特許第5953236号(P5953236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953236
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】プレススルーパック包装体
(51)【国際特許分類】
   B65D 83/04 20060101AFI20160707BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160707BHJP
   B65D 75/34 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   B65D83/04 D
   B32B27/30 B
   B65D75/34
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-542963(P2012-542963)
(86)(22)【出願日】2011年11月9日
(86)【国際出願番号】JP2011075857
(87)【国際公開番号】WO2012063876
(87)【国際公開日】20120518
【審査請求日】2014年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2010-253943(P2010-253943)
(32)【優先日】2010年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松木 豊
(72)【発明者】
【氏名】林 英樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩明
【審査官】 西堀 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−101132(JP,A)
【文献】 特開平09−052313(JP,A)
【文献】 特開2003−138038(JP,A)
【文献】 特開2004−256125(JP,A)
【文献】 特開2000−234030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/04
B65D 75/34
B32B 27/30
A61J 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂、および、前記3種の共重合樹脂のいずれか1種を構成するモノマー成分に更にエステル成分を含む三元共重合樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種のスチレン系共重合樹脂を含む熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂100質量部に対して5質量部未満の無機フィラーとを含む層を少なくとも1層有する延伸フィルムからなる蓋材と、
底材と、を有し、
前記スチレン系共重合樹脂における各スチレン成分は、前記スチレン系共重合樹脂を構成する樹脂成分の合計を基準として70〜97wt%であるプレススルーパック包装体。
【請求項2】
該延伸フィルムは、該熱可塑性樹脂のビカット軟化点よりも20℃高い温度にて測定される配向緩和応力のピーク値であって、フィルムのMD及びTDのうちいずれか一方の値が、0.2〜4.0MPaであることを特徴とする請求項1に記載のプレススルーパック包装体。
【請求項3】
該延伸フィルムは、該熱可塑性樹脂のビカット軟化点よりも20℃高い温度にて測定される配向緩和応力のピーク値であって、フィルムのMD及びTDの両方の値が0.2〜4.0MPaであることを特徴とする請求項1に記載のプレススルーパック包装体。
【請求項4】
該無機フィラーの平均粒子径が1〜10μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプレススルーパック包装体。
【請求項5】
該無機フィラーが非晶質アルミノ珪酸塩であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプレススルーパック包装体。
【請求項6】
該延伸フィルムは、突刺し強さが1〜5Nであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプレススルーパック包装体。
【請求項7】
該延伸フィルムは、厚みが5〜30μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のプレススルーパック包装体。
【請求項8】
該延伸フィルムは、少なくとも一方の面にアルミ蒸着層が積層されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のプレススルーパック包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に錠剤やカプセル等の医薬品或いはキャンディーやチョコレート等の食品の包装に好適に使用できる蓋材フィルムを有する、プレススルーパック包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品等の包装形態の一つとして、底材と蓋材とを備えるプレススルーパック(以下PTPという)包装体が知られている。PTP包装体は、ポリ塩化ビニル系樹脂又はポリプロピレン系樹脂等からなるプラスチックシートを、真空成形又は圧空成形することによりポケット状の凹部を有する底材として成形し、この凹部に内容物を充填した後、凹部以外のフランジ部をヒートシール性の蓋材でシールすることによって形成される。
【0003】
