【実施例】
【0027】
(実施例1)
上記過給機用のコンプレッサハウジングの実施例について、
図1〜
図15を用いて説明する。
本例のコンプレッサハウジング1は、
図1〜
図3に示すごとく、インペラ5を収容可能に設けられていると共に、インペラ5に向けて空気を吸い込む吸気口11と、インペラ5の外周側において周方向に形成され、インペラ5から吐き出された空気を外部へ導くスクロール室12とを備えている。
【0028】
スクロ−ル室12に対して、吸気口11が開口している吸気側X1の位置には、エアバイパスバルブ6を収容するためのバルブ収容部15が形成されている。
バルブ収容部15は、スクロール室12と連通すると共に吸気側X1に開口している。
【0029】
バルブ収容部15と吸気口11との間には、コンプレッサハウジング1の内部において両者をつなぐバイパス部16が形成されている。
コンプレッサハウジング1は、本体ピースとしてのスクロールピース2と、スクロールピース2に取り付けられる分割ピース4とを有する。
【0030】
スクロールピース2は、
図4〜
図6に示すごとく、バルブ収容部15と吸気口11を連通して吸気側X1が開口する溝部26と、該溝部26の開口側の周囲において分割ピース4の外形に沿うように切り欠かれた切欠部27とを有する。
図13〜
図15に示すごとく、バイパス部16は、分割ピース4が切欠部27に圧入されて溝部26の吸気側X1が覆われることにより形成されている。
【0031】
なお、本例では、インペラ5の軸方向を軸方向X、その軸方向Xにおいて吸気口11が形成されている側を吸気側X1、その反対側を吐出側X2、軸方向Xに直交する方向を径方向とする。
【0032】
本例のコンプレッサハウジング1は、自動車のターボチャージャー(過給機)に用いられるコンプレッサ(圧縮機)の外殻を形成するものであり、エアバイパスバルブ6を搭載する仕様のものである。
図13、
図15に示すごとく、コンプレッサハウジング1は、スクロールピース2とシュラウドピース3と環状ピース30と分割ピース4とを組み合わせて構成されている。スクロールピース2、シュラウドピース3、及び環状ピース30は、すべてアルミニウム製のダイキャスト品により構成されている。分割ピース4は、アルミニウム製のプレス成形品である。
【0033】
図11〜
図13、
図15に示すごとく、スクロールピース2は、吸気口11を形成する筒状の吸気口形成部21と、後述するシュラウドピース3及び環状ピース30と共にスクロール室12を形成するスクロール室形成部22と、エアバイパスバルブ6を搭載するためのエアバイパスバルブ搭載部23とを有する。エアバイパスバルブ搭載部23は、吸気口11の外周側であって、スクロール室12の吸気側X1に設けられている。
【0034】
また、エアバイパスバルブ搭載部23には、エアバイパスバルブ6(
図1〜
図3)を収容配置するためのバルブ収容部15が形成されている。バルブ収容部15は、スクロールピース2の吸気側端面に開口するように凹状に形成されている。また、バルブ収容部15は、軸方向Xに形成されたバルブ連通部14を介してスクロール室12に連通している。
また、バルブ収容部15と吸気口11との間には、スクロールピース2の吸気側端面に開口するように、溝部26が形成されている。そして、溝部26は、バルブ収容部15と吸気口11とに連通している。
【0035】
また、溝部26の開口側の周囲に、切欠部27が形成されている。切欠部27は、分割ピース4の外形に沿うように切り欠かれている。切欠部27は、
図4、
図5に示すごとく、溝部26の両脇に、スクロールピース2の吸気側端面を切り欠いたような形状に形成されている。一対の切欠部27は、吸気側X1から見た形状において、外側の輪郭が一つの円周に沿った円弧形状を有している。
【0036】
図13、
図15に示すごとく、シュラウドピース3は、筒状圧入部31とシュラウド部32とを有する。筒状圧入部31は、スクロールピース2の吸気口形成部21内に圧入されると共に吸気口11と連通する吸気通路311を形成する。シュラウド部32は、インペラ5に対向するシュラウド面321及びそのシュラウド面321からスクロール室12に向かって延びるディフューザ面322を形成する。また、シュラウド部32は、スクロールピース2のスクロール室形成部22と共にスクロール室12を形成している。
