特許第5953239号(P5953239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5953239過給機用のコンプレッサハウジング及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953239
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】過給機用のコンプレッサハウジング及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   F02B39/00 G
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-9746(P2013-9746)
(22)【出願日】2013年1月23日
(65)【公開番号】特開2014-141904(P2014-141904A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 竜
(72)【発明者】
【氏名】米澤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】堀川 宏
【審査官】 津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−241560(JP,A)
【文献】 特開2012−241558(JP,A)
【文献】 特開平10−231731(JP,A)
【文献】 特開昭56−167813(JP,A)
【文献】 特開平2−305324(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/021480(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラを収容可能に設けられていると共に、上記インペラに向けて空気を吸い込む吸気口と、上記インペラの外周側において周方向に形成され、上記インペラから吐き出された空気を外部へ導くスクロール室とを備えた過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、
上記スクロ−ル室に対して、上記吸気口が開口している吸気側の位置には、エアバイパスバルブを収容するためのバルブ収容部が形成されており、
該バルブ収容部は、上記スクロール室と連通すると共に上記吸気側に開口しており、
上記バルブ収容部と上記吸気口との間には、上記コンプレッサハウジングの内部において両者をつなぐバイパス部が形成されており、
上記コンプレッサハウジングは、本体ピースと、該本体ピースに取り付けられる分割ピースとを有し、
上記本体ピースは、上記バルブ収容部と上記吸気口を連通して上記吸気側が開口する溝部と、該溝部の開口側の周囲において上記分割ピースの外形に沿うように切り欠かれた切欠部とを有し、
上記バイパス部は、上記分割ピースが上記切欠部に圧入されて上記溝部の上記吸気側が覆われることにより形成されていることを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジング。
【請求項2】
請求項1に記載の過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、上記分割ピースは、上記切欠部に圧入された複数の端縁の輪郭が一つの円周に沿った円弧形状であることを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジング。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、上記分割ピースは、上記吸気口に面する端縁が上記吸気口の内面に沿う凹形状であり、上記バルブ収容部に面する端縁が上記バルブ収容部の内面に沿う凹形状であることを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジング。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、上記切欠部に圧入された上記分割ピースの上記吸気側の表面は、上記分割ピースの周囲における上記本体ピースの上記吸気側の表面に対して面一となっていることを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジング。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の過給機用のコンプレッサハウジングを製造する方法であって、