PTP包装体は、収納された内容物に対して底材の外側から蓋材の方向に力を加えて蓋材を破ることによって内容物を取り出すように構成されたものである。このため、PTP包装体の蓋材は、内容物を押し出すことによって容易に破れるという性質(プレススルー性)が求められる。現在、プレススルー性に優れたアルミ箔が蓋材として幅広く用いられている。
【0004】
しかしながら、アルミ箔製蓋材を使用したPTP包装体は、以下のような問題がある。即ち、内容物を取り出した後に包装体を廃棄する場合、昨今の資源のリサイクル利用の観点から、プラスチック製の底材とアルミ箔製蓋材を分別回収することが望ましいが、これには多大な労力を要し、物理的に困難であるという問題がある。また、焼却処理する場合にも、アルミ箔の発熱量が多いために焼却炉が傷んだり、溶融一体化して焼却効率が低下したりする問題がある。また、アルミニウムの製造には多大な電気エネルギーを要し、コスト面でも、また、CO排出といった環境面でも課題を有している。更に、PTP包装現場においては、アルミ箔製蓋材ロールの包装機への着脱がほとんど人手によってなされているのが実情であり、重量物取扱いによる作業者の負担の増大、落下などによる負傷の危険がある。
【0005】
このような状況の中、アルミ箔を使用しないPTP用蓋材として、各種のプラスチック製蓋材フィルムが提案されている(特許文献1〜4参照)。
【0006】
特許文献1には、樹脂フィルムの破裂強度を低下させ、良好なプレススルー性を発現させるため、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン又はスチレンコポリマー等の樹脂100質量部に対し、5〜250質量部の無機フィラーを配合したPTP用蓋材シートが記載されている。
【0007】
特許文献2には、無機質粉末を含有したポリプロピレン系シートの片面に樹脂皮膜層を形成したPTP用蓋材が記載されている。
【0008】
特許文献3には、プラスチック製フィルム表面に貫通しない無数の引っ掻き傷を設けることによりプレススルー性を付与したPTP用蓋材フィルム、及び該引っ掻き傷を保護するための樹脂コーティングよる保護層が設けられたPTP用蓋材フィルム、並びにこれらを用いたPTPが記載されている。
【0009】
特許文献4には、汎用のポリスチレン等の樹脂を一軸延伸したフィルムとその一軸延伸方向と開口部の長軸方向とを合致せしめて積層してなるPTP包装物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−101133号公報
【特許文献2】特開平09−57920号公報
【特許文献3】特開平06−39015号公報
【特許文献4】実公昭54−11258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、近年、医薬品用のPTP包装体では、従来の製品名称ロゴや使用方法を示す図柄の他に、医療事故の防止やトレーサビリティーの確保を目的とした商品コード、有効期限、製造番号、数量といった各種情報を印刷すること、或いはこれらの情報を含んだバーコードを印刷することのニーズが高まりつつある。医薬品用のPTP包装体は一般に小さく、これらの情報は蓋材フィルムの限られた狭いスペースに印刷する必要があるため、印刷する情報量の増加に伴って印刷の判読性がより求められるようになる。
【0012】
特許文献1に記載のPTP用蓋材シートは、樹脂中に多量の無機フィラーを配合しているため、その表面が粗となり、この蓋材シートに印刷を施そうとした場合、印刷が不鮮明となってしまう。このため、蓋材シートの印刷が不鮮明であると印刷情報が判読しにくい、或いは読み間違えやすいという難点がある。また、無機フィラーが多量に添加されているため、蓋材シートからの該フィラーの脱落の可能性が常にあり、内容物である医薬品や食品が汚染される危険がある。
【0013】
特許文献2に記載のシートは、無機質粉末を含有したポリプロピレン系シートの表面に樹脂皮膜を設けて、印刷鮮明性の向上を図っている。しかし、樹脂皮膜層を積層することにより蓋材の強度が増してプレススルー性が低下する傾向がある。また、これを最小限に抑えるために樹脂皮膜層を薄くすると、表面の荒れの低減が不足して印刷判読性を十分に改良することができない。このためプレススルー性と印刷適性を両立させることが困難である。また、樹脂皮膜層を積層する必要があるために製造コストが高くなる。
【0014】
特許文献3に記載のフィルムは、プレススルー性付与のために設けた引っ掻き傷によるピンホール防止のために、保護層を積層したものであるが、特許文献2と同様に、保護層の厚みによりプレススルー性が不十分となる。また、引っ掻き傷の表面の荒れのために印刷判読性が不十分となること、及び製造コストが高くなることに改善の余地がある。
【0015】
一方、PTP用蓋材フィルムは、内容物の取り出しやすさの点から優れたプレススルー性が求められる反面、PTP包装体の製造過程で受ける種々の負荷に耐え得る強度が求められる。即ち、PTP用蓋材フィルムは、底材にシールされるまでに、製膜工程、スリット工程、印刷工程、シール剤塗布工程、底材へのシール工程等多くの加工工程を経るため、各加工工程で受ける張力等の負荷に耐え得る引張り強度を有する必要がある。上記特許文献1〜3に記載のフィルムは、無機フィラー、無機粉末の添加又は引っ掻き傷の付与によって破れ易くしてプレススルー性を発現させていると認められるが、同時に引張り強度も低下するため、その加工工程においてフィルムが切れてしまう等のトラブルが発生しやすい。
【0016】
特許文献4に記載のフィルムは、汎用ポリスチレン等の樹脂を一軸方向に延伸したフィルムであるが、特段のプレススルー性付与の工夫は無く、プレススルー性に劣り、また延伸方向と平行な方向に裂けやすく、フィルムの破れに方向性が出やすいので、内容物の形状や蓋材フィルムと底材との張り合わせ方向に制限が必要となってしまう。
