特許第5953194号(P5953194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953194
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】電磁クラッチ及び圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/14 20060101AFI20160707BHJP
   F16D 27/112 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   F16D27/14 A
   F16D27/112 K
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-207150(P2012-207150)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-62576(P2014-62576A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(72)【発明者】
【氏名】三木 章浩
(72)【発明者】
【氏名】松村 知則
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平1−210626(JP,A)
【文献】 実開昭56−171433(JP,U)
【文献】 特開2001−336548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/14
F16D 27/112
H02P 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の動力によって回転駆動されるロータと、前記ロータに対向配置され従動機器の回転軸に連結されたアーマチュアと、電磁コイルを有し当該電磁コイルへの通電によって前記ロータと前記アーマチュアとを磁気吸着させる電磁コイルユニットと、前記電磁コイルへの通電を強制的に遮断する通電遮断装置と、を備えた電磁クラッチであって、
前記通電遮断装置は、
前記ロータに設けられ、所定温度を超えたときに変位する熱応動部材と、
前記ロータの回転に伴う前記熱応動部材の移動領域を横切るように架渡して設けられ、前記電磁コイルのアース配線の一部をなすブリッジ導線と、
を含み、変位した前記熱応動部材が前記ブリッジ導線に衝突することによって当該ブリッジ導線を切断するものであって、
前記ブリッジ導線の切断領域は、変位した前記熱応動部材が前記ブリッジ導線に衝突する位置から離れた位置に設定されていることを特徴とする電磁クラッチ。
【請求項2】
前記変位した前記熱応動部材が前記ブリッジ導線に衝突する位置から離れた位置は、前記ブリッジ導線におけるアース側と反対側であることを特徴とする請求項1に記載の電磁クラッチ。
【請求項3】
前記ブリッジ導線における前記切断領域の断面積を、当該ブリッジ導線の他の領域の断面積より小さく形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁クラッチ。
【請求項4】
前記ブリッジ導線は、前記切断領域側が前記アース側より先に前記熱応動部材に衝突するように傾斜して設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電磁クラッチ。
【請求項5】
前記ブリッジ導線に前記熱応動部材が衝突したときに、前記ブリッジ導線における前記切断領域を含む切断領域近傍を、前記回転移動方向と逆方向から支持する支持部を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の電磁クラッチ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の電磁クラッチを備えた圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁クラッチに関し、特に車両のエンジンやモータの動力を車両搭載機器(車両用空調装置の圧縮機等)に断続的に伝達するのに好適な電磁クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁クラッチとして、例えば特許文献1に開示された電磁クラッチが知られている。この特許文献1に開示された電磁クラッチは、駆動源の動力によって回転駆動されるロータと、このロータに対向配置され従動機器の回転軸に連結されたアーマチュアと、電磁コイルが巻回されたボビンを有しこの電磁コイルユニットへの通電によってロータとアーマチュアを磁気吸着させる電磁コイルユニットとを備えている。