【文献】
Fischer, H.,Vinylidene Complexes by M=C/N=C Metathesis from Benzylidene Complexes and Ketenimines,Organometallics,1991年,10(2),p. 389-391
【文献】
矢守隆夫他,固形癌の最新治療 治療の新たな取り組み 薬物療法 キナ-ゼ阻害薬,日本臨床,2010年 6月 1日,Vol.68,p.1059-1066
【文献】
David Dankort.et al.,Braf V600E cooperates with Pten loss to induce metastatic melanoma,Nature genetics,2009年,Vol.41,p.544-552
【文献】
WANG X.et al.,KRAS, BRAF, PIK3CA MUTATIONS AND PTEN EXPRESSION IN HUMAN COLORECTAL CANCER-RELATIONSHIP WITH METAST,Ann Oncol,2010年,Vol.21 No.Supplement 6,p.VI64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(a)の検出工程において、B−Rafが野生型であり、かつ、PTENが野生型である場合、前記被験者は血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標である、請求項1に記載の方法。
前記PTENの突然変異が、A499G、T202CおよびT335Aからなる群から選ばれる少なくとも1つのヌクレオチド配列の突然変異、またはT167A、Y68HおよびL112Qからなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸配列の突然変異である、請求項1に記載の方法。
前記血管新生阻害剤が、4−(3−クロロ−4−(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)−7−メトキシ−6−キノリンカルボキサミドのメシル酸塩である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記血管新生阻害剤が、4−(3−クロロ−4−(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)−7−メトキシ−6−キノリンカルボキサミドのメシル酸塩である、請求項9または10に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
なお、本明細書において引用した文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
【0025】
本発明は、被験者が血管新生阻害剤に反応する可能性を予測する方法に関するものである。
本発明の方法は、被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中の、B-Rafの突然変異または発現欠損の有無、およびPTENの突然変異または発現欠損の有無を検出する工程を含む。そして、当該検出工程において、次の(a1)または(a2)の場合は、当該被験者は血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となる。
(a1)B-Rafが野生型であり、PTENが野生型である。
(a2)B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異もしくは発現欠損変異を有しており、PTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異もしくは発現欠損変異を有している。
【0026】
また、本発明の方法は、被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中の、ANG1およびANG2の発現レベルを定量する工程を含む。そして、当該定量工程において、次の(b1)、(b2)または(b3)の場合、これらの定量結果は、当該被験者は血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となる。
(b1)ANG1の発現レベルが対照の値と比較して低い。
(b2)ANG2の発現レベルが対照の値と比較して高い。
(b3)ANG1およびANG2の発現レベルの比が、対照の値と比較して低い。
【0027】
さらに、本発明は、前記被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中の、SHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1からなる群から選ばれる少なくとも1つの発現レベルを定量する工程を含む。そして、当該定量工程において、次の(c1)〜(c15)に該当する場合、これらの定量結果は、当該被験者は血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となる。
(c1)SHC1の発現レベルが、対照の値と比較して低い。
(c2)NRP2の発現レベルが、対照の値と比較して低い。
(c3)ARHGAP22の発現レベルが、対照の値と比較して低い。
(c4)SCG2の発現レベルが、対照の値と比較して低い。
(c5)PMLの発現レベルが、対照の値と比較して低い。
(c6)IL6の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
(c7)CXCR4の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
(c8)COL4A3の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
(c9)MEIS1の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
(c10)FGF9の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
(c11)FGFR3の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
(c12)FGFR2の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
(c13)FGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
(c14)FGFR4の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
(c15)VEGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い。
【0028】
さらに、本発明は、前記被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中の、B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無、並びにFGFR3またはFGFR2の発現レベルを検出する工程を含む。そして、当該検出工程において、次の(d1)または(d2)の場合は、当該被験者は血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となる。
(d1)B-RafおよびPTENが野生型であり、FGFR3またはFGFR2を発現する。
(d2)B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異もしくは発現欠損を有しており、PTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異もしくは発現欠損を有しており、FGFR3あるいはFGFR2を発現する。
【0029】
さらに、本発明の方法は、上記指標を用いて血管新生阻害剤に対する反応性を予測する方法に関する。
すなわち、本発明の方法は、B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損変異の有無、あるいはANG1およびANG2の発現レベルまたはANG1およびANG2の発現レベルの比を検出し、これらの検出結果を指標として、血管新生阻害剤に対する反応性と関連づける工程を含む。また、本発明の方法は、SHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4またはVEGFR1の発現レベルを定量し、これらの検出結果を指標として、血管新生阻害剤に対する反応性と関連づける工程を含む。
【0030】
本発明において、検出工程には、発現レベルまたは発現レベルの比の測定工程あるいは得られた測定結果を分析する工程を含めることができ、定量工程には、発現レベルまたは発現レベルの比の測定工程あるいは得られた測定結果を分析する工程を含めることができる。
本発明の方法により得られた上記検出結果及び定量結果は、被験者が血管新生阻害剤に対する反応性が高いか否かを判定するための情報として提供される。これらの情報は、主として医療従事者によって利用される。
本発明の方法により、血管新生阻害剤に反応する可能性が高いと判断されたときは、血管新生阻害剤の効果が有効であること(抗腫瘍効果)が期待でき、本発明の方法は癌治療の指標として利用することができる。
【0031】
本発明の方法の対象となる血管新生阻害剤は、血管新生阻害活性を有する物質であり、VEGFレセプター阻害剤、FGFレセプター阻害剤、PDGFレセプター阻害剤、RETキナーゼ阻害剤、KITキナーゼ阻害剤、上皮成長因子(EGF)阻害剤、インテグリン阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、内因性阻害物質等が挙げられる。
【0032】
「VEGFレセプター」は、受容体型チロシンキナーゼの一群であり、本発明においては、VEGFR-1(Flt-1とも称される)、VEGFR-2(KDR/Flk-1とも称される)、VEGFR-3(Flt-4とも称される)を総称するものである。さらに、VEGFR-1、VEGFR-2およびVEGFR-3のいずれかのアミノ酸配列に相同性を有し、かつ、VEGFレセプター活性を有するもの(現在機能が未知であるが、将来機能的に同じファミリーに分類されるものを含む)も、VEGFレセプターに含まれる。VEGFレセプター活性は、当該レセプターのリン酸化を特異的抗体を用いたELISAやウェスタンブロッティング法により検出することで測定することができる。
本発明において、「VEGFレセプター阻害剤」とは、VEGFレセプターに対する阻害活性を有する阻害剤を意味する。VEGFレセプター阻害剤は、VEGFレセプターに対する阻害活性を有している限り、他の受容体型チロシンキナーゼやその他の生体内分子に対しても阻害活性を有していても良い。
【0033】
「FGFレセプター」は、受容体型チロシンキナーゼの一群であり、本発明においては、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4およびFGFR5を総称するものである。さらに、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4およびFGFR5のいずれかのアミノ酸配列に相同性を有し、かつ、FGFレセプター活性を有するもの(現在機能が未知であるが、将来機能的に同じファミリーに分類されるものを含む)も、FGFレセプターに含まれる。FGFレセプター活性は、当該レセプターのリン酸化をELISAやウェスタンブロッティング法により検出することで測定することができる。
本発明において、「FGFレセプター阻害剤」とは、FGFレセプターに対する阻害活性を有する阻害剤を意味する。FGFレセプター阻害剤は、FGFレセプターに対する阻害活性を有している限り、他の受容体型チロシンキナーゼやその他の生体分子に対しても阻害活性を有していても良い。
【0034】
「PDGFレセプター」は、受容体型チロシンキナーゼの一群であり、本発明においては、PDGFR-αおよびPDGFR-βを総称するものである。さらに、PDGFR-αおよびPDGFR-βのいずれかのアミノ酸配列に相同性を有し、かつ、PDGFレセプター活性を有するもの(現在機能が未知であるが、将来機能的に同じファミリーに分類されるものを含む)も、PDGFレセプターに含まれる。PDGFレセプター活性は、当該レセプターのリン酸化活性をELISAやウェスタンブロッティング法により検出することで測定することができる。
本発明において、「PDGFレセプター阻害剤」とは、PDGFレセプターに対する阻害活性を有する阻害剤を意味する。PDGFレセプター阻害剤は、PDGFレセプターに対する阻害活性を有している限り、他の受容体型チロシンキナーゼやその他の生体分子に対しても阻害活性を有していても良い。
【0035】
「RETキナーゼ」は、受容体型チロシンキナーゼの一種であり、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)ファミリーのリガンドに対する機能的レセプターである。本発明においては、さらに、RETキナーゼのアミノ酸配列と相同性を有し、かつ、RETキナーゼ活性を有するもの(現在機能が未知であるが、将来機能的に同じファミリーに分類されるものを含む)もRETキナーゼも含まれる。RETキナーゼ活性は、当該レセプターのリン酸化活性をELISAやウェスタンブロッティング法により検出することで測定することができる。
本発明において、「RETキナーゼ阻害剤」とは、RETキナーゼに対する阻害活性を有する阻害剤を意味する。RETキナーゼ阻害剤は、RETキナーゼに対する阻害活性を有している限り、他の受容体型チロシンキナーゼやその他の生体分子に対しても阻害活性を有していても良い。
【0036】
「KITキナーゼ」は、c-KitまたはSCFレセプターとも称され、受容体型チロシンキナーゼの一種である。本発明においては、さらに、KITキナーゼのアミノ酸配列と相同性を有し、かつ、KITキナーゼ活性を有するもの(現在機能が未知であるが、将来機能的に同じファミリーに分類されるものを含む)も、KITキナーゼに含まれる。
本発明において、「KITキナーゼ阻害剤」とは、KITキナーゼに対する阻害活性を有する阻害剤を意味する。KITキナーゼ阻害剤は、KITキナーゼに対する阻害活性を有している限り、他の受容体型チロシンキナーゼやその他の生体分子に対しても阻害活性を有していても良い。KITキナーゼ活性は、当該レセプターのリン酸化活性をELISAやウェスタンブロッティング法により検出することで測定することができる。
【0037】
「EGF」とは、上皮成長因子のことであり、「EGF阻害剤」とはEGFとそのレセプターの結合により誘導されるシグナリングに対する阻害活性を有する阻害剤を意味する。EGF阻害剤は、EGFが誘導するシグナリングに対する阻害活性を有している限り、他の生体分子に対しても阻害活性を有していても良い。
【0038】
「インテグリン」とは、主に細胞接着分子として機能する細胞表面タンパク質の一つである。その構造はα鎖とβ鎖からなるヘテロダイマーで構成されており、これまでに異なるα鎖とβ鎖の組合せにより22種のインテグリンが確認され、インテグリンファミリーを形成している。「インテグリン阻害剤」とは、インテグリンとそのレセプターとの結合により誘導されるシグナリングに対する阻害活性を有する阻害剤を意味する。インテグリン阻害剤は、インテグリンが誘導するシグナリングに対する阻害活性を有している限り、他の生体分子に対しても阻害活性を有していても良い。
【0039】
「マトリックスメタロプロテアーゼ」とは、細胞外マトリックスの分解に関わる亜鉛イオン(Zn
2+)依存性のプロテアーゼの一群である。マトリックスメタロプロテアーゼは、血管周囲の基底膜を分解することにより血管新生を促進することが知られている。「マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤」とは、マトリックスメタロプロテアーゼに対する阻害活性を有する阻害剤を意味する。マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤は、マトリックスメタロプロテアーゼに対する阻害活性を有している限り、他の生体分子に対しても阻害活性を有していても良い。
【0040】
「内因性阻害物質」とは細胞が内在的に発現する、血管新生阻害活性を有する生体内物質のことであり、トロンボスポンジン、プロラクチン、インターフェロンα/β、インターロイキン−12、血小板第4因子、アンジオスタチン、エンドスタチン、あるいはそれらの分解物を含む。
【0041】
本発明において、血管新生阻害剤への「反応性」とは、血管新生阻害剤を投与されることによって、癌細胞の増殖が抑制される性質を意味し、血管新生阻害剤に対する感受性の指標となる性質である。
ここで、「腫瘍」は良性腫瘍および悪性腫瘍に分類され、それぞれ上皮性と非上皮性がある。本発明において、「癌」は上皮性の悪性腫瘍をいう場合がある。
被験者の血管新生阻害剤への「反応性が高い」とは、血管新生阻害剤を投与されることによって、腫瘍細胞の増殖が強く抑制される性質をいい、例えば、血管新生阻害剤を投与されることによって、腫瘍細胞の増殖、例えば腫瘍細胞の増殖する速度または増殖する量が対照の値に比べて、1/2以下、好ましくは1/5以下、さらに好ましくは1/10以下の場合、または、腫瘍細胞のコロニー形成率が対照の値に比べて、1/2以下、好ましくは1/5以下、さらに好ましくは1/10以下の場合をいうことができる。
あるいは、臨床現場においては、例えば、血管新生阻害物質を投与した時に対照の値と比較して病変が20%の増加にとどまる、好ましくは標的病変の長径和が投与前の長径和と比較して30%以上の減少、さらに好ましくは全ての標的病変が消失する場合をいうことができるが、これらの例に限定されるものではない。
【0042】
本発明において、「被験者の腫瘍組織に由来するサンプル」とは、被験者から採取された腫瘍組織、循環癌細胞など腫瘍組織から遊離した腫瘍細胞または腫瘍細胞に由来するDNA、RNA(例えばmRNA、miRNA、tRNA、rRNA、ncRNA、dsRNA、snRNA、snoRNAなど)、その他の核酸もしくはタンパク質、あるいはそれらから本発明の実施に適する形態に調製されたものを意味する。被験者から採取された腫瘍組織または腫瘍細胞は体液または血液であってもよい。なお、サンプルの採取や調製を行なう者は、本発明の工程を行う医療従事者と同一人物でも良く、別人物であっても良い。
【0043】
本発明において、「医療従事者」とは、医師、歯科医師、検査技師(検査受託会社において検査を行う者も含む)、看護師、その他の医療機関の職員を言う。
【0044】
本発明において、血管新生阻害剤への反応性を予測する対象となる腫瘍の種類、または被験者の罹患する腫瘍の種類は、特に限定されず、例えば、脳腫瘍(下垂体腺腫、神経膠腫を含む)、頭頸部癌、頚癌、顎癌、上顎癌、顎下腺癌、口腔癌(舌癌、口腔底癌、歯肉癌、頬粘膜癌、硬口蓋癌を含む)、唾液腺癌、舌下腺癌、耳下腺癌、鼻腔癌、副鼻腔癌(上顎洞癌、前頭洞癌、篩骨洞癌、蝶型骨洞癌を含む)、喉頭癌(声門上癌、声門癌、声門下癌を含む)、食道癌、肺癌(気管支原生癌、非小細胞肺癌(肺腺癌、扁平上皮癌、大細胞肺癌を含む)、小細胞肺癌(燕麦細胞型(リンパ球様型)、中間細胞型を含む)、混在小細胞・大細胞肺癌を含む)、乳癌、膵癌(膵管癌を含む)、胃癌(スキルス胃癌、未分化胃癌(低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌を含む)を含む)、胆道癌(胆管癌、胆嚢癌を含む)小腸または十二指腸の癌、大腸癌(結腸癌、直腸癌、結腸・直腸癌、盲腸癌、S状結腸癌、上行結腸癌、横行結腸癌、下行結腸癌を含む)、膀胱癌、腎癌(腎細胞癌を含む)、肝癌(肝細胞癌、肝内胆管癌を含む)、前立腺癌、子宮癌(子宮頸癌、子宮体癌を含む)、卵巣癌、甲状腺癌、咽頭癌(上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌を含む)、肉腫(例えば、骨肉腫、軟骨肉腫、カポジ肉腫、筋肉腫、血管肉腫、線維肉腫など)、悪性リンパ腫(ホジキン型リンパ腫、非ホジキン型リンパ腫を含む)、白血病(例えば、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)および急性リンパ性白血病(ALL)、リンパ腫、多発性骨髄腫(MM)、骨髄異型成症候群などを含む)および皮膚癌(基底細胞癌、有棘細胞癌、メラノーマ、菌状息肉症、セザリー症候群、日光角化症、ボーエン病、パージェット病を含む)を挙げることができ、好ましくは、B-RafにV600E突然変異のある腫瘍である。B-RafにV600E突然変異のある腫瘍とは、例えば、メラノーマ、甲状腺癌、卵巣癌、胆道癌、大腸癌、肝癌、膵臓癌、乳癌、肺癌、神経膠腫、骨髄性白血病および子宮内膜癌である(Schubbert et al., Nature Reviews Cancer, 2007, 7, p.295-309.)。より好ましくは、メラノーマ、甲状腺癌、大腸癌、卵巣癌、肝癌、肺癌、子宮内膜癌および神経膠腫であり、さらに好ましくは、メラノーマである。腫瘍がB-RafにV600E突然変異のある腫瘍であるかどうかは、後述するB-Rafの突然変異または発現欠損の検出方法を用いて調べることもできる。
