【実施例】
【0054】
実施例1:GPにより誘導される局在化
米国特許出願第12/970,026号には、薬剤と結合する担体としてグリコペプチド(GP)が示されている。GPの分布は肺、腎臓、肝臓、炎症部分、赤色骨髄、及び腫瘍部位を含むことが知られている。ここでは、PET(陽電子放射断層撮影法)スキャンを使用し、VX−2腫瘍細胞を注入されたニュージーランドウサギにおける、二種類の異なる造影剤
68Ga−GP(左)及び
18F−FTG(右)の局在化を検出した。
【0055】
簡潔に説明すると、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターに動物を収容した。ラット及び放射性同位体に関するプロトコルは、MDアンダーソン動物実験委員会(Animal Use and Care Committee)及び放射線安全委員会(Radiation Safety Committee)により承認された。雌のFischer344ラット(150〜175g)(ハーラン・スプラグ・ドーリー(Harlan Sprague−Dawley)社、インディアナ州インディアナポリス)の右脚皮下に、乳腺細胞株(DMBA誘発乳癌細胞株として知られる)の乳癌細胞(10
6細胞/ラット)を接種した。
【0056】
接種後14日目に、本実施例における局在化を検討した。雌のFischer344腫瘍ラット群の尾静脈に、
68Ga−GP(左)又は
18F−FTG(右)を静脈注射した。注入された質量はラット1匹当たり30μgであった。PETスキャンは、注射の45分後に行った。
【0057】
図1は、PETスキャンの結果を示す。ここで、GPの分布は肺、腎臓、肝臓、炎症部分、赤色骨髄、及び腫瘍部位に及んでいる。この実験結果は、以下の試験において、GPがアミノチオール医薬品化合物の修飾における潜在的な候補であることを示している。
【0058】
実施例2:本発明の医薬用高分子の調製
本発明の医薬用高分子の調製は下記反応スキーム1に示される。
【0059】
【化1】
スキーム1:GP−Aの合成
【0060】
上記の通り、本実施例において使用されたポリペプチドはポリグルタミン酸であり、使用されたグリコシド部分はキトサンであり、使用されたアミノチオール部分はアミホスチン又はWR1065(図示せず)であった。この合成プロトコルを簡単に説明すると、以下の通りである。
・ポリ−L−グルタミン酸溶液を得る。これは、0.585gのポリ−L−グルタミン酸を25mLの水に溶解したものである。このポリ−L−グルタミン酸溶液のpH価を、約7.1に調節する。
・キトサン溶液を得る。これは、0.74gのキトサンを18mLの水に溶解したものである。このキトサン溶液のpH価も、約7.1に調節する。
・0.743gのEDC(N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)を、上記ポリ−L−グルタミン酸溶液と混合する。
・上記ポリ−L−グルタミン酸溶液に、0.57gのアミホスチンを溶解する。
・上記キトサン溶液と上記ポリ−L−グルタミン酸溶液とを混合し、この混合液を24時間撹拌する。
・当該混合液を、2回の透析(使用した膜の分子量は10k)により精製する。
・上記混合物を凍結乾燥し、本実施例における、本発明の医薬用高分子である生成物を得る。この生成物を、以下の段落又は実験において、それぞれGP−アミホスチン(GP−A)及びGP−WR1065と呼ぶ。
【0061】
遊離アミホスチン及びWR−1065は、どちらも硫黄性イオン及び/又はリン酸塩基を含むが、GP単体ではどちらの官能基も含まないため、GP−A結合率(アミホスチンのGPへの結合率)を確認する技術としては、ICP(誘導結合プラズマ)又はEA(元素分析)を用いた。本実施例におけるアミホスチンのGPへの結合率は、1〜30wt%と測定されている。さらに、本実施例で調製したGP−アミホスチンの分子量は、6,300〜11,700ダルトンであったが、これは結合率によって異なっていた。
【0062】
GP−アミホスチンの合成には、純水又は共溶媒を使用することができる。共溶媒は、アミホスチン中のリン酸塩基の加水分解を低減させ、それによりGP−アミホスチン/GP−WR1065の生産率を増加させることができる。
【0063】
実施例3:本発明のGP−Aの生体内分布
本実施例においては、GP−Aを過テクネチウム酸ナトリウム(Na
99mTcO
4)で標識し、これを、経口投与の0.5時間後、2時間後、及び4時間後にPETで検出することにより、ラットにおけるGP−Aの生体内局在化を監視した。
【0064】
実験は、実施例1をわずかに変更して行った。動物は、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターに収容した。ラット及び放射性同位体に関するプロトコルは、MDアンダーソン動物実験委員会(Animal Use and Care Committee)及び放射線安全委員会(Radiation Safety Committee)により承認された。雌のFischer344ラット(150〜175g)(ハーラン・スプラグ・ドーリー(Harlan Sprague−Dawley)社、インディアナ州インディアナポリス)の右脚皮下に、乳腺細胞株(DMBA誘発乳癌細胞株として知られる)の乳癌細胞(10
