(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下において、自動分析装置を使用した場合の本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明するが、利用方法の態様についてはこれに限定されるものではない。
【0034】
本発明の異常を検出する方法(以下、本発明の方法)は、例えば、臨床検査の分野において用いられる自動分析装置の測定データの異常を検出し精度管理する方法において、使用することができる。なお、本発明の方法を実施することが可能である測定データの異常検出装置も本発明の範囲に含まれる。
【0035】
自動分析装置とは、例えば、試料分注機構、試薬分注機構、攪拌機構、測光部、反応容器、恒温槽、を備えた装置である。このような自動分析装置は一般に臨床検査用を目的として販売されているが、このような自動測定装置に限定されず、吸光光学系や蛍光光学系のような測定原理に基づいて実施可能な測光部を備えることで反応過程データを取得することができる装置であれば本発明に使用可能である。
【0036】
また、本発明の方法は、当該自動測定装置により測定される下記の測定法に限定されず、測定データが得られる測定法に広く適用可能である。
【0037】
また、対象となりうる測定データは該反応過程に限定されるものではなく、X軸およびY軸を使用した二次元のグラフで表され、かつ、その正常パターンが既知のものであれば適用が可能である。
【0038】
例えば、分析装置の光源の強度の異常を検出することなどが挙げられる。より具体的には、分析装置の光源から発せられる波長ごとの光の明るさを測定したデータを使って、分析装置の光源が正常に作動しているかをチェックする機構として本発明を適用することが可能である。
【0039】
また、好ましくは、臨床検査分野における測定データの異常を検出することにおいて本発明は使用される。例えば、臨床検査項目において、X軸およびY軸を使用した二次元のグラフで表される反応過程有し、かつ、その反応過程の正常パターンが既知のものであり、その反応過程における測定データが得られる方法であれば、該臨床検査項目(血清学検査、生化学検査、血液学検査など)を問わずに本発明を使用することができる。
【0040】
上記のような時系列によって変化するデータが得られる検査としては、吸光度を測定する検査、発光量を測定する検査、蛍光量を測定する検査などがあり、吸光度測定の場合は酵素法、紫外部吸光光度分析法、免疫比濁法、酵素免疫測定法、ラテックス凝集比濁法、ラテックス近赤外比濁法などが挙げられ、発光量測定の場合は化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法などが利用可能である。対象となる検査はこれらに限定されず、実施の形態に応じて様々な反応過程における測定データが得られる臨床検査項目に本発明を適用することができる。
【0041】
当該自動分析装置はコンピュータによって制御される形態をとる場合が一般的である。当該コンピュータは、汎用のPC(personal computer)であってもよいし、専用の装置
であってもよい。
図21は、当該コンピュータ1を例示する。当該コンピュータ1は、例えば、そのハードウェア構成として、バス13に接続される、記憶部11、制御部12、入出力部14等を有する情報処理装置である。
【0042】
記憶部11は、制御部12で実行される処理で利用される各種データ及びプログラムを記憶する(不図示)。記憶部11は、例えば、ハードディスクによって実現される。記憶部11は、USBメモリ等の記録媒体により実現されてもよい。
【0043】
なお、記憶部11が格納する当該各種データ及びプログラムは、CD(Compact Disc)又はDVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体から取得されてもよい。また、記憶部11は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。
【0044】
制御部12は、マイクロプロセッサ又はCPU(Central Processing Unit)等の1又
は複数のプロセッサと、このプロセッサの処理に利用される周辺回路(ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、インタフェース回路等)と、を有する。制御部12は、記憶部11に格納されている各種データ及びプログラムを実行することにより、本実施形態におけるコンピュータ1の処理を実現する。ROM、RAM等は、制御部12内のプロセッサが取り扱うアドレス空間に配置されているという意味で主記憶装置と呼ばれてもよい。
【0045】