【0037】
環状ピース30は、スクロールピース2に対して吐出側X2の端部に圧入されている。環状ピース30は、スクロールピース2のスクロール室形成部22とシュラウドピース3のシュラウド部32と共にスクロール室12を形成している。
【0038】
図12に示すごとく、分割ピース4は、切欠部27に圧入された2つの端縁411、412の輪郭が一つの円周に沿った円弧形状である。すなわち、この2つの円弧形状部分が、2つの切欠部27における外周の壁面272(
図14参照)に嵌合する状態で、分割ピース4がスクロールピース2に圧入されている。
【0039】
分割ピース4は、吸気口11に面する端縁421が吸気口11の内面に沿う凹形状であり、バルブ収容部15に面する端縁422がバルブ収容部15の内面に沿う凹形状である。吸気口11及びバルブ収容部15は、それぞれ吸気側X1から見た形状が円形である。それゆえ、分割ピース4の端縁421及び端縁422は、いずれも凹状の円弧形状となっている。そして、分割ピース4の端縁421及び端縁422の曲率半径は、それぞれ吸気口11及びバルブ収容部15の半径と同じである。
【0040】
また、
図13、
図14に示すごとく、切欠部22に圧入された分割ピース4の吸気側X1の表面は、分割ピース4の周囲におけるスクロールピース2の吸気側X1の表面に対して面一となっている。
【0041】
また、
図3に示すごとく、エアバイパスバルブ6は、バルブ部61と、バルブ部61を覆う蓋部62と、蓋部62の外周部を覆う環状部材63とを有する。
また、
図1〜
図3に示すごとく、エアバイパスバルブ6は、バルブ部61をバルブ収容部15内に収容した状態で、スクロールピース2のバルブ搭載部23にボルト152にて締結固定される。
【0042】
また、
図1、
図2に示すごとく、吸気口11の外周側には、吸気口11に接続される吸気管(図示略)を固定するための吸気管固定部111が形成されている。吸気管は、吸気口11と接続するように配置された状態で、吸気管固定部111においてボルト(図示略)にて締結固定される。
【0043】
図3に示すごとく、インペラ5は、シュラウドピース3のシュラウド部32の内周側に配置されており、回転軸50を中心に回転可能に取り付けられている。また、インペラ5は、ハブ51の外周面から周方向に並ぶ複数のブレード52を突出させている。複数のブレード52は、シュラウドピース3のシュラウド部32のシュラウド面321に対向して配置されている。
【0044】
また、シュラウドピース3のシュラウド部32のディフューザ面322に対向する位置には、コンプレッサハウジング1の吐出側X2を覆うと共に回転軸50を軸支する軸受ハウジング等(図示略)が配設される。この軸受ハウジング等は、シュラウド部32のディフューザ面322との間に、インペラ5から吐き出された空気を昇圧させるディフューザ部13を形成する。
【0045】
そして、上記構成のコンプレッサハウジング1を有するコンプレッサにおいては、インペラ5の回転により、吸気口11からシュラウドピース3の吸気通路311を介してインペラ5へと空気が吸い込まれる。インペラ5のブレード52によって加速され、インペラ5から吐き出された空気は、ディフューザ部13において昇圧され、スクロール室12に導入される。
【0046】
上記コンプレッサハウジング1を製造するにあたっては、以下の本体ピース作製工程と、分割ピース作製工程と、圧入工程とを行う。
本体ピース作製工程においては、
図4〜
図6に示すごとく、バルブ収容部15と吸気口11と溝部26と切欠部27とを形成してなるスクロールピース(本体ピース)2を作製する。分割ピース作製工程においては、
図4に示すような、溝部26の吸気側を覆う分割ピース4を作製する。圧入工程においては、
図7〜
図10に示すごとく、切欠部27に分割ピース4を圧入して溝部26の吸気側X1を覆う。
【0047】
また、本例においては、圧入工程の後に、以下の端縁加工工程と表面加工工程とを行う。
すなわち、端縁加工工程においては、
図11、
