特許第5952392号(P5952392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5952392医薬用高分子及び同医薬用高分子を含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952392
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】医薬用高分子及び同医薬用高分子を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 81/00 20060101AFI20160630BHJP
   A61K 31/661 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/42 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20160630BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20160630BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C08G81/00
   A61K31/661
   A61K47/48
   A61K47/42
   A61K47/36
   A61P39/06
   A61P39/02
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-513046(P2014-513046)
(86)(22)【出願日】2012年6月1日
(65)【公表番号】特表2015-516465(P2015-516465A)
(43)【公表日】2015年6月11日
(86)【国際出願番号】CN2012076380
(87)【国際公開番号】WO2012163290
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年3月16日
(31)【優先権主張番号】61/493,004
(32)【優先日】2011年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513300521
【氏名又は名称】タイワン ホパックス ケミカルズ マニュファクチャリング カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ワン, チョウ−フイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ジャ−ホン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ジン−イー
(72)【発明者】
【氏名】シュ, ヂー−ウェイ
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−241142(JP,A)
【文献】 特表平08−500104(JP,A)
【文献】 特表2011−505369(JP,A)
【文献】 特表2005−504720(JP,A)
【文献】 特表2005−524677(JP,A)
【文献】 特表2006−516948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 81/00−81/02
A61K 31/00−31/80
47/00−47/48
A61P 39/00−39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチド及び前記ポリペプチドに共有結合する少なくとも1つのグリコシド部分を有するグリコペプチドと、
少なくとも1つのアミノ基を有するアミノチオール部分とを含む医薬用高分子であって、
前記アミノチオール部分の前記少なくとも1つのアミノ基は、前記グリコペプチドに共有結合し、
前記アミノチオール部分は、下記式(I):
(RNH(CHNH(CHSR (I)
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、炭素数2〜7のアルキニル基、炭素数5〜7のアリール基、又は、炭素数2〜7のアシル基であり、Rは水素原子又はホスフェート基であり、nは1〜10の整数であり、mは1〜10の整数であり、xは1〜5の整数である。)
で表され
前記ポリペプチドは、少なくとも1つのカルボン酸基を有し、
前記アミノチオール部分の前記少なくとも1つのアミノ基は、前記ポリペプチドの前記少なくとも1つのカルボン酸基に共有結合しており、かつ
前記ポリペプチドは、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、又は、これらの組み合わせを含む医薬用高分子。
【請求項2】
前記少なくとも1つのグリコシド部分は、前記ポリペプチドの前記少なくとも1つのカルボン酸基に共有結合している
請求項に記載の医薬用高分子。
【請求項3】