上記バルブ収容部と上記吸気口と上記溝部と上記切欠部とを形成してなる上記本体ピースを作製する本体ピース作製工程と、
上記溝部の上記吸気側を覆う上記分割ピースを作製する分割ピース作製工程と、
上記切欠部に上記分割ピースを圧入して上記溝部の上記吸気側を覆う圧入工程と、
を含む過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法において、上記分割ピース作製工程では、上記分割ピースを円盤状に形成することを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法において、上記圧入工程の後に、上記分割ピースの上記吸気口に面する端縁を上記吸気口の内面に沿うように外形加工し、上記分割ピースの上記バルブ収容部に面する端縁を上記バルブ収容部の内面に沿うように外形加工する端縁加工工程をさらに含むことを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法において、上記分割ピース作製工程では、上記分割ピースの厚さが上記切欠部の深さよりも大きくなるように上記分割ピースを形成することを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法において、上記圧入工程の後に、上記分割ピースの上記吸気側の表面が、該分割ピースの周囲における上記本体ピースの上記吸気側の表面に対して面一となるように、上記分割ピースの表面を加工する表面加工工程をさらに含むことを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラを収容可能に構成された過給機用のコンプレッサハウジング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のターボチャージャー等の過給機に用いられるコンプレッサ(圧縮機)は、そのコンプレッサの外殻を形成すると共に、内部にインペラを収容するコンプレッサハウジングを備えている。
コンプレッサハウジングには、コンプレッサとスロットルバルブとの間での吸気脈動を抑制するためのエアバイパスバルブを搭載する仕様のものがある(特許文献1等参照)。
【0003】
エアバイパスバルブを搭載する仕様のコンプレッサハウジング91は、例えば、図16図17に示すごとく、複数のブレード952を有するインペラ95を収容可能に構成されていると共に、インペラ95に向けて空気A1を吸い込む吸気口911と、インペラ95の外周側において周方向に形成され、インペラ95から吐き出された空気A2を外部へ導くスクロール室912とを備えている。
【0004】
そして、スクロール室912に対して、吸気口911が形成されている吸気側X1には、エアバイパスバルブ96を取り付けるためのバルブ収容部915が形成されている。バルブ収容部915は、スクロール室912に連通すると共に吸気側X1に開口している。また、バルブ収容部915と吸気口911との間には、コンプレッサハウジング91の内部において両者をつなぐバイパス部916が形成されている。
【0005】
このようなコンプレッサハウジング91においては、内部に形成されたバイパス部916が、いわゆるアンダーカット形状となる。すなわち、2つの金型によるダイキャスト成形を行うことは基本的にできない形状となってしまう。
そこで、コンプレッサハウジング91の吸気側の一部を、図18に示すごとく、本体ピース93から分割して形成した分割ピース94とすることが提案されている(特許文献2等参照)。特許文献2の発明においては、分割ピース94に設けられたねじ穴941を介して、分割ピース94を本体ピース93にねじ止めして組み付けることにより、バイパス部916を有するコンプレッサハウジング91を、生産性が良く、安価なダイキャストで製造することを可能とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−61342号公報
【特許文献2】特開2012−241560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2のコンプレッサハウジング91においては、本体ピース93と分割ピース94の接合部において気密性を維持するために、本体ピース93と分割ピース94との間にガスケット(図示略)を挟み込む必要があり、部品点数が多いという問題がある。これに伴い、ガスケットの挟み込みの作業の分、作業工数が増えて作業が煩雑となる。また、図18に示すように分割して形成された分割ピース94は、バイパス部の一部のみならず、バルブ収容部15及び吸気口11の一部をも含む構成であり、その形状は複雑なものとなる。また、分割ピース94を本体ピース93にねじ止めするためのねじ穴などを設ける必要があり、これも分割ピース94の形状が複雑なものとなる一因になる。