特許第5953182号(P5953182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

特許5953182アルカリ可溶性樹脂及びそれを用いた粘度調整剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953182
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】アルカリ可溶性樹脂及びそれを用いた粘度調整剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/16 20060101AFI20160707BHJP
   C08F 20/06 20060101ALI20160707BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20160707BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20160707BHJP
   C08F 265/02 20060101ALI20160707BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C08F2/16
   C08F20/06
   C08F20/18
   C08F8/44
   C08F265/02
   C09K3/00 103G
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-189295(P2012-189295)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-47248(P2014-47248A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 理香
(72)【発明者】
【氏名】表 和志
(72)【発明者】
【氏名】平田 和久
(72)【発明者】
【氏名】原田 弘子
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−213773(JP,A)
【文献】 特開平10−046133(JP,A)
【文献】 特開2010−195897(JP,A)
【文献】 特開昭61−215602(JP,A)
【文献】 特開2005−255848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体成分を水溶液中で重合することによりアルカリ可溶性樹脂を製造する方法であって、
製造方法は、界面活性能を有する化合物の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.5質量%以下、かつ、連鎖移動剤の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.0001質量%未満である条件下で、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を全単量体成分100質量%に対して10〜95質量%含む単量体成分を、シードとなる粒子に吸収させた後に、水溶液中で重合することによりアルカリ可溶性樹脂をる工程を含み
該アルカリ可溶性樹脂は、JIS K 7117−1で測定した、25℃、pH7、不揮発分2質量%水溶液での粘度が100mPa・s以上であることを特徴とするアルカリ可溶性樹脂の製造方法
【請求項2】
前記アルカリ可溶性樹脂は、水溶液中で重合後に、更にアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種でpH7に調整した後の、奥行10mmの石英セル中の不揮発分2質量%水溶液での全光線透過率が90%以上であることを特徴とする請求項に記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法
【請求項3】
前記アルカリ可溶性樹脂は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位を5〜90質量%有する重合体を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法
【請求項4】
前記アルカリ可溶性樹脂を得る工程は、水溶液中で重合後に、更にアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種で中和してアルカリ可溶性樹脂を得る工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法
【請求項5】
アルカリ可溶性樹脂を含有してなる粘度調整剤の製造方法であって、
該製造方法は、界面活性能を有する化合物の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.5質量%以下、かつ、連鎖移動剤の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.0001質量%未満である条件下で、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を全単量体成分100質量%に対して10〜95質量%含む単量体成分を、シードとなる粒子に吸収させた後に、水溶液中で重合することによりアルカリ可溶性樹脂を得る工程を含み、
該粘度調整剤は、pH7で不揮発分2質量%水溶液での粘度が100mPa・s以上であることを特徴とする粘度調整剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ可溶性樹脂及びそれを用いた粘度調整剤に関する。具体的には、各種用途に用いられ、特に粘度調整剤等として有用なアルカリ可溶性樹脂、及び、それを用いた粘度調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルカリ可溶性樹脂は、カルボキシル基を多く持つポリマーを乳化重合にて作製し、アルカリの添加により溶解又は膨潤して著しく増粘することで、粘度調整剤、接着剤、ゲル化剤等をはじめとする各種用途に用いられている。その際、重合安定性を向上、維持する目的から、乳化剤の使用量は、全単量体成分100質量%に対して3〜10質量%のものが一般的である。
しかしながら、従来の技術によって作製されたアルカリ可溶性樹脂は、乳化重合により生成したポリマー粒子がアルカリ添加によって溶解又は膨潤した際に界面活性剤が遊離し、例えば塗料用途においては、発泡により塗膜にした場合の外観低下や、レベリング性等への悪影響が問題となっていた。更に、遊離した界面活性剤により、吸湿特性が低下するおそれがあった。
【0003】
このような状況の下、乳化剤を減量させたアルカリ可溶性樹脂に関する先行技術が開示されている。
カルボキシル基含有重合性単量体、非イオン性重合性単量体及び強酸基含有重合性単量体を含有する重合性単量体を乳化重合し、ポリマーのアルカリ可溶性樹脂を得る、アルカリ可溶性ポリマーアルカリ可溶性樹脂の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
炭素−炭素二重結合の重合性官能基を有するカルボン酸単量体と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体とからなる反応系を、無機アルカリ溶液でpH9.0〜13.0に調整し、開始剤を用いて乳化重合し、反応終期に、得られた水性樹脂エマルションのpHを有機アミン化合物で7.0〜9.5に調整する、アクリル酸エステルエマルションの無乳化剤重合方法が開示されている(特許文献2参照)。
重合性不飽和酸、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜3のアルコールのエステル、(メタ)アクリル酸の炭素数4〜22のアルコールのエステルからなる単量体混合物を、水溶性重合開始剤及び連鎖移動剤を用いて水系でソープフリー乳化重合にて重合して水性分散体を得た後、アルカリ剤にて中和して得られる中和水性分散体からなる糊剤の製造方法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−332303号公報
