特許第5953108号(P5953108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953108
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】スクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20160707BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61K 8/96 20060101ALI20160707BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20160707BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20160707BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   A61K45/00
   A61P43/00 111
   A61K8/96
   A61Q19/02
   A61P17/00
   A61P9/10
   A61P9/10 103
   A61P9/12
   A61P35/00
   A61P27/02
   A61P19/02
   A61P29/00
   A61P17/06
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-110959(P2012-110959)
(22)【出願日】2012年5月14日
(65)【公開番号】特開2013-236579(P2013-236579A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年2月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年1月19日 販促媒体「ホワイトショットCX 新製品ガイド」の当該新製品発売予定の支店責任者への送付により発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成23年11月22日 ポーラ化成工業株式会社ホームページへの掲載により発表(掲載アドレス http://www.pola−rm.co.jp/rd/release.html http://www.pola−rm.co.jp/pdf/release_20111122.pdf)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成23年11月29日 グランドハイアット東京2階会議室コリアンダーでの記者会見において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】本川 智紀
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−200408(JP,A)
【文献】 特開2003−113027(JP,A)
【文献】 特開2005−132784(JP,A)
【文献】 特開2005−075771(JP,A)
【文献】 特開2007−145850(JP,A)
【文献】 多田明弘ら,BIO INDUSRTY,2005年 9月12日,22(9),pp.12-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 1/02
A61K 8/00− 8/96
A61K 45/00−45/08
A61P 1/00−43/00
A61Q 1/00−19/02
G01N 33/00−33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
Google
Google Scholar
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アドレノメジュリン(ADM:Adrenomedullin)情報伝達系の活性化を阻害する成分のスクリーニング方法であって、
被験物質を添加し、さらにADM情報伝達系の活性化因子を付与した細胞の形態を、被験物質を添加せずにADM情報伝達系の活性化因子を付与した細胞の形態と比較して、ADM情報伝達系の活性化因子を付与したことによって生じる細胞の形態変化が、前記被験物質によって抑制されていた場合に、前記被験物質にはADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別することを特徴とする、スクリーニング方法。
【請求項2】
前記形態変化が、色素細胞(メラノサイト)の形態変化である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記形態変化が、デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数の増加である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記ADM情報伝達系の活性化因子の付与がADMの添加である、請求項1〜3の何れか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記形態変化の抑制効果が大きい被験物質ほど、ADM情報伝達系の活性化を阻害する作用が強いと判別する、請求項1〜4の何れか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記被験物質にADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別された場合に、前記被験物質は美白剤であると判別する、請求項1〜5の何れか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
アドレノメジュリン(ADM:Adrenomedullin)情報伝達系を活性化する成分の候補物質のスクリーニング方法であって、
被験物質を添加した色素細胞(メラノサイト)において、被験物質を添加しなかった色素細胞と比較して、デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数が増加した場合に、前記被験物質にはADM情報伝達系を活性化する作用があると推定することを特徴とする、スクリーニング方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載のスクリーニング方法を行う工程、及び前記工程により判別されたADM情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分の候補物質を組成物に配合する工程を含むことを特徴とする組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドレノメジュリン(ADM:Adrenomedullin)情報伝達系の活性化を阻害する成分のスクリーニング方法、ADM情報伝達系を活性化する成分のスクリーニング方法、当該成分を含有する組成物、並びに該組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚における日焼け後の色素沈着、シミ、肝斑、老人性色素斑等は、皮膚に存在する色素細胞(メラノサイト)の活性化によりメラニン生成が著しく亢進した状態である。