【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[評価項目]
実施例及び比較例で作製した蓋材フィルム及びこれを用いたPTP包装体について、以下の項目について評価を行った。
【0057】
<突刺し強さ>
JIS Z1707に準拠し、直径1mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を毎分50mmの速度で突き刺し、針が貫通するまでの最大応力を測定した。
【0058】
<配向緩和応力(ORS)>
ASTM D−1504に準拠し、蓋材フィルムに使用される熱可塑性樹脂(複数の熱可塑性樹脂を用いる場合はその組成物)のビカット軟化点よりも20℃高い温度に調整されたオイルバスにて配向緩和応力(ピーク)値を測定した。測定方向は、縦方向(MD)と横方向(TD)について測定した。
【0059】
<プレススルー性>
PTP包装体から錠剤を押し出す際の蓋材フィルムの破れ易さについての官能評価を実施した。判定基準は以下の通りである。
A:従来のアルミ箔製蓋材と同等の感触であり、実用的である。
B:押出し時に少し抵抗感があるが、実用上問題はない。
C:なかなかフィルムが破れず、押し出し難い。実用上の適性には多少劣る。
D:フィルムが非常に破れ難く、非常に押し出し難い。実用上不適と判断される。
【0060】
<印刷鮮明性>
線数=175線/インチ、版深度=24μmの版を用いたグラビア印刷機にて、文字サイズ=7ポイントの黒色ゴシック体のアルファベット文字を蓋材フィルムに印刷し、その判読のしやすさについて評価を実施した。判定基準は以下の通りである。
A:鮮明に印刷されており、十分に判読可能である。
B:多少の文字のかすれ又は際のがたつきはあるが、判読可能であり、実用上問題はない。
C:文字のかすれ又は際のがたつきがあるが、なんとか判読可能であり、実用上の適性には多少劣る。
D:文字のかすれがひどく判読できない又は読み間違いがあり、実用上不適と判断される。
【0061】
<錠剤押出音、錠剤押出音量>
騒音が40dB以下の静かな部屋内にて、測定者の耳からPTP包装体までの距離が60cmにした状態でPTP包装体の底材側を親指で押し、錠剤を押し出すことにより蓋材フィルムを押し破って開封する時の音を聴覚による官能評価にて実施した。
A:プチッという大きないい音がはっきりとし、非常に良好である。
B:プチッといういい音がし、良好である。
C:従来のアルミ箔製蓋材と大差の無い、ブゥッという鈍い音しかしない。
【0062】
また株式会社カスタム製デジタル騒音計SL−1320の集音マイクからPTP包装体までの距離が5cmにした状態で、上記と同様に錠剤を押し出したときの騒音計の測定値の最大値を錠剤押出音量とした。騒音計の測定条件は、モード:FAST、特性:A特性、レンジ:オートとした。測定はそれぞれ10回実施し、その平均値を用いた。
【0063】
PTP成形体の底材シートのポケットサイズは直径10mm、高さ5mmの円形であり、錠剤のサイズは直径8.6mm、高さ3.8mmの円形(ポケット中に占める錠剤の空間占有率は56%)のもので評価した。
【0064】
[PTP包装体の作製]
実施例及び比較例で使用した材料は以下の通りである。
(1)スチレン系樹脂
(i)スチレン・メタクリル酸共重合体:SMAA−1(メタクリル酸含量13wt%、ビカット軟化点=128℃)
(ii)スチレン・メチルメタクリレート・メタクリル酸共重合体:SMAA−2(メチルメタクリルレート含量5wt%、メタクリル酸含量10wt%、ビカット軟化点=123℃)
(iii)ハイインパクトポリスチレン:HIPS−1(PSジャパン社製耐衝撃ポリスチレンHT478、ビカット軟化点=96℃)
(iv)ハイインパクトポリスチレン:HIPS−2(PSジャパン社製耐衝撃ポリスチレンSX100、ビカット軟化点=85℃)
(v)ハイインパクトポリスチレン:HIPS−3(DIC社製耐衝撃ポリスチレンGH8300−5、ビカット軟化点=95℃)
(vi)スチレンアクリル酸共重合体:SAA−1(ビカット軟化点=126℃)
(vii)スチレン無水マレイン酸共重合体:SMA−1(ビカット軟化点=83℃)
