(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら前述したECミラーでは、EC層の背面側に反射膜兼電極膜を形成する際に、反射膜兼電極膜の材料がEC層の側面に回り込んで透明導電膜まで到達する場合がある。これにより、透明導電膜と反射膜兼電極膜とが短絡して、EC層を発色させることができなくなる。
【0006】
特許文献1発明のECミラーでは、透明導電膜、EC層および反射膜兼電極膜が順次ずれた状態で配置されている。しかしながら、ガラス基板の法線方向から見て長方形状に形成された透明導電膜、EC層および反射膜兼電極膜を長方形の短辺方向に沿ってずらした場合には、各層の長辺がずれた状態で配置されるものの、各層の短辺は一部が重なった状態で配置される。この場合には、その短辺の一部において、前述した透明導電膜と反射膜兼電極膜との短絡が発生するおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、電極間の絶縁性を確保しうるECミラーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエレクトロクロミックミラーは以下の構成を採用した。
(1)透明基板の第1面上に、透明電極膜と、電圧の印加により発色するEC層と、反射電極膜とが、順次積層されたエレクトロクロミックミラーにおいて、前記透明基板の法線方向から見て、前記エレクトロクロミック層の第1方向に前記透明電極膜のはみ出し部が形成されるとともに、前記エレクトロクロミック層の第2方向に前記反射電極膜のはみ出し部が形成され、前記法線方向から見て、前記透明電極膜と前記反射電極膜とが重なる重畳領域の全体が、前記エレクトロクロミック層の内側に包含されている構成とした。
【0009】
この構成により、透明電極膜はみ出し部および反射電極膜はみ出し部に給電端子を接続してエレクトロクロミック層に電圧を印加すれば、エレクトロクロミックミラーを駆動することができる。ここで、前記法線方向から見て前記重畳領域の全体がエレクトロクロミック層の内側に包含されているので、前記法線方向から見てエレクトロクロミック層の側面と透明電極膜および反射電極膜の両方とが重なることはない。そのため反射電極膜を形成する際に、反射電極膜の材料がエレクトロクロミック層の側面に回り込んで透明電極膜まで到達するのを防止できる。したがって、反射電極膜と透明電極膜との間の絶縁性を確保することができる。
【0010】
(2)前記(1)のエレクトロクロミックミラーにおいて、前記法線方向から見て、前記エレクトロクロミック層の外形は、前記透明電極膜の外形および前記反射電極膜の外形より大きく形成されていることが望ましい。
この構成によれば、重畳領域の全体がエレクトロクロミック層の内側に包含されている状態を確実に実現することができる。
【0011】
(3)前記(1)または(2)のエレクトロクロミックミラーにおいて、前記法線方向から見て、前記透明電極膜、前記エレクトロクロミック層および前記反射電極膜は、長手方向および短手方向を有する形状に形成されるとともに、前記短手方向に順次ずれて配置され、前記法線方向から見て、前記透明電極膜のはみ出し部には前記長手方向に沿って透明電極用給電端子が接続され、前記反射電極膜のはみ出し部には前記長手方向に沿って反射電極用給電端子が接続されていることが望ましい。
この構成によれば、透明電極膜の長手方向に沿って透明電極用給電端子が接続されるので、両者間の接触面積が大きくなり、両者間の接触抵抗を低減することができる。また、透明電極用給電端子から透明電極膜の面内各部を経由した反射電極膜までの距離が短くなるので、エレクトロクロミックミラーの応答速度を速めることができる。
【0012】
(4)前記(3)のエレクトロクロミックミラーにおいて、前記透明電極膜のはみ出し部と前記透明電極用給電端子との接触面積が、前記反射電極膜のはみ出し部と前記反射電極用給電端子との接触面積より大きいことが望ましい。
この構成によれば、相対的に電気抵抗が大きい透明電極膜側の接触面積を大きくすることで、透明電極用給電端子から透明電極膜の面内各部を経由した反射電極膜までの距離が短くなるので、エレクトロクロミックミラーの応答速度を速めることができる。なお、相対的に電気抵抗が大きい透明電極膜側の接触面積を大きくすることで、透明電極膜と反射電極膜との抵抗差が小さくなる。抵抗差が大きいと、電圧印加時の発色変化が透明電極用給電端子の近傍から徐々に発生するが、抵抗差を小さくすることで、着色変化を面内で略同時に発生させることができる。一方、反射電極膜側の接触面積を小さくすることで、反射電極用給電端子のレイアウト自由度を高めることができ、また反射電極用給電端子を小型化、軽量化および低コスト化することができる。
