(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定形状に成形されたアルミニウム合金製アウタパネルと、このアウタパネルに対向した内壁と、この内壁の外周側にて前記アウタパネル側へ屈曲された縦壁と、この縦壁周囲に亘って前記アウタパネルに対向して延在するフランジとを有する断面ハット状に成形された鋼製インナパネルとを備え、前記アウタパネルがヘム加工部を有し、このヘム加工部は前記インナパネルのフランジ周縁部が接着樹脂層を介して挟み込まれた状態で前記アウタパネルの周縁部が折り返されてなるものである、パネル構造体であって、このパネル構造体の各コーナー部のうち、平面視で、このコーナー部先端から前記インナパネルの縦壁までの最短距離が、パネル構造体の各辺の中央部における前記インナパネルの縦壁からこのパネル構造体の周縁部までの最短距離のうちの最も大きいものの2倍以上であるコーナー部における前記ヘム加工部のみが溶接部を有しており、かつ、この溶接部を有するヘム加工部が、平面視で、前記コーナー部先端から最短距離となる前記インナパネルの縦壁の点を通る接線のパネル構造体の周縁部との交点にまで至ることを特徴とする異材パネル構造体。
所定形状に成形したアルミニウム合金製アウタパネルと、このアウタパネルに対向した内壁と、この内壁の外周側にて前記アウタパネル側へ屈曲された縦壁と、この縦壁周囲に亘って前記アウタパネルに対向して延在するフランジとを有する断面ハット状に成形した鋼製インナパネルとを組み合わせて、前記アウタパネルの周縁部を折り返し、接着樹脂層を介して、前記インナパネルのフランジ周縁部を挟み込むヘム加工によって、パネル構造体として一体化するに際して、このパネル構造体の各コーナー部のうち、平面視で、このコーナー部先端から前記インナパネルの縦壁までの最短距離が、パネル構造体の各辺の中央部における前記インナパネルの縦壁からこのパネル構造体の周縁部までの最短距離のうちの最も大きいものの2倍以上であるコーナー部における前記ヘム加工部のみが溶接接合されており、かつ、この溶接接合されるヘム加工部が、平面視で、前記コーナー部先端から最短距離となる前記インナパネルの縦壁の点を通る接線のパネル構造体の周縁部との交点にまで至るものとすることを特徴とする異材パネル構造体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行性や操作性あるいは燃費を向上させるために、自動車車体の軽量化が有効である。このため、種々の自動車車体部品へのアルミニウム合金の適用が進んでいる。このうち、フード(ボンネット)、ドア、トランクなどの自動車パネル構造体は、アウタパネル(外板)およびインナパネル(内板)からなる中空構造体である。これらの中空構造体は、板から平板状など所定形状にプレス成形されたアウタパネルと、このアウタパネルに対向した内壁と、この内壁の外周側にてアウタパネル側へ屈曲された縦壁と、この縦壁周囲に亘ってアウタパネルに対向して延在するフランジとを含めて断面ハット状に、板からプレス成形されたインナパネルから基本的になる。
【0003】
これらアウタ、インナ両方のパネルを、鋼板製からアルミニウム合金板製に代える場合もある。しかし、意匠性、軽量性あるいは衝突エネルギの吸収性などが要求されるアウタパネルを、アルミニウム合金製とし、形状が複雑で成形深さが深いインナパネルを成形性に優れた鋼製とし、各パネルの要求特性に応じた特性の素材同士を組み合わせた、異材パネル構造体(ハイブリッド構造体)とする場合もある。
【0004】
そして、このような、アルミニウム合金製アウタパネルと鋼製インナパネルとの異材パネル構造体とする場合には、前記アウタパネル周縁部を折り返し、電食防止のための絶縁と接着用とを兼ねた、エポキシ樹脂系、ポリエステル樹脂系、フェノール樹脂系などの熱硬化性樹脂層(接着剤層)を介して、前記インナパネルのフランジ周縁部を挟み込むヘム加工(ヘミング加工、はぜ折加工とも言う)によって、一体化する。
【0005】
ただ、このような異材パネル構造体では、自動車車体に組み立てられて塗装され、次いで170〜200℃の高温での塗装焼付時に加熱された際に、アルミニウム製アウタパネルと鋼製インナパネルの線膨張率差に伴い、アルミニウム製アウタパネル側に、反りの変形が生じる、熱変形の問題が発生しやすくなる。
【0006】
この熱変形の機構を
図11に模式的に示す。この
図11の左上側に示す異材パネル構造体において、上側に位置するアルミニウム製アウタパネル(図では単にアルミ板と表示)は、下側に位置する鋼製インナパネル(図では単に鋼板と表示)よりも線膨張率が大きい。このため、常温状態では、
図11の左下側に示すヘム加工部(ヘム部、ヘミング加工部とも称される)として、インナパネルのフランジ周縁部を所定位置にて挟み込んでいたアウタパネル周縁部が、前記塗装焼付時に(図では単に熱処理と表示)、
