特許第5952849号(P5952849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952849
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】フラックス及びソルダペースト
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
   B23K35/363 D
   B23K35/363 E
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-62417(P2014-62417)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-182125(P2015-182125A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年2月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391010471
【氏名又は名称】岡村製油株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上畑 雅司
(72)【発明者】
【氏名】山側 康之
(72)【発明者】
【氏名】北沢 和哉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 善範
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/018288(WO,A1)
【文献】 特開2012−115871(JP,A)
【文献】 特開2001−170797(JP,A)
【文献】 特表2002−512278(JP,A)
【文献】 特開2002−239785(JP,A)
【文献】 特開2001−219294(JP,A)
【文献】 特開2000−219653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C22C 13/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性の樹脂と、
前記熱硬化性の樹脂を硬化させる硬化剤及び活性剤として添加される長鎖二塩基酸混合物とを含み、
前記長鎖二塩基酸混合物は、以下の(1)、(2)、(3)及び(4)に示す組成の長鎖二塩基酸を混合した混合物であり、
(1)、(2)、(3)及び(4)に示す前記長鎖二塩基酸の比率は、前記長鎖二塩基酸混合物全体の比率を100質量%とした場合、以下の通りである
ことを特徴とするフラックス。
(1)2−メチルノナン二酸を30〜60質量%
(2)4−(メトキシカルボニル)−2,4−ジメチルウンデカン二酸を8〜20質量%
(3)4,6−ビス(メトキシカルボニル)−2,4,6−トリメチルトリデカン二酸を8〜20質量%
(4)8,9−ビス(メトキシカルボニル)−8,9−ジメチルヘキサデカン二酸を15〜30質量%
【請求項2】
前記フラックス中の熱硬化性の前記樹脂の含有量を30〜40質量%、前記フラックス中の前記長鎖二塩基酸混合物の含有量を20〜60質量%とした
ことを特徴とする請求項1に記載のフラックス。
【請求項3】
前記フラックス中に0.1〜40質量%の溶剤を添加した
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のフラックス。
【請求項4】
熱硬化性の樹脂と、熱硬化性の前記樹脂を硬化させる硬化剤及び活性剤として添加される長鎖二塩基酸混合物とを含み、
前記長鎖二塩基酸混合物が以下の(1)、(2)、(3)及び(4)に示す組成の長鎖二塩基酸を混合した混合物であり、(1)、(2)、(3)及び(4)に示す前記長鎖二塩基酸の比率が、前記長鎖二塩基酸混合物全体の比率を100質量%とした場合、以下の通りであるフラックスと、
はんだ合金粉末が混合された
ことを特徴とするソルダペースト。
(1)2−メチルノナン二酸を30〜60質量%
(2)4−(メトキシカルボニル)−2,4−ジメチルウンデカン二酸を8〜20質量%
(3)4,6−ビス(メトキシカルボニル)−2,4,6−トリメチルトリデカン二酸を8〜20質量%
(4)8,9−ビス(メトキシカルボニル)−8,9−ジメチルヘキサデカン二酸を15〜30質量%
【請求項5】
前記フラックス中の熱硬化性の前記樹脂の含有量を30〜40質量%、前記フラックス中の前記長鎖二塩基酸混合物の含有量を20〜60質量%とした