そして、この電磁クラッチは、更に、ロータの電磁ユニット側に、温度を感知して電磁コイル側に向けて変位する熱応動部材を備え、ロータとアーマチェアとの摩擦面での相対滑りにより所定温度を超えて発熱した場合に、ロータの回転に伴う熱応動部材の移動領域を横切るように架渡して電磁コイルの端部をブリッジ状に配設した導線を、アース接続されているロータに取り付けた熱応動部材により切断可能に構成して、電磁コイルへの通電を強制的に遮断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−210626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記電磁クラッチにおいて、ロータの回転に伴う熱応動部材の移動領域を横切るように架渡して設けたブリッジ状の導線は、電磁コイルのアース側に配置されているため、熱応動部材がこのブリッジ状の導線を切断したときに過電流が流れることはない。
【0005】
しかしながら、上記電磁クラッチにおいては、ブリッジ状の導線が切断された後に、この切断されたブリッジ状の導線のうち、アース側と反対側(プラス側)に残されている導線の先端が、回転する熱応動部材やロータと接触してアース接続される可能性があり、その結果、ブリッジ状の導線が切断されても、電磁コイルに電流が流れてしまい、アーマチュアがロータに再び吸着されるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような実情に着目してなされたものであり、ブリッジ状の導線が切断された後に、アーマチュアがロータに再び吸着されることを抑制した電磁クラッチを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、駆動源の動力によって回転駆動されるロータと、前記ロータに対向配置され従動機器の回転軸に連結されたアーマチュアと、電磁コイルを有し当該電磁コイルへの通電によって前記ロータと前記アーマチュアとを磁気吸着させる電磁コイルユニットと、前記電磁コイルへの通電を強制的に遮断する通電遮断装置と、を備えた電磁クラッチであって、前記通電遮断装置は、前記ロータに設けられ、所定温度を超えたときに変位する熱応動部材と、前記ロータの回転に伴う前記熱応動部材の移動領域を横切るように架渡して設けられ、前記電磁コイルのアース配線の一部をなすブリッジ導線と、を含み、変位した前記熱応動部材が前記ブリッジ導線に衝突することによって当該ブリッジ導線を切断するものであって、前記ブリッジ導線の切断領域は、変位した前記熱応動部材が前記ブリッジ導線に衝突する位置から離れた位置に設定されている。
【発明の効果】
【0008】
上記電磁クラッチにおいて、電磁コイルのアース配線の一部をなすブリッジ導線の切断領域を、変位した熱応動部材がブリッジ導線に衝突する位置から離れた位置に設定する構成であるため、ブリッジ導線が切断された後に、この切断されたブリッジ状の導線のうち、アース側と反対側(プラス側)に残されている導線の先端が、通常、アース接続されているロータや熱応動部材と接触することを抑制することができる。これにより、ブリッジ導線の切断後に電磁コイルに電流が流れてしまうことを抑制することができるので、ブリッジ導線の切断後にアーマチュアがロータに再び吸着されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る電磁クラッチの一実施形態の断面図である。
図2】ロータユニットの正面図である。
図3図2のA−O−A線矢視断面図である。
図4】アーマチュアユニットの断面図である。
図5】電磁コイルユニットの断面図である。
図6】電磁コイルユニットにおけるボビンの断面図である。
図7図5の矢印A方向から見たブリッジ導線部分の拡大図である。
図8図7の矢印B方向から見たブリッジ導線部分の図である。
図9図7の矢印C方向から見たブリッジ導線部分の図である。
図10図7のD−D線矢視断面図である。
図11図7のE部拡大図である。
図12】バイメタルの変位がないときの通電遮断装置の動作説明図である。
図13】バイメタルが所定距離を越えて変位したときの通電遮断装置の動作説明図である。
図14図12におけるバイメタルの状態を示す断面図である。
図15図13におけるバイメタルの状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る電磁クラッチの一実施形態の構成を示している。
