(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
防振対象物が取付けられる第1架台と、設置面上に固定される第2架台と、前記第1架台と前記第2架台とを互いに連結すると共に、前記防振対象物から発生される振動の振動エネルギーを減衰させる第1減衰体と、前記第1架台と前記第2架台との間に配設され、前記防振対象物に振動が入力された際に、その振動の振動エネルギーを減衰させる第2減衰体と、を備え、
前記第2減衰体は、入力された前記振動により前記防振対象物及び前記第1架台が前記第2架台に対して水平方向に相対移動した際に、該移動に伴って傾斜すると共に、鉛直方向に互いに離間する方向の応力を前記第1架台と前記第2架台とに付与する弾性体を備え、
前記弾性体は、前記第1架台及び前記第2架台に対向する対向面がそれぞれ凸に湾曲した形状とされ、前記第1架台と前記第2架台との間に配設され、
前記弾性体のうち前記第1架台に対向する前記対向面には、開口部が形成され、前記第1架台には、前記第2架台に向けて突出すると共に、その先端部が前記開口部を通じて前記弾性体の内部に配置される突出部材が形成され、前記突出部材は、前記開口部に非接触とされていると共に、前記防振対象物への前記振動の入力によって前記第1架台と共に水平方向に移動した際に、前記開口部の開口端に接触して前記弾性体を傾斜させることを特徴とする振動減衰装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、平常時においては、設備機器の運転等によって生じる振動が床スラブ等に伝達することを防止するために、設備機器を例えばコイルばねや防振ゴム等で弾性支持し、防振する必要がある。この際、防振効果を高めるためには、低い弾性力で軟らかく支持することが好ましい。一方、地震等が発生した場合には、その振動の振動エネルギーを吸収して低減させ、設備機器を保護する必要がある。
この点、上記従来の振動吸収装置では、平常時における防振機能と、地震発生時における振動エネルギーの低減機能と、を同時に発揮させることが難しい。このように、設備機器の運転時、該設備機器をコイルばねや防振ゴム等で弾性支持して床への振動伝達を防止し、地震時にさらに振動吸収装置を効かせるような減衰装置は、従来見当たらなかった。
【0005】
また、上記従来の振動吸収装置を複数設置したとしても、地震等によって防振対象物に振動エネルギーが入力された場合、各振動吸収装置にかかる負荷は必ずしも均等ではなく、ばらつきが生じてしまう。そのため、入力された振動エネルギーにおける水平方向成分によって防振対象物が水平移動した際、上記ばらつきによって該防振対象物が水平面に対して傾斜してしまい、該傾斜によって回転モーメントが発生し、ロッキング回転振動が生じる恐れがあった。特に、防振対象物が自動販売機等のような、大きな重量をなして起立するような機器である場合には、上記ロッキング回転振動が生じ易い。
【0006】
上述したように、従来の装置には、平常時における防振機能を維持し、且つ地震発生時に設備機器を保護し、ロッキング回転振動を抑制する点において改善する余地があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、平常時における防振効果を阻害することなく、地震発生時にロッキング回転振動の発生を抑制しながら、防振対象物に入力された振動エネルギーを減衰することができる振動減衰装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明に係る振動減衰装置は、防振対象物が取付けられる第1架台と、設置面上に固定される第2架台と、前記第1架台と前記第2架台とを互いに連結すると共に、前記防振対象物から発生される振動の振動エネルギーを減衰させる第1減衰体と、前記第1架台と前記第2架台との間に配設され、前記防振対象物に振動が入力された際に、その振動の振動エネルギーを減衰させる第2減衰体と、を備え、前記第2減衰体は、入力された前記振動により前記防振対象物及び前記第1架台が前記第2架台に対して水平方向に相対移動した際に、該移動に伴って傾斜すると共に、鉛直方向に互いに離間する方向の応力を前記第1架台と前記第2架台とに付与する弾性体を備え
