特許第5953094号(P5953094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5953094含フッ素高分子化合物の製造方法、表面調整剤、レベリング剤及びコーティング剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953094
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】含フッ素高分子化合物の製造方法、表面調整剤、レベリング剤及びコーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/24 20060101AFI20160707BHJP
   C09D 133/24 20060101ALI20160707BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20160707BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C08F220/24
   C09D133/24
   C09D133/14
   C09D201/00
【請求項の数】7
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2012-90351(P2012-90351)
(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公開番号】特開2013-216829(P2013-216829A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】菱田 龍啓
(72)【発明者】
【氏名】塚谷 才英
(72)【発明者】
【氏名】木部 佳延
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/143299(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/084530(WO,A1)
【文献】 特開2003−221419(JP,A)
【文献】 特開2001−106711(JP,A)
【文献】 特開2010−106240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単量体化合物20〜50質量部と、下記一般式(2)で表される単量体化合物15〜60質量部と、下記一般式(3)で表される単量体化合物15〜60質量部と、10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤と、反応溶媒として脂肪族アルコールと、が含まれ、単量体化合物の合計濃度が5〜25質量%である反応系(但し、一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物の合計質量は100質量部である)の重合を前記重合開始剤の10時間半減期温度より10〜30℃高い温度で開始するステップと、
重合が開始された前記反応系に、下記一般式(1)で表される単量体化合物20〜50質量部と、下記一般式(2)で表される単量体化合物15〜60質量部と、下記一般式(3)で表される単量体化合物15〜60質量部と、10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤と、が含まれる追加重合前組成物(但し、一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物の合計質量は100質量部である)を、追加したときの反応系における単量体化合物の合計濃度が5〜25質量%となる範囲で1回若しくは2回以上又は連続的に追加供給するステップと、
を備える、含フッ素高分子化合物の製造方法。
CH=CX−C(=O)−Y−Z−R (1)
[式(1)中、Xは水素原子、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、又は、置換若しくは非置換のフェニル基を示し、
Yは−O−又は−NH−を示し、
Zは直接結合、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜18のアリーレン基又はシクロアルキレン基、−CHCHN(R)SO−又は−CHCHN(R)C(=O)−(ただしRは水素又は炭素数1〜4のアルキル基)、−CHCH(OR)CH−(ただしRは水素原子又はアセチル基)或いは−(CH−R−(CH−(ただしRは−S−、−SO−又は−SO−、mは2〜3の整数、nは0〜2の整数)を示し、
は炭素数2〜6のフッ素化アルキル基またはフッ素化アルケニル基を示す。]
CH=C(R)−COO−(AO)−R (2)
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、AOは炭素数が2〜4のアルキレンオキシ基を示し、aは前記AOの平均付加モル数を示し3〜15であり、複数のAOは同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基を示す。)
CH=C(R)−COO−(AO)−H (3)
(式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、AOは炭素数が2〜4のアルキレンオキシ基を示し、bは前記AOの平均付加モル数を示し3〜15であり、複数のAOは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)における、Xが水素原子又はメチル基であり、Yが−O−であり、Zが炭素数1〜3のアルキレン基であり、Rが炭素数4〜6のフッ素化アルキル基であり、前記一般式(2)における、Rが炭素数1〜8のアルキル基である、請求項1に記載の含フッ素高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
前記含フッ素高分子化合物中のフッ素原子含有率が10〜30質量%である、請求項1又は2に記載の含フッ素高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
前記含フッ素高分子化合物の重量平均分子量が、5000〜30000である請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素高分子化合物の製造方法。
【請求項5】
含フッ素高分子化合物を含む表面調整剤の製造方法であって、
前記含フッ素高分子化合物を請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法によって得る、表面調整剤の製造方法
【請求項6】
含フッ素高分子化合物を含むレベリング剤の製造方法であって、
前記含フッ素高分子化合物を請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法によって得る、レベリング剤の製造方法
【請求項7】
含フッ素高分子化合物を含むコーティング剤の製造方法であって、
前記含フッ素高分子化合物を請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法によって得る、コーティング剤の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素高分子化合物、及び、含フッ素高分子化合物の製造方法に関する。また本発明は、含フッ素高分子化合物を含む表面調整剤、レベリング剤及びコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、プラスチック、繊維、金属、ガラス、紙及び木材等の各種基材を機能性材料とする場合、様々なコーティング剤により基材の表面に機能性皮膜を形成することが行われている。基材の表面に均一な機能性皮膜を形成するためには、コーティング剤のレベリング性を最適に調節する必要がある。しかし、レベリング性をコーティング剤の主剤だけで調節することは困難であるため、多くの場合は、例えばポリ(メタ)アクリレート誘導体、ポリビニルアルコール系化合物、シリコーン系化合物、フッ素系化合物などがレベリング剤又は表面調整剤としてコーティング剤に併用されている。その中でも特に表面張力を調整する効果(表面張力調整効果)が高くレベリング性の良好なフッ素系化合物が広く使用されている。
【0003】
フッ素系化合物は、その表面張力調整効果を利用して、レベリング剤及び表面調整剤以外にも、浸透剤、濡れ性改良剤、平滑剤、洗浄剤、起泡剤、消泡剤、乳化剤、分散剤等の各種用途に広く使用されている。
【0004】
フッ素系化合物として含フッ素高分子化合物を含む表面調整剤も提案されており、例えば、下記特許文献1には、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマーと、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、モノ−又はポリ−オキシアルキレン基の片末端が不活性基で封鎖されたモノ−又はポリ−オキシアルキレニル(メタ)アクリレートモノマーとの共重合物を含有するコーティング剤用表面調整剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−106240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フッ素系化合物を配合したコーティング剤は、形成された機能性皮膜の表面張力が極端に低下し撥水撥油性が必要以上に高くなるためにリコート性が悪化する傾向がある。特に、多層コーティング処理を行う場合、コーティング剤の上塗りができなかったり、上塗りして形成された皮膜が剥離する等の課題が生じやすい。上記特許文献1に記載の表面調整剤を含むコーティング剤を使用した場合、水系/非水系共に塗液の表面張力、塗装膜の表面張力、塗装膜の平滑性に優れることが特許文献1に開示されている。しかしながら、特許文献1には上塗りに関する記載はなく、本発明者らが検討したところ、フッ素含有(メタ)アクリレートモノマーの配合量が多くなると、レベリング性は良好であるものの、リコート性が低下することを見出した。
【0007】
また最近では、環境に対する負荷が小さい水系コーティング剤が求められている。上記特許文献1に記載の表面調整剤は、含まれるフッ素含有(メタ)アクリレート共有重合物の水溶解性が乏しいため、水系コーティング剤用途に使用する場合は、水溶解性を補助する目的で水に溶解する有機溶剤を用いなければならないという点で改善の余地がある。また、水に溶解する有機溶剤を使用してもフッ素含有(メタ)アクリレート共重合体は水に乳化分散している状態であり、乳化分散状態が良好でない場合には、溶解している状態に比べ性能が発揮されにくい傾向がある。また、従来使用しているフッ素系化合物は、炭素数が8以上のフルオロアルキル基を有する化合物であり、環境中に排出された場合、分解してパーフルオロオクタン酸(PFOA)が発生する可能性があることが指摘されている。PFOAは、環境や人体への蓄積性、有害性が問題となっている物質であるため、フルオロアルキル基の炭素数を8からPFOAが発生しない炭素数6以下にしたフッ素系化合物に代替する検討が盛んに行われている。しかしながら炭素数が6以下のフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物は炭素数が8以上のものに比べ、表面張力調整効果が劣る傾向にある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、炭素数が6以下のフルオロアルキル基を有し、水系/非水系のいずれにおいても十分な表面張力調整効果を得ることができ、特には環境負荷の小さい水系でレベリング性及びリコート性に優れたコーティング剤の実現を可能とする含フッ素高分子化合物の製造方法、並びに、表面調整剤、レベリング剤及びコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素数が6以下のフルオロアルキル基を有する特定の単量体化合物を特定の条件で共重合させることによって得られる特定の含フッ素高分子化合物が、水系/非水系のいずれにおいても十分な表面張力調整効果を得ることができ、特に水系コーティング剤においてレベリング性とリコート性とを高水準で両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
下記一般式(1)で表される単量体化合物20〜50質量部と、下記一般式(2)で表される単量体化合物15〜60質量部と、下記一般式(3)で表される単量体化合物15〜60質量部と、10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤と、反応溶媒として脂肪族アルコールと、が含まれ、単量体化合物の合計濃度が5〜25質量%である反応系(但し、一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物の合計質量は100質量部である)の重合を上記重合開始剤の10時間半減期温度より10〜30℃高い温度で開始するステップと、
重合が開始された上記反応系に、下記一般式(1)で表される単量体化合物20〜50質量部と、下記一般式(2)で表される単量体化合物15〜60質量部と、下記一般式(3)で表される単量体化合物15〜60質量部と、10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤と、が含まれる追加重合前組成物(但し、一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物の合計質量は100質量部である)を、追加したときの反応系における単量体化合物の合計濃度が5〜25質量%となる範囲で1回若しくは2回以上又は連続的に追加供給するステップと、
を備える、含フッ素高分子化合物の製造方法を提供する。
【0011】
CH=CX−C(=O)−Y−Z−R (1)
