【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、中枢神経疾患に対して、より優れた治療薬になり得る化合物を開発するために、鋭意研究を重ねてきた。その結果、上記特許文献1に記載されている複素環化合物のうち、特定のベンゾチオフェン化合物であって、しかも該ベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物形態のもの(以下、「本発明の二水和物」とも表記する)が、所望の治療薬になり得ることを見出した。また本発明者らは、本発明の二水和物が、中枢神経疾患の治療にあたり、筋肉注射剤として用いられ、本発明の二水和物を用いた場合に極めて有効な薬理活性物質であることを見出した。
【0007】
本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものであり、新規な一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、水和物形態である二水和物及び当該二水和物の工業的に有利な製造法を提供する。
【0008】
本発明は、項1〜項14に示す、新規な二水和物及びその製造方法、並びに該二水和物を含むベンゾチオフェン化合物を提供する。
【0009】
項1.7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩の、二水和物。
【0010】
項2.モノクロメーターを通したλ=1.5418Åの銅放射線を用いて測定されたX線粉末回折パターンにおいて、下記に示す回折角(2θ)に特徴的なピークを有する項1に記載の二水和物。
回折角(2θ)
8.1°
8.9°
15.1°
15.6°
24.4°
【0011】
項3.臭化カリウム錠剤法によって測定された赤外吸収スペクトルにおいて、
3509cm
−1、
2934cm
−1、
2812cm
−1、
1651cm
−1、
1626cm
−1、
1447cm
−1、
1223cm
−1、及び
839cm
−1
に特徴的なピークを有する項1又は2に記載の二水和物。
【0012】
項4.ラマンスペクトルにおいて、
1497cm
−1、
1376cm
−1、
1323cm
−1、
1311cm
−1、
1287cm
−1、
1223cm
−1、及び
781cm
−1
に特徴的なピークを有する項1〜3のいずれかに記載の二水和物。
【0013】
項5.水分量が、6.5〜8.8重量%である項1〜4のいずれかに記載の二水和物。
【0014】
項6.
1H−NMRスペクトルにおいて、
1.64ppm(tt,J=7.4Hz,J=7.4Hz,2H)、
1.80ppm(tt,J=7.0Hz,J=7.0Hz,2H)、
2.44ppm(t,J=7.5Hz,2H)、
2.62ppm(br,4H)、
3.06ppm(br,4H)、
3.32ppm(s,4H+H
2O)、
4.06ppm(t,J=6.5Hz,2H)、
6.29ppm(d,J=9.5Hz,1H)、
6.80ppm(d,J=2.5Hz,1H)、
6.80ppm(dd,J=2.5Hz,J=9.0Hz,1H)、
6.88ppm(d,J=7.5Hz,1H)、
7.27ppm(dd,J=7.8Hz,J=7.8Hz,1H)、
7.40ppm(dd,J=0.5Hz,J=5.5Hz,1H)、
7.55ppm(d,J=9.0Hz,1H)、
7.61ppm(d,J=8.0Hz,1H)、
7.69ppm(d,J=5.5Hz,1H)、
7.80ppm(d,J=9.5Hz,1H)、及び
11.57ppm(s,1H)
に
1H−NMRのピークを有する項1〜5のいずれかに記載の二水和物。
【0015】
項7.(1)酢酸及び乳酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸、エタノール−水混合溶液、並びに7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オンを混合し、酸性の溶液を調製する工程、
(2)工程(1)で得られた溶液を5℃以下に冷却する工程、並びに
(3)工程(2)で冷却した溶液と、アルカリとを混合し、溶液のpHを7以上に調整する工程を含む
7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩の、二水和物の製造方法。
【0016】
項8.項7に記載の方法によって得られる7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩の、二水和物。
【0017】
項9.項1〜6、及び8のいずれかに記載の二水和物と、7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩の、無水物とを含有し、該二水和物の含有割合が60重量%以上であるベンゾチオフェン化合物であって、
中枢神経疾患を治療及び/又は予防するために用いられるベンゾチオフェン化合物。
【0018】
項10.項1〜6、及び8のいずれかに記載の二水和物を有効成分として含有する中枢神経疾患を予防及び/又は治療するための方法。
【0019】
項11.統合失調症、治療抵抗性、難治性又は慢性統合失調症、感情障害、精神病性障害、気分障害、双極性障害、躁病、うつ病、内因性うつ病、大うつ病、メランコリー及び治療抵抗性うつ病、気分変調性障害、気分循環性障害、不安障害、身体表現性障害、虚偽性障害、解離性障害、性障害、摂食障害、睡眠障害、適応障害、物質関連障害、無快感症、せん妄、認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、その他の神経変性疾患に伴う認知障害、認知症に伴うBPSD、統合失調症の認知障害、治療抵抗性、難治性又は慢性統合失調症に起因する認知障害、嘔吐、乗物酔い、肥満、偏頭痛、疼痛、精神遅滞、自閉症、トウレット障害、チック障害、注意欠陥多動性障害、行為障害及びダウン症候群からなる群より選ばれる中枢神経疾患を予防または治療するための項10に記載の予防及び/又は治療するための方法。
