(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952601
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】腹水処理装置及び腹水処理方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
A61M1/00 190
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-58425(P2012-58425)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-188427(P2013-188427A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000138037
【氏名又は名称】株式会社メテク
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】海本 隆志
【審査官】
寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−291871(JP,A)
【文献】
実開昭58−005442(JP,U)
【文献】
特開2009−297242(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00327005(EP,A1)
【文献】
特開昭60−083665(JP,A)
【文献】
特開昭56−031759(JP,A)
【文献】
特開2002−095740(JP,A)
【文献】
特開昭62−142567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹水を収容する腹水バッグと、腹水を濾過し腹水から所定の病因物質を除去する腹水濾過器を有し、前記腹水バッグの腹水を前記腹水濾過器に供給可能な濾過回路と、
腹水から水分を除去して濃縮する腹水濃縮器と、濃縮された腹水を収容する濃縮腹水バッグを有し、前記腹水濃縮器と前記濃縮腹水バッグを通じて腹水を循環可能な濃縮回路と、
前記濾過回路の腹水濾過器と前記濃縮回路を接続し、前記腹水濾過器で濾過された腹水を前記濃縮回路に供給可能な接続回路と、
ポンプを有し、前記腹水濾過器の濾過膜の二次側に気体を供給可能な気体供給回路と、
前記濾過回路の腹水バッグの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過し、当該濾過された腹水を前記接続回路を通じて前記濃縮回路の腹水濃縮器に供給して濃縮し、当該濃縮された腹水を前記濃縮腹水バッグに供給し、その後、前記気体供給回路を通じて前記腹水濾過器の二次側に気体を供給し、前記二次側及び前記接続回路に残存する腹水を前記接続回路を通じて前記濃縮回路に供給し、その後、前記濃縮回路の腹水を循環させて再濃縮する制御部と、を有する、腹水処理装置。
【請求項2】
前記接続回路の所定の位置において気体を検出する気体検出装置をさらに有し、
前記制御部は、前記気体検出装置により前記接続回路の所定位置に気体が検出されたときに前記気体供給回路から前記腹水濾過器の二次側への気体の供給を停止する、請求項1に記載の腹水処理装置。
【請求項3】
前記気体供給回路は、正逆回転可能なポンプを有し、
前記制御部は、前記気体供給回路のポンプにより前記腹水濾過器の二次側の気体を前記気体供給回路を通じて外部に排出しつつ、腹水バッグの残りの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過する、請求項1又は2に記載の腹水処理装置。
【請求項4】
前記気体供給回路は、正逆回転可能なポンプを有し、
前記制御部は、前記再濃縮後、前記気体供給回路のポンプにより前記腹水濾過器の二次側の気体を前記気体供給回路を通じて外部に排出しつつ、腹水バッグの残りの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過する、請求項1又は2に記載の腹水処理装置。
【請求項5】
腹水処理装置を用いた腹水処理方法であって、
前記腹水処理装置は、
腹水を収容する腹水バッグと、腹水を濾過し腹水から所定の病因物質を除去する腹水濾過器を有し、前記腹水バッグの腹水を前記腹水濾過器に供給可能な濾過回路と、
腹水から水分を除去して濃縮する腹水濃縮器と、濃縮された腹水を収容する濃縮腹水バッグを有し、前記腹水濃縮器と前記濃縮腹水バッグを通じて腹水を循環可能な濃縮回路と、
前記濾過回路の腹水濾過器と前記濃縮回路を接続し、前記腹水濾過器で濾過された腹水を前記濃縮回路に供給可能な接続回路と、
ポンプを有し、前記腹水濾過器の濾過膜の二次側に気体を供給可能な気体供給回路と、を有し、
