特許第5952786号(P5952786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オートリブ ディベロップメント エービーの特許一覧

<>
  • 特許5952786-エアバッグ用インフレータ 図000002
  • 特許5952786-エアバッグ用インフレータ 図000003
  • 特許5952786-エアバッグ用インフレータ 図000004
  • 特許5952786-エアバッグ用インフレータ 図000005
  • 特許5952786-エアバッグ用インフレータ 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952786
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】エアバッグ用インフレータ
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/264 20060101AFI20160630BHJP
   B01J 7/00 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   B60R21/264
   B01J7/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-153756(P2013-153756)
(22)【出願日】2013年7月24日
(65)【公開番号】特開2015-24681(P2015-24681A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【復代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【復代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】白石 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】澁瀬 康平
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−328052(JP,A)
【文献】 特開平11−348711(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/123120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/264
B01J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグを展開させるためのガスを発生するエアバッグ用インフレータであって、
圧力容器と、点火用のイニシエータと、ガス発生剤と、伝火薬を含むイグナイタチューブを含み、
前記圧力容器は、ベース部と、前記ベース部に接合され、圧力容器内部で発生したガスを外部に噴出させるガス噴出孔を備えたディフューザ部を有し、
前記ガス発生剤は、複数のペレットを含み、これら複数のペレット同士が相対的に移動しないように、前記伝火薬を含むイグナイタチューブと共に包装容器に真空状態で収容されたガス発生体を形成して、前記圧力容器内に収容されることを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項2】
前記包装容器は、樹脂層と金属箔が積層されたものであることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項3】
前記ガス発生体は、前記圧力容器内に収容可能な形状に包装容器に真空状態で収容されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項4】
前記ガス発生体の内部の所定位置にオートイグニッション用ペレットが配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項5】
フィルターをさらに備え、該フィルターも前記ペレットと共に包装容器に真空状態で収容して前記ガス発生体を構成することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のエアバッグ用インフレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグに供給するガスを発生するインフレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
安全装置として自動車に設置されるエアバッグ装置は、インフレータで発生させたガスによりエアバッグを展開させることで、衝突の際の衝撃から乗員を保護するものである。
【0003】
