(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転円板の外縁部分から立設された複数の翼片が回転軸に対して放射状に配置された円筒形状の羽根車と、該羽根車を収容し、前記回転軸に対する半径が前記羽根車の回転方向に大きくなる筒状に形成されたスクロールケーシングと、該スクロールケーシングの前記回転軸の軸方向の一端側を覆い、前記羽根車の内側に空気を導くベルマウス状の開口部を有する蓋板と、前記スクロールケーシングの前記回転軸に対する半径が大きい側の周面から接線方向に延設された送風路とを備え、前記羽根車を回転させることで、前記送風路に空気を送る遠心式ファンにおいて、
前記スクロールケーシングは、前記回転軸に対する半径が小さい側の周面と前記送風路とを接続する部分である舌部を有し、
前記開口部の形状は、同じ開口面積の円形に比べて前記舌部側の曲率半径が大きい形状として、略扇形になっており、
前記開口部は、前記回転軸に対して前記舌部に近付く方向に偏心させて設けられており、前記扇形の円弧部分が前記舌部側の前記羽根車の内周に沿って配され、該扇形の中心角部分が前記羽根車の中央付近に配されている
ことを特徴とする遠心式ファン。
【背景技術】
【0002】
燃焼装置などに用いられる送風機として、遠心式ファンが知られている(例えば、特許文献1)。遠心式ファンは、複数の翼片が回転軸に対して放射状に配置された円筒形状の羽根車と、羽根車を収容するスクロールケーシングとを備えている。このスクロールケーシングは、羽根車の回転軸に対する半径が羽根車の回転方向に大きくなる筒状に形成されており、回転軸の軸方向の一端側を覆う蓋板には羽根車の内側に空気を導くベルマウス状の開口部が設けられている。また、スクロールケーシングの半径が大きい側の周面から接線方向に送風路が延設されている。羽根車を回転させると、羽根車の内側から外側に向かって空気が吹き出すので、開口部から吸い込んだ空気を、送風路と接続された燃焼装置などに送り込むことができる。
【0003】
こうした遠心式ファンを用いる場合には、大きな騒音の発生が問題となることがある。この騒音には、遠心式ファン自体が発する騒音(単体騒音)と、遠心式ファンを含む装置全体での共鳴による騒音(共鳴音)とがある。このうち、共鳴音については、空気を流入させる開口部の径(開口面積)を小さくすることによって抑制できることが経験上分かっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、遠心式ファンの開口部の径を小さくすると、遠心式ファンの単体騒音が大きくなる傾向にあり、共鳴音を抑制しながら単体騒音を抑制するのが難しいという問題があった。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題に対応してなされたものであり、共鳴音の抑制と単体騒音の抑制とを両立させることが可能な遠心式ファンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために本発明の遠心式ファンは次の構成を採用した。すなわち、
回転円板の外縁部分から立設された複数の翼片が回転軸に対して放射状に配置された円筒形状の羽根車と、該羽根車を収容し、前記回転軸に対する半径が前記羽根車の回転方向に大きくなる筒状に形成されたスクロールケーシングと、該スクロールケーシングの前記回転軸の軸方向の一端側を覆い、前記羽根車の内側に空気を導くベルマウス状の開口部を有する蓋板と、前記スクロールケーシングの前記回転軸に対する半径が大きい側の周面から接線方向に延設された送風路とを備え、前記羽根車を回転させることで、前記送風路に空気を送る遠心式ファンにおいて、
前記スクロールケーシングは、前記回転軸に対する半径が小さい側の周面と前記送風路とを接続する部分である舌部を有し、
前記開口部の形状は、同じ開口面積の円形に比べて前記舌部側の曲率半径が大きい形状として、略扇形になっており、
前記開口部は、前記回転軸に対して前記舌部に近付く方向に偏心させて設けられて
おり、前記扇形の円弧部分が前記舌部側の前記羽根車の内周に沿って配され、該扇形の中心角部分が前記羽根車の中央付近に配されている
ことを特徴とする。
【0008】
