分子を封入したリピッドパーティクルを含有する、組成物であって、
該アンチセンス鎖は、5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列(配列a)が、標的遺伝子のmRNAの連続する17塩基の配列と相補的な塩基の配列である、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであり、該アンチセンス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該センス鎖は、該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基の配列と相補的な塩基の配列(配列b)を含む、17〜30塩基の長さのポリヌクレオチドであって、該センス鎖中の糖がそれぞれリボース、デオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(i)配列aの5’末端側から3’末端側に向って1〜8番目の塩基に結合する糖の0〜30%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(ii)配列aの5’末端側から3’末端側に向って9〜16番目の塩基に結合する糖の0〜20%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iii)該アンチセンス鎖の5’末端側から3’末端側に向って17番目〜3’末端の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(iv)配列bの5’末端側から3’末端側に向って1〜17番目の塩基に結合する糖の10〜70%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
(v)該センス鎖の配列b以外の塩基に結合する糖の30〜100%がそれぞれデオキシリボースまたは2’位の水酸基が修飾基で置換されたリボースであり、
該リピッドパーティクルが静脈内投与可能な大きさのリピッドパーティクルであり、該リピッドパーティクルが、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を構成成分とする脂質二重膜を有するリピッドパーティクルである本発明の組成物は、siRNAの活性が高いことに加え、PEG修飾リピッドパーティクルの二回目投与における血中滞留性の低下が抑制されたことより、副作用を低減できること、また標的遺伝子の発現部位を含む組織または臓器への薬剤集積性を増大できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の組成物を、ほ乳類等に投与することにより、標的遺伝子の発現を抑制することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0126】
配列番号1-比較例1のsiRNA センス鎖
配列番号2-比較例1のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号3-実施例1のsiRNA センス鎖
配列番号4-実施例1のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号5-比較例2のsiRNA センス鎖
配列番号6-比較例2のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号7-比較例3のsiRNA センス鎖
配列番号8-比較例3のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号9-比較例4のsiRNA センス鎖
配列番号10-比較例4のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号11-比較例5のsiRNA センス鎖
配列番号12-比較例5のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号13-実施例2のsiRNA センス鎖
配列番号14-実施例2のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号15-比較例6のsiRNA センス鎖
配列番号16-比較例6のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号17-比較例7のsiRNA センス鎖
配列番号18-比較例7のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号19-比較例8のsiRNA センス鎖
配列番号20-比較例8のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号21-比較例9のsiRNA センス鎖
配列番号22-比較例9のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号23-実施例3のsiRNA センス鎖
配列番号24-実施例3のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号25-実施例4のsiRNA センス鎖
配列番号26-実施例4のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号27-実施例1〜4および比較例1〜9のsiRNA センス鎖のIS
配列番号28-実施例1〜4および比較例1〜9のsiRNA アンチセンス鎖のIS
配列番号29-実施例5のsiRNA センス鎖
配列番号30-実施例5のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号31-比較例10のsiRNA センス鎖
配列番号32-比較例10のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号33-比較例11のsiRNA センス鎖
配列番号34-比較例11のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号35-比較例12のsiRNA センス鎖
配列番号36-比較例12のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号37-比較例13のsiRNA センス鎖
配列番号38-比較例13のsiRNA アンチセンス鎖
配列番号39-実施例5および比較例10〜13のsiRNA センス鎖のIS
配列番号40-実施例5および比較例10〜13のsiRNA アンチセンス鎖のIS
配列番号41-bcl2 mRNA
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]