前記ポリペプチドは、グルタミン酸、アスパラギン酸、又は、これらの組み合わせを含む少なくとも1つのサブユニットを有する
請求項1に記載の医薬用高分子。
【請求項4】
前記医薬用高分子の分子量は、6,300〜12,000ダルトンである
請求項1に記載の医薬用高分子。
【請求項5】
前記少なくとも1つのグリコシド部分は、少なくとも1つのアミノ基を有する
請求項に記載の医薬用高分子。
【請求項6】
前記少なくとも1つのグリコシド部分の前記少なくとも1つのアミノ基は、前記ポリペプチドの前記少なくとも1つのカルボン酸基に共有結合する
請求項に記載の医薬用高分子。
【請求項7】
前記少なくとも1つのグリコシド部分は、キトサン、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸塩、ヘパリン、又は、これらの組み合わせを含む
請求項1に記載の医薬用高分子。
【請求項8】
前記アミノチオール部分は、2−[(アミノプロピル)アミノ]エタンチオール(WR−10653−(3−メチルアミノプロピルアミノ)プロパンチオール二塩酸塩(WR−151326S−3−(3−メチルアミノプロピルアミノ)プロピルホスホロチオ酸(WR151327S−1−(アミノエチル)ホスホロチオ酸(WR638S−[2−(3−メチルアミノプロピル)アミノエチル]ホスホロチオ酸(WR3689S−2−(4−アミノブチルアミノ)エチルホスホロチオ酸(WR28223−[(2−メルカプトエチル)アミノ]プロピオンアミド p−トルエンスルホネート(WR−2529S−1−(2−ヒドロキシ−3−アミノ)プロピルホスホロチオ酸(WR779132−[3−(メチルアミノ)プロピルアミノ]エタンチオール(WR−255591S−2−(5−アミノペンチルアミノ)エチルホスホロチオ酸(WR28231−[3−(3−アミノプロピル)チアゾリジン−2−Y1]−D−グルコ−1,2,3,4,5ペンタン−ペントール二塩酸塩(WR−255709[2−[(アミノプロピルアミノ]エタンチオール]N,N’−ジチオジ−2,1−(エタンジイル)ビス−1,3−プロパンジアミン(WR−33278S−2−(3−アミノプロピルアミノ)エチルホスホロチオ酸(WR2721(アミホスチン)、その塩、水和物、活性代謝物、及び、プロドラッグ、並びに、これらの組み合わせからなる群より選択される
請求項1に記載の医薬用高分子。
【請求項9】
前記アミノチオール部分は、アミホスチンである
請求項1に記載の医薬用高分子。
【請求項10】
請求項1に記載の医薬用高分子と、
医薬的に許容される担体と
を含む医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬的に許容される担体は、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、チロース、ケイ酸、セルロース、セルロース誘導体、マンニトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又は、これらの組み合わせである
請求項10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2011年6月3日に出願された米国仮特許出願第61/493,004号を優先権主張の基礎とする。当該出願のすべての記載内容を本願明細書に援用する。
【0002】
技術分野
本発明は、抗フリーラジカル医薬用高分子に関する。より具体的には、アミノチオール部分を有する抗フリーラジカル医薬用高分子に関する。
【背景技術】
【0003】
放射線の影響から細胞組織を薬理学的に保護することは長年の関心事であった。その結果開発された非常に有望な放射線防護薬の1つに、アミホスチン(メディミューンオンコロジー社、米国メリーランド州ゲーサーズバーグ)がある。この放射線防護薬は、放射性降下物の潜在的影響からの防護を目的として、米陸軍により第二次世界大戦後に開発された有機チオリン酸塩(WR−2721)である。その活性代謝物(WR−1065)は遊離チオールであり、遊離チオールは、DNAに代わってアルキル化剤から生じる反応種の標的となり、電離放射線と水の相互作用により発生するフリーラジカルのスカベンジャーとして機能すると考えられている。この防護薬の広範な研究の結果、研究者の間では、WR−2721は正常組織では選択的に蓄積されるが、腫瘍組織では受動的にしか吸収されず、これは血管分布の差によるものであると結論付けられている。WR−2721により、食道、肺、腎臓、肝臓、骨髄、免疫系、皮膚、大腸、小腸、唾液腺、口腔粘膜、及び精巣を含む正常組織はファクター(factor)3までの放射線損傷から保護されたが、脳と脊髄は保護されなかった。また、腫瘍組織が放射線又は化学治療の影響を免れたという証拠はなかった。
【0004】