これらの皮膚色素沈着に関連するトラブルの発生・悪化を防止又は改善する作用を有する成分(美白剤)に関する研究は、今尚、盛んに行われている。また、現在に至るまで様々な作用機序に基づいた美白剤が創出されており、例えばアスコルビン酸類、過酸化水素、コロイド硫黄、グルタチオン、ハイドロキノン、カテコール等(非特許文献1参照)がよく知られている。さらに近年、新たな作用機序に基づいた美白剤として、チロシナーゼ関連蛋白阻害剤(特許文献1参照)、エンドセリン作用抑制剤(特許文献2参照)、メラノサイトのデンドライト伸張抑制剤(特許文献3参照)、メラニン移送又は放出抑制剤(特許文献4参照)、プロトンポンプ阻害剤(特許文献5参照)、インテグリン産生促進剤(特許文献6参照)、ステムファクターセル結合阻害剤(特許文献7参照)等が報告されている。加えて、美白剤を単独で配合する化粧料のほか、複数の美白剤を組合せて配合する化粧料も開発されている。しかしながら、既知の作用機序に基づいた美白剤では、ある程度の美白効果は認められるものの、十分に満足のいく効果が得られているとは言い難い。このため、今尚、新たな作用機序に基づいた美白剤の開発が望まれている。
【0003】
1993年、寒川、北村等によりヒト褐色細胞腫より同定されたアドレノメジュリン(ADM:Adrenomedullin)は、アミノ酸プレプロホルモンから連続的な酵素分解及びアミド化反応を経由し精製される52個のアミノ酸よりなる生理活性ペプチドである(非特許文献2参照)。ADMは、カルシトニン受容体様受容体(CRLR:calsitonin−receptor−like receptor)及び受容体活性化調節蛋白質(RAMP1〜3:receptor activity−modifying protein1〜3)により形成される複合体(受容体)を介して、様々な生物活性を発現する。また、かかる結合受容体は、その生体分布、ADMに対する結合親和性等がそれぞれ違うため、生体における役割、病態への関与等も異なる。ADMに対し高い結合親和性を有するCRLR及びRAMP2、RAMP3により形成される2種類の結合受容体は、酸化ストレス、動脈硬化、血管・リンパ管新生への関与が報告されている。一方、かかる2種類の受容体に対しADM結合親和性が相対的に低いとされるCRLR及びRAMP1により形成される受容体は、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP:calcitonin gene−related peptide)に対し高い結合親和性を示し、血圧調節、偏頭痛等の症状と深く関与する。この様にADMは、CRLR及びRAMP1〜3により形成される受容体に対し親和性を有し、かかる受容体を介する情報伝達系を活性化することにより多様な生体反応及び症状と深く関連する。
また、ADMと関連性の高い生理活性ペプチドとしては、ADMと共通の前駆体であるアミノ酸プレプロホルモンより生成するプロアドレノメジュリンN−末端20ペプチド(PAMP:Proaderenomedullin N−terminal 20 peptide)、更にはADMと同様のカルシトニン遺伝子関連ペプチドファミリーに属し、類似性の高い構造を有するアドレノメジュリン2/インテルメジン(ADM2/IMD:Adrenomedullin2/Intermedin)等が報告されている。PAMPは、ADMと同様に降圧作用を有するため、その生物活性に注目が集まり研究が盛ん
に行われている。
【0004】
ADMは、当初、血管拡張作用を有する物質として注目を集め、その後、血管以外の組織、副腎髄質、心臓、肺、脳、腎臓等の組織に存在することが確認されている(非特許文献3参照)。さらにADMは、細胞遊走、分化制御、内皮細胞再生、抗炎症作用、気管支拡張作用、中枢神経脳活動の調整作用、アルドステロン及びアドレノコルチコトロピン放出抑制作用、体液量調節、強心作用、抗菌又は抗真菌作用による擦り傷、皮疹又は皮膚損傷を治癒する作用等に関連があることが報告されている。このような生物活性との関連性の解明により、ADM結合受容体を介する情報伝達系に作用する成分の応用展開が図られ、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、高血圧等の血管系疾患、腫瘍(特許文献8参照)、網膜症、関節炎、乾癬の治療薬、診断薬としての開発が進められている。
しかしながら、このようなADM情報伝達系に作用する成分に関する研究は、CRLR及びRAMP1より形成される受容体を中心に行われている。さらに、ADM情報伝達系に作用する成分のほとんどが、ADM及び関連蛋白質のフラグメント構造を有するペプチド誘導体、抗体等の分子量が大きい物質である。これは、ADM及び関連蛋白質の三次元構造解析等が十分に進んでおらず、構造活性相関及び化合物設計等の技術導入がなされていないためである。また、ADM及び関連蛋白質の活性及び機能を評価する方法としては、市販のADM抗体等を用いADM産生量を測定することにより被験物質のADM情報伝達系への作用を評価する方法、被験物質のADM産生に関与する遺伝子又は酵素活性に対する影響を評価する方法、アドレノメジュリン受容体を宿主細胞に発現させアゴニスト及びアンタゴニスト活性を評価する方法(特許文献9参照)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−195732号公報
【特許文献2】特開2012−020950号公報
【特許文献3】特開2003−113027号公報
【特許文献4】特開2008−143796号公報
【特許文献5】特開2011−178760号公報
【特許文献6】特開2006−045087号公報
【特許文献7】特開2008−031094号公報
【特許文献8】特開2007−145850号公報
【特許文献9】特開平11−169187号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】メラニン色素の制御と美白剤の開発(フレグランスジャーナル社、臨時増刊)、No.14、P.118−126(1995)
【非特許文献2】Kitamura K.et. al., Biochem.Biophys.Res.Commun,192,553−560(1993)
【非特許文献3】Shimosawa T.et.al., J.Clin.Invest.96,1672(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のようにADM情報伝達系に作用する成分は、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、高血圧等の疾病の治療薬として応用展開が図られているが、これらの治療薬の開発を促進するためには、ADM情報伝達系に対する作用を正確かつ効率的に判別することができる技術が必要である。ADM情報伝達系への作用については、ADM情報伝達系に関与する受容体に対する結合親和性、並びにその機能を評価することによって把握することもできるが、このような評価方法は生化学的な専門知識を必要とするとともに、測定操作が簡便である
とは言い難いものであった。
