特許第5952877号(P5952877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日新製鋼株式会社の特許一覧 ▶ 日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社の特許一覧

特許5952877亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面処理方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952877
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/42 20060101AFI20160630BHJP
   C23C 22/44 20060101ALI20160630BHJP
   C23C 22/36 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C23C22/42
   C23C22/44
   C23C22/36
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-226140(P2014-226140)
(22)【出願日】2014年11月6日
(65)【公開番号】特開2016-89232(P2016-89232A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2016年2月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 忠
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅也
(72)【発明者】
【氏名】武津 博文
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5588058(JP,B1)
【文献】 特開2000−219950(JP,A)
【文献】 特開2005−105304(JP,A)
【文献】 特開2004−002950(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/100017(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00− 30/00
B32B 15/00− 15/20
B05D 1/00− 7/26
C09D 123/00−187/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属表面処理剤を用いて処理する方法であって、
鋼板の表面に亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層を形成させる工程と、
前記めっき層形成工程に続いて金属表面処理剤を用いて前記めっき層の表面を処理する工程と、
前記めっき層の表面を処理する工程に続いて乾燥工程により化成皮膜を形成させる工程とを含み、
前記亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層が、Al:1.0質量%以上4.0質量%未満、Mg:1.0質量%以上10質量%以下、残部Zn及び不可避的不純物を含むめっき層であり、
前記金属表面処理剤が、
ジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物(A)、
バナジウム化合物(B)、
チタンフルオロ錯体化合物(C)、
リン酸基及び/又はホスホン酸基を含有する有機リン化合物(Da)、
無機リン化合物(Db)、
水性アクリル樹脂(E)、
硬化剤としてオキサゾリン基含有ポリマー(F)を含有し、
前記水性アクリル樹脂(E)の酸価が300mgKOH/g以上であり、かつ、前記水性アクリル樹脂(E)の前記金属表面処理剤に対する含有量が樹脂固形分の濃度として100ppm〜30,000ppmであり、
前記オキサゾリン基含有ポリマー(F)の前記金属表面処理剤に対する含有量が固形分の濃度として50ppm〜5,000ppmであり、
かつ前記ジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物(A)、バナジウム化合物(B)、チタンフルオロ錯体化合物(C)の金属元素換算の質量の合計と水性アクリル樹脂(E)、オキサゾリン基含有ポリマー(F)の固形分との質量比が(A+B+C)/(E+F)=10/1〜1/1であり、
前記金属表面処理剤のpHが3〜6である、
亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属表面処理剤を用いて処理する方法。
【請求項2】
前記水性アクリル樹脂(E)と前記硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)の固形分の質量比がE/F=20/1〜2/3である、請求項1に記載の亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属表面処理剤を用いて処理する方法。
【請求項3】
前記有機リン化合物(Da)と前記無機リン化合物(Db)の質量比が、リン元素換算で、Da/Db=5/1〜1/2である、請求項1または2に記載の亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属表面処理剤を用いて処理する方法。
【請求項4】
