特許第5952979号(P5952979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5952979複合成形体、積層体、及び複合成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952979
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】複合成形体、積層体、及び複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/236 20060101AFI20160630BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C08J9/236CFD
   B32B5/18
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-560898(P2015-560898)
(86)(22)【出願日】2015年7月15日
(86)【国際出願番号】JP2015070313
(87)【国際公開番号】WO2016010089
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2015年12月16日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2014/075741
(32)【優先日】2014年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-145233(P2014-145233)
(32)【優先日】2014年7月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 秀浩
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−040787(JP,A)
【文献】 特開2000−319440(JP,A)
【文献】 特開2003−181966(JP,A)
【文献】 特開2000−158547(JP,A)
【文献】 特開2013−203888(JP,A)
【文献】 特開2010−150709(JP,A)
【文献】 特開2014−193539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子と、該発泡粒子間に形成された、強化繊維を含む熱硬化性樹脂硬化物とが固着一体化された複合成形体であって、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂が結晶性のポリ乳酸系樹脂であり、
前記熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル系樹脂、及びエポキシ系樹脂から選ばれる1種以上であり、
前記複合成形体の曲げ弾性率E(MPa)と複合成形体の密度ρ(kg/m)が下式(1)を満足することを特徴とする複合成形体。
1/3/ρ ≧ 0.020 [(MPa)1/3(kg/m−1] (1)
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂硬化物中の、前記強化繊維の含有量が、3重量%以上、50重量%以下である請求項1に記載の複合成形体。
【請求項3】
前記強化繊維がガラス繊維、カーボン繊維、及びビニロン繊維から選ばれる1種以上であり、該強化繊維の繊維長さ(L)が、0.05mm以上、20mm以下であり、該繊維長さ(L)と繊維断面の平均直径(D)との比であるL/Dの値が2以上である、請求項1または2に記載の複合成形体。
【請求項4】
前記複合成形体の密度が120g/L以上、700g/L以下である請求項1〜のいずれかに記載の複合成形体。
【請求項5】
前記ポリ乳酸系樹脂の融点が150℃以上である請求項1〜4のいずれかに記載の複合成形体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合成形体と、表層材とが積層されていることを特徴とする積層体。
【請求項7】
前記表層材が、ガラス、金属、木材、及び石材から選ばれる1種以上である請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記積層体の密度が1kg/L未満であることを特徴とする請求項6又は7に記載の積層体。
【請求項9】
脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子と、強化繊維を含む熱硬化性樹脂組成物とを混合して混合物を得、該混合物を加熱、硬化させて、発泡粒子と熱硬化性樹脂硬化物とを固着一体化させる、複合成形体の製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル系樹脂、及びエポキシ系樹脂から選ばれる1種以上であり、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂が結晶性のポリ乳酸系樹脂であり、下記条件1により測定された前記発泡粒子の吸熱量(Bf:endo)[J/g]と該発泡粒子の発熱量(Bf:exo)[J/g]との差が下記(2)式を満足することを特徴とする複合成形体の製造方法
(Bf:endo)−(Bf:exo)>20 ・・・(2)
[条件1]
前記吸熱量(Bf:endo)及び前記発熱量(Bf:exo)は、発泡粒子1〜4mgをJIS K7122(1987年)に記載されている熱流束示差走査熱量測定法に準拠して、加熱速度10℃/minにて23℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させる際に得られるDSC曲線に基づいて求められる値とする。
【請求項10】
前記発泡粒子として、嵩密度15〜250g/Lの発泡粒子を用いることを特徴とする請求項9に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項11】
前記混合物が常温において固体状ないし半固体状の未硬化状発泡粒子集合体であり、該未硬化状発泡粒子集合体を型内に配置して賦形し、型内で該未硬化状発泡粒子集合体を加熱、硬化させることを特徴とする請求項9又は10に記載の複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡粒子と熱硬化性樹脂とを含む複合成形体及び該複合成形体と表面材を積層してなる積層体、さらには、発泡粒子と熱硬化性樹脂とを含む複合成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や輸送媒体など様々な構造体の構成素材において、軽量で強度に優れる素材が求められている。
このような構成素材の一つとして、特許文献1には、合成樹脂発泡粒状物を、熱硬化性樹脂を介して一体に結合させた成形体が開示されている。この成形体は、硬化剤を含有しているが、実質的に未硬化の状態であり、かつ常温において固体状ないし半固体状を示す未硬化状合成樹脂発泡粒状物集合体を得、該未硬化状合成樹脂発泡粒状物集合体を硬化させて得られる成形体である。しかし、更に強度の高い複合成形体が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開平10−219021号公報
【発明の開示】
【0004】
本発明は、発泡粒子と熱硬化性樹脂との複合成形体、または前記複合成形体と表層材(表面層)を組み合わせた積層体において、強度がより改良された複合成形体および積層体を提供すること、発泡粒子と熱硬化性樹脂とを含む複合成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、特に脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子と、該発泡粒子間に存在する、強化繊維を含む熱硬化性樹脂硬化物とが、固着一体化された複合成形体を形成することが最も有効な策であることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下に記載の〔1〕〜〔11〕を提供する。
〔1〕脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子と、該発泡粒子間に形成された、強化繊維を含む熱硬化性樹脂硬化物とが固着一体化された複合成形体であって、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂がポリ乳酸系樹脂であり、
前記複合成形体の曲げ弾性率E(MPa)と複合成形体の密度ρ(kg/m)が下式(1)を満足することを特徴とする複合成形体。
1/3/ρ ≧ 0.020 [(MPa)1/3(kg/m−1] (1)
〔2〕前記熱硬化性樹脂硬化物中の、前記強化繊維の含有量が、3重量%以上、50重量%以下である前記〔1〕に記載の複合成形体。
