特許第5952890号(P5952890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中國醫藥大學の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952890
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】膵臓癌を治療するための医薬製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/365 20060101AFI20160630BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20160630BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   A61K31/365
   A61K47/34
   A61P35/00
   A61K9/70
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-261589(P2014-261589)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-229675(P2015-229675A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2014年12月25日
(31)【優先権主張番号】103119393
(32)【優先日】2014年6月4日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】邱 紫文
(72)【発明者】
【氏名】韓 鴻志
(72)【発明者】
【氏名】林 欣榮
(72)【発明者】
【氏名】周 怡▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 茂軒
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−173866(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/131733(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/365
A61K 9/70
A61K 47/34
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z)−ブチリデンフタリドを含み、(E)−ブチリデンフタリドは実質的に含まれない、膵臓癌を治療するための医薬製剤。
【請求項2】
生体適合性ポリマーマトリックスをさらに含み、
(Z)−ブチリデンフタリドは、前記マトリックス中に含まれている、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
前記生体適合性ポリマーマトリックスは、乳酸・グリコール酸コポリマー、キトサン、コラーゲン、ヒドロゲル、ポリ無水物およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記生体適合性ポリマーマトリックスはポリ無水物である、請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記ポリ無水物は、モノマー(A)およびモノマー(B)のコポリマーであり、
【化1】

【化2】

mは1から10の範囲の整数であり、nは0から20の範囲の整数である、請求項4に記載の医薬製剤。
【請求項6】
mは2から8の範囲の整数であり、nは3から10の範囲の整数である、請求項5に記載の医薬製剤。
【請求項7】
前記ポリ無水物は、モノマー(A)およびモノマー(B)のブロックコポリマーである、請求項5に記載の医薬製剤。
【請求項8】
前記モノマー(A)はビス(p−カルボキシ−フェノキシ)プロパンであり、前記モノマー(B)はセバシン酸である、請求項5ないし7のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記モノマー(A)および前記モノマー(B)のモル比は、約1:2から約1:10の範囲である、請求項5ないし8のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
前記モノマー(A)および前記モノマー(B)のモル比は、約1:3から約1:6の範囲である、請求項5ないし9のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
(Z)−ブチリデンフタリドの濃度は、約2重量%から約30重量%である、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
前記医薬製剤はウェーハの形状である、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
前記医薬製剤は、皮下移植、間質性インプラントおよびイントラ膵臓移植の少なくとも1つによって、投与される、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項14】