本発明における被験者は、上記腫瘍の少なくとも1種に罹患している被験者が含まれる。被験者が上記腫瘍の少なくとも1種に罹患している限り、当該被験者は他の疾患に罹患していてもよい。
【0045】
本発明において、「B-Raf」(v-raf murine sarcoma viral oncogene homolog B1)(「BRAF」ともいう)とは、raf/milファミリーに属するセリン/スレオニンプロテインキナーゼであり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_004333.4である遺伝子(配列番号1)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_004324.2のタンパク質(配列番号2)を意味する。このタンパク質は、MAPキナーゼ/ERKsシグナリング経路を調節する機能を有する。
【0046】
本発明において、「PTEN」(phosphatase and tensin homolog deleted on chromosome10)とは、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_000314.4である遺伝子(配列番号3)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_000305.3のタンパク質(配列番号4)を意味する。
【0047】
本発明において、B-RafまたはPTENの「突然変異」とは、B-RafまたはPTENのポリヌクレオチド配列中のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列中のアミノ酸が一つまたは複数個置換、欠失、挿入および/または付加されることにより変異することを意味する。したがって、B-RafまたはPTENのポリヌクレオチド配列中のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列中のアミノ酸が一つまたは複数個置換、欠失、挿入および/または付加された状態が検出されたときに、B-RafまたはPTENは突然変異を有していると判断される。
【0048】
本発明において、B-Rafの突然変異は、例えば以下の表1に示されるものから選ばれる一のアミノ酸配列変異または当該アミノ酸配列変異に対応する塩基配列変異である。
【表1】
表1において、アルファベットに挟まれた数字は、B-Rafのアミノ酸配列(配列番号2)の位置を示し、数字の前に記載されたアルファベットは野生型のアミノ酸であり、数字の後に記載されたアルファベットは変異後のアミノ酸である。
例えば、アミノ酸配列変異のD587Aとは、B-Raf遺伝子(配列番号1)のアミノ酸配列(配列番号2)において、587番目のアスパラギン酸がアラニンに突然変異していること、または、このアミノ酸配列の変異に対応するポリヌクレオチドの塩基配列の変異を意味する。
【0049】
アミノ酸配列変異のV600Eとは、B-Raf遺伝子(配列番号1)のアミノ酸配列(配列番号2)において、600番目のバリンがグルタミン酸に突然変異していること、または、対応するポリヌクレオチドの塩基配列の変異、例えば、1798〜1800番目の塩基配列「gtg」において、1799位のヌクレオチドがチミンからアデニンへ突然変異していることを意味する。
アミノ酸配列変異のK601delとは、B-Raf遺伝子(配列番号1)のアミノ酸配列(配列番号2)において、601番目のリジンが欠失していること、または、対応するポリヌクレオチドの塩基配列の変異を意味する。
アミノ酸配列変異のT599_V600insTTとは、B-Raf遺伝子(配列番号1)のアミノ酸配列(配列番号2)において、599番目のトレオニンと600番目のバリンの間にトレオニン2残基が挿入されていること、または、対応するポリヌクレオチドの塩基配列の変異を意味する。
【0050】
本発明において、B-Rafの「発現欠損」または「発現欠損変異」とは、B-Raf遺伝子が欠失すること、またはB-Raf遺伝子(イントロン部位を含む)のポリヌクレオチド配列が突然変異することにより、B-Rafのタンパクの発現が消失している状態を意味する。したがって、被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中のB-Rafのポリヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列の検出量が、対照の値に比べて統計学的に有意に減少しているとき、または予め設定したカットオフ値未満であるとき、あるいはB-Rafが検出限界以下であるときは、B-Rafは発現欠損していると判断される。
本発明において、B-Rafが「野生型」であるとは、表1に示される突然変異部位の少なくとも一の有無を確認した際、当該突然変異が検出されず、かつ、発現欠損も検出されない状態を意味する。また、B-Rafが「野生型」であることをB-Rafが「正常下」であるともいう。
【0051】
本発明において、PTENの突然変異は、以下の表2に示されるものから選ばれる一のものである。
【表2】
【0052】
表2において、アルファベットに挟まれた数字は、PTENのポリヌクレオチド配列(配列番号3)又はアミノ酸配列(配列番号4)の位置を示し、数字の前に記載されたアルファベットは野生型の塩基配列又はアミノ酸配列であり、数字の後に記載されたアルファベットは変異後の塩基配列又はアミノ酸配列である。例えば、ヌクレオチド変異のT170Gとは、PTEN遺伝子のタンパクコード領域(配列番号3)の170位のヌクレオチドがチミンからグアニンに突然変異していることを意味し、アミノ酸変異のL57Wとは、対応するタンパク質のアミノ酸配列(配列番号4)において、57番目のロイシンがトリプトファンに突然変異していることを意味する。Y76stopとは、PTENのアミノ酸配列の76番目のチロシンのコドンがストップコドンに変異して翻訳停止となったことを意味する。
【0053】
本発明において、PTENの「発現欠損」または「発現欠損変異」とは、PTEN遺伝子が欠失すること、またはPTEN遺伝子(イントロン部位を含む)のポリヌクレオチド配列が突然変異することにより、PTENのタンパクの発現が消失している状態を意味する。したがって、被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中のPTENのポリヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列の検出量が、対照の値に比べて統計学的に有意に減少しているとき、または予め設定したカットオフ値未満であるとき、あるいはPTENが検出限界以下であるときは、PTENは発現欠損していると判断される。
本発明において、PTENが「野生型」であるとは、表2に示される突然変異部位の少なくとも一の有無を確認した際、当該突然変異が検出されず、かつ、発現欠損も検出されない状態を意味する。また、PTENが「野生型」であることをPTENが「正常下」であるともいう。
【0054】
本発明において、「ANG1」とはアンジオポエチン-1、「ANG2」とはアンジオポエチン-2であり、mRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がそれぞれGenBank Accession No. NM_001146.3、NM_00111888.1である遺伝子(ANG1:配列番号45、ANG2:配列番号47)、およびそこから翻訳されるタンパク質(ANG1:配列番号46、GenBank Accession No. NP_001137.2、ANG2:配列番号48、GenBank Accession No. NP_001112360.1)を意味する。
【0055】
本発明において、「SHC1」(src homology2 domain containing transforming protein1)とは、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_003029.4である遺伝子(配列番号5)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_003020.2のタンパク質(配列番号6)を意味する。このタンパク質は、アポトーシスに関連する機能を有する。
【0056】
本発明において、「IL6」(interleukin6)とは、造血や炎症反応において重要な役割を果たすサイトカインであり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No.NM_000600.3である遺伝子(配列番号7)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_000591.1のタンパク質(配列番号8)を意味する。このタンパク質は、JAK/STATシグナリング経路やMAPキナーゼ/ERKsシグナリング経路を調節する機能を有する。
【0057】
本発明において、「CXCR4」(CXC chemokine receptor4)とは、fusinとも呼ばれ、ストローマ由来因子1に対して特異的なαケモカインレセプターであり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No.NM_001008540.1である遺伝子(配列番号9)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_001008540.1のタンパク質(配列番号10)を意味する。このタンパク質は、細胞の遊走を促進する機能を有する。
【0058】
本発明において、「COL4A3」(collagen, type IV, alpha 3)、とは、細胞外マトリックスを構成する成分であり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No.NM_000091.4である遺伝子(配列番号11)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_000082.2のタンパク質(配列番号12)を意味する。このタンパク質は、細胞骨格を形成する機能を有する。
【0059】
本発明において、「NRP2」(neuropilin-2)とは、細胞膜貫通型の受容体タンパクであり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No.NM_003872.2である遺伝子(配列番号13)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_003863.2のタンパク質(配列番号14)を意味する。このタンパク質は、発生段階や癌化の段階で血管新生を促進する機能を有する。
【0060】
本発明において、「MEIS1」(Meis homeobox 1)とは、HOX遺伝子群の一つであり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_002398.2である遺伝子(配列番号15)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_002389.1のタンパク質(配列番号16)を意味する。このタンパク質は、分化誘導を制御する機能を有する。
【0061】
本発明において、「ARHGAP22」(Rho GTPase activating protein 22)とは、細胞内シグナル伝達に関与する分子であり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_021226.2である遺伝子(配列番号17)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_067049.2のタンパク質(配列番号18)を意味する。このタンパク質は、細胞骨格のリモデリングを制御する機能を有する。
【0062】
本発明において、「SCG2」(secretogranin2)とは、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_003469.4である遺伝子(配列番号49)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_003460.2のタンパク質(配列番号50)を意味する。このタンパク質は、分泌タンパクであり、細胞の遊走を促進する機能を有する。
【0063】
本発明において、「FGF9」(fibroblast growth factor9)とは、細胞の分化や機能維持に重要な役割を果たしている分泌系タンパクであり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_002010.2である遺伝子(配列番号51)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_002001.1のタンパク質(配列番号52)を意味する。このタンパク質は、後述するFGFR3と相互作用する機能を有する。
【0064】
本発明において、「PML」(promyelocytic leukemia)とは、転写因子の一種であり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_002675.3である遺伝子(配列番号53)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_002666.1のタンパク質(配列番号54)を意味する。このタンパク質は、癌抑制因子として細胞の増殖を制御する機能を有する。
【0065】
本発明において、「FGFR3」(fibroblast growth factor receptor3)とは、細胞の増殖や分化を促進する機能を有するタンパク質であり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_000142.3である遺伝子(配列番号55)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_000133.1のタンパク質(配列番号56)を意味する。FGFR3にはFGFR3bおよびFGFR3cの2種類のアイソフォームが知られている。
【0066】
本発明において、「FGFR2」(fibroblast growth factor receptor2)とは、細胞の増殖や分化を促進する機能を有するタンパク質であり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_001144918.1である遺伝子(配列番号57)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_001138390.1のタンパク質(配列番号58)を意味する。
【0067】
本発明において、「FGFR1」(fibroblast growth factor receptor1)とは、細胞の増殖や分化を促進する機能を有するタンパク質であり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_001174063.1である遺伝子(配列番号59)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_001167534.1のタンパク質(配列番号60)を意味する。
【0068】
本発明において、「FGFR4」(fibroblast growth factor receptor4)とは、細胞の増殖や分化を促進する機能を有するタンパク質であり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_002011.3である遺伝子(配列番号61)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_002002.3のタンパク質(配列番号62)を意味する。
【0069】
本発明において、「VEGFR1」(vascular endothelial growth factor receptor1)とは、細胞の増殖や分化、血管の新生を促進する機能を有するタンパク質であり、そのmRNAから決定されたポリヌクレオチド配列がGenBank Accession No. NM_001159920.1である遺伝子(配列番号63)、およびそこから翻訳されるGenBank Accession No. NP_001153392.1のタンパク質(配列番号64)を意味する。
【0070】
本発明において、「阻害剤」とは、標的分子の機能を阻害する活性を有する物質、例えば化合物、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド(“Antisense Drug Technology: Principles, Strategies, and Applications (Second Edition)”, CRC Press, 2007)、RNAiオリゴヌクレオチド(“RNA Methodologies (Third Edition)”, Elsevier, 2005, Chapter 24)、ペプチド核酸(Kaihatsu et al., Chemistry & Biology, 2004, 11(6), p.749-758)およびペプチド性アンタゴニスト(Ladner et al., Drug Discovery Today, 2004,9, p.525-529)を意味する。
【0071】
本発明において、「血管新生阻害剤」は、血管新生を阻害する活性を有する物質を意味し、そのような活性を有する限り、物質の種類に特に限定されるものではない。例えば、VEGFレセプター阻害剤、FGFレセプター阻害剤、PDGFレセプター阻害剤、RETキナーゼ阻害剤、KITキナーゼ阻害剤、EGF阻害剤、インテグリン阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、内因性阻害物質等が挙げられ、好ましくはVEGFレセプター阻害剤、FGFレセプター阻害剤、PDGFレセプター阻害剤、RETキナーゼ阻害剤およびKITキナーゼ阻害剤であり、より好ましくはVEGFレセプターキナーゼ阻害剤およびFGFレセプター阻害剤であり、最も好ましくはVEGFレセプターキナーゼ阻害剤であるが、これらに限定されない。
【0072】
本発明において使用される血管新生阻害剤が化合物の場合は、酸または塩基と薬理学的に許容される塩を形成する場合もある。本発明における血管新生阻害剤は、これらの薬理学的に許容される塩をも包含する。酸との塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩およびギ酸、酢酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、トシル酸、ステアリン酸、安息香酸、メシル酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸塩などを挙げることができるが、これらに限定されない。また、塩基との塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、ジシクロヘキシルアミン、N, N’-ジベンジルエチレンジアミン、アルギニン、リジンなどの有機塩基塩、アンモニウム塩などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0073】