前記亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層が、Si:0.001質量%以上2.0質量%以下、Ti:0.001質量%以上0.1質量%以下、B:0.001質量%以上0.045質量%以下のうち1種または2種以上をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属処理剤を用いて処理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板のクロムフリー金属表面処理剤による表面処理方法ならびに該表面処理方法によって得られる化成皮膜処理亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき系鋼板材料、アルミニウム系材料等の金属材料は、大気中の酸素や水分、水分中に含まれるイオン等によって酸化され腐食する。このような腐食を防止する方法として、クロム酸クロメート、リン酸クロメート等のクロムを含有する処理液を金属表面に接触させてクロメート皮膜を形成させる方法がある。このクロメート処理により形成された皮膜は、優れた耐食性、塗膜密着性を有しているが、その処理液中に有害な6価クロムを含んでおり、廃水処理に手間やコストがかかってしまう問題がある。また、当該処理によって形成された皮膜中にも6価クロムを含むので環境面、安全面の問題が指摘されている。
【0003】
そこで、従来のクロメート化成皮膜と同等の耐食性を有し、クロメートを含まない(クロムフリー)金属表面処理用水性液状組成物、化成処理剤が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1の金属表面処理剤は、バナジウム化合物(A)、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びリチウムから選ばれる金属を含む金属化合物(B)、及び、任意的に、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン及びセリウムから選ばれる金属を含む金属化合物(C)を含有する、金属材料に優れた耐食性、耐アルカリ性及び層間密着性を付与するクロムフリー金属表面処理剤である。
【0004】
また、特許文献2の金属表面処理剤は、水溶液中でジルコニルイオン(ZrO2+)を放出するZr化合物及び水溶液中でチタニルイオン(TiO2+)を放出するTi化合物から選ばれる1種以上の4族遷移金属化合物(a)と、水酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基、リン酸基及びスルホン酸基から選ばれる1種以上の官能基を同一分子内に2個以上有する有機化合物(b)とを含有する金属表面処理剤であって、化成皮膜形成後に形成した樹脂塗膜等に、深絞り加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、その樹脂塗膜等が剥離しないような高い密着性を付与することができるクロムフリー金属表面処理剤である。
なお、特許文献1、2の金属表面処理剤は、ともに、水溶性であっても水分散性であってもよい水系樹脂を含むことができる。
【0005】
一方、特許文献3で提案されて以来、亜鉛中にアルミニウムとマグネシウムを適量含有させためっき浴を用いた溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板が耐食性に優れることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−183015号公報
【特許文献2】特開2013−23705号公報
【特許文献3】米国特許第3,505,043号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2の金属表面処理剤は、処理対象や用途によっては、耐食性、密着性等が必ずしも十分とはいえなかった。
【0008】
そこで本発明は、耐食性のよい亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を、耐食性に優れ、かつ該めっき鋼板と、塗膜、ラミネートフィルム等の樹脂皮膜との密着性が高い皮膜を形成できるクロムフリー金属表面処理剤で処理して、耐食性および樹脂皮膜との密着性にきわめて優れた化成皮膜処理亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板を得る方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、めっき層がAl:1.0質量%以上4.0質量%未満,Mg:1.0質量%以上10質量%以下、残部Zn及び不可避的不純物を含む亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を、ジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物、バナジウム化合物と金属表面をエッチングする特定の金属フルオロ錯体化合物とを反応させて、耐食性皮膜を形成する際に、有機リン化合物及び無機リン化合物の両方を含有させ、さらに、高酸価の水性アクリル樹脂、オキサゾリン基含有ポリマーを特定量含有させ、かつ無機成分と有機成分の比を特定範囲とし、特定pH範囲に調整した金属表面処理剤で処理することで、耐食性に優れ、かつ該めっき鋼板との密着性だけでなく、塗膜、ラミネートフィルム等の樹脂皮膜との密着性の高い皮膜を形成した、耐食性および樹脂皮膜との密着性にきわめて優れた化成皮膜処理亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板を得ることができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は下記の通りである。
【0010】
[1] 亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属表面処理剤を用いて処理する方法であって、
