特許第5952746号(P5952746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5952746シンチレータ用ガーネット型単結晶、及びこれを用いた放射線検出器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952746
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】シンチレータ用ガーネット型単結晶、及びこれを用いた放射線検出器
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/80 20060101AFI20160630BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20160630BHJP
   G01T 1/202 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C09K11/80
   C09K11/00
   G01T1/202
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-555734(P2012-555734)
(86)(22)【出願日】2012年1月27日
(86)【国際出願番号】JP2012000525
(87)【国際公開番号】WO2012105202
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2015年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-18579(P2011-18579)
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-18583(P2011-18583)
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-18586(P2011-18586)
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】吉川 彰
(72)【発明者】
【氏名】柳田 健之
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 圭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】堤 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴範
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 繁記
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−217456(JP,A)
【文献】 特開2009−046610(JP,A)
【文献】 特開2005−095514(JP,A)
【文献】 特開2002−189080(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/068130(WO,A1)
【文献】 国際公開第99/033934(WO,A1)
【文献】 特開2001−004753(JP,A)
【文献】 特開2009−7545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/80
C09K 11/00
Japio−GPG/FX
REGISTRY(STN)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
Gd3−x−yCeREAl5−zGa12 (1)
〔式(1)中、0.003≦x≦0.15、0≦y≦0.1、2.5≦z≦3.5であり、REはY、及びbから選択される少なくとも1種である〕、
一般式(2):
Gd3−a−bCeLuAl5−cGa12 (2)
〔式(2)中、0.0001≦a≦0.15、0.1<b≦3、<c≦4.5である〕、又は、
一般式(3):
Gd3−p−qCeRE'Al5−rGa12 (3)
〔式(3)中、0.0001≦p≦0.15、0.5≦q≦3、2≦r≦であり、RE'は、Y又はYbである〕
で表され
γ線励起による蛍光発光の発光量が、20000photon/MeV以上であるシンチレータ用ガーネット型結晶。
【請求項2】
蛍光成分が、100ナノ秒以下の蛍光寿命を有する、請求項1に記載のシンチレータ用ガーネット型結晶。
【請求項3】
100ナノ秒を超える蛍光寿命を有する長寿命蛍光成分の強度が、蛍光成分全体の強度に対して20%以下である、請求項1又は2に記載のシンチレータ用ガーネット型結晶。
【請求項4】
蛍光成分の蛍光ピーク波長が460nm以上700nm以下である、請求項1乃至3いずれか一項に記載のシンチレータ用ガーネット型結晶。
【請求項5】
請求項1乃至いずれか一項に記載のシンチレータ用ガーネット型結晶から構成されるシンチレータと、前記シンチレータの発光を検出する受光器とを備える、放射線検出器。
【請求項6】
662keVでのエネルギー分解能が10%以下である請求項1乃至4いずれか一項に記載のシンチレータ用ガーネット型単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ用ガーネット型結晶、及びこれを用いた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータ単結晶はγ線、X線、α線、β線、中性子線等を検出する放射線検出器に用いられ、このような放射線検出器は、陽電子放射断層撮影(PET)装置やX線コンピュータ断層装置(CT装置)などの医療画像装置、高エネルギー物理分野における各種放射線計測装置、資源探査装置などに幅広く応用されている。一般に、放射線検出器は、γ線、X線、α線、β線、中性子線等を吸収し、低エネルギーの複数の光子(シンチレーション光)に変換するシンチレータと、シンチレータ光を受光し、電気信号等に変換する受光素子から構成される。陽電子放射断層撮影法(PET)による癌診断では癌細胞の周りに集結する性質を持つブドウ糖に微量の放射性同位体を混ぜて事前に患者に投与し、そこから発するガンマ線がシンチレータにより複数の低エネルギー光子に変換され、その光子をフォトダイオード(PD)、シリコンフォトマルチプライヤー(Si−PM)、もしくは光電子増倍管(PMT)、または他の光検出器を使用して電気信号に変換し、PC等で電気信号をデータ処理することで画像等の情報を得て癌の位置を発見している。ガンマ線は、180度正反対の方向に1対2本、放出されるが、PET装置では、円周形上に放射線検出器(シンチレータと光検出器で構成)が並んでおり、ガンマ線が当たった2箇所のシンチレータが光を放ち、その光を光検出器が電気信号に変える。後段の回路でこの電気信号を全て収集し、ソフトウエアを用いて画像を再構築することになる。高エネルギー物理学における放射線検出器においても、放射線をシンチレータが複数の低エネルギー光子に変換し、その光子をフォトダイオード(PD)、シリコンフォトマルチプライヤー(Si−PM)、もしくは光電子増倍管(PMT)、または他の受光素子を使用して電気信号に変換し、PC等で電気信号をデータ処理するというプロセスは同様である。
