(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルにおける油圧駆動制御装置の概略構成図である。この図に示す油圧駆動制御装置は、エンジン1と、エンジン1の燃料噴射量を調整するガバナ7と、エンジン1の実回転数を検出する回転数センサ(実回転数検出手段)6と、エンジン1の出力軸に機械的に連結され、エンジン1との間でトルクの伝達を行う電動・発電機2と、エンジン1及び電動・発電機2の出力軸に機械的に連結され、エンジン1及び電動・発電機2の少なくとも一方によって駆動される可変容量型油圧ポンプ3(以下、単に「油圧ポンプ3」と称することがある)及びパイロットポンプ32と、油圧ポンプ3から吐出される圧油によって駆動される油圧アクチュエータ5と、パイロットポンプ32から吐出される圧油を減圧してバルブ装置4に出力することで油圧アクチュエータ5を制御するための操作レバー(操作装置)16と、主に電動・発電機2を駆動するための電力を蓄えるための蓄電装置(蓄電手段)10と、油圧ポンプ3の容量を調節するポンプ容量調節装置(ポンプ容量調節手段)14と、ポンプ容量調節装置14を制御する電磁比例弁15と、電動・発電機2の制御とともに、電動・発電機2と蓄電装置10間での電力の授受を制御するインバータ(電力変換装置)9と、エンジン1、電動・発電機2及び油圧ポンプ3をはじめとする各種装置を制御するためのコントローラ(制御手段)8とを備えている。
【0015】
図1に示す油圧駆動制御装置は、油圧ポンプ3で吐出した圧油をまず複数のコントロールバルブを備えるバルブ装置4に供給し、当該バルブ装置4で圧油の流量・方向・圧力を適宜変更した後に各油圧アクチュエータ5に供給することで各油圧アクチュエータ5の駆動を制御している。バルブ装置4におけるコントロールバルブは、パイロットポンプ32から吐出され、操作レバー16の操作量に応じて減圧された圧油によって制御される。操作レバー16の操作量は、パイロットポンプ32からバルブ装置4(コントロールバルブ)に出力される圧油の圧力を圧力センサ18a,18b(
図1参照)等の圧力検出手段で検出することで検出できる。
【0016】
また、本実施の形態に係る油圧ショベルに設置される油圧アクチュエータ5としては、上部旋回体の前方に取り付けられた多関節型の作業装置を駆動するための油圧シリンダ(ブームシリンダ、アームシリンダ及びバケットシリンダ等)や、上部旋回体を旋回させるための油圧モータ(旋回モータ)や、上部旋回体の下部に取り付けられた下部走行体を走行させるための油圧モータ(走行モータ)等があるが、
図1ではこれらをまとめて油圧アクチュエータ5と表記している。
【0017】
エンジン1は、ガバナ7によって燃料噴射量を制御することで調速される。油圧ポンプ3には、油圧ポンプ3の負荷を演算するために必要な情報を検出する手段(ポンプ情報検出手段)として、油圧ポンプ3から吐出される圧油の圧力を計測する圧力センサ19(圧力検出手段)と、当該圧油の流量を計測する図示しない流量センサ(流量検出手段)と、油圧ポンプ3の傾転角を計測する図示しない角度センサ(角度検出手段)とが設置されており、これら圧力センサ19、流量センサ及び角度センサは、検出したセンサ値をコントローラ8に出力している。
【0018】
レギュレータ14と電磁比例弁15は、コントローラ8から出力される操作信号に基づいて油圧ポンプ3の容量を調節するポンプ容量調節装置である。レギュレータ14は油圧ポンプ3に備えられており、レギュレータ14によって油圧ポンプ3の斜板もしくは斜軸の傾転角を操作すると、油圧ポンプ3の容量(押しのけ容積)が変更されて油圧ポンプ3の吸収トルク(入力トルク)を制御することができる(ポンプ吸収トルク制御)。電磁比例弁15には、パイロットポンプ32に接続された配管(図示せず)を介して圧油が供給される。本実施の形態におけるレギュレータ14は、電磁比例弁15が発生する制御圧によって制御されている。電磁比例弁15は、コントローラ8から出力される指令値に基づいて作動する。
【0019】
本実施の形態に係るレギュレータ14は、例えば、
図2に示した制御特性図に従って油圧ポンプ3の容量を制御している。
図2は本発明の実施の形態に係るレギュレータ14によるポンプ吸収トルクの制御特性図である。この図に示す折れ線31Aは、油圧ポンプ3の吐出圧に対して設定される油圧ポンプ3の容量の特性を示しており、エンジン1と電動・発電機2の合計出力の最大値(
図2中の破線で示した双曲線(一定トルク線図))を超えない範囲で油圧ポンプ3のトルク(ポンプ容量とポンプ吐出圧力の積)がほぼ一定になるように設定されている。すなわち、その時々のポンプ吐出圧力に応じて折れ線31Aを利用して油圧ポンプ3の容量を設定すれば、エンジン1と電動・発電機2による最大出力を超えないように油圧ポンプ3のトルクを制御できる。ポンプ吐出圧力がP1以下である時にはポンプ吸収トルク制御は実施されず、ポンプ容量はバルブ装置4の各コントロールバルブを操作するための操作レバーの操作量によって決定される(例えば、いずれかの操作レバーの操作量が最大の時にq1になる)。一方、ポンプ吐出圧力がP1〜P2になると、レギュレータ14によるポンプ吸収トルク制御が実施され、ポンプ吐出圧の増加に伴って折れ線31Aに沿ってポンプ容量が減少するようにレギュレータ14によってポンプ傾転角が操作される。これにより、ポンプ吸収トルクは、折れ線31Aで規定したトルク以下になるように制御される。なお、P2はポンプ吐出圧力の最大値であり、バルブ装置4において油圧ポンプ3側の回路に接続されるリリーフ弁の設定圧力に等しく、ポンプ吐出圧力はこの値以上に上昇しない。なお、ここでは、油圧ポンプの吸収トルクの制御特性図として、2つの直線を組み合わせた折れ線31Aを使用したが、