【特許文献2】特開2012−87283号公報
【特許文献3】特開平7−109678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、乳化剤量を減量させた特許文献1に記載の発明においては、重合初期に強酸基含有重合性単量体及び連鎖移動剤を使用していることから、重合初期に低分子量の水溶性ポリマーが生成し、これが界面活性剤として働いていることから、泡切れ性及び増粘効果に悪い影響を及ぼすおそれがあり、また、強酸基含有重合性単量体が必須であるので、重合性単量体の選択の幅が狭まり、改善の余地がある。
また、特許文献2においては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量が2〜9質量%と少量であるため、アルカリを添加しても充分に溶解せず、所定粘度を確保するために工夫の余地がある。特許文献3においても、生成したアルカリ可溶性樹脂の粘度は不十分であり、改善の余地がある。このように、得られた樹脂自身の粘度が低いと、配合系を高粘度に調整する場合は当該樹脂の添加量を増やす必要があり、他の成分の配合量の限定やコスト面での問題が生じたりするため、粘度調整能が充分とは言えない。
このように、従来のアルカリ可溶性樹脂においては、泡切れ性、吸湿特性及び粘度調整能を充分にするための工夫の余地があった。
【0006】
本発明は、上記状況を鑑みてなされたものであり、優れた吸湿特性及び泡切れ性を有し、かつ、粘度調整剤等として好適に用いることができる、アルカリ可溶性樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、組成物の吸湿特性及び泡切れ性を向上させることができるアルカリ可溶性樹脂について種々検討を行った。そして、界面活性能を有する化合物の含有量が特定量以下、かつ、連鎖移動剤の含有量が特定量未満である条件下で、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を特定量含む単量体成分を水溶液中で重合することにより得られ、かつ、JIS K 7117−1で測定した、25℃、pH7、不揮発分2質量%水溶液での粘度が100mPa・s以上であるアルカリ可溶性樹脂を用いると、その吸湿特性及び泡切れ性を向上させることができることを見出した。また、このようなアルカリ可溶性樹脂は、界面活性能を有する化合物の含有量が特定量以下の条件下で単量体成分を重合するので、当該アルカリ可溶性樹脂の泡切れ性が向上し、更に、界面活性能を有する化合物由来のアルキレンオキサイド鎖が存在しないため、当該アルカリ可溶性樹脂の吸湿特性が向上することを見出し、本発明に到達したものである。
なお、樹脂としては吸湿性が低い(水を吸いにくい)方が好ましいので、本明細書において、吸湿特性が向上するとは吸湿性が低くなることを意味し、吸湿特性に優れるとは吸湿性が低いことを意味する。
【0008】
すなわち、本発明は、単量体成分を水溶液中で重合することにより得られるアルカリ可溶性樹脂であって、該アルカリ可溶性樹脂は、界面活性能を有する化合物の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.5質量%以下、かつ、連鎖移動剤の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.0001質量%未満である条件下で、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を全単量体成分100質量%に対して10〜95質量%含む単量体成分を重合することにより得られ、かつ、該アルカリ可溶性樹脂は、JIS K 7117−1で測定した、25℃、pH7、不揮発分2質量%水溶液での粘度が100mPa・s以上であることを特徴とするアルカリ可溶性樹脂である。
【0009】
以下、本発明を詳述する。
なお、以下において記載される本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の好ましい形態である。
【0010】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、界面活性能を有する化合物の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.5質量%以下、かつ、連鎖移動剤の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.0001質量%未満である条件下で、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を全単量体成分100質量%に対して10〜95質量%含む単量体成分を水溶液中で重合することにより得られ、かつ、JIS K 7117−1で測定した、25℃、pH7、不揮発分2質量%水溶液での粘度が100mPa・s以上であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、上記条件下で製造されたものであればよく、後述のように、単量体成分を重合して得られる樹脂粒子、それを一部中和して得られるもの、更に、中和度が高く水に溶解した水溶性高分子、のいずれの状態のものも含むものである。
なお、本明細書においては、「アルカリ可溶性樹脂」の代わりに、上記各状態を示す用語で記載している場合もあるが、これらも全てアルカリ可溶性樹脂に含まれる。
【0012】
本発明のアルカリ可溶性樹脂を製造する条件の1つとして、上記界面活性能を有する化合物の含有量が、全単量体成分100質量%に対して0.5質量%以下であることが必要である。上記範囲内とすることにより、水溶液にした際にフリーになる界面活性能を有する化合物が存在しない又は極微量のみ存在するため、得られるアルカリ可溶性樹脂が、優れた吸湿特性及び泡切れ性を有するものとなる。好ましくは0.3質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
【0013】
上記界面活性能を有する化合物とは、親水部と疎水部を併せ持つ化合物を意味する。
上記界面活性能を有する化合物としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等が挙げられる。
上記アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩、アルキルアリルポリエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩、スルホン酸塩及びリン酸エステル塩等が挙げられる。
上記ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド類、ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体、エチレンオキサイドと脂肪酸アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。
上記カチオン性界面活性剤としては、アルキルピリジニルクロライド、アルキルアンモニクムクロライド等が挙げられる。
上記両性界面活性剤としては、ラウリルべタイン、ステアリルべタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
上記高分子界面活性剤としては、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、これらの重合体の構成単位である重合性単量体の2種以上の共重合体又は他の単量体との共重合体等が挙げられる。
【0014】
