特許第5953361号(P5953361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953361
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ナノ接合剤用ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20160707BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20160707BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20160707BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20160707BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20160707BHJP
   B22F 9/00 20060101ALN20160707BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   B22F1/02 B
   B23K35/22 310B
   B82Y30/00
   H01B5/00 M
   B22F1/00 K
   !B22F9/00 B
   !B23K35/26 310C
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-250449(P2014-250449)
(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-113629(P2016-113629A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】514227508
【氏名又は名称】株式会社伊東化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100070530
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 泰之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 巌
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/125604(WO,A1)
【文献】 特開2012−045617(JP,A)
【文献】 特開2013−087303(JP,A)
【文献】 特開2014−148750(JP,A)
【文献】 特開2013−053335(JP,A)
【文献】 特開2013−087330(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/090767(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/070435(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 9/00 − 9/30
H01B 1/00
H01B 5/00
H01B 13/00
B23K 35/22
B23K 35/26
B82Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が6から18の高級アルコールの中から選択された、相互に異なる炭素鎖を有し、且つ、金属ナノ粒子表面から剥離する温度が相互に異なる少なくとも2種類の高級アルコールが等モルで含まれている混合体からなる被覆材で被覆されている当該金属ナノ粒子であって、当該金属ナノ粒子は、当該金属ナノ粒子表面から剥離する温度が高い方の当該高級アルコールの剥離温度以上の温度が、当該粒子毎の当該被覆材が当該粒子から剥離するタイミングに時間差を付与せしめ、それによって当該金属ナノ粒子全体の焼結が緩慢に行える様に構成されていることを特徴とするナノ接合剤用の金属ナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ接合剤の原料としての金属ナノ粒子の具備すべき要件とその解決方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、一般に市販されている金属ナノ粒子の内、低温で焼結現象が起きるナノ粒子は銀のナノ粒子しかないので、銀のナノ粒子を例題として以下説明するが、勿論、本発明は、低温で焼結現象が起きるナノ粒子であれば銀のナノ粒子に限ったことではない。
銀のナノ粒子の産業資材としての応用技術の開発は、インクジェットプリンター用インクの開発を中心に20年程前から行われてきたが、描線や被膜などへの十分な形状形成能がないため、未だ実用化された例はない。