前述したように遠心式ファンでは、空気を流入させる開口部の径(開口面積)を小さくすると共鳴音を抑制できるものの単体騒音が大きくなることが知られている。ここで、単体騒音が発生するのは次のような理由と考えられる。まず、羽根車を回転させることで開口部から羽根車の内側に吸い込まれた空気は、複数の翼片の間を通って羽根車の外側に吹き出す。この吹き出した空気の流れが舌部に衝突すると舌部付近の圧力が高まることにより、翼片の蓋板側の端部と蓋板との隙間では、羽根車の外側から内側に向かう空気の逆流が発生する。こうした逆流が、開口部から翼片に向かう空気の流れを乱し、その乱れが単体騒音を発生させる。そして、逆流による乱れは、開口部から流入する空気の流れによって翼片へと押し出される(排出される)ものの、開口部の径を小さくして開口部が翼片から離れていると、羽根車の内側で流れが乱れる空間(乱れ空間)が広いので大きな単体騒音が発生する。そこで、本発明の遠心式ファンでは、蓋板に設けたベルマウス状の開口部を、回転軸に対して舌部に近付く方向に偏心させて配置している。こうすれば、開口部を偏心させない場合に比べて、舌部側では開口部と翼片との間隔が狭くなる。その結果、乱れ空間が縮小されるので、単体騒音を抑制することができる。
【0009】
また、本発明の遠心式ファンでは、開口部を偏心させて舌部に近付ければよく開口部の開口面積を大きくする必要はないので、共鳴音に悪影響を与えることはない。そして、共鳴音が発生しないように開口部の開口面積を小さくしても、その開口部を舌部側に偏心させて配置することで単体騒音を抑制できる。このように本発明の遠心式ファンによれば、単体騒音の抑制と共鳴音の抑制とを両立することが可能となる。
【0011】
また、開口部の形状を、同じ開口面積の円形に比べて舌部側の曲率半径が大きい形状とすれば、同じ開口面積の円形の開口部に比べて、舌部側では開口部と羽根車の翼片とが近接する(間隔が狭い)範囲が広くなるので、逆流が羽根車の内側へと侵入し得る領域に広く対応させることができる。これにより、乱れ空間が一層小さくなるので、単体騒音の低減を図ることができる。尚、開口部の開口面積を変えることなく形状のみを変えれば、共鳴音に悪影響を与えることはない。
【0013】
さらに、開口部の形状を略扇形として、その扇形の円弧部分を舌部側の羽根車の内周に沿って配するとともに、扇形の中心角部分を羽根車の中央付近に配しておけば、開口部から羽根車の中央(回転軸)付近への空気の流入を確保しつつ、舌部側では乱れ空間を小さくして単体騒音を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施例の遠心式ファン10を分解した状態を示した斜視図である。この遠心式ファン10は、例えば、バーナーを内蔵する燃焼装置(図示省略)に接続されて、バーナーに燃焼用空気を送るのに用いられる。図示されるように遠心式ファン10は、回転することで風を発生させる羽根車20や、羽根車20を回転させる駆動モーター30や、羽根車20を収容するファンケース50などを備えている。
【0016】
本実施例の羽根車20は、いわゆるシロッコファンであり、駆動モーター30の回転軸32の軸方向に細長く形成された複数の翼片24が回転軸32に対して放射状に所定の間隔で配置されて円筒形状になっている。これら翼片24の一端(図中の下端)は、略円形の回転円板22の外縁部分に取り付けられており、翼片24の他端(図中の上端)は、環状の支持板26に取り付けられている。回転円板22は、中央で駆動モーター30の回転軸32に固定されており、駆動モーター30の駆動によって羽根車20が回転軸32を中心に回転する。
【0017】
ファンケース50は、駆動モーター30の本体に対して固定される底板52と、羽根車20の外周を囲うように湾曲させた周壁板54と、周壁板54を介して底板52と対向する蓋板56とを接合して形成される。蓋板56には、羽根車20の内側に空気を導くベルマウス状の開口部58が設けられている。この開口部58の最小内径(開口面積が絞られた先端側の内径)は羽根車20の内径よりも小さくなっており、開口部58の先端は羽根車20の内側に位置する。また、本実施例の開口部58は、開口中心を回転軸32と同一直線上ではなく所定方向に偏心させて設けられている。この偏心の理由については、後ほど詳しく説明する。
【0018】
図2は、遠心式ファン10が羽根車20を回転させて風を送り出す様子を示した説明図である。