【0017】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来のアルミ箔製蓋材と比較して極めて軽量で、かつ、使用後の廃棄処理が容易であるとともに、内容物を汚染することなくプレススルー性及び印刷判読性に優れ、更にはその加工適性、錠剤押出音、ヒートシール安定性に優れたプラスチック製蓋材フィルムを有するPTP包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、少量の無機粒子を配合した、もしくは配合しない熱可塑性樹脂を延伸したフィルムをPTP用蓋材に用いることで上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
即ち、本発明は、以下のPTP蓋材フィルム及びPTP包装体を提供する。
(1)スチレン−アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂、および、前記3種の共重合樹脂のいずれか1種に更にエステル成分を含む三元共重合樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂100質量部に対して5質量部未満の無機フィラーとを含む層を少なくとも1層有する延伸フィルムからなる蓋材を有するプレススルーパック包装体。
(2)該延伸フィルムは、該熱可塑性樹脂のビカット軟化点よりも20℃高い温度にて測定される配向緩和応力のピーク値であって、フィルムのMD及びTDのうちいずれか一方の値が、0.2〜4.0MPaであることを特徴とする(1)に記載のプレススルーパック包装体。
(3)該延伸フィルムは、該熱可塑性樹脂のビカット軟化点よりも20℃高い温度にて測定される配向緩和応力(ORS)のピーク値であって、フィルムのMD及びTDの両方の値が0.2〜4.0MPaであることを特徴とする(1)に記載のプレススルーパック包装体。
(4)該無機フィラーの平均粒子径が1〜10μmであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載のプレススルーパック包装体。
(5)該無機フィラーが非晶質アルミノ珪酸塩であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載のプレススルーパック包装体。
(6)該延伸フィルムは、突刺し強さが1〜5Nであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載のプレススルーパック包装体。
(7)該延伸フィルムは、厚みが5〜30μmであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1つに記載のプレススルーパック包装体。
(8)該延伸フィルムは、少なくとも一方の面にアルミ蒸着層が積層されていることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1つに記載のプレススルーパック包装体。
【発明の効果】
【0020】
本発明のPTP包装体に用いる蓋材は、無機物の含有量が少ない、もしくは含有しないプラスチック製フィルムからなるため、無機フィラーの脱落によって内容物が汚染される危険がほとんどなく、プラスチック製のPTP底材と共に使用された場合には、使用後の廃棄の際の分別処理が容易となり、焼却処理された場合にも焼却炉を傷める心配がなく、焼却残渣が少なく、環境に優しい。また、該蓋材は、プレススルー性に優れるため、これを使用することで内容物を取り出し易いPTPを製造できる。更に、該蓋材の表面は荒れを少なくできるので判読性に優れた鮮明な印刷が可能となる。
【0021】
更に、該蓋材は、錠剤(内容物)を押出す際のプチッという取り出し音(以下、錠剤押出音と言う)が、はっきりとした綺麗な大きな音が出やすいため、PTP包装体として、開封したことを視覚や触覚だけでなく聴覚でも確認しやすい点、また初めて開封するという安心感がある点、包装体の差別性がデザイン等だけでなく聴覚的にもだせる点、また単なる包装の機能だけでなく、開封自体を楽しんだり、高齢者の痴呆防止などの効果も期待できる点、などの長所がある。
【0022】
更にまた、該蓋材は、底材とのヒートシール時において蓋材フィルムにシワ等の変形が発生しない安定したヒートシールが可能であり、美観な包装体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る蓋材フィルムを備えたPTP包装体の実施形態を示す断面図である。
図2】本発明に係る多層蓋材フィルムを備えたPTP包装体の実施形態を示す断面図である。
図3】本発明に係る蒸着層付き蓋材フィルムを備えたPTP包装体の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の包装体は、内容物として、主に錠剤やカプセル等の医薬品或いはキャンディーやチョコレート等の食品を充填するためのものであるが、ここでは、錠剤を充填する場合を例示する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0025】
図1に示すPTP包装体10は、底材1と蓋材フィルム4Aとを備え、底材1に成型されたポケット状の凹部1aに錠剤2が充填されている。底材1と蓋材フィルム4Aとの間にはヒートシール剤からなるシール層3が形成されており、シール層3は底材1のフランジ部1bと蓋材フィルム4Aの表面F1とを接着している。蓋材フィルム4Aの底材1と反対側の表面F2上には、製品名称ロゴ等の印刷部分5が形成され、印刷部分5を保護するためのOP(Over Print)ニス層6が表面F2の全面を覆うように形成されている。