6個の細胞/ラット)を接種した。
【0065】
接種後14日目に、本実施例における生体分布を検討した。9匹の腫瘍担持マウスを用い、それらを時間間隔別に3つのグループに分けた(0.5時間、2時間、及び4時間、n=3/時間点)。20μCiの
99mTc−GP−Aを、外側尾静脈に注射した。投与の一定時間後にマウスを屠殺し、選択した細胞組織を切除、計量し、ガンマ・カウンターで放射能を計測した。各器官における放射性トレーサーの分布を、細胞組織1gに対する注射量の割合として表した(%ID/g)。腫瘍/正常組織の計数比は、対応する%ID/g値から決定された。統計分析では、生体内分布試験における細胞組織1gに対する注射量の割合(%ID/g)及び腫瘍/細胞組織の比率は、平均±標準偏差(means±SD)として示す。この結果を、以下の表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
上記表1に示されるように、投与の4時間後でも、ラットの体内に
99mTc−GP−Aが残存していた。さらに、
99mTc−GP−Aは、肝臓、脾臓、及び腎臓で特に蓄積されたが、血中及び筋肉中では減少していた。また、腫瘍組織においても
99mTc−GP−Aの蓄積が観察された。これは、化学治療及び/又は放射線治療において、本発明のGP−Aを正常組織の放射線防護体又は化学防護体として使用する場合は、治療への影響を最小限にするために、化学治療及び/又は放射線治療での曝露後にGP−Aの投与を行うことが好ましいであろうということを意味する。
【0068】
しかしながら、実験結果からは、開示された構造のGP−Aが、ほとんどの器官におけるアミホスチンの滞留時間を少なくとも4時間に延ばすことができることと、肝臓、脾臓、腎臓等の重要な器官におけるGP−A蓄積に特に好適であることが分かる。したがって、アミホスチン固有の放射線防護能力に加え、本発明のGP−アミホスチン構造は、フリーラジカルによる損傷をより有効に低減する能力を有するものと期待される。
【0069】
GP−Aに対する
99mTc標識が成功したことを確認するための補足実験も行なった。
図4(a)及び
図4(b)の両方に示されるように、
99mTcは完全にGP−Aに標識され、
図4(b)中では遊離
99mTcは観察されなかった。これら2つの図は、
99mTcがGP−Aに標識された時の、生成物の高い放射化学的純度を示す。このTLC分析では、他の形態の分子は見当たらない。つまり、
99mTcの検出により決定された上記生体内分布データは、信頼性を有するものである。
【0070】
実施例4:ヨウ素滴定実験
上記実施例3の結果によって、本発明のGP−Aは、滞留時間がより長く、かつ特異的に局在(蓄積)する、という利点を有することが実証された。本実施例では、アミホスチン上のグリコペプチドを修飾することで、アミホスチン固有のフリーラジカル消去能力に影響があるかを確かめる。アミホスチン及びGP−アミホスチンの還元力を調べるため、ヨウ素滴定実験を行った。ここで、還元力は、フリーラジカル消去能力の指標であると考えられる。
【0071】
ヨウ素滴定実験は、この分野で周知のプロトコルに基づいて行なわれた。つまり、アミホスチン及びGP−アミホスチンを、それぞれ様々な濃度となるよう0.9%NaCl溶液に溶解した。異なる濃度のアミホスチン/NaCl溶液又はGP−アミホスチン/NaCl溶液を、CH
3COOH/CH
3COONa緩衝系と混合した。
【0072】
これらのアミホスチン/NaCl溶液又はGP−アミホスチン/NaCl溶液を1mLのデンプン溶液(1%v/v)と混合した後、0.001Nヨウ素溶液を用いて、完全に濃青色になるまで滴定を行った。
【0073】
図2(a)及び
図2(b)はそれぞれ、アミホスチン及びGP−アミホスチンの酸化還元電位を示す。この結果によれば、アミホスチンの還元力が基本的に変化しなかったことから、グリコペプチドの結合/修飾は、アミホスチン固有のフリーラジカル消去能力に悪影響を及ぼすことはないといえる。
【0074】
実施例5:プラスミドDNAに対する保護能力
本実施例においては、GP−Aが、過酸化水素(H
2O
2)及びUVへの曝露からプラスミドDNAを保護する能力を調べた。フリーラジカルはDNA構造を攻撃する傾向があるため、この能力もまた、フリーラジカル消去能力の指標となる。アミホスチン、GP−アミホスチン、及びGPを、それぞれ様々な濃度となるよう脱イオン蒸留水(dd−water)に溶解させた。下記表2に示すように、9つの実験グループを作成した。
【0075】
【表2】
【0076】
プラスミドDNAの完全性を観察するために、上記9つの実験グループを、3μlの電気泳動用負荷染料と混合した。
【0077】
図3は、アミホスチン及びGP−アミホスチンの両方が、UV&H
2O
2処理プラスミドDNAを保護する能力を、わずかではあるけれども確実に有することを示す。上述した観察結果(
図2(a)、
図2(b)、及び
図3)に基づき、アミホスチン及び本発明のGP−アミホスチンの両方が、フリーラジカルの拡散を阻止する防護能力を有することが確認された。