また、制御部12は、データ取得部31及びデータ解析部32を含む。データ取得部31及びデータ解析部32は、例えば、記憶部11に格納されたプログラム等が制御部12の周辺回路であるRAM等に展開され、制御部12のプロセッサにより実行されることによって実現される。ここで、自動分析装置は、該臨床検査項目に対して検体を測定するための反応部を有し、生化学反応や免疫学的反応などにより、検体の状態に応じた反応から測定データを得る(反応工程)。データ取得部31は、当該測定データを取得し、データ解析部32は、当該取得された測定データを解析する(解析工程)。反応工程では、反応過程における測定データが得られる。
【0046】
入出力部14は、コンピュータ1の外部に存在する装置とデータの送受信を行うための1又は複数のインタフェースである。入出力部14は、例えば、LAN(Local Area Network)ケーブルを接続するためのインタフェース、入力装置及び出力装置等のユーザインタフェースと接続するためのインタフェース、又はUSB(Universal Serial Bus)等のインタフェースである。
【0047】
入出力部14は、例えば、自動分析装置と接続してもよい。また、入出力部14は、不図示のユーザインタフェース(タッチパネル、テンキー、キーボード、マウス、ディスプレイ等の入出力装置)と接続してもよい。更に、入出力部14は、CDドライブ、DVDドライブ等の着脱可能な記録媒体の入出力装置、或いはメモリカード等の不揮発性の可搬
型の記録媒体等の入出力装置と接続してもよい。入出力部14は、ネットワーク接続を行うインタフェース(通信部)としての機能を有してもよい。
【0048】
本発明に係る測定データの異常を検出する方法(以下、単に「本発明の方法」とも記載する)は、主に、データ解析部32において実施される。本発明の方法を実施するデータ解析部32を有する装置(例えば、コンピュータ1)が本発明の異常検出装置(以下、単に「本発明の装置」とも記載する)に相当する。本発明の装置は、自動分析装置と一体とされて使用することもできるし、自動分析装置とネットワークを介して接続されて使用することもできるし、単独で使用することもできる。以下に詳細な態様と使用例を示すが、これに限定して解釈されるものではない。
【0049】
本発明の装置を自動分析装置と一体とされて使用するとは、該自動分析装置内に、本発明の方法を実施するデータ解析部32を有することが挙げられる。個々の自動分析装置の、各反応工程等で起こる異常を経時的に検出することができるので好ましい。
【0050】
本発明の装置を自動分析装置とネットワークを介して接続されて使用するとは、該自動分析装置と本発明の装置をネットワークを介して接続して使用することが挙げられる。複数の自動分析装置の、各反応工程等で起こる異常を同時に経時的に検出することができたり、本発明の方法が備えられていない自動分析装置においても、各反応工程等で起こる異常を経時的に検出することができたりするので好ましい。
【0051】
本発明の装置を単独で使用するとは、様々な自動分析装置(本発明の方法が備えられている装置及び備えられていない装置)と独立して本発明の装置を使用することが挙げられる。自動分析装置で取得されたデータを、適宜解析して、各反応工程等で起こった異常を検出することができたりするので好ましい。
【0052】
以下、当業者により十分に理解されていると考えられるが、本発明の解説を促進するため、用語の定義を記載する。
【0053】
反応過程とは、測定開始点から測定終了点までの、反応の変化を表すものである。例えば、一定速度で複数回測定されたデータの集合を意味し、具体的には、吸光度を利用した臨床検査項目の測定法においては、反応容器が光度計の光軸を横切る瞬間に得られた断続的な吸光度の集合や、光を照射された物質がそのエネルギーを一旦吸収した後の発光を測定した蛍光強度の集合などが挙げられる。
【0054】
測定データとは、検出器で測定された測定データである。
【0055】
変化量とは、連続する2つの測定ポイント間において、測定データが増加あるいは減少した量をいう。例えば反応過程によって得られた吸光度を測定データとして利用した場合には、連続する2つの測定ポイント間における吸光度が増加或いは減少した量をあらわす。
【0056】
決定係数(R
2)とは、変化量から算出された近似式のあてはまりの良さの尺度として
利用され、近似式の確からしさをあらわす。
【0057】
以下において本発明の方法を、測定データとして反応過程における吸光度の値を使用することを例として、
図13に沿って、測定データに基づく異常を検出する方法の具体的な実施態様、すなわち異常判定ロジックについて説明をする。
【0058】
本発明の異常判定ロジックは、正常反応時の反応過程は滑らかに増加あるいは減少する
ため、測定データに異常がある場合は、その滑らかでない部分が吸光度変化量の推移に顕著に現れる、という事実に基づくものである。なお、以下の処理は、上記コンピュータ1の制御部12(データ解析部32)の処理として説明可能である。
【0059】
本態様の測定データに基づく異常判定ロジックにおいては、まず範囲指定ステップ(S100)において、異常の判定に使用する測定データの使用範囲が設定される。異常の判定をしたいデータの範囲について、好適な数や頻度の測定データが取込まれるように設定される。
【0060】
