(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の成形体の製造方法は、不連続炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を成形型に配置してコールドプレスすることにより、開口部を有する成形体を製造する方法であって、
(1)成形型が密閉可能なキャビティとなる部分を有し、
(2)成形型に配置する成形材料の投影面積が、成形型キャビティの投影面積超である、
成形体の製造方法に関するものである。
本発明の成形体の製造方法においては、上記コールドプレスにおいて、成形材料が流動して成形体の端部を形成することが好ましい。
【0014】
[炭素繊維]
炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
【0015】
なかでも、本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100GPa〜600GPaの範囲内であることが好ましく、200GPa〜500GPaの範囲内であることがより好ましく、230〜450GPaの範囲内であることがさらに好ましい。また、引張強度は2000MPa〜10000MPaの範囲内であることが好ましく、3000MPa〜8000MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0016】
本発明に用いられる炭素繊維は、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している炭素繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、炭素繊維及びマトリックス樹脂の種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
【0017】
[炭素繊維の繊維長]
本発明に用いられる炭素繊維の繊維長は不連続炭素繊維であれば良く、炭素繊維の種類や熱可塑性樹脂の種類、成形材料中における炭素繊維の配向状態等に応じて適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではない。不連続炭素繊維の平均繊維長は、通常、1mm〜100mmの範囲内であることがより好ましく、3mm〜50mmであることが更に好ましい。
【0018】
本発明においては繊維長が互いに異なる炭素繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる炭素繊維は、繊維長の分布に単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
【0019】
炭素繊維の平均繊維長は、ロータリーカッター等で炭素繊維を一定長に切断して用いた場合は、そのカット長が平均繊維長にあたり、これは数平均繊維長でもあり、重量平均繊維長でもある。
【0020】
個々の炭素繊維の繊維長をLi、測定本数をjとすると、数平均繊維長(Ln)と重量平均繊維長(Lw)とは、以下の式(c),(d)により求められる(一定カット長の場合は、数平均繊維長(Ln)の計算式(c)で重量平均繊維長(Lw)を算出していることにもなる)。
Ln=ΣLi/j ・・・式(c)
Lw=(ΣLi
2)/(ΣLi) ・・・式(d)
なお、本発明における平均繊維長の測定は、数平均繊維長であっても、重量平均繊維長であっても良い。
具体的には、炭素繊維の数平均繊維長は、例えば、成形材料から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式(c2)に基づいて求めることができる。成形材料からの炭素繊維の抽出は、例えば、成形材料に対し、500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
La=ΣLi/100 式(c2)
【0021】
[炭素繊維の繊維径]
本発明に用いられる炭素繊維の繊維径は、炭素繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、炭素繊維として炭素繊維が用いられる場合、平均繊維径は、通常、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、4μm〜12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm〜8μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0022】
ここで、上記平均繊維径は、炭素繊維の単糸の直径を指すものとする。したがって、炭素繊維が繊維束状である場合は、繊維束の径ではなく、繊維束を構成する炭素繊維(単糸)の直径を指す。炭素繊維の平均繊維径は、例えば、JIS R−7607:2000に記載された方法によって測定することができる。
【0023】
[開繊程度]
本発明に用いられる炭素繊維は、その種類の関わらず単糸からなる単糸状であってもよく、複数の単糸からなる繊維束状であってもよい。
本発明に用いられる炭素繊維は、単糸状のもののみであってもよく、繊維束状のもののみであってもよく、両者が混在していてもよい。繊維束状のものを用いる場合、各繊維束を構成する単糸の数は、各繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0024】
本発明に用いられる炭素繊維が繊維束状である場合、各繊維束を構成する単糸の数は特に限定されるものではないが、通常、1000本〜10万本の範囲内とされる。
一般的に、炭素繊維は、数千〜数万本の単糸(フィラメント)が集合した繊維束状となっている。炭素繊維がこの繊維束状のままで使用されると、繊維束の交絡部が局部的に厚くなり薄肉の成形材料を得ることが困難になる場合がある。これを避けるため、繊維束を拡幅したり、又は開繊したりして使用するのが通常である。
【0025】
繊維束を開繊して用いる場合、開繊後の繊維束の開繊程度は特に限定されるものではないが、繊維束の開繊程度を制御し、特定本数以上の炭素繊維からなる炭素繊維束と、それ未満の炭素繊維束又は単糸を含むことが好ましい。この場合、具体的には、下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)と、それ以外の開繊された炭素繊維、すなわち単糸の状態または臨界単糸数未満で構成される繊維束とからなることが好ましい。
臨界単糸数=600/D 式(a)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【0026】