図2には、駆動モーター30の回転軸32に垂直な平面で遠心式ファン10を切断した断面図が示されている。先ず、図示されるようにファンケース50(周壁板54)は、羽根車20を囲むスクロールケーシング50aと、遠心式ファン10が空気を送り込む燃焼装置などと接続される送風路50bとを備えている。スクロールケーシング50aは、駆動モーター30の回転軸32に対して半径が羽根車20の回転方向(図示した例では左回り)に大きくなる筒状に形成されている。そして、スクロールケーシング50aの半径の大きい側の周面から接線方向に矩形断面の送風路50bが延設されており、送風路50bの末端には吐出口60が設けられている。
【0019】
羽根車20の複数の翼片24は、外周側を羽根車20の回転方向に湾曲させて設けられている。駆動モーター30の駆動によって羽根車20が回転すると、遠心力によって羽根車20の内側から外側に向かう空気の流れが生じて、開口部58から吸い込まれた空気が複数の翼片24の間から吹き出す。
図2では、遠心式ファン10内の空気の流れを一点鎖線の矢印で示している。そして、吹き出した空気は、ファンケース50(周壁板54)のスクロールケーシング50aの内面に沿って回転しながら進み、送風路50bを通って吐出口60から放出される。
【0020】
ただし、スクロールケーシング50aの半径が小さい側の周面と送風路50bとの接続部分(舌部)50cの付近では、
図2中にAを付した矢印で例示すように羽根車20の外側から内側に向かう空気の逆流が生じる。そして、この逆流によって遠心式ファン10自体の騒音(単体騒音)が発生し、開口部58の最小内径(開口面積)を小さくした場合に騒音値が大きくなる傾向にある。そこで、本実施例の遠心式ファン10では、開口部58の開口面積を小さくしても単体騒音を抑制するために、開口部58の開口中心が回転軸32に対して舌部50cに近付く方向に偏心させて開口部58を設けている。
【0021】
図3は、舌部50cの付近で空気の逆流が生じる様子と、開口部58の偏心によって単体騒音が抑制される理由とを示す説明図である。
図3には、駆動モーター30の回転軸32を含むと共に舌部50cに臨む平面で遠心式ファン10を切断した断面図が示されている。尚、
図3では、駆動モーター30の図示を省略している。また、図中の一点鎖線の矢印は、遠心式ファン10内の空気の流れを示している。
【0022】
先ず、比較として開口部58を偏心させない(開口中心が回転軸32と同一直線上にある)場合を示した
図3(a)を用いて、羽根車20の回転によって生じる空気の基本的な流れについて説明する。羽根車20を回転させることで開口部58から勢いよく羽根車20の内側に吸い込まれた空気は、回転軸32の軸方向の奥側(底板52側)に向かって流れ込む。そのため、複数の翼片24の間を通って空気が羽根車20の外側に吹き出すのは、主に翼片24の中央よりも回転円板22側(図中の下側)の部分からである。
【0023】
こうして羽根車20の外側に吹き出した空気の流れが吐出口60から放出されずに舌部50cに衝突すると、舌部50cの付近での圧力が高まることによって羽根車20の外側から内側に向かう空気の逆流が生じる。特に、蓋板56と羽根車20の支持板26との隙間では、回転する羽根車20の翼片24に押し返されることもないので、強い逆流が発生する。
【0024】
このような舌部50c付近での逆流が、開口部58から翼片24に向かう空気の流れを乱し、その乱れが単体騒音を発生させる。そして、逆流による乱れは、開口部58から流入する空気の流れによって翼片24へと押し出される(排出される)ものの、開口部58の最小内径を小さくして開口部58が翼片24から離れていると、羽根車20の内側で流れが乱れる空間(乱れ空間)が広いので大きな単体騒音が発生する。
【0025】
そこで、本実施例の遠心式ファン10では、
図3(b)に示したように、蓋板56に設けたベルマウス状の開口部58を舌部50c側に偏心させて配置している。こうすれば、
図3(a)に示した開口部58を偏心させない場合に比べて、舌部50c側では開口部58から翼片24までの間隔が狭くなる。その結果、乱れ空間が縮小されるので、単体騒音を抑制することができる。
【0026】