図11の中央部下側に示す通り、外側(図の左側)に大きく線膨張する。この結果、
図11の右下側に示す通り、アウタパネル周縁部が、ヘム加工部として、インナパネルを挟み込んでいた位置からパネル外側方に向かってずれてはみ出す、ずれ変形(ヘムずれ)を生じる。
【0007】
その一方で、前記ヘム加工部におけるアウタパネルとインナパネルの間に塗布された接着樹脂が前記塗装焼付時に熱硬化が開始するため、前記
図11の右下側に示したヘム加工部において、アウタパネルとインナパネルの拘束度が高くなる。このため、上記焼付塗装終了後に常温に戻っても、アウタパネルの前記ヘム加工部は元の形状なり位置(インナパネルを挟み込んでいた状態)に復帰ができず、前記ヘムずれが生じたままの状態となる。そして、これがアウタパネルの線長の変化となって、
図11の右上側に矢印で示すように、異材パネル構造体(アウタパネル)に、上側に向かう反りが生じる原因となる。この結果、異材パネル構造体(全体あるいはコーナー部)の変形が生じ、高い形状精度の自動車パネルが得られないという問題点があった。
【0008】
このようなヘムずれを防止するために、へム加工による組立てを行なった後に、このへム加工により形成された折り返しフランジ部をアウタパネルの端縁部側から摩擦攪拌接合(FSW)することで、アウタパネルの端縁部とインナパネル端縁部を接合しようとする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、
図12に自動車ドアを正面図で示す通り、ドアパネルの周縁部を、二点鎖線で囲った、左右側や下側の3辺や、下側の左右2箇所のコーナー部などに亘って、摩擦攪拌接合している。
【0009】
ただ、上記特許文献1に開示されたようなFSWを実施するためには、ワークを確実に拘束する必要がある。しかし、へム加工により形成した折り返しフランジ部は、FSWを実施する拘束面積としては小さく、十分な接合が行なえず、最悪の場合は、折り返しフランジ部が破断する虞も考えられる。
【0010】
また、上述したようなハイブリッド構造のドアの必要とされる強度要件からすると、鋼製インナパネルの板厚の方がアルミニウム合金製アウタパネルの板厚に比べて通常薄くなる。例えば、アウタパネルの板厚が1〜1.2mm程度に対して、インナパネルの板厚が0.65〜0.70mm程度となる。このように、曲げ加工性の悪い板厚が1mm程度のアルミニウム合金製アウタパネルを量産時に上記特許文献1に開示されたようなへム加工を行うと、折り返しフランジ部の最外周部に過大なひずみに伴うクラックが生じてしまい(すなわち、へム加工性が確保できず)、製品不良となるという問題点もあった。
【0011】
このような課題を解決するために、異種材料の組合せからなるアウタパネルとインナパネルを接合して構成される自動車パネルのヘム接合方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法は、鋼製インナパネルとアルミニウム合金製アウタパネルとの間に充填された熱硬化性接着剤を、前記自動車車体の塗装焼付け時の前の、例えば前記ヘム加工工程において、予めヒータなどを用いて加熱して硬化させ、パネル同士を拘束(接合)しておき、塗装焼付け時の前記アルミニウム合金製アウタパネルのヘムずれを抑制するものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0022】
異材パネル構造体:
図1、
図2は、本発明の異材パネル構造体の一例として、自動車車体部材であるフード、トランクなどの四周囲にヘム加工部を有する自動車パネルを各々示す斜視図である。この
図1、2に示すように、異材パネル構造体は、本体としてアルミニウム合金製アウタパネル1と、鋼製インナパネル2とを備え、これらが周縁部でヘム加工により接合されて一体化されている。この
図1、2において、アルミニウム合金製アウタパネル1は、各図の向こう側(車体外側)に位置し、ヘム加工された周縁6しか見えていない。また、鋼製インナパネル2は、各図の手前側(車体内側)に位置し、ヘム加工により折り込まれた周縁部を除く本体が見えている。
【0023】
図1、2において、アルミニウム合金製アウタパネル1は、後述する
図3、4の断面図の通り、車体外側に向かって全体に円弧状に湾曲している平板状のアウタパネルとしての所定形状に、詳細は後述するアルミニウム合金板がプレス成形されてなる。
【0024】
これに対して、鋼製インナパネル2は、断面ハット状(断面形状がハット型あるいはHAT型などとも言う)のインナパネルとしての所定形状に、詳細は後述する素材鋼板がプレス成形されてなる。すなわち、
