【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公益社団法人土木学会により平成24年6月18日に発行された「第37回海洋開発シンポジウム(2012)講演集[CD−ROM]」にて発表 (2)公益社団法人土木学会が平成24年6月28日に開催した「第37回海洋開発シンポジウム」にて発表 (3)公益社団法人土木学会により平成24年9月18日に発行された「土木学会論文集B3(海洋開発),Vol.68,No.2,2012」にて発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る運航シミュレーション装置について、複数の船舶が資材を長距離かつ大量運搬する必要がある離島での海洋工事に適用した場合を例にとり、適宜図面を参照しながら説明する。なお、同様の構成には同様の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る運航シミュレーション装置が適用される海域2には、資材を積み込む港3(以下、「積み込み港3」という。)と、資材を積み下ろす港4(以下、「積み下ろし港4」という。)と、積み込み港3及び積み下ろし港4の間の複数の港5と、が存在している。かかる海域2において、複数の船舶10が、積み込み港3及び積み下ろし港4の間を往復し、積み込み港3で資材を積み込んで積み下ろし港4で資材を積み下ろす。なお、複数の港5を区別する場合には、符号5の後ろにローマ字を付すことがある。また、以下の運航シミュレーション装置の説明において、船舶10は実際には運航しておらず、当該装置内のシミュレーションにおいて仮想空間内を運航している。
【0020】
<運航シミュレーション装置>
図2に示すように、運航シミュレーション装置20は、複数の船舶10の運航をシミュレーションして複数の航路の中から各船舶10に最適な航路を選択する装置であって、CPU、ROM、RAM、入出力回路等からなる。運航シミュレーション装置20は、
図2に示すように、機能部として、記憶部21と、データベース管理部22と、航路選択部23と、を備える。
【0021】
記憶部21には、気象・海象条件データベース21aと、航路データベース21bと、船舶諸元データベース21cと、避泊地データベース21dと、が記憶されている。
【0022】
気象・海象条件データベース21aには、気象・海象条件が記憶されている。気象・海象条件は、前記した海域2における海象(波高)及び気象(風速)に関するデータであり、本実施形態では、例えば面積400km
2(20km×20km)のエリア毎の情報を所定時間(タイムステップ。例えば、1時間)ごとに所定期間分(例えば、1年間分)を含むデータである。かかる気象・海象条件としては、例えば海域2における過去の気象・海象に関するデータを用いることができる。
【0023】
航路データベース21bには、海域2における複数の航路の位置データが記憶されている。
複数の航路は、
図1に示すように、積み込み港3及び積み下ろし港4の間を往復する船舶10が、常に目的地に近づくように設定されており、例えば積み込み港3から積み下ろし港4への航路(往路)としては、「積み込み港3→積み下ろし港4」、「積み込み港3→港5A→積み下ろし港4」、「積み込み港3→港5A→港5B→積み下ろし港4」等といった複数の航路が設定されている。かかる複数の航路には、例えば往路における港5Dから港5Cへと目的地から遠ざかるような航路は含まれない。すなわち、船舶10の航路において、次の港(避泊地)から目的地(積み込み港3又は積み下ろし港4)までの直線距離は、今の港から目的地までの直線距離よりも短い。
【0024】
図3(a)に示すように、船舶諸元データベース21cには、船舶10毎に、船舶IDと、積載量と、往路での船速と、復路での船速と、波高閾値と、風速閾値と、が関連付けて記憶されている。ここで、積載量は、当該船舶10に資材を積載可能な最大積載量である。また、船速(往路)は、最大積載量の資材を積載した船舶10が運航する速度であり、予め設定された値である。また、船速(復路)は、資材を積み下ろした船舶10が運航する速度であり、船速(往路)よりも速く、予め設定された値である。波高閾値は、船舶10が運航可能な波高の最大値であり、運航中の波高が当該波高閾値を超える場合には、船舶10は避泊する必要がある。風速閾値は、船舶10が運航可能な風速の最大値であり、運航中の風速が当該風速閾値を超える場合には、船舶10は避泊する必要がある。
