特許第5953136号(P5953136)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5953136ガスタービン動翼およびガスタービン、ガスタービン動翼の調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953136
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ガスタービン動翼およびガスタービン、ガスタービン動翼の調整方法
(51)【国際特許分類】
   F01D 5/18 20060101AFI20160707BHJP
   F02C 7/18 20060101ALI20160707BHJP
   F01D 25/12 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   F01D5/18
   F02C7/18 A
   F01D25/12 E
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-135300(P2012-135300)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-1633(P2014-1633A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田川 久人
(72)【発明者】
【氏名】八木 学
(72)【発明者】
【氏名】堀内 康広
(72)【発明者】
【氏名】森崎 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 眞一
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/017015(WO,A1)
【文献】 米国特許第4312624(US,A)
【文献】 特開2001−271603(JP,A)
【文献】 特開平6−185301(JP,A)
【文献】 特開平9−41903(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/131385(WO,A1)
【文献】 特開平8−260901(JP,A)
【文献】 特開2007−146842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/18
F01D 25/12
F02C 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸面状の背側翼壁と、凹面状の腹側翼壁と、前記背側翼壁と前記腹側翼壁とを接続する前縁及び後縁とを有し、内部に冷却流路を備えたガスタービン動翼であって、
前記前縁側に、前記冷却流路として、互いに独立した前縁腹側流路と前縁背側流路とを備え、
前記腹側翼壁または前記前縁の少なくとも一方に開口する腹側フィルム冷却孔と、前記背側翼壁に開口する背側フィルム冷却孔とを有し、
前記腹側フィルム冷却孔には前記前縁腹側流路から冷却媒体が供給され、前記背側フィルム冷却孔には前記前縁背側流路から冷却媒体が供給されるよう構成され、
前記前縁腹側流路及び前記前縁背側流路に、独立して冷却媒体が供給されるよう構成され
前記前縁腹側流路は、他の冷却流路とは独立してガスタービン動翼の下部方向へ延びる流路であって、動翼下部に冷却媒体を取り入れるための取り入れ口を有し、
前記前縁背側流路は、翼後縁側に設けられた他の冷却流路と連結されて蛇行流路を構成し、動翼下部に冷却媒体を取り入れるための別の取り入れ口を有し、
前記前縁腹側流路の取り入れ口と前記前縁背側流路の別の取り入れ口とが、それぞれ独立して設けられていることを特徴とするガスタービン動翼。
【請求項2】
請求項1に記載のガスタービン動翼において、
前記前縁腹側流路に冷却媒体を取り入れるための取り入れ口、または、前記前縁背側流路に冷却媒体を取り入れるための別の取り入れ口の、少なくとも一方に、冷却媒体の供給圧力を調整するオリフィスを有することを特徴とするガスタービン動翼。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガスタービン動翼を有することを特徴とするガスタービン。
【請求項4】
