(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に、う蝕象牙質組織の化学的処置のための前記手段により、軟化し、及び/又は、溶解したう蝕象牙質組織の機械的除去のための手段を含んでなる、請求項1又は2に記載の部品キット。
製剤が、1〜2%(w/w)濃度の第一の活性成分NaOCl、9.5〜10.5のpHを有し、グルタミン酸、ロイシン及びリシンの混合物0.5〜1.5%(w/w)、NaCl0.5%(w/w)、TiO2:0.03%(w/w)を含む第二の成分;及び中粘度のカルボキシメチルセルロースゲル2.5〜5%(w/w)を含む水性組成物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の部品キット。
【発明を実施するための形態】
【0025】
う蝕象牙質組織を取り除くことによって、う蝕象牙質組織のみが除去され、即ち、何も、又は実質的に、他に何も除去されていないことを意味する。従って、健常な象牙質組織は全く除去されず、又はほとんど除去されない。
【0026】
選択的に標識化されることによって、健常な象牙質組織の標識化を行わず、う蝕象牙質組織とヒドラジン誘導体の間でのみ標識化が行われることを意味する。
【0027】
非可逆的に標識化することによって、う蝕象牙質組織と反応するヒドラジン誘導体が、例えば、水、NaClの水溶液、又はNaOHの水溶液で濯ぐ間、除去されないということを意味する。
【0028】
いかなる特定の理論に拘束されることを望まないが、う蝕象牙質組織のヒドラジン誘導体との非可逆的標識化は、う蝕象牙質組織とヒドラジン誘導体の間で一つ又はそれ以上の共有結合の形成に起因すると信じられる。
【0029】
う蝕象牙質組織はエステル基を含み、そして健常な象牙質組織はアミド基を含むので、ヒドラジン誘導体は、これら両方において、アミドとは遅いにもかかわらず、カルボニル基とは反応すると期待される。しかしながら、本発明の発明者らは、ヒドラジン誘導体が健常な象牙質組織と混合したとき、何も他に反応を観察しなかった。
【0030】
う蝕象牙質組織のヒドラジン誘導体との、恐らくう蝕象牙質組織とヒドラジン誘導体の間の共有結合の形成を通した非可逆的標識化は、過剰なヒドラジン誘導体がう蝕象牙質組織を標識化する程度に影響を与えることなく濯ぐことにより、容易に除去され得る利点を有する。これは、より正確なう蝕の除去、即ち、健常な象牙質組織に影響を与えることなく、できるだけ多くのう蝕象牙質組織の除去を可能にする、何故ならば、実質的に全てのう蝕象牙質組織が、濯ぎの後、標識化されたまま留まるからである。
【0031】
対照的に、う蝕象牙質組織に非共有結合を形成する染料を用いる従来法における濯ぎ工程は、う蝕象牙質組織の一部のみを標識化することになる過剰の染料の除去に加えて、染料の相当量の除去に容易にもたらすことになるかもしれない。う蝕象牙質組織に静電結合のみを形成するアシッドレッド(Acid Red)などの染料で標識化されるう蝕象牙質組織を濯ぐことは、過剰染料の除去のみならず、即ち、う蝕象牙質組織の一部が染料で標識化された後で、う蝕象牙質組織に結合した染料の解放をもたらすことを本発明の発明者らが見つけた。もちろん、そのような部分的標識化は、全てのう蝕組織を除去することが望ましい場合役には立たない。
【0032】
本発明において、化学的手段は、ヒドラジン誘導体で標識化されたう蝕象牙質組織を除去するために使用される。この文書において、う蝕象牙質組織の化学的処置のための手段は、う蝕象牙質組織を除くため、それを軟化させ、及び/又は、溶解させるために使用し得る製剤又は組成物と定義される。そのような手段は、当該分野で公知であり、そしてマイナスの形で健常な象牙質組織に影響を与えない。その結果、う蝕象牙質組織を取り囲む健常な象牙質組織は、う蝕性組織の除去の間、例えば、レーザを基礎とする方法において、保護する必要がない。
【0033】
発明の第一の態様において、(i)ヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物、及び(ii)う蝕象牙質組織の化学的処置のための手段;を含む、う蝕象牙質組織の検出と除去のための部品キットが提供される。
【0034】
発明の実施態様において、上記又は下記の通りに定義された部品キットが提供され、ここで、ヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物は、Rが発色団を含む、又はNHNH
2と一緒に発色団を形成する化学基であることを特徴とする式(I)の化合物、
RNHNH
2 (I)
である。発色団は、式(I)の化合物とう蝕象牙質組織の反応の前、その時、その後、形成されてもよい。
【0035】
この文書において、用語「発色団」は、その色をもたらす分子の部分を意味する。色は、分子のその部分が可視光のある波長を吸収し、そして伝達し、他のものを反射するとき発生する。
【0036】
式(I)のヒドラジン誘導体は、それ自身により、又はう蝕象牙質組織との反応の後、日光でヒトの肉眼に対して見えるようになり、即ち、ヒドラジン誘導体は可視光を反射する。この文書において、可視光は、約380nm〜約750nmの範囲の波長を有する電磁放射として定義される。従って、検出のためにいかなる光学的器具も必要ではない。
【0037】
式(I)のヒドラジン誘導体は、例えば、カルバジド又はヒドラジドであってもよいことは、理解されるべきであろう。
【0038】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義する部品キットを提供し、ここで、ヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物は:
【化1】
【化2】
【化3】
(ここで、M又はM