【0020】
項12.項1〜6、及び8のいずれかに記載の二水和物を有効成分とするドパミンD
2受容体パーシャルアゴニスト及び/または5−HT
2A受容体アンタゴニスト及び/またはセロトニン取り込み阻害剤及び/またはセロトニン再取り込み阻害剤及び/またはα
1受容体アンタゴニスト。
【0021】
項13.請求項1〜6、及び8のいずれかに記載の二水和物と医薬上許容され得る担体とを含む医薬組成物。
また、本発明の別の実施形態として、以下のベンゾチオフェン化合物の水和物を提供する。
【0022】
項14.モノクロメーターを通したλ=1.5418Åの銅放射線を用いて測定されたX線粉末回折パターンにおいて、下記に示す回折角(2θ)に特徴的なピークを有する7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オンの水和物。
回折角(2θ)
7.7°
9.4°
11.8°
18.9°
24.0°
【0023】
以下、本発明の二水和物、及びその製造方法について、詳細に説明する。
【0024】
・本発明のベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物の製造方法
本発明のベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物におけるベンゾチオフェン化合物は、7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オンであり、一般式(I)で表される。
【0025】
【化1】
【0026】
本発明の一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物は、当該ベンゾチオフェン化合物又はその塩の、無水物から製造される。
【0027】
本発明の二水和物の製造原料である、式(I)で表されるベンゾチオフェン化合物(無水物)は、公知の化合物であり、特開2006−316052号公報に記載される実施例1の製法や、後述の参考例1及び2等によっても製造することができる。
【0028】
本発明の式(I)で表されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物は、上記の工程(1)〜工程(3)によって製造される。
【0029】
工程(1)は、酢酸及び乳酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸、エタノール−水混合溶液、並びに一般式(I)で表されるベンゾチオフェン化合物(無水物)を混合し、酸性の溶液を調製する工程である。
【0030】
なお、有機酸として用いられる乳酸は、D体、L体、及びその混合物のいずれの乳酸であってもよい。
【0031】
工程(1)におけるエタノール−水混合溶液を調製する際のエタノールの含有割合は、95容量%程度以下が好ましく、70容量%程度以下がより好ましく、60容量%程度以下が更に好ましい。エタノールの含有割合を95容量%以下に設定することで、一般式(I)で示される二水和物の形態のベンゾチオフェン化合物を得ることができる。また、エタノールの含有割合の下限は、特に限定されるものではないが、例えば、20容量%程度が好ましく、30容量%程度がより好ましい。
【0032】
上記、エタノール−水混合溶液中における一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物の濃度としては、0.1〜30重量%(w/w%)程度が好ましく、0.5〜20重量%程度がより好ましく、1〜10重量%程度がさらに好ましい。一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物の濃度を上記の範囲に設定することで、エタノール−水混合溶液中に一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物を十分に溶解させることができ、後述の工程(工程(2)及び(3))を行うことで、より純度の高い二水和物を析出させることができる。
【0033】
配合される上記の有機酸の含有割合としては、系内が酸性条件下となるように配合すれば特に限定されるものではないが、例えば、エタノール−水混合溶液中、0.1〜20重量%程度が好ましく、0.3〜10重量%程度がより好ましく、0.5〜5重量%程度がさらに好ましい。
【0034】
また、有機酸の配合量は、系内が酸性条件下となるように配合すれば特に限定されるものではないが、例えば、一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物100重量部に対して、5〜100重量部程度が好ましく、20〜80重量部程度がより好ましい。
【0035】
工程(1)における溶液を調製する際の温度としては、エタノール−水混合溶液、及び上記の有機酸を含む液中に、一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物が溶解し得る温度であり、エタノール、水、又は上記の有機酸が揮発せず、さらに、当該ベンゾチオフェン化合物が分解されない温度であれば、特に限定されない。具体的には、50〜120℃程度が好ましく、70〜100℃程度がより好ましく、還流温度(80℃程度)であればよい。
【0036】
工程(2)は、前記工程(1)で得られた溶液を冷却する工程である。
【0037】
冷却温度としては、5℃以下であり、0℃程度以下が好ましく、−2℃程度以下がより好ましい。後の工程でアルカリを用いて溶液のpHを調整する際に発熱するため、冷却温度が5℃を超えると、本発明の二水和物が十分に得られない傾向がある。なお、工程(2)における冷却温度の下限としては、特に限定されるものではないが、後の工程で、温度を昇温させる必要がある点、水が凍る等の観点から、−20℃程度が好ましく、−10℃程度がより好ましい。