請求項1に記載のガスタービン動翼の調整方法であって
前記前縁腹側流路または前記前縁背側流路への冷却媒体の供給部にオリフィスを設け、前記オリフィスの開口面積を調整することにより、前縁腹側流路と前縁背側流路への冷却空気の供給圧力を調整することを特徴とするガスタービン動翼の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン動翼に係り、特に高温の燃焼ガスに晒されるガスタービン動翼の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
航空用や産業用のガスタービンシステムでは、圧縮機で圧縮した高圧空気を燃焼器で燃料と混合して燃焼することにより高温高圧の燃焼ガスを生成し、これを作動媒体としてタービンを駆動して熱エネルギーを運動エネルギーに変換する。したがって、タービン翼は表面を高温の作動媒体に晒される。また、近年、ガスタービンの熱効率向上のため燃焼温度が上昇しており、翼の温度環境が厳しくなっている。そのため、強制的に冷却を行い、翼材料の高温腐食や構造強度の低下を抑制する必要がある。
【0003】
ガスタービン翼の冷却技術としては、翼の内部に冷却流路を設けて冷却空気を強制対流させる内部冷却の方法と、翼表面に細孔を開けて冷却空気を翼内部から噴出させ、翼表面を冷却空気で覆うことにより燃焼ガスからの入熱を抑制するフィルム冷却の方法がある。
【0004】
フィルム冷却は、内部冷却と比較して翼表面温度を下げることができ、熱応力低減に有効であるが、冷却空気量が増加する。ガスタービンの冷却空気は、タービンで駆動する圧縮機で圧縮した空気を一部抽気して使用しているので、冷却空気量が増加すると燃焼器で使用できる空気量が減少する。また、冷却空気は燃焼ガス中に放出するため、燃焼ガス温度が低下する。そして、これらの事象はガスタービンの熱効率の低下をもたらす。そのため、燃焼温度上昇による熱効率向上を損なわない程度に、フィルム冷却で使用する冷却空気量の増加を抑える必要がある。
【0005】
一般に、フィルム冷却孔から翼内部への燃焼ガスの逆流を防止するため、冷却空気圧力は燃焼ガス圧力より高く設定されている。一方、タービン翼の表面に作用する燃焼ガス圧力は、凸面状の背側壁面と凹面状の腹側壁面とで異なる。そのため、燃焼ガス圧力が高い前縁あるいは腹側壁面に開口するフィルム冷却孔での逆流を防止するための冷却空気圧力は、背側壁面に開口するフィルム冷却孔では過大となるため、過剰な冷却空気が流れることになる。
【0006】
このような問題に対応するための構造として、特許文献1には、動翼におけるフィルム冷却空気流量の調節構造の一例が示されている。動翼の前縁部分にスパン方向に伸びた冷却流路があり、複数列のフィルム冷却孔がある。前縁冷却流路の後方には、同様にスパン方向に伸びた冷却流路が背側と腹側にあり、背側の冷却流路にはフィルム冷却孔がある。前縁と背側の冷却流路を仕切っている隔離壁には複数のインピンジメント冷却孔が設けられており、前縁の冷却流路からインピンジメント冷却孔を通して冷却空気が流れ、背側の冷却流路の空気圧力をインピンジメント冷却孔での圧力損失により調整する構造となっている。同様の圧力調整構造は、前縁の冷却流路とその後方にある腹側の冷却流路との隔壁にも設けられており、前縁のインピンジメント冷却とそれによる前縁冷却流路内の冷却空気の圧力調整ができるようになっている。
【0007】
また、特許文献2には、静翼におけるフィルム冷却空気量の調節構造の一例が示されている。静翼内部の冷却空洞にはインサートが挿入されており、インサートにはインピンジメント冷却孔が設けてある。冷却空気はインサート内部に供給され、インピンジメント冷却孔から冷却空気が吹き出して翼内面を冷却した後、翼壁のフィルム冷却孔から翼外表面へ流出する。インサートは隔壁で背側と腹側に分割されており、背側空間へは圧力調整板を通して圧力を下げた冷却空気を供給することによって、翼背側の内壁へのインピンジメント冷却空気量を低減し、冷却空気量の適正化を図っている。翼内壁をインピンジメント冷却した空気はインサートと翼壁の間の空間からフィルム冷却孔を通って翼外部へ吹き出すが、インサートの前縁側と後縁側は鍔部で翼内壁と繋がっているため、背側と腹側の空間で冷却空気の漏洩がない。このような構造にすることで、背側と腹側へ吹き出すフィルム冷却空気量についても調整できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4436500号公報
