特許第5952386号(P5952386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952386
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】光学用成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20160630BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20160630BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20160630BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20160630BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20160630BHJP
   C08L 25/02 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C08J5/18CET
   G02B1/04
   G02B5/30
   C08F297/04
   C08L53/02
   C08L25/02
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-507877(P2014-507877)
(86)(22)【出願日】2013年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2013058639
(87)【国際公開番号】WO2013146708
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-72610(P2012-72610)
(32)【優先日】2012年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】大橋 慶太
(72)【発明者】
【氏名】尾田 威
【審査官】 原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−239861(JP,A)
【文献】 特開2011−116960(JP,A)
【文献】 特開2010−054661(JP,A)
【文献】 特開2002−201213(JP,A)
【文献】 特開昭60−071619(JP,A)
【文献】 特開昭59−170111(JP,A)
【文献】 特開昭55−112218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00−297/08
G02B 1/04
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−メチルスチレン単位及びスチレン単位からなり、DSC(示差走査熱量計)によって測定されるガラス転移温度が115〜145℃である重合体ブロックAと、共役ジエン単位を有する重合体ブロックBとから構成されてなるブロック構造A−B−A又は(A−B)m−X(ここで、Xはカップリング剤の残基、mは2以上の整数)の成分(a)を40〜85体積%、ブロック構造A−Bの成分(b)及びブロック構造Aの成分(c)を総和で15〜60体積%それぞれ有し、成分(a)、(b)及び(c)を合わせた全体について、数平均分子量が50000以上であり、α−メチルスチレン単位とスチレン単位との総和が35〜85モル%、共役ジエン単位が15〜65モル%、共役ジエン単位15〜65モル%のうち1,4−結合量が15〜50モル%、ビニル結合量が15モル%以下であるブロック共重合体組成物を成形してなる、光学用成形体。
【請求項2】
共役ジエン単位が1,3−ブタジエン単位であるブロック共重合体組成物を成形してなる請求項1記載の光学用成形体。
【請求項3】
厚さ10〜300μmのフィルムであることを特徴とする請求項1又は2記載の光学用成形体。
【請求項4】
フィルムが、溶融押出フィルムであることを特徴とする請求項3記載の光学用成形体。
【請求項5】
フィルムが、延伸フィルムであることを特徴とする請求項3又は4記載の光学用成形体。
【請求項6】
延伸フィルムが位相差フィルムであることを特徴とする請求項5に記載の光学用成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱性、柔軟性、透明性を併せ持つ高分子材料について、例えば光学用成形体としての用途が想定される。液晶ディスプレイ表示素子、エレクトロルミネッセンス素子などに、光学異方性を制御した光学用成形体が用いられている。