設定する範囲については、当業者であれば検査項目毎に反応過程を考慮し、適宜選択して設定することができる。例えば、反応の立ち上がりにおいて、測定データの急激な変化が見られる場合には、当該部分については除外をして設定をすることができる。
【0061】
解析に使用する測定データ数は多い方がその異常を精度良く判定できるので好ましいが、当業者であれば、適宜好適な数を設定することができる。例えば、臨床検査分野における一般的な検査項目の反応過程であれば、測定開始時から測定終了時の間で1〜50ポイントや26〜48ポイント等を取得することが挙げられる。
【0062】
次に、測定データの取込ステップ(S101)において、指定した範囲内における測定データの取込が行われる。測定データとしては、解析可能な数値データであれば良い。例えば、測光部で測定される光の種類としては、目的物質の濃度により吸光度が異なることを利用した吸光光度法に加えて、光を照射された物質がそのエネルギーを一旦吸収した後に発光した蛍光強度を利用した蛍光光度法などがあげられるが、上記のような原理に基いて測定が実施可能な測光部によって取得された測定データであれば使用可能である。本願においては吸光度を例に説明を行うが、本発明の範囲はこれに限定されない。
【0063】
吸光度は時間の経過と共に複数回測定されるが、測定された全データのうち前工程S100において指定された、異常判定に使用する指定範囲の吸光度が取り込まれる(S102)。
【0064】
測定データの取り込みは、自動分析装置の反応工程中に経時的に取り込まれても良いし、反応工程終了後、あるいは独立して取り込まれても良い。取り込まれた測定データは、反応過程ごとに本発明の異常の検出方法により解析される。取り込まれた測定データがそのまま使用できない場合には、実施の形態に応じて、適宜、任意の方法に従って補正して解析に利用することができる。例えば、測定データが負の値を含むものであった場合、一定の値を加算して、全ての測定データを正の値とすること等が挙げられる。
【0065】
ここで、様々な反応の形態において、反応過程における測定データを利用した近似式の求め方を例示する。
【0066】
図1−4は、正常反応時における反応過程とその吸光度変化量、及び吸光度変化量から算出された近似式、
図5−9は、異常反応時における反応過程とその吸光度変化量、及び吸光度変化量から算出された近似式を例示する。なお、
図1、
図2、
図5、
図6において横軸は測定ポイントを、縦軸は吸光度をあらわし、
図3−
図4、
図7−9において横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。
【0067】
エンドポイント法とは、目的成分と試薬を反応させて全てを生成物に変化させた後に、吸光度の変化総量を測定して目的成分を測定する方法である。一方、レート法とは、目的成分と試薬を反応させて、その反応が進行している時の速度を単位時間当たりの吸光度変化量として測定し、目的成分を測定する方法である。以下、本願におけるエンドポイント
法の反応過程は、反応工程が正常に進行した際に吸光度が増加し続ける場合を例に説明するが、反応工程が正常に進行した際に吸光度が減少し続ける場合にも同様に適用することができ、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0068】
まず、
図1及び
図5に示すように、反応過程における吸光度が測定される。
【0069】
図1は、反応工程が正常に進行したエンドポイント法の反応過程の例を示す。
図1のように、エンドポイント法において正常に反応が進行した場合にはその吸光度は増加し続けるが、その吸光度の増加は反応初期において最も多く見られる。反応が進行するにつれてプラトー状態に近づくため、吸光度の増加は減少していく。そのため、反応開始から終了までの各測定ポイントにおける吸光度は、滑らかなカーブを描く。
【0070】
図5は、反応工程が正常に進行しなかったエンドポイント法の反応過程の例である。正常に反応が進行しなかった場合にも、吸光度の増加は反応初期において最も多く見られる。反応が進行するにつれて吸光度がプラトー状態に近づく傾向は見られるものの、それまでの各測定ポイントでは吸光度が増加だけでなく減少する場合が観察される。よって、反応開始から終了までの各測定ポイントにおける吸光度は、滑らかなカーブではなく、凹凸のある形状となる。
【0071】
次に、予め範囲設定ステップで設定された範囲において、各測定ポイント間における反応過程における測定データ変化量が求められる。例えば、測定データが吸光度の場合は、吸光度変化量が求められる。該吸光度変化量の算出は、例えば、y(dx)=y(x+1)−y(x)によって算出される。
【0073】
図2は、
図1に例示した反応工程が正常に進行したエンドポイント法において、測定データと各測定ポイント間における差分、すなわち吸光度変化量を示した図である。このように、正常に反応が進行した場合には吸光度は増加し続け、また、滑らかなカーブを描くためその変化量も反応初期が最も大きく、反応が進行するにつれてその変化量は小さくなる。