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、部品点数が少なく、製造工数を低減でき、分割ピースの形状を単純化しやすい過給機用のコンプレッサハウジング及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、インペラを収容可能に設けられていると共に、上記インペラに向けて空気を吸い込む吸気口と、上記インペラの外周側において周方向に形成され、上記インペラから吐き出された空気を外部へ導くスクロール室とを備えた過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、
上記スクロ−ル室に対して、上記吸気口が開口している吸気側の位置には、エアバイパスバルブを収容するためのバルブ収容部が形成されており、
該バルブ収容部は、上記スクロール室と連通すると共に上記吸気側に開口しており、
上記バルブ収容部と上記吸気口との間には、上記コンプレッサハウジングの内部において両者をつなぐバイパス部が形成されており、
上記コンプレッサハウジングは、本体ピースと、該本体ピースに取り付けられる分割ピースとを有し、
上記本体ピースは、上記バルブ収容部と上記吸気口を連通して上記吸気側が開口する溝部と、該溝部の開口側の周囲において上記分割ピースの外形に沿うように切り欠かれた切欠部とを有し、
上記バイパス部は、上記分割ピースが上記切欠部に圧入されて上記溝部の上記吸気側が覆われることにより形成されていることを特徴とする過給機用のコンプレッサハウジングにある(請求項1)。
【0010】
本発明の他の態様は、上記過給機用のコンプレッサハウジングを製造する方法であって、
上記バルブ収容部と上記吸気口と上記溝部と上記切欠部とを形成してなる上記本体ピースを作製する本体ピース作製工程と、
上記溝部の上記吸気側を覆う上記分割ピースを作製する分割ピース作製工程と、
上記切欠部に上記分割ピースを圧入して上記溝部の上記吸気側を覆う圧入工程と、
を含む過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法にある(請求項5)。
【発明の効果】
【0011】
上記過給機用のコンプレッサハウジングにおいて、上記バイパス部は、上記分割ピースが上記切欠部に圧入されて上記溝部の上記吸気側が覆われることにより形成されている。それゆえ、上記コンプレッサハウジングを製造するにあたって、ダイキャスト成形を用いることができる。すなわち、例えば、上記本体ピースをダイキャストにより成形し、本体ピースに上記分割ピースを圧入することにより、上記バイパス部を有するコンプレッサハウジングを、生産性良く、低コストにて得ることができる。
【0012】
また、上記分割ピースは上記切欠部に圧入されている。それゆえ、本体ピースと分割ピースとの間の気密性は充分維持される。これにより、本体ピースと分割ピースとの間にガスケットを挟み込む必要がなく、部品点数を削減することができる。また、ガスケットを挟み込むことが不要となるため、作業工数も削減でき、作業の煩雑さを低減できる。
【0013】
さらに、上記分割ピースは、上記溝部の吸気側を覆えば足り、バルブ収容部の全周や吸気口の全周を含む構成とする必要がない。そのため、分割ピースの形状を単純化しやすい。また、上記分割ピースは、圧入により組み付けられるため、本体ピース及び分割ピースのそれぞれに、組み付けのためのねじ穴などを設ける必要がない。これによっても分割ピースの形状を単純化しやすい。
【0014】
また、上記過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法においては、上述のごとく、本体ピースと分割ピースとの間にガスケットを挟み込む必要がなく、部品点数を削減することができる。また、ガスケットを挟み込むことが不要となるため、作業工数も削減でき、作業の煩雑さを低減できる。
【0015】
さらに、上記分割ピースは、上記溝部の一端に形成された切欠部に圧入されるため、バルブ収容部の全周や吸気口の全周を含む構成とする必要がない。すなわち、上記分割ピース作製工程において形成する分割ピースの形状を単純化しやすい。また、分割ピースは、圧入により組み付けられるため、本体ピース及び分割ピースのそれぞれに組み付けのためのねじ穴などを設ける必要がない。これによっても上記分割ピースの形状を単純化しやすい。
【0016】
また、上記過給機用のコンプレッサハウジングの製造方法において、上述のごとく、上記本体ピースはダイキャストにより成形することができる。そのため、生産性が良く、かつ、安価に、コンプレッサハウジングを製造することができる。