また、本発明において使用される血管新生阻害剤が化合物の場合、これら化合物の溶媒和物および光学異性体が存在する場合には、それらの溶媒和物および光学異性体が含まれる。溶媒和物は、例えば、水和物、非水和物などを挙げることができ、好ましくは水和物を挙げることができるが、これらに限定されない。溶媒は、例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール)、ジメチルホルムアミドなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
さらに、本発明において、血管新生阻害剤が化合物の場合は、結晶でも非結晶でもよく、また、結晶多形が存在する場合には、それらのいずれかの結晶形の単一物であっても混合物であってもよい。
また、本発明において、血管新生阻害剤は、生体内で酸化、還元、加水分解、抱合などの代謝を受ける血管新生阻害剤をも包含する。また、本発明において、血管新生阻害剤は、生体内で酸化、還元、加水分解などの代謝を受けて血管新生阻害剤を生成する化合物をも包含する。
【0074】
本発明において使用される血管新生阻害剤が抗体の場合、当該抗体としては、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(Kohler et al., Nature, 1975, 256, p.495-497.)、キメラ抗体(Morrison et al., Proceedings of the National Academy of Sciences USA, 1984, 81, p.6851-6855.)、一本鎖抗体(scFV)(Huston et al., Proceedings of the National Academy of Sciences USA, 1988, 85, p.5879-5883.; Rosenburg et al. (Ed.), "The Pharmacology of Monoclonal Antibody, vol.113", Springer Verlag, 1994, p.269-315.)、ヒト化抗体(Jones et al., Nature, 1986, 321, p.522-525.)、多特異性抗体(Millstein et al., Nature, 1983, 305, p.537-539; Paulus, Behring Institute Mitteilungen, 1985, 78, p.118-132; van Dijk et al., International Journal of Cancer 1989, 43, p.344-349.)、完全ヒト抗体(McCafferty et al., Nature, 1990, 348, p.552-554.; Lonberg et al., Nature, 1994, 368, p.856-859.; Green et al., Nature Genetics, 1994, 7, p.13-21.)および、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fc、Fvなどの抗体断片などが挙げられ、好ましくはモノクローナル抗体が挙げられる。さらに、本発明における抗体は、必要に応じ、ポリエチレングリコール(PEG)等により修飾されていてもよい。その他、本発明における抗体は、β-ガラクトシダーゼ、MBP、GST、GFP等との融合タンパク質として製造されることができ、ELISA法などにおいて二次抗体を用いずに検出できるようにしてもよい。また、本発明における抗体は、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の回収を行い得るように改変されていてもよい。
本発明における抗体は、標的タンパク質もしくはその部分断片、またはそれらを発現する細胞を感作抗原として常法に従い製造することができる("Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley & Sons, 2010, Chapter 11.)。この場合、標的タンパク質またはその部分断片は、Fc領域、GST、MBP、GFP、APなどとの融合タンパク質であってもよい。
本発明における抗体の標的タンパク質は、血管新生に関与する生体内分子であっても、その受容体であってもよい。例えば、VEGFレセプター阻害剤においては、抗VEGF抗体であっても、抗VEGFレセプター抗体であっても良い。
【0075】
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は、当業者に周知の方法で作製することができる(E. Harlow et al. (Ed.), "Antibodies: A Laboratory Manual", Cold Spring HarborLaboratory, 1988.)。
ポリクローナル抗体は、例えば、抗原をマウス、ウサギ、ラットなどの哺乳動物に投与し、該哺乳動物から血液を採取し、採取した血液から抗体を分離、精製することにより得ることができる。免疫感作の方法は当業者に公知であり、例えば抗原を1回以上投与することにより行うことができる。また、抗原(またはその部分断片)は、適当な緩衝液、例えば、完全フロイントアジュバントまたは水酸化アルミニウム等の通常用いられるアジュバントを含有する適当な緩衝液に溶解して用いることができるが、投与経路や条件等に応じてアジュバントを使用しない場合もある。
最後の免疫感作から1〜2か月後に当該哺乳動物から血液を採取して、該血液を、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウムまたはポリエチレングリコールを用いた沈澱、各種クロマトグラフィー等の常法によって分離、精製することにより、ポリクローナル抗血清として、ポリクローナル抗体を得ることができる。
モノクローナル抗体を産生する方法としては、ハイブリドーマ法を挙げることができる。ハイブリドーマ法は、まず、ポリクローナル抗体の産生と同様に哺乳動物を免疫感作する。免疫後、適当な日数を経過した後に部分採血を行い、ELISA法などの公知方法で抗体価を測定することが好ましい。
【0076】
次いで、感作の終了した免疫動物から脾臓を摘出し、B細胞を得る。次いで、B細胞を常法に従いミエローマ細胞と融合させて抗体産生ハイブリドーマを作製することができる。用いられるミエローマ細胞は特に限定されず、公知のものを使用できる。細胞の融合方法は、センダイウイルス法、ポリエチレングリコール法、プロトプラスト法等、当該分野で公知の方法を任意に選択して用いることができる。得られたハイブリドーマは、常法に従い、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン含有培地)中で適当な期間培養し、ハイブリドーマの選択を行うことができる。次いで、目的とする抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングを行った後、当該ハイブリドーマのクローニングを行うことができる。
スクリーニング法としては、ELISA法やラジオイムノアッセイ法などの公知の抗体検出方法を用いることができ、また、クローニング法としては、当該分野で公知の方法を用いることができ、例えば、限界希釈法およびFACS法等を用いることができる。得られたハイブリドーマは、適当な培養液中で培養するか、あるいはハイブリドーマと適合性のある、例えばマウス腹腔内に投与することができる。こうして得られる培養液中または腹水中から、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等により、所望のモノクローナル抗体を単離精製することができる。
また、本発明における抗体のアイソタイプは特に限定されない。
【0077】
本発明における抗体は、標的タンパク質またはその部分断片を認識し結合することで、標的タンパク質の血管内皮細胞増殖活性を阻害する中和抗体であることが好ましい。
【0078】
本発明に好適な血管新生阻害剤の具体例は以下の通りであり、それぞれに記載の文献の方法にしたがって製造または入手できる。
【0079】
4−(3−クロロ−4−(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)−7−メトキシ−6−キノリンカルボキサミド(式(IV))
【化1】
この化合物は、国際公開第02/032872号に記載の方法で製造することができる。この化合物の取り得る形態としては、メタンスルホン酸塩が好ましいが、これに限定されない。この化合物は、メシル酸塩の形態をとった場合、「E7080」とも称される。この化合物は、VEGFレセプター、FGFレセプター、RETキナーゼ、KITキナーゼなどの受容体型チロシンキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(国際公開第2007/136103号、Matsui et al., Clinical Cancer Research, 2008, 14(17), p.5459-5465.)。
【0080】
N−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−6−メトキシ−7−[2−(1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)エトキシ]キナゾリン−4−アミン
この化合物は、「ZD4190」とも称され、Hennequin et al., Journal of Medicinal Chemistry, 1999, 42, p.5369-5389.に記載の方法で製造できる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Wedge et al., Cancer Research, 2000, 60,p.970-975)。
【0081】
N−(4−ブロモ−2−フルオロフェニル)−6−メトキシ−7−[(1−メチルピペリジン−4−イル)メトキシ]キナゾリン−4−アミン(式(3))
【化2】
この化合物は、「ZD6474」または「vandetanib」とも称され、Hennequin et al, Journal of Medicinal Chemistry, 2002, 45, p.1300-1312.に記載の方法で製造できる。また、この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている。
【0082】
3−[(2,4−ジメチルピロール−5−イル)メチレン]−2−インドリノン(式(4))
【化3】
この化合物は、「SU5416」または「semaxanib」とも称され、Sun et al., Journal of Medicinal Chemistry, 1998, 41, p.2588-2603.、米国特許第5792783号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Fong et al., Cancer Research, 1999, 59, p.99-106.)。
【0083】
(Z)−3−[(2,4−ジメチル−5−(2−オキソ−1,2−ジヒドロインドール−3−イリデンメチル)−1H−ピロール−3−イル)−プロピオン酸(式(5))
【化4】
この化合物は、「SU6668」とも称され、Sun et al., Journal of Medicinal Chemistry, 1999, 42, p.5120-5130.に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、FGFレセプターおよびPDGFレセプターへの阻害活性を有することが知られている(Laird et al., Cancer Research, 2000, 60, p.4152-4160.)。
【0084】
5−(5−フルオロ−2−オキソ−1,2−ジヒドロインドール−3−イリデンメチル)−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸(2−ジエチルアミノエチル)アミド(式(6))
【化5】
この化合物は、「SU11248」、または「sunitinib」とも称され、Sun et al., Journal of Medicinal Chemistry, 2003, 46, p.1116-1119.に記載の方法で製造することができる。この化合物の取り得る形態としては、リンゴ酸塩が好ましいが、これに限定されない。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプター、KITキナーゼおよびFLT3キナーゼへの阻害活性を有することが知られている(Mendel et al., Clinical Cancer Research, 2003, 9, p.327-337.)。また、この化合物は、Sutent(登録商標)の名で、消化管間質腫瘍(GIST)およびの腎細胞癌の治療薬として承認されており、市販のものから入手できる。
【0085】
N,N−ジメチルグリシン 3−{5,6,7,13−テトラヒドロ−9−[(1−メチルエトキシ)メチル]−5−オキソ−12H−インデノ(2,1−a)ピロロ(3,4−c)カルバゾール−12−イル}プロピルエステル(式(7))
【化6】
この化合物は、「CEP-7055」とも称され、Gingrich et al., Journal of Medicinal Chemistry, 2003, 46, p.5375-5388.に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている。
【0086】
3−(4−ブロモ−2,6−ジフルオロ−ベンジルオキシ)−5−[3−(4−ピロリジン−1−イル−ブチル)−ウレイド]−イソチアゾール−4−カルボアミド(式(8))
【化7】
この化合物は、「CP-547,632」とも称され、国際公開第99/62890号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Beebe et al., Cancer Research, 2003, 63, p.7301-7309.)。
【0087】
N−{2−クロロ−4−[(6,7−ジメトキシ−4−キナゾリニル)オキシ]フェニル}−N’−プロピルウレア(式(9))
【化8】
この化合物は、「KRN633」とも称され、国際公開第00/43366号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Nakamura et al., Molecular Cancer Therapeutics, 2004, 3, p.1639-1649.)。
【0088】
1−(4−クロロアニリノ)−4−(4−ピリジルメチル)フタラジン(式(10))
【化9】
この化合物は、「PTK787/ZK 222584」または「vatalanib」とも称され、国際公開第98/35958号に記載の方法により製造できる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Wood et al., Cancer Research, 2000, 60, p.2178-2189.)。
【0089】
N−{2−クロロ−4−[(6,7−ジメトキシ−4−キノリル)オキシ]フェニル}−N’−(5−メチル−3−イソキサゾリル)ウレア(式(11))
【化10】
この化合物は、「KRN951」とも称され、国際公開第02/088110号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプター、およびKITキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Nakamura et al., Cancer Research, 2006, 66, p.9134-9142.)。
【0090】
4−[(4−フルオロ−2−メチルインドール−5−イル)オキシ]−6−メトキシ−7−[3−(ピロリジン−1−イル)プロポキシ]キナゾリン(式(12))
【化11】
この化合物は、「AZD2171」または「cediranib」とも称され、国際公開第00/47212号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Cancer Research, 2005, 65, p.4389-4400.)。
【0091】
N‐メチル‐2‐[[3‐[(E)‐2‐(2‐ピリジル)エテニル]‐1H‐インダゾール‐6‐イル]チオ]ベンズアミド(式(13))
【化12】
この化合物は、「AG-013736」、または「axitinib」とも称され、国際公開第01/02369号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Kelly et al., Targeted Oncology, 2009, 4, p.297-305.)。
【0092】
5−((Z)−(5−フルオロ−2−オキソ−1,2−ジヒドロ−3H−インドール−3−イリデン)メチル)−N−((2S)−2−ヒドロキシ−3−モルホリン−4−イルプロピル)−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボキサミド(式(14))
【化13】
この化合物は、「SU14813」とも称され、米国特許第6653308号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプター、KITキナーゼおよびFLT3キナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Patyna et al., Molecular Cancer Therapy 2006, 5, p.1774-1782.)。
【0093】
3−((キノリン−4−イルメチル)アミノ)−N−(4−(トリフルオロメトキシ)フェニル)チオフェン−2−カルボキサミド(式(15))
【化14】
この化合物は、「OSI-930」とも称され、国際公開第2004/063330号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプターおよびKITキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Petti et al., Molecular Cancer Therapeutics, 2005, 4, p.1186-1197.)。
【0094】
6−(2,6−ジクロロフェニル)−8−メチル−2−フェニルアミノ−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オン(式(16))
【化15】
この化合物は、「TKI-28」とも称され、VEGFレセプター、EGFレセプター、PDGFレセプター、KITキナーゼ、ErbB-2およびSrcキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Guo et al., Cancer Biology & Therapy., 2005, 4, p. 1119-1126.)。
【0095】
2−((1,6−ジヒドロ−6−オキソ−ピリジン−3−イルメチル)アミノ)−N−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)−3−ピリジン−カルボキサミド(式(17))
【化16】
この化合物は、「ABP309」とも称され、国際公開第01/55114号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプター、KITキナーゼ等に阻害活性を有することが知られている(Brueggen et al., EJC Supplements, 2004, 2, p.8 (Abs 172).)。
【0096】
4−(4−(4−クロロ−フェニルアミノ)−フロ[2,3−d]ピリダジン−7−イルオキシメチル)−ピリジン−2−カルボアミド(式(18))
【化17】
この化合物は、「BAY 57-9352」または「telatinib」とも称され、国際公開第01/23375号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプターおよびKITキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Eskens et al., Journal of Clinical Oncology, 2009, 27, p.4169-4176.)。
【0097】
N−(4−クロロ−3−(トリフルオロメチル)フェニル)−N’−(4−(2−(N−メチルカルバモイル)−4−ピリジルオキシ)フェニル尿素(式(19))
【化18】
