特許第5953173号(P5953173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953173
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20160707BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20160707BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20160707BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20160707BHJP
   B23D 77/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   B23B51/00 M
   B23B51/00 S
   B23B27/14 B
   B23B27/14 C
   B23C5/10 Z
   B23C5/16
   B23D77/00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-173590(P2012-173590)
(22)【出願日】2012年8月6日
(65)【公開番号】特開2014-30882(P2014-30882A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502316304
【氏名又は名称】株式会社イシイコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 博之
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 仁秀
(72)【発明者】
【氏名】佐古田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太治
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】吉川 直人
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0278603(US,A1)
【文献】 特表平07−501753(JP,A)
【文献】 実開昭60−100110(JP,U)
【文献】 特開2009−274173(JP,A)
【文献】 特開平11−197921(JP,A)
【文献】 特開平03−277412(JP,A)
【文献】 特開昭59−175912(JP,A)
【文献】 実開昭64−016210(JP,U)
【文献】 実開昭63−193621(JP,U)
【文献】 実開昭63−004212(JP,U)
【文献】 実開昭58−070812(JP,U)
【文献】 欧州特許出願公開第00488623(EP,A2)
【文献】 米国特許第05065647(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
B23B 27/14
B23C 5/10
B23C 5/16
B23D 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削対象物を切削する切刃部を備えた切削工具において、
前記切刃部は、
第1切れ刃と、該第1切れ刃に連続する第1すくい面とを有する第1切刃部と、
前記第1切れ刃に隣り合う第2切れ刃と、該第2切れ刃に連続すると共に前記第1すくい面に隣り合う第2すくい面とを有する第2切刃部とを含み、
前記第1切刃部と前記第2切刃部とは、互いに異なる摩擦係数を有し、前記第1切刃部の前記第1すくい面と、前記第2切刃部の前記第2すくい面とは、互いに異なるすくい角を有することを特徴とする切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の切削工具において、
前記第1切刃部と前記第2切刃部とは、互い違いに配列されることを特徴とする切削工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の切削工具において、
前記第1および第2切刃部のうち、前記切削工具の最外周側に位置する一方は、他方よりも小さい摩擦係数を有することを特徴とする切削工具。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の切削工具において、
前記第1切刃部と前記第2切刃部とは、互いに異なる素材により形成されることを特徴とする切削工具。
【請求項5】