図1、2の手前側となる車体内側に面し、アウタパネル1に対向した内壁3と、この内壁3の外周側にてアウタパネル1側(各図の裏面側)へ屈曲された縦壁4と、この縦壁4周囲に亘って、アウタパネル1に対向して延在するフランジ5とを有する所定形状にプレス成形されている。
【0025】
これら
図1、
図2に示す異材パネル構造体は、全体が、四周囲に各コーナー部8、9、10、11を有する矩形のパネル構造体である点は共通する。しかし、これら各コーナー部のインナパネルの縦壁4長さや、四周囲の4辺周縁部のキャラクターラインが互いに異なる。本発明異材パネル構造体は、例示したフード(ボンネット)、トランクなどの四周囲にヘム加工部を有する自動車パネルだけではなく、前記
図12のようなガラスが装着される上辺側はヘムされない(三周囲にヘム加工部を有する)ドアパネル等、種々の自動車車体部材としてのパネル構造体に適用することができる。したがって、当然ながら、これらのパネル用途に応じて、その立体形状や平面形状、ヘム加工の施工範囲は異なる。
【0026】
ヘム加工:
図3、4に示すパネル周縁部のヘム加工によって、アルミニウム合金製アウタパネル1と鋼製インナパネル2とを接合し、
図1、2の異材パネル構造体として一体化する。すなわち、
図3、4に示す通り、アウタパネル1の周縁部6を折り返し、接着樹脂層20を介して、インナパネル2のフランジ5の周縁部7を挟み込むヘム加工によって一体化する。これにより、アウタパネル1周縁部6、インナパネル2のフランジ5の周縁部7が、接着樹脂層20を介して組み合わされた、積層構造のヘム加工部21が形成され、異材パネル構造体として一体化される。
【0027】
ヘム加工(ヘミング加工、特にフラットヘム加工)では、アウタパネル1周縁部6を折り返し、前記インナパネル2のフランジ周縁部7を挟み込む前に、これに相対向するアウタパネル1の周縁部6の内側部位に熱硬化性樹脂接着剤20を塗布する。熱硬化性樹脂接着剤20は、アルミと鉄との異材同士が直接接触して生じる電食を防止するために、また、異材同士(異材パネル構造体)の接合強度を高めるために、アウタパネル1の周縁部6全体に亘って(囲むように)塗布される。使用する熱硬化性樹脂接着剤20としては、自動車車体パネルの前記塗装焼付け硬化時に硬化して、パネル構造体としての要求接着強度を発揮できる、エポキシ樹脂系接着剤、ポリエステル樹脂接着剤、フェノール樹脂接着剤等が挙げられる。
【0028】
コーナー部の溶接接合:
異材パネル構造体のようなハイブリッド構造では、前記
図11で説明した通り、塗装焼付硬化時のアルミ/鋼の線膨張差に起因する、アルミニウム合金製アウタパネルのヘムずれと、それに伴い、拘束されたこのアウタパネルに熱変形が生じることが問題となる。したがって、このアウタパネルの熱変形を抑制するためには、このアウタパネルのヘムずれの防止が有効であることが、前記特許文献1、2などで分かっている。
【0029】
ここで、前記特許文献1のようなFSWでなくとも、へム加工部21の溶接施工による拘束によって、アルミニウム合金製アウタパネルヘムずれ防止ができれば、前記特許文献2のように、熱硬化性接着剤を用いて、ヘム加工時に加熱して拘束する手間によってヘムずれを防止するよりも、効率的で実用的である。
【0030】
但し、へム加工部21の溶接施工による拘束(接合)であっても、溶接によって拘束するへム加工部位によって、その拘束効果、すなわちアウタパネルのヘムずれ防止効果が大きく異なることを、本発明では知見した。例えば、前記特許文献1のように、前記
図12に示した通り、パネル構造体の周縁部を、二点鎖線で囲った、左右側や下側の3辺や、下側の左右2箇所のコーナー部などに亘って、断続的あるいは連続的に溶接接合しても、アルミニウム合金製アウタパネルのヘムずれや反りの発生を抑制できるとは限らない。言い換えると、溶接施工による拘束(接合)でも、その拘束する部位によって拘束効果が大きく異なり、この溶接部位が不適切であると、アルミニウム合金製アウタパネルのヘムずれや反りの発生を抑制できない。例えば、
図12においても、ヘムずれが生じやすい、パネル構造体下側の左右2箇所のコーナー部のヘム加工部を溶接接合(摩擦攪拌接合)してはいる。しかし、特に、インナパネルの縦壁からの長さが長く、アウタパネルのヘムずれの発生を抑制すべき、右側のコーナー部のヘム加工部の溶接範囲は、後述する本発明の溶接範囲からすると、明らかに小さすぎ、拘束範囲が不足している。このため、少なくともこの右側のコーナー部における、アウタパネルのヘムずれや反りの発生を抑制できない。
【0031】
この点で、本発明では、
図1、2における、パネル構造体の各コーナー部8、9、10、11から、溶接すべきコーナー部を選択することを特徴とする。そして、これら各コーナー部の角部A(A1、A2、A3、A4)からの、インナパネル2の縦壁4までの各距離(長さ)l(l1、l2、l3、l4)が一定以上に長い条件に合致するコーナー部のみを、選択して後述する特定のヘム加工部の範囲や領域に亘って溶接接合する。
