(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953085
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】電磁弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20160630BHJP
【FI】
F16K31/06 305G
F16K31/06 305L
F16K31/06 305K
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-70475(P2012-70475)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-204596(P2013-204596A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津久井 良輔
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−047526(JP,A)
【文献】
特開昭63−001878(JP,A)
【文献】
特開昭56−071595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06− 31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座が形成された弁室を有する筒状の弁本体と、弁室内に摺動自在に装備される弁体と、弁本体の開口部の内周部に嵌合するとともに、前記弁本体に固着されるパイプホルダと、パイプホルダにより支持されるガイドパイプと、ガイドパイプ内に摺動自在に挿入されて弁体を移動させるプランジャと、プランジャを駆動する電磁コイルと、を備える電磁弁であって、
前記弁本体は、パイプホルダとの間にそれらの外周部側からの溶接部を有しており、
前記弁本体の開口部に、外方に向けて径寸法が大きくなるテーパー内径部を設け、前記パイプホルダに、前記弁本体のテーパー内径部に対応するテーパー外径部を設けたことを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
前記弁本体の開口端の外径寸法をD1とし、前記テーパー内径部の開口端側の内径寸法をD2とし、前記溶接部の溶込み深さ寸法をF2としたときに、D2は、D1からF2の2倍を差し引いた値以上に設定されることを特徴とする請求項1記載の電磁弁。
【請求項3】
前記弁本体と前記パイプホルダの材料はステンレス鋼材であり、前記溶接部はTIG溶接部であることを特徴とする請求項1又は2記載の電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空調機器や給湯機器等に使用される電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、空調機器や給湯機器に使用される電磁弁の1つの型式であるパイロット式電磁弁の励磁用コイルを取り除いて示す縦断面図である。
【0003】
パイロット式電磁弁1は、ステンレス鋼材で形成される有底円筒状の弁本体10を有し、弁本体10に対して2本の配管パイプ20,22が弁本体10内の弁室30に連通するように接続される。
【0004】
弁室30内には弁体40が摺動自在に配設され、弁室30の内壁面は摺動面32として機能する。弁体40は、弁室30の底部に形成された弁座34に対して離接し、弁体40のシール部材42が弁座34に圧接されて閉弁する。弁体40の外周部にはピストンリング44が嵌装されて摺動面32との間のシールを達成する。弁体40の中央部にはパイロット孔46が設けられている。
【0005】
弁本体10の上部には鋼材で形成されるパイプホルダ80がTIG溶接部Wにより固着される。パイプホルダ80は弁本体10の内周部に嵌合するように形成され、ガイドパイプ50を支持する。ガイドパイプ50の頂部には吸引子60が固着される。ガイドパイプ50内にはプランジャ70が摺動自在に挿入され、プランジャ70と吸引子60の間には閉弁ばね72が設けられる。プランジャ70の下端部には、ボール弁体74がカシメ手段により取り付けられる。ボール弁体74は弁体40のパイロット孔46の開口部に形成されるパイロット弁座48に当接してパイロット孔46を閉じる。
【0006】
ガイドパイプ50の外周部に取り付けられる図示しない励磁用コイルに通電されると、吸引子60が磁化され、プランジャ70が閉弁ばね72に抗して吸引子60側に引き寄せられる。この作用によりボール弁体74はパイロット弁座48から離れてパイロット孔46が開き、弁体40はパイプ20内とパイプ22内の流体の差圧により開方向に移動する。
この種のパイロット式電磁弁は、下記の特許文献1等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−53876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4は弁本体10に対してパイプホルダ80をTIG溶接により溶接固着する部分の詳細を示し、(a)は溶接前の状態を示し、(b)は溶接後の状態を示す。
【0009】
パイプホルダ80は段付の円筒状で、円筒状の弁本体10の開口部12に対して弁本体10の上端面14に当接するように挿入される。パイプホルダ80の外径寸法は弁本体10の外径寸法とほぼ等しく、開口部12内に挿入される縮径部82と上端面14に当接するフランジ86を有する。この溶接前の状態では弁体40の外周部と摺動面32との間には微小なクリアランスC1が形成される。
【0010】
この状態で弁本体10とパイプホルダ80は外周部側からTIG溶接により固着される。これにより、溶接ビードWが形成される。溶接ビードWは符号F1で示す溶込み深さ寸法を有して形成される。TIG溶接は約1000℃の高温を付加するので、この深さF1が深くなると、弁本体10の内側(摺動面)のエリアS1は溶接熱の影響を受けて内径寸法が縮小する方向に熱変形する。
【0011】
この熱変形により、開口部12には、内側に倒れて変形した熱変形部12aが形成される。これにより、弁体40の上端側にあっては、摺動クリアランスが減小し、弁体40が摺動不良を起こす原因となる。そのため、溶接ビードWの溶込み深さを深くすることができず、必要な溶接強度を確保できない場合があった。
