特許第5953269号(P5953269)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5953269リチウム二次電池用正極活物質の製造方法
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  • 特許5953269-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953269
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20160707BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20160707BHJP
【FI】
   H01M4/485
   H01M4/505
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-133581(P2013-133581)
(22)【出願日】2013年6月26日
(62)【分割の表示】特願2012-535533(P2012-535533)の分割
【原出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-239445(P2013-239445A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2013年6月26日
【審判番号】不服2015-3173(P2015-3173/J1)
【審判請求日】2015年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-292553(P2010-292553)
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-150607(P2011-150607)
(32)【優先日】2011年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蔭井 慎也
(72)【発明者】
【氏名】畑 祥巳
(72)【発明者】
【氏名】越智 康弘
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/090749(WO,A1)
【文献】 特開平9−231963(JP,A)
【文献】 特開平11−154512(JP,A)
【文献】 特開2004−164988(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/114015(WO,A1)
【文献】 特開2006−341202(JP,A)
【文献】 特開2005−15282(JP,A)
【文献】 特開平5−21063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
C01G45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
720〜1050℃で焼成して得られたスピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物の粉末を、5〜70℃の極性溶媒と接触させてスラリーとすると共に、この際、スラリー濃度が10〜70wt%となるように調整してスラリーとする洗浄工程、洗浄工程で得たスラリーを、10000G〜17000Gの磁石を備えた湿式磁選器に投入し、磁石に付着した磁着物を捕集して除去する磁選工程、その後、スラリーを固液分離し、酸素を含有する雰囲気下で340〜700℃に加熱して乾燥させて、スピネル型リチウム遷移金属酸化物粉末の水分量を125〜250ppmとする乾燥工程を備えたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記焼成は、0.5時間以上30時間以下の時間の焼成であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
上記焼成後、得られたスピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物の粉末を、一次粒子を崩壊させないように解砕若しくは粉砕した後、極性溶媒と接触させてスラリーとすることを特徴とする請求項2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
極性溶媒として、pH5〜9で5〜30℃の水を用いることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
上記スラリー濃度が34〜50wt%となるように調整してスラリーとすることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、特にスピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池、特にリチウム二次電池は、エネルギー密度が大きく、寿命が長いなどの特徴を有しており、ビデオカメラ等の家電製品や、ノート型パソコン、携帯電話機等の携帯型電子機器などの電源として広く用いられている。最近では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などに搭載される大型電池への応用が期待されている。
【0003】
リチウム二次電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして抜け出して負極へ移動して吸蔵され、放電時には逆に負極から正極へリチウムイオンが戻る構造の二次電池であり、その高いエネルギー密度は正極材料の電位に起因することが知られている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質として使用し得るリチウム遷移金属酸化物としては、層構造をもつLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2などのリチウム遷移金属酸化物のほか、LiMn24、LiNi0.5Mn1.54などのマンガン系のスピネル構造(Fd−3m)を有するリチウム遷移金属酸化物が知られている。