【0032】
ここで、パネル構造体の各コーナー部8、9、10、11とは、
図1、2の異材パネル構造体においては、パネル構造体のアウタパネル1の周縁部6とインナパネルの縦壁4とが屈曲する(インナパネル2のフランジ5も屈曲する)コーナー部、角部、隅角部のことである。但し、異材パネル構造体のデザインや設計によっては、インナパネルの縦壁4がいつも屈曲しているとは勿論限らない。
【0033】
溶接すべきコーナー部の選択:
図3に示すようなコーナー部(ヘム加工部)が、本発明で言う、インナパネルの縦壁4からの前記距離(長さ)が長い、ヘム加工部を溶接して、アウタパネルを拘束して前記熱膨張を抑制すべきコーナー部である。この
図3は
図1の左下側に示すコーナー部11のAA断面であるが、この
図3のコーナー部は、図の下側からの平面視で、このコーナー部の先端(角部)Aから、インナパネル2の縦壁4までの最短距離L1が、
図1における、パネル構造体の各辺の中央部におけるインナパネル2の縦壁4の各E点から、このパネル構造体の周縁部の各D点までの各最短距離l5、l6、l7、l8のうちの最も大きい(長い)ものの2倍以上であるコーナー部である。
【0034】
この
図3のような「縦壁までの最短距離が大きな(長い)」コーナー部のみの溶接による拘束が、アルミニウム合金製アウタパネルのヘムずれや反りの発生を抑制できる。後述するFEM解析の通り、このような「縦壁までの最短距離が大きな(長い)」コーナー部のヘム加工部のみが、アルミニウム合金製アウタパネルのヘムずれや反りの発生に大きく関係する。
【0035】
ここで、前記各文言の定義であるが、
図1〜4で言う、パネル構造体の各コーナー部(アウタパネル1のコーナー部)8、9、10、11の先端Aあるいは角部A(A1、A2、A3、A4)とは、これら各コーナー部で曲率半径が最も小さくなる最先端部あるいは角部で、更に言うと、これら各コーナー部の周縁の(肉厚の)外側の点である。
また、パネル構造体のコーナー部の先端(角部)Aからインナパネル2の縦壁4までの最短距離L1とは、コーナー部の先端(角部)Aから縦壁4の交点Bまでが最短距離となる法線あるいは垂線l(l1、l2、l3、l4)の長さとも言える。
この
図3や
図4(あるいは
図1、2)を平面視した場合は、縦壁4の途中や頂部などではなく、縦壁4の下端側の平坦なフランジ5との境界線にある点(交点)Bの、コーナー部の先端(角部)Aとの距離が最短となる。
また、パネル構造体の各辺の中央部とは、パネル構造体の各辺の両端にある各コーナー部の前記先端Aあるいは角部A同士の距離(長さ)の中央部(真ん中)の点であり、
図1〜4で言う、インナパネル3の縦壁位置E(E1、E2、E3、E4)と、パネル構造体の周縁部位置D(D1、D2、D3、D4)の点である。ここで、各辺中央部の縦壁3の位置Eや、パネル構造体の周縁部位置Dは、前記各辺中央部において、縦壁3とパネル構造体の周縁部とが最短距離となる各位置である。この各辺中央部の縦壁3の位置Eは、前記Bと同様に、平面視した場合は、縦壁4の途中や頂部などではなく、縦壁4の下端側の平坦なフランジ5との境界線にある点(交点)である。また、パネル構造体の周縁部位置Dは周縁の(肉厚の)外側の点である。
そして、これら各辺の中央部におけるインナパネル3の縦壁位置Eから周縁部位置Dまでの長さlとは、
図1、2における、図の上側(手前側)からの平面視で、パネル構造体の各4辺の各々の中央部における、インナパネル3の各縦壁位置E1、E2、E3、E4から、各周縁部位置D1、D2、D3、D4までの各最短距離l5、l6、l7、l8である。
【0036】
一方、
図4は、インナパネル2の縦壁4までの最短距離(前記垂線あるいは法線lの長さ)L2が小さく(短く)、ヘム加工部を溶接して、アウタパネルを拘束して前記熱膨張を抑制する必要がないコーナー部(ヘム加工部)を示している。この
図4のコーナー部は、
図1の右上側に示すコーナー部9のBB断面であるが、この
図3のコーナー部は、図の下側からの平面視で、このコーナー部の先端(角部)Aから、インナパネル2の縦壁4までの最短距離L2が、
図1における、パネル構造体の各辺の中央部におけるインナパネル2の縦壁4の各E点から、このパネル構造体の周縁部の各D点までの最短距離Lのうちの、最も大きい(長い)ものの2倍未満である、短いコーナー部である。
【0037】
