(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0029】
[第1の実施形態]
(熱利用システム1の構成)
図1は、第1の実施形態の熱利用システム1を示す図である。熱利用システム1は、地中熱交換システム(地中熱交換部)10、ループ管21、ポンプ22、逆流防止弁23、四方弁(入出力切替手段)24、ヒートポンプ30、および太陽熱ヒートポンプ(熱源機構)31等を有する。
【0030】
なお、この熱利用システム1は、業務用ビルや病院・老人保健施設、学校等の教育施設、生産・商業施設等の個別建物や、集合住宅や数棟の建築物からなる面的開発施設における冷暖房等の熱利用に適用することができる。
【0031】
地中熱交換システム10は、負荷側のヒートポンプ30における熱交換の熱源とする熱媒流体を貯蓄するものである。地中熱交換システム10は、より高い温度の熱媒流体を入出力する高温域ポートHと、より低い温度の熱媒流体を入出力する低温域ポートLを有する。地中熱交換システム10の詳細については後述する。なお、ポートとは、地中熱交換システム10がループ管21に接続する接続部のことをいうものとする。
【0032】
ループ管21は熱媒流体を循環させるための配管である。熱媒流体は、地中熱交換システム10およびループ管21内に常時満たされた状態で循環する。ループ管21は、例えば断熱性に優れた樹脂管あるいは断熱材を巻いた鋼管とし、熱損失を小さくする。ループ管21の両端部は、前記の高温域ポートH、低温域ポートLとそれぞれ接続される。ループ管21の高温域ポートH、低温域ポートL側の端部には、温度計T1、T2がそれぞれ取り付けられる。温度計T1、T2としては、熱電対や測温抵抗体が用いられる。
【0033】
ループ管21には、上記の温度計T1、T2の他、ポンプ22、逆流防止弁23、四方弁24、ヒートポンプ30の熱交換部30a、および太陽熱ヒートポンプ31の熱交換部31aが設けられる。
【0034】
ポンプ22は、熱媒流体を循環させるために用いられる。
【0035】
逆流防止弁23は、熱媒流体の流向を一定に保つために設けられる。
【0036】
四方弁24は、ループ管21の接続状態を切り替えることにより、高温域ポートH、低温域ポートLの入出力を切り替えるものである。本実施形態では、図で示す箇所a〜dの接続を切り替えるが、これについては後述する。
【0037】
ヒートポンプ30は熱利用システム1における負荷側である。ヒートポンプ30は、ループ管21を流れる熱媒流体を熱源として用い、熱交換部30aにおいて熱交換を行う。ここで、ヒートポンプ30は空調用とし、上記の熱交換を利用して外気の温度を調整し空調空気を生成するものとする。図では2台のヒートポンプ30を設けているが、その数はこれに限らない。
【0038】
太陽熱ヒートポンプ31は、太陽熱や空気熱を熱源として熱交換を行うための熱源機構である。特開昭58−158455号公報等にも示されているが、太陽熱ヒートポンプ31は、昼間では日射があるときには太陽熱を、日射がないときには空気熱を利用して熱交換部31aにて熱交換を行い熱媒流体を昇温する。一方、夜間では、長波長放射を併用して大気への放熱により熱交換部31aにて熱交換を行い熱媒流体を降温する。図では2台の太陽熱ヒートポンプ31を設けているが、その数はこれに限らない。
【0039】
以上の各装置は、熱利用システム1全体を制御する制御部(不図示)と接続されており、後述するフローに沿って制御が行われる。
【0040】
(地中熱交換システム10の構成)
図2、3は、地中熱交換システム10を示す図である。
図2は地中熱交換システム10の平面構成を示す。
図3(a)は地中熱交換システム10の鉛直方向の構成を示した図であり、
図3(b)は外管13aの管壁を拡大して示した図である。
【0041】
図2に示すように、地中熱交換システム10は、2つの単位アレイ10−1、10−2から構成される。単位アレイ10−1、10−2は、それぞれ、8本の二重管13と、2本ずつの第1ヘッダー管11および第2ヘッダー管19と、2本の第1ヘッダー管11、第2ヘッダー管19の端部にそれぞれ設けられる第3ヘッダー管3、第4ヘッダー管4からなる。
【0042】
図3(a)に示すように、二重管13は、外管13aと内管13bからなる。
【0043】
外管13aは、200mm程度の内径を有する、10m程度の長さの管体である。
図3(b)に示すように、外管13aの管壁は鉛直方向に沿って波形状となっており、外管13a内を流れる熱媒流体の乱流化を促進する。
【0044】
内管13bは、外管13aの内側に挿入される内径20mm程度の管体である。内管13bの下端は外管13aの下部に達する。
【0045】
単位アレイ10−1、10−2では、二重管13が4本ずつ一まとめにされる。すなわち、単位アレイ10−1、10−2では、2本の第2ヘッダー管19のそれぞれに、4本の二重管13の外管13aが、上部に設けた配管17を介して接続される。また、これらの二重管13の内管13bは、2本の第1ヘッダー管11のそれぞれに接続される。前記したように、2本の第1ヘッダー管11は第3ヘッダー管3に接続され、2本の第2ヘッダー管19は第4ヘッダー管4に接続される。このようにして、各単位アレイ10−1、10−2では、8本の二重管13が各ヘッダー管により並列に接続される。なお、
図3(a)では1本の第1ヘッダー管11および第2ヘッダー管19と接続される4本の二重管13のみ示している。
【0046】
図2に示すように、単位アレイ10−1の第4ヘッダー管4と、単位アレイ10−2の第3ヘッダー管3は配管5で接続される。これにより、単位アレイ10−1、10−2が直列に接続される。この時、
図3(a)に示すように、単位アレイ10−1の二重管13の外管13aの上部と、単位アレイ10−2の二重管13の内管13bとが連通する。また、単位アレイ10−1の第3ヘッダー管3には低温域ポートLが設けられ、単位アレイ10−2の第4ヘッダー管4には高温域ポートHが設けられる。