図2中の一定トルク線図(双曲線)を超えない範囲で設定すれば他の制御特性図を利用しても良い。
【0020】
コントローラ8は、油圧ポンプ3の吸収トルクに基づいて生成した操作信号(電気信号)を電磁比例弁15に出力し、電磁比例弁15は当該操作信号に応じた制御圧力を生成することでレギュレータ14を駆動する。これによりレギュレータ14によって油圧ポンプ3の容量が変更され、油圧ポンプ3の吸収トルクはエンジンストールが発生しない範囲に調整される。
【0021】
バッテリ又はキャパシタ等で構成される蓄電装置10には、蓄電装置10の蓄電量を演算するために必要な情報を検出する手段(蓄電情報検出手段)として、電流センサ11、電圧センサ12及び温度センサ13が取り付けられている。コントローラ8は、これらセンサ11,12,13によって検出された電流、電圧及び温度等の情報に基づいて蓄電残量演算部21(後述)において蓄電装置10の蓄電残量を演算し、蓄電装置10の蓄電量を管理している。
【0022】
図3は本発明の第1の実施の形態に係るコントローラ8の概略構成図である。なお、先の図に示した部分と同じ部分には同じ符号を付して説明は適宜省略することがある(後の図についても同じ)。この図に示すコントローラ8は、主に油圧ポンプ3の要求動力を満たすようにエンジン1及び電動・発電機2の目標動力を設定する処理を実行する部分であり、蓄電残量演算部21と、エンジン目標動力演算部23と、ポンプ動力演算部22と、電動・発電機目標動力演算部34と、アシスト動力制御部28と、エンジン目標回転数演算部35と、エンジン目標回転数制御部36を備えている。また、コントローラ8は、ハードウェア構成として、本発明に係る各種処理プログラムを実行するための演算処理装置(例えば、CPU)、当該制御プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶装置(例えば、ROM、RAM)等を備えている(いずれも図示せず)。なお、油圧系や各種電装品等に関してもコントローラ8で制御が実施されているが、ここでは詳細な説明は省略する。
【0023】
蓄電残量演算部(蓄電残量演算手段)21は、蓄電装置10の蓄電残量(SOC:State Of Charge(以下、SOCと称することがある))を演算し、当該蓄電残量を出力する処理を実行する部分である。蓄電残量を演算する方法としては、公知のものを利用すれば良く、例えば、電流センサ11と、電圧センサ12と、温度センサ13によって検出された電流、電圧及び温度等の情報に基づいて蓄電残量を算出するものがある。
【0024】
エンジン目標動力演算部(エンジン目標動力演算手段)23は、蓄電残量演算部21から出力されたSOCに基づいて、エンジン1の目標動力(エンジン目標動力)を演算する処理を実行する部分である。エンジン目標動力は、エンジン目標動力演算部23によって、SOCの減少とともに単調増加するように設定されている。なお、ここにおける「単調増加」には、(1)SOCの減少とともにエンジン目標動力が常に増加していく「狭義の単調増加」だけでなく、(2)SOCの減少とともに、エンジン目標動力が所定のSOC区間で一定に保持されながら階段状(離散的)に増加していく「広義の単調増加」も含まれるものとする(なお、「広義の単調増加」は、SOCの減少とともに、エンジン目標動力が減少することなく増加することから「単調非減少」と呼ばれることもある。)。本実施の形態におけるエンジン目標動力演算部23は、SOCに基づいてエンジン目標動力を算出するに当たって、
図4に示す動力演算テーブルを用いている。
【0025】
図4は本発明の第1の実施の形態に係る動力演算テーブルを示す図である。このテーブルは、蓄電残量演算部21からの入力であるSOCを横軸にとっており、エンジン目標動力演算部23の出力である目標動力を縦軸にとっている。この図に示すように、本実施の形態に係る動力演算テーブルでは、SOCの減少に応じてエンジン目標動力が階段状に増加(広義の単調増加)するように設定されており、テーブル全体で見るとエンジン目標動力は左肩上がりで増加しており、左肩下がりの部分は存在していない。これにより、蓄電残量が相対的に多い(SOCが相対的に高い)場合には、エンジン目標動力が低く設定されるようになっており、エンジン1の目標動力を低くすることで燃料消費量の低減を図っている。一方、蓄電残量が相対的に少ない(SOCが相対的に低い)場合には、エンジン目標動力が大きく設定されるようになっている。すなわち、SOCが低い場合には、電動・発電機2を発電機として利用する頻度を高め、蓄電装置10が過放電になる状況の回避を図っている。
【0026】
なお、
図4の例では、SOCがS1(第1設定値)以下の値に達すると、エンジン目標動力をエンジン1の最大動力に設定しており、また、SOCがS2(第2設定値(S2はS1より大きい値とする))以上に達すると、エンジン目標動力を油圧ポンプ3の最小動力より小さい値に設定している。すなわち、SOCがS2以上のときは、電動・発電機2が電動機として動作することになる。
【0027】
また、ここでは、SOCの変化に追従してエンジン目標動力が容易に変化することを抑制する観点から、SOCの減少とともにエンジン目標動力が階段状に単調増加(広義の単調増加)するテーブルを用いた。このようにテーブルを設定すると、さらに、記憶装置の使用容量を抑制できる点や、演算処理装置の演算速度の向上が見込める点にもメリットがある。また、テーブルの設計方法はこれに限られるものではなく、例えば、後述するように、SOCの減少に応じてエンジン目標動力が常に増加(狭義の単調増加)するもの(例えば、曲線状のグラフ)を利用しても良い。
【0028】