さらに、本発明においては、成形材料中の炭素繊維全量に対する炭素繊維束(A)の割合が0Vol%超99Vol%未満であることが好ましく、20Vol%以上99Vol未満であることがより好ましく、30Vol%以上95Vol%未満であることがさらに好ましく、50Vol%以上90Vol%未満であることが最も好ましい。このように特定本数以上の単糸からなる炭素繊維束と、それ以外の開繊された単糸又は炭素繊維束を特定の比率で共存させることで、成形材料中の炭素繊維の存在量、すなわち繊維体積割合(Vf)を高めることが可能となるからである。「Vol%」は「体積%」である。
【0027】
本発明において、炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)は本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではない。
炭素繊維の場合、上記Nは通常1<N<12000の範囲内とされるが、下記式(b)を満たすことがより好ましい。
0.6×10
4/D
2<N<6×10
5/D
2 (b)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【0028】
[炭素繊維体積割合(Vf)]
本発明における製造方法で作成される成形体の炭素繊維体積割合(以下、単に「Vf」ということがある)に特に限定は無いが、いずれも、含有する炭素繊維及び熱可塑性樹脂について、下記式(d1)で定義される炭素繊維体積割合(Vf)が5〜80体積%であることが好ましく、Vfが20〜60体積%であることがより好ましい。
式(d1):
Vf=100×炭素繊維体積/(炭素繊維体積+熱可塑性樹脂体積)
成形体のVfが5体積%以上であると、補強効果が十分に発現し、また、Vfが80体積%以下であると、得られる成形体中にボイドが発生しにくくなり、成形体の物性が低下するおそれが少なくなる。
【0029】
[炭素繊維の形態]
本発明における炭素繊維の形態に特に限定はないが、炭素繊維が綿状に絡み合うなどして、炭素繊維の長軸方向がXYZの各方向においてランダムに分散している3次元等方性の炭素繊維マットであっても良く、2次元ランダムに配向しているものであっても良いが、2次元ランダムに配向しているものであることがより好ましい。
ここで、2次元ランダムに配向しているとは、炭素繊維が、成形材料の面内方向において一方向のような特定方向ではなく無秩序に配向しており、全体的には特定の方向性を示すことなくシート面内に配置されている状態を言う。この2次元ランダムに配向している不連続繊維を用いて得られる成形材料は、面内に異方性を有しない、実質的に等方性の成形材料である。
炭素繊維のある本数以上の単糸が集束した繊維束と単糸またはそれに近い状態の繊維束が所定割合で混在している等方性の成形材料の製造法については、国際公開第2012/105080号パンフレット、日本国特開2011−178890号公報に詳しく記載されている。
【0030】
[炭素繊維の目付量]
成形材料における炭素繊維の目付量は、特に限定されるものではないが、好ましくは25g/m
2〜10000g/m
2以下とされる。
本発明に用いられる成形材料の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm〜100mmの範囲内が好ましく、0.1mm〜10mmの範囲内が好ましく、0.5〜3.0mmの範囲内がより好ましい。
なお、本発明に用いられる成形材料が、複数の層が積層された構成を有する場合、上記厚みは各層の厚みを指すのではなく、各層の厚みを合計した成形材料全体の厚みを指すものとする。
【0031】
本発明に用いられる成形材料は、単一の層からなる単層構造を有するものであってもよく、又は複数層が積層された積層構造を有するものであってもよい。
成形材料が上記積層構造を有する態様としては、同一の組成を有する複数の層が積層された態様であってもよく、又は互いに異なる組成を有する複数の層が積層された態様であってもよい。
【0032】
[熱可塑性樹脂]
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、所望の強度を有する成形材料を得ることができるものであれば特に限定されるものではなく、成形材料の用途等に応じて適宜選択して用いることができる。
【0033】
熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、成形材料の用途等に応じて所望の軟化点又は融点を有するものを適宜選択して用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、通常、軟化点が180℃〜350℃の範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ウレタン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂などが挙げられる。
【0035】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化点又は融点が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
【0036】
[他の剤]
成形材料中には、ガラス繊維や有機繊維等の各種繊維状または非繊維状フィラー、難燃剤、耐UV剤、顔料、離型剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤の添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
[配置する成形材料の面積]
本発明において、成形型に配置する成形材料の投影面積は、成形型キャビティの投影面積超である。
【0038】
(成形材料の投影面積S1)
成形材料の投影面積S1とは、成形型の開閉方向から見た成形材料の2次元での平面積であり、たとえば、
図4(a)の5で表される面積である。したがって
図4(b)に示すように、成形材料が2枚重なっている場合であって、成形型の開閉方向から見て一方の成形材料が、もう一方の成形材料の内側に完全に収まって積層されている場合は、大きい方の成形材料の投影面積と、2枚重なった成形材料の投影面積とは一致する(
図4(b)の5)。したがって、この場合は大きい方のみの成形材料の投影面積を、本発明における投影面積S1と定義する。また、部分的に重なって複数枚積層されている場合は、少なくとも1つの成形材料の投影面積が成形型キャビティの投影面積よりも大きければよい。