【0025】
また、船舶諸元データベース21cには、船舶10毎に、作業時間と、作業可能時間帯と、が関連付けて記憶されている。ここで、作業時間は、船舶10に資材を積み込んだり船舶10から資材を積み下ろしたりするのに要する時間であり、積み込み/積み下ろしごとに分けて設定されていてもよい。また、作業可能時間は、積み込み港3及び積み下ろし港4において作業可能な時間帯であり、船舶諸元データベース21cに代えて避泊地データベース21dに記憶されていてもよい。
【0026】
図3(b)に示すように、避泊地データベース21dには、避泊地毎に、避泊地ID(又は避泊地名)と、避泊地位置データと、避泊可能隻数と、が関連付けて記憶されている。避泊地は、船舶10が避泊可能な場所であり、前記した積み込み港3、積み下ろし港4及び複数の港5が避泊地に該当する。
避泊可能隻数は、避泊地に避泊可能な船舶10の隻数であり、港3,4,5の規模、港湾管理者との契約等によって予め設定されている。
避泊余裕隻数は、避泊可能隻数から避泊している船舶10の隻数を引いた隻数である。また、図示は省略するが、避泊余裕隻数は、シミュレーション中において経時的に変化するものであるため、シミュレーション内で流れる時間と関連付けて記憶される。
【0027】
データベース管理部22は、記憶部21内の各データベース21a〜21dを管理するものであって、キーボード・マウス等からなる入力装置30又は外部のサーバ等から出力された各種データを取得し、記憶部21内の各データベース21a〜21dの内容を更新する。
【0028】
航路選択部23は、各データベース21a〜21dのデータに基づいて、複数の船舶10に対して最適な航路を選択し、プリンタ、ディスプレイ、スピーカ等からなる出力装置40へ選択結果を出力する。航路選択部23による航路の選択手法については、以下の動作例において詳細に説明する。
【0029】
<動作例>
続いて、運航シミュレーション装置20の動作例、すなわち、航路選択部23による航路の選択手法について、
図1〜
図4を参照して詳細に説明する。本動作例では、初期条件として、全ての船舶10が積み込み港3に位置する状態からシミュレーションを開始し、各船舶10に対して片道(往路・復路)ずつシミュレーションを繰り返す(往路→復路→往路→復路→…)。
【0030】
図4に示すように、まず、航路選択部23が、船舶10がどれであるかを示すパラメータa、航路がどれであるかを示すパラメータb、航路中の港数(出発地を除いた数であり、次の避泊地を示す)パラメータcをそれぞれ「1」に設定する(ステップS1)。なお、船舶10の総数をA、航路の総数をB、航路中の港の総数(出発地を除いた数)をCとする。
【0031】
続いて、航路選択部23が、1番目の船舶10の1番目の航路における現在値(ここでは、積み込み港3)から次の避泊地までの経路に関して、所定時間H
1(例えば、気象・海象条件のタイムステップである1時間)ごとに船舶10の位置における気象・海象に基づいて、気象・海象が運航に良好であるか不良であるかを判定する(ステップS2)。
例えば、航路選択部23は、時間Δt後の船舶10の位置における気象・海象を確認するために、現在の時刻tにおける船舶10の船舶位置データx(初期条件として予め設定されている)と、船舶諸元データベース21cに記憶された船舶10の船速vとに基づいて、時刻t+Δtにおける船舶10の船舶位置データx+v・Δtを算出する。
続いて、航路選択部23は、気象・海象条件データベース21aに記憶された気象・海象条件の中から、位置x+v・Δt及び時刻t+Δtに該当する気象・海象予報条件(すなわち、波高(海象条件)及び風速(気象条件))を抽出し、抽出された波高及び風速と、船舶諸元データベース21cに記憶された波高閾値及び風速閾値と、を比較する。
そして、航路選択部23は、次の港までの運航全体において、波高が波高閾値以下であり、かつ、風速が風速閾値以下である場合に、気象・海象条件は良好であると判定し、波高が波高閾値を超える、又は、風速が風速閾値を超える場合に、気象・海象条件は不良であると判定する。ここで、気象条件としての風速は、東西方向の風速と南北方向の風速とを含んでいてもよく、この場合には、航路選択部23は、東西方向の風速及び南北方向の風速をそれぞれ風速閾値と比較することができる。
【0032】
ステップS2において良好と判定された場合には、航路選択部23は、次の避泊地の混雑度を確認する(ステップS3)。