ポンプ動力演算部(ポンプ動力演算手段)22は、油圧ポンプ3の要求動力(ポンプ要求動力)を演算し、当該ポンプ要求動力を出力する処理を実行する部分である。油圧ポンプ3の要求動力を演算する方法としては、例えば、操作レバー16の操作量(レバー操作量)を入力し、当該操作量の大小に基づいて要求動力を算出するものがある。なお、操作レバー16の操作量を求める方法としては、圧力センサ18a,18bの検出値を利用するものがある。なお、ポンプ要求動力の代わりに、油圧ポンプ3が出力している実際のポンプ動力をポンプ要求動力としてみなしても良い。この実際のポンプ動力を算出する方法としては、例えば、圧力センサ19を介して検出されるポンプ吐出圧と、流量センサを介して検出されるポンプ吐出流量とを乗じるものがある。
【0029】
電動・発電機目標動力演算部(電動・発電機目標動力演算手段)34は、エンジン目標動力とポンプ要求動力に基づいて電動・発電機2の目標動力(アシスト目標動力)を演算する処理を実行する部分である。本実施の形態では、ポンプ動力演算部22から出力されるポンプ要求動力から、エンジン目標動力演算部23から出力されるエンジン目標動力を減ずることで、アシスト目標動力が算出されている。つまり、「アシスト目標動力=ポンプ要求動力−エンジン目標動力」。ここで算出されたアシスト目標動力は、アシスト動力指令に変換されてアシスト動力制御部28に出力される。なお、アシスト目標動力が正値の場合(すなわち、「ポンプ要求動力>エンジン目標動力」の場合)は電動・発電機2は充電装置10の電力を利用して電動機として動作し、負値の場合(すなわち、「ポンプ要求動力<エンジン目標動力」の場合)はエンジン1に駆動されて発電機として動作する。
【0030】
アシスト動力制御部(アシスト動力制御手段)28は、アシスト動力指令に基づいて電動・発電機2を制御する部分であり、
図1中のインバータ9に相当する。
【0031】
エンジン目標回転数演算部(目標回転数演算手段)35は、エンジン目標動力演算部23から出力されるエンジン目標動力に基づいてエンジン1の目標回転数を演算する処理を実行する部分である。目標回転数の算出方法としては、例えば、エンジン目標動力演算部23から入力されたエンジン目標動力を達成可能な回転数とトルクの複数の組合せの中から、所望の燃費が達成される組合せを選択し、当該組合せに係る回転数を目標回転数とするものがある。ここで算出されたエンジン目標回転数は、目標回転数指令に変換されてエンジン目標回転数制御部36に出力される。
【0032】
エンジン目標回転数制御部(エンジン制御手段)36は、目標回転数指令に基づいてエンジン1を制御する部分であり、
図1中のガバナ7に相当する。
【0033】
次に上記のように構成される油圧ショベルにおいて、ポンプ要求動力、エンジン目標動力及びアシスト目標動力がSOCに応じてどのように算出されるか時系列にしたがって説明する。
【0034】
図5は、SOCがS2以上であり充分に大きい場合(例えば、夜間充電などを実施した翌日の作業開始時)におけるSOC、ポンプ要求動力、エンジン目標動力、及びアシスト目標動力が電動・発電機目標動力演算部34で変換された前述のアシスト動力指令の変化を示す図である。この図のようにSOCがS2以上の場合は、エンジン目標動力は最小値から開始する。図に示した例では、SOCはS2以上であり、エンジン目標動力の最小値は、油圧ポンプ3の最小動力以下に設定されている。この場合、電動・発電機2が発電機として動作されることは無く、電動機として動作するか動作を停止するのみとなる。
【0035】
蓄電装置10からの放電が進むと、
図5(a)に示すようにSOCが徐々に下がる。しかし、図に示した時間ではS2未満までにはSOCが下がらないので、エンジン目標動力は一定(最小値)に保持される。このように、SOCが高い場合には、エンジン目標動力が比較的低めに設定されるため、ポンプ要求動力からエンジン目標動力を減じた値は正値をとる。そのため、
図5(c)に示した電動・発電機2へのアシスト動力指令(アシスト目標動力)は助勢側(アシスト側)に働くので、エンジン1の実動力が略一定に保持されてもポンプ要求動力の変化に容易に追従することができる。特に、電動・発電機2はエンジン1よりも応答性に優れているので、オペレータの操作フィーリングを良好に保持することができる。さらに、エンジン1による燃料消費量を抑制できるので、燃料消費量及び排出ガスの削減を図ることができる。
【0036】
次に、ある程度の間、
図5に示した動作を続け、SOCがS1より大きくかつS2未満の値まで減少した時点での挙動について
図6を用いて説明する。
図6は、SOCがS1より大きくS2未満の場合(より具体的には、
図4におけるSaより大きくSbより小さい場合)におけるSOC、ポンプ要求動力、エンジン目標動力及びアシスト目標動力(すなわち、アシスト動力指令)の変化を示す図である。
【0037】
この場合は、SOCの減少に応じてエンジン目標動力演算部23で算出されるエンジン目標動力が
図5の場合よりも高い値になっている。そのため、エンジン目標動力は一定に保持されつつも、「ポンプ要求動力−エンジン目標動力」で算出される電動・発電機2のアシスト動力指令は
図6(c)に示すように充電と放電を繰り返す。
【0038】
なお、SOCの値が上記のように変化する場合には、エンジン目標動力が、ポンプ要求動力の略中央値(例えば、移動平均値)又は当該中央値よりも僅かに高い値になるように調整しておくことが好ましい。エンジン目標動力の調整は、操作レバー16の操作量からポンプ要求動力を予測して演算テーブルを逐次書き変えることで行ってもよいし、油圧ショベルの作業内容が事前に分かっている場合には当該作業内容に合わせて行っても良い。これにより、SOCが減少した場合には、エンジン目標動力がポンプ要求動力の中央値をとるため、電動・発電機2のアシスト動力指令は