本実施形態による電磁クラッチ10は、例えば車両用空調装置を構成する圧縮機に組み込まれ、駆動源としての車両用のエンジンやモータから従動機器としての前記圧縮機への動力伝達を断続する。即ち、電磁クラッチ10は、前記エンジンや前記モータから前記圧縮機への動力の伝達とその遮断とを切り換える。また、本発明に係る圧縮機は、以下に実施形態を説明する電磁クラッチを備えて構成されたものであり、前記エンジンや前記モータからの動力が伝達されることによって作動し、前記エンジンや前記モータからの動力の伝達が遮断されるとその作動を停止する。本発明に係る圧縮機は、例えば斜板式可変容量圧縮機を採用することができる。なお、その他の形式の可変容量型圧縮機や、スクロール式、ベーン式等の固定容量圧縮機のいずれの形式のものを採用してもよい。
【0011】
図1において、電磁クラッチ10は、ロータユニット20と、アーマチュアユニット30と、電磁コイルユニット40と、通電遮断装置50と、を備えて構成されている。
【0012】
前記ロータユニット20は、エンジンやモータの動力によって回転駆動されるロータ21を有し、圧縮機の端面に回転可能に支持されたもので、ロータ21と、摩擦部材22と、軸受23と、を備えている。
【0013】
前記ロータ21は、環状に形成されており、その内周面が軸受23を介して圧縮機のフロントハウジング1端面のボス部1a外周面に回転可能に支持されている。ロータ21の外周面にはエンジンやモータからの回転駆動力を伝達するベルトを掛ける溝が形成されている。より具体的には、図2及び図3に示すように、ロータ21は、前記外周面を有する外側円筒部21aと、前記内周面を有する内側円筒部21bと、前記外側円筒部21aと前記内側円筒部21bとを接続する端面部21cとを一体化して構成されている。外側円筒部21a、内側円筒部21b及び端面部21cは、強磁性材料(具体的に例えば鉄系材料)で形成され、これらによって電磁コイルユニット40側の電磁コイル42を収容するための環状凹部21dを形成している。端面部21cには、電磁コイル42で発生する磁束を迂回させる円弧状スリット21e、21fが形成されている。また、端面部21cの環状凹部21d底壁側端面21c2の円弧状スリット21e、21f間の部位には、後述する通電遮断装置50のバイメタル51を取付けるための環状溝21g(図2図12図13に図示)が形成されている。端面部21cの環状凹部21d底壁側とは反対側の端面は、摩擦面21c1となっている。また、ロータ21は、図示省略するが、アース接続されている。
【0014】
前記摩擦部材22は、摩擦係数を増加させるため環状の非磁性材からなり、ロータ21の摩擦面21c1に取付けられている。
【0015】
前記軸受23は、その内輪側がフロントハウジング1のボス部1a外周面に位置決めされてスナップリング4によって固定されており、ロータ21をフロントハウジング1端面のボス部1a外周面に回転可能に支持している。
【0016】
前記アーマチュアユニット30は、電磁コイル42への通電と通電停止によってアーマチュア33がロータ21に対して接離することで、エンジンやモータから圧縮機への動力伝達を断続するもので、図4に示すように、ハブ31と、ラバーユニット32と、アーマチュア33とを備えている。
【0017】
前記ハブ31は、フランジ部31aを有し、圧縮機の回転軸2先端部にナット5によって固定されている。
【0018】
前記ラバーユニット32は、内側リング32aと、外側リング32bと、内側リング32aと外側リング32bとの間に介装され両リング32a,32bに加硫接着された環状のラバー32cとで構成され、内側リング32aが、ハブ31のフランジ部31aにリベット34で固定されている。
【0019】
前記アーマチュア33は、ロータ21に対向配置され圧縮機の回転軸2に連結されたものである。アーマチェア33は、具体的には、一端面にロータ21の摩擦面21c1に所定の隙間を介して対峙する摩擦面33aが形成された環状板部材であり、ラバーユニット32の外側リング32bにリベット35で固定され、環状のラバー32cにより弾力的に支持されている。このアーマチュア33は、強磁性材料(具体的には鉄系材料)で形成され、ロータ21と共に磁気回路を構成し、電磁コイル42への通電によりロータ21と磁気吸着し、通電の遮断による磁気吸着力の消失によりロータ21から離間するようになっている。
【0020】
前記電磁コイルユニット40は、電磁コイル42を有しこの電磁コイル42への通電によって磁界を発生し、ロータ21とアーマチュア33とを磁気吸着させるものであり、ボビン41と、ボビンに巻回された電磁コイル42と、電磁コイル42が巻回されたボビン41を収容する環状凹部が形成されたリングケース43と、リングケース43に固定され、電磁コイルユニット40の他端面となる円環板状の固定部材44と、車両側の外部電源と電磁コイル42とを接続する接続部45とを備えている。
【0021】