前記医薬製剤は、1日当たり、約10mg((Z)−ブチリデンフタリドとして)/kg−体重から約1000mg((Z)−ブチリデンフタリドとして)/kg−体重の範囲の量において投与される、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(Z)−ブチリデンフタリドを含む医薬製剤の使用、特に膵臓癌の治療における当該医薬製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓は、生体の腹腔の背部内に位置する、柔らかく細長い腺である。一般的に、ヒトの膵臓は、約15cmから20cmの範囲の長さ、約2.5cmの幅および約75グラムから100グラムの範囲の重さを有している。“膵臓癌”は、膵臓細胞から生じる悪性腫瘍を示している。管腺癌は膵臓癌の90%を占めており、そのうちの約80%が膵臓腺の上部内で発生する。
【0003】
膵臓癌は高齢者において発生する傾向があり、男性における発生率は女性より2倍高くなっている。初期の膵臓癌は、通常明らかな症状を示さないが、膵臓腫瘍が徐々に増殖するに伴って、患者は腹痛、背部痛、黄疸、体重減少および下痢の症状を示し得る。さらに、典型的な膵臓癌では、周囲の組織への線維症および癒着が現れる。膵臓癌細胞は、しばしば、末梢神経の中へ浸透し、および/または血管へ侵入するので、膵臓癌の90%近くが、手術によって治療することができない。膵臓癌は予後不良を有し、5年の生存率は5%未満である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
膵臓癌のための現在の臨床療法には、手術、化学療法および放射線治療等が含まれている。一般的に、膵臓癌患者の状態が許す場合には、生存率を上昇させるため、手術が第1の選択治療である。化学療法では、5−フルオロウラシル(5−FU)およびゲムシタビンの代謝拮抗物質薬のような単一の薬剤、または様々な薬剤の組み合わせを、膵臓癌の臨床段階に基づいて選択することができる。しかし、化学療法の治療効果は低い。従来の化学療法では、膵臓癌の再発の場合においては、ほとんど効果が無い。放射線治療は、切除不能な膵臓腫瘍を治療することができないため、通常、膵臓癌のための治療の間のアジュバント療法(補助療法)として使用される。このように、膵臓癌を治療するための薬剤の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、Z−ブチリデンフタリド(Z−BP)が、膵臓癌細胞の増殖を阻害することができ、従って、膵臓癌を治療するために使用することができるということを見出した。特に、Z−ブチリデンフタリドを含有する制御放出剤形を、手術後の膵臓癌細胞を有する領域内へと移植することができ、Z−ブチリデンフタリドの局所的に安定した高用量を達成する。その結果、Z−ブチリデンフタリドは、“侵入残存癌細胞”を死滅させるように周囲の膵臓組織の中へ浸透することができ、所望の治療効果を達成する。
【0006】
本発明の目的は、膵臓癌を治療するための医薬製剤を提供することである。当該医薬製剤は(Z)−ブチリデンフタリドを含み、(E)−ブチリデンフタリドは実質的に含まれない。好ましくは、当該医薬製剤において、(Z)−ブチリデンフタリドは、制御放出剤形における医薬製剤の、生体適合性ポリマーマトリックス中に含まれている。
【0007】
さらに別の本発明の目的は、薬剤の製造における医薬製剤の使用を提供することである。当該薬剤は、膵臓癌を治療するために使用される。当該医薬製剤は、(Z)−ブチリデンフタリドを含み、(E)−ブチリデンフタリドは実質的に含まれない。好ましくは、当該医薬製剤において、(Z)−ブチリデンフタリドは、制御放出剤形における薬剤を提供するために、生体適合性ポリマーマトリックス中に含まれている。
【0008】
さらに別の本発明の目的は、対象における膵臓癌を治療するための方法を提供することである。当該方法は、それを必要とする対象に医薬製剤の治療的有効量を投与することを含み、当該医薬製剤は、(Z)−ブチリデンフタリドを含み、(E)−ブチリデンフタリドは実質的に含まれない。好ましくは、当該医薬製剤において、(Z)−ブチリデンフタリドは、当該医薬製剤が制御放出剤形において使用されるように、生体適合性ポリマーマトリックス中に含まれている。
【0009】
詳細な技術および本発明のために実施される好ましい実施の形態は、本技術分野における当業者が特許請求の範囲の発明の特徴を認識できるように、以下の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】膵臓癌細胞株の細胞生存率における(E)−ブチリデンフタリドの効果を示す棒グラフの図である。
図1B】膵臓癌細胞株の細胞生存率における(Z)−ブチリデンフタリドの効果を示す棒グラフの図である。
図2】p(CPP−SA)コポリマーを調製するフローチャート図である。
図3】2つのp(CPP−SA)−Z−BPウェーハの写真の図であり、左のZ−BPの濃度は0%であり、右のZ−BPの濃度は17.5%である。
図4】0から25日におけるp(CPP−SA)−Z−BPウェーハのゆっくりと継続的な放出を示す吸光度の曲線図である。
図5A】PACA−2細胞の生存率減少におけるp(CPP−SA)−Z−BPの効果を示す棒グラフの図である。
図5B】PACA−2細胞のアポトーシス誘導におけるp(CPP−SA)−Z−BPの効果を示す写真の図である。
図6A】膵臓癌細胞株をZ−BPで処置した後の異なる時点での膵臓癌細胞株におけるアポトーシス関連遺伝子の発現レベルの増加を示す電気泳動図である。
図6B】異なるZ−BPの濃度で処置した膵臓癌細胞株におけるアポトーシス関連遺伝子の発現レベルの増加を示す電気泳動図である。
図7A】Z−BPに誘発されるNurr1遺伝子の発現レベルを阻害するための、Nurr1マイクロRNAを用いたPACA−2の処置を示す電気泳動図である。