また、上記界面活性能を有する化合物として、上記界面活性剤の構造中にラジカル重合性の不飽和基を有する反応性界面活性剤も含まれる。反応性界面活性剤は、その重合性不飽和基により界面活性剤をポリマーの構造中に組み込むことができ、水溶液にした場合に水溶液中に遊離して存在する界面活性剤成分を減少させることができるが、反応性の高くはない反応性界面活性剤の遊離成分を完全に無くすことは困難であり、また一般的な反応性界面活性剤に含有されるアルキレンオキサイド鎖により吸湿特性が低下するおそれがある。
上記反応性界面活性剤としては、例えば、ラテムルPD(花王社製)、アデカリアソープSR(アデカ社製)、アクアロンHS(第一工業製薬社製)、アクアロンKH(第一工業製薬社製)、エレミノールRS(三洋化成社製)等が挙げられる。
0.5質量%以下の範囲でこれら界面活性能を有する化合物を用いる場合は、1種でも、2種以上でも用いることができる。
なお、後述するソープフリー乳化重合において、反応系中で重合開始剤と単量体とから生成するオリゴマーラジカルは、上記界面活性能を有する化合物には含まれない。
【0015】
本発明のアルカリ可溶性樹脂を製造する条件の他の1つとして、連鎖移動剤の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.0001質量%未満であることが必要である。これにより、低分子量組成物の生成を抑え、泡切れ性を更に向上させることができる。好ましくは0.00001質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
【0016】
上記連鎖移動剤としては、通常用いる連鎖移動剤であれば特に限定されないが、例えば、ハロゲン化置換アルカン、アルキルメルカプタン、チオエステル類、アルコール類等が挙げられる。0.0001質量%未満の範囲でこれら連鎖移動剤を用いる場合は、1種でも、2種以上でも用いることができる。
【0017】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、上記特定の条件下で、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を全単量体成分100質量%に対して10〜95質量%含む単量体成分を、水溶液中で重合することにより得られるものである。エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量を上記範囲内とすることにより、本発明のアルカリ可溶性樹脂をソープフリー乳化重合により容易に製造することが可能となると共に、製造される高分子の水への溶解性(水溶性)を発現することが可能となる。一方、当該使用量が10質量%未満の場合、水への溶解度が不足して均一溶液とならないおそれがあり、また、95質量%を超える場合、ソープフリー乳化重合による製造が困難になるおそれがある。好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは30〜60質量%である。
【0018】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の炭素数3〜10のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸等の炭素数4〜10のエチレン性不飽和ジカルボン酸単量体等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸等の炭素数3〜6のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましい。
【0019】
上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、その一部をアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩等で中和したエチレン性不飽和カルボン酸塩の状態で重合に使用してもよい。
上記アンモニウム塩を形成する化合物としては、アンモニア等が挙げられる。
有機アミン塩を形成する化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ヒドロキシルアミン等が挙げられる。
アルカリ金属塩を形成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、これらの金属塩で中和する為には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等の水溶液を用いることができる。
上記塩類のうち、好ましくは、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムである。
中和量としては、重合に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体に対して、40モル%以下が好ましい。より好ましくは20モル%以下であり、更に好ましくは10モル%以下である。
【0020】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体以外の単量体成分としては、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体が好ましく挙げられる。
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、クロトン酸エステル等が挙げられる。好ましくは、例えば、一般式(1);
CH=CR−C(=O)−OR’ (1)
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。R’は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基又は炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基を表す。)
で表される化合物である。
【0021】
上記一般式(1)におけるR’としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基;ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等の炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
これらの中でも、後述するソープフリー乳化重合時の安定性等の面からは、疎水性の高いものが好ましく、すなわち、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましい。より好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基である。上記一般式(1)におけるR’がアルキル基であると、得られるアルカリ可溶性樹脂の増粘効果が得られやすいため好ましい。R’として特に好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基であり、最も好ましくは、炭素数1〜2のアルキル基である。炭素数が1〜4のアルキル基であると、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体との共重合物の水への溶解がし易くなる。
これらエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0022】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の使用量は、全単量体成分100質量%に対して、5〜90質量%であることが好ましい。当該使用量がこの範囲内にあると、本発明のアルカリ可溶性樹脂をソープフリー乳化重合により容易に製造することができる。一方、当該使用量が90質量%を超える場合、水への溶解度が不足して均一溶液とならないおそれがあり、また、5質量%未満の場合、ソープフリー乳化重合による製造が困難になるおそれがある。より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは40〜70質量%である。