【特許文献2】WO2010/131385
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の技術は、前縁側冷却流路の背側後方にある冷却流路に設けてあるフィルム冷却孔への冷却空気の供給圧力を低減するには有効であるが、前縁側冷却流路に設けられた背側のフィルム冷却孔への供給圧力を調整することができない。また、前縁とその後方の背側の冷却流路間の隔壁に設ける連通孔は精密鋳造で製作するため、製作精度によるフィルム冷却空気量のばらつきを、翼製作後に補正することもできない。
【0010】
特許文献2に記載の技術は、静翼の場合、背側と腹側のフィルム冷却空気の供給圧力を独立に調整する方法として有効であるが、内部にインサートを挿入して翼材に固定する必要がある。動翼の場合、高速で回転しているため翼内部にインサートを固定することは難しい。また、フィルム冷却空気とインピンジメント冷却空気の流量をどちらも最適となるように調整する必要があり、フィルム冷却孔設計の自由度が制限されてしまう。
【0011】
本発明の目的は、ガスタービン動翼の前縁部分の背側と腹側におけるフィルム冷却空気流量を好適化し、少ない冷却空気流量で冷却性能を向上できるガスタービン動翼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のガスタービン動翼は、凸面状の背側翼壁と、凹面状の腹側翼壁と、前記背側翼壁と前記腹側翼壁とを接続する前縁及び後縁とを有し、内部に冷却流路を備えたガスタービン動翼であって、前記前縁側に、前記冷却流路として、互いに独立した腹側流路と背側流路とを備え、前記腹側翼壁または前記前縁の少なくとも一方の翼表面に開口する腹側フィルム冷却孔と、前記背側翼壁の翼表面に開口する背側フィルム冷却孔とを有し、前記腹側フィルム冷却孔には前記腹側流路から冷却媒体が供給され、前記背側フィルム冷却孔には前記背側流路から冷却媒体が供給されるよう構成され、前記腹側流路及び前記背側流路に、独立して冷却媒体が供給され、前記前縁腹側流路は、他の冷却流路とは独立してガスタービン動翼の下部方向へ延びる流路であって、動翼下部に冷却媒体を取り入れるための取り入れ口を有し、
前記前縁背側流路は、翼後縁側に設けられた他の冷却流路と連結されて蛇行流路を構成し、動翼下部に冷却媒体を取り入れるための別の取り入れ口を有し、
前記前縁腹側流路の取り入れ口と前記前縁背側流路の別の取り入れ口とが、それぞれ独立して設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガスタービン動翼の前縁部分の背側と腹側におけるフィルム冷却空気流量を好適化し、少ない冷却空気流量で冷却性能を向上できるガスタービン動翼を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態の動翼冷却構造を示す。
図2図1に示した冷却構造のB−B断面を示す。
図3図1に示した冷却構造のC−C断面を示す。
図4】翼周りの燃焼ガスの圧力分布を示す。
図5】従来の動翼冷却構造を示す。
図6図5に示した冷却構造のE−E断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図5に示すように、タービン動翼は、凸面状の背側壁面54と凹面状の腹側壁面53が翼の前縁51と後縁52で接続された構造をしている。そして、タービン動翼のフィルム冷却には、特に熱負荷が高い翼前縁付近に複数列のフィルム冷却孔(たとえば、1a、1b、1c)を配列した冷却構造が採用されている。
【0016】
そして、燃焼ガス30の流れ方によって、背側壁面54では燃焼ガス圧力が低く、腹側壁面53では燃焼ガス圧力が高くなっている。したがって、翼内部冷却流路の冷却空気圧力と翼周囲を流れる燃焼ガス圧力の差圧は、背側壁面54で大きく、腹側壁面53で小さくなっている。
【0017】
また、動翼周りを流れる燃焼ガス30の圧力は、図4に示すように翼前縁51で最も高く、後縁52に向かって低下するが、翼の背側壁面54では前縁付近で急激に低下するのに対して、腹側壁面53の前縁近傍ではあまり低下しない。前縁近傍のフィルム冷却孔は、最前縁側にある内部冷却流路から冷却空気を供給するため、フィルム冷却空気の流量を左右する冷却空気圧力と翼周りの燃焼ガス圧力との差圧は、燃焼ガス圧力が最も高い前縁51で小さく、背側壁面54において大きくなっている。