ことを特徴とする請求項4に記載のソルダペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス残渣で接合対象物を固着できるようにしたフラックス、及びフラックスとはんだ合金が混合されたソルダペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、はんだ付けに用いられるフラックスは、はんだ合金及びはんだ付けの対象となる接合対象物の金属表面に存在する金属酸化物を化学的に除去し、両者の境界で金属元素の移動を可能にする効能を持つ。このため、フラックスを使用してはんだ付けを行うことで、はんだ合金と接合対象物の金属表面との間に金属間化合物が形成できるようになり、強固な接合が得られる。
【0003】
一方、フラックスの成分には、はんだ付けの加熱によって分解、蒸発しない成分が含まれており、はんだ付け後にフラックス残渣としてはんだ付け部位の周辺に残留する。
【0004】
さて、近年の電子部品の小型化の進展につれて、電子部品のはんだ付け部位である電極も小さくなってきている。そのため、はんだ合金で接合できる面積が小さくなり、はんだ合金だけでの接合強度では、不十分な場合もある。
【0005】
そこで、はんだ付けによる接合を強化する部品固着手段として、アンダーフィルや樹脂モールドによって、はんだ付け部位の周囲を覆うことにより、電子部品を固着する技術が提案されている。
【0006】
ここで、はんだ付け部位の周囲にフラックス残渣が残渣していると、フラックス残渣がはんだ付け部位と樹脂との固着を阻害するので、強度を確保することができない。このため、はんだ付け部位の周囲を樹脂で覆うためには、フラックス残渣を洗浄する必要がある。しかし、フラックス残渣を洗浄するには、時間とコストが掛かる。
【0007】
そこで、フラックスに熱硬化性の樹脂を含有させ、はんだ付け時の加熱で樹脂を硬化させたフラックス残渣で、接合対象物である基板と電子部品を固着し、フラックス残渣の洗浄を不要とした技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−219294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フラックス残渣で接合対象物を固着する技術では、金属酸化物を除去してはんだの濡れ性を向上させるフラックスの機能が、フラックスへの熱硬化性の樹脂の添加によって阻害されないようにする必要があり、かつ、熱硬化性の樹脂でフラックス残渣を発生させて、フラックス残渣で接合対象物を固着できるようにする必要がある。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、はんだ合金及びはんだ付け対象物の金属表面に生成された金属酸化物を除去して、はんだの濡れ性を向上させることができ、かつ、接合対象物をフラックス残渣で固着できるようにしたフラックス、及びフラックスとはんだ合金が混合されたソルダペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
フラックスに熱硬化性の樹脂を添加することにより、はんだ付け時の加熱で熱硬化性の樹脂が硬化することでフラックス残渣を硬化させ、はんだ付け対象物である接合物と被接合物をフラックス残渣で固着できる。そして、熱硬化性の樹脂が添加されたフラックスに、側鎖にアルキル基を有する第1の長鎖二塩基酸と、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の第2の長鎖二塩基酸を1種又はそれ以上含有する、長鎖二塩基酸混合物を添加することにより、熱硬化性の樹脂の硬化が阻害されることなく、また、金属酸化物を除去するフラックスの機能が、熱硬化性の樹脂の添加によって阻害されることがなく、はんだの濡れ性が向上することを見出した。
【0012】
そこで、本発明は、熱硬化性の樹脂と、熱硬化性の樹脂を硬化させる硬化剤及び活性剤として添加される長鎖二塩基酸混合物とを含み、長鎖二塩基酸混合物は、以下の(1)、(2)、(3)及び(4)に示す組成の長鎖二塩基酸を混合した混合物であり、(1)、(2)、(3)及び(4)に示す長鎖二塩基酸の比率は、長鎖二塩基酸混合物全体の比率を100質量%とした場合、以下の通りであるるフラックスである。
(1)2−メチルノナン二酸を30〜60質量%
(2)4−(メトキシカルボニル)−2,4−ジメチルウンデカン二酸を8〜20質量%
(3)4,6−ビス(メトキシカルボニル)−2,4,6−トリメチルトリデカン二酸を8〜20質量%
(4)8,9−ビス(メトキシカルボニル)−8,9−ジメチルヘキサデカン二酸を15〜30質量%
【0017】
本発明のフラックスでは、フラックス中の熱硬化性の樹脂の含有量を30〜40質量%、フラックス中の長鎖二塩基酸混合物の含有量を20〜60質量%とすることが好ましい。
【0018】
更に、フラックス中に0.1〜40質量%の溶剤を添加しても良い。
【0019】