【0003】
PDやSi−PMは、特に放射線検出器やイメージング機器において、広範な用途を有する。様々なPDが知られており、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PMは、感度の高い波長が450〜700nmであり、600nm付近で最も感度が高くなる。そのため、600nm付近に発光ピーク波長を有するシンチレータと組み合わせて使用されている。放射線イメージングには、シンチレータアレーと光検出器のアレーの組み合わせが用いられる。光検出器としては、位置敏感型PMTの他、半導体光検出器のアレー、すなわち、PDアレー、アバランシェ・フォトダイオード・アレー(APDアレー)、ガイガーモードAPDアレーなどが挙げられる。シンチレータアレーのどのピクセルが光ったかを光検出器で同定することで、放射線がシンチレータアレーのどの位置に入ったかを突き止めることができる。
【0004】
そこで、これらの放射線検出器に適するシンチレータには、検出効率の点から密度が高く原子番号が大きいこと(光電吸収比が高いこと)、高速応答の必要性や高エネルギー分解能の点から発光量が多く、蛍光寿命(蛍光減衰時間)が短いことが望まれる。また、シンチレータの発光波長が光検出器の検出感度の高い波長域と一致することも重要である。
【0005】
現在、各種放射線検出器へ応用される好ましいシンチレータとして、ガーネット構造を有するシンチレータがある。ガーネット構造を有するシンチレータは、化学的に安定で、劈開性や潮解性が無く、加工性に優れるという利点がある。例えば、特許文献1に記載の、Pr3+の4f5d準位からの発光を利用するガーネット構造を持つシンチレータは、蛍光寿命が40ns程度以下と短い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/049284号パンフレット
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、発光ピーク波長が350nm以下と短波長であり、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PMの感度の高い波長とは一致しない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、放射線検出器に好適に適用できる、蛍光寿命が短く、高密度、高発光量かつ高いエネルギー分解能を有するシンチレータ用結晶を提供するものである。
【0009】
本発明の第1の側面によれば、
一般式(1):
Gd3−x−yCeREAl5−zGa12 (1)
【0010】
〔式(1)中、0.003≦x≦0.15、0≦y≦0.1、2.5≦z≦3.5であり、REはY、及びbから選択される少なくとも1種である〕で表され
γ線励起による蛍光発光の発光量が、20000photon/MeV以上であるシンチレータ用ガーネット型結晶が提供される。
【0011】
一般式(1)で表されるシンチレータ用ガーネット型結晶によれば、Ceを発光元素とし、Ga、AlとOとを必須成分とし、かつ、Y、Yb及びLuのいずれかを含むガーネット型結晶にGaを含ませたことにより、γ線により励起及び蛍光発光したときの蛍光成分の蛍光ピーク波長をシリコン半導体から構成されるPDやSi−PMの感度の高い波長と一致させることができる。また、上記式(1)で示す結晶構成では、Ga含量を2<zとしたことにより、エネルギーバンド構造が最適化され、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移が促進され、結果として蛍光寿命が短くなり、長寿命発光成分が減少するとともに、発光量が高くなる。さらに、このシンチレータ結晶は、高密度、及び、高いエネルギー分解能を有している。したがって、放射線検出器に好適に適用できる、蛍光寿命が短く、高密度、高発光量かつ高いエネルギー分解能を有するシンチレータ用ガーネット型結晶が実現可能となる。
【0012】
また、本発明の第2の側面によれば、
一般式(2):
Gd3−a−bCeLuAl5−cGa12 (2)
〔式(2)中、0.0001≦a≦0.15、0.1<b≦3、<c≦4.5である〕
で表され
γ線励起による蛍光発光の発光量が、20000photon/MeV以上であるシンチレータ用ガーネット型結晶が提供される。
【0013】
一般式(2)で表されるシンチレータ用ガーネット型結晶によれば、Ceを発光元素とし、AlとOとを必須成分とし、かつ、Luを含むガーネット型結晶に、Gaを含ませたことにより、γ線により励起及び蛍光発光したときの蛍光成分の蛍光ピーク波長をシリコン半導体から構成されるPDやSi−PMの感度の高い波長と一致させることができる。また、上記式(2)で示す結晶構成では、Ga含量を2<cとしたことにより、エネルギーバンド構造が最適化され、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移が促進され、結果として蛍光寿命が短くなり、長寿命発光成分が減少するとともに、発光量が高くなる。さらに、このシンチレータ結晶は、高密度、高発光量かつ高いエネルギー分解能を有しており、特に、Luを0.1<b≦3の範囲で含ませたことにより、高密度の結晶とすることができる。したがって、放射線検出器に好適に適用できる、蛍光寿命が短く、高密度、高発光量かつ高いエネルギー分解能を有するシンチレータ用ガーネット型結晶が実現可能となる。
【0014】
本発明の第三の側面によれば、
一般式(3):
Gd3−p−qCeRE'Al5−rGa12 (3)
〔式(3)中、0.0001≦p≦0.15、0.5≦q≦3、2≦r≦であり、RE'は、Y又はYbである〕
で表され
γ線励起による蛍光発光の発光量が、20000photon/MeV以上であるシンチレータ用ガーネット型結晶が提供される。
【0015】
一般式(3)で表されるシンチレータ用ガーネット型結晶によれば、Ceを発光元素とし、AlとOとを必須成分とし、かつ、Y又はYbを含むガーネット型結晶に、Gaを含ませたことにより、γ線により励起及び蛍光発光したときの蛍光成分の蛍光ピーク波長をシリコン半導体から構成されるPDやSi−PMの感度の高い波長と一致させることができる。また、上記式(3)で示す結晶構成では、Ga含量を2<rとしたことにより、エネルギーバンド構造が最適化され、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移が促進され、結果として蛍光寿命が短くなり、長寿命発光成分が減少するとともに、発光量が高くなる。さらに、このシンチレータ結晶は、高密度、高発光量かつ高いエネルギー分解能を有している。したがって、放射線検出器に好適に適用できる、蛍光寿命が短く、高密度、高発光量かつ高いエネルギー分解能を有するシンチレータ用ガーネット型結晶が実現可能となる。
【0016】
また、本発明によれば、上記のシンチレータ用ガーネット型結晶から構成されるシンチレータと、前記シンチレータの発光を検出する受光器とを備える、放射線検出器が提供される。
【0017】