鋼板の表面に亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層を形成させる工程と、前記めっき層形成工程に続いて金属表面処理剤を用いて前記めっき層の表面を処理する工程とを含み、前記亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層が、Al:1.0質量%以上4.0質量%未満,Mg:1.0質量%以上10質量%以下、残部Zn及び不可避的不純物を含むめっき層であり、前記金属表面処理剤が、ジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物(A)、バナジウム化合物(B)、チタンフルオロ錯体化合物(C)、リン酸基及び/又はホスホン酸基を含有する有機リン化合物(Da)、無機リン化合物(Db)、水性アクリル樹脂(E)、硬化剤としてオキサゾリン基含有ポリマー(F)を含有し、前記水性アクリル樹脂(E)の固形分酸価が300mgKOH/g以上であり、かつ、前記水性アクリル樹脂(E)の前記金属表面処理剤に対する含有量が樹脂固形分の濃度として100ppm〜30,000ppmであり、前記オキサゾリン基含有ポリマー(F)の前記金属表面処理剤に対する含有量が固形分の濃度として50ppm〜5,000ppmであり、かつ前記ジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物(A)、バナジウム化合物(B)、チタンフルオロ錯体化合物(C)の金属元素換算の質量の合計と水性アクリル樹脂(E)、オキサゾリン基含有ポリマー(F)の固形分との質量比が(A+B+C)/(E+F)=10/1〜1/1であり、前記金属表面処理剤のpHが3〜6である、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属表面処理剤を用いて処理する方法。
【0011】
[2] 前記水性アクリル樹脂(E)と硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)の固形分の質量比がE/F=20/1〜2/3である、上記[1]に記載の亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属表面処理剤を用いて処理する方法。
[3] 前記有機リン化合物(Da)と前記無機リン化合物(Db)の質量比が、リン元素換算で、Da/Db=5/1〜1/2である、上記[1]または[2]に記載の亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属表面処理剤を用いて処理する方法。
[4] 前記亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層が、Si:0.001質量%以上2.0質量%以下、Ti:0.001質量%以上0.1質量%以下、B:0.001質量%以上0.045質量%以下のうち1種または2種以上をさらに含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を金属処理剤を用いて処理する方法。
[5] 上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法で処理して得られる亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐食性のよい亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面を、耐食性に優れ、かつ該めっき鋼板、樹脂皮膜との密着性が高い皮膜を形成できるクロムフリー金属表面処理剤で処理する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板(以下、「金属材料」ということもある。)の表面を特定のクロムフリー金属表面処理剤(以下、「処理剤」ということもある。)を用いて処理する方法であり、鋼板の表面に亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層を形成させる工程と、前記めっき層形成工程に続いて金属表面処理剤を用いて前記めっき層の表面を処理する工程とを含む。
【0014】
本発明のめっき鋼板は、溶融Zn−Al−Mgめっき浴を用いて製造された亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板である。後述するように、本発明の化成処理液はフッ素化合物を含有するが、化成処理によってめっき鋼板のめっき層表面にAlおよびMgのフッ化物を含む反応層が形成され、化成皮膜とめっき層表面との密着力をより高められる。
【0015】
鋼板の表面に亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層を形成させる工程は公知の方法で得てよいが、アルミニウムを1.0質量%以上4.0質量%未満、マグネシウムを1.0質量%以上10質量%以下、残部Zn及び不可避的不純物を含む合金めっき浴を用いた溶融めっき法で製造されることが好ましい。また、外観および耐食性に悪影響を与えるZn11Mg相の生成・成長を抑制するためにTi、B、Ti−B合金またはTi、B含有化合物をめっき浴に添加することがより好ましい。これらの金属または化合物の添加量は、めっき浴に対し、金属換算にして、Tiが0.001質量%以上0.1質量%以下、Bが0.001質量%以上0.045質量%以下とすることが好ましい。Ti、Bが当該範囲内であると、めっき層にZn11Mg相が生成することを抑制できる。さらに、加工時の素地鋼とめっき層との密着性を向上させるため、めっき層と素地鋼との界面におけるAl−Fe合金層の成長を抑制する作用のあるSiを0.001質量%以上2.0質量%以下の範囲で添加することが好ましい。