+は、Li
+、K
+、及びNa
+から選択される一価の金属イオン表わす)、及び
【化4】
から成るグループから選択される。
【0039】
発明の更なる実施態様において、以前の態様、実施態様又は特許請求範囲のいずれかに記載の部品キットが提供され、ここで、ヒドラジン誘導体は、式(Ia)の化合物:
【化5】
であり、ここで、MはLi
+、K
+及びNa
+から選択される。MがK
+であるとき、式(Ia)の化合物は、ルシファーイエロー(Lucifer Yellow)と命名される。
【0040】
発明の更なる実施態様において、以前の態様、実施態様又は特許請求範囲のいずれかに記載の部品キットが提供され、ここで、ヒドラジン誘導体は、式(Ib)の化合物:
【化6】
であり、ここで、M
+は、Li
+、K
+及びNa
+から選択される一価の金属イオンを表す。
【0041】
M
+が、Na
+であるとき、式(Ib)の化合物の商標名は、Alexa Fluor(登録商標)594のヒドラジドナトリウム塩である。
【0042】
式(Ib)の化合物の化学名は、6−(2−カルボキシ−5−(ヒドラジンカルボニル)フェニル)−1,2,2,10,10,11−ヘキサメチル−2,10−ジヒドロ−1H−ピラノ[3,2−g]ジキノリン−11-イウム−4,8−ジイル)メタンスルホナートである。
【0043】
発明の更なる実施態様において、以前の態様、実施態様又は特許請求範囲のいずれかに記載の部品キットが提供され、ここで、ヒドラジン誘導体は、式(Ic)の化合物:
【化7】
であり、ここで、M
+は、Li
+、K
+及びNa
+から選択される一価の金属イオンを表す。
【0044】
M
+がNa
+であるとき、式(Ic)の化合物の商標名は、Alexa 350である。
【0045】
発明の更なる実施態様において, 以前の態様、実施態様又は特許請求範囲のいずれかに記載の部品キットが提供され、ここで、ヒドラジン誘導体は、式(Id)の化合物:
【化8】
である。
【0046】
式(Id)の化合物の商標名は、5−(((2−(カルボヒドラジノ)メチル)チオ)アセチル)アミノフルオレセインであり、一方、式(Id)に対してChemdraw (CS Chemdraw Ultra, Cambridge Soft, USA)で提案される化学名は、5−(2−2−ヒドラジニル−2−オキソエチルチオ)アセトアミド)−2−(3−ヒドロキシ−6−オキソ−6H−キサンテン−9−イル)安息香酸である。
【0047】
上記又は下記に記載のヒドラジン誘導体は、一つ又はそれ以上のヒドラジン誘導体と混合してもいいことは理解されるべきである。
【0048】
ヒドラジン誘導体の例としては、HiLyte Fluor(登録商標)488 ヒドラジド、HiLyte Fluor(登録商標)555ヒドラジド、HiLyte Fluor(登録商標)594 ヒドラジド、HiLyte Fluor(登録商標)647ヒドラジド、HiLyte Fluor(登録商標)680ヒドラジドがある。
【0049】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載のヒドラジン誘導体は、水、グリセリン、プロピレングリコール、ミネラルオイル、エタノール、アセトン、ポリソルベート80などの溶媒に溶解し、又は分散させてもよい。
【0050】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載した部品キットは、また、ヒドラジン誘導体をう蝕象牙質組織に適用するためのツールを含んでもよい。そのようなツールの例としては、ブラシ、シリンジ、ペン、繊維状のペレット、又はその他いかなる繊維状のウェブ(web)材料も含むが、それに限定されない。
【0051】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載した部品キットは、濯ぎ溶液を含むか、又はそれと一緒に使用される。例えば、濯ぎ溶液は、水、ブライン又はその他いかなる生理学的に許容可能な水溶液であってもよい。
【0052】
発明の更なる実施態様において、部品キットは、リドカイン又はベンゾカインなどの麻酔薬を含む。麻酔薬は、ヒドラジン誘導体と混合してもよく、又は部品キットの化学的手段に加えてもよい。
【0053】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義される部品キットが提供され、ここで、う蝕象牙質組織の化学的処置のための前記手段は、う蝕象牙質組織を軟化させ、及び/又は、溶解させることができる製剤である。
【0054】
発明の更なる実施態様において、更にう蝕象牙質組織の化学的処置のための前記手段により、軟化し、及び/又は、溶解したう蝕象牙質組織の機械的除去のための手段を含む上記又は下記で定義される部品キットが提供される。
【0055】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義される部品キットが提供され、ここで、う蝕象牙質組織の化学的処置のための手段は、第一の活性でう蝕溶解成分、及び粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる第二の成分の形態の活性でう蝕溶解性の二成分液体、及び粘度増強物質を含む製剤である。製剤は液体製剤、例えば、水性組成物であってもよい。第一の活性でう蝕溶解成分は、例えば、凍結乾燥により、粉末として製造され、そして保持されてもよく、そして、その後、第二の成分と混合してもよい。粉末は、第二の成分と混合する前に、水などの液体に溶解してもよい。
【0056】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義される部品キットが提供され、ここで、活性でう蝕溶解成分は、Cl