本発明によれば、放射線検出器に好適に適用できる、高密度、高い発光量、短い蛍光寿命と高いエネルギー分解能を有するシンチレータ用ガーネット型結晶が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0019】
図1】本発明のシンチレータ用ガーネット型結晶をγ線励起させたときの発光量及び蛍光減衰時間を測定する装置の一例を説明する図である。
図2】本発明のシンチレータ用ガーネット結晶をγ線励起させたときに発光する蛍光寿命が短寿命であり、かつ、長寿命成分が低減する原理を説明する図である。
図3】マイクロ引下げ法で作製したGd2.97Ce0.03GaAl12結晶の励起・発光スペクトルを示す図である。
図4】マイクロ引下げ法で作製したGd2.97Ce0.03Al12結晶の励起・発光スペクトルを示す図である。
図5】マイクロ引下げ法で作製したGd2.97Ce0.03GaAl12結晶における137Csからのγ線を照射しPMT(光電子増倍管)を用いたエネルギースペクトルを示す図である。
図6】Gd2.97Ce0.03GaAl12を光電子増倍管に接着し,252Cf中性子線を照射して得られたエネルギースペクトルを示す図である。Gd2.97Ce0.03GaAl12中に含まれるGdと中性子との(n,γ)反応により放出される中性子線がGd2.97Ce0.03GaAl12に吸収されることで生じる中性子ピークを確認した。
図7】マイクロ引下げ法で作製したGd0.97LuCe0.03Ga3.1Al1.912結晶の励起・発光スペクトルを示す図である。
図8】マイクロ引下げ法で作製したGd0.97LuCe0.03Al12結晶の励起・発光スペクトルを示す図である。
図9】マイクロ引下げ法で作製したGd1.97Ce0.03Ga3.1Al1.912結晶の励起・発光スペクトルを示す図である。
図10】マイクロ引下げ法で作製したGd1.97Ce0.03Al12結晶の励起・発光スペクトルを示す図である。
図11】マイクロ引下げ法で作製したGd1.97Ce0.03Ga3.1Al1.912結晶における137Csからのγ線を照射しPMT(光電子増倍管)を用いたエネルギースペクトルを示す図である。
図12】Gd1.97Ce0.03Ga3.1Al1.912を光電子増倍管に接着し,252Cf中性子線を照射して得られたエネルギースペクトルを示す図である。Gd1.97Ce0.03Ga3.1Al1.912中に含まれるGdと中性子との(n,γ)反応により放出される中性子線がGd1.97Ce0.03Ga3.1Al1.912に吸収されることで生じる中性子ピークを確認した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第一のシンチレータ用ガーネット型結晶は、以下の一般式(1)で表される。
Gd3−x−yCeREAl5−zGa12 (1)
式(1)中、0.0001≦x≦0.15、0≦y≦0.1、2<z≦4.5である。REはY、Yb及びLuから選択される少なくとも1種であるが、Yが好ましい。
【0021】
また、第二のシンチレータ用ガーネット型単結晶は、以下の一般式(2)で表される。
Gd3−a−bCeLuAl5−cGa12 (2)
式(2)中、0.0001≦a≦0.15、0.1<b≦3、2<c≦4.5である。
【0022】
また、第三のシンチレータ用ガーネット型単結晶は、以下の一般式(3)で表される。
Gd3−p−qCeRE’Al5−rGa12 (3)
式(3)中、0.0001≦p≦0.15、0.1<q≦3、1<r≦4.5である。RE'は、Y又はYbであるが、Yが好ましい。
【0023】
上記式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶は、γ線で励起させることができ、これにより、蛍光発光させることが可能になる。その発光ピーク波長は、460nm以上700nm以下とすることができ、より好ましくは、480nm以上550nm以下とすることができる。
【0024】
一般式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶は、Ce組成量を好適にすることでで、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移が促進され、結果として蛍光寿命が短くなり、長寿命発光成分が減少するとともに、発光量が高くなる。
具体的には、上記式(1)で表されるガーネット型結晶において、Ceの濃度xは、0.0001≦x≦0.15であり、好ましくは、0.001≦x≦0.15であり、より好ましくは、0.003≦x≦0.15である。
上記式(2)で表されるシンチレータ用ガーネット型結晶において、Ceの濃度aは、0.0001≦a≦0.15であり、好ましくは、0.001≦a≦0.10であり、より好ましくは、0.015≦a≦0.09である。
上記式(3)で表されるシンチレータ用ガーネット型結晶において、Ceの濃度pは、0.0001≦p≦0.15であり、好ましくは、0.001≦p≦0.10であり、より好ましくは、0.015≦p≦0.09である。
【0025】
一般式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶は、Ga組成量を好適にすることで、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移が促進され、結果として蛍光寿命が短くなり、長寿命発光成分が減少するとともに、発光量が高くなる。
上記式(1)で表されるガーネット型結晶において、Gaの濃度zは、2<z≦4.5である。zの下限は、2.2以上であることが好ましく、zの上限は、4.0以下であることが好ましい。
上記式(2)で表されるシンチレータ用ガーネット型結晶において、Gaの濃度cは、2<c≦4.5であり、好ましくは、3<c≦4.5であり、より好ましくは、3<c≦4.0である。
上記式(3)で表されるシンチレータ用ガーネット型結晶において、Gaの濃度rは、1<r≦4.5であり、好ましくは、2<r≦4.5であり、より好ましくは、3<r≦4.5である。
【0026】
上記式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶のγ線励起による蛍光発光の発光量は、20000photon/MeV以上とすることができる。
また、一般式(1)で表されるガーネット型結晶は、式(1)中0.003≦x≦0.15、2.5≦z≦3.5を満たす単結晶にすれば、γ線励起による蛍光発光の発光量を40000photon/MeV以上にすることができる。下限は、特に限定されないが、50000photon/MeV以下であれば、実用的である。
また、上記式(2)で表されるガーネット型結晶の発光量は、式(2)中0.1<b≦2.5、2.5≦c≦3.5を満たす単結晶にすれば、γ線励起による蛍光発光の発光量を35000photon/MeV以上にすることができる。
また、上記式(3)で表されるガーネット型結晶の発光量は、0.5≦q≦3、2≦r≦4を満たす結晶にすれば、γ線励起による蛍光発光の発光量を25000photon/MeV以上にすることができ、式(3)中0.5≦q≦1.5、2.5≦r≦3.5を満たす結晶にすれば、γ線励起による蛍光発光の発光量を35000photon/MeV以上にすることができる。
【0027】