請求項に記載の切削工具において、
前記第1および第2切刃部の一方は、超硬材料により形成され、前記第1および第2切刃部の他方は、ダイヤモンド材料またはCBN材料により形成されることを特徴とする切削工具。
【請求項6】
請求項1から3の何れか一項に記載の切削工具において、
前記第1切刃部と前記第2切刃部とは、互いに異なる表面粗度を有するように同一の素材により形成されることを特徴とする切削工具。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の切削工具において、
前記第1および第2すくい面のうち、より小さい摩擦係数を有する一方は、他方よりも小さいすくい角を有することを特徴とする切削工具。
【請求項8】
請求項1からの何れか一項に記載の切削工具において、
ドリル、エンドミル、リーマ、切削チップの何れかとして構成されることを特徴とする切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削対象物を切削する切刃部を備えた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の切削工具として、切削対象物としてのワークを切削する切削刃と、切削刃に連続し、ワークの切削により生成される切屑をすくい取るすくい面と、すくい面に連続して設けられると共にすくい面によってすくい取られる切屑を切断する壁面を含むチップブレーカと、切削刃の刃面に間隔をおいて形成された複数のニックとを備えたニック付ドリルが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、この種の切削工具としては、切刃が少なくとも2種類の基材により構成されると共に、回転軸に対して径方向の外周側に、径方向の内周側の基材よりも、耐摩耗性の高い基材を備えた1枚刃のドリル用切削インサートも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−093059号公報
【特許文献2】特開2004−291144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された切削工具によれば、複数のニック(切り込み)の各々が切削刃によるワークの切削により生成されると共に切削刃の延在方向に向けて伸びる切屑を切断する機能を有することから、切屑を細かくすることができる。しかしながら、ニックは切削工具の使用と共に浅くなるものであることから、特許文献1に記載された切削工具において、切屑を細かく分断する機能を維持するためには頻繁な再研磨が要求される。また、特許文献1に記載された切削工具では、刃面に複数のニックを形成することによる切削刃の耐久性の悪化も懸念される。一方、特許文献2に記載された切削工具では、被削材に対する切削速度が高い外周部を耐磨耗性の高い材料により形成することで高速切削による外周部の磨耗を抑制し、工具寿命を向上させることができるが、当該特許文献2は、切屑を細かく分断することについて何ら開示していない。
【0005】
そこで、本発明は、長期にわたって切屑を細かく分断可能であると共に、工具寿命を向上させることができる切削工具の提供を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による切削工具は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0007】
本発明による切削工具は、
切削対象物を切削する切刃部を備えた切削工具において、
前記切刃部は、
第1切れ刃と、該第1切れ刃に連続する第1すくい面とを有する第1切刃部と、
前記第1切れ刃に隣り合う第2切れ刃と、該第2切れ刃に連続すると共に前記第1すくい面に隣り合う第2すくい面とを有する第2切刃部とを含み、
前記第1切刃部と前記第2切刃部とは、互いに異なる摩擦係数を有することを特徴とする。
【0008】
この切削工具の切刃部は、第1切れ刃と、当該第1切れ刃に連続する第1すくい面とを有する第1切刃部と、第1切れ刃に隣り合う第2切れ刃と、当該第2切れ刃に連続すると共に第1すくい面に隣り合う第2すくい面とを有する第2切刃部とを含む。そして、第1切刃部と第2切刃部とは、互いに異なる摩擦係数を有する。これにより、第1切刃部および第2切刃部のうちのより小さい摩擦係数を有する一方では、切削対象物の切削によって生じる切屑が第1または第2すくい面から速やかに離間するのに対して、第1切刃部および第2切刃部のうちのより大きい摩擦係数を有する他方では、切削対象物の切削によって生じる切屑が第1または第2すくい面から離れ難くなる。