1+ 、次亜塩素酸カリウム又は次亜塩素酸ナトリウムである。
【0057】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義される部品キットが提供され、ここで、粘膜に対する攻撃性を低下させる成分は、アミノ酸の混合物又はアミノエタンジオール、3−アミノ−2,3−ジメチルプロパノール及び1,5−ジアミノペンタノールの混合物を含む。アミノ酸は、脱プロトン化されてもよく、又は双性イオン形体で存在してもよい。
【0058】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義される部品キットが提供され、ここでアミノ酸は、異なった電荷状態;一つが中性、一つが実効負電荷、及び一つが実効正電荷を備えた三つのアミノ酸である。
【0059】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義される部品キットが提供され、ここで粘度増強剤は、ゲルである。
【0060】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義される部品キットが提供され、ここで、ゲルは、カルボキシメチルセルロース又は多糖物質である。
【0061】
上記又は下記で記載されるゲル物質は、二成分液体に粘性を与え、活性なう蝕溶解成分の粘膜に対する攻撃的影響を低下させる特性を有するべきである。
【0062】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義されるヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物を、更に含む製剤が提供される。製剤は水性組成物のような液体製剤であってもよい。ヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物は、以上又は以下で定義した通りである。
【0063】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で定義される製剤が提供され、ここでう蝕溶解成分は、<1%(w/w)濃度の水性NaOClであり、及び粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる成分は、グルタミン酸、ロイシン、リシン、NaCl、高粘度のカルボキシメチルセルロースであるゲル物質及びヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物を含む。製剤は水性組成物のような液体製剤であってもよい。ヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物は、上記又は下記で定義された通りである。更に、製剤は、TiO
2を含んでもよい。
【0064】
発明の更なる実施態様において、更に、染料を含む上記又は下記で記載される部品キット又は製剤が提供される。染料の例としては、エリスロシン(E−127B)及びヒドラジン誘導体を挙げられるが、それに限定されない。
【0065】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載される部品キットが提供され、ここで、う蝕性組織の化学的処置のための手段としては、製剤Carisolv(登録商標)がある。製剤Carisolv(登録商標)は、NaOClを1〜2%(w/w)濃度有する第一の活性成分;pHが9.5〜10.5の間であり、グルタミン酸、ロイシン及びリシンを0.5〜1.5%(w/w)の混合物、及びNaClを0.5%(w/w)含む第二の成分;及び高粘度のカルボキシメチルセルロースゲルを2.5〜5%(w/w)を含む水性組成物である。組成物は、更に、Na
2−エリスロシン(着色剤)を含んでもよい。
【0066】
発明の更なる態様において、上記又は下記で記載される部品キットが提供され、ここで、う蝕性組織の化学的処置のための手段としては、製剤PerioPlus(登録商標)がある。製剤PerioPlus(登録商標)は、NaOClを1〜2%(w/w)濃度有する第一の活性成分;pHが9.5〜10.5の間であり、グルタミン酸、ロイシン及びリシンの混合物0.5〜1.5%(w/w)、及びNaClを0.5%(w/w)、TiO
2を0.03%(w/w)含む第二の成分;及び中粘度のカルボキシメチルセルロースゲルを2.5〜5%(w/w)を含む水性組成物である。
【0067】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載される部品キットが提供され、ここで、う蝕性組織の化学的処置のための手段としては、ルシファーイエローなどの式(I)のヒドラジン誘導体で代替した製剤Carisolv(登録商標)がある。それ故、う蝕性組織の化学的処置のための手段としては、NaOCl1〜2%(w/w)濃度有する第一の活性成分;pHが10と同等又はそれ以下であり、グルタミン酸、ロイシン及びリシンの混合物0.2〜0.4%(w/w)、及びNaClを0.3%(w/w)含む第二の成分;及び高粘度のカルボキシメチルセルロースゲルを3%(w/w)含む水性組成物である製剤であってもよい。組成物は、更に、Na
2−エリスロシン(着色剤)を含んでもよい。高粘度のカルボキシメチルセルロースは、1%H
2O(25℃)中で、1500〜3000センチポアズ(cP)として定義される。
【0068】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載される歯根う蝕の選択的検出及び処置のための部品キットの使用が提供される。
【0069】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載される歯の根管におけるう蝕の選択的検出及び処置のための部品キットの使用が提供される。