〔3〕前記強化繊維がガラス繊維、カーボン繊維、及びビニロン繊維から選ばれる1種以上であり、該強化繊維の繊維長さ(L)が、0.05mm以上、20mm以下であり、該繊維長さ(L)と繊維断面の平均直径(D)との比であるL/Dの値が2以上である、前記〔1〕または〔2〕に記載の複合成形体。
〔4〕前記熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル系樹脂、及びエポキシ系樹脂から選ばれる1種以上である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の複合成形体。
〔5〕前記複合成形体の密度が120g/L以上、700g/L以下である前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の複合成形体。
〔6〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の複合成形体と、表層材とが積層されていることを特徴とする積層体。
〔7〕前記表層材が、ガラス、金属、木材、及び石材から選ばれる1種以上である前記〔6〕に記載の積層体。
〔8〕前記積層体の密度が1kg/L未満であることを特徴とする前記〔6〕又は〔7〕に記載の積層体。
〔9〕脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子と、強化繊維を含む熱硬化性樹脂組成物とを混合して混合物を得、該混合物を加熱し、硬化させて、発泡粒子と熱硬化性樹脂硬化物とを固着一体化させる、複合成形体の製造方法であって、前記脂肪族ポリエステル系樹脂がポリ乳酸系樹脂であり、下記条件1により測定された前記発泡粒子の吸熱量(Bf:endo)[J/g]と該発泡粒子の発熱量(Bf:exo)[J/g]との差が下記(2)式を満足することを特徴とする複合積層体の製造方法。
(Bf:endo)−(Bf:exo)>20 ・・・(2)
[条件1]
前記吸熱量(Bf:endo)と前記発熱量(Bf:exo)の測定は、発泡粒子1〜4mgをJIS K7122(1987年)に記載されている熱流束示差走査熱量測定法に準拠して、加熱速度10℃/minにて23℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させる際に得られるDSC曲線(以下、1回目のDSC曲線ともいう。)に基づいて求められる値とする。
〔10〕前記発泡粒子として、嵩密度15〜250g/Lの発泡粒子を用いることを特徴とする前記〔9〕に記載の複合成形体の製造方法。
〔11〕前記混合物が常温において固体状ないし半固体状の未硬化状発泡粒子集合体であり、該未硬化状発泡粒子集合体を型内に配置して賦形し、型内で該未硬化状発泡粒子集合体を加熱し、硬化させることを特徴とする前記〔9〕又は〔10〕に記載の複合成形体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の複合成形体の断面を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0008】
1 発泡粒子
2 強化繊維
3 熱硬化性樹脂硬化物
10 複合成形体
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の複合成形体は、図1に示す様に、複数の発泡粒子1、強化繊維2、熱硬化性樹脂硬化物3とからなる複合成形体10である。該発泡粒子1間に強化繊維2を含有する熱硬化性樹脂硬化物3が存在しており、複数の発泡粒子1と熱硬化性樹脂硬化物3とが固着一体化されている。例えば、該熱硬化性樹脂硬化物は、発泡粒子間に、熱硬化性樹脂組成物(以下、熱硬化性樹脂液体原料ということがある。)が連続相の状態で硬化し、熱硬化性樹脂硬化物の連続相を形成している。そして、熱硬化性樹脂硬化物がいわゆる三次元網目構造を形成するため、複合成形体は高強度となる。
【0010】
<脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子>
複合成形体を構成する発泡粒子は、脂肪族ポリエステル系樹脂からなる。脂肪族ポリエステル系樹脂は、その主鎖に脂肪族エステルを主成分として含むものである。その脂肪族エステルの主鎖中の含有割合は、少なくとも60モル%、好ましくは80〜100モル%、より好ましくは90〜100モル%の割合である。脂肪族ポリエステル系樹脂には、ヒドロキシ酸重縮合物、ラクトンの開環重合物及び多価アルコール成分とジカルボン酸成分との重縮合体等が包含される。ヒドロキシ酸重縮合物としてはポリ乳酸、ヒドロキシ酪酸の重縮合物等が挙げられる。ラクトンの開環重合物としてはポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等が挙げられる。多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との重縮合体としては、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート等が挙げられる。これらの中でも、高強度の複合成形体を得る観点からは、ポリ乳酸系樹脂を用いる。
【0011】
さらに、該ポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸、或いはポリ乳酸と他の樹脂との混合物からなる。なお、該ポリ乳酸は、乳酸に由来する成分単位を50モル%以上含むポリマーであることが好ましい。該ポリ乳酸としては、例えば(a)乳酸の重合体、(b)乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー、(c)乳酸と脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、(d)乳酸と脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、(e)乳酸と脂肪族多価アルコールとのコポリマー、(f)これら(a)〜(e)の何れかの組合せによる混合物等が包含される。また、該ポリ乳酸には、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ステレオブロックポリ乳酸と呼ばれるものも包含される。なお、乳酸の具体例としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸又はそれらの環状2量体であるL−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド又はそれらの混合物が挙げられる。
【0012】
上記(b)における他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられる。また、上記(c)及び(e)における脂肪族多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット等が挙げられる。また、上記(c)及び(d)における脂肪族多価カルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
【0013】
なお、前記ポリ乳酸系樹脂としては、熱流束示差走査熱量測定法により下記条件1で求められる、ポリ乳酸系樹脂(原料)の吸熱量(Br:endo)[J/g]が25J/g以上であることが好ましい。該(Br:endo)が上記範囲であることは、発泡粒子を構成しているポリ乳酸の結晶化を充分に進めた場合、該ポリ乳酸による発泡粒子の結晶成分の量が多い状態になることを意味している。すなわち、充分な熱処理により発泡粒子を構成しているポリ乳酸の結晶化度を高めることにより、結晶化度の高められた発泡粒子を得ることができることを意味する。このような観点から、(Br:endo)は、30J/g以上、更に35J/g以上であることが好ましい。また、(Br:endo)の上限は、概ね70J/g、更に60J/gである。
【0014】
本明細書において、発泡粒子を構成する樹脂の吸熱量(Br:endo)[J/g]は、JIS K7122(1987年)に記載されている熱流束示差走査熱量測定法に準拠して下記の条件aにて求められる、発泡粒子の吸熱量を基に算出することができる。
【0015】
条件a
[吸熱量の測定]
吸熱量(Br:endo)の測定値は、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子から採取された測定試料1〜4mgをJIS K7122(1987年)に記載されている熱流束示差走査熱量測定法に準拠して、融解ピーク終了温度より30℃高い温度まで加熱溶融させ、その温度に10分間保った後、冷却速度10℃/minにて110℃まで冷却し、その温度に120分間保った後、冷却速度10℃/minにて40℃まで冷却する熱処理後、再度、加熱速度10℃/minにて融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させる際に得られるDSC曲線(以下、2回目のDSC曲線ともいう。)に基づいて求められる値とする。また、上記の測定は、発泡粒子群から少なくとも5つのサンプルを採取し、測定した平均値とする。
