【実施例】
【0031】
(実施例1)異なる膵臓癌細胞株における(Z)−ブチリデンフタリドでの死滅効果
【0032】
(Z)−ブチリデンフタリドで処置した場合、異なる膵臓癌細胞株の細胞生存率に影響を与えるか否かを判定するために、MTT(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,4−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を使用した。ヒト膵臓癌細胞株(3×10
3cell/well)のPANC−1およびPACA−2を、96ウェルマイクロ培養プレートにおいて、一晩培養した。異なる濃度での(Z)−ブチリデンフタリド(0μg/ml、10μg/ml、25μg/ml、50μg/ml、75μg/mlもしくは100μg/ml)、異なる濃度での(E)−ブチリデンフタリド(0μg/ml、50μg/ml、100μg/ml、200μg/ml、400μg/mlもしくは800μg/ml)、または、50μMのゲムシタビン(コントロール群としての膵臓癌を治療するための従来の薬品)を、内壁に沿って96ウェルマイクロ培養プレートのそれぞれのウェル中に加えて、24時間培養した。培地を除去し、その後、500μg/mlMTT(200μl)を含有する培地を加え、4時間培養した。培地を除去し、その後、プレート中にDMSO200μlを加えた。そして、それぞれのウェル中におけるサンプルの吸光度を、570nmの波長で分光光度計によって測定した。その後、(Z)−ブチリデンフタリドおよび(E)−ブチリデンフタリドを用いて処置したそれぞれの膵臓癌細胞株の、生存率およびIC50(50%阻害濃度)を決定するために、当該データを計算した。結果を、
図1A((E)−ブチリデンフタリド)および
図1B((Z)−ブチリデンフタリド)において示す。
【0033】
図1Aおよび
図1Bにおいて示すように、(E)−ブチリデンフタリドのIC50は、PANC−1では約257.1μg/ml(約1367μM)であり、PACA−2では約162.5μg/ml(約864.5μM)であった。(Z)−ブチリデンフタリドのIC50は、PANC−1では約45μg/ml(約234μM)であり、PACA−2では約25μg/ml(約133μM)であった。これらの実験データは、膵臓癌細胞株での(Z)−ブチリデンフタリドのIC50は、(E)−ブチリデンフタリドのものよりも、はるかに小さかったことを示している。
【0034】
(実施例2)(Z)−ブチリデンフタリドを含有する制御放出剤形の調製
【0035】
(1)SAプレポリマーの調製
まず、セバシン酸(SA)をエタノールによって2回再結晶化した。2.7gのセバシン酸モノマーを60mlの無水酢酸中に加え、135℃から140℃の真空下(10
−4torr)で30分間還流した。その後、SAプレポリマーを得るために、未反応の無水酢酸を除去した。SAプレポリマーを60℃の真空下で乾燥し、その後、乾燥トルエン中に溶解させた。得られた溶液を、1:10の体積比において、無水エーテルおよび石油エーテル(1:1、vol:vol)の混合物と混合し、SAプレポリマーを沈殿させるために(10:1、vol:vol)一晩放置した。そして、無水エーテルおよび石油エーテルを除去し、得られたSAプレポリマーを真空下で乾燥した。
【0036】
(2)CPPプレポリマーの調製
3gのビス(p−カルボキシ−フェノキシ)プロパン(CPP)および50mlの無水酢酸を混合し、150℃の真空下(10
−4torr)で30分間還流し、冷却した。その後、混合物を濾過した。未反応の無水酢酸を除去することによって、濾液を濃縮した。次いで、CPPプレポリマーを得るために、0℃において結晶化を行った。さらに、CPPプレポリマーを得るために、未反応の無水酢酸を除去した。CPPプレポリマーをエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させた。次いで、ジメチルホルムアミドおよび無水エーテル(ジメチルホルムアミドおよび無水エーテルの体積比は1:9)を、CPPプレポリマーに順次加えた。12時間後、ジメチルホルムアミドおよびエーテルを除去した。得られたCPP結晶プレポリマーを、真空下において乾燥させた。
【0037】
(3)p(CPP−SA)コポリマーの調製
CPPプレポリマーおよびSAプレポリマー(20:80のモル比)をガラス管(2×20cm)中に充填し、油浴中において180℃で1分間加熱し、その後、10
−4mmHgまで減圧した。重合工程では、真空(減圧)は15分毎に取り除いた。そして、当該管をジクロロメタンで洗浄し、CPPプレポリマーとSAプレポリマーとのコポリマー(“p(CPP−SA)コポリマー”として示す)を沈殿させるために、石油エーテルを加えた。その後、p(CPP−SA)コポリマーを無水エーテルで洗浄した。前述の調製工程は、
図2において示されている。
【0038】
得られたp(CPP−SA)コポリマーの特性を、赤外分光法(IR)および核磁気共鳴分光法(1H NMR)(図示せず)によって分析した。実験結果は、1812.76cm−1において観察できる無水結合のシグナルが存在するということを示している。p(CPP−SA)コポリマーの1H NMRスペクトルでは、CPPの芳香族部分の特徴的シグナルを6.9ppmから8.2ppmにおいて観察でき、SAのメチレン部分の特徴的シグナルを1.3ppmにおいて観察できる。さらに、1H NMRスペクトルにおけるCPPおよびSAのピーク強度によると、p(CPP−SA)コポリマーにおけるCPPおよびSAのモル比は、約1:4から約1:5として判定された。