当該腹水処理方法は、
前記濾過回路の腹水バッグの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過し、当該濾過された腹水を前記接続回路を通じて前記濃縮回路の腹水濃縮器に供給して濃縮し、当該濃縮された腹水を前記濃縮腹水バッグに供給する第1の工程と、
その後、前記気体供給回路を通じて前記腹水濾過器の二次側に気体を供給し、前記二次側及び前記接続回路に残存する腹水を前記接続回路を通じて前記濃縮回路に供給する第2の工程と、
その後、前記濃縮回路の腹水を循環させて再濃縮する第3の工程と、を有する腹水処理方法。
【請求項6】
前記腹水処理装置は、前記接続回路の所定の位置において気体を検出する気体検出装置をさらに有し、
前記第2の工程において、前記気体検出装置により前記接続回路の所定位置に気体が検出されたときに前記気体供給回路から前記腹水濾過器の二次側への気体の供給を停止する、請求項5に記載の腹水処理方法。
【請求項7】
前記腹水濾過器の二次側の前記気体を前記気体供給回路を通じて外部に排出しつつ、腹水バッグの残りの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過する第4の工程を、さらに有する、請求項5又は6に記載の腹水処理方法。
【請求項8】
前記第3の工程後、前記腹水濾過器の二次側の気体を前記気体供給回路を通じて外部に排出しつつ、腹水バッグの残りの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過する第4の工程を、さらに有する、請求項5〜7のいずれかに記載の腹水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹水処理装置及び腹水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
難治性腹水症の治療法として、患者から腹水を取り出し、当該腹水からがん細胞などの病因物質を除去し、アルブミンなどの有用成分を残した状態で除水し、当該濃縮液を体内に戻す腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)がある。
【0003】
かかる治療法を行う腹水処理装置には、従来より、腹水バッグと、腹水濾過器と、腹水濃縮器、及び濃縮腹水バッグをこの順番で直列的に接続し、落差或いはポンプにより腹水を流して処理するものが用いられている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−220219号公報
【特許文献2】特開平5−168699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の装置では、腹水が腹水濃縮器を一度通過するだけなので、腹水の濃度を任意に調整できない。そこで、一度濃縮された腹水が入った濃縮液バッグを、腹水濃縮器を含む再濃縮回路に接続し、濃縮腹水バッグと腹水濃縮器を通じて腹水を循環させて再濃縮することが考えられる。
【0006】
しかしながら、上述の方法では、腹水を再濃縮する際に、濃縮腹水バッグを濾過・濃縮回路から再濃縮回路に繋ぎかえる必要があり手間と時間がかかる。
【0007】
そこで、本発明は、濾過・濃縮回路と再濃縮回路を一体化し、濾過・濃縮処理と再濃縮処理の切り替えを自動化することを一つの目的とする。
【0008】
また、濾過・濃縮回路と再濃縮回路を一体化させた場合、濾過・濃縮回路の腹水の流れをある時点で停止させ、再濃縮回路で腹水を循環させて再濃縮させる必要があるため、腹水濾過器の濾過膜の二次側などに、濃縮されていない腹水が残留してしまう。また、当該残留した腹水を濃縮腹水バッグに回収すると、腹水の濃縮率が下がり、またその値も安定しなくなる。現在腹水処理には、腹水の高い濃縮率と、血清中のタンパク濃度に近い安定した濃度が求められている。
【0009】
そこで、本発明は、濾過・濃縮回路と再濃縮回路を一体化する場合において、腹水濾過器などに腹水が残留するのを抑制し、さらに最終的に安定した高い濃縮率の濃縮腹水を得ることを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、腹水を収容する腹水バッグと、腹水を濾過し腹水から所定の病因物質を除去する腹水濾過器を有し、前記腹水バッグの腹水を前記腹水濾過器に供給可能な濾過回路と、腹水から水分を除去して濃縮する腹水濃縮器と、濃縮された腹水を収容する濃縮腹水バッグを有し、前記腹水濃縮器と前記濃縮腹水バッグを通じて腹水を循環可能な濃縮回路と、前記濾過回路の腹水濾過器と前記濃縮回路を接続し、前記腹水濾過器で濾過された腹水を前記濃縮回路に供給可能な接続回路と、