【0018】
一方、フィルム冷却孔から翼内部への燃焼ガス30の逆流を防止するため、冷却空気の供給圧力は前縁の燃焼ガス圧力より高くする必要がある。しかし、凸面状の翼背側壁面54では凹面状の腹側壁面53に比べてフィルム冷却空気が翼面から剥れにくく、腹側壁面53より少ない冷却空気流量でフィルム冷却性能は最大となる。
【0019】
前縁51の燃焼ガス圧力に対して冷却空気の供給圧力を決定した場合、背側壁面54のフィルム冷却孔からは必要以上に冷却空気が流れることになる。また冷却空気量が増加すると、燃焼器で使用できる空気量の減少と、燃焼ガス中に冷却空気が混入することによる駆動ガスの温度低下をもたらし、ガスタービンの熱効率が低下してしまう。
【0020】
これに対し、以下に示す本発明の実施例に係るガスタービン動翼では、翼背側のフィルム冷却孔から吹き出す冷却空気として、内面に伝熱促進リブのある蛇行流路を通って圧力が低下した冷却空気を使用することで、圧力損失を有効に活用して翼を冷却した後の冷却空気を背側のフィルム冷却に使用することができる。また冷却空気の供給圧力は、動翼下部にある冷却空気の取り入れ口に設置されたオリフィスで微調整することができ、背側のフィルム冷却孔からの吹き出し空気量を最適な流量に調整して冷却空気量を低減し、ガスタービンの熱効率向上と、フィルム冷却性能向上を図ることができる。
【0021】
さらに、翼腹側のフィルム冷却孔から吹き出す冷却空気は、動翼下部にある冷却空気取り入れ口から直接供給されるので、フィルム冷却孔からの燃焼ガスの逆流を防止できる十分な圧力で冷却空気を供給することができる。また動翼下部にある冷却空気の取り入れ口に設置されたオリフィスで、背側のフィルム冷却とは独立して冷却空気の供給圧力を制御することができ、フィルム冷却孔からの吹き出し空気量を最適な流量に調整して、翼腹側の冷却性能を向上することができる。
【0022】
〔実施例〕
本発明を適用したガスタービン動翼の冷却構造を図1図3に示す。図1図2および図3のA−A断面に沿った翼の断面図であり、図2図1の動翼50のB−B断面図、図3図1の動翼50のC−C断面図である。
【0023】
図1に示したように、動翼50内部の前縁51側には、互いに独立した前縁腹側流路41と前縁背側流路42が設けられている。そして、その後方には後縁52の方向に5つの冷却流路43〜47があり、最後縁側は多数のピンフィン4が設けられた冷却流路48がある。
【0024】
また、フィルム冷却空気を吹き出すフィルム冷却孔として、腹側壁面53に開口する腹側フィルム冷却孔1a、前縁に開口する前縁フィルム冷却孔1b、背側壁面54に開口する背側フィルム冷却孔1cを有する。腹側フィルム冷却孔1aと前縁フィルム冷却孔1bは前縁腹側流路41に接続され、背側フィルム冷却孔1cは前縁背側流路42に接続されている。
【0025】
前縁背側流路42は、後縁側に設けられた冷却流路43、44と連結されて、翼中央部分から前縁51に向かって蛇行しながら延びる蛇行流路を構成する。また、冷却流路45、46、47は後縁52に向かって連結された蛇行流路となっている。
【0026】
図2は前縁腹側流路41を通る動翼50のB−B断面図である。前縁腹側流路41は、動翼下部にある冷却空気の取り入れ口15aから翼先端へ延びており、蛇行流路となっていないため、流路全体の圧力損失が小さい。したがって、燃焼ガス圧力が高い前縁51でも前縁フィルム冷却孔1bから燃焼ガス30が逆流しない程度の圧力で冷却空気を供給することができる。腹側フィルム冷却孔1aの位置での燃焼ガス圧力は前縁51と大きく違わないため、腹側フィルム冷却孔1aから吹き出す冷却空気量が過大となることはない。
【0027】
前縁腹側流路41の後方にある蛇行流路には、冷却空気取り入れ口15bから供給した冷却空気が前縁51に向かって流れ、冷却流路43の翼付根部で前縁背側流路42に繋がっている。一方、翼後方の蛇行流路には冷却空気取り入れ口15cから供給した冷却空気が後縁52に向かって流れ、多数のピンフィン4が設けられた冷却流路48から後縁吹き出し空気12となって吹き出す。
【0028】