[式(1)中、Xは水素原子、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、又は、置換若しくは非置換のフェニル基を示し、
Yは−O−又は−NH−を示し、
Zは直接結合、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜18のアリーレン基又はシクロアルキレン基、−CHCHN(R)SO−又は−CHCHN(R)C(=O)−(ただしRは水素又は炭素数1〜4のアルキル基)、−CHCH(OR)CH−(ただしRは水素原子又はアセチル基)或いは−(CH−R−(CH−(ただしRは−S−、−SO−又は−SO−、mは2〜3の整数、nは0〜2の整数)を示し、
は炭素数2〜6のフッ素化アルキル基またはフッ素化アルケニル基を示す。]
【0012】
CH=C(R)−COO−(AO)−R (2)
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、AOは炭素数が2〜4のアルキレンオキシ基を示し、aは上記AOの平均付加モル数を示し3〜15であり、複数のAOは同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基を示す。)
【0013】
CH=C(R)−COO−(AO)−H (3)
(式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、AOは炭素数が2〜4のアルキレンオキシ基を示し、bは上記AOの平均付加モル数を示し3〜15であり、複数のAOは同一でも異なっていてもよい。)
【0014】
本発明の含フッ素高分子化合物の製造方法によれば、上記ステップを有することにより、水系/非水系のいずれにおいても十分な表面張力調整効果を得ることができる含フッ素高分子化合物を製造することができる。本発明の方法により得られる含フッ素高分子化合物によれば、環境負荷の小さい水系においてレベリング性及びリコート性に優れたコーティング剤を実現することができる。
【0015】
本発明の製造方法において、上記一般式(1)におけるXが水素原子又はメチル基であり、Yが−O−であり、Zが炭素数1〜3のアルキレン基であり、Rが炭素数4〜6のフッ素化アルキル基であり、上記一般式(2)におけるRが炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましい。
【0016】
また、含フッ素高分子化合物中のフッ素原子含有率が10〜30質量%であることが好ましい。
【0017】
更に、含フッ素高分子化合物の重量平均分子量が、5000〜30000であることが好ましい。
【0018】
また本発明は、上記本発明の製造方法によって得られる含フッ素高分子化合物を含む、表面調整剤、レベリング剤及びコーティング剤を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、炭素数が6以下のフルオロアルキル基を有し、水系/非水系のいずれにおいても十分な表面張力調整効果を得ることができ、特には環境負荷の小さい水系でレベリング性及びリコート性に優れたコーティング剤の実現を可能とする含フッ素高分子化合物の製造方法、並びに、表面調整剤、レベリング剤及びコーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態に係る含フッ素高分子化合物の製造方法は、
下記一般式(1)で表される単量体化合物20〜50質量部と、下記一般式(2)で表される単量体化合物15〜60質量部と、下記一般式(3)で表される単量体化合物15〜60質量部と、10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤と、反応溶媒として脂肪族アルコールと、が含まれ、単量体化合物の合計濃度が5〜25質量%である反応系(但し、一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物の合計質量は100質量部である)の重合を上記重合開始剤の10時間半減期温度より10〜30℃高い温度で開始するステップと、
重合が開始された上記反応系に、下記一般式(1)で表される単量体化合物20〜50質量部と、下記一般式(2)で表される単量体化合物15〜60質量部と、下記一般式(3)で表される単量体化合物15〜60質量部と、10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤と、が含まれる追加重合前組成物(但し、一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物の合計質量は100質量部である)を、追加したときの反応系における単量体化合物の合計濃度が5〜25質量%となる範囲で1回若しくは2回以上又は連続的に追加供給するステップと、
を備える。
【0021】
CH=CX−C(=O)−Y−Z−R (1)
CH=C(R)−COO−(AO)−R (2)
CH=C(R)−COO−(AO)−H (3)
【0022】
式(1)中、Xは水素原子、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、又は、置換若しくは非置換のフェニル基を示し、
Yは−O−又は−NH−を示し、
Zは直接結合、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜18のアリーレン基又はシクロアルキレン基、−CHCHN(R)SO−又は−CHCHN(R)C(=O)−(ただしRは水素又は炭素数1〜4のアルキル基)、−CHCH(OR)CH−(ただしRは水素原子又はアセチル基)或いは−(CH−R−(CH−(ただしRは−S−、−SO−又は−SO−、mは2〜3の整数、nは0〜2の整数)を示し、
は炭素数2〜6のフッ素化アルキル基またはフッ素化アルケニル基を示す。
【0023】
式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、AOは炭素数が2〜4のアルキレンオキシ基を示し、aは上記AOの平均付加モル数を示し3〜15であり、複数のAOは同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基を示す。
【0024】
式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、AOは炭素数が2〜4のアルキレンオキシ基を示し、bは上記AOの平均付加モル数を示し3〜15であり、複数のAOは同一でも異なっていてもよい。
【0025】
本実施形態において、重合を開始させる上記反応系は、例えば、所定の反応容器内で上記反応系における上記条件を満たす重合前組成物を調製することにより形成される。
【0026】
(重合前組成物及び追加重合前組成物)
本実施形態に係る重合前組成物及び追加重合前組成物(以下、単に重合前組成物という場合がある)は、一般式(1)で表される単量体化合物(以下、単量体化合物Aという場合がある)と、一般式(2)で表される単量体化合物(以下、単量体化合物Bという場合がある)と、一般式(3)で表される単量体化合物(以下、単量体化合物Cという場合がある)と、を上記特定の割合で含み、さらには10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤(以下、単に重合開始剤という場合がある)とを含む。
【0027】
以下、各成分について説明する。
【0028】
まず、単量体化合物Aについて説明する。単量体化合物Aは、入手しやすさの観点から、式(1)におけるXが水素原子又はメチル基であることが好ましい。また、同様の観点から、Yが−O−であることが好ましい。
【0029】
更に、Zは、含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果の観点から、炭素数1〜10のアルキレン基であることが好ましい。炭素数1〜10のアルキレン基としては直鎖でも分岐でもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、2−メチルエチレン基、スチリル基、テトラメチレン基、ヘキシレン基及びオクチレン基が挙げられる。この中でも炭素数1〜3のアルキレン基であることがより好ましい。
【0030】
で表される炭素数2〜6のフッ素化アルキル基は、パーフルオロアルキル基又は部分的にフッ素化されたフルオロアルキル基であってもよく、直鎖であっても分岐であってもよい。このような炭素数2〜6のフッ素化アルキル基としては、例えば、―CFCF、―(CFCF、―CF(CF、―(CFCF、―CFCF(CF、―C(CF、―(CFCF、―(CFCF(CF、―CFC(CF、―CF(CF)CFCFCF、―(CFCF、―(CFCF(CF、―(CFC(CF、―CF(CF)CFCFCFCF、―CFCF(CFCF、―(CFH、―CFCFHCF、―(CFH及び―(CFHが挙げられる。
【0031】
炭素数2〜6のフッ素化アルケニル基は、パーフルオロアルケニル基又は部分的にフッ素化されたフルオロアルケニル基であってもよく、直鎖であっても分岐であってもよい。このような炭素数2〜6のフッ素化アルケニル基としては、例えば、―CF=CF(CF)、―CF=C(CF、―CF=C(CF)(CFCFCF)、―CF=C(CF)(CF(CF)、―C(CF)=CF(CF(CF)及び―C(CFCF)=C(CFが挙げられる。
【0032】
これらの中でも含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果の観点から炭素数4〜6のフッ素化アルキル基が好ましく、炭素数4〜6のパーフルオロアルキル基がより好ましい。
【0033】
単量体化合物Aの具体例としては、例えば、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート、パーフルオロブチルメチレンアクリレート及びパーフルオロエチルメチレンアクリレートが挙げられる。
【0034】
単量体化合物Aは市販品を使用することも可能であり、例えば、R−1210、R−1420、R−1433、R−1620、R−1633、R−5210、R−5410、R−5610、R−7210、R−7310、M−1620、M−1420(以上、ダイキン工業株式会社製)及びCAPSTONE 62−MA(デュポン製)が挙げられる。
【0035】
上記の単量体化合物Aは、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
本実施形態に係る重合前組成物中の単量体化合物Aの配合量は、単量体化合物A〜Cの合計100質量部に対して、20〜50質量部であるが、30〜50質量部であることが好ましく、30〜45質量部であることがより好ましい。重合前組成物中の単量体化合物Aの配合量が20質量部未満であると、含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果が低下し、水系コーティング剤に使用した場合レベリング性が低下する傾向がある。重合前組成物中の単量体化合物Aの配合量が50質量部を超えると、含フッ素高分子化合物の水溶解性が低下し、水系コーティング剤に使用することが困難となる傾向がある。ここで、水系コーティング剤とは、水を含む又は水に溶解して使用するコーティング剤であって、使用している溶媒のなかで水の割合が最も多いコーティング剤を意味する。
【0037】
次に単量体化合物Bについて説明する。
【0038】
式(2)における炭素数2〜4のアルキレンオキシ基としては、例えば、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基及びブチレンオキシ基が挙げられる。この中でも含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果の観点から、エチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基が好ましい。
【0039】
式(2)におけるaは、含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果と水溶解性の観点から、好ましくは5〜10である。aが3未満の場合は含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果と水溶解性が低下し、水系コーティング剤に使用した場合レベリング性とリコート性が低下する傾向がある。aが15を超える場合は一般式(2)で表される化合物の反応性が低下し、製品化が困難になる傾向がある。
【0040】
は、含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果の観点から、炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0041】