【0013】
(5)前記(1)ないし(4)のいずれか1つのエレクトロクロミックミラーにおいて、前記透明基板を保持するミラーホルダを備え、前記ミラーホルダは、前記透明基板の前記第1面の裏面である第2面の周縁部を覆うように形成されていることが望ましい。
透明基板の周縁部はエレクトロクロミックミラーの発色および消色の切替えが困難な部分であるため、この部分をミラーホルダで覆うことにより、エレクトロクロミックミラーの見栄えを向上させることができる。
【0014】
(6)透明基板の第1面上に、透明電極膜と、電圧の印加により発色するエレクトロクロミック層と、反射電極膜とが、順次積層されたエレクトロクロミックミラーにおいて、前記透明基板の法線方向から見て、前記透明電極膜の内側にエレクトロクロミック層の全体が包含され、前記エレクトロクロミック層の内側に前記反射電極膜の全体が包含されている構成とした。
この構成によれば、エレクトロクロミック層の内側に反射電極膜の全体が包含されているので、反射電極膜を形成する際に、反射電極膜の材料がエレクトロクロミック層の側面に回り込むのを防止できる。したがって、反射電極膜と透明電極膜との間の絶縁性を確保することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射電極膜を形成する際に、反射電極膜の材料がエレクトロクロミック層の側面に回り込んで透明電極膜まで到達するのを防止できる。したがって、反射電極膜と透明電極膜との間の絶縁性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態につき図面を参照して説明する。本発明のエレクトロクロミック(以下「EC」と略す場合がある。)ミラーは、車両用ミラーなど様々なミラーに適用可能であるが、以下には車両用ミラーに適用した場合を例にして説明する。以下の各図では、車両の前後方向をX方向(前方を+X方向、後方を−X方向)とし、車両の左右方向をY方向(右方を+Y方向、左方を−Y方向)とし、車両の上下方向をZ方向(上方を+Z方向、下方を−Z方向)として説明する場合がある。
【0018】
図1は乗用車両の車室2の前部を後方から見た図である。車室2の内部において、天井部4の前方中央部にはルームミラー9が設置されている。ルームミラー9は、鏡面の法線方向を車両後方に向けて配置されている。ルームミラー9は、車両の左右方向を長手方向とし、上下方向を短手方向とする略長方形状に形成されている。なおルームミラー9は、短辺を曲線としたトラック形状に形成されていてもよい。また一対の長辺は互いに略直線であるが、厳密には少なくとも一方の長辺(
図1では上辺)が緩やかな(曲率半径が大きい)曲線で形成されてもよい。車両の運転者は、ルームミラー9を介して車両の後方の状態を視認することができる。車室2の外部において、ドア6の前方上部にはドアミラー109が設置されている。車両の運転者は、ドアミラー109を介して車両の斜め後方の状態を視認することができる。本発明のECミラー10は、ルームミラー9やドアミラー109など様々な車両用ミラーに適用可能であるが、以下にはルームミラー9に適用した場合を例にして説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図2は第1実施形態に係るECミラー10の正面図である。
図3は第1実施形態に係るECミラー10の説明図であって、
図2のA−A線における断面図である。
図3に示すように、ECミラー10は、ECミラー本体20と、ECミラー本体20に給電する給電端子40と、ECミラー本体20を被覆するイオン絶縁材50と、ECミラー本体20を支持するミラーホルダ11とを備えている。ECミラー本体20は、透明基板21の+X面(第1面)上に、透明電極膜22と、電圧の印加により発色するEC層30と、反射電極膜26とが順次積層されて形成されている。
【0020】
透明基板21は、可視光透過性を有する材料(ガラス等)により形成されている。透明電極膜22は、可視光透過性および導電性を有する材料(ITO等)により、例えば200nmの厚さに形成されている。反射電極膜26は、可視光反射性および導電性を有する金属材料(アルミニウム(Al)や銀(Ag)等)により、例えば130nmの厚さに形成されている。ECミラー10では、透明基板21の−X面から入射した可視光が、反射電極膜26で反射して、透明基板21の−X面から出射する。