、前記弾性体は、前記第1架台及び前記第2架台に対向する対向面がそれぞれ凸に湾曲した形状とされ、前記第1架台と前記第2架台との間に配設され、前記弾性体のうち前記第1架台に対向する前記対向面には、開口部が形成され、前記第1架台には、前記第2架台に向けて突出すると共に、その先端部が前記開口部を通じて前記弾性体の内部に配置される突出部材が形成され、前記突出部材は、前記開口部に非接触とされていると共に、前記防振対象物への前記振動の入力によって前記第1架台と共に水平方向に移動した際に、前記開口部の開口端に接触して前記弾性体を傾斜させることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る振動減衰装置によれば、平常時、運転、駆動等によって防振対象物から振動が発せられると、その振動によって該防振対象物及び第1架台が第2架台に対して相対的に水平移動及び鉛直移動しながら三次元的に微小移動する。このとき、第1架台と第2架台とを連結している第1減衰体が、その振動の振動エネルギーを減衰させるので、該振動エネルギーを徐々に低減させることができる。これにより、防振対象物を防振でき、該防振対象物から発生された振動が第2架台を通じて設置面側に伝達されてしまうことを抑制することができる。
【0010】
ところで、地震発生等によって防振対象物に対して外部から振動が入力されると、その振動エネルギーによって、防振対象物及び第1架台は第2架台に対して相対的に水平移動及び鉛直移動しながら三次元的に大きく移動する。そのため、防振対象物及び第1架台は、第1架台の一部が下方に沈み込むように水平面に対して傾斜してしまう。このとき、第1架台と第2架台との間には、第1減衰体とは別個に第2減衰体が配設されており、該第2減衰体における弾性体が防振対象物及び第1架台の水平方向への移動に伴って傾斜する。すると、この傾斜した弾性体は、第1架台と第2架台との間に挟みこまれながら、弾性復元力により両架台に対して互いに鉛直方向に離間する応力を付与する。これにより、沈み込もうとする第1架台を上方に押し返して持ち上げることができ、防振対象物及び第1架台が傾斜することを抑制することができる。
【0011】
つまり、第2減衰体は、入力された振動における水平方向成分の振動エネルギーを上下方向に変換して鉛直方向成分の振動エネルギーとすることができ、この鉛直方向成分の振動エネルギーを減衰によって消費することができる。
これにより、ロッキング回転振動の発生を抑制しながら、第2減衰体によって振動エネルギーを効果的に吸収することができ、防振対象物を安定に支持して地震等から保護することができる。
このように、本発明に係る振動減衰装置によれば、平常時における防振機能と、地震発生時における防振対象物の保護機能とを同時に奏効できるうえ、防振対象物のロッキング回転振動を抑制することができる。
【0012】
(2)上記本発明に係る振動減衰装置において、前記弾性体は、前記第1架台及び前記第2架台に対向する対向面がそれぞれ凸に湾曲した断面視楕円形状とされ、その長軸方向が前記水平方向に向き、且つその短軸方向が前記鉛直方向に向いた状態で、前記第1架台と前記第2架台との間に配設されていることが好ましい。
【0013】
この場合には、弾性体が断面視楕円形状とされているので、防振対象物及び第1架台の水平方向への移動に伴って弾性体が傾斜した際、この弾性体における長軸方向の両端部のうち、一方の端部側の対向面を利用して第1架台を上方に押圧できると共に、他方の端部側の対向面を利用して第2架台を下方に押圧することができる。これにより、第1架台と第2架台とをより確実に鉛直方向に離間させることができ、防振対象物及び第1架台が傾斜することをより確実に防止して、ロッキング回転振動を効果的に抑制し易い。
【0015】
本発明によれば、地震発生等により防振対象物に振動が入力され、それによって防振対象物及び第1架台が水平方向に移動すると、これに伴って突出部材が移動して弾性体に形成された開口部の開口端に接触し、該弾性体に外力を付与してこの弾性体を速やかに傾斜させることができる。このように、防振対象物及び第1架台の水平方向への移動に対して、追従性良く弾性体を傾斜させることができ、その結果、より効果的にロッキング回転振動を抑制することができる。
なお、平常時においては、突出部材は開口部の開口端に非接触とされているので、弾性体が第1減衰体による防振対象物の防振効果を阻害することはない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、平常時における防振効果を阻害することなく、地震発生時にロッキング回転振動の発生を抑制しながら、防振対象物に入力された振動エネルギーを減衰することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る振動減衰装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
(振動減衰装置の構成)
図1に示すように、本実施形態の振動減衰装置1は、防振対象物Wが取付けられる第1架台2と、設置面G上に固定される第2架台3と、第1架台2と第2架台3とを互いに連結し、第1架台2を介して防振対象物Wを支持する複数の第1減衰体4と、第1架台2と第2架台3との間に配設された複数の第2減衰体5と、を備えている。
【0019】