図7B】Z−BPによって減少する細胞生存率を戻すための、Nurr1マイクロRNAを用いたPACA−2の処置を示す棒グラフの図である。
図8A】膵臓癌細胞でのNur77遺伝子経路関連タンパク質の発現レベルの増加におけるZ−BPの効果を示す電気泳動図である。
図8B】膵臓癌細胞でのアポトーシス経路関連タンパク質の発現レベルの増加におけるZ−BPの効果を示す電気泳動図である。
図9】異なるZ−BPの濃度においてp(CPP−SA)−Z−BPを皮下移植したマウスにおける膵臓腫瘍の大きさを示す曲線図である。
図10】異なるZ−BPの濃度においてp(CPP−SA)−Z−BPを皮下移植したマウスの体重を示す曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、詳細における本発明のいくつかの実施の形態について記載する。しかし、本発明の精神から逸脱することなく、本発明は様々な実施の形態において具体化され得るし、本明細書に記載される実施の形態に限定されるべきではない。さらに、本明細書において他に言及のない限り、本発明の明細書において(特に、特許請求の範囲において)用いられる“1”、“当該”および同様の用語は、単数形式および複数形式の両方を包含すべきである。さらに、本明細書において使用される“治療(処置)” または“治療する(処置する)”という用語は、それを必要とする対象に医薬製剤の治療的有効量(処置的有効量)を投与することを示しており、当該対象は、腫瘍もしくは腫瘍徴候を有しているか、腫瘍に由来する疾患もしくは症状に苦しんでいるか、または、癌に対して罹患性がある。当該投与は、腫瘍、腫瘍徴候、腫瘍に由来する疾患もしくは症状または癌に対する罹患性を、癒やす、緩和する、軽減する、治療する、または改善する効果を達成するためのものである。本明細書において使用されている“有効量”という用語は、対象に投与される場合、被疑対象において治療されている状態を少なくとも部分的に軽減することができる成分(化合物)の量を示している。本明細書において使用されている“対象”という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を含む、哺乳動物を示している。本明細書において使用されている“mg/kg−体重”という用語は、kg−体重当たり必要とされる用量(mg)を示す。本明細書において使用されている“制御放出剤形”という用語は、対象に投与した後に、その中に含有されている活性成分(活性化合物)を、ゆっくりと継続的に放出することができる剤形を示している。本発明の意図における“(E)−ブチリデンフタリドは実質的に含まれない”とは、当該医薬製剤が、1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.05重量%未満、および、さらに好ましくは0.001重量%未満、0.0001重量%未満または0.0重量%の(E)−ブチリデンフタリドを含むということを意味している。ここで、重量%は、当該医薬製剤の全重量に基づくものである。
【0012】
ブチリデンフタリド(BP)は、アンジェリカ・シネンシス(Angelica sinensis)から抽出される成分(化合物)である。本発明の発明者らは、(E)−ブチリデンフタリドと比較して、(Z)−ブチリデンフタリド(すなわち、以下の化合物(I))が膵臓癌細胞の増殖の阻害において有意に効果的であり、従って、膵臓癌を治療するために使用することができるということを見出した。
【化1】
【0013】
そこで、本発明は、(Z)−ブチリデンフタリドを含み、(E)−ブチリデンフタリドは実質的に含まれない医薬製剤を提供する。(Z)−ブチリデンフタリドは市販されており(例えば、ECHO CHEMICAL CO.,LTD,TWから購入することができる)、天然素材から抽出することができ、またはアンジェリカ・シネンシスのクロロホルム抽出物から分離することができる。抽出および分離によって提供された(Z)−ブチリデンフタリドは、使用される前に、フラッシュカラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーまたは結晶化法によって、さらに精製することができる。
【0014】
任意において、本発明の医薬製剤は、生体適合性ポリマーマトリックスを含んでもよい。ここで、膵臓癌治療において長期の効果を提供するために、医薬製剤が制御放出剤形において使用され得るように、(Z)−ブチリデンフタリドは当該ポリマーマトリックス中に含まれている。本発明のために適している生体適合性ポリマーマトリックスは、一般的に疎水性であり、適当な分解性を有している。好ましくは、生体適合性ポリマーマトリックスは、乳酸・グリコール酸コポリマー(共重合体)、キトサン、コラーゲン、ヒドロゲル、ポリ無水物およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。制御放出剤形において使用される場合、本発明の医薬製剤は、膵臓癌の継続的な治療の効果を達成するために、長期間(例えば、20、30、35、40、50、60日間)にわたって、対象の投与部位に隣接する組織(複数可)へ、ゆっくりと継続的に(Z)−ブチリデンフタリドを放出することができる。
【0015】
本発明の1つの実施の形態では、(Z)−ブチリデンフタリドは、制御放出剤形を可能にするために、ポリ無水物中に含まれている。好ましくは、ポリ無水物は、以下のモノマー(A)およびモノマー(B)のコポリマー(共重合体)である。
【化2】

【化3】
【0016】