【0016】
また、該発泡粒子としては、樹脂粒子から発泡粒子を得たものの他、発泡ストランド、発泡成形体及び押出発泡体の粉砕物等が挙げられる。さらに、該発泡粒子としては、発泡粒子内に貫通孔からなる空隙を有する、特開平08−108441号公報等に記載の、筒状形状の発泡粒子を使用することもできる。なお、筒状形状の発泡粒子を用いた場合には、熱硬化性樹脂硬化物は、発泡粒子間だけでなく、発泡粒子の貫通孔部分にも形成される。
なお、樹脂粒子の形状は、円柱状、球状、角柱状、楕円球状、円筒状等を採用することができる。かかる樹脂粒子を発泡して得られる発泡粒子は、発泡前の樹脂粒子形状に略対応した形状、上記の円柱状、球状、角柱状、楕円球状、円筒状等に対応した発泡粒子となる。
【0017】
前記発泡粒子は、その形状が熱硬化性樹脂硬化物による網目構造(以下、「熱硬化性樹脂硬化物の網目構造」という場合がある。)を決定することになるため、該発泡粒子の長手方向と短手方向の寸法比(いわゆる「アスペクト比」)が0.5〜2であることが好ましい。上記範囲内であれば、発泡粒子間に空隙が均一に形成されやすくなり、より均一で強固な熱硬化性樹脂硬化物の網目構造が形成される。
【0018】
また、発泡粒子の粒子径は、1〜5mmが好ましく、2〜4mmがさらに好ましい。上記範囲内であれば、複合成形体の強度の向上に好適なものとなる。なお、発泡粒子の粒子径は、少なくとも100個以上の発泡粒子の最大外形寸法として測定される値の平均値である。上記のような発泡粒子を用いることにより、熱硬化性樹脂硬化物の網目構造における網目径は1〜5mmとなる。さらに好ましい網目径は2〜4mmである。
【0019】
さらに、本発明に用いられる発泡粒子としては、発泡層のみからなる単層の発泡粒子だけではなく、多層構造の発泡粒子を用いることができる。なお、多層構造の発泡粒子とは、具体的には、発泡した芯層と、該芯層を被覆する被覆層とからなる発泡粒子が例示できる。また、被覆層は発泡状態であっても非発泡状態であってもよい。
【0020】
前記多層構造の発泡粒子としては、例えば、芯層に結晶構造を有するポリ乳酸樹脂、被覆層に結晶化しない或いはほとんど結晶化しないポリ乳酸樹脂(以下、併せて低結晶性ポリ乳酸系樹脂という)を用いることが好ましい。該低結晶性ポリ乳酸樹脂は熱硬化性樹脂に溶解または膨潤しやすい特性を有することから、被覆層のポリ乳酸系樹脂が低結晶性であると、熱硬化性樹脂液体原料との親和性が高くなる。
一方、該結晶構造を有するポリ乳酸系樹脂は、熱硬化性樹脂液体原料に対して溶解や膨潤され難いことから、芯層のポリ乳酸樹脂が結晶構造を有していると、発泡粒子の形状が維持され易くなる。
上記のようなポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、例えば、特開2012−025869号公報に記載の方法により調製することができる。
【0021】
本発明の複合成形体に用いられる発泡粒子の嵩密度は、15g/L〜250g/Lであることが好ましく、30〜200g/Lであることがより好ましく、60〜150g/Lであることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、軽量化効果が高い上に、より強度に優れる熱硬化性樹脂硬化物の網目構造が形成され易くなる。
【0022】
前記発泡粒子としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂発泡体である、株式会社ジェイエスピー製の商品名「LACTIF(登録商標)」のうち、嵩密度が15〜200g/Lである発泡粒子などが例示される。また、特公昭53−1313号公報、WO2012/086305号公報、特開2012−025869号公報などを参照して、発泡粒子を得ることもできる。
【0023】
発泡粒子の1個当りの重量は、0.1mg〜5mgであることが好ましい。0.1mg以上であれば、発泡倍率の確保が可能であり、5mg以下であれば薄肉成形への対応が可能である。
【0024】
<強化繊維>
本発明の複合成形体は強化繊維を含有する。強化繊維は、高い強度を得るために熱硬化性樹脂硬化物に配合されるものであって、ガラス繊維、カーボン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、セラミックス繊維、スチール繊維、ステンレス(SUS)繊維、アルミニウム繊維、ホウ素繊維及びこれらの2以上の併用が例示される。これらの中で高強度性、汎用性、経済性等の観点から、ガラス繊維、カーボン繊維、ビニロン繊維が特に好ましい。
【0025】
本発明の複合成形体には、熱硬化性樹脂硬化物中に強化繊維が含まれている必要がある。その配合量は、熱硬化性樹脂硬化物(強化繊維を含む)の重量を100重量%としたとき、3重量%以上、50重量%以下の範囲が好ましく、5重量%以上、40重量%以下が更に好ましく、10重量%以上、35重量%以下が特に好ましい。
【0026】
強化繊維の平均長さ(L)は0.05mm以上20mm以下が好ましい。0.05mm以上であれば、繊維の絡み合いがあることから、耐衝撃性能が高くなるので好ましい。また、20mm以下であれば、均一分散が可能であることから好ましい。
【0027】
また、強化繊維は、繊維長(L)と繊維直径(D)の比であるL/Dの値が2以上であることが好ましく、5以上であることが更に好ましく、7以上であることが特に好ましく、その上限は20以下が好ましい。上記範囲内であれば、機械的特性の向上効果が高くなり、特に耐衝撃性に優れた複合成形体を形成することができる。
なお、強化繊維の繊維長(L)と繊維直径(D)は、電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。なお、平均値として母数を100以上として繊維長(L)と繊維直径(D)を算出する。
【0028】
本発明においては、強化繊維に加えて粉体状の補強材を熱硬化性樹脂硬化物に含有させることができる。
補強材としては、ガラス粉体と、一般的に無機フィラーと呼ばれるものでシリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、酸化ベリリウム、軽石、タルク、カオリン、マイカ、セリサイト、ほう砂、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム及びこれらの2以上の併用が例示される。
【0029】
これらの補強材は、熱硬化性樹脂原料100重量部に対し、5〜150重量部、好ましくは10〜100重量部混合されることが好ましい。これらの補強材は、硬化前の熱硬化性樹脂液体原料に充分に分散させておくことが好ましい。
【0030】
<熱硬化性樹脂>
本発明の複合成形体を構成する熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニルエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ウレタン系樹脂等が例示される。これらの中でも本発明の発泡粒子を構成する脂肪族ポリエステル系樹脂との接着性に優れるといった観点から、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂のうちの1種、又は2種以上の組合せが好ましく、不飽和ポリエステル系樹脂から構成されることがさらに好ましい。
【0031】
複合成形体を製造する際には、熱硬化性樹脂原料と反応して硬化物を生成し得る硬化剤が用いられる。該硬化剤としては、熱硬化性樹脂原料と反応して固化し、硬化物を生成し得るものであれば特に制限されるものではない。例えばエポキシ樹脂の硬化剤として、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等の酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のフェノール樹脂、無水フタル酸誘導体、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物、アルミニウムキレート、BFのようなルイス酸のアミン錯体等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0032】
なお、不飽和ポリエステル系樹脂原料としては、不飽和多価カルボン酸と多価アルコ−ルから得られる縮合生成物をビニルモノマ−に溶解させて得られる、公知の不飽和ポリエステル樹脂原料が最も好ましく使用できる。不飽和多価カルボン酸としては、無水マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、無水フタル酸、イソフタル酸などを例示できる。多価アルコ−ルとしてはエチレングリコ−ル、1,3−ブチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ルなどを例示できる。ビニルモノマ−としては、スチレン系モノマーなどを例示できる。
