(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワイヤ電極と該ワイヤ電極に対向する平板形状の工作物との間に極間電圧を印加して発生する放電エネルギーで前記工作物を放電加工して平板形状の加工部材を作製すると共に前記加工部材の加工軌跡に前記加工部材を前記工作物に溶着した溶着部で前記加工部材を前記工作物に保持させる加工情報を取り込んだコントローラによって駆動制御されるワイヤ放電加工機のための加工用プログラム編集方法において,
前記加工部材についての前記加工情報の少なくとも加工形状,前記工作物の板厚,放電加工される前記加工部材の個数及び前記工作物の比重,並びに前記加工部材の前記工作物への溶着箇所についての初期条件を前記コントローラに取り込み,
前記工作物への前記加工部材の溶着加工を除く前記工作物を放電加工して平板形状の加工部材を作製する加工用プログラムを解析することによって,前記工作物を荒加工する前記加工部材の加工周長及び前記加工部材の形状の上面面積を演算し,前記加工部材の前記加工周長,前記上面面積,前記板厚及び前記工作物の比重から前記加工部材の質量を演算し,前記加工部材の前記質量と前記加工部材の前記工作物への保持可能な前記溶着部の所定の溶着長さとの関係について前記コントローラのメモリーに保存された測定値のマップから,前記加工部材の前記質量に対応する前記加工部材の前記工作物への保持可能な前記溶着部の所定の溶着長さを演算することを特徴とするワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法。
前記加工部材の前記工作物への前記溶着部は,少なくとも前記加工部材の加工最終箇所に溶着箇所が決定されていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法。
前記溶着部の溶着箇所及び前記溶着長さの情報に応答して,前記ワイヤ放電加工機によって前記工作物を前記ワイヤ電極で放電加工する際に,前記加工部材の前記所定の箇所で前記ワイヤ電極と前記工作物との間に印加する電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに変更して前記ワイヤ電極の一部を溶融させて前記加工部材を前記工作物に予め決められた所定の溶着長さの前記溶着部で溶着させて前記加工部材を前記工作物に保持させる前記コントローラへの制御指令を組み込むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項にワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法。
前記ワイヤ電極による前記工作物の放電加工時には,前記工作物と前記ワイヤ電極との極間に加工液を予め決められた所定の噴流圧で噴流し,前記ワイヤ電極の前記工作物から放電加工された前記加工部材の前記加工軌跡に沿って前記ワイヤ電極を戻す時には,前記加工液の前記噴流圧を低下させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法。
前記工作物に対する前記荒加工の終了時点で,前記工作物に対する前記加工部材の傾きを前記ワイヤ電極の前記加工部材との接触感知で確認し,溶着によって保持されているか否かを検出する確認工程が前記加工用プログラムに組み込まれていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法。
前記加工部材の前記工作物への前記溶着部を,前記工作物の板厚方向の上部,中間部及び/又は下部に溶着形成させる加工部材溶着部位情報が前記加工用プログラムに組み込まれていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法。
請求項1〜8のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法を実施するため,ワイヤ放電加工機用の加工用プログラムをワイヤ放電加工機のコントローラに読み込む加工用プログラム読み込み手段と,前記加工用プログラムを表示する表示手段と,加工用プログラム編集後の溶着工程を組み込んだ加工用プログラムを表示させる表示手段と,前記溶着工程を組み込んだ前記加工用プログラムを出力する出力手段とを備えていることを特徴とするワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集システム。
【背景技術】
【0002】
通常,ワイヤ放電加工機は,金型部材のくり抜き加工に利用されることが多く,ワイヤ放電加工機で工作物を放電加工する際に,放電加工では,荒加工,中仕上げ加工,仕上げ加工,最終仕上げ加工等の加工工程を経て,工作物のワイヤ放電加工を完了するが,荒加工工程に相当するファスト加工の終了直前の段階では,加工部材と工作物との間には加工部材を脱落させないため,放電加工を行わず未加工部分を残している。しかしながら,工作物の未加工部分を残した場合に,後で加工に習熟した作業員が手動で,加工部材を工作物から切り落としたり,加工部材の回収装置を必要とし,ワイヤ放電加工機の稼働率を低下させるという問題があった。
【0003】
従来,ワイヤ放電加工機を駆動して工作物をワイヤ放電加工する場合に,工作物の形状の加工定義を自動で行うことができ,作業者の手間を省略し,加工定義時間と実加工時間を短縮化しようとするワイヤ放電加工用NCデータ作成方法が知られている。該ワイヤ放電加工用NCデータ作成方法は,ワイヤ放電加工用の加工形状を設計し,前記設計された加工形状を基に,形状毎に加工工程を設定し,前記加工形状を抽出するときに,形状の大きさに応じて拡大加工か,又は切落加工かを判別し,前記判別された加工が拡大加工の場合には加工形状の長手方向にアプローチの設定を行い,また,前記判別された加工が切落加工の場合には加工形状の切り落し時に自動スクラップ処理位置を設定するものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,ワイヤ放電加工用NCデータ作成システムとして,一定水準の加工を保証しつつ,作業者の目的に沿ったNCデータを作成するものが知られている。該ワイヤ放電加工用NCデータ作成システムは,CAMシステム上に構築され,加工形状とこの加工形状のワイヤ放電加工に必要な基本動作項目の組み合わせを設定した加工パターンとが対応付けられたNCデータを,加工パターン別NCデータ出力手段から出力し,この出力されたNCデータについて,NCデータ編集選択肢提供手段により,加工パターン毎のNCデータ編集方法の選択肢を提供し,これを作業者が選択することにより,選択されて加工パターン毎のNCデータ編集方法を用いて,NCデータ編集手段により,加工パターン毎のNCデータを編集し,編集されたNCデータを出力するようにしたものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,ワイヤ放電加工方法として,加工残り距離等の残過去プログラムを含まない加工プログラムによりワイヤ放電加工を実行する際に加工プログラムに基づいて加工残り距離を決定してワイヤ放電加工を実行するものが知られている。