ここで、mは1から10の範囲の整数であり、nは0から20の範囲の整数である。好ましくは、mは2から8の範囲の整数であり、nは3から10の範囲の整数である。さらに、モノマー(A)のベンゼン環上の2つのカルボキシル基は、同時に、オルト位、メタ位またはパラ位であることが好ましい。より好ましくは、パラ位である。
【0017】
モノマー(A)は、限定はされないが、次の1以上のようなものとすることができる。ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)エタン、ビス(o−カルボキシ−フェノキシ)エタン、ビス(m−カルボキシ−フェノキシ)エタン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)プロパン、ビス(o−カルボキシ−フェノキシ)プロパン、ビス(m−カルボキシ−フェノキシ)プロパン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)ブタン、ビス(o−カルボキシ−フェノキシ)ブタン、ビス(m−カルボキシ−フェノキシ)ブタン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)ペンタン、ビス(o−カルボキシ−フェノキシ)ペンタン、ビス(m−カルボキシ−フェノキシ)ペンタン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)ヘキサン、ビス(o−カルボキシ−フェノキシ)ヘキサン、ビス(m−カルボキシ−フェノキシ)ヘキサン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)ヘプタン、ビス(o−カルボキシ−フェノキシ)ヘプタン、ビス(m−カルボキシ−フェノキシ)ヘプタン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)オクタン、ビス(o−カルボキシ−フェノキシ)オクタン、および、ビス(m−カルボキシ−フェノキシ)オクタン。好ましくは、モノマー(A)は、次の1以上のものである。ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)エタン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)プロパン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)ブタン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)ペンタン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)ヘキサン、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)ヘプタン、および、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)オクタン。
【0018】
本発明のために適しているモノマー(B)は、限定はされないが、次の1以上のようなものとすることができる。マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、および、セバシン酸。本発明の1つの実施の形態では、セバシン酸がモノマー(B)として使用される。
【0019】
好ましくは、生体適合性ポリマーマトリックスとして使用されるポリ無水物では、モノマー(A)およびモノマー(B)のモル比(モノマー(A):モノマー(B))は、約1:2から約1:10であり、より好ましくは、約1:3から約1:6である。さらに、生体適合性ポリマーマトリックスは、モノマー(A)およびモノマー(B)のブロックコポリマー(ブロック共重合体)であることが好ましい。本発明の1つの実施の形態では、生体適合性ポリマーマトリックスは、1:4のモル比におけるビス(p−カルボキシ−フェノキシ)プロパンおよびセバシン酸により提供されるブロックコポリマーである、ポリ無水物である。
【0020】
本発明の医薬製剤のために適している生体適合性ポリマーマトリックスは、市販されているか、または当該分野における公知の合成方法によって調製することができる。例えば、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)プロパンおよびセバシン酸からポリ無水物を調製するには、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)プロパンプレポリマーおよびセバシン酸プレポリマーをそれぞれ得るために、ビス(p−カルボキシ−フェノキシ)プロパンおよびセバシン酸を、無水酢酸中において別々に還流する。その後、ポリ無水物であるブロックコポリマー(“p(CPP−SA)コポリマー”としても示される)を提供するために、溶融重縮合法によって、2つのプレポリマーを共重合させる。溶融重縮合法の工程は、DombらのJournal of Polymer science,1987,25:3373−3386において見ることができ、その全体は参照により本明細書中に組み込まれる。
【0021】
本発明の医薬製剤では、当該製剤における(Z)−ブチリデンフタリドの比率は、実践的な要求に応じて調整することができる。例えば、医薬製剤における(Z)−ブチリデンフタリドの濃度は、約1重量%から約40重量%の範囲、好ましくは約2重量%から約30重量%の範囲とすることができる。
【0022】