図4はディスクタイプのインフレータの構造の一例を説明する中央縦断面図である。このインフレータ1は、圧力容器2に、例えば、イニシエータである点火器3と、点火器3の着火エネルギーを瞬時に増幅する伝火薬4と、伝火薬4を介して着火され、瞬時に大量のガスを発生するガス発生剤5を内装した構成である。
【0004】
なお、前記圧力容器2は、ディフューザ2aとベース2bからなり、ベース2bには前記点火器3を保持するアダプター2cが接合されている。また、点火器3は、内部に点火薬を含んでいる。
【0005】
このようなインフレータ1では、衝突時、衝突検知信号によって点火器3が作動し、伝火薬4を介してガス発生剤5が着火されてガスが発生する。発生したガスは、ベース2bに圧入されたフィルター6を通ってディフューザ2aの側壁に設けたガス噴出孔2aaから噴出し、エアバッグを展開させる。
【0006】
7は伝火薬4とガス発生剤5を区画するためにアダプター2cに取付けられたイグナイタチューブであり、伝火薬4とガス発生剤5の間に位置する側壁には、伝火薬4の燃焼をガス発生剤5に至らせる連通孔7aが設けられている。このイグナイタチューブ7の上部には伝火薬4を仕切るリッド8が組み付けられている。また、フィルター6にはリテーナディスク13が圧入されている。
【0007】
また、前記リテーナディスク13とガス発生剤5との間には、インフレータ1の振動によるガス発生剤5の移動を防いで変形等を防止する目的で、ガラス繊維製のクッション部材9が配置されている。
【0008】
ところで、ガス発生剤5が湿分を帯びると、衝突時にインフレータ1が正常に作動しないおそれがある。従って、圧力容器2の内部圧力保持のために前記ガス噴出孔2aaをディフューザ2aの内側から塞ぐシールテープ10に、防湿機能を持たせている。
【0009】
しかしながら、シールテープの貼り付け工程の問題や、貼り付け後の疵等によって、密閉性や防湿性の低下を引き起こすおそれがある。そこで、現在は、貼り付け工程の管理や貼り付け後の漏れがないかどうかの検査等により密閉性や防湿性の低下を起こさないようにしている。また、ガス発生剤を金属製のカップ及びキャップからなる密封容器に装填した状態で圧力容器内に収容する構造のインフレータも提案されている(特許文献1)。
【0010】
上記インフレータにおいて、圧力容器や密封容器の内部に装填するガス発生剤量が多すぎると、図5(c)に示すように、リテーナディスクやキャップを圧入した際にガス発生剤が割れる場合があり、燃焼特性がばらつく原因となる。また、圧力容器や密封容器に装填するガス発生剤量が変化したり、装填状態が不均一な場合も、燃焼特性がばらつく原因となる。
【0011】
従って、計量したガス発生剤を圧力容器や密封容器に装填した後、装填状態を均一に均すための振動を行っているが、この振動時間が長くかかって作業効率が良くない。
【0012】
また、ガス発生剤のペレットは、粒が小さいほど良好な燃焼特性を得ることができるが、粒が小さくなると圧力容器或いは密封容器への装填に要する時間が長くなる。装填に要する時間が長くなると、製造のタクトタイムが延びて製造効率が低下する。そのため、現状は、厚さ数mm、直径数mm(例えば2mm×6mm)程度のペレットが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平3−128744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする問題点は、計量したガス発生剤を圧力容器や密封容器に装填した後に、装填状態を均一に均すための振動を行う場合、振動時間が長くかかって作業効率が良くないという点である。また、ガス発生剤のペレットは、粒が小さいほど良好な燃焼特性を得ることができるが、現状は、製造効率の点から、厚さ数mm、直径数mm程度のペレットを採用しているという点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、
ガス発生剤装填時における作業効率の低下を抑制するのと共により理想的な燃焼特性を得るために、
エアバッグを展開させるためのガスを発生するエアバッグ用インフレータであって、
圧力容器と、点火用のイニシエータと、ガス発生剤と、伝火薬を含むイグナイタチューブを含み、
前記圧力容器は、ベース部と、前記ベース部に接合され、圧力容器内部で発生したガスを外部に噴出させるガス噴出孔を備えたディフューザ部を有し、
前記ガス発生剤は、複数のペレットを含み、これら複数のペレット同士が相対的に移動しないように、前記伝火薬を含むイグナイタチューブと共に包装容器に真空状態で収容されたガス発生体を形成して、前記圧力容器内に収容されることを最も主要な特徴としている。
【0016】
本発明は、ガス発生剤の複数のペレット同士が相対的に移動しないように包装容器に真空状態で収容されたガス発生体を形成するので、このガス発生体を圧力容器内に収容するだけでガス発生剤の装填が終了する。
【0017】