【0003】
光学用成形体には数多くの種類がある。例えば、光学用フィルムがある。光学用フィルムの1つとして、液晶ディスプレイの液晶の位相差を補償したり、視野角を向上させたりする役割を担う位相差フィルムと呼ばれるフィルムがある。位相差フィルムとしてはポリカーボネートや非晶性の環状ポリオレフィンといった、正の配向複屈折性をもつものが一般的に用いられてきた。一方、負の配向複屈折性をもつフィルムを、正の配向複屈折性をもつフィルムと貼り合わせることで、更なる視野角の向上を達成できることが知られている。
【0004】
負の配向複屈折性をもつフィルムは開発途上であるが、スチレン系の重合体は負の配向複屈折性をもつ。ところがポリスチレンは脆く、そのため力学強度の優れた材料が求められている。たとえば特許文献1のように、スチレン系モノマーと共役ジエン系モノマーとのブロック共重合により、耐衝撃性をもつ光学用成形体とする方法が知られている。
【0005】
一方、耐熱性を持つスチレン系モノマーと共役ジエン系モノマーとのブロック共重合体としては、例えば、特許文献2,3,4に開示されたもののような、α−メチルスチレンと共役ジエン系モノマーとのブロック共重合体や、非特許文献1に開示されたもののようなα−メチルスチレン、スチレンと共役ジエン系モノマーとのブロック共重合体が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−283010号公報
【特許文献2】特開2003−73433号公報
【特許文献3】特開2003−73434号公報
【特許文献4】特開2009−84458号公報
【非特許文献1】L. H. Tung等, “Advances in Elastomers and Rubber Elasticity”, Lal, J.等編; Plenum: New York, 1986, p129-142
【0007】
しかしながら、特許文献1については、耐熱性に関する記載がなく、光学用成形体としては耐熱性が不十分と考えられる。特許文献2、3、4については、位相差発現性の制御には言及されていない。また、α−メチルスチレンのブロックに他のモノマーを共重合していないため、熱安定性が低く、溶融による成形に耐えられないと考えられる。更に、共役ジエン系モノマーのビニル結合量が、光学用成形体とするには多くなり、外観が良好ではなくなると考えられる。非特許文献1については、位相差発現性の制御には言及されていない。また、スチレンをα−メチルスチレンとともに一括で仕込んでいるため、スチレンの組成が高くなり、耐熱性の向上効果が低くなるか、スチレンの仕込量が制約されるため生産性が低いと考えられる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、耐熱性、柔軟性、透明性を併せ持ち、上記従来の問題点の少なくとも一つ以上を解消した光学用成形体を提供することを目的とする。
一態様では、本発明は、外観、熱安定性、位相差発現性が良好で、光弾性複屈折の低い光学用成形体を提供するものである。また、負の配向複屈折性を示す延伸フィルムを得るのに適した光学用成形体を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の主たる態様によれば、α−メチルスチレン単位及びスチレン単位からなり、DSC(示差走査熱量計)によって測定されるガラス転移温度が115〜145℃である重合体ブロックAと、共役ジエン単位を有する重合体ブロックBとから構成されてなるブロック構造A−B−A又は(A−B)m−X(ここで、Xはカップリング剤の残基、mは2以上の整数)の成分(a)を40〜85体積%、ブロック構造A−Bの成分(b)及びブロック構造Aの成分(c)を総和で15〜60体積%それぞれ有し、成分(a)、(b)及び(c)を合わせた全体について、数平均分子量が50000以上であり、α−メチルスチレン単位とスチレン単位との総和が35〜85モル%、共役ジエン単位が15〜65モル%、共役ジエン単位15〜65モル%のうち1,4−結合量が15〜50モル%、ビニル結合量が15モル%以下である、ブロック共重合体組成物を成形してなる光学用成形体が提供される。
【0010】
上記において、共役ジエン単位は、一例では、1,3−ブタジエン単位である。また上記光学用成形体は、例えば厚さ10〜300μmのフィルムであり、例えば溶融押出フィルムである。特に好ましい実施態様では、光学用成形体は延伸フィルム、特に位相差フィルムである。