なお、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体が、特に一般式(1)で表されるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体である場合、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、エステル構造部分、すなわち一般式(1)において−C(=O)−OR’で表される構造部分、を有する単量体であり、疎水性単量体であるが極性基を含有している。このため、ソープフリー乳化重合時には、乳化滴の核になり易い一方で、高分子化後にアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩等を用いて中和する際には、水中に均一に溶解しやすくなると考えられる。そのため、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体を5〜90質量%使用することが好ましい。
【0023】
また、単量体成分として、上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体以外に、その他の重合可能な単量体を用いてもよい。
その他の重合可能な単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、エチルビニルベンゼン等のスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸アミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体;酢酸ビニル、フタル酸ジアリル等の多官能アリル系単量体;1,6−ヘキサンジオールジアクリレート等の多官能アクリレート;末端がハロゲン化していてもよい炭素数5〜30のアルキル基等の疎水基を有する、ポリアルキレンオキサイド基を有する(メタ)アクリルエステルやビニル化合物等が挙げられる。
その他の重合可能な単量体としては、これらの中でも、スチレン系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体、多官能アリル系単量体、多官能アクリレートであることが好ましい。乳化重合時の溶液安定性の面からは、スチレン系単量体、多官能アリル系単量体、多官能アクリレート、ビニル化合物の、疎水性の単量体が好ましい。
これらのその他の重合可能な単量体としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0024】
その他の重合可能な単量体を用いる場合、その使用量としては、全単量体成分100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下である。
【0025】
すなわち、使用する各単量体の比率としては、全単量体成分を100質量%とした時に、エチレン性不飽和カルボン酸単量体/エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体/その他の重合可能な単量体=10〜95質量%/5〜90質量%/0〜50質量%となることが好ましい。
【0026】
上記のような条件で製造された本発明のアルカリ可溶性樹脂は、JIS K 7117−1で測定した、25℃、pH7、不揮発分2質量%水溶液での粘度が100mPa・s以上であることが、粘度調整能の点から好ましい。より好ましくは500〜100,000mPa・s、更に好ましくは1,000〜50,000mPa・sである。
上記粘度は、水溶性高分子の状態のアルカリ可溶性樹脂の粘度を示すものである。
なお、粘度測定の際のpH調整には、必要に応じて、後述するアルカリ可溶性樹脂の中和に用いるアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩等を添加してpH調整すればよい。
【0027】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、上述した特定の条件下で、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を特定量含む単量体成分を、水溶液中で重合することにより製造することができる。
単量体成分の重合方法としては、特に限定されず、例えば、ソープフリー乳化重合、逆相懸濁重合、懸濁重合、溶液重合、水溶液重合、塊状重合等の方法を挙げることができる。これらの重合方法の中でも、ソープフリー乳化重合法が好ましい。
【0028】
上記ソープフリー乳化重合法においては、単量体及び重合開始剤を水中に添加し、これらが接触することにより、ラジカルと重合開始剤末端が有するイオン性基とを有するオリゴマーラジカルが生成して粒子核を形成し、その粒子核中に単量体が入り込んで重合反応が進行し、粒子が成長して樹脂粒子となる。そのため、上記ソープフリー乳化重合法は、界面活性能を有する化合物を用いない、又は、界面活性能を有する化合物を極微量用いて行うことができる。また、上記ソープフリー乳化重合法は、高分子量の重合体を高濃度で容易に重合することが可能で、重合溶液の粘度も低い方法である。また、疎水性の単量体を用いると、生成するオリゴマーラジカルが疎水性であり水に溶けにくいため、粒子核がよりできやすく、好ましい。更に、本発明のアルカリ可溶性樹脂は、ソープフリー乳化重合法により樹脂粒子分散体として作製し、後述のようにアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩等で中和して水溶性高分子とする工程をとることにより、製造を簡便に行うことができ、生産コストの点でメリットがある。
【0029】
また、このようなソープフリー乳化重合においては、生成した樹脂粒子は、重合開始剤末端が有するイオン性基により、分散安定化する。そのため、上記ソープフリー乳化重合では、界面活性能を有する化合物を用いない、又は、界面活性能を有する化合物を極微量用いるだけで行うことができる。上述したように、本発明のアルカリ可溶性樹脂を製造する際は、ソープフリー乳化重合を行うことが好ましく、つまりは、界面活性能を有する化合物を用いないで行うことが好ましい。
なお、ソープフリー乳化重合における界面活性能を有する化合物の好ましい使用量は、上述したとおりである。
【0030】
また、上記アルカリ可溶性樹脂は、上記単量体成分を、シードとなる粒子に吸収させた後に、水溶液中で重合することにより得られることが好ましい。
ここで、シードとなる粒子とは、後述のように、重合反応に供した単量体を吸収し、反応溶液中で単量体を含む液滴となり、この液滴中で重合反応が進行するような粒子を意味する。なお、以下においては、「シードとなる粒子」を「シード粒子」ともいう。
このように、シード粒子を利用してソープフリー乳化重合を行うこともできる。この場合、ソープフリー乳化重合、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の重合により得た樹脂粒子分散体を、反応溶液に予め加えておき、この反応溶液に重合に用いる単量体を添加する。この際、先に添加した樹脂粒子(シード粒子)が、重合反応に供した単量体を吸収し、反応溶液中で単量体を含む液滴となる。この液滴中で重合反応が進行し、樹脂粒子が成長する。このように、単量体とともに液滴を生成するための界面活性剤を添加しなくても水溶液中で単量体が反応することが殆どないので、より低分子量物ができにくく、泡切れ性及び粘度調整能の点から好ましい。
上記シード粒子としては、公知の樹脂粒子分散体中の樹脂粒子を用いることができる。また、シード粒子が単量体を吸収して重合し、樹脂粒子が成長するため、シード粒子としては、作製しようとするアルカリ可溶性樹脂と類似組成を有するものが好ましい。
【0031】