また、本発明では、より理想的な燃焼特性を得るために、より小さいペレットを採用してタクトタイムが延びても、ガス発生体を形成する処理を並列して行うことで、作業効率が悪くならない。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、ガス発生剤の複数のペレットを真空パックすることにより、当該ペレット同士が相対的に移動しないようにガス発生剤を保持でき、車両の振動などでペレットが砕かれるのを防止できる。包装容器に真空状態で収容されたガス発生体は、少なくとも一つの塊となる。その塊を圧力容器内に収容するだけでガス発生剤の装填が終了するので、ガス発生剤の装填時における作業効率が向上する。
【0019】
また、タクトタイムが延びるより小さいペレットを採用した場合でも、ガス発生体を形成する処理を並列して行うことで、作業効率が悪くならないので、より理想的な燃焼特性を得ることができる。また、ガス発生剤を真空状態でパックできるので、湿気等の侵入によるガス発生剤の変質を防ぐことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ディスクタイプの本発明のインフレータを示した中央縦断面図である。
図2】(a)〜(c)はディスクタイプの本発明のインフレータの組立て時の作業を、順を追って示した図である。
図3】シリンダタイプの本発明のインフレータを示した中央縦断面図である。
図4】従来のディスクタイプのインフレータの構造の一例を説明する中央縦断面図である。
図5】(a)〜(c)は従来のディスクタイプのインフレータの組立て時の作業を、順を追って示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、ガス発生剤装填時の作業効率の低下抑制と、より理想的な燃焼特性を得るという目的を、ガス発生剤の複数のペレット同士が相対的に移動しないように包装容器に真空状態で収容されたガス発生体を形成することで実現した。
【実施例】
【0022】
以下、ディスクタイプの本発明のインフレータを、図1及び図2を用いて説明する。
図1は中央縦断面図、図2は組立て時の作業を、順を追って示した図である。
【0023】
11はディスクタイプの本発明のインフレータであり、圧力容器2に、例えば、点火薬を内部に含む点火器3、伝火薬4、ガス発生剤5、及びフィルター6を収容した構成である。
【0024】
このうち、圧力容器2は、ベース部と、このベース部に接合されるディフューザ部を有している。第1実施例では、ベース部は、ベース2bにアダプター2cを接合した構成であり、ディフューザ部は、ディフューザ2aの側壁に、インフレータ11の内部で発生したガスを外部に噴出させるガス噴出孔2aaを設けた構成である。
【0025】
また、前記点火器3と前記伝火薬4は、前記アダプター2cに保持されたイグナイタチューブ7の内部に収容されている。イグナイタチューブ7の上部には、伝火薬4を仕切るリッド8が設けられている。
【0026】
また、複数のペレットを含む前記ガス発生剤5は、本発明では、前記複数のペレット同士が相対的に移動しないように真空パックされ、塊となって包装容器12に真空状態で収容されている。以下、この包装容器12に真空状態で収容され、塊状態となったガス発生剤5をガス発生体という。
【0027】
前記包装容器12の素材やその構成は、ペレット同士が相対的に移動しないように真空状態で収容できるものであれば特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリエステルなどの樹脂層と、アルミ箔等の金属箔が積層されたものを使用する。
【0028】
そして、ガス発生剤5を包装容器12に真空状態で収容したガス発生体は、前記圧力容器2の内部、図1の例では、イグナイタチューブ7と、圧力容器2の側壁内面に沿って配置したフィルター6の間に収容可能なリング状に形成している(図2(a)参照)。このガス発生体は、ほぼ燃焼室の形状に一致している。
【0029】
図1に示す例では、前記ガス発生体のディフューザ側は、ガス発生体側にクッション部材9を設けたリテーナディスク13で保持されている。
【0030】
上記インフレータ11では、先ず、ガス発生剤5を真空パックする。予め計量したガス発生剤5を包装容器12に真空状態で収容して、ガス発生剤5を構成するペレット同士が内部で相対的移動しないようにしたガス発生体を形成する(図2(a))。包装容器12の内部が真空になると、包装容器12は大気圧によって圧力を受けて全体が収縮しようとする。この収縮する力がペレットに伝わり、ペレット同士が包装容器12に押されて一つの塊になる。塊になったガス発生体は容易には変形しないし、ペレット同士がこすれたり、相対的に動いたりしない。
【0031】
次に、このガス発生体を、フィルター6、及び内部に伝火薬4を装填したイグナイタチューブ7を配置したベース2bに挿入する(図2(b))。ガス発生体は塊になっているので、挿入は一瞬で完了する。ベース2bへガス発生体を挿入した後は、リテーナディスク13をフィルター6に圧入して、伝火薬4、フィルター6及びガス発生体を保持する(図2(c))。その後、ガス噴出孔2aaを内部からシールテープ10で塞いだディフューザ2aをベース2bに接合する(図1)。