この結果、この切削工具によれば、互いに異なる摩擦係数を有する第1切刃部と第2切刃部との境界で、切刃部による切削対象物の切削によって生じる切屑を細かく分断することができる。また、この切削工具が長期にわたって使用されても、第1切刃部と第2切刃部との摩擦係数の差が極端に小さくなることはなく、切刃部にニックを形成した場合に比べて、再研磨の実行サイクルを長くすることができる。そして、この切削工具では、切刃部の切削速度が高まる箇所に第1および第2切刃部のうちのより小さい摩擦係数を有する一方を配置することで、当該箇所の摩耗を抑制し、工具寿命を向上させることができる。従って、この切削工具によれば、長期にわたって切屑をより細かく分断すると共に、工具寿命を向上させることが可能となる。
【0009】
また、前記第1切刃部と前記第2切刃部とは、互い違いに配列されてもよい。これにより、切刃部(稜線)の延在方向において、第1および第2切刃部の少なくとも何れか一方の両側に第1および第2切刃部の他方が配置され、切刃部には、第1切刃部と第2切刃部との境界が複数形成されることになる。この結果、切刃部による切削対象物の切削によって生じる切屑をより細かく分断することが可能となる。
【0010】
更に、前記第1および第2切刃部のうち、前記切削工具の最外周側に位置する一方は、他方よりも小さい摩擦係数を有してもよい。これにより、切削速度が高まる切刃部の外周部の摩耗を抑制し、工具寿命をより向上させることが可能となる。
【0011】
また、前記第1切刃部と前記第2切刃部とは、互いに異なる素材により形成されてもよい。これにより、第1切刃部と第2切刃部とで摩擦係数を容易に異ならせると共に、両者間の摩擦係数の差を設定する際の自由度を高めることが可能となる。
【0012】
更に、前記第1切刃部と前記第2切刃部とは、互いに異なる表面粗度を有するように同一の素材により形成されてもよい。これにより、第1切刃部と第2切刃部とを容易に形成することが可能となる。
【0013】
また、前記第1切刃部の前記第1すくい面と、前記第2切刃部の前記第2すくい面とは、互いに異なるすくい角を有してもよい。これにより、第1切刃部と第2切刃部との境界での切屑の分断をより促進させることが可能となる。
【0014】
更に、前記第1および第2すくい面のうち、より小さい摩擦係数を有する一方は、他方よりも小さいすくい角を有してもよい。これにより、第1切刃部および第2切刃部のうちのより小さい摩擦係数を有する一方で、切削対象物の切削によって生じる切屑を第1または第2すくい面からより速やかに離間させることができるので、第1切刃部と第2切刃部との境界での切屑の分断をより一層促進させることが可能となる。
【0015】
また、前記第1および第2切刃部は、前記第1切れ刃と前記第2切れ刃とが連続した一本の稜線を形成しないように構成されてもよい。このように切刃部の稜線に凹凸を付与することにより、切削対象物の切削に際して、切削工具から切削対象物に付与される送り方向のスラスト力を低下させ、それにより切削工具の送り速度を高くすることが可能となる。
【0016】
更に、前記第1および第2切刃部の一方は、超硬材料により形成されてもよく、前記第1および第2切刃部の他方は、ダイヤモンド材料またはCBN材料により形成されてもよい。これにより、第1切刃部と第2切刃部との摩擦係数の差をより適正なものとして、第1切刃部と第2切刃部との境界での切屑の分断効果をより高めることが可能となる。
【0017】
そして、前記切削工具は、ドリル、エンドミル、リーマ、切削チップの何れかとして構成されるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による切削工具としてのドリル1を示す平面図である。
図2】ドリル1を示す正面図である。
図3】ドリル1を示す要部拡大図である。
図4】ドリル1を示す要部拡大図である。
図5】ドリル1により切削対象物Wが切削される様子を示す模式図である。
図6】(a)は、ドリル1と同様の構成を有する実施例のドリルを用いて切削対象物に穴あけ加工を施した際に得られた切屑の一例を示す説明図であり、(b)は、従来構造を有する比較例のドリルを用いて当該切削対象物に穴あけ加工を施した際に得られた切屑の一例を示す説明図である。
図7】他の実施形態に係るドリル1Bを示す要部拡大図である。
図8】更に他の実施形態に係るドリル1Cを示す正面図である。
図9】他の実施形態に係るドリル1Cを示す要部拡大図である。
図10】本発明による切削工具としてのエンドミル10を示す説明図である。
図11】本発明による切削工具としてのリーマ20を示す説明図である。