【0074】
図3は、
図1で例示した反応工程が正常に進行したエンドポイント法において、
図2にて例示した吸光度変化量をグラフとして表わしたものである。このように、正常に反応が進行した場合には吸光度は増加し続け、また、滑らかなカーブを描くためその変化量も反応初期が最も大きく、反応が進行するにつれてその変化量は小さくなる。よって、正常に進行した反応の場合には、吸光度変化量も滑らかなカーブを描く。
【0075】
一方、
図6は、
図5で例示した反応工程が正常に進行しなかったエンドポイント法において、反応過程における測定データと各測定ポイント間における差分、すなわち吸光度変化量を示した図である。このように、正常に反応が進行しなかった場合においても、反応初期において最も吸光度の増加が見られ、反応が進行するにつれてその増加はプラトー状態に近づく傾向が見られるが、その吸光度は増加だけでなく減少する場合も観察される。よって、反応開始から終了までの各測定ポイント間における吸光度変化量は、増加する場合と減少する場合とが存在する。
【0076】
図7は、
図5で例示した反応工程が正常に進行しなかったエンドポイント法において、
図6にて示した吸光度変化量をグラフとして表わしたものである。正常に反応が進行しなかった場合においても、反応初期において最も吸光度の増加が見られ、反応が進行するにつれてその増加はプラトー状態に近づく傾向は見られるが、その吸光度は増加だけでなく
減少する場合も観察される。また、反応開始から終了までの各測定ポイント間における吸光度変化量は、増加する場合と減少する場合とが存在する。したがって、反応開始から終了までの各測定ポイント間における吸光度変化量は滑らかな曲線を描かず、部分的に増加・減少を示す箇所が混在したグラフとなる。
【0077】
そこで、近似式の算出ステップ(S103)において、測定データ変化量(例えば、吸光度変化量)に基づいて近似式が算出され、近似式の決定係数(R
2)や各種パラメータ
係数が取得される。
【0078】
図4、
図8に吸光度変化量から算出された近似式及び吸光度変化量を重ねて示す。
【0079】
図4は、反応工程が正常に進行したエンドポイント法において、
図3で示された測定ポイント間における吸光度変化量について、その各測定ポイント間の吸光度変化量から算出された近似式を併せて記載した図である。正常に反応が進行した場合には、算出された近似式のグラフの形状は吸光度変化量のグラフの形状と近い形状を示す。
【0080】
一方、
図8は、反応工程が正常に進行しなかったエンドポイント法において、
図7で示された測定ポイント間における吸光度変化量について、その各測定ポイント間の吸光度変化量から算出された近似式のグラフを併せて記載した図である。測定反応が正常に進行しなかった場合には、算出された近似式のグラフの形状は、吸光度変化量のグラフの形状と部分的に形状が異なる箇所が混在する。
【0081】
ここで近似式とは、上記指定範囲内における測定データについて異常を検出するために用いることができる式を意味し、指定範囲内において、その測定データ変化量(例えば、反応過程データ変化量、好ましくは、吸光度変化量である)の値に近い値を算出する式であればよい。近似式を算出する方法としては、補間多項式、最小二乗法など、当業者であれば適宜選択して実施することができる。特に好ましくは、最小二乗法を使用して近似式を算出されることが望ましい。
【0082】
以下に、近似式を求める一例を示すが、近似式の算出方法については上述したとおり、これに限定されるものではない。
【0084】
ここで、xは測定データ区間を、lnは自然対数、yは測定データ区間xにおける測定
値の変化量を、aおよびbはそれぞれ係数を示し、これらの係数 a、b及び、式の近似
具合の確からしさを表す決定係数(R
2)を算出する。また、本文中で式を示す場合には
、“×”に代えて“*”を乗算を表わす記号とする。
【0085】
正常な反応過程は滑らかに増加あるいは減少するため、その変化量も単純増加あるいは減少し、(数1)に一致すると考えられる。一方で、異常な反応過程では吸光度変化量が単純増加あるいは単純減少する傾向から外れるため、近似式に一致しない部分が見出される。
【0086】
ここではエンドポイント法において吸光度が増加し続ける反応過程を例にして説明したが、吸光度が減少する反応過程である場合はもちろん、レート法における反応過程についても同様に、過度な試行錯誤なく上述した方法を適用することが可能である。
【0087】
次に、判定値の算出ステップ(S104)では、異常判定に使用する判定値の算出が行われる。そして、異常判定ステップ(S105)では、算出された判定値に基づいて、測定データが異常であるか否かの判定が行われる。測定データの異常の有無は、測定データ変化量とその測定データ変化量から求めた近似式との乖離の程度をもとに判定される。当業者であれば、適宜、好適な判定方法を選択し実施することができる。詳しくは、後述する。
【0088】