なお、本実施形態では、図面を見易くするため防振対象物Wを単に二点鎖線で直方体状に図示している。また、防振対象物Wとしては、例えば自動販売機、変圧器、精密機器、室外機、空調機、発電設備や切替遮断器室等、平常時、自身が振動しながら運転、駆動等がなされる各種設備機器が挙げられる。また、設置面Gとは、屋内、屋外問わず、防振対象物Wを設置可能な床面である。
【0020】
上記第1架台2は、
図1及び
図2に示すように、平面視矩形状に形成された金属製の枠体2aと、この枠体2aに重ねられた金属製の載置プレート2bと、を備えている。載置プレート2bは、外形が枠体2aと略同一に形成されており、この枠体2aの開口を塞いでいる。そして、この載置プレート2b上に、図示しないボルト等の連結手段を介して防振対象物Wが固定されている。
上記第2架台3は、上記第1架台2の枠体2aと同様に枠状に形成され、その外形は枠体2aと略同一とされている。そして、この第2架台3は、図示しないボルト等の連結手段を介して設置面G上に固定されている。
【0021】
上記第1減衰体4は、防振対象物Wから発生される振動の振動エネルギーを減衰させることで、該防振対象物Wの振動が第1架台2を介して第2架台3及び設置面Gに伝達されてしまうことを抑制するものであって、図示の例では、第1架台2及び第2架台3の周方向に沿って配置されている。具体的には第1架台2及び第2架台3の角部を挟むように一対ずつ、合計8個配置されている。
なお、この第1減衰体4としては、所定の減衰性能を有するものであれば構わないが、例えば所定のばね定数を有する弾性部材である。具体的には、コイルバネや、コイルバネとゴムとを一体成形したものや、複数枚積層されたゴムシート等が挙げられる。図示の例では、コイルバネを採用した場合を例にしている。
【0022】
そして、この第1減衰体4は、第2架台3に対して、第1架台2及び防振対象物Wを相対的に水平移動及び鉛直移動可能に支持している。そのため、第1減衰体4は、防振対象物Wから発せられた振動における鉛直方向成分及び水平方向成分の振動エネルギーを減衰させることが可能とされている。
【0023】
上記第2減衰体5は、防振対象物Wに地震等の発生によって振動が入力された際に、その振動における水平方向成分の振動エネルギーを減衰させる部材であって、第1架台2及び第2架台3の周方向に沿って配置されている。具体的には、第1減衰体4と、第1架台2及び第2架台3の角部と、の間に位置するように、合計8つ配置されている。
これら複数の第2減衰体5は構成が同一であるため、以下1つの第2減衰体5について説明し、残りの第2減衰体5については説明を省略する。
【0024】
この第2減衰体5は、
図3〜
図5に示すように、外部から入力された振動により防振対象物W及び第1架台2が第2架台3に対して水平方向に相対移動した際に、該移動に伴って傾斜すると共に、鉛直方向に互いに離間する方向の応力を第1架台2と第2架台3とに付与する弾性体10と、この弾性体10を第2架台3上に位置決めさせる位置決めピン11と、弾性体10に上記傾斜するための外力を付与する作動ピン(突出部材)12と、を備えている。
【0025】
上記弾性体10は、第1架台2及び第2架台3に対向する対向面10A、10Bがそれぞれ凸に湾曲した断面視楕円形状とされており、その長軸方向L1が水平方向に向き、且つその短軸方向L2が鉛直方向に向いた状態で、第1架台2と第2架台3との間に配設されている。より具体的には、弾性体10は平面視円形状とされ、全体としては中空の楕円体とされている。
なお、この弾性体10は、例えば金属やゴム等によって形成され、弾性復元力により
図5に示す形状を維持することが可能とされる。
【0026】
そして、この弾性体10は、下方に向いた対向面10Bの頂上部を第2架台3に接触させた状態で、該第2架台3上に載置されている。この際、上方に向いた対向面10Aの頂上部と第1架台2との間には隙間が確保されている(
図5参照)。また、各対向面10A、10Bの頂上部には、平面視円形状の開口部15が形成されている。
【0027】
上記位置決めピン11は、例えば第2架台3の下方側から該第2架台3を貫通するように固定されており、
図4に示すように、そのヘッド部11aは第2架台3の下面に形成された凹部3a内に収納され、そのピン先端部11bは第2架台3よりも上方に突出して、開口部15を通じて弾性体10の内部に進入している。これにより、弾性体10は、第2架台3上に位置決めされた状態で載置されている。
なお、
図3に示すように、位置決めピン11と開口部15の開口端との間には隙間が確保されており、この隙間によって弾性体10の自由な傾斜動作が可能とされている。
【0028】
上記作動ピン12は、
図4に示すように、例えば第1架台2における枠体2aの上方側から該枠体2aを貫通するように固定されており、そのヘッド部12aは枠体2aの上面に形成された凹部2c内に収納され、そのピン先端部12bは第1架台2よりも下方に突出し、開口部15を通じて弾性体10の内部に進入している。