図12】本発明による切削工具としての切削チップ50を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明による切削工具であるドリル1を示す平面図である。同図に示すドリル1は、例えばアルミニウムやアルミニウム合金等といった金属材料からなる切削対象物に対する穴あけ加工に好適なものであり、例えば超硬合金といった超硬材料により同軸かつ一体に形成されたシャンク2および切削部3を含む。シャンク2は、ドリル1を回転駆動すると共に進退移動させる駆動装置に固定され部分である。また、切削部3は、ドリル1の回転に伴って切削対象物を切削する部分であり、二つの切刃部30や、逃げ面35、各切刃部30に連続する切屑排出面39等を有する。更に、本実施形態のドリル1には、図2に示すように、各切刃部30に冷却媒体を供給するために、軸方向に延びるオイルホール4が複数(本実施形態では、2つ)形成されている。
【0021】
ドリル1の各切刃部30は、図2および図3に示すように、ドリル1の軸方向に延びる1つの第1切刃部31と、当該第1切刃部31の両側に配置されると共にそれぞれドリル1の軸方向に延びる2つの第2切刃部32とを含む。第1切刃部31は、図3に示すように、比較的短尺の矩形帯状を呈しており、第1切れ刃31eと、当該第1切れ刃31eに連続する第1すくい面31sとを有する。また、各第2切刃部32は、ドリル1の径方向において第1切れ刃31eに隣り合う第2切れ刃32eと、当該第2切れ刃32eに連続すると共にドリル1の径方向において第1すくい面31sに隣り合う第2すくい面32sとを有する。すなわち、第1および第2切刃部31,32は、図3に示すように、当該第1切刃部31が2つの第2切刃部32の間に位置するようにドリル1の径方向に互い違いに配列され、2つの第2切刃部32のうちの一方は、ドリル1すなわち切刃部30の最外周部に位置する。そして、本実施形態において、2つの第2切刃部32は、図示するように、第1切刃部31よりも切屑排出面39側で一体化されている。
【0022】
また、第1切刃部31の第1切れ刃31eと、2つの第2切刃部32の第2切れ刃32eとは、図3に示すように、連続した1本の直線上の稜線を形成する。更に、第1切刃部31の第1すくい面31sと、第2切刃部32の第2すくい面32sとは、互いに異なるすくい角を有するように形成される。本実施形態では、図4に示すように、第2すくい面32sのすくい角α2が第1すくい面31sのすくい角α1がよりも小さく定められる。これにより、第1すくい面31sは、第1切れ刃31eから切屑排出面39側に向かうにつれて、第2すくい面31sよりも窪むことになる。従って、ドリル1の各切刃部30には、第1切れ刃31eおよび2つの第2切れ刃32eにより形成される1本の稜線よりも切屑排出面39側の領域に凹凸(段差)が形成されることになる。なお、実施例において、各切刃部30は、ドリル1の軸心より多少外周側の位置から最外周まで形成され、切刃部30同士は図2に示すように不連続となる。
【0023】
そして、上述の第1切刃部31は、ドリル1の全体を形成するものと同一の超硬合金(超硬材料)により形成される。これに対して、第2切刃部32は、当該超硬材料よりも小さい摩擦係数を有する人造ダイヤといったダイヤモンド材料あるいはCBN(立方晶窒化ホウ素)材料により形成される。これにより、第1切刃部と第2切刃部とは、切削対象物(切削箇所)に対して互いに異なる摩擦係数を有することになり、第2切刃部32すなわち第2切れ刃32eおよび第2すくい面32sの摩擦係数は、第1切刃部31すなわち第1切れ刃31eおよび第1すくい面31sの摩擦係数よりも小さくなる。更に、ドリル1すなわち切刃部30の外周部(最外周側)には、第1切刃部31に比べて小さい摩擦係数を有する第2切刃部32が配置されることになる。このような第1および第2切刃部31,32を含む切刃部30は、例えば、第2切刃部32を構成する人造ダイヤモンド等からなる薄厚のチップ(板体)にスリットを形成すると共に、当該スリットに第1切刃部31を構成する超硬合金等からなる細幅かつ薄厚のチップを嵌め込み、超硬合金等からなるチップが嵌め込まれた人造ダイヤモンド等からなるチップをドリル1に形成された取付面30a(図2参照)にろう付け等によって固定することよりに形成され得る。
【0024】
上述のように構成されるドリル1を用いて切削対象物(ワーク)Wを切削する際には、切削対象物Wの表面に切刃部30すなわち第1切れ刃31eおよび第2切れ刃32eが当接する状態で図示しない駆動装置によりドリル1を回転させながら、切削対象物Wに対して送り込む。この際、第1および第2切れ刃31e,32eによる切削対象物Wの切削に伴って切屑が生成され、当該切屑は、第1および第2すくい面31s,32sに乗り上げることで曲げ応力を受け、それによりせん断される。