ウォルター・リード研究所(Walter Reed Institute of Research)によって最初に開発されたアミホスチン(ホスホロチオ酸二水素S−2−(3−アミノプロピル)アミノエチル、ethiofos、Ethyol(商標名)、NSC 296961、又はWR−2721としても知られる)は、武力衝突中に遭遇するX線や核放射線に対して、抗放射線物質として軍事利用された。アミホスチン及びその他のホスホロチオ酸二水素アミノアルキル、並びにその製造方法は、特許文献1に記載されている。当該特許の内容を本願に援用する。
【0005】
アミホスチンはまた、アルキル化剤や有機白金製剤、アントラサイクリン、及びタキサンといった種々の細胞毒性剤から正常組織を保護することが示されている。したがってアミホスチンには、細胞保護剤として幅広い適用性が見込まれる。米国内では、国際多施設共同第III相比較試験に基づいて、アミホスチンの放射線防護薬としての使用が既に承認されている。この試験では、毎回、放射線治療の前に患者にアミホスチンを静脈注射投与すると、急性及び晩期の口腔乾燥症の重症度が顕著に低下したことが示された。
【0006】
最近では、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターにて、前向き比較試験が行われている(2001年11月12〜15日にカリフォルニア州サンフランシスコで開催された、2001年ASCO会議で報告)。この試験は、アミホスチンが、決定臓器に対する化学放射線治療の主な毒性影響を縮小することで、化学療法と放射線療法の併用療法を強化し、それにより非小細胞肺癌(NSCLC)患者の腫瘍管理及び生存率を向上するかどうかを判断する目的で行われた。最短経過観察を12か月、追跡期間中央値を24か月として、1998年11月〜2001年1月の間に62人の患者が登録された。患者と腫瘍の特徴は、(A)アミホスチン不使用群と(B)アミホスチン使用群とに均等に分けられた。生存時間中央値は、患者群1で20か月、患者群2で19か月であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3892824号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、アミホスチンの全身投与にはいくつか欠点がある。第一に、アミホスチンを全身投与された患者には、吐き気、嘔吐、及び低血圧のような望ましくない副作用に加え、ほてりや熱感、冷え、悪寒、めまい、眠気、しゃっくり、くしゃみなどの症状が出る場合がある。更に、高用量のアミホスチンの全身投与は、有毒となり得る。第二に、アミホスチンは、1時間以内にヒトの体外に排出される傾向があり、所望の放射線防護効果が効果的に得られない。
【0009】
つまり、望ましくない副作用を低減し、その放射線防護効果を増強する為には、より長い滞留時間と、細胞組織又は器官における特異的局在とを達成できるよう、アミホスチンを適切に修飾する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリペプチド及びそのポリペプチドに共有結合する少なくとも1つのグリコシド部分を有するグリコペプチドと、少なくとも1つのアミノ基を有するアミノチオール部分とを含み、上記アミノチオール部分の上記少なくとも1つのアミノ基は、上記グリコペプチドに共有結合する医薬用高分子に関する。
【0011】
上記ポリペプチドは、少なくとも1つのカルボン酸基を有することが好ましい。
【0012】
上記少なくとも1つのグリコシド部分は、上記ポリペプチドの上記少なくとも1つのカルボン酸基に共有結合していることが好ましい。
【0013】
上記アミノチオール部分の上記少なくとも1つのアミノ基は、上記ポリペプチドの上記少なくとも1つのカルボン酸基に共有結合することが好ましい。
【0014】
上記ポリペプチドは、グルタミン酸、アスパラギン酸、又は、これらの組み合わせを含む少なくとも1つのサブユニットを有することが好ましい。
【0015】
上記ポリペプチドは、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、又は、これらの組み合わせからなることが好ましい。
【0016】
上記医薬用高分子の分子量は、6,300〜12,000ダルトンであることが好ましい。
【0017】
上記少なくとも1つのグリコシド部分は、少なくとも1つのアミノ基を有することが好ましい。
【0018】
上記少なくとも1つのグリコシド部分の上記少なくとも1つのアミノ基は、上記ポリペプチドの上記少なくとも1つのカルボン酸基に共有結合することが好ましい。
【0019】
上記少なくとも1つのグリコシド部分は、キトサン、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸塩(hyauraniate)、ヘパリン、又は、その組み合わせを含むことが好ましい。
【0020】
上記アミノチオール部分は、下記式(I)で表されることが好ましい。
(RNH(CHNH(CHSR (I)
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、炭素数2〜7のアルキニル基、炭素数5〜7のアリール基、又は炭素数2〜7のアシル基であり、Rは水素原子又はホスフェート基であり、nは1〜10の整数であり、mは1〜10の整数であり、xは1〜5の整数である。)