該ワイヤ放電加工方法は,工作物を切抜き加工する際に,加工プログラムで特定される切抜き加工の形状に基づいて加工残り距離を決定しているので,加工プログラムの作成を簡略化且つ迅速化できると共に,加工形状に適合した加工残り距離とすることにより中子に落下を確実に防止することができるものである(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,ワイヤカット放電加工方法として,被加工物の抜け落ち側を付着物で保持するものが知られている。該ワイヤカット放電加工方法は,加工時に放電によって形成された加工溝の一部又は全部を埋めることができる程度に付着物の堆積量を増加させ,加工溝の片側にある被加工物の抜け落ち側を残りの被加工物に加工中保持するものである(例えば,特許文献4参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,上記ワイヤ放電加工用NCデータ作成方法では,
図10に示すように,切落加工と拡大加工のアプローチを示している。アプローチ要素は,加工効率を考えて,切残加工を行なう場合は,そのアプローチ距離を少なくするために,形状の短手方向即ちイニシャルホールからアプローチ要素までの距離の短い方向に付け,一方,拡大加工の場合は,小さな形状ではアプローチ加工で予め加工してしまうことで歪を取るという精度上の観点から,形状の長手方向即ちイニシャルホールからアプローチ要素までの距離の長い方向に付けるものである。従って,上記のワイヤ放電加工用NCデータ作成方法は,工作物を放電加工して得られた加工部材を,工作物に加工軌跡の所定の場所で溶着して保持させるという加工用プログラムを備えた技術的思想を有していないものである。
【0009】
ところで,本出願人は,定性的に長間隙の放電現象が絶縁体(気体)中に金属電極を配置した絶縁破壊を生じさせると,コロナ放電に始まり,火花放電,次いでアーク放電の現象を通って絶縁破壊が終了することに着目し,これらの現象の「電圧−電流の特性」を適正に制御して,火花放電で放電加工を行ってワイヤ電極と工作物との間でアーク放電を引き起こしてアーク溶接(プラズマ溶接)を行って,工作物から放電加工で分離する加工部材を工作物に所定の箇所で溶着させ,加工部材を工作物に一時的に保持させるという発明を開発し,先に特許出願した。即ち,本出願人は,ワイヤ電極を用いて工作物から切り抜き物の加工部材を放電加工し,ワイヤ放電加工時に工作物に加工部材を一時的に溶着させて保持するという技術的思想を開発し,先に特願2011−16692号及びその国内優先権出願として特願2011−212221号として特許出願した。
【0010】
従来,加工部材と工作物との間には加工部材を脱落させないため,放電加工を行わず未加工部分を残すというワイヤ放電加工方法では,工作物の切り残し部分を有人作業で再度放電加工して加工部材を工作物から分離させなければならず,加工効率が極めて低いものであり,また,加工溝に付着物を堆積させるというワイヤカット放電加工方法は,積極的に被加工物を加工物の溶着させるものではなく,信頼性や安定性に問題があったものである。しかしながら,本出願人に係る上記の工作物切り残し加工方法での加工部材溶着方法では,加工部材の形状の一部の領域で工作物と加工部材とを溶着サイクルで溶着させて,機上にて加工部材を工作物から単なる外力の衝撃を用いて,再度の放電加工に比較して非常に短時間で分離させることができ,取付け取外しの工程も必要でないことから,加工工程を大幅に改善できると共に,加工部材の工作物への一時的な保持に信頼性,安定性に富んだものであった。ところが,上記のワイヤ放電加工方法におけるワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法では,工作物に加工部材を溶着させるため,加工部材の形状や重さに適した溶着長さや溶着箇所についてのNC加工データが組み込まれておらず,自動的に溶着サイクルを行うというものに対応できていないため,作業者が経験から手動で指示しているのが現状であった。
【0011】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,工作物から放電加工されて分離される中子等の加工部材が工作物に溶着できることを考慮して,コントローラ即ちコンピュータもしくはNC装置(以下,NC装置という)に取り込んだNC加工データ,加工条件,工作物の材質等を解析して,加工部材の質量を演算し,該質量に対応して加工部材を工作物に一時的に保持させるのに,適正な溶着部の所定の溶着長さ,加工形状における溶着箇所,及び溶着部の個数をNC装置で自動計算し,溶着部を形成するか否かのON・OFF指令を加工用プログラムに自動的に挿入すると共に,NC装置の画面上での確認ができるように構成し,工作物の加工軌跡に沿って予め決められた所定の領域で所定の溶着長さにわたって加工部材を工作物に溶着させて溶着部を形成させ,該溶着部で加工部材を工作物に一時的に保持させることを特徴とするワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法及び加工用プログラム編集システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は,ワイヤ電極と該ワイヤ電極に対向する平板形状の工作物との間に極間電圧を印加して発生する放電エネルギーで前記工作物を放電加工して平板形状の加工部材を作製すると共に前記加工部材の加工軌跡に前記加工部材を前記工作物に溶着した溶着部で前記加工部材を前記工作物に保持させる加工情報を取り込んだコントローラによって駆動制御されるワイヤ放電加工機のための加工用プログラム編集方法において,
前記加工部材についての前記加工情報の少なくとも加工形状,前記工作物の板厚,放電加工される前記加工部材の個数及び前記工作物の比重,並びに前記加工部材の前記工作物への溶着箇所についての初期条件を前記コントローラに取り込み,
前記工作物への前記加工部材の溶着加工を除く前記
工作物を放電加工して平板形状の加工部材を作製する加工用プログラムを解析することによって,前記工作物を荒加工する前記加工部材の加工周長及び前記加工部材の形状の上面面積を演算し,前記加工部材の前記加工周長,前記上面面積,前記板厚及び前記工作物の比重から前記加工部材の質量を演算し,前記加工部材の前記質量と前記加工部材の前記工作物への保持可能な前記溶着部の所定の溶着長さとの関係について前記コントローラのメモリーに保存された測定値のマップから,前記加工部材の前記質量に対応する前記加工部材の前記工作物への保持可能な前記溶着部の所定の溶着長さを演算することを特徴とするワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法に関する。
