特許第5953249号(P5953249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5953249複合黒鉛質粒子およびリチウムイオン二次電池におけるその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953249
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】複合黒鉛質粒子およびリチウムイオン二次電池におけるその用途
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/04 20060101AFI20160707BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160707BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20160707BHJP
【FI】
   C01B31/04 101B
   H01M4/36 A
   H01M4/587
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-39479(P2013-39479)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-216563(P2013-216563A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年2月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-60160(P2012-60160)
(32)【優先日】2012年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】江口 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】古川 聡
(72)【発明者】
【氏名】間所 靖
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−063321(JP,A)
【文献】 特開2002−222650(JP,A)
【文献】 特開2001−143698(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/059040(WO,A1)
【文献】 特開2000−223121(JP,A)
【文献】 特開平11−263612(JP,A)
【文献】 米国特許第06139990(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0344391(US,A1)
【文献】 特開2005−032571(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/024980(WO,A1)
【文献】 特開2007−294374(JP,A)
【文献】 特公昭62−023433(JP,B2)
【文献】 特開平10−158005(JP,A)
【文献】 特開2000−323127(JP,A)
【文献】 特開平10−139410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B31/00−31/36
H01M4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下である、複合黒鉛質粒子からなり、
前記複合黒鉛質粒子の空隙の容積率が30〜95体積%である、リチウムイオン二次電池用導電材。
【請求項2】
炭素質または黒鉛質の繊維(C)をさらに含む請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用導電材。
【請求項3】
前記複合黒鉛質粒子100質量部に対する、前記炭素質材料(B)が0.1〜20質量部である請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用導電材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用導電材と、負極活物質とを1〜40:99〜60の質量比で含むリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項5】
前記負極活物質の平均粒子径が、前記複合黒鉛質粒子の平均粒子径よりも大きい請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項6】
請求項4または5に記載の負極材料を用いてなるリチウムイオン二次電池負極。
【請求項7】
請求項6に記載の負極を用いてなるリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
球状ないし略球状である炭素質材料(B)の前駆体および鱗片状黒鉛質粒子(A)を混合して、前記前駆体の表面に前記鱗片状黒鉛質粒子(A)を付着させた付着体を得る付着工程と、
前記付着工程で得られた付着体を焼成して、前記前駆体を炭素質材料(B)にして、
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下であり、空隙の容積率が30〜95体積%である複合黒鉛質粒子を得る焼成工程を有する、リチウムイオン二次電池用導電材に用いる複合黒鉛質粒子の製造方法。
【請求項9】
球状ないし略球状である炭素質材料(B)の前駆体、鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質または黒鉛質の繊維(C)を混合して、前記前駆体の表面に前記鱗片状黒鉛質粒子(A)および前記繊維(C)を付着させた付着体を得る付着工程と、
前記付着工程で得られた付着体を焼成して、前記前駆体を炭素質材料(B)にして、
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下であり、空隙の容積率が30〜95体積%であり、炭素質または黒鉛質の繊維(C)をさらに含む複合黒鉛質粒子を得る焼成工程を有する、リチウムイオン二次電池用導電材に用いる複合黒鉛質粒子の製造方法。
【請求項10】
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)の前駆体を分散媒体中に分散させて分散液を得る分散工程と、
前記分散工程で得られた分散液を噴霧、乾燥して、前記鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)の前駆体からなる中空構造体を得る噴霧乾燥工程と、
前記噴霧乾燥工程で得られた中空構造体および炭素質材料(B)の前駆体を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を焼成して、前記前駆体を炭素質材料(B)にして、鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下であり、空隙の容積率が30〜95体積%である複合黒鉛質粒子を得る焼成工程を有する、リチウムイオン二次電池用導電材に用いる複合黒鉛質粒子の製造方法
【請求項11】
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)の前駆体を分散媒体中に分散させて分散液を得る分散工程と、
前記分散工程で得られた分散液を噴霧、乾燥して、前記鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)の前駆体からなる中空構造体を得る噴霧乾燥工程と、
前記噴霧乾燥工程で得られた中空構造体、炭素質材料(B)の前駆体および炭素質または黒鉛質の繊維(C)を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を焼成して、前記前駆体を炭素質材料(B)にして、
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下であり、空隙の容積率が30〜95体積%であり、炭素質または黒鉛質の繊維(C)をさらに含む複合黒鉛質粒子を得る焼成工程を有する、リチウムイオン二次電池用導電材に用いる複合黒鉛質粒子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合黒鉛質粒子、リチウムイオン二次電池用導電材、リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化あるいは高性能化に伴い、電池のエネルギー密度を高める要望がますます高まる中、他の二次電池よりも高電圧化が可能で、高いエネルギー密度が達成されるリチウムイオン二次電池が特に注目されている。