本発明のガーネット型結晶の発光量とは、φ3×2mmサイズの結晶を25℃で測定したものをいい、例えば、図1のような測定装置を用いて測定することができる。この測定装置では、暗箱10内に、137Csγ線源11と、測定サンプルであるシンチレータ12と、光電子増倍管14とが備えられている。シンチレータ12は、光電子増倍管14に、テフロンテープ13を用いて物理的に固着されるとともに、光学接着剤等により光学接着されている。そして、137Csγ線源11から、622keVのγ線をシンチレータ12に照射し、光電子増倍管14より出力される、パルス信号を前置増幅器15、波形整形増幅器16へと入力し、増幅・波形整形し、さらにマルチチャンネルアナライザ17へと入力し、パーソナルコンピュータ18を用いて137Csγ線励起のエネルギースペクトルを取得する。得られたエネルギースペクトル中の光電吸収ピークの位置を既知のシンチレータであるCe:LYSO(発光量:33000photon/MeV)と比較し、光電子増倍管14の波長感度をそれぞれ考慮し、発光量を最終的に算出する。
この測定方法では、シンチレーションカウンティング法による発光量を測定しており、放射線に対する光電変換効率を求めることができる。そのため、シンチレータが持つ固有の発光量を測定することができる。
【0028】
上記式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶は、Gaを所定範囲で含有するため、γ線励起による蛍光発光の蛍光寿命(蛍光減衰時間)を100ナノ秒以下、好ましくは、80ナノ秒以下、より好ましくは、75ナノ秒以下にすることができる。また、上記式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶は、Gaを所定範囲で含有するため、長寿命成分も顕著に低減することができ、例えば、蛍光寿命が100ナノ秒を超える長寿命成分の強度を、蛍光成分全体の強度に対して20%以下にすることができる。
【0029】
上記式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶が、蛍光寿命を短くでき、かつ、長寿命成分を顕著に低減できる理由は、以下のように推察することができる。
一般的にガーネット型結晶は化学式C12で表される立方晶の結晶構造を有し、図2のような模式図で示される。ここでCはドデカヘドラル(Dodechahedral)サイト、Aはオクタヘドラル(Octahedral)サイト、Dはテトラヘドラル(Tetrahedral)サイトで、各サイトがO2−イオンで囲まれている。例えば、Gd、Al、Oから構成されるガドリニウムアルミニウムガーネットではGdAlAl12のように表記される。より一般的にはGdAl12と簡易的に表記され、Gdがドデカヘドラルサイトに、Alはオクタヘドラル及びテトラヘドラルサイトに配置することが知られている。ここで、例えばGdAl12におけるAlのサイトにGaを置換した場合には、Gaはオクタヘドラル及びテトラヘドラルサイトにランダムに置換されることが知られている。また、Y,Lu,Ybといった希土類元素をGdのサイトに置換した場合には、ドデカヘドラルサイトに置換されることが知られている。例えば、GdAl12におけるAlのサイトにGaを置換した場合,結晶格子が変化し、格子定数はGdAl12で12.11Å、GdGa12で12.38Åといったように変化する。このように、AlのサイトへのGa置換により、結晶格子が変化すると、結晶場が変化し、エネルギーバンド構造も変化することになる。
上記一般式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶では、最適なGa置換量をとることで、エネルギーバンド構造が最適化され、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移現象が促進され、かつCe3+の4fd5発光も促進される。したがって、蛍光寿命が短寿命化され、かつ長寿命成分が低減するものと考えられる。
【0030】
本発明において、γ線励起による蛍光発光の蛍光減衰時間は、例えば、上述の図1で示す測定装置を用いて測定することができる。具体的には、137Csγ線源11からγ線をシンチレータ12に照射し、デジタルオシロスコープ19を用いて、光電子増倍管14より出力されるパルス信号を取得し、蛍光減衰成分を解析することで、各蛍光減衰成分の蛍光減衰時間、及び、蛍光寿命成分全体の強度に対する各蛍光減衰成分の強度の割合を算出することができる。
【0031】
また、上記式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶は、高密度の結晶とすることができる。
具体的には、上記式(1)で表されるガーネット型結晶の密度は、6.5〜7.1g/cmの範囲とすることができる。
また、上記式(2)で表されるガーネット型結晶の密度は、6.7〜7.8g/cmの範囲にすることができる。
また、上記式(3)で表されるガーネット型結晶の密度は、5.3〜6.6g/cmの範囲にすることができる。
【0032】
つづいて、本発明のガーネット型結晶の製造方法について、以下に説明する。いずれの組成の結晶の製造方法においても、出発原料としては、一般的な酸化物原料が使用可能であるが、シンチレータ用結晶として使用する場合、99.99%以上(4N以上)の高純度原料を用いることが特に好ましく、これらの出発原料を、融液形成時に目的の組成となるように秤量、混合したものを用いる。さらにこれらの原料中には、特に目的とする組成以外の不純物が極力少ない(例えば、1ppm以下)ものが特に好ましい。特に発光波長付近に発光を有する元素(例えば、Tbなど)を極力含まない原料を用いることが好ましい。
【0033】
結晶の育成は、不活性ガス(例えば、Ar、N、He等)雰囲気下で行うことが好ましい。または、不活性ガス(例えば、Ar、N、He等)と酸素ガスとの混合ガスを使用してもよい。ただし、この混合ガスの雰囲気下で結晶の育成を行う場合、坩堝の酸化を防ぐ目的で、酸素の分圧は2%以下であることが好ましい。なお、結晶成長後のアニールなどの後工程においては、酸素ガス、不活性ガス(例えば、Ar、N、He等)、及び不活性ガス(例えば、Ar、N、He等)と酸素ガスとの混合ガスを用いることができる。混合ガスを用いる場合、酸素分圧は2%以下という制限は受けず、酸素分圧0%から100%までいずれの混合比のものを使用してもよい。
【0034】
本発明のガーネット型結晶の製造方法としては、マイクロ引き下げ法に加え、チョコラルスキー法(引き上げ法)、ブリッジマン法、帯溶融法(ゾーンメルト法)、縁部限定薄膜供給結晶成長(EFG法)及び熱間静水圧プレス燒結法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
また、使用できる坩堝及びアフターヒータの材料としては、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金が挙げられる。
【0036】
シンチレータ用結晶の製造においては、さらに高周波発振機、集光加熱器、及び抵抗加熱機を使用してもよい。
【0037】