【0005】
中でも、スピネル型リチウム遷移金属酸化物は、原料価格が安く、毒性がなく、また安全性が高いため、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などの大型電池用の正極活物質として着目されている。また、EVやHEV用電池には優れた出力特性が特に求められるが、この点、層構造をもつLiCoO2などのリチウム遷移金属酸化物に比べ、3次元的にLiイオンの挿入・脱離が可能なスピネル型リチウム遷移金属酸化物は出力特性に特に優れている。
【0006】
このようなスピネル型リチウム遷移金属酸化物において、粒子表面に不純物、特にSO4などの硫化物(硫酸根)やLi以外のアルカリ金属が多く存在すると、サイクル特性や保存特性を低下させたりするなど、電池特性へ様々な悪影響を及ぼすことが知られていた。
特にマンガン原料として電解二酸化マンガンを使用してスピネル型リチウム遷移金属酸化物を製造する場合には、電解二酸化マンガンが硫酸マンガン電解浴中で生成されるため、粒子表面にSO4などの硫化物が比較的多く存在することになる。そのため、この問題の解決は重要であった。
【0007】
そこで、従来、焼成して得られたスピネル型リチウム遷移金属酸化物を水洗して、粒子表面の不純物を除去する方法が採られてきた(例えば特許文献1―3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−340726号公報
【特許文献2】特開平10−188979号公報
【特許文献3】特開平10−302795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、様々な試験を重ねるうちに、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の粉末を水などで洗浄すると、寿命特性をそれ以上高めることが難しいことが分かってきた。
また、上述のような洗浄のみでは、小短絡(電圧降下)の要因と考えられる物質、例えば磁石に磁着する磁着物の濃度(PCT/JP2008/051702参照)を効果的に低減することが難しいことも分かってきた。
【0010】
そこで本発明は、スピネル型リチウム遷移金属酸化物を水などで洗浄する(「水洗」と称する)場合であっても、寿命特性をより一層高めることができ、さらに好ましくは磁着物濃度を効果的に低減させることができる、新たなリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の粉末を極性溶媒と接触させて洗浄する洗浄工程、その後、酸素を含有する雰囲気下で300〜700℃に加熱して乾燥する乾燥工程を備えたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提案する。
【0012】
本発明はまた、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の粉末を極性溶媒と接触させてスラリーとする洗浄工程、洗浄工程で得たスラリーを湿式磁選器に投入し、磁石に付着した磁着物を捕集して除去する磁選工程、その後、酸素を含有する雰囲気下で300〜700℃に加熱して乾燥させる乾燥工程を備えたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提案する。
【0013】
なお、本発明が対象とする「スピネル型リチウム遷移金属酸化物」には、4V程度の作動電位を有するスピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物のほか、5V級スピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物(「5V級スピネル」と称する)が包含される。5V級スピネルとしては、例えばLiMn24におけるMnサイトの一部を他の3d遷移金属(Cr、Co、Ni、Fe、Cu)で置換することで5V程度の作動電位を持つようになった、Li1.0Mn1.5Ni0.54などを代表例として挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提案する製造方法によれば、焼成して得られたスピネル型リチウム遷移金属酸化物を洗浄することにより、粒子表面に存在する硫化物などの不純物を除去することができる。また、ホウ素化合物などの焼結助剤を添加した場合も、これらの焼結助剤を除去することができ、電池特性をさらに向上させることができる。しかも、水洗する場合であっても、寿命特性をより一層高めることができ、必要に応じて磁選工程を追加することで磁着物濃度を効果的に低減させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例で使用した電気化学用セルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明の範囲が下記実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<本製造方法>
本実施形態に係るリチウム二次電池用正極活物質の製造方法(「本製造方法」と称する)は、マンガン化合物、リチウム塩などの原料を混合する原料混合工程と、混合した原料を焼成する焼成工程と、得られたスピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物の粉末を、水などの極性溶媒と接触させて洗浄する水洗工程と、酸素を含有する雰囲気下で300〜700℃に加熱して乾燥する乾燥工程とを備えたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法である。
本製造方法には、必要に応じてさらに磁選工程などの他の工程を追加することができる。
【0018】
但し、本発明では、スピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物の粉末を得るまでの工程、すなわち上記の本製造方法で言えば、焼成工程までの工程は特に限定するものではなく、適宜方法で得ることができる。本実施形態はあくまで好適な一例を示すものである。
【0019】
(原料混合工程)
出発原料としては、少なくともリチウム原料及びマンガン原料を適宜選択すればよい。