更に、本発明は、熱硬化性の樹脂と、熱硬化性の樹脂を硬化させる硬化剤及び活性剤として添加される長鎖二塩基酸混合物とを含み、長鎖二塩基酸混合物が以下の(1)、(2)、(3)及び(4)に示す組成の長鎖二塩基酸を混合した混合物であり、(1)、(2)、(3)及び(4)に示す長鎖二塩基酸の比率が、長鎖二塩基酸混合物全体の比率を100質量%とした場合、以下の通りであるフラックスと、はんだ合金粉末が混合されたソルダペーストである。
(1)2−メチルノナン二酸を30〜60質量%
(2)4−(メトキシカルボニル)−2,4−ジメチルウンデカン二酸を8〜20質量%
(3)4,6−ビス(メトキシカルボニル)−2,4,6−トリメチルトリデカン二酸を8〜20質量%
(4)8,9−ビス(メトキシカルボニル)−8,9−ジメチルヘキサデカン二酸を15〜30質量%
【0020】
発明のソルダペーストでは、フラックス中の熱硬化性の樹脂の含有量を30〜40質量%、フラックス中の長鎖二塩基酸混合物の含有量を20〜60質量%とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、フラックスに熱硬化性の樹脂と、2−メチルノナン二酸と、4−(メトキシカルボニル)−2,4−ジメチルウンデカン二酸と、4,6−ビス(メトキシカルボニル)−2,4,6−トリメチルトリデカン二酸と、8,9−ビス(メトキシカルボニル)−8,9−ジメチルヘキサデカン二酸を混合した長鎖二塩基酸混合物が添加されることで、はんだ合金及び接合対象物の金属表面に生成された金属酸化物が除去され、はんだの濡れ性が向上する。
【0022】
また、はんだ付け時の加熱で熱硬化性の樹脂が硬化することでフラックス残渣を硬化させ、硬化したフラックス残渣によって接合対象物が接合物に固着される。これにより、本発明では、金属酸化物を除去するフラックスの機能が、熱硬化性の樹脂の添加によって阻害されることはなく、また、熱硬化性の樹脂の硬化が阻害されることもない。
【0023】
従って、本発明では、はんだ合金と組み合わせて使用された際、良好なはんだ濡れ性が得られる。また、接合対象物と接合対象物に対してフラックス残渣が固着するので、補強効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施の形態のフラックスは、熱硬化性の樹脂であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂を硬化させる硬化剤及び活性剤として添加される長鎖二塩基酸混合物とを含む。長鎖二塩基酸混合物は、側鎖にアルキル基を有する第1の長鎖二塩基酸と、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の第2の長鎖二塩基酸を含有する。また、本実施の形態のフラックスは、チキソ性を付与する硬化ひまし油と、エポキシ樹脂の硬化促進剤を含む。



【0025】
本実施の形態では、フラックス中のエポキシ樹脂の含有量を30〜40%、長鎖二塩基酸混合物の含有量を20〜60%、溶剤の含有量を7〜37%、残部を硬化ひまし油と硬化促進剤とした。
【0026】
本実施の形態のフラックスは、はんだ合金の粉末と混合されてソルダペーストが生成される。本実施の形態のソルダペーストは、上述した組成のフラックスと、本例では組成が96.5Sn-3.0Ag-0.5Cu(各数値は%)であるはんだ合金粉末が混合されて生成される。ソルダペーストは、接合対象物である基板の電極に塗布され、ソルダペーストが塗布された基板に、接合対象物である電子部品、例えば、半導体チップが電極の位置を合わせて載せられる。
【0027】
そして、リフロー工程において、ソルダペーストが加熱されることで、ソルダペースト中のはんだ合金が溶融して硬化し、半導体チップの電極と基板の電極がはんだで接合される。また、ソルダペースト中のフラックスが硬化することにより、半導体チップの電極と基板の電極、及びはんだがフラックス残渣で固着される。
【0028】
エポキシ樹脂は、所定の温度で硬化してフラックス残渣を硬化させる。また、エポキシ樹脂は、接合物及び接合対象物との接着性を有する。これにより、フラックス中の主にエポキシ樹脂が硬化することで、接合対象物である半導体チップの電極と接合物である基板の電極、及びはんだが硬化したフラックス残渣で固着される。
【0029】
代表的なエポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂があり、ビスフェノール型としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールAP型、ビスフェノールAF型、ビスフェノールB型、ビスフェノールBP型、ビスフェノールC型、ビスフェノールE型、ビスフェノールF型、ビスフェノールG型、ビスフェノールM型、ビスフェノールS型、ビスフェノールP型、ビスフェノールPH型、ビスフェノールTMC型、ビスフェノールZ型などが挙げられる。本例ではビスフェノールA型を使用した。