すなわち、航路選択部23は、避泊地データベース21dに記憶された、次の避泊地に到着する時間における余裕避泊隻数を参照し、余裕避泊隻数がプラス(空きあり)であるかゼロ(空きなし)であるか否かを判定する。1隻目の船舶10に関しては、ステップS3では原則的に空きありと判定される。
【0033】
ステップS2において不良と判定された場合と、ステップS3において空きなしと判定された場合には、航路選択部23は、船舶10を今の避泊地で所定時間H
2(例えば、気象・海象条件のタイムステップである1時間)だけ待機させ、ステップS2,S3を繰り返す。
【0034】
ステップS3で空きありと判定された場合には、航路選択部23は、次の避泊地からさらに次の避泊地への経路に関して同じ処理を繰り返す(ステップS5でNo→ステップS6→ステップS2→…)。
【0035】
1番目の航路について目的地(往路における積み下ろし港4又は復路における積み込み港3)までの処理が終了すると(ステップS5でYes)、航路選択部23は、1番目の航路における運航時間を算出する(ステップS7)。ここで、運航時間は、船舶10が出発地から目的地まで運航するのに要する時間であって、海域を移動する航行時間と、避泊地での待機時間と、積み込み港3及び積み下ろし港4での作業時間と、を含む。
本動作例において、往路における運航時間は、積み込み港3での積み込み作業開始までの順番待ち時間と、積み込み港3での積み込みに要する作業時間と、海域2を移動する航行時間と、その途中における避泊地での待機時間と、の合計時間である。また、復路における運航時間は、積み下ろし港4での積み下ろし作業開始までの順番待ち時間と、積み下ろし港4での積み下ろしに要する作業時間と、海域2を移動する航行時間と、その途中における避泊地での待機時間と、の合計時間である。
【0036】
航路選択部23は、1番目の船舶10の全ての航路に関して同じ処理を繰り返す(ステップS8でNo→ステップS9→ステップS2→…)。
【0037】
1番目の船舶10の全ての航路に関して運航時間の算出処理が終了すると(ステップS8でYes)、航路選択部23は、1番目の船舶10に関する複数の航路から最も運航時間の短い航路を選択する(ステップS10)。
【0038】
航路選択部23は、全ての船舶10に関して同じ処理を繰り返す(ステップS11でNo→ステップS12→ステップS2→…)。2隻目以降の船舶10に関しては、ステップS3で空きなしと判定されるケースが出てくる。
全ての船舶10に関して航路が選択されると(ステップS11でYes)、航路選択部23は、船舶10ごとに選択済みの航路の運航時間を積算し、積算された運航時間が所定期間(本動作例では、1年)に達したか否かに基づいて、全ての船舶10に関して所定期間分のシミュレーションが完了したか否かを判定する(ステップS13)。
ステップS13でNoの場合には、船舶10の総数Aからシミュレーションが完了した隻数を引くとともに、所定期間分のシミュレーションが完了していない船舶10に関して、直前の処理における目的地(積み込み港3又は積み下ろし港4)を出発地としてステップS1〜S13を繰り返す。ここで、往路に関するシミュレーションの後には復路に関するシミュレーションが行われるが、例えば1隻目の船舶10が復路を運航する際に他の船舶10が往路にあって港5に避泊している等のケースがあり、一の船舶10の航路選択に他の船舶10の航路が影響を与えることとなる。
【0039】
そして、全ての船舶10に関して1年分のシミュレーションが完了したと判定された場合(ステップS13でYes)には、本フローを終了し、選択された航路を出力装置40へ出力し、印刷、画像(映像)又は音声によってユーザへ通知する。
【0040】
なお、航路選択部23は、所定期間(例えば、1年間)内に積み込み港3及び積み下ろし港4を所定回数(例えば、1隻の船舶10が気象・海象に影響されずに待機時間ゼロで積み込み港3及び積み下ろし港4の間を直接往復したときの回数を100%としたときに50%)以上往復することができる船舶10の数(稼動数)又は割合(稼働率)を算出する構成であってもよい。
【0041】
本発明の実施形態に係る運航シミュレーション装置20は、気象・海象条件及び船速を用いて、気象・海象条件が船舶による今の避泊地から次の避泊地への運航に不適であると判定した場合には、所定時間だけ今の避泊地に避泊するようにして船舶の運航時間を算出し、複数の船舶それぞれに対して、複数の航路の中で運航時間が最も短い航路を選択するので、精度の高いシミュレーションを行うことができ、気象・海象を考慮して、より正確な稼働状況に基づく工程計画の作成が可能となる。