【0020】
リチウム原料は、特に限定するものではなく、リチウム塩、例えば水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、硝酸リチウム(LiNO3)、LiOH・H2O、酸化リチウム(Li2O)、その他脂肪酸リチウムやリチウムハロゲン化物等が挙げられる。中でもリチウムの水酸化物塩、炭酸塩、硝酸塩が好ましい。
【0021】
マンガン原料としては、二酸化マンガン、四酸化三マンガン、三酸化二マンガン、炭酸マンガン等のマンガン化合物のいずれか、或いはこれらのうちから選択される二種類以上の組合せからなる混合物を用いることができる。
二酸化マンガンとしては、化学合成二酸化マンガン(CMD)、電解によって得られる電解二酸化マンガン(EMD)、炭酸マンガン或いは天然二酸化マンガンを用いることができる。中でも、電解二酸化マンガンは、前述のように硫酸マンガン電解浴中で生成されるため、粒子内部にSO4などの硫化物が比較的多く存在することになるため、本発明の効果をより一層享受できる点で好ましい。
【0022】
本実施形態においては、その他、マグネシウム原料やアルミニウム原料を配合することもできる。
この際、マグネシウム原料としては、特に限定するものではなく、例えば酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、硝酸マグネシウム(Mg(NO32)などを用いることができ、中でも酸化マグネシウムが好ましい。
アルミニウム原料としては、特に限定するものではない。例えば水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、フッ化アルミニウム(AlF)などを用いることができ、中でも水酸化アルミニウムが好ましい。
【0023】
また、ホウ素化合物を配合してもよい。ホウ素化合物を添加して焼成することで、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の結晶粒子が集合した微粒子の焼結を促進でき、緻密な凝集微粒子(2次粒子)を形成できるため、充填密度(タップ密度)を高めることができる。同時に、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の結晶の生成および成長を促進できるため、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の結晶子サイズを大きくすることができ、一次粒子内の界面の数を減らして高負荷放電(3C)での放電容量を高めることができる。
この際、ホウ素化合物は、ホウ素(B元素)を含有する化合物であればよい。焼成前に添加したホウ素化合物は焼成によって形態が変化するものと考えられるが、その形態を正確に特定することは困難である。但し、当該ホウ素(B元素)は、水で溶出される状態で存在していることから、当該B元素はスピネル構成元素ではなく、何らかの形態のホウ素化合物としてスピネルの外に存在していることが確認されている。よって、スピネル中にホウ素(B元素)は存在せず、結晶粒子の表面と内部においてホウ素(B元素)の明確な濃度勾配が存在することもない。
ホウ素化合物は、上記の如くスピネル型リチウム遷移金属酸化物を焼成する際にホウ素化合物を添加して焼成することで、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の焼結を促進する役割を果たす。そのため、ホウ素化合物と同様に、融点が焼成温度以下の物質、例えばバナジウム化合物(V25)、アンチモン化合物(Sb23)、リン化合物(P25)などの化合物も、ホウ素化合物と同様の効果を得ることができるものと考えられる。
【0024】
その他、リチウム遷移金属酸化物の出発原料として知られている物質を配合することが可能である。
【0025】
原料の混合は、均一に混合できれば、その方法を特に限定するものではない。例えばミキサー等の公知の混合機を用いて各原料を同時又は適当な順序で加えて湿式又は乾式で攪拌混合すればよい。置換し難い元素、例えばアルミニウムなどを添加する場合には湿式混合を採用するのが好ましい。
【0026】
乾式混合としては、例えば高速で混合粉を回転させる精密混合機を使用した混合方法を例示することができる。
他方、湿式混合としては、水や分散剤などの液媒体を加えて湿式混合してスラリー化させ、得られたスラリーを湿式粉砕機で粉砕する混合方法を例示することができる。特にサブミクロンオーダーまで粉砕するのが好ましい。サブミクロンオーダーまで粉砕した後、造粒及び焼成することにより、焼成反応前の各粒子の均一性を高めることができ、反応性を高めることができる。
【0027】
(造粒)
上記の如く混合した原料は、必要に応じて所定の大きさに造粒した後、焼成してもよい。但し、造粒は必ずしもしなくてもよい。
造粒方法は、前工程で粉砕された各種原料が分離せずに造粒粒子内で分散していれば湿式でも乾式でもよく、押し出し造粒法、転動造粒法、流動造粒法、混合造粒法、噴霧乾燥造粒法、加圧成型造粒法、或いはロール等を用いたフレーク造粒法でもよい。但し、湿式造粒した場合には、焼成前に充分に乾燥させることが必要である。
この際の乾燥方法としては、噴霧熱乾燥法、熱風乾燥法、真空乾燥法、フリーズドライ法などの公知の乾燥方法によって乾燥させればよく、中でも噴霧熱乾燥法が好ましい。噴霧熱乾燥法は、熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を用いて行なうのが好ましい。熱噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を用いて造粒することにより、粒度分布をよりシャープにすることができるばかりか、丸く凝集してなる凝集粒子(2次粒子)を含むように2次粒子の形態を調製することができる。
【0028】
(焼成工程)
焼成は、例えば大気雰囲気下で、700〜1050℃、中でも710℃以上或いは920℃以下、その中でも720℃以上或いは950℃以下、その中でも特に750℃以上或いは940℃以下で焼成するのが好ましい。
なお、この焼成温度とは、焼成炉内の焼成物に熱電対を接触させて測定される焼成物の品温を意味する。
【0029】