リチウムイオン二次電池は、リチウム塩を含む電解液(非水電解質)、リチウム化合物を正極活物質とする正極、および負極を主たる構成要素とし、両極はそれぞれリチウムイオンの担持体として作用する。負極の電池機構(充電時のリチウムイオン吸蔵/放電時のリチウムイオン離脱)を担う負極材料には、通常、リチウムイオン吸蔵量が高く高容量となる炭素材料が用いられる。なかでも、負極活物質として、充放電特性に優れ、高い放電容量と電位平坦性とを示す黒鉛が汎用されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
上記黒鉛を負極材料とする具体例としては、代表的に、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させた細孔を有する黒鉛粒子(特許文献2参照)、直径方向に垂直な方向に黒鉛のベーサル面(黒鉛結晶の六角網目状に平行な面)が層状に配列したブルックス・テーラー型の単結晶からなるメソカーボン小球体の黒鉛化物(特許文献3参照)、球状に加工された天然黒鉛に炭素質物質を被覆処理した複合黒鉛粒子(特許文献4参照)、バルクメソフェーズを粉砕、酸化、黒鉛化してなる塊状の黒鉛粒子(特許文献5参照)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭62−23433号公報
【特許文献2】特開平10−158005号公報
【特許文献3】特開2000−323127号公報
【特許文献4】特開2004−63321号公報
【特許文献5】特開平10−139410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、特に携帯用電子機器や電気自動車に搭載されるリチウムイオン二次電池の負極材料には、高容量に加え、急速充電性、急速放電性、さらには充放電を繰り返しても初期の放電容量が劣化しないサイクル特性が求められている。しかしながら、上記従来の黒鉛系負極材料では、高い要求を満たす急速充電性、急速放電性およびサイクル特性は得られていない。これは、充放電に伴う黒鉛の膨張、収縮によって、黒鉛粒子間の接触が外れ、充放電に関与しない孤立した黒鉛粒子を生じることが一因となっている。
このため、黒鉛粒子間の接触を維持するための導電材を併用することが通例となっている。この導電材としては、一般的に、カーボンブラックなどの炭素質微粒子、人造黒鉛、天然黒鉛などの鱗片状黒鉛、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブなどの炭素質または黒鉛質の繊維などが知られている。
【0006】
しかしながら、上記各種導電材の配合により様々な問題を生じることがある。
たとえば上記炭素質微粒子についていえば、カーボンブラックの粒子径は通常10〜500nm程で微細すぎるため、活物質である黒鉛粒子の導電パスを形成させるためには大量の配合が必要となり、炭素質微粒子自体の高い反応性に起因して、充放電初期効率やサイクル特性が低下する。
また、炭素質または黒鉛質の繊維は、繊維を完全に解繊することが難しく、導電材としての効果を得るために本来必要な量を超える配合量が必要となり、高価であるため工業的な普及が難しい。
【0007】
鱗片状黒鉛は、公知の導電材のなかでも経済性に優れ、広く利用されているが、その形状ゆえに、電極表面や内部が閉塞しやすく、電解液の浸透性や保持性を阻害したり、電解液の枯渇を生じて急速放電性やサイクル特性が低下する。また充電膨張が大きくなるといった課題がある。すなわち、鱗片状黒鉛は、負極材の主要構成成分である黒鉛粒子が充放電に伴う膨張収縮によって、その一部が孤立した場合に、黒鉛粒子同士をつなぎとめる役割を有する半面、鱗片状黒鉛自体が電解液の動きを阻害するほか、充電膨張が大きいものである。また、鱗片状黒鉛は比表面積が大きいため、負極合剤スラリーの粘度が高くなり、生産性が低下することもある。このように鱗片状黒鉛は、配合量の増加に伴って導電性付与の効果が相殺され、過剰の場合には悪影響が大きく現れてしまう。
【0008】
本発明の目的は、リチウムイオン二次電池の既知の負極活物質に配合した場合に、優れたサイクル特性を発現することができる導電材としての負極材料を提供することにある。特に、負極を高い密度にプレスした場合でも、電解液の浸透性や保持性を損なうことがなく、優れた急速充電性、急速放電性およびサイクル特性を発現でき、体積当たりの放電容量が高い負極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、急速充電性、急速放電性およびサイクル特性に対する高い要求を満たすリチウムイオン二次電池を実現するため、負極材料の導電材に注目し、特に経済性に優れる鱗片状黒鉛について鋭意検討するうちに、鱗片状黒鉛を中空構造の複合黒鉛質粒子に成形することを着想した。そして、実際、該中空構造の複合黒鉛質粒子を導電材とする負極材料によれば、上記鱗片状黒鉛の導電材としての課題を解決することができ、リチウムイオン二次電池に求められる所望の効果を得ることができることを確認できた。したがって、以下のような本発明(1)〜(13)を提供する。
【0010】
(1)鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下である、複合黒鉛質粒子からなり、
前記複合黒鉛質粒子の空隙の容積率が30〜95体積%である、リチウムイオン二次電池用導電材
記複合黒鉛質粒子は、通常、該複合黒鉛質粒子の平均粒子径の30%以上、特に50%以上の大きさの空洞を有することが望ましい。
)炭素質または黒鉛質の繊維(C)をさらに含む(1)記載の複合黒鉛質粒子。
)前記複合黒鉛質粒子100質量部に対する、前記炭素質材料(B)が0.1〜20質量部である(1)または(2)に記載の複合黒鉛質粒子。
【0011】
上記複合黒鉛質粒子において、鱗片状黒鉛質粒子(A)の平均粒子径は、1〜15μmであることが望ましい。
【0013】
)前記(1)〜()のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用導電材と、負極活物質とを1〜40:99〜60の質量比で含むリチウムイオン二次電池用負極材料。
)前記負極活物質の平均粒子径が、前記複合黒鉛質粒子の平均粒子径よりも大きい()に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【0014】
)前記()または()に記載の負極材料を用いてなるリチウムイオン二次電池負極。
)前記()に記載の負極を用いてなるリチウムイオン二次電池。
【0015】
(8)球状ないし略球状である炭素質材料(B)の前駆体および鱗片状黒鉛質粒子(A)を混合して、前記前駆体の表面に前記鱗片状黒鉛質粒子(A)を付着させた付着体を得る付着工程と、
前記付着工程で得られた付着体を焼成して、前記前駆体を炭素質材料(B)にして、
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下であり、空隙の容積率が30〜95体積%である複合黒鉛質粒子を得る焼成工程を有する、リチウムイオン二次電池用導電材に用いる複合黒鉛質粒子の製造方法。
)球状ないし略球状である炭素質材料(B)の前駆体、鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質または黒鉛質の繊維(C)を混合して、前記前駆体の表面に前記鱗片状黒鉛質粒子(A)および前記繊維(C)を付着させた付着体を得る付着工程と、
前記付着工程で得られた付着体を焼成して、前記前駆体を炭素質材料(B)にして、
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下であり、空隙の容積率が30〜95体積%であり、炭素質または黒鉛質の繊維(C)をさらに含む焼成工程を有する、リチウムイオン二次電池用導電材に用いる複合黒鉛質粒子の製造方法。
【0016】
10)鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)の前駆体を分散媒体中に分散させて分散液を得る分散工程と、