前記リングケース43は、図5に示すように、外側円筒部43aと、内側円筒部43bと、外側円筒部43aと内側円筒部43bとを接続する端面部43cとを一体化して電磁コイル42が巻回されたボビン41を収容する環状凹部が形成されている。外側円筒部43a、内側円筒部43bは、圧縮機の回転軸2の軸線と同軸であり、端面部43cは前記回転軸2の軸線と直交している。外側円筒部43a及び内側円筒部43bのそれぞれの端面43a1,43b1は回転軸2の軸線と直交する同一平面にある。外側円筒部43a、内側円筒部43b及び端面部43cは、強磁性材料(例えば鉄系材料)で形成されて磁気回路を構成する。
【0022】
前記ボビン41は、図6に示すように、円筒部41aと、円筒部41aの両側からそれぞれ径方向外側に向けて延設された第1フランジ41bと第2フランジ41cとを有し、円筒部41aと両フランジ41b,41cで囲まれた領域に電磁コイル42が巻回される。また、ボビン41には、第1フランジ41bの基端部と先端部から、それぞれロータ21の環状凹部21dの底壁21c2に向けて延設された内壁41dと外壁41eが形成されている。前記内壁41dは、第1フランジ41b基端部の略全周囲に亘って形成されており、その先端面から径方向内側に向けて延設された内側フランジ41fが同じく略全周囲に亘って形成されている。また、前記外壁41eは、第1フランジ41b先端部の所定部位(電磁コイル42の巻き終わり部分となる位置)近傍のみに形成されており、その先端面から径方向外側に向けて延設された外側フランジ41gが形成されている。更に、ボビン41の外壁41eには、図7のB矢視図である図8に示すように、先端面(外側フランジ41g上面)から所定深さh2(外側フランジ41gの厚さ分)を有する第1スリット41e1が形成されている。また、ボビン41の内壁41dには、図7のC矢視図である図9に示すように、先端面(内側フランジ41f上面)から第1スリット41e1と同じ深さh2(内側フランジ41fの厚さ分)を有する第2スリット41d1と、先端面(内側フランジ41f上面)から第1フランジ面41b1まで切れ込んだ第3スリット41d2とが形成されている。前記ボビン21は、円筒部41a、第1フランジ41b、第2フランジ41c、内壁41d、外壁41e、内側フランジ41f及び外側フランジ41gが例えばポリアミド樹脂等の樹脂材料で一体形成されている。これにより、後述するようにボビン41に電磁コイル42を巻回して、その巻き終わり部分でブリッジ導線52を容易に形成することできる。
【0023】
電磁コイルユニット40は、ボビン41がリングケース43の環状凹部に収容されている状態で、ボビン41とリングケース43との隙間から樹脂を流し込み、電磁コイル42の絶縁性能を確保している。ボビン41は、図5に示すように、ボビン41の外側フランジ41gがリングケース43の外側円筒部43aの端面43a1に位置決めされ、内側フランジ41fがリングケース43の内側円筒部43bの端面43b1に位置決めされることにより、リングケース43の環状凹部内に位置決めされて固定されている。そして、電磁コイルユニット40は、端面部43cの環状凹部底壁側と反対側の端面に固定した固定部材44が、図1に示すようにフロントハウジング1の端面に位置決めされてスナップリング3で固定されることにより、フロントハウジング1の端面に固定される。
【0024】
前記通電遮断装置50は、ロータ21とアーマチュア31の相対滑りによる発熱が生じたときに、電磁コイル42への通電を強制的に遮断するもので、熱応動素子としての例えばバイメタル51と、ブリッジ導線52とを備える。
【0025】
前記バイメタル51は、ロータに設けられ、温度を感知して所定温度を超えたときに電磁コイルユニット40側に向けて所定距離を越えて変位するものである。バイメタル51は、具体的には、略長方形をなし、ロータ21に形成された環状凹部21dの底壁21c2部分に形成された環状溝21gに収容され、一端側がリベット53で固定され、他端側がロータ21の回転方向に差し向けられている。バイメタル51を環状溝21g内に収容して位置決めすることにより、バイメタル51がブリッジ導線52と衝突(係合)して切断するときに、ブリッジ導線52から反力を受けてロータ21の回転方向に対して左右方向にバイメタル51が傾くことを防止できる。なお、バイメタル51としては、例えば所定温度で反転動作するスナップアクションタイプのものが好適である。スナップアクションタイプのバイメタルは反転温度(反転動作する温度)より低い温度ではあまり変位せず、反転温度を超えると大きく変位するので、この反転動作を利用してブリッジ導線23を切断する。車両空調装置用の圧縮機においては、電磁クラッチ10の温度は通常150℃までは考慮する必要があり、従って電磁コイル42の通電を遮断するための反転温度は例えば180℃〜190℃の範囲に設定される。また、バイメタル51は、リベット53で固定したが、例えばボルト等の他の固定部材を使用しても良い。