単量体化合物Bの具体例としては、例えば、メトキシポリエチレングリコール(4モル)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(4モル)メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(6モル)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(6モル)メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(9モル)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(9モル)メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(13モル)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(13モル)メタクリレート、エトキシポリエチレングリコール(4モル)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(4モル)メタクリレート、エトキシポリエチレングリコール(6モル)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(6モル)メタクリレート、エトキシポリエチレングリコール(9モル)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(9モル)メタクリレート、エトキシポリエチレングリコール(13モル)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(13モル)メタクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(4モル)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(4モル)メタクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(6モル)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(6モル)メタクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(9モル)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(9モル)メタクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(13モル)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(13モル)メタクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(4モル)アクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(4モル)メタクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(6モル)アクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(6モル)メタクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(9モル)アクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(9モル)メタクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(13モル)アクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(13モル)メタクリレート、tert−ブトキシポリエチレングリコール(4モル)アクリレート、tert−ブトキシポリエチレングリコール(4モル)メタクリレート、tert−ブトキシポリエチレングリコール(6モル)アクリレート、tert−ブトキシポリエチレングリコール(6モル)メタクリレート、tert−ブトキシポリエチレングリコール(9モル)アクリレート、tert−ブトキシポリエチレングリコール(9モル)メタクリレート、tert−ブトキシポリエチレングリコール(13モル)アクリレート、tert−ブトキシポリエチレングリコール(13モル)メタクリレート等が挙げられる。
【0042】
単量体化合物Bは市販品を使用することも可能であり、例えば、ブレンマーPME−200、ブレンマーPME−400、ブレンマーAME−400、(以上、日油株式会社製)、AM−90G、AM−130G及びM−90G(以上、新中村化学株式会社製)が挙げられる。
【0043】
上記の単量体化合物Bは、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
本実施形態に係る重合前組成物中の単量体化合物Bの配合量は、単量体化合物A〜Cの合計100質量部に対して、15〜60質量部であるが、20〜50質量部であることが好ましい。重合前組成物中の単量体化合物Bの配合量が15質量部未満であると、含フッ素高分子化合物が増粘し製品化が困難になる傾向がある。重合前組成物中の単量体化合物Bの配合量が60質量部を超えると、含フッ素高分子化合物の水溶解性が低下し、水系コーティング剤に使用することが困難となる傾向がある。
【0045】
単量体化合物Cについて説明する。式(3)における炭素数2〜4のアルキレンオキシ基としては、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基及びブチレンオキシ基が挙げられる。この中でも含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果の観点から、エチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基が好ましい。
【0046】
また、bは、含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果と水溶解性の観点から、好ましくは5〜10である。bが3未満であると、含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果と水溶解性が低下し、水系コーティング剤に使用した場合、レベリング性とリコート性が低下する傾向がある。bが15を超えると、単量体化合物Cの反応性が低下し、製品化が困難になる傾向がある。
【0047】
単量体化合物Cの具体例としては、例えば、ポリプロピレングリコール(4モル)モノアクリレート、ポリプロピレングリコール(4モル)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(6モル)モノアクリレート、ポリプロピレングリコール(6モル)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(9モル)モノアクリレート、ポリプロピレングリコール(9モル)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(13モル)モノアクリレート、ポリプロピレングリコール(13モル)モノメタクリレート、ポリエチレングリコール(4.5モル)モノアクリレート、ポリエチレングリコール(4.5モル)モノメタクリレート、ポリエチレングリコール(10モル)モノアクリレート、ポリエチレングリコール(8モル)モノメタクリレート等が挙げられる。
【0048】
単量体化合物Cは市販品を使用することも可能であり、例えば、ブレンマーPE−200、PE−350、PP−1000、PP−800、PP−500、AE−200、AE−400、AP−150、AP−400、AP−550、AP−800、50PEP−300、70PEP−350B及び55PET−800(日油株式会社製)が挙げられる。
【0049】
上記の単量体化合物Cは、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
本実施形態に係る重合前組成物中の単量体化合物Cの配合量は、単量体化合物A〜Cの合計100質量部に対して、15〜60質量部であるが、20〜50質量部であることが好ましい。重合前組成物中の単量体化合物Cの配合量が15質量部未満であると、含フッ素高分子化合物の水溶解性が低下し、水系コーティング剤に使用することが困難となる傾向がある。重合前組成物中の単量体化合物Cの配合量が60質量部を超えると、含フッ素高分子化合物が増粘し製品化が困難になる傾向がある。
【0051】
本実施形態において、単量体化合物の相溶性を向上し反応性を向上させる観点から、単量体化合物B及び単量体化合物Cに含まれるアルキレンオキシ基の総量に対する、単量体化合物B及び単量体化合物Cに含まれる炭素数3〜4のアルキレンオキシ基の割合が15〜75質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。炭素数3〜4のアルキレンオキシ基は、単量体化合物B又は単量体化合物Cのいずれか一方のみに含まれていてもよいし、単量体化合物B及び単量体化合物Cの両方に含まれていてもよい。単量体化合物B及び単量体化合物Cの両方に含まれている場合、どのような比率で含まれていてもよい。
【0052】
本実施形態に係る重合開始剤は、10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤である。含フッ素高分子化合物の水溶解性と反応温度制御の容易性の観点から、10時間半減期温度が55〜80℃である重合開始剤を用いることが好ましい。
【0053】
本実施形態に係る重合開始剤としては、上述の10時間半減期温度を満たせば特に制限されず、一般にラジカル重合で使用される重合開始剤を使用することができる。このような重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム(10時間半減期温度71℃)、過硫酸カリウム(10時間半減期温度71℃)、過硫酸アンモニウム(10時間半減期温度62℃)、過酸化ベンゾイル(10時間半減期温度74℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(10時間半減期温度54.6℃、ベンゼン中)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(10時間半減期温度65.3℃、ベンゼン中)及び2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン(10時間半減期温度66.2℃、ベンゼン中)等の有機過酸化物、並びに、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(10時間半減期温度56℃、水中)、4,4’−アゾビスシアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩(10時間半減期温度66.5℃、水中)、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩(10時間半減期温度60℃、水中)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(10時間半減期温度60℃)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(10時間半減期温度66℃、トルエン中)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(10時間半減期温度67℃、トルエン中)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(10時間半減期温度51℃、トルエン中)及び1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(10時間半減期温度88℃、トルエン中)等のアゾ化合物;等のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0054】
このなかでも、反応性の観点から10時間半減期温度が50〜70℃であり、油溶性の重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(10時間半減期温度60℃)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(10時間半減期温度66℃、トルエン中)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(10時間半減期温度67℃、トルエン中)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(10時間半減期温度51℃、トルエン中)、t−ブチルパーオキシピバレート(10時間半減期温度54.6℃、ベンゼン中)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(10時間半減期温度65.3℃、ベンゼン中)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン(10時間半減期温度66.2℃、ベンゼン中)などが好ましい。これらの重合開始剤は、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
重合開始剤の使用濃度に関しては特に制限は無いものの、単量体化合物の反応率と含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果の観点から重合前組成物中の単量体化合物の総mol量に対して0.5〜2.0mol%用いることが好ましく、0.5〜1.0mol%用いることがより好ましい。
【0056】
本実施形態に係る重合前組成物には、アクリルニトリル、アクリルアミド、ビニルアミン塩、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、ダイアセトンアクリルアミド、メタアクリロニトリル、アクリル酸アルキル(C1〜18)、メタクリル酸アルキル(C1〜18)、ポリジメチルシロキサンモノメタクリレート、側鎖に第4級アンモニウム塩基を有するビニル単量体等の共重合可能な他の単量体も本発明の効果を阻害しない範囲で使用可能である。これらの共重合可能な他の単量体は、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
本実施形態に係る重合前組成物には、10時間半減期温度が50〜90℃の範囲外の重合開始剤も本発明の効果を阻害しない範囲で使用可能である。
【0058】
本実施形態に係る重合前組成物には、重合条件の最適化、製造安定化、取り扱いの容易化等の目的で公知の連鎖移動剤や希釈溶媒を併用してもかまわない。
【0059】
公知の連鎖移動剤としては、例えば、アルキルメルカプタン、2−メルカプトエタノール及びチオプロピオン酸が挙げられる。これら連鎖移動剤は、単量体化合物の総量に対し0.01〜5質量%程度の割合で併用することができる。