【0021】
EC層30は、酸化発色膜32と、固体電解質膜34と、還元発色膜36とが順次積層されて形成されている。酸化発色膜32、固体電解質膜34および還元発色膜36は、いずれも可視光透過性および電気絶縁性を有している。酸化発色膜32は、酸化反応により発色する材料(酸化イリジウム(IrO
2)および酸化スズ(SnO
2)の混合材料等)により、例えば150nmの厚さに形成されている。固体電解質膜34は、電気化学的に安定な材料(酸化タンタル(Ta
2O
5)等)により、例えば500nmの厚さに形成されている。還元発色膜36は、還元反応により発色する材料(酸化タングステン(WO
3)等)により、例えば500nmの厚さに形成されている。
【0022】
非防眩時のEC層30は無色透明であるため、ECミラー10の反射率が高くなる。そのため、後続車のヘッドライトの反射光が強くなり、夜間に車両を運転する際に眩しさを感じる場合がある。
そこでEC層30を外部電源に接続し、反射電極膜26が透明電極膜22に対して負になるように電圧を印加する。すると、固体電解質膜34に含まれる微量の水分から水素イオンが発生して還元発色膜36に移動するとともに、電子が酸化発色膜32から外部電源を介して還元発色膜36に移動する。その結果、還元発色膜36は還元反応により発色し、酸化発色膜32は酸化反応により発色する。このようにEC層30が発色すると、ECミラー10の反射率が低くなり、反射光が弱くなって眩しさが低減される。
【0023】
なお、EC層30への電圧印加を停止しても、電子は固体電解質膜34を移動しないので、EC層30の発色状態が維持される。一方、EC層30に前記電圧(順電圧)とは逆の電圧(逆電圧)を印加すると、水素イオンが還元発色膜36から固体電解質膜34に移動するとともに、電子が還元発色膜36から外部電源を介して酸化発色膜32に移動する。これにより、EC層30の発色が解消(消色)される。
【0024】
例えば、酸化発色膜32が酸化イリジウム(IrO
2)で形成され、固体電解質膜34が酸化タンタル(Ta
2O
5)で形成され、還元発色膜36が酸化タングステン(WO
3)で形成されている場合には、消色時および発色時において各膜で以下のような反応が生じる。
(消色時)
酸化発色膜32 : Ir(OH)
n+xOH
−
固体電解質膜34 : Ta
2O
5+xH
2O
還元発色膜36 : WO
3+xH
++xe
−
(発色時)
酸化発色膜32 : Ir(OH)
n+x+xe−
固体電解質膜34 : Ta
2O
5+xH
++xOH
−
還元発色膜36 : H
xWO
3
【0025】
図4はECミラー本体20の背面図であって、透明基板21の法線方向である+X方向からECミラー本体20を見た図である。
図5は
図4のP部における拡大図である。なお
図4および
図5では、透明基板21の輪郭を実線で表し、透明電極膜22の輪郭を一点鎖線で表し、EC層30の輪郭を破線で表し、反射電極膜26の輪郭を二点鎖線で表している。なお
図4および
図5では、イオン絶縁材50の図示を省略している。
【0026】
前述したようにルームミラーは略長方形状に形成されているので、
図4に示すように透明基板21も略長方形状に形成されている。また透明電極膜22、EC層30および反射電極膜26も、Y方向を長手方向としZ方向を短手方向とする略長方形状に形成されている。そして透明電極膜22、EC層30および反射電極膜26は、Z方向に順次ずれて配置されている。これにより、EC層30の+Z方向(第1方向)に透明電極膜22のはみ出し部(透明電極膜はみ出し部)22eが形成されるとともに、EC層30の−Z方向(第2方向)に反射電極膜26のはみ出し部(反射電極膜はみ出し部)26eが形成されている。
【0027】
図3に戻り、透明電極膜はみ出し部22eには透明電極用給電端子40aが接続され、反射電極膜はみ出し部26eには反射電極用給電端子40bが接続されている。
【0028】