本発明によると、当該医薬製剤は、任意の適切な方法で適用される任意の適切な投与形状における薬剤を提供するために、使用することができる。例えば、当該医薬製剤は、限定はされないが、ウェーハ、粉末、膜、フレーク、ロッド、微小粒子、ナノ粒子、ペーストまたはゲルのような形状へと製造することができる。さらに、当該医薬製剤は、経口投与、皮下移植、間質性インプラント、イントラ膵臓移植、鼻投与または静脈内注射等のために適している形状へと製造することができる。
【0023】
例として、経口投与に適した剤形における薬剤の製造に使用すると、当該医薬製剤は、溶媒、油性溶媒、希釈剤、安定化剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、酸化防止剤、結合剤、潤滑剤および吸湿剤のような、活性成分(活性化合物)の所望される活性に悪影響を与えない、薬学的に許容される担体を含んでもよい。当該医薬製剤は、任意の適切な方法によって、経口投与形状における薬剤へと調製することができる。例えば、当該医薬製剤は、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、抽出液、溶液、シロップ、懸濁液、乳濁液またはチンキ剤等としての薬剤を製造するために、使用することができる。
【0024】
皮下注射または静脈内注射に適した剤形における薬剤の製造では、当該医薬製剤は、静脈内注射、エマルジョン静脈内注射、粉末注射、懸濁液注射または粉末−懸濁液注射等としての製剤を製造するために、等張液、生理食塩緩衝液(例えば、リン酸緩衝液またはクエン酸塩緩衝液)、可溶化剤、乳化剤および他の担体のような、1以上の成分(化合物)を含んでもよい。
【0025】
形状および目的に応じて、本発明の医薬製剤は、1以上の薬学的に許容される担体を含んでもよい。担体(複数可)に加えて、当該医薬製剤は、得られる製剤の味および視覚的な質を向上させるため、香味剤、トナーまたは着色剤等のような他の添加物を、任意において含んでもよい。こうして提供される薬剤の保存性を改善するために、当該製剤は、適切な量の保存剤、貯蔵剤、防腐剤または抗カビ試薬等をも含んでもよい。任意において、本発明の医薬製剤は、こうして提供される薬剤の有益性をさらに向上させるために、または薬剤の適用柔軟性および順応性を増強するために、酸化防止剤(例えば、ビタミンE)、化学療法薬または免疫モジュレーター等のような、1以上の他の活性成分(活性化合物)を含んでもよい。しかし、これは、当該他の活性成分(活性化合物)が、(Z)−ブチリデンフタリドに悪影響を及ぼさない場合に限る。
【0026】
本発明の医薬製剤が生体適合性ポリマーマトリックスを含む場合、当該医薬製剤は、好ましくは、皮下移植、間質性インプラントおよびイントラ膵臓移植に適した剤形(ウェーハのようなもの)における薬剤として製造される。すると、対象に投与された後に、対象の投与部位に隣接する組織へと、当該医薬製剤が(Z)−ブチリデンフタリドをゆっくりと放出することができ、局所的に安定した高用量での治療効果を達成する。その結果、当該医薬製剤を、腫瘍(例えば、膵臓腫瘍)の周囲に直接的に移植することができ、正確な期間(例えば、20、30、35、40、50、60日間)にわたって投与部位に隣接する組織へと(Z)−ブチリデンフタリドをゆっくりと継続的に放出することができる。そして、それによって、膵臓癌の長期治療の効果および/または膵臓癌の再発減少の効果を達成する。
【0027】
例として、皮下移植、間質性インプラントおよびイントラ膵臓移植に適した剤形における薬剤の製造に使用すると、ウェーハ、錠剤、カプセルまたは顆粒のような、皮下移植、間質性インプラントおよびイントラ膵臓移植のための形状における薬剤を調製するために、当該医薬製剤は、付形剤(添加物)、安定化剤および吸湿剤等のような、中に含まれている活性成分(活性化合物)の活性に悪影響を与えない薬学的に許容される担体を含むことができる。本発明の1つの実施の形態では、(Z)−ブチリデンフタリドを、混合物を提供するためにp(CPP−SA)コポリマーと混合し、その後、混合物をジクロロメタン中に溶解し、粉末を形成するように乾燥させた。そして、皮下移植、間質性インプラントおよびイントラ膵臓移植用ウェーハとしての薬剤を形成するために、乾燥させた粉末を鋳型に充填し、わずかな圧力下において圧縮した。膵臓癌患者における膵臓腫瘍を切除した後、より徹底的に膵臓癌を治療するために、および/または膵臓癌の再発を減少させるために、当該ウェーハ(すなわち、(Z)−ブチリデンフタリドおよびp(CPP−SA)コポリマーを含む、医薬製剤)を患者の疾患領域に移植した。ウェーハを調製するための前述の方法は、添付の実施例およびWalterらのCancer Res.1994,54(8):2207−12においてさらに説明されている。当該文献は、参照によりその全体を本明細書中に組み込む。
【0028】
対象の要求に応じて、本発明の医薬製剤または当該医薬製剤を使用して製造された薬剤は、1日に1回、1日に数回または数日に1回等のような、様々な投与頻度で適用することができる。例えば、膵臓癌の治療のためにヒト対象に投与する場合、当該医薬製剤は、1日当たり約10mgから約1000mgの範囲の(Z)−ブチリデンフタリド/kg−体重での量において、好ましくは1日当たり約50mgから約500mgの範囲の(Z)−ブチリデンフタリド/kg−体重での量において、投与される。しかし、重篤状態での患者では、実践的な要求に応じて、用量を数倍または数十倍に増加させることもできる。
【0029】
本発明は、膵臓癌を治療するための方法をも提供する。当該方法は、それを必要とする対象に医薬製剤の治療的有効量を投与することを含み、当該医薬製剤は(Z)−ブチリデンフタリドを含み、(E)−ブチリデンフタリドは実質的に含まれない。好ましくは、当該医薬製剤は生体適合性ポリマーマトリックスをさらに含み、(Z)−ブチリデンフタリドは当該生体適合性ポリマーマトリックス中に含まれている。当該医薬製剤の成分(化合物)およびその特性、ならびに、(Z)−ブチリデンフタリドの有効性および用量については、全て上述したものと同様である。