【0013】
また,このワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法において,前記加工部材の前記工作物への前記溶着部は,少なくとも前記加工部材の加工最終箇所に溶着箇所が決定されているものである。また,このワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法は,前記初期条件で入力された溶着箇所
の個数と前記溶着箇所1箇所の最短長さと,前記加工部材の演算された前記加工周長から,均等割りした前記溶着箇所を決定するものである。
【0014】
また,このワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法は,前記溶着部の溶着箇所及び前記溶着長さの情報に応答して,前記ワイヤ放電加工機によって前記工作物を前記ワイヤ電極で放電加工する際に,前記加工部材の前記所定の箇所で前記ワイヤ電極と前記工作物との間に印加する電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに変更して前記ワイヤ電極の一部を溶融させて前記加工部材を前記工作物に予め決められた所定の溶着長さの前記溶着部で溶着させて前記加工部材を前記工作物に保持させる前記NC装置への制御指令を組み込むものである。
【0015】
また,このワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法は,前記ワイヤ電極による前記工作物の放電加工時には,前記工作物と前記ワイヤ電極との極間に加工液を予め決められた所定の噴流圧で噴流し,前記ワイヤ電極の前記工作物から放電加工された前記加工部材の前記加工軌跡に沿って前記ワイヤ電極を戻す時には,前記加工液の前記噴流圧を低下させるものである。
【0016】
また,このワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法は,前記加工部材の前記工作物への前記溶着
サイクルの終了後に,前記加工部材を前記工作物に前記溶着部で溶着されているか否かを検出する確認工程が前記加工用プログラムに組み込むことが可能なものである。更に,前記工作物に対する前記荒加工の終了時点で,前記工作物に対する前記加工部材の傾きを前記ワイヤ電極の前記加工部材との接触感知で確認し,溶着によって保持されているか否かを検出する確認工程を前記加工用プログラムに組み込むことが可能なものである。また,前記加工部材の前記工作物への前記溶着部を,前記加工部材の板厚方向の上部,中間部及び/又は下部に溶着形成させる加工部材溶着部位情報を前記加工用プログラムに組み込むことが可能なものである。
【0017】
また,この発明は,前記ワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法を実施するため,ワイヤ放電加工機用の加工用プログラムをワイヤ放電加工機のNC装置に読み込む加工用プログラム読み込み手段と,前記加工用プログラムを表示する表示手段と,加工用プログラム編集後の溶着工程を組み込んだ加工用プログラムを表示させる表示手段と,前記溶着工程を組み込んだ前記加工用プログラムを出力する出力手段とを備えていることを特徴とするワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集システムに関する。
【発明の効果】
【0018】
この発明によるワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法及び加工用プログラム編集システムは,上記のように,NC装置に入力されているNCデータの一部である加工用プログラム,工作物の板厚,工作物の材料の比重を解析して中子等の加工部材の質量を演算し,加工部材の質量に対応して加工部材を工作物に保持可能な適正な溶着部の条件,即ち,工作物にその加工軌跡の予め決められた地点で加工部材を溶着する溶着部の溶着箇所及び溶着長さを自動計算し,加工用プログラム中に溶着工程のON/OFFの指令を自動的に挿入できると共に,NC装置の画面上での確認ができるようにし,工作物に加工部材を溶着部で一時的に保持させる操作が,熟練技術を要することなく,自動的に行うことができ,ワイヤ放電加工時に予め決められた所定の1箇所以上で加工部材を工作物に溶着して溶着部を形成して加工部材を工作物に一時的に保持させることができる。
このワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法は,加工部材の質量から溶着長さを自動的に演算して適正な長さで加工部材を工作物に一時的に溶着でき,従来のように一部放電加工せずに加工部材を工作物に保持するものに比較して,有人加工時間を大幅に減らすことができるので,ワイヤ放電加工機の稼働効率を向上させることができる。また,加工部材の加工形状の最終部分を溶着工程で工作物に加工部材を一時的に保持するので,加工部材が工作物に確実に保持され,加工部材の落下現象を防止できる。更に,工作物に対する加工部材の溶着箇所を複数箇所,例えば,3箇所に決定した場合に,加工部材の工作物に対する捩じれ現象等を防止でき,安定して加工部材を工作物に保持できる。また,加工部材溶着方法における溶着工程では,放電加工に比較して加工液の水量或いは水圧を低下させて,加工部材の工作物からの落下を防止するように制御できる。
しかるに,一部でも前記加工部材と前記工作物とが未加工状態でつながっている場合は,加工時に加工液の有用な高い水圧即ち多い水量でも加工部材が落下する確率が非常に低く,前記工作物の最後の加工箇所即ち最後の溶着箇所が終わると,溶着部でのみ加工部材を工作物に保持されることになるので,加工液の水圧が高いと,加工部材が落下する確率が高くなる。そこで,工作物に対する最後の加工が終わり,ワイヤ電極の戻りになるところで,加工液の水圧即ち水流を落とすようにする。また,工作物に対する加工が終わっていれば,ワイヤ電極を単なる送りで移動させることも可能となるが,加工軌跡のオーバーラップ部に小さな突起等が加工軌跡に残り易いため,ワイヤ電極の戻りの時も加工可能な状態で戻しており,工作物に対する加工ができる状態にしておくため,少量でも加工液が流れている方が好ましいこととなる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,図面を参照して,この発明によるワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法及び加工用プログラム編集システムについて説明する。この加工用プログラム編集方法について,溶着工程では,NC装置内部の加工条件データベースに溶着加工条件を導入し,この加工用プログラム編集方法をNC装置へシステムアプリケ−ションとして導入し,オリジナルの加工用プログラムを編集すれば,既存のワイヤ放電加工機でも溶着加工を利用できるようになる。この加工用プログラム編集方法は,具体的には,編集用のシステムアプリケーションをワイヤ放電加工機が備えたNC装置又はコンピュータにインストールして使っている。NC装置又はコンピュータにおけるインストールの記憶部には,工作物6の加工条件,板厚,材料の比重,加工経路等の特定の情報があり,この加工用プログラム編集方法は,それらの情報を利用することになり,複数の機能とその結果の結合を編集作業中に行うものである。
