特許第5952783号(P5952783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5952783-抗菌剤 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952783
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】抗菌剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/28 20090101AFI20160630BHJP
   A01N 65/22 20090101ALI20160630BHJP
   A01N 59/06 20060101ALI20160630BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   A01N65/28
   A01N65/22
   A01N59/06 Z
   A01P3/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-134151(P2013-134151)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-10038(P2015-10038A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2014年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】504262269
【氏名又は名称】有限会社 ワーコム農業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100083437
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 實
(72)【発明者】
【氏名】野田 博行
(72)【発明者】
【氏名】栗田 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】栗田 幸秀
【審査官】 松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−144673(JP,A)
【文献】 特表2007−530642(JP,A)
【文献】 特開2004−285071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枝、葉、花蕾を使用したクローブ粉末やオイル、それらからの抽出物の何れかと、酸化マグネシウムとを含むようにするか、または、枝、葉、花蕾を使用したクローブ粉末やオイル、それらからの抽出物の何れかに、葉、茎を使用したローズマリー粉末やオイル、それらからの抽出物の何れかを組み合せたものと、酸化マグネシウムとを含むようにするかしたことを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】
農業に用いることを特徴とする請求項1記載の抗菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全で安価に製造することができる抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
農業現場における化学合成農薬の使用は、環境汚染や人的被害、土壌への残留などの社会問題を引き起こしており、これらの問題の解決は、安全な農作物生産を行う上で重要である。植物には、抗菌活性成分を含むものが数多く存在することから、これまで比較的安全性の高い植物を抗菌剤として活用する研究が数多く報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、植物由来成分を既存の化学合成抗菌剤と比較すると、抗菌効果が低く、多量に散布する必要があるという課題がある。
【0003】
また、インフルエンザウィルスやメチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ヘリコバクターピロリ菌などに対して、抗生物質と植物由来成分を混合して投与することで、抗ウイルス作用や抗菌作用を相乗的に増幅させる研究も報告されている。(例えば、非特許文献2参照)。しかし、化学物質と植物由来成分を混合することは、薬剤の毒性に起因する問題が生じることから、有機農業分野での使用は難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Iwasawa,A.,Niwano,Y.,Mokudai.T.,and Kohno,M.(2009),「Antiviral activity of proanthocyanidin against feline calicivirus used as a surrogate for noroviruses, and coxsackievirus used as a representative enteric virus.」 Biocontrol Science,Vol.14,No.3,107−111.