前記分散工程で得られた分散液を噴霧、乾燥して、前記鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)の前駆体からなる中空構造体を得る噴霧乾燥工程と、
前記噴霧乾燥工程で得られた中空構造体および炭素質材料(B)の前駆体を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を焼成して、前記前駆体を炭素質材料(B)にして、
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下であり、空隙の容積率が30〜95体積%である複合黒鉛質粒子を得る焼成工程を有する、リチウムイオン二次電池用導電材に用いる複合黒鉛質粒子の製造方法。
11)鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)の前駆体を分散媒体中に分散させて分散液を得る分散工程と、
前記分散工程で得られた分散液を噴霧、乾燥して、前記鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)の前駆体からなる中空構造体を得る噴霧乾燥工程と、
前記噴霧乾燥工程で得られた中空構造体、炭素質材料(B)の前駆体および炭素質または黒鉛質の繊維(C)を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を焼成して、前記前駆体を炭素質材料(B)にして、
鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状でかつ内部に空洞を有する中空粒子であって、平均粒子径が5〜25μm、平均アスペクト比が5以下であり、空隙の容積率が30〜95体積%であり、炭素質または黒鉛質の繊維(C)をさらに含む複合黒鉛質粒子を得る焼成工程を有する、リチウムイオン二次電池用導電材に用いる複複合黒鉛質粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の特定構造を有する複合黒鉛質粒子は、リチウムイオン二次電池負極材料として既知の黒鉛粒子に特定の比率で配合して活物質層を形成することにより、黒鉛粒子の粒子間空隙に介在し、黒鉛粒子と効果的に接触して高い導電性を発揮するとともに、複合黒鉛質粒子自体の配向度が低く、充電膨張が小さく、電解液の浸透性、保持性に優れている。負極を高密度化してもその特徴を維持することができる。そのため、本発明の複合黒鉛質粒子を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池は、体積当たりの放電容量が高く、急速充電性、急速放電性、サイクル特性等の電池性能が良好である。よって、本発明のリチウムイオン二次電池は、近年の電池の高エネルギー密度化に対する要望を満たし、搭載する機器の小型化および高性能化に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例で得られた複合黒鉛質粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図2】実施例で得られた複合黒鉛質粒子の断面の偏光顕微鏡写真を示す。
図3】実施例において充放電試験に用いるためのボタン型評価電池の構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の複合黒鉛質粒子は、少なくとも鱗片状黒鉛質粒子(A)と炭素質材料(B)とから造粒(成形)された球状ないし略球状の粒子である。特に、該複合黒鉛質粒子は、炭素質材料(B)で結着された鱗片状黒鉛質粒子(A)で形成される骨格を有し、その内部に鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)のどちらも存在しない空隙を有する中空構造であることを特徴とする。
まず造粒材料について説明する。
【0020】
[(A)鱗片状黒鉛質粒子]
本発明で用いられる鱗片状黒鉛質粒子(A)は、鱗片状、板状、タブレット状の人造黒鉛もしくは天然黒鉛であり、複数個が積層した状態であってもよいが、単一粒子として分散している状態が好ましい。鱗片形状の途中で屈曲した状態や、粒子端部が丸められた状態であってもよい。
鱗片状黒鉛質粒子(A)の平均粒子径は、複合黒鉛質粒子の平均粒子径の1/2以下であればよく、その体積換算の平均粒子径は1〜15μm、特に2〜8μmであることが好ましい。1μm以上であれば、最終的に得られる複合黒鉛質粒子は負極に導電性を付与でき、急速充電性やサイクル特性が向上するほか、電解液の反応性を抑え、高い初期充放電効率を得ることができる。そして、複合黒鉛質粒子の平均粒子径の1/2以下、概ね15μm以下であると、最終的に得られる複合黒鉛質粒子は、急速充電性、急速放電性やサイクル特性が向上する。
ここで、本明細書における体積換算の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布計によって測定した粒度分布の累積度数が、体積百分率で50%となる粒子径を意味する。他の黒鉛質粒子の平均粒子径についても同じである。
【0021】
鱗片状黒鉛質粒子(A)の平均アスペクト比は、5以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、60以下であることが好ましい。アスペクト比が大きく厚みが薄いものであるほど、最終的に得られる複合黒鉛質粒子が、他の負極活物質と均等に接触し、負極の導電性を充分に高めることができ、急速充電性やサイクル特性が向上する。平均アスペクト比が5未満の場合には、最終的に得られる複合黒鉛質粒子が、活物質層を高密度にするために高い圧力を必要とし、集電体である銅箔の変形、伸び、破断といった問題を生じることがある。
なお、アスペクト比とは、測定対象の1粒子の長軸長の短軸長に対する比を意味する。ここで、長軸長は測定対象の粒子の最も長い径を意味し、短軸長は測定対象の粒子の長軸に直交する短い径を意味する。また、平均アスペクト比は、走査型電子顕微鏡によって100個の鱗片状黒鉛質粒子(A)を観察して測定した各粒子のアスペクト比の単純平均値である。ここで、走査型電子顕微鏡で観察する際の倍率は、測定対象粒子の形状を確認できる倍率とする。他の黒鉛質粒子の平均アスペクト比についても同じである。
【0022】
鱗片状黒鉛質粒子(A)は、高い結晶性を有する。結晶性が高いがゆえに軟質であり、活物質層の密度を高くすることにも寄与する。結晶性の指標として、X線広角回折における格子面(002)の平均格子面間隔d002(以下、単に平均格子面間隔d002とも記す)が0.3363nm未満、特に0.3360nm以下であることが好ましい。
ここで、平均格子面間隔d002とは、X線としてCuKα線を用い、高純度シリコンを標準物質に使用して、小球体黒鉛化物(A)の(002)面の回折ピークを測定し、そのピーク位置から算出する。算出方法は、学振法(日本学術振興会第17委員会が定めた測定法)に従うものであり、具体的には、「炭素繊維」(大谷杉郎著、733−742頁(1986年3月)、近代編集社)に記載された方法によって測定した値である。
【0023】
鱗片状黒鉛質粒子(A)の比表面積は、大きすぎると最終的に得られる複合黒鉛質粒子とした場合に、二次電池の初期充放電効率の低下を招くため、窒素ガス吸着BET比表面積(以下、単に、比表面積とも記す)で20m/g以下が好ましい。
複合黒鉛質粒子100質量部に対する鱗片状黒鉛質粒子(A)の量は、99.9〜80質量部であることが好ましく、98〜90質量部であることがより好ましい。鱗片状黒鉛質粒子(A)の量がこの範囲であると得られる複合黒鉛質粒子の結晶性が高く、軟質となり、負極合剤層の密度を高くした場合に負極合剤層の一部剥離や銅箔の延びが生じない。
【0024】
[(B)炭素質材料]
炭素質材料(B)は、鱗片状黒鉛質粒子(A)の結着材(結着剤)として用いられる。炭素質材料(B)は鱗片状黒鉛質粒子(A)の少なくとも一部に付着し、複数の鱗片状黒鉛質粒子(A)同士をつなぎ止めることが出来ていればよく、最終的に得られる複合黒鉛質粒子の表面に均一に被覆されていてもよい。
【0025】
炭素質材料(B)としては、前駆体を、最終的に500℃以上1500℃未満で加熱処理してなる炭化物が挙げられる。前駆体は、加熱処理後に炭化物が形成されるものであればいかなるものも使用でき、たとえば石炭系または石油系の重質油、タール類、ピッチ類、各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが用いられる。