【0017】
以上のごとく、本発明によれば、部品点数が少なく、製造工数を低減でき、分割ピースの形状を単純化しやすい過給機用のコンプレッサハウジング及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1における、エアバイパスバルブを装着したコンプレッサハウジングの斜視図。
図2】実施例1における、エアバイパスバルブを装着したコンプレッサハウジングの吸気側から見た正面図。
図3図2のIII−III線矢視断面図。
図4】実施例1における、スクロールピース(本体ピース)と分割ピースの斜視図。
図5】実施例1における、スクロールピース(本体ピース)の吸気側から見た正面図。
図6図5のVI−VI線矢視断面図。
図7】実施例1における、圧入工程後、端縁加工工程前の状態の、スクロールピース(本体ピース)と分割ピースの斜視図。
図8】実施例1における、圧入工程後、端縁加工工程前の状態の、スクロールピース(本体ピース)と分割ピースの吸気側から見た正面図。
図9図8のIX−IX線矢視断面図。
図10図8のX−X線矢視断面相当の部分断面図。
図11】実施例1における、コンプレッサハウジングの斜視図。
図12】実施例1における、コンプレッサハウジングの吸気側から見た正面図。
図13図12のXIII−XIII線矢視断面図。
図14図8のXIV−XIV線矢視断面相当の部分断面図。
図15】実施例1における、コンプレッサハウジングの部分断面斜視図。
図16】背景技術における、エアバイパスバルブを装着したコンプレッサハウジングの断面図。
図17】背景技術における、コンプレッサハウジングの断面図。
図18】背景技術における、エアバイパスバルブを装着した他のコンプレッサハウジングの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記分割ピースは、上記本体ピースと同じ材料からなることが好ましい。例えば、本体ピース及び分割ピースは、アルミニウム又はその合金からなるものとすることができる。また、上記分割ピースは、例えば、プレス等によって成形することができる。
また、上記コンプレッサハウジングは、上記本体ピースと上記分割ピースとの他に、上記本体ピースに組み付けられる他のピースを備えていてもよい。
【0020】
また、上記分割ピースは、上記切欠部に圧入された複数の端縁の輪郭が一つの円周に沿った円弧形状であることが好ましい(請求項2)。この場合には、上記分割ピースを上記切欠部に圧入する作業を容易にすることができる。
【0021】
また、上記分割ピースは、上記吸気口に面する端縁が上記吸気口の内面に沿う凹形状であり、上記バルブ収容部に面する端縁が上記バルブ収容部の内面に沿う凹形状であることが好ましい(請求項3)。この場合には、上記分割ピースが吸気口及びバルブ収容部にオーバーラップすることを防ぎつつ、溝部を充分に覆うことができる。これにより、気密性を確保しつつ気流の乱れを防ぐことができる。
【0022】
また、上記切欠部に圧入された上記分割ピースの上記吸気側の表面は、上記分割ピースの周囲における上記本体ピースの上記吸気側の表面に対して面一となっていることが好ましい(請求項4)。この場合には、上記バルブ収容部へのエアバイパスバルブの取付性や、上記吸気口への配管の取付性を向上させることができる。
【0023】
また、上記分割ピース作製工程では、上記分割ピースを円盤状に形成することが好ましい(請求項6)。この場合には、上記分割ピースを上記切欠部に圧入する作業を容易にすることができる。すなわち、分割ピースが円盤状であれば、その周方向の向きは特定されない。そのため、上記圧入工程において、本体ピースの切欠部に対する周方向の向きを合せる必要がない。換言すれば、上記分割ピースを、その周方向の向きにおいて、本体ピースに対してどのような姿勢で配置しても、切欠部への圧入が可能である。これにより、上記切欠部への分割ピースの圧入作業の効率を大きく向上させることができる。
また、上記分割ピースは、その表裏方向においても対称な形状、すなわちコイン状とすることにより、表裏の向きも考慮することなく本体ピースに分割ピースを圧入できる。これにより、さらに作業効率を向上させることができる。
【0024】
また、上記圧入工程の後に、上記分割ピースの上記吸気口に面する端縁を上記吸気口の内面に沿うように外形加工し、上記分割ピースの上記バルブ収容部に面する端縁を上記バルブ収容部の内面に沿うように外形加工する端縁加工工程をさらに含むことが好ましい(請求項7)。この場合には、上記分割ピースが吸気口及びバルブ収容部にオーバーラップすることを防ぎつつ、溝部を充分に覆うことができる。また、その一方で、上記分割ピース作製工程において作製する分割ピースの形状自由度を向上させることができる。そして、例えば分割ピースを円盤状とすることにより、上述のごとく、上記圧入工程の作業効率を向上させることができる。