このような「最短距離が小さな(短い)」コーナー部のヘム加工部は、アルミニウム合金製アウタパネルのヘムずれや反りの発生には大きく関係しない。これは、パネル構造体の各辺(パネル構造体の平面形状が矩形であれば4辺)のヘム加工部も同様である。したがって、本発明では、前記コーナー部以外の前記パネル構造体の、前記長さ規定を満足しない前記コーナー部や、各辺の前記溶接接合されるヘム加工領域を除くヘム加工領域は、溶接接合しないことが、溶接の熱影響による変形や強度低下防止の観点などからも好ましい。
【0038】
図1の異材パネル構造体では、図の下側の左右のコーナー部8、11の2箇所のみが、
図3で示した前記垂線長さ条件に合致する。このため、これらのコーナー部8、11の、異材パネル構造体の左右側と下側の3辺にまで各々至る、斜線を引いたヘム加工部領域を溶接接合して、アウタパネル1の周縁部6を拘束している。そして、前記
図3で示した前記垂線長さ条件から外れる、他の図の上側の左右のコーナー部9、10の2箇所のヘム加工部と、異材パネル構造体の矩形の4辺(図の上下左右の各辺)の、前記コーナー部8、11において溶接接合される斜線で示したヘム加工部を除く、ヘム加工部領域は溶接接合していない。
また、
図2の異材パネル構造体では、
図3と同様、図の下側の左右のコーナー部8、11の2箇所と、更に、図の左上側のコーナー部10の、合計3箇所が、前記
図3で示した前記垂線長さ条件に合致する。このため、これらのコーナー部8、10、11の、異材パネル構造体の4辺にまで各々至る、斜線を引いたヘム加工部領域を溶接接合して、アウタパネル1の周縁部6を拘束している。そして、前記
図3で示した前記垂線長さ条件から外れる、図の右上側のコーナー部9の1箇所のヘム加工部領域と、異材パネル構造体の矩形の4辺(図の上下左右の各辺)の前記コーナー部8、10、11において溶接接合されるヘム加工領域を除くヘム加工領域は、溶接接合していない。
【0039】
溶接するコーナー部のヘム加工部以外のヘム加工部位の取り扱い:
前記
図12のようなガラスが装着される上辺側はヘムされない(三周囲にヘム加工部を有する)ドアパネルのような異材パネル構造体の場合には、上辺のヘム加工部や上辺の左右側のコーナー部が無く、左右側の両辺の上端側近くまでヘム加工部のみが残ることが多い。このようなヘム加工部や、本発明で溶接対象とする「縦壁までの最短距離が大きな(長い)」コーナー部以外のヘム加工部位を、パネル構造体の形状や構造による強度確保などのために、溶接の熱影響による変形や強度低下をさせない範囲で、溶接線を短くするなどして点溶接あるいは線溶接することは許容される。また、ヘム加工部位以外のパネル部位におけるアウタパネルとインナパネルとの接合のための溶接も、必要があれば、前記した溶接熱影響による変形や強度低下をさせない範囲で当然許容される。
【0040】
溶接すべきコーナー部のヘム加工部の範囲:
異材パネル構造体のコーナー部におけるヘム加工部で、溶接して拘束すべき施工範囲は、
図1、2で選択した各コーナー部において、前記した通り、各々斜線で示した。この斜線で示した範囲は、後述するFEM解析の通り、アルミニウム合金製アウタパネルの熱膨張時の荷重が作用して、前記面外曲げ変形が生じる範囲である。この範囲を定量的に表すと、
図1、2の上からの平面視で、前記各コーナー部先端Aからの最短距離となる前記垂線あるいは法線lに対するインナパネルの縦壁4との交点Bを通る接線のパネル構造体の周縁部との交点C1、C2にまで至る範囲である。
【0041】
前記溶接する斜線部のヘム加工部の範囲は、より具体的に、次の手順で決めることができる。
先ず、
図1、2の上側からの平面視で、溶接すべく選定した各コーナー部8、9、10、11の各先端A1、A2、A3、A4から、インナパネルの縦壁4までの距離が最短となる垂線あるいは法線lをそれぞれ引き、この垂線あるいは法線l1、l2、l3、l4に対するインナパネル2側の縦壁4の前記最短距離となる各交点B1、B2、B3、B4を決める。
次に、同じく平面視で、この交点B1、B2、B3、B4を通る、前記垂線l1、l2、l3、l4に対する接線(平面Rに対する接線)をそれぞれ引き、パネル構造体の各4辺の周縁部(ヘム加工部)との交点C1、C2を各々決める。
そして、前記各コーナー部8、9、10、11の各先端A1、A2、A3、A4から、このパネル構造体の各4辺の周縁部(ヘム加工部)の交点C1、C2までのヘム加工部範囲(前記斜線領域)A〜C1およびA〜C2を溶接によって拘束すべき範囲(領域)とする。
【0042】
FEM解析による熱変形解析:
以上のように溶接するコーナー部を前記垂線長さ条件で選択し、かつ、溶接する斜線部のヘム加工部の範囲を決めた根拠につき、以下に説明する。
図1、2に示した、実際の異材パネル構造体を模擬したが、平面形状は、
図6に示す単純な矩形形状とした異材パネル構造体を対象にして、FEM解析による熱変形解析を行った。
【0043】
この解析に際して、