【0026】
複合黒鉛質粒子100質量部に対する炭素質材料(B)の量は、0.1〜20質量部、特に0.5〜10質量部であることが好ましい。0.1質量部未満の場合、最終的に得られる複合黒鉛質粒子の中空構造を維持することが難しくなり、負極合剤調製時などにおいて複合黒鉛質粒子を構成する鱗片状黒鉛質粒子(A)が一次粒子化し、鱗片状黒鉛質粒子(A)を単独で用いた場合にみられる電解液の浸透性や保持性の低下、充電膨張の増大などの問題を生じることがある。一方、20質量部超の場合には、最終的に得られる複合黒鉛質粒子が硬質となり、活物質層を高密度にするために高い圧力を必要とし、集電体である銅箔の変形、伸び、破断といった問題を生じることがある。
【0027】
[複合黒鉛質粒子]
本発明の複合黒鉛質粒子(以下複合黒鉛質粒子(I)と称すことがある)は、上記のような鱗片状黒鉛質粒子(A)および炭素質材料(B)を含む球状ないし略球状の中空粒子である。複合黒鉛質粒子の平均粒子径は、5〜25μm、特に8〜15μmであることが好ましい。5μm以上であれば、他の負極活物質に高い導電性を付与しつつ、高い初期充放電効率を得ることができる。25μm以下であれば急速充電性やサイクル特性が向上する。
【0028】
複合黒鉛質粒子の平均アスペクト比は、5以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。アスペクト比が小さく、真球状に近い形状であるほど、他の負極活物質と均等に接触し、負極の導電性を充分に高めることができ、急速充電性やサイクル特性が向上する。平均アスペクト比が5超の場合には、複合黒鉛質粒子自体の充電膨張が大きくなったり、電解液の浸透性、保持性を損ない、急速放電性やサイクル特性の低下を生じることがある。
【0029】
複合黒鉛質粒子内部の空隙は、一つの大きな空隙であることが好ましいが、複数の空隙が分散した状態であってもよい。たとえば、後述する実施例(図1〜2)では、中心部に空洞を有する中空構造の粒子を示す。このような空洞の大きさは、その最長部の長さが複合黒鉛質粒子の平均粒子径の30%以上、特に50%以上であることが望ましい。
中心部の最も大きな空洞の空隙率は、複合黒鉛質粒子内部の全空隙率を100とした場合に対し、3以上、特に12以上、50以下であることが望ましい。
【0030】
複合黒鉛質粒子の空隙の容積率は、平均30〜95体積%が好ましく、特に平均30〜90体積%が好ましい。10体積%未満の場合、複合黒鉛質粒子が緻密で硬質となり、活物質層を高密度にするために高い圧力を必要とし、集電体である銅箔の変形、伸び、破断といった問題を生じることがある。95体積%超の場合には、複合黒鉛質粒子の中空構造を維持することが難しくなり、負極合剤調製時などにおいて複合黒鉛質粒子を構成する鱗片状黒鉛質粒子(A)が一次粒子化し、鱗片状黒鉛質粒子(A)を単独で用いた場合にみられる電解液の浸透性や保持性の低下、充電膨張の増大などの問題を生じることがある。
複合黒鉛質粒子はその表面に開孔部を有し、その開孔部が該複合黒鉛質粒子内部の空隙とつながっていることが好ましい。すなわち、リチウムイオン電池に電解液を注入した場合に、複合黒鉛質粒子内部の空隙内にまで電解液が浸透する空隙構造とすることが好ましい。この構造とすることで、複合黒鉛質粒子の表面および内部において、リチウムイオンのイオン伝導性が高くなり、急速充電性や急速放電性が高くなる。
【0031】
なお、本発明において、空隙の容積率は以下に示すような簡易方法で算出した。
複合黒鉛質粒子100個について、粒子を切削研磨して断面を形成し、粒子形状が認識できる倍率で顕微鏡撮影した。1個の複合黒鉛質粒子の外表面輪郭の面積に対する、粒子内部の空隙部輪郭の面積の比率を求め、100個の単純平均値を空隙の容積率とした。
【0032】
本発明の複合黒鉛質粒子において、鱗片状黒鉛質粒子(A)は主要構成成分であり、複数の鱗片状黒鉛質粒子(A)が炭素質材料(B)で結着されて粒子の骨格を形成するが、鱗片状黒鉛質粒子(A)が複合黒鉛質粒子の外周部に偏在して、最表面が鱗片状黒鉛質粒子(A)のベーサル面となるように、鱗片状黒鉛質粒子(A)が同心円状に配置されていることが好ましい。
【0033】
また複合黒鉛質粒子は、高い結晶性を有する鱗片状黒鉛質粒子(A)を主要構成成分とするため結晶性が高い。平均格子面間隔d002の好ましい範囲は鱗片状黒鉛質粒子(A)の場合と同一である。本発明の複合黒鉛質粒子は、結晶性が高く、かつ、粒子内部が中空であることからも軟質であり、活物質層の密度を高くすることに寄与する。
【0034】
複合黒鉛質粒子は、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに他の成分を含むことができる。上記(A)および(B)からなる骨格に、たとえば非鱗片状の炭素質または黒鉛質粒子を付着または複合化したものであってもよく、界面活性剤、高分子などの有機化合物を付着または被覆したものであってもよく、シリカ、アルミナ、チタニアなどの金属酸化物の微粒子を付着または埋設したものであってもよく、ケイ素、錫、コバルト、ニッケル、銅、酸化ケイ素、酸化錫、チタン酸リチウムなどの金属または金属化合物を、付着、埋設、複合、内包したものであってもよい。
【0035】
[(C)繊維]
上記のうちでも、複合黒鉛質粒子の内部および/または表面に炭素質または黒鉛質の繊維(C)が介在、付着したものであることが好ましい。内部に介在させる場合には、複数の鱗片状黒鉛質粒子(A)と接触するように配置したり、中空部分を貫通するように配置することが好ましい。表面に付着させる場合には、該表面に繊維(C)が突き出るように配置することが好ましい。このように繊維(C)を介在、付着させることによって、導電性がさらに増し、急速充電性、急速放電性、サイクル特性などの電池特性が向上する。
【0036】
繊維(C)は500℃以上、1500℃未満で炭化したもの、1500℃以上、3300℃未満で黒鉛化したもののいずれもが使用できるが、黒鉛化したものがより好ましい。一般に、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維と呼ばれる繊維が例示される。
【0037】
繊維(C)の平均繊維径は、1nm〜2μmの範囲であることが好ましい。特に好ましくは10nm〜500nmである。1nm未満の場合には、繊維(C)の均一分散が難しくなるほか、最終的に得られる複合黒鉛質粒子の初期充放電効率が低下することがある。2μm超の場合は、最終的に得られる複合黒鉛質粒子(I)が硬質となり、活物質層を高密度にするために高い圧力を必要とし、集電体である銅箔の変形、伸び、破断といった問題を生じることがある。
【0038】
繊維(C)の平均繊維長は、2〜30μmであることが好ましい。特に好ましくは3〜15μmである。2μm以上であれば導電性の向上効果が顕著に現れ、30μm以下であれば繊維(C)を均一に介在させることができ好ましい。
【0039】
繊維(C)の付着量は、最終的に得られる複合黒鉛質粒子100質量部に対して、0超、10質量部以下、特に5質量部以下であることが好ましい。10質量部超の場合、繊維(C)による導電性向上効果が飽和するとともに、負極合剤スラリーの粘度上昇によって生産性を損なうことがあるほか、電解液との反応性が過剰となり、初期充放電効率が低下することがある。
【0040】
[複合黒鉛質粒子(I)の製造方法例]
上記のような複合黒鉛質粒子は、本発明で規定した構造を有していればその製法は特に制限されず、いかなる製造方法も採用することができるが、以下にその製造方法を2例示す。
(1)焼成処理によってわずかに残炭分を有する球状の樹脂ビーズと、鱗片状黒鉛質粒子(A)を混合し、圧縮、せん断、衝突、摩擦などの機械的エネルギーを付与するメカノケミカル処理を施す。この処理によって、樹脂ビーズの表面に鱗片状黒鉛質粒子(A)が貼り付けられ、鱗片状黒鉛質粒子(A)が樹脂ビーズの表面に同心円状に積層された構造となる。次いでこれを不活性雰囲気中500〜1500℃で焼成処理し、樹脂ビーズを消失させる。樹脂ビーズのわずかな残炭分(B)が鱗片状黒鉛質(A)に付着し、結着剤として作用する。得られた複合黒鉛質粒子は、焼成処理前の鱗片状黒鉛質粒子(A)の同心円状構造をほぼ維持した中空構造を形成する。
前記の方法にて、複合黒鉛質粒子に炭素質または黒鉛質の繊維(C)を複合化させるには、鱗片状黒鉛質粒子(A)、樹脂ビーズとともに繊維(C)を混合する、あるいは、あらかじめ樹脂と繊維(C)を溶融混練したものをビーズ化して用いることも有効である。
【0041】