【0030】
本発明は、さらに、以下の具体的な実施例の詳細において説明される。しかし、以下の実施例は、本発明を説明するためのみに提供されるものにすぎず、それにより本発明の範囲は限定されない。
【実施例】
【0031】
(実施例1)異なる膵臓癌細胞株における(Z)−ブチリデンフタリドでの死滅効果
【0032】
(Z)−ブチリデンフタリドで処置した場合、異なる膵臓癌細胞株の細胞生存率に影響を与えるか否かを判定するために、MTT(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,4−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を使用した。ヒト膵臓癌細胞株(3×10cell/well)のPANC−1およびPACA−2を、96ウェルマイクロ培養プレートにおいて、一晩培養した。異なる濃度での(Z)−ブチリデンフタリド(0μg/ml、10μg/ml、25μg/ml、50μg/ml、75μg/mlもしくは100μg/ml)、異なる濃度での(E)−ブチリデンフタリド(0μg/ml、50μg/ml、100μg/ml、200μg/ml、400μg/mlもしくは800μg/ml)、または、50μMのゲムシタビン(コントロール群としての膵臓癌を治療するための従来の薬品)を、内壁に沿って96ウェルマイクロ培養プレートのそれぞれのウェル中に加えて、24時間培養した。培地を除去し、その後、500μg/mlMTT(200μl)を含有する培地を加え、4時間培養した。培地を除去し、その後、プレート中にDMSO200μlを加えた。そして、それぞれのウェル中におけるサンプルの吸光度を、570nmの波長で分光光度計によって測定した。その後、(Z)−ブチリデンフタリドおよび(E)−ブチリデンフタリドを用いて処置したそれぞれの膵臓癌細胞株の、生存率およびIC50(50%阻害濃度)を決定するために、当該データを計算した。結果を、図1A((E)−ブチリデンフタリド)および図1B((Z)−ブチリデンフタリド)において示す。
【0033】
図1Aおよび図1Bにおいて示すように、(E)−ブチリデンフタリドのIC50は、PANC−1では約257.1μg/ml(約1367μM)であり、PACA−2では約162.5μg/ml(約864.5μM)であった。(Z)−ブチリデンフタリドのIC50は、PANC−1では約45μg/ml(約234μM)であり、PACA−2では約25μg/ml(約133μM)であった。これらの実験データは、膵臓癌細胞株での(Z)−ブチリデンフタリドのIC50は、(E)−ブチリデンフタリドのものよりも、はるかに小さかったことを示している。
【0034】
(実施例2)(Z)−ブチリデンフタリドを含有する制御放出剤形の調製
【0035】
(1)SAプレポリマーの調製
まず、セバシン酸(SA)をエタノールによって2回再結晶化した。2.7gのセバシン酸モノマーを60mlの無水酢酸中に加え、135℃から140℃の真空下(10−4torr)で30分間還流した。その後、SAプレポリマーを得るために、未反応の無水酢酸を除去した。SAプレポリマーを60℃の真空下で乾燥し、その後、乾燥トルエン中に溶解させた。得られた溶液を、1:10の体積比において、無水エーテルおよび石油エーテル(1:1、vol:vol)の混合物と混合し、SAプレポリマーを沈殿させるために(10:1、vol:vol)一晩放置した。そして、無水エーテルおよび石油エーテルを除去し、得られたSAプレポリマーを真空下で乾燥した。
【0036】
(2)CPPプレポリマーの調製
3gのビス(p−カルボキシ−フェノキシ)プロパン(CPP)および50mlの無水酢酸を混合し、150℃の真空下(10−4torr)で30分間還流し、冷却した。その後、混合物を濾過した。未反応の無水酢酸を除去することによって、濾液を濃縮した。次いで、CPPプレポリマーを得るために、0℃において結晶化を行った。さらに、CPPプレポリマーを得るために、未反応の無水酢酸を除去した。CPPプレポリマーをエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させた。次いで、ジメチルホルムアミドおよび無水エーテル(ジメチルホルムアミドおよび無水エーテルの体積比は1:9)を、CPPプレポリマーに順次加えた。12時間後、ジメチルホルムアミドおよびエーテルを除去した。得られたCPP結晶プレポリマーを、真空下において乾燥させた。
【0037】
(3)p(CPP−SA)コポリマーの調製
CPPプレポリマーおよびSAプレポリマー(20:80のモル比)をガラス管(2×20cm)中に充填し、油浴中において180℃で1分間加熱し、その後、10−4mmHgまで減圧した。重合工程では、真空(減圧)は15分毎に取り除いた。そして、当該管をジクロロメタンで洗浄し、CPPプレポリマーとSAプレポリマーとのコポリマー(“p(CPP−SA)コポリマー”として示す)を沈殿させるために、石油エーテルを加えた。その後、p(CPP−SA)コポリマーを無水エーテルで洗浄した。前述の調製工程は、図2において示されている。
【0038】