(viii)ポリスチレン:GPPS−1(PSジャパン社製ポリスチレン#685、ビカット軟化点=103℃))
(ix)ハイインパクトポリスチレン:HIPS−4(PSジャパン社製耐衝撃ポリスチレン492、ビカット軟化点=91℃)
(2)非晶質アルミノ珪酸ナトリウム・カルシウム(商品名:シルトンJC,水澤化学社製)
(3)シリカ(東海化学工業所製、マイクロイド)
【0065】
(実施例1)
スチレン系樹脂として、SMAA−1およびHIPS−1、HIPS−2を用い、表1の実施例1で示した割合でそれぞれ配合し、インフレーション法によって二軸延伸フィルムとした。次いで、得られたフィルムに50mN/mのコロナ処理を施した後、グラビア印刷機を用いて前述のアルファベット文字を印刷し、その上にOPニスを塗布した。更に、印刷面とは反対側の面に、同様に50mN/mのコロナ処理を行った後、エチレン酢酸ビニル系エマルジョン型ヒートシール剤を乾燥膜換算で約7g/m
2の厚みで塗布し、PTP用蓋材フィルムとした。続いて、底材シートに厚み200μmのポリ塩化ビニル(PVC)を用いて、PTP成形機(CKD社製FBP−M1)により、凹み部を成形した底材に錠剤を充填し、上記の各PTP用蓋材フィルムを接着して、PTP包装体を得た。このときの底材シートのポケットサイズは直径10mm、高さ5mmの円形であり、錠剤のサイズは錠径8.6mm、錠高3.8mmの円形(ポケット中に占める錠剤の空間占有率は56%)であった。
【0066】
(実施例2)
スチレン系樹脂として、表1の実施例2に記載の配合割合でSMAA−2およびHIPS−3を用いたこと以外は実施例1と同様にて二軸延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
【0067】
<実施例1及び2の評価>
実施例1及び2に係るPTP包装体は、無機フィラーを含有しない蓋材フィルムを用いて作製したものであるが、底材とのヒートシール時において蓋材フィルムにシワ等の変形が発生しない安定したヒートシールが可能であり、包装適性に優れるものであった。また、作製したPTP包装体は、プレススルー性及び印刷鮮明性ともに非常に良好であった。
【0068】
また、錠剤押出音は、プチッという大きないい音がはっきりとし、非常に良好であった。錠剤押出音量は実施例1が61.7dB、実施例2が61.5dBであった。
【0069】
一方幅広く用いられているアルミ箔蓋材(フィルム厚み20μm)の錠剤押出音はブゥッという鈍い音であり、錠剤押出音量は57.8dBと低い値で、実施例1,2に比べて聴覚による開封確認効果に劣るものであった。
【0070】
(実施例3)
無機フィラーとしてシリカを含有させ、面積延伸倍率で約30%大きくして二軸延伸フィルムを作製し(厚み;15μm)、これを蓋材として用いたこと以外は実施例1と同様にしてPTP包装体を作製した。
【0071】
(実施例4)
無機フィラーとして非晶質アルミノ珪酸塩を含有する二軸延伸フィルムを作製し(厚み;20μm)、これを蓋材として用いたこと以外は実施例2と同様にしてPTP包装体を作製した。
【0072】
<実施例3及び4の評価>
実施例3は無機フィラーとしてシリカを少量添加し、僅かに表面に荒れが認められたが、プレススルー性は良好で印刷鮮明性も実用上問題のない良好な結果が得られた。また、実施例4は同様に無機フィラーとして非晶質アルミノ珪酸塩を少量添加したものであるが、実施例2に比較し、更にプレススルーがスムースに行え、印刷鮮明性も良好であった。
【0073】
(比較例1)
実施例2と同じ配合組成を用いて、Tダイ法により、厚み20μmのキャストフィルム(無延伸フィルム)を作製し、以後実施例1と同様にしてPTP包装体の作製を試みたが、印刷の工程でフィルムに破れが多発し、以後の工程に進むことができなかった。
【0074】
(実施例5)
