特許第5953062号(P5953062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953062
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】ミシンの糸繰り装置
(51)【国際特許分類】
   D05B 45/00 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
   D05B45/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-32028(P2012-32028)
(22)【出願日】2012年2月16日
(65)【公開番号】特開2013-165896(P2013-165896A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113229
【氏名又は名称】ペガサスミシン製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】宮武 昌夫
(72)【発明者】
【氏名】久原 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】南雲 由紀子
【審査官】 笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−273085(JP,A)
【文献】 特開2003−000979(JP,A)
【文献】 特開2003−320190(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1456730(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00 〜 97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸調子器からの針糸が通される第1糸案内部と、該第1糸案内部からの針糸が通される第2糸案内部と、該第2糸案内部からの針糸が通される可動糸案内部材と、該可動糸案内部材からの針糸が通される糸繰り孔を揺動先端側に有し、揺動基端側を支持する揺動軸まわりに上下揺動するよう設置された揺動天秤とを、ミシンアーム部の前面側に備えるミシンの糸繰り装置において、
前記可動糸案内部材は、前記揺動天秤とは別体に構成され、かつ前記糸繰り孔と前記第2糸案内部との間で上下・左右の位置調整を可能に設置され
前記第2糸案内部は、前記第2糸案内部に通される針糸を前記可動糸案内部材と前記第1糸案内部との間において上向き突出の山形状に屈曲させるように、前記可動糸案内部材と前記第1糸案内部との間に配設されていることを特徴とする、ミシンの糸繰り装置。
【請求項2】
前記可動糸案内部材の上下位置の調整手段は、前記ミシンアーム部の前面側にカバーブラケットを固定し、そのカバーブラケットに案内孔を上下方向にわたって長く設ける一方、前記可動糸案内部材を取り付けた取付ブラケットを前記案内孔に通したネジにより固定するようになしており、該ネジを前記案内孔に沿って摺動させることで前記可動糸案内部材の上下位置を調整できるようにしてある、請求項1記載のミシンの糸繰り装置。
【請求項3】
前記可動糸案内部材の左右位置の調整手段は、前記可動糸案内部材を、前記取付ブラケットに左右方向にわたって長く設けた案内孔に通したネジにより固定するようになしており、該ネジを前記案内孔に沿って摺動させることで前記可動糸案内部材の左右方向の位置を調整できるようにしてある、請求項に記載のミシンの糸繰り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫い針に向かう針糸の繰り出しを促すためのミシンの糸繰り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種ミシンの糸繰り装置として、たとえば、図11に示すように、可動糸案内1と、ミシンアーム部2の前面側に設けられ、針糸を挿通可能な第1糸繰り孔3と第2糸繰り孔4を有し、一端側を中心に針棒5の上下動に同期して往復揺動し糸の繰り出し量を制御する揺動天秤6と、針棒5の上端部に固定され、針糸を挿通可能な糸繰り孔7aを有し、針糸の繰り出し量を制御する針棒天秤7とを備えるミシン8の糸繰り装置9において、可動糸案内1から揺動天秤6の第1糸繰り孔3を通して、さらに針棒天秤7を経て針10に至る経路R1と、経路R1より短く可動糸案内1から揺動天秤6の第2の糸繰り孔4を通して針10に至る経路R2とを選択可能であるように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