次に、異常判定ステップの結果に基づいて、判定結果の通知が行われる(S106)。具体的な判定結果の通知ステップとしては、解析部から異常判定ステップで得られた正常、異常の判定結果が出力される。通知内容としては、少なくとも、反応過程に異常があった検体を特定可能な番号が挙げられ、更に、検査項目、日付、異常が発生した測定ポイント、判定精度を示す事項等の情報なども挙げられる。当業者であれば、実施形態に併せて、通知内容を適宜選択して実施することができる。例えば、各実施の態様1−4において述べる通知内容等が挙げられる。
【0089】
出力の手段としては、公知の手法を使用することができるが、例えば、コンピューターの画面上に表示させる場合、紙媒体で出力して異常を知らせる場合などが挙げられる。通知する手段は通知内容を示すことができる手段であれば特に限定されず、当業者であれば適宜選択して実施することができる。
【0090】
判定結果の出力方法は、測定に関わるどのような異常を検出するかにより、様々な方法を用いることが可能である。
【0091】
本発明の測定データの異常の有無を判定する手法及び判定結果の通知方法として、吸光度変化量を利用した例を以下に列挙するが、これらを単独あるいは可能な限り組み合わせて実施しても良く、また、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0092】
(実施の態様1)
実施の態様1では、変化量の近似式を基底とした上下限値からの変化量の逸脱により、異常判定する例を示す。
【0093】
吸光度変化量に基づいて近似式を算出し、近似式に対して許容値を考慮して判定値として上限値及び/又は下限値で囲まれる許容範囲を設定し、例えば、変化量がその許容範囲を越えた場合に異常と判定する。許容値の例としては、測定データに対する割合などが考えられ、例えば、測定データの平均値×項目ごとの定数値で表わされる。当業者であれば各項目に応じて、臨床検体を使用して得られた正常反応を示す反応過程と異常反応を示す反応過程における測定データから、過度な試行錯誤なく、当該定数値を適宜決定することができる。例えば、ChE(Cholinesterase)の場合には1.00%、ZTT(zinc sulfate turbidity test)の場合には3.00%、γ−GT(Gamma-glutamyl transferase)の場合には0.50〜5.00%を使用することができる。
【0094】
次に、異常判定ステップの結果に基づいて、(1)異常が有ると判定した測定データを特定する番号、(2)近似式の係数(a、b)及び、決定係数(R
2)、(3)各測定ポ
イント間における上下限値、(4)異常が有ると判定した箇所(何ポイント目で異常が発生したか)、(5)上限下限のどちらか(上限を越えたか、下限を下回ったか)、(6)異常があると判定した回数等、を通知する。
【0095】
図8は、異常な反応過程における、吸光度変化量とその近似式をあらわしたものである。また、
図9は、本発明によって異常の有無を判定する際に設定された、上限値、下限値を併記したものである。
【0096】
(実施の態様2)
実施の態様2では、変化量の近似式と変化量とで囲まれた領域の大きさに基づいて、測定データの異常を判定する例を示す。
【0097】
実施の態様2に係る方法は、吸光度変化量に基づいて近似式を算出し、該吸光度の変化量及び該近似式で囲まれた領域値(S)を算出し、当該領域値(S)に対して判定値として設定された許容値(許容領域値)を当該領域値(S)が越えた場合に異常と判定する方法である。領域値(S)は、積分法などに従って求めることができる。
【0098】
許容領域値の例としては、測定データに対する割合などが考えられ、例えば、測定データの絶対値の最大値×項目ごとの定数値で表わされる。当業者であれば各項目に応じて、臨床検体を使用して得られた正常反応を示す反応過程と異常反応を示す反応過程における測定データから、過度な試行錯誤なく、当該定数値を適宜決定することができる。例えば、ChEの場合には0.70%、ZTTの場合には4.00〜5.00%、γ−GTの場合には0.65〜9.00%を使用することができる。
【0099】
次に、異常判定ステップの結果に基づいて、(1)異常が有ると判定したデータを特定する番号、(2)近似式の係数(a、b)及び、決定係数(R
2)、(3)領域(S)と
領域許容値等、を通知する。
【0100】
図8は、異常な反応過程における、吸光度変化量とその近似式をあらわしたものである。
図10は本発明によって異常の有無を判定する近似式と変化量によって囲まれた領域を表わした概念図である。なお、
図8、
図10ともに横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。
【0101】
(実施の態様3)
実施の態様3では、変化量の近似式の決定係数(確からしさ)に基づいて設定された許容値で測定データの異常を判定する例を示す。
【0102】
吸光度変化量に対する近似式の確からしさをあらわす近似式の決定係数(R
2)を利用
することで、各反応の特徴に合わせて動的に変動させた許容値を判定値として使用することが可能である。
【0103】
すなわち、近似式の決定係数(R