【0021】
ワイヤ放電加工機を用いたワイヤ放電加工時の加工部材溶着方法である工作物切り残し加工方法は,例えば,本出願人に係る特願2011−212221号に開示されているように,工作物6から放電加工で所定の加工形状21の加工部材26を完全に切り離すことなく,加工部材26をワイヤ電極5の一部を溶融させて工作物6に加工軌跡上の溶着部20で溶着させて一時保持するものである。加工部材26の加工形状21は,ワイヤ電極5の動き即ち軌跡として表すことができる。ここで,溶融されるワイヤ電極5の一部は,ワイヤ電極5の予め決められた長さのワイヤ周囲部であり,ワイヤ電極溶融物で加工部材26を工作物6に溶着させる時に,ワイヤ電極5は断線することなく,ワイヤ電極5の供給状態が維持されるものである。この加工部材溶着方法では,ワイヤ電極5中に銅合金系を含んでいることが工作物6と加工部材26との溶着が良好に行われる。また,この加工部材溶着方法は,工作物6の予め決められた加工形状21の少なくとも一箇所において,ワイヤ電極5と工作物6との間に印加する電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに変更し,ワイヤ電極5の一部を溶融させて工作物6と加工部材26とを予め決められた所定の位置の溶着部20で溶着させ,溶着部20で加工部材26を工作物6に保持し,工作物6から加工部材26が脱落するのを防止するものである。また,
図7に示すように,工作物6と加工部材26との溶着部20は対向位置を含めて3箇所に存在するので,加工部材26は工作物6にバランスよく保持されることに成る。また,この加工部材溶着方法は,加工部材26と工作物6とをワイヤ電極5の一部を溶融させて溶着させる工程において,ワイヤ電極5が断線した時には,ワイヤ電極5をワイヤ電極断線点での加工スリット22に供給し,次いで,工作物5と加工部材26とを溶着させたり,又はワイヤ電極5により工作物6の放電加工を行う加工工程を引き続き行うことができるように構成されている。また,加工部材26は,場合によっては,製品になったり,又は不必要なスクラップになったりするものである。
【0022】
特に,この発明によるワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法は,加工部材26についての加工情報の少なくとも加工形状,工作物6即ち加工部材26の板厚T,放電加工された加工部材26の個数及び工作物6即ち加工部材26の比重G,並びに加工部材26の工作物6への溶着箇所についての初期条件をコントローラ,即ち,コンピュータ又はNC装置に取り込み,オリジナルプログラム即ち工作物6への加工部材26の溶着加工を除く加工用プログラムを解析することによって,工作物を6荒加工する加工部材26の加工周長L及び加工部材26の形状の上面面積Aを演算し,加工部材26の加工周長L,上面面積A,板厚T及び工作物6又は加工部材26の比重Gから加工部材26の質量M(=A×T×G)を演算し,加工部材26の質量Mと加工部材26の工作物6への保持可能な溶着部20の所定の溶着長さLとの関係について,
図8に示すようなNC装置のメモリーに保存された測定値のマップから,加工部材26の質量Mに対応する加工部材26の工作物6への保持可能な溶着部20の適正な所定の溶着長さLを演算することを特徴としている。また,この加工用プログラム編集方法は,ワイヤ放電加工機によって工作物6を放電加工する時には,従来のワイヤ放電加工機のオリジナルプログラムを溶着加工用プログラムに変換する必要がある。従来のワイヤ放電加工機のオリジナルプログラムを本発明の溶着加工用プログラムに変換する場合には,オリジナルプログラムの加工条件を用いて,工作物6に対して溶着加工を行う加工形状における溶着箇所や溶着長さを,加工部材26の形状毎にパソコン又はワイヤ放電加工機のNC装置に事前に導入したシステムアプリケーションを利用して,簡単な操作で溶着加工用プログラムに変換されることが要求される。即ち,オリジナルプログラムをNC装置に取り込んで,プログラムにおける加工部材26の加工形状や加工数等の加工条件を解析し,加工部材26の加工周長や重量即ち質量等を演算し,それによって加工部材26の加工周長と質量から溶着する箇所と溶着長さを,加工部材26の形状毎に演算するように,溶着加工用プログラムを作成できる。
【0023】
また,この加工用プログラム編集方法において,加工部材26の工作物6への記溶着部20は,少なくとも加工部材26の加工最終箇所に溶着箇所が決定されていることが,加工部材26を工作物6に確実に安定して保持する点から好ましいものである。また,この加工用プログラム編集方法は,初期条件で入力された溶着箇所の個数と加工部材26の加工周長から均等割りした溶着箇所を決定することが好ましいものである。この加工用プログラム編集方法は,具体的には,溶着部20の溶着箇所及び溶着長さLの情報に応答して,ワイヤ放電加工機によって工作物6をワイヤ電極5で放電加工する際に,加工部材26の所定の箇所でワイヤ電極5と工作物6との間に印加する電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに変更してワイヤ電極5の一部を溶融させて加工部材26を工作物6に予め決められた所定の溶着長さの溶着部20で溶着させて加工部材26を工作物6に保持させる溶着工程の加工用プログラムを,ワイヤ放電加工機のNC装置又はコンピュータであるコントローラに制御指令として組み込むものである。また,この加工用プログラム編集方法は,ワイヤ電極5による工作物6の放電加工時には,工作物6とワイヤ電極5との極間に加工液を予め決められた所定の噴流圧で噴流し,ワイヤ電極5の工作物6から放電加工された加工部材26の加工軌跡27に沿ってワイヤ電極5を戻す時には,加工液の噴流圧を低下させる加工用プログラムを組み込むものである。
【0024】
また,この加工用プログラム編集方法は,例えば,本出願人に係る特願2012−094408号に開示されているように,加工部材26の工作物6への溶着工程の終了後に,加工部材26を工作物6に溶着部20で溶着されているか否かを検出する確認工程を加工用プログラムに組み込むことが可能なものである。更に,工作物6に対する荒加工の終了時点で,工作物6に対する加工部材26の傾きをワイヤ電極5の加工部材26との接触感知で確認し,溶着によって保持されているか否かを検出する確認工程を加工用プログラムに組み込むことが可能なものである。また,この加工用プログラム編集方法は,例えば,本出願人に係る特願2012−134030号に開示されているように,加工部材26の工作物6への溶着部20を,加工部材26の板厚方向の上部のみならず,中間部や下部,或いは複数箇所に溶着形成させる加工部材溶着部位情報を加工用プログラムに組み込むことが可能なものである。