【0039】
また、本発明において、成形材料の投影面積は、成形材料を加熱する前の状態での投影面積である。なお、成形材料を加熱するのは、後述するようにコールドプレスする直前である。
【0040】
(成形型キャビティの投影面積S2)
成形型キャビティ(単に「キャビティ」ともいう)とは、2つの成形型(たとえば上型と下型)を型締めした際にできる空間のことである。
成形型キャビティの投影面積S2とは、成形型の開閉方向から見たキャビティの2次元での平面積である。たとえば、
図1の成形型1(成形型キャビティが密閉キャビティを用いた場合の成形型下型を示す)を用いて説明すると、成形型キャビティの投影面積は、
図1の2に示す面積である。キャビティが凹凸形状を有している場合は、出来上がった成形体の展開面積よりキャビティの投影面積は小さくなる。
【0041】
また、本発明における成形型は密閉可能なキャビティとなる部分を有しており、2つの成形型が型締めされた際に、前記2つの成形型同士は少なくとも一部分が接触していればよく、完全に密閉されたキャビティであっても良いし、一部に開放部分を含んで良い。一部に開放部分を含む場合のキャビティ投影面積は、コールドプレスが完了した時点で、成形体が成形型の下型に接触している範囲の投影面積を、成形型キャビティの投影面積S2と定義する。
なお、
図1、
図2に示した成形型キャビティ(下型)1は凹形状であるが、凸形状であっても良く、この場合の成形型のキャビティの投影面積S2の考え方は上述と同様である。
【0042】
従来、例えば特開2012−250430号公報に記載の発明では、成形型のキャビティ投影面積以下である基材を投入し、プレス成形時に成形材料を流動することで、成形体(成形体の端部を含む)を形成させていた。しかしながら、この場合、流動して形成された流動成形部分(成形体端部を含む)は、成形材料の流動にともなって繊維が複雑に流動するため、流動しない部分(非流動部)の繊維配向(繊維物性)と同じ物性を持たせることが難しい。例えば繊維配向が、成形体端部(流動した部分)と成形体中央部の非流動部とで異なってしまう。
ここで、繊維が流動して形成される成形体端部とは、例えば
図7の8’−1に示すように、プレス時に成形材料が流動して(同時に繊維も流動して)形成された部分をいう。成形材料の投影面積S1が
図7(a)のように成形型キャビティの投影面積S2以下のものを用いた場合、成形体の部位によって繊維配向や強度が異なってしまうことに加えて、得られる成形体の端部は成形材料が流動して成形されているため、成形体としたときに流動部と非流動部の繊維配向が異なってしまい、成形体全体としての繊維配向を制御できずに不均一なものとなる。例えば、炭素繊維を2次元ランダムに配向させて、2次元方向に等方性のある成形材料を用い、成形材料の投影面積を成形型キャビティの投影面積以下にしてプレス機に投入した場合、成形材料が流動して成形された部分(流動成形部)や、成形体端部の機械物性は等方性ではなくなってしまう。同様に、異方性の成形材料を用い、成形材料の投影面積を成形型キャビティの投影面積以下にして準備した場合、非流動部と流動成形部の異方性は異なったものとなってしまう。
【0043】
一方、本発明においては、
図5(a)、
図6(a)に示すように、成形型に配置する成形材料の投影面積S1が、成形型キャビティの投影面積S2超であるため、成形材料の多くの部分は流動せず、また事前に成形材料の体積を調整しておくことで、
図5(b)(c)、
図6(b)(c)に示すようにプレス成形時にはキャビティ内に成形材料は引き込まれる。したがって、成形体端部はほとんど流動しないか、ほんの僅かにだけ流動してプレス成形される。この結果、得られた成形体(
図5の(c)(d)、
図6の(c)(d))の物性が、成形体のどの部位をとっても均一な物性となり、中央部分と端部とで均一化される。説明のための便宜上、
図5、
図6では2次元に成形材料が引き込まれるように描かれているが、3次元方向全ての方向で成形材料が引き込まれても良い。
ここで、成形型に配置する成形材料の投影面積を、成形型キャビティの全面積S3ではなく、成形型キャビティの投影面積S2に対する大きさ(又は後述するチャージ率)を基準とする理由は、成形型キャビティの全面積以上の成形材料を投入すると、密閉キャビティの外側にまで成形材料がはみ出してしまい、成形材料の端部を僅かに流して端部を成形する事ができないためである。
【0044】
更に、通常、成形材料の面積が成形型キャビティ投影面積を超えると成形時にロスになる材料が生じることになるが(例えば特開2011−218798号公報)、本発明において材料ロスはほとんど発生しない。
すなわち、日本国特開2011−218798号公報に記載の成形ではオープンキャビティを用いているため、目的の成形体の端部が形成されず、成形後にトリミング工程が必須であるために材料ロスが発生する。一方、本発明では成形型が密閉可能なキャビティとなる部分を有しているため、成形が完了した際に、目的の成形体の端部まで必要十分量に充填するため、材料ロスはほとんど発生しない。
成形型の形状にもよるが、下記式(e)で表されるチャージ率を100%超250%以下で成形材料を成形型に配置することが好ましく、より好ましくは100%超160%以下、更に好ましくは100%超140%以下である。
チャージ率(%)=100×成形材料の投影面積S1/成形型キャビティの投影面積S2 式(e)
【0045】
(成形材料の流動)
本発明における成形体の製造方法は、成形型に配置する成形材料の投影面積S1が、成形型キャビティの投影面積S2超であるため、成形体端部はほとんど流動しないか、ほんの僅かにだけ流動してプレス成形される。
成形材料の流動とは、成形型上型によって成形材料がプレスされ、成形材料が流れ動くことをいう。すなわち、プレス開始後(伸長が完了した後)、成形が完了するまでに成形材料が流れ動くことを、成形材料の流動という。
なお、本願明細書において、成形材料の流動と伸長とは異なる現象であり、成形材料の伸長とは、成形材料が加圧される前までに成形材料が伸びることをいう。詳しくは、成形材料の伸長に関しては(引張破断伸度εv)の欄で述べる。
本発明における成形材料は、コールドプレスにおいて、成形材料が流動して成形体の端部を形成することが好ましく、その際の成形材料が流動する距離が0mm超150mm以下であることが好ましい。
流動する距離の上限は、100mm以下である成形体の製造方法とすることが好ましく、80mm以下とすることが更に好ましく、50mm以下とすることがより一層好ましく、40mm以下とすることが最も好ましい。