【0026】
蓋材フィルム4Aは、スチレン−アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂、および、これら3種の共重合樹脂のいずれか1種に更にエステル成分を含む三元共重合樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む熱可塑性樹脂を含有する延伸フィルムからなるものである。
【0027】
上記三元共重合樹脂のエステル成分としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等が挙げられる。これらエステル成分は例えば押出機での溶融加工時等の連続して熱が加わるような場合に、樹脂の熱安定性を向上させる点で有効である。
【0028】
上記のスチレン系共重合樹脂における各スチレン成分は、スチレン系共重合樹脂を構成する樹脂成分の合計を基準として70〜97wt%(質量%)であることが好ましく、75〜95wt%がより好ましい。スチレン成分が97wt%以下であると、プレススルー性が向上するばかりか、樹脂の耐熱性が向上し、PTP包装体の製造工程において底材とのヒートシール時に蓋材フィルムが変形せずに安定した製造が可能となる。また、スチレン成分が70wt%以上であると蓋材フィルムを作る際に延伸製膜しやすく、剛性とプレススルー性の両立が可能となる。上記のうち、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂及びこれにエステル成分を含む三元共重合樹脂が押出延伸製膜のし易さといった点でより好ましい。なお、ここで「スチレン系共重合樹脂」とは、共重合樹脂の成分の種類数に関わらず、スチレン成分が50wt%を超えている共重合樹脂をいう。
【0029】
また、上記三元共重合樹脂において、エステル成分の含有量は、他の共重合樹脂成分を含めた三元成分の合計を基準として、2〜20wt%であることが好ましく、2〜10wt%であることがより好ましい。エステル成分が20wt%以下であると、耐熱性と剛性のバランスが向上し、PTP包装体の製造工程における加工適性の安定化が可能となる。また、エステル成分が2wt%以上であると溶融加工時の熱安定性が向上し、ゲルの流出がなく、長時間安定して押出延伸製膜を行うことが可能となる。
【0030】
本実施形態において好適に用いられる上記スチレン系樹脂に対し、延伸製膜する際の安定性(ネッキングが無く、延伸開始位置が安定しており、実用上問題が無い程度に厚み斑が小さい(一般的にRとして10μm以下))を向上させ、またその後のPTP包装にいたる種々の工程において、一時停止後の再起動時や包装工程の打ち抜き時等の衝撃に対する耐衝撃性が必要とされる場合がある。これらの特性を改善する目的で、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、スチレン−共役ジエン系共重合物、およびスチレン−共役ジエン系共重合物の水素添加物から選ばれる少なくとも1種を0.5〜80wt%配合するのが好ましい。より好ましい配合量は、1.0〜45wt%であり、更に好ましい配合量は、1.0〜30wt%である。0.5wt%以上配合した場合、延伸の安定性や耐衝撃性が改善され、80wt%以下の場合はプレススルー性、フィルムの腰(スティフネス)が保たれる。
【0031】
蓋材フィルム4Aを形成する樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に無機フィラーを配合したものであってもよい。無機フィラーを配合しなくとも、良好なプレススルー性の発現は可能であるが、PTP包装体の使用者が常に健常者とは限らず、また力が弱い高齢者や子供も対象である点も考慮し、内容物を押し出す際の使用感の好みに応じて、無機フィラーの配合により突刺し強さを低下させ、プレススルー性を調節することが可能である。その配合の割合は熱可塑性樹脂100質量部に対して、無機フィラーが5質量部未満である。無機フィラーの配合量を5質量部以上とすると、フィルム表面の荒れが大きくなり、印刷鮮明性が悪くなる。無機フィラーの配合量は、プレススルー性および脱落の危険の観点から、熱可塑性樹脂100質量部に対して3質量部未満であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましい。
【0032】
無機フィラーとしては、非晶質アルミナ珪酸塩、シリカ、アルミナ、タルク、カオリン、マイカ、ワラストナイト、クレー、炭酸カルシウム、アスベスト、ガラス繊維、硫酸アルミニウム等を使用することができる。特に、吸湿性が小さいことでフィルム押出時の圧力変動による厚み変動やフィルムの発泡不良等が抑えられる非晶質アルミノ珪酸塩が好ましい。
【0033】
無機フィラーの平均粒子径は、1〜10μmが好適であり、3〜7μmがより好適である。平均粒子径が10μm以下であればフィルム表面の荒れが小さく、フィルムに印刷する際により鮮明な印刷が可能であり、また1μm以上であると少ない配合量で、プレススルー性の調整が容易となる。なお、ここでいう「平均粒子径」はコールターカウンター法によって測定される値を意味する。
【0034】
蓋材フィルム4Aは延伸フィルムであることが必要である。蓋材フィルム4Aは、前述したように、使用に供されるまでの各加工工程でフィルムに強い張力が負荷されるため、各加工に耐え得る引張り強度が必要となる。熱可塑性樹脂フィルムは延伸配向されることにより延伸方向の引張り強度が大きく向上する一方、突刺し強さの向上は比較的小さい傾向にある。このため、熱可塑性樹脂フィルムを薄くしたり、無機フィラーを添加したりすることで突刺し強度を低下させても、延伸フィルムとすることで、加工に耐え得る引張り強度を付与することができる。即ち、無延伸フィルムを用いたPTP用蓋材フィルムでは、良好なプレススルー性を実現する突刺し強さを達成するために、多量の無機フィラーの配合や傷痕を付与する必要があるため、これにより引張り強度が低下し、加工適性が不十分となる。これを改善するため、フィルムを厚くするとプレススルー性が低下する。これに対し、本実施形態の延伸フィルムでは、良好なプレススルー性と加工に耐える引張り強度を有する、より薄いPTP蓋材フィルムを得ることが可能となる。