以下に本発明のガーネット型結晶の製造方法のうち、シンチレータ用単結晶の製造方法について、マイクロ引き下げ法を用いた結晶製造法を一例として示すが、これに限定されるものではない。
【0038】
マイクロ引き下げ法については、高周波誘導加熱による雰囲気制御型マイクロ引き下げ装置を用いて行うことができる。マイクロ引き下げ装置は、坩堝と、坩堝底部に設けた細孔から流出する融液に接触させる種を保持する種保持具と、種保持具を下方に移動させる移動機構と、移動機構の移動速度制御装置と、坩堝を加熱する誘導加熱手段とを具備した単結晶製造装置である。このような単結晶製造装置によれば、坩堝直下に固液界面を形成し、下方向に種結晶を移動させることで、結晶を作製することができる。
【0039】
上記のマイクロ引き下げ法装置において、坩堝は、カーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金製である。また、坩堝底部外周にカーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、またはこれらの合金からなる発熱体であるアフターヒータが配置される。坩堝及びアフターヒータの誘導加熱手段の出力調整により、発熱量を調整することによって、坩堝底部に設けた細孔から引き出される融液の固液境界領域の温度及びその分布を制御することができる。
【0040】
上記の雰囲気制御型マイクロ引き下げ装置は、チャンバーの材質にはステンレス鋼(SUS)、窓材には石英を採用し、雰囲気制御を可能にするため、ロータリーポンプを具備し、ガス置換前において、真空度が0.13Pa(1×10−3Torr)以下にすることを可能にした装置である。また、チャンバーへは付随するガスフローメータにより精密に調整された流量でAr、N、H、Oガス等を導入できるものである。
【0041】
この装置を用いて、上述の方法にて準備した原料を坩堝に入れ、炉内を排気して高真空にした後、ArガスもしくはArガスとOガスとの混合ガスを炉内に導入することにより、炉内を不活性ガス雰囲気もしくは低酸素分圧雰囲気とし、高周波誘導加熱コイルに高周波電力を徐々に印加することにより坩堝を加熱して、坩堝内の原料を完全に融解する。
【0042】
続いて、種結晶を所定の速度で徐々に上昇させて、その先端を坩堝下端の細孔に接触させて充分になじませたら、融液温度を調整しつつ、引き下げ軸を下降させることで結晶を成長させる。
【0043】
種結晶としては、結晶成長対象物と同等ないしは、構造・組成ともに近いものを使用することが好ましいが、これに限定されない。また種結晶として方位の明確なものを使用することが好ましい。
【0044】
準備した材料が全て結晶化し、融液が無くなった時点で結晶成長は終了となる。一方、組成を均一に保つ目的及び長尺化の目的で、原料の連続チャージ用機器を取り入れてもよい。
【0045】
上記式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶においては、融点が低く、単結晶が量産しやすいという利点もある。具体的には、上記式(1)〜(3)で表されるガーネット型結晶の融点は、1700〜1900℃の範囲とすることができる。例えば、Lu3Al12では融点は1980℃、YAl12では融点は1930℃と高温であるが、本発明の結晶では融点が低いため、断熱材の損傷を低減することができ、また、結晶作製に坩堝を使用する際には坩堝の損傷も低減できる。加えて、構成元素である酸化ガリウムの蒸発も低減する効果を得ることもできる。さらに、式(1)においてzを3以上、式(2)においてcを3以上、式(3)において、rを3以上とすれば、より工業的な量産が可能になるため、好ましい。
【0046】
また、本発明のガーネット型結晶の製造方法の他の一例として、熱間静水圧プレス燒結装置を用いた透明セラミックスを作製する方法が挙げられる。この方法では、はじめに、各粉末原料をアルミナ坩堝に入れ、アルミナの蓋をした後、1500℃で2時間仮焼する。冷却後、純水で洗浄し乾燥したシンチレータ粉末は24時間ボールミル粉砕を行い、粒径1〜2μmのシンチレータ粉砕粉を得る。ついで、この粉砕紛に、純水を5重量%添加し、500kg/cmの圧力で一軸プレス成形し、その後、加圧力3ton/cmで冷間静水圧プレスを行って、理論密度に対し64%程度の成形体を得る。その後、得られた成形体をこう鉢に入れ、フタをして、1750℃、3時間の一次燒結を行い、理論密度に対し、98.5%以上の燒結体を得る。
【0047】
ここで、水素、窒素またはアルゴン雰囲気中で燒結する場合、こう鉢として、アルミナこう鉢を用いることが好ましいが、真空中で燒結する場合には、窒化ホウ素を用いることが好ましい。こうすることで、所望のガーネット型結晶を効率的に得ることができる。
【0048】
また、1350℃以上の昇温速度は、50℃/時とすることが好ましい。こうすることで、密度の高い均一な燒結体を得ることができる。
【0049】
そして、最後に、1550℃、3時間、1000atmの条件で熱間静水圧プレス燒結を行う。これにより、理論密度と同じ密度を有する燒結体を得ることができる。
【0050】
本発明におけるガーネット型結晶は、シンチレータ用結晶であり、受光器と組み合わせることで、放射線検出器としての使用が可能となる。さらに、これらの放射線検出器を放射線検出器として備えたことを特徴とする放射線検査装置としても使用可能である。放射線検査装置としては、例えば、PET、単一光子放射断層撮影(SPECT)、及びCTが例示される。
【0051】
本発明のガーネット型結晶は、放射線により励起されると、460nm以上700nm以下の蛍光ピーク波長で発光することができる。したがって、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PMの感度の高い波長と一致させることができる。また、このときの発光量が高いため、高い位置分解能かつ高いS/Nを持つ放射線検出器が実現することができる。
【0052】
また、本発明のガーネット型結晶は、蛍光寿命(蛍光減衰時間)が100ナノ秒以下の蛍光成分を発光し、蛍光寿命が100ナノ秒を超える長寿命成分の強度を、蛍光成分全体の強度に対して20%以下にすることができる。したがって、本発明のガーネット型結晶を備えた放射線検出器は、蛍光測定のためのサンプリング時間が短くて済み、高時間分解能、すなわちサンプリング間隔を低減することができる。
【0053】
また、本発明のガーネット型結晶では、662keVでのエネルギー分解能を10%以下とすることができる。したがって、本発明のガーネット型結晶を備えた放射線検出器では、高精度な放射線検出が可能となる。
【0054】
また、本発明のガーネット型結晶は高密度であるため、感度の高い検出器を構成でき、装置の小型化も可能である。
【0055】
さらに、式(1)で表されるガーネット型結晶においては、式(1)において、0≦y≦0.1の範囲をとり、式(3)においては、Luを含まないため、Luの自然放射能を少なくすることができる。したがって、式(1)、(3)で表されるガーネット結晶を用いることで、バックグラウンドが低減でき、より精度の高い放射線検出器が得られるという利点もある。
【0056】