【0026】
前記ブリッジ導線52は、電磁コイル42のアース配線の一部をなすものであり、例えばボビン41に巻回された電磁コイル42の巻き終わり部分を利用して形成されている。ブリッジ導線52は、ロータ21の環状凹部21d内に挿入されその底壁21c2に対向配置された電磁コイルユニット20の一端面に、ロータ21の回転に伴うバイメタル51の移動領域(バイメタル51の回転移動領域)を横切り且つ所定距離を越えて変位したバイメタル51が衝突(係合)するように架渡されている。具体的には、図7図11に示すように、ボビン41に巻回された電磁コイル42の巻き終わり部分を、外壁41eの内壁41dと対向する面と反対の面側(ボビン41の径方向外側)から第1スリット41e1に挿通し、外壁41eと内壁41dと第1フランジ41bとで囲まれた空間部を横切って第2スリット41d1に挿通して両スリット41e1,41d1の端面に位置決め支持する。その後、内壁21dの外壁41eと対向する面と反対の面側(ボビン41の径方向内側)から内壁21dの第3スリット41d2に挿通し、第1フランジ41bの面41b1上に形成された案内壁41b2(図10に示す)に沿って外壁41e方向へ第1フランジ41bの面41b1を案内して横断させ、ボビン41の径方向外側に引出すように引き回すことにより、第1フランジ41b上方を横切って外壁41eと内壁41dとの間に架渡されたブリッジ導線52が形成している。
【0027】
また、内側フランジ41f及び外側フランジ41gは、第1フランジ41bの面41b1からの高さが同じに設定されており、第1スリット41e1の深さと第2スリット41d1の深さは同じ深さh2に設定されているので、ブリッジ導線52は第1フランジ41bの面41b1から所定高さで平行に架渡されている。これにより、固定部材44のフロントハウジング1側の端面(基準面)からリングケース43の外側円筒部と内側円筒の端面43a1、43b1までの高さh1と、外壁41e及び内壁41dの端面から第1スリット41e1及び第2スリット41d1の端面までの深さh2と、内側フランジ41f及び外側フランジ41gの板厚を管理することによってブリッジ導線52の電磁クラッチの軸線方向の位置を精度良く位置決めできる。同様に第1フランジの面41b1の位置も精度良く位置決めできる。
【0028】
ここで、ブリッジ導線52の切断領域54は、図12図13に示すように、変位したバイメタル51がブリッジ導線52に衝突する位置から距離Lだけ離れ且つブリッジ導線52におけるアース側(つまり、マイナス側)と反対側(つまり、巻線側であるためプラス側)に設定されている。本実施形態においては、図11に示すように、ブリッジ導線52における上記切断領域54の断面積を、ブリッジ導線52の他の領域の断面積より小さく形成している。なお、距離Lは、例えば1mm以上確保することが望ましい。
【0029】
なお、ブリッジ導線52がバイメタル51に衝突するときに、正対するように架渡されていると、バイメタル51の全幅にブリッジ導線52が同時に衝突してバイメタル51自身が大きく変形し、ブリッジ導線52の切断が行われない可能性がある。このため、本実施形態において、ブリッジ導線52は、切断領域側がアース側より先にバイメタル51に衝突するように傾斜して設けられている。具体的には、図7に示すように、ブリッジ導線52は、切断領域側(第1スリット41e1側)がバイメタル51に近づくように、ボビン41の径方向中心と第1スリット41e1を通る線Kに対し角度θ傾斜させてある。なお、角度θは例えば20°から60°の範囲に設定されている。
【0030】
また、本実施形態においては、ブリッジ導線52にバイメタル51が衝突したときに、ブリッジ導線52における切断領域54を含む切断領域近傍を、回転移動方向と逆方向から支持する支持部55(図11参照)を第1スリット41e1の端面を利用して形成している。第1スリット41e1の幅は、図11に示すように、巻線の外径より僅かに大きく形成してあるため、バイメタル51が変位してブリッジ導線52に衝突したとき、切断領域54は、バイメタル51の回転移動方向に沿ってずれる。この際、切断領域54は、第1スリット41e1よりボビン41の径方向内側、つまり、支持部55よりバイメタル51側、に位置するように設定されている。
【0031】
次に、以上のような構成を有する電磁クラッチ10による圧縮機に対する動力伝達の断続動作を、簡単に説明する。
【0032】