【0035】
一軸延伸フィルムの場合、延伸方向と平行な方向に裂けやすく、フィルムの破れに方向性が出やすいので、内容物の形状と蓋材フィルムの延伸方向を考慮する必要がある。例えば、内容物の長辺方向と蓋材フィルムの延伸方向が平行となるほうが、内容物は取り出しやすくなる。一方、二軸延伸フィルムは破れに方向性が出にくいので、本実施形態では、二軸延伸フィルムがより好ましく使用される。
【0036】
本実施形態のフィルムに用いられる熱可塑性樹脂のビカット軟化点よりも20℃高い温度における各配向緩和応力ピーク値(以下、ORSと言う)は、MD(Machine Direction)及びTD(Transverse Direction)のうちいずれか一方の値が0.2〜4.0MPaであることが好ましく、MD及びTDの両方の値が0.2〜4.0MPaであることがより好ましく、0.3〜3.0MPaであることがより好ましく、0.3〜2.0MPaであることが更に好ましい。
【0037】
配向緩和応力ピーク値(ORS)は、フィルムの延伸配向の強さを表す指標であり、フィルム押出し後の延伸倍率と温度によって定まる特性値である。一般的には、延伸温度一定の条件下において延伸倍率を高く(低く)した場合では、ORSは増加(低下)し、その方向の引張り強度は高く(低く)なる傾向を示し、また、延伸温度一定の条件下において延伸温度を上げた(下げた)場合では、ORSは低下(増加)し、その方向の引張り強度は低く(高く)なる傾向を示す。このような特性を踏まえ、必要な引張り強度フィルムが得られるようにORSを好ましい範囲にする。各ORSが、0.2MPa以上であるとPTP包装工程において破れや裂け等のトラブルが無く、高速での包装が可能となり、各ORSが、4.0MPa以下の場合は、PTP包装時の底材とのヒートシール後の打ち抜きカット性が良好で、カット端面でのヒゲや糸状くずの発生も抑制でき、且つプレススルー性も良好である。
【0038】
また、MDとTDのORSの比は、PTP包装工程における破れや裂けトラブル、プレススルー性及び錠剤押出音の観点から、好ましくは0.1〜40であり、より好ましくは0.2〜15であり、更に好ましくは0.5〜2.0である。
【0039】
なお、ここでいうビカット軟化点は、JIS K7206に準拠して測定される値を意味する。試験荷重は50N、昇温速度は50℃/hである。また、本実施形態のフィルムに、複数の熱可塑性樹脂による混合樹脂を用いる場合は、その混合樹脂組成物のビカット軟化点をいう。さらに、本実施形態の蓋材フィルムが多層延伸フィルムである場合は、本実施形態のフィルムに用いられる熱可塑性樹脂を含む樹脂層のみを対象とし、該対象層の厚みの総和を1として、該対象各層の厚み比率に各ビカット軟化点を乗じた値の総和をビカット軟化点とする。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物のビカット軟化点は、底材とのヒートシール時において蓋材フィルムにシワ等の変形が発生しない安定したヒートシールが可能となる観点から、好ましくは80℃以上であり、更に好ましくは95℃以上、最も好ましくは110℃以上である。
【0041】
本実施形態のPTP用蓋材フィルムは、JIS Z1707の突刺し強さ試験に準拠して測定される突刺し強さが1〜5Nであることが好ましい。突刺し強さが1N以上であると強度が適度でPTP包装体として使用したときに意図せずに蓋材が破れてしまうことが少ない。突刺し強さが5N以下であるとフィルムが破れ易く適度なプレススルー性が発現する。PTP包装体の使用者が力が弱い高齢者や子供である場合を考慮すると、突刺し強さは1〜3Nであることがより好ましい。
【0042】
本実施形態のフィルムは厚みが5〜30μmが好適である。厚みが5μm以上であると上記応力緩和ピーク値の範囲でフィルムの強度が適度で加工工程に耐える引張り強度が発現し易く、30μm以下であると上記無機フィラーの配合の範囲で適度なプレススルー性が発現し易い。
【0043】
本実施形態の延伸フィルムを製造する方法の代表的な例として、熱可塑性樹脂(必要に応じて無機フィラーを所定の割合で配合した樹脂)を、スクリュー押出機等により溶融混錬し、Tダイによりシート状にした後、ロール延伸又はテンター延伸により一軸延伸する方法や、ロール延伸に続いてテンター延伸することにより二軸延伸する方法、或いはインフレーション法により延伸する方法が挙げられる。この時の延伸倍率は各延伸方向で5〜10倍が好ましい。
【0044】
本実施形態において、所望により当該技術分野において通常用いられる添加剤、例えば、無機粒子の分散を補助する金属石鹸、着色剤、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤等を、本発明の特性を損なわない範囲で配合することが可能である。
【0045】
本実施形態のPTP包装体は上記構成を有することにより、従来のアルミ箔製蓋材に対して極めて軽量で、かつ、使用後の廃棄処理が容易であるとともに、内容物を汚染することなくプレススルー性及び印刷判読性に優れる。
【0046】
更に、該包装体は、錠剤を押出す際に、プチッという音(錠剤押出音)が出やすいため、開封したことを視覚や触覚だけでなく聴覚でも確認しやすい等、の長所がある。