【0011】
本発明の他の態様によれば、α−メチルスチレン単位及びスチレン単位からなり、DSC(示差走査熱量計)によって測定されるガラス転移温度が115〜145℃である重合体ブロックAと、共役ジエン単位を有する重合体ブロックBとから構成されてなるブロック構造A−B−A又は(A−B)m−X(ここで、Xはカップリング剤の残基、mは2以上の整数)の成分(a)を40〜85体積%、ブロック構造A−Bの成分(b)及びブロック構造Aの成分(c)を総和で15〜60体積%それぞれ有し、成分(a)、(b)及び(c)を合わせた全体について、数平均分子量が50000以上、α−メチルスチレン単位とスチレン単位との総和が35〜85モル%、共役ジエン単位が15〜65モル%、共役ジエン単位15〜65モル%のうち1,4−結合量が15〜50モル%、ビニル結合量が15モル%以下である、ブロック共重合体組成物も提供される。
【0012】
本発明の光学用成形体は、耐熱性、柔軟性、透明性、外観、熱安定性が良好で、光弾性複折の低いことから、特に、位相差フィルム、偏光膜保護フィルム、視野角向上フィルム、偏光フィルムや反射防止フィルム等に好適に用いることができる。なかでも、負の複屈折の位相差発現性が良好なため、負の配向複屈折性を示す位相差フィルムに特に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る光学用成形体は、ブロック構造A−B−A又は(A−B)m−X(ここで、Xはカップリング剤の残基、mは2以上の整数)の成分(a)と、ブロック構造A−Bの成分(b)及び/又はブロックAの成分(c)を含むブロック共重合体組成物を成形してなる成形体である。
【0014】
<ブロック共重合体組成物>
重合体ブロックAは、α−メチルスチレン単位及びスチレン単位からなり、DSCから測定されるガラス転移温度が115〜145℃である。重合体ブロックAはガラス転移温度や分子量がそれぞれ互いに異なっているものが混合していてもよく、また、同一であってもよい。スチレンにα−メチルスチレンを共重合することで、ガラス転移温度を115℃以上にすることが可能となり、耐熱性が得られる。ガラス転移温度145℃以下とすることでα−メチルスチレン単独重合体で見られる解重合が防げるので、熱安定性が得られる。ガラス転移温度は、α−メチルスチレンとスチレンとの重合においてそれぞれの仕込量を調節することで制御できる。
ここで、ガラス転移温度は、下記の測定条件でDSCによって測定した。
装置名:セイコーインスツルメンツ(株)社製 Robot DSC6200
測定条件:昇温速度10℃/分、窒素気流下
【0015】
重合体ブロックBは、共役ジエン単量体単位を有する重合体ブロックである。重合体ブロックBは構成する単量体単位の種類、割合、分子量がそれぞれ互いに異なっているものが混合していてもよく、また、同一であってもよい。
【0016】
重合体ブロックBにおける共役ジエン単位を構成する共役ジエン化合物としては、1,3‐ブタジエン、イソプレン、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン、1,3‐ペンタジエン、1,3‐ヘキサジエン等が挙げられ、これらの化合物は単独で用いても、または2種以上使用してもよい。これらの中でも、1,3‐ブタジエンを好ましく使用できる。
【0017】
重合体ブロックBには他の単量体単位を存在させてもよい。他の単量体単位としては、スチレン系単量体単位が好ましく、スチレンがさらに好ましい。他の単量体単位の量は、50質量%以下であることがフィルム強度を確保できるため好ましい。これらは、重合体ブロックBにランダム状あるいはテーパー状に導入されてもよい。
【0018】
本発明のブロック共重合体組成物は、ブロック構造A−B−A又は(A−B)m−X(ここで、Xはカップリング剤の残基、mは2以上の整数)の成分(a)を40体積%以上85体積%以下、ブロック構造A−Bの成分(b)及びブロック構造Aの成分(c)を総和で15体積%以上60体積%以下それぞれ含む。成分(a)を40体積%以上、成分(b)及び成分(c)を総和で60体積%以下とすることで、柔軟性を確保できる。また、重合技術上、成分(a)は85体積%以下、成分(b)及び成分(c)の総和は15体積%以上となる。
【0019】
成分(a)、(b)及び(c)を合わせた全体について、数平均分子量(Mn)は50000以上である。Mnを50000以上とすることで柔軟性を確保できる。