一方、流動する距離の下限は1mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、10mm以上がより一層好ましい。
【0046】
この場合、成形型に配置する成形材料の投影面積S1が、成形型キャビティの投影面積S2超であるため、多くの部分は成形時に流動しないが、成形材料の端部は僅かに流動する。
成形材料を全く流動させないで成形体を製造する場合、成形型キャビティの形状に成形材料の形状を厳密にあわせる予備賦形を施し、その後にプレス成形する必要がある。
成形材料を厳密に成形型にあわせるためには、ロボットで成形材料を搬送する場合、初期の成形材料の位置決めの調整に多大な工数を要するし、人手で成形材料を搬送して成形型に配置するには、極めて優れた熟練工を必要とする。したがって、成形材料の配置のズレが、僅かでも許されないような成形材料は、生産上極めて好ましくない。
【0047】
そこで、成形材料を0mm超150mm以下の距離を流動させて成形体の端部を形成することで、成形材料の形状を成形型キャビティの形状に厳密にあわせる必要が無く、更には予備賦形を施さなくとも、成形体を作成することができる。
【0048】
また、本発明における成形体の製造方法においては、成形型に配置する成形材料の投影面積S1が、成形型キャビティの投影面積S2超にしているため、成形材料は大幅には流動しないため、作成した成形体のほとんどの箇所で、繊維配向は均一となっている。
例えば、
図20に示すように、成形体端部のみを流動によって形成させることで、容易にプレス成形することが可能となる。
好ましい成形材料の流動する距離は、上述した通りであるが、流動する距離が本発明における範囲内であれば、成形体端部(流動して形成された部分)と成形体中央部(非流動部分)の繊維形態が大幅に異なる事がなく好ましい。
なお、出来上がった成形体について、ある方向における成形体の端から全体の長さの10%までの領域を端部とし、それ以外の部分を中央部とすると、端部の等方性i1と、中央部の等方性i2が、0.95<i1/i2<1.05であることが好ましい。
また、本発明における流動とは、成形材料の面内方向への流動であり、板厚方向へは流動しても、していなくても良い。本発明における成形体の製造方法は、成形材料を面内方向へ流動させることで、成形材料の形状を成形型キャビティの形状に厳密にあわせる事を必要とせず、作成した成形体の端部周辺の物性を安定化させることができる。
一方、板厚方向への流動は、部分的に肉厚や薄肉を成形体に設けたい場合、適宜選択すれば良い。
なお、成形材料の面内方向とは、成形材料の板厚方向に直交する方向である。長手方向あるいは幅方向がそれぞれ一定の方向を指すのに対して、同一平面上(板厚方向に直交する平行な面)の不定の方向を意味している。
【0049】
(成形型キャビティの全面積S3)
成形型キャビティの全面積S3とは、成形型のキャビティとなる部分の表面積である。成形型キャビティの全面積S3について、例えば
図2及び
図3(成形型キャビティが密閉キャビティを用いた場合の成形型下型を示す)を用いて説明すると、成形型キャビティの全面積S3とは、
図2(a)(b)の3で示した塗りつぶした部分や、
図3(a)(b)の4で示される点線部分の面積をいう。
また、本発明における成形型は密閉可能なキャビティとなる部分を有していれば良いので、一部に開放部分を含んで良い。一部に開放部分を含む場合の成形型キャビティの全面積S3は、コールドプレスが完了した時点で、成形体が成形型の下型に接触している範囲の面積を、成形型のキャビティ全面積S3と定義する。
【0050】
成形材料(
図8(a)の6)が成形される場合に、
図8(a)の9のように、成形材料が互いに折り重なった場合は、成形材料の投影面積は成形型キャビティの有する面積以上となる場合がある。例えば、
図8(b)の矢印10部分のように、対応する部分の成形型面積の約3倍面積分の成形材料が積重ねられることになる。成形型の形状にもよるが、成形時に成形材料の重なり部分が発生する場合、成形材料の投影面積は、成形型キャビティの全面積S3の3倍が上限となることが好ましい。
成形型キャビティの形状にもよるが、成形型に配置する成形材料の投影面積のより好ましい上限としては、成形型キャビティの全面積S3の1.5倍以下がより好ましく、1.3倍以下が更に好ましく、1.2倍以下がより一層好ましく、1.0倍以下が特に好ましい。
一方、成形型キャビティの全面積S3に対する成形材料の投影面積の下限は、0.7≦S1/S3であることが好ましく、0.8≦S1/S3であることがより好ましい。
より具体的には、予備賦形などで成形材料が伸長することや、追加の成形材料を積層して成形することを鑑みて、0.8≦S1×引張破断伸度εv/S3であることが好ましい。成形材料の配置の簡便性の観点より、より好ましくは、0.9≦S1×引張破断伸度εv/S3であり更に好ましくは1.0≦S1×引張破断伸度εv/S3である。
【0051】
[成形体の形状]
本発明において製造される成形体は開口部を有する。本発明における成形体が有する開口部としては、断面方向(面内方向)から見て、1つの開口部を塞いだ際に1つの閉鎖された空間ができる開口部であれば良く、このような開口部としては典型的には凹部である。例えば
図9(a)に成形体8の斜視図を示す。
図9(a)に示す成形体8は、開口部14を有している。
図9(b)は
図9(a)の成形体8の側面図であり、
図9(c)は
図9(a)の成形体8の平面図である。開口部14を有する成形体8は壁面11、天面12、フランジ部13をそれぞれ有する。また、
図9(c)のA−A’間の断面図を
図10に示す。
なお、
図9は1つの開口部を塞いだ際には、1つの閉鎖された3次元空間ができる開口部であるが、例えば
図10、
図11のように、手前と奥が開放された成形体であった場合でも、断面方向(面内方向)から見て、1つの開口部を塞いだ際に1つの閉鎖された空間ができれば、本発明における開口部となる。
【0052】
[密閉可能なキャビティの容量V1と、成形材料の体積V2]
密閉可能なキャビティの容量V1と、成形材料の体積V2とが、0.8≦V1/V2≦1.2であることが好ましい。
密閉可能なキャビティの容量V1とは、成形型を閉じた際にできる空間容量であり、成形体の目的の板厚(肉厚)となるように設定した目標値の空間容量のことである。成形材料の体積V2とは、成形体を製作する際に準備した成形材料の体積そのものである。
密閉可能なキャビティの容量V1と、成形材料の体積V2とが、V1/V2≦1.2であると成形体の末端部に欠けが発生しにくくなるため好ましく、0.8≦V1/V2であると目的の位置まで成形型を均一に閉じる事が容易になり、製造される成形体の板厚(肉厚)を均一に保ちやすくなるため好ましい。より好ましくは、1.0≦V1/V2≦1.1である。