【0025】
ここで、本実施形態のドリル1の各切刃部30には、第1および第2切刃部31,32がドリル1の径方向において互い違いに配列され、第1切刃部31の両側に当該第1切刃部31よりも小さい摩擦係数を有する第2切刃部32が存在する。このため、図5に示すように、第1切れ刃31eによる切削対象物Wの切削に伴って第1すくい面31sに乗り上げた切屑DC1は、第1切刃部31すなわち第1すくい面31sの摩擦係数が比較的大きく、当該切屑DC1と第1すくい面31sとの親和性が高く保たれることにより第1すくい面31sから離れ難くなる。これに対して、第1切れ刃31eの両側に位置する第2切れ刃32eによる切削対象物Wの切削に伴って第2すくい面32sに乗り上げた切屑DC2は、第2切刃部32すなわち第2すくい面32sの摩擦係数が小さく、当該切屑DC2と第2すくい面32sとの親和性が低いことにより第2すくい面32sから速やかに離間し、図5に示すようにカール(湾曲)する。
【0026】
従って、第1および第2切れ刃31e,32eによる切削対象物Wの切削に伴って生成された切屑は、上述のような摩擦係数の相違に起因して、一方の第2すくい面32sと第1すくい面31sとの境界および他方の第2すくい面32sと第1すくい面31sとの境界に沿って分断されることになる。この結果、ドリル1によれば、切刃部30による切削対象物Wの切削によって生じる切屑をより細かく分断することが可能となる。
【0027】
図6(a)に、上記実施形態のドリル1と同様の構成を有する本発明の実施例に係るドリルを用いてアルミ合金製の部材に穴あけ加工を施した際に得られた切屑の一例を示し、図6(b)に従来構造を有する比較例のドリルを用いて当該アルミ合金製の部材に穴あけ加工を施した際に得られた切屑の一例を示す。
【0028】
実施例のドリルおよび比較例のドリルは、何れも直径6.5mmの円孔を形成するためのものである。また、実施例のドリルの切刃部は、超硬材料により形成された第1切刃部と人造ダイヤモンドにより形成された2つの第2切刃部とを有する上記実施形態のドリル1の切刃部30と同様のものである。一方、比較例のドリルの切刃部は、実施例の第2切刃部のすくい面と同一のすくい角を有する一様平面状のすくい面を有するものであり、実施例の第1切刃部と同一の超硬材料すなわち実施例および比較例のドリルを形成する超硬材料からなるものである。更に、実施例のドリルのねじれ角は0°であり、比較例のドリルのねじれ角は10°である。そして、各ドリルの駆動条件は、回転数が10000rpm、送り量が0.1mm/revとされた。
【0029】
図6(a)および図6(b)に示すように、実施例のドリルおよび比較例のドリルによる穴あけ加工に際して得られた切屑は、いわゆる円錐らせん形や粉状扇形の切屑であった。そして、各切屑における目視により選択された複数箇所の寸法の平均値は、比較例のドリルにより得られた切屑では、およそ4mm弱であったのに対し、実施例のドリルにより得られた切屑では、およそ2mmであった。この結果から、上記実施形態のドリル1によれば、切刃部30による切削対象物Wの切削によって生じる切屑をより細かく分断可能となることが理解されよう。また、比較例のドリルでは、切削加工中にドリルから切削対象物に付与される送り方向のスラスト力の最大値がおよそ280Nであったのに対し、人造ダイヤモンドにより形成された第2切刃部を有する実施例のドリルでは、当該スラスト力の最大値が、およそ150Nまで低下した。
【0030】
以上説明したように、ドリル1の各切刃部30は、第1切れ刃31eと、当該第1切れ刃31eに連続する第1すくい面31sとを有する第1切刃部31と、第1切れ刃31eに隣り合う第2切れ刃32eと、当該第2切れ刃32eに連続すると共に第1すくい面31sに隣り合う第2すくい面32sとを有する第2切刃部32とを含む。そして、第1切刃部31と第2切刃部32とは、互いに異なる摩擦係数を有する。これにより、第2切刃部32よりも大きい摩擦係数を有する第1切刃部31による切削対象物の切削によって生じる切屑は、当該第1切刃部31の第1すくい面31sから離れ難くなるのに対して、第1切刃部31よりも小さい摩擦係数を有する第2切刃部32による切削対象物の切削によって生じる切屑は、当該第2切刃部32の第2すくい面32sから速やかに離間する。
【0031】