【0020】
本発明のMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPC)によって測定されるポリスチレン換算のMnであり、下記の測定条件で測定した。
装置:島津製GPCシステム(LC−20AD,CBM−20A,RID−10A,SPD−M20A,CTO−20A,SIL−20AHT、DGU−20Aを接続したもの)
カラム:昭和電工Shodex GPC KF−404HQ、KF−402.5HQの2本を直列接続
測定温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率)
展開溶媒:クロロホルム
濃度:1質量%
検量線:標準ポリスチレン(Shodex Standard SM−105)
成分(a)、(b)及び(c)の各ピークの帰属は、各成分を合成する途中の工程において採取したサンプルの測定結果との比較によって行うことができ、また、各成分の体積比は、それぞれのピーク面積比から算出することができる。
【0021】
また、成分(a)、(b)及び(c)を合わせた全体について、α−メチルスチレン単位とスチレン単位との総和が35〜85モル%、共役ジエン単位が15〜65モル%、共役ジエン単位15〜65モル%のうち1,4−結合量が15〜50モル%、ビニル結合量が15モル%以下である。共役ジエン単位15〜65モル%のうち1,4−結合量を15モル%以上とすることで、柔軟性を確保でき、50モル%以下とすることで、位相差発現性を確保できる。共役ジエン単位のビニル結合量を15%以下とすることで、柔軟性を確保することができ、また、ゲルの発生を抑制し、良好な外観を確保できる。
【0022】
<ブロック共重合体組成物の調製>
本発明のブロック共重合体の重合は、工程(1)、(2)、(3−1)、もしくは(1)、(2)、(3−2)を有する製造方法によるのが好ましい:
・工程(1)
非極性溶媒にα−メチルスチレンを混合し、有機リチウム化合物を開始剤として用い、スチレンを連続的に加えながら0〜60℃の温度で重合させてブロック構造Aからなるリビング共重合体を形成する工程
・工程(2)
ブロック構造Aからなるリビング共重合体に対し、60℃以下の温度で共役ジエンを加え、30〜70℃の温度にて重合させてブロック構造A−Bからなるリビング共重合体を形成する工程
・工程(3−1)
ブロック構造A−Bからなるリビング共重合体に対し、α−メチルスチレンを混合し、スチレンを連続的に加えながら0〜60℃の温度で重合させてブロック構造A−B−Aからなるリビング共重合体を形成する工程
・工程(3−2)
ブロック構造A−Bからなるリビング共重合体に対し、30℃以上の温度でカップリング剤を添加しカップリングを行う工程
【0023】
ブロック共重合体の重合には、非極性溶媒を使用するのが好ましい。非極性溶媒としては、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n‐ヘキサン、n‐ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などを挙げることができる。これらは単独で用いても、または2種類以上使用してもよい。
【0024】
ブロック共重合体の重合には、開始剤の効率を改良するため、少量の極性化合物を溶剤に溶解してもよい。この極性化合物としては、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類、チオエーテル類、ホスフィン類、ホスホルアミド類、アルキルペンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等が挙げられるが、好ましい極性化合物はテトラヒドロフランである。極性化合物の添加量は非極性溶媒に対して500ppm以下とすることで、共役ジエン単位のビニル結合量を抑制できるため好ましい。
【0025】
工程(1)において用いる有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のリチウム化合物を挙げることができ、これらの化合物は単独で用いてもよく、または2種類以上使用してもよい。
有機リチウム化合物の使用量は、アニオン重合により得ようとする所望の重合体の分子量によって適宜決定することができる。また、α−メチルスチリルアニオンの発色がみられる最少量の有機リチウム化合物を添加し、非極性溶媒及びα−メチルスチレン中の、水分、空気、重合禁止剤等のアニオンを失活させる要因を事前に不活性化してから、開始反応に使用する有機リチウム化合物を追加するのが好ましい。