また、遠心式ファン10が接続される燃焼装置などの筐体と共鳴器を形成することで遠心式ファン10を含む装置全体から共鳴音を発して騒音となることがある。こうした共鳴音は、遠心式ファン10の羽根車20の内側に空気を流入させる開口部58の開口面積を大きくすると発生し易くなる。本実施例の遠心式ファン10では、開口部58を偏心させて舌部50cに近付ければよく開口部58の開口面積を大きくする必要がないので、共鳴音に悪影響を与えることはない。そして、共鳴音が発生しないように開口部58の開口面積を小さくしても、その開口部58を舌部50c側に偏心させて配置することにより、遠心式ファン10の単体騒音を抑制することができる。このように本実施例の遠心式ファン10によれば、単体騒音の抑制と共鳴音の抑制とを両立させることが可能となる。
【0027】
図4は、開口部58を回転軸32に対して偏心させる方向を変えて遠心式ファン10について測定した騒音値を比較して示した説明図である。
図4には、送風路50bの吐出口60を図中の右方向に向けた状態で、遠心式ファン10を蓋板56側から見た平面図が示されている。また、図中の太破線の円弧は、黒丸で示す舌部50cの中央を中心に回転軸32を通る円周の一部を示したものである。
【0028】
図示した例では、比較の基準として開口部58を偏心させない(開口中心が回転軸32と同一直線上にある)場合の騒音値が54.0dBとなっている。これに比べて、開口部58を図中の上方向に移動させて設けた場合や、図中の左方向に移動させて設けた場合は、開口部58の開口中心が太破線の円弧よりも外側(舌部50cとは反対側)に出てしまい、開口部58が舌部50cから離れることになる。そのため、開口部58の最小内径を小さくした場合と同様に、舌部50c側では開口部58と翼片24との間隔が広くなり、乱れ空間が拡大されることで騒音値が大きくなる。
【0029】
一方、開口部58を図中の下方向(回転軸32からスクロールケーシング50aの半径の大きい側と送風路50bとの接続部分に向かう方向)に移動させて設けた場合や、図中の右方向(送風路50bの吐出口60が向いた方向)に移動させて設けた場合は、開口部58の開口中心が太破線の円弧よりも内側(舌部50c側)に入り、開口部58が舌部50cに近付くことになる。そのため、舌部50c側では開口部58と翼片24との間隔が狭くなり、乱れ空間が縮小されることで騒音値が低下する。このように単体騒音を抑制する上で開口部58を偏心させる方向は、回転軸32と舌部50cの中央とを結ぶ直線方向(
図4中では一点鎖線で示す)に限られず、開口部58が回転軸32に対して舌部50cに近付く方向であれば単体騒音を抑制する効果を得ることができる。
【0030】
上述した本実施例の遠心式ファン10には、次のような変形例も存在する。以下では、上述の実施例とは異なる点を中心に変形例について説明する。
【0031】
図5は、変形例の遠心式ファン10を蓋板56側から見た平面図である。前述した実施例では、蓋板56に設けられた開口部58が回転軸32の軸方向に見て略円形に形成されていた。これに対して、
図5に示されるように変形例の遠心式ファン10では、楕円の長辺側の円弧を舌部50c側の羽根車20の内周に沿って配置するとともに、その楕円よりも小さい円を羽根車20の中央に配置して、これら2つの図形を互いに接線で繋いだような形状(全体として略扇形)に開口部58が形成されている。
【0032】
このように開口部58の形状を、同じ開口面積の円形に比べて舌部50c側の曲率半径が大きい形状とすれば、舌部50c側では開口部58と羽根車20の内周(翼片24)とが近接する(間隔が狭い)範囲が広くなるので、逆流が羽根車20の内側に侵入し得る領域に広く対応させることができる。これにより、乱れ空間が一層小さくなるので、単体騒音の低減を図ることができる。尚、開口部58の開口面積を変えることなく形状のみを変えれば、共鳴音に悪影響を与えることはない。
【0033】
また、開口部58の形状を略扇形として、その扇形の中心角部分を羽根車20の中央(回転軸32)付近に配しておけば、開口部58から羽根車20の中央付近への空気の流入を確保しつつ、舌部50c側では乱れ空間を小さくして単体騒音を抑制することが可能となる。
【0034】
以上、本実施例および変形例の遠心式ファン10について説明したが、本発明は上記の実施例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
10…遠心式ファン、 20…羽根車、 22…回転円板、
24…翼片、 26…支持板、 30…駆動モーター、
32…回転軸、 50…ファンケース、 50a…スクロールケーシング、
50b…送風路、 50c…舌部、 52…底板、
54…周壁板、 56…蓋板、 58…開口部、
60…吐出口。