上記各単量体成分の重合には、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、通常用いられているものを使用することができ、特に制限されず、熱によってラジカル分子を発生させるものであればよい。重合方法としてソープフリー乳化重合を行う場合は、水溶性の開始剤が好ましく使用される。
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過酸化水素等の熱分解系開始剤;過酸化水素とアスコルビン酸、t−ブチルヒドロパーオキサイドとロンガリット、過硫酸カリウムと金属塩、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス系開始剤等を挙げることができる。これら重合開始剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
上記重合開始剤の使用量としては、高粘度化の点から、重合反応に供する単量体成分の総量100質量部に対して、0.05〜2質量部であることが好ましい。より好ましくは0.1〜1質量部である。
【0032】
上記ソープフリー乳化重合時においては、分子量調整等のために連鎖移動剤を用いてもよい。当該連鎖移動剤の詳細については、前述したとおりである。
【0033】
また、ソープフリー乳化重合する際に、得られる重合体に悪影響を及ぼさない範囲で、親水性溶媒や添加剤等を加えることができる。
上記親水性溶媒としては、例えばアルコール類、テトラヒドロフラン、アセトン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
上記添加剤としては、例えば有機塩、無機塩、pH緩衝剤等が挙げられる。
【0034】
上記ソープフリー乳化重合における重合温度については、好ましくは20〜100℃、より好ましくは50〜90℃である。
ソープフリー乳化重合における重合時間についても、特に限定されないが、生産性を考慮すると、好ましくは1〜10時間、より好ましくは1.5〜9時間である。
【0035】
各単量体成分をソープフリー乳化重合の反応系に添加する方法としては、特に限定はなく、一括重合法、単量体成分滴下法、パワーフィード法、シード法、多段添加法等を用いることができる。
【0036】
上記ソープフリー乳化重合反応後に得られる樹脂粒子分散体の不揮発分は、5〜60%であることが好ましい。不揮発分が上記範囲内であると、得られる樹脂粒子分散体の流動性や分散安定性を保つことが容易になり、また、目的とする重合体の生産効率の点からも好ましい。一方、不揮発分が60%を超えると、樹脂粒子分散体の粘度が高すぎるため、分散安定性を保てず、凝集が生じるおそれがある。不揮発分が5%未満の場合、重合系の濃度が低く、反応に時間を要する可能性があり、また、目的とする重合体の生産量の点から生産効率が悪くなるおそれがある。
なお、本明細書においては、樹脂粒子分散体を形成する重合体のことを、樹脂粒子ともいう。
【0037】
上記樹脂粒子は、JIS K 7117−1で測定した、25℃、不揮発分2質量%水溶液とした場合の粘度が0.01〜100mPa・sであることが、作業性の点から好ましい。より好ましくは0.01〜50mPa・s、更に好ましくは0.01〜10mPa・sである。
【0038】
上記樹脂粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは10nm〜1μmであり、より好ましくは30〜500nmである。樹脂粒子の粒子径が上記範囲内であると、粘度が高くなりすぎたり、分散安定性が保てず凝集する可能性を下げることができる。一方、樹脂粒子の粒子径が10nm未満の場合、樹脂粒子分散体の粘度が高くなりすぎたり、分散安定性を保てず凝集するおそれがあり、また、1μmを超えると、樹脂粒子の分散安定性を保つことが難しくなるおそれがある。
上記樹脂粒子の平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定することができる。
【0039】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、上記のような方法で得られた樹脂粒子を、必要に応じてアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩等で中和して、水溶性高分子として得ることができる。
また、本発明のアルカリ可溶性樹脂としては、水溶液中で重合後に、更にアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種で中和して得られたものであることが、より好ましい。つまり、上記のような方法で得られた樹脂粒子を、上記アンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種で中和して得られた水溶性高分子も、本発明のアルカリ可溶性樹脂の好適な実施形態の1つである。
得られた水溶性高分子は、水に溶解した際、均一な水溶液となり、透明溶液となる。
なお、本発明のアルカリ可溶性樹脂としては、上記樹脂粒子が一部中和されたものも含むが、均一な水溶液となるまで中和して水溶性高分子とする方がより好ましい。また、中和度が低い(例えば理論カルボン酸量の50%未満)場合に、上記樹脂粒子が一部中和されたものとなる。
【0040】
アンモニウム塩で中和する為には、アンモニア等の水溶液を用いることができる。
有機アミン塩で中和する為には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ヒドロキシルアミン等の水溶液を用いることができ、好ましくは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンである。
アルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の塩が挙げられる。これらの金属塩で中和する為には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等の水溶液を用いることができ、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムである。
【0041】
水溶性高分子を作製する際の中和は、理論カルボン酸量の50%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上である。
中和後のpHは、6以上が好ましく、より好ましくは6.2以上である。また、pHは、9以下が好ましい。
上記pHは、ガラス電極式水素イオン度計F−21(製品名、堀場製作所社製)を用いて、25℃での値として測定することができる。
【0042】
上述したソープフリー乳化重合では、上述した界面活性能を有する化合物を使用しないか、使用する場合でも使用量が通常の乳化重合に比べて微量であるため、ソープフリー乳化重合で得られた樹脂粒子、及び、必要に応じてアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩等で中和して得られる水溶性高分子は、フリーの乳化剤(重合体の構造内に組み込まれていない乳化剤)のような低分子量成分の含有量が極めて少ないものとなる。
このように、アルカリ可溶性樹脂が、ソープフリー乳化重合によって水溶液中で重合した樹脂粒子を、更にアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩で中和することにより得られるものであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0043】
上述のようにして得られた本発明のアルカリ可溶性樹脂は、エチレン性不飽和カルボン酸(塩)単量体由来の構造単位(以下、「構造単位(a)」とも言う)を、全単量体成分100質量%に対して10〜95質量%含むことが好ましい。本発明のアルカリ可溶性樹脂での構造単位(a)の含有割合としては、より好ましくは20〜70質量%であり、更に好ましくは30〜60質量%である。