(2)鱗片状黒鉛質粒子(A)と炭素質材料(B)の前駆体、必要に応じて繊維(C)とを溶液(分散媒体液)に分散させ、この分散液を気流とともにスプレー散布し、熱風によって瞬時に溶媒を乾燥させる。分散液の表面張力によって乾燥後の粒子は真球状を形成するとともに、気流の調整によって、スプレーの液滴の中に気泡を意図的に介在させることで、中空構造を形成(中空構造体)することができる。前記同様、これを不活性雰囲気中500〜1500℃で焼成処理することで複合黒鉛質粒子が得られる。
【0042】
なお、上記(1)、(2)のいずれの製造例においても、繊維(C)をあらかじめ鱗片状黒鉛質粒子(A)に付着させておき、この付着物を原料に用いることによっても、繊維(C)を含む複合黒鉛質粒子が得られる。
【0043】
また、上記(1)もしくは(2)の製造例で得られた複合黒鉛質粒子または(2)で得られた中空構造体の外表面に炭素質材料(B)の前駆体を付着または被覆したのちに焼成処理(不活性雰囲気、500℃〜1500℃)を行い、表面に炭素質材料(B)を有する複合黒鉛質粒子を調製することもできる。その際に炭素質材料(B)の前駆体とともに繊維(C)を付着させることもできる。
【0044】
本発明の複合黒鉛質粒子は、リチウムイオン二次電池の既知の負極活物質に配合した場合に、優れたサイクル特性を発現することができる導電材として有用である。特に、負極を高い密度にプレスした場合でも、電解液の浸透性や保持性を損なうことがなく、優れた急速充電性、急速放電性およびサイクル特性を発現でき、体積当たりの放電容量が高い負極を得ることができる。
【0045】
以下、本発明の複合黒鉛質粒子を用いるリチウムイオン二次電池について説明する。リチウムイオン二次電池(以下、単に、二次電池とも称す)は、通常、電解液(非水電解質)、負極および正極を主たる電池構成要素とし、これら要素が、例えば、二次電池缶内に封入されている。負極および正極はそれぞれリチウムイオンの担持体として作用する。充電時には、リチウムイオンが負極に吸蔵され、放電時には負極からリチウムイオンが離脱する電池機構によっている。負極は、一般に、銅箔からなる集電材とバインダーによって結着された負極材料(活物質)から構成される。
本発明では、本発明の複合黒鉛質粒子をこの負極材料として用いること以外、特に限定されず、非水電解質、正極、セパレータなどの他の電池構成要素については一般的な二次電池の要素に準じる。
【0046】
[負極材料]
本発明では、上記のような本発明の複合黒鉛質粒子(I)と既知の負極活物質(II)を混合して負極材料を調製する。
負極活物質(II)には各種公知の材料を用いることができるが、代表例には下記のものがある。
扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合または結合させてなり、粒子に細孔を有する黒鉛粒子。
球状のメソカーボン小球体の黒鉛化物、または、メソカーボン小球体の粉砕物の黒鉛化物。天然黒鉛を球状化または楕円体化してなる造粒物の黒鉛粒子間の空隙に炭素質物が充填してなる複合黒鉛粒子、または、該造粒物の表面を炭素質物が被覆してなる複合黒鉛粒子。コークス類を黒鉛化してなる人造黒鉛粒子。
バルクメソフェーズピッチを粉砕、酸化、炭化、黒鉛化してなる塊状の黒鉛粒子。
【0047】
負極活物質(II)は、異種の黒鉛材料、炭素質または黒鉛質の繊維、非晶質ハードカーボンなどの炭素材料、有機材料、無機材料、金属材料との混合物、複合物であってもよい。具体的には、界面活性剤、高分子などの有機化合物を付着または被覆したものであってもよく、シリカ、アルミナ、チタニアなどの金属酸化物の微粒子を付着または埋設したものであってもよく、ケイ素、錫、コバルト、ニッケル、銅、酸化ケイ素、酸化錫、チタン酸リチウムなどの金属または金属化合物を、付着、埋設、複合、内包したものであってもよい。
【0048】
負極活物質(II)の平均粒子径は、前記複合黒鉛質粒子(I)の平均粒子径よりも大きいことが好ましい。好ましい平均粒子径は、8〜30μm、特に好ましくは10〜25μmである。
【0049】
負極活物質(II)の平均粒子径を、前記複合黒鉛質粒子(I)の平均粒子径よりも大きくすることによって、高密度の負極を調製した場合でも、複合黒鉛質粒子(I)が粒子内の中空構造を維持し、負極活物質(II)の粒子間の空隙に介在して、複数の負極活物質(II)と均等に接触し、高い導電性を発現することができる。高密度の負極では、複合黒鉛質粒子(I)が圧縮されて、その粒子内の中空構造が潰される場合もある。しかし、負極活物質(II)の粒子間の空隙に選択的に複合黒鉛質粒子(I)を介在させることができ、鱗片状黒鉛質粒子(A)を単独で用いた場合にみられる電解液の浸透性や保持性の低下、充電膨張の増大などの問題を生じない。
【0050】
本発明では前記複合黒鉛質粒子(I)とこれらの負極活物質(II)を、(I)と(II)の質量割合が、(I):(II)=1〜40:99〜60の範囲となるように混合して負極材料を調製する。
前記複合黒鉛質粒子(I)が1%未満の場合には、負極活物質(II)の導電性向上効果が不足し、40%超の場合には、活物質層を高密度にプレスした場合に複合黒鉛質粒子(I)が過度に潰れて扁平化し、電解液の浸透性や保持性、急速放電率、サイクル特性の低下を生じることがある。
【0051】
[リチウムイオン二次電池用負極]
本発明のリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に負極とも記す)の作製は、通常の負極の作製方法に準じて行うことができるが、化学的、電気化学的に安定な負極を得ることができる作製方法であれば何ら制限されない。
負極の作製には、前記負極材料に結合剤を加えた負極合剤を用いることができる。結合剤としては、電解質に対して化学的安定性、電気化学的安定性を有するものを用いることが好ましく、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンゴム、さらにはカルボキシメチルセルロース等が用いられる。これらを併用することもできる。結合剤は、通常、負極合剤の全量中1〜20質量%の割合であることが好ましい。
負極の作製には、負極作製用の通常の溶媒であるN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、水、アルコール等を用いることができる。
【0052】
負極は、例えば、負極合剤を溶媒に分散させ、ペースト状の負極合剤を調製した後、該負極合剤を集電体の片面または両面に塗布し、乾燥して作製される。これにより、負極合剤層(活物質層)が均一かつ強固に集電体に接着した負極が得られる。
より具体的には、例えば、前記負極材料の粒子、フッ素系樹脂粉末またはスチレンブタジエンゴムの水分散剤と溶媒を混合してスラリーとした後、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどを用いて攪拌混合して、負極合剤ペーストを調製する。これを集電体に塗布、乾燥すれば、負極合剤層が均一かつ強固に集電体に接着する。負極合剤層の膜厚は10〜200μm、好ましくは30〜100μmである。
【0053】
また、負極合剤層は、前記負極材料の粒子と、ポリエチレン、ポリビニルアルコール等の樹脂粉末とを乾式混合し、金型内でホットプレス成形して作製することもできる。ただし、乾式混合では、十分な負極の強度を得るために多くの結合剤を必要とし、結合剤が過多の場合は、放電容量や急速充放電効率が低下することがある。
負極合剤層を形成した後、プレス加圧などの圧着を行うと、負極合剤層と集電体との接着強度をさらに高めることができる。
負極合剤層の密度は、負極の体積容量を高めることから、1.70g/cm以上、特に1.75g/cm以上であることが好ましい。
負極に用いる集電体の形状は特に限定されないが、箔状、メッシュ、エキスパンドメタル等の網状物等が好ましい。集電体の材質としては、銅、ステンレス、ニッケル等が好ましい。集電体の厚みは、箔状の場合、好ましくは5〜20μmである。
【0054】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記負極を用いて形成される。
本発明の二次電池は、前記負極を用いること以外は特に限定されず、他の電池構成要素については、一般的な二次電池の要素に準じる。すなわち、電解液、負極および正極を主たる電池構成要素とし、これら要素が、例えば電池缶内に封入されている。そして負極および正極はそれぞれリチウムイオンの担持体として作用し、充電時には負極からリチウムイオンが離脱する。