【0021】
上記アミノチオール部分は、WR−1065、WR−151326、WR151327、WR638、WR3689、WR2822、WR−2529、WR77913、WR−255591、WR2823、WR−255709、WR−33278、WR2721(アミホスチン)、その塩、水和物、活性代謝物、及びプロドラッグ、並びにこれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。
【0022】
上記アミノチオール部分は、アミホスチンであることが好ましい。
【0023】
本発明はまた、有効量の上記医薬用高分子を対象に投与することを含む、フリーラジカルを消去する方法に関する。
【0024】
上記投与は、経口又は静脈注射によるものであることが好ましい。
【0025】
上記フリーラジカルは、上記対象を放射線に曝露することにより発生するものであることが好ましい。
【0026】
上記投与は、上記曝露の前又は後に行われることが好ましい。
【0027】
上記放射線は、X線、核放射線、ガンマ線、アルファ線、ベータ線、又は、これらの組み合わせであることが好ましい。
【0028】
上記有効量は、100〜5,000mg/mであることが好ましい。
【0029】
上記対象は、動物であることが好ましい。
【0030】
上記動物は、ヒトであることが好ましい。
【0031】
上記医薬用高分子の上記ポリペプチドは、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、又は、これらの組み合わせからなることが好ましい。
【0032】
上記医薬用高分子の上記少なくとも1つのグリコシド部分は、キトサン、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸塩(hyauraniate)、ヘパリン、又は、これらの組み合わせを含むことが好ましい。
【0033】
上記アミノチオール部分は、下記式(I)で表されることが好ましい。
(RNH(CHNH(CHSR (I)
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、炭素数2〜7のアルキニル基、炭素数5〜7のアリール基、又は炭素数2〜7のアシル基であり、Rは水素原子又はホスフェート基であり、nは1〜10の整数であり、mは1〜10の整数であり、xは1〜5の整数である。)
【0034】
上記医薬用高分子のアミノチオール部分は、アミホスチンであることが好ましい。
【0035】
本発明はまた、請求項1に係る医薬用高分子と、医薬的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。
【0036】
上記医薬的に許容される担体は、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、チロース、ケイ酸、セルロース、セルロース誘導体、マンニトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又は、これらの組み合わせであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、GPの生体内分布を示す。
図2図2(a)及び図2(b)はそれぞれ、アミホスチン及びGP−アミホスチンの酸化還元電位を示す。
図3図3は、UV及びH処理済プラスミドDNAに対する、アミホスチン、GP−アミホスチン、及びGPの保護能力を示す。
図4図4(a)及び図4(b)は、GP−アミホスチンを99mTcで標識した場合の、生成物の高い放射化学的純度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、医薬用高分子及びその使用に関する。上記医薬用高分子は、グリコペプチド及びアミノチオール部分を含む。上記本発明の医薬用高分子の使用は、フリーラジカルを消去するものである。
【0039】
本発明の主な発明概念の1つは、グリコペプチドを結合させることによってアミノチオール医薬品化合物を修飾することである。この結合には、上記アミノチオール医薬品化合物が特異的に局在化するとともに、該化合物の滞留時間が長くなるという利点がある。
【0040】
本発明を十分理解可能なものにするため、以下に、測定手順及びシステムを具体的に説明する。本願はもちろん、当業者に知られた特定の細部に制限されるものではない。一方で、公知の一般的方法及び手順については、発明が必要以上に制限されないよう、詳述しない。以下に、本発明の好ましい実施形態のいくつかをより詳細に説明する。ただし本発明は、明示的に記載された実施形態に加え、幅広い他の実施形態に従っても実施可能である。すなわち、本発明は、他の実施形態に広く適用することができ、本発明の範囲は、請求の範囲に記載された特徴以外には特に制限されない。
【0041】