冷却空気の取り入れ口15a、15b、15cは、冷却空気の供給圧力を調整するためのオリフィスとなっており、冷却空気の流量試験を行ってオリフィスの開口面積を調整すれば、各冷却流路に必要な流量の冷却空気を流すことができる。
【0029】
図3は前縁背側流路42を通る動翼50のC−C断面図である。前縁側の蛇行流路を流れた後の冷却空気は、前縁背側流路42に設けられている背側のフィルム冷却孔1cから吹き出して翼背側を外部から冷却する。
【0030】
ここで、図5図6に示した従来の冷却構造では、前縁流路40に腹側フィルム冷却孔1a、前縁フィルム冷却孔1b、背側フィルム冷却孔1cが設けてあるため、それぞれのフィルム冷却孔への冷却空気供給圧力は同じになる。翼背側を流れる燃焼ガス30の圧力は腹側に比べて低いため、背側フィルム冷却孔1cの吹き出し空気量が過大となってしまう。フィルム冷却孔からの燃焼ガス30の逆流を防止するため、冷却空気の供給圧力は前縁フィルム冷却孔1bに対して必要な供給圧力とせざるを得ず、背側フィルム冷却孔1cからの冷却空気吹き出し量を調整することが困難である。
【0031】
また、特許文献1の冷却構造では、前縁流路にある背側フィルム冷却孔からの吹き出し空気量を独立に調整することができないだけでなく、前縁冷却流路にあるフィルム冷却孔と背側冷却流路にあるフィルム冷却孔から吹き出す冷却空気の流量バランスを両流路間の隔壁にある貫通孔で調整しているため、精密鋳造の製作精度によるフィルム冷却空気量のばらつきを修正することが困難である。
【0032】
本発明の冷却構造では、前縁腹側流路41と前縁背側流路42を互いに独立した流路として構成し、各流路に独立して冷却空気を供給するよう構成されている。そのため、各流路に供給する冷却空気の圧力を個別に調整することができ、前縁腹側流路41から冷却空気が供給される腹側フィルム冷却孔1a及び前縁フィルム冷却孔1bの冷却空気圧力と、前縁背側流路42から冷却空気が供給される背側フィルム冷却孔1cの冷却空気圧力を好適な条件に設定して、ガスタービン動翼の前縁部分の背側と腹側におけるフィルム冷却空気流量を好適化することができる。
【0033】
また、前縁背側流路42を冷却流路43、44と連結して蛇行流路とすることで、前縁背側流路42に供給される冷却空気を、冷却流路43、44を流れて翼を対流冷却に利用している。そのため、背側フィルム冷却孔1cへの供給圧力の調整を対流冷却に必要な圧力損失として有効に活用して、冷却性能を向上することができる。
【0034】
さらに、冷却空気取り入れ口15bのオリフィス開口面積を調整することにより、前縁腹側流路41とは独立に前縁背側流路42の冷却空気の供給圧力を調整できるため、背側フィルム冷却孔1cへの冷却空気圧力を前縁フィルム冷却孔1bからの燃焼ガス30の逆流防止のために必要な圧力まで高くする必要がない。したがって、翼背側において高いフィルム冷却性能が得られるようにフィルム冷却孔からの吹き出し空気量を調整することができ、また冷却空気量を低減することもできる。
【0035】
また本発明の冷却構造は、精密鋳造により翼本体構造の一部として製作できるため、特許文献2の冷却構造のように内部にインサートなどの部品を追設する必要が無く、高速回転体である動翼に適用することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施例のガスタービン動翼によれば、フィルム冷却孔からの燃焼ガスの逆流を防止した上で、ガスタービン動翼の前縁部分の背側と腹側におけるフィルム冷却空気流量を好適化し、少ない冷却空気流量で冷却性能を向上できる。また、本実施例のガスタービン動翼をガスタービンに適用することで、翼背側のフィルム冷却空気量の低減によりガスタービンの熱効率を向上させ、かつフィルム冷却性能の向上により健全性および信頼性を確保することができる。
【符号の説明】
【0037】
1a 腹側フィルム冷却孔
1b 前縁フィルム冷却孔
1c 背側フィルム冷却孔
3 伝熱促進リブ
4 ピンフィン
10 フィルム冷却空気
12 後縁吹き出し空気
15 冷却空気取り入れ口(オリフィス)
30 燃焼ガス
40 前縁流路
41 前縁腹側流路
42 前縁背側流路
43、44、45、46、47、48 冷却流路
50 動翼
51 前縁
52 後縁
53 腹側壁面
54 背側壁面
55 隔壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6