図6(c)に示すように充電と放電を繰り返し、エンジン1の動力が急峻に変化することが抑制されつつ、SOCが一定水準に保たれる。これにより、電動・発電機2による助勢(アシスト)が不可能な状況を回避できる。また、エンジン目標動力をポンプ要求動力の中央値よりも高く設定することは、充電側の頻度を高めることになり、充放電に伴うエネルギ損失によりSOCが減少するのを防止する効果がある。
【0039】
最後に、SOCがS1を下回った場合の挙動について
図7を用いて説明する。
図7は、SOCがS1未満の場合におけるSOC、ポンプ要求動力、エンジン目標動力、及びアシスト目標動力(すなわち、アシスト動力指令)の変化を示す図である。
【0040】
この場合には、エンジン目標動力演算部23で算出されるエンジン目標動力がエンジン動力の最大値に設定される。そのため、電動・発電機2が電動機として動作されることは無く、発電機として動作するか動作を停止するのみとなる。そのため、
図7(a)に示したように、時間の経過とともにSOCが増加する傾向にある。
【0041】
このようにエンジン目標動力を設定すると、SOCが少ない場合には、SOCの大小に依存しないエンジンが優先的にポンプ要求動力を出力するので、オペレータの操作フィーリングを良好に保持できる。また、その際、エンジン1は定格出力点(最大動力)で運転されるため、エンジン1の燃焼状態が安定し排出ガス中に含まれる環境負荷を与える物質の含有量が抑制される。また、ポンプ要求動力が小さいときには、エンジン1の効率が良い高出力点で発電することになるので燃費の向上も期待できる。さらに、ポンプ要求動力の最大値以上の動力を出力できるエンジン1を利用すれば、ポンプ要求動力に対して動力不足になることもないので、オペレータの操作フィーリングを常に良好に維持できる。
【0042】
なお、SOCの設定値S1(
図4参照)は、本発明が適用される建設機械に係るポンプ要求動力の変化プロファイルに基づいて設計することが好ましい。例えば、油圧ショベルに適応する場合であれば、主に掘削動作時にポンプ要求動力が瞬間的に増加することがあるが、そのような場合にも、エンジン動力の急激な変化が抑制可能なアシスト動力を発生できる程度の電力が確保できるようにS1を設定することが好ましい。S1は、この最小電力に対していくらかの余裕を見積もって設計することが好ましい。このようにS1を設計すれば、エンジン動力が急激に変化することが防止でき、かつ、余裕分の見積もりによって過放電になることも回避可能である。
【0043】
上記のように構成した本実施の形態によれば、SOCが比較的高い場合には、主に電動・発電機2の動力(アシスト動力)でポンプ要求動力を負担することになるので、エンジン1では過渡的な燃料噴射が抑えられ排出ガス中の環境負荷を有する物質の含有量が抑制される。また、SOCが減少すると、エンジン1による負担分を増やす構成をとっているので、SOCが少ないために充分なアシスト動力が出力できない場合であっても、ポンプ要求動力をエンジン1で確保できる。すなわち、
図5から7のすべての状態において、油圧ポンプ3の要求動力がエンジン1と電動・発電機2の動力の和によって確保できていることが確認できる。したがって、本実施の形態によれば、蓄電装置10の蓄電残量によらず、従来の建設機械と同等の速度で油圧アクチュエータ5を動作させることができる、つまり、オペレータの操作フィーリングを良好に保持することができる。
【0044】
また、上記のような制御構成を採用すると、ハイブリッド式ショベルにおける掘削動作のように一定の作業を繰り返す操作では、油圧ポンプ3の要求動力は同様の波形を周期的に繰り返すので、電動・発電機2による充電と放電がバランスし易い。そのため、SOCが一定範囲内に収まり、安定した動作を行うことが可能である。
【0045】
図8は本発明の第2の実施の形態に係るコントローラの概略構成図である。この図に示すコントローラは、第1の実施の形態とは異なるエンジン目標動力演算部23Aを備えている。エンジン目標動力演算部23Aは、エンジン目標動力の変化速度をポンプ要求動力の変化速度にどの程度まで追従させるかを考慮している点で先の実施の形態のものと異なる。具体的には、目標動力演算部23Aは、蓄電装置10のSOCが減少するにつれてエンジン目標動力の変化速度を大きくする(ポンプ要求動力の変化速度に近づける)ための演算を実行している。
【0046】
エンジン目標動力演算部23Aは、エンジン1の目標動力の基準値をSOCに基づいて演算する処理を実行する基準動力演算部(基準動力演算手段)24と、エンジン1の目標動力の変動幅や変動速度をSOCに基づいて演算する処理を実行する動力速度演算部(動力速度演算手段)25を備えている。動力速度演算部25は、SOCに応じてエンジン目標動力の変化速度(時定数T)を規定する変化速度演算部(変化速度演算手段)26と、基準動力演算部24で算出される基準値からの動力変化量をポンプ要求動力に応じて規定する平準動力演算部(平準動力演算手段)27を備えている。目標動力演算部23Aでは、基準動力演算部24と動力速度演算部25の演算結果の和をエンジン目標動力とし、当該エンジン目標動力をエンジン目標回転数演算部35と電動・発電機目標動力演算部34に出力する。エンジン目標回転数演算部35では、第1の実施の形態と同様に、当該エンジン目標動力を用いて目標回転数指令を算出する。また、電動・発電機目標動力演算部34では、当該エンジン目標動力とポンプ動力演算部22で演算されたポンプ要求動力との差からアシスト動力指令を算出している。次に、本実施の形態における基準動力演算部24、変化速度演算部26及び平準動力演算部27で実行される具体的な演算処理の内容について
図9を用いて説明する。
【0047】