【非特許文献2】Wagner,H.,and Ulrich−Merzenich,G.(2009).Synergy research:「Approaching a new generation of phytopharmaceuticals.」 Phytomedicine, Vol.16,No.2−3,97−110.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、安全で安価に製造することができる抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の抗菌剤は、クローブ及びローズマリーのうちの少なくとも1種と、酸化マグネシウムとを含むものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の抗菌剤によれば、クローブ及びローズマリーのうちの少なくとも1種と、酸化マグネシウムとを含んでいるので、抗菌効果を増幅することができ、高い抗菌効果を得ることができる。また、植物組織を用いているので、人体への刺激が少なく、河川に排出されても危険が少なく、安全性を高くすることができると共に、安価に製造することができる。更に、この抗菌剤の使用時には過酸化水素が生成するが、使用量が少なくても高い抗菌効果を得ることができるので、毒性が低く、かつ、生成した過酸化水素は遷移金属イオンや微生物が保有する酵素等により徐々に分解されるので、高い安全性を得ることができる。よって、農業にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例のクローブ又はローズマリーを用いた抗菌剤の効果を表す図である。
図2】本実施例のクローブ又はローズマリーを用いた抗菌剤に浸種処理したいもち病菌汚染種子の種子発芽率を表す図である。
図3】本実施例のクローブ又はローズマリーを用いた抗菌剤に浸種処理したいもち病菌汚染種子の苗いもち発病率を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
本実施の形態に係る抗菌剤は、クローブ及びローズマリーのうちの少なくとも1種と、酸化マグネシウムとを含んでいる。クローブとしては、例えば、枝、葉、花蕾、クローブオイル、又は、抽出物を用いることができる。また、ローズマリーとしては、例えば、葉、茎、又は、抽出物を用いることができる。枝、葉、花蕾、又は、茎等は、例えば、粉末にしたものをそのまま用いることができるので好ましい。抽出物の場合、抽出する際に用いる溶媒は特に限定されないが、親水性溶媒を用いることが好ましく、中でもエタノールを用いることが好ましい。
【0011】
酸化マグネシウムは、抗菌作用を増強するための塩基触媒である。この抗菌剤の作用機構は、例えば、以下のように考えられる。なお、この理論に拘泥するものではない。まず、クローブ又はローズマリーに含まれるポリフェノール化合物等の成分が、酸化マグネシウムの存在下で、容易に酸素を還元する。酸素が還元されて生成するスーパーオキサイドイオン(O)は不均化して過酸化水素を発生する。生成した過酸化水素は細菌の細胞膜を通過して細胞質内の微量金属と反応することにより、殺菌効果を示すヒロキシルラジカル(・OH)を発生する。また同時に、酸化マグネシウムによる抗菌効果と、クローブ又はローズマリー自身による抗菌効果も付加される。そのため、この抗菌剤によれば、発生する過酸化水素量は従来の抗菌剤に比べて低濃度であるにもかかわらず、強い抗菌効果を示す。また、この抗菌剤を用いた場合には、水分があれば使用後3日から5日程度、乾燥すると数時間程度は過酸化水素が蓄積して菌を死滅させる作用を示すが、その後は遷移金属イオンや微生物が保有する酵素等により除々に分解されて水と酸素になる。このため、この抗菌剤を使用しても、使用量が少なくてよく、かつ、過酸化水素が長時間蓄積することがないため安全性が高い。
【0012】
この抗菌剤の製造方法は特に制限されない。当業者に公知の方法のいずれかを用いて得られたクローブあるいはローズマリーの粉末、オイル、又は、抽出物と、酸化マグネシウムとを混合することにより、容易に抗菌剤を製造することができる。特に、クローブあるいはローズマリーの粉末を用いるようにすれば、成分を抽出する必要がなく、安価に製造することができるので好ましい。
【0013】
このように、本実施の形態によれば、クローブ及びローズマリーのうちの少なくとも1種と、酸化マグネシウムとを含んでいるので、抗菌効果を増幅することができ、高い抗菌効果を得ることができる。また、植物組織を用いているので、人体への刺激が少なく、河川に排出されても危険が少なく、安全性を高くすることができると共に、安価に製造することができる。更に、この抗菌剤の使用時には過酸化水素が生成するが、使用量が少なくても高い抗菌効果を得ることができるので、毒性が低く、かつ、生成した過酸化水素は遷移金属イオンや微生物が保有する酵素等により徐々に分解されるので、高い安全性を得ることができる。よって、農業にも用いることができる。
【実施例】
【0014】
(実施例1−1,1−2)
まず、抗菌剤として、実施例1−1では、クローブの花蕾を乾燥させて粉砕した粉末200mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを用意し、実施例1−2では、ローズマリーの葉及び茎を乾燥させて粉砕した粉末200mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを用意した。次いで、大気中の細菌、微生物等を内容量約6リットルのデシケータ内に閉じ込め、シャーレにポリペプトン(タンパク質)1%溶液100cmを栄養源として繁殖させた。続いて、シャーレに、用意した実施例1−1又は実施例1−2の抗菌剤をそれぞれ個別に添加した。そののち、デシケータ内において、細菌、微生物等がポリペクトンを酵素等の働きにより分解する際に発生する二酸化炭素の量をガステックを用いて測定した。二酸化炭素の増加は細菌、微生物の増加を意味している。
【0015】
(比較例1−1)
抗菌剤を添加しなかったことを除き、他は実施例1−1,1−2と同様にしてデシケータ内の二酸化炭素の量を測定した。
【0016】
(比較例1−2)
