(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1被溶接部材の開先面と第2被溶接部材の開先面との間に形成された開先を溶接ロボット先端の溶接トーチによって溶接する溶接装置において、前記第1被溶接部材と前記第2被溶接部材の対向方向をX軸とし、前記開先の深さ方向をZ軸とした座標系を設定し、前記溶接トーチ先端に所定長さで突き出された溶接ワイヤと、前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材との間にセンシング電圧を印加し、その通電状態から前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材の前記X軸方向および前記Z軸方向の位置座標を検出し、当該位置座標と、予め設定された前記第2被溶接部材の板厚とから求めた施工条件に従って、溶接時に前記溶接ロボットを制御する溶接制御装置であって、
前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標から、前記X軸に対する前記第2被溶接部材の勾配角度を算出する勾配角度算出手段と、
前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、前記第1被溶接部材の開先面と平行な前記Z軸に対する前記第2被溶接部材の開先角度を算出する開先角度算出手段と、
前記第1被溶接部材の開先面における位置座標から、当該第1被溶接部材の開先面に沿う線分である第1開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、当該第2被溶接部材の開先面に沿う線分である第2開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標を通る線分を前記第2被溶接部材の板厚だけ平行移動させることで、前記第2被溶接部材の下面の線分である第2下面線分を算出し、前記第1開先線分上における点と、前記第2開先線分と前記第2下面線分との交点とのX軸方向における距離を、前記開先のルートギャップ幅として算出するルートギャップ幅算出手段と、
前記第2被溶接部材の板厚に対して、前記勾配角度と前記開先角度との合計角度の余弦に対する、前記開先角度の余弦の割合を乗算することで、前記開先深さを算出する開先深さ算出手段と、
前記開先深さ算出手段によって算出された開先深さに応じて、当該開先深さごとに予め定められた施工条件を選択する施工条件選択手段と、
を備え、前記第1被溶接部材の開先面における位置座標および前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標は、前記溶接トーチが、前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材の間において、前記勾配角度の方向に動作して検出した位置座標であることを特徴とする溶接制御装置。
前記勾配角度、前記開先角度および前記ルートギャップ幅のいずれかが、予め定められた値の範囲内に含まれるか否かを判定し、当該範囲内に含まれない場合、前記溶接ロボットに対して溶接中止を指示するデータ判定手段を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶接制御装置。
第1被溶接部材の開先面と第2被溶接部材の開先面との間に形成された開先を溶接ロボット先端の溶接トーチによって溶接する溶接装置において、前記第1被溶接部材と前記第2被溶接部材の対向方向をX軸とし、前記開先の深さ方向をZ軸とした座標系を設定し、前記溶接トーチ先端に所定長さで突き出された溶接ワイヤと、前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材との間にセンシング電圧を印加し、その通電状態から前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材の前記X軸方向および前記Z字軸方向の位置座標を検出し、当該位置座標と、予め設定された前記第2被溶接部材の板厚とから求めた施工条件に従って、溶接時に前記溶接ロボットを制御する溶接制御方法であって、
勾配角度算出手段によって、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標から、前記X軸に対する前記第2被溶接部材の勾配角度を算出する勾配角度算出工程と、
開先角度算出手段によって、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、前記第1被溶接部材の開先面と平行な前記Z軸に対する前記第2被溶接部材の開先角度を算出する開先角度算出工程と、
ルートギャップ算出手段によって、前記第1被溶接部材の開先面における位置座標から、当該第1被溶接部材の開先面に沿う線分である第1開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、当該第2被溶接部材の開先面に沿う線分である第2開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標を通る線分を前記第2被溶接部材の板厚だけ平行移動させることで、前記第2被溶接部材の下面の線分である第2下面線分を算出し、前記第1開先線分上における点と、前記第2開先線分と前記第2下面線分との交点とのX軸方向における距離を、前記開先のルートギャップ幅として算出するルートギャップ幅算出工程と、
開先深さ算出手段によって、前記第2被溶接部材の板厚に対して、前記勾配角度と前記開先角度との合計角度の余弦に対する、前記開先角度の余弦の割合を乗算することで、前記開先深さを算出する開先深さ算出工程と、
施工条件選択手段によって、前記開先深さ算出手段によって算出された開先深さに応じて、当該開先深さごとに予め定められた施工条件を選択する施工条件選択工程と、
を含み、前記第1被溶接部材の開先面における位置座標および前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標は、前記溶接トーチが、前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材の間において、前記勾配角度の方向に動作して検出した位置座標であることを特徴とする溶接制御方法。
第1被溶接部材の開先面と第2被溶接部材の開先面との間に形成された開先を溶接ロボット先端の溶接トーチによって溶接する溶接装置において、前記第1被溶接部材と前記第2被溶接部材の対向方向をX軸とし、前記開先の深さ方向をZ軸とした座標系を設定し、前記溶接トーチ先端に所定長さで突き出された溶接ワイヤと、前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材との間にセンシング電圧を印加し、その通電状態から前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材の前記X軸方向および前記Z字軸方向の位置座標を検出し、当該位置座標と、予め設定された前記第2被溶接部材の板厚とから求めた施工条件に従って、溶接時に前記溶接ロボットを制御するために、コンピュータを、
前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標から、前記X軸に対する前記第2被溶接部材の勾配角度を算出する勾配角度算出手段、
前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、前記第1被溶接部材の開先面と平行な前記Z軸に対する前記第2被溶接部材の開先角度を算出する開先角度算出手段、
前記第1被溶接部材の開先面における位置座標から、当該第1被溶接部材の開先面に沿う線分である第1開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、当該第2被溶接部材の開先面に沿う線分である第2開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標を通る線分を前記第2被溶接部材の板厚だけ平行移動させることで、前記第2被溶接部材の下面の線分である第2下面線分を算出し、前記第1開先線分上における点と、前記第2開先線分と前記第2下面線分との交点とのX軸方向における距離を、前記開先のルートギャップ幅として算出するルートギャップ幅算出手段、