【0047】
図3(a)に示すように、本実施形態では、隣り合う二重管13同士の間隔L1を、例えば0.3〜1m程度とし、単位アレイ10−1、10−2の二重管13を高密度に配置する。また、二重管13の上端部は、地表面からL2=2m程度の深さに配置される。
【0048】
(地中熱交換システム10内の熱媒流体)
図4は、地中熱交換システム10の各単位アレイ10−1、10−2の二重管13内の熱媒流体の温度成層の例を示す図である。図では各単位アレイ10−1、10−2について1本の二重管13のみ示している。
【0049】
図に示すように、単位アレイ10−1の二重管13内では、下端部が12℃であり上方にゆくにつれて温度が上昇し上端部で17℃となる熱媒流体の温度成層が形成されている。一方、単位アレイ10−2の二重管13内では、下端部が17℃であり上方にゆくにつれて温度が上昇し上端部で22℃となる温度成層が形成されている。各二重管13の周囲の地盤は、上記の温度成層と同様の温度分布となっている。なお、この温度分布は、後述するARにより達成されたものである。
【0050】
本実施形態では、このように単位アレイ10−1、10−2の二重管13で5℃の温度差を有する温度成層を形成し、単位アレイ10−1、10−2を直列に接続することで、地中熱交換システム10内の熱媒流体の温度差を、上記の温度差の2倍である10℃としている。また、前記した単位アレイ10−1、10−2の構成により、低温の熱媒流体が貯蓄されている単位アレイ10−1の二重管13の外管13a下部を低温域ポートLに連通させ、高温の熱媒流体が貯蓄されている単位アレイ10−2の二重管13の外管13a上部を高温域ポートHに連通させている。
【0051】
このような二重管13内の温度成層を安定的に形成するため、本実施形態では、外管13aの径をDとした場合に、レイノルズ数Re=U×D/νを1000程度にするよう熱媒流体の循環時の速度ν、動粘性係数U等を定めておく。熱媒流体は、例えば水にエチレングリコールやプロピレングリコール等を添加した不凍液であり、エチレングリコールやプロピレングリコール等の添加量の調整により動粘性係数を定めることができる。ただし、熱媒流体はその他水等でもよい。また、熱媒流体の速度νはポンプ22により調整でき、例えば、二重管13内で0.3m/minと低速になるように制御する。なお、本実施形態では外管13aの管壁が波形状であるので、Re=2000以下の低いレイノルズ数でも管壁近辺では乱流状態が保たれ、外管13a内の熱媒流体と周囲地盤との伝熱が促進される。
【0052】
なお、各単位アレイ10−1、10−2における二重管13の本数は、ループ管21の循環流量や二重管13の流路断面積等から定められ、例えば1本とする可能性もある。また、各単位アレイ10−1、10−2において、熱媒流体が二重管13内を流れる流路長は二重管13の間でほぼ等しいので、各二重管13から出る熱媒流体の温度が異なるといったことはなく、流量調整のためのバルブ等は不要である。
【0053】
(熱利用システム1の制御)
次に、熱利用システム1の制御と、地中熱交換システム10内の熱媒流体等の温度変化について説明する。
図5は、熱利用システム1の制御フローを示す図である。
【0054】
図5に示すように、熱利用システム1では、システムの起動を行う(S1)と、予め定めた運転スケジュールにより管理された運転制御を開始する(S2)。
【0055】
上記の運転スケジュールを示すものが
図6(a)であり、後述する温熱出力、温熱AR、冷熱出力、冷熱ARの運転モードで制御が行われる時間帯を示している。例えば、温熱出力運転は、冬季の8時から10時、および18時から20時にかけて行われる。
【0056】
熱利用システム1は、この運転スケジュールを参照して、各運転モードでの運転制御を行う。
図6(b)は、運転モード別の制御を示す図であり、負荷側のヒートポンプ30と太陽熱ヒートポンプ31の運転・停止状態、四方弁24の接続状態、および
図1の温度計T1、T2と各箇所イ〜二の温度変化範囲を示す。なお、図の「温度範囲(℃)」は、各運転モード開始時の温度と終了時の温度を示したものである。以下、各運転モード別の制御について説明する。
【0057】
(1−1.温熱出力運転)
熱利用システム1の制御部は、冬季において、温熱出力運転が行われる時間(例えば8時、
図6(a)参照)となれば(S3:熱出力モード、S4:温熱出力運転)、温熱出力運転を開始する。
【0058】
温熱出力運転開始時の地中熱交換システム10内の熱媒流体の温度分布を、
図7(a)に示す。これは前記の
図4と同様の分布であり、二重管13周囲の地盤の温度分布も二重管13内の温度分布と同様のものとなっている。
【0059】
温熱出力運転は、ヒートポンプ30での熱交換を利用して暖房を行う際に実行される。温熱出力運転を行う際、熱利用システム1の制御部は、ポンプ22を稼働させ、
図6(b)で示すように四方弁24の切り替えを行って、ループ管21の箇所aと箇所b、および箇所cと箇所dとを接続する。この状態を示したものが
図1である。これにより、地中熱交換システム10の高温域ポートHが熱媒流体の吐出側(出力側)となり、低温域ポートLが熱媒流体の戻り側(入力側)となる(S5)。
【0060】
温熱出力運転では、単位アレイ10−2の外管13aの上端部から高温の熱媒流体を取り出し、高温域ポートHから吐出する。この熱媒流体はループ管21を流れ、ヒートポンプ30の熱交換部30aに通される。ヒートポンプ30は、熱媒流体を熱源として熱交換部30aにて熱交換を行い室温を昇温し、ヒートポンプ30の冷排熱によって熱媒流体の温度は低下する。低温となった熱媒流体は戻り側の低温域ポートLに戻り、単位アレイ10−1の二重管13の内管13bを通って外管13aの下端部に流入する。なお、温熱出力中は太陽熱ヒートポンプ31は運転しない。
【0061】