得られたp(CPP−SA)コポリマーの特性を、赤外分光法(IR)および核磁気共鳴分光法(1H NMR)(図示せず)によって分析した。実験結果は、1812.76cm−1において観察できる無水結合のシグナルが存在するということを示している。p(CPP−SA)コポリマーの1H NMRスペクトルでは、CPPの芳香族部分の特徴的シグナルを6.9ppmから8.2ppmにおいて観察でき、SAのメチレン部分の特徴的シグナルを1.3ppmにおいて観察できる。さらに、1H NMRスペクトルにおけるCPPおよびSAのピーク強度によると、p(CPP−SA)コポリマーにおけるCPPおよびSAのモル比は、約1:4から約1:5として判定された。
【0039】
(4)p(CPP−SA)−Z−BP医薬製剤の調製
(Z)−ブチリデンフタリド(ECHO CHEMICAL CO.,LTD,TW)を、約0重量%、17.5重量%および25重量%の重量比によって、p(CPP−SA)コポリマーと混合した。当該混合物を、10%の濃度(重量/体積)における塩化メチレン中に溶解させた。そして、溶液を真空下で72時間乾燥し、乾燥粉末を得た。次いで、ステンレススチール鋳型(内径13mm)を使用して、200psiのわずかな圧力下(カバープレス)で乾燥粉末を圧縮し、ウェーハを形成した(100mg/ウェーハ)。当該ウェーハは、(Z)−ブチリデンフタリドおよびp(CPP−SA)コポリマーを含む医薬製剤を含んでおり、以降、“p(CPP−SA)−Z−BP”として示される。ウェーハの外観を、図3において示す。
【0040】
(実施例3)p(CPP−SA)−Z−BP医薬製剤の薬物放出動態試験
【0041】
実施例2において調製したp(CPP−SA)−Z−BPウェーハ(17.5%Z−BPまたは25%Z−BPを含む)を、1.0mlのリン酸緩衝生理食塩水(0.1mM、pH7.4)および1.0mlのn−オクタールを含有するシンチレーションバイアルの中に加え、37℃でインキュベートした。様々な時点において溶液を新しい緩衝液に置き換え、当該緩衝液中の(Z)−ブチリデンフタリドの濃度を測定するために、分光光度計を使用して、310nmにおける当該溶液の吸光度を測定した。前述の方法は、WeingartらのInt.J.Cancer.1995,62(5):605−9に記載されており、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0042】
図4に示すように、p(CPP−SA)−Z−BPウェーハは、0から144時間において、ゆっくりと継続的に内部に含有されている活性成分(活性化合物)を放出することができる。これらのデータは、p(CPP−SA)−Z−BPを、(Z)−ブチリデンフタリドを含有する制御放出剤形として使用することができるということを示している。従って、対象の中へp(CPP−SA)−Z−BPウェーハを移植した場合、(Z)−ブチリデンフタリドを周囲の膵臓組織へとゆっくりと継続的に放出することができ、そのため、継続した治療効果を達成することができる。
【0043】
(実施例4)細胞実験:p(CPP−SA)−Z−BP医薬製剤の細胞毒性効果
【0044】
ヒト膵臓癌細胞株PACA−2を、(Z)−ブチリデンフタリドをそれぞれ0重量%(コントロール群)、17.5重量%または25重量%含む、p(CPP−SA)−Z−BPと共に、24時間培養し、その後、腫瘍細胞形態および細胞生存率を観察した。
【0045】
図5Aにおいて示すように、コントロール群(すなわち、(Z)−ブチリデンフタリド無しのp(CPP−SA))と比較して、17.5重量%または25重量%の(Z)−ブチリデンフタリドを含むp(CPP−SA)−Z−BPは、PACA−2細胞株の生存率を効果的に減少させることができていた。図5Bにおいて示すように、17.5重量%または25重量%の(Z)−ブチリデンフタリドを含むp(CPP−SA)−Z−BPの処置では、PACA−2細胞株にアポトーシスを引き起こしていた。前述の実験データは、本発明のp(CPP−SA)−Z−BP医薬製剤が、膵臓癌細胞の増殖を効果的に阻害することができるということを示している。
【0046】
(実施例5)細胞実験:Z−BPにより誘導されるアポトーシス
【0047】
(1)mRNAの発現レベルの分析
オーファン受容体−1(NOR−1)、Nurr1およびNur77のアップレギュレートされた発現には、アポトーシスが関連していることが知られている。この実験では、膵臓癌細胞株PANC−1およびPACA−2を、100μg/mlのZ−BPを用いて0、1、3、6または24時間処置し、その後、当該膵臓癌細胞株でのNOR−1、Nurr1およびNur77の遺伝子発現レベルにおいてZ−BPの効果を分析するために、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって分析した(図6A)。さらに、膵臓癌細胞株PANC−1およびPACA−2を、異なる濃度のZ−BPを用いて3時間処置し、その後、RT−PCRによって分析した(図6B)。コントロール群として、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を使用した。
【0048】
図6Aに示すように、膵臓癌細胞株PANC−1およびPACA−2がZ−BPを用いて1から3時間処置された後、当該膵臓癌細胞株におけるNOR−1およびNurr1のmRNA発現レベルが増加していた。図6Bに示すように、膵臓癌細胞株PANC−1およびPACA−2が異なる濃度のZ−BPを用いて3時間処置された後、当該膵臓癌細胞株におけるNurr1のmRNA発現レベルが増加していた。当該Nurr1のアップレギュレートされた発現の結果は、Z−BPにより誘導された、PANC−1およびPACA−2のアポトーシスの初期段階を明らかとするものであった。
【0049】
(2)マイクロRNA干渉試験