この結果、ドリル1によれば、互いに異なる摩擦係数を有する第1切刃部31と第2切刃部32との境界で、切刃部30による切削対象物の切削によって生じる切屑を細かく分断することができる。また、ドリル1が長期にわたって使用されても、第1切刃部31と第2切刃部32との摩擦係数の差が極端に小さくなることはなく、切刃部30にニックを形成した場合に比べて、再研磨の実行サイクルを長くすることができる。そして、ドリル1では、切削速度が高まる切刃部30の外周部(最外周側)に第1切刃部31に比べて小さい摩擦係数を有する第2切刃部32が配置されることから、切刃部30の外周部の摩耗を抑制し、工具寿命をより向上させることができる。従って、ドリル1によれば、長期にわたって切屑をより細かく分断すると共に、工具寿命を向上させることが可能となる。
【0032】
また、ドリル1では、第1切刃部31と第2切刃部32とが互い違いに配列され、切刃部30(稜線)の延在方向において、第1切刃部31の両側に第2切刃部32が配置される。これにより、切刃部30には、第1切刃部31と第2切刃部32との境界が複数形成されることから、切刃部30による切削対象物の切削によって生じる切屑をより細かく分断することが可能となる。
【0033】
なお、上記実施形態のドリル1の各切刃部30は、ドリル1の軸方向に延びる1つの第1切刃部31と、当該第1切刃部31の両側に配置されると共にそれぞれドリル1の軸方向に延びる2つの第2切刃部32とを含むものであるが、切刃部30の構成は、これに限られるものではない。すなわち、図7に示すドリル1Bのように、各切刃部30Bにそれぞれ複数の第1および第2切刃部31,32を互い違いに配列してもよい。これにより、切刃部30Bには、第1切刃部31と第2切刃部32との境界が多数形成されることから、切刃部30Bによる切削対象物の切削によって生じる切屑をより一層細かく分断することが可能となる。かかる構成は、比較的大きな直径を有する円孔を形成するためのドリルに適用されると極めて有用である。
【0034】
更にドリル1では、第1切刃部31と第2切刃部32とが互いに異なる素材により形成される。これにより、第1切刃部31と第2切刃部32とで摩擦係数を容易に異ならせると共に、両者間の摩擦係数の差を設定する際の自由度を高めることが可能となる。ただし、第1切刃部31と第2切刃部32とは、互いに異なる表面粗度を有するように同一の素材(例えば、例えばドリル1を形成する超硬材料)により形成されてもよい。このような構成を採用しても、第1切刃部31と第2切刃部32とを容易に形成することが可能となる。なお、第1すくい面31sの摩擦係数と、第2すくい面32sの摩擦係数とが異なっていれば、第1切れ刃31eの摩擦係数と第2切れ刃32eの摩擦係数とが同一となっていてもよい。
【0035】
また、ドリル1では、第1切刃部31の第1すくい面31sと、第2切刃部32の第2すくい面32sとが互いに異なるすくい角を有している。これにより、第1切刃部31と第2切刃部32との境界での切屑の分断をより促進させることが可能となる。そして、ドリル1では、第1すくい面31sよりも小さい摩擦係数を有する第2すくい面32sのすくい角α2が第1すくい面31sのすくい角α1よりも小さく定められている。これにより、第2切刃部32による切削対象物の切削によって生じる切屑を当該第2切刃部32の第2すくい面32sからより速やかに離間させることができるので、第1切刃部31と第2切刃部32との境界での切屑の分断をより一層促進させることが可能となる。ただし、上記ドリル1等において、第1および第2切刃部31,32の第1および第2すくい面31s,32sを面一に形成してもよい。これにより、切削対象物の切削によって生じる切屑を細かな針状にすると共に、第1および第2切刃部31,32の研磨性を向上させることが可能となる。
【0036】
なお、上記実施形態のドリル1の各切刃部30では、第1切刃部31の第1切れ刃31eと、2つの第2切刃部32の第2切れ刃32eとが連続した1本の直線上の稜線を形成するが、切刃部30の構成は、これに限られるものではない。すなわち、図8および図9に示すドリル1Cの切刃部30Cのように、第1および第2切刃部32を第1切れ刃31eと第2切れ刃32eとが連続した一本の稜線を形成しないように構成しつつ、第1すくい面31sのすくい角α1と、第2すくい面32sのすくい角α2とを異ならせてもよい。このように切刃部30Cの稜線に凹凸を付与することにより、切削対象物の切削に際して、ドリル1から切削対象物に付与される送り方向のスラスト力を低下させ、それによりドリル1の送り速度を高くすることが可能となる。更に、このように切刃部30Cの稜線に凹凸を付与することにより、ドリル1Cの各切刃部30Cには、第1切れ刃31eおよび2つの第2切れ刃32eよりも切屑排出面39側の領域に凹凸(段差)が形成されることになるので、第1すくい面31sのすくい角α1と第2すくい面32sのすくい角α2とを同一(0°を含む)にしてもよい。