【0026】
工程(1)において、スチレンは、流量を時間ごとに変更してもよい。
【0027】
工程(1)における重合温度は、0〜60℃であることが好ましい。重合温度0℃以上とすることで、α−メチルスチレン、スチレンの重合速度を確保することができる。重合温度60℃以下とすることで、生成するリビング共重合体末端の失活反応を抑制し、目的の成分(a)の含有量を確保できる。
【0028】
工程(2)においては、共役ジエンを60℃以下の温度で加え、30℃以上の温度にて重合させるのが好ましい。共役ジエンを加える温度を60℃以下とすることで、生成するリビング共重合体末端の失活反応を抑制できる。重合温度を30℃以上とすることで共役ジエンの重合速度を確保することができる。
【0029】
工程(3−1)における重合温度は0〜60℃であることが好ましい。重合温度0℃以上とすることで、α−メチルスチレン、スチレンの重合速度を確保することができる。重合温度60℃以下とすることで、生成するリビング共重合体末端が失活反応を抑制できる。
【0030】
工程(3−1)の後のリビング共重合体に、アルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素化合物を添加して重合反応を停止させることにより、ブロック構造A−B−Aを有するブロック共重合体を得ることができる。
【0031】
工程(3−2)においては、カップリング剤を添加し、ブロック構造(A−B)m−Xを有するブロック共重合体を得ることができる。カップリング前のブロック構造A−Bについては、1種類でもよく、2種類以上m種類以下の混合物でもよい。
【0032】
添加するカップリング剤としては2官能性カップリング剤を用いてもよいし、多官能性カップリング剤を用いてもよい。また複数種のカップリング剤を併用してもよい。なお、本発明で好ましく用いられるカップリング剤としては、四塩化ケイ素や1,2−ビス(メチルジクロロシリル)エタン等のクロロシラン系化合物、テトラメトキシシランやテトラフェノキシシラン等のアルコキシシラン系化合物、四塩化スズ、ポリハロゲン化炭化水素、カルボン酸エステル、ポリビニル化合物、エポキシ化大豆油やエポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化油脂などが挙げられ、特にエポキシ化大豆油が好ましい。
【0033】
カップリング剤の反応温度は、反応速度を確保できるため30℃以上とすることが好ましい。
【0034】
ブロック共重合体組成物には、必要に応じて、ヒンダードフェノール系化合物、ラクトン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物などの耐熱安定剤、ヒンダードアミン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等の耐光安定剤、滑剤や可塑剤、着色剤、帯電防止剤、鉱油等の添加剤を含めても差し支えない。その添加量は共重合樹脂100質量部に対して1質量部未満であることが好ましい。
【0035】
<ブロック共重合体組成物の成形体>
ブロック共重合体組成物は、光学用成形体に成形される。光学用成形体の形状としては、射出成形体、シート、フィルム等公知の成形体で使用できるが、好ましくは、厚み10〜300μmのフィルムに成形される。このような厚みのフィルムを成形する方法は特に制限はないが、フィルム押出機を用いて溶融押出する方法が好ましい。
【0036】
本発明の成形体として成形されたフィルムは、位相差フィルム、反射防止フィルム、液晶保護フィルム等、公知の光学フィルム用途に使用することができる。本発明の成形体として成形されたフィルムは、公知の手法で延伸して配向させることができる。延伸配向されたフィルムは負の配向複屈折が発生するため、位相差フィルム用途に最も好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例をあげて更に本発明を説明するが、これらは何れも例示的なものであって本発明の内容を限定するものではない。尚、重合反応においては、溶剤、モノマーについては、十分に脱気・乾燥したものを使用した。
【0038】
<測定法>
(1)単量体単位の組成の決定方法
プロトン核磁気共鳴(H−NMR)法によって求めた。
装置:JEOL−ECX400(分解能400MHz)
溶媒:重水素化クロロホルム
リファレンス:TMS又はクロロホルム
温度:20℃
【0039】