これによれば、糸調子器11から針10に至る針糸経路について、異なる長さの糸経路R1、R2を選択可能であることから、例えば、緩みのない硬い縫目を形成したい場合や、針糸の伸びを確保したい場合などの場合には、より長い経路R1を選択すればよく、あるいは少し緩みのある柔らかい縫目を形成したい場合には、より短い経路R2を選択すればよいというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなミシンの糸繰り装置9では、硬い縫目と柔らかい縫目の切り替えに際して、揺動天秤6に一体的に設けてある第1糸繰り孔3又は第2糸繰り孔4に針糸を選択的に通し直す作業が必要であるため、甚だ面倒であるという問題があった。
また、柔らかい縫目の場合、針糸締まりが悪く、縫製品の肌触りが悪い。かと言って、針糸を締めるために糸調子器11において糸摺動抵抗を強くすると、針糸切れを起こしやすいという問題もあった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、硬い縫目と柔らかい縫目の切り替えに際し針糸を通し直す煩雑な作業の省力化を図ることのできるミシンの糸繰り装置を提供することにある。また、本発明の他の目的とするところは、柔らかい縫目の場合において針糸切れ無く針糸締まりを良好にするミシンの糸繰り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のミシンの糸繰り装置は、糸調子器からの針糸が通される第1糸案内部と、該第1糸案内部からの針糸が通される第2糸案内部と、該第2糸案内部からの針糸が通される可動糸案内部材と、該可動糸案内部材からの針糸が通される糸繰り孔を揺動先端側に有し、揺動基端側を支持する揺動軸まわりに上下揺動するよう設置された揺動天秤とを、ミシンアーム部の前面側に備えるミシンの糸繰り装置において、前記可動糸案内部材が前記揺動天秤とは別体に構成され、かつ前記糸繰り孔と前記第2糸案内部との間で上下・左右の位置調整を可能に設置され、前記第2糸案内部が、前記第2糸案内部に通される針糸を前記可動糸案内部材と前記第1糸案内部との間において上向き突出の山形状に屈曲させるように、前記可動糸案内部材と前記第1糸案内部との間に配設されていることに特徴を有するものである。
これによると、硬い縫目と柔らかい縫目の切り替えに際し、糸繰り孔と第2糸案内部との間で可動糸案内部材の上下・左右の位置を調整することで硬い縫目と柔らかい縫目の切り替えを可能にするので、従来の針糸を通し直す面倒な作業に比べ作業が簡単に行える。
【0007】
さらに、柔らかい縫目の場合において、糸調子器において糸摺動抵抗を強くする場合のように針糸切れを起こすことなく、針糸を良好に締めることができることになる。
【0008】
また、本発明によるミシンの糸繰り装置は、前記可動糸案内部材の上下位置の調整手段は、前記ミシンアーム部の前面側にカバーブラケットを固定し、そのカバーブラケットに案内孔を上下方向にわたって長く設ける一方、前記可動糸案内部材を取り付けた取付ブラケットを前記案内孔に通したネジにより固定するようになしており、該ネジを前記案内孔に沿って摺動させることで前記可動糸案内部材の上下位置を調整できるようにするという構成を採用することができる。これによれば、安定よく確実に可動糸案内部材の上下位置を調整することができる。
また、本発明によるミシンの糸繰り装置は、前記可動糸案内部材の左右位置の調整手段は、前記可動糸案内部材を、前記取付ブラケットに左右方向にわたって長く設けた案内孔に通したネジにより固定するようになしており、該ネジを前記案内孔に沿って摺動させることで前記可動糸案内部材の左右方向の位置を調整できるようにするという構成を採用することができる。これによれば、安定よく確実に可動糸案内部材の左右位置を調整することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、揺動天秤の糸繰り孔と第2糸案内部との間で可動糸案内部材の上下・左右の位置を調整するという簡単な手段で、硬い縫目と柔らかい縫目の切り替えを可能にするので、針糸を通し直す面倒な作業の省力化を図り得るという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の糸繰り装置が適用された二重環縫いミシンの斜視図である。