【0025】
また,この発明によるワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集システムは,上記の加工用プログラム編集方法を実施するため,ワイヤ放電加工機用の加工用プログラムをワイヤ放電加工機のNC装置又はコンピュータに読み込む加工用プログラム読み込み手段と,加工用プログラムを表示する表示手段と,加工用プログラム編集後の溶着工程を組み込んだ加工用プログラムを表示させる表示手段と,溶着工程を組み込んだ加工用プログラムを出力する出力手段とを備えていることを特徴とするものである。即ち,この加工用プログラム編集システムは,ワイヤ放電加工機用の加工用プログラムと,工作物6から加工される加工部材26の材料の比重G,板厚T等の初期条件と,工作物6に対するワイヤ放電加工条件と,加工部材26を工作物6に溶着部20で溶着させる溶着工程条件の情報を用いて,溶着工程を組み込んだワイヤ放電加工機用の新たな加工用プログラム,或いは溶着工程及び加工部材26の工作物6への溶着確認や加工部材26の工作物6からの脱落確認を組み込んだワイヤ放電加工機用の新たな加工用プログラムを作成するものである。
【0026】
図1を参照して,この発明が組み込まれるワイヤ放電加工機について説明する。ワイヤ放電加工機は,主として,機械本体15に取り付けられ且つワイヤ電極5を巻き上げているソースボビン7,ソースボビン7から送り出されるワイヤ送り系でのワイヤ電極5の方向を転換する複数の方向転換ローラ8,ワイヤ電極5が良好に繰り出されるようにワイヤ電極5にブレーキをかけるブレーキローラ9,送り出されるワイヤ電極5にテンションを付与するテンションローラ12,ワイヤ電極5を供給パイプ13へとガイドするガイドローラ32等を備えている。ワイヤ電極5は,ワイヤ供給系における方向転換ローラ8,ガイドローラ32を通過して,本体ヘッド1に設けられた一対のアニールローラであるワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極送りユニット24に支持された供給パイプ13内を通って一対のコモンローラ11を通過した後に,そこで,ワイヤ電極5は一対のワイヤ供給ローラ10と一対のコモンローラ11とで挟持され,それらの間で給電子18(
図2,
図4)を通じて加工電源からの電流がワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5,及びコモンローラ11に通電され,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間のワイヤ電極5がアニールされて曲がり等の癖取りされ,次いで,ワイヤ電極5のアニールされていない先端部がカッタ14で切断して排除され,ワイヤ電極5を真っ直ぐな状態にする。その後,アニールされたワイヤ電極5は,ワイヤ供給ローラ10の送り出しに従ってワイヤ電極送りユニット24である供給パイプホルダに支持された供給パイプ13の降下に従って供給パイプ13にガイドされて上ヘッド2へと達して挿通される。また,放電加工される工作物6は,加工槽等に設けられたワークテーブル23にクランプ25で固定されている。
【0027】
また,アニールローラ10とコモンローラ11との間には,ワイヤ電極5の先端を良好にする時,ワイヤ電極5の断線時,アニール処理時等に,ワイヤ電極5の先端部を切断するためのカッタ14が設けられていると共に,カッタ14で切断されたワイヤ電極5を廃棄するための廃ワイヤクランプ(図示せず)が設けられている。カッタ14は,カッタユニットを作動することでワイヤ電極5を切断するように構成されている。ワイヤ電極5の結線時は,供給パイプ13を通ったワイヤ電極5は,ワイヤ供給ローラ10の低速回転によって,まず,上ヘッド2に供給され,上ヘッド2を通過して工作物6のスタートホールや加工軌跡の孔19に挿通された後に,上ヘッド2の下方に対向した下ヘッド4に受け取られ,ワイヤ電極5が下ヘッド4を通過した後には,ワイヤ供給ローラ10は高速回転に切り換えられ,下ヘッド4から繰り出されたワイヤ電極5は,下アーム3に設けられた方向転換ローラからワイヤガイドパイプ37,ワイヤガイドパイプ37の出口に設けた水分離部,及び水分離部の下流に設置された巻き取りローラ35を順次通過して,巻き取りローラ35で引き出され,更に,巻き取りローラ35の後流に設けた吸引装置等によって吸引され,最後に廃ワイヤホッパ36に回収される。また,ブレーキローラ9には,回転数を検出するためのエンコーダ16が設けられている。センサ17は,ワイヤ電極5の撓み,曲がり,挿通状態等を検出するため,本体ヘッド1の下部の支持体(図示せず)に取り付けられている。また,このワイヤ放電加工機では,工作物6の材質は,例えば,ダイス鋼,NAK材,SKD,鉄系材料,或いは超硬材料であり,板厚は,例えば,10mmである。また,ワイヤ電極5の材質は,例えば,タングステン系,銅合金系(黄銅系),ピアノ線系等の金属材料であり,ここでは,真鍮電極線,黄銅合金が使用され,ワイヤ径がφ0.10〜φ0.25mmである。更に,それらを芯材として表面を被覆した金属材料,例えば,芯材が銅合金系以外では銅合金の被覆層,芯材が銅合金系では亜鉛等の被覆層の材料で作製されている。この実施例では,工作物6は,特に,
図7に示すように平らなプレート状即ち上下面が平行な平板の形状であり,複数のスタートホール,加工軌跡等の孔19に挿通された後に,ワイヤ電極5には給電子18より電流が供給され,ワイヤ電極5と工作物6との間に電圧を印加して工作物6の放電加工が行われるが,その時,プレート,中子等の加工部材である加工部材26が発生する。
【0028】
このワイヤ放電加工時の加工部材溶着方法において,電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに変更するため,ワイヤ電極5に流す電流(A)は,
図3及び
図5に示すように,工作物6をワイヤ放電加工する電流に比較して,高電圧負荷HVからワイヤ電極5に流す電流ピークを,例えば,約1/4倍程度に低くし,ワイヤ電極5と工作物6との極間に印加する電圧(V)を,例えば,約1/4倍程度に低くし,更に,ワイヤ電極5に流す電流のパルスを,例えば,約2倍程度に長くし,加工放電からアーク放電に移行させて,ワイヤ電極5によるアーク溶接によって加工部材26を工作物6に溶着部20で溶着させるものである。また,溶着サイクルにおける加工条件は,工作物6を切断しながら同時に工作物6と加工部材26との対向部分の一部分や他の部分を溶着部20として溶着させるものである。ここで,対向部分の一部分とは,工作物6と加工部材26とが向かい合った部分の一部分である。また,工作物6と加工部材26との溶着部20は,エッジ部(