【0070】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載される歯根う蝕の選択的検出及び処置のための部品キットの使用が提供される。
【0071】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載される歯根う蝕の選択的検出及び処置のための部品キットの使用が提供される。
【0072】
発明の更なる実施態様において、第一の活性う蝕溶解性成分、及び粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる第二の成分の形態の活性う蝕溶解性の二成分液体、ゲル物質及び一つ又はそれ以上のヒドラジン誘導体である化合物を含むう蝕の化学的処置のための製剤が提供される。ヒドラジン誘導体は、上記又は下記で定義される式(I)のヒドラジン誘導体であってもよい。一つの実施態様において、ヒドラジン誘導体は、ルシファーイエローである。う蝕溶解性成分は、Cl
1+、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウムであってもよい。粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる成分は、アミノ酸混合物、又はアミノエタンジオール、1−アミノ−3,3−ジメチルプロパノール及び1,5−ジアミノペンタノールの混合物であってもよい。粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる成分は、異なった電荷状態:一つが中性、一つが実効負電荷、及び一つが実効正電荷を備えた三つのアミノ酸を含んでもよい。ゲル物質はカルボキシメチルセルロース又は多糖物質であってもよい。カルボキシメチルセルロースは、高粘度のカルボキシメチルセルロースであってもよい。
【0073】
発明の更なる実施態様において、NaOClを1〜2%(w/w)濃度有する第一の活性成分;10と同等又はそれ以下のpH、そしてグルタミン酸、ロイシン及びリシンを0.2〜0.4%(w/w)、及びNaClを0.5%(w/w)含む混合物を含む第二の成分;及び高粘度カルボキシメチルセルロースゲル3%(w/w)中のNa
2−エリスロシン(着色剤)及びルシファーイエローを含む水性組成物である製剤が提供される。製剤は、更に、TiO
2を、例えば、0.03%(w/w)の濃度で含んでもよい。ルシファーイエローの濃度は、15〜50mMの間であってもよい。
【0074】
発明の更なる態様において、(i)ヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物;及び(ii)う蝕象牙質組織の化学的処置用の手段を含む、う蝕象牙質組織の検出と除去用の部品キットを用いるう蝕象牙質組織の標識化と除去ための方法が提供される。一つ又はそれ以上のヒドラジン誘導体は、上記又は下記で定義した通りの式(I)の化合物であってもよい。
【0075】
発明の更なる態様において、第一の活性でう蝕溶解性の成分、及び粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる第二の成分の形態の活性でう蝕溶解性の二成分の液体、ゲル物質、及びヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物を含む製剤を用いるう蝕象牙質組織の標識化と除去のための方法が提供される。ヒドラジン誘導体は、上記又は下記で定義される通りの式(I)のヒドラジン誘導体であってもよい。一つの実施態様において、ヒドラジン誘導体は、ルシファーイエローである。う蝕溶解性の成分は、Cl
1+、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウムであってもよい。粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる成分は、アミノ酸混合物、又はアミノエタンジオール、1−アミノ−3,3−ジメチルプロパノール及び1,5−ジアミノペンタノールの混合物であってもよい。粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる成分は、異なった電荷状態;一つが中性、一つが実効負電荷、及び一つが実効正電荷を備えた三つのアミノ酸を含んでもよい。ゲル物質はカルボキシメチルセルロース又は多糖物質であってもよい。カルボキシメチルセルロースは、高粘度のカルボキシメチルセルロースであってもよい。
【0076】
発明の更なる態様において:
(i)う蝕象牙質組織を含む一つ又はそれ以上の歯の上にヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物を適用することによりう蝕象牙質組織を標識化すること、
(ii)う蝕象牙質組織の化学的処置用の手段を標識化う蝕組織に対して適用すること、及び
(iii)機械的手段により標識化したう蝕象牙質組織を除去すること、
の工程を含む、う蝕象牙質組織の標識化及び除去のための方法が提供される。
【0077】
発明の更なる態様において:
(i)第一の活性でう蝕溶解性の成分、及び粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる第二の成分の形態の活性でう蝕溶解性の二成分の液体、ゲル物質、及びヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物、う蝕象牙質組織を含む一つ又はそれ以上の歯を含む製剤の適用によるう蝕象牙質組織の標識化、及び
(ii)機械的手段による標識化う蝕象牙質組織の除去、
の工程を含むう蝕象牙質組織の標識化と除去のための方法が提供される。