はじめに、通電遮断装置が作動していない通常状態での動力伝達の断続動作について説明する。この通常状態では、車両側のエアコン制御装置によって電磁コイルユニット40への通電・非通電が制御されている。
【0033】
まず、エンジンから出力される回転駆動力によりロータ21が回転する。この状態で、電磁コイル42へ通電されると、電磁コイルユニット40は、ロータ21を磁化し、電磁力によりアーマチュア33の摩擦面33aをロータ21の摩擦面21c1に吸着させ両者間の摩擦力によりアーマチュア33をロータ21と同期回転させる。アーマチュア33の回転力は、ラバーユニット32及びハブ31を介して回転軸2に伝達され、回転軸2が回転して圧縮機の圧縮動作が行われる。一方、車両側のエアコン制御装置によって電磁コイルユニット40の電磁コイル42への通電が遮断されるとロータ21が消磁され、ラバー32cの復元力によりアーマチュア33の摩擦面33aがロータ21の摩擦面21c1から離脱する。そして、ロータ21の回転はアーマチュア33へ伝達されず、回転軸2の回転が停止して圧縮機の圧縮動作が停止する。電磁コイル42が通電され、ロータ21が励磁され、電磁力によりアーマチュア33の摩擦面33aがロータ21の摩擦面21c1に吸着されて、アーマチュア33がロータ21と同期回転する状態では、ロータ21の端面部21cの温度はバイメタル51の反転温度までには至らず、バイメタル51は、図12及び図14に示すように、ブリッジ導線52に衝突することなくブリッジ導線52の上を通過する。
【0034】
次に、通電遮断装置が作動する場合の動作について説明する。図12及び図14の状態で、例えば圧縮機の内部部品が破損し、回転軸2に通常のトルクを大幅に上回る過大なトルクが作用すると、ロータ21の摩擦面21c1とアーマチュア33の摩擦面33aとの間で相対滑りが発生し、摩擦面での発熱によりロータ21の端面部21cの温度が急上昇する。
【0035】
端面部21cの温度が急上昇すると、バイメタル51の他端側(リベット53で固定され一端側とは反対側)は電磁コイルユニット40側に向かって徐々に変位し、反転温度を超えると、図13及び図15に示すように、バイメタル51の他端側が所定距離を越えて大きく変位してブリッジ導線52に衝突(係合)する。そして、第1スリット41e1側に配置されている切断領域54に過大な引張力を与えて、ブリッジ導線52を切断領域54の位置で切断する。これにより、電磁コイル42への通電を強制的に遮断し、アーマチュア33の摩擦面33aをロータ21の摩擦面21c1から離脱させ、エンジン側に過大な負荷が作用することを回避させ、ベルトの損傷が防止でき、車両の安全な走行を確保する。
【0036】
以上のように構成された電磁クラッチ10では、切断領域54は、変位したバイメタル51がブリッジ導線52に衝突する位置から距離Lだけ離れ且つブリッジ導線52のアース側と反対側に設定されているので、ブリッジ導線52が切断された後に、この切断されたブリッジ導線52のうち、アース側と反対側に残されている導線(切断片)の先端が、アース接続されているロータ21やバイメタル51と接触することを防止することができる。これにより、ブリッジ導線の切断後に電磁コイルに電流が流れないことを確実に確保することができるので、ブリッジ導線の切断後にアーマチュアがロータに再び吸着されることを確実に防止することができる。
【0037】
また、切断領域54は、第1スリット41e1の近傍に配置されているので、アース側と反対側のブリッジ導線52の切断片の先端はほとんど動かない。なお、第1スリット41e1が形成されている外壁41eは樹脂製であるので、アース側と反対側のブリッジ導線52の切断片の先端と導通することが無い。
【0038】
本実施形態において、ブリッジ導線52における切断領域54の断面積を他の領域の断面積より小さく形成し、バイメタル51がブリッジ導線52に当接して引っ張られたとき、この切断領域54で切断し易くなり、切断の信頼性を向上することができる。また、ブリッジ導線52を容易に切断することができるので、ブリッジ導線52に当接することによりバイメタル51が大きく変形することを抑制でき、その結果、バイメタル51の破断を防止することができる。
【0039】
また、本実施形態において、ブリッジ導線52は、切断領域54側(第1スリット41e1側)がアース側より先にバイメタル51に衝突するように傾斜して設けられている。これにより、バイメタル51の切断領域54側の端部がブリッジ導線52にエッジ接触して衝突するため、バイメタル51自身の変形が抑制されてバイメタル51の先端がブリッジ導線52の下側に潜りこみやすくなると共に、アース側と反対側(プラス側)に配置された切断領域54に引張力を確実に作用することができる。
【0040】