ポンプを有し、前記腹水濾過器の濾過膜の二次側に気体を供給可能な気体供給回路と、前記濾過回路の腹水バッグの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過し、当該濾過された腹水を前記接続回路を通じて前記濃縮回路の腹水濃縮器に供給して濃縮し、当該濃縮された腹水を前記濃縮腹水バッグに供給し、その後、前記気体供給回路を通じて前記腹水濾過器の二次側に気体を供給し、前記二次側及び前記接続回路に残存する腹水を前記接続回路を通じて前記濃縮回路に供給し、その後、前記濃縮回路の腹水を循環させて再濃縮する制御部と、を有する、腹水処理装置である。
【0011】
本発明によれば、濾過回路と、再濃縮可能な濃縮回路が接続回路により接続され一体化されているので、濾過・濃縮処理と再濃縮処理の切り替えを自動化できる。また、気体供給回路により、腹水濾過器の二次側に気体を供給して、腹水濾過器の二次側と接続回路に残留した腹水を濃縮回路側に回収できるので、腹水濾過器などに腹水が残留するのを抑制できる。また、残留した腹水を濃縮回路に供給した後にまとめて再濃縮するので、最終的に安定した高い濃縮率の濃縮腹水を得ることができる。
【0012】
前記腹水処理装置は、前記接続回路の所定の位置において気体を検出する気体検出装置をさらに有し、前記制御部は、前記気体検出装置により前記接続回路の所定位置に気体が検出されたときに前記気体供給回路から前記腹水濾過器の二次側への気体の供給を停止するようにしてもよい。
【0013】
前記気体供給回路は、正逆回転可能なポンプを有し、前記制御部は、前記気体供給回路のポンプにより前記腹水濾過器の二次側の気体を前記気体供給回路を通じて外部に排出しつつ、腹水バッグの残りの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過するようにしてもよい。
また、前記気体供給回路は、正逆回転可能なポンプを有し、前記制御部は、前記再濃縮後、前記気体供給回路のポンプにより前記腹水濾過器の二次側の気体を前記気体供給回路を通じて外部に排出しつつ、腹水バッグの残りの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過するようにしてもよい。
【0014】
別の観点による本発明は、腹水処理装置を用いた腹水処理方法であって、前記腹水処理装置は、腹水を収容する腹水バッグと、腹水を濾過し腹水から所定の病因物質を除去する腹水濾過器を有し、前記腹水バッグの腹水を前記腹水濾過器に供給可能な濾過回路と、腹水から水分を除去して濃縮する腹水濃縮器と、濃縮された腹水を収容する濃縮腹水バッグを有し、前記腹水濃縮器と前記濃縮腹水バッグを通じて腹水を循環可能な濃縮回路と、前記濾過回路の腹水濾過器と前記濃縮回路を接続し、前記腹水濾過器で濾過された腹水を前記濃縮回路に供給可能な接続回路と、前記腹水濾過器の濾過膜の二次側に気体を供給可能な気体供給回路と、を有し、当該腹水処理方法は、前記濾過回路の腹水バッグの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過し、当該濾過された腹水を前記接続回路を通じて前記濃縮回路の腹水濃縮器に供給して濃縮し、当該濃縮された腹水を前記濃縮腹水バッグに供給する第1の工程と、その後、前記気体供給回路を通じて前記腹水濾過器の二次側に気体を供給し、前記二次側及び前記接続回路に残存する腹水を前記接続回路を通じて前記濃縮回路に供給する第2の工程と、その後、前記濃縮回路の腹水を循環させて再濃縮する第3の工程と、を有する腹水処理方法である。
【0015】
前記腹水処理装置は、前記接続回路の所定の位置において気体を検出する気体検出装置をさらに有し、前記第2の工程において、前記気体検出装置により前記接続回路の所定位置に気体が検出されたときに前記気体供給回路から前記腹水濾過器の二次側への気体の供給を停止するようにしてもよい。
【0016】
前記腹水処理方法は、前記腹水濾過器の二次側の前記気体を前記気体供給回路を通じて外部に排出しつつ、腹水バッグの残りの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過する第4の工程を、さらに有するようにしてもよい。
また、前記腹水処理方法は、前記第3の工程後、前記腹水濾過器の二次側の気体を前記気体供給回路を通じて外部に排出しつつ、腹水バッグの残りの腹水を前記腹水濾過器に供給して濾過する第4の工程を、さらに有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、濾過・濃縮回路と再濃縮回路を一体化し、濾過・濃縮処理と再濃縮処理の切り替えを自動化することができる。また、濾過・濃縮回路と再濃縮回路を一体化する場合において、腹水濾過器などに腹水が残留するのを抑制し、さらに最終的に安定した高い濃縮率の濃縮腹水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】腹水処理装置の構成の概略を示す説明図である。