即ち、本発明は、ADM情報伝達系に作用する成分を正確かつ効率的に判別することができるスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ADM情報伝達系を活性化することによって、細胞の形態が特異的に変化すること、例えば色素細胞(メラノサイト)にADMを添加することによって、デンドライト(メラノサイトの触手)が増加することを見出した。そして、かかる現象を利用して、ADM情報伝達系が活性化される条件に置く細胞に被験物質を添加し、その形態変化を観察することによって、被験物質にADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があるか否かを正確かつ効率的に判別することができることを見出した。また、ADM情報伝達系が活性化されていない条件下に置く細胞に被験物質を添加し、その形態変化を観察することによって、被験物質にADM情報伝達系を活性化する作用があるか否かを正確かつ効率的に判別することができることも見出した。
即ち本発明は、以下に示す通りである。
<1> アドレノメジュリン(ADM:Adrenomedullin)情報伝達系の活
性化を阻害する成分のスクリーニング方法であって、被験物質を添加し、さらにADM情報伝達系の活性化因子を付与した細胞の形態を、被験物質を添加せずにADM情報伝達系の活性化因子を付与した細胞の形態と比較して、ADM情報伝達系の活性化因子を付与したことによって生じる細胞の形態変化が、前記被験物質によって抑制されていた場合に、前記被験物質にはADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別することを特徴とする、スクリーニング方法。
<2> 前記形態変化が、色素細胞(メラノサイト)の形態変化である、<1>に記載の
スクリーニング方法。
<3> 前記形態変化が、デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数の増加
である、<1>又は<2>に記載のスクリーニング方法。
<4> 前記ADM情報伝達系の活性化因子の付与がADMの添加である、<1>〜<3
>の何れかに記載のスクリーニング方法。
<5> 前記形態変化の抑制効果が大きい被験物質ほど、ADM情報伝達系の活性化を阻
害する作用が強いと判別する、<1>〜<4>の何れかに記載のスクリーニング方法。
<6> 美白剤を判別するものである、<1>〜<5>の何れかに記載のスクリーニング
方法。
<7> アドレノメジュリン(ADM:Adrenomedullin)情報伝達系を活
性化する成分のスクリーニング方法であって、被験物質を色素細胞(メラノサイト)に添加することによって、前記色素細胞(メラノサイト)のデンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数が増加した場合に、前記被験物質にはADM情報伝達系を活性化する作用があると判別することを特徴とする、スクリーニング方法。
<8> <1>〜<7>の何れかに記載のスクリーニング方法により判別されたADM情
報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分を含有することを特徴とする組成物。
<9> 皮膚外用剤である、<8>に記載の組成物。
<10> 化粧料(但し、医薬部外品を含む)である、<8>又は<9>に記載の組成物

<11> <1>〜<7>の何れかに記載のスクリーニング方法により判別されたADM
情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分を組成物に配合する工程を含むことを特徴とする組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ADM情報伝達系に作用する成分を正確かつ効率的に判別することが
できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ADMの添加又は非添加、ADM及び被験物質添加の色素細胞の顕微鏡写真である(図面代用写真)。1aはADM非添加の色素細胞、1bはADM添加の色素細胞、1cはADMとシソ科ハナハッカ属マジョラムより得られる植物抽出物を添加した色素細胞である。
図2】各種因子を添加した正常ヒトメラノサイトにおけるデンドライトの総数の増加量及びデンドライトの分岐数の増加量を表すグラフである。
図3】ADMを添加した場合の正常ヒトメラノサイトにおけるメラニン産生量及び細胞数を表すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0012】
<ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分のスクリーニング方法>
本発明は、アドレノメジュリン(ADM:Adrenomedullin)情報伝達系の活性化を阻害する成分を判別するためのスクリーニング方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」と略す場合がある。)である。より具体的には、被験物質を添加し、さらにADM情報伝達系の活性化因子を付与した細胞の形態を、被験物質を添加せずにADM情報伝達系の活性化因子を付与した細胞の形態と比較して、ADM情報伝達系の活性化因子を付与したことによって生じる細胞の形態変化が、被験物質によって抑制されていた場合に、かかる被験物質にはADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別することを特徴とするスクリーニング方法である。
本発明者は、ADM情報伝達系を活性化することによって、細胞の形態が特異的に変化すること、例えば色素細胞(メラノサイト)にADMを添加することによって、図1図1の1aはADM非添加の色素細胞、1bはADM添加の色素細胞、1cはADMとシソ科ハナハッカ属マジョラムより得られる植物抽出物を添加した色素細胞である。)に示されるようにデンドライト(メラノサイトの触手)が増加することを見出している。ADM情報伝達系が活性化しているか否かについては、ADM情報伝達系に関与する受容体に対する結合親和性、並びにその機能を評価することによって把握することもできるが、このような評価方法は生化学的な専門知識を必要とするとともに、測定操作が簡便であるとは言い難いものであった。即ち、細胞の形態変化を観察することによって、ADM情報伝達系の活性化をより簡易的に判断することが可能となったと言える。そして、かかる現象を利用して、ADM情報伝達系が活性化される条件下に設定する細胞に被験物質を添加し、その形態変化を観察することによって、被験物質にADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があるか否かを正確かつ効率的に判別することができることを見出したのである。