【0033】
また、不飽和ポリエステル系樹脂を使用する場合は、硬化剤(重合開始剤)にパーオキサイドを用いることができる。パーオキサイドとしては、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、パーオキシパーベンゾエート、パーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド、などの有機過酸化物が単独または2以上の混合物として用いられる。連鎖移動剤も使用できる。硬化剤の添加割合は、不飽和ポリエステル樹脂原料100重量部に対して、0.1〜10重量部、特に0.3〜5.0重量部が好ましい。
【0034】
また、本発明の熱硬化性樹脂に用いられるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ系樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ系樹脂;脂環式エポキシ系樹脂;グリシジルエーテル型エポキシ系樹脂;グリシジル化アミン型エポキシ系樹脂;ハロゲン化エポキシ系樹脂;或いは、グリシジル化ポリエステル、グリシジル化ポリウレタン、グリシジル化アクリル等のエポキシ基含有モノマーもしくはオリゴマーの付加重合体等が挙げられる。
これらのエポキシ系樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0035】
また、本発明の熱硬化性樹脂には、ビニルエステル系樹脂も用いることができる。ビニルエステル系樹脂は、エポキシアクリレート樹脂と呼ばれることもあり、各種のエポキシ化合物を原料としてアクリル酸またはメタクリル酸を用いてエステル化し、重合性モノマーを加えて付加重合型としたものが挙げられる。原料のエポキシ化合物には、通常のノボラック型エポキシ化合物とビスフェノールA型エポキシ化合物とが利用されているが、本発明の目的にはビスフェノールA型エポキシ化合物から製造されるビニルエステル樹脂が好適に用いられる。
【0036】
さらに、熱硬化性樹脂には、本発明の目的を阻害しない範囲において、増量剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難然剤、防カビ剤、可塑剤、カップリング剤、電気伝導性フィラー、磁性体フィラー、熱伝導性フィラー、帯電防止材剤、弾性微粒子などの改質剤を必要に応じて含有させることができる。特に難燃性を得るためには難燃剤を含有させることが望ましい。
【0037】
(複合成形体)
本発明においては、発泡粒子を構成する樹脂として脂肪族ポリエステル系樹脂を用いることが重要である。脂肪族ポリエステル系樹脂は、熱硬化性樹脂原料との親和性に優れる。そのメカニズムとしては、熱硬化性樹脂と発泡粒子を構成する脂肪族ポリエステル樹脂のSP値が近似するために、接着性が向上するものと考えられる。したがって、従来のポリオレフィン系樹脂発泡粒子を使用した場合と比較して、発泡粒子と熱硬化性樹脂硬化物との結合が強固となり、複合成形体の強度が向上すると考えられる。
【0038】
さらに、脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子は、発泡粒子の界面にアルキッド成分が存在できるため、立体障害を発泡粒子界面で形成し難い。一方、芳香族ポリエステル樹脂発泡粒子やポリオレフィン系樹脂にスチレン成分をグラフトさせた樹脂の発泡粒子においては、芳香族ポリエステル樹脂における芳香族成分やポリオレフィン系樹脂にスチレン成分をグラフトさせた樹脂の芳香族成分が、発泡粒子界面で立体障害となる。したがって、脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子を用いると、発泡粒子と熱硬化性樹脂中の強化繊維との距離が短くなり、発泡粒子間に存在する強化繊維の分散状態が均一化され、発泡粒子と熱硬化性樹脂の接着性が向上すると考えられる。さらに、熱硬化性樹脂組成物が硬化する際の発熱による、発泡粒子の減容を防止し、複合成形体の比強度(重量比強度)をより向上させる観点からは、発泡粒子を構成する樹脂は、脂肪族ポリエステル系樹脂のうち、ポリ乳酸系樹脂であることが好ましい。
【0039】
前記複合成形体の密度は、120〜700g/Lであることが好ましく、より好ましくは150〜400g/Lである。上記範囲内であれば、軽量性に優れると共に、強度にも優れる成形体となる。なお、前記複合成形体の密度は、複合成形体の重量を水没法などにて求められる複合成形体の体積で除して得られる値である。
【0040】
前記複合成形体の曲げ弾性率E(MPa)と複合成形体の密度ρ(kg/m)が下式(1)を満足することを要する。
1/3/ρ ≧ 0.020 [(MPa)1/3(kg/m−1] (1)
なお、式(1)で求められる値を前記複合成形体の比曲げ剛性ともいう。熱硬化性樹脂硬化物や強化繊維と発泡粒子との結合が弱いと、比曲げ剛性が低下していると考えられる。上記観点から、前記比曲げ剛性は、0.022以上が好ましく、0.025以上がさらに好ましい。なお、比曲げ剛性の上限は、概ね0.2である。
【0041】
また、複合成形体の平均気泡径、すなわち、熱硬化性樹脂硬化物で構成される網目構造の網目に相当する気泡径は、1〜5mmであることが好ましい。上記範囲内であれば、局所的な強度低下が生じず、均一な複合成形体となる。該平均気泡径の測定方法は、複合成形体を厚み方向に2分割し、切断面の拡大写真を撮影する。次に、写真上に複合成形体の表面から中心付近を通り反対側の表面まで達する直線を引き、直線と交わっている気泡数(複合成形体を構成する発泡粒子の数)を数える。そして、直線の長さ(実際の長さ)を気泡数で除して、気泡1個当たりの気泡径を求め、この操作を複合成形体の5箇所について同様に行ない、得られる測定値の平均値を上記複合成形体の平均気泡径(mm)とする。なお、前記気泡径は、発泡粒子の粒径を変えることによって制御することができる。
【0042】
本発明の複合成形体は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂からなる多数の発泡粒子と、強化繊維を含む熱硬化性樹脂組成物とを混合して混合物を得、該混合物を加熱し、硬化させて、発泡粒子と熱硬化性樹脂硬化物とを固着一体化させることにより形成することができる。
【0043】
なお、熱硬化性樹脂組成物は硬化の際に、発熱するため、未硬化状発泡粒子集合体の発泡粒子が減容してしまうおそれがある。したがって、以下の(i)、(ii)に記載するような発泡粒子の減容対策を行っておくことが好ましい。
【0044】
(i)発泡粒子を構成する成分として、予め発熱温度以上の結晶成分を含有させる。例えば、不飽和ポリエステル系熱硬化性樹脂の場合は130℃が最大発熱温度の目安であり、エポキシ系樹脂の場合は150℃が最大発熱温度の目安であるので、融点が150℃以上のポリ乳酸系樹脂を発泡粒子の基材樹脂として用いることが好ましく、減容を防止、抑制することができる。上記観点から、ポリ乳酸系樹脂の融点は155〜170℃であることがさらに好ましい。なお、多層構造の発泡粒子においては、芯層を形成する樹脂の融点が上記範囲内であることが好ましい。
なお、ポリ乳酸系樹脂の融点は JIS K 7121−1987に準拠して測定する。該融点は、示差走査熱量測定によって得られる第2回目のDSC曲線から得られる、ピーク頂点の温度である。前記樹脂の示差走査熱量測定によって得られる第2回目のDSC曲線とは、ポリ乳酸系樹脂1〜5mgを、示差走査熱量計によって10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温し(ここで、得られるDSC曲線を第1回目のDSC曲線という。)、次いで、200℃から10℃/分の降温速度で0℃まで降温する。その後、再度10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温して得られるDSC曲線を第2回目のDSC曲線をいう。また、該樹脂にピーク頂点の温度が2つ以上現れる場合には、最も高温度側のピーク頂点温度を融点とする。また、上記の測定は、発泡粒子群から少なくとも5つのサンプルを採取し、測定した平均値とする。
【0045】
さらに、該ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を構成するポリ乳酸が結晶性を有するものであることにより、複合成形体の製造時にポリ乳酸系樹脂発泡粒子が減容したり、発泡粒子が熱収縮を起こして熱硬化性樹脂との界面に隙間を生じたり、複合成形体にヒケが生じてしまうことを防止、抑制することができる。
【0046】
したがって、本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂発泡粒子においては、熱流束示差走査熱量測定法により下記条件1で求められる、発泡粒子の吸熱量(Bf:endo)[J/g]と発熱量(Bf:exo)[J/g]との差が下記(2)式を満足することが好ましい。