図7では上部のみ)での存在であるので,僅かの外力で破壊できる程度であるので,工作物6の放電加工終了後に,溶着部20を外力で破壊して加工部材26を工作物6から容易に切り離す。また,工作物6と加工部材26との溶着部20は,弱い外力で破壊できるが,工作物6と加工部材26との溶着部20の破壊耐荷重は,
図8に示すように,実験結果より予め測定されており,その測定値はマップに形成され,NC装置のメモリーに保存された情報である。
【0029】
このワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法は,現在用いられているワイヤ放電加工機に,工作物6に加工部材26を,その加工形状21のいずれかの箇所に溶着部20で溶着させるための工程を組み込んだ加工情報を,NC装置の加工用プログラムに取り込むという編集を行うことである。即ち,ワイヤ放電加工機に,工作物6に加工部材26を溶着させる機能を付加させることであり,溶着用の加工条件を制御装置であるNC装置のメモリーの中に組み込むものである。
また,このワイヤ放電加工機において,加工部材26を工作物6に溶着部20で一時的に溶着保持させるために必要な加工条件として,次のことが考えられる。
(1)加工部材26の質量Mに応じて工作物6に加工部材26を保持するのに必要な溶着部20の溶着長さLを演算すること。
(2)加工軌跡27における溶着部20の溶着箇所の数,その時の均等割りした1箇所の溶着長さL,例えば,最短1mm/箇所について演算すること。
(3)加工部材26を工作物6に保持するのを,信頼性,安定性を確保するため,同様の加工部材溶着方法を繰り返し行った実験結果を導入し,(3−1)加工部材26の最終加工箇所に溶着部20を形成することが保持の安定性があること。(3−2)加工部材26の工作物6への溶着工程終了後に,ワイヤ電極をスタートホールへ移動する時,或いはワイヤ電極5を加工軌跡27に沿ってバックさせる時の加工液の水流圧を低下させる指令を発すること。
(4)溶着工程を組み込むための最低限の初期条件である加工部材26の板厚T,加工部材26の材質の比重G,及び加工形状21における加工軌跡27での溶着部20を形成する箇所(例えば,実験結果より溶着箇所はデフォルト3箇所が好ましい)を加工用プログラムに組み込む加工条件とすること。
【0030】
ワイヤ放電加工機で放電加工する際に,工作物6に加工部材26を溶着させる溶着工程を組み込む処理として,NC装置に対して次の処理工程が最小限必要となる。
(1)NC装置に加工用プログラム(Gコード)を読み込み,初期条件の入力。
(2)工作物6に対する荒加工(第1加工)部分を確定すること。
(3)加工用プログラム(Gコード)とワイヤ放電加工機の各軸(X軸,Y軸,Z軸,U軸,V軸)の移動指示量から工作物6から分離する加工部材26の加工周長をと,加工部材26の上面面積を,システムアプリケーション上で演算すること。
(4)加工部材26の加工周長に対応して,加工部材26を工作物6の溶着保持するのに適正な最小の溶着長さL(デフォルトとして,例えば,3mmが設定されている)を演算すること。ここで,デフォルトとは,初期条件として設定されている値であって,ユーザが変えることができるが,リセットするとデフォルトの値に戻るように設定されている。
(5)加工部材26の上面面積A,板厚T,比重Gから加工部材26の質量Mを演算(M=A×T×G)すること。
実験結果のデータ(例えば,
図8に示すデータ)から,加工部材26の質量Mに対する工作物6に加工部材26を保持するに必要な溶着長さLを演算し,初期条件として入力した溶着箇所数Nから溶着長さLを均等割りして,一箇所の溶着長さLを演算すること。
(6)工作物6を放電加工して加工部材26の加工軌跡27の最終部分に溶着部20を形成する条件を考慮して加工部材26の周長に対して均等割りした結果から,加工軌跡27における溶着箇所を決定すること。
(7)加工用プログラムに溶着加工工程と放電加工とのそれぞれの移動ブロックを作成し,溶着箇所には溶着加工条件の実施指令を加工用プログラムに書き込むこと。
(8)工作物6の溶着加工の加工箇所をNC装置の画面上にグラフィックに表し,オペレータに加工条件がOKか又はNGかの判断を行わせること。
(9)加工条件がOKの時には,編集結果を加工用プログラム用のメモリーに,新しい名前で書き込み,本編集用システムアプリケーションを終了。
(10)加工条件がNGの時には,初期入力画面から再スタート。
【0031】
次に,このワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法についての実施例を,
図9の処理フィロー図を参照して説明する。このワイヤ放電加工機用の加工用プログラム編集方法は,ワイヤ電極5とワイヤ電極5に対向する平板形状の工作物6との間に極間電圧を印加して発生する放電エネルギーで工作物6を放電加工して平板形状の加工部材26を作製すると共に,加工部材26の加工軌跡に加工部材26を工作物6に溶着した溶着部20で加工部材26を工作物6に保持させる加工情報を取り込んだコントローラ(図示せず)によって駆動制御される。コントローラには,NCデータより工作物6を放電加工する加工部材26の加工形状21が取り込まれる(ステップS1)。次に,加工部材26の加工形状21毎の加工周長Lがワイヤ電極5の移動長さで演算される(ステップS2)。ここで,加工部材26の形状ごとの領域値を取得し(ステップS3),加工部材26毎の上面の面積Aの近似値を積分等によって演算する(ステップS4)。次いで,加工部材26の質量Mを,加工部材26の上面面積A,板厚T,及び比重Gから演算(M=A×T×G)する(ステップS5)。溶着部20の箇所を加工部材26の周長Lと溶着箇所と最小溶着長さから,均等割り等の方法で判定し(ステップS6),更に,溶着部20間の距離を演算し,加工部材26の質量Mを考慮して判断する(ステップS7)。更に,加工用プログラムに,溶着部20を形成するか否かのON・OFF指令を自動的に挿入し,NCプログラムを編集する(ステップS8)。
【0032】
また,
図2及び
図3を参照して,この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法についての基本的な原理を説明する。特に,本出願人に係る特許出願である特願2011−212221号に開示された加工サイクルと溶着サイクルと同様であるので,ここでは簡単に説明する。