また、色素細胞(メラノサイト)のデンドライトは、色素細胞において産生されたメラニンを角化細胞等に移送するための重要な役割を果たしているため、デンドライトの総数やデンドライトの分岐総数が増加する形態変化を起こした場合、皮膚における色素沈着は促進されるものと考えられる。さらに、本発明者は、色素細胞に前述のCRLR及びRAMP1〜3により形成される3種類の結合受容体が存在することも確認している。実際、後述する試験例2に記載の通り、色素細胞のADM情報伝達系の活性化(ADM添加)によりメラニン産生量が増加することが確認されている。従って、同様にADM情報伝達系が活性化される条件に置く色素細胞に被験物質を添加し、デンドライトの総数やデンドライトの分岐総数の増加が抑制されているか否かを観測することによって、かかる被験物質に色素沈着予防効果、即ち美白効果があるか否かを判別することができるのである。なお、従来の美白剤の中にも、デンドライトの伸張を抑制する作用のあるものは報告されているが、本発明者の知る限り、デンドライトの総数やデンドライトの分岐総数の増加を抑制
することによって美白効果を発揮する成分は具体的に報告されておらず、色素細胞のADM情報伝達系の活性化を阻害する作用に基づいた美白剤は知られていないものと言える。
ここで、ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分とは、例えばADM産生量を減少させる成分、ADM結合受容体を介する情報伝達系を不活性化させる成分(直接又は間接的なADM結合受容体不活性化作用を有する成分)、ADM結合受容体蛋白発現量を減少させる成分、ADM情報伝達系を介するc−AMP等の二次的情報伝達物質を減少させる成分等が挙げられるが、結果的にADM情報伝達系の活性化の阻害に結びつくものであれば、本発明においてその原理は特に限定されないものとする。
また、ADM情報伝達系とは、ADMが結合することができる受容体、具体的にはCRLRとRAMP2若しくはRAMP3により形成される受容体、又はCRLRとRAMP1により形成される受容体等を介して情報を伝達する細胞内情報伝達機構を意味するものとする。
【0013】
本発明のスクリーニング方法は、スクリーニングに使用する細胞に「被験物質を添加し、さらにADM情報伝達系の活性化因子を付与」することを特徴としているが、スクリーニングに使用する細胞の種類は、ADM情報伝達系を有する細胞であれば特に限定されない。具体的な細胞としては、色素細胞(メラノサイト)、神経細胞(プルキンエ細胞)等が挙げられるが、色素細胞(メラノサイト)が好適なものとして例示できる。また、細胞の培養系としては、単独培養であっても共培養であってもよく、例えばメラノサイトの単独培養系、メラノサイト及びケラチノサイトの共培養系が好適なものとして例示できる。また、細胞の培養条件としては、通常の色素細胞培養条件、例えば市販のメラニン細胞基礎培地(Medium254、倉敷紡績株式会社)等による培養のほか、ADM情報伝達系の活性化による細胞の特異的な形態変化の発生又は確認を妨げない培養条件であれば特段の限定なく適用することができる。
【0014】
本発明のスクリーニング方法は、スクリーニングに使用する細胞に「ADM情報伝達系の活性化因子を付与」することを特徴としているが、「ADM情報伝達系の活性化因子を付与」とは、ADM情報伝達系を活性化することができるものであれば具体的な操作は特に限定されないものとする。例えば、アドレノメジュリン(ADM:Adrenomedullin)、プロアドレノメジュリンN−末端20ペプチド(PAMP:Proaderenomedullin N−terminal 20 peptide)、アドレノメジュリン2/インテルメジン(ADM2/IMD:Adrenomedullin2/Intermedin)等を添加する操作、紫外線の照射等が挙げられる。これらの中でも、ADMを添加する操作が好適なものとして例示できる。また、ADM等の添加量や紫外線の照射条件は、スクリーニングに使用する細胞の種類等に応じて適宜設定されるべきものであるが、例えばADMの添加量(複数回添加する場合には総量)として、通常0.0001μM以上、好ましくは0.001μM以上、より好ましくは0.01μM以上であり、通常1000μM以下、好ましくは100μM以下、より好ましくは10μM以下である。上記範囲であれば、ADM情報伝達系を適度に活性化することができる。
【0015】
本発明のスクリーニング方法は、スクリーニングに使用する細胞に「被験物質を添加し、さらにADM情報伝達系の活性化因子を付与」することを特徴としているが、被験物質の添加とADM情報伝達系の活性化因子の付与についての順番やその回数は特に限定されず、被験物質を添加した後にADM情報伝達系の活性化因子を付与するものであっても、ADM情報伝達系の活性化因子を付与した後に被験物質を添加するものであっても、或いは被験物質の添加とADM情報伝達系の活性化因子の付与を同時に行うものであってもよい。また、被験物質の添加量(複数回添加する場合には総量)は、スクリーニングに使用する細胞の種類等に応じて適宜設定されるべきものであるが、例えば培地中の濃度として通常0.0001質量%以上、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上になるように添加するものであり、通常50質量%以下、好ましくは30質
量%以下、より好ましくは20質量%以下になるように添加するものである。
本発明のスクリーニング方法が対象とする被験物質は、純物質又は動植物由来の抽出物等の混合物等の何れであってもよい。動植物由来の抽出物は、動物又は植物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味するものとし、植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用いた抽出物、市販されている抽出物等が挙げられる。
抽出操作は、植物部位の全草を用いるほか、植物体、地上部、根茎部、木幹部、葉部、茎部、花穂、花蕾等の部位を使用することできるが、予めこれらを粉砕或いは細切して抽出効率を向上させることが好ましい。抽出溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、1,3−ブタンジオール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等の極性溶媒から選択される1種乃至は2種以上が好適なものとして例示することができる。具体的な抽出方法としては、例えば、植物体等の抽出に用いる部位乃至はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1〜30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬し、室温まで冷却し後、所望により不溶物及び/又は溶媒除去し、カラムクロマトグラフィー等で分画精製する方法が挙げられる。
【0016】
本発明のスクリーニング方法は、「被験物質を添加し、さらにADM情報伝達系の活性化因子を付与した細胞の形態を、被験物質を添加せずにADM情報伝達系の活性化因子を付与した細胞の形態と比較」することを特徴としているが、「細胞の形態」の具体的な比較方法は特に限定されない。「細胞の形態」を比較する方法としては、例えば、光学顕微鏡(明視野顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微法、微分干渉顕微法、レーザー顕微鏡等、共焦点レーザー顕微鏡、invivo共焦点顕微鏡、ラマン顕微鏡)、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡の公知の顕微鏡を用いて細胞を観察、もしくは画像を取得し、細胞全体又は細胞の一部分の形状、寸法を測定して、その値を比較する方法が挙げられる。操作が簡易的であることから、光学顕微鏡による観察もしくは画像結果を比較することが好ましい。また、細胞の形態をより観察しやすくするために、抗体染色(例えば抗メラノサイト抗体等)や、細胞染色(例えば細胞に取り込まれ蛍光を発するCFDA染色等)を用いてもよい。