本実施形態では1台のヒートポンプ30の熱交換部30aでの熱交換により、熱媒流体の温度が5℃低下するものとする。ヒートポンプ30は2台設けているので、これらの熱交換部30aにおける熱交換により熱媒流体の温度は10℃低下する。
【0062】
例えば、運転開始時、
図1の箇所イでの熱媒流体の温度は22℃であり、これが熱交換部30aでの熱交換により温度低下し、箇所二の温度が12℃となって(
図6(b)参照)、低温域ポートLに戻る。
【0063】
温熱出力運転を続け熱媒流体の循環を行うと、単位アレイ10−1、10−2内の熱媒流体が、高温のものから順にループ管21に吐出されるので、高温域ポートHから吐出される熱媒流体の温度は徐々に低下する。
【0064】
なお、運転開始時は、単位アレイ10−2の二重管13の外管13a上部の周囲の地盤温度は22℃程度である。これにより、温熱出力運転を続ける際も熱媒流体が外管13aの上部で温められる効果がある。また、本実施形態では、前記の通り外管13aを流れる熱媒流体の流速を0.3m/min程度と遅く制御する。従って、上記の地熱効果とも相まって、高温域ポートHから吐出される熱媒流体の温度変化は緩やかになり、高温の熱媒流体が安定的に供給される。これは、従来の小口径のU形状のチューブを地中に埋設するようなケースに比べて有利である。さらに、本実施形態では単位アレイ10−1、10−2を直列に接続するので、温熱出力運転、あるいは後述する冷熱出力運転における熱媒流体の交換熱量を大きくできる。
【0065】
図5の説明に戻る。本実施形態では、高温域ポートHから吐出される熱媒流体の温度を温度計T1で計測しており、予め設定した下限値である17℃を超えている場合は温熱出力運転を続ける(S6:Yes)が、17℃以下になると(S6:No)、温熱出力を終了してシステムを一旦休止する(S14)。なお、この時点では熱媒流体の
図1の箇所イでの温度が17℃、箇所二での温度は7℃であり(
図6(b)参照)、7℃の熱媒流体が低温域ポートLに戻っている。
【0066】
以上の温熱出力運転を行うと地中熱交換システム10内の熱媒流体の温度は低下する。本実施形態では、温熱出力運転終了時の地中熱交換システム10内の熱媒流体の温度分布が、
図7(b)に示すように、
図7(a)の温度分布より全体的に約5℃低い値となる。この熱媒流体が冷熱を排熱することにより、二重管13の周囲の地盤温度も徐々に低下する。
【0067】
(1−2.温熱AR運転)
次に、熱利用システム1の制御部は、温熱AR運転の開始時間(例えば12時、
図6(a)参照)になる(S3:ARモード、S9:温熱AR運転)と、温熱ARを開始する。
【0068】
温熱ARの開始時の地中熱交換システム10内の熱媒流体の温度分布の例を、
図7(c)に示す。この時の温度分布は、上記の冷排熱により
図7(b)の温度分布から全体的に若干(α
0℃)上昇した状態である。
【0069】
温熱AR運転は、太陽熱ヒートポンプ31を利用した熱交換によりループ管21を循環する熱媒流体の昇温を行い、二重管13の周囲の地盤温度を上昇させるために実行される。本実施形態では、太陽熱ヒートポンプ31の集熱効率が高く熱媒流体の昇温時の運転効率の良い昼間に温熱AR運転を行う。
【0070】
温熱AR運転を行う際、熱利用システム1の制御部は、ポンプ22を稼働させ、
図6(b)で示すように四方弁24の切り替えを行い、ループ管21の箇所aと箇所d、および箇所bと箇所cとを接続する。この状態を
図8に示す。これにより、地中熱交換システム10の低温域ポートLが熱媒流体の吐出側となり、高温域ポートHが熱媒流体の戻り側となる(S10)。
【0071】
温熱AR運転では、単位アレイ10−1の二重管13の外管13aの下端部から低温の熱媒流体を取り出し、低温域ポートLから吐出する。この熱媒流体はループ管21を流れ、太陽熱ヒートポンプ31の熱交換部31aで温度上昇する。温度上昇した熱媒流体は戻り側の高温域ポートHに戻り、単位アレイ10−2の二重管13の外管13aの上端部に流入する。なお、温熱AR中はヒートポンプ30は運転しない。
【0072】
本実施形態では1台の太陽熱ヒートポンプ31の熱交換部31aでの熱交換により熱媒流体の温度が5℃上昇するものとし、これを2台設けて10℃上昇させる。
【0073】
例えば、運転開始時、
図8の箇所イでの熱媒流体の温度は(7+α
0)℃であり、これが熱交換部31aでの熱交換により温度上昇し、箇所二での温度が(17+α
0)℃となって(
図6(b)参照)、高温域ポートHに戻る。
【0074】
温熱AR運転を続け熱媒流体の循環を行うと、単位アレイ10−1、10−2内の熱媒流体が、低温のものから順にループ管21に吐出されるので、低温域ポートLから吐出される熱媒流体の温度は徐々に上昇する。
【0075】
本実施形態では、低温域ポートLから吐出される熱媒流体の温度を温度計T2で計測しており、予め設定した上限値である(12+α
1)℃を下回る場合は温熱AR運転を続ける(S11:Yes)が、(12+α
1)℃以上になると(S11:No)、太陽熱ヒートポンプ31の稼働を終了してシステムを一旦休止する(S14)。なお、この時点では熱媒流体の
図8の箇所イでの温度が(12+α
1)℃、箇所二での温度は(22+α
1)℃であり(
図6(b)参照)、(22+α
1)℃の熱媒流体が高温域ポートHに戻っている。
【0076】
このように、本実施形態では、まず、温熱AR運転を行って、太陽熱ヒートポンプ31を稼働し、二重管13内の熱媒流体の温度を上昇させる(
図6(a)の「温熱AR」参照)。温熱AR終了時の熱交換システム10内の熱媒流体の温度分布の例を
図7(d)に示す。例えば、単位アレイ10−1の二重管13下部では、(12+α
1)℃となっている。
【0077】
そして、本実施形態では、その後太陽熱ヒートポンプ31の稼働を行うことなく、地中熱交換システム10の熱媒流体の温熱の排熱により、周囲の地盤の温度を徐々に上昇させる(
図6(a)の「周囲地盤AR」参照)。周囲地盤のARは、二重管13内の熱媒流体と二重管13の周囲地盤の温度分布が同様になると終了する。