【0003】
ただ、従来の銀ペーストの応用系として、銀のナノ粒子をエポキシ樹脂で固めた製品が、主に微細加工用の電子材料として使われているが、銀ペースト特有の欠点である導電性及び耐久性が悪いと言う問題は依然として未解決のまま残っている。
また、銀のナノ粒子の特性である低温焼結性を応用した例としては、実験室段階では、ナノテクの世界で使用するものや加圧下で使用するものなどが一部報告されているが実用化までには至っていない。
【0004】
これらの諸問題を一気に解決する手段として、例えば、特許第5442566号(特許文献1)に示されている様に、金属のナノ粒子を熔融したはんだ中で焼結・固化させる導電性接合剤(以下「ナノ接合剤」という)が提案されている。
確かにこの技術は、理論上は画期的な技術であり、熔融したはんだはナノ粒子の繋ぎ材としては十分に機能するであろうし、接着性や導電性も優れていると思われる。
【0005】
しかしながら、実際上は、ナノ粒子が焼結する際に、ナノ粒子を覆っている被覆材が気化した後、溶融したはんだ中に気泡となって残り、焼結体の接着性や導電性を著しく劣化させるだけでなく、場合によっては爆発的に反応して発泡し、全体がスポンジ状になるケースや、最悪では被覆材の蒸気爆発や発火を起こす危険性すらある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5442566号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ナノ粒子の焼結現象は、ナノ粒子を加熱することにより被覆材が気化して剥がれ、揮散することで起きる。
ナノ粒子単独で焼結させる場合には、粉体の集合体での焼結であり、気化した被覆材は粉体の隙間から容易に外界へ流出でき、気泡の発生は然程問題視されることはなかったが、ナノ接合剤の場合は液状下での気化であり、焼結の際に発泡する問題は絶対に解決しておかなければならない課題と言える。
【0008】
但し、ナノ粒子単独での焼結であっても、表面が焼結・固化後に内部から気化が起き、気泡が内包される可能性は常にある。
現実にも微細な気泡は常に存在しており、単独での焼結の場合でも、本発明の解決手段が適用されることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記した問題点を解決し、ナノ粒子の焼結に際しては、順次焼結・固化した別の場所から気化が起き、気泡が内包される事の無いナノ接合剤用のナノ粒子を得ることが目的で、基本的には、以下に示される技術構成を採用するものである。
【0010】
即ち、従来に於いては,上記した様に、ナノ粒子の焼結は被覆材が気化して剥がれ、揮散することで起きるが、その反応は剥がれた瞬間に瞬時に起き、しかも、焼結の際にかなりの熱が発生する。
それ故、全てのナノ粒子が同時に焼結を起こすと激しい反応が起き、場合によっては発火・爆発する事になる。
【0011】
従って、本発明者は、係る知見を基に鋭意検討した結果、もし、個々のナノ粒子の焼結に時間差をつけることができれば、激しく発熱することも発泡することもなく、加えて、順次気泡が抜けてから焼結固化が起きるようにすることができれば、内部に気泡を抱き込むこともなくなると言う知見を得たものであって、係る知見を具体的に実現可能にする為に、本発明に於いては、以下の様な技術構成を採用したものである、
【0012】
即ち、本発明に於いては、金属若しくは非金属ナノ粒子を、少なくとも相互に異なる炭素鎖を有する2種を予め混ぜた混合体で被覆することにより、当該各粒子ごとに被覆材が剥離するタイミングに時間差をつけ、全体の焼結を緩慢に行わせることを特徴としたものである。
此処で、本発明に於いては、当該ナノ粒子は、銀ナノ粒子のみに限られるものではなく、例えば、銀以外の金属ナノ粒子や無機材料で構成されたナノ粒子であっても良い。
【0013】
又、本発明に於ける当該ナノ粒を被覆する為の少なくとも2種類の高級アルコールの炭素鎖の長さが相互に異なるものである事が必要であり、当該高級アルコール間の炭素鎖の長さの相違が大きい程、好ましい効果が得られる事がわかっている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に於いては、上記した様に、高級アルコールがナノ粒子表面から剥離される温度はその炭素鎖長に依存していると言う知見を活用するものであって、具体的には、粒子径5nmの銀のナノ粒子に被覆した場合では、C6のアルコールではほぼ140℃で剥離するが、C14のアルコールでは180℃近辺で剥離する。
【0015】
一方、炭素鎖の異なる同種の界面活性剤を予め混ぜた状態で粒子表面に付着させた場合の、個々の粒子表面に付着している炭素鎖の組成は、炭素鎖の短いもの100%と長いもの100%とを両末端とし、50%・50%の組成を頂点とした、ほぼ正規分布に近い分布状態で付着することが知られている。