【0012】
また、弁本体10の内圧によってパイプホルダ80には弁本体10から引き剥がす方向の応力が作用するため、この熱変形を減らすために、弁本体10の上端面14全面を溶かすことができないと、溶接ビードWの最内周部位Pを起点に上下方向の応力が加わる。これによって、溶接ビードWに割れが発生し易くなって、溶接ビードWの疲労強度が低下するという問題があった。
【0013】
なお、この現象は、パイロット方式の電磁弁に限らず、その他の電磁弁でも生じる。
そこで、本発明の目的は、上述した不具合を解消する電磁弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、弁座が形成された弁室を有する筒状の弁本体と、弁室内に摺動自在に装備される弁体と、弁本体の開口部の内周部に嵌合するとともに、溶接により前記弁本体に固着されるパイプホルダと、パイプホルダにより支持されるガイドパイプと、ガイドパイプ内に摺動自在に挿入されて弁体を移動させるプランジャと、プランジャを駆動する電磁コイルと
、を備
える電磁弁であって、
前記弁本体は、パイプホルダとの間にそれらの外周部側からの溶接部を有しており、弁本体の開口端の内周部に、外方に向けて径寸法が大きくなるテーパー内径部を設け、パイプホルダに、弁本体のテーパー内径部に対応するテーパー外径部を設けたものである。
【0015】
なお、弁本体の開口端の外径寸法をD1とし、テーパー内径部の開口端の内径寸法をD2とし、溶接部の溶込み深さ寸法をF2としたときに、D2は、D1からF2の2倍を差し引いた値以上に設定するのが好ましい。
また、弁本体とパイプホルダは、例えばステンレス鋼材で形成され、TIG溶接で接合することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電磁弁は、上記構成を備えることにより、TIG溶接等の溶接熱歪による弁体の摺動不良を防止することができる。また、高圧の冷媒により溶接部へ繰り返し与えられる加圧に対する疲労強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の電磁弁の要部の断面図であって、(a)は弁本体とパイプホルダの溶接前の状態を示す図であり、(b)は弁本体とパイプホルダの溶接後の状態を示す図。
【
図2】本発明の電磁弁の要部の断面図であって、(a)は溶接後の状態を示す図であり、(b)は(a)のA部の拡大図。
【
図3】従来のパイロット式電磁弁の励磁用コイルを取り除いて示す縦断面図。
【
図4】
図3の電磁弁の要部の拡大図であって、(a)は溶接前の状態を示す図であり、(b)は溶接後の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の電磁弁の要部の断面図であって、(a)は弁本体10´とパイプホルダ80´の溶接前の状態を示し、(b)は弁本体10´とパイプホルダ80´の溶接後の状態を示す。弁本体10´とパイプホルダ80´はステンレス鋼材で形成される。
【0019】
本発明の電磁弁1´にあっては、弁本体10´の上部の開口部の内側をテーパー面としたテーパー内径部16を形成している。テーパー内径部16の上端部に連続する端面18は平坦に形成される。また、パイプホルダ80´は、弁本体10´のテーパー内径部16に対応するテーパー面を有するテーパー外径部84と、フランジ88を有する。その他の構成部材は先に説明したパイロット式電磁弁の構成部材と同様であるので、同一符号を付して説明は省略する。
【0020】
図1の(b)は、弁本体10´とパイプホルダ80´を外周部側からTIG溶接により溶接した後の状態を示す。溶接により溶接ビードWが形成される。溶接ビードWの溶込み深さは符号F2で示される。溶接熱の影響を受けて、パイプホルダ80´のテーパー外径部84に連続する部分は符号84aに示すように凹状に変形し、同様に弁本体10´のテーパー内径部16は符号16aに示すように凹状に変形する。
【0021】
しかしながら、溶接ビードWの溶接熱の影響は、パイプホルダ80´のテーパー外径部84と弁本体10´のテーパー内径部16の部分で吸収され、弁本体10´の摺動面32は、溶接熱による内径寸法の変形が小さくて済むので、弁体40の摺動不良は避けることができる。
この電磁弁の溶接前の弁本体10´の開口部の外径寸法をD1、溶接の溶込み深さをF2、テーパー内径部16の開口端側の内径寸法をD2とすると、
D2≧D1−2F2
となるように設定される。
また、テーパー内径部16の上下方向の長さLは、弁体40の摺動性に影響を与えない長さ以上となるように設定される。
【0022】
図2は、本発明の要部を示す図であって、(a)は溶接後の状態を示し、(b)は(a)のA部の拡大図である。
本発明の構造により、溶込み深さ寸法F2は
図4の(b)に示す溶込み深さ寸法F1より大きくすることができる。すなわち、弁体40が摺動する摺動面32の上部をあらかじめ熱変形量を考慮したテーパー面とすることにより、より深くまで溶込みを行うことができ、より幅の大きな溶接ビードWを形成することが出来るので、溶接強度が大きくなる。溶接ビードWは弁本体10の端面18全面を溶かすことができるように形成することができ、弁本体10の内圧によりパイプホルダ80に作用する応力により溶接ビードWに応力T1が加わった場合でも、溶接面W1全体で受けることができるので、溶接ビードWが破壊しにくく、溶接ビードWの加圧繰り返し強度(疲労強度)を大きくすることができる。
【0023】
本発明は、以上のように、溶接時の熱変形部位を弁体40の摺動面32から遠ざけることができ、弁体40の摺動の円滑化を確保することができる。また、溶接ビードWの加圧繰り返し強度を向上させることができ、耐久性及び信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0024】
1,1´ 電磁弁
10,10´ 弁本体
12 開口部
14 上端面
16 テーパー内径部
18 端面
20、22 パイプ
30 弁室
32 摺動面
34 弁座
40 弁体
42 シール部材
44 ピストンリング
46 パイロット孔
48 パイロット弁座
50 ガイドパイプ
60 吸引子
70 プランジャ
72 閉弁ばね
74 ボール弁体
80,80´ パイプホルダ
82 縮径部
84 テーパー外径部