【0032】
上記インフレータ11では、計量したガス発生剤5を圧力容器2に装填した後に、装填状態を均一に均すための振動を行う従来のインフレータ1に比べて、ガス発生剤5の装填時における作業効率が大幅に向上する。
【0033】
また、前記ガス発生体は、一度、包装容器12に真空状態で収容されると、包装容器12の内部でペレット同士が擦れることがない。従って、車両に搭載した後に、振動等によってペレットが割れたり、欠けたり、粉々になることがなく、時間が経過しても異常燃焼をせず、設計通りのガス発生特性を得ることができる。
【0034】
さらに、上記インフレータ11では、ガス発生剤5を包装容器12に真空状態で収容するので、ガス発生剤5が吸湿する可能性がより低くなって、変質することを防止する。ガス発生体の挿入工程で仮に包装容器12が破損した場合には、ガス発生体が膨らむので、目視で包装容器12のリークを発見することができる。
【0035】
またさらに、上記インフレータ11では、予めガス発生体を形成しておくので、圧力容器2にガス発生剤5を装填する時間は一瞬である。そして、ガス発生体を形成するパッキング自体は容易で、パッキングは圧力容器2の外部で行うことから、タクトタイムが延びても並列処理すれば作業効率の向上が図れるので、より小さいペレットを用いることができる。それにより理想的な燃焼特性を得ることができる。
【0036】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇に含まれるものであれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0037】
すなわち、以上で述べたエアバッグ用インフレータは、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定する主旨の記載がない限り、本発明は添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中で用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨のない限り、それに限定されるものではない。
【0038】
例えば、図3はシリンダタイプのインフレータ21を示したものである。長尺円筒状の圧力容器22の中央部分の外周側に、ガス発生剤5を装填したガス発生室22aを、中央部分の中心部に内筒22bを設けている。内筒22bの点火器3側の位置には、内筒22bの内側に凸状に膨らむ凸部22eを有し、凸部22eと点火器3の間で点火室22cを形成している。
【0039】
図3に示す例では、輸送中に火災等が発生した場合にも、少し低温の時に燃焼を開始させてインフレータの暴発を防止できるように、前記ガス発生剤5の所定位置に、ガス発生剤5よりも低発火点のオートイグニッション用ペレット23を配置している。
【0040】
また、圧力容器22の一方端側には、ガス噴出孔22daを設けた側壁に沿ってフィルター6を配置したフィルター室22dを形成している。一方、圧力容器22の他方端側には、前記内筒22bの側壁に形成した多数の連通孔22baを介して前記ガス発生剤5を均一に着火するための点火器3を配置している。
【0041】
このようなシリンダタイプのインフレータ21にも本発明を適用することができる。
すなわち、シリンダタイプのインフレータ21の場合も、ガス発生剤5のペレット同士やオートイグニッション用ペレット23が相対的に移動しないように包装容器12に真空状態で収容してガス発生体を形成し、このガス発生体を圧力容器22に収容すればよい。
【0042】
また、図1に示したインフレータ11では、ガス発生剤5のみを包装容器12に真空状態で収容しているが、フィルター6、或いは、伝火薬4及びイグナイタチューブ7も一緒に収容して圧力容器2に収容しても良い。また、フィルター6、伝火薬4及びイグナイタチューブ7をガス発生剤5と一緒に包装容器12に真空状態で収容して圧力容器2に収容しても良い。いずれにせよ、ガス発生剤5同士が真空パックによって相対的に動かないような状況にできる方式であれば、どのようなものでもよい。
【0043】
また、ディスクタイプのインフレータ11は、図1に示したようなシングルステージタイプに限らず、ダブルステージタイプのインフレータにも適用できる。
【符号の説明】
【0044】
2 圧力容器
2a ディフューザ
2aa ガス噴出孔
2b ベース
2c アダプター
3 点火器
4 伝火薬
5 ガス発生剤
6 フィルター
7 イグナイタチューブ
8 リッド
11 インフレータ
12 包装容器
13 リテーナディスク
21 インフレータ
22 圧力容器
23 オートイグニッション用ペレット
図1
図2
図3
図4
図5