また、本発明における成形型が一部に開放部分を含む場合のキャビティの容積V1は、コールドプレスが完了した時点の成形体の体積を、キャビティの容積V1と定義する。
【0053】
[開口部の形状と成形材料の追加配置]
本発明における開口部(
図9の14)の形状に特に限定はないが、開口部の深さ(
図10のE)が深くなると、成形材料が不足して壁面(
図9の11)を形成できなくなるという、別の新たな課題が生じる。
そこで、成形時に成形材料が伸長及び/又は流動することにより開口部が形成され、
(3)成形材料の引張破断伸度をεvとし、成形体のある断面における開口部の出口端の距離をL、該断面における開口部の沿面長をDとしたとき、D−L×εv>0である場合、
(4)配置する成形材料長さが、成形体の開口部の出口端の距離Lに加えてD−L×εv以上の部分を有し、
(5)成形材料の引張破断伸度εvが110%を超300%以下である
ことが好ましい。
【0054】
(開口部の形状と課題)
成形体のある断面における開口部の出口端の距離Lとは、例えば
図10に示すような断面の成形体の開口部の場合、開口方向からみた直線距離である。
図11に示すように成形体が複雑な凹凸形状を有している場合は、成形体の展開距離よりも離Lはかなり小さくなる。
一方、成形体の開口部の出口端の沿面長Dとは、
図10、
図11に示すように、成形体の開口部の表面に沿った合計長さをいう。なお、距離Lと沿面長Dとは同じ断面における開口部について測定する。成形体の形状が複雑なため、測定の仕方により距離Lや沿面長Dの値が複数存在する場合であっても、上記(3)の要件を一か所でも満たす成形体の開口部であれば、壁面の成形材料が不足し易くなるという、本発明における別の新たな課題が発生する。
【0055】
(引張破断伸度εv)
本発明における成形材料の引張破断伸度εvには特に限定は無いが、好ましくは、110%を超300%以下であり、より好ましくは110%超260%以下であり、更に好ましくは110%超230%以下である。
ただし、成形材料の引張破断伸度εvは、成形材料がコールドプレス可能な温度で、引張速度20mm/secで伸長させた時の成形材料を伸びであり、下記式(f)で表される。
式(f):
εv=成形材料の伸長後の長さ(y)/成形材料の伸長前の長さ(x)×100
具体的には、成形材料をコールドプレス可能な温度(成形可能な温度)まで昇温して、
図19に示す引張破断伸度測定用のプレス用成形型の上に成形材料を配置し、成形型締め付け速度20mm/secで、成形材料を破断させるまで成形型を閉じた後、成形材料を取り出して成形材料が伸長した長さ(y)を測定し、成形材料の伸長前の長さ(x)で除算して計算される。コールドプレス可能な温度(成形可能な温度)とは、成形材料に含まれる熱可塑性樹脂の軟化温度以上であり、例えばナイロン6の場合は融点以上300℃以下であれば良い。
【0056】
引張破断伸度εvが300%以下である場合、D=L×300%まで、追加の成形材料を配置しなくてもD(
図10、
図11)の長さを長くできる。
すなわち、引張破断伸度εvの範囲で調整した場合(D−L×εv<0の場合)、成形時に成形材料が伸長できるため、たとえば、
図10、
図11において、天面から開口部入口までの距離Eが5mm以上かつLが10mm以下であるものや、更にはEが10mm以上かつLが20mm以下であるような成形体でも問題なく成形することができる。
なお、引張破断伸度εvは炭素繊維の含有量、繊維長、繊維径などに影響され、炭素繊維の含有量が多いほど、繊維長が長いほど、繊維径が小さいほど、引張破断伸度εvは小さくなる傾向にある。
【0057】
(配置する成形材料の好ましい長さ)
成形材料は少なくとも可塑化温度まで加熱してプレス成形されるため、成形材料の引張破断伸度εvがある程度大きい成形材料、又はL×εvに比べてDがある程度小さい場合にはD−L×εv<0となり、成形材料の長さが前述の距離L以上であれば、加圧開始されるまでに成形材料の長さがDとなるまで伸長できるので、問題なく成形できる(
図12参照)。ここで、成形材料の伸長とは、成形材料が加圧される前までに成形材料が伸びることをいう。成形材料が加圧されているかどうかの確認は、成形型に通常配備されている圧力計により行うことができ、この圧力計がほぼ0を指している時に成形材料が伸びる現象を「伸長」と呼び、圧力計で圧力が検出されている時に成形材料が流れ動く現象を「流動」と呼ぶ。
【0058】
一方、成形材料の引張破断伸度εvが小さいとき、又はDが非常に大きいときに、D−L×εv>0となる場合がある。この場合、成形材料が長さDまで伸びることができず、プレスする前に成形材料が破れてしまうことがある(
図13(b)参照)。そこで、D−L×εv>0となる場合には、配置する成形材料長さが、成形体の開口部の出口端の距離Lに加えてD−L×εv以上の部分を有していることが好ましい。(4)でいう成形材料の長さとは、同一成形材料内で長さを調整しても良いし(例えば
図15)、別の成形材料を準備して長さを調整しても良い(例えば
図14)。配置する成形材料の場所としては
図14のように積層していても良いし、
図15のように成形型キャビティ内に成形材料を入れ込んでも良い。
図14に示すように積層して成形材料を配置する場合、積層した成形材料は、流動によって板厚が均一になる。これは、プレス時に積層した成形材料が、面内方向に加えて板厚方向にも流動するためである。一方、
図15のように成形型キャビティ内に成形材料を入れ込んだ場合、成形材料の伸長を少なくすることができ、繊維の形態を天面部と側面部で均一化できる。
【0059】
[その他の成形体の形状]
(フランジ構造)
本発明において、製造される成形体は好ましくはフランジ部を有し、開口部壁面の厚みt1と、天面又はフランジ部の厚みt2との関係が、0.5<t1/t2≦1.5であることが好ましく、0.7<t1/t2≦1がより好ましい。
例えば、日本国特開2009−196145号公報の記載の成形方法では、開口部の天面より壁面の体積が小さくなってしまう場合が多く、例えば壁面にあるボス・リブ形状が天面部よりも相対的に成形しづらくなり問題が生じる。
【0060】
(成形体の物性)
本発明における成形体は、端部が成形時に成形材料がまったく流動しないか、または僅かに流動して形成されたものであるため、成形体の端部と中央部でほとんど成形材料の等方性に差が生じない。具体的には、成形体が端部と中央部を有し、端部の等方性i1と、中央部の等方性i2が、0.95<i1/i2<1.05である成形体を製造することができる。成形体の端部とは、ある方向における成形体の端から全体の長さの10%までの部分と定義され、ある方向において2つの端部が存在し、端部以外の部分を中央部と定義する。