【0030】
長鎖二塩基酸混合物は、接合対象物表面の酸化物を除去して、はんだの濡れ性を向上させる。また、長鎖二塩基酸混合物は、エポキシ樹脂の硬化を促進し、かつ、硬化後のフラックス残渣に所定の軟性を持たせる。
【0031】
長鎖二塩基酸混合物は、第2の長鎖二塩基酸として、アルコキシカルボニル基を2個又はそれ以上有する長鎖二塩基酸を1種又はそれ以上含有することが好ましい。
【0032】
このような長鎖二塩基酸混合物としては、以下の(1)、(2)、(3)あるいは(4)に示す組成の化合物の何れか、または、これら化合物の2つ以上を所定の比率で混合した混合物であることが好ましい。
【0033】
(1)2−メチルノナン二酸
(2)4−(メトキシカルボニル)−2,4−ジメチルウンデカン二酸
(3)4,6−ビス(メトキシカルボニル)−2,4,6−トリメチルトリデカン二酸
(4)8,9−ビス(メトキシカルボニル) −8,9−ジメチルヘキサデカン二酸
【0034】
更に、上述した(1)、(2)、(3)及び(4)に示す長鎖二塩基酸混合物の混合物として好ましい比率は、混合物全体の比率を100%とした場合、以下の通りである。
【0035】
(1)30〜60%
(2)8〜20%
(3)8〜20%
(4)15〜30%
【0036】
エポキシ樹脂と長鎖二塩基酸混合物を加熱しただけでは硬化するまでに要する時間が長いため、硬化時間の短縮を目的に硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、例えば、フェノール化合物、三級アミン、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸などが挙げられる。
【0037】
また粘度調整及び添加材溶解のために本願フラックスには溶剤を添加してもよい。
【0038】
はんだ合金粉末について、本例ではSn-Ag-Cu組成の粉末を使用したが、本願は前記組成に限定されるわけではなく、他の組成の粉末を使用してもよい。具体的には、Snを主成分としたSn系合金、Biを主成分としたBi系合金、Inを主成分としたIn合金等があり、前記各合金には、Ag、Cu、In、Bi、Ni、Ge、Ga、Co、Fe、Sb、P、Zn、Al、Ti等の元素から含有されていない元素を1種以上選択して、添加してもよい。
【実施例】
【0039】
以下の表1に示す組成で実施例と比較例のフラックスを調合し、はんだ濡れ性、補強効果について検証した。なお、表1における組成率は、フラックス組成物中の質量%である。まず、各検証の評価方法について説明する。
【0040】
(1)はんだ濡れ性の検証について
(a)評価方法
Cu板上にフラックスを塗布し、Cu板上に塗布したフラックス上にはんだボールを搭載し、リフローを行った後、はんだ濡れ広がり径を測定した。リフロー工程は、ピーク温度を250℃に設定したリフロー装置を用いて、40℃から1秒毎に3.5℃ずつ220℃まで温度を上昇させていき、220℃に達した後、220℃以上の温度で55秒間加熱処理を行った。はんだボールの組成は96.5Sn-3.0Ag-0.5Cu、直径は0.3mmである。
(b)判定基準
○:はんだの広がり径が0.45mm以上
×:はんだの広がり径が0.45mm未満
(2)補強効果の検証について
(a)評価方法
基板にフラックスを供給し、基板に供給したフラックス上にはんだボールを搭載し、リフローを行った後、測定用工具を使用してはんだボール及びフラックス残渣を基板からせん断するシェア試験と称される試験を行い、せん断に必要な力を測定した。試験機には、デイジ・ジャパン株式会社製のシリーズ4000を使用した。シェア試験において測定されるせん断に必要な力をシェア強度と称する。はんだボールの組成は96.5Sn-3.0Ag-0.5Cu、直径は0.3mmである。
(b)判定基準
○:シェア強度4N以上
×:シェア強度4N未満
【0041】
実施例1〜実施例3では、上述した(1)、(2)、(3)及び(4)に示す長鎖二塩基酸混合物を所定の比率で混合した長鎖二塩基酸混合物の混合物を、以下の表1に示す比率で添加した。
【0042】
比較例1では、各実施例で添加した長鎖二塩基酸混合物を添加していない。比較例2では、各実施例で規定した添加量より少なく長鎖二塩基酸混合物を添加した。比較例3では、各実施例で規定した添加量より多く長鎖二塩基酸混合物を添加した。比較例4では、長鎖二塩基酸混合物の添加量を実施例1と同量とし、エポキシ樹脂を添加していない。比較例5では、長鎖二塩基酸混合物を添加せず、有機酸としてアジピン酸をロール工法によって添加した。
【0043】
【表1】
【0044】