図2に示す電気回路は,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して極間状況確認用の抵抗付き低電圧負荷LVと第1スイッチS1が直列に結線された第1回路,及び放電加工用の高電圧負荷HVと第2スイッチS2が直列に結線された第2回路が並列に結線されている。第1回路は,主としてワイヤ電極5と工作物6との間の極間状況を確認する回路であって,工作物6を放電加工するのに工作物6とワイヤ電極5とが適正な位置関係にあるか否かを検出する手段であり,抵抗Rは第1回路を流れる電流を調整する機能を有している。従って,スイッチS1は,タイミング的には工作物6の放電加工の前にON・OFF制御されるものである。また,第2回路は,放電加工用であり,工作物6を放電加工する場合には,大電流を短い時間で流す必要があり,抵抗等は組み込まれていない回路である。 次に,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法についての加工サイクル及び溶着サイクルについて説明する。
図3の(A)に示す通常加工である加工サイクルでは,第1スイッチS1をONしてパルスを発生させると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に,例えば,低電圧負荷LVの80V程度が2μsec程度発生してワイヤ電極5と工作物6との極間状況が適正な位置であるか否かを確認し,極間状況が適正であれば,そこで極間で放電が開始する。次いで,第1スイッチS1をOFFして第2スイッチS2をONし,パルスを発生させると,ワイヤ電極5に,例えば,400A程度の電流を0.8μsec程度流して,ワイヤ電極5と工作物6との極間に高電圧負荷HVから240V程度が印加され,ワイヤ電極5で工作物6が放電加工されることになる。
また,
図3の(B)に示す工作物6と加工部材26との溶着サイクルでは,第1スイッチS1をONしてパルスを発生させると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に,例えば,低電圧負荷LVの80V程度が2μsec程度発生してワイヤ電極5と工作物6との極間状況が適正な位置であるか否かを確認し,極間状況が適正であれば,そこで放電が開始する。次いで,第1スイッチS1をOFFして第2スイッチS2をONし,パルスを発生させると,ワイヤ電極5に,例えば,110A程度の電流が3μsec程度流れて,ワイヤ電極5と工作物6との極間に高電圧負荷HVから加工時の約1/4の70V程度が印加され,アーク放電となってワイヤ電極5が溶融されて,加工部材26が工作物6にワイヤ電極溶融物で溶着される。
【0033】
次に,
図4及び
図5を参照して,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法についての技術的思想の基本的な構成について説明する。この加工部材溶着方法を達成する基本的な電気回路は,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して,極間状況確認用の抵抗R付き低電圧負荷LVと第1スイッチS1とが直列に結線された第1回路,放電加工用の高電圧負荷と第2スイッチS2とが直列に結線された第2回路,及び第1ダイオードD1と第3スイッチS3とが直列に結線された第3回路を,それぞれ並列に結線されたものである。この電気回路において,加工サイクルから溶着サイクルへの電気加工条件の変更は,第1スイッチS1,第2スイッチS2,及び第3スイッチS3のON・OFF制御によって実行されるものである。
図5では,第1スイッチS1,第2スイッチS2,第3スイッチS3,電圧波形(V),及び電流波形(A)について,具体的に数値を記載しているが,これらの数値は理解し易くするための例示であり,また,電圧波形(V)及び電流波形(A)についても,例示の波形であることは勿論である。即ち,第1スイッチS1をONする時間は,ワイヤ電極5と工作物6との極間状態(例えば,加工電源,ワイヤ電極5の材質,線径等の条件,及び工作物6の材質,厚さ等の条件で変化するパラメータ)で決まるものであり,加工条件等で決まらずに不定であって,数μsec,数十μsec程度であるが,下記の加工サイクル及び溶着サイクルでの説明では例示として,2μsecを記載している。また,第2スイッチS2をONする時間は,加工条件(パラメータ入力)で決めるON時間であるが,下記の加工サイクル及び溶着サイクルでの説明では,例示として,0.8μsecを記載している。更に,
図5の(B)における電流波形の電流の流れる時間及び電圧波形の印加時間は,加工条件等で決められずに不定であるが,下記の加工サイクル及び溶着サイクルでの説明では,例示として,3μsecを記載している。
【0034】
この加工部材溶着方法では,基本的な構成について,工作物6に対するワイヤ電極5による加工サイクルは,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して,第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを付勢し,次いで,第1スイッチS1をOFFして第2スイッチS2をONして高電圧負荷HVを付勢する制御によって実行されるものである。また,工作物6と加工部材26との溶着サイクルは,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して,第3スイッチS3のONを持続して,第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを付勢し,次いで,第1スイッチS1をOFFして第2スイッチS2をONして高電圧負荷HVを付勢し,最後に,第2スイッチS2をOFFする制御によって実行されるものである。ここで,工作物6に対するワイヤ電極5による加工サイクルの電圧電流波形から工作物6と加工部材26との溶着サイクルの電圧電流波形に電気加工条件を切り換えることにより,第2スイッチS2を一定時間後にOFFにするが,第3スイッチS3がONしているため,工作物6とワイヤ電極5との極間に第1ダイオードD1及び第3スイッチS3を通る循環電流が流れ,パルス幅の長い電流を生成でき,放電状態がアーク放電となり,ワイヤ電極5の一部が工作物6と加工部材26との間に溶着され,結果として工作物6と加工部材26とが溶着される。
【0035】
この加工部材溶着方法における加工サイクル及び溶着サイクルの詳細については,特に,本出願人に係る特許出願である特願2011−212221号に開示しており,これと同様な加工サイクルと溶着サイクルであるので,ここでは簡単に説明する。
このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法における加工サイクルの一例を,
図4及び
図5の(A)を参照して説明すると,次のとおりである。
第1工程:第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを,ある時間,例えば,2μsec程度が経過すると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に放電が開始する。
第2工程:第2スイッチS2をONして,電圧降下をトリッガーとして高電圧負荷HVが印加されて電流が上昇し,ワイヤ電極5による工作物6の放電加工が行われる。