この化合物は、「BAY 43-9006」または「sorafenib」とも称され、米国特許第7235576号に記載の方法で製造することができる。この化合物の取り得る形態としては、トシル酸塩が好ましいが、これに限定されない。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプター、KITキナーゼおよびFLT3キナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Wilhelm et al., Cancer Research, 2004, 64, p.7099-7109.)。また、この化合物は、Nexavar(登録商標)の名で、肝細胞癌およびの腎細胞癌の治療薬として承認されており、市販のものから入手できる。
【0098】
4−アミノ−5−フルオロ−3−(6−(4−メチル−ピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル)−1H−キノリン−2−オン(式(20))
【化19】
この化合物は、「CHIR-258」または「dovitinib」とも称され、国際公開第02/22598号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、FGFレセプター、PDGFレセプター、CSF-1レセプター、KITキナーゼおよびFLT3キナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Trudel et al., Blood, 2005, 105, p.2941-2948.)。
【0099】
4−(4−(1−アミノ−1−メチル−エチル)−フェニル)−2−(4−(2−モルホリン−4−イル−エチル)−フェニルアミノ)−ピリミジン−5−カルボニトリル(式(21))
【化20】
この化合物は、「JNJ17029259」とも称され、Reuman et al., Journal of Organic Chemistry, 2008, 73, p.1121-1123.に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、FGFレセプター、PDGFレセプターおよびFLT3キナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Emanuel et al., Molecular Pharmacology, 2004, 66, P.635-647.)。
【0100】
[6−[4−[(4−エチルピペラジン−1−イル)メチル]フェニル]−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−4−イル]−((R)−1−フェニルエチル)アミン(式(22))
【化21】
この化合物は、「AEE-788」とも称され、国際公開第03/013541号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、FGFレセプターおよびEGFレセプターに対して阻害活性を有することが知られている(Traxler et al., Cancer Research, 2004,64, p.4931-4941.)。
【0101】
9−(1−メチルエトキシ)メチル−12−(3−ヒドロキシプロピル)−6H,7H,13H−インデノ[2,1−a]ピロロ[3,4−c]カルバゾール−5−オン(式(23))
【化22】
この化合物は、「CEP-5214」とも称され、国際公開第02/17914号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Ruggeri et al., Cancer Research, 2003, 63, p.5978-5991.)。
【0102】
N−(2,4−ジフルオロフェニル)−N’−{4−[(6,7−ジメトキシ−4−キノリル)−オキシ]−2−フルオロフェニル}尿素(式(24))
【化23】
この化合物は、「Ki8751」とも称され、国際公開第00/43366号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプターおよびKITキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Kubo et al., Journal of Medicinal Chemistry, 2005, 48, p.1359-1366.)。
【0103】
N−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(式(25))
【化24】
この化合物は、「ABT-869」または「linifanib」とも称され、国際公開第2004/113304号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプター、CSF-1レセプター、KITキナーゼおよびFLT3キナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Guo et al., Molecular Cancer Therapy, 2006, 5, p.1007-1013.)。
【0104】
2−メチル−6−[2−(1−メチル−1H−イミダゾール−2−イル)−チエノ[3,2−b]ピリジン−7−イルオキシ]−ベンゾ[b]チオフェン−3−カルボン酸メチルアミド(式(26))
【化25】
この化合物は、「AG-028262」とも称され、国際公開第03/106462号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Mancuso et al., Journal of Clinical Investigation, 2006, 116, p.2610-2621.)。
【0105】
(R)−1−(4−(4−フルオロ−2−メチル−1H−インドール−5−イルオキシ)−5−メチルピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−6−イルオキシ)プロパン−2−オール(式(27))
【化26】
この化合物は、「BMS-540215」または「brivanib」とも称され、国際公開第2004/009601号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Bhide et al., Journal of Medicinal Chemistry, 2006, 49, p.2143-2146.)。
【0106】
(S)−((R)−1−(4−(4−フルオロ−2−メチル−1H−インドール−5−イルオキシ)−5−メチルピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−6−イルオキシ)プロパン−2−オール)2−アミノプロパノエート(式(28))
【化27】
この化合物は、「BMS-582664」または「brivanib alaninate」とも称され、国際公開第2004/009601号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Bhide et al., Journal of Medicinal Chemistry, 2006, 49, p.2143-2146.)。
【0107】
3−[(4−モルホリン−4−イル−フェニルアミノ)−メチレン]−1,3−ジヒドロインドール−2−オン(式(29))
【化28】
この化合物は、「AGN-199659」とも称され、国際公開第03/027102号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている。
【0108】
5−[[4−[(2,3−ジメチル−2H−インダゾール−6−イル)メチルアミノ]ピリミジン−2−イル]アミノ]−2−メチルベンゼンスルホンアミド(式(30))
【化29】
この化合物は、「GW-786034」または「pazopanib」とも称され、国際公開第02/059110号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプターおよびKITキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Bukowski et al., Nature Reviews Drug Discovery, 2010, 9, p.17-18.)。
【0109】
(3Z)−3−[6−(2−モルホリン−4−イルエトキシ)キノリン−2(1H)−イリデン]−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2−オン(式(31))
【化30】
この化合物は、「YM-231146」とも称され、VEGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Amino et al., Biological and Pharmaceutical Bulletin, 2005, 28, p.2096-2101.)。
【0110】
2−((2−((4−(4−(4−(tert−ブチル)アニリノ)フェノキシ)−6−メトキシ−7−キノリル)オキシ)エチル)アミノ)−1−エタノール(式(32))
【化31】
この化合物は、「Ki23057」とも称され、国際公開第03/033472号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、FGFレセプター、PDGFレセプターおよびKITキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Shimizu et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 2004, 14, p.875-879.)。
【0111】
「ベバシズマブ」
ベバシズマブは、抗VEGFヒト化モノクローナル抗体であり、VEGFに結合することにより、VEGFとVEGFレセプターの結合を阻害する。この抗体は、国際公開第94/10202号に記載の方法により、製造することができる。この抗体は、Avastin(登録商標)の名で、結腸・直腸癌、非小細胞肺癌、乳癌、膠芽腫および腎細胞癌の治療薬として承認されており、市販のものから入手することができる。
【0112】
1−[2−アミノ−6−(3,5−ジメトキシフェニル)−ピリド(2,3−d)ピリミジン−7−イル]−3−tert−ブチルウレア(式(33))
【化32】
この化合物は、「PD166866」とも称され、Hamby et al., Journal of Medicinal Chemistry, 1997, 40, p.2296-2303.に記載の方法で製造することができる。この化合物は、FGFレセプター阻害活性を有することが知られている。
【0113】
1−tert−ブチル−3−[2−(4−ジエチルアミノ)ブチルアミノ−6−(3,5−ジメトキシフェニル)−ピリド(2,3−d)ピリミジン−7−イル]ウレア(式(34))
【化33】
この化合物は、「PD173074」とも称され、米国特許第5733913号に記載の方法によって製造することができる。この化合物は、FGFレセプター阻害活性を有することが知られている(Mohammadi et al., EMBO J., 1998, 17, p.5896-5904.)。
【0114】
4−[4−[N−(4−ニトロフェニル)カルバモイル]−1−ピペラジニル]−6,7−ジメトキシキナゾリン(式(35))
【化34】
この化合物は、「CT52923」とも称され、国際公開第98/14437号に記載の方法で製造することができる。この化合物は、PDGFレセプターおよびKITキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Yu et al., Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 2001, 298, p.1172-1178.)。
【0115】
3−Z−[1−(4−(N−((4−メチルピペラジン−1−イル)メチルカルボニル)−N−メチルアミノ)アニリノ)−1−フェニルメチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノン(式(36))
【化35】
この化合物は、「BIBF 1120」または「intedanib」とも称され、国際公開第01/27081号に記載の方法によって、製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、FGFレセプター、PDGFレセプター、KITキナーゼ、FLT3キナーゼ、Lck等に対して阻害活性を有することが知られている(Hilberg et al., Cancer Research, 2008, 68, p.4774-4782.)。
【0116】
N−(3,3−ジメチルインドリン−6−イル){2−[(4−ピリジルメチル)アミノ](3−ピリジル)}カルボキサミド(式(37))
【化36】
この化合物は、「AMG706」または「motesanib」とも称され、米国特許第6878714号に記載の方法により、製造することができる。この化合物は、VEGFレセプター、PDGFレセプター、RETキナーゼおよびKITキナーゼに対して阻害活性を有することが知られている(Polverino et al., Cancer Research, 2006, 66, p.8715-8721.)。
【0117】
本発明における血管新生阻害剤としては、他にも、「PI-88」(「muparfostat」とも称される。国際公開第96/33726号; McKenzie et al., British Journal of Pharmacology, 2007, 151, p.1-14.)、VEGF trap(「AVE-0005」または「aflibercept」とも称される。国際公開第00/75319号; Tew et al., Clinical Cancer Research, 2010, 16, p.358-366.)、「RPI-4610」(「Angiozyme(登録商標)」とも称される。米国特許第5180818号; 米国特許第6346398号)、2−(8−ハイドロキシ−6−メトキシ−1−オキソ−1H−2−ベンゾピラン−3−イル)プロピオン酸(「NM-3」とも称される。国際公開第97/48693号; Agata et al., Cancer Chemotherapy & Pharmacology, 2005, 56, p.610-614.)、「IMC-1121b」(「ramucirumab」とも称される。米国特許第6811779号; Journal of ClinicalOncology, 2010, 28, p.780-787.)、「IMC-18F1」(国際公開第95/21868号; Wu et al., Clinical Cancer Research, 2006, 12, p.6573-6584.)等が挙げられる。
【0118】
本発明における血管新生阻害剤として好ましいものとしては、4−(3−クロロ−4−(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)−7−メトキシ−6−キノリンカルボキサミド、5−(5−フルオロ−2−オキソ−1,2−ジヒドロインドール−3−イリデンメチル)−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸(2−ジエチルアミノエチル)アミド、4−[(4−フルオロ−2−メチルインドール−5−イル)オキシ]−6−メトキシ−7−[3−(ピロリジン−1−イル)プロポキシ]キナゾリン、N‐メチル‐2‐[[3‐[(E)‐2‐(2‐ピリジル)エテニル]‐1H‐インダゾール‐6‐イル]チオ]ベンズアミド、N−(4−クロロ−3−(トリフルオロメチル)フェニル)−N’−(4−(2−(N−メチルカルバモイル)−4−ピリジルオキシ)フェニル尿素、5−[[4−[(2,3−ジメチル−2H−インダゾール−6−イル)メチルアミノ]ピリミジン−2−イル]アミノ]−2−メチルベンゼンスルホンアミドおよびベバシズマブまたはその薬理学的に許容される塩であり、特に好ましくは、4−(3−クロロ−4−(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)−7−メトキシ−6−キノリンカルボキサミドまたはその薬理学的に許容される塩である。4−(3−クロロ−4−(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)−7−メトキシ−6−キノリンカルボキサミドの薬理学的に許容される塩として好ましくは4−(3−クロロ−4−(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)−7−メトキシ−6−キノリンカルボキサミドのメシル酸塩である。
【0119】
被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中のB-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無を測定する方法を、以下に説明する。
腫瘍組織は、例えば、被験者より外科的処置(例えば、バイオプシーなど)にて摘出することにより得ることができる。被験者から採取される腫瘍組織の大きさは、腫瘍組織におけるB-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損を測定できる大きさであればよい。例えば、固形癌の場合は、バイオプシーにより採取したときの大きさ(例えば、2〜3 mm)でよく、メスにより組織片を切除したときの大きさでもよく、限定されるものではない。
また、腫瘍組織は、摘出した組織片からさらに、laser capture micro-dissection法(Murray et al. (Ed.), "Laser Capture Microdissection: Methods and Protocols", Humana Press, 2004.)等の手法により、特定の細胞群を切り出したものであってもよい。
さらに、被験者より血液を採取し、例えば、Kitagoらの方法により、末梢血中に循環する癌細胞を単離し、そこからB-RafおよびPTENの突然変異あるいは発現欠損を検出することもできる(Kitago et al., Clinical Chemistry, 2009, 55(4), p.757-764.)。
また、gap-ligase chain reaction (GLCR)法などの高感度の核酸検出法を用いることにより、血液中を循環するDNAから、直接に、B-RafおよびPTENの突然変異あるいは発現欠損を検出してもよい(Chuang et al., Head and Neck, 2010, 32, p.229-234.)。
【0120】
B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損は、核酸配列の決定による方法、核酸または特異的抗体をプローブとして用いる方法、マス・スペクトロメトリーによる方法等の公知の方法により検出できるが、被験者の腫瘍組織由来のサンプルとプローブとを接触させる方法が好ましい。B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損を検出するためのプローブとしては、B-RafまたはPTENに対する核酸プローブまたは特異的抗体が挙げられる。「接触させる」とは、被験者の腫瘍組織に由来するサンプルとプローブとが反応可能な条件下に両者を存在させることを意味し、例えば、限定されるものではないが、サンプルとプローブとを混合すること、サンプルにプローブをハイブリダイズさせることなどが挙げられる。
【0121】