【0017】
本発明のスクリーニング方法は、「ADM情報伝達系の活性化因子を付与したことによって生じる細胞の形態変化が、前記被験物質によって抑制されていた場合に、前記被験物質にはADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別すること」ことを特徴としているが、「細胞の形態変化」は、細胞全体の形状、寸法等の変化であっても、或いは細胞の一部分の形状、寸法等の変化であってもよく、スクリーニングに使用する細胞の特徴等に応じて適宜選択することができる。但し、「細胞の形態変化が抑制」されているか否かを判断し易くする観点から、変化が比較的大きい形状、寸法等に着目し、さらにその変化を定量的な数値として捉えることが好ましい。例えば、スクリーニングに使用する細胞が色素細胞(メラノサイト)である場合、ADM情報伝達系を活性化するとデンドライトの総数やデンドライトの分岐総数は顕著に増加する。従って、「細胞の形態変化」としてデンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数を測定すると、客観的な数値として「細胞の形態変化」を捉えることができ、さらに正確にADM情報伝達系の活性化を阻害する作用を判別することができる。なお、「デンドライトの総数」とは、細胞本体より派生するデンドライトの本数の合計を意味し、「デンドライトの分岐総数」とは、細胞本体より派生したデンドライトが伸張するに伴って増加する分岐総数を意味するものとする。また、デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数を測定する場合は、複数の色素細胞のデンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数を測定しても、或いは1細胞当たりのデンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数を測定してもよい。
より正確にADM情報伝達系の活性化を阻害する作用を判別するために、より高い基準
を設けて判別してもよい。例えば、デンドライトの総数やデンドライトの分岐総数によって判別する場合、デンドライトの総数及びデンドライトの分岐総数の両方の増加が抑制されているとき、その被験物質にはADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別してもよい。また、デンドライトの総数(又はデンドライトの分岐総数)の増加量の何%が抑制されている場合、その被験物質にはADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別する等、定量的な基準を設けて判別してもよい。デンドライトの総数を基準とする場合、ADM添加のみを行った時のデンドライトの総数の増加量に対し、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上抑制される場合、その被験物質にはADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別することが挙げられる。また、デンドライトの分岐総数を基準とする場合、ADM添加のみを行った時のデンドライトの分岐総数の増加量に対し、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上抑制される場合、その被験物質にはADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別することができる。上記基準であると、より正確にADM情報伝達系の活性化を阻害する作用を判別することができる。
【0018】
本発明のスクリーニング方法は、「ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分」を判別するスクリーニング方法であるが、被験物質に「ADM情報伝達系の活性化を阻害する作用がある」か否かを判別するのみならず、被験物質のADM情報伝達系の活性化を阻害する作用の強さを相対的に判別するために活用することができる。例えば、本発明において「細胞の形態変化」を定量的な数値として捉えることが好ましいことを前述したが、これによって「細胞の形態変化」の抑制効果についても定量的な数値として捉えることができる。即ち、「細胞の形態変化」の抑制効果を被験物質同士相対的に比較することができ、「ADM情報伝達系の活性化」と「細胞の形態変化」の相関性から、形態変化の抑制効果が大きい被験物質ほど、ADM情報伝達系の活性化を阻害する作用が強いと判別することができる。
【0019】
本発明のスクリーニング方法は、「ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分」を判別するスクリーニング方法であるが、美白剤を判別するために活用することができる。前述のように、色素細胞(メラノサイト)のデンドライトは、色素細胞において産生されたメラニンを角化細胞等に移送するための重要な役割を果たしているため、デンドライトの総数やデンドライトの分岐総数が増加する形態変化を起こした場合、皮膚における色素沈着は促進されるものと考えられる。従って、ADM情報伝達系が活性化される条件に置く色素細胞に被験物質を添加し、デンドライトの総数やデンドライトの分岐総数の増加が抑制されていた場合、かかる被験物質に色素沈着予防効果、即ち美白効果があるか否かを判別することができる。
【0020】
本発明のスクリーニング方法における手順(工程)の具体例を以下に挙げるが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
(1)スクリーニングに使用する細胞の初期の形態を把握するため、顕微鏡等によってその形態を観察する(細胞全体及び/又は一部分の寸法、デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数等の定量的な数値を測定する。)。
(2)細胞に被験物質を添加する。
(3)ADM情報伝達系の活性化因子を細胞に付与する(例えばADMを細胞に添加する)。なお、コントロールとして被験物質を添加せずADM情報伝達系の活性化因子を付与した同種の細胞も用意する。
(4)被験物質を添加した細胞及び被験物質を添加していない細胞の形態をそれぞれ顕微鏡等によって観察する(細胞全体及び/又は一部分の寸法、デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数等の定量的な数値を測定する)。
(5)細胞の初期の形態をもとに、被験物質を添加した細胞及び被験物質を添加していな