【0078】
上記のα
1は、周囲地盤のARの終了までに、二重管13内の熱媒流体が周囲地盤に排熱する温熱の量を考慮した付加制御値である。付加制御値α
1は、周囲地盤のAR終了時に、二重管13内の熱媒流体の温度分布が
図7(a)に示す制御値に戻るように定める。前記のS11における判定値(12+α
1)℃は、単位アレイ10−1の二重管13下部の温度の制御値(12℃、
図7(a)参照)に、付加制御値α
1を加えた値として規定したものである。
【0079】
付加制御値α
1は、例えば、上記の排熱量をQ
1(J)とし、地中熱交換システム10の二重管13内の熱媒流体の熱容量C(J/K)としたときに、Q
1=C・α
1を満たすように定めることができる。ここで、熱容量Cは、熱媒流体の密度をρ(kg/m
3)、比熱をC
p(J/kg・K)、容積をV(m
3)としたときに、C=ρ・C
p・Vで求められる。
【0080】
これにより、二重管13の周囲地盤の温度は、6時間程度で温熱出力開始前の状態に回復する。この時、二重管13内の温度分布も
図7(a)に示す初期状態に戻っている。
【0081】
冬季には、以上に示すように温熱出力運転と温熱AR運転を繰り返し、適宜、熱媒流体と地盤の温度回復を行いつつ、熱媒流体を熱源として暖房運転等を行うことができる。
【0082】
(2−1.冷熱出力運転)
熱利用システム1の制御部は、夏季において、冷熱出力運転が行われる時間(例えば8時、
図6(a)参照)となれば(S3:熱出力モード、S4:冷熱出力運転)、冷熱出力運転を開始する。冷熱出力運転開始時の地中熱交換システム10内の熱媒流体の温度分布を、
図7(e)に示す。これも前記の
図4と同様の分布であり、二重管13周囲の地盤の温度分布も二重管13の温度分布と同様となっている。
【0083】
冷熱出力運転は、ヒートポンプ30での熱交換を利用して冷房を行う際に実行される。冷熱出力運転を行う際、熱利用システム1の制御部は、ポンプ22を稼働させ、
図6(b)で示すように四方弁24の切り替えを行って、前記の
図8で示すように、ループ管21の箇所aと箇所d、および箇所bと箇所cとを接続する。これにより、地中熱交換システム10の低温域ポートLが熱媒流体の吐出側となり、高温域ポートHが熱媒流体の戻り側となる(S7)。
【0084】
冷熱出力運転では、単位アレイ10−1の外管13aの下端部から低温の熱媒流体を取り出し、低温域ポートLから吐出する。この熱媒流体はループ管21を流れ、ヒートポンプ30の熱交換部30aに通される。ヒートポンプ30は、熱媒流体を熱源として熱交換部30aにて熱交換を行い室温を降温させ、ヒートポンプ30の温排熱によって熱媒流体の温度は上昇する。高温となった熱媒流体は戻り側の高温域ポートHに戻り、単位アレイ10−2の二重管13の外管13aの上端部に流入する。なお、冷熱出力中は太陽熱ヒートポンプ31は運転しない。
【0085】
本実施形態では1台のヒートポンプ30の熱交換部30aでの熱交換により、熱媒流体の温度が5℃上昇するものとする。ヒートポンプ30は2台設けているので、これらの熱交換部30aにおける熱交換により熱媒流体の温度は10℃上昇する。
【0086】
例えば、運転開始時、
図8の箇所イでの熱媒流体の温度は12℃であり、これが熱交換部30aでの熱交換により温度上昇し、箇所二の温度が22℃となって(
図6(b)参照)、高温域ポートHに戻る。
【0087】
冷熱出力運転を続け熱媒流体の循環を行うと、単位アレイ10−1、10−2内の熱媒流体が、低温のものから順にループ管21に吐出されるので、低温域ポートLから吐出される熱媒流体の温度は徐々に上昇する。
【0088】
なお、運転開始時は、単位アレイ10−1の二重管13の外管13a下部の周囲の地盤温度は12℃程度である。これにより、冷熱出力運転を続ける際も熱媒流体が外管13aの下部で冷やされる効果がある。加えて、冷熱出力時でも外管13aを流れる熱媒流体の流速は0.3m/min程度と遅く制御するので、低温域ポートLから吐出される熱媒流体の温度変化は緩やかになり、低温の熱媒流体が安定的に供給される。
【0089】
図5の説明に戻る。本実施形態では、低温域ポートLから吐出される熱媒流体の温度を温度計T2で計測しており、予め設定した上限値である17℃を下回る場合は冷熱出力運転を続ける(S8:Yes)が、17℃以上になると(S8:No)、冷熱出力を終了してシステムを一旦休止する(S14)。なお、この時点では熱媒流体の
図8の箇所イでの温度が17℃、箇所二の温度は27℃であり(
図6(b)参照)、27℃の熱媒流体が高温域ポートHに戻っている。
【0090】
以上の冷熱出力運転を行うと地中熱交換システム10内の熱媒流体の温度は上昇する。本実施形態では、冷熱出力運転終了時の地中熱交換システム10内の熱媒流体の温度分布が、
図7(f)に示すように、
図7(e)の温度分布より全体的に約5℃高い値となる。この熱媒流体が温熱を排熱することにより、二重管13の周囲の地盤温度も徐々に上昇する。
【0091】
(2−2.冷熱AR運転)
次に、熱利用システム1の制御部は、冷熱AR運転の開始時間(例えば翌0時、
図6(a)参照)になる(S3:ARモード、S9:冷熱AR運転)と、冷熱ARを開始する。
【0092】
冷熱ARの開始時の地中熱交換システム10内の熱媒流体の温度分布の例を、
図7(g)に示す。この時の温度分布は、上記の温排熱により
図7(f)の温度分布から全体的に若干(α
0℃)低下した状態である。
【0093】
冷熱AR運転は、太陽熱ヒートポンプ31を利用した熱交換によりループ管21を循環する熱媒流体の降温を行い、二重管13の周囲の地盤温度を低下させるために実行される。本実施形態では、太陽熱ヒートポンプ31からの放熱量を多くでき熱媒流体の降温時の運転効率の良い夜間に冷熱AR運転を行う。
【0094】
冷熱AR運転を行う際、熱利用システム1の制御部は、ポンプ22を稼働させ、