2)が悪い場合には、反応全体を通して吸光度変化量
が滑らかに増加あるいは減少をしていないと考えられる。そのため、決定係数(R
2)に
応じて許容値を大きく設定することにより、必要以上に異常が有ると判定しないことが可能となり、全体を通して特に異常が有るデータに対してのみ異常が有ると認識できる。
【0104】
また、近似式の決定係数(R
2)が良い場合には、反応全体を通して、変化量が滑らか
に増加あるいは減少をしていると考えられる。そのため、決定係数(R
2)に応じて許容
値を小さく設定することにより、より微細な異常も判定することが可能となる。
【0105】
吸光度変化量に基づいて近似式及び決定係数(R
2)を算出し、実施の態様1と同様に
、近似式に対して許容値を考慮して上限値及び/又は下限値で囲まれる許容範囲と許容値(ここでは一次許容値と言う)を設定する。次に、決定係数(R
2)に応じて、前記一次
許容値の調整を行い、判定に使用する二次許容値を求める。例えば、一般的に相関が良いと判断される決定係数(R
2)=0.7を基準として、0.7を上回った場合には、決定
係数(R
2)との差分(1−決定係数)を乗算、または下回った場合には、決定係数(R
2)の逆数を乗算することが挙げられる。この調整された一次許容値(二次許容値)から求
められた許容範囲を、例えば、変化量が越えた場合に異常と判定する。
【0106】
次に、異常判定ステップの結果に基づいて、(1)異常が有ると判定した測定データを特定する番号、(2)近似式の係数(a、b)及び、決定係数(R
2)、(3)各測定ポ
イント間における上下限値、(4)異常が有ると判定した箇所(何ポイント目で異常が発生したか)、(5)上限下限のどちらか(上限を越えたか、下限を下回ったか)、(6)異常があると判定した回数等、を通知する。
【0107】
(実施の態様4)
実施の態様4では、変化量の近似式を基底とした、上側、下側の入替り頻度を使用した異常判定の例を示す。
【0108】
吸光度変化量に基づいて近似式を算出し、反応過程において吸光度変化量が近似式を跨いで上側あるいは下側に移動した頻度に対して判定値として回数許容値を設定する。回数許容値の例としては、吸光度変化量を求めたポイント数に対する割合などが考えられる。吸光度変化量の移動頻度が回数許容値を越えた場合に、測定データは異常が有ると判定される。
【0109】
例えば、回数許容値は以下のように算出することができる。まず、反応過程において吸光度変化量がその近似式を跨いだ回数(C)を算出する。次に、近似式の決定係数(R
2
)等を勘案し、回数許容値を算出する。回数許容値は、吸光度変化量を求めたポイント数×定数×決定係数(R
2)で設定される。該定数値は、当業者であれば各項目に応じて、
臨床検体を使用して得られた正常反応を示す反応過程と異常反応を示す反応過程における測定データから、過度な試行錯誤なく、適宜決定することができる。
【0110】
次に、異常判定ステップの結果に基づいて,(1)異常が有ると判定したデータを特定
する番号、(2)近似式の係数(a、b)及び、決定係数(R
2)、(3)回数(C)と
回数許容値等、とを通知する。
【0111】
図11は、異常な反応過程の例を示す。
図12は、
図11に示した異常な反応過程から算出された吸光度変化量とその近似式に対する、吸光度変化量の上下頻度例である。なお、
図11において横軸は測定ポイントを、縦軸は吸光度をあらわし、
図12においては横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。
【実施例】
【0112】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本実施例は本発明を単に例示するものにすぎず、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明の精神から離れることなく、いかなる変更、改良または改変を加えることができることは当業者には自明である。
【0113】
[実施例1:変化量の近似式を基底とした上下限値からの変化量の逸脱を利用した判定(エンドポイント法)]
本願発明の効果を検証するために、硫酸亜鉛混濁試験(ZTT)についてエンドポイント法による測定を行った。測定試薬には、ZTT測定用試薬であるZTT−HR ワコー
(和光純薬工業株式会社)を、自動分析装置としては7700型日立自動分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を、試料としては患者から採取された血清検体を使用して測定を実施した。異常を検出しなかった例(正常例)と異常を検出した例を示す。
【0114】
(1−1)正常な反応過程例
検体の測定終了後、ZTTの項目について予め設定した範囲である、測光ポイント3〜
24の測定データを取り込んだ。この範囲における吸光度変化量として、指定範囲における各ポイント間のy(dx)=y(x+1)−y(x)を算出した。次に、算出された吸光度変化量に基づいて近似式y=a*ln(x)+bのパラメータ係数を算出したところ、