図9はエンジン目標動力演算部23Aにおける演算処理の内容の一例を示す図である。基準動力演算部24は、蓄電残量演算部21で演算されたSOCに基づいてエンジン目標動力の基準値を決めるに当たって、
図9に示す基準動力演算テーブル31を用いる。基準動力演算テーブル31では、基準動力演算部24への入力であるSOCを横軸にとっており、基準動力演算部24からの出力である基準動力を縦軸にとっている。
図9の基準動力演算テーブル31では、SOCと基準動力の関係を曲線で定義している点で
図4に示した第1の実施の形態のものと異なるが、SOCが減少するにつれて基準動力が大きくなるように規定している点で両者は共通している。また、
図9の例でも、SOCがS1以下の値に達すると基準値(エンジン目標動力)が最大値に達し、SOCがS2以上に達すると基準値が最小値に達するものとする。次に、基準値の最小値について説明する。
【0048】
図10はエンジン目標動力の基準値に係る最小値の説明図である。基準動力演算テーブル31における基準値(エンジン目標動力)の最小値は、「油圧ポンプ3の最大動力−電動・発電機2の最大動力」で規定しておくことが好ましい。この値を基準値の最小値とすると、
図10のようにポンプ要求動力が急峻に増加した場合でも、エンジン動力を変化させることなく、ポンプ要求動力を確保できるため、エンジン1の燃焼状況を悪化させることが無く、さらに油圧機器の操作性を損ねることも無い。なお、ポンプ要求動力が低い場合には電動・発電機2で充電を行うことで、アシストが必要なときに備えることもできる。ただし、蓄電装置10がフル充電のときには充電を行うことができないので、エンジン1を停止させるか、エンジン目標動力の基準値を一時的に下げることで過充電の防止を行う必要がある。
【0049】
なお、エンジン目標動力の最小値を、「電動・発電機2の応答性」に応じて決めることもできる。この場合には、
図10において、エンジン動力点Bからポンプ最大動力点Aに到達するまでの時間「t2−t1」で規定される動力変化速度「(A−B)/(t2−t1)」が電動・発電機2の最大動力変化速度以下になるようにB点を設計すれば良い。実際の利用においては、最大動力で定義されるエンジン目標動力と、動力変化速度で規定されるエンジン目標動力を比較し、どちらか大きな方を選択することが最も好ましい。なお、動力変化速度とは、動力の単位時間あたりの変化量を示し、エンジン1、発電・電動機2などの出力応答性を示す。
【0050】
図11は基準動力演算テーブル31の他の例を示す図である。SOCの低下後に電動・発電機2によって発電を行ってSOCを上昇させると、エンジン1の目標動力の基準値を再度下げることになる。その際、制御目標値の切替えに起因して、充放電の繰り返し(ハンチング)が生じる可能性がある。この点に対応する場合には、
図11に示した基準動力演算テーブル31のようにヒステリシス特性を持ったものを利用することが好ましい。この動力演算テーブル31では、SOCが減少する際には実線51に従って基準動力を上げていき、SOCが増加する際には点線52に従うように基準動力を下げている。このような基準動力演算テーブル31を利用するとハンチングを防止することができる。
【0051】
図9に戻り、動力速度演算部25について説明する。動力速度演算部25では1次のローパスフィルタを利用した構成を採用している。本実施の形態における動力速度演算部25では、まず、蓄電残量演算部21によって演算されたSOCに応じてローパスフィルタの時定数Tを決定する。この演算には
図9に示した時定数演算テーブル32を用いる。時定数演算テーブル32は、変化速度演算部26への入力であるSOCを横軸にとっており、変化速度演算部26からの出力である時定数Tを縦軸にとっている。時定数演算テーブル32では、蓄電残量が多い(SOCが高い)場合は時定数Tが大きく設定され、蓄電残量が少ない(SOCが低い)場合には時定数Tが小さく設定される。
【0052】
平準動力演算部27は、1次のローパスフィルタになっており、その時定数Tが変化速度演算部26で演算された出力に応じて変化する構成になっている。ポンプ動力演算部22で計算されたポンプ要求動力を、このローパスフィルタにかけることで、ポンプ要求動力が平準化された値が動力速度演算部25の出力として算出される。なお、図中の「s」はラプラス演算子、「K」はゲインを意味する(後の図も同様)。
【0053】
動力速度演算部25をこのような構成にすると、蓄電残量が多い(SOCが高い)ときは時定数Tが大きな値をとり、動力速度演算部25の出力は、ポンプ要求動力の変化速度に対して非常にゆっくりと立ち上がることになる。このため、ポンプ要求動力が急峻に立ち上がったとしても、エンジン目標動力は基準動力演算部24で算出された基準動力からほとんど変化することが無い。よって、エンジン1は燃焼状態が安定した状況を維持することができる。
【0054】
一方、蓄電残量が少ない(SOCが低い)ときは時定数Tが小さな値をとり、動力速度演算部25の出力は、時定数Tが大きいとき(SOCが高いとき)よりも相対的に素早く立ち上がることになる。このため、SOCが少なく電動アシストが十分に行えないであろう場合には、エンジン1の出力変化速度を大きくとってポンプ要求動力を確保することで、良好な操作性が維持される。
【0055】
ここで、時定数演算テーブル32(変化速度演算部26)で決定される時定数Tの最小値(最小時定数)は、エンジンの動力変化速度の最大値を規定することになるので、最小時定数Tにおけるローパスフィルタを通過する周波数領域が、エンジンの燃費や排出ガスの過渡応答特性を悪化しない範囲になるように設計する必要がある。また、平準動力演算部27で利用されるローパスフィルタのゲインKもエンジン目標動力の変化率を決めるパラメータになる。なお、本実施の形態では、簡略してゲインKを一定値としているが、時定数T同様にゲインKの値をSOCに応じて変更する構成にしても良い。