また、本発明の実施形態に係る運航シミュレーション装置20は、航路が出発地から目的地へ向けて常に前進するように設定されているので、後戻りするような非効率的な航路を予め除外し、シミュレーションに要する時間を短縮することができる。
また、本発明の実施形態に係る運航シミュレーション装置20は、避泊地に避泊可能な隻数を超えないように、複数の船舶の航路を選択するので、避泊地の混雑度を考慮して、より現実的な設定が可能となり、さらに正確な稼働状況に基づく工程計画の作成が可能となる。
また、本発明の実施形態に係る運航シミュレーション装置20は、作業時間及び作業可能時間帯に基づいて運航時間を算出するので、実際の作業を考慮した工程計画の作成が可能となる。
また、本発明の実施形態に係る運航シミュレーション装置20は、船舶10の稼動数又は稼働率を算出するので、船舶10の最適な隻数を決める参考となる。
【0042】
<実施例>
<運航シミュレーション技術>
海運分野のウェザールーティングでは、大洋を横断する航路で避泊地5がないケースを扱っているが、本発明は主に海洋工事を対象とするため、積み込み港3と積み下ろし港4の途中に島等があり、気象・海象が悪化した場合には避泊できる場合を考える。
この場合、途中の島等に避泊地5を設け、気象・海象の変化を考慮しながら船舶10を可能な限り前進させることにより、より短い期間でより大量の資材運搬を達成することができると考えられる。
施工計画時には,重要なパラメータである船舶10の数、各船舶10の運搬量、船速、波高閾値、風速閾値、避泊地5(避難港)、積み込み及び積み下ろしの作業時間並びに作業の開始時刻及び終了時刻を考慮した上で、出港可否判断を含めた最適航路を探索し、各船舶の運航を工事予定地域でシミュレーションすることで、運航計画の最適化が可能となる。
【0043】
本技術では、気象・波浪解析には第5世代NCAR/Penn StateメソスケールモデルMM5(Grell,G.A.,J.Dudhia, and D.R.Stauffer : A description of the fifth-generation Penn State-NCAR Mesoscale Model(MM5), NCAR Tech. Note NCAR/TN-398+STR, NCAR,p.128, 1991)と沿岸波浪推算モデルSWAN(Booij,N.,R.C.Ris and L.H.Holthuijsen : A third-generation wave mode1 for coastal regions, Part1, Model description and validation, J.Geophys. Res. C4, 104, pp,7649-7666 ,1999)を用いた。
ここで得られた気象・海象条件をもとに、各船舶10の最適航路の探索を行う。
【0044】
最適航路は、前記したように、
図4に示すフローに従って探索する。
予め気象・海象条件を記憶部21に記憶させ、まず、1番目の船舶10に対し、航路データベース21bにある全ての航路パターンについて、所要時間を計算する。
この際、避泊地5の数が増えるにつれて、積み込み港3から積み下ろし港4までの選択可能な航路パターン数mは、次式のように階乗で増加する。
【0046】
ただし、N:港の数の総和とする。
例えば,避泊地5が10港ある場合、積み込み港3及び積み下ろし港4と合わせてn=12となるから、m=9864101通りとなり、この航路パターンの全てについて、各船舶10の気象・海象悪化による待機時間も含めた所要時間を計算すると、計算負荷が非常に大きく、計算終了までの時間が膨大になる。
一方で,実際にはこの航路パターンの中には,戻りを含む非現実的な航路も含まれる。
そこで,各航路パターンの総延長をもとに、事前に、非現実的な航路パターンのみを取り除き、現実的な航路パターンをデータベース化して航路データベース21bとすることで、航路探索時間の短縮を達成した。
【0047】
所要時間計算の際に、途中、気象・海象悪化で航行できない場合には、気象・海象が良好になって次の港に到達できるまで今の港に待機させる。
そして、待機時間を考慮した上で、最短時間で積み込み港3/積み下ろし港4に到達した航路を最適航路とする。
次に、2番目の船舶に対しても、同様に所要時間を計算するが、その際には、各避泊地について他の船舶10との重なり(港の混雑度)を確認し、港の停泊可能隻数を超える場合は、空きが出るまで今の港に待機させる。