焼成時間、すなわち上記焼成温度を保持する時間は、焼成温度にもよるが、0.5時間〜90時間、中でも1時間以上或いは80時間以下、その中でも5時間以上或いは30時間以下とするのが好ましい。
【0030】
焼成炉の種類は特に限定するものではない。例えばロータリーキルン、静置炉、その他の焼成炉を用いて焼成することができる。
【0031】
(解砕若しくは粉砕)
焼成後、必要に応じて、得られたスピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物を解砕若しくは粉砕するのが好ましい。
この際、解砕若しくは粉砕の程度は一次粒子を崩壊させないようにするのが好ましい。
【0032】
(水洗工程)
本製造方法では、上記のようにして得られたスピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物の粉末(「本リチウム遷移金属酸化物粉末」とも称する)を、極性溶媒と接触させて、粉末中に含まれる不純物を離脱させるように水洗することが好ましい。
なお、本リチウム遷移金属酸化物粉末には、上述したように5V級スピネルの粉末も包含される。
【0033】
例えば本リチウム遷移金属酸化物粉末と極性溶媒とを混合し攪拌してスラリーとし、得られたスラリーをろ過などによって固液分離して不純物を除去するようにすればよい。この際、固液分離は後工程で行ってもよい。
なお、スラリーとは、極性溶媒中に本リチウム遷移金属酸化物粉末が分散した状態を意味する。
【0034】
水洗に用いる極性溶媒としては、水を用いるのが好ましい。
水としては、市水でもよいが、フィルターまたは湿式磁選機を通過させたイオン交換水や純水を用いるのが好ましい。
水のpHは5〜9であるのが好ましい。
【0035】
水洗時の液温に関しては、水洗時の液温が低ければ電池特性がより良好になることが確認されているため、かかる観点から、5〜70℃であるのが好ましく、中でも60℃以下であるのがより一層好ましく、その中でも特に45℃以下であるのがより一層好ましい。さらには特に30℃以下であるのがより一層好ましい。
水洗時の液温が低ければ電池特性がより良好になる理由は、液温が高過ぎると、リチウム遷移金属酸化物中のリチウムがイオン交換水のプロトンとイオン交換してリチウムが抜けて高温特性に影響するためであると推定できる。
【0036】
本リチウム遷移金属酸化物粉末と接触させる極性溶媒の量については、スラリー濃度が10〜70wt%となるように調整するのが好ましく、中でも20wt%以上或いは60wt%以下、その中でも30wt%以上或いは50wt%以下となるように調整するのがより一層好ましい。スラリー濃度が10wt%以上であれば、SO4などの不純物を溶出させることが容易であり、逆に60wt%以下であれば、極性溶媒の量に見合った洗浄効果を得ることができる。
【0037】
(磁選工程)
本製造方法では、必要に応じて、磁選すなわち磁石に磁着する不純物を本リチウム遷移金属酸化物粉末から除去する処理を行うのが好ましい。磁選を行うことによって短絡の原因となる不純物を除去することができる。
このような磁選は、本製造方法のいずれのタイミングで行ってもよい。例えば水洗工程後や、最後の解砕乃至粉砕後に行うのが好ましい。最後の解砕乃至粉砕後に行うことで、解砕機や粉砕機が破損して混入する鉄なども最終的に除去することができる。
【0038】
磁選方法としては、乾燥した状態の本リチウム遷移金属酸化物粉末を磁石と接触させる乾式磁選法、本リチウム遷移金属酸化物粉末のスラリーを磁石と接触させる湿式磁選法のいずれでもよい。
磁選効率の観点からは、より分散した状態、言い換えれば凝集してない状態の本リチウム遷移金属酸化物粉末を磁石と接触させることができる点で、湿式磁選法の方が好ましい。
なお、水洗後に磁選を行う場合は、水洗工程と組み合わせることができる点で、湿式磁選法を選択するのが好ましい。逆に、最後の解砕乃至粉砕後に行う場合は、その後に乾燥させる必要がない点で、乾式磁選法を採用するのが好ましい。
【0039】
水洗工程と組み合わせて湿式磁選法を行う場合、水洗工程において本リチウム遷移金属酸化物粉末と極性溶媒とを混合攪拌してスラリーとし、磁選工程で得られたスラリーを湿式磁選器に投入して磁選し、その後にろ過することにより、水洗工程及び磁選工程で分離した不純物をまとめて本リチウム遷移金属酸化物粉末から分離除去することができる。
【0040】
湿式磁選器の構造は任意である。例えばパイプ内にフィルター或いはフィン状の磁石を配設してなる構成を備えたような磁選器を例示することができる。
【0041】
磁選に用いる磁石の磁力(:本リチウム遷移金属酸化物粉末と接触する場所の磁力)は、8000G〜17000G(ガウス)であるのが好ましく、特に10000G以上或いは17000G以下であるのがさらに好ましく、中でも特に12000G以上或いは17000G以下であるのがさらに好ましい。磁石の磁力が10000G以上であれば、所望の磁選効果を得ることができる一方、磁石の磁力が17000G以下であれば、必要な物までも除去されてしまうことを防ぐことができる。
【0042】
水洗工程において本リチウム遷移金属酸化物粉末と極性溶媒とを混合攪拌してスラリーとし、磁選工程で得られたスラリーを湿式磁選器に投入して磁選する場合、磁選に供するスラリーの供給速度は、磁選効率を高める観点から、0.2〜3.0m/secであるのが好ましく、中でも0.3m/sec以上或いは2.0m/sec以下、その中でも0.5m/sec以上或いは1.5m/sec以下とするのが好ましい。
【0043】
(乾燥工程)
乾燥工程では、酸素を含有する雰囲気下で300〜700℃に加熱して乾燥させることが好ましい。この温度は、本リチウム遷移金属酸化物粉末の品温である。
得られたスピネル型リチウム遷移金属酸化物の粉末を水洗した場合、従来のような200℃程度の乾燥では、寿命特性をさらに高めることは困難であった。それに対し、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の粉末を水洗した後に、300℃以上の雰囲気温度で乾燥を行うことにより、寿命特性をより一層高めることができることが分かった。
【0044】
乾燥温度は、上述のように300〜700℃であるのが好ましく、中でも340℃以上、或いは、第1次酸素放出温度よりも低温領域とするのが好ましい。