前記第2被溶接部材の板厚に対して、前記勾配角度と前記開先角度との合計角度の余弦に対する、前記開先角度の余弦の割合を乗算することで、前記開先深さを算出する開先深さ算出手段、
前記開先深さ算出手段によって算出された開先深さに応じて、当該開先深さごとに予め定められた施工条件を選択する施工条件選択手段、
として機能させるための溶接制御プログラムであって、前記第1被溶接部材の開先面における位置座標および前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標は、前記溶接トーチが、前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材の間において、前記勾配角度の方向に動作して検出した位置座標であることを特徴とする溶接制御プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ダイアフラムW1a−フランジW2間の突合せ継手およびコラムコアW1b−フランジW2間の段差T継手においては、
図11(b)、(c)に示すように、フランジW2の長さ方向が水平面に対して角度を有する場合、その勾配角度に応じて、フランジW2の実際の板厚tに対するフランジW2のエッジと開先底部の高さ距離である開先深さdが変化する。すなわち、
図11(b)に示すような上り勾配の場合は、勾配なしの場合(
図11(a)参照)と比較して、実際の板厚tに対して開先深さdが増大することになる。また、
図11(c)に示すような下り勾配の場合は、勾配なしの場合(
図11(a)参照)と比較して、実際の板厚tに対して開先深さdが減少することになる。
【0008】
このような場合に従来の特許文献1〜3で提案されていたような技術を用いると、当該特許文献1〜3では、事前に入力された板厚t=開先深さdとして設定し、当該開先深さdに対応する施工条件を読み込み、センシングの結果に従って修正した施工条件を用いて溶接を行っていたため(
図10参照)、入力された板厚tと実際の開先深さdに対する溶着量に誤差が生じ、実際の開先形状に対して溶接が不適切なものとなる。
【0009】
さらに特許文献1〜3で提案された技術では、
図11に示すように、余盛高さSがフランジW2上面の延長線とコラムコアW1bとの交点位置(
図11における×印)と、板厚tとによって規定されており、例えば「t/4≦S≦10 (6<t≦40)※単位は[mm])から求められていた。従って、特許文献1〜3で提案された技術では、
図11(b)、(c)に示すように、フランジW2の勾配角度によって余盛層の形状が変化し、溶接が安定しないという問題があった。また、ダイアフラムW1a−フランジW2間の突合せ継手においては、フランジW2が勾配を有していると、その勾配角度に応じてフランジW2の開先エッジの高さが変化することになるため、正確な表面段差量を算出することができなくなり、溶接時に用いる適切な施工条件を導出できないという問題があった。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、仕口フランジの突合せ継手および段差T継手の溶接において、フランジが勾配を有している場合であっても、開先形状に最適な溶接を行うように溶接装置を制御することができる溶接制御装置、溶接制御方法および溶接制御プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために本発明に係る溶接制御装置は、第1被溶接部材の開先面と第2被溶接部材の開先面との間に形成された開先を溶接ロボット先端の溶接トーチによって溶接する溶接装置において、前記第1被溶接部材と前記第2被溶接部材の対向方向をX軸とし、前記開先の深さ方向をZ軸とした座標系を設定し、前記溶接トーチ先端に所定長さで突き出された溶接ワイヤと、前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材との間にセンシング電圧を印加し、その通電状態から前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材の前記X軸方向および前記Z軸方向の位置座標を検出し、当該位置座標と、予め設定された前記第2被溶接部材の板厚とから求めた施工条件に従って、溶接時に前記溶接ロボットを制御する溶接制御装置であって、勾配角度算出手段と、開先角度算出手段と、ルートギャップ幅算出手段と、開先深さ算出手段と、施工条件選択手段と、を備える構成とした。
【0012】
このような構成を備える溶接制御装置は、勾配角度算出手段によって、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標から、前記X軸に対する前記第2被溶接部材の勾配角度を算出する。また、溶接制御装置は、開先角度算出手段によって、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、前記第1被溶接部材の開先面と平行な前記Z軸に対する前記第2被溶接部材の開先角度を算出する。また、溶接制御装置は、ルートギャップ幅算出手段によって、前記第1被溶接部材の開先面における位置座標から、当該第1被溶接部材の開先面に沿う線分である第1開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、当該第2被溶接部材の開先面に沿う線分である第2開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標を通る線分を前記第2被溶接部材の板厚だけ平行移動させることで、前記第2被溶接部材の下面の線分である第2下面線分を算出し、前記第1開先線分上における点と、前記第2開先線分と前記第2下面線分との交点とのX軸方向における距離を、前記開先のルートギャップ幅として算出する。また、溶接制御装置は、開先深さ算出手段によって、前記第2被溶接部材の板厚に対して、前記勾配角度と前記開先角度との合計角度の余弦に対する、前記開先角度の余弦の割合を乗算することで、前記開先深さを算出する。また、溶接制御装置は、施工条件選択手段によって、前記開先深さ算出手段において算出された開先深さに応じて、当該開先深さごとに予め溶接実験により作成した施工条件を選択する。
【0013】
このように溶接制御装置によれば、第2被溶接部材が勾配を有している場合において、勾配角度算出手段によって勾配角度を算出し、当該勾配角度を加味して、開先角度算出手段によって正確な開先角度を算出し、ルートギャップ幅算出手段によって正確なルートギャップ幅を算出し、開先深さ算出手段によって正確な開先深さを算出する。そして、溶接制御装置は、施工条件選択手段によって、前記した正確な開先深さに基づいて最適な施工条件を求めることができる。
【0014】
また、本発明に係る溶接制御装置は、第1被溶接部材の開先面における位置座標および第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標は、溶接トーチが、第1被溶接部材および第2被溶接部材の間において、勾配角度の方向に動作して検出した位置座標であることが好ましい。
また、本発明に係る溶接制御装置は、余盛高さ算出手段と、パス数決定手段と、施工条件修正手段と、を備えることが好ましい。
【0015】
このような構成を備える溶接制御装置は、余盛高さ算出手段によって、前記ルートギャップ幅に対して、前記開先深さと前記開先角度の正接とを乗算した値を加算し、当該加算値に前記勾配角度の正接を乗算し、当該乗算値に前記第2被溶接部材の脚長Sを加算することで、前記開先における溶接ビードの余盛高さを算出する。また、溶接制御装置は、パス数決定手段によって、前記余盛高さ算出手段において算出された余盛高さに応じて、当該余盛高さごとに予め定められた前記開先の形状に対応する溶接のパス数を決定する。また、溶接制御装置は、施工条件修正手段によって、前記施工条件選択手段において選択された施工条件に含まれるパス数を、前記パス数決定手段によって決定されたパス数に置き換えることで、当該施工条件を修正する。
【0016】
このように溶接制御装置によれば、余盛高さ算出手段によって開先における溶接ビードの余盛高さを算出し、施工条件修正手段によって、前記した余盛高さに応じてパス数決定手段で決定されたパス数を用いて施工条件を修正することで、第2被溶接部材が勾配を有する場合であっても、当該勾配に応じて溶接ビードの余盛高さが最適になるように溶接のパス数を調整することができる。