【
図2】濾過・濃縮工程の腹水処理装置の状態を示す説明図である。
【
図3】残留腹水の回収工程の腹水処理装置の状態を示す説明図である。
【
図4】再濃縮工程の腹水処理装置の状態を示す説明図である。
【
図5】腹水バッグの残留腹水を濾過、濃縮するときの腹水処理装置の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係る腹水処理装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0020】
図1に示す腹水処理装置1は、例えば、腹水バッグ10の腹水を腹水濾過器11に供給し、腹水から所定の病因物質を除去して濾過する濾過回路12と、腹水を腹水濃縮器13と濃縮腹水バッグ14を通じて循環させて濃縮する濃縮回路15と、腹水濾過器11で濾過された腹水を濃縮回路15に供給する接続回路16と、腹水濾過器11の濾過膜17の二次側11bに気体を供給する気体供給回路18と、腹水処理装置1の各回路の動作を制御する制御部19を有している。
【0021】
濾過回路12の腹水バッグ10は、患者から採取された腹水を収容できる。腹水濾過器11は、例えばがん細胞などの所定の病因物質を除去し、アルブミンなどの所定の有用成分を通過させる中空糸膜などの濾過膜17を有している。腹水濾過器11は、濾過膜17の一次側11aに供給された腹水を濾過膜17で濾過し二次側11bに排出できる。
【0022】
濾過回路12の腹水バッグ10と腹水濾過器11の間は、軟質性のチューブにより接続されている。腹水バッグ10と腹水濾過器11との間のチューブには、濾過用ポンプ30が設けられている。濾過用ポンプ30には、例えばチューブを扱いてチューブ内の腹水を圧送するチューブポンプが用いられている。
【0023】
濃縮回路15の濃縮腹水バッグ14は、濃縮腹水を収容できる。腹水濃縮器13は、例えば濃縮膜40を有し、濃縮膜40の一次側13aに供給された腹水の水分が濃縮膜40の二次側13bに抜けて濃縮される。二次側13bに取り除かれた水分は、例えば二次側13bに接続された排水管41から排水タンク42に排水される。
【0024】
濃縮回路15は、チューブにより腹水濃縮器13と濃縮腹水バッグ14を環状に接続している。濃縮回路15は、接続回路16から分岐し、腹水濃縮器13を通って濃縮腹水バッグ14に接続される第1の流路50と、腹水濃縮器13を通らずに濃縮腹水バッグ14に接続される第2の流路51を有している。第1の流路50は、腹水濃縮器13の一次側13aに接続されている。腹水濃縮器13と濃縮腹水バッグ14との間のチューブには、例えばチューブポンプである濃縮用ポンプ52が設けられている。第2の流路51のチューブには、例えばチューブポンプである正逆回転可能な循環用ポンプ53が設けられている。
【0025】
接続回路16は、チューブにより、腹水濾過器11の二次側11bと、濃縮回路15の第1の流路50と第2の流路51の分岐点とを接続している。接続回路16には、チューブ内の気泡を検出する気体検出装置としての気泡検知器60が設けられている。また、接続回路16の気泡検知器60より濃縮回路15側には、開閉バルブ61が設けられている。
【0026】
気体供給回路18は、先端が腹水濾過器11の二次側11bに接続され、終端が大気開放されている。気体供給回路18は、チューブにより構成され、チューブポンプである気体供給用ポンプ70が設けられている。気体供給回路18には、例えば圧力センサ71が接続されている。
【0027】
制御部19は、例えばCPU、メモリ等を有するマイクロコンピュータである。制御部19は、濾過用ポンプ30、濃縮用ポンプ52、循環用ポンプ53などの腹水圧送手段や、気泡検知器60、気体供給用ポンプ70及び開閉バルブ61等の各装置の動作を制御して腹水処理を実行できる。制御部19は、例えば予めメモリに記憶されたプログラムを実行して腹水処理を実施できる。
【0028】
次に、上述の腹水処理装置1を用いて行われる腹水処理方法について説明する。
【0029】
先ず、患者から採取した腹水を収容した腹水バッグ10が濾過回路12に接続される。次に、
図2に示すように例えば濾過用ポンプ30と濃縮用ポンプ52が駆動し、腹水バッグ10の腹水が、腹水濾過器11に供給され濾過される。この腹水濾過器11において腹水から所定の病因物質が除去される。その後腹水は、接続回路16を通じて濃縮回路15の第1の流路50に流入し濃縮腹水器13に供給される。濃縮腹水器13において腹水が除水され濃縮される。濃縮された腹水は、濃縮腹水バッグ14に供給され貯留される。こうして、腹水の濾過・濃縮工程(第1の工程)が行われる。