核酸配列の決定により突然変異や発現欠損を検出する場合、サンプルから抽出された高分子DNA産物(抽出高分子DNAともいう)またはそれをpolymerase chain reaction(PCR)反応により増幅した産物について、直接塩基配列決定法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、PCR-strand conformation polymorphism (PCR-SSCP)法、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブ(ASO)法、ダイレクトゲルアッセイ法、Amplification Refractory Mutation System (ARMS)法、突然変異特異的オリゴマーによるdot blot解析法などの方法またはそれに類似した手法を用いることで、B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損を検出できる。また、Applied Biosystems 3730 DNA Analyzer(Applied Biosystems社)、Roche 454 Genome Sequencer FLX System(Roche社)、Genome AnalyzerII(illumina社)、Applied Biosystems SOLiD System(Applied Biosystems社)、HeliScope Single Molecule Sequencer(Helicos社)などの次世代シークエンサーによってもB-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損を検出することもできる("Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley & Sons, 2010, Chapter 7.)。B-Rafの突然変異または発現欠損を検出するために使用される核酸プローブは、例えば、実施例1で使用されるプライマー(配列番号39〜44)が挙げられるがこれに限定されない。PTENの突然変異または発現欠損を検出するために使用される核酸プローブは、例えば、実施例1で使用されるプライマー(配列番号19〜38)が挙げられるがこれに限定されない。
【0122】
突然変異や発現欠損の検出をサンガー法を利用して行う場合、被験者に由来するサンプルから公知の手法に従ってゲノムDNAを抽出し、得られたゲノムDNAに対しPCR反応を行うことで、B-RafおよびPTENのエクソン領域の増幅を行う。増幅されたDNAを1%アガロースゲル電気泳動法により、目的の長さであることを確認した上で、PCR産物をゲルから回収して、精製を行う。精製した産物をシークエンサーにて配列決定を行うことで遺伝子変異等の情報を得ることが可能である。
【0123】
突然変異や発現欠損の検出を次世代シーケンサーで行う場合を以下に説明する。
たとえば次世代シーケンサーとしてIllumina社製のGenome AnalyzerIIを用いる場合、被験者に由来するサンプルから公知の手法に従ってRNAを抽出し、抽出されたRNAをもとにcDNAを調製する。抽出されたRNAは、ノーザンブロット解析、DNAマイクロアレイ、RT-PCR、定量的PCR等の技術により定量できる。RNAの好ましい定量法としてはDNAマイクロアレイ、定量的PCRであるが、定量法は上記の方法に限定されるものではない。
調製されたcDNAに対し、次世代シーケンサーによる解析用に200bp程度に断片化させてアダプター配列を付加させたcDNAライブラリーを作成する。作成したライブラリーをアダプター配列を介してフローセル上に結合させ、形成されたクラスターにシーケンスプライマーを添加し、1塩基の伸長について蛍光の読み取りステップを繰り返し行うことで、データ取得および解析を行い、遺伝子変異等の情報を得ることが可能である。
【0124】
特異的抗体をプローブとして用いることにより突然変異や発現欠損を検出する場合、B-RafおよびPTENの突然変異部位について、野生型のアミノ酸配列を有する部分ペプチドおよび変異型のアミノ酸配列を有する部分ペプチドをそれぞれ抗原とすることで、公知の手法により、突然変異部位に特異的な抗体を作製することができる。発現欠損を検出する場合、B-RafおよびPTENの発現欠損部位について、野生型のアミノ酸配列を有する部分ペプチドおよび発現欠損させたアミノ酸配列を有する部分ペプチドをそれぞれ抗原とすることで、公知の手法により、発現欠損部位に特異的な抗体を作製することができる。PTENの発現欠損部位に特異的な抗体の作製には、野生型を認識する抗体で検出されないことで発現欠損部位を検出することができる。突然変異または発現欠損を検出する場合、突然変異特異的抗体は1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0125】
マス・スペクトロメトリーを用いることにより突然変異や発現欠損を検出する場合、例えば、Sequenom社製のMassARRAYシステムを用い、Gabrielらの方法により、検出することができる(Gabriel et al., "Current Protocols in Human Genomics", John Wiley & Sons, 2009, Unit 2.12.)。
【0126】
B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損は、上記方法のいずれかまたは組み合わせて検出することができる。
【0127】
上記の検出において、(a1)B-Rafが野生型であり、かつPTENが野生型であるか、または、(a2)B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているもしくは発現欠損しており、かつ、PTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているもしくは発現欠損しているとの結果が得られたときは、当該結果は、被験者において血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標になる。被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となるB-RafおよびPTENの形態を表3に示す。
【表3】
上記表2の(a2)において、特に被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となるB-RafおよびPTENの形態は、B-RafがV600E突然変異を有しており、かつ、PTENがT167A、Y68HまたはL112Qに突然変異を有しているとの結果が得られたときである。
【0128】
被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中のANG1またはANG2の発現レベルを定量する方法を、以下に説明する。
被験者の腫瘍組織に由来するサンプルは、上記の方法により採取される。
サンプル中のANG1またはANG2の発現レベルは、mRNAまたはタンパク質の量を公知の方法で定量する。
【0129】
mRNAを定量する場合、ノーザンブロット解析、DNAマイクロアレイ、RT-PCR、定量的PCR等の公知の技術を用いることができるが、DNAマイクロアレイまたは定量的PCRであることが好ましい。
ANG1またはANG2の発現レベルを定量するためのプローブとしては、ANG1またはANG2に対する核酸プローブまたは抗体が挙げられる。核酸プローブは、例えば、Applied Biosystems社のASSAYS-ON-DEMANDより購入でき(ANG1またはANG2のアッセイIDはそれぞれHs 00181613、Hs 00169867)、プローブに付属のマニュアルに従って発現レベルを定量すればよい。あるいは、ANG1またはANG2のヌクレオチド配列をベースにPerkin-Elmer Applied Biosystems社のPrimer Expressもしくはそれと同等のソフトウェアを使用することにより核酸プローブを適宜設定し作製することもできる。
複数の被検物質の比較は、定量値を各検体の転写量に変動の少ないhouse keeping遺伝子、好ましくはβ-actinのmRNAレベルにより補正して行う。なお、mRNAをRT-PCRに用いる場合、蛍光色素サイバーグリーン(インターカレーター)での検出にはプライマーを用いる。一方で、マスターミックスを用いた検出方法ではプライマーの他にプローブが必要となる。いずれもソフトウェアで設計可能であるが、プローブを用いる場合はApplied Biosystems社が設計したものが販売されているので、それを用いてもよい。
【0130】
また、タンパク質の発現レベルについては市販のELISAキットを用いて測定することができる。あるいは、ウェスタンブロッティング、抗体アレイ、マススペクトロメトリー、免疫組織染色によってもタンパク質の発現を定量可能である。ANG1またはANG2に対して特異的な抗体は、前記血管新生阻害剤の項で説明した方法により作製することもできる。サンプルに血清あるいは血漿を用いた場合には、ELISAやマルチプレックビーズ技術を用いた定量が利用可能である。
【0131】
ANG1またはANG2の発現レベルは、上記方法のいずれかまたは組み合わせて定量することができる。
【0132】
本発明において、ANG1またはANG2の発現レベルを定量するには、被験者の腫瘍組織由来のサンプルとプローブとを接触させることが好ましい。「接触させる」ことの意味は、前記と同様である。
【0133】
上記の検出において、(b1)ANG1の発現レベルが対照の値と比較して低いか、(b2)ANG2の発現レベルが対照の値と比較して高いか、または、(b3)ANG1およびANG2の発現レベルの比が、対照の値と比較して低いとの結果が得られたときは、当該結果は、被験者において血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標になる。被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となるANG1およびANG2の発現レベルの形態を表4に示す。
【表4】
【0134】
ここで、上記b1において、「対照」には、過去に得られたサンプルを含み、当該サンプルは治療上の反応性が予測された者に由来するテストサンプルとの将来の比較のためのレファレンスとして使用される。すなわち、対照の値は、同じ種類の腫瘍に罹患し、特定の血管新生阻害剤が投与された患者集団において非感受性とされた患者群と感受性とされた患者群におけるANG1の発現レベルを分析することにより得られるカットオフ値を意味し、当該カットオフ値は容易に設定可能である。例えば、対照の値は、血管新生阻害剤の投与により治療上反応性があると予測されたものとして得られた患者群の腫瘍組織に由来するサンプルにおけるANG1の発現レベルをカットオフ値として設定してもよい。
あるいは、対照の値は、B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無に基づいて設定したカットオフ値を意味してもよい。この場合、対照の値は、B-Rafが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1の発現レベルを意味する。この場合において、好ましい対照の値として、B-RafおよびPTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1の発現レベルが挙げられる。
この場合において、被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となるANG1の発現レベルの形態は、B-Rafが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1の発現レベルと同等以下であるとの結果が得られたときであり、特に好ましくはB-Rafが野生型であり、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1の発現レベルと同等以下であるとの結果が得られたときである。
上記b2において、「対照」には、過去に得られたサンプルを含み、当該サンプルは治療上の反応性が予測された者に由来するテストサンプルとの将来の比較のためのレファレンスとして使用される。すなわち、対照の値は、同じ種類の腫瘍に罹患し、特定の血管新生阻害剤が投与された患者集団において非感受性とされた患者群と感受性とされた患者群におけるANG2の発現レベルを分析することにより得られるカットオフ値を意味し、当該カットオフ値は容易に設定可能である。例えば、対照の値は、血管新生阻害剤の投与により治療上反応性があると予測されたものとして得られた患者群の腫瘍組織に由来するサンプルにおけるANG2の発現レベルをカットオフ値として設定してもよい。
あるいは、対照の値は、ANG1およびANG2の発現レベルに基づいて設定したカットオフ値を意味してもよい。この場合、ANG2の発現レベルが対照の値より高いとは、ANG2の発現レベルがその絶対値においてANG1の発現レベルより高いことを意味する。この場合において、好ましい対照の値とは、B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異もしくは発現欠損を有しており、PTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異もしくは発現欠損を有している腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルを意味する。
この場合において、特に、被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となるANG2の発現レベルの形態は、B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているまたは発現欠損しており、かつPTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているまたは発現欠損している腫瘍に罹患している患者におけるANG1の発現レベルより高いとの結果が得られたときである。
B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているまたは発現欠損しており、かつ、PTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているまたは発現欠損している腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの好ましい態様としては、B-RafがV600E突然変異を有しており、かつ、PTENがT167A、Y68HまたはL112Qに突然変異を有している腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルが挙げられる。
【0135】
上記b3において、「対照」には、過去に得られたサンプルを含み、当該サンプルは治療上の反応性が予測された者に由来するテストサンプルとの将来の比較のためのレファレンスとして使用される。すなわち、対照の値は、同じ種類の腫瘍に罹患し、特定の血管新生阻害剤が投与された患者集団において非感受性とされた患者群と感受性とされた患者群におけるANG1およびANG2の発現レベルの比を分析することにより得られるカットオフ値を意味し、当該カットオフ値は容易に設定可能である。例えば、対照の値は、血管新生阻害剤の投与により治療上反応性があると予測されたものとして得られた患者群の腫瘍組織に由来するサンプルにおけるANG1およびANG2の発現レベルの比(ANG1発現レベル/ANG2発現レベル)をカットオフ値として設定してもよい。
あるいは、対照の値は、上記のANG1およびANG2の発現レベルの比の分析に代えて、B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無に基づいて設定したカットオフ値であってもよい。
この場合、好ましい対照の値としては、B-Rafが突然変異または発現欠損を有し、PTENが野生型である患者群におけるANG1およびANG2の発現レベルの比をカットオフ値とすることが可能であり、好ましくは、B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異もしくは発現欠損を有しており、かつ、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの比であり、より好ましくは、例えばB-RafがV600E変異またはA145V変異を有し、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの比である。
この場合において、特に、被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となるANG1およびANG2の発現レベルの比の形態は、1) B-Rafが野生型であり、かつPTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの比と同等以下である、2)B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているもしくは発現欠損しており、かつPTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているもしくは発現欠損している腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの比と同等以下である、または3)B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているもしくは発現欠損しており、かつPTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの比より低いとの結果が得られたときである。
【0136】
B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているもしくは発現欠損しており、かつ、PTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているもしくは発現欠損している腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの比の好ましい態様としては、B-RafがV600E突然変異を有しており、PTENがT167A、Y68HまたはL112Qに突然変異を有している腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの比が挙げられる。B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているまたは発現欠損しており、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの比の好ましい態様としては、B-RafがV600EまたはA145V突然変異を有しており、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるANG1およびANG2の発現レベルの比が挙げられる。
【0137】
被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中のSHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現レベルを定量する方法を、以下に説明する。
被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中のSHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現レベルを定量する方法は、上記の被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中のANG1およびANG2の発現レベルを定量する方法において、定量対象をSHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4またはVEGFR1のmRNAまたはタンパク質に変更する以外は同様である。
あるいは、DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行って、被験者の腫瘍組織に由来するサンプル中のSHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4またはVEGFR1の発現レベルを定量することも可能である。
上記の検出において、SHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2、PML、IL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4またはVEGFR1の発現レベルを定量するためのプローブは市販品(例えば、核酸プローブを使用する場合、Applied Biosystems社のASSAYS-ON-DEMANDより購入可)を適宜利用することが可能である。
【0138】