なお、上記分割ピースの端縁の外形加工は、例えば、切削、研削によって行うことができる。また、切削、研削の後に、端縁を研磨することがより好ましい。
【0025】
また、上記分割ピース作製工程では、上記分割ピースの厚さが上記切欠部の深さよりも大きくなるように上記分割ピースを形成することが好ましい(請求項8)。この場合には、上記圧入工程における上記切欠部への上記分割ピースの圧入を、確実に行いやすくなる。すなわち、上記分割ピースを上記切欠部へ圧入する際には、例えば押圧治具によって分割ピースを上記切欠部へ押し込むこととなる。このとき、分割ピースの厚さが切欠部の深さよりも大きいことにより、充分に切欠部へ分割ピースを圧入することができる。
【0026】
また、上記圧入工程の後に、上記分割ピースの上記吸気側の表面が、該分割ピースの周囲における上記本体ピースの上記吸気側の表面に対して面一となるように、上記分割ピースの表面を加工する表面加工工程をさらに含むことが好ましい(請求項9)。この場合には、上記バルブ収容部へのエアバイパスバルブの取付性や、上記吸気口への配管の取付性を向上させることができる。
なお、上記分割ピースの端縁の外形加工は、例えば、研削、切削によって行うことができる。また、研削、切削加工の後に、端縁を研磨することがより好ましい。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
上記過給機用のコンプレッサハウジングの実施例について、図1図15を用いて説明する。
本例のコンプレッサハウジング1は、図1図3に示すごとく、インペラ5を収容可能に設けられていると共に、インペラ5に向けて空気を吸い込む吸気口11と、インペラ5の外周側において周方向に形成され、インペラ5から吐き出された空気を外部へ導くスクロール室12とを備えている。
【0028】
スクロ−ル室12に対して、吸気口11が開口している吸気側X1の位置には、エアバイパスバルブ6を収容するためのバルブ収容部15が形成されている。
バルブ収容部15は、スクロール室12と連通すると共に吸気側X1に開口している。
【0029】
バルブ収容部15と吸気口11との間には、コンプレッサハウジング1の内部において両者をつなぐバイパス部16が形成されている。
コンプレッサハウジング1は、本体ピースとしてのスクロールピース2と、スクロールピース2に取り付けられる分割ピース4とを有する。
【0030】
スクロールピース2は、図4図6に示すごとく、バルブ収容部15と吸気口11を連通して吸気側X1が開口する溝部26と、該溝部26の開口側の周囲において分割ピース4の外形に沿うように切り欠かれた切欠部27とを有する。
図13図15に示すごとく、バイパス部16は、分割ピース4が切欠部27に圧入されて溝部26の吸気側X1が覆われることにより形成されている。
【0031】
なお、本例では、インペラ5の軸方向を軸方向X、その軸方向Xにおいて吸気口11が形成されている側を吸気側X1、その反対側を吐出側X2、軸方向Xに直交する方向を径方向とする。
【0032】
本例のコンプレッサハウジング1は、自動車のターボチャージャー(過給機)に用いられるコンプレッサ(圧縮機)の外殻を形成するものであり、エアバイパスバルブ6を搭載する仕様のものである。
図13図15に示すごとく、コンプレッサハウジング1は、スクロールピース2とシュラウドピース3と環状ピース30と分割ピース4とを組み合わせて構成されている。スクロールピース2、シュラウドピース3、及び環状ピース30は、すべてアルミニウム製のダイキャスト品により構成されている。分割ピース4は、アルミニウム製のプレス成形品である。
【0033】
図11図13図15に示すごとく、スクロールピース2は、吸気口11を形成する筒状の吸気口形成部21と、後述するシュラウドピース3及び環状ピース30と共にスクロール室12を形成するスクロール室形成部22と、エアバイパスバルブ6を搭載するためのエアバイパスバルブ搭載部23とを有する。エアバイパスバルブ搭載部23は、吸気口11の外周側であって、スクロール室12の吸気側X1に設けられている。
【0034】
また、エアバイパスバルブ搭載部23には、エアバイパスバルブ6(図1図3)を収容配置するためのバルブ収容部15が形成されている。バルブ収容部15は、スクロールピース2の吸気側端面に開口するように凹状に形成されている。また、バルブ収容部15は、軸方向Xに形成されたバルブ連通部14を介してスクロール室12に連通している。