【0078】
発明の更なる態様において:
(i)う蝕により患部面上にヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物を適用することによりう蝕組織を標識化すること、
(ii)標識化したう蝕組織へ化学的処置のための手段を適用すること、及び
(iii)標識化したう蝕組織を機械的手段により取り除くこと、
の工程を含む歯根う蝕の標識化と処置のための方法が提供される。
【0079】
発明の更なる態様において:
(i)第一の活性でう蝕溶解性の成分、及び粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる第二の成分の形態の活性でう蝕溶解性の二成分の液体、ゲル物質、及びヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物、う蝕象牙質組織を含む一つ又はそれ以上の歯を含む製剤の適用によるう蝕象牙質組織の標識化、及び
(ii)機械的手段により標識化されたう蝕象牙質組織の除去、
の工程を含む歯根う蝕の標識化と処置のための方法が提供される。
【0080】
発明の更なる態様において:
(i)歯の根管に、ヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物を適用することによりう蝕性組織を標識化すること、
(ii)う蝕性組織の化学的処置のための手段を標識化されたう蝕性組織に適用すること、及び
(iii)標識化されたう蝕性組織を機械的手段により取り除くこと、
の工程を含む歯の根管の標識化と処置のための方法が提供される。
【0081】
発明の更なる態様において:
(i)第一の活性でう蝕溶解性の成分、及び粘膜に対する活性成分の攻撃性を低下させる第二の成分の形態の活性でう蝕溶解性の二成分の液体、ゲル物質、及びヒドラジン誘導体である一つ又はそれ以上の化合物、う蝕象牙質組織を含む一つ又はそれ以上の歯を含む製剤の適用によるう蝕象牙質組織の標識化、及び
(iii)機械的手段により標識化されたう蝕象牙質組織の除去;
の工程を含む歯の根管の標識化と処置のための方法が提供される。
【0082】
発明の更なる実施態様において、更に、工程(i)、工程(ii)、及び/又は、工程(iii)の後で、例えば、濯ぎ工程を含む上記又は下記に記載の方法が提供される。
【0083】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記に記載の方法が提供され、ここで、標識化う蝕象牙質組織の機械的除去のための手段は掻爬用器具である。
【0084】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載された方法が提供され、ここで、一つ又はそれ以上のヒドラジン誘導体は、上記又は下記で記載された通りである。
【0085】
更なる実施態様において、上記又は下記で定義する通りのヒドラジン誘導体と一緒に、恐らく、健常な象牙質の存在下で、標識化したう蝕性組織を含むう蝕象牙質組織の標識化及び除去のための方法が提供される。例えば、ヒドラジン誘導体は、上記又は下記で定義する通り、式(I)の化合物であってもよい。方法は、更に、濯ぎ工程を含んでもよい。更に、方法は、上記又は下記で定義した通りう蝕象牙質組織の処置のための化学的手段で標識化されたう蝕性組織の処置を含んでもよい。例えば、化学的手段は、製剤Carisolv(登録商標)であってもよい。
【0086】
発明の更なる実施態様において、上記又は下記で記載された部品キット又は製剤を用いてう蝕象牙質組織の標識化と除去のための方法が提供される。
【0087】
上記又は下記で記載された方法は、繰り返し使用してもよいことは理解されるべきである。
【0088】
発明は以下の実施例で説明されるが、それに限定されない。
【実施例】
【0089】
以下の実施例で使用される化学物質は、Ultradent、Sigma、Aldrich及びInvitrogen社からそれぞれ購入した。SEEKは、Ultradent Products社(USA)から購入し、ルシファーイエロー、即ち、MがK
+である上記化合物Iaは、Sigma社から購入した。アシッドレッド1(Acid red 1)は、Aldrich社から購入した。Alexa fluor (登録商標)594ナトリウム塩、Alexa-350、及び5−(((2−(カルボヒドラジノ)メチル)チオ)アセチル)アミノフルオレセインは、Invitrogen社から購入した。
【0090】
アシッドレッド1の化学構造は、以下の通りに表示される。
【化9】
【0091】
略号
FTIR:フーリエ変換赤外分光法;
TOF SIMS:飛行時間型二次イオン化質量分析法;
FT:フーリエ変換;
IR:赤外分光法;
u:質量/電荷比;
s:秒;
nm:ナノメートル;
KeV:キロ電子ボルト;
pA:ピコアンペア;
amu:原子質量単位;
MQ:超純水:ミリ−Q−システム、ミリポア(USA)からの;
cP:センチポアズ;
w/w:溶質の質量と溶液のw/w;
M:モル/リットル;
mM:ミリモル/リットル;
【0092】
〔実施例1〕
以前に歯科修復を全く行っていない二つの抜歯したヒト永久歯は、厳しいう蝕組織状態の故に選択され、そして抜歯後一週間以内にFTIRで分析した。う蝕歯の病変の最外側部分が除去された。残留したう蝕性組織は、変色した、軟質の、感染したう蝕性組織を有する一つの外層、及び未着色として見られる一つの内層の二層に分けられ、触覚的手法で残留した健常な象牙質の予測硬さまで掘り出される。各々の歯に対して、一つのサンプルは、健常な象牙質から採取され、そして別のサンプルは、う蝕組織の内層から採取された。純水でインキュベーションした後、それらは、雰囲気温度で乾燥のために放置した。各々の歯サンプルの乾燥質量は、約1mgであった。その後、各々のサンプルは、合計ペレット質量100mgでその後のFTIR試験を行う前に、臭化カリウム(KBr)と混合した。IR分析は、Mattson Cygnus 100のFTIR分光光度計を用いて、解像度4cm