[(Bf:endo)−(Bf:exo)]>20 ・・・(2)
【0047】
条件1
[吸熱量および発熱量の測定]
吸熱量(Bf:endo)および発熱量(Bf:exo)の測定は、発泡粒子の測定試料1〜4mgをJIS K7122(1987年)に記載されている熱流束示差走査熱量測定法に準拠して、加熱速度10℃/minにて23℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させる際に得られるDSC曲線(以下、1回目のDSC曲線ともいう。)に基づいて求められる値とする。なお、1個の発泡粒子から得られる測定試料が1〜4mgに満たない場合は複数個の発泡粒子について1〜4mgの範囲内で測定試料を調整する必要がある。また、上記の測定は、発泡粒子群から少なくとも5つのサンプルを採取し、測定した平均値とする。
【0048】
上記(2)式における差[(Bf:endo)−(Bf:exo)]は、熱流束示差走査熱量測定を行う際に既に発泡粒子が有していた結晶部分と、該測定時の昇温過程において発泡粒子が結晶化した結晶部分とが融解する際に吸収するエネルギーである吸熱量(Bf:endo)と、熱流束示差走査熱量測定の昇温過程において発泡粒子が結晶化することにより放出されるエネルギーである発熱量(Bf:exo)との差を表し、該差が小さいほど熱流束示差走査熱量測定前において発泡粒子の結晶化が進んでいなかったことを意味し、該差が大きく吸熱量(Bf:endo)の値に近いほど発泡粒子の結晶化が該測定前において進んでいたことを意味する。本発明の製造方法に用いられる発泡粒子は、該差[(Bf:endo)−(Bf:exo)]が大きく、結晶化が進んでいる発泡粒子を用いることが好ましい。特に、上記観点から、該差の下限は、23J/g以上が好まく、25J/g以上がより好ましく、27J/g以上がさらに好ましい。また、該差の上限は70J/gがより好ましく、60J/gがさらに好ましい。なお、上記熱量は、ポリ乳酸系樹脂に由来する吸熱量である。
【0049】
従来のポリ乳酸系樹脂発泡粒子は、型内成形に用いられる発泡粒子であり、この際には、2次発泡性を向上させるために発泡粒子の段階において加熱処理による結晶化が行われることはなかった。したがって、結晶化が進んでいない発泡粒子を用いて型内成形を行い、型内成形後に成形体を加熱処理して、成形体を構成する樹脂の結晶化を進めることにより、良好な耐熱性や強度を有するポリ乳酸系樹脂発泡粒子成形体を得ていた。
これに対して、本発明の複合成形体の製造においては、発泡粒子と該発泡粒子間に形成された熱硬化性樹脂硬化物とが固着一体化されてなるので、それぞれの発泡粒子の界面に熱硬化性樹脂が存在することになる。この場合、発泡粒子成形体に熱硬化性樹脂を積層する場合以上に、発泡粒子は熱硬化性樹脂の硬化熱の影響を受けやすくなると考えられる。したがって、本発明においては、発泡粒子の段階で結晶化処理が施された、ポリ乳酸系樹脂発泡粒子を用いて複合成形体を製造することが必要である。
【0050】
なお、このような結晶化が進んだポリ乳酸系樹脂発泡粒子を得る方法としては、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度が調整できる限り、特にその方法は限定されないが、例えば、発泡工程において加熱処理を行い、結晶化を進行させて発泡粒子を得る方法、発泡粒子を65℃以上の雰囲気下で熱処理する方法が挙げられる。なお、発泡粒子を熱処理する温度は66〜80℃が好ましく、67〜75℃がさらに好ましい。また、熱処理時間は8時間以上とすることが好ましい。
【0051】
(ii) また、未硬化状発泡粒子集合体を構成する熱硬化性樹脂混合液中に発熱温度よりやや低めの融点を有する樹脂パウダーを添加することによって、実質的には発熱温度を抑制することができる。前記樹脂パウダーとしては例えば、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどから選択される融点が100℃〜150℃の樹脂パウダーが好適である。なお、樹脂パウダーを併用するにあたって、投入量はその製品形状や樹脂配合量によって異なる。一般的には、製品厚みが厚くなるほど、樹脂パウダーの配合量を増やす方が有効である。樹脂パウダーの配合量は、予め、予備試験などによる試作で確認することにより配合量を決定することができるが、概ね熱硬化性樹脂原料100重量部に対して3〜200重量部が好ましく、10〜100重量部がさらに好ましい。また、量的に樹脂パウダーが多くなり分散などに不具合を生じる場合には、樹脂パウダーにプライマー処理若しくは表面処理剤による処理を施すことなどで熱硬化性樹脂へのいわゆる濡れ性を向上させることが好ましい。
【0052】
なお、本発明においては、上記の結晶性を有する複数のポリ乳酸系樹脂発泡粒子を減圧可能な容器状の型内に配置し、型内に配置された発泡粒子成形体を構成する発泡粒子間の空隙に、強化繊維を含む熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性樹脂液体原料)を減圧下等で含浸させて、発泡粒子と熱硬化性樹脂組成物とが混合された状態とし、さらにこの混合物を硬化させて複合成形体を得ることができる。この際、発泡粒子間に空隙を有する発泡粒子成形体を予め成形し、熱硬化性樹脂液体原料を発泡粒子成形体の空隙に含浸させ、硬化させて複合成形体を得ることができる(第1の態様)。この場合には、前記発泡粒子成形体の空隙率は、3〜30体積%であることが好ましい。軽量性を有するとともに、硬化した熱硬化性樹脂による強度発現の寄与が大きくなる上記観点から、5〜25体積%であることが好ましい。
【0053】
また、強化繊維を高濃度で配合しやすく、取り扱いが簡便でプレス成形で複合成形体を得易い等の観点から、以下に述べる未硬化状発泡粒子集合体を経る製造方法が推奨される。
すなわち、該製造方法は、上記結晶性を有するポリ乳酸系樹脂発泡粒子と、強化繊維を含有する熱硬化性樹脂組成物、とを混合して、発泡粒子と熱硬化性樹脂組成物との混合物である、常温において固体状ないし半固体状の未硬化状発泡粒子集合体を形成する工程、及び該未硬化状発泡粒子集合体を加熱、加圧して成形、硬化させる工程、を含む製造方法である。
【0054】
前記未硬化状発泡粒子集合体とは、多数の発泡粒子と、強化繊維を含む熱硬化性樹脂組成物とを有するものであり、該熱硬化性樹脂組成物は硬化剤を含有しているが、実質的に未硬化の状態で、かつ常温において固体状ないし半固体状を示している集合体で、一般に、Bステージ、プリプレグ等と呼ばれる形態の集合体である(以下において「Bステージ品」、「Bステージ材料」ということがある。)。具体的には、常温で流動性を有する半固体状、または、常温で固体状であっても加熱時に流動性を有する状態が挙げられる。
【0055】
かかる、未硬化状発泡粒子集合体の製造方法を、熱硬化性樹脂に不飽和ポリエステル樹脂を用いた場合を例として以下に示す。
前述の強化繊維と熱硬化性樹脂原料と熱硬化性樹脂の硬化剤(重合開始剤)とを攪拌等により混合し、均一に分散させ、熱硬化性樹脂混合液を調整する。さらに、熱硬化性樹脂混合液に増粘剤を添加する。
増粘剤は、不飽和ポリエステル樹脂の末端基のカルボキシル基と反応し、不飽和ポリエステル樹脂の分子量を増大させ、その結果、不飽和ポリエステル樹脂を固体状ないし半固体状に形成させるものである。一般的には、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物を挙げることができる。具体的には、酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属酸化物や、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、ポリイソシアネート化合物、金属アルコキシドを例示することができる。
【0056】
さらに、増粘剤には、熱硬化性樹脂混合液に溶解するが、全部は溶解しない構成の樹脂パウダーを採用することもできる。溶融して粘度上昇作用を有し、且つ重合反応に格段の関与がなければ、そのポリマー構造を特定するものではないが、非晶性のビニル重合物(ポリスチレン系、ポリメタクリル酸メチル系)などが一般的に採用される。
【0057】
増粘剤は、未硬化状集合物としての流動性が確保できれば、その量に制約はないが、経済性と分散の工程簡略化の関係から不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して30重量部以下が好ましく、20重量部以下が特に好ましい。
【0058】
次いで、熱処理された発泡粒子と熱硬化性樹脂混合液を混合し、発泡粒子表面に熱硬化性樹脂混合液を被覆(コーティング)させる。なお、発泡粒子と熱硬化性樹脂混合液との混合は、混合運動で発泡粒子の切断や破壊などを伴わないように、プロシェアミキサーやヘンシェルミキサーなどのバッチ型ミキサー、またはモーノポンプやスクリューポンプなどの連続型ミキサーを用いて混合することが好ましい。
【0059】
