特許第5952685号(P5952685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5952685超高密度周波数多重伝送システムにおける複数半導体レーザの周波数安定化装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952685
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】超高密度周波数多重伝送システムにおける複数半導体レーザの周波数安定化装置および方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/0687 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
   H01S5/0687
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-193016(P2012-193016)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-49672(P2014-49672A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100084870
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 香樹
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 浩司
(72)【発明者】
【氏名】釣谷 剛宏
【審査官】 吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−051411(JP,A)
【文献】 特開平09−298511(JP,A)
【文献】 特開2008−103766(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0122904(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数軸上で透過率が周期的に変化する透過特性を有し、その透過特性における複数の透過周波数で光波空間的に分離る光干渉計と、
それぞれの発振周波数が前記光干渉計の透過特性の複数のスロープそれぞれの透過周波数の一つに設定された複数の半導体レーザと、
前記光干渉計からの通過光をそれぞれ電気信号に変換する複数の光ダイオードと、
前記電気信号のそれぞれの揺らぎにより、前記複数の半導体レーザの発振周波数をそれぞれ安定化る手段と、
を備えることを特徴とする複数半導体レーザの周波数安定化装置。
【請求項2】
前記安定化る手段は、前記電気信号のそれぞれを、前記複数の半導体レーザそれぞれからの連続光を直接受光し変換された電気信号と比較した後の電気信号のそれぞれの揺らぎにより、前記複数の半導体レーザの発振周波数をそれぞれ安定化ることを特徴とする請求項1に記載の複数半導体レーザの周波数安定化装置。
【請求項3】
前記安定化る手段は、前記電気信号のそれぞれの揺らぎの低い周波数成分を使用して、前記複数の半導体レーザの発振周波数をそれぞれ安定化ることを特徴とする請求項1または2に記載の複数半導体レーザの周波数安定化装置。
【請求項4】
複数の半導体レーザと、周波数軸上で透過率が周期的に変化する透過特性を有し、その透過特性における複数の透過周波数で光波空間的に分離る光干渉計と、前記光干渉計からの通過光をそれぞれ電気信号に変換する複数の光ダイオードとを備える送信器における複数半導体レーザの周波数安定化方法であって、
前記複数の半導体レーザのそれぞれの発振周波数を前記光干渉計の透過特性の複数のスロープそれぞれの透過周波数の一つに設定るステップと、
前記電気信号のそれぞれの揺らぎにより、前記複数の半導体レーザの発振周波数をそれぞれ安定化るステップと、
を有することを特徴とする複数半導体レーザの周波数安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ伝送システム、特に、周波数利用効率を極限まで有効活用した超高密度周波数多重伝送システムにおいて、複数半導体レーザの周波数安定化装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数軸に複数光信号を配置する周波数多重分離光ファイバ伝送システムでは、使用可能な光帯域が制限されているために、周波数利用効率の向上が重要である。極限まで周波数利用効率を向上する超高密度周波数多重伝送システムでは、図1(a)に示すように、信号間の周波数ギャップを極力小さくして、信号を配置することが求められる。これに対する主要な制限が、光送信器に使用する連続光発生装置の中心周波数の時間揺らぎである。一般的に、光送信器の連続光発生装置では半導体レーザが使用される。その連続光の中心周波数が時間的にドリフトすると、図1(b)に示すように、周波数多重された信号間でスペクトルのオーバーラップが生じ、信号間にクロストークが発生する。このクロストークを抑圧するには、連続光発生装置で、複数台の半導体レーザの周波数間隔を安定化することが必須となる。
【0003】
半導体レーザの周波数安定化の一般的な方法は、非特許文献1に記載される光干渉計を用いるものである。その構成を図2(a)に示す。半導体レーザからの連続光を光干渉計に通過させ、その出力パワーを測定する。図2(b)に示すように、連続光の周波数が光干渉計の透過周波数に近い場合、連続光のパワーの一部が光干渉計を通過する。その光干渉計出力パワーは、連続光の周波数に依存するために、連続光の周波数揺らぎは光干渉計出力パワー揺らぎに変換される。このパワーをエラー信号として半導体レーザの周波数を制御することで、周波数安定化が実現される。