この際、
図3に示すように、位置決めピン11と同様、作動ピン12と開口部15の開口端との間にも隙間が確保されている。そして、この作動ピン12は、
図4に示すように、第1架台2と共に水平移動した際、開口部15の開口端に接触して弾性体10を傾斜させる外力を付与する役割を果している。
【0029】
(振動減衰装置の作用)
次に、上記のように構成された振動減衰装置1の作用について説明する。
まず、平常時、運転、駆動等によって防振対象物Wから振動が発せられると、その振動エネルギーによって防振対象物W及び第1架台2は、第2架台3に対して相対的に水平移動及び鉛直移動しながら三次元的に微小移動する。このとき、第1架台2と第2架台3とを連結している第1減衰体4が、上記振動の振動エネルギーを減衰させるので、振動エネルギーを徐々に低減させることができる。これにより、防振対象物Wを防振でき、該防振対象物Wから発生された振動が第2架台3を通じて設置面G側に伝達されてしまうことを抑制することができる。
なお、このとき、作動ピン12が開口部15の開口端に接触することがないので、弾性体10が傾斜することがない。従って、弾性体10によって防振効果が阻害されることはない。
【0030】
ところで、地震発生等によって防振対象物Wに対して外部から振動が入力されると、その振動エネルギーによって、防振対象物W及び第1架台2は、第2架台3に対して三次元的に複雑に大きく移動するので、
図6に示すように、第1架台2の一部が矢印Aに示すように下方に沈み込むように水平面に対して傾斜してしまう。このとき、第1架台2と第2架台3との間には、これら第1減衰体4とは別個に第2減衰体5が配設されており、該第2減衰体5における弾性体10が防振対象物W及び第1架台2の水平方向への移動に伴って傾斜する。
具体的には、防振対象物W及び第1架台2が水平方向に移動すると、これに伴って作動ピン12も移動するので、弾性体10の対向面10Aに形成された開口部15の開口端に接触する。これにより、弾性体10に対して横向きの外力を付与でき、弾性体10を速やかに傾斜させることができる。
【0031】
すると、傾斜した弾性体10は、第1架台2と第2架台3との間に挟みこまれながら、弾性復元力により両架台2、3に対して互いに鉛直方向に離間する応力Fを付与する。つまり、傾斜によって、弾性体10における長軸方向L1の両端部のうち、一方の端部側の対向面10Aを利用して第1架台2を上方に押圧し、他方の端部側の対向面10Bを利用して第2架台3を下方に押圧する。これにより、第1架台2と第2架台3とを確実に鉛直方向に離間させることができる。
【0032】
従って、沈み込もうとする第1架台2を上方に押し返して持ち上げることができ、防振対象物W及び第1架台2が傾斜してしまうことを抑制することができる。つまり、第2減衰体5は、入力された振動における水平方向成分の振動エネルギーを上下方向に変換して鉛直方向成分の振動エネルギーとすることができ、この鉛直方向成分の振動エネルギーを減衰によって消費することができる。
【0033】
これにより、ロッキング回転振動の発生を抑制しながら、第2減衰体5によって振動エネルギーを効果的に減衰することができ、防振対象物Wを安定に支持して地震等から保護することができる。特に、第1架台2及び第2架台3の角部付近に第2減衰体5が配設されているので、水平面に対する防振対象物Wの傾斜を効果的に抑制することが可能である。
【0034】
上述したように、本実施形態の振動減衰装置1によれば、平常時における防振機能と、地震発生時における防振対象物Wの保護機能とを同時に奏効できるうえ、防振対象物Wのロッキング回転振動を抑制することができる。
【0035】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0036】
例えば、上記実施形態において、位置決めピン11は必須な構成ではなく、具備しなくても構わない。但し、位置決めピン11を具備することで、弾性体10の位置を安定させることができるので、より好ましい。
また、作動ピン12についても同様に必須な構成ではなく、具備しなくても構わない。但し、作動ピン12を具備することで、防振対象物W及び第1架台2の水平方向への移動に対して、追従性良く弾性体10を傾斜させることができるので、より効果的にロッキング回転振動を抑制でき好ましい。
【0037】
また、弾性体10としては、上記した中空の楕円体に限定されるものではない。例えば、
図7に示すように、上下に向けてそれぞれ凸で湾曲した湾曲板20A、20Bの両端部を接続させることで、断面視楕円形状に形成された弾性体20としても構わない。この際、湾曲板20A、20Bの頂上部に開口部15を形成すれば良い。この場合であっても同様の作用効果を奏効することができる。