抗菌剤として、タイムの葉、茎及び花を乾燥させて粉砕した粉末200mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを添加したことを除き、他は実施例1−1,1−2と同様にしてデシケータ内の二酸化炭素の量を測定した。
【0017】
(比較例1−3)
抗菌剤として、セージの葉及び茎を乾燥させて粉砕した粉末200mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを添加したことを除き、他は実施例1−1,1−2と同様にしてデシケータ内の二酸化炭素の量を測定した。
【0018】
(結果)
実施例1−1,1−2及び比較例1−2,1−3の結果を図1に示す。図1に示したように、実施例1−1,1−2によれば、70時間を過ぎても二酸化炭素は増加しなかった。これに対して、図1には示していないが、抗菌剤を添加しなかった比較例1−1では、20時間を経過するまでは二酸化炭素の増加量は徐々であったが、20時間を経過したあたりから急激な増加が見られた。また、タイムを添加した比較例1−2、及び、セージを添加した比較例1−3では、50時間あたりから二酸化炭素の急激な増加が見られた。すなわち、クローブ及びローズマリーのうちの少なくとも1種と、酸化マグネシウムとを混合して抗菌剤として用いるようにすれば、高い抗菌効果を得られることが分かった。
【0019】
なお、ローズマリー、タイム、及び、セージは、同じシソ科ハーブ類に属するが、抗菌性に大きな差が見られた。この要因の一つとして、これらに含まれる成分と含有量の違いが考えられる。クローブ、ローズマリー、タイム、及び、セージの成分をそれぞれ抽出し、それらの抽出液について、高速液体クロマトグラフシステムにより成分分析を行った。その結果、クローブには、主成分としてオイゲノールが検出され、他に複数のポリフェノールの存在が確認された。また、ローズマリー、タイム、及び、セージには、多くのポリフェノールの存在が確認されたが、中でも、タイム及びセージに比べて、ローズマリーでは、ロズマリン酸が高濃度に検出された。
【0020】
オイゲノール、並びに、代表的なポリフェノールであるロズマリン酸、没食子酸、没食子酸エピガロカテキン、及び、クロロゲン酸について、実施例1−1,1−2と同様にしてデシケータ内の二酸化炭素の量を測定した。その際、これらの添加量はいずれも0.1mMとした。その結果、ロズマリン酸が最も抗菌効果が高く、次いで、クロロゲン酸、没食子酸、没食子酸エピガロカテキンの順であった。また、オイゲノールには抗菌効果が見られなかった。すなわち、ローズマリーにおける高い抗菌効果は、ロズマリン酸が関係しているものと考えられる。また、クローブにおける高い抗菌効果は、酸化マグネシウム共存下でポリフェノール類と反応して生成する過酸化水素と、オイゲノールが相乗的に作用しているものと考えられる。
【0021】
(実施例2−1,2−2)
実施例1−1,1−2の抗菌剤について、イネいもち病に対する種子消毒効果を調べた。供試植物はイネの栽培品種「はえぬき」を使用した。用いたイネの種子は、前年度いもち病菌を噴霧接種して作成したいもち病菌汚染種子である。実施例1−1,1−2の抗菌剤50mgと、脱塩水100mlとをそれぞれ混合し、個別にシャーレに入れて、そこにいもち病菌汚染種子を加え、25℃暗黒条件下で48時間浸種処理を行った。なお、抗菌剤は、実施例2−1では、クローブの粉末400mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを用い、実施例2−2では、ローズマリーの粉末400mgと、酸化マグネシウム50mgとを混合したものを用いた。
【0022】
そののち、抗菌剤に浸種処理したいもち病菌汚染種子をイネのシードリングケースに粒播種し(1200粒)、ガラス室で育苗した。出芽期に一旦接種箱に移し、24時間保持した後、ガラス室に戻して育苗し、4週間目に発病調査を行った。種子消毒効果の調査項目は、種子発芽率と苗いもち発病率である。種子発芽率は、用いた汚染種子数を予め揃えておき、種子発芽率=(発芽苗数)/(播種種子数)を求めた。また、苗いもち発病率は、発芽苗が黄化、立枯病状を示したものを苗いもちと診断し、苗いもち発病率=(発病苗数)/(発芽苗数800〜900)×100とした。
【0023】
(比較例2−1)
抗菌剤を添加しなかったことを除き、すなわち、脱塩水にいもち病菌汚染種子を浸種処理したことを除き、他は実施例2−1,2−2と同様にして種子発芽率と苗いもち発病率を調べた。
【0024】
種子発芽率の結果を図2に、苗いもち発病率の結果を図3にそれぞれ示す。図2に示したように、種子発芽率については、実施例2−1,2−2と比較例2−1とで差がなかった。しかし、図3に示したように、苗いもち発病率については、実施例2−1、2−2共に、比較例2−1よりも低かった。これは、実施例2−1,2−2の抗菌剤が、発芽直後の種子へのいもち病菌の伸展や侵入を抑制する、いわゆる静菌効果を持つものと解釈される。この効果は、クローブ又はローズマリーと、酸化マグネシウムと、過酸化水素の3つの相乗的作用によるものであると考えられる。すなわち、クローブ及びローズマリーのうちの少なくとも1種と、酸化マグネシウムとを混合して抗菌剤として用いるようにすれば、いもち病に対して発病を抑制することができ、農業に有効に用いることができることが分かった。
【0025】
以上、実施の形態及び実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態及び実施例では、抗菌剤の量を具体的に示して説明したが、種類及び用途に応じて適宜決定することができる。また、本発明の抗菌剤は、上述した成分以外に、溶解補助剤などの他の成分を含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
農作物等の抗菌に用いることができる。
図1
図2
図3