端部と中央部の等方性の評価方法としては、成形体の端部と中央部から、それぞれダンベル試験片を切り出し、JIS K7164:2005に従って、引張強度をそれぞれ測定し、端部の引張強度(i1)を、中央部の引張強度(i2)で除算して評価した。
【0061】
[成形型]
本発明は、不連続炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含む成形材料を成形型に配置してコールドプレス成形する方法に関するものであり、プレス成形の種類は得られる成形体に応じ選択が可能である。ここで、プレス成形とは、加工機械および型、工具等を用いて金属、プラスチック材料、セラミックス材料などに例示される各種材料に曲げ、剪断、圧縮等の変形を与えて成形体を得る方法であるが、その成形形態として絞り、深絞り、フランジ、コールゲート、エッジカーリング、型打ちなどが例示される。
【0062】
本発明における成形型は密閉可能なキャビティとなる部分を有する。本発明における密閉可能なキャビティ構造とはコア型とキャビ型、別の表現をすると上型と下型が合わさった時に1つの閉空間を作ることが出来る構造を有しているものである。例えば成形型は
図5、
図6に示すような密閉部分があれば、その部分の成形体端部の物性は安定する。
また、図示していないが、一部が開放されるキャビティであっても良い。ただし、成形型の製造上の観点より、成形型が閉じた際に、完全に密閉されたキャビティであることがより好ましい。
すなわち、本発明における密閉可能なキャビティとは、閉じられた空間を指すのではない。換言すると、本発明における「成形型が密閉可能なキャビティとなる部分を有する」とは、「コールドプレスする際に、成形型キャビティの外に、成形材料が流出しないように成形型が閉じる部分を有する」ことをいう。
【0063】
(型締め速度)
また、本発明における成形型の型締め速度に特に制限は無いが、10〜100mm/secの範囲であることが好ましい。成形体の形状にもよるが、特に
図10、
図11のEに示す深絞り部では型締め速度が100mm/sec以下であれば成形材料が伸長し易く、成形材料が途中で切れにくくなる。型締め速度が10mm/sec以上にすると、成形材料の伸長が完了する以前に成形材料が冷やされにくくなり、成形性が向上する。好ましい型締め速度としては、30mm/sec〜100mm/secの範囲である。
【0064】
[コールドプレス]
本発明におけるコールドプレスとは、以下の工程(i)〜(iv)を有してプレス成形するものである。
工程(i):成形材料を構成する熱可塑性樹脂の可塑化温度(コールドプレス可能な温度)以上に、成形材料を加熱する工程。
工程(ii):可塑化温度以上に加熱せしめた成形材料を搬送し、開放された成形型へ配置する工程。
工程(iii):成形型を型締めすることにより成形材料を加圧し、可塑化温度以下に冷却する工程。
工程(iv):成形型を開放し、成形体を成形型から取り出す工程。
【0065】
工程(i)でいう熱可塑性樹脂の可塑化温度とは、DSC(Differntial Scanning Calorimetry)により求めことができる。昇温速度10℃/minで測定し、得られたDSC曲線における融解ピークのピークトップを可塑化温度とする。
【0066】
工程(ii)は、可塑化温度以上に加熱せしめた成形材料を搬送し、開放された成形型の下型へ配置をする工程である。加熱された成形材料は人手、ロボットなどで搬送し、開放された成形型へ配置される。搬送に際しては、作業上の安全面や、プレス成形が行われる成形型への成形材料の配置精度の観点から、適宜、人手やロボットが選択される。
【0067】
工程(iii)は、成形型を型締めすることにより、可塑化温度以上に加熱せしめた成形材料を、可塑化温度以下に冷却する工程である。加圧冷却する工程には、プレス成形が用いられ、その種類は得られる成形体に応じ選択が可能である。ここで、プレス成形とは、加工機械および型、工具等を用いて金属、プラスチック材料、セラミックス材料などに例示される各種材料に曲げ、剪断、圧縮等の変形を与えて成形体を得る方法であるが、その成形形態として絞り、深絞り、フランジ、コールゲート、エッジカーリング、型打ちなどが例示される。また、プレス成形の方法としては、型を用いて成形を行う金型プレス法、ラバープレス法(静水圧成形法)などが例示される。上記プレス成形の方法のなかでも、成形圧力、温度の自由度の観点から、金属製の型を用いて成形を行なってもよい。
成形体を形成する成形型の開口部のキャビティの投影面積にかかる加圧力が0.1〜50MPaの範囲内であることが可塑化した成形材料の賦形のしやすさや、成形体の厚み制御のしやすさの観点から好ましい。とりわけ、5MPa〜30MPaの範囲内がプレス成形機の設備コストの観点から好ましい。
可塑化温度以下とは、成形型の温度が成形材料を構成する熱可塑性樹脂の固化温度より20℃〜100℃低い温度の範囲内で行われることが可塑化した成形材料の賦形のしやすさや、成形体の表面外観の観点から好ましい。例えば、熱可塑性樹脂としてポリアミド6樹脂を用いる場合は、120℃〜160℃の範囲内、ポリプロピレン樹脂を用いる場合は80℃〜120℃の範囲内が好ましい態様として例示出来る。
【0068】
工程(iv)は、冷却後、成形型を開放し、成形型から成形体を取り出す工程である。
工程(iii)と工程(iv)の間に、工程(iv)を補助する目的で、エジェクタを動作させる工程が含まれていた場合、成形作業の簡素化、成形トラブルなどを防止できるという点で好ましい。また、エジェクタは、圧縮空気をブローする方式、機械的な構造部材により突き上げる方式のいずれも好ましく用いることができる。
【0069】
[予備賦形]
本発明における成形体の製造方法において、成形材料を成形型に配置した後、コールドプレスする前に予備賦形し、その後プレス成形することが好ましい。予備賦形とは、成形材料を成形体に近い形状に予め賦形しておくことであり、成形型への装填やその後のプレス成形を容易にするためのものである。例えば、
図20のような成形型を用いて成形する場合、予め成形型の凹凸に沿わして成形材料を配置することをいう。この予備賦形により成形性は向上し、流動の制御も容易になる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例に用いた原料は以下のとおりである。
・PAN系炭素繊維
・ポリアミド6(融点225℃、熱分解温度(空気中)300℃)
【0071】
[各種評価方法、成形条件]
(成形型の形状)