【0047】
更にまた、本発明のPTP包装体は、蓋材と底材とのヒートシール時において蓋材フィルムにシワ等の変形が発生しない安定したヒートシールが可能であり、美観な包装体が得られる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、単層の延伸フィルムからなる蓋材フィルム4Aを例示したが、蓋材フィルムは2層以上の多層延伸フィルムであってもよい。
【0049】
図2に示すPTP包装体20は、蓋材フィルム4Bが多層延伸フィルムである点においてPTP包装体10と相違する。蓋材フィルム4Bは中心層42とその両面に設けられた表層41とからなる三層フィルムである。多層延伸フィルムは、複数のスクリュー押出機と多層ダイとを備えた装置を使用し、Tダイ法或いはインフレーション法により、上記の単層延伸フィルムと同様の方法で製造できる。
【0050】
例えば、突刺し強さをできるだけ小さくし、尚且つフィルム表面の平滑性を保持したい場合は、熱可塑性樹脂単独層/無機フィラー配合熱可塑性樹脂層/熱可塑性樹脂単独層といった3層構成の延伸フィルムとする。また、この積層順を変えて、無機フィラー配合熱可塑性樹脂層/熱可塑性樹脂単独層/無機フィラー配合熱可塑性樹脂層の3層構成の延伸フィルムとすることで、中心層で引張り強度を保持しつつ、表層の無機フィラーでプレススルー性を付与することも可能である。更には、色の異なる着色樹脂を用いて多層延伸フィルムとすることで、意匠性をも考慮した、表裏で色の異なるPTP用蓋材フィルムとすることも可能である。いずれの場合も、本発明の目的の範囲内で適宜実施できる。
【0051】
また、上記実施形態においては、蓋材フィルム4Aの表面F1上にシール層3を直接設けた場合を例示したが、蓋材フィルムとシール層との間に他の層を介在させてもよい。図3に示すPTP包装体30は、蓋材フィルム4Cの表面F1上に蒸着層7及びシール層3がこの順序で積層されている。また、蓋材フィルム4Cの各表面に蒸着層7とシール層3が対向して配置されてもよい。これら蓋材フィルムへの印刷はもちろん、シール層、蒸着層等の積層にあたっては、蓋材フィルム表面にあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、溶剤処理等の公知の表面処理を行うのが好ましい。
【0052】
PTP用蓋材フィルムは、内容物が吸湿性を有する等の場合、水蒸気の透過を抑制するバリア性が要求される。その場合は、バリア性を有する蒸着層(バリア層)を蓋材フィルムの表面上に積層することが好ましい。バリア層の材質としては、アルミニウム及び金属酸化物(酸化アルミ、酸化ケイ素等)が挙げられる。
【0053】
近年、医薬品用PTP包装体の分野において、内容物を包装した後のPTP包装体に近赤外線を照射して、アルミ箔製蓋材による反射を利用して異物の検査を実施する方法が採用される場合がある。この場合は、近赤外線を反射するアルミニウム層が必須となることから、バリア性の要求と異物検査の両者に対応するには、PTP用蓋材フィルムにアルミ蒸着層を設けることが好ましい。
また近年、医療過誤に対する観点から両面印刷する場合もあるが、この場合は隠蔽性(反対側の面の字や図柄が透けないようにすること)が重要となるので、アルミ蒸着層を設けることが好ましい。
【0054】
アルミ蒸着層の厚みは要求されるバリア性(特に水蒸気透過性)或いは近赤外線の反射特性、或いは両面印刷時の隠蔽性に合わせて適宜調整されるが、バリア性の観点からは、好ましくは10nm〜500nmであり、より好ましくは20nm〜100nmである。500nmを超えて過度に厚くしても、それに相当するガスバリア性向上効果は得られない。また、近赤外線の反射特性や両面印刷時の隠蔽性の観点からは、好ましくは10nm〜200nmであり、より好ましくは20nm〜100nmである。また、意匠性の観点から半透明のハーフ蒸着処理をする場合は、好ましくは1nm〜50nmであり、より好ましくは3nm〜20nmである。本発明の目的である廃棄時の問題については、アルミ蒸着層の分別は物理的に困難であるが、焼却処理においては、従来の約20μmの厚みのアルミ箔製蓋材に比べて、アルミ層の厚さは大幅に低減され(97%以上の削減)、焼却炉を傷める恐れは少ない。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[評価項目]
実施例及び比較例で作製した蓋材フィルム及びこれを用いたPTP包装体について、以下の項目について評価を行った。
【0057】
<突刺し強さ>
JIS Z1707に準拠し、直径1mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を毎分50mmの速度で突き刺し、針が貫通するまでの最大応力を測定した。
【0058】
<配向緩和応力(ORS)>
ASTM D−1504に準拠し、蓋材フィルムに使用される熱可塑性樹脂(複数の熱可塑性樹脂を用いる場合はその組成物)のビカット軟化点よりも20℃高い温度に調整されたオイルバスにて配向緩和応力(ピーク)値を測定した。測定方向は、縦方向(MD)と横方向(TD)について測定した。
【0059】
<プレススルー性>
PTP包装体から錠剤を押し出す際の蓋材フィルムの破れ易さについての官能評価を実施した。判定基準は以下の通りである。
A:従来のアルミ箔製蓋材と同等の感触であり、実用的である。
B:押出し時に少し抵抗感があるが、実用上問題はない。
C:なかなかフィルムが破れず、押し出し難い。実用上の適性には多少劣る。
D:フィルムが非常に破れ難く、非常に押し出し難い。実用上不適と判断される。
【0060】
<印刷鮮明性>