「第1次酸素放出温度」とは、スピネル型リチウム遷移金属酸化物を加熱した際に最初に酸素を放出する温度の意味であり、例えばスピネル型リチウム遷移金属酸化物を加熱して600℃〜900℃の範囲で重量減少する開始温度(℃)として求めることができる。
第1次酸素放出温度よりも低温領域に加熱するのが好ましいのは、それ以上の温度に加熱すると酸素欠損が生じるからである。
【0045】
乾燥させる雰囲気は、酸素を含有する雰囲気、例えば空気中で行うのが好ましい。
また、湿度もできるだけ低い雰囲気で行うのが望ましいため、平均水蒸気排出速度は0.008g/sec〜300g/sec、中でも0.5g/sec以上或いは200g/sec以下、その中でも1.0g/sec以上或いは150g/sec以下で処理を行うのが好ましい。
なお、水蒸気排出速度とは、単位時間当たりに、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の粉末に含まれている水分を蒸発させることのできる量であり、後述する実施例では、スピネル型リチウム遷移金属酸化物の粉末に含まれている水分の15%量を蒸発させることができる時間を計測して算出している。
【0046】
(分級)
乾燥後、必要に応じて解砕乃至粉砕した後、分級するのが好ましい。
そして、上述したように、その後、磁選、特に乾式磁選法を行うのが好ましい。
【0047】
(その他)
本製造方法において、水洗後は700℃以上に加熱する熱処理を行わないことが好ましい。水洗後に700℃以上に加熱をしないことで、再焼結して電池特性に悪影響を及ぼす可能性をなくすことができるからである。
【0048】
<特性・用途>
本製造方法で得られたリチウム遷移金属酸化物は、リチウム電池の正極活物質として有効に利用することができる(よって、「本正極活物質」と称する)。
例えば、本正極活物質と、カーボンブラック等からなる導電材と、テフロン(登録商標)バインダー等からなる結着剤とを混合して正極合剤を製造することができる。そしてそのような正極合剤を正極に用い、例えば負極にはリチウムまたはカーボン等のリチウムを吸蔵・脱蔵できる材料を用い、非水系電解質には六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等のリチウム塩をエチレンカーボネート−ジメチルカーボネート等の混合溶媒に溶解したものを用いてリチウム2次電池を構成することができる。但し、このような構成の電池に限定する意味ではない。
【0049】
<語句の説明>
本発明において、「リチウム電池」とは、リチウム一次電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー電池など、電池内にリチウム又はリチウムイオンを含有する電池を全て包含する意である。
また、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
さらにまた、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であるのが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0050】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明について更に説明するが、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0051】
<第1次酸素放出温度の測定>
マンガン酸リチウム粉体を40mg秤量してAl製深皿容器に入れ、空気を100ml/minの流量でフローさせた状態(酸素分圧0.021MPa、酸素濃度21%)で、昇温速度を5℃/minとして1100℃まで加熱測定し、得られたTG曲線から600℃〜900℃の範囲で重量減少した開始温度を「第一次酸素放出温度」として求めた。
熱分析には、TG−DTA装置(株式会社マック・サイエンス製「TG−DTA2000S」)を用いた。
【0052】
<化学分析測定>
実施例及び比較例で得たマンガン酸リチウム粉体(サンプル)のホウ素(B)量、硫酸根(SO4)量、硫黄(S)量及びNa量を、通常のICP発光分光分析法で測定した。
【0053】
<水分量の測定>
実施例及び比較例で得たマンガン酸リチウム粉体(サンプル)の水分量(ppm)を、電量滴定方式自動水分装置(CA-100型、三菱化学株式会社製)を用いて測定した。
測定の範囲は常温から300℃とした。
【0054】
<水分量増加度の測定>
実施例及び比較例で得たマンガン酸リチウム粉体(サンプル)を60℃×湿度80%の環境試験機に45分間静置し、取り出した粉体の水分量は電量滴定方式自動水分装置を用いて測定した。
保存後の水分量を、初期の水分量で割り算して求めた数値を水分量増加度(%)として求めた。
【0055】
<電池評価>
(電池の作製)
実施例及び比較例で得たマンガン酸リチウム粉体(サンプル)又は5V級スピネル粉体(サンプル)8.80gと、アセチレンブラック(電気化学工業製)0.60g及びNMP(N-メチルピロリドン)中にPVDF(キシダ化学製)12wt%溶解した液5.0gとを正確に計り取り、そこにNMPを5ml加え十分に混合し、ペーストを作製した。このペーストを集電体であるアルミ箔上にのせ、250μmのギャップに調整したアプリケーターで塗膜化し、120℃一昼夜真空乾燥した後、φ16mmで打ち抜き、4t/cmでプレス厚密し、正極とした。電池作製直前に120℃で120min以上真空乾燥し、付着水分を除去し電池に組み込んだ。また、予めφ16mmのアルミ箔の重さの平均値を求めておき、正極の重さからアルミ箔の重さを差し引き正極合材の重さを求め、また正極活物質とアセチレンブラック、PVDFの混合割合から正極活物質の含有量を求めた。
負極はφ20mm×厚み1.0mmの金属リチウムとし、これらの材料を使用して図1に示す電気化学評価用セルTOMCEL(登録商標)を作製した。
【0056】
図1の電気化学用セルは、耐有機電解液性のステンレス鋼製の下ボディ1の内側中央に、前記正極合材からなる正極3を配置した。この正極3の上面には、電解液を含浸した微孔性のポリプロピレン樹脂製のセパレータ4を配置し、テフロン(登録商標)スペーサー5によりセパレータを固定した。更に、セパレータ上面には、下方に金属リチウムからなる負極6を配置し、負極端子を兼ねたスペーサー7を配置し、その上に上ボディ2を被せて螺子で締め付け、電池を密封した。