図6(b)で示すように四方弁24の切り替えを行い、前記の
図1で示すように、ループ管21の箇所aと箇所b、および箇所cと箇所dとを接続する。これにより、地中熱交換システム10の高温域ポートHが熱媒流体の吐出側となり、低温域ポートLが熱媒流体の戻り側となる(S12)。
【0095】
冷熱AR運転では、単位アレイ10−2の二重管13の外管13aの上端部から高温の熱媒流体を取り出し、高温域ポートHから吐出する。この熱媒流体はループ管21を流れ、太陽熱ヒートポンプ31の熱交換部31aで温度低下する。温度低下した熱媒流体は戻り側の低温域ポートLに戻り、単位アレイ10−1の二重管13の内管13bを経由して外管13aの下端部に戻る。なお、冷熱AR中はヒートポンプ30は運転しない。
【0096】
本実施形態では1台の太陽熱ヒートポンプ31の熱交換部31aによる熱交換により熱媒流体の温度が5℃低下するものとし、これを2台設けて10℃低下させる。
【0097】
例えば、運転開始時、
図1の箇所イでの熱媒流体の温度は(27−α
0)℃であり、これが熱交換部31aでの熱交換により温度低下し、箇所二での温度が(17−α
0)℃となって(
図6(b)参照)、低温域ポートLに戻る。
【0098】
冷熱AR運転を続け熱媒流体の循環を行うと、単位アレイ10−1、10−2内の熱媒流体が、高温のものから順にループ管21に吐出されるので、高温域ポートHから吐出される熱媒流体の温度は徐々に低下する。
【0099】
本実施形態では、高温域ポートHから吐出される熱媒流体の温度を温度計T1で計測しており、予め設定した下限値である(22−α
2)℃を超える場合は冷熱AR運転を続ける(S13:Yes)が、(22−α
2)℃以下になると(S13:No)、太陽熱ヒートポンプ31の運転を終了してシステムを一旦休止する(S14)。なお、この時点では
図1の箇所イでの熱媒流体の温度が(22−α
2)℃、箇所二の熱媒流体の温度は(12−α
2)℃であり(
図6(b)参照)、(12−α
2)℃の熱媒流体が低温域ポートLに戻っている。
【0100】
このように、本実施形態では、前記と同様、まず冷熱AR運転を行って、太陽熱ヒートポンプ31を稼働し、二重管13内の熱媒流体の温度を低下させる(
図6(a)の「冷熱AR」参照)。冷熱AR終了時の熱交換システム10内の熱媒流体の温度分布の例を
図7(h)に示す。例えば、単位アレイ10−2の二重管13上部では、(22−α
2)℃となっている。
【0101】
そして、その後太陽熱ヒートポンプ31の稼働を行うことなく、地中熱交換システム10の熱媒流体の冷熱を用いて、周囲の地盤の温度を徐々に低下させる(
図6(a)の「周囲地盤AR」参照)。前記と同様、周囲地盤のARは、二重管13内の熱媒流体と二重管13の周囲地盤の温度分布が同様になると終了する。
【0102】
上記のα
2は、周囲地盤のARの終了までに、二重管13内の熱媒流体が周囲地盤に排熱する冷熱の量を考慮した付加制御値である。付加制御値α
2は、周囲地盤のAR終了時に、二重管13内の熱媒流体の温度分布が
図7(e)に示す制御値に戻るように定める。前記のS13における判定値(22−α
2)℃は、単位アレイ10−2の二重管13上部の温度の制御値(22℃、
図7(e)参照)に、付加制御値α
2を減じた値として規定したものである。付加制御値α
2は、前記と同様、例えば、上記の排熱量をQ
2(J)としたときにQ
2=C・α
2を満たすように定めることができる。
【0103】
これにより、二重管13の周囲地盤の温度は、8時間程度で冷熱出力開始前の状態に回復する。この時、二重管13内の温度分布も
図7(e)に示す初期状態に戻っている。
【0104】
夏季には、以上に示すように冷熱出力運転と冷熱AR運転を繰り返し、適宜、熱媒流体と地盤の温度回復を行いつつ、熱媒流体を熱源として冷房運転等を行うことができる。
【0105】
以上説明したような冬季あるいは夏季のサイクルにおいて、二重管13内の熱媒流体の温度および二重管13周囲の地盤温度は普遍的には17±5℃の範囲で維持されるため、地中熱交換システム10の外側にある地盤恒温層の温度を、17℃程度でほぼ維持することが可能である。
【0106】
また、地盤内の温度影響範囲は二重管13の周囲0.3〜1m程度であり、二重管13の配置間隔はこれに合わせたものである。これらの範囲の地盤の温度を適宜回復しながら熱利用システム1を運転することにより、二重管13間の間隔を大きくとらずとも温熱出力や冷熱出力運転等を好適にできるので、小さな設置スペースで地中熱交換システム10を配置でき、ビルの駐車場やエントランス下など限定的な範囲で配置できる利点がある。
【0107】
(ARの作用)
上記したように、本実施形態では、AR時、熱媒流体の温度が設定値に達した後は、太陽熱ヒートポンプ31の稼働を行うことなく、地中熱交換システム10の熱媒流体の熱を用いて、二重管13周囲の地盤温度を回復している。
図9は、冷熱ARにより約22℃の地盤を約17℃にまで低下させる際の地盤温度の変化を模式的に示す。図は二重管13から平面上約0.3m離れた地点における温度変化である。図に示すように、地盤温度は緩やかに低下し、8時間程度で5℃低下する。
【0108】
従来、周囲地盤のARを行う際は、太陽熱ヒートポンプ31等による熱媒流体に対する熱交換を、周囲地盤の温度が回復するまで継続的に行っていた。しかしながら、
図9のグラフから判るように、地盤の伝熱速度は遅く、例えば冷熱ARの場合では、地盤の温度が低下する前に、熱媒流体の温度が低下しすぎて必要以上にエネルギーを消費する恐れがある。
【0109】
そこで、これを防ぐために熱媒流体の温度を制御に用いた場合でも、地盤温度が回復する前に、
・熱媒流体が設定温度未満になり熱交換停止
・熱媒流体より高温な周囲地盤により熱媒流体の温度が上昇
・熱媒流体が設定温度以上になり熱交換再開
というような制御を繰り返すことになり、運転効率は低くなる。これは温熱AR時でも同様である。