全ての待機時間を考慮した上で最短となった航路を最適航路とする。
以降の船舶10に対しても同様の探索を繰り返すことで,各船舶10の最適航路を探索することができる。
【0048】
以上のようにして、各船舶10に積み込み港3から積み下ろし港4までの往路/復路ごとに最適航路を探索し、工期中の海域2(工事区城)におけるシミュレーションを行うことで、船舶10の稼働率の算出、船団の最適な組み合わせ等を計画することができる。
【0049】
<ケーススタディの条件設定>
(1)ケーススタディ1 〜費用対効果が高い傭船数〜
本発明の実施形態に係る運航シミュレーション装置20を用いて土砂運搬を対象とした一年間のシミュレーションを実施した。
本発明のシミュレーション技術は、主に長距離運搬を対象としているため、一般的な海洋工事よりも資材の積み込み港と積み下ろし港が遠方に離れている場合を想定する。
そこで
図5に示すように、積み込み港と積み下ろし港とが571km離れており、その間に避泊地が13港存在する場合を考えた。
また各避泊地に停泊できる船舶の数は3隻とし、積み込み港及び積み下ろし港の待機場所では、すべての船舶が停泊できるとした。
また、仮想的な気象・海象条件を作成するため、任意の領域における過去のNCEPデータを用いた海象・気象解析を実施したところ、領域全体として
図6に示す頻度分布を持っていた。
この仮想的な気象・海象条件を与え、一年間のシミュレーションを実施した。
ここで、
図7は、
図5に△で示す地点の波高及び風速の時系列変化を示すグラフである。
図7(b)において、実線は南北方向の風速であり、点線は東西方向の風速である。
図7に示す例では、春季〜夏季は気象・海象が良好であったが、8月から台風が来襲し、また、冬季は北西の季節風が卓越している。
【0050】
今回の設定の下で、費用対効果が高い船舶の数(傭船数)を調べるため、傭船数のみを変更して、一年間の総運搬量の変化を調べた。
船舶の最適等の諸元は表1に示す通りとし、一年間の運航シミュレーションを実施した。
【0052】
ここで、「作業時間」とは、積み込み作業及び積み下ろし作業に要する時間である。また、「作業可能時間帯」とは、積み込み作業及び積み下ろし作業を実施可能な時間帯であり、深夜・早朝は作業を停止して待機しているとした。
【0053】
(2)ケーススタディ2 〜経験的運航力法との比較〜
本発明の有効性を確認するため、従来通り、各舶舶の舶長の判断で運航した場合と本発明を用いた場合の運搬量を比較した。
ここで、船長が判断する従来の手法をモデル化するため、複数の船長にヒアリングを行った。
その結果、次のことが分かった。
・運航管埋は船長が行う。
・気象・海象予報はテレビ・ラジオや海上保安庁による予報Faxを通して受信する(海上でも情報取得可能)。
・天気予報(気象・海象)によって、出港後、目的港へ入港するまで天気が良好でなければ出港しない。
・安全を優先し、出港後に海況悪化のため元の港へ戻ってくる場合もある。
以上を「経験的運航方法」としてモデル化した。
各船長の統―的な基準のない経験的判断をモデル化することは非常に困難であるため、今回のモデル化は複数の船長の共通した項目のみに限り、船果の個々の経験的判断基準は、各船舶の航行限界波高及び航行限界風速の設定に含むものとみなした。
【0054】
本ケーススタディでは、より現実的な船団として,6隻の船舶を表2に示す諸元で設定し、
図5に示したケーススタディ1と同じ位置に各港を設定し、気象・海象条件についてもケーズスタディ1と同一の任意の領域についで過去のNCEPデータを用いた解析を行い、領域全体として
図8に示す頻度分布を持ち、
図5に△で示した地点で
図9に示す時系列となる仮想的な気象・海象条件を与え、一年間の運航シミュレーションを実施した。
図9(b)において、実線は南北方向の風速であり、点線は東西方向の風速である。
【0056】
(3)ケーススタディ3 〜運搬距離と効率化〜
運搬距離が長いほど、船舶が海上にいる時間が長期化するため、気象・海象の影響が増大すると考えられる。
したがって、本発明のシミュレーション技術の適用による効率化の度合いは、運搬距離が長いほど大きくなることになる。
そこで、運搬距離と本発明による効率化との関係を調べるため、
図10に示すように、運搬距離を571km、468km、366km、264km、172kmの5通りに設定し、一年間の運航シミュレーションを行った。