【0055】
[正極]
本発明の二次電池に使用される正極は、例えば正極材料と結合剤および導電材よりなる正極合剤を集電体の表面に塗布することにより形成される。正極の材料(正極活物質)としては、リチウム化合物が用いられるが、充分な量のリチウムを吸蔵/脱離し得るものを選択するのが好ましい。例えば、リチウ含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物、その他のリチウム化合物、化学式MMoOS8−Y(式中Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値であり、Mは少なくとも一種の遷移金属元素である)で表されるシュブレル相化合物、活性炭、活性炭素繊維等を用いることができる。前記バナジウム酸化物はV、V13、V、V等である。
【0056】
前記リチウム含有遷移金属複合酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。複合酸化物は単独でも、2種類以上組合せて用いてもよい。リチウム含有遷移金属複合酸化物は、具体的には、LiM11−X(式中Xは0≦X≦1の範囲の数値であり、M1、Mは少なくとも一種の遷移金属元素である)またはLiM11−Y(式中Yは0≦Y≦1の範囲の数値であり、M1、Mは少なくとも一種の遷移金属元素である)で示される。
1、Mで示される遷移金属元素は、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Sn等であり、好ましいのはCo、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Al等である。好ましい具体例は、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiNi0.9Co0.1、LiNi0.5Co0.5等である。
リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物、水酸化物、塩類等を出発原料とし、これら出発原料を所望の金属酸化物の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600〜1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。
【0057】
正極活物質は、前記リチウム化合物を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。また、正極中に炭酸リチウム等のアルカリ炭酸塩を添加することができる。
正極は、例えば、前記リチウム化合物、結合剤、および正極に導電性を付与するための導電材よりなる正極合剤を、集電体の片面または両面に塗布して正極合剤層を形成して作製される。結合剤としては、負極の作製に使用されるものと同じものが使用可能である。導電材としては、黒鉛、カーボンブラック等の炭素材料が使用される。
【0058】
正極も負極と同様に、正極合剤を溶媒に分散させ、ペースト状にした正極合剤を集電体に塗布、乾燥して正極合剤層を形成してもよく、正極合剤層を形成した後、さらにプレス加圧等の圧着を行ってもよい。これにより正極合剤層が均一且つ強固に集電材に接着される。
集電体の形状は特に限定されないが、箔状、メッシュ、エキスパンドメタル等の網状等のものが好ましい。集電体の材質は、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等である。その厚さは、箔状の場合、10〜40μmが好適である。
【0059】
[非水電解質]
本発明の二次電池に用いる非水電解質(電解液)は、通常の非水電解液に使用される電解質塩である。電解質塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiClO、LiB(C、LiCl、LiBr、LiCFSO、LiCHSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiN(CFCHOSO、LiN(CFCFOSO、LiN(HCFCFCHOSO、LiN[(CFCHOSO、LiB[C(CF、LiAlCl、LiSiF等のリチウム塩を用いることができる。特にLiPF、LiBFが酸化安定性の点から好ましい。
電解液の電解質塩濃度は0.1〜5mol/Lが好ましく、0.5〜3mol/Lがより好ましい。
【0060】
非水電解質は液状としてもよく、固体、ゲル状等の高分子電解質としてもよい。前者の場合、非水電解質電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池として構成され、後者の場合は、それぞれ高分子固体電解質電池、高分子ゲル電解質電池等の高分子電解質電池として構成される。
非水電解質液を構成する溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート、1,1-または1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテル等のエーテル、スルホラン、メチルスルホラン等のチオエーテル、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリル等のニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3-メチル-2-オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイト等の非プロトン性有機溶媒等を用いることができる。
【0061】
前記高分子電解質を用いる場合には、可塑剤(非水電解液)でゲル化された高分子化合物をマトリックスとして使用することが好ましい。マトリクスを構成する高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体等のエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリレート系高分子化合物、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系高分子化合物等を単独または混合して用いることができる。ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物を用いることが特に好ましい。
【0062】
前記高分子固体電解質または高分子ゲル電解質には、可塑剤が配合されるが、可塑剤として前記の電解質塩や非水溶媒を使用することができる。高分子ゲル電解質の場合、可塑剤である非水電解液中の電解質塩濃度は0.1〜5mol/Lが好ましく、0.5〜2mol/Lがより好ましい。
【0063】
前記高分子固体電解質の作製方法は特に限定されないが、例えば、マトリックスを構成する高分子化合物、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、加熱して高分子化合物を溶融する方法、混合用有機溶媒に高分子化合物、リチウム塩、および非水溶媒(可塑剤)を溶解させた後、混合用有機溶媒を蒸発させる方法、重合性モノマー、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、混合物に紫外線、電子線、分子線等を照射して、重合性モノマーを重合させ、高分子化合物を得る方法などを挙げることができる。
高分子固体電解質中の非水溶媒(可塑剤)の割合は10〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。10質量%未満であると導電率が低くなり、90質量%を超えると機械的強度が弱くなり、製膜しにくくなる。
【0064】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、セパレータを使用することもできる。
セパレータの材質は特に限定されるものではないが、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられる。合成樹脂製微多孔膜が好適であるが、なかでもポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好適である。具体的には、ポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜等である。
【0065】