【0110】
一方、本実施形態では、上記のように大口径の二重管13を複数用いて地中熱交換システム10における熱媒流体の熱容量を大きくし、AR時では、太陽熱ヒートポンプ31での熱交換により熱媒流体の温度を設定温度とした後は、太陽熱ヒートポンプ31を停止して、地中熱交換システム10内の熱媒流体を用いて周囲の地盤温度を回復するので、AR時の効率を高めることができる。ただし、場合によっては、上記したような熱媒流体の温度による制御を行いながら、周囲地盤の温度が回復するまで太陽熱ヒートポンプ31等による熱媒流体に対する熱交換を続けてもよい。
【0111】
以上説明したように、本実施形態では、地盤温度の回復を行う際に、まず太陽熱ヒートポンプ31を運転して熱媒流体の温度を変化させるが、その後は太陽熱ヒートポンプ31を停止し、温度変化後の熱媒流体により地盤温度を回復させる。熱媒流体の温度は、地盤の温度と比較して短時間で変化するので、地盤温度の回復のため太陽熱ヒートポンプ31を長時間運転することがなく、省エネルギーが実現できる。また、負荷側での熱交換によって変化した地盤温度を回復することで、地盤の温度変化により熱利用システム1の省エネルギー性能が低下することを防ぐことができる。
【0112】
すなわち、本実施形態では、外径200mm程度の大口径の二重管13を用いることで、二重管13内の熱媒流体の熱容量を大きくし、短時間・大容量のAR熱量を無駄なく二重管13内の熱媒流体に蓄熱できる。二重管13内の熱媒流体のARは単位アレイあたり約30分と短時間で完了する。負荷側での熱交換についても、二重管13内の熱媒流体により大きな熱需要に対応できる利点がある。
【0113】
一方、地盤の熱伝導率は小さいため周囲地盤のARには6〜8時間必要であるが、上記により一旦二重管13内の熱媒流体に蓄熱される熱容量は、例えば通常のUチューブの約100倍と大きいため、太陽熱ヒートポンプ31の停止後も熱媒流体から周囲の地盤への2次的なARを好適に行うことができる。従って、ARに要する太陽熱ヒートポンプ31の運転時間は大幅に短縮され、消費電力の低減となる。
【0114】
また、地中熱交換システム10では、温度成層効果を有する二重管13内に、上部高温、下部低温の温度成層を形成することができ、かつARによって二重管13周囲の地盤温度が温度成層に沿った温度分布に回復するので、冷熱出力時には低温域の二重管13下部から負荷側に低温で安定した熱媒流体を供給し、温熱出力時には高温域の二重管13上部から負荷側に高温で安定した熱媒流体を供給し、負荷側での熱交換を高効率に行うことができる。また、単位アレイを直列に接続することで熱容量を増やすとともに、熱媒流体のアレイ通過時間を需要時間に合わせることで、冷暖房等のピーク時に生じる大容量・短時間の熱需要に対して、数時間継続する安定した温度の熱媒流体を供給することができる。
【0115】
また、本実施形態では、ループ管21に設けた四方弁24により高温域ポートHと低温域ポートLにおける熱媒流体の入出力を切り替えて、負荷側での熱交換時と、地盤温度回復時の運転を好適に行うことができる。
【0116】
加えて、本実施形態では、太陽熱ヒートポンプ31を運転効率のよい時間帯で運転してARを行い、二重管13内の熱媒流体と周囲地盤の温度回復に利用する。これにより温度回復された熱媒流体等を、熱需要の高い時間帯に、ヒートポンプ30の熱交換における熱源として利用することで、太陽熱ヒートポンプ31の熱出力と熱需要のアンマッチングを熱利用システム1全体で解消することができる。
【0117】
以上により、高いシステムCOP達成による省エネルギー効果が得られる。すなわち、上記した効果により、ヒートポンプ30、ポンプ22、太陽熱ヒートポンプ31及び地中熱交換システム10等、熱利用システム1全体の省エネルギー性能は大きく改善される。
【0118】
しかしながら、本発明は上記に説明したものに限らない。例えば、負荷側のヒートポンプ30は空調以外の用途に用いるものであってもよいし、太陽熱ヒートポンプ31に替えてその他の熱源機構を用いることも可能である。またこれらの機器とループ管の構成、あるいは入出力ポートの切替手段等も、上記に示したもの以外にも種々考えられる。その一例を第2の実施形態として以下説明する。
【0119】
[第2の実施形態]
図10は、第2の実施形態の熱利用システム1aを示す図である。この熱利用システム1aは、ヒートポンプ30を配置したループ管21aと、太陽熱ヒートポンプ31を配置したループ管21bとを別に設けたものである。これらのループ管21a、21bは両端部で合流し、地中熱交換システム10の高温域ポートHと低温域ポートLにそれぞれ接続される。
【0120】
ループ管21aには、ヒートポンプ30の熱交換部30aの他、ポンプ22a、開閉弁29a、29aが設けられる。ループ管21bには、太陽熱ヒートポンプ31の熱交換部31aの他、ポンプ22b、開閉弁29b、29bが設けられる。ポンプ22a、22bとしては、双方向ポンプが用いられる。
【0121】
温熱出力時および冷熱出力時には、開閉弁29a、29aを開き、開閉弁29b、29bを閉じる。そして、温熱出力時には、ポンプ22aにより、熱媒流体をループ管21aの矢印a1に示す方向に循環させる。一方、冷熱出力時では、熱媒流体をループ管21aの矢印a2に示す方向に循環させる。
【0122】
温熱AR時および冷熱AR時には、開閉弁29a、29aを閉じ、開閉弁29b、29bを開く。そして、温熱AR時には、ポンプ22bにより、熱媒流体をループ管21bの矢印b1に示す方向に循環させる。一方、冷熱AR時では、熱媒流体をループ管21aの矢印b2に示す方向に循環させる。
【0123】
以上の制御により、温熱出力、冷熱AR時には高温域ポートHが吐出側、低温域ポートLが戻り側になり、冷熱出力、温熱AR時には逆になる。
【0124】