【0016】
したがって、本発明における亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板は、鋼板の表面に亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層を形成させることで得られ、該亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層は、Al:1.0質量%以上4.0質量%未満、Mg:1.0質量%以上10質量%以下、残部Zn及び不可避的不純物を含むめっき層である。該亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層は、Znを88〜95質量%含むことが好ましい。
そして、該亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき層は、Si:0.001質量%以上2.0質量%以下、Ti:0.001質量%以上0.1質量%以下、B:0.001質量%以上0.045質量%以下のうち1種または2種以上をさらに含むものであることが好ましい。
【0017】
本発明の金属表面処理剤は、ジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物(A)、バナジウム化合物(B)、チタンフルオロ錯体化合物(C)、有機リン化合物(Da)及び無機リン化合物(Db)、水性アクリル樹脂(E)、硬化剤としてオキサゾリン基含有ポリマー(F)を含有し、金属化合物(A)、(B)、(C)と水性アクリル樹脂(E)、硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)とが特定の質量比であるクロムフリーの水性金属表面処理剤である。
【0018】
チタンフルオロ錯体化合物(C)から遊離したフッ素イオンが、金属材料の表面をエッチングすることで表面近傍のpHが上がり、チタンフルオロ錯体のアニオンがジルコニウム化合物(A)から生じるジルコニル([Zr=O]2+)カチオンおよびエッチングにより溶出した金属基材由来の金属カチオンと反応して表面に析出し、耐食性に優れ、かつ当該金属材料との密着性の高い皮膜が形成される。バナジウム化合物(B)を含有させることで、耐食性が向上した皮膜を形成でき、有機リン化合物(Da)及び無機リン化合物(Db)を両方含有させることで、耐食性を向上させることができる。
そして、固形分酸価が300mgKOH/g以上の水性アクリル樹脂(E)、硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)を金属化合物(A)、(B)、(C)に対し特定の質量比で含有させることにより、金属材料との密着性、樹脂皮膜との密着性、耐食性をさらに向上させるものである。
【0019】
本発明の金属表面処理剤で用いるジルコニウム化合物(A)は、ジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物であって、そのようなジルコニウム化合物(A)としては、炭酸ジルコニルアンモニウム、硫酸ジルコニル、硫酸ジルコニルアンモニウム、硝酸ジルコニル、硝酸ジルコニルアンモニウム、ギ酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、プロピオン酸ジルコニル、酪酸ジルコニル、シュウ酸とジルコニルイオンの塩、マロン酸とジルコニルイオンの塩、コハク酸とジルコニルイオンの塩、オキシ塩化ジルコニウム等が挙げられる。ジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物であることにより、皮膜形成時の架橋性が向上し、良好な耐食性を有する皮膜を形成することができる。
【0020】
ジルコニル基を含むジルコニウム化合物(A)の処理剤中の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0.2〜8質量%であることがさらに好ましく、0.5〜5質量%であることがよりさらに好ましい。ジルコニル基を含むジルコニウム化合物(A)の含有量が0.01質量%以上であると、耐食性を十分に付与でき、10質量%以下であると、皮膜の柔軟性が十分となるため、樹脂皮膜の加工密着性に優れる。
【0021】
本発明の金属表面処理剤において、バナジウム化合物(B)としては、具体的には、メタバナジン酸及びその塩、酸化バナジウム、三塩化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、バナジウムアセチルアセトネート、バナジウムオキシアセチルアセトネート、硫酸バナジル、硫酸バナジウム、硝酸バナジウム、リン酸バナジウム、酢酸バナジウム、重リン酸バナジウム、バナジウムアルコキシド、バナジウムオキシアルコキシド等が挙げられる。これらの中でも、バナジウムの酸化数が5価の化合物を用いるのが好ましく、具体的には、メタバナジン酸及びその塩、酸化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、バナジウムアルコキシド、バナジウムオキシアルコキシドが好ましい。
【0022】
バナジウム化合物(B)の処理剤中の含有量は、0.01〜5質量%含有することが好ましく、0.1〜3質量%含有することがより好ましい。バナジウム化合物(B)を0.01〜5質量%含有することで、耐食性を向上させることができる。
【0023】
本発明の金属表面処理剤で用いるチタンフルオロ錯体化合物(C)としては、フルオロチタン酸とその塩が挙げられる。チタンフルオロ錯体化合物(C)がフッ素を含んでいることにより、金属表面のエッチングが起こりやすくなるため、耐食性に優れ、かつ当該金属材料との密着性の高い皮膜が形成される。