なお、重合に使用した単量体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体であるが、得られた重合体を中和したものは、その構造単位としては、エチレン性不飽和カルボン酸(塩)単量体由来の構造単位を有する。
ここで、エチレン性不飽和カルボン酸(塩)単量体とは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及び/又はエチレン性不飽和カルボン酸塩単量体を意味する。
上記構造単位(a)は、エチレン性不飽和カルボン酸(塩)単量体の炭素−炭素二重結合が単結合になった構造を表すものである。
エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体としては、上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体のアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩等が挙げられる。
上記アンモニウム塩を形成する化合物としては、アンモニア等が挙げられる。有機アミン塩を形成する化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ヒドロキシルアミン等が挙げられる。アルカリ金属塩を形成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、これらの金属塩で中和する為には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等の水溶液を用いることができる。上記塩類のうち、好ましくは、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムである。
【0044】
水溶性高分子においては、上記構造単位(a)の有するカルボン酸(塩)のうち、水への溶解性の点から、カルボン酸の形態となっているものが50モル%以下であることが好ましい。より好ましくは40モル%以下であり、更に好ましくは30モル%以下である。
【0045】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、上記構造単位(a)以外に、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位を含むことが好ましい。
上記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位(以下、「構造単位(b)」とも言う)とは、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の炭素−炭素二重結合が単結合になった構造を表すものである。エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の詳細は、前述したとおりである。
【0046】
本発明のアルカリ可溶性樹脂での構造単位(b)の含有割合は、アルカリ可溶性樹脂が有する構造単位の全量100質量%に対して、5〜90質量%であることが好ましい。より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは40〜70質量%である。
【0047】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、上記構造単位(a)及び構造単位(b)以外に、その他の重合可能な単量体由来の構造単位を含んでいてもよい。
上記その他の重合可能な単量体由来の構造単位(以下、「構造単位(c)」とも言う)とは、その他の重合可能な単量体の炭素−炭素二重結合が単結合になった構造を表すものである。その他の重合可能な単量体の詳細は、前述したとおりである。
【0048】
本発明のアルカリ可溶性樹脂が構造単位(c)を含む場合、その含有割合としては、アルカリ可溶性樹脂が有する構造単位の全量100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下である。
【0049】
すなわち、本発明のアルカリ可溶性樹脂での各構造単位の比率としては、アルカリ可溶性樹脂が有する構造単位の全量を100質量%とした時に、((a)エチレン性不飽和カルボン酸(塩)単量体由来の構造単位)/((b)エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位)/((c)その他の重合可能な単量体由来の構造単位)=10〜95質量%/5〜90質量%/0〜50質量%となることが好ましい。
【0050】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、上記のように、疎水性部と極性部とがバランスよく含有されているため、分散安定性に優れた粘度調整剤等として好適に用いることができる。
【0051】
上記アルカリ可溶性樹脂を形成する重合体の重量平均分子量は、50万以上であることが好ましい。重量平均分子量が50万未満の場合、アルカリ可溶性樹脂に求められる分散性や粘度調整能は発現できるが、少量での増粘効果が得られにくく、添加量を増やす必要があるおそれがある。より好ましくは70万〜200万であり、更に好ましくは90万〜180万である。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法(GPC法)等により測定することができる。
【0052】
上記アルカリ可溶性樹脂は、pH7、不揮発分2質量%水溶液での全光線透過率が90%以上であることが、均一性及び透明性の点からより好ましい。
具体的には、上記アルカリ可溶性樹脂は、水溶液中で重合後に、更にアンモニウム塩、有機アミン塩及びアルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種でpH7に調整した後の、不揮発分2質量%水溶液での全光線透過率が90%以上であることが好ましい。
当該全光線透過率は、より好ましくは90〜100%、更に好ましくは95〜100%である。
上記全光線透過率は、ヘイズメーター(製品名「NDH5000」、日本電色工業社製)等を用いて、測定することができる。
【0053】
また、上記アルカリ可溶性樹脂は、pH7、不揮発分2質量%に調整した水溶液のヘイズが3%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下である。
上記ヘイズは、ヘイズメーター(製品名「NDH5000」、日本電色工業社製)等を用いて、測定することができる。
【0054】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、優れた泡切れ性を有するものである。当該泡切れ性を示す指標としては、例えば、後述の実施例に記載の方法により測定することができる、起泡性と破泡性等が挙げられる。
上記アルカリ可溶性樹脂の起泡性は、1〜1.7であることが好ましく、1〜1.5であることがより好ましい。また、破泡性は、0.8〜1であることが好ましく、0.9〜1であることがより好ましい。
【0055】
次に、本発明の粘度調整剤について説明する。
本発明の粘度調整剤は、上述したアルカリ可溶性樹脂を含有してなるものであり、pH7で不揮発分2質量%水溶液での粘度が100mPa・s以上であることを特徴とするものである。
【0056】
上記粘度調整剤の粘度は、粘度調整能の点から、好ましくは100〜100,000mPa・s、より好ましくは1000〜50,000mPa・sである。
また、上記粘度調整剤の粘度は、JIS K 7117−1で測定することができる。
【0057】
上記粘度調整剤は、上記アルカリ可溶性樹脂を1種でも、2種以上でも含むことができる。
本発明の粘度調整剤は、上記アルカリ可溶性樹脂を含む限り、他の成分を含んでもよい。
上記他の成分としては、例えば、分散剤、艶消し剤、レベリング剤、消泡剤、抑泡剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0058】
本発明の粘度調整剤は、例えば、塗料、化粧料、導電ペースト等の電子材料向けの機能性ペースト等に添加して用いることができる。