上記の検出において、SHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2、PML、IL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4またはVEGFR1の発現レベルはB-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無と相関することから、これら遺伝子の発現レベルはB-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無で区分される抗腫瘍効果と相関する。SHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2およびPMLの発現レベルはB-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無で区分される抗腫瘍効果の変動パターンと同様の挙動を示し、IL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現レベルはB-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無で区分される抗腫瘍効果の変動パターンと反対の挙動示す。
したがって、(c1)SHC1の発現レベルが、対照の値と比較して低い、(c2)NRP2の発現レベルが、対照の値と比較して低い、(c3)ARHGAP22の発現レベルが、対照の値と比較して低い、(c4)SCG2の発現レベルが、対照の値と比較して低い、(c5)PMLの発現レベルが、対照の値と比較して低い、(c6)IL6の発現レベルが、対照の値と比較して高い、(c7)CXCR4の発現レベルが、対照の値と比較して高い、(c8)COL4A3の発現レベルが、対照の値と比較して高い、(c9)MEIS1の発現レベルが、対照の値と比較して高い、(c10)FGF9の発現レベルが、対照の値と比較して高い、(c11)FGFR3の発現レベルが、対照の値と比較して高い、(c12)FGFR2の発現レベルが、対照の値と比較して高い、(c13)FGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い、(c14)FGFR4の発現レベルが、対照の値と比較して高いまたは(c15)VEGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、との結果が得られたときは、当該結果は、被験者における血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標になる。血管新生阻害剤に対する反応性は、(c1)から(c15)から選ばれる1つまたは複数を組み合わせて検討することにより予測することができる。
【0139】
上記(c1)〜(c15)において、対照の値とは、B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異もしくは発現欠損を有しており、かつ、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるSHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2、PML、IL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4またはVEGFR1の発現レベルを意味する。
上記(c1)〜(c5)において、特に、被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となるSHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2およびPMLの発現レベルの形態は、B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているもしくは発現欠損しており、かつPTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるSHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2およびPMLの発現レベルと比較して低いとの結果が得られたときである。
この場合において、B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているまたは発現欠損しており、かつPTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるSHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2およびPMLの発現レベルの好ましい態様としては、B-RafがV600EまたはA145V突然変異を有しており、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるSHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2およびPMLの発現レベルが挙げられる。
【0140】
上記(c6)〜(c15)において、特に、被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となるIL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現レベルの形態は、B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているまたは発現欠損しており、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるIL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現レベルと比較して高いとの結果が得られたときである。
この場合において、B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異を有しているまたは発現欠損しており、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるIL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現レベルの好ましい態様としては、B-RafがV600EまたはA145V突然変異を有しており、PTENが野生型である腫瘍に罹患している患者におけるIL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現レベルが挙げられる。
【0141】
被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高いことの指標となるSHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2、PML、IL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現の形態を表5に示す。
【表5】
【0142】
本発明の別の態様において、一人の患者のサンプルから測定された以下の測定対象:
(a)B-RafおよびPTEN、
(b)ANG1およびANG2、または
(c)SHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2、PML、IL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1からなる群から選ばれる少なくとも1つの測定結果を、それぞれの対照の結果と比較することで、血管新生阻害剤に対する反応性を関連づけるほかに、複数の患者由来のサンプルを用いて上記測定対象を定量又は検出する場合がある。従って、予め規定された数の患者(1次母集団)において上記測定対象の変異の有無または発現量を検出または測定し、得られた検出値または測定値を基本データとして、この基本データと、1人の被験者由来のサンプルまたは複数の集団(2次母集団)由来のサンプルにおける測定データとを比較することができる。
あるいは、測定により得られたそれぞれの患者のデータを前記1次母集団の値に組み込んで再度データ処理し、対象となる患者または2次母集団の例数を増やすこともできる。例数を増やすことにより、血管新生阻害剤に対する反応可能性の予測精度を高めることができる。
【0143】
本発明に係る方法は、血管新生阻害剤を被験者に投与する前に、当該被験者における血管新生阻害剤の有効性の程度を予測するのに用いることができる。そして、血管新生阻害剤の有する効果をより期待できる被験者を選択して、疾患の治療を行うことができる。より抗腫瘍効果を奏する場合として、例えば、同様の症状の被験者における平均的な抗腫瘍効果よりも高い抗腫瘍効果を期待できる場合、同一の癌種に罹患した他の被験者よりも高い抗腫瘍効果を期待できる場合、または他の癌種に罹患した被験者よりも高い抗腫瘍効果を期待できる場合などをあげることができる。したがって、本発明は、臨床上非常に有用である。
【0144】
本発明の別の態様として、腫瘍に罹患した被験者に対して血管新生阻害剤の投与または腫瘍の治療に際して
(a)B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無、
(b)ANG1およびANG2の発現レベル、または
(c)SHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2、PML、IL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR3およびFGFR2からなる群から選ばれる少なくとも1つの発現レベル、
を指標とした情報を使用する方法を提供する。上記の通り、(a1)B-Rafが野生型であり、PTENが野生型である場合、(a2)B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異または発現欠損を有し、PTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異または発現欠損を有する場合、(b1)ANG1の発現レベルが対照の値と比較して低い場合、(b2)ANG1の発現レベルが、対照の値と比較して同等以上で、ANG2の発現レベルがANG1の発現を相殺する発現レベルである場合、(b3)ANG1およびANG2の発現レベルの比が、対照の値よりも低い場合、(c1)SHC1の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c2)NRP2の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c3)ARHGAP22の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c4)SCG2の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c5)PMLの発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c6)IL6の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c7)CXCR4の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c8)COL4A3の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c9)MEIS1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c10)FGF9の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c11)FGFR3の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c12)FGFR2の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c13)FGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c14)FGFR4の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c15)VEGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、が、当該被験者に対して、血管新生阻害剤を投与すること、または腫瘍を治療することは有効であることの指標となる。当該指標を用いて被験者の血管新生阻害剤への反応性の高さや被験者が血管新生阻害剤に反応する可能性を検討することができ、検討結果は、被験者への血管新生阻害剤の投与の是非、または血管新生阻害剤を用いる腫瘍の治療レジメン等を選択する際の有用な情報として参照することができる。ただし、本発明において血管新生阻害剤は、本来血管新生を阻害する作用を有するため、被験者が血管新生阻害剤に対して高感受性でないと判断されたときであっても、当該血管新生阻害剤が抗腫瘍効果を奏さないと予測されるものではない。
なお、腫瘍に罹患した被験者に対して血管新生阻害剤を投与する者または腫瘍を治療する者と、上記(a1)〜(c15)の測定を行う者とは、それぞれ同一人であっても別人であってもよい。
【0145】
本発明の別の態様として、
(a)B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無、
(b)ANG1およびANG2の発現レベル、または
(c)SHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1からなる群から選ばれる少なくとも1つの発現レベル、
を指標として、腫瘍に罹患した被験者に対して血管新生阻害剤を投与する方法または腫瘍を治療する方法を提供する。上記の通り、(a1)B-Rafが野生型であり、PTENが野生型である場合、(a2)B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異または発現欠損を有し、PTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異または発現欠損を有している場合、(b1)ANG1の発現レベルが対照の値と比較して低い場合、(b2)ANG1の発現レベルが、対照の値と比較して同等以上で、ANG2の発現レベルがANG1の発現を相殺する発現レベルである場合、(b3)ANG1およびANG2の発現レベルの比が、対照の値と比較して低い場合、(c1)SHC1の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c2)NRP2の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c3)ARHGAP22の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c4)SCG2の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c5)PMLの発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c6)IL6の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c7)CXCR4の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c8)COL4A3の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c9)MEIS1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c10)FGF9の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c11)FGFR3の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c12)FGFR2の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c13)FGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c14)FGFR4の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合または(c15)VEGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、が、当該被験者に対して、血管新生阻害剤を投与すること、または腫瘍を治療することは有効であることの指標となる。被験者への血管新生阻害剤の投与の是非、または血管新生阻害剤を用いる腫瘍の治療レジメン等を選択する際に、血管新生阻害剤を投与すること、または腫瘍を治療することは有効であると予測された被験者は、血管新生阻害剤の投与対象として選択することができる。したがって、本発明は、腫瘍に罹患した被験者であって、本発明の予測方法により血管新生阻害剤に対する反応性が高いことが予測されている被験者を、血管新生阻害剤の投与により治療する方法を含む。ただし、本発明において血管新生阻害剤は、本来血管新生を阻害する作用を有するため、被験者が血管新生阻害剤に対して高感受性でないと判断されたときであっても、当該血管新生阻害剤が抗腫瘍効果を奏さないと予測されるものではない。
なお、腫瘍に罹患した被験者に対して血管新生阻害剤を投与する者または腫瘍を治療する者と、上記(a1)〜(c15)の測定を行う者とは、それぞれ同一人であっても別人であってもよい。
【0146】
本発明の別の態様として、
(a)B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無、
(b)ANG1およびANG2の発現レベル、または
(c)SHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML 、FGFR3、FGFR2、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1からなる群から選ばれる少なくとも1つの発現レベル、
を指標として、血管新生阻害剤に対して高感受性を示す被験者を選択する方法を挙げることができる。上記の通り、(a1)B-Rafが野生型であり、PTENが野生型である場合、(a2)B-Rafが表1から選ばれる少なくとも1つの突然変異または発現欠損を有し、PTENが表2から選ばれる少なくとも1つの突然変異または発現欠損を有している場合、(b1)ANG1の発現レベルが対照の値と比較して低い場合、(b2)ANG1の発現レベルが、対照の値と比較して同等以上で、ANG2の発現レベルがANG1の発現を相殺する発現レベルである場合、(b3)ANG1およびANG2の発現レベルの比が、対照の値と比較して低い場合、(c1)SHC1の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c2)NRP2の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c3)ARHGAP22の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c4)SCG2の発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c5)PMLの発現レベルが、対照の値と比較して低い場合、(c6)IL6の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c7)CXCR4の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c8)COL4A3の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c9)MEIS1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c10)FGF9の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c11)FGFR3の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c12)FGFR2の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c13)FGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、(c14)FGFR4の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合または(c15)VEGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して高い場合、が、当該被験者が、血管新生阻害剤に対して高感受性を示すことの指標となる。したがって、このような被験者を、血管新生阻害剤に対する高感受性を示す被験者として選択することができる。