【0024】
チタンフルオロ錯体化合物(C)の処理剤中の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8.5質量%であることがより好ましく、0.3〜7質量%であることがさらに好ましい。チタンフルオロ錯体化合物(C)の含有量が0.01質量%以上であると、耐食性を十分に付与でき、10質量%以下であると、エッチング過多になることが防止され、無機リン化合物(Db)に対して溶出した金属カチオンが過剰となることが防止されるため、耐食性に優れる。
【0025】
本発明の金属表面処理剤は、リン酸基及び/又はホスホン酸基を含有する有機リン化合物(Da)及び無機リン化合物(Db)の両方を含有することで、耐食性をより向上させることができる。
【0026】
そのような有機リン化合物(Da)としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、フェニルホスホン酸、オクチルホスホン酸などのホスホン酸類及びその塩が挙げられる。これら有機リン化合物を組み合わせて用いることも可能である。これらのうち、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、アミノトリメチレンホスホン酸が好ましい。
【0027】
そのような無機リン化合物(Db)としては、リン酸、亜リン酸などのリン酸類及びその塩、ピロリン酸、トリポリリン酸などの縮合リン酸及びその塩が挙げられる。ここで、リン酸類の塩および縮合リン酸の塩を形成するためのカチオンとしては、水に対して易溶解性でその水溶液がリン酸イオンを遊離しうる塩を形成するものであればよく、ナトリウム、カリウム、アンモニウムなどが挙げられる。これら無機リン化合物を組み合わせて用いることも可能である。無機リン化合物(Db)としては、リン酸の塩が好ましい。なお、本明細書において、水に対して易溶解性であるとは、その化合物1gが25℃の水10mlに溶解するものをいう。ここで、溶解とは溶媒に溶けて均一となっている状態および微分散している状態をいう。具体的には、12000rpmで30分間遠心分離した際に沈殿しない状態をいう。
【0028】
有機リン化合物(Da)、無機リン化合物(Db)の含有量は、それぞれ、処理剤中の含有量として0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0.3〜6質量%であることがさらに好ましい。
また、有機リン化合物(Da)と無機リン化合物(Db)の質量比は、リン元素換算で、Da/Db=5/1〜1/2であることが好ましい。ここでリン元素換算の質量比とは、有機リン化合物(Da)および無機リン化合物(Db)それぞれが含有するリン元素の質量の比を意味する。
前記の濃度範囲で有機リン化合物(Da)を含有することで、キレート効果により処理剤中にバナジウム化合物(B)を安定して溶解させることが可能となる。また、処理剤が前記の濃度範囲で無機リン化合物(Db)を含有することにより、エッチングにより溶出した金属カチオンと効率よく耐食性に優れる皮膜を形成させることが可能となる。さらには、有機リン化合物(Da)と無機リン化合物(Db)とが前記質量比で処理剤中に存在することにより、耐食性と耐水性との両立を図ることができる。
【0029】
本発明の金属表面処理剤として用いる水性アクリル樹脂(E)は、エチレン性不飽和二重結合を有する単量体を重合させたカルボキシル基を複数個有する、固形分酸価が300mgKOH/g以上の重合体である。また、質量平均分子量は1,000以上1,000,000以下であることが好ましい。本明細書において、樹脂の質量平均分子量は、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定することができる。また、本発明における樹脂固形分の酸価および水酸基価はJIS K 0070に準拠した方法により決定することができる。
このような水性アクリル樹脂としては、単量体として、アクリル酸、メタクリル酸をラジカル重合させた単独重合体、及び、これらの単量体と、他のエチレン性不飽和モノマーをラジカル重合させた共重合体を用いることができる。共重合体の場合、他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類が挙げられる。水性アクリル樹脂(E)の酸価は、重合に用いるモノマー組成により調整することができる。
水性アクリル樹脂(E)は、上記モノマーを通常の方法で重合することにより得られる。例えば、モノマー混合物を公知の重合開始剤(例えばアゾビスイソブチロニトリル等)と混合し、重合可能な温度に加熱した溶剤を含むコルベン中へ滴下、熟成することにより水性アクリル樹脂を得ることができる。
市販の水性アクリル樹脂として、「ジュリマーAC−10L」(ポリアクリル酸、日本純薬社製)、「PIA728」(ポリイタコン酸、磐田化学社製)、及び「アクアリックHL580」(ポリアクリル酸、日本触媒社製)等が挙げられる。
また、複数種の水性アクリル樹脂を組み合わせて用いることも可能である。
【0030】
水性アクリル樹脂(E)は、処理剤中の樹脂固形分の濃度として100ppm〜30,000ppm含有させるものである。
前記の濃度範囲で含有させることにより、金属材料との密着性だけでなく、樹脂皮膜との密着性、及び耐食性をさらに向上させる。特に、樹脂皮膜との密着性を向上させる効果が著しい。
【0031】
本発明の金属表面処理剤は、さらに、前記水性アクリル樹脂(E)と反応して架橋構造を形成する硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)を含有する。