【0017】
また、本発明に係る溶接制御装置は、前記勾配角度、前記開先角度および前記ルートギャップ幅のいずれかが、予め定められた値の範囲内に含まれるか否かを判定し、当該範囲内に含まれない場合、前記溶接ロボットに対して溶接中止を指示するデータ判定手段を備えることが好ましい。
【0018】
このような構成を備える溶接制御装置は、算出された勾配角度、開先角度およびルートギャップ幅のいずれかが溶接に不適当な値である場合にデータ判定手段が溶接中止を判定して、溶接ロボットが溶接を行わないように制御することができる。
【0019】
前記した課題を解決するために本発明に係る溶接制御方法は、第1被溶接部材の開先面と第2被溶接部材の開先面との間に形成された開先を溶接ロボット先端の溶接トーチによって溶接する溶接装置において、前記第1被溶接部材と前記第2被溶接部材の対向方向をX軸とし、前記開先の深さ方向をZ軸とした座標系を設定し、前記溶接トーチ先端に所定長さで突き出された溶接ワイヤと、前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材との間にセンシング電圧を印加し、その通電状態から前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材の前記X軸方向および前記Z軸方向の位置座標を検出し、当該位置座標と、予め設定された前記第2被溶接部材の板厚とから求めた施工条件に従って、溶接時に前記溶接ロボットを制御する溶接制御方法であって、勾配角度算出工程と、開先角度算出工程と、ルートギャップ幅算出工程と、開先深さ算出工程と、施工条件選択工程と、を行うこととした。
【0020】
このような手順を行う溶接制御方法は、勾配角度算出工程において、勾配角度算出手段によって、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標から、前記X軸に対する前記第2被溶接部材の勾配角度を算出する。また、溶接制御方法は、開先角度算出工程において、開先角度算出手段によって、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、前記第1被溶接部材の開先面と平行な前記Z軸に対する前記第2被溶接部材の開先角度を算出する。また、溶接制御方法は、ルートギャップ幅算出工程において、ルートギャップ幅算出手段によって、前記第1被溶接部材の開先面における位置座標から、当該第1被溶接部材の開先面に沿う線分である第1開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、当該第2被溶接部材の開先面に沿う線分である第2開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標を通る線分を前記第2被溶接部材の板厚だけ平行移動させることで、前記第2被溶接部材の下面の線分である第2下面線分を算出し、前記第1開先線分上における点と、前記第2開先線分と前記第2下面線分との交点とのX軸方向における距離を、前記開先のルートギャップ幅として算出する。また、溶接制御方法は、開先深さ算出工程において、開先深さ算出手段によって、前記第2被溶接部材の板厚に対して、前記勾配角度と前記開先角度との合計角度の余弦に対する、前記開先角度の余弦の割合を乗算することで、前記開先深さを算出する。また、溶接制御方法は、施工条件選択工程において、施工条件選択手段によって、前記開先深さ算出手段において算出された開先深さに応じて、当該開先深さごとに予め溶接実験により作成した施工条件を選択する。
【0021】
このように、溶接制御方法によれば、第2被溶接部材が勾配を有している場合において、勾配角度算出工程において勾配角度を算出し、当該勾配角度を加味して、開先角度算出工程において正確な開先角度を算出し、ルートギャップ幅算出工程において正確なルートギャップ幅を算出し、開先深さ算出工程において正確な開先深さを算出する。そして、溶接制御方法は、施工条件選択工程において、前記した正確な開先深さに基づいて最適な施工条件を求めることができる。
また、本発明に係る溶接制御方法は、第1被溶接部材の開先面における位置座標および第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標は、溶接トーチが、第1被溶接部材および第2被溶接部材の間において、勾配角度の方向に動作して検出した位置座標であることが好ましい。
また、本発明に係る溶接制御方法は、余盛高さ算出工程と、パス数決定工程と、施工条件修正工程と、をさらに含むことが好ましい。
【0022】
前記した課題を解決するために本発明に係る溶接制御プログラムは、第1被溶接部材の開先面と第2被溶接部材の開先面との間に形成された開先を溶接ロボット先端の溶接トーチによって溶接する溶接装置において、前記第1被溶接部材と前記第2被溶接部材の対向方向をX軸とし、前記開先の深さ方向をZ軸とした座標系を設定し、前記溶接トーチ先端に所定長さで突き出された溶接ワイヤと、前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材との間にセンシング電圧を印加し、その通電状態から前記第1被溶接部材および前記第2被溶接部材の前記X軸方向および前記Z軸方向の位置座標を検出し、当該位置座標と、予め設定された前記第2被溶接部材の板厚とから求めた施工条件に従って、溶接時に前記溶接ロボットを制御するために、コンピュータを、勾配角度算出手段、開先角度算出手段、ルートギャップ幅算出手段、開先深さ算出手段、施工条件選択手段、として機能させる構成とした。
【0023】
このような構成を備える溶接制御プログラムは、勾配角度算出手段によって、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標から、前記X軸に対する前記第2被溶接部材の勾配角度を算出する。また、溶接制御プログラムは、開先角度算出手段によって、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、前記第1被溶接部材の開先面と平行な前記Z軸に対する前記第2被溶接部材の開先角度を算出する。また、溶接制御プログラムは、ルートギャップ幅算出手段によって、前記第1被溶接部材の開先面における位置座標から、当該第1被溶接部材の開先面に沿う線分である第1開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標から、当該第2被溶接部材の開先面に沿う線分である第2開先線分を算出し、前記第2被溶接部材の上面における複数の位置座標を通る線分を前記第2被溶接部材の板厚だけ平行移動させることで、前記第2被溶接部材の下面の線分である第2下面線分を算出し、前記第1開先線分上における点と、前記第2開先線分と前記第2下面線分との交点とのX軸方向における距離を、前記開先のルートギャップ幅として算出する。また、溶接制御プログラムは、開先深さ算出手段によって、前記第2被溶接部材の板厚に対して、前記勾配角度と前記開先角度との合計角度の余弦に対する、前記開先角度の余弦の割合を乗算することで、前記開先深さを算出する。また、溶接制御プログラムは、施工条件選択手段によって、前記開先深さ算出手段において算出された開先深さに応じて、当該開先深さごとに予め溶接実験により作成した施工条件を選択する。
【0024】
このように、溶接制御プログラムによれば、第2被溶接部材が勾配を有している場合において、勾配角度算出手段によって勾配角度を算出し、当該勾配角度を加味して、開先角度算出手段によって正確な開先角度を算出し、ルートギャップ幅算出手段によって正確なルートギャップ幅を算出し、開先深さ算出手段によって正確な開先深さを算出する。そして、溶接制御プログラムは、施工条件選択手段によって、前記した正確な開先深さに基づいて最適な施工条件を求めることができる。
また、本発明に係る溶接制御プログラムは、第1被溶接部材の開先面における位置座標および第2被溶接部材の開先面における複数の位置座標は、溶接トーチが、第1被溶接部材および第2被溶接部材の間において、勾配角度の方向に動作して検出した位置座標であることが好ましい。