2種3層の多層ダイを使用し、実施例2の配合組成物(ビカット軟化点;120℃)を芯層に配置し、両外層にGPPS(PSジャパン社製ポリスチレン;685)90質量部およびハイインパクトポリスチレン(PSジャパン社製耐衝撃ポリスチレン492;上記HIPS−4)10質量部の樹脂組成物を配置し、各層の厚み比率(外層/芯層/外層)が10/80/10となるように実施例1と同様、インフレーション法により厚み14μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの140℃におけるORS(MD/TD)は0.29/0.28(MPa)であった。また、その突き刺し強さは、2.0Nであった。このフィルムを用いて、実施例1と同様にしてPTP包装体を作製した。
【0075】
<実施例5の評価>
実施例5に係るPTP包装体は、実施例1および2と同様、無機フィラーを含有しない蓋材フィルムを用いたものであるが、PTP包装工程での安定性に優れる他、印刷鮮明性が格段に優れ、プレススルー性も従来のアルミ製蓋材と比較して違和感がほとんど無く、加工適性およびPTP包装体としての実用性に極めて優れるものであった。
【0076】
【表1】
【0077】
(実施例6〜14、18、19)
表2及び表3に記載の延伸方法を用いたこと以外は実施例2と同様にて延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
(実施例20)
表3に記載の樹脂の配合割合を用いたこと以外は実施例18と同様にて延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
【0078】
<実施例6〜14、18〜20の評価>
実施例6〜14、18〜20に係るPTP包装体は、無機フィラーを含有しない蓋材フィルムを用いて、表2及び表3に示す各種の延伸法により作製したものであるが、底材とのヒートシール時において蓋材フィルムにシワ等の変形が発生しない安定したヒートシールが可能であり、包装適性に優れるものであった。また、作製したPTP包装体は、プレススルー性及び印刷鮮明性ともに良好であった。結果を表2及び表3に記す。特に、プレススルー性の観点からは、ORSがMD・TD共に0.2〜4.0MPaであることが好ましく、0.3〜3.0MPaであることがより好ましく、0.3〜2.0MPaであることが更に好ましいことが分かる。また、プレススルー性と錠剤押出音の両者の観点からは、MDとTDのORSの比は0.2〜15が好ましく、0.5〜2.0が好ましい結果となった。
【0079】
(実施例15〜17)
表3に記載の樹脂の配合割合と延伸方法を用いたこと以外は実施例2と同様にて延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
【0080】
<実施例15の評価>
実施例15に係るPTP包装体は、樹脂組成物としてHIPSを含有しない蓋材フィルムを用いたものであるが、延伸製膜する際の安定性が若干不安定な場合も見受けられたが、プレススルー性、印刷鮮明性、共に良好な結果が得られた。結果を表3に示す。
【0081】
<実施例16の評価>
実施例16はスチレン系樹脂としてSAAを使用したものであるが、僅かに表面に荒れが認められたが、プレススルー性は良好で印刷鮮明性も実用上問題のない良好な結果が得られた。
【0082】
<実施例17の評価>
実施例17はスチレン系樹脂としてSMAを使用したものであるが、PTP成形機での底材とのヒートシール時において僅かにシワの発生があり表面に荒れが認められたものの、プレススルー性は良好で印刷鮮明性も実用上問題のない良好な結果が得られた。
【0083】
(比較例2)
表3に記載の樹脂の配合割合と延伸方法を用いたこと以外は実施例2と同様にて延伸フィルムを作製し、以下同様にしてPTP用蓋材フィルムを作製し、PTP包装体を得た。
【0084】
<比較例2の評価>
比較例2に係るPTP包装体は、樹脂組成物として汎用のポリスチレンを蓋材フィルムとして用いたものであるが、錠剤が非常に押出し難くプレススルー性は非常に悪い結果となった。また、プレススルー性が非常に悪く、押出す際、指に強い力を入れる必要がある為、底材が大きく変形したり、底材と蓋材フィルムの間のヒートシール層が剥離してしまったりして、錠剤押出音や錠剤押出音量の正しい評価をすることができなかった。結果を表3に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】