【0060】
希釈溶媒としては、後述の本実施形態の反応溶媒として使用することができる溶媒と同様のものを使用することができ、反応溶媒の場合と同様の理由から、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール及びt−ブタノール等の脂肪族アルコール類が好ましい。
【0061】
(反応溶媒)
本実施形態に係る含フッ素型高分子化合物の製造方法は、脂肪族アルコールを含む反応溶媒を使用する。
【0062】
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール及びグリセリン等の炭素数1〜8の脂肪族アルコールが挙げられる。この中でも反応温度制御と溶媒除去性との観点から、沸点が70〜120℃の範囲にあるエタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等が好ましく、更に水と任意に混合可能であり環境への負荷も少ないという観点からエタノール、イソプロパノールがより好ましい。これらの脂肪族アルコールは1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
本実施形態において使用する反応溶媒には、上記脂肪族アルコールに加えて、脂肪族アルコール以外の溶媒を使用することができる。脂肪族アルコール以外の溶媒としては、特に制限はなく水、脂肪族アルコール以外の有機溶媒又はそれらの混合溶媒を使用することができる。脂肪族アルコール以外の有機溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、n−デカン、ミネラルターペン、テレピン油、イソパラフィン、トルエン、キシレン及びソルベントナフサ等の炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びジアセトンアルコール等のケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、乳酸メチル及び乳酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブチルカルビトール及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びプロピレングリコール等のグリコール類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル及び3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル類、アセトニトリル、n−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレンカーボネート、並びに、ジメチルカーボネートが挙げられる。これらの脂肪族アルコール以外の溶媒は1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
脂肪族アルコールと脂肪族アルコール以外の溶媒との配合比率(質量基準)は、脂肪族アルコール:脂肪族アルコール以外の溶媒=70:30〜100:0の範囲が好ましく、溶媒の回収と再使用、環境に対する負荷、単量体化合物の反応性の観点から、より好ましくは100:0である。脂肪族アルコール以外の溶媒が30質量%を超える場合、得られる含フッ素型高分子化合物の分子量が増大し増粘したり、水溶解性が低下するなどして製品化が困難になる傾向にある。
【0065】
(重合前組成物の重合方法)
本実施形態に係る含フッ素型高分子化合物の製造方法は、まず、上記反応系の重合を上記重合開始剤の10時間半減期温度より10〜30℃高い温度で開始する。
【0066】
反応系における単量体化合物の合計濃度は、含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果と製造効率の観点から、5〜20質量%の範囲に調整することが好ましく、10〜20質量%の範囲に調整することがより好ましい。上記合計濃度が5質量%未満であると、反応速度が低下し製造に時間がかかること、希薄な重合前組成物を多量に使用しなければならないこと、反応終了後に脱溶媒や溶媒回収の工程を行う場合は時間がかかるなど、製造効率が悪く工業的に不利になる傾向がある。上記合計濃度が25質量%を超えると、含フッ素高分子化合物の分子量が増大し増粘して取り扱いにくくなることに加え、水溶解性が低下し水系コーティング剤に使用することが困難となる傾向がある。
【0067】
(追加重合前組成物の追加供給方法)
本実施形態に係る含フッ素型高分子化合物の製造方法においては、重合が開始された上記反応系に、上記一般式(1)で表される単量体化合物20〜50質量部と、上記一般式(2)で表される単量体化合物15〜60質量部と、上記一般式(3)で表される単量体化合物15〜60質量部と、10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤と、が含まれる追加重合前組成物(但し、一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物の合計質量は100質量部である)を、当該追加重合前組成物を追加したときの反応系における単量体化合物の合計濃度が5〜25質量%となる範囲で1回若しくは2回以上又は連続的に追加供給して重合反応を継続する。
【0068】
追加重合前組成物を反応系に供給するときの重合前組成物中の一般式(1)〜(3)の単量体化合物の合計濃度は、得られる含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果と製造効率の観点から、30〜80質量%の範囲に調整することが好ましく、50〜60質量%の範囲に調整することがより好ましい。上記合計濃度が30質量%未満であると、反応系における単量体化合物の合計濃度が低下して5質量%未満になる可能性があり、80質量%を超える場合には反応系における単量体化合物の合計濃度が上昇して25質量%を超える傾向がある。また、80質量%を超える場合には、追加重合前組成物を均一に保つことが困難になり、反応系中で局所的な濃度異常を招き、得られる含フッ素高分子化合物の性能が低下したり増粘する等の傾向がある。
【0069】
追加重合前組成物を反応系に供給する方法としては特に限定されるものではなく、例えば、本実施形態に係る追加重合前組成物を1回若しくは2回以上に分割して反応系に追加供給する方法、滴下法等によって連続的に反応系に追加供給する方法等が挙げられる。追加重合前組成物を反応系に追加供給する場合の供給回数や供給速度については、反応系に追加供給するときの単量体化合物の合計濃度が5〜25質量%である限り、特に制限はないが、含フッ素高分子化合物の性能と製造効率の観点から、2〜9分割で反応系に追加供給する方法であることが好ましく、2〜5分割で反応系に追加供給する方法であることがより好ましい。1つの反応容器で反応終了時まで反応を行う場合、追加供給する分割の回数が多いと反応容器の容量に対して反応開始時の重合前組成物の仕込み量(反応開始時の反応系の量)が少なくなり、撹拌や反応系内の温度を一定に保つことが困難となる傾向がある。その結果、得られる含フッ素高分子化合物の分子量が増大して、増粘や性能低下などの原因となる傾向がある。そのため、反応開始時の重合前組成物の仕込み量は、反応容器の容積の1/5以上であることが好ましい。
【0070】
追加重合前組成物を反応系に追加供給するタイミングとしては、反応系中の単量体化合物の合計濃度が15質量%以下となったときに追加供給することが好ましく、10質量%以下となったときに追加供給することがより好ましい。また、追加重合前組成物は、反応系中の単量体化合物の合計濃度が3質量%を下回らないように追加供給することが好ましく、5質量%を下回らないように追加供給することがより好ましい。
【0071】
追加重合前組成物を反応系に追加供給する場合、含フッ素高分子化合物の性能及び粘度の観点から、反応系中において、一般式(1)〜(3)の単量体化合物が均一に反応することが好ましく、追加重合前組成物は均一に溶解した状態で反応系に追加供給することが好ましい。このためには、追加重合前組成物は溶媒を含んでおり、一般式(1)〜(3)の単量体化合物が溶媒に均一に溶解しており、溶媒に均一希釈されている状態で反応系に追加供給することが好ましい。また同様の観点から追加重合前組成物が追加供給された反応系は、反応系の中の一般式(1)〜(3)の単量体化合物の合計濃度の濃度変化は、5〜15質量%であることが好ましい。
【0072】
本実施形態に係る製造方法においては、追加重合前組成物のすべてを反応系に追加供給した後は、所望の単量体化合物の合計濃度になるまで所定の温度条件で反応を続ければよいが、反応終了間際の反応の進行を早め、単量体化合物の反応率を向上させるために、反応系中の単量体化合物の合計濃度が5質量%以下となったところで重合開始剤をさらに供給することも可能である。
【0073】
なお、本明細書において、反応系中の単量体化合物の合計濃度(以下、単に単量体濃度という場合がある)は、分子量が既知のポリスチレンを標準物質としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られるGPC単量体残存率(%)(溶剤を除いた総ピーク面積に対する単量体ピーク面積の含有割合)に基づいて下記の計算式(I)よって算出される値である。
単量体濃度(%)=「GPC単量体残存率(%)」×「サンプリング時までの総単量体仕込量」÷「総仕込量」・・・・・・計算式(I)
【0074】
上記単量体ピーク面積は、以下の様にして求められる。
あらかじめ、使用する単量体化合物及び反応溶媒のGPC測定を行い、使用する単量体化合物及び反応溶媒のピークをそれぞれ同定する。サンプリングした溶液をGPC測定し、得られたピークとベースラインとで囲まれた部分を全ピーク面積とする。
全ピーク面積からあらかじめ同定した反応溶媒のピーク面積を除去した面積を、単量体化合物と重合反応物との合計のピーク面積とする。
GPC単量体残存率(%)は、単量体化合物と重合反応物との合計のピーク面積に対するあらかじめ同定した単量体化合物のピーク面積として、以下の計算式より算出する。
GPC単量体残存率(%)=「単量体化合物のピーク面積」÷{「重合反応物のピーク面積」+「単量体化合物のピーク面積」}×100
【0075】
上記「サンプリング時までの総単量体仕込量」は、上記単量体化合物A、上記単量体化合物B及び上記単量体化合物Cのサンプリング時までに反応系に供給した総質量である。
【0076】
上記「総仕込量」は、反応系における、上記単量体化合物A、上記単量体化合物B、上記単量体化合物C、共重合可能な他の単量体化合物、溶媒、重合開始剤及び連鎖移動剤などの反応系に含まれる成分の総質量である。
【0077】
本実施形態に係る追加重合前組成物は、例えば、脂肪族アルコールを含む反応溶媒に単量体化合物Aと単量体化合物Bと単量体化合物Cと10時間半減期温度が50〜90℃である重合開始剤とを所定の組成と濃度となるように配合することで得られるが、追加重合前組成物中での単量体化合物の重合又は重合開始剤の分解及び失活を防止するためには、脂肪族アルコールを含む溶媒に単量体化合物Aと単量体化合物Bと単量体化合物Cとを所定の組成と濃度とで含むように配合した単量体組成物と、脂肪族アルコールを含む溶媒に上記重合開始剤を所定の組成と濃度で含むように配合した重合開始剤組成物とを作製し、反応系に追加供給する直前に単量体組成物と重合開始剤組成物とを混合して追加重合前組成物とすることが好ましい。
【0078】
追加重合開始剤組成物は、分解や失活を防ぐ為に長時間保管することは避け、例えば、追加供給の間隔が6時間を越える場合には追加重合開始剤組成物を作り直してから使用する又は使用直前に追加重合開始剤組成物を作るなどの管理を行うことが好ましい。
【0079】
本実施形態に係る追加重合前組成物は、単量体化合物Aと、単量体化合物Bと、単量体化合物Cと、重合開始剤と、のすべてを含む1剤化されたものを使用してもよいが、例えば、前述の単量体組成物と前述の重合開始剤組成物との2液を反応系に供給してもよいし、本実施形態に使用する単量体化合物、重合開始剤、溶媒等を個別に反応系に追加供給してもよい。単量体化合物、重合開始剤、溶媒はどのような組み合わせであってもよく、またどのような濃度であってもよく、反応系に追加供給する時に所定の組成であり、反応系中で所定の単量体化合物の合計濃度になっていればよい。
【0080】
(反応温度)
本実施形態に係る含フッ素高分子化合物の製造方法においては、使用する重合開始剤の10時間半減期温度より10〜30℃高い温度で共重合反応を行う。重合開始剤の反応効率の観点から、重合開始剤の10時間半減期温度より15〜25℃高い温度で反応を行うことが好ましい。反応温度が上記温度の範囲外である場合、含フッ素高分子化合物の水溶解性が低下し、水系コーティング剤のレベリング性とリコート性が低下する傾向がある。
【0081】
本実施形態に係る含フッ素高分子化合物の製造方法においては、重合反応時の反応系中に含まれる単量体化合物と含フッ素高分子化合物との総量が、サンプリング時点での総仕込量を基準として5〜50質量%であることが好ましい。上記総量が5質量%未満であると、反応速度が低下し製造効率が悪く工業的に不利になる傾向があり、50質量%を超えると含フッ素高分子化合物が増粘し製品化が困難となることに加え、水溶解性が低下し水系コーティング剤に使用することが困難になる傾向がある。
【0082】
本実施形態に係る含フッ素高分子化合物は、単量体化合物に由来する構造単位の配列は特に制限はなく、ランダム共重合体でも、ブロック共重合体でも、交互共重合体でもかまわない。単量体化合物が残存する場合には、必要に応じて減圧蒸留などの方法で除去することが好ましい。
【0083】