【0039】
(4)p(CPP−SA)−Z−BP医薬製剤の調製
(Z)−ブチリデンフタリド(ECHO CHEMICAL CO.,LTD,TW)を、約0重量%、17.5重量%および25重量%の重量比によって、p(CPP−SA)コポリマーと混合した。当該混合物を、10%の濃度(重量/体積)における塩化メチレン中に溶解させた。そして、溶液を真空下で72時間乾燥し、乾燥粉末を得た。次いで、ステンレススチール鋳型(内径13mm)を使用して、200psiのわずかな圧力下(カバープレス)で乾燥粉末を圧縮し、ウェーハを形成した(100mg/ウェーハ)。当該ウェーハは、(Z)−ブチリデンフタリドおよびp(CPP−SA)コポリマーを含む医薬製剤を含んでおり、以降、“p(CPP−SA)−Z−BP”として示される。ウェーハの外観を、
図3において示す。
【0040】
(実施例3)p(CPP−SA)−Z−BP医薬製剤の薬物放出動態試験
【0041】
実施例2において調製したp(CPP−SA)−Z−BPウェーハ(17.5%Z−BPまたは25%Z−BPを含む)を、1.0mlのリン酸緩衝生理食塩水(0.1mM、pH7.4)および1.0mlのn−オクタールを含有するシンチレーションバイアルの中に加え、37℃でインキュベートした。様々な時点において溶液を新しい緩衝液に置き換え、当該緩衝液中の(Z)−ブチリデンフタリドの濃度を測定するために、分光光度計を使用して、310nmにおける当該溶液の吸光度を測定した。前述の方法は、WeingartらのInt.J.Cancer.1995,62(5):605−9に記載されており、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0042】
図4に示すように、p(CPP−SA)−Z−BPウェーハは、0から144時間において、ゆっくりと継続的に内部に含有されている活性成分(活性化合物)を放出することができる。これらのデータは、p(CPP−SA)−Z−BPを、(Z)−ブチリデンフタリドを含有する制御放出剤形として使用することができるということを示している。従って、対象の中へp(CPP−SA)−Z−BPウェーハを移植した場合、(Z)−ブチリデンフタリドを周囲の膵臓組織へとゆっくりと継続的に放出することができ、そのため、継続した治療効果を達成することができる。
【0043】
(実施例4)細胞実験:p(CPP−SA)−Z−BP医薬製剤の細胞毒性効果
【0044】
ヒト膵臓癌細胞株PACA−2を、(Z)−ブチリデンフタリドをそれぞれ0重量%(コントロール群)、17.5重量%または25重量%含む、p(CPP−SA)−Z−BPと共に、24時間培養し、その後、腫瘍細胞形態および細胞生存率を観察した。
【0045】
図5Aにおいて示すように、コントロール群(すなわち、(Z)−ブチリデンフタリド無しのp(CPP−SA))と比較して、17.5重量%または25重量%の(Z)−ブチリデンフタリドを含むp(CPP−SA)−Z−BPは、PACA−2細胞株の生存率を効果的に減少させることができていた。
図5Bにおいて示すように、17.5重量%または25重量%の(Z)−ブチリデンフタリドを含むp(CPP−SA)−Z−BPの処置では、PACA−2細胞株にアポトーシスを引き起こしていた。前述の実験データは、本発明のp(CPP−SA)−Z−BP医薬製剤が、膵臓癌細胞の増殖を効果的に阻害することができるということを示している。
【0046】
(実施例5)細胞実験:Z−BPにより誘導されるアポトーシス
【0047】
(1)mRNAの発現レベルの分析
オーファン受容体−1(NOR−1)、Nurr1およびNur77のアップレギュレートされた発現には、アポトーシスが関連していることが知られている。この実験では、膵臓癌細胞株PANC−1およびPACA−2を、100μg/mlのZ−BPを用いて0、1、3、6または24時間処置し、その後、当該膵臓癌細胞株でのNOR−1、Nurr1およびNur77の遺伝子発現レベルにおいてZ−BPの効果を分析するために、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって分析した(
図6A)。さらに、膵臓癌細胞株PANC−1およびPACA−2を、異なる濃度のZ−BPを用いて3時間処置し、その後、RT−PCRによって分析した(
図6B)。コントロール群として、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を使用した。
【0048】
図6Aに示すように、膵臓癌細胞株PANC−1およびPACA−2がZ−BPを用いて1から3時間処置された後、当該膵臓癌細胞株におけるNOR−1およびNurr1のmRNA発現レベルが増加していた。
図6Bに示すように、膵臓癌細胞株PANC−1およびPACA−2が異なる濃度のZ−BPを用いて3時間処置された後、当該膵臓癌細胞株におけるNurr1のmRNA発現レベルが増加していた。当該Nurr1のアップレギュレートされた発現の結果は、Z−BPにより誘導された、PANC−1およびPACA−2のアポトーシスの初期段階を明らかとするものであった。
【0049】
(2)マイクロRNA干渉試験