また、本発明に係る溶接制御プログラムは、コンピュータを、余盛高さ算出手段、パス数決定手段、施工条件修正手段、としてさらに機能させることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る溶接制御装置、溶接制御方法および溶接制御プログラムによれば、仕口フランジの突合せ継手および段差T継手の溶接において、第2被溶接部材が勾配を有している場合であっても、その勾配角度に応じた実際の開先深さを算出することができるため、実際の開先形状に最適な溶接を行うように溶接装置を制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る溶接制御装置、溶接制御方法および溶接制御プログラムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
[溶接制御装置]
溶接制御装置1は、実際の溶接を行う前に、
図8にて示す第1被溶接部材W1および第2被溶接部材(フランジ)W2をタッチセンシングした結果から最適な施工条件を求め、溶接時に、当該施工条件に従って溶接ロボット2の動作を制御するものである。すなわち、溶接制御装置1は、第1被溶接部材W1および第2被溶接部材W2をタッチセンシングした結果から当該第1被溶接部材W1および第2被溶接部材W2の位置座標を求め、当該位置座標と、予め設定された第2被溶接部材W2の板厚とから施工条件を求める。ここで、前記したように、第1被溶接部材W1は、具体的にはダイアフラムW1aおよびコラムコアW1bのことを意味しているが(
図8(a)、(b)参照)、以下の説明ではそれぞれを第1被溶接部材W1a,W1bと表記して説明する。また、第1被溶接部材W1a,W1bと第2被溶接部材W2は、従来と同様のものを用いる。以下、溶接制御装置1の説明を行う前に、当該溶接制御装置1を含む溶接装置WSについて簡単に説明する。
【0029】
溶接装置WSは、建築鉄骨柱等の仕口フランジの突合せ継手および段差T継手を、例えばガスシールドアーク溶接によって溶接するものである。溶接装置WSは、
図1に示すように、溶接制御装置1と、当該溶接制御装置1によって動作が制御される溶接ロボット2と、を備えている。また、溶接ロボット2は、
図1に示すように、アーム先端に溶接トーチ2aを備えている。このような構成を備える溶接装置WSは、第1被溶接部材W1の開先面と第2被溶接部材W2の開先面との間に形成された開先を溶接ロボット2先端の溶接トーチ2aによって溶接する。なお、説明の便宜上、
図1では溶接トーチ2aに対して溶接ワイヤを供給するワイヤ送給装置や、電源を供給する溶接電源等の本発明に関連の薄い構成は図示を省略している。
【0030】
溶接トーチ2aは、溶接時に開先に対して溶接ワイヤを供給するものであるが、ここでは溶接前に第1被溶接部材W1および第2被溶接部材W2のタッチセンシングを行う機構としても機能する。すなわち、溶接装置WSは、実際の溶接を行う前に、溶接トーチ2aを用いて第1被溶接部材W1および第2被溶接部材W2の所定の位置についてタッチセンシングを行い、位置座標等を検出する。
【0031】
溶接トーチ2aを用いたタッチセンシングでは、まず溶接トーチ2a先端に溶接ワイヤ(図示省略)が所定長さで突き出され、当該溶接ワイヤと、第1被溶接部材W1および第2被溶接部材W2との間に、図示しない溶接電源からセンシング電圧が印加される。次に、溶接トーチ2aを動かし、例えば
図2(a)、(b)に示すように、P
1,P
2,P
3,P
4,P
5の順番で、かつ、同図の矢印の軌跡に沿って、第1被溶接部材W1aおよび第2被溶接部材W2の5箇所をタッチセンシングする。
【0032】
溶接トーチ2aは、具体的には
図2(a)に示すように、第2被溶接部材W2におけるP
1,P
2の順番でタッチセンシングを行うと、A位置に移動する。次に、溶接トーチ2aは、
図2(a)に示すように、当該A位置から、後記する勾配角度算出手段20によって第2被溶接部材W2におけるP
1,P
2の位置座標から算出された勾配角度の方向に進行し、第1被溶接部材W1aにおけるP
3をタッチセンシングした後、逆方向に進行して第2被溶接部材W2におけるP
4をタッチセンシングする。そして、溶接トーチ2aは、A位置に戻った後にB位置まで下降し、再度勾配角度の方向に進行して第2被溶接部材W2におけるP
5をタッチセンシングする。
【0033】
このように、P
3,P
4,P
5のタッチセンシングの際に勾配角度の方向に進行して接触を行うのは、開先のルートギャップ幅の大きさによらず、開先のエッジEから等しい下方距離の点に接触するためである。また、第2被溶接部材W2におけるP
5をタッチセンシングする際のA−B間の高さ方向の移動距離は、入力された板厚tの大きさに依存して定められる。但し、板厚tの値が大きい場合は、溶接トーチ2aの開先下部への侵入が困難となるため、予めA−Bの距離の最大値を設定しておき、溶接トーチ2aの開先内壁部への接触干渉を防止することとする。以上のように、本発明に係る溶接制御装置1では、従来の手法(
図9(a)参照)と比較してセンシング点を追加し(3箇所→5箇所)、後記するように、第2被溶接部材W2の勾配角度と開先角度を算出できるように構成されている。
【0034】
溶接トーチ2aは、前記したようにタッチセンシングを行うと、
図1に示すように、当該溶接トーチ2a先端の溶接ワイヤと、第1被溶接部材W1aのP
3の位置、および、第2被溶接部材W2のP
1,P
2,P
4,P
5の位置との接触による通電状態を示す通電検出信号を、溶接制御装置1のセンシング手段10に対して順次出力する。これにより、後記するように、センシング手段10によって、第1被溶接部材W1のP
3の位置座標と、第2被溶接部材W2のP
1,P
2,P
4,P
5の位置座標とが検出されることになる。なお、センシング手段10は、後記するように、P
1〜P
5における2軸(X軸およびZ軸)の位置座標を検出する。
【0035】
なお、溶接トーチ2aは、後記する表面段差量算出手段110において、第1被溶接部材W1aと第2被溶接部材W2との表面段差量を算出する場合は、前記した
図9(b)と同様に、第1被溶接部材W1aの上面のいずれかの位置と、第2被溶接部材W2の上面における開先エッジE(
図2(a)、(b)参照)とを一箇所ずつタッチセンシングし、その通電検出信号を溶接制御装置1のセンシング手段10に対して出力する。
【0036】
また、
図2(a)、(b)は、突合せ継手の場合を想定して第1被溶接部材(ダイアフラム)W1aを図示しているが、段差T継手の場合、すなわち第1被溶接部材(ダイアフラム)W1aの代わりに第1被溶接部材(コラムコア)W1bを用いた場合も、溶接トーチ2aによって同様の手順でタッチセンシングを行う。以下、溶接制御装置1の具体的構成について詳細に説明する。
【0037】
溶接制御装置1は、ここでは
図1に示すように、センシング手段10と、勾配角度算出手段20と、開先角度算出手段30と、ルートギャップ幅算出手段40と、開先中心位置算出手段50と、データ判定手段60と、開先深さ算出手段70と、施工条件選択手段80と、施工条件記憶手段90と、余盛高さ算出手段100と、表面段差量算出手段110と、パス数決定手段120と、パス数記憶手段130と、施工条件修正手段140と、を備えている。
【0038】
センシング手段10は、第1被溶接部材W1および第2被溶接部材W2の位置座標を検出するものである。ここで、溶接制御装置1では、
図2に示すように、第1被溶接部材W1a,W1bと第2被溶接部材W2の対向方向、すなわち開先の幅方向をX軸とし、当該開先の深さ方向をZ軸とした座標系を設定する。従って、センシング手段10は、具体的には第1被溶接部材W1および第2被溶接部材W2のX軸方向およびZ軸方向における位置座標を検出する。
【0039】
センシング手段10には、ここでは
図1および
図2(a)、(b)に示すように、溶接トーチ2aから、当該溶接トーチ2aと第2被溶接部材W2の上面におけるP
1,P
2,P
4,P
5の位置とが接触した際の通電検出信号、および、当該溶接トーチ2aと第1被溶接部材W1aの開先面におけるP
3の位置とが接触した際の通電検出信号が入力される。センシング手段10は、これらの通電検出信号に基づいて、P
1〜P
5のX軸方向およびZ軸方向における位置座標をそれぞれ検出する。そして、センシング手段10は、
図1に示すように、勾配角度算出手段20に対して第2被溶接部材W2のP