本実施形態においては、含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果と水溶解性の観点から、単量体化合物Aと、単量体化合物B及び単量体化合物Cの合計との質量比率が、単量体化合物A:単量体化合物B及び単量体化合物C=20:80〜50:50であることが好ましく、30:70〜50:50であることがより好ましく、30:70〜45:55であることが更により好ましい。含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果と水溶解性と粘度の観点から、単量体化合物Bと単量体化合物Cとの比率が、単量体化合物B:単量体化合物C=30:70〜70:30であることが好ましく、40:60〜60:40であることがより好ましい。以下、「単量体化合物A:単量体化合物B及び単量体化合物C」を「一般式(1):(2)+(3)」と、「単量体化合物B:単量体化合物C」を「一般式(2):(3)」と記載する場合がある。
【0084】
また、含フッ素高分子化合物の表面張力調整効果と水溶解性の観点から、得られる含フッ素高分子化合物中のフッ素原子含有率が10〜30質量%であることが好ましく、15〜30質量%であることがより好ましい。
【0085】
また、本実施形態においては、得られる含フッ素高分子化合物の重量平均分子量が5000〜30000であることが好ましく、10000〜20000であることがより好ましい。重量平均分子量が5000未満であると、基材表面への配向性が強くなり、形成される皮膜表面の撥水撥油性を必要以上に高めて、リコート性を低下させる傾向がある。また、形成された皮膜の可塑剤として作用し、皮膜が強度低下を起こす傾向にある。重量平均分子量が30000を超える場合、含フッ素高分子化合物が増粘して取り扱いが困難になる傾向がある。また、含フッ素高分子化合物の水溶解性が低下し、水系コーティング剤のレベリング性が低下するため、水系コーティング剤に使用することが困難となる傾向がある。
【0086】
重量平均分子量は、分子量既知のポリスチレンを標準物質として、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0087】
本実施形態に係る含フッ素高分子化合物は、表面張力調整効果と水溶解性の観点から0.1質量%水溶液のウイルヘルミー法による表面張力が16〜32mN/mであることが好ましく、18〜25mN/mであることがより好ましい。0.1質量%水溶液の表面張力が16mN/m未満の場合、含フッ素高分子化合物を併用した水系コーティング剤は液たれを起こしやすくなり、リコート性が低下する傾向がある。また、含フッ素高分子化合物の水溶解性が低下する傾向がある。0.1質量%水溶液の表面張力が32mN/mを超える場合、表面張力調整効果が十分ではなく、水系コーティング剤に使用した場合、有効なレベリング性が得られない傾向がある。
【0088】
また、本実施形態に係る含フッ素高分子化合物は、0.1質量%トルエン溶液のウイルヘルミー法による表面張力が16〜27mN/mであることが好ましく、18〜25mN/mであることがより好ましい。0.1質量%トルエン溶液の表面張力が16mN/m未満の場合、含フッ素高分子化合物を併用した非水系コーティング剤は液たれを起こしやすくなり、リコート性が低下する傾向がある。また、含フッ素高分子化合物の水溶解性が低下する傾向にある。0.1質量%トルエン溶液の表面張力が27mN/mを超える場合、トルエン自体の表面張力(28〜29mN/m)から低下しておらず表面張力調整効果が得にくい傾向がある。
【0089】
本実施形態に係る製造方法によって得られる含フッ素高分子化合物は1種類を使用してもかまわないし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
本実施形態は、上記一般式(1)で表される単量体化合物20〜50質量部と、上記一般式(2)で表される単量体化合物15〜60質量部と、上記一般式(3)で表される単量体化合物15〜60質量部と、が含まれる組成物(但し、一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物の合計質量は100質量部である)を共重合することにより得られ、重量平均分子量が5000〜30000であり、0.1質量%水溶液のウイルヘルミー法による表面張力が16〜32mN/mであり、0.1質量%トルエン溶液のウイルヘルミー法による表面張力が16〜27mN/mである含フッ素高分子化合物を提供することができる。このような含フッ素高分子化合物は、上記構成を有することにより、環境に対する負荷が低く、水系/非水系のいずれにおいても十分な表面張力調整効果を得ることができる。また、係る含フッ素高分子化合物によれば、環境負荷が小さい水系においてレベリング性及びリコート性に優れたコーティング剤を実現することができる。
【0091】
(表面調整剤)
本実施形態に係る表面調整剤は、本実施形態に係る含フッ素高分子化合物を含む。上記表面調整剤は、少量添加することで表面張力を低下させて、レベリング性、濡れ性など、塗布表面の改善に作用する機能を持つ表面張力調整剤であることが好ましい。
【0092】
本実施形態に係る表面調整剤は、上記含フッ素高分子化合物のみを含むものであってもよいが、通常は取り扱いを容易にするために、当該含フッ素高分子化合物を希釈するための溶媒を含んでもよい。上記表面調整剤における含フッ素高分子化合物の含有量は、特に制限されるわけではないが、取り扱いやすさの観点から、0.05〜50質量%であることが好ましい。希釈溶媒としては、前述の本実施形態に係る反応溶媒として使用することができる溶媒と同様のものを使用することができる。
【0093】
本実施形態に係る表面調整剤は、上記含フッ素高分子化合物単独で表面張力調整効果を発揮するが、更に上記含フッ素高分子化合物以外の含フッ素高分子化合物や従来公知の表面調整剤を併用してもよい。また本実施形態に係る表面調整剤は、その用途に応じて、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤等の界面活性剤、柔軟剤、消臭剤、抗菌剤、平滑剤、浸透剤、均染剤、制電剤、キレート剤、酸化防止剤、消泡剤、溶剤、合成樹脂、架橋剤、吸水剤、撥水撥油剤、難燃防炎剤、凍結安定剤、艶消し剤、顔料、染料、フィックス剤、湿潤剤、光安定剤、紫外線吸収剤、増粘剤、製膜助剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、黄変防止剤等を、本発明の効果を阻害しない範囲で配合してもよい。
【0094】
併用することができるアニオン界面活性剤としては特に制限はなく、例えば、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数8〜24のアルコール又はアルケノールのアニオン化物、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数8〜24のアルコール又はアルケノールのアルキレンオキサイド付加物のアニオン化物、多環フェノール類のアルキレンオキサイド付加物のアニオン化物、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数8〜44の脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物のアニオン化物、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数8〜44の脂肪酸アミドのアルキレンオキサイド付加物のアニオン化物、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数8〜24の脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物のアニオン化物、油脂類のスルホン化物が挙げられる。これらのアニオン界面活性剤は、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
併用することができるカチオン界面活性剤としては特に制限はなく、例えば、炭素数8〜24のモノアルキルトリメチルアンモニウム塩、炭素数8〜24のジアルキルジメチルアンモニウム塩、炭素数8〜24のモノアルキルアミン酢酸塩、炭素数8〜24のジアルキルアミン酢酸塩、炭素数8〜24のアルキルイミダゾリン4級塩が挙げられる。これらのカチオン界面活性剤は、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0096】
(レベリング剤)
本実施形態に係るレベリング剤は、上記含フッ素高分子化合物を含むものである。
【0097】
本実施形態に係るレベリング剤は、上記含フッ素高分子化合物のみを含むものであってもよいが、希釈するための溶媒、本実施形態に係る表面調整剤、上記含フッ素高分子化合物以外の含フッ素高分子化合物、従来公知の表面調整剤、界面活性剤、機能加工剤等を更に含んでいてもよい。希釈溶媒としては、前述の本実施形態に係る反応溶媒として使用することができる溶媒と同様のものを使用することができる。本実施形態に係る表面調整剤以外の従来公知の表面調整剤、界面活性剤、機能加工剤等は前述の本実施形態に係る表面調整剤で使用したものと同様のものを使用することができる。
【0098】
(コーティング剤)
本実施形態に係るコーティング剤は上記含フッ素高分子化合物を含むものである。上記コーティング剤は、水系/非水系のいずれでもよく、本実施形態に係るレベリング剤とコーティング剤成分とを含むものが好ましい。
【0099】
コーティング剤成分としては、特に限定されないが、例えば、顔料や染料のような着色剤、樹脂成分、溶媒、触媒、その他の添加剤が挙げられる。
【0100】
樹脂成分としては特に限定されるものではなく、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキルフェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、フッ素樹脂及びこれらを2種類以上組み合わせた樹脂等が挙げられる。
【0101】
溶媒は、溶媒以外のコーティング剤成分を希釈又は乳化分散させるためのものであり特に限定されるものではなく、前述の本実施形態に係る反応溶媒として使用することができる溶媒と同様のものを使用することができる。
【0102】
コーティング剤には、目的によって増感剤、帯電防止剤、消泡剤、分散剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤及びpH調整剤等のその他の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0103】
コーティング剤は、上記コーティング剤成分をあらかじめ混合しておき、更に本実施形態に係る含フッ素高分子化合物を添加し混合して作製すればよいが、上記コーティング剤成分と含フッ素高分子化合物とを同時に又は任意の順番で混合して作製することも可能である。
【0104】
コーティング剤中に含まれる本実施形態に係る含フッ素高分子化合物の割合は0.01〜2.0質量%が好ましく、0.05〜1.0質量%がより好ましい。上記割合が0.01質量%未満では十分なレベリング性が発揮され難い傾向があり、2.0質量%を超えて使用してもレベリング性の更なる向上は期待できない傾向がある。
【0105】
本実施形態に係るコーティング剤は、刷毛塗り、スプレーコート、スピンコート、カーテンコート、ディップコート、バーコート、ロールコート、フローコートなどの様々な加工方法で基材に処理することができる。
【0106】
上記基材としては特に限定されず、例えば、プラスチック、繊維、金属、ガラス、紙、木材、セラミックス、セメント材、石材、合成樹脂、ゴム及び塗装面等の様々な材質からなる基材及び様々な表面構造を有する基材が挙げられる。
【0107】
本実施形態に係る表面調整剤はその表面張力調整効果を利用してコーティング剤以外にも様々な態様で用いることができる。
【0108】
例えば、(i)洗浄剤の濡れ性向上剤(例えば、繊維用精練剤、金属表面処理剤、金属脱脂剤、金属部品用洗浄剤、電子部品用洗浄剤、ウエハ用洗浄剤、半導体用洗浄剤、ガラス用洗浄剤及び自動車用洗浄剤等の濡れ性向上剤)として使用、(ii)二次電池電解液用浸透剤(例えば、プロピレンカーボネート及びジメチルカーボネート等のカーボネート系溶剤用浸透剤)として使用することができる。
【0109】
本実施形態に係る表面調整剤を洗浄剤の濡れ性向上剤として使用する場合、洗浄剤中に本実施形態に係る含フッ素高分子化合物が0.01〜2.0質量%となるように濡れ性向上剤を添加して使用することができる。好ましくは0.05〜1.0質量%である。0.01質量%未満では十分な濡れ性が発揮され難い傾向があり、2.0質量%を超えて使用しても濡れ性の更なる向上は期待できない傾向がある。
【0110】
本実施形態に係る含フッ素高分子化合物を含む洗浄剤は、スプレー法、スピンコート法、浸漬法、シャワー法、超音波洗浄法等の方法で基材を洗浄することができる。本実施形態に係る含フッ素高分子化合物を含む濡れ性向上剤は、洗浄剤の表面張力を低下させ洗浄面に対して洗浄剤の濡れ性を向上し、洗浄性能向上に寄与することが出来る。
【0111】
本実施形態に係る表面調整剤を二次電池電解液用浸透剤として使用する場合、電解液中に本実施形態に係る含フッ素高分子化合物が0.01〜2.0質量%となるように浸透剤を添加して使用することができる。好ましくは0.05〜1.0質量%である。0.01質量%未満では十分な浸透性及び濡れ性が発揮され難い傾向があり、2.0質量%を超えて使用した場合は、充放電サイクルに悪影響を及ぼす傾向がある。リチウムイオン二次電池に代表されるような二次電池分野では、モジュールのコンパクト化が進み、イオンの移動媒体となる電解液をモジュール内に注入する工程もコンパクト化の弊害で非常に時間がかかる工程となっている。電解液の表面張力を低下させ、セパレーターや正極/負極への浸透性及び濡れ性向上剤として、速やかに電解液をモジュール内に注入させるための浸透剤として、本実施形態に係る含フッ素高分子化合物が利用可能である。
【0112】