反射電極用給電端子40bは、導電性を有する金属材料(アルミニウム(Al)等)で形成されている。反射電極用給電端子40bは、反射電極膜はみ出し部26eの+X面に当接する電極当接部42と、透明基板21の−X面に当接する基板当接部44と、両者を連結する連結部46と、電極当接部42から+X方向に立設されたポスト部48とを備えている。反射電極用給電端子40bは、電極当接部42、基板当接部44および連結部46により、反射電極膜はみ出し部26eおよび透明基板21を挟持することで、ECミラー本体20に固定されている。以上は透明電極用給電端子40aについても同様である。
【0029】
図4に示すように、透明電極用給電端子40aの連結部46はY方向に沿って連続的に形成されているが、電極当接部42(および基板当接部)は断続的に形成されている。すなわち電極当接部42(および基板当接部)は、複数の小片が間隔を開けて並ぶように形成されている。透明電極用給電端子40aは、金属平板を所定形状に打ち抜いた後、連結部46を透明基板21の側面に沿って湾曲させつつ、電極当接部42を透明電極膜はみ出し部26eの+X面に折り曲げて(および基板当接部を透明基板21の−X面に折り曲げて)固定される。ここで、電極当接部42(および基板当接部)が断続的に形成されているので、連結部46を湾曲させるのが容易になり、また電極当接部42(および基板当接部)を折り曲げるのが容易になる。以上は反射電極用給電端子40bについても同様である。
【0030】
前述したように透明電極膜22、EC層30および反射電極膜26は、短手方向であるZ方向に順次ずれて配置されている。そのため反射電極膜はみ出し部26eおよび透明電極膜はみ出し部22eは、長手方向であるY方向に延在している。そして反射電極膜はみ出し部26eには、Y方向に沿って反射電極用給電端子40bの電極当接部42が接続されている。また透明電極膜はみ出し部22eには、Y方向に沿って透明電極用給電端子40aの電極当接部42が接続されている。これにより、透明電極膜22と透明電極用給電端子40aとの接触面積が大きくなり、両者間の接触抵抗を低減することができる。また、透明電極用給電端子40aから透明電極膜22のYZ面内各部までの距離が短くなるので、ECミラー10の応答速度を速めることができる。
【0031】
図4に示すように、透明電極膜はみ出し部22eと透明電極用給電端子40aの電極当接部42との接触面積は、反射電極膜はみ出し部26eと反射電極用給電端子40bの電極当接部42との接触面積より大きくなっている。一般に、透明導電性材料からなる透明電極膜22の電気抵抗は、金属材料等からなる反射電極膜26の電気抵抗より大きい。そこで、透明電極膜22側の接触面積を大きくすることで、透明電極用給電端子40aから透明電極膜22のYZ面内各部を経由した反射電極膜26までの距離が短くなるので、ECミラー10の応答速度を速めることができる。なお、相対的に電気抵抗が大きい透明電極膜22側の接触面積を大きくすることで、透明電極膜22と反射電極膜26との抵抗差が小さくなる。抵抗差が大きいと、電圧印加時の発色変化が透明電極用給電端子40aの近傍から徐々に発生するが、抵抗差を小さくすることで、着色変化を面内で略同時に発生させることができる。一方、反射電極膜26側の接触面積を小さくすることで、反射電極用給電端子40bのレイアウト自由度を高めることができ、また反射電極用給電端子40bを小型化、軽量化および低コスト化することができる。
【0032】
ところで、前述したようにEC層30の発色には水素イオン等の陽イオンの移動が大きな役割を果たしている。このEC層30に外部から陽イオン(例えばナトリウムイオン)が侵入して、水酸化物(例えばNaOH)等の化合物を生成すると、EC層30の内部における陽イオン伝導率が低下し、酸化還元反応が抑制されてしまう。そのため、外部からEC層30への陽イオン侵入を防止する必要がある。
【0033】
そこで
図3に示すように、ECミラー本体20はイオン絶縁材50によりコーティングされている。イオン絶縁材50は、金属イオン等の陽イオンを遮断する材料(酸化アルミニウム(Al
2O
3)等)で形成されている。イオン絶縁材50は、ECミラー本体20の鏡面となる透明基板21の−X面を露出させた状態で、ECミラー本体20の他の部分を覆っている。
【0034】
図3に示すミラーホルダ11は、樹脂材料等で形成されている。ミラーホルダ11は、図示しない部分でECミラー本体20に固定され、ECミラー本体20を保持している。ミラーホルダ11は、ECミラー本体20の鏡面となる透明基板21の−X面を露出させた状態で、他の部分を覆っている。ただしミラーホルダ11は、透明基板21の−X面の中央部を露出させつつ、−X面(第2面)の周縁部を覆う額縁部12を備えている。透明基板21の周縁部はECミラー10の発色および消色の切替えが困難な部分であるため、この部分をミラーホルダ11の額縁部12で覆うことにより、ECミラー10の見栄えを向上させることができる。