なお、血管新生阻害剤に対して高感受性を示す被験者を選択する者と、上記(a1)〜(c15)の測定を行う者とは、それぞれ同一人であっても別人であってもよい。
【0147】
本発明の別の態様として、本発明は血管新生阻害剤を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物を投与する対象は、腫瘍を罹患する被験者であって、本発明の方法により血管新生阻害剤へ反応する可能性が高いことが予測されている者である。また、本発明は、腫瘍を罹患する被験者への投与に使用する医薬を製造するための血管新生阻害剤の使用を提供する。当該被験者は本発明の方法により血管新生阻害剤に対する反応性が高いことが予測されている者である。また、本発明は、腫瘍を罹患する被験者の治療のための血管新生阻害剤を提供し、当該被験者は本発明の方法により血管新生阻害剤へ反応する可能性が高いことが予測されている者である。
【0148】
B-RafおよびPTENの突然変異または発現欠損を有する腫瘍細胞を標的とした本発明の医薬組成物ならびに腫瘍の治療方法には、さらに一または複数の他の抗腫瘍剤を組み合わせてもよい。他の抗腫瘍剤は、抗癌作用を有する製剤であれば、特に限定されない。他の抗腫瘍剤としては、例えば、塩酸イリノテカン(CPT-11)、カルボプラチン、オキサリプラチン(oxaliplatin)、5-フルオロウラシル(5-FU)、ドセタキセル(タキソテール(登録商標))、パクリタキセル、塩酸ゲムシタビン(ジェムザール(登録商標))、ホリナートカルシウム(ロイコボリン)、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、エベロリムス(サーティカン(登録商標)またはアフィニトール(登録商標))などが挙げられる。また、前記他の抗腫瘍剤としては、腫瘍治療剤の対象となる癌種が、メラノーマである場合には、ダカルバジンまたはテモゾロマイドであり、大腸癌である場合には、塩酸イリノテカン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル、ホリナートカルシウムまたはベバシズマブであり、膵癌である場合には、塩酸ゲムシタビンまたはベバシズマブであり、卵巣癌である場合には、カルボプラチンまたは塩酸ゲムシタビンであり、腎癌である場合には、ベバシズマブまたはエベロリムスであり、肺癌である場合には、カルボプラチン、ドセタキセルまたはパクリタキセルが特に好ましい。
【0149】
本発明の医薬組成物は、腫瘍治療剤として使用することができる。本発明において、腫瘍治療剤とは、抗腫瘍剤、癌予後改善剤、癌再発予防剤、癌転移抑制剤などを含むものをいう。
癌治療の効果は、レントゲン写真、CT等の所見や生検の病理組織診断により、あるいは腫瘍マーカーの値により確認することができる。
【0150】
本発明の医薬組成物を使用する場合には、経口もしくは非経口的に投与することができる。本発明の医薬組成物を使用する場合、血管新生阻害剤の投与量は、症状の程度、被験者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与時期、投与間隔、医薬製剤の性質、調剤、種類、有効成分の種類等によって異なり、特に限定されないが、通常成人(体重60 kg)1日あたり0.1mgから10gを、通常、1週間に1回から、1日1〜3回に分けて投与することができる。
【0151】
本発明の医薬組成物は、経口用固形製剤、注射剤などにすることができる。経口用固形剤形は、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤が挙げられる。注射剤は、静脈、皮下、筋肉内注射剤などが挙げられ、その際、必要により常法により凍結乾燥物とすることもできる。
これら製剤化には通常用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤など、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤などを使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して常法により製剤化される。
これらの成分としては例えば、動植物油(大豆油、牛脂、合成グリセライドなど)、炭化水素(流動バラフィン、スクワラン、固形パラフィンなど)、エステル油(ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピルなど)、高級アルコール(セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなど)、シリコン樹脂、シリコン油、界面活性剤(ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなど)、水溶性高分子(ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースなど)、アルコール(エタノール、イソプロパノールなど)、多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトールなど)、糖(グルコース、ショ糖など)、無機粉体(無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸アルミニウムなど)、精製水などが挙げられる。pH調整のためには無機酸(塩酸、りん酸など)、無機酸のアルカリ金属塩(りん酸ナトリウムなど)、無機塩基(水酸化ナトリウムなど)、有機酸(低級脂肪酸、クエン酸、乳酸など)、有機酸のアルカリ金属塩(クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウムなど)、有機塩基(アルギニン、エタノールアミンなど)などを用いることができる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤などを添加することができる。
【0152】
本発明の別の態様として、本発明はB-RafおよびPTEN、または、ANG1およびANG2のプローブを含むことを特徴とする、腫瘍を罹患する被験者の血管新生阻害剤に対する反応性を予測するためのキットを提供する。血管新生阻害剤に対する反応性の予測は、本発明の方法により実施することができる。前記血管新生阻害剤としては、好ましくは、4−(3−クロロ−4−(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)−7−メトキシ−6−キノリンカルボキサミドまたはその薬理学的に許容される塩が挙げられる。
【0153】
本発明の医薬組成物および/またはキットは、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、用いることができる。
本発明の医薬組成物および/またはキットは、上記の血管新生阻害剤またはプローブの他に、包装容器、取扱説明書、添付文書等を含んでいてもよい。包装容器、取扱説明書、添付文書等には、例えば、一または複数の他の抗癌剤を併用して用いるための組み合わせを記載することができ、また、別々の物質を投与時に併用する形態または混合物としての形態について、用法、用量などを記載することができる。用法、用量は、上記を参照して記載することができる。
【実施例】
【0154】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0155】
[実施例1]BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の検出
ヒトメラノーマ細胞株SK-MEL-2、MeWo、CHL-1、HMV-1、HMCB、MDA-MB-435、LOX、G361、FEM、SEKI、SK-MEL-28、A375、A2058をそれぞれ表6の「購入先」の欄に示した入手先から入手し、それぞれ、Sanger法または次世代シークエンス法(Bridge PCR法:Solexa/Illumina)を用いて、BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損を検出した。
【0156】
(1)
Sanger法による検出
(i) メラノーマ細胞株からのゲノムDNAの調製
約1×10
6個の細胞からDNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN社より購入)を用いてゲノムDNAの精製を行った。
(ii) PTENエクソン領域の増幅
得られたゲノムDNAに対しPCR反応を行うことで、PTENのエクソン領域の増幅を行った。PCR反応はPrimeSTAR GXL DNA Polymerase (タカラバイオ株式会社より購入) にて行った。ゲノムDNA 100 ng, 5×PrimeSTAR GXL Buffer 4μL, dNTP mixture (2.5 mM) 1.6μL, センスプライマーおよびアンチセンスプライマー(それぞれ5 pmol), PrimeSTAR GXL DNA Polymerase 0.4μlを全体容量20μLになるように調整し、その溶液を95℃ 10秒、55℃ 15秒、68℃ 30秒の反応を40回行った。
PCR反応に用いたプライマー配列を以下に示す。
Exon1 センスプライマー: AGTCGCCTGTCACCATTTC(配列番号19)
Exon1 アンチセンスプライマー: ACTACGGACATTTTCGCATC(配列番号20)
Exon2 センスプライマー: GTTTGATTGCTGCATATTTCAG(配列番号21)
Exon2 アンチセンスプライマー: GGCTTAGAAATCTTTTCTAAATG(配列番号22)
Exon3 センスプライマー: AATGACATGATTACTACTCTA(配列番号23)
Exon3 アンチセンスプライマー: TTAATCGGTTTAGGAATACAA(配列番号24)
Exon4 センスプライマー: CATTATAAAGATTCAGGCAATG(配列番号25)
Exon4 アンチセンスプライマー: GACAGTAAGATACAGTCTATC(配列番号26)
Exon5 センスプライマー: ACCTGTTAAGTTTGTATGCAAC(配列番号27)
Exon5 アンチセンスプライマー: TCCAGGAAGAGGAAAGGAAA(配列番号28)
Exon6 センスプライマー: CATAGCAATTTAGTGAAATAACT(配列番号29)
Exon6 アンチセンスプライマー: GATATGGTTAAGAAAACTGTTC(配列番号30)
Exon7 センスプライマー: TGACAGTTTGACAGTTAAAGG(配列番号31)
Exon7 アンチセンスプライマー: GGATATTTCTCCCAATGAAAG(配列番号32)
Exon8 センスプライマー: CTCAGATTGCCTTATAATAGT(配列番号33)
Exon8 アンチセンスプライマー: TCATGTTACTGCTACGTAAAC(配列番号34)
Exon9 センスプライマー: AAGGCCTCTTAAAGATCATG(配列番号35)
Exon9 アンチセンスプライマー: TTTTCATGGTGTTTTATCCCT(配列番号36)
(iii) PCR産物の回収
1%アガロースゲル電気泳動法により、目的の長さであることを確認したPCR産物をゲルから回収し、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega社より購入)を用いて精製を行った。精製したゲノムDNAに対し、市販のキットを用いてPCRを行い、配列を決定した。
【0157】
(2)
次世代シークエンス法による検出
(i) メラノーマ13細胞株からの全RNAの調製
細胞を5%CO
2条件下37℃にて培養した。一定時間後にTRIZOL試薬(GIBCO BRL社より購入)を用い、試薬に添付された操作法に従って細胞溶解を行った。
具体的には以下のとおりである。培養面積10cm
2に対して1 mlのTRIZOL試薬を加え、数回ピペッティングを行い、細胞が溶解した液体を回収した。回収したサンプルを遠心した後、得られた上清を室温で5分間放置後、使用したTRIZO試薬1 mlに対して0.2 mlの割合でクロロフォルム(純正化学社より購入)を添加した。この溶液を15秒間激しく振盪、攪拌し室温で2〜3分間放置後遠心を行った(12000×g、10分間、4℃)。遠心後水層を新しいチューブに移し、使用したTRIZO試薬1 mlに対して0.5 mlの割合でイソプロピルアルコール(和光純薬社より購入)を加え、室温で10分間放置後遠心を行った(12000×g、10分間、4℃)。得られた沈殿を75%エタノール(和光純薬社より購入)にて洗浄した後風乾し、全RNAとして以降の操作に供した。
(ii) BRAFおよびPTENのタンパク質をコードする配列の増幅
上記で得られたRNAを鋳型としてHigh capacity cDNA Reverse Transcription kitの添付文書の方法に従いcDNAを合成した。
得られたメラノーマ13細胞株のcDNAに対しPCR反応を行うことで、B-RafおよびPTENのタンパク質をコードする配列の増幅を行った。PCR反応はPrimeSTAR GXL DNA Polymerase (タカラバイオ株式会社より購入) あるいはPhusion High-Fidelity DNA Polymerase (Finnzymes社より購入) にて行った。PrimeSTAR GXL DNA Polymeraseを用いる場合には、cDNA 100 ng, 5×PrimeSTAR GXL Buffer 4μL, dNTP mixture (2.5 mM) 1.6μL, センスプライマーおよびアンチセンスプライマー(それぞれの5 pmol)(B-Rafについては各3種プライマーでの反応を実施), PrimeSTAR GXL DNA Polymerase 0.4μlを全体容量20μLになるように調製し、その溶液を95℃ 10秒、55℃ 15秒、68℃ 2分の反応を40回行った。Phusion High-Fidelity DNA Polymeraseの場合には、cDNA 100 ng, 5×Phusion GC Buffer 4μL, dNTP mixture (2.5 mM) 1.6μL, センスプライマーおよびアンチセンスプライマー(それぞれ10 pmol), Phusion High-Fidelity DNA Polymerase 0.2μLを全体容量20μLになるように調製し、その溶液を98℃ 10秒、55℃ 30秒、72℃ 2分の反応を40回行った。
PCR反応に用いたプライマー配列を以下に示す。
PTENセンスプライマー:TCTGCCATCTCTCTCCTCCTTTT(配列番号37)
PTENアンチセンスプライマー:TCTGACACAATGTCCTATTGCCAT(配列番号38)
BRAFセンスプライマー1: GCCCCGGCTCTCGGTTATAAGATG(配列番号39)
BRAFアンチセンスプライマー1: CCGTTCCCCAGAGATTCCAA(配列番号40)
BRAFセンスプライマー2: TGCCATTCCGGAGGAGGTGT(配列番号41)
BRAFアンチセンスプライマー2: GCCCATCAGGAATCTCCCAA(配列番号42)
BRAFセンスプライマー3: ATCTGGATCATCCCCTTCCGC(配列番号43)
BRAFアンチセンスプライマー3: CCCGGAACAGAAAGTAAAGCCTCTAG(配列番号44)
(iii) PCR産物の回収、精製、平滑末端化、連結処理
1%アガロースゲル電気泳動法により、目的の長さであることを確認したPCR産物をゲルから回収し、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega社より購入) を用いて精製を行った。精製したPCR産物を細胞株ごとに1つのチューブにまとめ、DNA Blunting Kit(タカラバイオ株式会社より購入)により全量10μL中にて平滑末端化を行った。その後、フェノール/クロロフォルム抽出、エタノール沈殿によりDNAをペレット化した後、DNA Ligation Kit (タカラバイオ株式会社より購入)を用いて全量10μL中にて連結処理を16℃で6時間行った。連結処理したDNAはフェノール/クロロフォルム抽出、エタノール沈殿によりDNAをペレット化した。
【0158】
(iv) 次世代シーケンサーでの解析のためのライブラリー作製
Genomic DNA Sample Prep Kit (Illumina社より購入) を用い、添付の操作法に従ってライブラリーの作成を行った。方法の概要は以下の通りである。
DNAをネブライゼーションにより断片化を行った後、DNAの平滑末端化と5’末端のリン酸化を行う。アダプターを付加した後、2%アガロースゲル電気泳動法により150 bpから200 bpの間の長さの産物をゲルから回収し精製する。精製したDNAを鋳型としてPCRを行った後DNAを精製し、吸光度測定を行い濃度と純度の確認を行った。
(v) 次世代シーケンサーでのデータ取得
GAII DNA Sample Cluster Generation Kit(Illumina社より購入)および36-Cycle SBS Sequencing Kit(Illumina社より購入)を用い、添付の操作法に従ってクラスター形成およびGenome Analyzer II(Illumina社)でのデータ取得を行った。1レーン当たり1細胞株由来のサンプルを3 pMol用いた。サイクル数は36あるいは76サイクルで行った。
(vi) データ解析
Illumina社製IPAR/GAPipelineを用いてTIFF形式の画像からTXT形式の配列情報を作成、FASTQ形式に変換後、MAQを用いて関連遺伝子のRefseq配列情報をリファレンスとしてアライメントを行った。抽出されたSNPs情報に内製ソフトウェアを用いてアミノ酸置換情報等を付加及びGFF形式に変換し、Gbrowseを用いて変異情報及びdepth情報(突然変異または発現欠損情報)を確認した。結果を表6に示す。
【表6】
【0159】
[実施例2]メラノーマ細胞株移植マウスモデルにおける血管新生阻害剤の抗腫瘍効果の算出
実施例1で使用したヒトメラノーマ細胞株を、それぞれ表6の「培養液」の欄に示した培地(10%FBS含)で約80%コンフルレントとなるまで培養した(5%炭酸ガスインキュベーター内)。培養後、常法に従いトリプシン−EDTA処理により、各細胞を回収した。各細胞をリン酸緩衝液、あるいはマトリゲル液(リン酸緩衝液とマトリゲルを1:1公比にて混和)で懸濁し、1×10
8 cells/mLまたは5×10
7cells/mL懸濁液に調製した。そして、細胞懸濁液を0.1 mLずつヌードマウス体側皮下に移植し、ヒトメラノーマ細胞株移植マウスモデルを作製した。
移植後、腫瘍体積が約200 mm
3になった時点から、4−(3−クロロ−4−(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)−7−メトキシ−6−キノリンカルボキサミドメシル酸塩(以下、E7080と言う)100 mg/kg/dayを経口投与し、経日的に腫瘍長径および短径をデジマチックキャリパ(Mitsutoyo)で測定した。下記式で腫瘍体積、比腫瘍体積を算出することで、当該マウスモデルにおける血管新生阻害剤の抗腫瘍効果(ΔT/C)を算定した。
腫瘍体積(TV)=腫瘍長径(mm)×腫瘍短径
2(mm
2)/2
抗腫瘍効果(ΔT/C)=(薬剤投与群のTV-投与開始前のTV)/(コントロール群のTV-投与開始前のTV)×100
投与開始後7日目のΔT/Cを
図1に示す。
図1において、各細胞株の分類は、実施例1にて行ったものを用いた。
メラノーマ細胞に対するE7080の抗腫瘍効果(ΔT/C)は、BRAFおよびPTENがともに野生型の場合、BRAFおよびPTENがともに突然変異または発現欠損がある場合、またはBRAFに突然変異を有しかつPTENに突然変異を有さない場合、それぞれ16、23、45%であり、E7080の抗腫瘍効果は特にBRAFおよびPTENがともに突然変異または発現欠損がある場合とない場合にみられた。E7080の抗腫瘍効果はメラノーマ細胞をBRAFおよびPTENの突然変異の有無により層別化した場合に異なることが明らかであり(