このように、本発明のガーネット型結晶は、高発光量、高いエネルギー分解能、高密度かつ短寿命の発光を有するため、本発明のガーネット型結晶を備える放射線検出器では、高速応答の放射線検出が可能となる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の具体例について、図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるわけではない。なお、以下の実施例では、Ce濃度は、特定の結晶中における濃度か、融液(仕込み)における濃度かのいずれかの記載となっているが、各実施例において、結晶中の濃度1に対して仕込み時の濃度1〜10程度となるような関係があった。
【0059】
(実施例A1)
マイクロ引下げ法により、Gd2.997Ce0.003Ga2.2Al2.812の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0060】
(実施例A2)
マイクロ引下げ法により、Gd2.997Ce0.003GaAl12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0061】
(実施例A3)
マイクロ引下げ法により、Gd2.97Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0062】
(実施例A4)
マイクロ引下げ法により、Gd2.85Ce0.15GaAl12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0063】
(実施例A5)
熱間静水圧プレス燒結法により、Gd2.97Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0064】
(実施例A6)
マイクロ引下げ法により、Gd2.97Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。融点はLuAl12やYAl12よりも低く、1890℃以下であった。
【0065】
(実施例A7)
マイクロ引下げ法により、Gd2.870.1Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0066】
(比較例A1)
マイクロ引下げ法により、Gd2.97Ce0.03Al12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0067】
(比較例A2)
マイクロ引下げ法により、Gd2.994Ce0.006AlGa12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0068】
(比較例A3)
マイクロ引下げ法により、Gd2.97Ce0.03Ga12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0069】
比較例A1〜3、実施例A1〜7で得られた結晶をφ3×2mmサイズに加工・研磨した後、各々のシンチレータ特性を評価した。また、実施例及び比較例で得られた結晶をフォトルミネセンス法により励起・発光スペクトルを測定した。具体的には、分光蛍光光度計を用いて、図3、4で示すようなプロファイルを取得した。図3は、実施例3において得られた励起・発光スペクトルを示す。図4は、比較例1において得られた励起・発光スペクトルを示す。図3、4において、横軸は発光波長(nm)、縦軸は励起波長(nm)を表す。
また、137Csからのγ線を照射し蛍光減衰時間、及び、発光量を測定した。発光量測定に関しては、得られたエネルギースペクトル中の光電吸収ピークの位置を既知のシンチレータであるCe:LYSO(発光量:33000photon/MeV)と比較し、光電子増倍管の波長感度をそれぞれ考慮し、発光量を算出した。測定温度は25℃とした。
【0070】
実施例A1〜7、比較例A1〜3で得られた結晶に関する諸特性を表1、2にまとめる。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
実施例A3で得られた結晶では、図3で示すように、Gd3+の4f4f発光由来の発光ピークは極めて微弱であった。一方、比較例A1の結晶は、図4において示すように、発光波長530nm付近にCe3+の4f5d発光由来の発光ピークが確認され、発光波長312nm付近にGd3+の4f4f発光由来の発光ピークが確認された。
【0074】
また、表1の実施例A2〜4で示すように、Ce濃度が増加するに従い、蛍光寿命は短くなった。実施例A2において確認された385nsの長寿命成分は、Ce濃度が増加すると減少した。当該長寿命成分はGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移の結果生じるものと考えられ、Ce濃度が増加すると、エネルギー遷移の確率が増加し、長寿命成分が減少すると考えられる。同時に発光量も向上し実施例A3の結晶で最大となった。この測定結果からもGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移現象の存在が確認できる。
【0075】
また、実施例A3、比較例A1、2の結晶については、フォトルミネセンスにて観測された蛍光減衰曲線から、発光波長530nm付近のCe3+の4f5d発光及び発光波長312nm付近のGd3+の4f4f発光についてそれぞれ蛍光寿命(蛍光減衰時間)を測定した。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3で示すように、発光波長530nm付近のCe3+の4f5d発光を励起波長450nmで直接励起した場合には、44〜55nsの蛍光寿命を示し、Gaの増加とともに、蛍光寿命が短くなった。また、Ce3+の4f5d発光をGd3+の4f4f発光の励起波長である励起波長250nmで励起した場合には、Ga濃度の増加とともに、蛍光寿命が短くなり、加えて、比較例A1、2において300ns程度の長寿命成分が確認されたが、実施例A3では長寿命成分は確認されなかった。さらに、発光波長312nmのGd3+の4f4f発光を250nmで励起した場合には、また、数μs〜235μsの蛍光寿命が得られ、Ga濃度の増加とともに、蛍光寿命が短くなった。以上の測定結果からもGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移現象の存在が確認できる。
【0078】
さらに、実施例A3で得られた結晶について137Csからのγ線を照射しPMTを用いてエネルギースペクトルを測定した。結果を、図5に示す。エネルギー分解能は3.6%であった。
【0079】
図6は、実施例A3で得られた結晶を光学接着剤を用いて光電子増倍管に接着し、252Cf中性子線を照射して得られたエネルギースペクトルである。Gd2.97Ce0.03GaAl12中に含まれるGdと中性子との(n,γ)反応により放出される中性子線がGd2.97Ce0.03GaAl12に吸収されることで生じる中性子ピークを確認した。
【0080】