図2】同二重環縫いミシンの正面図である。
図3】同二重環縫いミシンの平面図である。
図4】同二重環縫いミシンにおける糸繰り装置の拡大斜視図である。
図5】同二重環縫いミシンにおける糸繰り装置の拡大正面図である。
図6】同二重環縫いミシンにおける糸繰り装置の拡大平面図である。
図7】同二重環縫いミシンにおける糸繰り装置をカバーブラケットを取り外した状態で示す拡大斜視図である。
図8】同二重環縫いミシンにおける糸繰り装置をカバーブラケットを取り外した状態で示す拡大正面図である。
図9】同二重環縫いミシンにおける糸繰り装置をカバーブラケットを取り外した状態で示す拡大平面図である。
図10】同二重環縫いミシンにおける糸繰り装置の概略正面図である。
図11】従来例の二重環縫いミシンにおける糸繰り装置の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るミシンの糸繰り装置の好適な実施形態例を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1図3には、本発明の一実施形態例としての糸繰り装置20を備えた二重環縫いミシンであるミシン21を示している。図1図3において、ミシン21は、ベッド部21a、ベッド部21aから立設する縦胴部21b、および縦胴部21bからベッド部21aに平行するように延出するミシンアーム部21cを有してなる。
【0013】
ミシン21は、図示しないミシン主軸によって上下に往復駆動される針棒22の下端部に固定された3本の針23、各針23に通された針糸のそれぞれに所定の張力を与える3つの糸調子器24と、上飾りスプレッダー25に通される上飾り糸に所定の張力を与える糸調子器26と、図示しないルーパーに通されているルーパー糸に所定の張力を与える糸調子器27とを備える。上飾りスプレッダー25は布地の表面側において、また前記ルーパーはベッド部21a内においていずれも前記ミシン主軸に連動するように構成され、ミシン21は、3本の針23と、図示しないルーパーとの協働により形成される縫目に上飾り糸を絡ませながら二重環の飾り縫いを形成するようになっている。
【0014】
糸繰り装置20は、縦胴部21bの前面側に設置された糸調子器24、26、27の左側でかつミシンアーム部21cの前面側に配された給油装置28、糸調子器24、26、27と給油装置28との間に配された第1糸案内部29、給油装置28の左側に配された第2糸案内部30、第2糸案内部30の左側に配された揺動天秤31、および揺動天秤31とは別体に構成され揺動天秤31の前側に配された可動糸案内部材32を備え、縫製中に3本の針糸T(図1では1本のみ示す)を引っ張る糸取りと、緩めることによる糸の繰り出しを繰り返すものである。第1糸案内部29は3つの糸孔33を有し、これら糸孔33にそれぞれ3つの糸調子器24からの3本の針糸Tが通されるようになっている。給油装置28は、潤滑剤としてのシリコン油が含浸しているフェルトを内部に詰めている給油箱28aからなり、これに針糸Tを通すことで、針糸Tにシリコン油を付与するようになっている。
【0015】
揺動天秤31は、図7図8に示すように、前記ミシン主軸に連結された揺動軸31aを中心に上下揺動可能な揺動基台31bと、揺動基台31bに固定され左右に長く設けられた揺動腕31cとからなり、針棒22に同期して所定の上死点と下死点の間を揺動することで糸の繰り出し量を制御する。揺動腕31cの左端部(先端部)には糸繰り孔34が3つ形成されている。
【0016】
図7図8に示すように、揺動腕31cの左端部(先端部)より左側に該当するミシンアーム部21cの前面側には、第3,4糸案内部35,36を配備する。第3糸案内部35と糸繰り孔34との間には糸受け37を設置する。
【0017】
図7図9に示すように、可動糸案内部材32は、支持体32aと、支持体32aを貫通するようにネジ止めされ上端部に糸孔38が形成された3本の糸案内棒32bとからなる。各糸案内棒32bは、支持体32aに対し上下方向に摺動し所望の位置で固定することができ、これにより糸取り及び糸繰り量を調整できるようになっている。
【0018】