【0038】
工程(3)は、前記工程(2)で冷却した溶液と、アルカリを混合してpH7以上に調整する工程である。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0039】
なお、前記工程(2)で冷却した溶液と、アルカリを混合するに際しては、予めアルカリの水溶液を調製して配合してもよい。アルカリ水溶液として用いる場合の濃度としては、例えば、0.1〜25重量%程度、好ましくは0.5〜10重量%程度の水溶液が挙げられる。
【0040】
また、上記のアルカリ(水溶液)を配合することによって、系内の混合溶液の温度が、急激に昇温することを避けるために、アルカリ(水溶液)を予め冷却しておくことが好ましい。アルカリ(水溶液)の温度としては、−5〜15℃程度が好ましく、−2〜5℃程度がより好ましい。
【0041】
アルカリの配合量としては、系内の溶液がpH7以上となるように配合できる量であれば、特に限定されるものではないが、例えば、工程(1)において溶液に配合した有機酸1重量部に対して、0.3〜10重量部程度が好ましく、0.5〜3重量部程度がより好ましい。
【0042】
工程(3)におけるアルカリを用いてpHを調整する際のpHとしては、7以上であり、7.5程度以上が好ましく、8程度以上がより好ましい。pHが7未満であると、本発明の二水和物が十分に得られない傾向がある。なお、pHの上限としては、特に限定されるものではないが、例えば、析出した本発明の二水和物を容易に洗浄することができる点、強アルカリ側で当該ベンゾチオフェン化合物が塩を形成する点等から、12程度が好ましく、10程度がより好ましい。
【0043】
上記工程(1)〜(3)によって、本発明の二水和物が析出する。
【0044】
析出した本発明の二水和物は、公知の方法によって、固液分離され、水を用いて洗浄することによって、精製される。
【0045】
得られる一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物は、さらに昇温することが好ましく、10℃程度以上が好ましく、10〜50℃程度がより好ましい。
【0046】
・一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物
上記の製造方法で得られる本発明の二水和物の理化学的性質を以下に示す。
【0047】
なお、上記の製造方法で得られる本発明の二水和物の結晶形態は、その製造過程において、本発明の別の実施形態であるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、水和物が含まれていてもよい。
【0048】
・X線粉末回折
本発明の二水和物は、モノクロメーターを通したλ=1.5418Åの銅放射線を用いて測定されたX線粉末回折パターンによって同定される。前記X線粉末回折パターンにより、本発明の二水和物は、
図2に示されるピークを有し、下記に示す回折角(2θ)において特徴的なピークを有する。これらのピークは、公知の一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物(無水物形態)についての前記X線粉末回折パターンで示されるピークと異なる特徴的なピークである。
【0049】
回折角(2θ)
8.1°
8.9°
15.1°
15.6°
24.4°
【0050】
また、本発明の二水和物は、上記のピーク以外にも、
図2に示すように、下記に示す回折角(2θ)においてピークを有する。
【0051】
回折角(2θ)
11.6°,12.2°,14.0°,16.3°,18.1°,18.4°,18.9°,19.5°,20.5°,21.5°,22.6°,23.3°,25.0°,26.1°,26.4°,27.1°,28.1°,28.5°,28.9°,29.8°,30.4°,30.7°,31.6°,32.9°,33.9°,34.4°,35.2°,36.0°,36.7°,37.4°,38.3°
【0052】
なお、前記の回折角(2θ)は、測定機器や測定条件等により、−0.2〜+0.2°の誤差が生じる可能性があるが、本発明においては、当該誤差は、許容範囲として含まれる。
【0053】
・赤外吸収測定
本発明の二水和物は、臭化カリウム錠剤法によって測定された赤外吸収スペクトルによって同定される。前記赤外吸収スペクトルにおいて、本発明の二水和物は、
図3に示されるスペクトルを有し、下記に示す波数(cm
−1)にピークを有する。
【0054】
波数
3509cm
−1
2934cm
−1
2812cm
−1
1651cm
−1
1626cm
−1
1447cm
−1
1223cm
−1
839cm
−1
【0055】
また、本発明の二水和物は、上記のピーク以外にも、
図3に示すような波数においてピークを有する。
【0056】
なお、前記の波数(cm
−1)は、測定機器や測定条件等により、−0.5〜+0.5%の誤差が生じる可能性があるが、本発明においては、当該誤差は、許容範囲として含まれる。
【0057】
本発明の二水和物は、ラマンスペクトルによって同定される。前記ラマンスペクトルにおいて、本発明の二水和物は、
図4に示されるスペクトルを有し、下記に示す波数(cm
−1)付近にピークを有する。
【0058】
波数
1497cm
−1
1376cm
−1
1323cm
−1
1311cm
−1
1287cm
−1
1223cm
−1
781cm
−1
【0059】
また、本発明の二水和物は、上記のピーク以外にも、
図4に示すように、下記に示す波数付近においてピークを有する。
【0060】
波数
1656cm
−1、1613cm
−1、1563cm
−1、1512cm
−1、1468cm
−1、1446cm
−1、1241cm
−1、1203cm
−1、1145cm
−1、1096cm
−1、1070cm