【0004】
別のアプローチは、単一の光干渉計を用いる手法である。特許文献1は、各レーザ出力光をファブリ・ペロー光干渉計に通過し、その出力光をモニタし、各レーザパワー変化の分離には、ロックイン検出の周波数多重分離を用いる。特許文献2は、上記技術を、光周波数分割多重伝送方式に用いる。特許文献3は、ファブリ・ペロー光干渉計を用いて複数レーザの周波数揺らぎをモニタし、各レーザのパワーの分離には時間多重分離を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−15992号公報
【特許文献2】特開平1−164135号公報
【特許文献3】特開平9−298511号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Okoshi and K. Kikuchi, “FrequencyStabilisation of Semiconductor Lasers for Heterodyne-Type Optical CommunicationSysytems,” Electron. Lett., vol.16, No.5, 179 (1980).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1の方法は光干渉計の温度安定性で制限される。一般的な温度調整回路で実現可能な±0.1Kの温度安定性では、1GHz程度の周波数揺らぎが生じる。したがって、複数台の半導体レーザの周波数間隔の揺らぎを1GHz以下に安定化することは極めて困難である。
【0008】
また、一般に、レーザ周波数を制御する信号に、高周波成分が多くなると、レーザ周波数純度が劣化する傾向がある。高周波成分でレーザを制御する必要があるロックイン検出や時間多重分離を用いる特許文献1から3の技術では、レーザのFM雑音が劣化する可能性が大きい。
【0009】
したがって、本発明は、光干渉計の温度安定性に制限されることなく、さらにロックイン検出や時間多重分離を利用することなく、周波数ギャップなく超高密度に周波数多重されるシステムに適用可能な複数半導体レーザの周波数間隔安定化装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明の複数半導体レーザの周波数安定化装置は、周波数軸上で透過率が周期的に変化する透過特性を有し、その透過特性における複数の透過周波数で光波空間的に分離る光干渉計と、それぞれの発振周波数が前記光干渉計の透過特性の複数のスロープそれぞれの透過周波数の一つに設定された複数の半導体レーザと、前記光干渉計からの通過光をそれぞれ電気信号に変換する複数の光ダイオードと、前記電気信号のそれぞれの揺らぎにより、前記複数の半導体レーザの発振周波数をそれぞれ安定化る手段とを備える。
【0011】
また、前記安定化る手段は、前記電気信号のそれぞれを、前記複数の半導体レーザそれぞれからの連続光を直接受光し変換された電気信号と比較した後の電気信号のそれぞれの揺らぎにより、前記複数の半導体レーザの発振周波数をそれぞれ安定化ること好ましい。
【0012】
また、前記安定化る手段は、前記電気信号のそれぞれの揺らぎの低い周波数成分を使用して、前記複数の半導体レーザの発振周波数をそれぞれ安定化ることも好ましい。
【0014】
上記課題を解決するため本発明の複数半導体レーザの周波数安定化方法は、複数の半導体レーザと、周波数軸上で透過率が周期的に変化する透過特性を有し、その透過特性における複数の透過周波数で光波空間的に分離る光干渉計と、前記光干渉計からの通過光をそれぞれ電気信号に変換する複数の光ダイオードとを備える送信器における複数半導体レーザの周波数安定化方法であって、前記複数の半導体レーザのそれぞれの発振周波数を前記光干渉計の透過特性の複数のスロープそれぞれの透過周波数の一つに設定るステップと、前記電気信号のそれぞれの揺らぎにより、前記複数の半導体レーザの発振周波数をそれぞれ安定化るステップとを有する。
【発明の効果】
【0015】
複数台の半導体レーザの周波数を個別の光干渉計を用いて安定化した場合、その安定度は光干渉計透過周波数の温度安定度で決定される。およそ>1GHz/K程度であり、複数台の半導体レーザの周波数間隔を100MHz以下のオーダで安定化するのは容易ではない。一方、本発明の安定度は、光干渉計のFSRの温度安定性で決定される。この揺らぎは、大きく見積もっても、0.1GHz/K以下であり、10MHz以下の安定性は容易に得られる。
【0016】
また、本発明では、半導体レーザに高周波成分のエラー信号を帰還しないように、低周波数成分のみのフィードバックになっており、FM雑音の劣化は極めて少ない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】超高密度に周波数多重された光信号のスペクトル波形(a)、周波数ドリフトによるクロストーク発生(b)を示す。
図2】単一LDの発振周波数安定化法における構成(a)、光干渉計透過率とLDスペクトル波形(b)を示す。
図3】本発明の周波数安定化装置の第1の構成例を示す。
図4】本発明の光干渉計の透過特性(a)、複数半導体レーザの周波数配置(b)を示す。
図5】本発明の周波数安定化装置の第2の構成例を示す。
図6】本発明の周波数安定化装置を平面光導波路で実現する構成を示す。