このように、式(1)で表されるセリウム付活ガーネット型結晶は、最適なGa濃度、Ce濃度をとることで、高い発光量と高いエネルギー分解能を持ち、さらに蛍光減衰時間を短くかつ長寿命成分も低減できることが分かった。また、460〜550nm付近に発光ピーク波長を有することから、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PM等の460〜700nmに感度の高い波長を有する受光器との組み合わせに適している。さらに蛍光寿命は、30〜95ナノ秒程度であり、シンチレータ材料として非常に優れていることが分かる。
【0081】
なお、実施例A1〜4、6、7、比較例A2、3で得られた結晶は、いずれも透明な単結晶であり、実施例5の結晶は、透明セラミックスであり、比較例1の結晶は、不透明な多結晶であった。
【0082】
(実施例B1)
マイクロ引下げ法により、Gd0.97LuCe0.03Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0083】
(実施例B2)
マイクロ引下げ法により、Lu2.97Ce0.03Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0084】
(実施例B3)
マイクロ引下げ法により、Gd0.97LuCe0.03Ga2.2Al2.812の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0085】
(実施例B4)
熱間静水圧プレス燒結法により、Gd0.97LuCe0.03Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0086】
(実施例B5)
熱間静水圧プレス燒結法により、Lu2.97Ce0.03Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0087】
(比較例B1)
マイクロ引下げ法により、Lu2.97Ce0.03Al12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0088】
(比較例B2)
マイクロ引下げ法により、Lu2.97Ce0.03Ga12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0089】
(比較例B3)
マイクロ引下げ法により、Gd0.97LuCe0.03Al12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
(比較例B4)
マイクロ引下げ法により、Gd0.97LuCe0.03AlGa12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
(比較例B5)
マイクロ引下げ法により、Gd0.97LuCe0.03Ga12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0090】
実施例B1〜5、比較例B1〜5で得られた単結晶をφ3×2mmサイズに加工・研磨した後、各々のシンチレータ特性を評価した。また、実施例及び比較例で得られた結晶をフォトルミネセンス法により励起・発光スペクトルを測定した。具体的には、分光蛍光光度計を用いて、図7、8で示すようなプロファイルを取得した。図7は、実施例B1において得られた励起・発光スペクトルを示す。図8は、比較例B3において得られた励起・発光スペクトルを示す。図7、8において、横軸は発光波長(nm)、縦軸は励起波長(nm)を表す。
【0091】
また、137Csからのγ線を照射し蛍光減衰時間、及び、発光量を測定した。発光量測定に関しては、得られたエネルギースペクトル中の光電吸収ピークの位置を既知のシンチレータであるCe:LYSO(発光量:33000photon/MeV)と比較し、光電子増倍管の波長感度をそれぞれ考慮し、発光量を算出した。測定温度は25℃とした。
【0092】
実施例B1〜5、比較例B1〜5で得られた結晶に関する諸特性を表4、5にまとめる。
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
実施例B1で得られた結晶では、図7で示すように、Gd3+の4f4f発光由来の発光ピークは極めて微弱であった。一方、比較例B3の結晶は、図8において示すように、発光波長530nm付近にCe3+の4f5d発光由来の発光ピークが確認され、発光波長312nm付近にGd3+の4f4f発光由来の発光ピークが確認された。
【0096】
また、実施例B1、比較例B3、4の結晶については、フォトルミネセンスにて観測された蛍光減衰曲線から、発光波長530nm付近のCe3+の4f5d発光および発光波長312nm付近のGd3+の4f4f発光についてそれぞれ蛍光寿命(蛍光減衰時間)を測定した。結果を表6に示す。
【0097】
【表6】
【0098】
表6で示すように、530nm付近のCe3+の4f5d発光を励起波長450nmで直接励起した場合には、44〜55nsの蛍光寿命を示し、Gaの増加とともに、蛍光寿命が短くなった。また、Ce3+の4f5d発光をGd3+の4f4f発光の励起波長である励起波長250nmで励起した場合には、Ga濃度の増加とともに、蛍光寿命が短くなり、加えて、比較例B3、4において300ns程度の長寿命成分が確認されたが、実施例B1では長寿命成分は確認されなかった。さらに、発光波長312nmのGd3+の4f4f発光を250nmで励起した場合には、また、数μs〜121μsの蛍光寿命が得られ、Ga濃度の増加とともに、蛍光寿命が短くなった。以上の測定結果からもGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移現象の存在が確認できる。
【0099】
このように、式(2)で表されるセリウム付活ガーネット型結晶は、最適なGa濃度、Ce濃度をとることで、高い発光量を持ち、さらに蛍光減衰時間を短くかつ長寿命成分も低減できることが分かった。また、発光量450〜550nm付近に発光ピーク波長を有することから、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PM等の400〜700nmに感度の高い波長を有する受光器との組み合わせに適している。さらに蛍光寿命は、30〜95ナノ秒程度であり、シンチレータ材料として非常に優れていることが分かる。
【0100】
なお、実施例B1〜3、比較例B1〜5で得られた結晶は、いずれも透明な単結晶であり、実施例B4、5の結晶は、透明セラミックスであった。
【0101】
(実施例C1)
マイクロ引下げ法により、Gd1.971Ce0.03Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0102】
(実施例C2)
マイクロ引下げ法により、Gd1.997Ce0.003Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0103】
(実施例C3)
マイクロ引下げ法により、Gd1.85Ce0.15Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0104】
(実施例C4)
マイクロ引下げ法により、Gd1.97Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0105】
(実施例C5)
マイクロ引下げ法により、Gd1.97Ce0.03Ga3.1Al12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0106】