コ−ティング操作が完了後、得られた熱硬化性樹脂混合液(不飽和ポリエステル樹脂混合液)が表面に付着した発泡粒子を、型枠などの中に集積させた状態で収納し、30〜40℃程度の加温下で1〜4日放置する。すると増粘剤の作用により増粘反応が進行し、やがて不飽和ポリエステル樹脂混合物の粘度が100cps以上に上昇し、不飽和ポリエステル樹脂が常温において固体状ないし半固体状を示すようになる。その結果、未硬化状発泡粒子集合体からなる保形性のある塊状固形物となり、その表面の粘着性が殆どなくなり、取り扱いやすくなる。この状態では、硬化剤はまだ実質的には分解されていない。
【0060】
なお、未硬化状発泡粒子集合体(Bステージ材料)を形成するために、上記のように、一時的に温度をかける加温措置が行われる。この加温は熱硬化性樹脂の硬化が起こる温度よりも30℃以上低い温度の範囲で行われることが好ましい。
【0061】
複合成形体の強度を担保する目的で、Bステージ材料は、密度が80g/L以上であり300g/L以下であることが好ましい。一方で、発泡粒子(ビーズ)は経済的な側面から低密度の方が、優位性がある。これらの管理には、以下の式(3)に基づき、各構成成分を調整することによって、Bステージ材料の密度を管理することができる。
【0062】
【数1】

(但し、Wbは発泡粒子の添加量(g)、Wrは樹脂混合液の添加量(g)、dbは発泡粒子の密度(g/L)、drは樹脂混合液の密度(g/L)、DbsはBステージ材料の密度(g/L)を表わす。)
【0063】
熱硬化性樹脂混合液と発泡粒子とが混合され、加温させて得られた発泡粒子集合体は、次工程での複合成形体又は積層体を作製(成形)するまでの間の保管と、複合成形体又は積層体成形に際しての作業の簡便性を確保する目的で、樹脂フィルム、またはシートで覆われて保管される。シートで覆う理由としては、重合性単量体等を含む熱硬化性樹脂が空気との接触等により、複合成形体又は積層体の作製時に硬化不良等によって機械物性等が低下することを極力避ける目的である。
【0064】
前記未硬化状発泡粒子集合体を加熱処理することにより、複合成形体が得られる。例えば、得られた未硬化状発泡粒子集合体を加熱プレス成形することにより、板状の複合成形体が得られる。なお、プレス成形時の加熱温度は、熱硬化性樹脂に含まれる硬化剤の分解温度以上の温度で行われる。未硬化状発泡粒子集合体を構成している熱硬化性樹脂組成物は増粘剤により増粘されているだけであるので、硬化剤の分解温度以上の温度の加熱下におかれると、初期の段階では熱のために粘度は低下し、発泡粒子間の固着力が弱まり、発泡粒子の移動及び変形が容易となる。したがって、そのような現象を利用すれば、プレス成形により板状のみならず、浅絞り状にも成形可能となる。その後、そのような加熱下でプレス状態を維持しておけば、硬化(架橋)反応の進行と共に粘度が再び増大し、最終的には完全に硬化して複合成形体が形成される。
【0065】
上記のような方法により、本発明の複合成形体が得られる。前記複合成形体は、脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子を、該発泡粒子間に存在する、強化繊維を含む熱硬化性樹脂硬化物を介して結合し、固着一体化してなるので、強度と軽量性に優れる成形体である。
【0066】
また、本発明の複合成形体は、発泡粒子を含むことから、断熱性能を有する。該複合成形体の熱伝導率は、0.06W/(m・K)以下であることが好ましく、0.05W/(m・K)以下であることがさらに好ましい。
【0067】
(硬化物層)
前記複合成形体の周囲には、熱硬化性樹脂硬化物からなる硬化物層(以下、単に「熱硬化性樹脂層」または「硬化物層」と表記することがある。)を形成させることができる。該硬化物層は、複合成形体の周囲を被覆する被覆層として存在する。なお、前記複合成形体の周囲の熱硬化性樹脂硬化物層の厚みは、0.1〜5mmであることが好ましく、0.3〜3mmであることがより好ましい。
【0068】
また、上記硬化物層により、塗装性を有し、表面硬度を向上させることができる。さらに、熱硬化性樹脂硬化物層部分は、光を通す性能を有する。従って、夜間に室内照明を点けることによってその光が外から視認できるような内外壁兼用断熱パネル等として利用することができる。
【0069】
このような硬化物層は、例えば、前記未硬化状発泡粒子集合体を成形型内に配置し、型と該集合体との間隙に熱硬化性樹脂液体原料を流し込んだ後に硬化させて、硬化物層を形成することができる。また、空隙を有する発泡粒子成形体を成形型内に配置した後、熱硬化性樹脂液体原料を型内に配置された発泡粒子成形体の空隙に含浸させるとともに、型内を熱硬化性樹脂液体原料で満たし硬化させることでも形成することがでる。このようにして、複合成形体の外面が硬化物層で覆われることにより、さらに強度に優れる複合成形体が得られる。
【0070】
(加飾成形体)
上記のようにして硬化物層を形成する際に、紙、織布、不織布、プラスチックシートまたは金属メッシュなどからなるシート材を、前記硬化物層に埋設させることにより、さらに意匠性にも優れる複合成形体が得られる。また、上記硬化物層にシート材が埋設されているので、シート材自体が剥がれたり、傷ついたりする等の不具合がなく、シート材が強固に固着され、意匠性及び強度等が向上された高い複合成形体となる。なお、シート材を硬化物層に埋没させるためには、例えば、予め硬化物層の硬化前に発泡粒子成形体や未硬化状発泡粒子集合物とシート材を型内に配置し、その後硬化物層を形成させるなどの方法がある。
【0071】
(ヘリオスタット部材)
また、複合成形体は、軽量であるとともに強度にも優れるので、太陽熱発電などに使用されるヘリオスタット部材としても使用できる。具体的には、複合成形体に、金属層を有するミラーフィルムを積層することにより、反射鏡面を有する樹脂鏡を形成させる。この際、前記硬化物層を形成し、前記硬化物層にミラーフィルムを積層することが、より平滑な表面を形成できるため好ましい。
そして、前記樹脂鏡の表面において、JIS B0601(2013)により測定される表面うねりの平均値(Wa)が3μm以下であり、かつ表面粗さの平均値(Ra)が2μm以下である樹脂鏡を形成することにより、ヘリオスタット用部材としてさらに有用なものとなる。
【0072】
具体的には、複合成形体を製造後、複合成形体の表面を回転式の固定研磨材(#800)で平面研磨する。その後、片側に粘着層を有し、他方の片側にインジウム蒸着した厚さ200μmのポリエステル樹脂フィルムを、布施真空(株)製NGF0406S両面真空成形機にて、上記研磨後の複合成形体に貼付して、樹脂鏡を得た。樹脂鏡は、密度273kg/m、200mm(縦)×200mm(横)×20mm(厚み)の成形体であり、表面うねりの平均値(Wa)0.64μm、表面粗さの平均値(Ra)0.18μm、全反射率99%以上であった。
【0073】
(積層体)
前述の本発明の複合成形体には、表層材を積層することができる。
積層体に用いることができる表層材としては、金属、ガラス、木材、石材、樹脂板などを挙げることができる。なお、金属としては、鉄(ステンレスを含む)、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ニッケルなどが使用可能であり、これらの合金類であるステンレス、ジュラルミンなども含まれる。
なお、表層材は必ずしも平面である必要がなく、プレス成形などでの、例えば湾曲状等の成形形状を含むものであっでもよい。プレス成形の場合は、材料のスプリングバックを考慮し、精度を担保できれば、成形方法に特段の制限はない。
【0074】
表層材の厚みは、20mm以下のものが好ましい。軽量化の観点からは、15mm以下のものがさらに好ましい。なお、表層材がガラスの場合には、厚さ50μm〜5mmのガラスを用いることが好ましく、ガラスには銀蒸着などにより調整した鏡を含む。
各材料で設定する厚さは、Bステージの未硬化状発泡粒状物集合体を加熱成形する際に硬化を無理なく達するために設定されるものであり、必ずしも上記の厚さに制限されるものではない。
【0075】
表層材と複合成形体との接着性を確保するためには、表層材(「面材」という場合がある。)の熱硬化性樹脂との接触面に、研磨、プライマー塗布などの易接着化処理を併用することが好ましい。プライマーとしては、ポリオレフィン系樹脂板を表層材とする場合、酸変性ポリプロピレンのトルエン溶液などが使用できる。
【0076】
(金属管)
なお、表層材として金属管を用いることもでき、金属管の中空部に前記複合成形体が充填されている積層体を形成することも可能である。前記金属管としては、鉄、アルミニウム、銅等、一般的に多用されている金属材料で、丸型、角型等の管(パイプ)状や、チャンネル状またはコ字状、L字状等の断面を有する、中空部を形成できるものであれば特にその種類を問わない。また、これらの金属体を組み合わせて中空部を形成させ管状にすることができる。さらにこれらの合金も含めて、使用目的に応じた特性を有する材質のものが選択される。
【0077】