このような硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)は、水性アクリル樹脂(E)のカルボキシル基と反応しうる官能基を、分子内に少なくとも2個以上含有しているオキサゾリン基含有ポリマーである。
【0032】
オキサゾリン基含有ポリマーとして、具体的には、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリン及び必要に応じて使用するその他の重合性単量体からなる単量体組成物を重合してなるオキサゾリン基含有ポリマーを挙げることができる。市販品としては、「エポクロスWS−700」(有効成分25%、水溶性タイプ、オキサゾリン基含有アクリル樹脂、日本触媒社製)、「エポクロスWS−300」(有効成分10%、水溶性タイプ、オキサゾリン基含有アクリル樹脂、日本触媒社製)、等を挙げることができる。
【0033】
硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)は、処理剤中に固形分濃度として50ppm〜5,000ppm含有させるものであり、かつ水性アクリル樹脂(E)と架橋構造を形成する硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)の固形分の質量比がE/F=20/1〜2/3であることが好ましい。
前記の濃度範囲及び質量比で含有させることにより、水性アクリル樹脂(E)と架橋構造を形成し、金属材料との密着性、樹脂皮膜との密着性、及び耐食性をさらに向上させる。
【0034】
また、上記ジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物(A)、バナジウム化合物(B)、チタンフルオロ錯体化合物(C)の金属元素換算の質量の合計と水性アクリル樹脂(E)、オキサゾリン基含有ポリマーとの質量比は(A+B+C)/(E+F)=10/1〜1/1である。金属元素換算とは、ジルコニウム化合物(A)が含有するジルコニウム元素、バナジウム化合物(B)が含有するバナジウム元素、チタンフルオロ錯体化合物(C)が含有するチタン元素の質量をもとに計算することを意味する。
(A+B+C)/(E+F)が10/1以上の無機物過多の組成になると、密着性と耐食性が不良な化成皮膜となり、(A+B+C)/(E+F)が1/1以下の有機物が多い組成になると、耐食性が劣る化成皮膜となる。
【0035】
本発明の金属表面処理剤のpHは、3〜6であることを要する。pHが6より上であるとエッチング不足となり、金属材料と化成皮膜との密着性が不十分となる。一方、pHが3を下回るとエッチング過多となり、鋼板の外観(パウダー性)が不良となる。ここで、パウダー性不良とは、化成処理後の鋼板が粉をふいたような外観となり、手やロール等で擦ることで容易に皮膜が脱落してしまう状態のことを言う。
【0036】
本発明の金属表面処理剤は、水に、少なくとも本発明に係るジルコニル([Zr=O]2+)構造を有する化合物(A)、バナジウム化合物(B)、チタンフルオロ錯体化合物(C)、有機リン化合物(Da)及び無機リン化合物(Db)、水性アクリル樹脂(E)、硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)を所定量混合することで作製することができる。ここで、本発明のクロムフリー金属表面処理剤の固形分濃度は、処理剤に対して0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。
【0037】
本発明の金属表面処理剤は、環境面、安全面から、6価クロムのみならず3価クロムを含有する化合物も実質的に含まないクロムフリー金属表面処理剤である。クロムを含有する化合物を実質的に含有しないとは、金属表面処理剤中のクロム化合物に由来する金属クロムの含有量が1ppm未満であることを意味する。
【0038】
さらに、本発明の金属表面処理剤は、必要に応じて、増粘剤、レベリング剤、濡れ性向上剤、界面活性剤、消泡剤、水溶性のアルコール類、セロソルブ系溶剤などを含有していてもよい。
【0039】
本発明のクロムフリー金属表面処理剤による表面処理(化成処理)は、以下のようにして行うことができる。
本発明による化成処理の前工程については特に制限はないが、通常、化成処理を行う前に、金属材料に付着した油分や汚れを取り除くためにアルカリ脱脂液による脱脂処理を行い、その後、必要に応じて酸、アルカリ、ニッケル化合物やコバルト化合物等による表面調整を行う。この時、脱脂液等が金属材料の表面になるべく残留しないよう、処理後に水洗することが好ましい。
【0040】
本発明による化成処理は、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板の表面に、本発明の表面処理剤を用いて、ロールコート法、エアスプレー法、エアレススプレー法、浸漬法、スピンコート法、フローコート法、カーテンコート法、流し塗りなどの手段により皮膜形成処理を行い、乾燥工程を経て化成皮膜を形成する。この際、処理温度は5〜60℃の範囲が好ましく、処理時間は1〜300秒間程度であることが好ましい。処理温度及び処理時間が上記範囲にあれば、所望の皮膜が良好に形成されると共に、経済的にも有利である。処理温度はより好ましくは10〜40℃であり、処理時間はより好ましくは2〜60秒間である。
【0041】
なお、上記亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板は、自動車ボディー、自動車部品、屋根材・外壁材や農業用ビニールハウスの支柱などの建材、家電製品及びその部品、ガードレール、防音壁、排水溝等の土木製品に使用されるシートコイル、各種の成形加工品等に適用される。
【0042】
乾燥工程は、必ずしも熱を必要とはせず、風乾、エアーブロー等の物理的な除去でも構わないが、皮膜形成性、金属表面との密着性を向上させるために加熱乾燥してもよい。その場合の温度は、30〜250℃が好ましく、40〜200℃がより好ましい。
