【0011】
酸化マグネシウムは、抗菌作用を増強するための塩基触媒である。この抗菌剤の作用機構は、例えば、以下のように考えられる。なお、この理論に拘泥するものではない。まず、クローブ又はローズマリーに含まれるポリフェノール化合物等の成分が、酸化マグネシウムの存在下で、容易に酸素を還元する。酸素が還元されて生成するスーパーオキサイドイオン(O
2−)は不均化して過酸化水素を発生する。生成した過酸化水素は細菌の細胞膜を通過して細胞質内の微量金属と反応することにより、殺菌効果を示すヒロキシルラジカル(・OH)を発生する。また同時に、酸化マグネシウムによる抗菌効果と、クローブ又はローズマリー自身による抗菌効果も付加される。そのため、この抗菌剤によれば、発生する過酸化水素量は従来の抗菌剤に比べて低濃度であるにもかかわらず、強い抗菌効果を示す。また、この抗菌剤を用いた場合には、水分があれば使用後3日から5日程度、乾燥すると数時間程度は過酸化水素が蓄積して菌を死滅させる作用を示すが、その後は遷移金属イオンや微生物が保有する酵素等により除々に分解されて水と酸素になる。このため、この抗菌剤を使用しても、使用量が少なくてよく、かつ、過酸化水素が長時間蓄積することがないため安全性が高い。
【実施例】
【0014】
(実施例1−1,1−2)
まず、抗菌剤として、実施例1−1では、クローブの花蕾を乾燥させて粉砕した粉末200mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを用意し、実施例1−2では、ローズマリーの葉及び茎を乾燥させて粉砕した粉末200mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを用意した。次いで、大気中の細菌、微生物等を内容量約6リットルのデシケータ内に閉じ込め、シャーレにポリペプトン(タンパク質)1%溶液100cm
3を栄養源として繁殖させた。続いて、シャーレに、用意した実施例1−1又は実施例1−2の抗菌剤をそれぞれ個別に添加した。そののち、デシケータ内において、細菌、微生物等がポリペクトンを酵素等の働きにより分解する際に発生する二酸化炭素の量をガステックを用いて測定した。二酸化炭素の増加は細菌、微生物の増加を意味している。
【0015】
(比較例1−1)
抗菌剤を添加しなかったことを除き、他は実施例1−1,1−2と同様にしてデシケータ内の二酸化炭素の量を測定した。
【0016】
(比較例1−2)
抗菌剤として、タイムの葉、茎及び花を乾燥させて粉砕した粉末200mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを添加したことを除き、他は実施例1−1,1−2と同様にしてデシケータ内の二酸化炭素の量を測定した。
【0017】
(比較例1−3)
抗菌剤として、セージの葉及び茎を乾燥させて粉砕した粉末200mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを添加したことを除き、他は実施例1−1,1−2と同様にしてデシケータ内の二酸化炭素の量を測定した。
【0018】
(結果)
実施例1−1,1−2及び比較例1−2,1−3の結果を
図1に示す。
図1に示したように、実施例1−1,1−2によれば、70時間を過ぎても二酸化炭素は増加しなかった。これに対して、
図1には示していないが、抗菌剤を添加しなかった比較例1−1では、20時間を経過するまでは二酸化炭素の増加量は徐々であったが、20時間を経過したあたりから急激な増加が見られた。また、タイムを添加した比較例1−2、及び、セージを添加した比較例1−3では、50時間あたりから二酸化炭素の急激な増加が見られた。すなわち、クローブ及びローズマリーのうちの少なくとも1種と、酸化マグネシウムとを混合して抗菌剤として用いるようにすれば、高い抗菌効果を得られることが分かった。
【0019】