(実施例C6)
マイクロ引下げ法により、Gd1.97Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0107】
(実施例C7)
マイクロ引下げ法により、Y2.97Ce0.03Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0108】
(実施例C8)
マイクロ引下げ法により、Gd1.9971Ce0.03Ga2.2Al2.812の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0109】
(実施例C9)
熱間静水圧プレス燒結法により、Gd1.971Ce0.03Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0110】
(実施例C10)
熱間静水圧プレス燒結法により、Y2.97Ce0.03Ga3.1Al1.912の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0111】
(比較例C1)
マイクロ引下げ法により、Y2.97Ce0.03Al12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0112】
(比較例C2)
マイクロ引下げ法により、Y2.97Ce0.03Ga12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0113】
(比較例C3)
マイクロ引下げ法により、Gd1.971Ce0.03Al12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0114】
(比較例C4)
マイクロ引下げ法により、Gd1.971Ce0.03AlGa12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0115】
(比較例C5)
マイクロ引下げ法により、Gd1.971Ce0.03Ga12の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。
【0116】
実施例C1〜10、比較例C1〜5で得られた単結晶をφ3×2mmサイズに加工・研磨した後、各々のシンチレータ特性を評価した。また、実施例及び比較例で得られた結晶をフォトルミネセンス法により励起・発光スペクトルを測定した。具体的には、分光蛍光光度計を用いて、図9、10で示すようなプロファイルを取得した。図9は、実施例C1で得られた結晶の励起・発光スペクトルを示す。図10は、比較例C3でされた結晶の励起・発光スペクトルを示す。図9、10において、横軸は発光波長(nm)、縦軸は励起波長(nm)を表す。また、137Csからのγ線を照射し蛍光減衰時間、及び、発光量を測定した。発光量測定に関しては、得られたエネルギースペクトル中の光電吸収ピークの位置を既知のシンチレータであるCe:LYSO(発光量:33000photon/MeV)と比較し、光電子増倍管の波長感度をそれぞれ考慮し、発光量を算出した。測定温度は25℃とした。
【0117】
実施例C1〜10、比較例C1〜5で得られた結晶に関する諸特性を表7、8にまとめる。
【0118】
【表7】
【0119】
【表8】
【0120】
実施例C1で得られた結晶では、図9で示すように、Gd3+の4f4f発光由来の発光ピークは極めて微弱であった。一方、比較例C3の結晶は、図10において示すように、発光波長530nm付近にCe3+の4f5d発光由来の発光ピークが確認され、発光波長312nm付近にGd3+の4f4f発光由来の発光ピークが確認された。
【0121】
また、表7の実施例C1〜3で示すように、Ce濃度が増加するに従い、蛍光寿命は短くなった。また、実施例C2において確認された240nsの長寿命成分は、Ce濃度が増加すると減少した。当該長寿命成分はGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移の結果生じるものと考えられ、Ce濃度が増加すると、エネルギー遷移の確率が増加し、長寿命成分が減少すると考えられる。同時に発光量も向上し実施例C3の結晶で最大となった。この測定結果からもGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移現象の存在が確認できる。
【0122】
また、実施例C1、比較例C3、4の結晶については、フォトルミネセンスにて観測された蛍光減衰曲線から、発光波長530nm付近のCe3+の4f5d発光および発光波長312nm付近のGd3+の4f4f発光についてそれぞれ蛍光寿命(蛍光減衰時間)を測定した。結果を表9に示す。
【0123】
【表9】
【0124】
表9で示すように、530nm付近のCe3+の4f5d発光を励起波長450nmで直接励起した場合には、48〜86nsの蛍光寿命を示し、Gaの増加とともに、蛍光寿命が短くなった。また、Ce3+の4f5d発光をGd3+の4f4f発光の励起波長である励起波長250nmで励起した場合には、Ga濃度の増加とともに、蛍光寿命が短くなり、加えて、比較例C3、4において〜224ns程度の長寿命成分が確認されたが、実施例C3では長寿命成分は確認されなかった。さらに、発光波長312nmのGd3+の4f4f発光を250nmで励起した場合には、また、数μs〜166μsの蛍光寿命が得られ、Ga濃度の増加とともに、蛍光寿命が短くなった。以上の測定結果からもGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移現象の存在が確認できる。
【0125】
さらに、実施例C3で得られた結晶について137Csからのγ線を照射しAPDを用いてエネルギースペクトルを測定した。結果を、図11に示す。エネルギー分解能は3.6%であった。
【0126】
図12は実施例C1で得られた結晶を、光学接着剤を用いて光電子増倍管に接着し,252Cf中性子線を照射して得られたエネルギースペクトルである。Gd1.97Ce0.03Ga3.1Al1.912中に含まれるGdと中性子との(n,γ)反応により放出されるγ線がGd1.97Ce0.03Ga3.1Al1.912に吸収されることで生じるフォトピークを確認した。
【0127】
このように、式(3)で表されるセリウム付活ガーネット型結晶は、最適なGa濃度、Ce濃度をとることで、高い発光量を持ち、さらに蛍光減衰時間を短くかつ長寿命成分も低減できることが分かった。また、発光量450〜550nm付近に発光ピーク波長を有することから、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PM等の400〜700nmに感度の高い波長を有する受光器との組み合わせに適している。さらに蛍光寿命は、50〜86ナノ秒程度であり、シンチレータ材料として非常に優れていることが分かる。
【0128】
なお、実施例C1〜8、比較例C1〜5で得られた結晶は、いずれも透明な単結晶であり、実施例C9、10の結晶は、透明セラミックスであった。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12