電解液は、ECとDMCを3:7体積混合したものを溶媒とし、これに溶質としてLiPF6を1moL/L溶解させたものを用いた。
【0057】
(初期放電容量)
上記のようにして準備した電気化学用セルを用いて次に記述する方法で初期放電容量を求めた。すなわち、20℃にて4.3Vまで0.1Cで充電した状態で、正極中の正極活物質の含有量から、0.1C放電レートになるように電流値を算出した。定電流放電した時の3.0Vまでの放電容量(mAh/g)を測定した。
なお、5V級スピネル粉体(サンプル)に関しては、20℃にて5.2Vまで0.1Cで充電した状態で、正極中の正極活物質の含有量から、0.1C放電レートになるように電流値を算出した。定電流放電した時の3.0Vまでの放電容量(mAh/g)を測定した。
【0058】
また、高温特性評価は以下の方法で行った。
実施例及び比較例で得た正極活物質としてのマンガン酸リチウム粉体(サンプル)又は5V級スピネル粉体(サンプル)8.80gと、アセチレンブラック(電気化学工業製)0.60gと、NMP(N-メチルピロリドン)中にPVDF(キシダ化学製)12wt%溶解した液5.0gとを正確に計り取り、そこにNMPを5ml加え十分に混合し、ペーストを作製した。このペーストを集電体であるアルミ箔上にのせ、200μm〜310μmのギャップに調整したアプリケーターで塗膜化し、120℃一昼夜真空乾燥した後、φ16mmで打ち抜き、4t/cmでプレス厚密し、正極とした。電池作製直前に120℃で120min以上真空乾燥し、付着水分を除去し電池に組み込んだ。また、予めφ16mmのアルミ箔の重さの平均値を求めておき、正極の重さからアルミ箔の重さを差し引き正極合材の重さを求め、また正極活物質とアセチレンブラック、PVDFの混合割合から正極活物質の含有量を求めた。
負極はφ17.5mmの天然球状グラファイト(パイオニクス株式会社 電極容量1.6mAh/cm2)とし、負極容量/正極容量比を1.1〜1.15に調整し、電解液は、ECとDMCを3:7体積混合+VC0.5%添加したものを溶媒とし、これに溶質としてLiPF6を1moL/L溶解させたものを用い、図1に示す電気化学評価用セルTOMCEL(登録商標)を作製した。
【0059】
(初期活性処理)
上記のようにして準備した電気化学用セルを用いて下記に記述する方法で充放電試験し、初期活性処理を行った。初期活性処理はリチウムイオン電池においては重要である。
電池充放電する環境温度を25℃となるように設定した環境試験機内にセルを入れ、充放電できるように準備し、セル温度が環境温度になるように1時間静置後、充放電範囲を、マンガン酸リチウム粉体(サンプル)については3.0V〜4.2Vとし、5V級スピネル粉体(サンプル)については3.0〜5.1Vとし、1サイクル目は0.05C 定電流定電圧充電を行い、50〜100時間程度エージング行った後、0.05Cで定電流放電行った後、その後は、0.1Cで定電流定電圧充電 0.1Cで定電流放電を2サイクル行った。
【0060】
(高温サイクル寿命評価)
上記のようにして準備した電気化学用セルを用いて下記に記述する方法で充放電試験し、高温サイクル寿命特性を評価した。
電池充放電する環境温度を45℃となるように設定した環境試験機内にセルを入れ、充放電できるように準備し、セル温度が環境温度になるように4時間静置後、充放電範囲を、マンガン酸リチウム粉体(サンプル)については3.0V〜4.2Vとし、5V級スピネル粉体(サンプル)については3.0〜5.1Vとし、充電は1.0C定電流定電位、放電は0.1C定電流で1サイクル充放電行った後、SOC0−100%の充放電深度で、1Cにて充放電サイクルを99回行い、100サイクル目は容量確認の為、放電レート0.1Cにて放電を行った。
100サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で割り算して求めた数値の百分率(%)を高温サイクル寿命特性値(0.1C)として求めた。
【0061】
(サイクル前後出力低下率)
上記初期活性処理行った電気化学用セルを用い、下記に記述する方法で充放電試験行い、出力低下率を求めた。
初期活性処理した電池を25℃となるように設定した環境試験機内にセルを入れ、初期活性処理で得られて放電容量から、SOC50%となるように充電を行った後、電気化学測定機で3.0C 10秒放電行い、初期出力を求めた。高温(45℃)でサイクル行ったセルを25℃となるように環境試験にセットし、SOC50%となるように充電を行った後、電気化学測定機で3.0C 10秒放電行い、サイクル後の出力を求めた。
100サイクル後の出力を初期の出力で割り算して求めた数値を「出力低下率(%)」として求めた。
【0062】
<実施例1>
炭酸リチウム、電解二酸化マンガン(200℃-400℃加熱時のTG減量:3.0%)、酸化マグネシウム、四ホウ酸リチウムおよび水酸化アルミニウムを、表1に示す組成となるように秤量し、精密混合機で混合後、混合原料を得た。
得られた混合原料を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm3であった。電気炉中で900℃で15時間焼成し、せん断式破砕機で解砕してスピネル型マンガン酸リチウムの粉末を作製した。
【0063】
【表1】
【0064】
このスピネル型マンガン酸リチウムの粉末7000gとイオン交換水(pH5.8)13.5Lとを混合し、10分間攪拌してマンガン酸リチウムのスラリーとした(スラリー濃度34質量%)。この時の液温は25℃であった。このスラリーを湿式磁選器(スラリーが接触する箇所の磁石の磁力:17000G)内に1.0m/secの速度で流通させた後、減圧ろ過した。
続いて、濾別したマンガン酸リチウムを大気中で350℃(品温)に加熱して5時間、水蒸気排出速度1.0g/secで乾燥させた後、分級機によって分級行い、325メッシュアンダーのマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。