【0056】
なお、
図9の例では平準動力演算部27に1次のローパスフィルタを用いたが、コントローラの実現方法は、当然、この例に限定されるものではない。なお、上記例において「1次のローパスフィルタを用いた場合の時定数を変更する」ことは、「移動平均を利用した場合のデータ点の個数を変更する」ことや、「レートリミッタを利用した場合の変化率を変化する」ことなどに相当する。また、もちろん「高次のローパスフィルタ」を利用しても良い。この場合は、カットオフ周波数を変化させるパラメータを変更することになる。
【0057】
ところで、電動・発電機2の動力変化速度は、エンジン1の動力変化速度より速く、電動・発電機2が実際に出力する動力は瞬時に「アシスト動力指令」に一致する。このため、上記のような構成をとることで、エンジン1が実際に出力する動力は「ポンプ動力−アシスト動力指令」に等しくなる。つまり、本実施の形態ではエンジン1の動力を直接制御することはないものの、間接的にエンジン1の動力を目標動力演算部23で演算した目標動力に追従させることができる。
【0058】
次に上記のように構成される油圧ショベルにおいて、ポンプ要求動力、エンジン目標動力及びアシスト目標動力(すなわち、アシスト動力指令)がSOCに応じてどのように算出されるか時系列にしたがって説明する。
【0059】
図12は、SOCが充分にある場合(例えば、夜間充電などを実施した翌日の作業開始時)におけるSOC、ポンプ要求動力、エンジン目標動力及びアシスト動力指令の変化を示す図である。この図の例では、時刻ゼロのSOCのとき、エンジン目標動力の基準値は最小値から開始している。また、このとき、時定数演算テーブル31で決定される時定数Tは最大値になる。このため、エンジン目標動力の変化速度はポンプ動力のそれに追従することなく、基準値に近い値をとり続ける。
【0060】
蓄電装置10からの放電が進むと、
図12(a)のようにSOCが徐々に下がる。これに従い、基準動力演算部24で算出される基準動力は徐々に増加するが、時定数Tは依然として大きい。そのため、エンジン目標動力は、
図12(b)のようにSOCの減少と相反するように増加するような挙動を示す。このようにエンジン目標動力は低めに設定されるため、「ポンプ動力−エンジン目標動力」はほぼ正値をとる。そのため、電動・発電機2へのアシスト動力指令(
図12(c))は、助勢側に働く頻度が高く、かつ、大きく変動する。このように、変化の速いポンプ要求動力に対して、電動・発電機2から素早く動力を供給すると、エンジン1の実動力は滑らかに変化する。
【0061】
次に、
図12の状態からある程度時間が経過し、SOCが所定の水準まで減少した時点での挙動について
図13を用いて説明する。
図13は、
図13(a)中に破線で示した所定の水準Sc(S1より大きくかつS2未満の値)の近傍までSOCが減少した場合におけるSOC、ポンプ要求動力、エンジン目標動力及びアシスト目標動力の変化を示す図である。
【0062】
この場合は、SOCの減少に応じて基準動力演算部24で算出される基準動力が先の場合よりもある程度高い値になっており、かつ、変化速度演算部26で求まる時定数Tの値も先の場合よりも小さくなっている。
【0063】
この場合についても、第1の実施の形態と同様に、エンジン目標動力を、ポンプ要求動力の略中央値(例えば、移動平均値)又は当該中央値よりも僅かに高い値になるように調整しておくことが好ましい。このようにすると、エンジン目標動力がポンプ要求動力の中央値をとるため、「ポンプ要求動力−エンジン目標動力」で算出される電動・発電機2のアシスト動力指令は
図13(c)に示したように充放電を繰り返す。これにより、エンジン1の動力が急峻に変化することが防止できるとともに、SOCが一定水準に保たれるので電動・発電機2によってエンジン1の助勢が不可能な状況に陥ることを回避できる。また、エンジン目標動力をポンプ要求動力の中央値よりも高くとることは、充放電に伴うエネルギ損失によりSOCが減少することを防止する効果がある。
【0064】
最後に、SOCがS1を下回った場合の挙動について
図14を用いて説明する。
図14は、SOCがS1未満の場合におけるSOC、ポンプ要求動力、エンジン目標動力及びアシスト目標動力の変化を示す図である。
【0065】
この場合には、基準動力演算部24で算出されるエンジン1の基準動力がエンジン動力の最大値よりも高い値をとる。なお、基準動力演算テーブル31として
図11に示したものを利用した場合には、点線52のラインへと遷移するため、SOCがある程度の値に回復するまではこの基準動力が維持される。
【0066】
また、このときのSOCは小さいため、変化速度演算部26で算出される時定数Tは小さな値をとることになる。そのため、平準動力演算部27で算出される動力の変化速度はポンプ要求動力のそれに近づく。なお、
図14のような条件になるSOCの閾値(S1)は、第1の実施の形態と同様に、適用先の建設機械でのポンプ要求動力の変化プロファイルに基づいて設計することが好ましい。
【0067】
図14のような状態にある場合のエンジン目標動力の変化の様子について、
図15のエンジン1のトルク−回転数特性図(T-N特性図)を利用して説明する。
図15はSOCが低い場合におけるエンジン目標動力の決め方についての簡易説明図である。
【0068】
まず、前述の通り、エンジン目標動力の基準動力は、
図15に示すようにエンジン1の最大動力線よりも高い値をとっている。ローパスフィルタで行われる演算は、基準動力に対する変化分91に相当する。なお、
図15における変化分91は、説明を分かり易くするための一例であり、その程度は図示したものに限らない。