上述の通り、本発明の医薬用高分子は、グリコペプチド及びアミノチオール部分を含む。上記グリコペプチドは、ポリペプチド及び少なくとも1つのグリコシド部分を有する。
【0042】
上記ポリペプチドと上記少なくとも1つのグリコシド部分との結合は、上記少なくとも1つのグリコシド部分が、共有結合を介して上記ポリペプチドに結合するものである。
【0043】
上記ポリペプチドは、少なくとも1つのカルボン酸基を有することが好ましい。したがって、好ましい実施形態においては、上記少なくとも1つのグリコシド部分が、上記ポリペプチドの上記少なくとも1つのカルボン酸基に共有結合する。他の好ましい実施形態においては、上記グリコシド部分は、少なくとも1つのアミノ基を有し、上記少なくとも1つのグリコシド部分の上記少なくとも1つのアミノ基が、上記ポリペプチドの上記少なくとも1つのカルボン酸基に共有結合する。
【0044】
好ましい実施形態においては、上記ポリペプチドは、グルタミン酸、アスパラギン酸、又は、これらの組み合わせを含む少なくとも1つのサブユニットを有する。あるいは、上記ポリペプチドは、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、又は、それらを組み合わせたものである。他の好ましい実施形態においては、上記医薬用高分子の分子量は、6,300〜12,000ダルトンである。
【0045】
上記グリコシド部分は、キトサン、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸塩(hyauraniate)、ヘパリン、又はこれらの組み合わせから選択されることが好適である。なぜなら、これらのグリコシド部分により、特異的局在化及び滞留時間の延長という特性を本発明の構造に付与することができるからである。
【0046】
上記アミノチオール部分は、少なくとも1つのアミノ基を有する。上記アミノチオール部分と上記グリコペプチドとの結合は、上記アミノチオール部分の上記少なくとも1つのアミノ基が、上記グリコペプチドに共有結合するものである。好ましい実施形態においては、上記アミノチオール部分の上記少なくとも1つのアミノ基が、上記ポリペプチドの上記少なくとも1つのカルボン酸基に共有結合する。
【0047】
好ましい実施形態においては、上記アミノチオール部分は、下記式(I)で表される。
(RNH(CHNH(CHSR (I)
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、炭素数2〜7のアルキニル基、炭素数5〜7のアリール基、又は炭素数2〜7のアシル基であり、Rは水素原子又はホスフェート基であり、nは1〜10の整数であり、mは1〜10の整数であり、xは1〜5の整数である。)
【0048】
上記アミノチオール部分としては限定されず、例えば、WR−1065、WR−151326、WR151327、WR638、WR3689、WR2822、WR−2529、WR77913、WR−255591、WR2823、WR−255709、WR−33278、WR2721(アミホスチン)、その塩、水和物、活性代謝物、及び、プロドラッグ、並びに、これらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
本発明の方法は、フリーラジカルを生体内で消去するものである。上記方法は、有効量の上記医薬用高分子を、経口又は静脈注射により対象に投与することを含む。
【0050】
上記フリーラジカルは、上記対象を、X線、核放射線、ガンマ線、アルファ線、ベータ線、又はこれらの組み合わせ等の放射線に曝露することにより発生するものであってもよい。また、上記投与は、医師のアドバイスに基づいて上記曝露の前又は後に行うことができる。
【0051】
上記有効量は、100〜5,000mg/mである。好適な有効量は、対象の健康状態や体重、及び照射する放射線の強度による。
【0052】
上記医薬用高分子は、医薬的に許容される担体、又は医薬組成物に好適な他の添加剤と共に投与することができる。上記担体又は添加剤は、上記医薬用高分子の所望の効果に悪影響を及ぼすものではない。ここで、「悪影響」とは、フリーラジカルを消去する能力、滞留時間に影響する能力、又は、医薬用高分子を摂取する能力を低下させることを意味する。
【0053】
上記医薬的に許容される担体は、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、チロース、ケイ酸、セルロース、セルロース誘導体、マンニトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又は、これらの組み合わせであってもよい。上記添加剤は、緩衝剤、保存料、懸濁化剤、増粘剤、界面活性剤、等張化剤、又は、これらの組み合わせであってもよい。
【実施例】
【0054】
実施例1:GPにより誘導される局在化