さらに、可動糸案内部材32は、揺動天秤31の糸繰り孔34と第2糸案内部30との間で上下・左右の位置調整を可能に設置されている。これによっても糸取り及び糸繰り量を調整できるようになっている。
可動糸案内部材32の左右・上下位置の具体的な調整手段としては、図4図6に示すように、ミシンアーム部21cの前面側に、上下方向にわたって長い形の案内孔39を有するカバーブラケット40をネジ41で取付ける。そして、このカバーブラケット40には、左右方向に長い形の案内孔42を有する取付ブラケット43をカバーブラケット40の案内孔39に通したネジ44により固定すると共に、該ネジ44を案内孔39に沿って摺動させることで取付ブラケット43の上下方向の位置を安定よく確実に調整できるようになしている。取付ブラケット43には可動糸案内部材32を案内孔42に通したネジ45により固定すると共に、該ネジ45を案内孔42に沿って摺動させることで可動糸案内部材32の左右方向の位置を安定よく確実に調整できるようになしている。可動糸案内部材32の上下方向の位置の調整は、ネジ44を案内孔39に沿って摺動させて取付ブラケット43の上下方向の位置を調整することで行えるようにしてある。
【0019】
第2糸案内部30は、柔らかい縫目を形成する場合において、針糸Tを締めるにあたって糸調子器24にて糸摺動抵抗を強くする場合のように針糸切れが起こることなく、針糸Tを良好に締めることができるようにするために、可動糸案内部材32と第1糸案内部29との間に、第2糸案内部30に通される針糸Tが図10のように上向き突出の山形状に屈曲するように配設する。この第2糸案内部30は、所定位置に定置固定すること、また上下位置調整可能にあるいは左右位置調整可能に設置することは任意である。
【0020】
糸調子器24を通した針糸Tは、第1糸案内部29、給油装置28を通した後、第2糸案内部30に通す。次いで、可動糸案内部材32の糸案内棒32bに通し、更に揺動天秤31の糸繰り孔34に通す。その後、糸受け37、第3糸案内部35、第4糸案内部36の順に通して針23に向かうようになっている。なお、図4に示すように、カバーブラケット40には、揺動天秤31の糸繰り孔34から糸受け37に通される針糸Tをガードするためのフィンガーガード46を取付けている。
【0021】
可動糸案内部材32から揺動天秤31を経て第3糸案内部材35に至る針糸経路の経路長をLとし、針棒上死点時の経路長をL1とし、針棒下死点時の経路長をL2とし、針棒上死点⇔下死点の経路長差を△L=L1−L2、針棒22の上下ストローク量をHとした場合において、0<△L<Hとなるように、可動糸案内部材32の左右・上下位置調整を可能にしている。
なお、図10において、実線aで示す針糸Tは針棒上死点時における針糸経路を、破線bで示す針糸Tは針棒下死点時における針糸経路を示している。
【0022】
上記構成を有する糸繰り装置20において、比較的弛みのない硬い縫目を形成したい場合や糸切れ等を防ぎたい場合には、可動糸案内部材32を左方向でかつ下方へ移動調整することで、針棒上死点⇔下死点の経路長差△Lを比較的大きくすればよい。
【0023】
また、ある程度ゆるみのある柔らかい縫い目を形成したい場合には、逆に可動糸案内部材32を右方向でかつ上方へ移動調整することで、針棒上死点⇔下死点の経路長差△Lを比較的小さくすればよい。
【0024】
以上説明したミシン21における糸繰り装置20によれば、可動糸案内部材32は、揺動天秤31とは別体に構成したうえで、揺動天秤31の糸繰り孔34と第2糸案内部30との間で上下・左右の位置調整を可能にした。したがって、緩みのない硬い縫目を形成したい場合や、糸の伸びを確保したい場合などには、可動糸案内部材32を左方向でかつ下方へ移動調整し、少し緩みのある柔らかい縫目を形成したい場合には、可動糸案内部材32を右方向でかつ上方へ移動調整するだけの簡単な作業で、硬い縫目と柔らかい縫目の切り替えが容易に行える。
【符号の説明】
【0025】
T 針糸
20 糸繰り装置
21 ミシン
21c ミシンアーム部
24,26,27 糸調子器
29 第1糸案内部
30 第2糸案内部
31 揺動天秤
31a 揺動軸
32 可動糸案内部材
34 糸繰り孔
39,42 案内孔
40 カバーブラケット
41,44,45 ネジ
43 取付ブラケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11