【0043】
形成される化成皮膜の付着量は乾燥後で0.001〜1g/mであることが好ましく、0.02〜0.5g/mがより好ましい。0.001〜1g/mであることで、十分な耐食性、樹脂皮膜との密着性を維持し、皮膜にクラックが生じることを防ぐことができる。
【0044】
このようにして形成された化成皮膜は、耐食性に優れ、かつ当該皮膜上に形成される下記の樹脂皮膜との密着性も良好である。
【0045】
なお、次の工程において、形成された化成皮膜上に塗料、ラッカー、ラミネートフィルム等からなる樹脂皮膜層を公知の方法により形成することで、保護されるべき金属材料(部材)の表面をさらに効果的に保護することができる。
形成される樹脂皮膜層の膜厚は乾燥後で0.3〜50μmであることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下本発明について実施例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
〔製造例1〕
アクリル樹脂(1)の調製
イオン交換水775部を、加熱・攪拌装置付き4ツ口ベッセルに仕込み、攪拌・窒素還流しながら、内容液を80℃に加熱した。次いで、加熱、攪拌、窒素還流を行いながら、アクリル酸160部、アクリル酸エチル20部及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチル20部の混合モノマー液、並びに、過硫酸アンモニウム1.6部及びイオン交換水23.4部の混合液を、それぞれ滴下漏斗を用いて、3時間かけて滴下した。滴下終了後、加熱、攪拌、窒素還流を2時間継続した。加熱・窒素還流を止め、溶液を攪拌しながら30℃まで冷却し、200メッシュ櫛にて濾過して、無色透明の水溶性アクリル樹脂(1)水溶液を得た。得られたアクリル樹脂(1)水溶液は、不揮発分20%、樹脂固形分酸価623mgKOH/g、樹脂固形分水酸基価43mgKOH/g、質量平均分子量8400であった。なお、前記不揮発分は、得られたアクリル樹脂(1)水溶液2gを150℃のオーブンにて1時間加熱後の残存質量から求めた値である。
【0048】
〔製造例2〕
アクリル樹脂(2)の調製
アクリル樹脂のモノマー組成を、アクリル酸30部、アクリル酸エチル70部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル100部としたことのほかは、製造例1と同様の手順にて、アクリル樹脂合成を行った。合成樹脂をベッセル中で冷却中、約60℃近傍で液が白濁したため、攪拌しながら中和剤として25%アンモニア28.3部を添加した。30℃まで冷却し、淡赤褐色のアクリル樹脂(2)水溶液を得た。得られたアクリル樹脂(2)水溶液は、不揮発分19.4%、樹脂固形分酸価117、樹脂固形分水酸基価216、質量平均分子量11,600であった。
【0049】
〔製造例3〜37〕
水に、ジルコニウム化合物(A)、バナジウム化合物(B)、金属フルオロ錯体化合物(C)、有機リン化合物(Da)、無機リン化合物(Db)、水性アクリル樹脂(E)及び硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F)を下記表2〜4に示した所定量加え(比較例では無添加成分ある場合あり)、総量を1000質量部として金属表面処理剤1〜35を調製した。
【0050】
(試験板)
板厚0.5mmの冷延鋼板を原板として、下記の表1に示すめっき組成を有する溶融Zn−Al−Mg合金めっき鋼帯を製造し、それぞれの鋼帯を切断して210mm×300mmのめっき鋼板を準備した。めっき付着量は、片面あたり60g/mとした。
【0051】
【表1】
【0052】
[実施例1〜38および比較例1〜12]
(脱脂・表面処理)
上記めっき鋼板を、アルカリ脱脂剤(日本ペイント社製、サーフクリーナー155)を用いて60℃で2分間スプレー脱脂し、水洗後、80℃で乾燥した。続いて、上記の製造例にて調製した金属表面処理剤を、下記表5〜7記載の乾燥皮膜量(0.2g/m)となるように固形分濃度を調整した後、脱脂した上記めっき鋼板にバーコーターで塗布し、熱風循環型オーブンを用いて金属基材の到達温度が80℃となるよう乾燥させ、化成皮膜が形成された試験板を作製した。
【0053】
(樹脂皮膜層形成)
試験板表面にエポキシ系接着剤を塗布し、塩化ビニルフィルムを貼り合わせ、ラミネート鋼板を得た。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
なお、上記表2〜4中の凡例は下記の通りである。
(ジルコニウム化合物(A))
A1:硝酸ジルコニル(カチオンは、ZrO2+
A2:酢酸ジルコニル(カチオンは、ZrO2+
A3:硫酸ジルコニル(カチオンは、ZrO2+
A4:炭酸ジルコニルアンモニウム(カチオンは、ZrO2+
【0058】
(バナジウム化合物(B))
B1:メタバナジン酸アンモニウム
B2:メタバナジン酸ナトリウム
【0059】
(金属フルオロ錯体化合物(C))
C1:チタンフッ化アンモニウム(アニオンは、TiF2−
C2:ジルコンフッ化アンモニウム(アニオンは、ZrF2−
【0060】
(有機リン化合物(Da))
Da1:1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸
Da2:アミノトリメチレンホスホン酸
Da3:2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸
【0061】
(無機リン化合物(Db))
Db1:リン酸二水素一アンモニウム
Db2:リン酸一水素二アンモニウム
【0062】
(水性アクリル樹脂(E))