米国特許出願第12/970,026号には、薬剤と結合する担体としてグリコペプチド(GP)が示されている。GPの分布は肺、腎臓、肝臓、炎症部分、赤色骨髄、及び腫瘍部位を含むことが知られている。ここでは、PET(陽電子放射断層撮影法)スキャンを使用し、VX−2腫瘍細胞を注入されたニュージーランドウサギにおける、二種類の異なる造影剤68Ga−GP(左)及び18F−FTG(右)の局在化を検出した。
【0055】
簡潔に説明すると、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターに動物を収容した。ラット及び放射性同位体に関するプロトコルは、MDアンダーソン動物実験委員会(Animal Use and Care Committee)及び放射線安全委員会(Radiation Safety Committee)により承認された。雌のFischer344ラット(150〜175g)(ハーラン・スプラグ・ドーリー(Harlan Sprague−Dawley)社、インディアナ州インディアナポリス)の右脚皮下に、乳腺細胞株(DMBA誘発乳癌細胞株として知られる)の乳癌細胞(10細胞/ラット)を接種した。
【0056】
接種後14日目に、本実施例における局在化を検討した。雌のFischer344腫瘍ラット群の尾静脈に、68Ga−GP(左)又は18F−FTG(右)を静脈注射した。注入された質量はラット1匹当たり30μgであった。PETスキャンは、注射の45分後に行った。
【0057】
図1は、PETスキャンの結果を示す。ここで、GPの分布は肺、腎臓、肝臓、炎症部分、赤色骨髄、及び腫瘍部位に及んでいる。この実験結果は、以下の試験において、GPがアミノチオール医薬品化合物の修飾における潜在的な候補であることを示している。
【0058】
実施例2:本発明の医薬用高分子の調製
本発明の医薬用高分子の調製は下記反応スキーム1に示される。
【0059】
【化1】
スキーム1:GP−Aの合成
【0060】
上記の通り、本実施例において使用されたポリペプチドはポリグルタミン酸であり、使用されたグリコシド部分はキトサンであり、使用されたアミノチオール部分はアミホスチン又はWR1065(図示せず)であった。この合成プロトコルを簡単に説明すると、以下の通りである。
・ポリ−L−グルタミン酸溶液を得る。これは、0.585gのポリ−L−グルタミン酸を25mLの水に溶解したものである。このポリ−L−グルタミン酸溶液のpH価を、約7.1に調節する。
・キトサン溶液を得る。これは、0.74gのキトサンを18mLの水に溶解したものである。このキトサン溶液のpH価も、約7.1に調節する。
・0.743gのEDC(N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)を、上記ポリ−L−グルタミン酸溶液と混合する。
・上記ポリ−L−グルタミン酸溶液に、0.57gのアミホスチンを溶解する。
・上記キトサン溶液と上記ポリ−L−グルタミン酸溶液とを混合し、この混合液を24時間撹拌する。
・当該混合液を、2回の透析(使用した膜の分子量は10k)により精製する。
・上記混合物を凍結乾燥し、本実施例における、本発明の医薬用高分子である生成物を得る。この生成物を、以下の段落又は実験において、それぞれGP−アミホスチン(GP−A)及びGP−WR1065と呼ぶ。
【0061】
遊離アミホスチン及びWR−1065は、どちらも硫黄性イオン及び/又はリン酸塩基を含むが、GP単体ではどちらの官能基も含まないため、GP−A結合率(アミホスチンのGPへの結合率)を確認する技術としては、ICP(誘導結合プラズマ)又はEA(元素分析)を用いた。本実施例におけるアミホスチンのGPへの結合率は、1〜30wt%と測定されている。さらに、本実施例で調製したGP−アミホスチンの分子量は、6,300〜11,700ダルトンであったが、これは結合率によって異なっていた。
【0062】
GP−アミホスチンの合成には、純水又は共溶媒を使用することができる。共溶媒は、アミホスチン中のリン酸塩基の加水分解を低減させ、それによりGP−アミホスチン/GP−WR1065の生産率を増加させることができる。
【0063】
実施例3:本発明のGP−Aの生体内分布
本実施例においては、GP−Aを過テクネチウム酸ナトリウム(Na99mTcO)で標識し、これを、経口投与の0.5時間後、2時間後、及び4時間後にPETで検出することにより、ラットにおけるGP−Aの生体内局在化を監視した。
【0064】
実験は、実施例1をわずかに変更して行った。動物は、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターに収容した。ラット及び放射性同位体に関するプロトコルは、MDアンダーソン動物実験委員会(Animal Use and Care Committee)及び放射線安全委員会(Radiation Safety Committee)により承認された。雌のFischer344ラット(150〜175g)(ハーラン・スプラグ・ドーリー(Harlan Sprague−Dawley)社、インディアナ州インディアナポリス)の右脚皮下に、乳腺細胞株(DMBA誘発乳癌細胞株として知られる)の乳癌細胞(10個の細胞/ラット)を接種した。