図7】本発明の周波数安定化装置を空間光学系で実現する構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の実施形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。図3は、本発明の超高密度周波数多重伝送システムにおける周波数安定化装置の第1の構成例を示す。ここでは、光干渉計1台を用いて、4台の半導体レーザの発振周波数の間隔を安定化している。光干渉計では、各レーザからの光波が別々の個所で透過し、出力は空間的に分離される。
【0019】
周波数安定化装置は、複数の半導体レーザ1(LD1〜LD4)、光干渉計2、複数の光ダイオード3(PD1〜PD4)、複数の増幅器4、および複数のLPF(ローパスフィルタ)5を備えている。
【0020】
複数の半導体レーザ1からの連続光を、単一の光干渉計2に通過させ、その出力パワーを光ダイオード3が測定する。半導体レーザ1の周波数揺らぎは、光干渉計2の出力パワーの揺らぎに変換され、光ダイオード3で、電気信号に変換される。この電気信号の揺らぎから、エラー信号を出力し、半導体レーザ1の注入電流、もしくは温度を制御することで、半導体レーザ1の発振周波数を安定化させる。
【0021】
なお、半導体レーザ1の安定化電子回路においてLPF5使用して、半導体レーザ1のFM雑音劣化抑圧し、高周波成分のエラー信号を帰還しないように、低周波数成分のみフィードバックすることも可能である。この場合、半導体レーザ1のゆっくりした周波数の揺らぎに対応することができる。
【0022】
図4は、光干渉計の透過特性(a)、複数半導体レーザの周波数配置(b)を示す。ここで、FSRは信号符号速度周波数とする。光干渉計2は、図4(a)に示すように、周期的にスペクトル波形が繰り返す透過特性を有し、複数の透過周波数を有する。半導体レーザ1の発振周波数を、光干渉計2の透過周波数の一つの付近に設定し、別の半導体レーザ1に対しては、異なる透過周波数を割り当てることで、図4(b)に示すように、単一の光干渉計2で、複数の半導体レーザ1の周波数を単一光干渉計のスロープで一括して安定化することが可能である。
【0023】
図5は、本発明の周波数安定化装置の第2の構成例を示す。本構成例では半導体レーザ1からの連続光は、2分岐され、一方は光ダイオード3が直接受光し、もう一方は、光干渉計2を通過して光ダイオード3が受光する。
【0024】
図4の第1の構成例の場合、半導体レーザ1の出力光(周波数ν)の光パワーをPLD1、光干渉計2通過後の後の透過光の光パワーをT(ν)PLD1、光ダイオード3で変換された電気信号電圧をVPD1とすると、
【数1】
となる。半導体レーザ1の光パワーがPLD1+ΔPLD1に変化すると
【数2】
これより光ダイオード3で変換された電気信号電圧をVPD1の揺らぎΔVPD1
【数3】
となり、光パワーの揺らぎ(ΔPLD1)が、光干渉計出力パワー揺らぎ(ΔVPD1)に変換され、光パワーが揺らぐと周波数に揺らぎが発生したと誤認識される。このため、第1の構成例の場合、半導体レーザ1の光パワーの揺らぎにより安定度が制限される。
【0025】
図5の第2の構成例の場合、半導体レーザ1からの連続光のパワーPLD1を直接受光し変換された電気信号VPD1aと、光干渉計2からの透過光を変換した電気信号VPD1bを比較すると、
【数4】
である。αは構成によって決定される値であり、αPLD1=T(ν)PLD1と調整することで、半導体レーザ1のパワーの揺らぎによる影響を排除できる。これにより、第2の構成例の場合、半導体レーザ1の光パワーの揺らぎの影響を除去することができる。
【0026】
以下に本発明の効果を示す。従来の光干渉計の絶対周波数に安定化させる方法では、0Hzから数えてm番目の透過周波数fの揺らぎΔfと、干渉計長lの揺らぎΔlの関係は、
【数5】
となる。cは光速、nは屈折率である。一方、光干渉計2を用いて、各半導体レーザ1の発振周波数を単一干渉計のスロープで安定させる本発明の場合、FSR周波数の揺らぎΔFSRは、
【数6】
となる。
【0027】
例えば、f〜200THz,FSR〜10GHz、m=20000の場合、Δf〜1GHzである一方、ΔFSR〜0.05MHzとなり、FSRに安定化させる本発明は、従来の光干渉計の絶対周波数に安定化させるものに比べ、1万倍の安定度が得られる。
【0028】
本発明の周波数安定化装置を実現する方法として、図3および図5に記載されたインライン光部品をつなぎ合わせる構成のほかに平面光導波路(PLC)を用いる方法と、空間光学系で実現する方法がある。
【0029】
図6は、本発明の周波数安定化装置を平面光導波路で実現する構成を示す。光導波路で光干渉計だけでなく、半導体レーザからの出力光の連結も実現する。図7は、本発明の周波数安定化装置を空間光学系で実現する構成を示す。四角内の示している→の矢印は空間伝搬であり、周波数の分離は空間で行われる。なお、図6および図7は、第2の構成例に対応する例であるが、第1の構成例にも適用可能である。
【0030】
また、以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様および変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲およびその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0031】
1 半導体レーザ
2 光干渉計
3 光ダイオード
4 増幅器
5 LPF
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7