E1:低分子量ポリアクリル酸(日本純薬社製「ジュリマーAC−10L」、固形分酸価 779mgKOH/g、質量平均分子量 20,000〜30,000、不揮発分 40%)
E2:高分子量ポリアクリル酸(日本純薬社製「ジュリマーAC−10H」、固形分酸価 779mgKOH/g、質量平均分子量 150,000、不揮発分20%)
E3:アクリル樹脂(1)(製造例1で調製したもの;固形分酸価 623mgKOH/g、質量平均分子量 8400)
E4:アデカボンタイター HUX−232(ADEKA社製水性ウレタン樹脂、固形分酸価 30mgKOH/g、不揮発分30%)
E5:アクリル樹脂(2)(製造例2で調製したもの;固形分酸価 117mgKOH/g、質量平均分子量 11,600)
【0063】
(硬化剤であるオキサゾリン基含有ポリマー(F))
F1:オキサゾリン基含有アクリル樹脂(日本触媒社製「エポクロスWS−300」)
F2:オキサゾリン基含有アクリル樹脂(日本触媒社製「エポクロスWS−500」)
F3:多価カルボジイミド(日清紡ケミカル社製「カルボジライトSW−12G」)
【0064】
上記で作製した各化成処理鋼板、および各ラミネート鋼板から適宜試験片を切り出して試験板とし、下記に示す評価試験を行った。結果を下記表5〜7に示す。
【0065】
(フィルム加工密着性)
まず、フィルムを接着したラミネート鋼板からJIS 13号A試験片を切り出し、その試験片に引張試験機により18%の伸びを付与した。続いて、試験片の平行部のフィルムに対し、試験片の長手方向に15mmの間隔を隔てて2本の平行な切れ目を入れ、その平行線の間のフィルムを強制的に剥離させて、その時の剥離強度を測定した。下記基準に準じて評価を行った。評点3以上をもって合格とした。
<評価基準>
4:剥離強度50N/15mm以上
3:剥離強度37.5N/15mm以上50N/15mm未満
2:剥離強度15N/15mm以上37.5N/15mm未満
1:剥離強度15N/15mm未満
【0066】
(耐水性)
フィルムを接着したラミネート鋼板からJIS 13号A試験片を切り出し、沸騰水中に4時間浸漬後、上記フィルム加工密着性試験と同様の手法にて平面部のフィルム剥離強度(N/15mm)を測定した。評価は下記の判定基準に準じて行った。評点3以上をもって合格とした。
<評価基準>
4:剥離強度50N/15mm以上
3:剥離強度37.5N/15mm以上50N/15mm未満
2:剥離強度15N/15mm以上37.5N/15mm未満
1:剥離強度15N/15mm未満
【0067】
(外観(パウダー性))
化成処理後の各試験板の外観(粉を噴いた様な外観になるか否か)を目視評価した。評価は下記の判定基準に準じて行った。評点3をもって合格とした。
<評価基準>
3:手やロールで擦っても粉(=皮膜)に脱落が見られない
1:手やロールで擦ると粉(=皮膜)に脱落が見られる
【0068】
(浴安定性)
作製した各試験板を40℃及び5℃の恒温槽中に一定期間(1ヶ月)保存し、増粘や沈降物の有無を評価した。評価は下記の判定基準に準じて行った。評点3をもって合格とした。
<評価基準>
3:40℃および5℃の恒温槽中に1ヶ月静置後、増粘も沈降物も見られない
1:40℃および5℃の恒温槽中に1ヶ月静置後、増粘または沈降物が認められる
【0069】
(耐食性(一時防錆))
化成処理した鋼板(ラミネート接着前)の4隅をテープシールしてSST試験(塩水噴霧試験)を行った。評価は下記の判定基準に準じて行い、24時間以上白錆の発生がないことをもって合格とした。それ以降最大72時間まで試験を継続するが、長期間にわたって数値が高ければ高いほど良好である。
<評価基準>
時間:平面部に白錆が発生しなかった時間
−:SST試験24時間で平面部に白錆発生
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
【表7】
【0073】
なお、上記表5〜7中の凡例は下記の通りである。
(表面調整剤)
Ni:ニッケル系表面調整剤(日本ペイント社製、NPコンディショナー710)
――:表面調整なし
Niの付着量は、5mg/mとした。
【0074】
表5〜7から、実施例に係る金属表面処理剤はすべて、比較例に係る金属表面処理剤よりも、耐食性、耐水性に優れ、かつ亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板と、ラミネートフィルムである樹脂皮膜との密着性が高い皮膜を形成していることがわかる。
【0075】
なお、比較例1は、チタンフッ化アンモニウムに代えてジルコンフッ化アンモニウムを使用したが、耐水性、耐食性が不良であった。
比較例2および比較例3は、高酸価の水性アクリル樹脂に代えて、それぞれ酸価の低い水性ウレタン樹脂、もしくは酸価の低い水性アクリル樹脂を使用したが、いずれも密着性が不良であった。
比較例4は、pHが6より高いためエッチング不足となり、密着性などが不良であった。
比較例5は、(A+B+C)/(E+F)=10/1より大きい(無機物が多い)ため、密着性、耐食性が不良であった。
比較例6は、バナジウム化合物を含有しておらず、耐食性、パウダー性が不良であった。
比較例7は、チタンフッ化化合物を含有しておらず、耐食性、密着性が不良であった。
比較例8は、有機リン化合物を含有しておらず、バナジウム化合物の溶解性が不十分となり、耐食性などが不良であった。
比較例9は、無機リン化合物を含有しておらず、耐食性が不良であった。
比較例10は、高酸価の水性アクリル樹脂を含有しておらず、造膜性が不足して密着性、パウダー性が不良であった。
比較例11は、オキサゾリン基含有ポリマーに代えて、別の硬化剤(カルボジイミド)を使用したが、十分な架橋が得られず、耐水性、耐食性が不良であった。
比較例12は、めっき鋼板のAl含有量が少ないため、エッチング過剰となりパウダー性が不良であった。