ヒト膵臓癌細胞株PACA−2におけるNurr1のRNA発現を、マイクロRNA干渉技術によって阻害した。当該細胞を133μMのZ−BPを用いて処置し、その後、細胞中のNurr1のRNA発現における変化を検出するために、RT−PCRによって分析した。図7Aにおいて示される結果のように、PACA−2を50nMのNurr1マイクロRNAを用いて処置した場合、Z−BPにより誘導されたNurr1の約50%が阻害された。これらの結果は、Z−BPの処置が実際にNurr1の発現量を増加することができるということを示している。
【0050】
さらに、ヒト膵臓癌細胞株PACA−2を、10nMまたは50nMのNurr1マイクロRNAを用いて処置し、その後、133μMのZ−BPで処置した。次いで、実施例4において記載した同様の方法を使用して、細胞生存率を観察した。図7Bにおいて示すように、PACA−2細胞が50nMのNurr1マイクロRNAを用いて処置された後には、Z−BPによって阻害された細胞生存率を戻すことができている。これらの結果は、Z−BPの処置がPACA−2細胞の細胞生存率を減少し得るということを示している。
【0051】
(3)ウェスタンブロッティング試験
ヒト膵臓癌細胞株PACA−2を、Z−BPを用いて0、30、60、120または180分間処置し、その後、Nur77遺伝子に関与する経路関連タンパク質の発現レベルをウェスタンブロッティングによって分析した。当該タンパク質は、Pan−PKC、AKT、ERKおよびJNKを含んでいる(図8A)。さらに、アポトーシス関連タンパク質の発現レベルも分析した。これには、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)、切断ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(cPARP)およびカスパーゼ−3が含まれる(図8B)。コントロール群として、β−アクチンを使用した。
【0052】
図8Aにおいて示すように、PACA−2細胞がZ−BPを用いて180分間処置された後には、PACA−2細胞におけるホスホ−JNK(Pi−SAPK/JNK)およびホスホ−AKT(Pi−AKT)の発現レベルは増加していた。これは、Z−BPの処置でNur77遺伝子経路関連タンパク質の発現レベルを増加させることができるということを示している。図8Bにおいて示すように、PACA−2細胞をZ−BPを用いて24時間または48時間処置された後には、PACA−2細胞におけるカスパーゼ−3、PARPおよびcPARPの発現レベルは増加していた。これは、Z−BPの処置でアポトーシス関連タンパク質の発現レベルを増加させることができるということを示している。
【0053】
(実施例6)動物実験:p(CPP−SA)−Z−BPによるマウスの膵臓腫瘍の大きさの縮小
【0054】
ヌードマウス(6マウス/群)に、PACA−2細胞(1×10cells)を含む皮下背部移植の処置をした。その後、0%(コントロール群)、17.5%または25%のZ−BPを含むp(CPP−SA)−Z−BPを、PACA−2細胞を移植した領域を介してマウスの中へ移植した。そして、それぞれのマウスにおける腫瘍の大きさを測定器(較正器)によって測定し、それぞれのマウスの体重を測定した。腫瘍の体積は、長さ(長軸の長さ)×高さ×幅(短軸の長さ)×0.5236(L×H×W×0.5236)(立方ミリメートル)の式によって算出した。結果を、図9および図10において示す。
【0055】
図9において示すように、コントロール群のマウス(Z−BP無しのp(CPP−SA)−Z−BPで処置されたマウス)における膵臓腫瘍の相対的な大きさは、実験開始から30日後には、1000よりも大きく急速に拡大していた。一方、実験群のマウス(17.5%または25%のZ−BPを含むp(CPP−SA)−Z−BPで処置されたマウス)における膵臓腫瘍の相対的な大きさは、約200であった。図10において示すように、それぞれの群でのマウスの体重における有意な変化は無かった。これらの実験結果は、p(CPP−SA)−Z−BPの処置(治療)が、マウスにおける膵臓腫瘍の増殖を効果的に阻害することができることを示している。
【0056】
上記の実験結果は、本発明の(Z)−ブチリデンフタリドを含む医薬製剤が、膵臓癌細胞の増殖を効果的に阻害でき、従って、膵臓癌を治療するために使用することができるということを示している。加えて、本発明の医薬製剤は、制御放出剤形を形成するための疎水性の生体適合性ポリマーをさらに含むことができ、それにより、膵臓癌においてゆっくりと継続的な治療効果を提供することができる。
【0057】
上記の実施例は、本発明の原理および効果を説明するために使用されるものであり、本発明を限定するために使用されるものではない。当業者は、本発明に記載されている開示および提案に基づいて、その技術的原理および精神から逸脱することなく、様々な修正および代替を用いて実施できるだろう。従って、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲において規定されているものである。
【0058】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願103119393(出願日2014年6月4日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
図1A
図1B
図2
図7B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図8A
図8B
図9
図10