熱利用システム1a全体の制御は、上記のようにして開閉弁29a、29a、29b、29bとポンプ22a、22bにより各ポートの入出力を切り替える以外は第1の実施形態と同様である。すなわち、第2の実施形態では開閉弁29a、29a、29b、29bとポンプ22a、22bが入出力ポートを切り替える入出力切替手段となっている。この第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0125】
[第3の実施形態]
図11に第3の実施形態の熱利用システム1bを示す。この熱利用システム1bは、
図1等で説明した第1の実施形態の熱利用システム1において、さらに、ループ管21に流向切替手段として四方弁25を設け、これによりループ管21内の流向を切り替え可能とした例である。
【0126】
ここで、ヒートポンプ30は、貯湯槽に貯めておいた給湯用の水を熱するために用いるものとする。この場合、ヒートポンプ30はできる限り水を高温とできるものが望ましく、第1の実施形態のように地中熱交換システム10からの温熱出力では十分でない恐れがある。
【0127】
そこで、第3の実施形態ではループ管21内の流向を四方弁25で切り替え、温熱出力時に、地中熱交換システム10の高温域ポートHから吐出した高温の熱媒流体を、太陽熱ヒートポンプ31で更に加熱し、ヒートポンプ30へ供給して熱源として用いる。
【0128】
すなわち、四方弁25により、図に示す箇所a’とd’、箇所b’とc’を接続した状態と、箇所a’とb’、箇所c’とd’を接続した状態とを切り替えることができる。四方弁24が箇所aとd、箇所bとcを接続した状態とすると、前者の場合には図の矢印26に示す方向に熱媒流体が流れ、後者の場合は図の矢印27に示す方向に熱媒流体が流れる。そして、前者の場合では、地中熱交換システム10の高温域ポートHから吐出された熱媒流体を太陽熱ヒートポンプ31でさらに加熱した後に、ヒートポンプ30の熱源として使用し、給湯用の水の加熱に使用することができる。
【0129】
なお、熱利用システム1bの制御は前記と同様にでき、温熱出力時に四方弁24、25の切り替えを行い流向を矢印26で示したものとし、温熱出力を終了する際の熱媒流体の設定温度を適当なものに定めればよい。温熱AR時、冷熱出力、冷熱AR時にも、各ポートの入出力と流向を適当なものに定めるように、四方弁24、25を切り替えればよい。
【0130】
この第3の実施形態でも、第1の実施形態と同様の効果が得られる。さらに、貯湯槽の水の加熱時等には、太陽熱ヒートポンプ31での加熱により熱媒流体の温度をさらに高め、負荷側での熱交換に用いることができる。なお、流向切替手段は、ループ管21における流向を切り替えることができるものであればよく、上記した四方弁25以外にも種々考えられる。例えば双方向ポンプを用いた構成なども可能である。
【0131】
[第4の実施形態]
本発明に係る地中熱交換システムでは、単位アレイを複数接続することにより、多段の入出力ポートを設定することが可能であり、ヒートポンプ30(空調用、給湯用など)の組み合わせ、稼働スケジュール、及び負荷に合わせて、地中熱交換システムからの熱出力の温度帯を設定し、柔軟性のあるシステムを構築できる。第4の実施形態では、地中熱交換システムの入出力ポートを1つ増やし、3つ設けた例を説明する。
【0132】
図12は、第4の実施形態における地中熱交換システム10aを示す。この地中熱交換システム10aは、第1の実施形態の単位アレイ10−1、10−2に加えてさらに単位アレイを2つ(10−3、10−4)直列に接続し、ポートを増やしたものである。
【0133】
各単位アレイは第1の実施形態と同様の構成であるが、本実施形態では、単位アレイ10−2の第4ヘッダー管4と、単位アレイ10−3の第3ヘッダー管3が配管6で直列に接続される。さらに、単位アレイ10−3の第4ヘッダー管4と単位アレイ10−4の第3ヘッダー管3とが配管7で接続される。これにより、単位アレイ10−1〜10−4が直列に接続される。
【0134】
そして、低温域のポートLが単位アレイ10−1の第3ヘッダー管3に、高温域のポートHが単位アレイ10−4の第4ヘッダー管4に設けられるとともに、配管6に中温域のポートMが設けられる。
【0135】
図13は、第4の実施形態における熱利用システム1cを示す。この熱利用システム1cは、上記のポートH、M、Lを、温熱あるいは冷熱の出力とARの温度帯に合わせて切り替える入出力切替手段として、四方弁24に加え、三方弁28a、28bを設けている。
【0136】
このように、第4の実施形態では、単位アレイの接続数を増やすことで、地中熱交換システム10a内の熱媒流体の温度差を拡げ、温度レベルに合わせて3段のポートを設置する。
【0137】
例えば、この地中熱交換システム10aでは、熱媒流体の最低温度(単位アレイ10−1の外管13aの下端部)を7℃、最高温度(単位アレイ10−4の外管13aの上端部)を27℃として温度差を第1の実施形態の2倍の20℃とできる。この場合では、高温域のポートHからは27℃の熱媒流体が、中温域のポートMからは17℃の熱媒流体が、低温域のポートLからは7℃の熱媒流体が吐出できる。
【0138】
地中熱交換システム10aでは、これらのポートの入出力の切り替えにより、以下の3通りの設定が可能になる。
設定(1) 使用ポート:ポートH・M
設定(2) 使用ポート:ポートM・L
設定(3) 使用ポート:ポートH・L
【0139】
熱利用システム1cの制御について、設定(1)は、吐出する熱媒流体の温度を高くできるので、温熱出力に適している。一方、設定(2)は、吐出する熱媒流体の温度を低くできるので、冷熱出力に適している。従って、温熱出力・冷熱出力時で設定(1)、(2)を切り替えることが考えられる。
【0140】
例えば、温熱出力する場合、設定(1)として、四方弁24の接続と三方弁28a、28bの通水側を切り替えることにより、高温の熱媒流体を高温域ポートHからループ管21に吐出し、熱交換後の中温の熱媒流体を中温域ポートMから地中熱交換システム10aへ戻す。そして、中温域ポートMに戻される熱媒流体の温度(T2)が設定温度となった時点で温熱出力は終了する。