なお、本発明のアルカリ可溶性樹脂の含有量(固形分)は、粘度調整能の点から、配合対象物の全配合量に対して、0.001〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜3質量%である。
【発明の効果】
【0059】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、上記のような構成を有するので、優れた吸湿特性及び泡切れ性を有する。また、このようなアルカリ可溶性樹脂は、粘度調整剤等として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0061】
以下の実施例、比較例において、樹脂粒子分散体、水溶性高分子又はその水溶液の物性評価は、下記の測定方法により行った。
<不揮発分測定>
樹脂粒子分散体をアルミ皿に約1g秤量し、150℃の熱風乾燥機中で20分間乾燥し、乾燥前後の質量から下記式により求めた。
不揮発分(%)=(乾燥後の質量)/(乾燥前の質量)×100
また、樹脂粒子分散体の代わりに水溶性高分子の水溶液を用いた以外は上記と同様にして、その不揮発分を求めた。
【0062】
<粘度測定>
樹脂粒子分散体の粘度は、樹脂粒子分散体を不揮発分2%に調整後、TVB−10(東機産業社製)を用い、JIS K 7117−1に準拠して25℃で測定した。
また、水溶性高分子水溶液の粘度は、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子水溶液を、TVB−10(東機産業社製)を用い、JIS K 7117−1に準拠して25℃で測定した。
【0063】
<全光線透過率測定>
日本電色社製のヘイズメーター(型番;NDH5000)を用いて、奥行10mmの石英セル中に、pH7、不揮発分2質量%の水溶性高分子水溶液を入れ、全光線透過率を測定した。
【0064】
<泡切れ性測定>
120ccのPPカップに所定量の水溶性高分子を入れ、不揮発分0.5%になるようにイオン交換水で希釈後、ディスパーで2000rpm、3分間撹拌して強制的にホイップ状に泡立たせた。その後、この溶液を50ccサンプル瓶に液高さ6cmまで投入し、遠心分離機で2200rpm、10秒間回転させた後の、上部の泡部分を除いた透明な液部分の高さをaとした。その後、更に気泡がなくなるまで遠心分離を行い、すべての気泡がなくなったときの液高さをbとした。起泡性と破泡性は次式により算出した。
起泡性=6(cm)/b(cm)
破泡性=a(cm)/b(cm)
起泡性については、1.50未満を◎、1.50以上1.60未満を○、1.60以上1.70未満を△、1.70以上を×として評価した。破泡性については、0.95以上を◎、0.90以上0.95未満を○、0.80以上0.90未満を△、0.80未満を×として評価した。
【0065】
<吸湿率測定>
水溶性高分子をアルミ皿に約10g秤量し、100℃の熱風乾燥機で2時間乾燥させた後、粉砕機で微粉化させた。その後、減圧乾燥器により80℃で一晩乾燥させた後、ドライ条件下でアルミ皿に粉体を約1g秤量し、初期質量とした。その後、23℃、65%RH条件下で4時間放置した後、秤量し、下記式により吸湿率を求めた。
吸湿率(%)=((4時間後の質量)−(初期質量))/(初期質量)
【0066】
参考例1)
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四ツロセパラブルフラスコに、イオン交換水871.75質量部を投入した。内温90℃で攪拌しながら、緩やかに窒素を流し、反応容器内を完全に窒素置換した。次に、過硫酸カリウム0.55部を、イオン交換水10.45質量部に混合した開始剤水溶液を投入し、次いでメタクリル酸154質量部、アクリル酸エチル65.3質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部の混合溶液を2時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、内温を85℃に保ち、1時間攪拌を続けた。次いで、冷却して反応を完了し、不揮発分19.5%、不揮発分(樹脂粒子)2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体aを得た。次に、250ccのポリプロピレン(PP)カップに所定量の樹脂粒子分散体aを入れ、イオン交換水で希釈後、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子A水溶液を得た。この水溶性高分子Aは、粘度1800mPa・s、全光線透過率99%、起泡性○、破泡性○、吸湿率13.9%であった。
【0067】
参考例2)
重合性単量体として、メタクリル酸154質量部、アクリル酸エチル65.3質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部の代わりに、メタクリル酸110質量部とアクリル酸エチル65.3質量部、アクリル酸メチル44質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部を用いた以外は、参考例1と同様の手法で重合し、不揮発分19.5%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体bを得た。次に、250ccのPPカップに所定量の樹脂粒子分散体bを入れ、イオン交換水で希釈後、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子B水溶液を得た。この水溶性高分子Bは、粘度2300mPa・s、全光線透過率99%、起泡性◎、破泡性◎、吸湿率13.6%であった。
【0068】
参考例3)
重合性単量体として、メタクリル酸154質量部、アクリル酸エチル65.3質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部の代わりに、メタクリル酸88質量部とアクリル酸エチル87.3質量部、アクリル酸メチル44質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部を用いた以外は、参考例1と同様の手法で重合し、不揮発分19.6%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体cを得た。次に、250ccのPPカップに所定量の樹脂粒子分散体cを入れ、イオン交換水で希釈後、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子C水溶液を得た。この水溶性高分子Cは、粘度2700mPa・s、全光線透過率98%、起泡性◎、破泡性◎、吸湿率13.3%であった。
【0069】
参考例4)
重合性単量体として、メタクリル酸154質量部、アクリル酸エチル65.3質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部の代わりに、メタクリル酸66質量部、アクリル酸エチル65.3質量部、アクリル酸メチル88質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部を用いた以外は、参考例1と同様の手法で重合し、不揮発分19.6%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体dを得た。次に、250ccのPPカップに所定量の樹脂粒子分散体dを入れ、イオン交換水で希釈後、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子D水溶液を得た。この水溶性高分子Dは、粘度2600mPa・s、全光線透過率96%、起泡性◎、破泡性◎、吸湿率12.4%であった。
【0070】
(実施例5)