なお、乾燥する前のマンガン酸リチウムの粉末を一部採取して測定したところ、その第1次酸素放出温度は722℃であった。
【0065】
<実施例2>
水洗温度を50℃に変更した以外は、実施例1と同様にマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。
乾燥する前のマンガン酸リチウムの粉末を一部採取して測定したところ、その第1次酸素放出温度は721℃であった。
【0066】
<実施例3>
磁選後の乾燥温度を300℃に変更し、水蒸気排出速度を0.008g/secに変更した以外は、実施例1と同様にマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。
乾燥する前のマンガン酸リチウムの粉末を一部採取して測定したところ、その第1次酸素放出温度は723℃であった。
【0067】
<実施例4>
水洗後のスラリー濃度を50質量%とし、磁選後の乾燥温度を400℃に変更し、水蒸気排出速度を150g/secに変更した以外は、実施例1と同様にマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。
乾燥する前のマンガン酸リチウムの粉末を一部採取して測定したところ、その第1次酸素放出温度は722℃であった。
【0068】
<実施例5>
炭酸リチウム、電解二酸化マンガン(200℃-400℃加熱時のTG減量:3.0%)及び水酸化ニッケルを、総量10kgとなるように表1に示す量を秤量し、水20kg、分散剤1.2kgの中へ攪拌しながら投入した。そのスラリーを湿式粉砕機(SCミル SC220/70A−VB−ZZ 三井鉱山株式会社)中を循環させて、回転数1300rpm45分粉砕し、スラリー中の中心粒径が0.6μm以下とした。得られたスラリーを、噴霧熱乾燥機(OC-16 大川原化工機株式会社)でアトマイザー24000rpm、流量50mL/min 入口温度190℃で乾燥行い、中心粒径15μmの前駆体を得た。
得られた前駆体を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm3であった。電気炉中で950℃72時間焼成し、せん断式破砕機で解砕してスピネル型マンガン酸リチウムの粉末(5V級スピネル粉体)を作製した。
【0069】
この5V級スピネル粉体7000gとイオン交換水(pH5.8)13.5Lとを混合し、10分間攪拌してマンガン酸リチウムのスラリーとした(スラリー濃度34質量%)。この時の液温は25℃であった。このスラリーを湿式磁選器(スラリーが接触する箇所の磁石の磁力:17000G)内に1.0m/secの速度で流通させた後、減圧ろ過した。
続いて、濾別したマンガン酸リチウムを大気中で500℃(品温)に加熱して5時間、水蒸気排出速度1.0g/secで乾燥させた後、分級機によって分級行い、325メッシュアンダーの5V級スピネル粉体(サンプル)を得た。
なお、乾燥する前の5V級スピネル粉体の粉末を一部採取して測定したところ、その第1次酸素放出温度は730℃であった。
【0070】
<実施例6>
炭酸リチウム、電解二酸化マンガン(200℃-400℃加熱時のTG減量:3.0%)、酸化マグネシウム、四ホウ酸リチウムおよび水酸化アルミニウムを、表1に示す組成となるように秤量し、精密混合機で混合後、混合原料を得た。
得られた混合原料を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm3であった。電気炉中で850℃20時間焼成し、せん断式破砕機で解砕してスピネル型マンガン酸リチウムの粉末を作製した。
このスピネル型マンガン酸リチウムの粉末7000gとイオン交換水(pH5.8)13.5Lとを混合し、10分間攪拌してマンガン酸リチウムのスラリーとした(スラリー濃度34質量%)。この時の液温は25℃であった。このスラリーを湿式磁選器(スラリーが接触する箇所の磁石の磁力:17000G)内に1.0m/secの速度で流通させた後、減圧ろ過した。
続いて、濾別したマンガン酸リチウムを大気中で350℃(品温)に加熱して5時間、水蒸気排出速度50.0g/secで乾燥させた後、分級機によって分級行い、325メッシュアンダーのマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。なお、乾燥する前のマンガン酸リチウムの粉末を一部採取して測定したところ、その第1次酸素放出温度は705℃であった。
【0071】
<実施例7>
炭酸リチウム、電解二酸化マンガン(200℃-400℃加熱時のTG減量:3.0%)、酸化マグネシウム、四ホウ酸リチウムおよび水酸化アルミニウムを、表1に示す組成となるように秤量し、精密混合機で混合後、混合原料を得た。
得られた混合原料を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm3であった。電気炉中で850℃20時間焼成し、せん断式破砕機で解砕してスピネル型マンガン酸リチウムの粉末を作製した。
このスピネル型マンガン酸リチウムの粉末7000gとイオン交換水(pH5.8)13.5Lとを混合し、10分間攪拌してマンガン酸リチウムのスラリーとした(スラリー濃度34質量%)。この時の液温は5℃であった。このスラリーを湿式磁選器(スラリーが接触する箇所の磁石の磁力:17000G)内に1.0m/secの速度で流通させた後、減圧ろ過した。
続いて、濾別したマンガン酸リチウムを大気中で350℃(品温)に加熱して5時間、水蒸気排出速度1.0g/secで乾燥させた後、分級機によって分級行い、325メッシュアンダーのマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。なお、乾燥する前のマンガン酸リチウムの粉末を一部採取して測定したところ、その第1次酸素放出温度は700℃であった。
【0072】
<実施例8>
炭酸リチウム、電解二酸化マンガン(200℃-400℃加熱時のTG減量:3.0%)、酸化マグネシウム、四ホウ酸リチウムおよび水酸化アルミニウムを、表1に示す組成となるように秤量し、精密混合機で混合後、混合原料を得た。
得られた混合原料を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm3であった。電気炉中で800℃20時間焼成し、せん断式破砕機で解砕してスピネル型マンガン酸リチウムの粉末を作製した。