定量に必要なシグナルのシフト位置は以下の通りである。シフト位置は、溶媒、温度の測定条件、重合体構造によって移動する場合があるので、その際にはブロック共重合体組成物中に含まれる単量体単位全体について適切な帰属を行う。
【0040】
[定量に用いたシグナル]
(a)4.8〜5.0ppm
ブタジエンビニル結合(=CH2)。ビニル結合による1,2−ビニル基1ユニットあたり2Hを含む。
【0041】
(b)5.0〜5.6ppm
ブタジエンビニル結合による1,2−ビニル基(−CH=)及びブタジエン1,4−結合(主鎖中の2重結合)(−CH=)。ビニル結合による1,2−ビニル基1ユニットあたり1Hと、1,4−結合1ユニットあたり2Hを含む。
【0042】
(c)6.3〜7.3ppm
α−メチルスチレン、スチレン中のベンゼン環H。α−メチルスチレン及びスチレン1ユニットあたり5Hを含む。標準としてクロロホルムを用いた場合、この範囲(7.2ppm)にクロロホルム中のH1つを含む。
【0043】
[定量法]
(a)、(b)、(c)の範囲の積分値をそれぞれI、I、I、クロロホルムの積分値をIchとした場合、ブタジエンビニル結合量のモル%M、ブタジエン1,4−結合のモル%M、α−メチルスチレンとスチレンとの総和のモル%Mは、それぞれ、次の数式によって計算できる。
【数1】
【0044】
[実施例1]
(1)容積50Lの反応容器に150ppmのテトラヒドロフランを含むシクロヘキサン17kgを添加し、α−メチルスチレン5400gを添加した。
(2)次いでn−ブチルリチウムを10質量%含むシクロヘキサン溶液(開始剤)を徐々に添加し、α−メチルスチリルアニオンの発色が観察された時点から、更に50mL添加し40℃まで昇温した。
(3)容器内温を40℃に保ちながらスチレン650gを仕込み速度650g/hで添加した。
(4)内温を40℃に保ちながらスチレン450gを仕込み速度450g/hで添加した。
(5)ブタジエン760gを一括添加した。添加終了後、50℃まで内温を上げ、1時間攪拌した。
(6)エポキシ化大豆油(アデカ社製)5.4gを60mLのシクロヘキサンで希釈した溶液を添加し、30分攪拌した。
(7)メタノール10gを添加し、重合活性末端を失活させて、重合液を得た。
(8)重合液をベント付き二軸押出機に供給し、脱揮してブロック共重合体組成物を得た。
このブロック共重合体組成物を、Tダイを付したフィルム押出成形機を用いシリンダー温度240℃、ダイ温度240℃で、厚さ100μmのフィルムを押し出し、ロールに巻き取った。得られた溶融押出フィルムを、テンター横延伸機を用い、ガラス転移温度+10℃で2.5倍に一軸延伸し、延伸フィルムを得た。
得られたブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムの測定結果を表1に示した。
【0045】
[実施例2]
α−メチルスチレンを5500g、実施例1の工程(3)においてスチレン750gを仕込み速度750g/hで添加、実施例1の工程(4)においてスチレン520gを仕込み速度520g/hで添加、ブタジエンを520gとした以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表1に示した。
【0046】
[実施例3]
α−メチルスチレンを4800g、実施例1の工程(3)においてスチレン560gを仕込み速度560g/hで添加、実施例1の工程(4)においてスチレン390gを仕込み速度390g/hで添加、ブタジエンを1400gとした以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表1に示した。
【0047】
[実施例4]
α−メチルスチレンを5800g、実施例1の工程(3)においてスチレン430gを仕込み速度430g/hで添加、実施例1の工程(4)においてスチレン300gを仕込み速度300g/hで添加、ブタジエンを750gとした以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表1に示した。
【0048】
[実施例5]
α−メチルスチレンを5000g、実施例1の工程(3)においてスチレン870gを仕込み速度870g/hで添加、実施例1の工程(4)においてスチレン600gを仕込み速度600g/hで添加、ブタジエンを760gとした以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表1に示した。
【0049】
[実施例6]