【0035】
図示しないがECミラー10は、車両周辺の明るさを検知する周辺光センサと、車両後方からECミラー10への入射光の強さを検知する入射光センサとを備えている。また、周辺光センサおよび入射光センサの検知結果が入力される制御部が設けられている。また、給電端子40は電源に接続されている。制御部は、周辺光センサおよび入射光センサの検知結果から、周囲が暗い状態で後方から強い光がECミラー10に入射したか判断する。判断がYesに転じた場合には、制御部が電源を駆動しEC層30に順電圧を所定時間だけ印加して、EC層30を発色させる。判断がNoに転じた場合には、制御部が電源を駆動しEC層30に逆電圧を所定時間だけ印加して、EC層30の発色を解消する。
【0036】
(電極膜の分離構造)
前述したように、透明電極膜22、EC層30および反射電極膜26は、Z方向に順次ずれて配置されている。
図5に示すように、+X方向から見て、透明電極膜22と反射電極膜26とが重なる重畳領域24(
図5においてハッチングを付した領域)が存在し、その重畳領域24の全体がEC層30の内側に包含されている。なおEC層30の外形(特にY方向の長さ)は、透明電極膜22の外形および反射電極膜26の外形より大きく形成されている。そのため、(特にY方向において)重畳領域24の全体がEC層30の内側に包含されている状態を確実に実現することができる。
【0037】
このように、+X方向から見て重畳領域24の全体がEC層30の内側に包含されているので、透明電極膜はみ出し部22eと反射電極膜はみ出し部26eとが重ならない。すなわち、Z方向における透明電極膜はみ出し部22eと反射電極膜はみ出し部26eとの中間領域にはEC層30が介在し、両者間がEC層30により電気的に分離されている。
図6は
図5のB−B線(前述した中間領域)における断面図である。
図6に示すように、前述した中間領域では、透明電極膜22のY方向端部および反射電極膜26のY方向端部より外側に、EC層30がはみ出し形成されている。この場合、+X方向から見てEC層30の側面は、透明電極膜22および反射電極膜26のいずれとも重なっていない。
【0038】
一方、
図3に示すように、ECミラー本体20の+Z側の領域では、透明電極膜22の端部がEC層30の端部より+Z方向にはみ出し形成されているものの、反射電極膜26の端部はEC層30の端部より−Z方向に引っ込み形成されている。この場合、+X方向から見てEC層30の側面は、透明電極膜22と重なっているものの、反射電極膜26とは重なっていない。
また、ECミラー本体20の−Z側の領域では、反射電極膜26の端部がEC層30の端部より−Z方向にはみ出し形成されているものの、透明電極膜22の端部はEC層30の端部より+Z方向に引っ込み形成されている。この場合、+X方向から見てEC層30の側面は、反射電極膜26と重なっているものの、透明電極膜22とは重なっていない。
【0039】
このように、+X方向から見て重畳領域24の全体がEC層30の内側に包含されているので、ECミラー本体20の全周にわたって、EC層30の側面と、透明電極膜22および反射電極膜26の両方とが重なることはない。そのため、反射電極膜26を形成する際に、反射電極膜26の材料がEC層30の側面に回り込んで透明電極膜22まで到達するのを防止できる。
【0040】
(ECミラーの製造方法)
前述したECミラー10の製造方法について説明する。
図7〜
図10は、第1実施形態に係るECミラー10の製造方法の説明図であって、
図2のA−A線に相当する部分における断面図である。
図7〜
図10の(a)は成膜前の状態であり、(b)は成膜後の状態である。各膜の成膜には、スパッタリングや蒸着等のあらゆる成膜方法が利用可能である。
【0041】
最初に
図7に示すように透明電極膜22を成膜する。具体的には、まず
図7(a)に示すように、第1成膜治具91に透明基板21をセットする。第1成膜治具91は、透明基板21の+X側を露出する開口部91wを有している。開口部91wのZ方向中央部91cは、透明基板21のZ方向中央部21cより+Z側に配置されている。次に
図7(b)に示すように、第1成膜治具91をマスクとし、開口部91wを通して、透明基板21の+X側に透明電極膜22を成膜する。これにより、透明電極膜22のZ方向中央部22cが、透明基板21のZ方向中央部21cより+Z側にずれた状態で、透明電極膜22が形成される。