このスピネル型マンガン酸リチウムの粉末7000gとイオン交換水(pH5.8)13.5Lとを混合し、10分間攪拌してマンガン酸リチウムのスラリーとした(スラリー濃度34質量%)。この時の液温は25℃であった。このスラリーを湿式磁選器(スラリーが接触する箇所の磁石の磁力:17000G)内に1.0m/secの速度で流通させた後、減圧ろ過した。
続いて、濾別したマンガン酸リチウムを大気中で350℃(品温)に加熱して5時間、水蒸気排出速度1.0g/secで乾燥させた後、分級機によって分級行い、325メッシュアンダーのマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。なお、乾燥する前のマンガン酸リチウムの粉末を一部採取して測定したところ、その第1次酸素放出温度は700℃であった。
【0073】
<実施例9>
炭酸リチウム、電解二酸化マンガン(200℃-400℃加熱時のTG減量:3.0%)、酸化マグネシウム、四ホウ酸リチウムおよび水酸化アルミニウムを、表1に示す組成となるように秤量し、精密混合機で混合後、混合原料を得た。
得られた混合原料を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm3であった。電気炉中で750℃20時間焼成し、せん断式破砕機で解砕してスピネル型マンガン酸リチウムの粉末を作製した。
このスピネル型マンガン酸リチウムの粉末7000gとイオン交換水(pH5.8)13.5Lとを混合し、10分間攪拌してマンガン酸リチウムのスラリーとした(スラリー濃度34質量%)。この時の液温は10℃であった。このスラリーを湿式磁選器(スラリーが接触する箇所の磁石の磁力:17000G)内に1.0m/secの速度で流通させた後、減圧ろ過した。
続いて、濾別したマンガン酸リチウムを大気中で350℃(品温)に加熱して5時間、水蒸気排出速度120g/secで乾燥させた後、分級機によって分級行い、325メッシュアンダーのマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。なお、乾燥する前のマンガン酸リチウムの粉末を一部採取して測定したところ、その第1次酸素放出温度は695℃であった。
【0074】
<比較例1>
炭酸リチウム、電解二酸化マンガン(200℃-400℃加熱時のTG減量:3.0%)、酸化マグネシウム、四ホウ酸リチウムおよび水酸化アルミニウムを、表1に示すように秤量し、精密混合機で混合後、混合原料を得た。
得られた混合原料を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm3であった。電気炉中で900℃で15時間焼成し、せん断式破砕機により解砕し、分級機によって分級行い、325メッシュアンダーのスピネル型マンガン酸リチウムの粉末を作製した。
【0075】
<比較例2>
炭酸リチウム、電解二酸化マンガン(200℃-400℃加熱時のTG減量:3.0%)、酸化マグネシウム、四ホウ酸リチウムおよび水酸化アルミニウムを、比較例1と同量秤量し、精密混合機で混合後、混合原料を得た。
得られた混合原料を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm3であった。電気炉中で900℃で15時間焼成し、せん断式破砕機により解砕してスピネル型マンガン酸リチウムの粉末を作製した。
【0076】
このようにして得たスピネル型マンガン酸リチウム粉末7000gとイオン交換水13.5Lとを混合し、10分間攪拌してマンガン酸リチウムのスラリーとした(スラリー濃度34質量%)。この時の液温は25℃であった。このスラリーを湿式磁選器(スラリーが接触する箇所の磁石の磁力:17000G)内に流通させ、減圧ろ過した。
続いて、濾別したマンガン酸リチウムを真空中で200℃(品温)に加熱して一昼夜乾燥させた後、分級機によって分級行い、325メッシュアンダーのマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。
【0077】
<比較例3>
磁選後の乾燥条件を、大気中で200℃(品温)に加熱して5時間乾燥させ、水蒸気排出速度を1.0g/secに変更した以外は、実施例1と同様にマンガン酸リチウムの粉末(サンプル)を得た。
【0078】
<比較例4>
炭酸リチウム、電解二酸化マンガン(200℃-400℃加熱時のTG減量:3.0%)及び水酸化ニッケルを、総量10kgとなるように表1に示す量を秤量し、水20kg、分散剤1.2kgの中へ攪拌しながら投入した。そのスラリーを湿式粉砕機(SCミル SC220/70A−VB−ZZ 三井鉱山株式会社)中を循環させて、回転数1300rpm45分粉砕し、スラリー中の中心粒径が0.6μm以下とした。得られたスラリーを、噴霧熱乾燥機(OC-16 大川原化工機株式会社)でアトマイザー24000rpm、流量50mL/min 入口温度190℃で乾燥行い、中心粒径15μmの前駆体を得た。
得られた前駆体を、焼成容器(アルミナ製のルツボ大きさ=たて*よこ*たかさ=10*10*5(cm))内に、開放面積と充填高さの比(開放面積cm/充填高さcm)が100となるように充填した。この際の原料見掛密度は1.1g/cm3であった。電気炉中で950℃72時間焼成し、せん断式破砕機で解砕してスピネル型マンガン酸リチウムの粉末(5V級スピネル粉体)を作製し、これを5V級スピネル粉体(サンプル)とした。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
(考察)
今回の試験結果から、焼成後のスピネル型(Fd−3m)リチウム遷移金属酸化物を極性溶媒で洗浄し、その後、酸素を含有する雰囲気下で300〜700℃に加熱乾燥することによって、寿命特性や高温サイクル特性をより一層向上させることができることが確認できた。
また、表3に示すように、5V級スピネル粉体(サンプル)を作製した実施例5と比較例4とを比較すると、5V級スピネル粉体についても、極性溶媒で洗浄し、その後、酸素を含有する雰囲気下で300〜700℃に加熱乾燥することによって、寿命特性や高温サイクル特性をより一層向上させることができることが確認できた。

図1