【実施例1】
【0021】
(試験方法)
森林総合研究所において飼育中のイエシロアリ (Coptotermes formosanusShiraki) の巣から採取した個体を、1日間実験条件に慣らした後、直ちに光照射試験に供した。光照射試験には、
図1に示すスチロール製透明容器1(幅60 × 奥行き100 × 高さ26 mm)を用い、短側面に高さ26 mm×幅20 mmの孔を開けて石英グラス3を装着し、光の導入口を設けた。容器の底部には黒色画用紙2を敷設した。
【0022】
この容器を温度23 ± 3 ℃、相対湿度65 ± 5 %R.H.の暗室内に10分間以上静置した後、容器内にイエシロアリ職蟻150頭、兵蟻15頭を投入し、さらに5分間静置してシロアリを暗所に順応させた。そして下記の条件で単色化した光を、
図1に示すように容器の半分の面積が照射されるよう、上記の暗室内で容器内のシロアリに照射した。
【0023】
光照射の光源には、ハイパーモノライト(分光計器製SM-25型)を用い、350 nmの紫外域から650 nmの可視域まで波長帯幅25 nm、波長間隔50 nmまたは100 nmの条件で分光した。各波長での光量子量を一定にするため、
図1の光量子束密度測定点(1)において、光軸垂直面の光量子束密度(単位面積・単位時間あたりの光量子モル数)が60 μmol/m
2/sになるよう、あらかじめNDフィルタ4を用いて調光した。
【0024】
光照射開始から30、120および300秒経過後にデジタルカメラを用いて容器上部よりシロアリを撮影し、撮影画像をもとに光が照射されている範囲に存在するシロアリの頭数を計数した。各検定区における繰り返し数は3とした。光照射後は、シロアリを明所に順応させるため昼色蛍光灯点灯下で5分間以上静置し、さらに消灯後5分間暗所に順応させてから別波長による試験を開始した。
【0025】
(試験結果)
各照射波長における光量子束密度を一定(60 μmol/m
2/s)に保った場合の、光が照射された範囲内に存在したイエシロアリ個体数の百分率(平均値。以下、「明所存在率」とする)を表1と
図2に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
波長550 nm以下の可視光線を照射した場合、波長の減少とともに職蟻と兵蟻の「明所存在率」が低くなり、波長450 nm以下では、明所存在率は25%以下でほぼ横ばいになる傾向が見られた(
図2)。表1において、照射波長550 nm以下の場合の明所存在率を、照射波長650 nmの場合と比較すると、照射30秒後の一部の値を除いて有意に低く(p<0.05)、シロアリの忌避行動(負の走光性)が認められる。さらに、波長450 nm以下では、波長650 nmだけではなく波長550 nmの場合と比較しても明所存在率が有意に低い場合が認められる。これは、イエシロアリ職蟻と兵蟻の負の走光性が、波長450 nm以下ではより顕著になることを示している。なお、全ての波長域において照射時間の延長とともに明所存在率が低くなる傾向が見られた。
【0028】
図2において、短時間照射(30秒間)の場合には、波長400〜450 nmの可視光線による「明所存在率」が、波長350 〜375 nmの紫外線よりも低く、高い忌避効果(負の走光性)をもたらすことが示されている。これは、波長400〜450 nmの可視光線に対してシロアリがより鋭敏に反応する可能性を示している。そこで波長400 nm(紫色光)および425 nm(紫色〜青色光)の可視光線を用いて、NDフィルタにより光量子束密度を段階的に減少させ、シロアリに30秒間照射することで、どの程度の強さの光に対してまで負の走光性が見られるかを精査した。表2および
図3に、波長400nm一定の場合の異なる光量子束密度における照射開始30秒後のシロアリ明所存在率(%)を平均値±標準偏差で示した。また表3および
図4に波長425nm一定の場合の異なる光量子束密度における照射開始30秒後のシロアリ明所存在率(%)を平均値±標準偏差で示した。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
表2と
図3に示すように、照射波長400 nmでは、光量子束密度(初期値:60 μmol/m
2/s)が3.6 μmol/m
2/sまで低下しても、「明所存在率」に有意な変化は見られず(p>0.05)、 すなわち高い忌避効果(負の走光性)が保たれていた。一方、表3と
図4に示すように波長425 nmでは、光量子束密度(初期値:60 μmol/m
2/s)が12 μmol/m
2/s以下まで低下すると、「明所存在率」が有意に増加しており(p<0.05)、明瞭な忌避効果(負の走光性)が見られなくなった。以上のことから、波長425 nmにおいて忌避効果(負の走光性)を保つためには、12 μmol/m
2/s以上の光量子束密度が必要であるが、波長400 nmでは3.6 μmol/m
2/s程度の光量子束密度でも十分な効果が得られることが明らかになった。
【0032】
以上の結果により、波長400〜550 nmの可視光線を用いれば、光を感じたシロアリが忌避行動をとること、さらに波長400〜450 nmの可視光線を用いれば、その効果が特に高いことが分かる。