図15のように基準動力(基準動力演算部24の出力)を充分に高く設定すれば、変化分91(動力速度演算部25の出力)を考慮して生成されるエンジン目標動力(基準動力演算部24と動力速度演算部25の出力の和)もエンジン1の最大動力線より常に高くなる。しかし、エンジン1の目標動力を最大動力より高くとることはできないので、最終的なエンジン目標動力(エンジン目標動力演算部23Aの出力)は最大動力に制限され、その値をとり続ける。このように、
図14のようにSOCが低い場合には、電動・発電機2へのアシスト動力指令は「エンジン最大動力−ポンプ要求動力」の値で定義され、常に「発電要求」として与えられ続ける。なお、エンジンの小型化などを図る目的で、ポンプ要求動力がエンジンの最大動力を上回るエンジンを搭載した場合は、ポンプ要求動力を制限するなどの制御が必要である。
【0069】
図15のように基準動力をとることで、エンジン1は定格出力点で運転をするため、エンジン1の燃焼状態が安定し排出ガス中に含まれる環境負荷を有する物質の含有量が抑制され、かつ、ポンプ要求動力に対して動力不足になることもないので操作性も維持される。また、エンジン1の効率が良い高出力点で発電に専念するので燃費の向上も期待できる。
【0070】
上記のように構成した本実施の形態によれば、蓄電装置10の蓄電残量が多い場合には、ポンプ要求動力の変化速度に対してエンジンの目標動力の変化は十分に緩やかになる。また、エンジン目標動力とポンプ要求動力の差分をアシスト動力指令(アシスト目標動力)とすることで、高応答な電動・発電機2で素早い動力補助が実現され、エンジン1と電動・発電機2によってポンプ要求動力を満たすことができる。その際、電動・発電機2に比べて応答の遅いエンジン1の動力は緩やかに変化することになる。このため、エンジン1では過渡的な燃料噴射が抑えられ、排出ガス中の環境負荷を有する物質の含有量が抑制される。また、ポンプ要求動力が急激に減少した場合には、エンジン動力の余剰分が発電動力に利用されるため、エンジン1で発生したエネルギを無駄なく利用することができる。
【0071】
一方、蓄電装置10の蓄電残量が減少すると、エンジン目標動力の変化速度が上昇するとともにエンジン動力による負担分を増やす構成をとっていることで、充電残量が少なく電動・発電機2による充分なアシストが行えない場合であっても、油圧ポンプ3の要求動力をエンジン単独で確保できる。これによって、蓄電装置10の蓄電残量によらずに良好な操作性を確保することが可能になる。
【0072】
また、本実施の形態によれば、エンジン目標動力が相対的に小さい領域(低出力領域)で、エンジン動力の変化速度が相対的に小さく設定され、エンジン目標動力が相対的に大きい領域(高出力領域)で、エンジン動力の変化速度が相対的に大きく設定されることになる。このように制御すると、低出力領域では、排出ガスによる環境負荷の増加が懸念される動作を抑制でき、高出力領域では、無駄な燃料消費を抑制することができる。すなわち、燃費向上と排出ガス抑制の両方に関して効果を発揮できる。なお、本実施の形態では、SOCとポンプ要求動力に基づいてエンジン動力の変化速度を変化させる構成を利用することで、上記の作用・効果を奏するものとしたが、エンジン目標動力の大小に応じてエンジン動力の変化速度の制限値を設定し、当該設定値をエンジン目標動力の大小に応じて変化する構成(すなわち、エンジン目標動力が増加するにつれて、エンジン動力の変化速度の制限値を大きく設定する)を利用しても、同様の作用・効果を発揮できる。
【0073】
ところで、上記の各実施の形態では、エンジン目標回転数制御部36(
図3参照)によってエンジン1を回転数制御している場合を例に挙げて説明したが、エンジン目標回転数演算部35(
図3参照)におけるエンジン目標回転数の具体的な算出方法については特に言及しなかった。エンジン目標回転数は、窒素酸化物等の排出ガス成分の量及び燃費とエンジン回転数及びトルクとの関係を示すエンジン特性データに基づいて算出することが好ましい。そこで、次に、エンジン目標回転数演算部35における目標回転数の好ましい算出例について説明する。
【0074】
図16は本発明の第3の実施の形態に係るエンジン目標回転数演算部35が利用する等燃費テーブルを示す図である。この図に示す等燃費テーブルは、所定の回転数及びトルクにおけるエンジンの燃費を示すエンジン特性データをテーブル形式で表したものであり、横軸にエンジン回転数をとり、縦軸にエンジントルクをとった二次元平面上に、燃費の等しい回転数とトルクの組合せを等高線でプロットすることでエンジン1の燃費特性を表している。
【0075】
前述したエンジン目標回転数演算部35は、前述したエンジン目標動力演算部23から入力されるエンジン目標動力に基づいて、当該エンジン目標動力を出力可能なトルクと回転数の複数の組合せの中から、所望の燃費が実現できる一の組合せ(又は所望の燃費に最も近い一の組合せ)を抽出し、当該一の組合せに係る回転数を目標回転数として出力する。なお、エンジン動力はトルクと回転数の積であり、所定のエンジン目標動力が達成可能なトルクと回転数の組合せは等燃費テーブル上に曲線(等動力線101)として描くことができる。そのため、
図16に示すように、エンジン目標動力演算部23からの入力値に基づいて等動力線101を描き、その等動力線101上の点から燃費の最も良い動作点に係る回転数(N1)を目標回転数として出力しても良い。エンジン目標回転数演算部35の出力はエンジン1の目標回転数として利用される。
【0076】
なお、