図6の矩形平面形状を有するパネル構造体の形状条件は、アルミニウム合金製アウタパネルは単純な矩形形状の平板とし、鋼製インナパネルも、断面ハット状ではあるが、前記内壁や縦壁あるいは周縁部も、単純な矩形形状とした。アウタパネルは、長辺の長さが350mm、短辺の長さが250mm、板厚が1.00mmで、耐力が140MPaの6000系アルミニウム合金板製とした。また、インナパネルは通常の軟鋼板製とし、板厚が0.60mmで、内壁の図の横方向の長辺の長さは310mm、図の縦方向の短辺の長さは210mmとした。
【0044】
更に、この内壁の縦壁の高さは15mm、パネル構造体の各辺の中央部におけるインナパネル縦壁面からアウタパネルの周縁部(ヘム加工部端部)までの長さ(パネル構造体の各辺の中央部におけるインナパネル縦壁からパネル構造体周縁部までの最短距離のうちの最も大きいもの)は、上下左右の各4辺とも共通して20mmとした。これに対して、四隅のコーナー部のヘム加工部の前記垂線の長さは、共通して50mmとし、前記各辺の中央部におけるインナパネル縦壁面からアウタパネルの周縁部までの長さの2.5倍とし、規定する2倍以上とした。なお、ソルバーは汎用有限要素コードであるABAQUSを用いた。
【0045】
この解析によって求めた、異材パネル構造体を加熱してアルミニウム合金製アウタパネルが熱膨張した時の、ヘム加工部に作用する荷重分布を
図5に、変形量の分布を
図6にそれぞれ示す。ここで、解析の前提条件は、パネル構造体の全周縁部に亘るヘム加工部を全て剛結合した状態(ヘムずれが起こらない条件)で、170℃での塗装焼付時の加熱を想定し、アルミニウム合金製アウタパネルが室温20℃から170℃に加熱される条件で解析している。
【0046】
これら
図5、6より、ヘム加工部に作用する荷重は、パネル構造体の長辺、短辺ともに、異材パネル構造体の四隅にあるコーナー部で顕著であり、この部位のヘムずれを抑制できれば、アルミニウム合金製アウタパネルの熱変形の抑制が可能であることが分かる。
【0047】
また、
図5より、アルミニウム合金製アウタパネル熱膨張時のヘム加工部に作用する荷重が、横軸が0mmである、コーナー部先端Aの位置で最大となり、70mm程度離れた、異材パネル構造体の辺部までのヘム加工部範囲にまで亘って、アルミニウム合金製アウタパネル熱膨張時の荷重が作用していることが分かる。
【0048】
これらのアルミニウム合金製アウタパネル熱膨張時の荷重が作用している異材パネル構造体の四隅にあるコーナー部は、前記
図3のように、図の下側からの平面視で、パネル構造体のコーナー部の角部Aから、インナパネルの縦壁4の交点Bまで最短距離となる垂線あるいは法線lの長さL1が、パネル構造体の各辺の中央部におけるインナパネル3の縦壁Eから周縁部Dまでが最短距離となる長さlのうちの最も大きいものの2倍以上長いコーナー部である。
【0049】
本発明の更なる知見によれば、これより「最短距離が小さな(短い)」前記
図4のようなコーナー部や、これ以下か、これと同様に、パネル構造体の各辺の中央部におけるインナパネル3の縦壁Eから周縁部Dまでの最短距離が小さな異材パネル構造体の辺部では、ヘムずれに影響するアルミニウム合金製アウタパネル熱膨張時の荷重があまり作用しない。したがって、ヘムずれに影響する、アルミニウム合金製アウタパネル熱膨張時の荷重が大きく作用する、前記
図3のような「縦壁までの最短距離が大きな(長い)」コーナー部のヘム加工部のみ、溶接によって拘束すればいい。したがって、本発明では、溶接によって拘束すべきコーナー部のヘム加工部を、前記最短距離となる垂線あるいは法線lの長さL1が、前記最短距離となる長さlのうちの最も大きいものの2倍以上と規定する。すなわち、この倍率が、更に3倍以上、あるいは4倍以上などとより大きくなるコーナー部のヘム加工部ほど、溶接によって拘束すべき必要性が増す。
【0050】
また、前記アルミニウム合金製アウタパネル熱膨張時の荷重が作用している前記70mmの範囲を基に、自動車車体構造に用いられる種々のパネル構造体に普遍化、一般化すると、コーナー部におけるヘム加工部領域で、溶接してアルミニウム合金製アウタパネル(ヘムずれ)を拘束すべき、施工範囲は、前記した通り、
図1、2での選択した各コーナー部において各々斜線で示した範囲となる。すなわち、
図1、2の上からの平面視で、前記各コーナー部先端(角部)Aから、前記インナパネルの縦壁4の交点Bを通る接線のパネル構造体の周縁部との交点C1、C2にまで至る範囲である。
【0051】