【0030】
例えば腹水バッグ10内の予め定められた所定量の腹水が腹水濾過器11に送られると、濾過用ポンプ30と濃縮用ポンプ52が停止される。その後、
図3に示すように例えば気体供給用ポンプ70、濃縮用ポンプ52及び/又は循環用ポンプ53が駆動し(循環用ポンプ53は逆回転)、大気が気体供給回路18を通じて腹水濾過器11の二次側11bに供給され、腹水濾過器11の二次側11bに残存している腹水が、その気体によって押されて接続回路16を通じて濃縮回路15に送られる。濃縮回路15に送られた腹水は、例えば第1の流路50及び/又は第2の流路51を通って濃縮腹水バッグ14に回収される。こうして、残留腹水の回収工程(第2の工程)が行われる。
【0031】
残留腹水の回収工程では、気泡検知器60により接続回路16における気泡の検出が行われる。腹水濾過器11の二次側11bの腹水がなくなり、気泡検知器60により接続回路16で気体が検出されると、気体供給用ポンプ70、濃縮用ポンプ52及び/又は循環用ポンプ53が停止され、残留腹水の回収工程が終了する。
【0032】
次に、例えば
図4に示すように開閉バルブ61が閉鎖され、濃縮用ポンプ52と循環用ポンプ53が駆動し(循環用ポンプ53は正回転)、濃縮回路15内の腹水が、濃縮腹水バッグ14と腹水濃縮器13を通じて循環される。このとき腹水が腹水濃縮器13において除水され、再濃縮される。こうして、腹水の再濃縮工程(第3の工程)が行われる。
【0033】
腹水の再濃縮工程が終了すると、例えば循環用ポンプ53が逆回転され、濃縮用ポンプ52が駆動して、濃縮回路15内に残っている腹水が濃縮腹水バッグ14に回収される。
【0034】
本実施の形態によれば、濾過回路12と、再濃縮可能な濃縮回路15が接続回路16により接続され一体化されているので、濾過・濃縮処理と再濃縮処理の切り替えを自動化できる。また、気体供給回路18により、腹水濾過器11の二次側11bに気体を供給して、腹水濾過器11の二次側11bと接続回路16に残留した腹水を濃縮回路15側に回収できるので、腹水濾過器11などに腹水が残留するのを抑制できる。また、残留した腹水を濃縮回路15に供給した後にまとめて再濃縮するので、最終的に、安定した高い濃縮率の濃縮腹水を得ることができる。
【0035】
ところで、上記一連の腹水処理を行ったあと、腹水バッグ10に腹水が残っている場合がある。この場合に、残りの腹水を再度腹水処理してもよい。かかる場合、気体供給用ポンプ70に正逆回転可能なものが用いられる。そして、例えば
図5に示すように気体供給用ポンプ70が逆回転され、腹水濾過器11の二次側11bの気体が気体供給回路18を通じて外部に排出される。このとき、濾過用ポンプ30が駆動し、腹水バッグ10の腹水が腹水濾過器11に供給され濾過される。腹水濾過器11の二次側11bの液面が所定の高さまで上昇した後、濃縮用ポンプ52が駆動し、濾過された腹水が接続回路16を通じて濃縮回路15の腹水濃縮器13に送られ濃縮される。濃縮された腹水は、濃縮腹水バッグ14に供給され収容される。
【0036】
こうすることにより、先の残留腹水の回収工程で、腹水濾過器11の二次側11bが空若しくは空に近い状態になっている場合であっても、当該空気が接続回路16側に押し出され、濃縮回路15を通じて濃縮腹水バッグ14に空気が大量に入ることを防止できる。なお、腹水バッグ10の残留腹水を濾過・濃縮して濃縮腹水バッグ14に収容した後は、上記実施の形態と同様に、残留腹水の回収工程、及び腹水の再濃縮工程を行ってもよい。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0038】
例えば上記実施の形態において、気泡検出器60により、腹水濾過器11の二次側11bに腹水がなくなったことを確認し、濃縮回路15に気体が入り込むことを抑制していたが、気泡検出器60を用いなくても、例えば気体供給用ポンプ70を所定の流量分駆動させて停止させることにより、気体が濃縮回路15に入り込むことを抑制してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、濾過・濃縮回路と再濃縮回路を一体化し、濾過・濃縮処理と再濃縮処理の切り替えを自動化する際に有用である。
【符号の説明】
【0040】
1 腹水処理装置
10 腹水バッグ
11 腹水濾過器
11a 一次側
11b 二次側
12 濾過回路
13 腹水濃縮器
13a 一次側
13b 二次側
14 濃縮腹水バッグ
15 濃縮回路
16 接続回路
17 濾過膜
18 気体供給回路
19 制御部
30 濾過用ポンプ
40 濃縮膜
41 排水管
42 排水タンク
50 第1の流路
51 第2の流路
52 濃縮用ポンプ
53 循環用ポンプ
60 気泡検知器
61 開閉バルブ
70 気体供給用ポンプ
71 圧力センサ