線数=175線/インチ、版深度=24μmの版を用いたグラビア印刷機にて、文字サイズ=7ポイントの黒色ゴシック体のアルファベット文字を蓋材フィルムに印刷し、その判読のしやすさについて評価を実施した。判定基準は以下の通りである。
A:鮮明に印刷されており、十分に判読可能である。
B:多少の文字のかすれ又は際のがたつきはあるが、判読可能であり、実用上問題はない。
C:文字のかすれ又は際のがたつきがあるが、なんとか判読可能であり、実用上の適性には多少劣る。
D:文字のかすれがひどく判読できない又は読み間違いがあり、実用上不適と判断される。
【0061】
<錠剤押出音、錠剤押出音量>
騒音が40dB以下の静かな部屋内にて、測定者の耳からPTP包装体までの距離が60cmにした状態でPTP包装体の底材側を親指で押し、錠剤を押し出すことにより蓋材フィルムを押し破って開封する時の音を聴覚による官能評価にて実施した。
A:プチッという大きないい音がはっきりとし、非常に良好である。
B:プチッといういい音がし、良好である。
C:従来のアルミ箔製蓋材と大差の無い、ブゥッという鈍い音しかしない。
【0062】
また株式会社カスタム製デジタル騒音計SL−1320の集音マイクからPTP包装体までの距離が5cmにした状態で、上記と同様に錠剤を押し出したときの騒音計の測定値の最大値を錠剤押出音量とした。騒音計の測定条件は、モード:FAST、特性:A特性、レンジ:オートとした。測定はそれぞれ10回実施し、その平均値を用いた。
【0063】
PTP成形体の底材シートのポケットサイズは直径10mm、高さ5mmの円形であり、錠剤のサイズは直径8.6mm、高さ3.8mmの円形(ポケット中に占める錠剤の空間占有率は56%)のもので評価した。
【0064】
[PTP包装体の作製]
実施例及び比較例で使用した材料は以下の通りである。
(1)スチレン系樹脂
(i)スチレン・メタクリル酸共重合体:SMAA−1(メタクリル酸含量13wt%、ビカット軟化点=128℃)
(ii)スチレン・メチルメタクリレート・メタクリル酸共重合体:SMAA−2(メチルメタクリルレート含量5wt%、メタクリル酸含量10wt%、ビカット軟化点=123℃)
(iii)ハイインパクトポリスチレン:HIPS−1(PSジャパン社製耐衝撃ポリスチレンHT478、ビカット軟化点=96℃)
(iv)ハイインパクトポリスチレン:HIPS−2(PSジャパン社製耐衝撃ポリスチレンSX100、ビカット軟化点=85℃)
(v)ハイインパクトポリスチレン:HIPS−3(DIC社製耐衝撃ポリスチレンGH8300−5、ビカット軟化点=95℃)
(vi)スチレンアクリル酸共重合体:SAA−1(ビカット軟化点=126℃)
(vii)スチレン無水マレイン酸共重合体:SMA−1(ビカット軟化点=83℃)
(viii)ポリスチレン:GPPS−1(PSジャパン社製ポリスチレン#685、ビカット軟化点=103℃))
(ix)ハイインパクトポリスチレン:HIPS−4(PSジャパン社製耐衝撃ポリスチレン492、ビカット軟化点=91℃)
(2)非晶質アルミノ珪酸ナトリウム・カルシウム(商品名:シルトンJC,水澤化学社製)
(3)シリカ(東海化学工業所製、マイクロイド)
【0065】
(実施例1)
スチレン系樹脂として、SMAA−1およびHIPS−1、HIPS−2を用い、表1の実施例1で示した割合でそれぞれ配合し、インフレーション法によって二軸延伸フィルムとした。次いで、得られたフィルムに50mN/mのコロナ処理を施した後、グラビア印刷機を用いて前述のアルファベット文字を印刷し、その上にOPニスを塗布した。更に、印刷面とは反対側の面に、同様に50mN/mのコロナ処理を行った後、エチレン酢酸ビニル系エマルジョン型ヒートシール剤を乾燥膜換算で約7g/mの厚みで塗布し、PTP用蓋材フィルムとした。続いて、底材シートに厚み200μmのポリ塩化ビニル(PVC)を用いて、PTP成形機(CKD社製FBP−M1)により、凹み部を成形した底材に錠剤を充填し、上記の各PTP用蓋材フィルムを接着して、PTP包装体を得た。このときの底材シートのポケットサイズは直径10mm、高さ5mmの円形であり、錠剤のサイズは錠径8.6mm、錠高3.8mmの円形(ポケット中に占める錠剤の空間占有率は56%)であった。
【0066】
(実施例2)
スチレン系樹脂として、表1の実施例2に記載の配合割合でSMAA−2およびHIPS−3を用いたこと以外は実施例1と同様にて二軸延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
【0067】
<実施例1及び2の評価>
実施例1及び2に係るPTP包装体は、無機フィラーを含有しない蓋材フィルムを用いて作製したものであるが、底材とのヒートシール時において蓋材フィルムにシワ等の変形が発生しない安定したヒートシールが可能であり、包装適性に優れるものであった。また、作製したPTP包装体は、プレススルー性及び印刷鮮明性ともに非常に良好であった。
【0068】
また、錠剤押出音は、プチッという大きないい音がはっきりとし、非常に良好であった。錠剤押出音量は実施例1が61.7dB、実施例2が61.5dBであった。
【0069】
一方幅広く用いられているアルミ箔蓋材(フィルム厚み20μm)の錠剤押出音はブゥッという鈍い音であり、錠剤押出音量は57.8dBと低い値で、実施例1,2に比べて聴覚による開封確認効果に劣るものであった。
【0070】
(実施例3)
無機フィラーとしてシリカを含有させ、面積延伸倍率で約30%大きくして二軸延伸フィルムを作製し(厚み;15μm)、これを蓋材として用いたこと以外は実施例1と同様にしてPTP包装体を作製した。
【0071】
(実施例4)
無機フィラーとして非晶質アルミノ珪酸塩を含有する二軸延伸フィルムを作製し(厚み;20μm)、これを蓋材として用いたこと以外は実施例2と同様にしてPTP包装体を作製した。
【0072】