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四つ口セパラブルフレスコに、イオン交換水115質量部、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸アンモニウム塩1.5質量部を投入した。内温68℃で攪拌しながら、緩やかに窒素を流し、反応容器内を完全に窒素置換した。次に、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸塩1.5質量部をイオン交換水92質量部に溶解した。ここに、重合体の単量体成分として、メタクリル酸50質量部、アクリル酸エチル30質量部、アクリル酸メチル20質量部の混合物を投入し、プレエマルションを作製した。別途、過硫酸アンモニウム0.23質量部をイオン交換水23質量部に溶解し、重合開始剤水溶液を作製した。反応容器内の温度を72℃に保ち、プレエマルション及び開始剤水溶液を2時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、イオン交換水8質量部で滴下槽を洗浄後、反応容器に投入した。内温を72℃に保ち、更に1時間攪拌を続けた後、冷却して反応を完了し、不揮発分30%のアルカリ可溶性樹脂粒子S−1を作製した。次いで、別途攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四ツロセパラブルフラスコに、シード粒子としてS−1を21.5質量部と、イオン交換水879.75質量部を投入した。それ以降は参考例2と同様の手法で重合し、不揮発分19.5%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体eを得た。次に、250ccのPPカップに所定量の樹脂粒子分散体eを入れ、イオン交換水で希釈後、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子E水溶液を得た。この水溶性高分子Eは、粘度2400mPa・s、全光線透過率99%、起泡性◎、破泡性◎、吸湿率13.7%であった。
【0071】
(実施例6)
実施例5において、シード粒子としてS−1を21.5質量部、重合性単量体として、メタクリル酸110質量部、アクリル酸エチル65.3質量部、アクリル酸メチル44質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部用いた代わりに、S−1を21.5質量部、メタクリル酸88質量部、アクリル酸エチル131.3質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部を用いた以外は、実施例5と同様の手法で重合し、不揮発分19.6%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体fを得た。次に、250ccのPPカップに所定量の樹脂粒子分散体fを入れ、イオン交換水で希釈後、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子F水溶液を得た。この水溶性高分子Fは、粘度2900mPa・s、全光線透過率97%、起泡性◎、破泡性◎、吸湿率13.0%であった。
【0072】
(実施例7)
シード粒子としてS−1の代わりに、参考例2で得られた樹脂粒子分散体bを固形分が同じになるように添加した以外は、実施例5と同様の手法で重合し、不揮発分19.5%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体gを得た。次に、250ccのPPカップに所定量の樹脂粒子分散体gを入れ、イオン交換水で希釈後、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子G水溶液を得た。この水溶性高分子Gは、粘度2500mPa・s、全光線透過率99%、起泡性◎、破泡性◎、吸湿率13.6%であった。
【0073】
(比較例1)
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四つ口セパラブルフレスコに、イオン交換水115質量部、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸アンモニウム塩1.5質量部を投入した。内温68℃で攪拌しながら、緩やかに窒素を流し、反応容器内を完全に窒素置換した。次に、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸塩1.5質量部をイオン交換水92質量部に溶解した。ここに、重合体の単量体成分として、メタクリル酸50質量部、アクリル酸エチル50質量部、t−ドデシルメルカプタン0.3質量部の混合物を投入し、プレエマルションを作製した。別途、過硫酸アンモニウム0.23質量部をイオン交換水23質量部に溶解し、重合開始剤水溶液を作製した。反応容器内の温度を72℃に保ち、プレエマルション及び開始剤水溶液を2時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、イオン交換水8質量部で滴下槽を洗浄後、反応容器に投入した。内温を72℃に保ち、更に1時間攪拌を続けた後、冷却して反応を完了し、不揮発分30%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体hを得た。次に、250ccのPPカップに所定量の樹脂粒子分散体hを入れ、イオン交換水で希釈後、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子H水溶液を得た。この水溶性高分子Hは、粘度80mPa・s、全光線透過率99%、起泡性×、破泡性×、吸湿率16.8%であった。
【0074】
(応用例1)トップコート用艶消し塗料としての応用
エマルション(アクリセットEX−35、日本触媒社製)100質量部を、ホモディスパーで回転速度1500rpmにて分散させながら、成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(CS−12、JNC社製)とブチルセロソルブとを等質量混合した混合溶液8質量部を添加し、更に希釈水を添加し、不揮発成分の含有率が30%になるように調整して30分間撹拌し、ベース配合物とした。
得られたベース配合物100質量部あたり8.8質量部の割合で、当該配合物に艶消し剤(エポスターMA1010、日本触媒社製)を添加し、参考例1で得られた樹脂粒子分散体aを1質量部添加した後、この混合物をホモディスパーで回転速度1500rpmにて30分間分散させることにより、トップコート用艶消し塗料を作製した。
得られた艶消し塗料を、室温中で一日静置して塗料の安定性を評価したところ、沈降は確認されなかった。
【0075】
(応用比較例1)
上記応用例1のベース配合物と同じものを用いて、ベース配合物100質量部あたり8.8質量部の割合で、当該配合物に艶消し剤(エポスターMA1010、日本触媒社製)を添加し、この混合物をホモディスパーで回転速度1500rpmにて30分間分散させることにより、トップコート用艶消し塗料を作製した。
得られた艶消し塗料を、室温中で一日静置して塗料の安定性を評価したところ、艶消し剤の沈降が確認された。
【0076】
上記応用例1及び応用比較例1から、本発明のアルカリ可溶性樹脂を用いることにより、分散性が良く安定な塗料用組成物を得ることができた。本発明のアルカリ可溶性樹脂は、粘度調整剤として十分機能し、フィラーの沈降を抑制できることを確認した。
【0077】
上記実施例の結果から、本発明のアルカリ可溶性樹脂及びそれを含む粘度調整剤は、優れた吸湿特性及び泡切れ性を有することがわかる。また、本発明の粘度調整剤は、塗料等に添加することにより、フィラー等の沈降を抑制できることがわかる。
上記実施例において、上記アルカリ可溶性樹脂及びそれを含む粘度調整剤を用いることによって、上述した優れた吸湿特性及び泡切れ性を有するという効果が発現する作用機序はすべて同様であるものと考えられる。
したがって、上記実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。