本実施形態に係る含フッ素高分子化合物が、水系/非水系を問わずに良好な表面張力調整効果を発揮することができ、本実施形態に係るコーティング剤が高いレベルでレベリング性とリコート性とを両立させることが可能となる理由は定かではないが、性質の異なる特定の単量体化合物を用い特定の条件で重合反応を行うことによって、本発明の効果を発揮できる含フッ素高分子化合物が得られたものと考える。
【0113】
本実施形態に係る含フッ素高分子化合物を含む表面調整剤は、水系/非水系のいずれの場合においても良好な表面張力調整効果を示す。また本実施形態に係るコーティング剤は高いレベルでレベリング性とリコート性とを両立させることが可能である。
【0114】
そのため、本実施形態に係るレベリング剤は、例えば、合成向け樹脂塗布用レベリング剤、人工皮革向け樹脂塗布用レベリング剤、塗料用レベリング剤、インク用レベリング剤、フロアワックス用レベリング剤及びフロアポリッシュ用レベリング剤等の各種コーティング剤用レベリング剤に好適に用いることができる。
【0115】
本実施形態に係る表面調整剤は、その表面張力調整効果を利用して浸透剤、洗浄剤など多用途に用いることができる。特異的な性能として、カーボネート系溶剤の表面張力を低下させることも可能であるため、カーボネート系溶剤を使用する二次電池用電解液の浸透剤として使用することもできる。
【0116】
本実施形態に係る含フッ素高分子化合物は非イオン界面活性剤であることから、他の機能性薬剤とのイオン性の違いによる相溶性の制限を受けることがないという利点を有する。
【実施例】
【0117】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【0118】
実施例1
反応容器Aに、イソプロパノール221.8g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート(ダイキン工業株式会社製、製品名:M−1620)7.5g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:NKエステルAM−90G)15.0g、ポリプロピレングリコール(PO=9mol)モノメタクリレート(日油株式会社製、製品名:ブレンマーPP−500)15.0g、n−ドデシルメルカプタン0.188gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気した。
【0119】
容器Bにイソプロパノール112.5g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート22.5g、ポリプロピレングリコール(9mol)モノメタクリレート45.0g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート45.0g、n−ドデシルメルカプタン0.564gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気し、単量体組成物とした。
【0120】
容器Cにアゾビスイソブチロニトリル0.48g(10時間半減期温度60℃)、イソプロピルアルコール14.5gを仕込み混合溶解し、開始剤組成物とした。
【0121】
反応工程1
反応容器Aを80℃まで昇温した後、容器Cの開始剤組成物3.0gを反応容器Aに加え、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で2時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体化合物の合計濃度(以下、単に単量体濃度という場合がある)を確認した。
反応工程2
容器Bの単量体組成物75.2g及び容器Cの開始剤組成物3.0gを追加重合前組成物として反応容器Aに追加供給し、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で2時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程3
反応工程2と同様の操作を繰り返した。
反応工程4
開始剤組成物を新たに作製し、新たな開始剤組成物を用いたこと以外は反応工程2と同様の操作を繰り返した。
反応工程5
新たに作製した開始剤組成物3.0gのみを用いたこと以外は反応工程2と同様の操作を繰り返した。
合計5段階(追加重合前組成物の追加供給回数は3回)で10時間反応を行った。
反応終了後、減圧蒸留にてイソプロピルアルコールを留去し、粘液状の含フッ素高分子化合物を得た。重量平均分子量は13800であった。各反応工程での単量体濃度は表1の通りであった。
【0122】
【表1】
【0123】
得られた含フッ素高分子化合物について、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表7に示す。
【0124】
重量平均分子量の測定(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)は以下の条件にて行った。
HLC−8220GPC(東ソー株式会社製)
移動層:テトラヒドロフラン
カラム:Tsk−gel Super HZ 2000 2本
& Tsk−gel Super HZ 4000 1本
サンプルインジェクター及びカラムの温度:40℃
RI 検出器の温度(℃):35℃
流速:0.25ml/min、測定時間:40分、サンプル注入量:5μL、
サンプル濃度:0.2%THF溶液、
標準物質:ポリスチレン
【0125】
実施例2〜24
一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物、溶媒、重合開始剤、反応温度を表7〜表12のものに換えたこと以外は実施例1と同様に操作を行って実施例2〜24の含フッ素高分子化合物を得た。得られた含フッ素高分子化合物について、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表7〜12に示す。
【0126】
実施例25
反応容器Aに、イソプロパノール192.25g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート(ダイキン工業株式会社製、製品名:M−1620)4.5g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:NKエステルAM−90G)5.25g、ポリプロピレングリコール(PO=9mol)モノメタクリレート(日油株式会社製、製品名:ブレンマーPP−500)5.25g、n−ドデシルメルカプタン0.075gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気した。
【0127】
容器Bにイソプロパノール135.0g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート40.5g、ポリプロピレングリコール(9mol)モノメタクリレート47.25g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート47.25g、n−ドデシルメルカプタン0.675gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気し、単量体組成物とした。
【0128】
容器Cにアゾビスイソブチロニトリル0.48g(10時間半減期温度60℃)、イソプロピルアルコール21.5gを仕込み混合溶解し、開始剤組成物とした。
【0129】
反応工程1
反応容器Aを80℃まで昇温した後、容器Cの開始剤組成物2.0gを反応容器Aに加え、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で1時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程2
容器Bの単量体組成物30.08g及び容器Cの開始剤組成物2.0gを追加重合前組成物として反応容器Aに追加供給し、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で1時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程3〜5
反応工程2と同様の操作を繰り返した。
反応工程6〜10
開始剤組成物を新たに作製し、新たな開始剤組成物を用いたこと以外は反応工程2と同様の操作を繰り返した。
反応工程11
新たに作製した開始剤組成物2.0gのみを用いたこと以外は反応工程2と同様の操作を繰り返した。
合計11段階(追加重合前組成物の追加供給回数は9回)で11時間反応を行った。
反応終了後、減圧蒸留にてイソプロピルアルコールを留去し、粘液状の含フッ素高分子化合物を得た。重量平均分子量は12000であった。各反応工程での単量体濃度は表2の通りであった。
【0130】
【表2】
【0131】
実施例26
反応容器Aに、イソプロパノール210.3g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート(ダイキン工業株式会社製、製品名:M−1620)7.5g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:NKエステルAM−90G)8.75g、ポリプロピレングリコール(PO=9mol)モノメタクリレート(日油株式会社製、製品名:ブレンマーPP−500)8.75g、n−ドデシルメルカプタン0.125gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気した。
【0132】
容器Bにイソプロパノール125.0g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート37.5g、ポリプロピレングリコール(9mol)モノメタクリレート43.75g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート43.75g、n−ドデシルメルカプタン0.675gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気し、単量体組成物とした。
【0133】
容器Cにアゾビスイソブチロニトリル0.48g(10時間半減期温度60℃)、イソプロピルアルコール13.5gを仕込み混合溶解し、開始剤組成物とした。
【0134】
反応工程1
反応容器Aを80℃まで昇温した後、容器Cの開始剤組成物2.0gを反応容器Aに加え、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で1.5時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程2
容器Bの単量体組成物50.13g及び容器Cの開始剤組成物2.0gを追加重合前組成物として反応容器Aに追加供給し、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で1.5時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程3、4
反応工程2と同様の操作を繰り返した。
反応工程5、6
開始剤組成物を新たに作製し、新たな開始剤組成物を用いたこと以外は反応工程2と同様の操作を繰り返した。
反応工程7
新たに作製した開始剤組成物2.0gのみを用いたこと以外は反応工程2と同様の操作を繰り返した。
合計7段階(追加重合前組成物の追加供給回数は5回)で10.5時間反応を行った。
反応終了後、減圧蒸留にてイソプロピルアルコールを留去し、粘液状の含フッ素高分子化合物を得た。重量平均分子量は15100であった。各反応工程での単量体濃度は表3の通りであった。
【0135】
【表3】
【0136】
実施例27
反応容器Aに、イソプロパノール237.25g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート(ダイキン工業株式会社製、製品名:M−1620)15.0g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:NKエステルAM−90G)17.5g、ポリプロピレングリコール(PO=9mol)モノメタクリレート(日油株式会社製、製品名:ブレンマーPP−500)17.5g、n−ドデシルメルカプタン0.25gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気した。
【0137】
容器Bにイソプロパノール100g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート30.0g、ポリプロピレングリコール(9mol)モノメタクリレート35.0g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート35.0g、n−ドデシルメルカプタン0.50gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気し、単量体組成物とした。
【0138】
容器Cにアゾビスイソブチロニトリル0.48g(10時間半減期温度60℃)、イソプロピルアルコール11.5gを仕込み混合溶解し、開始剤組成物とした。
【0139】
反応工程1
反応容器Aを80℃まで昇温した後、容器Cの開始剤組成物3.0gを反応容器Aに加え、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で2時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程2
容器Bの単量体組成物100.25g及び容器Cの開始剤組成物3.0gを追加重合前組成物として反応容器Aに追加供給し、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で2時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程3
反応工程2と同様の操作を繰り返した。
反応工程4
新たに作製した開始剤組成物3.0gのみを用いたこと以外は反応工程2と同様の操作を繰り返した。
合計4段階(追加重合前組成物の追加供給回数は2回)で8時間反応を行った。