また、バルブ収容部15と吸気口11との間には、スクロールピース2の吸気側端面に開口するように、溝部26が形成されている。そして、溝部26は、バルブ収容部15と吸気口11とに連通している。
【0035】
また、溝部26の開口側の周囲に、切欠部27が形成されている。切欠部27は、分割ピース4の外形に沿うように切り欠かれている。切欠部27は、図4図5に示すごとく、溝部26の両脇に、スクロールピース2の吸気側端面を切り欠いたような形状に形成されている。一対の切欠部27は、吸気側X1から見た形状において、外側の輪郭が一つの円周に沿った円弧形状を有している。
【0036】
図13図15に示すごとく、シュラウドピース3は、筒状圧入部31とシュラウド部32とを有する。筒状圧入部31は、スクロールピース2の吸気口形成部21内に圧入されると共に吸気口11と連通する吸気通路311を形成する。シュラウド部32は、インペラ5に対向するシュラウド面321及びそのシュラウド面321からスクロール室12に向かって延びるディフューザ面322を形成する。また、シュラウド部32は、スクロールピース2のスクロール室形成部22と共にスクロール室12を形成している。
【0037】
環状ピース30は、スクロールピース2に対して吐出側X2の端部に圧入されている。環状ピース30は、スクロールピース2のスクロール室形成部22とシュラウドピース3のシュラウド部32と共にスクロール室12を形成している。
【0038】
図12に示すごとく、分割ピース4は、切欠部27に圧入された2つの端縁411、412の輪郭が一つの円周に沿った円弧形状である。すなわち、この2つの円弧形状部分が、2つの切欠部27における外周の壁面272(図14参照)に嵌合する状態で、分割ピース4がスクロールピース2に圧入されている。
【0039】
分割ピース4は、吸気口11に面する端縁421が吸気口11の内面に沿う凹形状であり、バルブ収容部15に面する端縁422がバルブ収容部15の内面に沿う凹形状である。吸気口11及びバルブ収容部15は、それぞれ吸気側X1から見た形状が円形である。それゆえ、分割ピース4の端縁421及び端縁422は、いずれも凹状の円弧形状となっている。そして、分割ピース4の端縁421及び端縁422の曲率半径は、それぞれ吸気口11及びバルブ収容部15の半径と同じである。
【0040】
また、図13図14に示すごとく、切欠部22に圧入された分割ピース4の吸気側X1の表面は、分割ピース4の周囲におけるスクロールピース2の吸気側X1の表面に対して面一となっている。
【0041】
また、図3に示すごとく、エアバイパスバルブ6は、バルブ部61と、バルブ部61を覆う蓋部62と、蓋部62の外周部を覆う環状部材63とを有する。
また、図1図3に示すごとく、エアバイパスバルブ6は、バルブ部61をバルブ収容部15内に収容した状態で、スクロールピース2のバルブ搭載部23にボルト152にて締結固定される。
【0042】
また、図1図2に示すごとく、吸気口11の外周側には、吸気口11に接続される吸気管(図示略)を固定するための吸気管固定部111が形成されている。吸気管は、吸気口11と接続するように配置された状態で、吸気管固定部111においてボルト(図示略)にて締結固定される。
【0043】
図3に示すごとく、インペラ5は、シュラウドピース3のシュラウド部32の内周側に配置されており、回転軸50を中心に回転可能に取り付けられている。また、インペラ5は、ハブ51の外周面から周方向に並ぶ複数のブレード52を突出させている。複数のブレード52は、シュラウドピース3のシュラウド部32のシュラウド面321に対向して配置されている。
【0044】
また、シュラウドピース3のシュラウド部32のディフューザ面322に対向する位置には、コンプレッサハウジング1の吐出側X2を覆うと共に回転軸50を軸支する軸受ハウジング等(図示略)が配設される。この軸受ハウジング等は、シュラウド部32のディフューザ面322との間に、インペラ5から吐き出された空気を昇圧させるディフューザ部13を形成する。
【0045】
そして、上記構成のコンプレッサハウジング1を有するコンプレッサにおいては、インペラ5の回転により、吸気口11からシュラウドピース3の吸気通路311を介してインペラ5へと空気が吸い込まれる。インペラ5のブレード52によって加速され、インペラ5から吐き出された空気は、ディフューザ部13において昇圧され、スクロール室12に導入される。
【0046】
上記コンプレッサハウジング1を製造するにあたっては、以下の本体ピース作製工程と、分割ピース作製工程と、圧入工程とを行う。