実施例1の(1)においてn−ブチルリチウムを10質量%含むシクロヘキサン溶液(開始剤)を徐々に添加し、α−メチルスチリルアニオンの発色が観察された時点から、更に72mL添加、エポキシ化大豆油を7.8gとした以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表1に示した。
【0050】
[実施例7]
(1)容積50Lの反応容器に150ppmのテトラヒドロフランを含むシクロヘキサン17kg、α−メチルスチレン5400gを添加した。
(2)次いでn−ブチルリチウムを10質量%含むシクロヘキサン溶液(開始剤)を、α−メチルスチリルアニオンの発色が確認できるまで徐々に添加した後、更に25mL添加し40℃まで昇温した。
(3)容器内温を40℃に保ちながらスチレン650gを仕込み速度650g/hで添加した。
(4)ブタジエン760gを一括添加した。添加終了後、50℃まで内温を上げ、1時間攪拌した。内温を40℃に下げた。
(5)内温を40℃に保ちながらスチレン450kgを仕込み速度450g/hで添加した。
(7)重合活性末端をメタノールにより失活させて、重合液を得た。
(8)反応液をベント付き二軸押出機に供給し、脱揮して共重合樹脂を得た。
この樹脂を、Tダイを付したフィルム押出成形機を用いシリンダー温度240℃、ダイ温度240℃で、厚さ100μmのフィルムを押し出し、ロールに巻き取った。得られたフィルムを、テンター横延伸機を用い、ガラス転移温度+10℃で2.5倍に一軸延伸し、延伸された光学フィルムを得た。
得られたブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムの測定結果を表1に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
[比較例1]
(1)容積50Lの反応容器に150ppmのテトラヒドロフランを含むシクロヘキサン17kg、α−メチルスチレン6100gを添加した。
(2)次いでn−ブチルリチウムを10質量%含むシクロヘキサン溶液(開始剤)を、α−メチルスチリルアニオンの発色が確認できるまで徐々に添加した後、更に26mL添加し40℃まで昇温した。
(3)容器内温を40℃に保ちながらスチレン700gを仕込み速度700g/hで添加した。
(4)内温を40℃に保ちながらスチレン490kgを仕込み速度490g/hで添加した。
(5)重合活性末端をメタノールにより失活させて、重合液を得た。
(6)反応液をベント付き二軸押出機に供給し、脱揮して共重合樹脂を得た。
この樹脂を、Tダイを付したフィルム押出成形機を用いシリンダー温度240℃、ダイ温度240℃で、厚さ100μmのフィルムを押し出し、ロールに巻き取った。得られたフィルムを、テンター横延伸機を用い、ガラス転移温度+10℃で2.5倍に一軸延伸し、延伸された光学フィルムを得た。
得られたブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムの測定結果を表2に示した。
【0053】
[比較例2]
α−メチルスチレンを5900g、実施例1の工程(3)においてスチレン690gを仕込み速度690g/hで添加、実施例1の工程(4)においてスチレン480gを仕込み速度480g/hで添加、ブタジエンを250gとした以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表2に示した。
【0054】
[比較例3]
実施例1の工程(1)において、テトラヒドロフラン7kg、シクロヘキサン10kg、α−メチルスチレンを5400g添加した以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表2に示した。
【0055】
[比較例4]
n−ブチルリチウムを10質量%含むシクロヘキサン溶液(開始剤)を100mL、エポキシ化大豆油を10.8g添加した以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表2に示した。
【0056】
[比較例5]
エポキシ化大豆油を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表2に示した。
【0057】
[比較例6]
(1)容積50Lの反応容器に、容器内温を−40℃に保ちながらテトラヒドロフラン7kg、シクロヘキサン10kg、α−メチルスチレン2300g、スチレン500gを添加した。