プレス成形に使用する成形型として、
図16(a)の1、
図17(a)の1、
図18(a)の1に示す成形型を用いた。各寸法、密閉可能なキャビティの容量等を表1〜5に示す。全ての成形型は、キャビティが完全に密閉空間を形成するように上型と下型を設計し、開放部分を含むことはないようにした。
なお、
図16のT
1長さ方向において、成形型は正シャーと呼ばれる、上型にシャーを設けた構造とした。また、シャーエッジの高さをある程度低くして設計し、成形材料の噛みこみを、評価し易くした。
一方、
図17のT
2長さ方向においては、成形型は逆シャーと呼ばれる下型にシャーを設けた構造としたため、成形材料の成形型への噛みは、ほぼ発生しない形状とした。
【0072】
(流動距離の評価方法)
加熱前の成形材料の末端に予め線を引いておき、成形後の成形体の端部と該線との距離を測定した。
なお、流動距離は、各実施例及び比較例について、「厳密に予備賦形した場合」と、「厳密な予備賦形を行わなかった場合(成型材料の配置を、少しルーズにして配置した場合)」との2種測定した。
ここで、「厳密に予備賦形した場合」においては、成形材料に切り込みを入れ、その切り込みを成形型の稜線にあわせて予備賦形した。
「厳密な予備賦形を行わなかった場合」においては、成形材料に切り込みを入れずに予備賦形した。この場合、「厳密に予備賦形した場合」に対して、1〜5mmの範囲でずれが生じた。
【0073】
(等方性の評価方法)
得られた成形体の端部(
図16の(b)の15、
図17の(b)の15、
図18の(b)の15)から、それぞれダンベル試験片を切り出した(ぞれぞれ、
図16(a)、
図17(a)、及び
図18(a)のWの方向がダンベル試験片の長さ方向となるように切り出した)。
また、成形体の中央部(
図16〜17の場合は中央部、
図18の場合は疑似中央部17)から、それぞれダンベル試験片を切り出した。
得られたダンベル試験片を、JIS K7164:2005に従って、引張強度をそれぞれ測定し、端部の引張強度(i1)を、中央部の引張強度(i2)で除算して評価した。
【0074】
(引張破断伸度εvの評価方法)
後述する各種の成形材料(成形材料(i)又は成形材料(ii))を、長さ200mm×幅25mmにカットし、厚さ3.0mmになるよう6枚積層して、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により300℃まで昇温した。
次に、
図19(a)に示す、深さ(
図19の16)200mm、開口部の出口端の長さ50mm、上下型のクリアランスが3.0mmの成形型を準備して140℃に設定し、この上に上記カットして昇温させた成形材料を6枚積層したまま開口部にかかるように配置し、株式会社放電精密加工研究所製(ZEN Former MPS4200)を用いて型締め付け速度20mm/secで成形型を閉じた。引張破断伸度εvを測定する際の温度は使用する熱可塑性樹脂によって異なるが、プレス成形する際の温度で引張破断伸度εvを測定するものとする。
成形材料を破断させるまで成形型を閉じた後、成形材料を取り出して成形材料の伸長した長さ(y)を測定し、上記式(f)により伸長前の成形材料長さ(x)で除算して引張破断伸度εvを算出した。なお、伸長前の成形材料長さ(x)は開口部長さ50mmとした。
【0075】
(表面外観の評価方法)
プレス成形方法により得られた成形体を目視により観察し、以下の基準で判定した。
A:成形体に未充填部分が無く、また成形体の表面に皺が無く優れた成形体の表面外観である。
B:実用上問題はないものの、表面に成形材料が流動した跡が見られる。
C:成形体に未充填や穴あきがあり劣る。
【0076】
(成形体端部の曲げ強度の評価方法)
成形体の端部(又は端部を含む部分)(
図16(b)の15、
図17(b)の15、
図18(b)の15)から長さ100mm、幅10mmの試験片を切出し、インストロン社製の曲げ試験機5966を用い、JIS K7074:1988に準拠して、p/tが40になるよう各支点間を調整し、3点曲げにて曲げ強度を測定した(pは支点間距離、tは板厚)。
A:400MPa以上
B:380MPa以上400MPa未満
C:360MPa以上380MPa未満
D:360MPa未満
【0077】
(バリの評価方法)
得られた成形体について目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:バリの発生が全く見られない。
B:多少のバリは発生したが、バリを切除する必要は無く、使用上問題ないものであった。
C:バリが発生したため、バリを切除しなければ、使用上耐えうるものではなかった。
【0078】
(噛みこみの評価方法)
噛みこみとは、成形型を型締めする際、上型と下型の間で成形材料が不適切な位置(例えば
図5の18)で、成形材料を挟み込んでしまう現象をいい、成形材料が所望の位置に配置出来ていない場合に生じる現象である。
A:全く噛みこみは発生しなかった。
B:噛みこみの最大長さが2mm以下であった。
C:噛みこみの最大長さが2mm超であった。
【0079】
[炭素繊維強化樹脂成形材料の製造]
(製造例1)
炭素繊維として、平均繊維長20mmにカットした東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(平均繊維径7μm)を使用し、樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、WO2012/105080パンフレットに記載された方法に基づき、炭素繊維目付け310g/m
2、ナイロン樹脂目付け370g/m
2である二次元ランダムに炭素繊維が配向したマットを作成した。
得られたマットを260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、厚さ0.5mmの成形材料(i)を得た。
得られた成形材料(i)について、それに含まれる炭素繊維の解析を行ったところ、前記式(a)で定義される臨界単糸数は86本、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)中の平均単糸数(N)は420本であり、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)の割合は全炭素繊維量の85Vol%であった。また、炭素繊維体積割合は35%(質量基準の炭素繊維含有率46%)であり、引張破断伸度εvは200%であった。
【0080】
(製造例2)