本体ピース作製工程においては、図4図6に示すごとく、バルブ収容部15と吸気口11と溝部26と切欠部27とを形成してなるスクロールピース(本体ピース)2を作製する。分割ピース作製工程においては、図4に示すような、溝部26の吸気側を覆う分割ピース4を作製する。圧入工程においては、図7図10に示すごとく、切欠部27に分割ピース4を圧入して溝部26の吸気側X1を覆う。
【0047】
また、本例においては、圧入工程の後に、以下の端縁加工工程と表面加工工程とを行う。
すなわち、端縁加工工程においては、図11図12に示すごとく、分割ピース4の吸気口11に面する端縁421を吸気口11の内面に沿うように外形加工し、分割ピース4のバルブ収容部15に面する端縁422をバルブ収容部15の内面に沿うように外形加工する。表面加工工程においては、図13図14に示すごとく、分割ピース4の吸気側X1の表面が、分割ピース4の周囲におけるスクロールピース2の吸気側X1の表面に対して面一となるように、分割ピース4の表面を加工する。
【0048】
本体ピース作製工程においては、スクロールピース2をダイキャストによって成形する。バイパス部16を構成する溝部26も、分割ピース4をスクロールピース2に組み付ける前においては、吸気側X1に開口しているため、ダイキャスト成形によって容易に形成することができる。
【0049】
また、シュラウドピース3及び環状ピース30もダイキャストによって成形する。そして、シュラウドピース3及び環状ピース30をスクロールピース2に圧入して組み付ける。スクロールピース2へのシュラウドピース3及び環状ピース30の圧入は、分割ピース4をスクロールピース2へ圧入する圧入工程の前に行ってもよいし、後に行ってもよい。
【0050】
また、分割ピース作製工程においては、分割ピース4を円盤状に形成する。すなわち、この工程の後の端縁加工工程の前の段階においては、分割ピース4は円盤形状を有する。また、分割ピース4は、いわゆるコイン状であり、その表裏方向においても対称な形状となっている。分割ピース4は、プレス成形によって得ることができる。
また、分割ピース作製工程において作製する分割ピース4は、その厚さが切欠部27の深さよりも大きい。
【0051】
そして、圧入工程においては、図7図10に示すごとく、円盤状の分割ピース4をスクロールピース2の切欠部27に圧入する。ここで、分割ピース4は上述のような円盤状であるため、特に周方向の向きや表裏を考慮することなく、分割ピース4を一対の切欠部27の間に配置すると共に圧入することができる。
そして、圧入に当たっては、分割ピース4を吸気側X1から押圧治具(図示略)によって押圧する。押圧治具は、分割ピース4の一方の面に当接する平坦な押圧面を有する。そして、この押圧面は分割ピース4よりも大きく、分割ピース4の全体を押圧できるようになっている。これは、圧入時に分割ピース4が変形することを防ぐためである。
【0052】
このような圧入工程によって、円盤状の分割ピース4は、図10に示すごとく、切欠部27の座面271に当接する状態まで圧入される。そして、この状態において、分割ピース4は、その周囲におけるスクロールピース2の吸気側端面よりも吸気側X1へ突出している。この突出量は、例えば、分割ピース4の厚みの半分以下であることが好ましい。
【0053】
次いで、端縁加工工程において、図11図12に示すごとく、分割ピース4の吸気口11に面する端縁421と、分割ピース4のバルブ収容部15に面する端縁422とを外形加工する。これにより、分割ピース4に、吸気口11の内面に沿う凹形状の端縁421と、バルブ収容部15の内面に沿う凹形状の端縁422とを形成する。この外形加工は、例えば、切削、研削によって行うことができる。切削加工としては、例えばエンドミル等のフライス加工や旋盤加工を用いることができる。研削加工としては、例えば内面研削を用いることができる。
【0054】
次いで、表面加工工程において、分割ピース4の吸気側X1の表面を加工する。これにより、図9図10に示すようにスクロールピース2の吸気側端面から突出していた分割ピース4を、図13図14に示すごとく、スクロールピース2の吸気側端面に対して面一とする。この加工は、例えば、研削、切削によって行うことができる。研削加工としては、例えば、平面研削、円筒研削を用いることができる。
なお、表面加工工程は、端縁加工工程の前に行うこともできる。
また、端縁加工工程、表面加工工程のそれぞれの後に、端縁或いは表面を研磨してもよい。
【0055】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記過給機用のコンプレッサハウジング1において、バイパス部16は、分割ピース4が切欠部27に圧入されて溝部26の吸気側X1が覆われることにより形成されている。それゆえ、コンプレッサハウジング1を製造するにあたって、ダイキャスト成形を用いることができる。すなわち、例えば、スクロールピース2をダイキャストにより成形し、スクロールピース2に分割ピース4を圧入することにより、バイパス部16を有するコンプレッサハウジング1を、生産性良く、低コストにて得ることができる。