<実施例3及び4の評価>
実施例3は無機フィラーとしてシリカを少量添加し、僅かに表面に荒れが認められたが、プレススルー性は良好で印刷鮮明性も実用上問題のない良好な結果が得られた。また、実施例4は同様に無機フィラーとして非晶質アルミノ珪酸塩を少量添加したものであるが、実施例2に比較し、更にプレススルーがスムースに行え、印刷鮮明性も良好であった。
【0073】
(比較例1)
実施例2と同じ配合組成を用いて、Tダイ法により、厚み20μmのキャストフィルム(無延伸フィルム)を作製し、以後実施例1と同様にしてPTP包装体の作製を試みたが、印刷の工程でフィルムに破れが多発し、以後の工程に進むことができなかった。
【0074】
(実施例5)
2種3層の多層ダイを使用し、実施例2の配合組成物(ビカット軟化点;120℃)を芯層に配置し、両外層にGPPS(PSジャパン社製ポリスチレン;685)90質量部およびハイインパクトポリスチレン(PSジャパン社製耐衝撃ポリスチレン492;上記HIPS−4)10質量部の樹脂組成物を配置し、各層の厚み比率(外層/芯層/外層)が10/80/10となるように実施例1と同様、インフレーション法により厚み14μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの140℃におけるORS(MD/TD)は0.29/0.28(MPa)であった。また、その突き刺し強さは、2.0Nであった。このフィルムを用いて、実施例1と同様にしてPTP包装体を作製した。
【0075】
<実施例5の評価>
実施例5に係るPTP包装体は、実施例1および2と同様、無機フィラーを含有しない蓋材フィルムを用いたものであるが、PTP包装工程での安定性に優れる他、印刷鮮明性が格段に優れ、プレススルー性も従来のアルミ製蓋材と比較して違和感がほとんど無く、加工適性およびPTP包装体としての実用性に極めて優れるものであった。
【0076】
【表1】
【0077】
(実施例6〜14、18、19)
表2及び表3に記載の延伸方法を用いたこと以外は実施例2と同様にて延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
(実施例20)
表3に記載の樹脂の配合割合を用いたこと以外は実施例18と同様にて延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
【0078】
<実施例6〜14、18〜20の評価>
実施例6〜14、18〜20に係るPTP包装体は、無機フィラーを含有しない蓋材フィルムを用いて、表2及び表3に示す各種の延伸法により作製したものであるが、底材とのヒートシール時において蓋材フィルムにシワ等の変形が発生しない安定したヒートシールが可能であり、包装適性に優れるものであった。また、作製したPTP包装体は、プレススルー性及び印刷鮮明性ともに良好であった。結果を表2及び表3に記す。特に、プレススルー性の観点からは、ORSがMD・TD共に0.2〜4.0MPaであることが好ましく、0.3〜3.0MPaであることがより好ましく、0.3〜2.0MPaであることが更に好ましいことが分かる。また、プレススルー性と錠剤押出音の両者の観点からは、MDとTDのORSの比は0.2〜15が好ましく、0.5〜2.0が好ましい結果となった。
【0079】
(実施例15〜17)
表3に記載の樹脂の配合割合と延伸方法を用いたこと以外は実施例2と同様にて延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
【0080】
<実施例15の評価>
実施例15に係るPTP包装体は、樹脂組成物としてHIPSを含有しない蓋材フィルムを用いたものであるが、延伸製膜する際の安定性が若干不安定な場合も見受けられたが、プレススルー性、印刷鮮明性、共に良好な結果が得られた。結果を表3に示す。
【0081】
<実施例16の評価>
実施例16はスチレン系樹脂としてSAAを使用したものであるが、僅かに表面に荒れが認められたが、プレススルー性は良好で印刷鮮明性も実用上問題のない良好な結果が得られた。
【0082】
<実施例17の評価>
実施例17はスチレン系樹脂としてSMAを使用したものであるが、PTP成形機での底材とのヒートシール時において僅かにシワの発生があり表面に荒れが認められたものの、プレススルー性は良好で印刷鮮明性も実用上問題のない良好な結果が得られた。
【0083】
(比較例2)
表3に記載の樹脂の配合割合と延伸方法を用いたこと以外は実施例2と同様にて延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
【0084】
<比較例2の評価>
比較例2に係るPTP包装体は、樹脂組成物として汎用のポリスチレンを蓋材フィルムとして用いたものであるが、錠剤が非常に押出し難くプレススルー性は非常に悪い結果となった。また、プレススルー性が非常に悪く、押出す際、指に強い力を入れる必要がある為、底材が大きく変形したり、底材と蓋材フィルムの間のヒートシール層が剥離してしまったりして、錠剤押出音や錠剤押出音量の正しい評価をすることができなかった。結果を表3に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のPTP包装体は、錠剤、カプセル等の医薬品やキャンディーやチョコレート等の食品の包装に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0088】
1…底材、1a…底材の凹部、1b…底材のフランジ部、2…錠剤、3…シール層、4A,4B,4C…蓋材フィルム、41…多層蓋材フィルムの表層、42…多層蓋材フィルムの中心層、5…印刷部分、6…OPニス層、7…蒸着層、10,20,30…包装体。
図1
図2
図3