このような金属管は、金属管内に発泡粒子集合体を充填させて固化させる方法や、金属管内に発泡粒子成形体を配置した後に熱硬化性樹脂液体原料を含浸固化させる方法などにより作製することができる。なお、熱硬化性樹脂硬化物からなる網目構造が均一に形成される観点からは、予め、樹脂発泡粒子成形体を金属体の中空部に挿入し、しかる後、熱硬化性樹脂液体原料を発泡粒子間に含浸、硬化させることが好ましい。このようにして、管状の複合成形体に金属管が覆われて積層された積層体となる。
【0078】
以上、本発明の複合成形体は、複合成形体を構成する発泡粒子として、脂肪族ポリエステル系樹脂発泡粒子が用いられることにより、発泡粒子、熱硬化性樹脂中に存在する強化繊維、及び熱硬化性樹脂が、固着一体化され、従来よりも強度の高い複合成形体となる。
また、本発明の複合成形体が表層材と積層されてなる積層体も、高剛性を発現できる。
【実施例】
【0079】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。また、各測定項目の測定方法、評価方法については後述する。
【0080】
実施例1
<ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の製造>
脂肪族ポリエステル樹脂の発泡粒子として多層構造のポリ乳酸系樹脂粒子(表1に「PLA」と表記)を以下の手順で作製した。
内径65mmの芯層形成用押出機および内径30mmの被覆層形成用押出機の出口側に多層ストランド形成用の共押出用ダイを付設した押出装置を用いた。
芯層形成用押出機に結晶性ポリ乳酸樹脂:ユニチカ製「テラマックTP−4000E」(融点:163℃、MFR(190℃/2.16kgf):4.6g/10min、ビカット軟化温度:157℃)を供給し、被覆層形成用押出機に低結晶性ポリ乳酸樹脂:ユニチカ製「テラマックTP−4001E」(融点:なし、MFR(190℃/2.16kgf):6.0g/10min、ビカット軟化温度58℃)を供給し、溶融混練した。その溶融混練物を前記の共押出用ダイに、芯層供給量/被覆層供給量=90/10の重量比で導入してダイ内で合流して押出機先端に取り付けた口金の細孔から、芯層の外周面に被覆層が積層された多層ストランドとして共押出し、共押出されたストランドを水冷し、ペレタイザーで重量が略2mgとなるように切断し、乾燥して鞘芯構造の円柱状の多層樹脂粒子を得た。
なお、芯層のポリ乳酸系樹脂には気泡調整剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末(商品名:TFW−1000、(株)セイシン企業製)を含有量が1000重量ppmとなるようにマスターバッチで供給した。
【0081】
次に、前記樹脂粒子を用いてポリ乳酸系樹脂発泡粒子を作製した。
まず、前記のようにして得られた樹脂粒子1kgを分散媒としての水3Lと共に撹拌機を備えた5Lの密閉容器内に仕込み、更に分散媒中に、分散剤として酸化アルミニウム0.1重量部、界面活性剤(商品名:ネオゲンS−20F、第一工業製薬社製、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を有効成分量として0.01重量部添加した。次いで、撹拌下で140℃まで昇温し、密閉容器内に発泡剤としての二酸化炭素を圧力が2.8MPa(G)になるまで圧入しその温度で15分間保持した。次いで、発泡温度まで昇温し、圧力が3.0MPa(G)になるまで二酸化炭素を圧入し、発泡温度145℃で15分間保持した。その後、二酸化炭素にて背圧を加えながら内容物を大気圧下に放出して、表に示す嵩密度のポリ乳酸系樹脂発泡粒子を得た。なお、分散剤、界面活性剤の添加量(重量部)は、ポリ乳酸系樹脂粒子100重量部に対する量である。
なお、得られた発泡粒子は70℃の雰囲気下で8時間熱処理を行った。
【0082】
得られた発泡粒子を構成するポリ乳酸系樹脂の、条件aによる吸熱量(Br:endo)は38J/gであった。
一方、条件1による、該発泡粒子の吸熱量(Bf:endo)[J/g]と該発泡粒子の発熱量(Bf:exo)[J/g]との差は、28J/gであった。なお、結晶化度調整前の発泡粒子の該差の値は、12J/gであった。
【0083】
<未硬化状発泡粒子集合体及び複合成形体の製造>
(未硬化状発泡粒子集合体の製造)
内容積が2Lのポリプロピレン(PP)製ビーカーに、熱硬化性樹脂原料として不飽和ポリエステル樹脂原料(日本ユピカ株式会社製の商品名「ユピカ4007A」、表1に「UP」と表記)400g、強化繊維として繊維長(L)が80μm、繊維直径(D)が11μmで、L/Dが8のガラス繊維(セントラルグラスファイバー株式会社の商品名「ミルドファイバー」、表1に「GF」と表記)を120g、重合開始剤として、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)12g、増粘剤として酸化マグネシウム(MgO)12gを計量し、攪拌して樹脂混合液を調製した。
次いで、内容積が約20LのSUS製バットに前記多層構造のポリ乳酸系樹脂発泡粒子225g(結晶化度調整済)を投入し、前記樹脂混合液を2回に分けて投入した。
初回の投入においては、発泡粒子表面が馴染むのに時間を要するため、へラを使用して表面を傷つけないように丁寧に発泡粒子表面に樹脂混合液が回り込むように混合した。
次いで、二度目の投入においては、発泡粒子表面が樹脂混合液で均一に塗布されるように混合した。混合した未硬化状発泡粒子集合物をポリエチレンフィルムに外気と接触しないように挟みこんで、厚み略100mm角のブロック状に成形し、23℃で72時間静置して、未硬化状発泡粒子集合体(表1に「Bステージ品」と表記)を得た。時間経過後、粘土状のブロックに変性したことを確認の後、密度を測定したところ、125g/Lであった。
【0084】
(複合成形体の製造)
ポリテトラフルオロエチレンでコーティングした、二枚の鉄板からなる型の間に未硬化状発泡粒子集合体を挟み込み、厚さ20mmで密度が250g/Lとなるように圧縮し、100℃のヒートプレスで1時間保持し、熱硬化性樹脂を硬化させた。時間経過後に降温して離型し、複合成形体(厚み20mm×縦300mm×横50mm)を製造した。得られた複合成形体について後述する方法で、密度、曲げ弾性率、及び比曲げ剛性を測定した。測定結果等をまとめて表1に示す。
【0085】
<積層体の製造>
表層材として厚み3mmのアルミニウム板の間に、前記の未硬化状発泡粒子集合体(Bステージ品)を挟み込み、積層された際の熱硬化性樹脂硬化物密度が略250g/Lになるようにセットして、100℃でのヒートプレスで加熱し、積層体(40mm×300mm×50mm)を得た。なお、ヒートプレスには事後の離型性を考慮して、任意でポリテトラフルオロエチレンでコーティングした鉄板を使用した。得られた積層体について後述する方法で、厚み、密度、1mmたわみ荷重を測定した。測定結果をまとめて表1に示す。
【0086】
実施例2
実施例1において、ポリ乳酸発泡粒子の嵩密度が42g/Lになるように、発泡粒子の製造条件において、樹脂粒子に二酸化炭素を3.8MPa(G)まで圧入して発泡した。さらに、表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして、未硬化状発泡粒状物集合体(Bステージ品)を得た。
このBステージ品から実施例1と同様にして、複合成形体を得た。
このBステージ品を用いて、0.9mmのガラスシート(板)を上下両面に表層材として積層して、厚み20mm、密度0.41kg/Lの積層体を得た。結果を表1に示す。
【0087】
実施例3
熱硬化性樹脂にエポキシ樹脂(表1に「EP」と表記)として、三菱化学株式会社製エポキシ樹脂(商品名:jER828)380gと三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体(TFBMEA)20gからなる樹脂混合液を用いて、強化繊維としてのカーボン繊維(繊維長(L)200μm、繊維断面の平均直径(D)20μm、L/D=10、表1に「CF」と表記)のものを240g用い、熱硬化性樹脂混合液を調製し、表に示す条件にて、実施例1と同様にして複合成形体を製造した。
この実施例3のBステージ品を用いて、厚み0.5mmの鉄板を上下両面に表層材として積層して、厚み20mm、密度0.89kg/Lの積層体を得た。結果を表1に示す。
【0088】
実施例4
実施例2に用いた発泡粒子を使用し、表の条件とした以外は、実施例1と同様にして複合成形体、積層体を得た。結果を表1に示す。
【0089】
実施例5
発泡粒子と熱硬化性樹脂硬化物の体積比率を、嵩密度84g/Lの発泡粒子を用いた実施例1と同じになるように調製するため、実施例2に用いた嵩密度42g/Lの発泡粒子112.5gと、熱硬化性樹脂を800g、重合開始剤(BPO)を24gとした他は実施例1と同様にして、未硬化状発泡粒状物集合体(Bステージ品)を得た。
このBステージ品から実施例1と同様にして、複合成形体を得た。複合成形体の諸物性についての結果を表1に示す。曲げ弾性率、比曲げ剛性とも実施例1と同等であることが確認された。