そして、本実施形態において、ブリッジ導線52にバイメタル51が衝突したときに、ブリッジ導線52における切断領域54を含む切断領域近傍を、回転移動方向と逆方向から支持する支持部55を形成している。これにより、支持部55が支点となって切断領域54を引っ張る力が確実に作用するので、切断領域54でより確実に切断できる。本実施形態において、切断領域54は、支持部55よりバイメタル51側に位置するように設定された場合を示したが、これに限らず、切断領域54は、支持部55に当接するように設定してもよい。
【0041】
上記実施形態において、熱応動部材は、バイメタル51を使用した場合で説明したが、これに限らず、例えば形状記憶合金等を使用しても良い。また、ブリッジ導線52は、ボビン41に巻回された巻線の巻き終わり部分で形成した場合で説明したが、これに限らず、ボビン41に巻回された巻線と別の導線を用いても良い。
【0042】
また、上記実施形態では、車両エアコンシステムに使用される圧縮機に装着される電磁クラッチを一例として説明したが、本発明に係る電磁クラッチは、これに限らず、他の用途にも適用できる。
【0043】
そして、上記実施形態においては、切断領域54は、変位したバイメタル51がブリッジ導線52に衝突する位置から離れ、且つ、ブリッジ導線52のアース側と反対側に設定されている場合で説明したが、これに限らず、切断領域54は、単に、変位したバイメタル51がブリッジ導線52に衝突する位置から離れた位置に設定されていれていればよい。これにより、例えば、切断領域54がブリッジ導線52のアース側と反対側に設定されている場合であっても、ブリッジ導線52が切断された後に、この切断されたブリッジ導線52のうち、アース側と反対側(プラス側)に残されている導線(切断片)の先端が、アース接続されているロータ21や熱応動部材51と接触することを抑制することができるので、ブリッジ導線の切断後にアーマチュアがロータに再び吸着されることを抑制することができる。なお、この場合、アース側と反対側に残されている導線(切断片)の先端以外の部分が熱応動部材51と接触しても導通しないように、ブリッジ導線52に絶縁被覆を施しておいてもよい。
【0044】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。
【0045】
なお、本発明に係る電磁クラッチは、駆動源の動力によって回転駆動されるロータと、前記ロータに対向配置され従動機器の回転軸に連結されたアーマチュアと、電磁コイルを有し当該電磁コイルへの通電によって前記ロータと前記アーマチュアとを磁気吸着させる電磁コイルユニットと、前記電磁コイルへの通電を強制的に遮断する通電遮断装置と、を備えた電磁クラッチであって、前記通電遮断装置は、前記ロータに設けられ、所定温度を超えたときに変位する熱応動部材と、前記ロータの回転に伴う前記熱応動部材の移動領域を横切るように架渡して設けられ、前記電磁コイルのアース配線の一部をなすブリッジ導線と、を含み、変位した前記熱応動部材が前記ブリッジ導線に衝突することによって当該ブリッジ導線を切断するものであって、前記ブリッジ導線の切断領域は、変位した前記熱応動部材が前記ブリッジ導線に衝突する位置から離れ且つ前記ブリッジ導線におけるアース側と反対側に設定されたもの、を基本構成として説明したが、この基本構成の電磁クラッチは、言い換えると、駆動源の動力によって回転駆動されるロータと、前記ロータに対向配置され従動機器の回転軸に連結されたアーマチュアと、電磁コイルを有し当該電磁コイルへの通電によって前記ロータと前記アーマチュアとを磁気吸着させる電磁コイルユニットと、を備えた電磁クラッチであって、所定温度以上で変位する熱応動部材が前記ロータに設けられると共に、前記電磁コイルのアース側部分が前記ロータの回転に伴う前記熱応動部材の移動領域を横切るように架渡されたブリッジ導線部を構成し、変位した前記熱応動部材が前記ブリッジ導線部に衝突することによって当該ブリッジ導線部が切断されるように構成され、前記ブリッジ導線部は、変位した前記熱応動部材の衝突位置よりも非アース側の位置で切断されたもの、であると表現することもできる。
【符号の説明】
【0046】
10…電磁クラッチ、21…ロータ、33…アーマチュア、40…電磁コイルユニット、42…電磁コイル、50…通電遮断装置、51…バイメタル(熱応動部材)、52…ブリッジ導線、54…切断領域、55…支持部、2…従動機器(圧縮機)の回転軸
図1
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図10
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図15