【0042】
次に
図8に示すようにEC層30を成膜する。具体的には、まず
図8(a)に示すように、第2成膜治具92に透明基板21をセットする。第2成膜治具92は、透明基板21の+X側を露出する開口部92wを有している。開口部92wのZ方向中央部92cは、透明基板21のZ方向中央部21cと略同位置に配置されている。次に
図8(b)に示すように、第2成膜治具92をマスクとし、開口部92wを通して、透明基板21の+X側にEC層30を成膜する。EC層30として、酸化発色膜32、固体電解質膜34および還元発色膜36を順次成膜する。これにより、EC層30のZ方向中央部30cが透明基板21のZ方向中央部21cと略同位置に配置された状態で、EC層30が形成される。
【0043】
次に
図9に示すように反射電極膜26を成膜する。具体的には、まず
図9(a)に示すように、第3成膜治具93に透明基板21をセットする。第3成膜治具93は、透明基板21の+X側を露出する開口部93wを有している。開口部93wのZ方向中央部93cは、透明基板21のZ方向中央部21cより−Z側に配置されている。次に
図9(b)に示すように、第3成膜治具93をマスクとし、開口部93wを通して、透明基板21の+X側に反射電極膜26を成膜する。これにより、反射電極膜26のZ方向中央部26cが透明基板21のZ方向中央部21cより−Z側にずれた状態で、反射電極膜26が形成される。
【0044】
以上により、ECミラー本体20が完成する。
このように、開口部の位置をずらした第1成膜治具91、第2成膜治具92および第3成膜治具93を順次使用して成膜することにより、透明電極膜22、EC層30および反射電極膜26をZ方向に順次ずれた状態で成膜することができる。
【0045】
次に
図10(a)に示すように、ECミラー本体20に給電端子40を接続する。具体的には、透明電極用給電端子40aの連結部46を透明基板21の側面に沿って配置し、電極当接部42を折り曲げて透明電極膜はみ出し部22eの+X面に当接させ、基板当接部44を折り曲げて透明基板21の−X面に当接させ、電極当接部42および基板当接部44が接近する方向にかしめる。これにより、透明電極用給電端子40aがECミラー本体20に対して機械的および電気的に接続される。なおポスト部48の+X方向先端にはキャップ99を被せておく。以上は反射電極用給電端子40bについても同様である。
【0046】
次に
図10(b)に示すように、ECミラー本体20をイオン絶縁材50でコーティングする。具体的には、透明基板21の−X面を隠した状態で、給電端子40が装着されたECミラー本体20の表面にイオン絶縁材50を成膜する。その際、給電端子40のポスト部48の先端にキャップ99が装着されているので、ポスト部48の先端にイオン絶縁材50が付着することはない。
そしてキャップ99を取り外し、
図3に示すミラーホルダ11の内部に固定すれば、ECミラー10が完成する。
【0047】
以上に詳述したように、第1実施形態に係るECミラー10は、透明基板21の+X面上に、透明電極膜22と、電圧の印加により発色するEC層30と、反射電極膜26とが順次積層され、+X方向から見て、EC層30の+Z側に透明電極膜22のはみ出し部22eが形成されるとともに、EC層30の−Z側に反射電極膜26のはみ出し部26eが形成され、+X方向から見て、透明電極膜22と反射電極膜26とが重なる重畳領域24の全体が、EC層30の内側に包含されている構成とした。
【0048】
この構成により、透明電極膜はみ出し部22eおよび反射電極膜はみ出し部26eに給電端子を接続してEC層に電圧を印加すれば、ECミラーを駆動することができる。ここで、+X方向から見て重畳領域24の全体がEC層30の内側に包含されているので、EC層30の側面と透明電極膜22および反射電極膜26の両方とが重なることはない。そのため、反射電極膜26(特に反射電極膜はみ出し部26e)を形成する際に、反射電極膜26の材料がEC層30の側面に回り込んで透明電極膜22まで到達するのを防止できる。したがって、透明電極膜22と反射電極膜26との間の絶縁性を確保することができる。
【0049】
(第2
参考形態)
図11は第2参考形態に係るECミラー210の説明図であって、
図2のA−A線に相当する部分における断面図である。