上述した(1)、(2)、(3)及び(4)に示す長鎖二塩基酸混合物を所定の比率で混合した長鎖二塩基酸混合物を40%、エポキシ樹脂を40%、他の化合物を表1に示す比率で添加した実施例1のフラックスでは、はんだの広がり径が0.50mm、シェア強度が4.83Nであり、良好なはんだ濡れ性と補強効果が得られることが判る。
【0045】
また、長鎖二塩基酸混合物を20%、エポキシ樹脂を40%、他の化合物を表1に示す比率で添加した実施例2のフラックスでは、はんだの広がり径が0.46mm、シェア強度が4.26Nであり、実施例2でも、良好なはんだ濡れ性と補強効果が得られることが判る。
【0046】
更に、長鎖二塩基酸混合物を60%、エポキシ樹脂を30%、他の化合物を表1に示す比率で添加した実施例3のフラックスでは、はんだの広がり径が0.52mm、シェア強度が4.19Nであり、実施例3でも、良好なはんだ濡れ性と補強効果が得られることが判る。
【0047】
これに対して、各実施例で添加した長鎖二塩基酸混合物を添加せず、エポキシ樹脂の比率を、実施例1と同じ40%とした比較例1のフラックスでは、はんだの広がり径が0.31mm、シェア強度が1.85Nであり、所望のはんだ濡れ性及び補強効果が得られないことが判る。各実施例と比較例1の結果から、フラックスへの長鎖二塩基酸混合物の添加が、はんだ濡れ性とシェア強度の向上に寄与すると考えられる。
【0048】
長鎖二塩基酸混合物の比率を、各実施例で規定した比率より少ない10%とし、エポキシ樹脂の比率を、実施例1と同じ40%とした比較例2のフラックスでは、はんだの広がり径が0.34mm、シェア強度が4.09Nであり、シェア強度は所望の条件を満たし補強効果は得られるが、所望のはんだ濡れ性が得られないことが判る。
【0049】
長鎖二塩基酸混合物の比率を、各実施例で規定した比率より多い70%とし、エポキシ樹脂の比率を、各実施例で規定した比率より少ない25%とした比較例3のフラックスでは、はんだの広がり径が0.51mm、シェア強度が3.12Nであり、はんだの広がり径は所望の条件を満たしはんだ濡れ性は得られるが、シェア強度が低く所望の補強効果が得られないことが判る。
【0050】
各実施例と、比較例2及び比較例3の結果から、フラックスへの長鎖二塩基酸混合物の添加で、はんだ濡れ性が向上し、長鎖二塩基酸混合物の添加量を増やすと、はんだ濡れ性が向上する傾向にあることが判る。
【0051】
一方、フラックスへの長鎖二塩基酸混合物の添加で、シェア強度が向上して補強効果が得られるが、長鎖二塩基酸混合物の添加量を増やし、相対的にエポキシ樹脂の添加量を減らすと、シェア強度が低下する傾向にあることが判る。
【0052】
長鎖二塩基酸混合物の比率を、実施例1と同じ40%とし、エポキシ樹脂を添加しない比較例4のフラックスでは、はんだの広がり径が0.54mm、シェア強度が3.08Nであり、はんだの広がり径は所望の条件を満たしはんだ濡れ性は得られるが、シェア強度が低く所望の補強効果が得られないことが判る。
【0053】
比較例4の結果から、長鎖二塩基酸混合物を添加しても、エポキシ樹脂を添加しなければ、シェア強度が低いことが判る。これにより、比較例1と比較例4の結果から、フラックスへの長鎖二塩基酸混合物とエポキシ樹脂の適量の添加が、補強効果の向上に寄与することが判った。
【0054】
長鎖二塩基酸混合物を添加せず、有機酸としてアジピン酸を40%添加し、エポキシ樹脂の比率を実施例1と同じ40%とした比較例5のフラックスでは、はんだの広がり径が0.42mm、シェア強度が4.34Nであり、シェア強度は所望の条件を満たし補強効果は得られるが、所望のはんだ濡れ性が得られないことが判る。
【0055】
以上の結果から、熱硬化性の樹脂としてエポキシ樹脂を添加し、ロジンを非添加とし、従前のフラックスで添加される有機酸に代えて長鎖二塩基酸混合物を添加したフラックスでは、はんだの濡れ性が向上し、また、フラックス残渣による補強効果が得られることが判る。
【0056】
但し、長鎖二塩基酸混合物の添加量が少ないと、はんだの濡れ性が悪化する傾向がみられ、長鎖二塩基酸混合物の添加量が多いと、シェア強度が低下する傾向が見られた。そこで、本発明では、エポキシ樹脂の含有量を30〜40%、長鎖二塩基酸混合物の含有量を20〜60%とした。これにより、良好なはんだ濡れ性と補強効果が得られることが判った。
【0057】
なお本発明フラックスは、導電性接着剤に適用してもよい。導電性接着剤とは、フラックスと導電性金属粉末を混練して、金属粉末の融点より低い温度で接着させるために用いるものを指し、ソルダペーストとは違い、加熱による樹脂の硬化に伴い導電性金属粉末同士が密に接触することにより、導電性金属粉末を溶融させずに、回路基板と各種電子部品を接合するものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、フラックス残渣で基板と電子部品等を固着できるようにしたフラックスに適用される。