1,P
2の位置座標を出力し、開先角度算出手段30に対して第2被溶接部材W2のP
4,P
5の位置座標を出力し、ルートギャップ幅算出手段40に対して第1被溶接部材W1aのP
3の位置座標と第2被溶接部材W2のP
1,P
2,P
4,P
5の位置座標とを出力する。
【0040】
なお、センシング手段10は、後記する表面段差量算出手段110において、第1被溶接部材W1aと第2被溶接部材W2との表面段差量を算出する場合は、溶接トーチ2aから入力された第1被溶接部材W1aの上面における一箇所と、第2被溶接部材W2の上面における開先エッジE(
図2(a)、(b)参照)とにおける通電検出信号に基づいて、当該二箇所のX軸方向およびZ軸方向における位置座標をそれぞれ検出し、
図1に示すように、これらを表面段差量算出手段110に出力する。
【0041】
勾配角度算出手段20は、第2被溶接部材W2の勾配角度を算出するものである。ここで、勾配角度とは、
図2(a)、(b)に示すように、X軸(水平軸)に対する第2被溶接部材W2の傾きの角度φを示している。勾配角度算出手段20は、具体的には
図2(a)、(b)に示すように、センシング手段10から入力された第2被溶接部材W2の上面における複数の位置座標、すなわちP
1の位置座標とP
2の位置座標との距離比等を求めることで、X軸に対する第2被溶接部材W2の勾配角度φを算出する。そして、勾配角度算出手段20は、
図1に示すように、算出した勾配角度φをルートギャップ幅算出手段40と、データ判定手段60と、開先深さ算出手段70と、余盛高さ算出手段100と、にそれぞれ出力する。
【0042】
開先角度算出手段30は、第2被溶接部材W2の開先角度を算出するものである。ここで、開先角度とは、
図2(a)、(b)に示すように、第1被溶接部材W1aの開先面と平行なZ軸に対する、第2被溶接部材W2の開先面の角度θを示している。開先角度算出手段30は、具体的には
図2(a)、(b)に示すように、センシング手段10から入力された第2被溶接部材W2の開先面における複数の位置座標、すなわちP
4の位置座標とP
5の位置座標との距離比等を求めることで、Z軸に対する第2被溶接部材W2の開先角度θを算出する。そして、開先角度算出手段30は、
図1に示すように、算出した開先角度θをデータ判定手段60と、開先深さ算出手段70と、余盛高さ算出手段100と、にそれぞれ出力する。
【0043】
ルートギャップ幅算出手段40は、開先のルートギャップ幅を算出するものである。ここで、ルートギャップ幅とは、
図2(a)、(b)に示すように、第1被溶接部材W1aの開先面と第2被溶接部材W2の開先面とのX軸方向における距離rを示している。ルートギャップ幅算出手段40は、具体的には
図2(a)、(b)に示すように、まず第1被溶接部材W1aの開先面のP
3の位置座標から、当該第1被溶接部材W1aの開先面に沿う線分である第1開先線分を算出する。この第1開先線分は、第1被溶接部材W1aの開先面と一致する線分であり、Z軸と平行な線分である。
【0044】
次に、ルートギャップ幅算出手段40は、
図2(a)、(b)に示すように、第2被溶接部材W2の開先面のP
4,P
5の位置座標から、当該第2被溶接部材W2の開先面に沿う線分である第2開先線分を算出する。この第2開先線分は、第2被溶接部材W2の開先面と一致する線分である。次に、ルートギャップ幅算出手段40は、
図2(a)、(b)に示すように、第2被溶接部材W2の上面のP
1,P
2の位置座標を通る線分を、第2被溶接部材W2の板厚tだけ平行移動させることで、第2被溶接部材W2の下面の線分である第2下面線分を算出する。なお、第2被溶接部材W2の板厚tは、予め入力等により定められた数値であり、
図1に示すように、溶接制御装置1の外部からルートギャップ幅算出手段40に対して入力されるものである。また、ルートギャップ幅算出手段40は、前記したP
1,P
2の位置座標を通る線分を第2被溶接部材W2の板厚tだけ平行移動させる際に、
図2(a)、(b)に示すように、勾配角度φを加味して斜めに平行移動させる。
【0045】
次に、ルートギャップ幅算出手段40は、
図2(a)、(b)に示すように、第1開先線分上の点、例えば第1開先線分と第2下面線分との交点I
1の位置座標と、第2開先線分と第2下面線分との交点I
2の位置座標とを算出し、当該交点I
1および交点I
2間におけるX軸方向における距離を開先のルートギャップ幅rとして算出する。そして、ルートギャップ幅算出手段40は、
図1に示すように、算出したルートギャップ幅rを開先中心位置算出手段50と、データ判定手段60と、余盛高さ算出手段100と、に出力する。また、ルートギャップ幅算出手段40は、開先中心位置算出手段50に対して、ルートギャップ幅rに加えて交点I
1および交点I
2の位置座標も出力する。
【0046】
開先中心位置算出手段50は、開先中心の位置座標を算出するものである。開先中心位置算出手段50は、具体的には
図2(a)、(b)に示すように、ルートギャップ幅算出手段40から入力されたルートギャップ幅rと、交点I
1および交点I
2の位置座標とに基づいて、ルートギャップ幅の中点の位置座標、すなわち開先中心位置r
Cを算出する。そして、開先中心位置算出手段50は、
図1に示すように、算出した開先中心位置r
Cを溶接ロボット2に出力する。
【0047】
データ判定手段60は、継手に関するデータが溶接に適当なものであるか否かを判定するものである。データ判定手段60は、具体的には
図1に示すように、勾配角度算出手段20から入力された第2被溶接部材W2の勾配角度φと、開先角度算出手段30から入力された第2被溶接部材W2の開先角度θと、ルートギャップ幅算出手段40から入力された開先のルートギャップ幅rとのいずれかが、予め定められた溶接に適した値の範囲内に含まれるか否かを判定する。そして、データ判定手段60は、前記した勾配角度φ、開先角度θおよびルートギャップ幅rのいずれかが当該範囲内含まれない場合、
図1に示すように、溶接ロボット2に対して、溶接中止を指示する溶接中止信号を出力する。
【0048】
溶接制御装置1は、このようなデータ判定手段60を備えることで、算出された勾配角度φ、開先角度θおよびルートギャップ幅rのいずれかが溶接に不適当な値である場合に、当該データ判定手段60が溶接中止を判定して、溶接ロボット2が溶接を行わないように制御することができる。
【0049】
開先深さ算出手段70は、継手の開先深さを算出するものである。開先深さ算出手段70は、具体的には以下の式(1)および
図11(a)、(b)、(c)に示すように、予め設定された第2被溶接部材W2の板厚tに対して、勾配角度算出手段20から入力された勾配角度φと、開先角度算出手段30から入力された開先角度θとの合計角度φ+θの余弦に対する、開先角度θの余弦の割合を乗じることで、開先深さdを算出する。すなわち、従来提案されていた技術では、第2被溶接部材W2の勾配角度φを加味することなく、単に「開先深さd=第2被溶接部材W2の板厚t」として開先深さdを算出していたが、開先深さ算出手段70は、勾配角度φと開先角度θとを加味して開先深さdを算出することとしている。そして、開先深さ算出手段70は、
図1に示すように、算出した開先深さdを施工条件選択手段80に出力する。
【0051】
ここで、従来の仕口フランジを溶接する溶接装置の溶接制御装置では、継手種類(突合せ継手、段差T継手)、表面段差量(突合せ継手の場合)および板厚tごとに異なる施工条件が定められており、溶接時には、溶接前のタッチセンシングの結果および入力された寸法データや板厚tに対して、その継手が属する寸法の範囲から最適な施工条件を選択して溶接に用いていた。しかしながら、
図2(a)、(b)に示すような第2被溶接部材W2が勾配を有する継手においては、同図に示すように、勾配角度φによって水平面基準における継手の開先深さdが変化する。そのため、従来通りに入力された板厚tに対して施工条件を選択して用いた場合、第2被溶接部材W2が勾配を有する継手では必要となる溶着断面形状と、選択された施工条件によって形成される溶着断面形状が異なるため、適切な溶着とならないという問題があった。
【0052】