本発明の二次電池は、前記負極、正極および非水電解質を、例えば、負極、非水電解質、正極の順に積層し、電池の外装材内に収容することで作製される。
さらに、負極と正極の外側に非水電解質を配するようにしてもよい。
【0066】
本発明の二次電池の構造は特に限定されず、その形状、形態についても特に限定されるものではなく、用途、搭載機器、要求される充放電容量等に応じて、円筒型、角型、コイン型、ボタン型等の中から任意に選択することができる。より安全性の高い密閉型非水電解液電池を得るためには、過充電などの異常時に電池内圧上昇を感知して電流を遮断させる手段を備えたものであることが好ましい。
高分子電解質電池の場合には、ラミネートフィルムに封入した構造とすることもできる。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例においては、図3に示すような構成の評価用のボタン型二次電池を作製して評価した。該電池は、本発明の目的に基づき、公知の方法に準拠して作製することができる。
【0068】
(実施例1)
[鱗片状黒鉛質材料(A)の調製]
天然黒鉛を粉砕して、平均粒子径3μm、平均アスペクト比が35、d002が0.3357nm、比表面積が14.5m/gに調整した。
【0069】
[炭素質材料(B)の前駆体の調製]
平均粒子径5μmのベンゾグアナミンホルムアルデヒド縮合物からなる真球状樹脂ビーズを準備した。あらかじめ1000℃で焼成処理した場合の残炭率を求めた結果、20質量%であった。
【0070】
[黒鉛質の繊維(C)の調製]
平均繊維径150nm、平均繊維長10μmの気相成長炭素繊維を準備した。
【0071】
[複合黒鉛質粒子(I)の調製]
前記鱗片状黒鉛質材料(A)、炭素質材料(B)の前駆体(真球状樹脂ビーズ)および黒鉛質の繊維(C)を、それぞれ、93、25、2質量部の割合で混合し、混合物に圧縮力、せん断力を繰り返し付与できる装置にてメカノケミカル処理を行った。
得られた複合物を窒素気流中1000℃で焼成処理し、複合黒鉛質粒子(I)を調製した。得られた複合黒鉛質粒子(I)は鱗片状黒鉛質材料(A)が同心円状に積層し、炭素質材料(B)の前駆体の焼成物が鱗片状黒鉛質材料(A)に付着し、黒鉛質の繊維(C)が鱗片状黒鉛質材料(A)の周囲に均一に分散して付着していた。複合黒鉛質粒子(I)の断面を観察したところ、粒子内部は中空の構造を有していた。その平均粒子径は8μm、平均アスペクト比が1.2、d002が0.3359nm、比表面積が4.2m/g、粒子内部の空隙率が62%であった。なお、複合黒鉛質粒子(I)中の炭素質材料(B)の割合を、炭素質材料(B)の前駆体の残炭率から計算すると、複合黒鉛質粒子(I)100質量部に対して5質量部となる。
複合黒鉛質粒子(I)の粒子内部には、中心部に一つの大きな球形の空洞があり、その周囲に微細な空隙を有していた。中心部の空洞は平均直径が4.5μmであり、粒子内部の全空隙率を100とした場合に、この中心部の空洞が占める空隙率は29であった。
【0072】
[負極活物質(II)の調製]
球状〜楕円体状に造粒加工された天然黒鉛粒子(平均アスペクト比1.4、平均粒子径18μm、平均格子面間隔d002 0.3356nm、比表面積5.0m/g)100質量部に、軟化点120℃のピッチ粉末(平均粒子径2μm)3質量部、前記気相成長炭素繊維(平均繊維径150nm、平均繊維長10μm)2質量部を混合し、圧縮力、せん断力を繰り返し付与できる装置にてメカノケミカル処理を行った。得られた試料を黒鉛るつぼに充填し、非酸化性雰囲気中1000℃で3時間かけて焼成を行った。得られた球状化または楕円体状化天然黒鉛はその表面に炭化物が膜状に付着しており、平均アスペクト比1.4、平均粒子径18μm、平均格子面間隔d0020.3357nm、比表面積2.7m/gであった。
【0073】
[負極材料の調製]
前記複合黒鉛質粒子(I)12質量部および前記負極活物質(II)88質量部を混合し、負極材料を調製した。
【0074】
[負極合剤の調製]
前記負極材料98質量部、結合剤カルボキシメチルセルロース1質量部およびスチレンブタジエンゴム1質量部を水に入れ、攪拌して負極合剤ペーストを調製した。
【0075】
[作用電極の作製]
前記負極合剤ペーストを、厚さ16μmの銅箔上に均一な厚さで塗布し、さらに真空中90℃で分散媒の水を蒸発させて乾燥した。次に、この銅箔上に塗布された負極合剤をハンドプレスによって12kN/cm(120MPa)で加圧し、さらに直径15.5mmの円形状に打抜くことで、銅箔に密着した負極合剤層(厚み60μm)を有する作用電極を作製した。負極合剤層の密度は1.75g/cmであった。作用電極には伸び、変形がなく、断面から見た集電体に凹みがなかった。
【0076】
[対極の作製]
リチウム金属箔を、ニッケルネットに押付け、直径15.5mmの円形状に打抜いて、ニッケルネットからなる集電体と、該集電体に密着したリチウム金属箔(厚さ0.5mm)からなる対極(正極)を作製した。
【0077】
[電解液・セパレータ]
エチレンカーボネート33vol%−メチルエチルカーボネート67vol%の混合溶媒に、LiPF6 を1mol/Lとなる濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。得られた非水電解液をポリプロピレン多孔質体(厚さ20μm)に含浸させ、電解液が含浸されたセパレータを作製した。
【0078】
[評価電池の作製]
評価電池として図3に示すボタン型二次電池を作製した。
外装カップ1と外装缶3は、その周縁部において絶縁ガスケット6を介在させ、両周縁部をかしめて密閉した。その内部に外装缶3の内面から順に、ニッケルネットからなる集電体7a、リチウム箔よりなる円筒状の対極(正極)4、電解液が含浸したセパレータ5、負極合剤からなる円盤状の作用電極(負極)2および銅箔からなる集電体7bが積層された電池である。
評価電池は、電解液が含浸したセパレータ5を、集電体7bに密着した作用電極2と、集電材7aに密着した対極4との間に挟んで積層した後、作用電極2を外装カップ1内に、対極4を外装缶3内に収容して、外装カップ1と外装缶3とを合わせ、さらに、外装カップ1と外装缶3との周縁部に絶縁ガスケット6を介在させ、両周縁部をかしめて密閉して作製した。
評価電池は、実電池において、負極活物質として使用可能な黒鉛質物粒子を含有する作用電極2と、リチウム金属箔とからなる対極4とから構成される電池である。
【0079】
前記のように作製された評価電池について、25℃の温度下で下記のような充放電試験を行い、質量当たりの放電容量、体積当たりの放電容量、初期充放電効率、急速充電率、急速放電率およびサイクル特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0080】
[質量当たりの放電容量、体積当たりの放電容量]
回路電圧が0mVに達するまで0.9mAの定電流充電を行った後、定電圧充電に切替え、電流値が20μAになるまで充電を続けた。その間の通電量から質量当たりの充電容量を求めた。その後、120分間休止した。次に0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行い、この間の通電量から質量当たりの放電容量を求めた。これを第1サイクルとした。第1サイクルにおける充電容量と放電容量から、次式により初期充放電効率を計算した。
初期充放電効率(%)=(放電容量/充電容量)×100
なおこの試験では、リチウムイオンを負極材料に吸蔵する過程を充電、負極材料から離脱する過程を放電とした。
【0081】
[急速充電率]
第1サイクルに引続き、第2サイクルにて急速充電を行なった。
回路電圧が0mVに達するまで、電流値を第1サイクルの5倍の4.5mAとして、定電流充電を行い、定電流充電容量を求め、次式から急速充電率を計算した。
【数1】
【0082】
[急速放電率]
別の評価電池を用い、第1サイクルに引続き、第2サイクルにて急速放電を行なった。前記同様に、第1サイクルを行った後、第1サイクルと同様に充電し、次いで、電流値を第1サイクルの20倍の18mAとして、回路電圧が1.5Vに達するまで、定電流放電を行った。この間の通電量から質量当たりの放電容量を求め、次式により急速放電率を計算した。
【数2】
【0083】
[サイクル特性]
質量当たりの放電容量、急速充電率、急速放電率を評価した評価電池とは別の評価電池を作製し、以下のような評価を行なった。