図1)、BRAFおよびPTENの突然変異の有無がE7080の効果を予測する指標となることが示された。
【0160】
[実施例3]BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無による周皮細胞(ペリサイト)で覆われた血管の割合との相関性
腫瘍組織においては、血管新生が正常に行われない結果、周皮細胞で覆われる血管が形成されない現象が観察される。腫瘍細胞をBRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無により層別化した場合に周皮細胞で覆われた血管の割合に変化がみられるか検証を行った。
実施例1で使用したヒトメラノーマ細胞株を用いて、実施例2の方法に従いヒトメラノーマ細胞株移植マウスモデルを作成した。移植後、腫瘍体積が約100-300mm
3になった時点で、マウスをCO
2にて致死せしめ、移植された腫瘍組織を外科手術により摘出した。
その後、摘出された腫瘍組織から腫瘍組織切片を作成し、当該切片について染色を行った。
具体的には、腫瘍組織の周辺部より約5 mm内側をナイフで切断し、当該組織をOCTコンパウンドで包埋した。その後、当該組織をドライアイスで凍結し、-80℃にて凍結組織を作製した。当該凍結組織について、厚さ8μmの切片を作製し、スライドガラスに貼り付けた後、流水洗浄を行い、冷アセトンで4℃、10分静置し、サンプルを作製した。その後、0.1%Tween20含有0.01 Mリン酸緩衝液(以下、洗浄用PBSという)でサンプルを3回洗浄し、DAKOビオチンブロッキングキットのアビジンブロッキング溶液にて10分間室温で反応させた。反応後、洗浄用PBSでサンプルを3回洗浄し、当該キットのビオチンブロッキング溶液にて室温で10分間反応させた。その後、サンプルを洗浄用PBSで3回洗浄し、VECTOR STAIN ABCペルオキシダーゼ ラットIgGキット内の正常血清にて室温で20分間反応させた。サンプルから反応溶液を除去後、1%ウシ胎児血清含有0.1Mリン酸緩衝液にて600倍希釈した1次抗体である抗CD31抗体(クローン名:MEC13.3、ラットIgG、PharMingen, BD Biosciences)を添加し、4℃で一晩反応させた。その後、洗浄し、当該キット内のビオチン標識した2次抗体を添加し室温で30分間反応させ、洗浄した後、当該キット内のアビジン試薬でさらに室温で30分間反応させた。その後、0.01Mリン酸緩衝液にて3回洗浄し、DABにて発色させ、CD31の染色を行った。
次に、サンプルを流水にて水洗後、トリスバッファーにて3回洗浄を行った。その後、サンプルにトリスバッファーにて100倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗α-SMA抗体(クローン名:1A4、マウスIgG、SIGMA-ALDRICH)を室温で1時間反応させた。その後、トリスバッファーにて3回洗浄し、DAKO LSABキット内のフクシン溶液にて発色させ、α-SMAの染色を行った。
【0161】
染色後のサンプルを顕微鏡観察下で、CCDカメラHYPER SCOPE (KEYENCE)にて血管数およびペリサイトで覆われた血管数を1サンプルあたり5ヶ所程度測定し、その平均を単位面積辺りの血管数またはペリサイト数として換算した。また、血管数に占めるペリサイト血管の割合をそれぞれのメラノーマ細胞株で算出した。結果を
図2に示す。
図2において、各細胞株の分類は、実施例1にて行ったものを用いた。
BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無によりメラノーマ細胞を階層化した場合、腫瘍組織中のペリサイトで覆われている血管の割合が異なる傾向を示した(
図2)。また、E7080の抗腫瘍効果と腫瘍組織中ペリサイトで覆われている血管の割合について分析したところ、腫瘍組織中ペリサイトで覆われている血管の割合はE7080の抗腫瘍効果と高い相関性を示した(
図3)ことから、BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無が腫瘍中の血管の性状に影響を与え、腫瘍中のペリサイトで覆われている血管の割合を変動させることを示唆した。その結果、腫瘍中のペリサイトで覆われている血管の割合が低いメラノーマ細胞ではE7080が効果を示しやすい血管になっている可能性が示唆され、BRAFおよびPTENがともに野生型の場合と、BRAFおよびPTENがともに突然変異または発現欠損を有している場合において特にE7080が効果を示しやすいことが示唆された。
【0162】
[実施例4]BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無による、ANG1およびANG2の発現制御
(1)BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無とANG1およびANG2の発現との相関性
ヒトメラノーマ細胞株において、BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無とANG1およびANG2の発現との相関性について定量的RT-PCR法およびELISA法を用いて検証した。
1.定量的RT-PCR法による検証
実施例1で使用しているヒトメラノーマ細胞株について、実施例1(2)(i)の項目と同様の方法で全RNAを準備し、以降の測定に供した。
各種血管新生因子および各種血管新生因子受容体の定量的RT-PCRは、遺伝子特異的プローブ(TaqMan Gene Expression Assays mixture、Applied Biosystems社ASSAYS-ON-DEMANDより購入)および遺伝子解析用BioMark
TMシステム(Fluidigm社より購入)を用いて操作マニュアルに基づき、以下のように行った。使用した血管新生因子および血管新生因子受容体の遺伝子名および購入したプローブのアッセイIDを表7に示す。
操作は、逆転写反応、プレ増幅及びPCR反応の3段階で行った。
最初の段階である逆転写反応は、準備したRNAにRNase Free dH2O 6.5μLを添加し、これに5×PrimeScript buffer 2μL、PrimeScript RT Enzyme Mix I 0.5μL、Oligo dT Primer (50μM) 0.5μL、Random 6 mer (100μM) 0.5μLを加え、37℃にて15分間反応させた後、85℃にて5秒間加熱することにより反応を停止させ、cDNA液を得た。得られたcDNA液を第2段階のプレ増幅反応に供した。
プレ増幅反応は、遺伝子特異的なPrimer/Probe 42μLにlow-TE bufferの58μLを加えた溶液のうち56.25μLを分取し、これにPreAmp Master Mixを112.5μL、cDNA液を56.25μLを加え、95℃ 10分間反応させた。次いで95℃ 15秒間、60℃ 4分間からなる反応サイクルを14サイクル行った。反応後の反応液をTE bufferにて1:5に希釈し、これをプレ増幅液とした。得られたプレ増幅液を第3段階のPCR反応に供した。
Sample液として2×ABI Master Mixの275μLにLoading Bufferを27.5μLを加え、その溶液の5.5μLに作製したプレ増幅液の4.5μLを加えた。またアッセイ液としては水 4750μLに10% Tweenを加え、その溶液の5μLに20×assaysを5μL加えることで作製した。Sample液およびアッセイ液のそれぞれを48.48 Dynamic trayに加え、NanoFlex ICFコントローラーにてサンプルを充填後、Biomark(Fluidigm Corporation)にて測定を行った。
【表7】
【0163】
得られたPCR産物から各遺伝子の定量解析を行なうため、検量線の作成は、全てのサンプルを等量混和したmRNAサンプルを用いて行なった。各メラノーマ細胞株での遺伝子発現量は、検量線からCt(threshold cycle 値の略であり、PCR産物がある一定の濃度に達するのに必要なPCRのサイクル数である)を算出した。各メラノーマ細胞株における遺伝子の発現量をβ-actin発現量で補正した値を各メラノーマ細胞株における遺伝子の発現量比とし、比較解析に用いた。
【0164】
2.ELISAによる検証
実施例1で使用しているヒトメラノーマ細胞を実施例2の方法に従いヒトメラノーマ細胞株移植マウスモデルを作成した。移植後、腫瘍体積が100 mm
3以上になった段階でマウスを壊死せしめ、移植された腫瘍組織を回収した。腫瘍組織に細胞溶解液(セルシグナリング社より購入)を添加することで細胞液を作成し、-80℃にて保存した。調製液中のANG1タンパク質の発現レベル、ANG2タンパク質の発現レベルおよびそれらの比(ANG1/ANG2)をELISA Kit(R&D systemsより購入)にて測定し、検量線を元に定量した。
結果を
図4,5に示す。
図4において、BRAFが「-」のグラフは、表6に示すSK-MEL-2、MeWo、CHL-1、HMV-1およびHMCBのセルラインについての各抗腫瘍効果の結果を包含したものである。BRAFが「+」のグラフは、表6に示すMDA-MB-435、LOX、G361、FEM、SEKI、SK-MEL-28、A375およびA2058のセルラインについての各抗腫瘍効果の結果を包含したものである。
図5において、PTENが「-」のグラフは、表6に示すSK-MEL-2、MeWo、CHL-1、HMV-1、HMCB、MDA-MB-435、LOX、G361、FEMおよびSEKIのセルラインについての各抗腫瘍効果の結果を包含したものである。PTENが「+」のグラフは、表6に示すSK-MEL-28、A375およびA2058のセルラインについての各抗腫瘍効果の結果を包含したものである。
【0165】
ANG1(表7中No.11)のmRNA発現レベルは、BRAFの突然変異が存在するヒトメラノーマ細胞株では有意に亢進し(
図4(b))、ANG1タンパク質の発現レベルは、BRAFの突然変異が存在するヒトメラノーマ細胞株では亢進していることが明らかとなった(
図4(a))。
また、ANG2(表7中No.12)のmRNA発現レベルは、PTENの突然変異が存在するヒトメラノーマ細胞株では亢進し(
図5(b))、ANG2(表7中No.12)タンパク質の発現レベルは、PTENの突然変異が存在するヒトメラノーマ細胞株では有意に亢進していることが明らかとなった(
図5(a))。
【0166】
(2)BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無と、ANG1とANG2の発現レベルの比(ANG1/ANG2)の相関性
ANG1はTIE-2レセプターに結合し、ANG1-TIE-2シグナルは血管の成熟を誘導することが知られている。TIE-2レセプターには、ANG2がANG1と競合的に結合するが、ANG2が結合したレセプターからは下流のシグナルは流れず、ANG1が発現していない(あるいは発現が低い)状況、すなわちBRAF正常下ではVEGFのシグナルが血管の新生や生存に寄与し、血管の成熟化が引き起こされないことが知られている。
メラノーマ細胞をBRAFおよびPTENの突然変異の有無により層別化した場合にANG1-TIE-2シグナリングに影響を与えるか、ANG1タンパク質の発現レベルとANG2タンパク質の発現レベルの比(ANG1/ANG2)を検証した。結果を
図6に示す。
図6において、各細胞株の分類は、実施例1にて行ったものを用いた。
メラノーマ細胞をBRAFおよびPTENの突然変異の有無により層別化した場合のANG1タンパク質の発現レベルとANG2タンパク質の発現レベルの比(ANG1/ANG2)は、BRAFおよびPTENがともに野生型である場合と、BRAFおよびPTENに突然変異または発現欠損がある場合に低くなる傾向を示し、BRAFに突然変異または発現欠損があり、PTENが野生型である場合に高くなる傾向を示した(
図6)。また、BRAFに突然変異または発現欠損があり、PTENが野生型である場合と比較して、BRAFおよびPTENがともに野生型である場合と、BRAFおよびPTENに突然変異または発現欠損がある場合のANG1およびANG2の発現レベルの比は有意に低くなることを示した。これは、BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損において、E7080に対して反応性を示しやすいタイプの変異の組合せとANG1/ANG2が似た傾向を示していることを意味している。
【0167】
以上の結果から、血管新生阻害剤の抗腫瘍効果は、BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無により規定されていることが明らかとなり、BRAFの突然変異がない被験者については腫瘍組織血管の周皮細胞の割合が減少していること、その原因としてペリサイト血管形成に関与しているANG1およびANG2の発現制御が関与していることが明らかとなった。ANG1を発現していないあるいはANG1の発現が低い場合、すなわちBRAFが正常な状況では、特にFGFR3を発現する場合FGFRキナーゼ阻害剤は癌細胞に対する直接の殺傷作用が期待でき、E7080はBRAFが正常でFGFR3を発現するメラノーマ患者については血管新生阻害に加えて抗腫瘍効果が増強される可能性を示唆した。
一方、ANG1の発現が高い場合、すなわちBRAFが突然変異または発現欠損を有している場合、ANG2の発現に血管の成熟化が依存し、ANG2が高発現の場合、すなわちPTENが突然変異または発現欠損を有している場合にはANG1とANG2の競合阻害により成熟化が起こらず、ANG2が低発現の場合、すなわちPTENが正常な場合には血管の成熟化が起こることを示唆した。よって、ANG1およびANG2の発現が高い場合には、E7080は主に血管新生阻害による抗腫瘍効果を期待でき、ANG1の発現が高くかつANG2の発現が低い場合には、ANG2の発現がANG1の発現より高いレベルであればE7080による抗腫瘍効果を期待できることを示唆した。
従って、ANG1およびANG2の発現レベルまたは発現レベルの比を指標とすることによりE7080の効果を予測することが可能となった。
【0168】
[実施例5]BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無と、SHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現との相関性
ヒトメラノーマ細胞株において、BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無とSHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現との相関性についてDNAマイクロアレイ法を用いて検証した。
【0169】
1.サンプルから全RNAの抽出
実施例1で使用しているヒトメラノーマ細胞について、実施例2と同様の方法でヒトメラノーマ細胞種移植マウスモデルを作製し、移植後、腫瘍体積が200 mm
3以上の腫瘍になった段階で、マウスを致死させ、移植された腫瘍組織を摘出し、実施例1(2)(i)の項目と同様の方法で全RNAを準備し、以降の操作に供した。
【0170】
2.RNAの定量
1)DNAマイクロアレイによる定量
Schenaらの方法(Schena et al., Science, 1995, 270, p.467-470)、Lockhartらの方法(Lockhart et al., Nature Biotechnology, 1996, 14,p.1675-1680)または最新のAffimetrix社のGeneChip(登録商標)Array Stationの操作マニュアルに基づきcDNA合成とビオチン標識を行った。その後、Affimetrix社のDNAマイクロアレイ(Human Genome U133 Plus 2.0 Array)へのハイブリダイズと測定を操作マニュアルに基づき実施し、データを取得した。
【0171】
3.データ解析
データは累積カイ自乗法によるトレンド検定を行うことにより、統計解析処理を行い、BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無により発現量に有意な変化のある遺伝子群を抽出した。
【0172】
その結果、IL6、CXCR4、COL4A3、MEIS1、FGF9、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現量は、BRAFに突然変異があり、PTENが野生型である場合の発現量を境に有意に減少しており、SHC1、NRP2、ARHGAP22、SCG2およびPMLの発現量は、BRAFに突然変異があり、PTENが野生型である場合の発現量を境に有意に増加していることが明らかとなった。よって、SHC1、IL6、CXCR4、COL4A3、NRP2、MEIS1、ARHGAP22、SCG2、FGF9、PML、FGFR1、FGFR4およびVEGFR1の発現量がBRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無によりメラノーマ細胞を階層化した場合、有意に変化していることが明らかになった。
すなわち、被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高い場合、
SHC1の発現レベルは、対照の値と比較して有意に減少しており、
IL6の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加しており、
CXCR4の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加しており、
COL4A3の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加しており、
NRP2の発現レベルが、対照の値と比較して有意に減少しており、
MEIS1の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加しており、
ARHGAP22の発現レベルが、対照の値と比較して有意に減少しており、
SCG2の発現レベルが、対照の値と比較して有意に減少しており、
FGF9の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加しており、
PMLの発現レベルが、対照の値と比較して有意に減少しており、
FGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加しており、
FGFR4の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加しており、
VEGFR1の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加していることを示唆した。
【0173】
[実施例6]BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無とFGFR3およびFGFR2の発現との相関性
ヒトメラノーマ細胞株において、BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無とFGFR3およびFGFR2の発現との相関性について定量的RT-PCR法を用いて検証した。
実施例1で使用しているヒトメラノーマ細胞株を用いて実施例2と同様の方法でヒトメラノーマ細胞種移植モデルマウスを作製し、実施例1(2)(i)の項目と同様の方法で全RNAを準備し、実施例4の項目1と同様の方法で定量的RT-PCRを行った。使用した血管新生因子および血管新生因子受容体の遺伝子名および購入したプローブのアッセイIDを表8に示すとともに、結果を
図7に示す。
【表8】
【0174】
その結果、FGFR3およびFGFR2の発現量は、BRAFに突然変異があり、PTENが野生型である場合の発現量を境に有意に減少しており、BRAFおよびPTENの突然変異または発現欠損の有無によりメラノーマ細胞を階層化した場合、有意に変化していることが明らかになった(
図7)。
すなわち、被験者の血管新生阻害剤に対する反応性が高い場合、
FGFR2の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加しており、
FGFR3の発現レベルが、対照の値と比較して有意に増加している
ことを示唆した。