反応終了後、減圧蒸留にてイソプロピルアルコールを留去し、粘液状の含フッ素高分子化合物を得た。重量平均分子量は14800であった。各反応工程での単量体濃度は表4の通りであった。
【0140】
【表4】
【0141】
実施例28
反応容器Aに、イソプロパノール237.25g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート(ダイキン工業株式会社製、製品名:M−1620)15.0g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:NKエステルAM−90G)17.5g、ポリプロピレングリコール(PO=9mol)モノメタクリレート(日油株式会社製、製品名:ブレンマーPP−500)17.5g、n−ドデシルメルカプタン0.25gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気した。
【0142】
容器Bにイソプロパノール100g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート30.0g、ポリプロピレングリコール(9mol)モノメタクリレート35.0g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート35.0g、n−ドデシルメルカプタン0.50gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気し、単量体組成物とした。
【0143】
容器Cにアゾビスイソブチロニトリル0.48g(10時間半減期温度60℃)、イソプロピルアルコール11.5gを仕込み混合溶解し、開始剤組成物とした。
【0144】
反応工程1
反応容器Aを80℃まで昇温した後、容器Cの開始剤組成物3.0gを反応容器Aに加え、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で0.5時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程2
容器Bの単量体組成物150.25g及び容器Cの開始剤組成物4.5gを追加重合前組成物として反応容器Aに追加供給し、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で3時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程3
容器Bの単量体組成物50.25g、容器Cの開始剤組成物1.5gを反応容器Aに加え、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で3時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程4
新たに作製した開始剤組成物3.0gのみを用いたこと以外は反応工程2と同様の操作を繰り返した。
合計4段階(追加重合前組成物の追加供給回数は2回)で9.5時間反応を行った。
反応終了後、減圧蒸留にてイソプロピルアルコールを留去し、粘液状の含フッ素高分子化合物を得た。重量平均分子量は18800であった。各反応工程での単量体濃度は表5の通りであった。
【0145】
【表5】
【0146】
実施例25〜28で得られた含フッ素高分子化合物について、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表12に示す。
【0147】
実施例29
実施例1で得られた含フッ素高分子化合物と比較例2で得られた含フッ素高分子化合物とを質量比で実施例1:比較例1=7:3の割合で使用し水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表13に示す。
【0148】
実施例30
実施例2で得られた含フッ素高分子化合物と比較例4で得られた含フッ素高分子化合物とを質量比で実施例2:比較例4=6:4の割合で使用し水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表13に示す。
【0149】
比較例1〜15
一般式(1)〜(3)で表される単量体化合物、溶媒、重合開始剤、反応温度を表13〜表16のものに換えたこと以外は実施例1と同様の操作を行って比較例1〜15の含フッ素高分子化合物を得た。得られた含フッ素高分子化合物について、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表14〜17に示す。
【0150】
比較例16
反応容器Aに、イソプロパノール81.3g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート(ダイキン工業株式会社製、製品名:M−1620)11.25g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:NKエステルAM−90G)13.125g、ポリプロピレングリコール(PO=9mol)モノメタクリレート(日油株式会社製、製品名:ブレンマーPP−500)13.125g、n−ドデシルメルカプタン0.188gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気した。
【0151】
容器Bにイソプロパノール252.94g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート33.75g、ポリプロピレングリコール(9mol)モノメタクリレート39.375g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート39.375g、n−ドデシルメルカプタン0.56gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気し、単量体組成物とした。
【0152】
容器Cにアゾビスイソブチロニトリル0.48g(10時間半減期温度60℃)、イソプロピルアルコール14.5gを仕込み混合溶解し、開始剤組成物とした。
【0153】
反応工程1
反応容器Aを80℃まで昇温した後、容器Cの開始剤組成物3.0gを反応容器Aに加え、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で2時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程2
容器Bの単量体組成物122.0g及び容器Cの開始剤組成物3.0gを追加重合前組成物として反応容器Aに追加供給し、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で2時間反応した。なお、反応工程開始時と終了時にサンプリングを行い、単量体濃度を確認した。
反応工程3、4
反応工程2と同様の操作を繰り返した。
反応工程5
新たに作製した開始剤組成物3.0gのみを用いたこと以外は反応工程2と同様の操作を繰り返した。
合計5段階(追加重合前組成物の追加供給回数は3回)で10時間反応を行った。
反応工程2終了時点で、反応系中の増粘、泡抜けの悪化が目視で確認され、反応工程5終了時には、高粘液状となった。
反応終了後、減圧蒸留にてイソプロピルアルコールを留去し、ゲル状の含フッ素高分子化合物を得た。重量平均分子量は86800であった。各反応工程での単量体濃度は表6の通りであった。
【0154】
【表6】
【0155】
比較例16で得られた含フッ素高分子化合物について、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表17に示す。
【0156】
比較例17
反応容器Aに、イソプロパノール475g、パーフルオロヘキシルエチレンメタクリレート(ダイキン工業株式会社製、製品名:M−1620)7.5g、メトキシ−ポリエチレングリコール(9mol)アクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:NKエステルAM−90G)8.75g、ポリプロピレングリコール(PO=9mol)モノメタクリレート(日油株式会社製、製品名:ブレンマーPP−500)8.75g、n−ドデシルメルカプタン0.125gを加え、攪拌しながら、30分間窒素を通気した。
【0157】
容器Bにアゾビスイソブチロニトリル0.08g(10時間半減期温度60℃)、イソプロピルアルコール10gを仕込み混合溶解し、開始剤組成物とした。
【0158】
反応工程
反応容器Aを80℃まで昇温した後、容器Bの開始剤組成物全量を反応容器Aに加え、イソプロパノール還流下(約80〜84℃)で4時間反応した。
反応開始時の単量体濃度は5質量%(計算値)であった。
反応終了後、減圧蒸留にてイソプロピルアルコールを留去し、粘液状の含フッ素高分子化合物を得た。重量平均分子量は4800であった。
【0159】
得られた含フッ素高分子化合物について、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表18に示す。
【0160】
比較例18〜20
反応開始時の単量体濃度(%)を表18のものに換えたこと以外は比較例17と同様の操作を行って比較例18〜20の含フッ素高分子化合物を得た。得られた含フッ素高分子化合物について、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表18に示す。
【0161】
比較例21
含フッ素高分子化合物を使用せずに、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。その結果を表18に示す。
【0162】
比較例22
比較例2において、反応終了後にイソプロパノールを留去しないことで、含フッ素高分子化合物のイソプロパノール溶液(濃度29.8%)を得た。得られた含フッ素高分子化合物のイソプロパノール溶液を使用して、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。含フッ素高分子化合物は固形分換算で同量使用した。その結果を表19に示す。
【0163】
比較例23
比較例4において、反応終了後にイソプロパノールを留去しないことで、含フッ素高分子化合物のイソプロパノール溶液(濃度29.8%)を得た。得られた含フッ素高分子化合物のイソプロパノール溶液を使用して、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。含フッ素高分子化合物は固形分換算で同量使用した。その結果を表19に示す。
【0164】
比較例24
反応容器Aにソルフィット150gを入れ、110℃にした。窒素雰囲気下で、2−(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート55g、メチルメタクリレート2g、メトキシポリエチレングリコール(9モル)メタクリレート43g、パーオクタO(日本油脂株式会社製)1gの混合溶液を約1時間でソルフィットに滴下した。その後110℃で2時間反応させ、含フッ素高分子化合物のソルフィット溶液を得た。重量平均分子量は16100であった。得られた含フッ素高分子化合物のソルフィット溶液を使用して、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。含フッ素高分子化合物は固形分換算で同量使用した。その結果を表20に示す。
【0165】
比較例25
反応容器Aにソルフィット150gを入れ、110℃にした。窒素雰囲気下で、2−(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート40g、イソブチルアクリレート2.5g、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート57.5g、パーオクタO(日本油脂株式会社製)1gの混合溶液を約1時間でソルフィットに滴下した。その後110℃で2時間反応させ、含フッ素高分子化合物のソルフィット溶液を得た。重量平均分子量は18000であった。得られた含フッ素高分子化合物のソルフィット溶液を使用して、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。含フッ素高分子化合物は固形分換算で同量使用した。その結果を表20に示す。
【0166】
比較例26
反応溶媒をイソプロパノールに代え、反応温度を80〜84℃(イソプロパノール還流下)にしたこと以外は比較例24と同様に反応を行った。反応終了後、減圧蒸留にてイソプロパノールを留去し、粘液状の含フッ素高分子化合物を得た。重量平均分子量は、17700であった。得られた含フッ素高分子化合物について、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。含フッ素高分子化合物は固形分換算で同量使用した。その結果を表20に示す。
【0167】
比較例27
反応溶媒をイソプロパノールに代え、反応温度を80〜84℃(イソプロパノール還流下)にしたこと以外は比較例25と同様に反応を行った。反応終了後、減圧蒸留にてイソプロパノールを留去し、粘液状の含フッ素高分子化合物を得た。重量平均分子量は、18500であった。得られた含フッ素高分子化合物について、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価を行った。含フッ素高分子化合物は固形分換算で同量使用した。その結果を表20に示す。
【0168】
実施例1〜30と比較例1〜27において、水溶解性試験、トルエン溶解性試験、表面張力、レベリング性、リコート性、剥離性、皮革層最表面のレベリング性の評価は下記の方法に従って試験し評価した。
【0169】
水溶解性
含フッ素高分子化合物0.15gを蒸留水150gに添加し、ホモディスパーを使用して回転数500rpm×25℃で攪拌した。未溶解物を目視で確認できない状態までの時間を測定し、以下の基準に従って水溶解性を判定した。
6:3分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