図3に示す第1実施形態のECミラー10は、EC層30の+Z側に透明電極膜22のはみ出し部22e形成されるとともに、EC層30の−Z側に反射電極膜26のはみ出し部26eが形成されていた。これに対して、
図11に示す第2
参考形態に係るECミラー210は、透明電極膜22の内側にEC層30の全体が包含され、EC層30の内側に反射電極膜26の全体が包含されている点で異なっている。なお第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0050】
図11に示すように、ECミラー210は、透明基板21の+X面上に、透明電極膜22とEC層30と反射電極膜26とが順次積層されている。そして+X方向から見て、透明電極膜22の内側にEC層30の全体が包含され、EC層30の内側に反射電極膜26の全体が包含されている。これにより、透明電極膜22と反射電極膜26とが重なることなく、両者間がEC層30により電気的に分離される。
【0051】
EC層30の+X面上に、反射電極膜26と並んで、透明電極接続膜23が形成されている。透明電極接続膜23は、EC層30の側面を通って、透明電極膜22の+X面に連結されている。透明電極接続膜23は、導電性を有する金属材料(アルミニウム(Al)等)で形成されている。なお、反射電極膜26および透明電極接続膜23は同じ材料で形成されていることが望ましい。この場合には、反射電極膜26および透明電極接続膜23を一体形成した上で、レーザエッチング等により溝部23sを形成して両者間を分離すれば、両者を同時に形成することができる。
【0052】
反射電極膜26および透明電極接続膜23の+X側にはパネル部材60が設けられている。パネル部材60は樹脂材料(ポリエチレン等)で形成されている。パネル部材60によりECミラー本体20の+X側が保護されている。
パネル部材60には、パネル部材60を厚さ方向に貫通する一対の貫通電極63,66が形成されている。一方の貫通電極66は導電性接着剤68を介して反射電極膜26に接続され、他方の貫通電極63は導電性接着剤68を介して透明電極接続膜23に接続されている。これにより、パネル部材60の+X面に露出する貫通電極63,66から、ECミラー本体20に給電することができる。
【0053】
透明基板21とパネル部材60との間の周縁部は封止材70で覆われている。封止材70は樹脂材料(エポキシ樹脂等)で形成されている。封止材70によりECミラー本体20の周縁部が保護されている。
【0054】
以上に詳述したように、第2
参考形態に係るECミラー210は、+X方向から見て、透明電極膜22の内側にEC層30の全体が包含され、EC層30の内側に反射電極膜26の全体が包含されている構成とした。この構成によれば、EC層30の内側に反射電極膜26の全体が包含されているので、反射電極膜26を形成する際に、反射電極膜26の材料がEC層30の側面に回り込むのを防止できる。したがって、透明電極膜22と反射電極膜26との間の絶縁性を確保することができる。
【0055】
なお、本発明の技術的範囲は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、前述した実施形態の構成はほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【0056】
例えば、
図3に示す第1実施形態では、EC層30の+Z方向に透明電極膜はみ出し部22eが形成されるとともに、EC層30の−Z方向に反射電極膜はみ出し部26eが形成される構成としたが、透明電極膜はみ出し部22eと反射電極膜はみ出し部26eとは180°反対の方向に形成されている必要はなく、EC層30から見て異なる方向に形成されていればよい。
また、第1実施形態ではEC層30の外形が透明電極膜22の外形および反射電極膜26の外形より大きく形成されている構成としたが、前者が後者と同形状に形成されていてもよく、前者が後者より小さく形成されていてもよい。
【0057】
また、第1実施形態では透明電極膜22、EC層30および反射電極膜26が、短手方向であるZ方向に順次ずれて配置される構成としたが、長手方向であるY方向に順次ずれて配置される構成としてもよい。
また、第1実施形態では透明電極膜はみ出し部22eと透明電極用給電端子40aとの接触面積が、反射電極膜はみ出し部26eと反射電極用給電端子40bとの接触面積より大きい構成としたが、同じ接触面積となるようにしてもよい。この場合には、給電端子を共通化することができる。