−1、971cm
−1、822cm
−1、
【0061】
・水分量
本発明の二水和物の水分量は、6.5〜8.8重量%、より具体的には、7.3〜8.1重量%である。なお、水分量は、カールフィッシャー法の水分測定によって測定される。
【0062】
・
1H−NMR測定
本発明の二水和物は、
1H−NMR測定によって測定されたピークによって同定される。本発明の二水和物は、
図1に示される
1H−NMRスペクトルを有し、下記実施例1において測定された
1H−NMRのプロトンピークを有する。
【0063】
なお、本発明の別の実施形態の一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物の水和物は、前記の二水和物の製造過程において得られ、以下の理化学的性質を以下に示す。
【0064】
・X線粉末回折
前記と同様の方法によって測定されるX線粉末回折パターンにより、本発明の別の実施形態である一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物の水和物は、
図10に示されるピークを有し、下記に示す回折角(2θ)において特徴的なピークを有する。これらのピークは、公知の一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物(無水物形態)についての前記X線粉末回折パターンで示されるピークと異なる特徴的なピークである。
【0065】
回折角(2θ)
7.7°
9.4°
11.8°
18.9°
24.0°
【0066】
なお、本発明の別の実施形態である一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物の水和物は、上記のピーク以外にも
図10に示すように、下記に示す回折角(2θ)においてピークを有する。
【0067】
回折角(2θ)
5.7°,8.1°,8.8°,10.7°,12.6°,13.6°,13.9°,15.0°,15.6°,16.6°,17.2°,17.7°,19.8°,20.4°,21.2°,21.6°,22.2°,23.1°,25.2°,25.8°,26.7°,27.2°,27.9°,28.7°,29.3°,30.2°,31.2°,33.4°
【0068】
・本発明の二水和物を含むベンゾチオフェン化合物
本発明は、前記一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物と、一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、無水物とを含有するベンゾチオフェン化合物にも関し、当該ベンゾチオフェン化合物は、中枢神経疾患の治療及び/又は予防薬に対して用いることができる。
【0069】
前記一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物は、本発明の二水和物のみからなるものであってもよく、また、本発明の別の実施形態の一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物の水和物と混合したものであってもよい。
【0070】
該二水和物の含有割合としては、60重量%以上であり、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。
【0071】
また、本発明の二水和物は、さらに粉砕することで、所望の平均粒子径に調製してもよい。粉砕方法としては、公知の乾式粉砕法及び湿式粉砕法が挙げられる。これらの粉砕方法に用いられる粉砕機としては、例えば、ジェットミル、ボールミル(例えば、Dynoミル)に加えて、他の低エネルギーミル(例えば、ローラーミル)及び高エネルギーミルを使用することができ、そして高エネルギーミルとしては、例えば、Netzschミル、DCミルおよびPlanetaryミル等が挙げられる。粉砕された本発明の二水和物の平均粒子径としては、1〜10μm程度が好ましく、2〜8μm程度がより好ましく、2〜6μm程度がさらに好ましい。なお、当該粉砕した二水和物も本発明の二水和物に含まれる。
【0072】
ここで、“平均粒子径”とは、レーザー光散乱(laser-light scattering;LLS)法によって測定される場合の体積平均直径(volume mean diameter)をいう。粒度分布は、LLS法によって測定され、平均粒子径は、粒度分布から計算される。
【0073】
一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物における塩としては、薬理的に許容される塩であれば特に限定されず、例えば、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等)等の金属塩、アンモニウム塩、炭酸アルカリ金属(例えば、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム等)、炭酸水素アルカリ金属(例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等)等の無機塩基の塩;トリ(低級)アルキルアミン(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−エチルジイソプロピルアミン等)、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、ジメチルアニリン、N−(低級)アルキル−モルホリン(例えば、N−メチルモルホリン等)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、1、8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等の有機塩基の塩;塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸の塩;ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、炭酸塩、ピクリン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、グルタミン酸塩等の有機酸の塩等が挙げられる。ここで、「(低級)アルキル」とは、「炭素数1〜6のアルキル」を意味する。