第3工程:ワイヤ電極5と工作物6との極間の放電時間は,工作物6の加工条件で決められているが,例えば,0.8μsec程度が放電される。
第4工程:一旦,第1スイッチS1,第2スイッチS2,及び第3スイッチS3をOFFして,ワイヤ電極5と工作物6との極間に掛かる電圧を無負荷として,休止時間をとる。ワイヤ電極5による工作物6の加工形状21の加工時は,上記のサイクルを125k〜2000kHzの周期で繰り返すことによって達成される。
また,この加工部材溶着方法における溶着サイクルの一例を,
図4及び
図5の(B)を参照して説明すると,次のとおりである。
第1工程:第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを所定時間,例えば2μsec程度が経過すると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に放電が開始する。
第2工程:第2スイッチS2をONして,電圧降下をトリッガーとして高電圧負荷HVが印加された電流が上昇し,ワイヤ電極5による工作物6の放電加工を行う。
第3工程:加工サイクルである通常サイクルから溶着サイクルに切り換える時に,第2スイッチS2のONを一定時間経過後にOFFにするが,第3スイッチS3がONしているため,工作物6とワイヤ電極5との間に循環電流が流れ,パルス幅の長い電流を生成でき,この時,ワイヤ電極5が溶融して工作物6と加工部材26とに溶着し,結果として工作物6に加工部材26が溶着する。
第4工程:循環電流が流れきったところで,第3スイッチS3がOFFして休止時間を取ることになる。
【0036】
この加工部材溶着方法における加工サイクルの別の例を,
図6を参照して説明すると,次のとおりである。
第1工程:第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを所定時間,例えば2μsec程度が経過すると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に放電が開始する。
第2工程:第1スイッチS1をOFFし,第4スイッチS4と第5スイッチS5とをONして,電圧降下をトリッガーとして高電圧負荷HVが印加されて電流が上昇し,ワイヤ電極5による工作物6の放電加工が行われる。
第3工程:第4スイッチS4と第5スイッチS5とをON状態に持続し,ワイヤ電極5と工作物6との極間の放電時間は,工作物6の加工条件で決められているが,例えば,0.8μsec程度が放電される。
第4工程:第5スイッチS5をON状態に持続し,第4スイッチS4をOFFにした後,サブμsecだけ第5スイッチ5をONして高電圧負荷HVの付勢状態を解放し,電流波形を台形に近づける。
第5工程:一旦,第1スイッチS1,第4スイッチS4,及び第5スイッチS5をOFFして,ワイヤ電極5と工作物6との極間に掛かる電圧を無負荷として,休止時間をとる。ワイヤ電極5による工作物6の加工形状21の加工時は,上記のサイクルを125k〜2000kHzの周期で繰り返すことによって達成される。
【0037】
次に,
図6を参照して,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法についての具体的な電気回路図について説明する。なお,ここでは,
図6の電気回路図について,第1スイッチS1,第4スイッチS4,及び第5スイッチS5のON・OFF制御によって発生する電圧波形及び電流波形の図面については省略することとする。
このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を達成する具体的な電気回路は,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して,極間状況確認用の抵抗付き低電圧負荷と第1スイッチS1とが直列に結線された第1回路,放電加工用の高電圧負荷と第4スイッチS4と第5スイッチS5とが直列に結線された第2回路,第2ダイオードD2と第5スイッチS5とが直列に結線された第3回路,及び第3ダイオードD3と第4スイッチS4とが直列に結線された第4回路を,それぞれ並列に結線したものである。この電気回路において,第4スイッチS4及び第5スイッチS5をONすれは,ワイヤ電極5と工作物6との間の極間に対して高電圧負荷HVを付勢することができる。
また,加工サイクルから溶着サイクルへの電気加工条件の変更は,第1スイッチS1,第4スイッチS4,及び第5スイッチS5のON・OFF制御によって実行されるものである。第5スイッチS5がONの時,第4スイッチS4をOFFした後には,ワイヤ電極5と工作物6との間の極間に対して第2ダイオードD2と第5スイッチS5とを通る第1循環電流が流れる。また,第4スイッチS4がONの時,第5スイッチS5をOFFした後には,ワイヤ電極5と工作物6との間の極間に対して第3ダイオードD3と第4スイッチS4とを通る第2循環電流が流れる。即ち,この電気回路では,第1スイッチS1,第4スイッチS4,及び第5スイッチS5のON・OFF制御によって,第1循環電流と第2循環電流とが交互に流れることになる。この発明によるワイヤ放電加工における工作物切り残し加工方法は,ダイオードD2及びダイオードD3を組み込んだ具体的な電気回路を用いて行えば,2つの循環電流を発生させるので,放電加工の電流波形が台形状に近くなり,交互に循環電流を発生させることによってスイッチングによる発熱の問題を緩和することができる。このワイヤ放電加工における工作物切り残し加工方法は,循環電流を利用して工作物6と加工部材26とを溶着させるため,工作物6の放電加工に比較して,電流波形をゆっくり下げることができる。なお,第4スイッチS4と第5スイッチS5とは,ON,OFFタイミングは,逆でもよいことは勿論である。
【0038】
このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法について,工作物6に対して金型製造時として,パンチ加工を行なう場合と,ダイプレート加工を行なう場合とについて説明する。ここで,この工作物切り残し加工方法における加工サイクル,及び溶着サイクルの詳細については,本出願人に係る特許出願である特願2011−212221号に開示されているので,必要に応じて参照できるので,ここでは説明を省略する。ところで,ワイヤ放電加工機におけるパンチ加工では,工作物6から所定の形状の加工部材30を切り出す場合であって加工部材30が製品としての素材になるものであって,スタートホール19は,加工形状26以外の工作物6に穿孔されているか,又はその場所に新たに穿孔する。これに対して,ダイプレート加工は,工作物6に所定の形状の加工部材30を切り抜き加工し,切り抜かれた加工部材30を中子と呼んで不用品になり,切り抜かれた工作物6が製品としての素材になるものであって,スタートホール19は中子である加工形状26に穿孔されているか,又はその場所に新たに穿孔する。