一方、前記した式(1)に示すように、第2被溶接部材W2の勾配角度φと開先角度θとを用いて開先深さdを導出し、施工条件の選択の際にその開先深さdを用いることで、実際の継手形状に対して最適な施工条件を選択することができる。なお、前記した式(1)では、仮に第2被溶接部材W2の勾配角度φ=0°である場合は、「開先深さd=第2被溶接部材W2の板厚t」となる。従って、開先深さ算出手段70は、前記した式(1)を用いることで、第2被溶接部材W2の勾配角度φの有無に関らず、継手の開先深さdを正確に算出することができる。
【0053】
施工条件選択手段80は、算出された開先深さdに応じて、当該開先深さdごとに予め定められた施工条件を選択するものである。ここで、施工条件とは、例えば溶接のパス数や、各溶接のパスにおける溶接電流、アーク電圧、溶接速度等のパラメータ値を示している。この施工条件は、予め所定の開先深さdごとに定められるとともに、当該開先深さdごとに対応付けられてテーブル化され、施工条件記憶手段90に記憶されている。
【0054】
施工条件選択手段80は、開先深さ算出手段70から開先深さdが入力されると、施工条件記憶手段90に記憶されたテーブル(以下、施工条件テーブルという)の中から、当該開先深さdと一致する開先深さを検索する。そして、施工条件選択手段80は、施工条件テーブルの中に、開先深さ算出手段70から入力された開先深さdと一致する開先深さがある場合、これに対応した施工条件を施工条件記憶手段90から読み出し、
図1に示すように、当該施工条件を施工条件修正手段140に出力する。
【0055】
なお、施工条件選択手段80は、施工条件記憶手段90に記憶された施工条件テーブルの中に、開先深さ算出手段70から入力された開先深さdと一致する開先深さがない場合は、当該開先深さdと最も近い開先深さを検索し、これに対応した施工条件を施工条件記憶手段90から読み出す。そして、施工条件選択手段80は、開先深さ算出手段70から入力された開先深さdと、施工条件テーブルで検索した開先深さとの差に基づいて、例えば直線補間等によって、施工条件記憶手段90から読み出した施工条件を加工し、
図1に示すように、当該加工後の施工条件を施工条件修正手段140に出力する。
【0056】
施工条件記憶手段90は、溶接時における施工条件を記憶するものである。施工条件記憶手段90は、予め所定の開先深さdごとの施工条件(溶接のパス数、各溶接のパスにおける溶接電流、アーク電圧、溶接速度等のパラメータ値)をテーブル形式で記憶しており、施工条件選択手段80に対して当該施工条件を出力できるように構成されている。施工条件記憶手段90は、具体的にはデータを記憶することができるメモリ、ハードディスク等で具現される。なお、施工条件記憶手段90は、ここでは
図1に示すように溶接制御装置1の内部に設けられているが、溶接制御装置1の外部に設けても構わない。
【0057】
余盛高さ算出手段100は、段差T継手において、開先における溶接ビードの余盛高さを算出するものである。余盛高さ算出手段100は、具体的には以下の式(2)および
図11(a)、(b)、(c)に示すように、ルートギャップ幅rに対して、開先深さdと開先角度θの正接とを乗算した値を加算し、当該加算値に勾配角度φの正接を乗算し、当該乗算値に脚長Sを加算することで、開先における溶接ビードの余盛高さhを算出する。このときSは、t/4≦S≦10mm(t≦40mm)で規定される値である。そして、余盛高さ算出手段100は、
図1に示すように、算出した余盛高さhをパス数決定手段120に出力する。なお、余盛高さhは、第2被溶接部材W2の上側の開先エッジE(
図2(a)、(b)参照)を0基準としている。また、
図11(a)、(b)、(c)における脚長Sは、第2被溶接部材W2の上面の延長線と第1被溶接部材W1bとの交点位置を0基準とした余盛高さを示している。
【0059】
表面段差量算出手段110は、突合せ継手において、第1被溶接部材W1aの上面と、第2被溶接部材W2の上面とにおける表面段差量を算出するものである。表面段差量算出手段110は、センシング手段10から入力された、第1被溶接部材W1aの上面のP
1の位置座標と、第2被溶接部材W2の上面のP
2の位置座標と、の差をとることで表面段差量を算出する。そして、表面段差量算出手段110は、
図1に示すように、当該表面段差量をパス数決定手段120に出力する。なお、第1被溶接部材W1aの上面と、第2被溶接部材W2の上面とにおける表面段差量が予め判明している場合は、
図1に示すように、パス数決定手段120に対して表面段差量を直接入力しても構わない。
【0060】
パス数決定手段120は、算出された溶接ビードの余盛高さhまたは表面段差量に応じて、当該余盛高さhまたは表面段差量ごとに予め定められた溶接の積層パターンパス数(以下、単に「パス数」という)を決定するものである。ここで、パス数とは、
図3に示すように、第1被溶接部材W1aの開先面と、第2被溶接部材W2の開先面との間における開先内を溶接する回数のことを示している。このパス数は、例えば以下の表1に示すように、予め所定の余盛高さhの範囲(あるいは余盛高さhごと)ごとに定められるとともに、
図3に示すように、例えば余盛高さhがaの場合は9パス、bの場合は12パス、cの場合は7パスというように、当該余盛高さhの範囲ごとに対応付けられてテーブル化され、パス数記憶手段130に記憶されている。
【0062】
なお、前記した表1は、余盛高さhの範囲とパス数とを対応付けたテーブルを示しているが、後記するように、パス数記憶手段130は、当該余盛高さhの範囲を表面段差量の範囲にそのまま置き換えたテーブルも予め記憶している。すなわち、パス数記憶手段130は、余盛高さhの範囲とパス数とを対応付けたテーブルと、表面段差量の範囲とパス数とを対応付けたテーブルと、をそれぞれ記憶している。
【0063】
パス数決定手段120は、段差T継手の場合、余盛高さ算出手段100から余盛高さhが入力されると、パス数記憶手段130に記憶された表1に示すようなテーブル(以下、「パス数テーブル」という)の中から、当該余盛高さhに一致する余盛高さの範囲を検索する。そして、パス数決定手段120は、パス数テーブルの中に、余盛高さ算出手段100から入力された余盛高さhと一致する余盛高さの範囲がある場合、これに対応したパス数をパス数記憶手段130から読み出し、
図1に示すように、当該パス数を施工条件修正手段140に出力する。
【0064】
また、パス数決定手段120は、突合せ継手の場合、表面段差量算出手段110または外部から表面段差量が入力されると、パス数記憶手段130に記憶されたパス数テーブルの中から、当該表面段差量に一致する表面段差量の範囲を検索する。そして、パス数決定手段120は、パス数テーブルの中に、表面段差量算出手段110または外部から入力された表面段差量と一致する表面段差量の範囲がある場合、これに対応したパス数をパス数記憶手段130から読み出し、
図1に示すように、当該パス数を施工条件修正手段140に出力する。
【0065】
従来、突合せ継手の場合は、予め表面段差量の範囲ごとに複数の施工条件を用意し、入力した板厚t(=開先深さd)と、入力または測定により取得した表面段差量とを用いて最適な施工条件を生成していたが、このようなパス数決定手段120によるパス数決定機能を用いることで、前記したように表面段差量の範囲ごとに複数用意していた施工条件を一つにまとめることができ、データ容量の縮小と、施工条件の編集および管理性の向上を図ることができる。
【0066】
ここで、前記したように、開先深さ算出手段70によって、勾配角度φと開先角度θに応じて開先深さdを算出し、当該開先深さdの値を引数として施工条件記憶手段90から施工条件を選択するとした場合、第2被溶接部材W2の板厚tが異なる場合であっても、勾配角度φによっては同じ施工条件が選択されることがある。例えば、
図4(a)に示すような第2被溶接部材W2の板厚t
A、勾配角度φ
A、開先深さd
Aの第1パターンと、
図4(b)に示すような第2被溶接部材W2の板厚t
B、勾配角度φ
B、開先深さd
Bの第2パターンと、
図4(c)に示すような第2被溶接部材W2の板厚t、勾配角度0、開先深さdの第3パターンとが存在する場合を考える。この場合、仮に板厚t≠t
A≠t
Bであり、勾配角度φ
B≠φ
Bであり、開先深さd=d
A=d
B(もしくはd≒d
A≒d
B)であるとすると、開先深さが全て同じか類似するものとなるため、施工条件選択手段80によって選択される施工条件も必然的に同じものとなる。しかしながら、前記した3つのパターン全てにおいて同じ施工条件を用いて溶接を行うと、