このように、前記した「大きな(長い)」コーナー部を、ヘムずれ防止を目的に、前記したコーナー部近傍、特に面外曲げ変形が生じる範囲だけ溶接による異材接合を施工するだけで、塗装焼付け工程でも、アルミ/鋼の線膨張差に起因するヘム部のずれ変形を防止できる。これによって、アルミニウム合金製アウタパネルや異材パネル構造体全体あるいはコーナー部の熱変形が抑制できる。ことになる。また、異材パネル構造体の全周乃至全周縁部のヘム加工部を施工すると、溶接接合時間の長大化や、溶接入熱による熱変形や強度低下が副次的な問題となりやすいが、このように、コーナー部の部分的な施工だけであれば、このような副次的な問題を起こすことなく、十分な熱変形抑制効果が得ることができる。
【0052】
一方、これら
図5、6より、もうひとつ言えることは、コーナー部中心点から70mmを超えた異材パネル構造体の辺部のヘム加工部の範囲までは、アルミニウム合金製アウタパネル熱膨張時の荷重が、少なくともヘム部のずれ変形を起こす量までは負荷されていない点である。これらのアルミニウム合金製アウタパネル熱膨張時の荷重が影響しない(作用しない)範囲は、前記
図3のように、前記した「最短距離が小さな(短い)」コーナー部のヘム加工部か、前記した「最短距離が大きな(長い)」コーナー部のヘム加工部を除く、異材パネル構造体の四辺である。このようなコーナー部や辺部のヘム加工部は、アルミニウム合金製アウタパネルのヘムずれや反りの発生には大きく関係しない。
【0053】
この点で、前記した「大きな(長い)」コーナー部以外の、前記した「最短距離が小さな(短い)」コーナー部や、各辺の前記溶接接合されるヘム加工領域を除くヘム加工領域は、ヘム加工部を溶接して、アルミニウム合金製アウタパネル(ヘムずれ)を拘束する必要はない。このため、本発明では、これらのパネル構造体の部位のヘム加工部は溶接接合(拘束)しないことが好ましい。このように、実際のパネル構造体のヘム部のずれ変形を起こすコーナー部位であって、溶接して拘束すべきコーナー部のヘム加工部は、実際のパネル構造体の使用部位や使用車体のデザインや設計によって大きく異なると言える。
【0054】
図8に、前記
図6に示す矩形平面形状を有する異材パネル構造体のFEM解析による熱変形解析で、四隅のコーナー部のヘム加工部を点状に溶接接合して拘束した場合の残留変形量分布を示す。また、同じく、四隅のコーナー部のヘム加工部を全て溶接接合せずに、元のヘム加工のままで拘束しない従来例の場合の残留変形量分布を
図7に示す。これら各図において、図の上側がパネル構造体の平面図、下側がパネル構造体の斜視図である。
【0055】
図7上側の平面図のように、コーナー部のヘム加工部の拘束がない場合、同図下側の斜視図のように、異材パネル構造体の四隅のコーナー部で、最大4mm程度の反り変形が見られる。しかし、
図8上側の平面図のように、四隅のコーナー部のヘム加工部を点状溶接によって拘束した場合、同図下側の斜視図のように、コーナー部分のヘムずれが防止できており、効率的に熱変形を抑制できていることが分かる。なお、前記点状溶接部は、
図8の上側のパネル平面図に、FCW施工範囲(―)として、各コーナー部の隅角部に、周縁から若干はみ出す点線状に表示している。
【0056】
ヘム加工部の溶接施工手段:
溶接されるコーナー部のヘム加工部の溶接接合は、アーク溶接またはレーザ溶接によって点状に接合されていることが好ましい。点状の溶接接合ができる点でスポット溶接があるが、軟質なアルミニウム合金製アウタパネル側に、特にスポット電極による打痕がつきやすく、外観、美観が要求されるアウタパネルでは実用できない。また、特許文献1に開示されたようなFSWでは、前記した通り、拘束による折り返しフランジ部が破断する虞がある。
【0057】
一方、アーク溶接またはレーザ溶接による線状溶接では、溶接線や溶接時間が長くなると、溶接入熱によるヘム加工部の熱変形の問題が起こりやすい。このため、これらアーク溶接またはレーザ溶接での点状の溶接による、点状接合とすることが好ましい。アーク溶接としては、通常の自動車の車体の接合に汎用されている効率的なTIG溶接が好ましい。このTIG溶接でも、アルミニウム材外皮内部にフラックスを充填してなるフラックスコアードワイヤ(FCW)を用いたTIG溶接が好ましい。
【0058】
アルミニウム合金製アウタパネル:
アウタパネル用のアルミニウム合金板としては、強度や成形、あるいは耐食性など、適用する車体構造の要求特性に応じて、JISあるいはAA規格で規定される、5000系、6000系などのアルミニウム合金が使用できる。自動車などの車体軽量化のための薄肉化の観点からは、高強度で成形性にも優れたアルミニウム合金が好ましく、組成におけるSi/Mg が1 以上の、Mg含有量に対しSiが過剰に含有されている、6N01、6016、6111、6022などの、Si過剰型の6000系アルミニウム合金が好ましい。これらの6000系アルミニウム合金は、アウタパネルへの成形時には強度(耐力)を低くして成形性を確保して、その後の前記した塗装焼付け処理時の150〜180 ℃の低温、10〜50分の短時間の人工時効処理によって、時効硬化して強度(耐力)が高くなる特性(ベークハード性、BH性)を有する。これらアルミニウム合金材は、冷間圧延や熱間押出後に、溶体化処理および焼き入れ処理 (質別記号T4) やその後の時効処理(質別記号T6) 、過時効処理 (質別記号T7) されて、アウタパネルへのプレス成形素材として用いられる。