【0065】
接種後14日目に、本実施例における生体分布を検討した。9匹の腫瘍担持マウスを用い、それらを時間間隔別に3つのグループに分けた(0.5時間、2時間、及び4時間、n=3/時間点)。20μCiの99mTc−GP−Aを、外側尾静脈に注射した。投与の一定時間後にマウスを屠殺し、選択した細胞組織を切除、計量し、ガンマ・カウンターで放射能を計測した。各器官における放射性トレーサーの分布を、細胞組織1gに対する注射量の割合として表した(%ID/g)。腫瘍/正常組織の計数比は、対応する%ID/g値から決定された。統計分析では、生体内分布試験における細胞組織1gに対する注射量の割合(%ID/g)及び腫瘍/細胞組織の比率は、平均±標準偏差(means±SD)として示す。この結果を、以下の表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
上記表1に示されるように、投与の4時間後でも、ラットの体内に99mTc−GP−Aが残存していた。さらに、99mTc−GP−Aは、肝臓、脾臓、及び腎臓で特に蓄積されたが、血中及び筋肉中では減少していた。また、腫瘍組織においても99mTc−GP−Aの蓄積が観察された。これは、化学治療及び/又は放射線治療において、本発明のGP−Aを正常組織の放射線防護体又は化学防護体として使用する場合は、治療への影響を最小限にするために、化学治療及び/又は放射線治療での曝露後にGP−Aの投与を行うことが好ましいであろうということを意味する。
【0068】
しかしながら、実験結果からは、開示された構造のGP−Aが、ほとんどの器官におけるアミホスチンの滞留時間を少なくとも4時間に延ばすことができることと、肝臓、脾臓、腎臓等の重要な器官におけるGP−A蓄積に特に好適であることが分かる。したがって、アミホスチン固有の放射線防護能力に加え、本発明のGP−アミホスチン構造は、フリーラジカルによる損傷をより有効に低減する能力を有するものと期待される。
【0069】
GP−Aに対する99mTc標識が成功したことを確認するための補足実験も行なった。図4(a)及び図4(b)の両方に示されるように、99mTcは完全にGP−Aに標識され、図4(b)中では遊離99mTcは観察されなかった。これら2つの図は、99mTcがGP−Aに標識された時の、生成物の高い放射化学的純度を示す。このTLC分析では、他の形態の分子は見当たらない。つまり、99mTcの検出により決定された上記生体内分布データは、信頼性を有するものである。
【0070】
実施例4:ヨウ素滴定実験
上記実施例3の結果によって、本発明のGP−Aは、滞留時間がより長く、かつ特異的に局在(蓄積)する、という利点を有することが実証された。本実施例では、アミホスチン上のグリコペプチドを修飾することで、アミホスチン固有のフリーラジカル消去能力に影響があるかを確かめる。アミホスチン及びGP−アミホスチンの還元力を調べるため、ヨウ素滴定実験を行った。ここで、還元力は、フリーラジカル消去能力の指標であると考えられる。
【0071】
ヨウ素滴定実験は、この分野で周知のプロトコルに基づいて行なわれた。つまり、アミホスチン及びGP−アミホスチンを、それぞれ様々な濃度となるよう0.9%NaCl溶液に溶解した。異なる濃度のアミホスチン/NaCl溶液又はGP−アミホスチン/NaCl溶液を、CHCOOH/CHCOONa緩衝系と混合した。
【0072】
これらのアミホスチン/NaCl溶液又はGP−アミホスチン/NaCl溶液を1mLのデンプン溶液(1%v/v)と混合した後、0.001Nヨウ素溶液を用いて、完全に濃青色になるまで滴定を行った。
【0073】
図2(a)及び図2(b)はそれぞれ、アミホスチン及びGP−アミホスチンの酸化還元電位を示す。この結果によれば、アミホスチンの還元力が基本的に変化しなかったことから、グリコペプチドの結合/修飾は、アミホスチン固有のフリーラジカル消去能力に悪影響を及ぼすことはないといえる。
【0074】
実施例5:プラスミドDNAに対する保護能力
本実施例においては、GP−Aが、過酸化水素(H)及びUVへの曝露からプラスミドDNAを保護する能力を調べた。フリーラジカルはDNA構造を攻撃する傾向があるため、この能力もまた、フリーラジカル消去能力の指標となる。アミホスチン、GP−アミホスチン、及びGPを、それぞれ様々な濃度となるよう脱イオン蒸留水(dd−water)に溶解させた。下記表2に示すように、9つの実験グループを作成した。
【0075】
【表2】
【0076】
プラスミドDNAの完全性を観察するために、上記9つの実験グループを、3μlの電気泳動用負荷染料と混合した。
【0077】
図3は、アミホスチン及びGP−アミホスチンの両方が、UV&H処理プラスミドDNAを保護する能力を、わずかではあるけれども確実に有することを示す。上述した観察結果(図2(a)、図2(b)、及び図3)に基づき、アミホスチン及び本発明のGP−アミホスチンの両方が、フリーラジカルの拡散を阻止する防護能力を有することが確認された。
図2
図4
図1
図3