い細胞の形態変化をそれぞれ定量的な数値として捉える(細胞全体及び/又は一部分の寸法変化量、デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数の増加量等)。
(6)被験物質を添加した細胞及び被験物質を添加していない細胞の形態変化を比較し、被験物質を添加したことによって細胞の形態変化が抑制されていた場合、その被験物質にはADM情報伝達系の活性化を阻害する作用があると判別する。
【0021】
<試験例1: 各種因子の添加による色素細胞の形態変化の検討>
以下に記載の手順に従い試験を実施した。12穴プレートに正常ヒトメラノサイト(NHEM)(倉敷紡績株式会社)1.0×10(cells/well)の密度で播種し、播種24時間後、合成ADM(ペプチド゛研究所4278−s)、α−メラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH、シグマアルドリッチジャパン)、エンドセリン(END、和光純薬工業株式会社)を1μM添加、プロスタグランジン(PGE2)(Cayman Chemical 14010)を0.1μM添加(PGE2は1μM添加では細胞が死滅したため)し、添加12時間後の細胞の形態を光学顕微鏡で観察し、ランダムに撮影部位を設定、10枚の写真を撮影し画像に取り込んだ。そして10枚の画像中の<1>細胞全体が写っている細胞、<2>鮮明に形態が観察されている細胞をすべて選択し、デンドライトの総数及びデンドライトの分岐総数を計測、細胞数あたりの値に換算した。結果を図2に示す。
【0022】
図2の結果より、ADM情報伝達系の活性化因子の付与(ADM添加)によりデンドライトの総数及びデンドライトの分岐総数の増加が観察された。また、ADM情報伝達系の活性化による形態変化は、色素細胞のG蛋白型受容体を介するその他の情報伝達系を活性化した場合と比較し、その形態変化の程度は顕著であった。
【0023】
<試験例2: 正常ヒトメラノサイトにおけるADM添加によるメラニン産生量及び細胞数に関する検討>
以下の手順に従い、正常ヒトメラノサイトにおけるADM添加によるメラニン産生量及び細胞数への影響を検討した。48穴プレートに正常ヒトメラノサイト(NHEM)(倉敷紡績株式会社)1.5×10(cells/well)の密度で播種し、播種24時間後、合成ADM(ペプチド研究所4278−s)を2(μM)になる様に添加し、さらに0.25(μCi/well)の[14C]−2−Thiouracilを添加した。COインキュベーターにて72時間培養後、Cell Counting Kit−8(株式会社 同仁研究所)を用い、細胞数を測定後、液体シンチレーションカウンター(アロカ株式会社)により[14C]−2−Thiouracilの取り込みを測定した。結果を図3に示す。図3において、縦軸はメラニン産生量又は細胞数を表す。また、メラニン産生量又は細胞数は、ADM非添加群におけるメラニン産生量又は細胞数を100%とした場合の百分率で表示した。
【0024】
図3の結果より、ADM添加により正常ヒトメラノサイトにおけるメラニン産生量が増加することが確認された。この際、メラノサイト細胞数の増加は認められなかった。即ち、ADM結合受容体を介する情報伝達系が活性化されることにより、メラニン産生量が増加することが明らかである。
【0025】
色素細胞には、ADM情報伝達系と同様に、G蛋白結合型受容体を介しc−AMP等の二次情報伝達物質を制御することにより細胞内情報を伝達する情報伝達系が存在する。かかる情報伝達物質としては、メラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH:α−Melanocyte stimulating hormone)、エンドセリン(END:endotheline)、プロスタグランジンE2(PGE2:Prostagrandin
E2)等が知られており、何れの因子もメラニン産生及び色素沈着と深く関連する。前記の試験結果によれば、ADM以外の前記細胞情報伝達系を活性化した場合、デンドライ
トの総数やデンドライトの分岐総数の増加が認められるものの、その増加効果は、ADM情報伝達系の活性化に比較し非常に弱いものであった。このことは、色素細胞のデンドライトの総数やデンドライトの分岐総数の増加(細胞の形態変化)は、ADM情報伝達系の活性化のよる寄与度が非常に大きいと言える。即ち、色素細胞におけるデンドライトの総数、デンドライトの分岐総数の変化を調べることにより容易にADM情報伝達系への作用を評価することができる。また、色素沈着との関連性が高い色素細胞におけるデンドライトの総数、デンドライトの分岐総数の変化は、ADM情報伝達系による寄与度が極めて大きいため、ADM情報伝達系の活性化を阻害することにより、高い色素沈着抑制作用を有する新たな美白剤を判別することができる。
【0026】
<ADM情報伝達系を活性化する成分のスクリーニング方法>
前述のように、本発明者はADM情報伝達系を活性化することによって、色素細胞(メラノサイト)のデンドライトの総数やデンドライトの分岐総数が増加することを見出している。一方、色素細胞には、ADM情報伝達系と同様に、結合受容体を介しc−AMP等の細胞内の二次情報伝達物質を経由して情報を伝達するG蛋白結合型の細胞情報伝達系が存在するが、本発明者によると、色素細胞におけるメラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH:α−Melanocute stimulating hormone)、エンドセリン(endotheline)等のG蛋白結合型受容体を介する情報伝達系を活性化しても、色素細胞(メラノサイト)のデンドライトの総数やデンドライトの分岐総数の増加は非常に小さいことを明らかとしている。従って、色素細胞(メラノサイト)のデンドライトの総数やデンドライトの分岐総数が増加する現象は、ADM情報伝達系が活性化したことによる影響が極めて強く、色素細胞(メラノサイト)のデンドライトの総数やデンドライトの分岐総数を増加させる成分について、ADM情報伝達系を活性化する作用があると推定することができることを見出したのである。
即ち、被験物質を色素細胞(メラノサイト)に添加することによって、デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数が増加した場合に、かかる被験物質にはADM情報伝達系を活性化する作用があると判別することができる。そして、かかる判別を行うスクリーニング方法も本発明の一態様である。
なお、ADM情報伝達系を活性化する作用のある成分とは、例えばADM産生量を増加させる成分、ADM結合受容体を介する情報伝達系を活性化させる成分(直接又は間接的なADM結合受容体活性化作用を有する成分)、ADM結合受容体蛋白発現量を増加させる成分、ADM情報伝達系を介するc−AMP等の二次的情報伝達物質を増加させる成分等が挙げられるが、結果的にADM情報伝達系の活性化に結びつくものであれば、本発明においてその原理は特に限定されないものとする。
【0027】