【0141】
なお、温熱AR運転の場合は、設定(1)の状態で四方弁24を切り替えることにより、中温域ポートMから吐出した熱媒流体を太陽熱ヒートポンプ31で暖め、高温域ポートHから地中熱交換システム10aへ戻す。そして、中温域ポートMから吐出される熱媒流体の温度(T2)が設定温度となった時点で太陽熱ヒートポンプ31の運転は休止し、熱媒流体の熱を用いて引き続き周囲の地盤温度のARを行えばよい。
【0142】
一方、冷熱出力する場合、設定(2)として、四方弁24の接続と三方弁28a、28bの通水側を切り替えることにより、低温の熱媒流体を低温域ポートLからループ管21に吐出し、熱交換後の中温の熱媒流体を中温域ポートMから地中熱交換システム10aへ戻す。そして、中温域ポートMに戻される熱媒流体の温度(T1)が設定温度となった時点で冷熱出力は終了する。
【0143】
冷熱AR運転の場合は、設定(2)の状態で四方弁24を切り替えることにより、中温域ポートMから吐出した熱媒流体を太陽熱ヒートポンプ31で冷やし、低温域ポートLから地中熱交換システム10aへ戻す。そして、中温域ポートMから吐出される熱媒流体の温度(T1)が設定温度となった時点で太陽熱ヒートポンプ31の運転は休止し、熱媒流体の熱を用いて引き続き周囲の地盤温度のARを行えばよい。
【0144】
これらは、春・秋の中間期のように、一日のうちで暖房と冷房が時間帯で切り替わる場合や、生産施設のように通年冷房が必要な空間と事務室のように冷暖房が必要な空間が混在する場合に特に有効である。
【0145】
さらに、設定(3)では、地中熱交換システム10の熱容量が設定(1)、(2)の2倍とみなせるので、盛夏時は、低温域ポートLから熱媒流体を吐出し、高温域ポートHを熱媒流体の戻り側として、より長期間あるいはより大きな負荷量の冷房に用いることも可能である。これと同様に、厳冬期には、高温域ポートHから熱媒流体を吐出し、低温域ポートLを熱媒流体の戻り側とし、より長期間あるいはより大きな負荷量の暖房あるいは給湯に用いることも可能である。
【0146】
このように、第4の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、入出力ポートを多段にすることによって、熱需要に合わせて柔軟性のあるシステムが構築でき、運転効率の向上につながる。なお、3ポート以上の多段ポートも可能であり、使用温度帯をさらに拡大することが可能となる。
【0147】
[第5の実施形態]
図14は、第5の実施形態の地中熱交換システム10bを示す図である。この地中熱交換システム10bは、4つの単位アレイ10−1〜10−4をエの字型に配置して構成されたものである。
【0148】
すなわち、地中熱交換システム10bでは、単位アレイ10−1、10−3の第4ヘッダー管4同士が配管8で接続されるとともに、単位アレイ10−2、10−4の第3ヘッダー管3同士が配管9で接続される。配管8、9にはそれぞれチャッキ弁12a、12bが設けられる。
【0149】
配管8、9は、チャッキ弁12a、12bの単位アレイ10−1、10−2側で配管2aにより接続され、単位アレイ10−3、10−4側が配管2bにより接続される。単位アレイ10−1、10−3の第3ヘッダー管3には低温域ポートL1、L2がそれぞれ設けられ、単位アレイ10−2、10−4の第4ヘッダー管4にはそれぞれ高温域ポートH1、H2が設けられる。また、各ポートL1、L2、H1、H2には開閉弁18a〜18dがそれぞれ設けられる。
【0150】
この地中熱交換システム10bでは、少なくとも以下の5パターンの入出力が可能になる。
パターン(1) 低温域ポートL1、高温域ポートH1
パターン(2) 低温域ポートL1、高温域ポートH2
パターン(3) 低温域ポートL2、高温域ポートH1
パターン(4) 低温域ポートL2、高温域ポートH2
パターン(5) 低温域ポートL1・L2、高温域ポートH1・H2
【0151】
例えば、開閉弁18a、18cを開き、開閉弁18b、18dを閉じて低温域ポートL1、高温域ポートH1を使用してパターン(1)での運転を終えた後、開閉弁18a〜18dの開閉を逆転させ低温域ポートL2、高温域ポートH2を使用してパターン(4)での運転に切り替えることで、熱出力時間を2倍に継続することができる。
【0152】
また、例えば空調時に通常の2倍の負荷量である場合は、開閉弁18a〜18dを開いて、低温域ポートL1・L2、高温域ポートH1・H2を使用してパターン(5)での運転とすることで対応可能になる。
【0153】
さらに、冷熱出力と温熱出力が同時に必要な場合では、開閉弁18a〜18dを開いて、パターン(1)を温熱出力とし、パターン(4)を冷熱出力とするか、あるいはパターン(1)を冷熱出力とし、パターン(4)を温熱出力とすることでこれらに対応することも可能である。
【0154】
なお、チャッキ弁12a、12bはこの時閉となり、パターン(1)で使用される熱媒流体とパターン(4)で使用される熱媒流体が混合しないように設ける。例えば、パターン(1)を温熱出力とし、パターン(4)を冷熱出力とする場合、配管8、9、2a、2b等では図の矢印e1、e2に示すように熱媒流体がそれぞれ流れるので、これらの混合を防ぐために、チャッキ弁12a、12bは、それぞれ図のf1、f2に示す方向の流れを遮断するものであればよい。
【0155】
この場合でも、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、室負荷が設定を越えた場合や負荷パターンが著しく変動する場合に柔軟な熱出力が可能になり、運転効率の向上につながる。なお、配管2a、2bに替えて上記で説明したような単位アレイを配置することで、熱容量を増やすこともできる。
【0156】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。