開繊度を調整し、前記式(a)で定義される臨界単糸数は86本、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)中の平均単糸数(N)は100本であり、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)の割合は全炭素繊維量の10Vol%であること以外は、製造例1と同様に成形材料を準備し、成形材料(ii)を得た。引張破断伸度εvは110%であった。
【0081】
[実施例1]
成形材料(i)を200mm×350mmの大きさに6枚切り出し、(
図16(a)に示すT
1長さ×
図16(a)に示すT
2長さ)、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により300℃まで昇温した。成形型を140℃に設定し、切出して昇温した成形材料6枚を積層させて厚み3.0mmとし、
図16(a)に示すように成形型内に導入した。この際、厳密な予備賦形を行わなかった。
ついで、プレス圧力2MPaで1分間加圧し、成形体を得た。
【0082】
[実施例2]
成形材料(i)を7枚切出して厚さ3.5mmとなるように積層したこと以外は実施例1と同様に成形して成形体を得た。
【0083】
[実施例3]
成形材料(i)を5枚切出して厚さ2.5mmとなるように積層したこと以外は実施例1と同様に成形して成形体を得た。
【0084】
[実施例4]
成形材料(i)を8枚切出して厚さ4.0mmとなるように積層したこと以外は実施例1と同様に成形して成形体を得た。
[比較例3〜6]
厳密に予備賦形したこと以外は、実施例1〜4と同様にして成形体を得た。
【0085】
[実施例5]
切り出した成形材料の大きさを200mm×300mmにしたこと以外は、実施例1と同様にして成形して成形体を得た。
【0086】
[実施例6]
切り出した成形材料の大きさを200mm×260mmにしたこと以外は、実施例3と同様にして成形して成形体を得た。
[実施例15〜16]
製品のバラツキを減らすとの観点より、厳密に予備賦形したこと以外は、実施例5〜6と同様にして成形体を得た。
【0087】
[実施例7]
成形材料(ii)を用いたこと以外は実施例3と同様に成形して成形体を得た。
[比較例7]
厳密に予備賦形したこと以外は、実施例7と同様にして成形体を得た。
【0088】
[実施例8]
切り出した成形材料の大きさを200mm×270mmにしたこと以外は、実施例7と同様にして成形して成形体を得た。また、成形材料があまり流動しないため、目的とする成形体の端部まで完全に賦形できなかった。
[実施例17]
厳密に予備賦形したこと以外は、実施例8と同様にして成形体を得た。
【0089】
[実施例9]
成形材料(i)を200mm×550mmの大きさに6枚切り出し(
図17(a)に示すT
1長さ×
図17(a)に示すT
2長さ)、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により300℃まで昇温した。成形型を140℃に設定し、切出して昇温した成形材料6枚を積層させて厚み3.0mmとし、
図17(a)に示すように成形型内に導入した。ついで、プレス圧力2MPaで1分間加圧し、成形体を得た。なお、
図17(a)において、l
3は40mmである。
[比較例8]
厳密に予備賦形したこと以外は、実施例9と同様にして成形体を得た。
【0090】
[実施例10]
成形材料(i)を用い、200mm×400mmに成形材料を切出し、成形材料の厚みを3.5mmとしたこと以外は実施例9と同様に成形して成形体を得た。
【0091】
[実施例11]
成形材料(ii)を用いた事以外は実施例10と同様に成形して成形体を得た。また、成形材料があまり流動しないため、目的とする成形体の端部まで完全には賦形できなかった。
【0092】
[実施例12]
成形材料(i)を180mm×180mmの大きさに6枚切り出し(
図18(a)に示すT
1長さ×
図18(a)に示すT
2長さ)、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により300℃まで昇温した。成形型を140℃に設定し、切出して昇温した成形材料6枚を積層させて厚み3.0mmとし、
図18(a)に示すように成形型内に導入した。ついで、プレス圧力2MPaで1分間加圧し、成形体を得た。
【0093】
[実施例13]
切り出した成形材料の大きさを195mm×340mmにしたこと以外は、実施例1と同様にして成形して成形体を得た。
【0094】
[実施例14]
切り出した成形材料の大きさを195mm×300mmにしたこと以外は、実施例1と同様にして成形して成形体を得た。
[実施例18〜22]
厳密に予備賦形したこと以外は、実施例11〜14と同様にして成形体を得た。
【0095】
[比較例1]
成形材料(i)を200mm×200mmの大きさに10枚切り出し(
図16(a)に示すT
1長さ×
図16(a)に示すT
2長さ)、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により300℃まで昇温した。成形型を140℃に設定し、切出して昇温させた成形材料を10枚重ねて厚み5mmとし、成形型内に導入した。ついで、プレス圧力2MPaで1分間加圧し、成形体を得た。成形型に配置する成形材料の投影面積が、成形型キャビティの投影面積以下(成形型キャビティの投影面積に対するチャージ率(%)が100%以下)であったため、成形時に端部を流動させて成形することとなり、曲げ強度は劣る結果となった。
【0096】
[比較例2]
図16(a)に示す形状の成形型を、密閉型キャビティではなく、開放型キャビティとなるように上型を調整したこと以外は実施例1と同様に成形して成形体を得た。成形型キャビティの外側に成形材料が流出しため、バリが多量に発生することとなった。このため、曲げ強度と等方性の評価を行わなかった。また、開放型キャビティを用いたため、噛みこみの評価は行わなかった。
【0097】
[天面の曲げ強度]
実施例、比較例の各成形体から天面部を切出し、天面の曲げ強度を、端部と同様に測定したところ、評価は全てAであった。すなわち、上記実施例、比較例の成形体端部の曲げ強度が良好な場合、成形体端部の機械物性は安定していることを意味する。
【0098】
実施例及び比較例の成形型、成形材料、各種条件、及び評価結果を下記表1〜5に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
※比較例2については、キャビティの外側に成形材料が流出したため曲げ強度と等方性の評価を行わなかった。
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】