本発明のADM情報伝達系の活性化する成分のスクリーニング方法は、「被験物質を色素細胞(メラノサイト)に添加する」ことを特徴としているが、スクリーニングに使用する色素細胞(メラノサイト)は、単独培養であっても共培養であってもよく、例えばメラノサイトの単独培養系、メラノサイト及びケラチノサイトの共培養系が好適なものとして例示できる。また、細胞の培養条件としては、通常の色素細胞培養条件、例えば市販のメラニン細胞基礎培地(Medium254、倉敷紡績株式会社)等による培養のほか、ADM情報伝達系の活性化による色素細胞(メラノサイト)の特異的な形態変化の発生又は確認を妨げない培養条件であれば特段の限定なく適用することができる。
【0028】
本発明のADM情報伝達系の活性化する成分のスクリーニング方法は、「被験物質を色素細胞(メラノサイト)に添加する」ことを特徴としているが、被験物質の添加量は特に限定されず、その濃度として通常0.0001質量%以上、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上になるように添加するものであり、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下になるように添加するものである。
本発明のADM情報伝達系の活性化する成分のスクリーニング方法が対象とする被験物質は、純物質又は動植物由来の抽出物等の混合組成物等の何れであってもよい。動植物由来の抽出物は、動物又は植物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用いた抽出物、市販(丸善製薬株式会社等)されている抽出物等が挙げられる。
抽出操作は、植物部位の全草を用いるほか、植物体、地上部、根茎部、木幹部、葉部、茎部、花穂、花蕾等の部位を使用することできるが、予めこれらを粉砕或いは細切して抽出効率を向上させることが好ましい。抽出溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、1,3−ブタンジオール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等の極性溶媒から選択される1種乃至は2種以上が好適なものとして例示出来る。具体的な抽出方法としては、例えば、植物体等の抽出に用いる部位乃至はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1〜30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬し、室温まで冷却し後、所望により不溶物及び/又は溶媒除去し、カラムクロマトグラフィー等で分画精製する方法が挙げられる。
【0029】
本発明のスクリーニング方法は、「色素細胞(メラノサイト)のデンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数が増加した場合に、前記被験物質にはADM情報伝達系を活性化する作用があると判別する」ことを特徴としているが、正確にADM情報伝達系を活性化する作用を判別する観点から、デンドライトの総数及びデンドライトの分岐総数の両方が増加する場合に、被験物質にはADM情報伝達系を活性化する作用があると判別することが好ましい。また、デンドライトの総数又はデンドライトの分岐総数の具体的増加量は特に限定されないが、1細胞当たりのデンドライトの総数の平均増加量としては、通常0.3以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上であり、通常7以下である。1細胞当たりのデンドライトの分岐総数の平均増加量としては、通常0.5以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは1以上であり、通常10以下である。上記基準であると、より正確にADM情報伝達系の活性化を阻害する作用を判別することができる。
【0030】
前述のように、ADMは様々な細胞及び組織に存在することが確認されている。このため、本発明のADM情報伝達系を活性化する成分のスクリーニング方法により選択されたADM情報伝達系を活性化する成分は、ADM情報伝達系の不活性化により生じる様々な症状及び疾患の予防又は改善、診断等に用いることができる。本発明に係るADM情報伝達系を活性化する成分は、ADM情報伝達系の不活性化により生じる疾患、症状等の予防又
は改善、診断等であれば特段の限定なく適用することができるが、特に、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、高血圧等の血管系疾患、腫瘍、網膜症、関節炎、乾癬の治療薬、診断薬、色素沈着の予防又は改善用に用いることが好ましい。
【0031】
本発明のADM情報伝達系の活性化する成分のスクリーニング方法における手順(工程)の具体例を以下に挙げるが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
(1)スクリーニングに使用する細胞に被験物質を添加する。なお、コントロールとして被験物質を添加していない同種の細胞も用意する。(また、コントロールとして、スクリーニングに使用する細胞の初期のデンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数を測定しておいてもよい。)
(2)被験物質を添加した細胞及び被験物質を添加していない細胞の形態をそれぞれ顕微鏡等によって観察する(デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数を測定する)。
(3)被験物質を添加したことによって、デンドライトの総数及び/又はデンドライトの分岐総数が増加した場合に、前記被験物質にはADM情報伝達系を活性化する作用があると判別する。
【0032】
<組成物及び組成物の製造方法>
前述したように本発明のスクリーニング方法によって、ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分を正確かつ効率的に判別することができる。特にADM情報伝達系の活性化を阻害する成分は、色素沈着予防効果を発揮するため、優れた美白剤を判別するために活用することができる。本発明のスクリーニング方法によって判別されたADM情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分を含有する組成物(以下、「本発明の組成物」と略す場合がある。)、及び本発明のスクリーニング方法により判別されたADM情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分を組成物に配合する工程を含む組成物の製造方法(以下、「本発明の組成物の製造方法」と略す場合がある。)も、本発明の一態様である。以下、本発明の組成物及び本発明の組成物の製造方法について詳細に説明する。
【0033】