ヒト膵臓癌細胞株PACA−2におけるNurr1のRNA発現を、マイクロRNA干渉技術によって阻害した。当該細胞を133μMのZ−BPを用いて処置し、その後、細胞中のNurr1のRNA発現における変化を検出するために、RT−PCRによって分析した。
図7Aにおいて示される結果のように、PACA−2を50nMのNurr1マイクロRNAを用いて処置した場合、Z−BPにより誘導されたNurr1の約50%が阻害された。これらの結果は、Z−BPの処置が実際にNurr1の発現量を増加することができるということを示している。
【0050】
さらに、ヒト膵臓癌細胞株PACA−2を、10nMまたは50nMのNurr1マイクロRNAを用いて処置し、その後、133μMのZ−BPで処置した。次いで、実施例4において記載した同様の方法を使用して、細胞生存率を観察した。
図7Bにおいて示すように、PACA−2細胞が50nMのNurr1マイクロRNAを用いて処置された後には、Z−BPによって阻害された細胞生存率を戻すことができている。これらの結果は、Z−BPの処置がPACA−2細胞の細胞生存率を減少し得るということを示している。
【0051】
(3)ウェスタンブロッティング試験
ヒト膵臓癌細胞株PACA−2を、Z−BPを用いて0、30、60、120または180分間処置し、その後、Nur77遺伝子に関与する経路関連タンパク質の発現レベルをウェスタンブロッティングによって分析した。当該タンパク質は、Pan−PKC、AKT、ERKおよびJNKを含んでいる(
図8A)。さらに、アポトーシス関連タンパク質の発現レベルも分析した。これには、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)、切断ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(cPARP)およびカスパーゼ−3が含まれる(
図8B)。コントロール群として、β−アクチンを使用した。
【0052】
図8Aにおいて示すように、PACA−2細胞がZ−BPを用いて180分間処置された後には、PACA−2細胞におけるホスホ−JNK(Pi−SAPK/JNK)およびホスホ−AKT(Pi−AKT)の発現レベルは増加していた。これは、Z−BPの処置でNur77遺伝子経路関連タンパク質の発現レベルを増加させることができるということを示している。
図8Bにおいて示すように、PACA−2細胞をZ−BPを用いて24時間または48時間処置された後には、PACA−2細胞におけるカスパーゼ−3、PARPおよびcPARPの発現レベルは増加していた。これは、Z−BPの処置でアポトーシス関連タンパク質の発現レベルを増加させることができるということを示している。
【0053】
(実施例6)動物実験:p(CPP−SA)−Z−BPによるマウスの膵臓腫瘍の大きさの縮小
【0054】
ヌードマウス(6マウス/群)に、PACA−2細胞(1×10
6cells)を含む皮下背部移植の処置をした。その後、0%(コントロール群)、17.5%または25%のZ−BPを含むp(CPP−SA)−Z−BPを、PACA−2細胞を移植した領域を介してマウスの中へ移植した。そして、それぞれのマウスにおける腫瘍の大きさを測定器(較正器)によって測定し、それぞれのマウスの体重を測定した。腫瘍の体積は、長さ(長軸の長さ)×高さ×幅(短軸の長さ)×0.5236(L×H×W×0.5236)(立方ミリメートル)の式によって算出した。結果を、
図9および
図10において示す。
【0055】
図9において示すように、コントロール群のマウス(Z−BP無しのp(CPP−SA)−Z−BPで処置されたマウス)における膵臓腫瘍の相対的な大きさは、実験開始から30日後には、1000よりも大きく急速に拡大していた。一方、実験群のマウス(17.5%または25%のZ−BPを含むp(CPP−SA)−Z−BPで処置されたマウス)における膵臓腫瘍の相対的な大きさは、約200であった。
図10において示すように、それぞれの群でのマウスの体重における有意な変化は無かった。これらの実験結果は、p(CPP−SA)−Z−BPの処置(治療)が、マウスにおける膵臓腫瘍の増殖を効果的に阻害することができることを示している。
【0056】
上記の実験結果は、本発明の(Z)−ブチリデンフタリドを含む医薬製剤が、膵臓癌細胞の増殖を効果的に阻害でき、従って、膵臓癌を治療するために使用することができるということを示している。加えて、本発明の医薬製剤は、制御放出剤形を形成するための疎水性の生体適合性ポリマーをさらに含むことができ、それにより、膵臓癌においてゆっくりと継続的な治療効果を提供することができる。
【0057】
上記の実施例は、本発明の原理および効果を説明するために使用されるものであり、本発明を限定するために使用されるものではない。当業者は、本発明に記載されている開示および提案に基づいて、その技術的原理および精神から逸脱することなく、様々な修正および代替を用いて実施できるだろう。従って、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲において規定されているものである。
【0058】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願103119393(出願日2014年6月4日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。