図4(a)、(b)に示すように、余盛層における溶着形状が不適切となる。
【0067】
一方、前記したように、パス数決定手段120によって、余盛高さhまたは表面段差量に応じて、継手の余盛層における適切なパス数を決定することで、継手に対して適切な余盛層を形成することができる。
【0068】
パス数記憶手段130は、溶接のパス数を記憶するものである。パス数記憶手段130は、予め所定の余盛高さhの範囲ごとのパス数(表1参照)、および、所定の表面段差量の範囲ごとのパス数をそれぞれテーブル形式で記憶しており、
図1に示すように、パス数記憶手段130に対して当該パス数を出力できるように構成されている。パス数記憶手段130は、具体的にはデータを記憶することができるメモリ、ハードディスク等で具現される。なお、パス数記憶手段130は、ここでは
図1に示すように溶接制御装置1の内部に設けられているが、溶接制御装置1の外部に設けても構わない。
【0069】
施工条件修正手段140は、施工条件を修正するものである。施工条件修正手段140は、具体的には、施工条件選択手段80によって選択された施工条件に含まれるパス数を、パス数決定手段120によって決定されたパス数に置き換えることで、当該施工条件を修正する。すなわち、施工条件修正手段140は、施工条件選択手段80から入力された施工条件の中に含まれるパス数を、第2被溶接部材W2の勾配角度φや開先角度θを加味して算出されたパス数に置き換えることで、第2被溶接部材W2の勾配を加味した適切な施工条件となるように修正する。そして、施工条件修正手段140は、
図1に示すように、修正した施工条件を溶接ロボット2に出力する。
【0070】
以上のような構成を備える溶接制御装置1は、第2被溶接部材W2が勾配を有している場合において、勾配角度算出手段20によって勾配角度φを算出し、当該勾配角度φを加味して、開先角度算出手段30によって正確な開先角度θを算出し、ルートギャップ幅算出手段40によって正確なルートギャップ幅rを算出し、開先深さ算出手段70によって正確な開先深さdを算出する。そして、溶接制御装置1は、施工条件選択手段80によって、前記した正確な開先深さdに基づいて最適な施工条件を求めることができる。また、溶接制御装置1は、余盛高さ算出手段100によって開先における溶接ビードの余盛高さhを算出し、施工条件修正手段140によって、前記した余盛高さhに応じてパス数決定手段120で決定されたパス数を用いて施工条件を修正することで、第2被溶接部材W2が勾配を有する場合であっても、当該勾配に応じて溶接ビードの余盛高さhが最適になるように溶接のパス数を調整することができる。
【0071】
従って、溶接制御装置1によれば、仕口フランジの突合せ継手および段差T継手の溶接において、第2被溶接部材(フランジ)W2が勾配を有している場合であっても、その勾配角度φに応じた実際の開先深さdを算出することができるため、実際の開先形状に最適な溶接を行うように溶接装置WSを制御することができる。
【0072】
[溶接制御方法]
以下、実施形態に係る溶接制御装置1の動作、すなわち溶接制御方法について、
図5を参照(適宜
図1も参照)しながら詳細に説明する。溶接制御方法は、ここではパラメータ入力工程と、センシング工程と、勾配角度算出工程と、開先角度算出工程と、ルートギャップ幅算出工程と、データ判定工程と、開先深さ算出工程と、施工条件選択工程と、余盛高さ算出工程と、パス数決定工程と、施工条件修正工程と、を行う。但し、勾配角度算出工程と開先角度算出工程の順序は入れ替えてもよく、施工条件選択工程は、開先深さ算出工程とパス数決定工程の間であればどのタイミングで行っても構わない。また、以下の説明では、段差T継手の例を示し、余盛高さhからパス数を決定することとする。
【0073】
まず、溶接制御装置1は、パラメータ入力工程において、板厚t等のパラメータを入力する(ステップS1)。次に、溶接制御装置1は、センシング工程において、溶接トーチ2aによって第1被溶接部材W1および第2被溶接部材W2をそれぞれタッチセンシングし、センシング手段10によってそれぞれの位置座標を検出する(ステップS2)。次に、溶接制御装置1は、勾配角度算出工程において、勾配角度算出手段20によって第2被溶接部材W2の勾配角度φを算出する(ステップS3)。次に、溶接制御装置1は、開先角度算出工程において、開先角度算出手段30によって開先角度θを算出する(ステップS4)。次に、溶接制御装置1は、ルートギャップ幅算出工程において、ルートギャップ幅算出手段40によって開先のルートギャップ幅rを算出する(ステップS5)。
【0074】
次に、溶接制御装置1は、データ判定工程において、データ判定手段60によって勾配角度φ、開先角度θおよびルートギャップ幅rのいずれかが予め定められた規定の範囲内であるか否かを判定する(ステップS6)。そして、溶接制御装置1は、データ判定工程において、勾配角度φ、開先角度θおよびルートギャップ幅rのいずれかが予め定められた規定の範囲内である場合(ステップS6においてYes)、ステップS7に進み、予め定められた規定の範囲内でない場合(ステップS6においてNo)、処理を終了する。
【0075】
次に、溶接制御装置1は、開先深さ算出工程において、開先深さ算出手段70によって前記した式(1)を用いて開先深さd(ここでは開先深さd
Cとする)を算出する(ステップS7)。次に、溶接制御装置1は、施工条件選択工程において、施工条件選択手段80によって、施工条件記憶手段90から開先深さd
Cに対応した施工条件を選択する(ステップS8)。次に、溶接制御装置1は、余盛高さ算出工程において、余盛高さ算出手段100によって前記した式(2)を用いて余盛高さh(ここでは余盛高さh
Cとする)を算出する(ステップS9)。次に、溶接制御装置1は、パス数決定工程において、パス数決定手段120によって、パス数記憶手段130から余盛高さh
Cに対応したパス数を選択する(ステップS10)。そして、溶接制御装置1は、施工条件修正工程において、施工条件修正手段140によって施工条件のパス数を修正し(ステップS11)、実際の溶接を開始する(ステップS12)。
【0076】
このような手順を行う溶接制御方法は、仕口フランジの突合せ継手および段差T継手の溶接において、第2被溶接部材W2が勾配を有している場合であっても実際の開先深さdを適切に算出することができるとともに、第2被溶接部材W2の勾配に応じて溶接ビードの余盛高さhが最適になるように施工条件におけるパス数を調整し、当該調整後の施工条件に従って溶接を行うことができる。
【0077】
[溶接制御プログラム]
ここで、前記した溶接制御装置1は、一般的なコンピュータを、前記した各手段および各部として機能させるためのプログラムにより動作させることで実現することができる。このプログラムは、通信回線を介して配布することも可能であるし、CD−ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、溶接制御用鉄骨システムPC(以下、単に「PC」という)と、溶接ロボットとを備える溶接装置によって、鉄骨仕口ワーク(以下、単に「ワーク」という)を溶接する例について説明する。
【0079】
溶接制御用鉄骨システムPCには、継手に対する溶接教示プログラムを生成するための溶接アプリケーションと、溶接で用いる施工条件データベースがインストールされている。すなわち、この溶接制御用鉄骨システムPCは、前記した溶接制御装置1および溶接制御プログラムを具現化したものである。また、溶接ロボットは、前記した
図1に示す溶接ロボット2と同様の構成を備えている。また、本実施例における溶接装置には、前記した構成の他に、鉄骨仕口ワーク把持用ポジショナと、溶接ロボット移動用スライダとが備えられている。そして、本実施例における溶接装置は、ダイアフラム−フランジ間の突合せ継手、および、コラムコア−フランジ間の段差T継手を溶接対象としている(
図8(a)、(b)参照)。
【0080】
溶接を行うオペレータは、PC上の溶接アプリケーションを操作して、ワークの寸法や、溶接する継手の選択を行った後、実行操作を行う。以下、実行操作の手順について、具体的に説明する。オペレータは、まずPCと溶接ロボットを起動した後、溶接アプリケーションを起動する。次に、オペレータは、アプリ入力画面において以下に示すような値を入力する。なお、寸法入力が必要な箇所は、予め実ワーク寸法を測定しておくこととする。