本発明の組成物及び本発明の組成物の製造方法は、前述した本発明のスクリーニング方法によって判別されたADM情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分を含有する(配合する)ものであれば、ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分の含有量(配合量)やその他の構成については特に限定されず、調製方法も特に限定されない。但し、組成物におけるADM情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分の含有量(配合量)は、通常0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量以上であり、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5量%である。ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分の含有量(配合量)が少なすぎると、目的とする効果が低下する傾向にあり、多すぎても効果が頭打ちになる傾向があり、この系の自由度を損なう場合がある。
また、組成物に含有させるADM情報伝達系の活性化を阻害する成分又はADM情報伝達系を活性化する成分の種類は、1種類に限定されず、2種類以上を含有させてもよい。
【0034】
本発明の組成物の製剤化にあたっては、通常の食品、医薬品、化粧料などの製剤化で使用される任意成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、経口投与組成物であれば、例えば、乳糖や白糖などの賦形剤、デンプン、セルロ−ス、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロ−スなどの結合剤、カルボキシメチルセルロ−スナトリウム、カルボキシメチルセルロ−スカルシウムなどの崩壊剤、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤、マルチト−ルやソルビト−ルなどの甘味剤、クエン酸などの酸味剤、リン酸塩などの緩衝剤、シェラックやツェインなどの皮膜形成剤、タルク、ロウ類などの滑沢剤、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲルなどの流動促進剤、生理食塩水、ブドウ糖水溶液などの希釈剤、矯味矯臭剤、着色剤、殺菌剤、防腐剤、香料など好適に例示出来る。経皮投与組成物であれば、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリ−ブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコ−ル、ステアリルアルコ−ル、オクチルドデカノ−ル等の高級アルコ−ル、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコ−ル、グリセリン、1,3−ブタンジオ−ル等の多価アルコ−ル類、
増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を含有することができる。製造は、常法に従い、これらの成分を処理することにより、困難なく、為しうる。
【0035】
本発明の組成物としては、医薬品、化粧品、食品、飲料などが好適に例示でき、日常的に摂取できることから、食品、化粧品等に適応することが好ましい。その投与経路も、経口投与、経皮投与の何れもが可能であるが、皮膚における色素沈着予防又は改善作用を発揮するためには、皮膚への貯留性、標的部位への到達効率等を考慮し、経皮投与を採用することが好ましい。
【0036】
前述のように本発明のスクリーニング方法によって判別されたADM情報伝達系の活性化を阻害する成分は、美白剤として活用することができ、ADM情報伝達系を活性化する成分は、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、高血圧等の血管系疾患、腫瘍、網膜症、関節炎、乾癬の治療薬、診断薬、色素沈着の予防又は改善剤として活用することができる。即ち、本発明の組成物もこれらの用途のとして好適に利用することができる。
【0037】
また、後述する実施例に記載されているシソ科ハナハッカ属マジョラムより得られる植物抽出物は、丸善製薬株式会社より購入した植物抽出物を使用した。シソ科ハナハッカ属マジョラムは、地中海、エジプト、北アフリカを原産地とする多年草であり、料理等に使用されている。また、前記の精油や植物抽出物には、消火促進作用、抗菌作用、抗炎症作用等の作用が存することが知られている。
【0038】
以下に、本発明に付いて、実施例を挙げて更に詳しく説明を加えるが、本発明がかかる実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0039】
<試験例3:ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分のスクリーニング方法>
以下に記載の手順に従い、ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分のスクリーニングを実施した。
12穴プレートに正常ヒトメラノサイト(NHEM)(倉敷紡績株式会社)1.0×10(cellss/well)の密度で播種し、播種24時間後、合成ADM(ペプチド研究所4278−s)1μMとなるよう添加、同時に被験物質(植物抽出液)を培地中に1質量%となるように添加した。添加12時間後の細胞の形態を光学顕微鏡で観察し、ランダムに撮影部位を設定、10枚の写真を撮影し画像に取り込んだ。そして10枚の画像中の<1>細胞全体が写っている細胞、<2>鮮明に形態が観察されている細胞をすべて選択し、デンドライトの総数及びデンドライトの分岐総数を計測、細胞数あたりの値に換算した。評価のため、ADM無添加群を準備し、ADM添加による増加量」と、ADMと被験物質添加時の増加量の値を算出し、被験物質による抑制率を算出した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果より、シソ科ハナハッカ属マジョラムより得られる植物抽出物は、ADM添加による各本数に対しデンドライトの総数では32.4%、デンドライトの分岐総数では40.4%の増加を抑制する効果があることが判明した。
【0042】
<製造例1:ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分を含有する組成物>
以下の手順に従い、本発明のスクリーニング方法により選択されたADM情報伝達系の活性化を阻害する成分を含有する組成物(皮膚外用剤)を作製した。即ち、表2の処方成分(A)に記載の各成分を合わせ、室温下に溶解した。一方、処方成分(B)に記載された各成分を室温下に溶解し、これを(A)に記載された処方の混合物に加え可溶化し、ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分を含有する組成物(皮膚外用剤1)を得た。
【0043】
【表2】
【0044】
<製造例2:ADM情報伝達系の活性化を阻害する成分を含有する組成物>
以下の手順に従い、本発明のスクリーニング方法により選択されたADM情報伝達系の活性化を阻害する成分を含有する組成物(食品)を作製した。即ち、表3に記載の処方成分を10質量部の水と共に転動相造粒(不二パウダニル株式会社製「ニューマルメライザー」)し、打錠して錠剤状の健康食品を得た。尚、表中の数値の単位は質量部を表す。
【0045】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、食品、医薬品、化粧品(但し、医薬部外品を含む)等に応用することができる。
図1
図2
図3