図16に示した等燃費テーブルと同様に、所定の回転数及びトルクにおける窒素酸化物等の排出ガス成分の量を示すエンジン特性データをテーブル形式で表した「等排出ガステーブル」を利用して目標回転数を決定することも可能である。等排出ガステーブルとしては、横軸に回転数、縦軸にトルクをとり、窒素酸化物、粒子状物質、二酸化炭素などの各種排出ガス成分の定常特性(例えば、各排出ガス成分の量)が等しい回転数およびトルクの組み合わせを等高線でプロットすることでエンジン1の排出ガス成分の特性を表したものがある。この等排出ガステーブルを前述の等燃費テーブルと同様に使用すれば、定常状態での排出ガス中の環境負荷を有する物質の量を最適化できるため、負荷の平準化による排ガス浄化の効果をさらに向上することができる。さらに、上記の「等燃費テーブル」と「等排出ガステーブル」を併用することで、低燃費かつ低排出ガスを実現できる動作点でエンジン1を駆動することも可能になる。また、上記の燃費及び排出ガスだけでなく、他のエンジン特性データに基づいて目標回転数を決定しても良い。
【0077】
上記のようにエンジン目標回転数演算部35を構成すれば、オペレータが逐次エンジン回転数を設定することなく、燃費や排出ガスの観点で好ましい動作回転数でエンジン1を動かすことができる。これは省エネルギ、排出ガス中の環境負荷を有する物質の低減を実現するだけでなく、オペレータの作業負担の軽減にもつながる。
【0078】
ところで、
図9に示したエンジン目標動力演算部23Aの構成は、蓄電装置10として、リチウムイオンバッテリなどのエネルギ密度が高く、高い出力を持続的に利用できるものを利用した場合に有効な構成である。しかし、キャパシタのように瞬間的にしかエネルギを供給できない蓄電デバイスの場合にも
図9のように基準動力をSOCに応じて決定すると、基準動力が急激に上下してしまい、エンジン動力の減少時にエンジンがストールしてしまう虞がある。そこで、次に、蓄電装置10として、キャパシタのようなものを利用した場合に有効となる構成について
図17を用いて説明する。
【0079】
図17はエンジン目標動力演算部23Bにおける演算処理の内容の一例を示す図である。この図に示すエンジン目標動力演算部23Bは、基準動力演算部24Bと、動力速度演算部25Bを備えている。
【0080】
基準動力演算部24Bは、ローパスフィルタ111で構成され、ポンプ動力演算部22から出力されるポンプ要求動力に対してローパスフィルタ111をかけることで基準動力を生成する処理を実行する部分である。なお、図中のKlはゲインであり、時定数TlはSOCに依存しない値である。このようにローパスフィルタ111で基準動力を生成すると、エンジン目標動力がポンプ要求動力の中央値に設定される傾向(例えば、
図13のような状態)が表れるため、
図9の場合と比較して長時間に渡って高出力な動力アシストを行う頻度が低くなる。
【0081】
動力速度演算部25Bは、ポンプ動力演算部22から出力されるポンプ要求動力に対してハイパスフィルタ112をかけることでエンジン目標動力の変動速度、変動幅を規定する処理を実行する部分である。なお、図中のKhはゲインである。また、動力速度演算部25Bは、ハイパスフィルタ112で利用される時定数Thを、蓄電残量演算部21から出力されるSOCに応じて規定するための時定数演算テーブル113を備えている。時定数演算テーブル113は、
図9の時定数演算テーブル32と同様に、蓄電残量が多い(SOCが高い)ほど時定数Thは小さく設定され、蓄電残量が少ない(SOCが低い)ほど時定数Thは大きく設定される。
【0082】
このように設定される時定数Thをハイパスフィルタ112で利用すると、SOCが高い時はハイパスフィルタ112の時定数が小さくなるため通過する高周波成分が少なくなる。これによって、蓄電残量が多い場合には、エンジン目標動力の変動幅は小さくなり、電動・発電機2で負担する動力変動が大きくなる。一方、蓄電残量が少なくなると、ハイパスフィルタ112の時定数は大きくなるため、通過する高周波成分が多くなる。なお、ハイパスフィルタ112の時定数の変化が大きいと、エンジン目標動力が急峻に増加し得る。これを避けるため、時定数演算テーブル113では、SOCの変化に伴う時定数の変化量(
図17中のΔT)を比較的小さくとることが好ましい。
【0083】
上記のように構成したエンジン目標動力演算部23Bによれば、基準動力演算部24Bと動力速度演算部25Bの出力値の和が最終的なエンジン目標動力と出力される。このとき、基準動力は基準動力演算部24Bで蓄電装置10のSOCと関係無く算出されるものの、エンジン目標動力演算部23Bから最終的に出力されるエンジン目標動力は動力速度演算部25Bの作用によりSOCが減少するにつれて大きく設定されることになる。そして、このように構成した場合の挙動は、蓄電装置10のSOCが変化しても基本的に
図13と同じ動作を繰り返すことになる。したがって、上記のようにエンジン目標動力演算部23Bを構成すれば、蓄電装置10にキャパシタを利用しても、エンジン動力の減少時にエンジンストールが発生することを回避することができる。
【0084】
なお、上記の各実施の形態では、蓄電装置10のSOCが減少するにつれてエンジン目標動力が大きくなるように制御したが、エンジン目標動力の制限値を設定し、当該制限値をSOCの減少に応じて大きくするように制御しても良い。すなわち、エンジン目標動力ではなく、「エンジン目標動力の制限値」をSOCに応じて制御しても良い。また、上記の各実施の形態では、油圧ショベルを例に挙げて説明したが、油圧アクチュエータに圧油を供給するための油圧ポンプをエンジン及び電動・発電機で駆動しているその他のハイブリッド式の建設機械にも本発明が適用可能であることは言うまでもない。
【0085】
ところで、発明者等は、上記各実施の形態で代表される本発明をハイブリッド式油圧ショベルに適応することで、油圧ショベルの標準的な動作において、排出ガス中の粒子状物質を約30%、窒素酸化物を約20%抑制できることを確認している。