【0074】
一般式(I)で示されるベンゾチオフェン化合物又はその塩の、二水和物における塩としては、薬学的に許容され得る共結晶または共結晶塩であってもよい。ここで、共結晶または共結晶塩とは、各々が異なる物理的特性(例えば、構造、融点、融解熱など)を持つ、室温で2種若しくはそれ以上の独特な固体から構成される結晶性物質を意味する。共結晶および共結晶塩は、公知の共結晶化法を適用して製造することができる。
【0075】
・本発明の二水和物を含有する医薬製剤
本発明の二水和物は、中枢神経疾患に対する医薬製剤として用いることができる。
【0076】
医薬製剤としては、一般的な医薬製剤の形態で用いられる。製剤は通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤を用いて調製される。この医薬製剤としては各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)等が挙げられる。
【0077】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来より知られている各種のものを広く使用することができる。その例としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0078】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0079】
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を挙げることができる。
【0080】
カプセル剤は常法に従い通常有効成分を上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0081】
注射剤として調製される場合、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましく、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤としてこの分野において慣用されているものをすべて使用でき、例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用できる。
【0082】
なお、この場合等張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。更に必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を医薬製剤中に含有させることもできる。
【0083】
当該医薬製剤中に含有されるべき本発明の二水和物の量としては、特に限定されず広範囲から適宜選択されるが、通常製剤組成物中に約1〜70重量%、好ましくは約1〜30重量%とするのがよい。
【0084】
当該医薬製剤の投与方法は特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じた方法で投与される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤の場合には、経口投与される。また注射剤の場合には単独で又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤の場合には直腸内投与される。
【0085】
当該医薬製剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択されるが、通常有効成分化合物の量が、1日当り体重1kg当り、約0.1〜10mg程度とするのがよい。また投与単位形態の製剤中には有効成分化合物が約1〜200mgの範囲で含有されるのが望ましい。
【0086】
本発明の二水和物を含む医薬製剤の治療対象となる中枢神経疾患の具体例としては、統合失調症、治療抵抗性、難治性又は慢性統合失調症、感情障害、精神病性障害、気分障害、双極性障害(例えば、双極性I型障害及び双極性II型障害)、躁病、うつ病、内因性うつ病、大うつ病、メランコリー及び治療抵抗性うつ病、気分変調性障害、気分循環性障害、不安障害(例えば、パニック発作、パニック障害、広場恐怖、社会恐怖、強迫性障害、外傷後ストレス障害、全般性不安障害、急性ストレス障害)、身体表現性障害(例えば、ヒステリー、身体化障害、転換性障害、疼痛性障害、心気症)、虚偽性障害、解離性障害、性障害(例えば、性機能不全、性的欲求障害、性的興奮障害、勃起障害)、摂食障害(例えば、神経性無食欲症、神経性大食症)、睡眠障害、適応障害、物質関連障害(例えば、アルコール乱用、アルコール中毒及び薬物耽溺、覚醒剤中毒、麻薬中毒)、無快感症(例えば、医原性無快感症、心理的、精神的な原因での無快感症、うつ病に伴う無快感症、統合失調症に伴う無快感症)、せん妄、認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、その他の神経変性疾患に伴う認知障害、認知症に伴うBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)、統合失調症の認知障害、治療抵抗性、難治性又は慢性統合失調症に起因する認知障害、嘔吐、乗物酔い、肥満、偏頭痛、疼痛、精神遅滞、自閉性障害(自閉症)、トウレット障害、チック障害、注意欠陥多動性障害、行為障害及びダウン症候群等、中枢神経系の種々の障害があげられ、これらの中枢神経疾患の改善に極めて有効である。