回路電圧が0mVに達するまで4.0mAの定電流充電を行った後、定電圧充電に切替え、電流値が20μAになるまで充電を続けた後、120分間休止した。次に4.0mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行った。20回充放電を繰返し、得られた質量当たりの放電容量から、次式を用いてサイクル特性を計算した。
【数3】
【0084】
表1に示すように、作用電極に実施例1の負極材料を用いて得られた評価電池は、活物質層の密度を高くすることができ、かつ、高い質量当たりの放電容量を示す。このため、体積当たりの放電容量を大幅に向上させることができる。その高い密度においても、急速充電率、急速放電率およびサイクル特性は優れた結果を維持している。
【0085】
(比較例1)
実施例1において、複合黒鉛質粒子(I)を用いず、負極活物質(II)を単独で負極材料とした以外は、実施例1と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
【0086】
(比較例2)
実施例1において、複合黒鉛質粒子(I)に替えて、鱗片状黒鉛質材料(A)をそのまま用いた以外は、実施例1と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
【0087】
(実施例2〜6)
実施例1において、鱗片状黒鉛質材料(A)の平均粒子径、炭素質材料(B)の前駆体の平均粒子径、形状、複合黒鉛質粒子(I)と負極活物質(II)の混合比率、黒鉛質の繊維(C)の有無を操作した以外は、実施例1と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
【0088】
(比較例3〜5、参考例1)
実施例1において、鱗片状黒鉛質材料(A)の平均粒子径、炭素質材料(B)の前駆体の平均粒子径、複合黒鉛質粒子(I)と負極活物質(II)の混合比率を、本発明の規定外に操作した以外は、実施例1と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
【0089】
(実施例7)
[鱗片状黒鉛質材料(A)の調製]
天然黒鉛を粉砕して、平均粒子径2μm、平均アスペクト比が25、d002が0.3357nm、比表面積が16.3m/gに調整した。
【0090】
[炭素質材料(B)の前駆体の調製]
固形分濃度10%のポリアクリル酸の水溶液を用意した。あらかじめ1000℃で焼成処理した場合の残炭率を求めた結果、溶質であるポリアクリル酸固形分に対して1質量%であった。
また、コールタールの重質油溶液を用意した。あらかじめ1000℃で焼成処理した場合の残炭率を求めた結果、20質量%であった。
【0091】
[黒鉛質の繊維(C)の調製]
平均繊維径150nm、平均繊維長10μmの気相成長炭素繊維を準備した。
【0092】
[複合黒鉛質粒子(I)の調製]
前記鱗片状黒鉛質材料(A)、炭素質材料(B)の前駆体としてポリアクリル酸水溶液を、それぞれ95、100質量部の割合として混合し、分散液を調製した。この分散液をスプレー散布し、窒素雰囲気中で瞬時に200℃で溶媒を乾燥させた。スプレーに導入する窒素ガスの圧力を調整して、液滴中に気泡を介在させるように調整した。得られた真球状の複合物、炭素質材料(B)の前駆体としてコールタールの重質油溶液、および黒鉛質の繊維(C)をそれぞれ96、10、2質量部の割合で常温で1時間均一混合した。
次いで、窒素気流中1000℃で焼成処理し、複合黒鉛質粒子(I)を調製した。得られた複合黒鉛質粒子(I)は鱗片状黒鉛質材料(A)が同心円状に積層し、炭素質材料(B)の前駆体の焼成物が鱗片状黒鉛質材料(A)に付着し、黒鉛質の繊維(C)が鱗片状黒鉛質材料(A)の周囲に均一に分散して付着していた。複合黒鉛質粒子(I)の断面を観察したところ、粒子内部は中空の構造を有していた。その平均粒子径は12μm、平均アスペクト比が1.1、d002が0.3359nm、比表面積が3.3m/g、粒子内部の空隙率が55%であった。なお、複合黒鉛質粒子(I)中の炭素質材料(B)の割合を、炭素質材料(B)の前駆体の残炭率から計算すると、複合黒鉛質粒子(I)100質量部に対して3質量部となる。
図1に得られた複合黒鉛質粒子(I)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図2に得られた複合黒鉛質粒子(I)の断面の偏光顕微鏡写真を示す。
複合黒鉛質粒子(I)の粒子内部には、中心部に一つの大きな球形の空洞があり、その周囲に微細な空隙を有していた。中心部の空洞は平均直径が6.8μmであり、粒子内部の全空隙率を100とした場合に、この中心部の空洞が占める空隙率は33であった。
【0093】
[負極活物質(II)の調製]
メソフェーズ小球体の黒鉛化物(平均アスペクト比1.1、平均粒子径28μm、平均格子面間隔d002 0.3359nm、比表面積0.6m/g)を準備した。
【0094】
[負極材料の調製]
前記複合黒鉛質粒子(I)20質量部および前記負極活物質(II)80質量部を混合し、負極材料を調製した。
【0095】
実施例1と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
【0096】
(比較例6)
実施例7において、複合黒鉛質粒子(I)に替えて、鱗片状黒鉛質材料(A)をそのまま用いた以外は、実施例7と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
【0097】
(実施例8〜10、参考例2)
実施例7において、複合黒鉛質粒子(I)と負極活物質(II)の混合比率、黒鉛質の繊維(C)の有無を操作した以外は、実施例7と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
【0098】
(比較例7)
平均粒子径2μmの鱗片状天然黒鉛を50質量部と、コールタールピッチ(残炭率20%)50質量部を、二軸式ニーダーに投入して150℃で30分混練した。混練物を非酸化性雰囲気下、500℃で5時間一次焼成処理した。
一次焼成品を粉砕して平均粒子径12μmに調整したのち、窒素気流中1000℃で二次焼成処理し、複合黒鉛質粒子(I)を調製した。得られた複合黒鉛質粒子(I)は複数の鱗片状黒鉛質材料が炭素質材料を介して積層、凝集しており、粒子内部は緻密な構造を有していた。内部に中空状の空洞は見られなかった。その平均粒子径は12μm、平均アスペクト比が4.8、d002が0.3363nm、比表面積が4.2m/g、粒子内部の空隙率が5%であった。
実施例7と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
【0099】
(比較例8)
鱗片状黒鉛の代りに粒状の黒鉛(メソフェーズ小球体の粉砕物を黒鉛化した粒状黒鉛、平均粒子径3μm)を用いた以外は、実施例7と同様にして内部に中空状の空洞がみられない複合黒鉛質粒子を得た。実施例7と同様に負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
(比較例9)
実施例7において、複合黒鉛質粒子(I)に替えて、カーボンブラック(花王製EC300J,平均一次粒子径40nm)を用いた以外は、実施例7と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
(比較例10)
実施例7において、複合黒鉛質粒子(I)に替えて、気相成長炭素繊維(昭和電工製VGCF,平均繊維径150nm、平均繊維長10μm)を用いた以外は、実施例7と同様にして負極合剤層の密度を1.75g/cmに調整して作用電極を作製し、評価電池を作製した。実施例1と同様の充放電試験を行い、電池特性の評価結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
本発明に規定される負極材料によって作用電極を作製した場合、負極合剤層の密度を高くすることができ、放電容量、初期充放電効率、急速充電率、急速放電率、サイクル特性のいずれもが優れていた。一方、本発明の規定を外れる負極材料によって作用電極を作製した場合、放電容量、初期充放電効率、急速充電率、急速放電率、サイクル特性のうちのいずれかが不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の負極材料は、搭載する機器の小型化および高性能化に有効に寄与しリチウムイオン二次電池の負極材料に用いることができる。
【符号の説明】
【0103】
1 外装カップ
2 作用電極(負極)
3 外装缶
4 対極(正極)
5 セパレータ
6 絶縁ガスケット
7a、7b集電体
図3
図1
図2