【0037】
また、上記ドリル1において、第1切刃部31は、超硬材料により形成され、第2切刃部32は、ダイヤモンド材料またはCBN材料により形成される。これにより、第1切刃部31と第2切刃部32との摩擦係数の差をより適正なものとして第1切刃部31と第2切刃部32との境界での切屑の分断効果をより高めると共に、切削加工中にドリル1から切削対象物に付与される送り方向のスラスト力を低減することが可能となるなお、低摩擦材料としてのCBN材料は、切削対象物が比較的軟らかい金属等からなる鋳造品である場合に用いられるとよい。
【0038】
そして、本発明による切削工具は、上述のようなドリル1,1B,1Cに限られるものではない。
【0039】
すなわち、本発明による切削工具は、図10に示すようなエンドミルとして構成されてもよい。同図に示すエンドミル10の切刃部130は、第1切れ刃131eと、当該第1切れ刃131eに連続する第1すくい面131sとを有する第1切刃部131と、第1切れ刃131eに隣り合う第2切れ刃132eと、当該第2切れ刃132eに連続すると共に第1すくい面131sに隣り合う第2すくい面132sとを有する第2切刃部132とをそれぞれ複数含む。そして、エンドミル10では、第1切刃部131が当該エンドミル10の全体を構成するものと同一の超硬合金(超硬材料)により形成され、第2切刃部132が当該超硬材料よりも小さい摩擦係数を有する人造ダイヤといったダイヤモンド材料あるいはCBN材料により形成される。更に、エンドミル10では、外周刃150に対して、第1切刃部131と同様の構成を有する第1外周切刃部151と、第2切刃部132と同様の構成を有する第2外周切刃部152とが互い違いに配列されてもよい。
【0040】
また、本発明による切削工具は、図11に示すようなリーマとして構成されてもよい。図11に示すリーマ20の切刃部230は、第1切れ刃231eと、当該第1切れ刃231eに連続する第1すくい面231sとを有する1つの第1切刃部231と、第1切れ刃231eに隣り合う第2切れ刃232eと、当該第2切れ刃232eに連続すると共に第1すくい面231sに隣り合う第2すくい面232sとを有する2つの第2切刃部232とを含む。そして、リーマ20では、第1切刃部231が当該リーマ20の全体を構成するものと同一の超硬合金(超硬材料)により形成され、第2切刃部232が当該超硬材料よりも小さい摩擦係数を有する人造ダイヤといったダイヤモンド材料あるいはCBN材料により形成される。
【0041】
更に、本発明による切削工具は、図12に示すような切削チップとして構成されてもよい。図12に示す切削チップ50の切刃部530は、第1切れ刃531eと、当該第1切れ刃531eに連続する第1すくい面531sとを有する第1切刃部531と、第1切れ刃531eに隣り合う第2切れ刃532eと、当該第2切れ刃532eに連続すると共に第1すくい面531sに隣り合う第2すくい面532sとを有する第2切刃部532とをそれぞれ複数含む。そして、切削チップ50では、第1切刃部531が当該切削チップ50の全体を構成するものと同一の超硬合金(超硬材料)により形成され、第2切刃部532が当該超硬材料よりも小さい摩擦係数を有する人造ダイヤといったダイヤモンド材料あるいはCBN材料により形成される。
【0042】
なお、上記実施形態における主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施形態はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ドリル、エンドミル、リーマ、切削チップといった切削工具の製造産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1,1B,1C ドリル、2 シャンク、3 切削部、4 オイルホール、10 エンドミル、20 リーマ、30、30B,30C,130,230,530 切刃部、30a 取付面、31,131,231,531 第1切刃部、31e,131e,231e,531e 第1切れ刃、31s,131s,231s,531s 第1すくい面、32,132,232,532 第2切刃部、32e,132e,232e,532e 第2切れ刃、32s,132s,232s,532s 第2すくい面、35 逃げ面、39 切屑排出面、50 切削チップ、150 外周刃、151 第1外周切刃部、152 第2外周切刃部、DC1,DC2 切屑、W 切削対象物。
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図6