【0059】
アルミニウム合金板の厚さ(板厚)は、自動車車体の軽量化、強度、剛性、あるいは成形性などのアウタパネルとしての要求特性の兼ね合いから、0.5〜3mmの範囲で選択する。アルミニウム合金板の厚さが薄すぎる場合、自動車部材としての必要な強度や剛性を確保できず不適正である一方、厚さが厚すぎる場合、自動車車体の軽量化が犠牲になり、また、後述する溶接接合自体が難しくなる。
【0060】
鋼製インナパネル:
インナパネル用の鋼板は、その表面に、汎用される亜鉛系やアルミニウム系の被覆層がめっきなどで被覆されていても良いし、裸であってもよい。鋼材としては、従来の鋼製インナパネルと同様に、安価な軟鋼板が用いられるが、高張力鋼(ハイテン)、ステンレス鋼などの冷延鋼板も適用できる。鋼板の厚さ(板厚)も、自動車車体の軽量化、強度、剛性、あるいは成形性などのインナパネルとしての要求特性の兼ね合いから、0.3〜3mmの範囲で選択する。
鋼板の厚さが薄すぎる場合、自動車部材としての必要な強度や剛性を確保できず不適正である一方、厚さが厚すぎる場合、自動車車体の軽量化が犠牲になり、また、後述する溶接接合自体が難しくなる。
【実施例】
【0061】
前記FEM解析による熱変形解析に用いた
図6の矩形の平面形状を有する異材パネル構造体と同じ材料条件、形状条件で異材パネル構造体を実際に製作した。すなわち、前記解析と同じ材料条件、形状条件でプレス成形し、断面ハット状に成形された鋼製インナパネルの周縁部を、前記解析と同じ材料、形状条件のアルミニウム合金製アウタパネルの周縁部を折り返し、市販のエポキシ樹脂系接着樹脂層を介し、前記インナパネルのフランジ周縁部を挟み込むヘム加工によって一体化された異材パネル構造体を製作した。
【0062】
ちなみに、製作した異材パネル構造体の四隅のコーナー部のヘム加工部の前記縦壁までの最短距離Lは、共通して50mmとし、すべて前記各辺の中央部におけるインナパネル縦壁面からアウタパネルの周縁部までの最短距離のうちの最も大きいものの2.5倍とした。すなわち、前記解析例と同じく、内壁の縦壁の高さは15mm、パネル構造体の各辺の中央部におけるインナパネル縦壁からパネル構造体周縁部までの最短距離のうちの最も大きいものは、上下左右の各4辺とも共通して20mmとした。
【0063】
そして、
図6の通り、異材パネル構造体の四隅のコーナー部において、各コーナー部先端Aの位置から異材パネル構造体の辺部までのヘム加工部を、長さ70mmに亘って、溶接長さ(ビード長さ)10mm、溶接間隔10mmにて、TIG溶接を行った。溶接施工に際して、FCWワイヤは、粉末フラックスとして、K-Al-F系(ノコロックフラックス)を5質量%含有させ、皮材(フープ)は1.25質量%のSiを添加したアルミニウム合金とし、線径がφ1.2mmの市販のものを用いた。溶接条件は、直流TIG溶接とし、電流は100A、溶接速度は30cm/min、フィラー供給速度は7m/min、シールドガスはArで20L/min、とした。また、タングステン電極を用い、電極先端の位置はアルミニウム合金製アウタパネル1の周縁部6の直上、1.6mm上方の位置とした。電極の前進角αは10度として、前記70mmの長さ範囲を断続的に点状に接合した。
【0064】
図9、10に、この製作した異材パネル構造体を、加熱炉中に入れて、実際に室温20℃から170℃に30分加熱、ついで室温まで放冷、冷却した際の、異材パネル構造体の(アルミニウム合金製アウタパネル側の)反りを、市販の三次元形状計測器により、三次元形状として測定した結果を示す。これら各図において、図の上側がパネル構造体の平面図、下側がパネル構造体の斜視図である。
【0065】
図9上側の平面図のように、コーナー部のヘム加工部の拘束がない場合、同図下側の斜視図のように、異材パネル構造体の四隅のコーナー部で、同図上側(アルミニウム合金製アウタパネル側)に向かう、最大4mm程度の反り変形が見られる。これに対して、
図10上側の平面図のように、異材パネル構造体の四隅のコーナー部のヘム加工部を本発明で規定する範囲で、点状溶接により拘束した場合、同図下側の斜視図のように、異材パネル構造体の四隅のコーナー部で、大きな反り変形は見られず、コーナー部分のヘムずれが防止できており、効率的に熱変形を抑制できていることが分かる。なお、前記点状溶接部は、
図10の上側のパネル平面図に、FCW施工範囲(―)として、各コーナー部の隅角部に、周縁から若干はみ出す点線状に表示している。