5:3分以上8分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
4:8分以上15分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
3:15分以上20分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
2:20分以上30分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
1:30分で溶解若しくは乳化分散しない、又は、30分未満で溶解若しくは乳化分散するものの、20℃で静置した場合12時間以内で分離や沈降等が起こる
【0170】
トルエン溶解性
含フッ素高分子化合物0.15gをトルエン150gに添加し、ホモディスパーを使用して回転数500rpm×25℃で攪拌しながら溶解した。未溶解物を目視で確認できない状態までの時間を測定し、以下の基準に従ってトルエン溶解性を判定した。
6:1分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
5:1分以上3分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
4:3分以上5分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
3:5分以上10分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
2:10分以上15分未満で溶解又は乳化分散し、20℃×12時間静置後に分離や沈降等がない
1:15分で溶解若しくは乳化分散しない、又は、15分未満で溶解若しくは乳化分散するものの、20℃で静置した場合12時間以内で分離や沈降等が起こる
【0171】
表面張力
表面張力計CBVP−A3(協和界面化学株式会社製)を用いてウィルヘルミー法(白金プレート法、測定温度20℃)にて含フッ素高分子化合物の0.1質量%溶液の表面張力を測定した。溶媒として蒸留水、トルエン、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートを使用した。0.1質量%水溶液のウイルヘルミー法による表面張力が16〜32mN/m、0.1質量%トルエン溶液のウイルヘルミー法による表面張力が16〜27mN/mであるものを性能良好と判断した。
【0172】
各溶媒単独での表面張力は以下の通りであった。
蒸留水 72.1mN/m
トルエン 28.7mN/m
プロピレンカーボネート 41.9mN/m
ジメチルカーボネート 28.3mN/m
【0173】
レベリング性
下記組成の表皮層形成用水系ポリウレタン樹脂組成物を離型紙(商品名:アサヒリリースAR−148、旭ロール株式会社製、30cm×40cm)上に乾燥後の膜厚が30μmとなるようにナイフコーターにて塗布し、80℃×2分間乾燥し、更に120℃×1分間加熱処理して、離型紙上に表皮層を形成させた。
【0174】
レベリング性を濡れ性1、耐ピンホール性1、耐ベナードセル性1、フロー性1の総合点で以下のように評価を行った。総合点が高いほどレベリング性が良好と判断した。
5:総合点が15〜16
4:総合点が12〜14
3:総合点が9〜11
2:総合点が7〜8
1:総合点が4〜6
【0175】
表皮層形成用水系ポリウレタン樹脂組成
ネオステッカー 700(日華化学株式会社製、水系ポリウレタン樹脂)100g
ネオステッカー N(日華化学株式会社製、水系コーティング剤用増粘剤) 3g
NXH−6022(日華化学株式会社製、消泡剤) 0.1g
含フッ素高分子化合物 0.15g
【0176】
濡れ性1
上記表皮層形成用水系ポリウレタン樹脂組成物を上記離型紙に塗布した場合の離型紙上での広がりやすさを下記の基準に基づいて評価を行った。離型紙表面に対してはじきがなく薄く広がり、液たれしない(離型紙表面に定着して流れ落ちない)ものを濡れ性が高いと判断した。
4:離型紙表面ではじくことなく広がり、液たれもない
3:離型紙表面ではじくことなく広がるが、液たれが少しある
2:離型紙表面ではじきが少しある
1:離型紙表面ではじいて定着しない
【0177】
耐ピンホール性1
離型紙上に形成された表皮層表面のピンホール(貫通穴)や魚の目(貫通していないリング状陥没欠損)等の欠損の発生度合いを下記の基準に基づいて評価を行った。欠損が少ないほど耐ピンホール性が良いと判断した。
4:表皮層表面に欠陥が無く、平坦である
3:表皮層表面に1〜3個の欠損(穴、魚の目)がある
2:表皮層表面に4〜10個の欠損(穴、魚の目)がある
1:表皮層表面に11個以上の欠損(穴、魚の目)がある
【0178】
耐ベナードセル性1
離型紙上に形成された表皮層表面のベナードセル(油浮きや模様の発生)の度合いを下記の基準に基づいて評価を行った。成分(例えば顔料や油成分、ワックス成分など)の分離がなく、ベナードセル(油浮きや模様の発生)が少ないほど耐ベナードセル性が高いと判断した。
4:表皮層表面にベナードセルがない
3:表皮層表面に1〜2個のベナードセルがある
2:表皮層表面に3〜4個のベナードセルがある
1:表皮層表面に5個以上のベナードセルがある
【0179】
フロー性1
離型紙上に形成された表皮層表面のフロー性を下記の基準に基づいて評価を行った。すじ、ムラ及び凹凸の発生が少ないほどフロー性が高いと判断した。
4:表皮層表面にすじ、ムラ及び凹凸が無く、平坦である
3:表皮層表面に1〜2ヶ所のすじ、ムラ及び凹凸がある
2:表皮層表面に3〜4個のすじ、ムラ及び凹凸がある
1:表皮層表面に5個以上のすじ、ムラ及び凹凸がある
【0180】
リコート性
下記組成の接着層用ポリウレタン樹脂組成物を上記作製した表皮層上に、表皮層を含む乾燥後の膜厚が50μmとなるようにナイフコーターにて塗布し、80℃×1分間乾燥し、更に110℃×1分間加熱処理して、離型紙上の表皮層上に接着層の皮膜を形成させた。
【0181】
リコート性を濡れ性2、耐ピンホール性2、フロー性2の総合点で以下のように判定した。総合点が高いほどリコート性が良好と判断した。
5:総合点が11〜12
4:総合点が9〜10
3:総合点が7〜8
2:総合点が5〜6
1:総合点が4以下
【0182】
接着層用ポリウレタン樹脂組成
エバファノールHO−10(日華化学株式会社製、二液型水系ポリウレタン樹脂)100g
バイヒジュール3100(住友バイエルウレタン株式会社製、水系ポリイソシアネート化合物)10g
ネオステッカー N(日華化学株式会社製、水系コーティング剤用増粘剤) 3g
【0183】
濡れ性2
上記接着層用ポリウレタン樹脂組成物を上記表皮層上に塗布した場合の表皮層上での広がりやすさを下記の基準に基づいて評価を行った。表皮層表面に対してはじきがなく薄く広がり、液たれしない(表皮層表面に定着して流れ落ちない)ものを濡れ性が高いと判断した。
4:表皮層表面ではじくことなく、薄く広がる、液たれ無し
3:表皮層表面ではじくことなく広がる、液たれが少しあり
2:表皮層表面ではじきが少しあり
1:表皮層表面ではじいて定着しない
【0184】
耐ピンホール性2
上記表皮層上に塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物のピンホール(貫通穴)や魚の目(貫通していないリング状陥没欠損)等の欠損の発生度合いを下記の基準に基づいて評価を行った。欠損が少ないほど耐ピンホール性が良いと判断した。
4:塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物表面に欠陥が無く、平坦である
3:塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物表面に1〜3個の欠損(穴、魚の目)がある
2:塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物表面に4〜10個の欠損(穴、魚の目)がある
1:塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物表面に11個以上の欠損(穴、魚の目)がある
【0185】
フロー性2
上記表皮層上に塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物のフロー性を下記の基準に基づいて評価を行った。すじ、ムラ及び凹凸の発生が少ないほどフロー性が高いと判断した。
4:塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物表面にすじ、ムラ及び凹凸が無く、平坦である
3:塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物表面に1〜2ヶ所のすじ、ムラ及び凹凸がある
2:塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物表面に3〜4個のすじ、ムラ及び凹凸がある
1:塗布した接着層用ポリウレタン樹脂組成物表面に5個以上のすじ、ムラ及び凹凸がある
【0186】
耐剥離性
上記表皮層上に形成された接着層の剥離状態を下記基準に従い目視にて判定した。浮き(接着層中に内部気泡が入ったように浮いている状態)、剥離(接着層の端部分が未接着で離れている状態)が少ないほど耐剥離性が高いと判断した。
4:浮きや剥離がなく、均一に接着している
3:浮きや剥離が1〜2カ所ある
2:浮きや剥離が3〜4カ所ある
1:浮きや剥離が5カ所以上、又は大きな剥離がある
【0187】
皮革層最表面のレベリング性
目付100g/mのポリエステル不織布をエバファノールAP−12(日華化学株式会社製、水分散型ポリウレタン樹脂組成物、商品名)30g、塩化カルシウム1g、水96gを配合した配合液に含浸しスリットマングルロールにてピックアップ130%となるように絞り、その後90℃に調整したハイテンパルチャースチーマー(H.T.S.)にて凝集固着させた。ついで80℃温水にて20分間湯洗し、脱水した後、130℃×5分間乾燥し、基材を得た。
【0188】
前述の接着層作製後ただちに上記基材と張り合わせ、カレンダーを用いて95℃×30kgでラミネート処理を行った。その後、45℃×40%RHの条件に調湿した恒温恒湿器の中で2日間保管し熟成を行った。取り出して室温に戻した後に離型紙を剥がして皮革状積層体を得た。
【0189】
得られた皮革状積層体の皮革層側最表面(離型紙を剥がした面)のレベリング性を耐ピンホール性3、耐ベナードセル性3、フロー性3の総合点で以下のように判定した。総合点が高いほど皮革層側最表面のレベリング性が良好と判断した。
5:総合点が11〜12
4:総合点が9〜10
3:総合点が7〜8
2:総合点が5〜6
1:総合点が4以下
【0190】
耐ピンホール性3
上記皮革状積層体の皮革層側最表面のピンホール(貫通穴)や魚の目(貫通していないリング状陥没欠損)等の欠損の発生度合いを下記の基準に基づいて評価を行った。欠損が少ないほど耐ピンホール性が良いと判断した。
4:皮革層最表面に欠陥が無く、平坦である
3:皮革層最表面に1〜3個の欠損(穴、魚の目)がある
2:皮革層最表面に4〜10個の欠損(穴、魚の目)がある
1:皮革層最表面に11個以上の欠損(穴、魚の目)がある
【0191】
耐ベナードセル性3
上記皮革状積層体の皮革層側最表面のベナードセル(油浮きや模様の発生)の度合いを下記の基準に基づいて評価を行った。成分(例えば顔料や油成分、ワックス成分など)の分離がなく、ベナードセル(油浮きや模様の発生)が少ないほど耐ベナードセル性が高いと判断した。
4:皮革層最表面にベナードセルがない
3:皮革層最表面に1〜2個のベナードセルがある
2:皮革層最表面に3〜4個のベナードセルがある
1:皮革層最表面に5個以上のベナードセルがある
【0192】
フロー性3
上記皮革状積層体の皮革層側最表面のフロー性を下記の基準に基づいて評価を行った。すじ、ムラ及び凹凸の発生が少ないほどフロー性が高いと判断した。
4:皮革層最表面にすじ、ムラ及び凹凸が無く、平坦である
3:皮革層最表面に1〜2ヶ所のすじ、ムラ及び凹凸がある
2:皮革層最表面に3〜4個のすじ、ムラ及び凹凸がある
1:皮革層最表面に5個以上のすじ、ムラ及び凹凸がある
【0193】
【表7】
【0194】
【表8】
【0195】
【表9】
【0196】
【表10】
【0197】
【表11】
【0198】
【表12】
【0199】
【表13】
【0200】
【表14】
【0201】
【表15】
【0202】
【表16】
【0203】
【表17】
【0204】
【表18】
【0205】
【表19】
【0206】
【表20】
【0207】
以上の結果から、本発明の方法により得られる含フッ素高分子化合物は水、有機溶剤のいずれにも溶解し、良好な表面張力調整効果を示し、好適に0.1質量%水溶液のウイルヘルミー法による表面張力が16〜32mN/mであり、0.1質量%トルエン溶液のウイルヘルミー法による表面張力が16〜27mN/mであるように調整することができるため、多様な用途に対応可能であることが分かった。またレベリング剤としてコーティング剤に併用した場合、レベリング性とリコート性を高いレベルで両立させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明の含フッ素高分子化合物の製造方法により得られる含フッ素高分子化合物は、水系/非水系のいずれの場合においても良好な表面張力調整効果を有するため、該含フッ素高分子化合物を含む表面張力調整剤は、例えば、合成・人工皮革向け樹脂塗布用レベリング剤、塗料・インク用レベリング剤、フロアワックス・フロアポリッシュ用レベリング剤、浸透剤、接着剤、洗浄剤など多用途に好適に用いることができる。
【0209】
特異的な性能として、カーボネート系溶剤の表面張力を低下させることも可能であるため、カーボネート系溶剤を使用する二次電池用電解液の浸透剤として使用することもできる。
【0210】
本発明の含フッ素高分子化合物の製造方法により得られる含フッ素高分子化合物は非イオン界面活性剤であることから、他の機能性薬剤とのイオン性の違いによる相溶性の制限を受けることがない。