図12に示すごとく、分割ピース4の吸気口11に面する端縁421を吸気口11の内面に沿うように外形加工し、分割ピース4のバルブ収容部15に面する端縁422をバルブ収容部15の内面に沿うように外形加工する。表面加工工程においては、
図13、
図14に示すごとく、分割ピース4の吸気側X1の表面が、分割ピース4の周囲におけるスクロールピース2の吸気側X1の表面に対して面一となるように、分割ピース4の表面を加工する。
【0048】
本体ピース作製工程においては、スクロールピース2をダイキャストによって成形する。バイパス部16を構成する溝部26も、分割ピース4をスクロールピース2に組み付ける前においては、吸気側X1に開口しているため、ダイキャスト成形によって容易に形成することができる。
【0049】
また、シュラウドピース3及び環状ピース30もダイキャストによって成形する。そして、シュラウドピース3及び環状ピース30をスクロールピース2に圧入して組み付ける。スクロールピース2へのシュラウドピース3及び環状ピース30の圧入は、分割ピース4をスクロールピース2へ圧入する圧入工程の前に行ってもよいし、後に行ってもよい。
【0050】
また、分割ピース作製工程においては、分割ピース4を円盤状に形成する。すなわち、この工程の後の端縁加工工程の前の段階においては、分割ピース4は円盤形状を有する。また、分割ピース4は、いわゆるコイン状であり、その表裏方向においても対称な形状となっている。分割ピース4は、プレス成形によって得ることができる。
また、分割ピース作製工程において作製する分割ピース4は、その厚さが切欠部27の深さよりも大きい。
【0051】
そして、圧入工程においては、
図7〜
図10に示すごとく、円盤状の分割ピース4をスクロールピース2の切欠部27に圧入する。ここで、分割ピース4は上述のような円盤状であるため、特に周方向の向きや表裏を考慮することなく、分割ピース4を一対の切欠部27の間に配置すると共に圧入することができる。
そして、圧入に当たっては、分割ピース4を吸気側X1から押圧治具(図示略)によって押圧する。押圧治具は、分割ピース4の一方の面に当接する平坦な押圧面を有する。そして、この押圧面は分割ピース4よりも大きく、分割ピース4の全体を押圧できるようになっている。これは、圧入時に分割ピース4が変形することを防ぐためである。
【0052】
このような圧入工程によって、円盤状の分割ピース4は、
図10に示すごとく、切欠部27の座面271に当接する状態まで圧入される。そして、この状態において、分割ピース4は、その周囲におけるスクロールピース2の吸気側端面よりも吸気側X1へ突出している。この突出量は、例えば、分割ピース4の厚みの半分以下であることが好ましい。
【0053】
次いで、端縁加工工程において、
図11、
図12に示すごとく、分割ピース4の吸気口11に面する端縁421と、分割ピース4のバルブ収容部15に面する端縁422とを外形加工する。これにより、分割ピース4に、吸気口11の内面に沿う凹形状の端縁421と、バルブ収容部15の内面に沿う凹形状の端縁422とを形成する。この外形加工は、例えば、切削、研削によって行うことができる。切削加工としては、例えばエンドミル等のフライス加工や旋盤加工を用いることができる。研削加工としては、例えば内面研削を用いることができる。
【0054】
次いで、表面加工工程において、分割ピース4の吸気側X1の表面を加工する。これにより、
図9、
図10に示すようにスクロールピース2の吸気側端面から突出していた分割ピース4を、
図13、
図14に示すごとく、スクロールピース2の吸気側端面に対して面一とする。この加工は、例えば、研削、切削によって行うことができる。研削加工としては、例えば、平面研削、円筒研削を用いることができる。
なお、表面加工工程は、端縁加工工程の前に行うこともできる。
また、端縁加工工程、表面加工工程のそれぞれの後に、端縁或いは表面を研磨してもよい。
【0055】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記過給機用のコンプレッサハウジング1において、バイパス部16は、分割ピース4が切欠部27に圧入されて溝部26の吸気側X1が覆われることにより形成されている。それゆえ、コンプレッサハウジング1を製造するにあたって、ダイキャスト成形を用いることができる。すなわち、例えば、スクロールピース2をダイキャストにより成形し、スクロールピース2に分割ピース4を圧入することにより、バイパス部16を有するコンプレッサハウジング1を、生産性良く、低コストにて得ることができる。