-1で行った。器具は、大気中のCO
2及びH
2Oを除去するために、分析器具用の品質の空気でパージし、乾燥し、そしてBalstron type 75-60のコンディショナで精製した。スペクトルは、FTIRソフトウエアを用いてベースラインを補正した。全てのスペクトルに対して、同一の波数位置が選択された。各々のスペクトルは、100スキャンして得られた。ピーク又は特定のショルダを強化し、更に、調査するために、フーリエのセルフデコンボリューション(Self-Deconvolution)技術を用い、次に参照として設定した無病息災の(sound healthy)象牙質とのスペクトル減算処置を行った。
【0093】
図1aは、得られたデコンボリュートしたFTIRスペクトルを示す。曲線A及びBは、二つの抜歯された歯の健常な象牙質組織から採取されたサンプルから得られた。曲線C及びDは、二つの抜歯された歯のう蝕性組織の内層から採取されたサンプルから得られた。精密検査より、曲線C及びDは、1740cm
-1において、小さいピーク(「ショルダ」)を示した。このピークは、曲線A及びBでは存在しない。う蝕組織において1740cm
-1におけるピークの存在は、既に、WO第2008/048170号で報告され、そして、それはう蝕組織におけるエステル基の存在に起因する。
【0094】
図1bは、曲線Bが
図1aにおける曲線C及び曲線Dから減算処置され、曲線C′及び曲線D′が得られたFTIRスペクトルを示す。1740cm
-1におけるピークは、曲線C′及びD′において非常に明確に表れる。これは、エステル基がう蝕性象牙質組織にのみ表れ、そして健常な象牙質組織には表れない明確な証拠である。
【0095】
〔実施例2〕
この実験は、追加色のSEEK、アシッドレッド1、ルシファーイエロー、ルシファーイエローとアシッドレッド1の組合せ、又は、5−(2−2−ヒドラジニル−2−オキソエチルチオ)アセトアミド)−2−(3−ヒドロキシ−6−オキソ−6H−キサンテン−9−イル)安息香酸、Alexa Fluor(登録商標)594及びAlexa 350が、臨床的にう蝕フリーと表示される表面に掘り出した後、う蝕面に結合するか否かを判断することを目的とする。実験は4日間行った。
【0096】
全てのう蝕の感染歯は、硬化後、のこ引きの前にホルダとして使用される(のこぎりのブランド名:Zaw Micro Tone, German)オルトアクリルゲルに加えられた。厚さ150μmであるスライス板は、試験すべき各々の色で終夜放置した(1日目)。2日目に、着色剤を、MQ水でスライス板を濯ぐことにより洗浄し、そして歯の部分は、顕微鏡で(6.7倍:可視光)、UVで(顕微鏡なし)、又は蛍光顕微鏡(100倍)で写真を撮った。その後で、水性の塩溶液(NaCl:1M)をスライス板に加え、終夜インキュベーションした。3日目に、スライス板をMQ水で洗浄し、そしてその後、同一の検出法を上記で記載の通りに使用した。最終的に、歯のスライス板は、NaOHの水溶液(0.5M)に終夜曝した。洗浄と検出の経路は、その後、以前に記載した通りに繰り返した(4日目)。
【0097】
1MのNaClでインキュベーションした後(2日目)、スライス板を検査して、アシッドレッド1で処置したスライス板は変色し、残留した染色部は、ほとんどなかったことが示された。NaOHで洗浄した後(4日目)、アシッドレッド1で処置したスライス板の着色は、可視光を用いては全く検出されず、そして顕微鏡ではわずかに検出されるのみであった。一方、ルシファーイエロー、ルシファーイエローとアシッドレッド1の組合せ、1,5−(2−2−ヒドラジニル−2−オキソエチルチオ)アセトアミド)−2−(3−ヒドロキシ−6−オキソ−6H−キサンテン−9−イル)安息香酸、Alexa Fluor(登録商標)594及び Alexa350で処置したスライス板は、蛍光顕微鏡で検出された通り、4日後で未だ、着色剤が含まれていた。また、SEEKで処置されたスライス板は、色がエナメル質、健常な象牙質及び根管に広がっているように見えるが、染色されたまま残留していた。
【0098】
図2aは、NaCl及びNaOHでインキュベーションした後、5−(2−2−ヒドラジニル−2−オキソエチルチオ)アセトアミド)−2−(3−ヒドロキシ−6−オキソ−6H−キサンテン−9−イル)安息香酸で処置した歯のスライス板の染色を示す。
【0099】
図2bは、NaCL及びNaOHで処置した後、ルシファーイエローナトリウム塩で処置した歯のスライス板の染色を示す。染色領域は、円と(1)で表示した。
【0100】
図2cは、NaCL及びNaOHで処置した後、Alexa Fluor(登録商標)594で処置した歯のスライス板の染色を示す。
【0101】
アシッドレッド1は、可逆的方法で、感染した歯のう蝕組織に結合するが、一方、5−(2−2−ヒドラジニル−2−オキソエチルチオ)アセトアミド)−2−(3−ヒドロキシ−6−オキソ−6H−キサンテン−9−イル)安息香酸、ルシファーイエロー、Alexa Fluor(登録商標)及びAlexa 350は、非可逆的に、感染した歯のう蝕象牙質組織に結合する。アシッドレッド1が可逆的結合する理由は、それは、う蝕性組織に静電結合のみ形成することが可能であり得ることを結論付けられる。SEEKは、非特異方法で、う蝕性組織、健常な象牙質及び根管に結合する。
【0102】
〔実施例3〕
以前に歯科修復されたことのない抜歯されたヒト永久歯が、厳しいう蝕組織状態に基づき選択され、そして抜歯後、一週間以内にFTIRで分析した。う蝕歯の病変の最外側部分は除去された。残留したう蝕性組織は、二つの層:一つは変色した、軟質の、感染したう蝕性組織;及びもう一つは、触覚的手法で制御した、残留した健常な象牙質の観察された未着色の硬質面へ掘り出す内面に分割される。