【0090】
実施例6
実施例5における複合成形体の製造において、100℃のヒートプレスで45分間保持し、熱硬化性樹脂を硬化し、密度が233g/Lの複合成形体を得た。複合成形体の諸物性についての測定結果を表1に示す。
【0091】
実施例7
複合成形体における、発泡粒子と熱硬化性樹脂硬化物との体積比率を変化させるため、実施例1において、熱硬化性樹脂を140g、BPOを6g、増粘剤を6gとした他は、実施例1と同様にして、未硬化状発泡粒状物集合体(Bステージ品)を得た。
このBステージ品から実施例1と同様にして、複合成形体を得た。複合成形体の諸物性についての測定結果を表1に示す。
なお、実施例においては、実施例1と同様に、結晶化度が調整されたポリ乳酸系樹脂発泡粒子を用いて、複合成形体が製造された。
【0092】
【表1】
【0093】
比較例1
発泡粒子として、エチレン成分量4.0重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体60重量%、耐衝撃性ポリスチレン30重量%及び1,2−ポリブタジエン10重量%からなる混合樹脂粒子の架橋化物(変性ポリプロピレン系樹脂粒子)を発泡させ、密度が84g/Lの発泡粒子を製造した。
この発泡粒子を用いた他は実施例1と同様にして未硬化状発泡粒状物集合体(Bステージ品)を経て、複合成形体を得た。
また、前記未硬化状発泡粒状物集合体(Bステージ品)から長さ400mm、幅300mm(厚み22mmはそのまま)に切断した。
次いで表層材として市販のシートモールディングコンパウンド(SMC)(武田薬品工業株式会社の商品名「セレクティマットR−101」)から、長さ400mm、幅300mmの2枚のシートモールディングコンパウンドを切り出し、それら2枚のシートモールディングコンパウンドを前記未硬化集合体(B−ステージ品)の上下面に重ね合わせた状態で、110℃に加熱された雌金型内に配置し、この雌金型に一致する機構を有するプレス機構を有する同材質の110℃に加熱されている雄金型にてプレス(プレス圧:4MPa(G))し、上下両面にSMCの硬化物を表層材とする積層体を得た。結果を表2に示す。
【0094】
比較例2
表層材としてアルミニウム板を用いた以外は、比較例1と同様にして複合成形体を製造した。結果を表2に示す。
【0095】
比較例3
実施例1において、強化繊維を配合しない他は、実施例1と同様にして、未硬化状発泡粒状物集合体(Bステージ品)を得た。
このBステージ品から実施例1と同様にして、複合成形体を得た。複合成形体の諸物性についての測定結果を表2に示す。実施例1と比較して、曲げ弾性率が74%低下し、比曲げ剛性が37%低下することが確認された。
【0096】
比較例4
強化繊維を加えない以外は、比較例1と同様にして、比較例4の複合成形体を得た。複合成形体の諸物性についての測定結果を表2示す。
なお、発泡粒子がPP/PS樹脂からなる場合には、強化繊維が配合されたことによる複合成形体の比曲げ剛性向上効果は少ない。一方で、発泡粒子がPLAである場合には、強化繊維による複合成形体の比曲げ剛性向上効果は、特異的に大きくなっていることが分かる。
【0097】
比較例5
実施例1において発泡粒子の芯層と被覆層とを構成するポリ乳酸系粒子として、ネイチャーワーク社製の非晶性ポリ乳酸樹脂(グレード名:Ingeo2003D)を用いた他は実施例1と同様にして、実質的には単一成分からなる略2mgの樹脂粒子を得、これを実施例1と同様の条件で発泡させ、発泡粒子を得た。その他、実施例1と同様にして、未硬化状発泡粒子集合体及び複合成形体を製造した。測定結果を表2に示す。得られた複合成形体は、実施例1と比較して、密度が増加し、曲げ弾性率が低く、比曲げ剛性が30%低下した。さらに、成形品の厚み方向断面において、発泡粒子が熱収縮を起こし熱硬化性樹脂との界面に隙間を生じているものが存在し、成形体にヒケが存在していた。
【0098】
比較例6
実施例1において、発泡粒子の芯層と被覆層とを構成するポリ乳酸系樹脂に代えて、1,4−ブタンジオールとコハク酸を主成分とする脂肪族ポリエステル樹脂「ビオノーレ#1001[昭和電工株式会社製、融点113℃、MFR1.1g/10分](表1中で「PBS」と表記)を用いた他は実施例1と同様にして、実質的には単一成分からなる略2mgの樹脂粒子を得た。これを実施例1と同様に密閉容器に仕込み、さらに、ナイパーBW(水希釈過酸化ベンゾイル、過酸化ベンゾイル純度75%品:日本油脂(株)製)15gを加え、密閉容器内に発泡剤としての二酸化炭素を圧力が2.8MPa(G)になるまで圧入し、105℃で45分保持し、95℃まで降温させた後、内容物を大気圧下に放出して発泡させ、発泡粒子を得た。
その他、実施例1と同様にして、未硬化状発泡粒子集合体及び複合成形体を製造した。測定結果を表2に示す。得られた複合成形体は、実施例1と比較して、密度が増加し、曲げ弾性率が低く、比曲げ剛性が30%低下した。さらに、成形品は、厚み方向断面の熱硬化性樹脂が均一な網目状を形成しており網目中に発泡粒子が存在しているが、幾つかは熱収縮を起こし僅かに熱硬化性樹脂との界面に隙間を生じており、成形体に若干ヒケが存在していた。
【0099】
参考例1
本発明の積層体と鉄板との1mmたわみ荷重を比較するため、厚み6mm、坪量(目付け)44kg/mの鉄の単板を用いて測定した。1mmたわみ荷重は0.78kNで、0.5mmの鉄板を両面の表層材とした実施例3よりも低い荷重であった。結果を表2示す。
【0100】
【表2】
【0101】
以下に、本発明における測定方法を示す。
(発泡粒子の嵩密度)
発泡粒子の嵩密度は、発泡粒子を無作為に抜き出し、気温23℃、相対湿度50%の大気圧下において、容積1Lのメスシリンダーの中に、静電気を除去しつつ自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛まで収容し、次に、収容された発泡粒子の重量(g)を測定することにより、嵩密度(単位:g/L)として算出した。
【0102】
(複合成形体密度の測定)
前記複合成形体の密度(単位:g/L)は、複合成形体の重量(g)を水没法にて求められる複合成形体の体積(L)で除して求めた。
【0103】
(複合成形体の曲げ弾性率の測定)
(1)複合成形体の曲げ弾性率の測定
本発明において複合成形体の曲げ弾性率の測定は、JIS K7203(1982)に基づき、試験片として、長さ(L)300mm×幅(W)50mm×厚み(t)20mmのものを複合成形体から切出して使用した。測定は、支点先端のR=5mm、圧子先端のR=5mm、支点間距離50mm、曲げ速度10mm/分の条件にて行った。なお、試験片について5個の試験片を測定し平均値を求め、曲げ弾性率とした。
【0104】
(比曲げ剛性)
本発明における比曲げ剛性は、上述の方法により求められた、前記曲げ弾性率(MPa)の値、及び前記複合成形体の換算密度(kg/m)から前記の式(1)により求めた値である。
【0105】
(硬化後の発泡粒子(ビーズ)と熱硬化性樹脂との界面の状態)
硬化後の成形品の厚み方向断面を目視により観察し、以下に示す基準で評価した。
A:成形品の厚み方向断面の熱硬化性樹脂が均一な網目状を形成しており網目中に発泡粒子が隙間なく存在している。
B:成形品の厚み方向断面の熱硬化性樹脂が均一な網目状を形成しており網目中に発泡粒子が存在しているが、幾つかは熱収縮を起こし僅かに熱硬化性樹脂との界面に隙間を生じており、成形体に若干ヒケが存在している。
C:成形品の厚み方向断面の熱硬化性樹脂が均一な網目状を形成できていないか、発泡粒子が熱収縮を起こし熱硬化性樹脂との界面に隙間を生じているものが10%以上存在し、成形体にヒケが存在する。
【0106】
(積層体の密度)
前記積層体の密度(単位:kg/L)は、積層体の重量(kg)を水没法にて求められる積層体の体積(L)で除して得られる値として求めた。
【0107】
(1mmたわみ荷重)
得られた積層体について、バンドソーで両端部を切除し、180mm×50mm×製品厚みのサイズのテストピースを調整した後、重量及びサイズを測定し、3点曲げ試験を行った。曲げ試験条件は下部治具間のスパンがL=100mm、下部治具のRはR=2mm、上部治具はR=5mmで、上部治具は下部治具の中心位置(L/2)に配置した。上部治具の下方移動速度が5mm/分で試験片を曲げる際に、移動距離とその際に発生する作用力をリアルタイムで計測した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、強度の高い複合成形体を提供することができる。
また、本発明の複合成形体と表層材とが積層されている積層体も、軽量でありながら高剛性を発現できる。さらに、複合成形体や、積層体は、ヘリオスタット用ミラー、自動車用ルーフ材、船舶の床板、鉄道車両用床の詰め物、家具机の天板、金型用バックアップ材など、軽量性と剛性、断熱性、遮音性等が要求される用途に、その構造、物性的特長を発現させて利用することができる。
さらに、本発明の製造方法は、強度の高い複合成形体の製造方法として利用することができる。
図1