【0056】
また、分割ピース4は切欠部27に圧入されている。それゆえ、スクロールピース2と分割ピース4との間の気密性は充分維持される。これにより、スクロールピース2と分割ピース4との間にガスケットを挟み込む必要がなく、部品点数を削減することができる。また、ガスケットを挟み込むことが不要となるため、作業工数も削減でき、作業の煩雑さを低減できる。
【0057】
さらに、分割ピース4は、溝部26の吸気側X1を覆えば足り、バルブ収容部15の全周や吸気口11の全周を含む構成とする必要がない。そのため、分割ピース4の形状を単純化しやすい。また、分割ピース4は、圧入により組み付けられるため、スクロールピース2及び分割ピース4のそれぞれに、組み付けのためのねじ穴などを設ける必要がない。これによっても分割ピース4の形状を単純化しやすい。
【0058】
また、分割ピース4は、切欠部27に圧入された2つの端縁411、412の輪郭が一つの円周に沿った円弧形状である。そのため、分割ピース4を切欠部27に圧入する作業を容易にすることができる。すなわち、このような形状とすることにより、分割ピース作製工程及び圧入工程を、以下のように行うことができる。
【0059】
まず、分割ピース作製工程において、分割ピース4を円盤状に形成する。分割ピース4が円盤状であれば、その周方向の向きは特定されない。そのため、圧入工程において、スクロールピース2の切欠部27に対する周方向の向きを合せる必要がない。換言すれば、分割ピース4を、その周方向の向きにおいて、スクロールピース2に対してどのような姿勢で配置しても、切欠部27への圧入が可能である。これにより、切欠部27への分割ピース4の圧入作業の効率を大きく向上させることができる。
また、分割ピース4は、その表裏方向においても対称な形状、すなわちコイン状であるため、表裏の向きも考慮することなくスクロールピース2に分割ピースを圧入できる。これにより、さらに作業効率を向上させることができる。
【0060】
また、本例のコンプレッサハウジングの製造方法は、圧入工程の後に、端縁加工工程をさらに含む。これにより、分割ピース4は、吸気口11に面する端縁421を吸気口11の内面に沿う凹形状とし、バルブ収容部15に面する端縁422をバルブ収容部15の内面に沿う凹形状とすることができる。それゆえ、分割ピース4が吸気口11及びバルブ収容部15にオーバーラップすることを防ぎつつ、溝部26を充分に覆うことができる。また、その一方で、分割ピース作製工程において作製する分割ピース4の形状自由度を向上させることができる。そして、分割ピース4を円盤状とすることにより、上述のごとく、圧入工程の作業効率を向上させることができる。
【0061】
また、分割ピース作製工程においては、分割ピース4の厚さが切欠部27の深さよりも大きくなるように分割ピース4を形成する。これにより、圧入工程における切欠部27への分割ピース4の圧入を、確実に行いやすくなる。すなわち、押圧治具によって分割ピース4を切欠部27へ圧入する際、分割ピース4の厚さが切欠部27の深さよりも大きいことにより、充分に切欠部27へ分割ピース4を圧入することができる。
【0062】
また、本例のコンプレッサハウジングの製造方法は、圧入工程の後に表面加工工程をさらに含む。これにより、切欠部27に圧入された分割ピース4の吸気側X1の表面を、分割ピース4の周囲におけるスクロールピース2の吸気側X1の表面に対して面一としている。そのため、バルブ収容部15へのエアバイパスバルブ6の取付性や、吸気口11への配管の取付性を向上させることができる。
【0063】
以上のごとく、本例によれば、部品点数が少なく、製造工数を低減でき、分割ピースの形状を単純化しやすい過給機用のコンプレッサハウジング及びその製造方法を提供することができる。
【0064】
なお、上記実施例1においては、分割ピース作製工程において作製する分割ピースを円盤状とした例を示したが、分割ピースの形状を他の形状とすることもできる。