【0103】
健常な象牙質組織と最内層からのう蝕性象牙質組織を採取した。この健常な象牙質組織サンプルとう蝕象牙質組織サンプルは、各々三つのサンプルに分けた。
【0104】
健常な象牙質組織サンプル(26mg)は、以下通りに分けられ、処置される。サンプル1、以後S1と命名する(11mg)は、純水で繰り返し洗浄し、そして真空下に置かれた未処置サンプル、即ち、参照サンプル、として定義される。第二のサンプル、以後サンプルS2(8mg)と命名するは、純水で激しく洗浄した。その後、サンプルS2は、終夜の反応後、水と塩(NaCl、1M)で洗浄したヒドラジン誘導体ルシファーイエロー(13mM)の水溶液と混合した。結合したヒドラジン誘導体ルシファーイエローの蛍光は、UVランプで検査した。次に、サンプルS2を脱プロトン化するために、NaOH(0.5M)水溶液を二回添加し、そして最後に、再び、MQ水で濯ぎ、そして真空乾燥した。最終工程は、結合が静電特性を有するか否かを決めるために使用された。第三のサンプルは、以後サンプルS3(7mg)と命名し、そして最終的手法は、NaBH
4(0.5M/エタノール)で処置し、そして、ヒドラジン誘導体ルシファーイエロー(13mM)の水溶液を加える前に、アルデヒドとケトンを還元するために高濃度のエタノールで洗浄し、乾燥して、分析する前に純水で濯ぐことを繰り返した。
【0105】
う蝕象牙質組織サンプルは、上記の健常な象牙質サンプルと同じ方法で処置した。サンプルはS4、S5及びS6と命名した。サンプルS4は上記のサンプルS1と同じ処置を行った。サンプルS5は上記のサンプルS2と同じ処置を行った。サンプルS6は上記のサンプルS3と同じ処置を行った。
【0106】
その結果、合計6サンプル(健常な象牙質組織3サンプル、及びう蝕象牙質組織から3サンプル)は、抜歯後1週間以内でFTIR分析を行った。IR分析は、Nicolet 6700 FTIR分光光度計を用いて行った。Smart Orbit diamond micro-ATR(減衰全反射)器具は、サンプルから直接スペクトルを得るために使用した。
【0107】
器具は、大気中のCO
2及びH
2Oを除去するために、分析器具用の品質の空気でパージし、乾燥し、Balstron type 75-60コンディショナで精製した。スペクトルは、FTIRソフトウエアを用いてベースラインを補正した。全てのスペクトルに対して、同じ波数位置が選択された。各々のスペクトルは、100スキャンから得られ、そして解像度は4cm
-1であった。
【0108】
図3aは、サンプルS1、S2及びS3に対して、3700〜2600cm
-1の間で得られたFTIRスペクトルを示す。同じピークがS1、S2及びS3に対して現れた。
【0109】
図3bは、サンプルS4,S5及びS6に対して、3700〜2600cm
-1の間で得られたFTIRスペクトルを示す。同じピークが、S4、S5及びS6に対して現れたが、2850cm
-1の領域では、健常な象牙質組織サンプルと異なっていた。
【0110】
図3cは、サンプルS1,S2及びS3に対して、1800〜400cm
-1の間で得られたFTIRスペクトルを示す。S1、S2及びS3から得られた曲線は、1740cm
-1においてピークを示さなかった。
【0111】
図3dは、サンプルS4,S5及びS6に対して、1800〜400cm
-1の間で得られたFTIRスペクトルを示す。S4から得られた曲線は、1740cm
-1においてピークを示した。S5及びS6に対して得られた曲線は、1740cm
-1において、ピークを示さなかった。
【0112】
図3eは、波数1800〜1680cm
-1において、サンプルS4,S5、S6及びS1(象牙質参照サンプル)に対するFTIRスペクトルの強化領域を示す。
【0113】
図3a及び3cから、健常な象牙質とヒドラジン誘導体のルシファーイエローの間では、反応が起こらないことを結論付けることができる。
図3dから、う蝕象牙質組織とヒドラジン誘導体のルシファーイエローの間で反応が起こることを結論付けることができるが、何故ならば、1740cm
-1におけるピークは、サンプルS5及びS6に対して、最早、存在しないからである。従って、ヒドラジン誘導体のルシファーイエローは、選択的にう蝕象牙質組織と反応する。
【0114】
〔実施例4〕
FTIR及びTOF−SIMS分析が、作業中の歯科医師の正確さで選択され、推定されるう蝕性組織の最内層から成るサンプルグループで行われた。サンプルは、う蝕性組織の内層の歯4〜6個(37mg)からプールされた。プールされたサンプルは、一つはヒドラジン誘導体のルシファーイエローに曝され、そして、更に、TOF−SIMSで分析し、他方は、FTIR−ATRでのみ分析する二つのサブグループに分けられた。ヒドラジン誘導体であるルシファーイエローの水溶液(1.8mM)を内層のう蝕性組織(19mg)に加え、そして1時間曝した後、NaOHの水溶液(0.5M)で洗浄し、そして真空乾燥の前に純水で洗浄した。抜歯から掘り出しまでの出来事は、乾燥と物質の粉砕のために数時間延長された。その後、FTIR−ATR及びTOF−SIMSの両方を行った。FTIR−ATRは、上記の実施例3で記載した通りに行われた。飛行時間型二次質量分析は、材料の表面から下へ、〜1nmまでの分子組成の情報を与える感度の高い表面分析である。方法は、主イオンのパルスビームがサンプルホルダに投影された後、サンプル表面から放出される電荷を帯びた二次質量イオンの分離を基礎としている。使用された主イオンは、0.12pAにおけるビーム(電流)を備えた25KeVのBi