【0056】
また、分割ピース4は切欠部27に圧入されている。それゆえ、スクロールピース2と分割ピース4との間の気密性は充分維持される。これにより、スクロールピース2と分割ピース4との間にガスケットを挟み込む必要がなく、部品点数を削減することができる。また、ガスケットを挟み込むことが不要となるため、作業工数も削減でき、作業の煩雑さを低減できる。
【0057】
さらに、分割ピース4は、溝部26の吸気側X1を覆えば足り、バルブ収容部15の全周や吸気口11の全周を含む構成とする必要がない。そのため、分割ピース4の形状を単純化しやすい。また、分割ピース4は、圧入により組み付けられるため、スクロールピース2及び分割ピース4のそれぞれに、組み付けのためのねじ穴などを設ける必要がない。これによっても分割ピース4の形状を単純化しやすい。
【0058】
また、分割ピース4は、切欠部27に圧入された2つの端縁411、412の輪郭が一つの円周に沿った円弧形状である。そのため、分割ピース4を切欠部27に圧入する作業を容易にすることができる。すなわち、このような形状とすることにより、分割ピース作製工程及び圧入工程を、以下のように行うことができる。
【0059】
まず、分割ピース作製工程において、分割ピース4を円盤状に形成する。分割ピース4が円盤状であれば、その周方向の向きは特定されない。そのため、圧入工程において、スクロールピース2の切欠部27に対する周方向の向きを合せる必要がない。換言すれば、分割ピース4を、その周方向の向きにおいて、スクロールピース2に対してどのような姿勢で配置しても、切欠部27への圧入が可能である。これにより、切欠部27への分割ピース4の圧入作業の効率を大きく向上させることができる。
また、分割ピース4は、その表裏方向においても対称な形状、すなわちコイン状であるため、表裏の向きも考慮することなくスクロールピース2に分割ピースを圧入できる。これにより、さらに作業効率を向上させることができる。
【0060】
また、本例のコンプレッサハウジングの製造方法は、圧入工程の後に、端縁加工工程をさらに含む。これにより、分割ピース4は、吸気口11に面する端縁421を吸気口11の内面に沿う凹形状とし、バルブ収容部15に面する端縁422をバルブ収容部15の内面に沿う凹形状とすることができる。それゆえ、分割ピース4が吸気口11及びバルブ収容部15にオーバーラップすることを防ぎつつ、溝部26を充分に覆うことができる。また、その一方で、分割ピース作製工程において作製する分割ピース4の形状自由度を向上させることができる。そして、分割ピース4を円盤状とすることにより、上述のごとく、圧入工程の作業効率を向上させることができる。
【0061】
また、分割ピース作製工程においては、分割ピース4の厚さが切欠部27の深さよりも大きくなるように分割ピース4を形成する。これにより、圧入工程における切欠部27への分割ピース4の圧入を、確実に行いやすくなる。すなわち、押圧治具によって分割ピース4を切欠部27へ圧入する際、分割ピース4の厚さが切欠部27の深さよりも大きいことにより、充分に切欠部27へ分割ピース4を圧入することができる。
【0062】
また、本例のコンプレッサハウジングの製造方法は、圧入工程の後に表面加工工程をさらに含む。これにより、切欠部27に圧入された分割ピース4の吸気側X1の表面を、分割ピース4の周囲におけるスクロールピース2の吸気側X1の表面に対して面一としている。そのため、バルブ収容部15へのエアバイパスバルブ6の取付性や、吸気口11への配管の取付性を向上させることができる。
【0063】
以上のごとく、本例によれば、部品点数が少なく、製造工数を低減でき、分割ピースの形状を単純化しやすい過給機用のコンプレッサハウジング及びその製造方法を提供することができる。
【0064】
なお、上記実施例1においては、分割ピース作製工程において作製する分割ピースを円盤状とした例を示したが、分割ピースの形状を他の形状とすることもできる。
【符号の説明】
【0065】
1 コンプレッサハウジング
11 吸気口
12 スクロール室
15 バルブ収容部
16 バイパス部
2 スクロールピース(本体ピース)
26 溝部
27 切欠部
4 分割ピース
5 インペラ
6 エアバイパスバルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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