近似式はy=−17.284ln(x)+56.589であり、決定係数(R
2)はR
2=0.9847であった。
図14に、測定データから算出した吸光度変化量とその変化量の近似式の図に許容幅を併記して示す。なお、
図14における“△”が各点における上限値を示す。また、
図14における“□”が各点における下限値を示す。
図15、17、及び、18についても同様である。
図14において、横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。また、あらかじめ設定された測光ポイント3〜4の区間における吸光度変化量を測定データ区間の開始点(区間1)として全体をプロットした。定数は3.00%を設定した。許容値は、測定データに対する割合から算出し、測定データの平均値に定数3.00%をかけあわせた。更に、ZTT項目の決定係数(R
2)が0.7を上回り
相関がよいと判断されたため、決定係数(R
2)との差分(1−決定係数(R
2))をかけあわせて許容値幅は±16.767と算出された。この結果、測定データから算出された吸光度変化量は、いずれの測定データにおいても許容幅の上下限を超えることはなかったことから、反応過程の異常は検出されなかった。
【0115】
(1−2)異常な反応過程例
一方、ZTTの異常な反応過程を示した測定データにおいて、(1−1)と同様して異常の有無を判定した。近似式と決定係数(R
2)を算出したところ、近似式はy=−9.
8577ln(x)+35.35であり、決定係数(R
2)はR
2=0.286であった。更に、決定係数(R
2)が0.7を下回り、相関が悪いと判断されたため、測定データの
平均値に定数3.00%をかけあわせたものに、更に、決定係数(R
2)の逆数をかけあ
わせて許容値幅は40.475と算出された。
図15に、測定データから算出された吸光度変化量とその変化量の近似式の図に許容幅を併記して示す。
図15において、横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。また、あらかじめ設定された測光ポイント3〜24の区間に関わらず、測定データ区間の開始点は1として異常判定に使用した。この結果、指定された範囲の後半の測光ポイント21付近において、測定データから算出された吸光度変化量が、前記許容値幅を超えたことから、反応過程の異常が検出された。
【0116】
[実施例2:変化量の近似式と変化量とで囲まれた領域の大きさを利用した判定(エンドポイント法)]
本願発明の効果を検証するために、硫酸亜鉛混濁試験(ZTT)についてエンドポイント
法による測定を行った。測定データを得る工程は、実施例1と同様にして実施した。
(2−1)正常な反応過程例
実施例1と同様にして、ZTTの項目について予め設定した範囲である、測光ポイント3〜24の測定データを取り込んだ。この範囲における吸光度変化量として、指定範囲における各ポイント間のy(dx)=y(x+1)−y(x)を算出した。次に、算出された吸光度変化量に基づいて、近似式y=a*ln(x)+bのパラメータ係数を算出した
ところ、近似式はy=−17.284ln(x)+56.589であり、決定係数(R
2
)はR
2=0.9847であった。
図14に、測定データから算出した吸光度変化量とそ
の変化量の近似式の図に許容幅を併記した図である。この時、吸光度変化量と近似式とで囲まれる領域値(S)を公知の方法に従って算出したところ、25.869であった。定数(%)は、5.00%とした。ここで許容領域値を、測定データの絶対値の最大値に定数5.00%をかけあわせて算出したところ、118.290であった。この結果、測定データから算出された領域値(S)は許容領域値を超えなかったため、反応過程の異常は検出されなかった。
【0117】
(2−2)異常な反応過程例
一方、ZTTの異常な反応過程を示した測定データにおいて、(2−1)と同様して異常
の有無を判定した。まず、近似式と決定係数を算出したところ、近似式はy=−18.861ln(x)+51.615であり、決定係数(R
2)はR
2=0.5431であった。
図16に、測定データから算出された吸光度変化量とその変化量の近似式の図を示す。
図16において、横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。また、あらかじめ設定された測光ポイント3〜24の区間に関わらず、測定データ区間の開始点は1として異常判定に使用した。この時、吸光度変化量と近似式とで囲まれる領域値(S)を公知の方法に従って算出したところ、173.501であった。また、許容領域値は、測定データの絶対値の最大値に定数5.00%をかけあわせて算出したところ、106.150が算出された。この結果、測定データから算出された領域値(S)は許容領域値を超えたため、反応過程の異常が検出された。
【0118】
[実施例3:変化量の近似式を基底とした上下限値からの変化量の逸脱を利用した判定(レート法)]
レート法による反応過程について、本願発明の効果を検証するために、コリンエステラーゼ(ChE)の測定を行った。測定試薬には、ChE−CL(株式会社 セロテック)