3+であった。各々のサンプルは、両面テープに取り付け、TOF−SIMS器具(TOF-SIMS IV, CAMECA/IONTOF, GmbH, Germany)で分析した。正の二次イオンの質量スペクトルは、200×200μm
2のサイスでサンプルの異なった領域から記録し、そして質量分析器で分離し、次に、TOF−SIMSとリンクしたイオン種の応用(IonTof, GmbH, Germany, ver. 4.1)からの公知の質量スペクトルと比較した。負の二次イオンの質量スペクトルは記録したが、いかなる情報も与えなかった。各々の二次イオンの単数のスペクトル、複数のスペクトルのデータ入手時間は100sであった。
【0115】
図4aは、う蝕象牙質組織に対する正のTOF−SIMSスペクトルを示す。上段のスペクトルは、粉砕したが、ヒドラジンで処置していないう蝕象牙質組織のサンプル(即ち、う蝕象牙質組織の参照サンプル)に対して記録したものである。下段のスペクトルは、ヒドラジン誘導体のルシファーイエローで処置したう蝕象牙質組織のサンプルに対して記録したものである。
【0116】
図4bは、健常な象牙質組織に対する正のTOF−SIMSスペクトルを示す。上段のスペクトルは、粉砕したが、ヒドラジンで処置していない健常な象牙質組織のサンプル(即ち、健常な象牙質組織の参照サンプル)に対して記録したものである。下段のスペクトルは、ヒドラジン誘導体のルシファーイエローで処置した健常な象牙質組織のサンプルに対して記録したものである。
【0117】
これらのスペクトルは、う蝕象牙質組織の参照サンプルが、652.56uにおいて最大の質量を保持するが、一方ヒドラジン誘導体のルシファーイエローで処置したう蝕象牙質組織は、高々1505.56uで質量を有することを示す。ルシファーイエローは、600uより高い質量を保持しない(示されていない)。従って、652.56u(
図4a、上段スペクトル)においてう蝕象牙質組織の参照サンプルに対して見られたものより高い質量は、ヒドラジン誘導体のルシファーイエローに共有結合したう蝕象牙質組織の構造に起源にする(
図4a、下段スペクトル)と結論付けることができる。C5NO2に対応する106の質量ユニットで繰り返し異なって観察された質量ユニットのパターンは、う蝕性組織に共有結合したルシファーイエローに帰属するかもしれない。このパターンは、健常な象牙質組織に対しては検出されなかった。ルシファーイエローで処置した健常な象牙質サンプルの正の質量スペクトル(
図4b、下段スペクトル)は、未処置の健常な象牙質サンプルの正の質量スペクトルと類似していた。両方は、鉱物のCaOと関連する56の質量ユニットで異なった繰り返し質量を保持している。従って、ルシファーイエローは、健常な象牙質とは反応しなかったことが結論付けられる。従って、ヒドラジン誘導体であるルシファーイエローは、選択的にう蝕象牙質組織と反応することになる。
【0118】
〔実施例5〕
小臼歯のう蝕象牙質組織は、キャビティを得るために、Carisolv(登録商標)で処置し、そしてその後、ヒドラジン誘導体Alexa 594の水溶液で染色した。ヒドラジン誘導体Alexa 594の水溶液の濃度は、15〜50mMであった。結果として、キャビティは、濃い暗青色を示した。Carisolv(登録商標)は、キャビティに加え、そして、う蝕なしのレベルまで到達するために、掘り出しは、Mediteam Dental ABからの手動器具で行った。MQ水で濯ぎを行い、そしてう蝕なしが現れた面を示す写真を撮った。歯科医師は、この面の触覚制御を行い、面はう蝕なしであることを確認した。う蝕が全く残留していないことを確実に確認するために、Alexa 594で更に染色することを試み、キャビティ中心部に非常にわずかの染色が、生成したのみであった。若干染色した表面は、Carisolv(登録商標)での処置にかけて、次いで、手動器具で掘り出した。その結果、得られた表面を染色する最終の試みが、Alexa 594でなされたが、いかなる染色も起こらなかった。従って、歯の全てのう蝕象牙質組織が除去されたと結論付けた。Alexa 594などのヒドラジン誘導体は、う蝕象牙質組織の選択的検出と除去のために、Carisolv(登録商標)などのう蝕象牙質組織用の化学的手段との組合せで使用できることも結論付けた。更に、Alexa 594での染色は、歯科医師により行われる触覚制御により、う蝕象牙質組織を検出するために、良好で、そして感度の高い方法であることを結論付けた。
【0119】
〔実施例6〕
15〜50mM濃度でのヒドラジン誘導体Alexa 594の水溶液で染色した小臼歯のう蝕象牙質組織は、染色が視覚的に検出されなくなるまで、歯科医師のドリルによる機械的処置にかけた。15〜50mM濃度でのヒドラジン誘導体Alexa 594の水溶液を加え、そして染色を発生させた。染色面は、染色を視覚的に検出されなくなるまで掘り出しを行った。歯科医師は表面を視覚的、そして触覚的器具で検査し、そして、表面にはう蝕が存在しないことを結論付けた。驚くべきことに、15〜50mM濃度でのヒドラジン誘導体Alexa 594の水溶液の、う蝕が存在しない表面への添加は、染色をもたらした。再び、染色面の掘り出しを、染色が見えなくなるまで行った。15〜50mM濃度でのヒドラジン誘導体Alexa 594の水溶液の添加を行い、そして染色がもたらされた。この実施例における上記の掘り出しと染色は、数回繰り返した。掘り出しが実施された後、染色が常に発生する結果であった。歯科医師のドリルと組み合わせて、ヒドラジン誘導体を用いたう蝕象牙質組織の選択的検出と除去は不可能であることを結論付けた。う蝕象牙質組織の選択的検出と除去のためのうまくいかない試みは、スメア層の形成に起因するかもしれないことが示唆される。これは、実施例5で記載したう蝕性象牙質組織の処置のために、化学的手段との組合せにおけるヒドラジン誘導体を用いた成功したう蝕象牙質組織の選択的検出及び除去と対比をなす。