なお、ローズマリー、タイム、及び、セージは、同じシソ科ハーブ類に属するが、抗菌性に大きな差が見られた。この要因の一つとして、これらに含まれる成分と含有量の違いが考えられる。クローブ、ローズマリー、タイム、及び、セージの成分をそれぞれ抽出し、それらの抽出液について、高速液体クロマトグラフシステムにより成分分析を行った。その結果、クローブには、主成分としてオイゲノールが検出され、他に複数のポリフェノールの存在が確認された。また、ローズマリー、タイム、及び、セージには、多くのポリフェノールの存在が確認されたが、中でも、タイム及びセージに比べて、ローズマリーでは、ロズマリン酸が高濃度に検出された。
【0020】
オイゲノール、並びに、代表的なポリフェノールであるロズマリン酸、没食子酸、没食子酸エピガロカテキン、及び、クロロゲン酸について、実施例1−1,1−2と同様にしてデシケータ内の二酸化炭素の量を測定した。その際、これらの添加量はいずれも0.1mMとした。その結果、ロズマリン酸が最も抗菌効果が高く、次いで、クロロゲン酸、没食子酸、没食子酸エピガロカテキンの順であった。また、オイゲノールには抗菌効果が見られなかった。すなわち、ローズマリーにおける高い抗菌効果は、ロズマリン酸が関係しているものと考えられる。また、クローブにおける高い抗菌効果は、酸化マグネシウム共存下でポリフェノール類と反応して生成する過酸化水素と、オイゲノールが相乗的に作用しているものと考えられる。
【0021】
(実施例2−1,2−2)
実施例1−1,1−2の抗菌剤について、イネいもち病に対する種子消毒効果を調べた。供試植物はイネの栽培品種「はえぬき」を使用した。用いたイネの種子は、前年度いもち病菌を噴霧接種して作成したいもち病菌汚染種子である。実施例1−1,1−2の抗菌剤50mgと、脱塩水100mlとをそれぞれ混合し、個別にシャーレに入れて、そこにいもち病菌汚染種子を加え、25℃暗黒条件下で48時間浸種処理を行った。なお、抗菌剤は、実施例2−1では、クローブの粉末400mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを用い、実施例2−2では、ローズマリーの粉末400mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを用いた。
【0022】
そののち、抗菌剤に浸種処理したいもち病菌汚染種子をイネのシードリングケースに粒播種し(1200粒)、ガラス室で育苗した。出芽期に一旦接種箱に移し、24時間保持した後、ガラス室に戻して育苗し、4週間目に発病調査を行った。種子消毒効果の調査項目は、種子発芽率と苗いもち発病率である。種子発芽率は、用いた汚染種子数を予め揃えておき、種子発芽率=(発芽苗数)/(播種種子数)を求めた。また、苗いもち発病率は、発芽苗が黄化、立枯病状を示したものを苗いもちと診断し、苗いもち発病率=(発病苗数)/(発芽苗数800〜900)×100とした。
【0023】
(比較例2−1)
抗菌剤を添加しなかったことを除き、すなわち、脱塩水にいもち病菌汚染種子を浸種処理したことを除き、他は実施例2−1,2−2と同様にして種子発芽率と苗いもち発病率を調べた。
【0024】
種子発芽率の結果を
図2に、苗いもち発病率の結果を
図3にそれぞれ示す。
図2に示したように、種子発芽率については、実施例2−1,2−2と比較例2−1とで差がなかった。しかし、
図3に示したように、苗いもち発病率については、実施例2−1、2−2共に、比較例2−1よりも低かった。これは、実施例2−1,2−2の抗菌剤が、発芽直後の種子へのいもち病菌の伸展や侵入を抑制する、いわゆる静菌効果を持つものと解釈される。この効果は、クローブ又はローズマリーと、酸化マグネシウムと、過酸化水素の3つの相乗的作用によるものであると考えられる。すなわち、クローブ及びローズマリーのうちの少なくとも1種と、酸化マグネシウムとを混合して抗菌剤として用いるようにすれば、いもち病に対して発病を抑制することができ、農業に有効に用いることができることが分かった。
【0025】
以上、実施の形態及び実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態及び実施例では、抗菌剤の量を具体的に示して説明したが、種類及び用途に応じて適宜決定することができる。また、本発明の抗菌剤は、上述した成分以外に、溶解補助剤などの他の成分を含んでいてもよい。