を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0119】
(3−1)正常な反応過程例
検体の測定終了後、ChEの項目について予め設定した範囲である、測光ポイント26〜50の測定データを取り込んだ。この範囲における吸光度変化量として、指定範囲における各ポイント間のy(dx)=y(x+1)−y(x)を算出した。次に、算出された吸光度変化量に基づいて、近似式y=a*ln(x)+bのパラメータ係数を算出したとこ
ろ、反応過程における近似式はy=−4.7606ln(x)−96.758であり、決定係数(R
2)はR
2=0.6704であった。
図17に、測定データから求めた吸光度変化量とその変化量の近似式の図に許容幅を併記して示す。
図17において、横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。また、あらかじめ設定された測光ポイント26〜50の区間に関わらず、測定データ区間の開始点は1として異常判定に使用した。定数は1.00%を設定した。許容値は、測定データに対する割合から算出し、許容値幅は、測定データの平均値に定数1.0をかけあわせて±54.557と算出された。この結果、測定データから算出された吸光度変化量はいずれの測定データにおいても許容幅の上下限を超えることはなかったことから、反応過程の異常は検出されなかった。
【0120】
(3−2)異常な反応過程例
一方、ChEの異常な反応過程を示した測定データにおいて、(3−1)と同様して異常の有無を判定した。まず、近似式と決定係数(R
2)を算出したところ、近似式はy=
−5.4134ln(x)−90.393であり、決定係数(R
2)はR
2=0.0491であった。
図18に、測定データから求めた吸光度変化量とその変化量の近似式の図に許容幅を併記して示す。
図18において、横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。また、あらかじめ設定された測光ポイント26〜50の区間に関わらず、測定データ区間の開始点は1として異常判定に使用した。許容値は、測定データに対する割合から算出し、許容値幅は、測定データの平均値に定数1.00%をかけあわせて±55.589と算出された。この結果、測光ポイント39付近において、測定データから算出された吸光度変化量が許容幅の下限を超えたことから、反応過程の異常が検出された。
【0121】
[実施例4:変化量の近似式と変化量とで囲まれた領域の大きさを利用した判定(レート法)]
本願発明の効果を検証するために、コリンエステラーゼ(ChE)の測定を行った。測定値を得る工程は、実施例1と同様にして実施した。
【0122】
(4−1)正常な反応過程例
検体の測定終了後、ChEの項目について予め設定した範囲である、測光ポイント26〜50の測定データを取り込んだ。この範囲における吸光度変化量として、指定範囲における各ポイント間のy(dx)=y(x+1)−y(x)を算出した。次に、算出された吸光度変化量に基づいて、近似式y=a*ln(x)+bのパラメータ係数を算出したと
ころ、近似式はy=1.6435ln(x)−16.627であり、決定係数(R
2)は
R
2=0.3927であった。
図19に、測定データから算出した吸光度変化量とその変
化量の近似式の図を示す。
図19において、横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。また、あらかじめ設定された測光ポイント26〜50の区間に関わらず、測定データ区間の開始点は1として異常判定に使用した。定数は0.70%を設定した。吸光度変化量と近似式とで囲まれる領域値(S)を公知の方法に従って算出したところ、24.340であった。許容領域値を、測定データの絶対値の最大値に定数(%)0.70をかけあわせて算出したところ、216.139であった。この結果、測定データから算出された領域値(S)は許容領域値を超えなかったため、反応過程の異常は検出されなかった。
【0123】
(4−2)異常な反応過程例
一方、ChEの異常な反応過程を示した測定データにおいて、(3−1)と同様して異常の有無を判定した。まず、同様に近似式と決定係数を算出したところ、近似式はy=0.1258ln(x)−0.3288であり、決定係数(R
2)はR
2=0.0062であった。吸光度変化量と近似式とで囲まれる領域値(S)を算出したところ、18.590であった。
図20に、測定データから求めた吸光度変化量とその変化量の近似式の図を示す。
図20において、横軸は測定データ区間を、縦軸は吸光度変化量をあらわす。また、あらかじめ設定された測光ポイント26〜50の区間に関わらず、測定データ区間の開始点は1として異常判定に使用した。許容領域値を測定データの絶対値の最大値に定数0.70%をかけあわせて算出したところ、14.848であった。この結果、測定データから算出された領域値(S)が許容領域値を超えたため、反応過程の異常が検出された。