【0016】
従って、ナノ粒子表面を覆っている高級アルコールの炭素鎖の組成を、この様に分布を持った状況にしておけば、それぞれのナノ粒子の剥離温度に分布が生じ、長い方の剥離温度より高い温度でナノ粒子を加熱処理してやれば、剥離温度の低いものから順番に剥離が起こり、全体の焼結に時間差をつけることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に於いて、使用される非水系のナノ粒子の被覆材としては、脂肪酸、アミン、高級アルコールが一般に用いられているが、脂肪酸は金属と反応して強い結合力を持った金属石鹸を作るため、焼結の際に脂肪酸が一部残り、焼結体の品質を著しく劣化させる恐れがある。他方、アミンは分子中に窒素原子を持っており、焼結の際の気化で炭素と反応してシアン化合物を形成する可能性があり、更に、アミン特有の異臭が出るため、実用上は好ましい被覆材とは言えない。
【0018】
その点、高級アルコールは容易に気化し、しかも完全に炭酸ガスと水に分解するので、特に直鎖の高級アルコールが最も好ましい被覆材と言える。
高級アルコールの炭素鎖の短い方の限界は、ナノ接合剤が溶融したはんだ中で焼結させることを前提としているため、はんだの融点以上の剥離温度を有する必要があり、実用的にはC6が下限界と言える。
【0019】
一方、長鎖長の方は、簡単な熱処理でも完全に気化する必要があり、余り長鎖長のものは好ましくなく、実用的にはC18が上部限界の様である。
炭素鎖長の混合比は等モル混合を原則とするが、熱処理方法や熱処理装置、基板の熱容量などで焼結状況が著しく変わるため、試行錯誤による現場合わせをせざるを得ない。尚、高級アルコールの混合の際に、若干量の脂肪酸を添加する事は、焼結の際の時間差を更に大きくする意味から好ましい方法と言える。
【0020】
実施例
(実施例1)
通常の方法で平均粒子径5nmの銀のナノ粒子を作成した後、C14のアルコールで被覆した。そのナノ粒子に、ビスマス−錫のハンダ粉末(融点140〜145℃)を70.1:29.9の混合比(重量ベース)で混ぜ、140℃近辺で揮散するテルペン油でペースト化して導電性接合剤を作る。ガラス板上に接合剤を滴下し、予め150℃に加熱した赤外線オーブン中で10分間加熱処理した後、200℃に昇温して更に10分間加熱処理した。
【0021】
(実施例1の結果)
加熱途中で激しく発泡し、発煙も観察された。できた焼結体はスポンジ状をしており、手で簡単に破壊した。
【0022】
(実施例2)
通常の方法で平均粒子径5nmの銀のナノ粒子を作成した後、C6のアルコールで被覆した。そのナノ粒子に、ビスマス−錫のハンダ粉末(融点140〜145℃)を70.1:29.9の混合比(重量ベース)で混ぜ、140℃近辺で揮散するテルペン油でペースト化して導電性接合剤を作る。ガラス板上に接合剤を滴下し、予め150℃に加熱した赤外線オーブン中で10分間加熱処理した。
【0023】
(実施例2の結果)
加熱途中で激しく発泡し、発煙も観察された。できた焼結体はスポンジ状をしており、手で簡単に破壊した。
【0024】
(実施例3)
通常の方法で平均粒子径5nmの銀のナノ粒子を作成しC14のアルコールで被覆した銀のナノ粒子と、通常の方法で平均粒子径5nmの銀のナノ粒子を作成しC6のアルコールで被覆した銀のナノ粒子とを等量混ぜ、そのナノ粒子に、ビスマス−錫のハンダ粉末(融点140〜145℃)を70.1:29.9の混合比(重量ベース)で混ぜ、140℃近辺で揮散するテルペン油でペースト化して導電性接合剤を作った。
ガラス板上に接合剤を滴下し、予め150℃に加熱した赤外線オーブン中で10分間加熱処理した。
【0025】
(実施例3の結果)
加熱途中で激しく発泡し、発煙も観察された。できた焼結体はスポンジ状をしており、手で簡単に破壊した。低温側のC6のアルコールで被覆したナノ粒子の剥離に励起され、C14のアルコールで被覆したナノ粒子も同時に剥離したものと解釈する。
【0026】
(実施例4)
通常の方法で平均粒子径5nmの銀のナノ粒子を作成した後、C14のアルコールとC6のアルコールとを等モルで予め混合した被覆材で被覆した。そのナノ粒子に、ビスマス−錫のハンダ粉末(融点140〜145℃)を70.1:29.9の混合比(重量ベース)で混ぜ、140℃近辺で揮散するテルペン油でペースト化して導電性接合剤を作る。ガラス板上に接合剤を滴下し、予め150℃に加熱した赤外線オーブン中で10分間加熱処理した後、200℃に昇温して更に10分間加熱処理した。
【0027】
(実施例4の結果)
できた焼結体は金属光沢を有し、強度もあり、完全な金属体の形状を呈していた。なお、その焼結体を蛍光X線で解析した結果、Bi・Sn/Agの金属間化合物であることが確認された。