ここで、避泊地は、積み込み港3A,3B,3C,3D,3Eと積み下ろし港4の間にある港とし、運搬距離が571kmでは13港、468km、366km、264kmでは6港、172kmでは4港とした。
船舶の諸元は、ケーススタディ2と同じ表2に示すものとし,経験的運航方法を適用した場合の運搬量との比較を行い、本発明の運航シミュレーション技術を適用した場合の効率化の度合いが運搬距離によってどう変化するかを調べた。
【0057】
<ケーススタディの結果>
(1)ケーススタディ1 〜費用対効果が高い傭船数〜
船舶の隻数を増加させ、一年間の総運搬量の変化を調べた結果を
図11に示す。
図11に示すように、傭船数を増やしても年間総運搬量は頭打ちになることがわかる。
これは、単純に傭船数を増加しても、積み込み港3及び積み下ろし港4における積み込み設備及び積み下ろし設備の数は限られており、待機する船舶が増えるだけで運搬の効率化には繋がらないことを示している。
このことから、費用対効果の最も高い傭船数を検討するため、効率的に運航している船舶の割合を表す指標として、「待機時間がゼロの場合に1隻の船舶の1年間の往復回数を100とし、往復回数50以上を確保できた船舶数の割合」を「有効船舶稼動率」と定義し、傭船数と有効船舶稼働率の関係を調べた。
図11の有効船舶稼働率に着目すれば、傭船数が約16隻以上から低下しており、傭船数が16隻の場合に待機船数が少なく費用対効果が最適化されることがわかった。
図12に示した各船舶の運搬回数を見ても、航路探索の優先度が下がるにつれ、運搬回数が減少する様子が見て取れる。
この結果より、本技術を用いれば、費用対効果を施工計画の段階で定量的に評価できることがわかる。
【0058】
(2)ケーススタディ2 〜経験的運航方法との比較〜
現実的な傭船数及び作業条件(表2)の下、一年間のシミュレーション結果を
図13に示した。
気象・海象を考慮しない場合と気象・海象を考慮した場合の運搬量の比を稼働率とすると、稼働率には大きな季節変化があり、今回仮想的に用いた気象・海象条件では冬に季節風が強いため12月の稼働率が最も低く、23%であった。
一方で、稼働率の最も高い5月は80%を超えており、年間を通しての平均稼働率は53%であった。
このことから、施工計画の際には工事区域の季節特性の把握が重要であることがわかった。
【0059】
一年間の土砂運搬量について、経験的運航方法を適用した場合と本発明による最適航路を採用した場合の比較を
図14に示した。
経験的運航方法の場合、年間総運搬量が460,000m
3に対し,本発明を適用した場合は、594,800m
3であった。
この結果より、本発明を適用することで経験的運航可否判断に含まれる不確実さがなくなり、このケースでは約29%運搬量が増加した。
気象・海象条件作成時にNCEPデータの時期を変えて7通りの設定で実施してみても、今回の設定では
図15に示すように7年の平均で21%の増量を確保することができ、本発明の有効性が確認された。
【0060】
(3)ケーススタディ3 〜運搬距離と効率化〜
運搬距離の影響を検討するため、ケーススタディ2と同一の現実的な船団及び作業条件(表2)の下、異なる5ケースの運搬距離571km、468km、366km、264km、172kmを設定し、一年間の運航シミュレーションを行った。
その結果,年間総運搬量は
図16に示す通りになった。
図16によると,本発明のシミュレーション技術を用いた場合の運搬量は、全て経験で運航方法を適用した場合を上回っており、本発明を適用することで運搬量を増加することができることがわかった。
本発明による効率化の度合いをみると、運搬距離が366kmの場合を除き、運搬距離が増加するのに伴い運搬増量も増加しており、172kmでは4%であったのに対し、571kmでは27%の運搬効率化を見積もることができた。
しかし、366kmでは264kmに比べ効率化が減少していた。これは、今回の設定では避泊地数が運搬距離と比例しておらず、また、避泊地の位置も同一であったため、効率化の度合いと距離の関係が単純ではなかったためと考えられる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、初期条件における複数の船舶10の位置は、適宜変更可能である。また、複数の船舶10のうち、どの船舶10から順に航路を選択するかという事項についても適宜変更可能である。例えば、船速の遅い船舶10、積載量の多い船舶10、波高閾値及び風速閾値が小さい船舶10等から先に航路を選択する構成であってもよい。