(2)次いでn−ブチルリチウムを10質量%含むシクロヘキサン溶液(開始剤)を、α−メチルスチリルアニオンの発色が確認できるまで徐々に添加した後、更に60mLを添加し、3時間攪拌した。
(3)40℃に昇温し、ブタジエン740gを一括添加した。添加終了後、50℃まで内温を上げ、1時間攪拌した。
(4)60Lのシクロヘキサンで希釈したエポキシ化大豆油(アデカ社製)7.5g添加し、1時間攪拌した。
(5)重合活性末端をメタノールにより失活させて、重合液を得た。
(6)反応液をベント付き二軸押出機に供給し、脱揮してブロック共重合体組成物を得た。
この樹脂を、Tダイを付したフィルム押出成形機を用いシリンダー温度240℃、ダイ温度240℃で、厚さ100μmのフィルムを押し出し、ロールに巻き取った。得られたフィルムを、テンター横延伸機を用い、ガラス転移温度+10℃で2.5倍に一軸延伸し、延伸フィルムを得た。
得られたブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムの測定結果を表2に示した。
【0058】
[比較例7]
α−メチルスチレンを2700g、実施例1の工程(3)においてスチレン310gを仕込み速度310g/hで添加、実施例1の工程(4)においてスチレン210gを仕込み速度210g/hで添加、ブタジエンを1500gとした以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体組成物、溶融押出フィルム及び延伸フィルムを得た。これらの測定結果を表2に示した。
【0059】
【表2】
【0060】
各種評価は下記の方法によった。
(1)柔軟性
柔軟性として溶融押出フィルムの耐折強度の測定を以下の条件下で行い、下記基準によって判断した。折り曲げ回数200回以上を合格とした。
測定条件
測定器:MIT−D FOLDING ENDURANCE TESTER(東洋精機社製)
荷重(張力):500g重
折り曲げ速度:175回/分
折り曲げ角度:左右各45度
折り曲げ装置先端半径:0.38mm
試験片幅:15mm
折り曲げ方向:フィルム押出方向
サンプル点数:5点(折り曲げ回数1000回以上のものは2点)
(2)透明性
ASTM D1003に基づき、ヘーズメーター(日本電色工業社製NDH−1001DP型)を用いてフィルムのヘーズ(単位:%)を測定した。2%以下を合格とした。
(3)外観
溶融押出フィルムについて、画像処理装置(ニレコ社製LUZEX SE)を用いて観測し、下記基準にて良否を判断した。「優」、「良」を合格とした。
「優」:長さ50μm以上のフィルム欠陥が0個/m
「良」:長さ50μm以上のフィルム欠陥が1〜4個/m
「不可」:長さ50μm以上のフィルム欠陥が5個/m以上
ここで、「フィルム欠陥」とは、異物の混入や、未溶融ブツの発生等により、周囲とは不均一になって見える部分を指す。
(4)熱安定性
セイコー電子工業社製TG/DTA 220TGAを用いて、以下の条件で加熱重量減少を測定した。5%重量減少した際の温度が320℃以上のものを合格とした。
フローガス;N2 100ml/分
昇温条件:30℃より400℃まで10℃/分
(5)光弾性複屈折
光弾性複屈折を表す指標である光弾性係数を、溶融押出フィルムに引張応力をかけた状態で位相差測定装置にてリタデーション(単位:nm)を測定することによって求めた。荷重fが加わった状態でのリタデーションをRe(f)、試験片幅をwとすると、光弾性係数Cは
C=dRe(f)/df×w
となるので、試験片に加えた荷重に対するリタデーションの値の傾きを求めることで算出した。位相差測定装置は王子計測社製KOBRA−WRを使用し、応力は、イマダ社製、デジタルフォースゲージZ2S−DPU−50Nによって加えた。光弾性係数の絶対値が5×10−121/Pa以下のものを合格とした。
(6)位相差発現性
位相差測定装置(王子計測社製KOBRA−WR)を用いて、延伸フィルムのリタデーション(単位:nm)を測定した。リタデーションの絶対値が100nm以上を合格とした。また、位相差顕微鏡で観察することで、配向複屈折の符号は、実施例と比較例中の全てのサンプルについて負であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の光学成形体は、耐熱性、柔軟性、透明性、外観、熱安定性が良好で、光弾性複屈折の低いことから、特に、位相差フィルム、偏光膜保護フィルム、視野角向上フィルム、偏光フィルムや反射防止フィルム等に好適に用いることができる。なかでも、負の複屈折の位相差発現性が良好なため、負の配向複屈折性を示す位相差フィルムに特に好適に用いることができる。