【0081】
(1)溶接するワークの選択
(2)ダイアフラム径
(3)ダイアフラム板厚
(4)溶接する継手種類(突合せ継手または段差T継手)の選択
(5)溶接する継手の勾配の有無
(6)突合せ継手の場合における表面段差センシングの有無
(7)フランジ板厚t(第2被溶接部材W2の板厚t)
(8)段差T継手の場合における表面段差量
【0082】
オペレータによって上記(1)〜(8)に示す値が入力され、実行操作がスタートすると、溶接教示プログラムよるセンシング処理が開始する。当該センシング処理では、センシング手段10によって、ダイアフラム高さ(ダイアフラム上面の高さ位置)と、フランジ高さ(フランジ上面の高さ位置)とを取得する。但し、フランジ(第2被溶接部材W2)は勾配角度φを有しているため、実際のフランジ高さは、後記するフランジの勾配角度φを加味して導出する。次に、センシング手段10によって、前記したフランジ高さを基準として、ダイアフラムおよびコアに取り付けられたフランジの高さ位置を検出する。次に、センシング手段10によって、ダイアフラムに対するフランジの取り付け位置と、フランジのダイアフラムに対する左右位置と、フランジ幅と、原点位置に対する継手位置とを取得する。
【0083】
次に、勾配角度算出手段20によってフランジの勾配角度φを算出し、開先角度算出手段30によって開先角度θを算出し、ルートギャップ幅算出手段40によってルートギャップ幅rを算出する。なお、勾配角度φ、開先角度θおよびルートギャップ幅rは、1つの継手で最大3点算出する。また、突合せ継手の場合は、前記した勾配角度φ、開先角度θおよびルートギャップ幅rに加えて、表面段差量算出手段110によって、ダイアフラム高さと、フランジの開先エッジの高さとの差から表面段差量を算出する。
【0084】
次に、データ判定手段60によって、前記した勾配角度φ、開先角度θおよびルートギャップ幅r、表面段差量(突合せ継手の場合)の値が、溶接可能であると予め定められた規定の範囲内であるか否かを判定し、当該規定の範囲外であった場合は、その継手の溶接を中止する。一方、前記した勾配角度φ、開先角度θおよびルートギャップ幅r、表面段差量(突合せ継手の場合)の値が規定の範囲内である場合、これらの値に基づいて施工条件を生成し、生成した施工条件を用いて継手の多層盛り溶接を行う。
【0085】
以下、本実施例における施工条件の生成方法について説明する。ここで、前記した溶接教示プログラムによるセンシングによって、溶接継手の形状は以下の6パターンに大まかに分類される。
【0086】
(1)突合せ継手で勾配なし(
図9(a)参照)
(2)突合せ継手で上り勾配(
図2(a)参照)
(3)突合せ継手で下り勾配(
図2(b)参照)
(4)段差T継手で勾配なし(
図4(c)参照)
(5)段差T継手で上り勾配(
図4(a)参照)
(6)段差T継手で下り勾配(
図4(b)参照)
【0087】
前記したパターンのうちの(1)の場合は、施工条件選択手段80によって、施工条件データベース(施工条件記憶手段90)に予め用意された複数の施工条件データの中からフランジ板厚tの値に最も近いベース板厚を引当て、その値における施工条件データを読み込む。一方、前記したパターンのうちの(2)、(3)の場合は、施工条件選択手段80によって、フランジ板厚t、ルートギャップ幅r、勾配角度φおよび開先角度θから開先深さ算出手段70により算出される開先深さdを用いて、施工条件データベース(施工条件記憶手段90)に予め用意された複数の施工条件データの中から、開先深さdの値に最も近い基準開先深さを引当て、その値における施工条件データを読み込む。なお、施工条件データは、前記した
図5に示したような2次元のデータベースであり、板厚tまたは開先深さdごとに、各溶接のパスにおける溶接電流、アーク電圧、溶接速度等のパラメータ値が格納されている。このパラメータ値による溶接を順番に行うことで、最適な溶着断面を実現する自動溶接を行うことができる。
【0088】
但し、この施工条件データのパス数は、想定される表面段差量が最も大きな値となるものをベースとしたものであるため、例えば突合せ継手において表面段差量が低い値である場合、継手の上方の溶接パスが冗長となる(
図3参照)。従って、パス数決定手段120によって、表面段差量から最適なパス数を決定する。そして、施工条件修正手段140によって施工条件データのパス数を修正し、溶接に最適な施工条件を得る。
【0089】
また、前記したパターンのうち、(4)〜(6)の場合は、突合せ継手の表面段差量の代わりに、余盛高さ算出手段100によって溶接ビードの余盛高さhを算出し、パス数決定手段120によって余盛高さhから最適なパス数を決定し、施工条件修正手段140によって施工条件を修正し、溶接に最適な施工条件を得る。そして、このように最適な施工条件を得た後、これを用いてロボットの教示プログラムを生成し、再生することで自動溶接を行う。
【0090】
以上、本発明に係る溶接制御装置、溶接制御方法および溶接制御プログラムについて、発明を実施するための形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0091】
例えば、前記した溶接制御装置1では、溶接トーチ2aによって第1被溶接部材W1および第2被溶接部材W2をタッチセンシングした結果から第2被溶接部材W2の勾配角度φ、開先角度θ、ルートギャップ幅r、開先中心位置r
c等を求めていたが、当該溶接トーチ2aによるタッチセンシングを行わずに、例えばレーザー測定器を用いてこれらの値を求め、溶接制御装置1に手動入力することもできる。
【0092】
また、前記した溶接制御装置1では、
図5に示すように、まず開先深さdに応じて施工条件を選択し、余盛高さhに応じて決定されたパス数によって当該施工条件を修正することで最終的な施工条件を取得していたが、これらの処理をより簡略化することも可能である。例えば段差T継手の場合を例にとると、
図6に示すように、開先深さdおよび余盛高さhの両者に施工条件を対応付けた施工条件テーブルを予め施工条件記憶手段90Aに記憶させ、同図のステップS29に示すように、開先深さdおよび余盛深さhの両者に応じた施工条件を選択することで、前記したパス数決定処理を行うことなく、所望の余盛高さhに見合ったパス数を持つ施工条件を取得することができる。
【0093】
この場合、
図1に示すパス数決定手段120およびパス数記憶手段130が不要となり、余盛高さ算出手段100によって算出された余盛高さhは施工条件選択手段80に出力される。そして、施工条件選択手段80は、開先深さdと余盛高さhの両者に応じた施工条件を施工条件記憶手段90Aから選択し、これを溶接ロボット2に出力する。なお、
図6のフローチャートにおけるステップS21〜S31の個々の処理は既に
図5で説明済みであるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0094】
なお、前記した段差T継手ではなく突合せ継手の場合は、施工条件記憶手段90Aに開先深さdおよび表面段差量の両者に施工条件を対応付けた施工条件テーブルを予め記憶させ、
図1に示す表面段差量算出手段110によって算出された表面段差量は施工条件選択手段80に出力させることとする。これにより、施工条件選択手段80は、開先深さdと表面段差量の両者に応じた施工条件を施工条件記憶手段90Aから選択し、これを溶接ロボット2に出力する。なお、この方法では、溶接制御装置1のようにパス数決定処理を行う方法と比較して、開先深さdの施工条件1つに対して、予め用意する施工条件データの数を増やす必要がある。
【0095】
また、前記した溶接制御装置1では、
図8(a)に示すような仕口フランジの突合せ継手および段差T継手を対象としていたが、例えば
図7(a)、(b)に示すような第1被溶接部材(ダイアフラム)W3と第2被溶接部材(テーパーコア)W4とからなるテーパーコラムを対象としても構わない。この場合、第2被溶接部材W4のテーパー形状は、
図7(c)に示すような1面絞り、
図7(d)に示すような2面絞り、
図7(e)に示すような3面絞り、
図7(f)に示すような4面絞り、のいずれであってもよく、前記した溶接制御装置1と同様の手法で第2被溶接部材W4の勾配角度φや開先深さdを算出し、実際の正確な開先深さdに基づいて最適な施工条件を求めることができる。